(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】脂肪酸代謝障害の治療を目的とした組成物および方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/23 20060101AFI20220301BHJP
A61K 31/192 20060101ALI20220301BHJP
A61P 1/16 20060101ALI20220301BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
A61K31/23
A61K31/192
A61P1/16
A61P3/00
A61P21/00
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2018522951
(86)(22)【出願日】2016-11-07
(86)【国際出願番号】 US2016060785
(87)【国際公開番号】W WO2017079721
(87)【国際公開日】2017-05-11
【審査請求日】2019-10-30
(32)【優先日】2015-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】301040958
【氏名又は名称】ザ・チルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア
【氏名又は名称原語表記】THE CHILDREN’S HOSPITAL OF PHILADELPHIA
(74)【代理人】
【識別番号】100104411
【氏名又は名称】矢口 太郎
(72)【発明者】
【氏名】イスチロプロス、ハリー
(72)【発明者】
【氏名】ドゥリアス、パスカリス-トーマス
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/017383(WO,A2)
【文献】国際公開第00/045649(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0131342(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0296424(US,A1)
【文献】Chemistry of Natural Compounds, Vol.48, No.3, July, 2012, p.367-370
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/23
A61K 31/192
A61P 1/16
A61P 3/00
A61P 21/00
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD)の治療に使用
するためのS-ニトロシル化剤を有する組成物であって、前記S-ニトロシル化剤はトリヘプタノインであり、1つまたは2つの脂肪酸鎖が、硝酸、ニトロソ、またはニトロで置換されている、組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤はトリヘプタノインであり、1つまたは2つの脂肪酸鎖が硝酸で置換されている、組成物。
【請求項3】
請求項2記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤は一硝酸-ジヘプタノインである、組成物。
【請求項4】
請求項3記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤は1,3-ジヘプタノイン-2-一硝酸塩である、組成物。
【請求項5】
請求項1記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤はジヘプタノインを有する、組成物。
【請求項6】
請求項1記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤はモノヘプタノインを有する、組成物。
【請求項7】
請求項1記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤は、1,3-ジヘプタノイン-2-一硝酸塩、1,2-ジヘプタノイン-3-一硝酸塩、2,3-ジヘプタノイン-1-一硝酸塩、1,3-二硝酸-2-ヘプタノイン、1,2-二硝酸-3-ヘプタノイン、および2,3-二硝酸-1-ヘプタノインから成る群から選択される、組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の組成物であって、さらに薬学的に許容される担体を有する、組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1つに記載の組成物であって、さらに、S-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNO-NAC)を有する、組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1つに記載の組成物であって、さらに、前記
超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD)の治療のための少なくとも1つの他の治療薬を有する、組成物。
【請求項11】
請求項10記載の組成物において、前記他の治療薬はトリヘプタノインまたはベンザフィブラートである、組成物。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1つに記載の組成物において、前記S-ニトロシル化剤での治療の前に、前記被験者は
超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD)と診断されている、組成物。
【請求項13】
超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD)を治療するための薬剤を製造するためのS-ニトロシル化剤の使用であって、前記S-ニトロシル化剤はトリヘプタノインであり、1つまたは2つの脂肪酸鎖が、硝酸、ニトロソ、またはニトロで置換されている、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願書類は、35 U.S.C. §119(e)のもと、2015年11月6日に提出された米国仮特許出願第62/251,860号の優先権を請求するものである。前述の出願書類は、この参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、脂肪酸酸化障害を治療、予防、および/または阻害する組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
本発明が関与する技術の状態を説明するため、本明細書に数件の出版物および特許文書が引用されている。これらの引用それぞれは、その全体が示されるように本明細書に組み込まれる。
【0004】
超長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)は4種類あるアシルCoA脱水素酵素のうちの1つである。VLCADはホモ二量体型ミトコンドリアタンパク質であり、脂肪酸β酸化の最初の段階を触媒する。VLCADは主に16~24炭素長の脂肪酸のCoA-エステルに活性を示し、ヒト組織および哺乳類臓器および細胞のパルミトイルCoA脱水素の80%以上に関与し、ミトコンドリア脂肪酸酸化の重要因子であることを示している。
【0005】
VLCAD欠損症は1993年に初めて同定された常染色体劣性遺伝子疾患であり、現在は2番目に多いミトコンドリアβ酸化疾患と考えられている。関連疾患は主に3種類の表現型を示す。最も重症のVLCAD欠損症は新生児心筋症および肝不全を示し、一般に生後1年で死に至る。乳児の表現型は、心筋症のない低ケトン性低血糖症および肝腫大として小児期初期に現れることが多い。最も軽症の表現型は後発型偶発性筋障害型と関連し、間欠的横紋筋融解、筋痙攣、および/または疼痛、および運動不耐性を伴う。現在まで、ヌル変異(疾患の最も重症型と関連していることが多い)、またVLCADタンパク質全体で発生し、疾患の軽症型と関連するミスセンス変異など、100種類以上の病的突然変異が知られている。ミスセンス変異では酵素活性が低下し、および/またはタンパク質の安定性が低下するため、ミトコンドリアのアシルCoA活性の定常状態レベルが低下する。VLCAD疾患と診断されると、その症状の予防に努力の重きが置かれる。患者には中鎖トリグリセリドでカロリーが添加された低脂肪ミルクが処方されることが多い。これに勝る治療および予防法が必要である。
この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、以下のものがある(国際出願日以降国際段階で引用された文献及び他国に国内移行した際に引用された文献を含む)。
(先行技術文献)
(特許文献)
(特許文献1) 国際公開第2015/017383号
(特許文献2) 米国特許出願公開第2009/0131342号明細書
(特許文献3) 米国特許出願公開第2013/0296424号明細書
(特許文献4) 米国特許出願公開第2013/0012538号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に従い、脂肪酸代謝障害、特に脂肪酸酸化障害を治療、阻害、および/または予防する方法が提供される。前記方法は、少なくとも1種類のニトロシル化剤、特にS-ニトロシル化剤を被験者に投与する工程を有する。特定の実施形態では、前記脂肪酸酸化障害が超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD)である。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がS-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNO-NAC)である。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がニトロ化脂肪酸またはトリグリセリドを有する。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤が一硝酸ジヘプタノインである。前記方法は、さらに、トリヘプタノインまたはベンザフィブラートなど、前記脂肪酸代謝障害の治療に少なくとも1種類の他の治療薬を投与する工程を有してもよい。前記方法は、前記S-ニトロシル化剤の投与前に、前記被験者の脂肪酸酸化障害を診断する工程を有してもよい。
【0007】
本発明の別の態様に従い、脂肪酸代謝障害、特に脂肪酸酸化障害を治療、阻害、および/または予防する組成物が提供される。特定の実施形態では、前記組成物が少なくとも1種類のS-ニトロシル化剤、少なくとも1種類の薬学的に許容される担体、および選択的に、少なくとも1種類の他の脂肪酸代謝障害治療薬を有する。特定の実施形態では、前記組成物がニトロ化脂肪酸またはトリグリセリド、特に一硝酸ジヘプタノインを有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1A~1Dは、VLCADのS-ニトロシル化部位の同定を示す。
図1Aおよび1Bは、ob/ob GSNO注入マウスの肝ホモジネートおよびGSNOをex vivoで投与後のNOS
-/-肝(生物学的に再現した個体N=3)から得られた超長鎖特異的アシル脱水素酵素(VLCAD)の二重荷電スルホン酸含有トリプシンペプチドSer
231-Ser-Ala-Ile-Pro-Ser-Pro-Cys
238-Gly-Lys-Tyr-Tyr-Thr-Leu-Asn-Gly-Ser-Lys
248(配列ID番号:3;モノアイソトピックm/z=960.9539および960.9561)の代表的質量分析(MS)スペクトルを示す。同ペプチドのスペクトルを野生型マウス肝から得た。
図1Cおよび1Dは、MS/MSスペクトルから配列が確認され、VLCADのスルホン酸含有ペプチドの部位がGSNOを注入したob/obマウス肝およびGSNOをex vivoで投与後のNOS
-/-肝(生物学的に再現した個体N=3)で同定されることを示している。配列ID番号:3を
図1Cおよび1Dに示す。
【
図2】
図2Aは、野生型およびob/obマウスの肝ホモジネートの
3H標識パルミトイルCoA酸化率のグラフを示している。*野生型PBS投与マウスとob/ob PBS投与マウス(n=4匹)とのボンフェローニ事後検定を用いた分散分析(ANOVA)によりP<0.05。**ob/ob PBS投与マウスとob/ob GSNO投与マウス(n=4匹)とのボンフェローニ事後検定を用いたANOVAによりP<0.01。
図2Bは、野生型マウス、PBS投与ob/obマウス、およびGSNO投与ob/obマウスの肝トリグリセリド測定を示す。*野生型PBS投与マウスとob/ob PBS投与マウス(n=4匹)とのボンフェローニ事後検定を用いたANOVAによりP<0.0001。**ob/ob PBS投与マウスとob/ob GSNO投与マウス(n=4匹)とのボンフェローニ事後検定を用いたANOVAによりP<0.005。
図2Cは、野生型マウス、PBS投与ob/obマウス、およびGSNO投与ob/obマウスの血清トリグリセリド測定を示す。統計学的差はない(n=4匹)。
図2Dは、野生型、ob/ob PBS、およびob/ob GSNOマウス肝ホモジネートのパルミトイルCoA濃度の関数として測定したVLCAD初期速度の代表的測定値を示している。
図2Eおよび2Fは、VLCAD酵素活性の動態解析から野生型およびGSNO投与ob/obマウス肝と比較し、PBS投与ob/obマウス肝ではV
maxは同等であるが、KMが有意に高いことを示している。*ボンフェローニ事後検定を用いたANOVAによりP<0.05(生物学的に再現した個体n=3)。
図2Gは、PBS投与ob/obマウス(上)と比較し、GSNO投与ob/obマウス(下)では、脂肪酸分解が減少することを示した肝組織の三重染色画像を示している。画像は検討した異なるマウス肝4検体の代表的画像である。スケールバーは、左は15μm、右は7.5μmに対応する。
図2Hは、野生型およびeNOS
-/-マウス肝ホモジネートにおけるパルミトイルCoA(0.25mM)を介したフェリセニウムイオンの減少をモニタリングすることで決定したVLCAD比活性度を示している。eNOS
-/-の比活性度は、アッセイ前30分では、5μM GSNOを投与した野生型またはeNOS
-/-マウス肝組織より有意に低かった。*ボンフェローニ事後検定を用いたANOVAにより*p<0.0001、**p<0.05生物学的に再現した個体N=3。
図2Iは、eNOS
-/-マウス肝ホモジネートとGSNOを投与したeNOS
-/-マウス肝ホモジネートの結合しなかったVLCAD分画(U=非修飾VLCAD)と有機水銀に結合したVLCAD分画(B=S-ニトロシル化VLCAD)のウエスタンプロット解析を示している。非投与ホモジネートの結合分画にVLCADがなかったことは、前記タンパク質がeNOS
-/-肝ではS-ニトロシル化されなかったことを示していた。投与ホモジネートの結合分画の免疫反応性から示されたとおり、GSNOをex vivo投与すると前記タンパク質分画がS-ニトロシル化した。この実験はさらに2回繰り返し、結果は同様であった。
図2Jは、電子受容体として150μMフェリセニウムヘキサフルオロリン酸を用い、VLCADアシル-脱水素酵素活性を追跡したものの典型例を示している。前記活性は、0.125mMパルミトイルCoAを追加後のGSNO注入ob/obマウス肝ホモジネートで測定した。VLCAD活性の測定法の特異性は、抗VLCAD抗体存在下、フェリセニウム還元を消滅させることで確認した。S-ニトロシル化がVLCAD活性に与える影響は、肝可溶化物のUV光分解後、酵素活性の消失により確認した。この実験は、別の生物学的に再現した個体でもう一度再試験し、結果は同等であった。
図2Kは、3群のマウスの肝ホモジネートでパルミトイルCoA濃度の関数として測定した初期速度(V
0)を示している。*t検定によりp<0.05。生物学的に再現した個体N=3。
【
図3】
図3Aは、天然ゲル(上図)およびSDSゲル(中図)でVLCADを評価した代表的ウエスタンブロットを示している。1実験の非連続レーンは黒線で示している。
図3Bは、全肝ホモジネートおよび肝濃縮ミトコンドリア分画において、還元条件でのSDSゲル中VLCADの存在量の定量化を示している。ANOVAによる統計学的差はない。n=マウス3匹。cyt c:チトクロムc。
図3Cは、有機水銀樹脂から溶出した肝ホモジネートのVLCADの代表的ウエスタンブロットを示している。シグナル強度を用い、結合(B)分画と、非結合(U)分画にある非修飾VLCADのS-ニトロシル化VLCADの存在量を決定した。このデータは、2つの独立した肝ホモジネートで再試験した。
【
図4】
図4Aは、細胞可溶化物の水銀補助捕捉後に収集した非結合(VLCAD)および結合分画(SNO-VLCAD)の代表的ウエスタンブロット解析を示している。FLAG(登録商標)標識の野生型またはC238A VLCADを一時的に発現したHepa 1~6細胞をGSNOに曝露した。非結合分画は非修飾タンパク質の存在量を示している。結合分画はS-ニトロシル化VLCADの存在量を示している。両方の存在量は精製VLCADを用いた較正抗体結合曲線を用いて決定した。VLCADの割合としてのS-ニトロシル化VLCAD分画を示している。ND、非検出。生物学的に再現した個体n=3。1実験の非連続レーンは黒線で示している。
図4Bは、VLCADの比活性度が野生型VLCADを発現したGSNO投与細胞では有意に高いが、等量のC238A VLCAD変異タンパク質を発現したGSNO処理細胞では高くないことを示している。*ボンフェローニ事後検定を用いたANOVAにより*p<0.001、**p<0.05。生物学的に再現した個体N=3。
【
図5】
図5Aは、2つのモノマーのCys
238のS-ニトロシル化部位に金色でアノテーションを付けたVLCADダイマーの結晶構造を示す。Cys
238はループにあり、二次構造では柔軟性の上昇を示すことに注意する。
図5Bは、高周波数モードでは、S-ニトロシル化によりCys
238が大きく動くことを示している。通常モードの解析はウェブインターフェースのElNemo(igs-server.cnrs-mrs.fr/elnemo/index.html)を用いた非修飾およびSNO-VLCAD型である。下線は非修飾VLCADのアミノ酸残基のR
2値を示し、上線はS-ニトロシル化VLCADの同じ残基の値を示す。非修飾システインと比較してS-ニトロソシステイン238のR
2値が高いことは、S-ニトロシル化によりCys
238の動きが高まったことを示していることに注意する。
【
図6】
図6Aおよび6Bは、細胞株1および2それぞれのVLCAD動態パラメータのグラフを示している。細胞可溶化物5μgをフェロセニウム150μgと混合した後、指定濃度のパルミトイルCoAを追加した。300nmでの時間の関数としてフェリセニウムの吸光度の低下が記録され、前記酵素の初期速度は吸光度の総変化量の5%に対応する、時間0の曲線の傾きから決定した。
【
図7】
図7A~7Dは、eNOS
-/-マウスへの亜硝酸投与の効果を示している。
図7A:血清窒素酸化物濃度。
図7B:心臓窒素酸化物濃度。
図7C:mFAO率。
図7D: VLCAD比活性度。括弧内にS-ニトロシル化VLCAD分画を示している。NDは非検出を示す。*はNaNO
2投与マウスと野生型マウス(N=3)と比較して統計学的差がp<0.01であることを示す。**はNaNO
2投与マウスと野生型マウス(N=3)の統計学的差がp<0.05であることを示す。
【
図8】
図8は、特定の一硝酸モノヘプタノインと二硝酸ジヘプタノインの化学構造を示す。
【
図9】
図9Aは、2-一硝酸-1,3-ジヘプタノイン(MNDH)またはトリヘプタノイン(TH)存在下でのパルミチン酸塩酸化率のグラフを示す。
図9Bは、MNDH存在下でのVLCAD比活性度のグラフを示す。
【
図10】
図10Aは、MNDH(黒線)またはTH(白線)曝露後の総一酸化窒素代謝産物(NOm)レベルのグラフを示す。
図10Bは、経時的な亜硝酸塩レベルのグラフを示す。
図10Cは、MNDH曝露後の経時的な総タンパク質S-ニトロソシステインのグラフを示す。
【
図11】
図11Aは、MNDH(実薬)および/またはダイジン(阻害剤)曝露後の一酸化窒素代謝産物(NOm)のグラフを示す。
図11Bは、MNDH(実薬)および/またはダイジン(阻害剤)曝露後の亜硝酸塩レベルのグラフを示す。
図11Cは、S-ニトロシル化VLCADプルダウンアッセイのブロット画像を示す。結合(B)および非結合(U)サンプルを示している。セルはMNDHまたはTH(対照)で処理した。
【
図12】
図12Aは、TH(対照)またはMNDH(実薬)を曝露させた変異型VLCAD(G185S/G294E)を有する線維芽細胞におけるVLCAD比活性度のグラフを示す。*p<0.001、N=3。
図12Aは、TH(対照)またはMNDH(実薬)を曝露させた変異型VLCAD(G185S/G294E)を有する線維芽細胞におけるパルミチン酸酸化率のグラフを示す。*p<0.001、N=3。
図12Cは、VLCAD、三官能性タンパク質(TFP)、およびカルニチン・パルミトイルトランスフェラーゼ-2(CPT2)のS-ニトロシル化を示すブロット画像を示す。U:非結合、B:結合。VLCADタンパク質レベル=0.49±0.08μg/mg。
【
図13】
図13Aは、TH(対照)またはMNDH(実薬)を曝露させた変異型VLCAD(P91Q/G193R)を有する線維芽細胞におけるVLCAD比活性度のグラフを示す。*p<0.001、N=3。
図13Aは、TH(対照)またはMNDH(実薬)を曝露させた変異型VLCAD(P91Q/G193R)を有する線維芽細胞におけるパルミチン酸酸化のグラフを示す。*p<0.001、N=3。
図13Cは、VLCAD、三官能性タンパク質(TFP)、およびカルニチン・パルミトイルトランスフェラーゼ-2(CPT2)のS-ニトロシル化を示すブロット画像を示す。U:非結合、B:結合。VLCADタンパク質レベル=0.70±0.1μg/mg。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ミトコンドリア脂肪酸酸化(mFAO)は、生理学的状態で心臓、骨格筋、および腎臓のエネルギー産生の主な代謝プロセスである。mFAOは栄養枯渇、寒さへの曝露,、および運動時に不可欠なエネルギー源でもある。mFAOが遺伝的に欠損した小児では心臓、肝臓、および骨格筋機能障害が生じる。よく特徴付けられた遺伝的代謝疾患の域を超え、不十分なmFAOは非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)および2型糖尿病などの高度に蔓延した代謝障害の病因に関与していた。本明細書では、in vivoにおいてmFAO活性を上昇させる新規薬理学的アプローチが提供される。代謝代償不全および臨床表現型を予防するため、心臓特異的超長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)欠損症を有する前臨床マウスモデルを用い、mFAO活性を増大させてもよい。臨床的に報告されたVLCAD欠損症被験者由来のよく特徴付けられたヒト線維芽細胞株を用い、化合物のmFAO回復の有効性を検討することができる。治療法はmFAO欠損症小児および成人、また高度に蔓延した非先天性代謝障害患者の生命に多大な影響を与える。
【0010】
長鎖脂肪酸代謝の主な経路はミトコンドリア脂肪酸のβ酸化(mFAO)である。心筋はmFAOにより正常な心血管機能に必要なエネルギー(ATP)の50%以上を生成する。mFAOは、骨格筋(特に運動中)および腎臓(尿細管上皮細胞はエネルギー源としてmFAOに依存する)のATP産生にも不可欠である。最後に、飢餓または絶食に対する生命適応反応の本質的要素は、主に肝mFAO活性に依存する。絶食は、脂肪組織にトリグリセリドとして保存された脂肪酸の放出、輸送、および脂肪酸の肝臓(mFAOによる酸化がトリカルボン酸(TCA)サイクルと酸化的リン酸化を刺激する)への取り込みを誘発し、ケトン体、(R)-3-ヒドロキシ酪酸塩、およびアセトアセテートの合成と放出を刺激する。ケトン体は脳および腎臓による代謝の燃料として使用される。
【0011】
mFAOの生物学的重要性は、mFAO経路/タンパク質の欠損により引き起こされる遺伝的代謝障害患者で強調される。mFAO障害患者は、典型的には絶食、寒さ、および運動への不耐性を示し、生命に危険を及ぼす症候群に進行する可能性がある低ケトン性低血糖症、および心臓および骨格筋異常を示すことが多い。
【0012】
mFAOは、mFAOに関与する約20種類の遺伝子の発現を制御する転写機構、および転写後機構により制御される。mFAOの転写後制御は、アセチルCoAカルボキシラーゼ(ACC1およびACC2)により生成されるマロニルCoAによるカルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ-1(CPT1)のアロステリック阻害が関与する。CPT1はミトコンドリアに輸送するため、脂肪酸-CoA種をアシルカルニチンに変換する。ミトコンドリア内では、4段階の周期性酵素プロセスが各サイクル2つの炭素により長鎖脂肪酸アシルCoA種を短縮し、最終的にアセチル-CoAおよび二酸化炭素を生成する。例えば、パルミトイルCoAの完全な酸化には、8個のアセチルCoA分子を生成するβ酸化のスパイラルまで7サイクル必要であり、これはTCAサイクルと分泌されたケトン体の産生で分割される。最近の根拠では、mFAO経路の重要タンパク質は転写後修飾、リン酸化、アセチル化、およびS-ニトロシル化により制御されることが示された。超長鎖アシルCoA脱水素酵素(VLCAD)はヒトのパルミトイルCoA脱水素の80%以上に関与し、一酸化窒素(NO)により制御される。心血管系におけるシグナル伝達分子としてのNOの発見は多数の研究を促し、これらの研究は内皮由来NOの合成および生物学的利用能の欠損は心血管系および代謝障害の病因の中心であることを示している。革新的プロテオーム技術により、選択的S-ニトロシル化、すなわち、NO同等物によるシステイン残基の翻訳後修飾は代替的であるが、優遇されるNOを介したシグナル伝達経路であると判断された。このデータは、mFAO経路の酵素、特にVLCADのS-ニトロシル化が脂肪酸酸化の重要な制御因子であることを確立している。マウス肝では、VLCADタンパク質がシステイン238を内因的および選択的にS-ニトロシル化する。S-ニトロシル化はVLCADの触媒効率を29倍上昇させる。
【0013】
内皮一酸化窒素合成酵素ヌル(eNOS-/-)またはレプチンヌルマウスなどNO欠損症の状態では、野生型マウスと比較してmFAO速度が低下するVLCADのS-ニトロシル化が行われず、肝トリグリセリドが著しく増加し、最終的に脂肪肝に至る。本明細書では、S-ニトロソ-グルタチオン(GSNO)または亜硝酸塩を介したNO同等物の薬理学的送達がVLCADのS-ニトロシル化と触媒効率を回復させ、全体的なmFAOを改善し、肝臓の病的表現型を抑制する。
【0014】
さらに、同様の戦略により、VLCADのS-ニトロシル化の薬理学的回復がVLCAD欠損症の条件でVLCAD比活性度を改善することが示された。皮膚線維芽細胞は臨床的に診断されたVLCAD欠損患者から採取し(VLCAD遺伝子の変異:G185S/G294E、N122D/N122D、P89S/A536fsX550、およびP91Q/G193R)、S-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNAC)を処理した。4例全員が残余VLCADタンパク質および活性を有する。線維芽細胞をSNACで処理し、VLCADをシステイン237(マウスの配列では238、哺乳類VLCADsで保存されている残基)でS-ニトロシル化した時の変異型VLCAD比活性度の大幅な上昇が報告された。さらに、mFAO活性およびアシルカルニチンレベルは、SNAC処理したVLCAD欠乏細胞で正常化した。全体として、これらのデータはmFAOを補正し、臨床症状を軽減するNOによる薬理学的介入の有用性を証明している。
【0015】
NOによる薬理は、ニトログリセリンに始まり、シルデナフィルおよび吸入NOに至る長い歴史がある。現在の薬理学的展望には、無機硝酸塩および硝酸塩を使用して様々な心血管および代謝障害を有するヒトにおいて、NOを補充するものを含む。内因的に生成したNOの代謝産物である硝酸塩は、数種類の経路で活性化し、生物活性NOを生成することができるNOの保存プールである。数種類の形態の硝酸塩(経口錠剤、持続放出錠、および吸入)は安全と考えられ、ヒトの臨床試験に承認されている。他の選択肢は、(i)S-ニトロソ-グルタチオン(GSNO)(生物活性NOの生理的形態)またはGSNO前駆体(トリペプチドグルタチオン(GSH))、(ii)S-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNAC)(GSNOと同じ)またはその前駆体N-アセチル-システインを含む。これらの2分子は生物活性NOを送達するだけでなく、タンパク質のS-ニトロシル化を回復するため、タンパク質のシステイン残基の還元チオールと同等のNOの選択的移動を行うことができる。
【0016】
VLCADの場合のように、大規模なプロテオームの研究から、マウスプロテオソームが進化的に保存されたタンパク質セグメント内およびS-ニトロシル化で修飾された一般にアノテーションの付いた官能領域の外に独特のシステイン残基を有するタンパク質を含むことが明らかとなった。批判的に言えば、このデータは、S-ニトロシル化は生物学的に関連するタンパク質ネットワークおよび顕著には代謝経路内に制限されることを示した。この限られた、限定的生化学的所見は、タンパク質のS-ニトロシル化の回復が薬理学的に達成可能であり、in vivoでmFAOタンパク質のS-ニトロシル化を標的とするファーマコフォアは、非効率な脂肪酸代謝により誘導される疾患の条件で使用することができることを意味している。本明細書では、明確な長期治療がないため、小児代謝障害をターゲットとしている。具体的には、mFAO障害の中で2番目に多いVLCAD欠損症をターゲットとする。(残余タンパク質および酵素活性を有する)VLCAD欠損症小児は、肥大型または拡張型心筋症、心膜液、および不整脈、また低血圧、肝腫大、および間欠的低血糖を示す。また筋破壊、運動不耐性、および筋肉痛も示す。臨床的に診断された場合の治療には中鎖トリグリセリドでカロリーが添加された低脂肪ミルクが含まれる。この標準的治療アプローチの他に、2つの臨床試験で食品添加物として使用されるオイルのベザフィブラートおよびトリヘプタノインを検討した。ほとんどのタイプの原発性および続発性異脂肪血症で効果的なベザフィブラートも、長鎖脂肪酸酸化障害の臨床試験で使用されてきた。しかし、無作為化臨床試験では、ベサフィブラート単剤ではVLCAD欠損症患者の運動時の臨床症状または脂肪酸酸化を改善しなかった。グリセロール骨格にエステル化されるヘプタン酸(7炭素の脂肪酸)を3つ有するトリグリセリドのトリヘプタノインは、長鎖脂肪酸酸化欠損症小児を標的とし、筋肉痛の抑制を目的とし、心機能を改善するための第2相試験が行われている(ClinicalTrials.gov識別番号:NCT01379625およびNCT01886378)。トリヘプタノインは2つの役割を果たす可能性があり、mFAOに単鎖脂肪酸を提供し、ピルビン酸塩の産生(カルボキシル化によりTCAサイクルの中間基質であるオキサロ酢酸を産生する)に基質(パルミトイルCoA)を提供することでアナプレロティック機能も果たす。これらの好ましい機能およびNO同等物を送達する必要性を考え、既知のエステル化手順に基づく新規誘導体を本明細書に提供する。3ニトロ基でエステル化されたグリセロール骨格は、生物活性NOを補充するニトログリセリンを生成し、救命血管作用を有する。したがって、以下に説明するとおり、一硝酸ジヘプタノイングリセロール付加体、主に1,3-ジヘプタノイン-2-モノ硝酸塩を生成した。この分子はトリヘプタノインの二重代謝機能を保持し、ミトコンドリア内にNO同等物を供給し、ミトコンドリアが触媒効率を増大させるS-ニトロシル化により残余VLCADを選択的に修飾する。したがって、これらの新規化合物は3つの重要な生物学的機能を満たす。
【0017】
以下に見られるとおり、mFAOは生物活性一酸化窒素の有効性上昇によりin vivoで強化される。これは、最新の臨床試験でヒトに安全に投与される亜硝酸ナトリウム(NaNO2)分子の使用により達成された。以下の例ではeNOS-/-マウスを使用したが、亜硝酸塩は心特異的VLCAD(cVLCAD)欠損症マウスに経口投与することができる。マウスでは、VLCADの心特異的欠失により、先行するストレスがなくても、生後6ヵ月までに拡張型心筋症および左心室機能の低下に至る。同年齢で、ヘテロ接合性cVLCAD欠乏(cVLCAD+/-)マウスは一部心機能に障害を示し、遺伝子量および時間依存的効果を示す。cVLCAD+/-マウスは9~12ヵ月で進行性の心臓病態を発症する。したがって、前記cVLCAD+/-は、経時的にモニター可能な表現型を生じ、薬理学的に調節可能な残余VLCAD活性を有しているため、適切な前臨床モデルを提供する。包括的な質量分析に基づく技術および機能分析により、経口亜硝酸塩の投与が代謝の心臓、肝臓、および恒常性制御に与える長期的影響をモニターすることができる。心エコーおよび核磁気共鳴画像法(MRI)技術を用い、心臓の構造および機能をそれぞれモニターしてもよい。心臓エネルギー論、エネルギー支出、および活動性は確立された生化学的方法および代謝ケージによりモニターしてもよい。脂肪酸酸化率、アシルカルニチン、およびアシルCoA種はLC-MS/MSにより定量化してもよい。酵素活性、タンパク質発現レベル、および病巣部位の特定は確立された分析的および生化学的方法により評価してもよい。VLCADの部位特異的S-ニトロシル化およびS-ニトロシル化により修飾された分画の定量化を行ってもよい。
【0018】
特定の実施形態では、雄C57/BL6および(バックグラウンドがC57/BL6の)ヘテロ接合性心臓特異的VLCAD欠乏(cVLCAD+/-)マウスを使用してもよい。上記に説明したとおり、cVLCAD+/-マウスは心臓VLCAD欠損症を有するヒトの重大な代謝および表現型異常を再現している。cVLCAD+/-マウスは、6ヵ月齢で心臓異常(軽度拡張型心筋症および左心室機能のわずかな低下)の徴候を示す。これらの機能障害は9~12ヵ月齢までに病的表現型(拡張終期および収縮終期の特徴亢進および短縮率の低下)に進行する。
【0019】
試験化合物に対してcVLCADマウスを用いる特定の実施形態では、cVLCAD+/-マウスを2群に分ける。1群には投与を行わないが、もう1群には投与を行う(飲用水中に0.1mM NaNO2。この濃度は、一酸化窒素欠損症のモデルである内皮一酸化窒素合成酵素ヌルマウス(eNOS-/-)を用いた予備データに基づき選択した)。マウスが心機能障害の徴候を示さない場合、3ヵ月齢で投与(例えば、亜硝酸ナトリウムの投与)を開始してもよい。心臓表現型を確認するため、心臓の構造および左心室機能を非侵襲的画像法により毎月評価してもよい。非投与cVLCAD+/-マウスの心臓病理が確定した時点で実験を終了してもよい。以下のパラメータの一部および/またはすべてを定量化してもよい。(1)代謝モニタリング:マウスは(例えばColumbus Instrumentsによって)代謝ケージで個別飼育してもよい。体重、食餌および水分摂取量、活動量、体温、酸素消費量、および/または二酸化炭素産出量など、1若しくはそれ以上のパラメータをモニターする。パラメータは(例えばOxymax/ Comprehensive Lab Animal Monitoring System(CLAMS)を用い)自動的にモニターする。典型的な実験では、マウスを1日ケージに順化し、24時間モニターする(データは30~40分間隔で収集する)。このモニタリングは治療開始後毎週実施する。エネルギー源の指標である呼吸商(VCO2/VO2)は、酸素消費量および二酸化炭素産生量の測定から計算する。典型的には、摂食状態で呼吸商は1.0であり、呼吸商0.70未満は脂肪が主な燃料源であることを示している。実験中、活動性、エネルギー支出、呼吸商(RER)、体温、および/または心拍数をモニターする。(2)心臓の構造および機能の評価。心臓の構造は、イソフルランで麻酔したマウスにおいてMRI技術により決定する。左心室の機能および構造を決定する。心機能はMモード心エコー法により評価する。この技術は、cVLCAD-/-マウスの心機能をモニターすることへの応用に成功した。心臓ホモジネート中のATP、ADP、AMP、およびNADレベルの定量は、HPLC法により行う。(3)脂質代謝産物およびアシル-カルニチン種の定量とプロファイリング。トリグリセリド、遊離脂肪酸、およびリン脂質の血漿、心臓、および肝臓レベルを確立された測定法により定量する。診断に臨床的に使用されるバイオマーカーであるアシルカルニチンは、安定アイソトープ標識内部標準を用い、LC-MS/MSにより行う。(4)恒常性モデル評価(HOMA)指数。標準的方法により、一晩絶食したマウスで血漿グルコースおよびインスリンを測定する。(5)脂肪肝および肝障害の評価。確立されたプロトコールにより、意識が消失したマウスで肝MRIを行う。ヘマトキシリン、Biebrich Scarlet-fucshin、およびアニリンブルー(トリクロム染色)を用いた肝組織染色を行い、表現型の有無を確認する。マウス血漿のアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)およびアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)値を測定することで肝障害を評価する。(6)mFAO率の定量。mFAO率の定量については、未処理の心臓および肝臓にU13-C16パルミチン酸塩を灌流し、確立されたプロトコールにより[1,2]-13C-アセチル-CoAの生成をモニターし、LC-MS/MSにより定量する。VLCADタンパク質レベル、酵素活性、動態、およびS-ニトロシル化の解析。(8)亜硝酸塩投与終了時の心臓および肝臓S-ニトロソプロテオームの機能的呼び出し。治療のためNaNO2を送達させる結果の1つの可能性は、タンパク質にシステイン残基に追加する修飾である。組織ホモジネートのS-ニトロソシステインプロテオームを入手し、遺伝子オントロジー(GO)の用語および機能的分類について分析する。これらの解析は、特異的分子機能がNaNO2投与マウスで高くなっているか否かを判定する。また、世界的なプロテオームの同定を行い、NaNO2を投与したマウスのタンパク質発現の相対的変化を定量することができる。
【0020】
タンパク質のS-ニトロソ化は、酵素活性、タンパク質局在化、および安定性を制御し、一酸化窒素を介したシグナル伝達に関与する重要な一酸化窒素由来可逆的翻訳後修飾である(Stamler et al.(2001) Cell 106:675-683; Hess et al.(2005) Nat. Rev. Mol.Cell Biol., 6:150-166; Benhar et al.(2008) Science 320:1050-1054; Jaffrey et al.(2001) Nat. Cell Biol., 3:193-197; Kornberg et al.(2010) Nat. Cell Biol., 12:1094-1100; Matsushita et al.(2003) Cell 115:139-150; Mitchell et al.(2005) Nat. Chem.Biol., 1:154-158; Cho et al.(2009) Science 324:102-105; Mannick et al.(2001) J. Cell Biol., 154:1111-1116)。S-ニトロシル化の機能的役割は個々のタンパク質で報告されたが、in vivoの生理的条件下でのS-ニトロシル化およびS-ニトロシル化部位の世界的解析はまだ限定的である。このため、質量分析(MS)に基づくプロテオームアプローチが実施され、これにより複雑な混合物のS-ニトロソシステイン残基の部位特異的同定が可能になる(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。この方法は、S-ニトロソシステインペプチドまたは未処理のS-ニトロシル化タンパク質の有機水銀化合物による選択的濃縮に基づいている。ペプチドは過ギ酸が放出され、これがシステインをスルホン酸に酸化することから、MSによる修飾ペプチドの正確な検出が可能となる。代わりに、タンパク質をそのまま溶出し、特殊なタンパク質を抗体によりプローブし、修飾タンパク質分子を定量することができる。検出の特異度を確保するため、サンプルをS-ニトロソシステインを除去する紫外(UV)光で前処理してネガティブコントロールを作成し、同じ条件で分析する(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。これらの方法論を用い、6種類の野生型マウス臓器、および内皮一酸化窒素合成酵素(eNOS)欠乏マウスの同組織の内因性S-ニトロシル化タンパク質を同定した。マウスS-ニトロソシステインプロテオームの世界的発見により、一酸化窒素の重要な酵素源の1つがない状態で、S-ニトロシル化の中心となる生化学経路の潜在的機能的制御およびこのプロテオームの変化が明らかとなっている。実際、解糖、糖新生、トリカルボン酸サイクル、および酸化的リン酸化に関与する酵素の選択的S-ニトロシル化が認められ、この翻訳後修飾が代謝およびミトコンドリア生体エネルギーを制御することを示している。内皮一酸化窒素合成酵素欠乏マウスにはない、マウス肝酵素超長鎖アシル補酵素(CoA)脱水素酵素(VLCAD)のCys238でのS-ニトロシル化がこの触媒効率を改善した。さらに、S-ニトロシル化剤を変異型VLCADを有する細胞に投与すると酵素活性が上昇した。これらのデータは、ミトコンドリアにおける脂肪酸β酸化の制御にタンパク質のS-ニトロシル化が関与していることを示している。
【0021】
本発明は、脂肪酸代謝障害を阻害、処理、および/または予防する方法を含む。特定の実施形態では、脂肪酸代謝障害が脂肪酸酸化障害/欠損症(例えば、mFAO障害/欠損症)である。脂肪酸代謝障害には、これに限定されるものではないが、超長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(VLCADD、例えば、16~24炭素)、長鎖アシル補酵素A脱水素酵素欠損症(LCADD、例えば、12~18炭素)、長鎖3-ヒドロキシアシル補酵素A脱水素酵素欠損症(LCHADD)、中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCADD、例えば、6~12炭素)、短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(SCADD、例えば、4~6炭素)、中/短鎖L-3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素欠損症 (M/SCHADD)、マルチプルアシルCoA脱水素酵素欠損症(MADD)、ミトコンドリア三官能性タンパク質欠損症、短鎖3-ケトアシルCoAチオラーゼ欠損症(SKATD)、中鎖3-ケトアシルCoAチオラーゼ欠損症(MCKATD)、2,4-ジエノイルCoA還元酵素欠損症、およびグルタル酸血症II型(GA-II)を含む。特定の実施形態では、前記脂肪酸酸化障害がVLCADDである。
【0022】
本発明の方法は、少なくとも1種類のニトロシル化剤、特にS-ニトロシル化剤を被験者に投与する工程を有する。本明細書で用いるとおり、「ニトロシル化」の用語はポリペプチド、特にチオール基(SH)、酸素、炭素、または窒素への一酸化窒素(NO)の付加を指す。「ニトロシル化」の用語は一酸化窒素構造のチオール基への付加により、S-ニトロソチオール(SNO)が形成する工程を指す。「ニトロシル化剤」は、一酸化窒素基をポリペプチドのチオールに移行し、S-ニトロソチオールを形成する化合物を指す。S-ニトロシル化剤の例は、Feelisch, J., Stamler, J. S. (1996) Donors of Nitrogen Oxides.Feelisch, M. Stamler, J. S. eds.Methods in Nitric Oxide Research , John Wiley & Sons, Ltd. Chichester, UKに提供される。S-ニトロシル化剤には、これに限定されるものではないが、直接ニトロシル化を行うS-ニトロシル化剤(例えば、GSNO)、in vivoでS-ニトロシル化剤に修飾される前駆体薬剤(例えば、N-アセチルシステイン(NAC))、およびニトロシル化剤を生成する一酸化窒素発生源(例えば、亜硝酸塩+GSHまたはNAC)、およびエステルおよび/またはその塩を含む。S-ニトロシル化剤には、これに限定されるものではないが、酸性亜硝酸塩、塩化ニトロシル、亜硝酸アルキル(例えば、亜硝酸エチル)、亜硝酸アミル、グルタチオン(GSH)、グルタチオンオリゴマー、S-ニトロソグルタチオン(GSNO)、S-ニトロソシステイニルグリシン、S-ニトロソシステイン、N-アセチルシステイン、S-ニトロソ-N-アセチルシステイン、ニトログリセリン、ニトロプルシド、硝酸オキシド、S-ニトロソヘモグロビン、S-ニトロソアルブミン、5-ニトロソ-N-アセチルペニシラミン、S-ニトロソ-γ-メチル-L-ホモシステイン、5-ニトロソ-L-ホモシステイン、S-ニトロソ-γ-チオ-L-ロイシン、S-ニトロソ-δ-チオ-L-ロイシン、およびS-ニトロソアルブミン、また薬学的に許容されるその塩を含む。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がS-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNO-NAC)である。本発明の方法は、さらに、脂肪酸代謝障害の治療に用いる少なくとも1種類の他の治療薬の(連続および/または同時)投与を有する。例えば、前記方法は、さらにトリヘプタノインおよび/またはベザフィブラートを有してもよい。前記被験者には、問題となる脂肪酸(例えば、欠乏する酵素の基質となる脂肪酸)、例えば、12炭素以下の脂肪酸または(例えば、VLCADDの)12または16炭素以上の脂肪酸の存在量を減少または排除する食事を処方してもよい。
【0023】
特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がニトロ化脂肪酸である/を有する。前記S-ニトロシル化剤は一硝酸、二硝酸、三硝酸、またはそれ以上を導入してもよい。特定の実施形態では、前記脂肪酸が12炭素未満、特に10炭素未満を有する。特定の実施形態では、前記脂肪酸が少なくとも7炭素を有する。特定の実施形態では、前記脂肪酸が約7~約11炭素、特に約7~約9炭素を有する。前記S-ニトロシル化剤は1つの脂肪酸、2つの脂肪酸、3つの脂肪酸、またはそれ以上を有してもよい。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がトリグリセリドであり、1若しくは2つの脂肪酸がNO同等物(例えば、硝酸、ニトロソ、ニトロなど)で置換される。特定の実施形態では、前記硝酸を3つの位置のいずれかでグリセロール骨格に追加することができる。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がヘプタノイン、特にジヘプタノインまたはモノヘプタノインを有する。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤がジヘフタノインを有する。ヘプタノインの例には、これに限定されるものではないが、1,3-ジヘプタノイン-2-一硝酸塩、1,2-ジヘプタノイン-3-一硝酸塩、2,3-ジヘプタノイン-1-一硝酸塩、1,3-ニ硝酸-2-ヘプタノイン;1,2-ニ硝酸-3-ヘプタノイン、および2,3-二硝酸-1-ヘプタノインを含む。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤が一硝酸ジヘプタノイン(ジヘプタノイン一硝酸塩)である。特定の実施形態では、前記S-ニトロシル化剤が二硝酸ヘプタノイン(例えば、1,3-二硝酸-2-ヘプタノイン)である。
図8は、これらの化合物の特定の化学構造を提供する。
【0024】
ジヘプタノイン一硝酸塩は、グリクレリル-2-一硝酸塩およびヘプタン酸から合成することができる。グリセリル-2-一硝酸塩(炭素2の位置にニトロ基を持つグリセロール)は粘度の高い吸湿性の液体であり、水、アルコール、およびエーテルに溶解する。前記グリセリル-2-一硝酸塩とヘプタノイン酸とのエステル化では、3-ジヘプタノイン,2一硝酸塩が得られる。グリセリル-2-一硝酸塩を塩基性触媒存在下、1:1.5のモル比でヘプタノイン酸と反応フラスコに入れる。前記混合物を2時間、その融点を超える温度に加熱してもよい。前記温度をゆっくりと低下させ、高分子量脂肪酸の1,3-ジグリセリドの選択的結晶化によりこの製剤で直接エステル交換が起こるようにしてもよい。前記触媒は酢酸および1,3-ジグリセリドにより不活性化し、ろ過により回収、結晶化により精製してもよい。2-一硝酸-1,3-ジグリセリドは、第4級アンモニウム塩存在下、ヘプタン酸を用いてグリセリル-2-一硝酸塩を加熱することで形成してもよい。いずれのアプローチも相対的に軽度の反応であり、収率が高く、1,3-ジグリセリドの純度が高くなる。典型的収率は98%超である。純度はHPLC-質量分析により評価してもよい。前記製剤は、VLCAD遺伝子の変異を有するヒト線維芽細胞で検討してもよい(実施例2参照)。
【0025】
S-ニトロシル化剤は、少なくとも1つの薬学的に許容される担体を有する組成物として、前記被験者に送達してもよい。特定の実施形態では、前記組成物はさらに、上述のとおり脂肪酸代謝障害の治療を目的とした少なくとも1つの他の治療薬を有する。
【0026】
上文に述べたとおり、本発明は、被験者の脂肪酸代謝障害を阻害、処理、および/または予防する方法を含む。前記方法は、さらに、本発明の治療薬投与前に、前記被験者の脂肪酸代謝障害を診断する工程を有してもよい。より具体的には、前記方法は、さらに、前記被験者が健常被験者と比較し、不完全なVLCAD酵素活性を有するか否かを判定する工程を有してもよい。VLCAD活性を決定する方法は当該分野で既知である。例えば、生体サンプルは前記被験者から採取し、VLCAD酵素測定(例えば、フェリセニウムイオンを用いたアシルCoA脱水素酵素測定)を行い、(例えば健常被験者および/または脂肪酸代謝障害を有する被験者の)標準的な値と比較するか、または健常被験者および/または脂肪酸代謝障害を有する被験者の生体サンプルと直接比較してもよい。代わりに(または加えて)、前記被験者が(例えば、表1に示す)VLCADのミスセンス変異および/または(例えば、活性が欠如したVLCADとなる)ヌル変異を有するか否かを決定することにより、VLCAD活性を測定してもよい。VLCAD変異については、Gobin-Limballeら(Am. J. Hum.Genet.(2007) 81:1133-1143(例えば、
図1および表1参照))およびAndresenら(Am. J. Hum.Genet.(1999) 64:479-494(例えば、表参照2))の研究でも提供される。これらの参考文献それぞれは、その全体が示されるように本明細書に組み込まれる。VLCAD変異を検出する方法は当該分野で既知である。例えば、生体サンプルは前記被験者から採取し、前記VLCAD遺伝子の配列を決定するか、または(例えば、野生型または変異型に特異的な)1若しくはそれ以上のプローブにより生体サンプルの核酸を採取してもよい。代わりに、変異型VLCADの有無は、野生型または変異型VLCADに免疫学的に特異的な抗体を使用して検出してもよい。前記被験者がVLCAD酵素活性が欠如していると判断された、および/またはミスセンスまたはヌル変異を保持していると判断された場合、前記被験者は本発明の方法により治療してもよい。
【0027】
本発明の組成物は、適切な経路、例えば、注射(例えば、局所、直接、または全身投与)、経口、経肺、局所、経鼻、または他の投与経路により投与することができる。前記組成物は、非経口、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、皮下、局所、吸入、経皮、肺内、動脈内、直腸内、筋肉内、および鼻腔内投与を含む適切な方法により投与してもよい。特定の実施形態では、前記組成物は経口および/または腹腔内投与される。一般に、前記組成物の薬学的に許容される担体は、希釈剤、保存料、安定剤、乳化剤、補助剤、および/または担体から成る群から選択される。前記組成物には、様々な緩衝剤含有量(例えば、トリスHCl、酢酸塩、リン酸塩)、pH、およびイオン強度の希釈剤、および界面活性剤および可溶化剤(例えば、Tween 80、ポリソルベート80)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、保存料(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール)、および充てん剤基質(例えば、ラクトース、マンニトール)を含むことができる。前記組成物は、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ乳酸/グリコシドコポリマー、エチレンビニル酢酸コポリマー、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのポリマー化合物の粒子製剤、またはリポソームに組み込むことができる。そのような組成物は、本発明の薬学的組成物の成分に関する物理的状態、安定性、in vivo放出率、およびin vivoクリアランス率に影響することもある(例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences and Remington: The Science and Practice of Pharmacyを参照)。本発明の薬学的組成物は、例えば、液体形態で調製することができ、または乾燥粉末形態(例えば、後で再溶解する凍結乾燥製剤)とすることもできる。
【0028】
本明細書で説明された治療薬は、薬学的製剤として被験者/患者に投与される。本明細書で使用する「患者」の用語は、ヒトまたは動物被験者を指す。本発明の組成物は、医師の指導のもと、治療的または予防的に利用してもよい。
【0029】
本発明の薬物を有する組成物は、薬学的に許容される担体を投与するため、都合よく製剤化してもよい。選択した媒体中の薬物濃度は変化する可能性があり、前記媒体は前記薬学的製剤の望みの投与経路により選択することができる。従来の媒体または薬物が投与される薬物と適合しない場合を除き、前記薬学的製剤での使用は検討される。
【0030】
特定患者への投与に適した本発明の薬物の用量および投与方法は、前記薬物が投与される患者の年齢、性別、体重、全身の医学的状態、および治療または予防のため前記薬物が投与される特定の状態およびその重症度を考慮し、医師が決定することができる。前記医師は投与経路、薬学的担体、および薬物の生物活性を考慮してもよい。適切な薬学的製剤の選択は、選択された投与様式によっても決まる。
【0031】
本発明の薬学的製剤は、投与を簡便にし、用量を均一とするため、投与量単位で製剤化することができる。本明細書で用いる投与量の単位形態は、治療または予防的療法を受ける患者に適した薬学的製剤の物理学的な離散単位を指す。各投与量は、選択された薬学的担体と関連した望みの作用を生じるために計算された量の活性成分を含む必要がある。適切な投与量単位を決定する方法は、当業者に周知である。
【0032】
投与量単位は患者の体重に比例して増減してもよい。特定の状態を軽減または予防するために適した濃度は、当該分野で周知の投与量濃度曲線の計算から決定することができる。
【0033】
前記薬物を有する薬学的製剤は、前記病的症状が軽減または改善するまで、適切な間隔、例えば、少なくとも1日2回以上で投与することができ、この後前記投与量を維持用量まで減量することができる。特定の症例において適切な間隔は、通常、前記患者の状態に依存する。
【0034】
本明細書で説明された特定製剤の毒性および有効性(例えば、治療、予防上のもの)は、これに限定されるものではないが、in vitro、細胞培養、ex vivo、または実験動物を用いるなど、標準的な薬学手順により決定することができる。これらの研究で得られたデータは、ヒトで使用される投与量範囲の製剤化に使用することができる。前記投与量は、投与形態および経路によって変化しうる。投与量および投与間隔は、治療または予防的有効量を送達するために十分な活性成分レベルまで個別に調節してもよい。
【0035】
定義
以下の定義は、本発明の理解を促すために提供される。
【0036】
単数形の「a」、「an」、および「the」は、内容が明らかにそうでないことを示していない限り、複数の言及も含む。
【0037】
「薬学的に許容される」は、連邦または州政府の規制当局により承認されているか、米国薬局方、または他の一般的に認識されている、動物、特にヒトに使用される薬局方に掲載されていることを示す。
【0038】
「担体」は、例えば、希釈剤、補助剤、保存料(例えば、チメロサール、ベンジルアルコール)、抗酸化剤(例えば、アスコルビン酸、メタ重亜硫酸ナトリウム)、可溶化剤(例えば、Tween(登録商標)80、ポリソルベート80)、乳化剤、緩衝剤(例えば、トリスHCl、酢酸塩、リン酸塩)、抗菌剤、充てん剤(例えば、ラクトース、マンニトール)、賦形剤、補助剤、または溶媒を指し、これとともに本発明の活性薬物が投与される。薬学的に許容される担体は水および石油、動物、植物、または合成由来のオイルを含むオイルなど、滅菌液体とすることができる。水または食塩水および水性デキストロースおよびグリセロール溶液は、担体、特に注射用溶液として利用してもよい。適切な薬学的担体は、例えば、E.W. Martinの「Remington's Pharmaceutical Sciences」(Mack Publishing Co.、米国ペンシルバニア州Easton)、Gennaro, A. R.の「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」(Lippincott, Williams and Wilkins)、Libermanら編「Pharmaceutical Dosage Forms」(Marcel Decker、米国ニューヨーク州New York)、およびKibbeら編「Handbook of Pharmaceutical Excipients」(米国薬剤師会、米国ワシントン州)に報告されている。
【0039】
本明細書に用いる「治療する」の用語は、患者の状態の改善(例えば、1もしくはそれ以上の症状)、前記状態の進行遅延など、疾患に苦しむ患者に利益を与えるすべてのタイプの治療を指す。
【0040】
本明細書に用いるとおり、「予防する」の用語は、状態(例えば、脂肪酸酸化障害)を発生するリスクがあり、被験者が前記状態を発生する可能性が低下する、被験者の予防的治療を指す。
【0041】
化合物または薬学的組成物の「治療有効量」は、特定の障害または疾患および/またはその症状を予防、阻害、または治療するために有効な量を指す。例えば、「治療有効量」は、被験者における脂肪酸酸化を調節するために十分な量を指してもよい。
【0042】
本明細書に用いるとおり、「被験者」の用語は、動物、特に哺乳類、特にヒトを指す。
【0043】
本明細書に用いるとおり、「生体サンプル」は、組織、組織サンプル、細胞、および生体液(例えば、血液)を含む被験者、特にヒト被験者から採取した生体材料サンプルを指す。
【0044】
本明細書に用いるとおり、「プローブ」の用語は、精製された制限酵素消化で自然に発生するか、合成されたかによらず、プローブと相補的な配列を有する核酸とアニーリングまたは特異的にハイブリダイズすることができる、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド、またはRNAまたはDNAの核酸を指す。プローブは、1本鎖または2本鎖であってもよい。前記プローブの正確な長さは、温度、プローブ源、および方法の利用など、多くの要因に依存する。例えば、診断の用途では、前記標的配列の複雑さによって、前記オリゴヌクレオチドプローブが典型的には15~25ヌクレオチド以上を含むが、それよりも少ないヌクレオチドを含んでもよい。本明細書のプローブは、特定の標的核酸配列の異なる鎖と相補的となるように選択される。これは、前記プローブが「特異的にハイブリダイズする」または所定の条件下でそれぞれの標的鎖とアニーリングすることができるよう、十分相補的である必要があることを意味する。したがって、前記プローブ配列は、前記標的の正確な相補的配列を反映する必要はない。例えば、非相補的ヌクレオチドフラグメントは前記プローブの5’または3’末端に結合し、前記プローブ配列の残りは標的鎖に相補的であってもよい。代わりに、前記プローブ配列が標的核酸配列と十分相補的で、それと特異的にアニーリングするならば、非相補的塩基またはより長い配列をプローブに散在させることができる。
【0045】
以下の例は、本発明の様々な実施形態を説明するために提供される。例はいかなる方法でも本発明を制限する意図はない。
【実施例1】
【0046】
材料と方法
化学物質と試薬
パルミトイルCoAリチウム塩およびヘキサフルオロリン酸フェリセニウムはSigma-Aldrichから入手した。マウスモノクローナル抗FLAG(登録商標)抗体、グリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素、およびチトクロムc酸化酵素サブユニットIは、それぞれStratageneおよびAbcamから入手した。ウサギおよびヤギ(G-16クローン)ポリクローナル抗VLCAD抗体は、それぞれGeneTexおよびSanta Cruz Biotechnologyから入手した。使用したすべての化学物質および試薬は分析用グレードとした。
【0047】
マウス器官の単離とタンパク質ホモジネートの調製
すべてのマウス研究はチルドレンズ・ホスピタル・オブ・フィラデルフィア研究所、施設動物ケア・使用委員会(Institutional Animal Care and Use Committee)の審査および承認を得た。野生型C57BL/6J、Nos3tm1Unc(eNOS-/-)C57BL/6J、およびLepob(ob/ob)C57BL/6J成獣マウスはJackson Laboratoriesから入手した。ob/obマウスについては、2日ごとにPBSまたは5mM GSNOを注入した4週間の期間中、食餌摂取量と体重を記録した。平均食餌摂取量はPBSおよびGSNO注入ob/obマウスでそれぞれ42±9gおよび41±10gであった(1遺伝子型あたりn=4匹)。同期間の平均体重変化量は、ob/ob PBS注入マウスおよびob/ob GSNO注入マウスでそれぞれ28.2±1.0および28.1±4.0であった(1遺伝子型あたりn=4匹)。マウスはCO2で麻酔し、血液は左心室から灌流前に採取した。傷のない臓器を採取し、直ちに液体窒素で凍結、使用まで-80℃で保存した。組織は、テフロン製乳棒およびJumbo Stirrer(Fisher Scientific)を用い、氷上で溶菌緩衝液3ml[1mMジエチレントリアミン五酢酸、0.1mMネオクプロイン、1%Triton X-100、およびプロテアーゼ阻害剤を含む250mM Hepes-NaOH(pH7.7)]にホモジナイズした。前記ホモジネートは4℃で30分間、13,000gで遠心分離した。前記可溶性タンパク質分画を回収し、前記タンパク質濃度をBradfordアッセイにより決定した。陰性対照サンプルのサンプル調製および生成は、報告されているとおり行った(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。
【0048】
S-ニトロソシステインプロテオームの化学濃縮と部位特異的同定
カラムの調製と活性化、有機水銀樹脂を用いた反応用のホモジネートの調製に関する詳細な実験手順は報告されている(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。各組織3つの生体サンプルを分析した。各サンプルは、同一条件下で対応するUV前処理陰性対照を分析した。偽同定率は脳で<6%、他のすべての臓器で<3%であった。洗浄では、6つの臓器の脂質含有量に違いがあるため、厳密な条件を選択した。カラムは、最初に300mM NaClおよび0.5% SDSを含む50BV(bed volume)の50mM tris-HCl(pH 7.4)で洗った後、0.05% SDSを含む同じ緩衝剤50BVで洗った。次に、300mM NaCl(pH 7.4)、1% Triton X-100、および1M尿素を含む50BVの50mM tris-HClで洗った後、0.1% Triton X-100および0.1M尿素を含む同じ緩衝剤50BVで洗った。最後に、200BVの水で洗った後、タンパク質を50mM β-メルカプトエタノール水溶液10mlで溶出した。サンプルを濃縮し、gel-LC(液体クロマトグラフィー)-MS/MS分析で分析した。最後に水で洗浄後のオンカラム消化については、カラムを10BVの0.1M重炭酸アンモニウムで洗った。結合したタンパク質を、室温の暗所で16時間、1BVの0.1Mアンモニウム中Trypsin Gold (1μg/ml)(Promega)を加えて消化することとした。次に、前記樹脂を300mM NaClを含む1M重炭酸アンモニウム40BVで洗った後、NaClを用いずに同じ緩衝剤40 volumesで洗った。カラムは40 volumesの0.1M重炭酸アンモニウムで洗った後、脱イオン水200 volumesで洗った。結合したペプチドを溶出するため、1BVの過ギ酸水(過ギ酸は、遮光したガラスバイアル中、振盪しながら、室温で60分以上、1%ギ酸および0.5%過酸化水素を反応させて合成する)を用い、30分間、室温でインキュベートした(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。溶出したペプチドは、1BVの脱イオン水で前記樹脂を洗って回収した。溶出液は-80℃で一晩保存した後、0.1%ギ酸300μlに凍結乾燥および再懸濁した。ペプチド再懸濁液を低保持チューブ(low-retention tubes、Axygen)に移し、高速真空により30μlに減量した。ペプチド懸濁液20μlを高速液体クロマトグラフィーバイアルに移し、LC-MS/MS解析用に提出した。
【0049】
ゲル内消化およびMS/MS解析条件の詳細は、すでに提供されている(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963; Keene et al.(2009) Proteomics 9:768-782)。以下の例外はあるが、説明するとおり、S-ニトロソシステインプロテオームを作成するMS後解析(表S1~S6)を行った。同じ臓器のタンパク質とマッチしなかったシステイン含有ペプチドを、他の臓器で独立して同定されたタンパク質とマッチさせた。
【0050】
細胞内局在性は、既存のUniProt annotation(www.uniprot.org)またはBaCelLo(gpcr.biocomp.unibo.it/bacello)による予測で決定した。最も重要な生体機能を同定する機能分析をUniProtおよびFatigo(www.fatigo.org)により行った。MS/MSの生データはwww.research.chop.edu/ tools/ msms/spectra.pdfに蓄積した。
【0051】
VLCAD活性アッセイ
VLCAD酵素活性は報告されているとおり評価した(Lehman et al.(1990) Anal.Biochem., 186:280-284)。簡単に述べると、フェリセニウムイオンをVLCADを介したパルミトイルCoA脱水素化の人工電子受容体として用いた。0.2% Triton X-100および0.1mM EDTAを含む100mMリン酸カリウム緩衝液(pH 7.2)に肝ホモジネート(最終濃度0.03μg/μl)または細胞可溶化物(最終濃度0.09μg/μl)を溶解し、150mMフェリセニウムイオンと混合し、パルミトイルCoA(前記アッセイの最終容積は130μlであった)を追加して前記反応を開始した。300nmでの時間の関数としてフェリセニウムの吸光度の低下が記録され、前記酵素の初期速度(V
o)は、時間0(パルミトイルCoAを追加した時間)から吸光度の総変化量の5%に対応する時間までの曲線の傾きから決定した。0.015~2mMの少なくとも9種類の濃度を、各動物でVLCADの見かけのV
maxおよびK
Mを実験的に決定するために用いた。実験データは、GraphPad Prismソフトウェアにおいて、ミカエリス―メンテン式の非線形回帰にあてはめた。酵素活性1単位は、室温で1分あたり1mmolのフェリセニウムイオンを還元する酵素量と定義される(300nmでε=4.3mM
-1cm
-1)(Izai et al.(1992) J. Biol.Chem., 267:1027-1033)。アッセイの特異性を試験する実験では、肝ホモジネートと抗VLCAD抗体10mgを20分間プレインキュベートした。UV光分解を利用してS-ニトロソシステインを除去する場合、前記肝ホモジネートは、氷上で10分間、従来のUVトランスイルミネーター下で照射した。肝ホモジネート(
図2H)および細胞可溶化物(
図4)のVLCADの比活性度は、それぞれ0.25および0.125mMのパルミトイルCoA存在下、測定した。
【0052】
S-ニトロシル化VLCAD分画を定量するため、前記タンパク質は有機水銀樹脂に捕捉した。広範に洗浄後、結合タンパク質を溶出し、抗VLCAD抗体でプローブした。広範に洗浄後、結合タンパク質を溶出し、抗VLCAD抗体でプローブした。
【0053】
肝組織像およびトリグリセリド濃度の定量
ホルマリン固定肝切片を製造業者の指示に従い、Trichrome Stain Kit(Sigma)で染色した。トリグリセリドはFolch法により肝臓から抽出した(Folch et al.(1957) J. Biol.Chem., 226:497-509)。血清および肝臓のトリグリセリド濃度は製造業者(Abcam)の指示に従い、トリグリセリド定量キットで定量した。
【0054】
脂肪酸β-酸化の測定
1mgのタンパク質懸濁液を、無脂肪酸ウシ血清アルブミン(2.5mg/ml)、2.5mMパルミチン酸、10mMカルニチン、および4mCiの9,10-3H-パルミトイルCoA(Biomedicals)を含む1mlのKrebs-Ringer重炭酸塩緩衝液に加えた。前記混合物を37℃の暗所で2時間振盪した後、9,10-3H-パルミトイルCoAおよび3H2OのFolch法による分離を行った(Folch et al.(1957) J. Biol.Chem., 226:497-509)。水相を回収し、10% TCAを加えてタンパク質を沈殿させた後、室温、8000gで10分間遠心分離した。残った放射性パルミトイルCoAは、AG 1-X8ギ酸塩樹脂(Life Science)を用いた強陰イオン交換クロマトグラフィーにより除去した。3H2Oを含む流出液を回収し、シンチレーション計数に用いた。各実験は、タンパク質を含まないサンプルのバックグラウンド測定と対で行った。バックグラウンド計数を分析サンプルに対応する各測定から差し引いた。
【0055】
C238A VLCAD変異型を生成する部位特異的突然変異誘発
QuikChange(登録商標)Lightning Site-Directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies)を利用し、VLCADをコードする相補的DNAに単一アミノ酸変異を導入した。アミノ酸238位でのシステインからアラニンへの変異は、テンプレートとして前記タンパク質のC末端領域で3つのFLAG(登録商標)タグに融合したマウスVLCADをコードするプラスミドのEx-Mm01013-M14(以下pVLCAD-3xFLAG(登録商標)とする)により作成した。フォワードプライマー5′-TCAGCCATACCCAGCCCCGCTGGAAAATATTACACTCTC-3′(配列ID番号:1)およびリバースプライマー5′-GAGAGTGTAATATTTTCCAGCGGGGCTGGGTATGGCTGA-3′(配列ID番号:2)を用い、pVLCAD-3xFLAG(登録商標)のアラニンコドンをシステインコドンに置換することで、pVLCAD-C238A-3xFLAG(登録商標)を作成した。pVLCAD-3xFLAG(登録商標)およびpVLCAD-C238A-3xFLAG(登録商標)両方の配列をその後の実験で使用する前に確認した。
【0056】
細胞培養、形質移入、およびGSNO投与
Hepa 1~6細胞を、10%ウシ胎仔血清、2mMグルタミン、ペニシリン(100U/ml)、およびストレプトマイシン(100ng/ml)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)において、5% CO2を含む空気中、37℃で増殖した。細胞を5×104細胞/cm2の密度で播種し、24時間通常の条件で培養した。細胞は、製造業者が提供したプロトコールに従い、Lipofectamine(登録商標)2000試薬(Life Technologies)を用いて、FLAG(登録商標)標識野生型VLCADまたはFLAG(登録商標)標識C238A VLCADを形質移入した。形質移入後48時間で、増殖培地を無血清DMEMと置換し、新たに調製したGSNO 250mMを30分かけて追加した後、細胞をPBSで広範に洗浄した。細胞可溶化物はGSNO除去後直ちに、または60、120、および240分後に採取した。サンプルはUV光照射から遮光した。可溶化物のタンパク質濃度を測定し、1サンプルごとに等量のタンパク質を使用して有機水銀により捕獲した。
【0057】
S-ニトロシル化システインの構造作成と通常モードの解析
ヒトVLCADの結晶構造をPDB(ID 2UXW)からダウンロードした。異常または欠落した残基をPyMol(www.pymol.org)の変異原性ツールで完成させた。S-ニトロソシステインは、Molecular Modeling Toolkitにおいて、Timerghazin laboratoryの"S-nitrosator" Pythonスクリプトを用いて作成した。S-nitrosatorでは、チオレドキシンの座標と、ヘリックス中のS-ニトロソシステイン残基のPCM-ONIOM(PBE0/def2-TZVPPD:AmberFF)計算から計算したχ3値を使用した。ElNemo(Suhre et al.(2004) Nucleic Acids Res., 32:W610-W614)を使用し、100種類の最低周波数モードを観察し、最初の5種類の非自明なVLCADモード用に摂動モデルを作成した。残基の平均二乗変位(r2)を利用し、タンパク質の動きを同定した。
【0058】
統計解析
データはGraphPad Prism 5.0dソフトウェアにより解析した。正規分布データはすべて平均±SDとして表示した。群は一元分散分析により解析した。
【0059】
結果
マウスS-ニトロソシステインプロテオーム
野生型マウス脳、心臓、腎臓、肝臓、肺、および胸腺では、1011個のS-ニトロソシステイン含有ペプチドが647種類のタンパク質で同定された。広範な文献検索からは、この拡大S-ニトロソシステインプロテオームにより、生理的状態で修飾されることが事前に報告されている46タンパク質およびこれまで未知であったが、明らかになった内因性S-ニトロシル化部位971ヵ所が同定されたことが示された。6種類の臓器すべてで、S-ニトロシル化部位の数がタンパク質の数を超え、in vivoにおけるタンパク質機能制御におけるポリ-S-ニトロシル化の潜在的役割を示している(Simon et al.(1996) Proc.Natl.Acad.Sci., 93:4736-4741)。各臓器で少なくとも3回生物学的に再現した6種類の臓器で同定されたタンパク質の比較から、平均72%のタンパク質が1つ以上の臓器で同定され、同じパターンのS-ニトロシル化がin vivoで全体的機能を果たしていることを示している。さらに、これらのデータは、これらのプロテオームの獲得に用いた方法が正確で再現性があることを示した。1臓器のみで同定されたタンパク質は21~46%であり、S-ニトロシル化も臓器特異的役割を果たす可能性があることを示している。in vivoにおけるS-ニトロシル化部位のeNOSにより生成する一酸化窒素への依存性は、同臓器でeNOSヌルマウス(eNOS-/-)の内因性修飾部位を分析することで検討した。同定されたタンパク質の47~87%のS-ニトロシル化でeNOSの存在が必要であるため、eNOSは実質的に内因性S-ニトロソシステインに関与した。脳および心臓は他の臓器と比較してeNOS活性への依存性が最も低く、これらの臓器のタンパク質をS-ニトロシル化するニューロンの一酸化窒素合成酵素など、他のイソ型の関与を示している。eNOS-/-マウス臓器のS-ニトロソシステインペプチドはかなりの数が不足していることが、このS-ニトロソシステインプロテオームの同定法の正確さを強調した。
【0060】
S-ニトロソプロテオームの細胞内局在性の概要から、全マウスプロテオームと比較し、細胞質およびミトコンドリアタンパク質が組織規模で有意に濃縮していることが明らかとなった。細胞膜および核のタンパク質のS-ニトロシル化部位は過少発現であった。組織ホモジネーション法は膜タンパク質の抽出が最適化されていなかったため、膜タンパク質の過少発現は方法論的問題を反映している可能性がある。タンパク質のS-ニトロシル化は核でも起こり、核タンパク質の追加部位の発見はシグナル伝達および転写制御のS-ニトロシル化の潜在的重要性を強調している(Kornberg et al.(2010) Nat. Cell Biol., 12:1094-1100)。脳、腎臓、肝臓、肺、および胸腺のS-ニトロソプロテオームの20%~25%はミトコンドリアタンパク質から成るが、修飾タンパク質の56%はマウス心臓のミトコンドリアに限局していた。ミトコンドリアプロテオームは、心臓を除き、70%以上がeNOS活性に依存したが、S-ニトロシル化にeMPS由来一酸化窒素が必要であったプロテオームは36%のみである。心臓ミトコンドリアでS-ニトロシル化のeNOS活性依存性が低いことは、別の機能的NOSイソ型があることを示している。S-ニトロソプロテオームの機能分類から、S-ニトロシル化酵素が中心的役割を果たしている重要な代謝経路が明らかとなった。解糖、糖新生、ピルビン酸塩代謝、トリカルボン酸(TCA)サイクル、酸化的リン酸化、アミノ酸代謝、ケトン体形成、および脂肪酸代謝経路を制御するかなりの数の酵素がS-ニトロシル化されることが分かり、そのほとんどがeNOS-/-マウスでS-ニトロシル化されているとして同定された。この所見は、前記eNOSヌルマウスが代謝活性に障害があることを示した報告と一致する(Schild et al.(2008) Biochim.Biophys.Acta, 1782:180-187; Mohan et al.(2008) Lab.Invest., 88:515-528)。したがって、タンパク質のS-ニトロシル化はeNOS活性と代謝制御を関連付ける機構的関連性を示すと考えられる。
【0061】
S-ニトロシル化による超長鎖アシルCoA脱水素酵素の酵素活性の制御
脂肪酸代謝に関与するタンパク質のクラスター形成は、この解析で明らかであった。マウス肝臓では、S-ニトロシル化タンパク質が肝臓の反応からホルモンレプチンまでを含むネットワークでクラスター形成される(Doulias et al.(2010) Proc.Natl.Acad.Sci., 107:16958-16963)。ここでは、脂肪酸β酸化の律速段階を触媒する超長鎖アシル-補酵素A(CoA)脱水素酵素(VLCAD)は野生型マウス肝臓でS-ニトロシル化されるが、レプチン欠乏マウス(ob/ob)またはeNOS
-/-マウスの肝臓ではS-ニトロシル化されないことが分かった(
図1)。S-ニトロシル化が、重要な代謝器官である肝臓のVLCAD活性および脂肪酸代謝に与える生物学的効果が検討された。
【0062】
レプチン欠乏マウスは通常の固形飼料で生後4~5週間から自然に脂肪肝を発症し、その特徴は、パルミチン酸塩酸化速度の低下と肝細胞内のトリグリセリドの形態での脂肪滴の蓄積である(Brix et al.(2002) Mol.Genet.Metab., 75:219-226; de Oliveira et al.(2008) J. Am. Coll.Nutr., 27:299-305)。ob/obマウス肝ホモジネートの
3H標識パルミトイルCoA酸化率は、野生型マウスの酸化率の47%であった(
図2A)。この重大なパルミチル-CoA酸化率の低下は、脂肪酸のミトコンドリアβ酸化が欠乏していることを示している。S-ニトロソ-N-アセチルシステインの送達によるob/obマウスの脂肪肝回復を示した所見に基づき(de Oliveira et al.(2008) J. Am. Coll.Nutr., 27:299-305)、5週齢のob/obマウスにS-ニトロソグルタチオン(GSNO)を腹腔内注射した。この薬物は、細胞透過性が限られているにもかかわらず、S-ニトロシル化によりタンパク質を修飾する細胞モデルで広範に使用されているため、GSNOを用い一酸化窒素を送達した(Hara et al.(2005) Nat. Cell Biol., 7:665-674; Chung et al.(2004) Science 304:1328-1331)。GSNO注入ob/obマウスは野生型マウスと同等のパルミトイルCoA酸化率を示し、リン酸緩衝食塩水(PBS)を注入したob/obマウスよりも酸化率が有意に上昇した(
図2A)。さらに、GSNO注入ob/obマウスのパルミトイルCoA酸化の回復は、肝トリグリセリド濃度の有意な低下と関連していた。ob/obマウスの肝トリグリセリド濃度は野生型マウスよりも有意に高く、ob/obマウスへのGSNO投与は前記肝トリグリセリド濃度を有意に低下させた(
図2B)。野生型マウス、PBS投与ob/obマウス、およびGSNO投与ob/obマウスの血清トリグリセリド濃度は同等であった(
図2C)。GSNO注入ob/obマウスのパルミトイルCoA酸化の回復は、肝切片の組織学的評価からも実証され、PBS注入ob/obマウスよりもGSNO注入ob/obマウスで脂肪沈着が少ないことを示した(
図2G)。
【0063】
MS/MS解析では、野生型およびGSNO注入ob/obマウスの両方で、Cys238へのVLCAD修飾部位を特定した(
図1Aおよび1B)。VLCADはeNOS
-/-マウスではS-ニトロシル化により修飾されないが、ex vivoでは、肝ホモジネートをGSNO処理することで、システイン残基Cys238で容易に修飾されることも確認された(
図2Hおよび2I)。
【0064】
VLCADのS-ニトロシル化は、GSNO処理ob/obマウス肝臓のパルミトイルCoAのアシル脱水素酵素による酸化増加と関連していた(
図2D、2J、および2K)。この増加はUV光分解に対して感受性が高く、抗VLCAD特異的抗体を組み込むことで消失した。ミカエリス―メンテン動態の解析から(
図2D)、VLCADのV
maxは野生型、PBS注入、およびGSNO注入ob/obマウスで同等であることが明らかとなった(
図2E)。しかし、PBS注入ob/obマウスホモジネートの見かけのミカエリス定数(K
M)値は、野生型マウスおよびGSNO注入ob/obマウスの5倍以上高かった(
図2F)。VLCAD酵素活性のK
Mも、ex vivoでは非処理eNOS
-/-肝ホモジネートと比較し、GSNO処理したeNOS
-/-肝ホモジネートで5倍上昇した(
図2H)。肝ホモジネートおよび濃縮ミトコンドリア製剤でVLCADタンパク質存在量を定量化し、野生型、PBS注入、およびGSNO注入ob/obマウスで存在量に差はないことが示された(
図3Aおよび3B)。さらに、天然ゲル電気泳動から、3群のマウスすべてでミトコンドリア分画のVLCADダイマーの存在量が同等であることが明らかとなった(
図3A、上図)。したがって、これらのデータはS-ニトロシル化によりVLCADのK
Mが低下することを示している。
【0065】
S-ニトロシル化VLCAD分画の定量は、GSNO処理マウスでは肝臓VLCAD分子の25±3%がS-ニトロシル化されたことを示していた。これらの所見から、MS/MS解析が野生型およびGSNO処理マウスの肝臓ではVLCADのS-ニトロシル化を示すが、PBS処理ob/obマウスではS-ニトロシル化を示さないことが確認される。VLCADタンパク質の濃度はPBSおよびGSNO処理ob/obマウスで同等であったため、平均すると、定常状態でのS-ニトロシル化VLCADの存在量は総タンパク質の25%であり、S-ニトロシル化がVLCADの触媒効率(kcat/KM)を非修飾タンパク質と比較して29倍上昇させることができる(Koshland, D.E.(2002) Bioorg.Chem., 30:211-213)。この触媒効率の実質的な上昇により、ob/obマウス肝臓の脂肪酸を効率的に除去することができる。
【0066】
VLCADのS-ニトロシル化の機能的結果の追加根拠は、一過性に野生型VLCADまたはS-ニトロシル化することができない点変異(C238A)を発現したマウス肝細胞で得られた。GSNO処理により、野生型VLCADの27±3%がS-ニトロシル化し(
図4A)、これはVLCAD特異的活性の5倍の上昇と一致していた(
図4B)。同じ実験条件で、C238A VLCAD変異体はS-ニトロシル化されておらず、その定常活性はGSNO処理に反応して変化しなかった(
図4Aおよび4B)。前記培地からGSNOを除去し、広範に洗浄を行った時点で、S-ニトロシル化VLCADの存在量および酵素特異的活性は経時的に低下した(
図4Aおよび4B)。これらのデータは、VLCADのCys
238でのS-ニトロシル化がその酵素活性の制御に必要であり、このプロセスは可逆的で脱ニトロシル化により制御されている可能性があることを示している。
【0067】
分子力学シミュレーションを利用し、VLCAD構造に対するS-ニトロシル化の効果に洞察を得た。最初に量子力学/分子力学計算を利用し、VLCADのタンパク質構造内の238位にS-ニトロソシステイン残基を作成した[ProteinDataBank(PDB) ID2UXW](
図5A)。タンパク質の大規模な全体的または集団運動を示す最低周波数の通常モードの検査では、S-ニトロシル化が大きな構造変化を誘導したことは示さなかった。結合部位付近で起こりうる、より小さな局所的運動を検討する高周波数モードの検査では、Cys238のS-ニトロシル化に反応した原子の動きに差があることが明らかとなった(
図5B)。ループのCys238残基およびループは、一般にタンパク質の可動部を示す。したがって、このデータは、S-ニトロシル化がループの可動性を高め、タンパク質の運動が高まり、これが基質の結合を促し、それによってVLCADのK
Mを低下させることを示している。Cys
238は基質結合部位から30Å以上あり、より長い範囲での運動が酵素の基質結合力に影響する可能性があることを示している。
【0068】
システインのS-ニトロシル化は、生理的および病的条件でタンパク質活性、タンパク質-タンパク質相互作用、および細胞内局在性を調節する、一酸化窒素由来の翻訳後修飾である(Stamler et al.(2001) Cell 106:675-683; Hess et al.(2005) Nat. Rev. Mol.Cell Biol., 6:150-166; Benhar et al.(2008) Science 320:1050-1054; Jaffrey et al.(2001) Nat. Cell Biol., 3:193-197; Kornberg et al.(2010) Nat. Cell Biol., 12:1094-1100; Matsushita et al.(2003) Cell 115:139-150; Mitchell et al.(2005) Nat. Chem.Biol., 1:154-158; Cho et al.(2009) Science 324:102-105; Mannick et al.(2001) J. Cell Biol., 154:1111-1116)。野生型マウス組織のS-ニトロソシステイン残基の部位特異的マッピングを応用し、代謝経路に関するタンパク質の広範な修飾およびミトコンドリアの修飾タンパク質の大幅な局在化を同定した。この選択的局在化は、ミトコンドリアの生態(Brown et al.(1994) FEBS Lett., 356:295-298; Kobzik et al.(1995) Biochem.Biophys.Res.Commun., 211:375-381; Nisoli et al.(2005) Science 310:314-317)、特に心臓における一酸化窒素の機能的役割を示したいくつかの報告と一致しており、タンパク質のS-ニトロシル化が虚血-再潅流傷害から心臓を保護する(Prime et al.(2009) Proc.Natl.Acad.Sci., 106:10764-10769; Lima et al.(2009) Proc.Natl.Acad.Sci., 106:6297-6302; Kohr et al.(2012) Circ.Res., 111:1308-1312)。特に心臓への一酸化窒素ドナーの送達は、ミトコンドリアS-ニトロシル化タンパク質の全体的存在量を増加させ、虚血傷害から保護する(Prime et al.(2009) Proc.Natl.Acad.Sci., 106:10764-10769; Lima et al.(2009) Proc.Natl.Acad.Sci., 106:6297-6302; Kohr et al.(2012) Circ.Res., 111:1308-1312)。これらのミトコンドリアおよび代謝の機能調節における一酸化窒素の重要な生物学的寄与にもかかわらず、ミトコンドリアS-ニトロシル化タンパク質の同定は限られている。6種類のマウス組織でミトコンドリアタンパク質の特異的S-ニトロシル化部位を同定したことで、生体エネルギーおよび代謝の一酸化窒素を介した制御の分子的および生化学的経路を明らかにする機構的研究を促す実質的な進歩が起こっている。他の翻訳後修飾と同様、S-ニトロシル化は動態プロセスであり、この翻訳後修飾を逆転させるいくつかの経路が報告されている(Benhar et al.(2008) Science 320:1050-1054)。したがって、最新のS-ニトロソシステインプロテオームは、通常の生理的条件下で内因的に修飾されたタンパク質の一部であってもよい。
【0069】
in vivoでS-ニトロシル化の生物的役割を調査するため、身体の重要代謝器官である肝臓の脂肪酸代謝が研究された。食事、脂肪組織、およびデノボ脂質生合成が主な肝臓の脂肪酸供給源である。肝臓の脂肪酸の考えられる経路はトリグリセリドへのエステル化などであり、保存されるか、または超低密度リポタンパク質粒子の一部として排出されるため、アポリポタンパク質B-100とパッキングされる可能性がある。脂肪酸はリン脂質に変換することもでき、またはβ酸化を受けるミトコンドリアに輸送するため、アシル―カルニチンに変換することもできる(Cohen et al.(2011) Science 332:1519-1523)。脂肪酸の流入を増加する、または排出または代謝を抑制するすべてのプロセスが、脂肪肝の発症に寄与する可能性がある(Cohen et al.(2011) Science 332:1519-1523)。β酸化は4段階の酵素サイクルであり、前記サイクル1回転ごとに2炭素原子ずつ脂肪酸の長さが短くなり、これは脂肪酸が効率的に利用されるために重要である。VLCADはβ酸化の最初の段階を触媒し、ヒト肝臓のパルミチン酸脱水素酵素活性の約80%およびマウス肝臓のパルミチン酸酸化の約70%の原因である(Aoyama et al.(1995) J. Clin.Invest., 95:2465-2473; Djordjevic et al.(1994) Biochemistry 33:4258-4264; Strauss et al.(1995) Proc.Natl.Acad.Sci., 92:10496-10500)。VLCADは67kDのサブユニットから成るホモダイマーであり、ミトコンドリア内膜に埋め込まれている(Aoyama et al.(1995) J. Clin.Invest., 95:2465-2473; Djordjevic et al.(1994) Biochemistry 33:4258-4264; Strauss et al.(1995) Proc.Natl.Acad.Sci., 92:10496-10500)。VLCADの酵素活性はタンパク質の存在量とSer586のリン酸化で制御されると考えられている(Kabuyama et al.(2010) Am. J. Physiol.Cell Physiol., 298:C107-C113)。以上に示したデータは、eNOS由来一酸化窒素によるVLCADのCys238でのS-ニトロシル化により、前記酵素のKMを変化させ、脂肪酸のin vivo β酸化に実質的に影響を与えることができる構造変化により、酵素活性を可逆的に活性化することを示している。全体として、マウス組織のS-ニトロシル化タンパク質の全体的解析から、この翻訳後修飾が細胞の代謝プロセスおよびミトコンドリア機能に大きな影響を与える可能性があることが明らかとなった。
【実施例2】
【0070】
一酸化窒素(NO)は正常状態および病的状態でミトコンドリアの代謝を制御する。一酸化窒素がその制御効果を発揮するメカニズムの1つは、タンパク質のシステイン残基のS-ニトロシル化である。以上に示すとおり、VLCAD分子の25%はin vivoでシステイン238がS-ニトロシル化されている(マウスモデル)。S-ニトロシル化はVLCADの見かけのKmを非修飾酵素と比較して5倍低下させ、触媒効率を29倍向上させる。ヒト疾患の特徴(低VLCAD活性、低β酸化率、肝臓のトリグリセリド蓄積)を模倣した動物モデルでは、VLCADのS-ニトロシル化が酵素活性を回復させ、β酸化率を正常化し、脂肪肝の表現型を抑制した。これらの結果に基づき、ミスセンスヒトVLCADのS-ニトロシル化はその触媒効率を改善し、疾患の転帰に良好な影響を与える。
【0071】
この結論を検証するため、病的VLCAD変異を有するヒト線維芽細胞株4種を使用した(表1)。細胞は30分間、100μM N-アセチルシステインまたはS-ニトロソ-N-アセチル-システイン(SNO-NAC)に曝露し、VLCADのS-ニトロシル化状態は以上に示すとおり、有機水銀補助捕捉および質量分析により決定した。細胞株1および2の可溶化物を用い、VLCADはSNO-NAC処理後システイン237(ヒトVLCADでは1つ少ないアミノ酸)で修飾されたと判断された。VLCADの酵素活性は、前記酵素の基質としてパルミトイルCoA存在下、フェロセニウム還元をモニタリングすることで細胞可溶化物において評価した。
図6は、細胞株1および2のミカエリス-メンテントレースを示し、VLCADのS-ニトロシル化がK
mに顕著な影響を与え(非修飾酵素と比較して14倍低い)、それよりも程度は少ないがV
maxに影響を与えることを示している。
【0072】
【0073】
詳細な動態解析は他の変異型および野生型VLCADについても行った(表2)。対照細胞と比較し、NAC処理したVLCAD欠乏線維芽細胞では、ミトコンドリア脂肪酸酸化(mFAO)能とVLCAD活性が低いことが報告された。表2では、時間0から初期吸光度の5%消失に対応する時間までの傾きを計算し、反応曲線の直線部分で初期速度(Vo)を決定した。KmとVmaxの決定では、0.015~2mMの範囲でパルミトイルCoAの濃度10種類を用いた。mFAO率は、3H-パルミチン酸塩をインキュベートした細胞の培地に放出された3H2Oを定量することで決定した。この表は、2種類の実験の平均値を示している。2つの値に10%以上の差はない。
【0074】
すべてのケースで、タンパク質は典型的なミカエリス―メンテンの動態に従っている。すべての変異は野生型VLCADの対応する活性よりもはるかに低い定常活性であった。その見かけのミカエリス定数(Km)は野生型タンパク質のKmより7~14倍高かったが、見かけのVmaxは15~50%低いか、野生型VLCADの2倍であった。重要なことに、変異型VLCADのS-ニトロシル化により、見かけのKmは7~14倍低下した(平均で11倍の低下)。さらに、変異型VLCADのS-ニトロシル化によりVmaxはわずかに低下した。全体として、このデータは、VLCADのシステイン237でのS-ニトロシル化は、Kmを低下させることで変異型VLCADの酵素欠乏を補正することを示している。つまり、S-ニトロソ-N-アセチルシステイン(SNAC)の投与により見かけのKMの正常値で反映されるVLCAD酵素活性が上昇し、VLCAD欠乏細胞のmFAO能力が回復した。
【0075】
【0076】
さらに、水銀樹脂補助捕捉(MRC)技術後、質量分析による検出を利用し、SNO-NAC処理によりシステイン237がS-ニトロシル化されたことを確認した。具体的には、MS/MSスペクトルから、SNAC処理VLCAD欠乏細胞の細胞ホモジネートのみで、ヒトVLCADの配列231~247に対応する両荷電ペプチドTSAVPSC237GKYYTLNGSK(配列ID番号:4)があることが明らかとなった。特に、VLCADの他の修飾は検出されなかった。これらのデータは、VLCADのS-ニトロシル化が他の変異存在下で触媒効率を上昇させたことを証明し、タンパク質のS-ニトロシル化がVCLAD酵素欠損症を補正することを示している。
【実施例3】
【0077】
野生型マウスと比較して血清および心臓の生物活性窒素種レベルが低下したマウス(eNOS
-/-)で実験を行った(
図7Aおよび7B)。eNOS
-/-マウスは野生型マウスと比較して心筋のmFAO率低下を示した(
図7C)。この所見は、eNOS
-/-マウスの肝臓および骨格筋でmFAO活性の低下を報告した事前研究と一致し、eNOS由来NOが全身のmFAO活性に影響することを証明している。心臓VLCADタンパク質の存在量はeNOSヌルマウスおよび野生型マウスで同等であった(それぞれ4.3±0.1μg/mgと4.2±0.3μg/mg、両遺伝子型ともN=3)。しかし、比活性度は野生型マウスと比較し、eNOS
-/-マウスで3倍以上低かった(
図7D)。VLCAD分子の19±2%は野生型の心臓では内因的にS-ニトロシル化されていると判断された。これらのデータは、eNOS由来NOが心臓VLCADの内因性S-ニトロシル化に必要であり、S-ニトロシル化されていないと、前記酵素活性は有意に低く、S-ニトロシル化のプラスの制御作用を示しているという根拠を提供する。
【0078】
0.1mMの濃度の亜硝酸ナトリウムを飲用水に入れ、10日間eNOS
-/-マウスに投与した。NaNO
2投与マウスは非投与eNOS
-/-マウスと比較し血清および心臓の一酸化窒素レベルが上昇し(
図7Aおよび7B)、野生型マウスと比較して同等であることを示した(
図7Aおよび7B)。心臓mFAO率は対照マウスで正常化した(
図7C)。VLCADタンパク質の存在量は、非投与eNOS
-/-マウスおよび野生型マウスと比較して差はなかった(4.1±0.3μg/mg、N=3)。重要なことに、非投与の対照と比較し、NaNO
2投与マウスではVLCAD比活性度が4倍以上の増加することが報告された(
図7D)。酵素活性の上昇はVLCADのS-ニトロシル化回復と関連していた。まとめると、このデータは以下の点を示している:(i)VLCADは野生型の心臓では内因的にS-ニトロシル化され、この翻訳後修飾は酵素活性を制御する、(ii)亜硝酸ナトリウムはin vivoでVLCADのS-ニトロシル化を効率的に回復する、(iii)VLCADのS-ニトロシル化はin vivoで酵素活性を上昇させ、心筋のmFAO活性の正常化に寄与する。
【実施例4】
【0079】
非疾患対照ヒト線維芽細胞に2-一硝酸-1,3-ジヘプタノイン(MNDH)または対照として使用するトリヘプタノイン(TH)を曝露した。
図9Aは、MNDH存在下でパルミチン酸塩酸化の濃度依存的増加を示しているが、TH対照ではこのような関係は示されない。
図9Bは、MNDH存在下でのVLCAD比活性度の濃度依存的増加を示す。
【0080】
MNDHおよびTHの毒性も研究した。特に、3-一硝酸-1,3-ジヘプタノイン(MNDH)またはトリヘプタノイン(TH)に4、8、または12時間曝露後24時間では、生細胞数は非投与対照と同じである。さらに、タンパク質レベルは対照と比較し、MNDHまたはTHに24時間曝露後も同じであった。したがって、MNDHとTHに毒性はなかった。
【0081】
ヒト線維芽細胞におけるMNDHの代謝も研究した。
図10Aは、全一酸化窒素代謝産物(NOm)レベルが100μMのMNDHに曝露後最初の6時間は上昇し、その後低下したことを示している。THはNO代謝産物レベルを上昇させない。
図10Bは、MNDHに曝露後、細胞の亜硝酸塩レベルは経時的に上昇することを示している。したがって、総NO代謝産物の減少はMNDHの代謝を反映している可能性がある。
図10Cは、MNDH曝露後の総タンパク質S-ニトロソシステインレベルも上昇したことを示す。このレベルは時間とともに低下したため、タンパク質S-ニトロシル化の代謝回転を示している。TH処理細胞のS-ニトロシル化タンパク質レベルは10pmole/mgタンパク質未満であった。
【0082】
図11Aは、ダイジンを1時間前投与することによるミトコンドリアアルデヒド脱水素酵素2の阻害がMNDHの代謝を阻害することを示している。前記阻害剤は前記活性化合物をインキュベーション中に存在していた。
図11Bは、KI/I2の低下により測定されるMNDHにより発生する亜硝酸塩を示しており、1時間ダイジンを前投与することでMNDHの代謝が抑制されることを示している。
【0083】
MNDHによるVLCADのS-ニトロシル化についても確認した。
図11Cは、MNDHのTHに細胞を曝露後のS-ニトロシル化VLCADの選択的捕捉について示している。重要なことに、
図11CはVLCAD分子の約50%がMNDHの存在下で修飾されたが、TH存在下では修飾されなかったことを示している。システイン237のS-ニトロシル化は、ペプチド消化およびMS/MS解析により確認された。
【0084】
G185S/G294E VLCAD変異を有する線維芽細胞にBSA結合TH(対照)またはMNDH(活性)100μMを4時間処理した。
図12Aに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、変異型VLCAD比活性度は40倍増加した。さらに、
図12Bに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、mFAO率は16倍増加した。
図12Cに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、VLCAD、三官能性タンパク質(TFP)、およびカルニチン・パルミトイルトランスフェラーゼ-2(CPT2)のS-ニトロシル化が得られた。
【0085】
P91Q/G193R VLCAD変異を有する線維芽細胞にBSA結合TH(対照)またはMNDH(活性)100μMを4時間処理した。
図13Aに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、変異型VLCAD比活性度は75倍増加した。さらに、
図13Bに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、mFAO率は28倍増加した。
図13Cに見られるとおり、MNDHに曝露しているが、THに曝露していない場合、VLCAD、三官能性タンパク質(TFP)、およびカルニチン・パルミトイルトランスフェラーゼ-2(CPT2)のS-ニトロシル化が得られた。
【0086】
本発明の特定の好適な実施形態が説明され、具体的に上記に例示されているが、本発明はそのような実施形態に限定されることは意図していない。以下の請求項に示されるとおり、本発明の範囲および精神から離れずに、様々な変形形態が可能である。