(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】酸素製造装置の稼動方法
(51)【国際特許分類】
F25J 3/04 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
F25J3/04 102
F25J3/04 C
(21)【出願番号】P 2015159890
(22)【出願日】2015-08-13
【審査請求日】2018-03-28
【審判番号】
【審判請求日】2020-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】500483219
【氏名又は名称】パンパシフィック・カッパー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】菅 雄祐
(72)【発明者】
【氏名】土屋 隆弘
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】三崎 仁
【審判官】金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-073286(JP,A)
【文献】特開平08-218128(JP,A)
【文献】特開平07-139873(JP,A)
【文献】特開2003-014373(JP,A)
【文献】特開2002-168561(JP,A)
【文献】米国特許第2788646(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25J1/00-5/00, C22B15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温停止した酸素製造装置の稼動方法であって、
冷却によって液体酸素を生成するための深冷分離式酸素製造装置の蒸留塔の主凝縮部に外部から液体酸素を前記主凝縮部の容積の45%~58%になるまで供給することによって、前記主凝縮部を冷却することを特徴とする酸素製造装置の稼動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素製造装置の稼動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工業レベルでの酸素の製造は、空気を加圧冷却することで液化し、沸点の違いを利用して酸素のみを取り出すことにより達成されている。例えば、空気ろ過装置にて除塵された空気は、原料空気圧縮機にて0.4~0.5MPaまで昇圧され、水洗冷却後に二酸化炭素と水蒸気が除去される。その後、酸素の沸点が-183℃、窒素の沸点が-196℃であることを利用し、断熱膨張により液化された空気から、蒸留分離によって窒素を気体として除去し、酸素を液体として取り出す。本方法は深冷分離式と呼ばれる(例えば、特許文献1参照)。深冷分離式で得られる酸素の純度は90体積%前後である。
【0003】
銅製錬自熔炉において、単位時間当たりの硫化銅精鉱処理量を増加させる際に重要なことは未反応精鉱を極力抑えることである。そのためには、炉内温度を維持し、精鉱中の硫黄分を完全に酸化することが要求される。この要求を満たすには、供給酸素量を増やせばよい。熱は硫黄の燃焼で供給され、硫黄に対して十分な酸素があれば精鉱は十分に反応するからである。
【0004】
硫化銅精鉱と同時に自熔炉に添加する空気の絶対量は、少ないほど良い。空気の量が多いと炉内温度が低下すること、自熔炉排出ガスから硫酸を製造する際に二酸化硫黄濃度が高い方が良いこと、窒素酸化物をなるべく生成させないことなどがその理由である。
【0005】
以上の要求から、深冷分離式で得られるような純度90体積%程度の酸素は、銅製錬の熔錬工程に必要である。逆に、これ以上純度の高い酸素は、酸素製造コスト上昇を招く。そのため、多くの銅製錬所では、大容量深冷分離式酸素製造装置が設置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸素製造装置は、定期的にメンテナンスを行うことが必要である。また、銅製錬工程などの、製造される酸素を使用する設備が定期修繕等で長期にわたって休停止する場合は、酸素製造装置の稼働も停止する。
【0008】
一度、酸素製造装置を停止した場合は、まず装置内部の液体酸素が放出される。次に外気の吸い込みによる凍結防止のために加温用乾燥空気を流して温度を外気近くまで上昇させる。そして再び稼働状態に戻す際には、再度極低温の-180℃程度まで冷却する必要が生じる。
【0009】
この温度まで再び冷却して装置を稼働状態に戻すには、装置の規模にもよるが48時間以上要する。外部空気を徐々に取り込み圧縮・冷却するのであるから、電力の消費量も大きい。この時間を短縮する適当な方法は知られていない。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑み、酸素製造装置の稼動に要する時間を短縮することができる、酸素製造装置の稼動方法を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る酸素製造装置の稼動方法は、常温停止した酸素製造装置の稼動方法であって、冷却によって液体酸素を生成するための深冷分離式酸素製造装置の蒸留塔の主凝縮部に外部から液体酸素を前記主凝縮部の容積の45%~58%になるまで供給することによって、前記主凝縮部を冷却することを特徴とする。前記酸素製造装置は、酸素製造能力が20000Nm3/h以上としてもよい。前記主凝縮部に供給される液体酸素は、純度90体積%以上としてもよい。前記主凝縮部で生成された酸素を硫化銅精鉱と共に自熔炉に供給してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸素製造装置の稼動に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施形態に係る稼動方法が対象とする酸素製造装置を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための実施形態について説明する。
【0015】
(実施形態)
図1は、本実施形態に係る稼動方法が対象とする酸素製造装置100を例示する概略図である。
図1で例示するように、酸素製造装置100は、複数の空気圧縮機10a,10b、水洗冷却塔20、複数の吸着塔30a,30b、熱交換器40、蒸留塔50、膨張タービン60、LO(Liquid Oxygen:液体酸素)分離器70などを備える。蒸留塔50は、断熱された保冷槽80内に配置されている。本実施形態においては、熱交換器40およびLO分離器70も、保冷槽80内に配置されている。蒸留塔50は、下塔51、上塔52、および主凝縮器53を備える。
【0016】
空気圧縮機10a,10bは、空気ろ過装置などによって除塵された空気を圧縮する圧縮装置である。空気圧縮機の数は特に限定されるわけではないが、本実施形態においては、一例として2つの空気圧縮機が設けられている。例えば、空気圧縮機10a,10bは、空気を0.4MPa~0.5MPa程度まで昇圧する。空気圧縮機10a,10bによって得られた圧縮空気は、水洗冷却塔20に供給される。
【0017】
水洗冷却塔20では、圧縮空気が水洗され、水洗によって冷却される。それにより、空気圧縮機10a,10bで生じる圧縮熱が除去される。水洗・冷却後の圧縮空気は、吸着塔30a,30bのいずれかに供給される。圧縮空気の供給先は、バルブなどによって制御することができる。吸着塔30a,30bは、圧縮空気中の水蒸気、二酸化炭素などを吸着によって除去する。それにより、精製空気が得られる。吸着塔30a,30bのうち圧縮空気が供給されていない方には、加熱ガスなどの再生ガスが供給される。それにより、吸着能力を再生することができる。
【0018】
吸着塔30a,30bによって得られた精製空気の一部は、熱交換器40に供給される。熱交換器40は、例えば断熱保冷されたアルミプレートなどであり、精製空気と、LO分離器70から供給される酸素ガスとの間で熱交換を行うことによって、精製空気を飽和温度付近まで冷却する。熱交換器40によって冷却された精製空気は、下塔51に供給される。
【0019】
膨張タービン60は、寒冷発生用のタービンである。膨張タービン60は、熱交換器40に供給されなかった精製空気を断熱膨張させることによって精製空気を冷却する。冷却された精製空気は、上塔52に供給される。膨張タービン60は、侵入熱などに起因する熱交換器の熱損失を補償するための寒冷発生源として機能する。
【0020】
蒸留塔50は、冷却によって液体酸素を生成するための液体酸素生成容器としての機能を有する。下塔51は、上塔52よりも高い内部圧力を有する高圧塔である。下塔51では、蒸留によって窒素ガスと、酸素濃度約40%(volume)の酸素富化液体空気とに分離する。酸素富化液体空気は、上塔52に供給される。上塔52は、下塔51よりも低い内部圧力を有する低圧塔である。上塔52では、酸素富化液体空気が、窒素ガスと液体酸素とに分離する。
【0021】
なお、上塔52の底部および下塔51の頂部は、主凝縮器53によって熱的に接続されている。主凝縮器53では、下塔51から上塔52への潜熱での熱供給により、上塔52の液体酸素の蒸発によって上昇ガスが生成され、同時に下塔51の窒素ガスの凝縮によって還流液体窒素が生成される。したがって、下塔51の内部圧力は、下塔51の頂部の窒素の飽和温度が上塔52の底部の酸素の飽和温度よりも高くなるような圧力に設定される。
【0022】
主凝縮器53で得られた液体酸素は、LO分離器70に供給される。LO分離器70では、蒸発によって、液体酸素から酸素ガスが得られる。例えば、LO分離器70に貯留する液体酸素と、熱交換器40によって冷却された精製空気とを熱交換することによって、液体酸素を蒸発させることができる。なお、上述したように、LO分離器70で得られる低温の酸素ガスを熱交換器40に供給することによって、吸着塔30a,30bで得られた精製空気を冷却することができる。LO分離器70から得られた酸素ガスは、銅製錬の自溶炉などに供給される。
【0023】
酸素製造装置100は、定期的にメンテナンスを行うことが必要である。また、銅製錬工程などの、製造される酸素を使用する設備が定期修繕等で長期にわたって休停止する場合は、酸素製造装置100の稼働も停止する。一度、酸素製造装置100を停止した場合は、装置内部の液体酸素は放出され、加温用乾燥空気を流して温度を外気近くまで上昇させる。すなわち、酸素製造装置100は、常温停止することになる。酸素製造装置100を再び稼働状態に戻す際には、保冷槽80の内部を再度極低温の-180℃程度まで冷却する必要が生じる。この温度まで再び冷却して酸素製造装置100を稼働状態に戻すには、装置の規模にもよるが48時間以上を要する。その間、冷却に必要な電力、オペレータの人件費等が必要となる。さらに、銅製錬自熔炉に併設されている酸素製造装置の場合では、銅精鉱の投入前には酸素製造装置が稼働可能な状態であることが要求されるため、稼動の遅れは生産効率の低下につながる。
【0024】
そこで、本実施形態においては、酸素製造装置100の稼動時に、液体酸素を保冷槽80内に供給する。それにより、保冷槽80内部の冷却に要する時間を短縮化することができる。例えば、酸素製造能力が20000Nm3/h以上の酸素製造装置100において、液体酸素を用いない場合と比較して冷却時間を0.5倍~0.8倍とすることができる。その結果、酸素製造装置100の稼動に要する時間を短縮化することができる。また、保冷槽80の内部を冷却するための電力を削減することができる。
【0025】
液体酸素の供給先は、熱交換器40、蒸留塔50、配管などであり、保冷槽80内であれば特に限定されないが、主凝縮器53であることが好ましい。主凝縮器53は、液体酸素を生成する空間(容器)であり、極低温が要求されるためである。なお、酸素以外の他の極低温の液体を投入しても冷却効果は認められるが、本実施形態においては、供給した液体酸素をプラントで製造した酸素と同等に扱えることに加え、入手の容易さ、価格の面から液体酸素を用いる。また、液体酸素の純度は、90体積%以上であることが好ましい。
【0026】
液体酸素は、主凝縮器53の液体酸素の生成段階から通常運転レベルまで供給することができる。主凝縮器53に冷却剤を供給する供給口を設置しておき、当該注入口から液体酸素を供給してもよい。供給口を設置していない場合には、主凝縮器53の液体酸素の排出口から逆流する形で供給してもよい。液体酸素の供給は、主凝縮器53での急激な蒸発を防止するために液体酸素の生成後に開始することが望ましい。
【0027】
本実施形態に係る稼動方法が対象とする酸素製造装置は、酸素製造能力が高い方が好ましい。酸素製造能力が高い酸素製造装置は、稼動時に要する冷却時間が長くなるからである。例えば、酸素製造能力が20000Nm3/h以上の酸素製造装置に対して本実施形態に係る稼動方法を適用することが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下、上記実施形態に従って酸素製造装置を再稼動させた。
【0029】
(実施例1)
常温停止状態にある深冷分離式酸素製造装置(日立製作所製、酸素製造能力:24,000Nm3-100%O2/h、原料空気圧縮機定格電力:8,350kW)を起動後、主凝縮器に液体酸素が生成された後に、当該主凝縮器に液体酸素(大陽日酸社製、純度99.5%)を供給した。液体酸素の供給は、主凝縮器の液抜き部に付設した注入口から主凝縮器容積の45%~58%になるまで行った。稼働の目安となる主凝縮器の内に占める液体空気体積は90%であり、この値に達するまで時間は38時間であった。
【0030】
(比較例1)
常温停止状態にある実施例1と同じ装置に対して除塵された圧縮空気の深冷部への吹込みを開始した。装置の冷却は断熱膨張による冷熱補加のみで行った。稼働の目安となる主凝縮器の内に占める液化空気体積が90%に達するまで、57時間を要した。
【0031】
以上の結果から、深冷分離式の酸素製造装置に液体酸素を供給して主凝縮器を冷却すれば、常温から再稼働までに要する時間が大きく短縮できることがわかる。
【0032】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0033】
10a,10b 空気圧縮機
20 水洗冷却塔
30a,30b 吸着塔
40 熱交換器
50 蒸留塔
51 下塔
52 上塔
53 主凝縮器
60 膨張タービン
70 LO分離器
80 保冷槽
100 酸素製造装置