(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】交通量判定システム、交通量判定方法、及び交通量判定プログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/00 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
G08G1/00 A
(21)【出願番号】P 2017177690
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500578216
【氏名又は名称】株式会社ゼンリンデータコム
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】キン シン
(72)【発明者】
【氏名】高山 敏典
【審査官】田中 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-076582(JP,A)
【文献】特開2016-186762(JP,A)
【文献】特開2014-241090(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0228188(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00 - 99/00
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
G09B 23/00 - 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクの周辺のエリアを通過する車両の過去と現在との間の交通量の変化を加味して前記リンクを通過する車両の過去の交通量から前記リンクを通過する車両の現在の交通量の推定値を算出する推定部と、
前記リンクを通過する車両の現在の実際の交通量と前記推定値とを比較し、
当該現在の実際の交通量
と当該推定値
との間の誤差が、前記リンクを通過する車両の過去の交通量に基づく前記誤差の分布における標準偏差の2倍の範囲を超えて少ないときに、前記リンクが通行止めにあるものと判定する判定部と、
を備える交通量判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の交通量判定システムであって、
前記推定部は、前記エリアを通過する車両の過去の交通量に対する、前記エリアを通過する車両の現在の交通量の比率を、前記リンクを通過する車両の過去の交通量に乗じることにより、前記リンクを通過する車両の現在の交通量の推定値を算出する、交通量判定システム。
【請求項3】
コンピュータシステムが、
リンクの周辺のエリアを通過する車両の過去と現在との間の交通量の変化を加味して前記リンクを通過する車両の過去の交通量から前記リンクを通過する車両の現在の交通量の推定値を算出するステップと、
前記リンクを通過する車両の現在の実際の交通量と前記推定値とを比較し、
当該現在の実際の交通量
と当該推定値
との間の誤差が、前記リンクを通過する車両の過去の交通量に基づく前記誤差の分布における標準偏差の2倍の範囲を超えて少ないときに、前記リンクが通行止めにあるものと判定するステップと、
を実行する交通量判定方法。
【請求項4】
コンピュータシステムに、
リンクの周辺のエリアを通過する車両の過去と現在との間の交通量の変化を加味して前記リンクを通過する車両の過去の交通量から前記リンクを通過する車両の現在の交通量の推定値を算出するステップと、
前記リンクを通過する車両の現在の実際の交通量と前記推定値とを比較し、
当該現在の実際の交通量
と当該推定値
との間の誤差が、前記リンクを通過する車両の過去の交通量に基づく前記誤差の分布における標準偏差の2倍の範囲を超えて少ないときに、前記リンクが通行止めにあるものと判定するステップと、
を実行させる交通量判定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通量判定システム、交通量判定方法、及び交通量判定プログラムに関わる。
【背景技術】
【0002】
近年の路車間通信技術の高度化に伴い、道路を走行する車両の車載機器からプローブデータを収集することにより、高精度で大量の交通データを逐次蓄積することが可能になった。これにより、道路区間毎にプローブデータを時系列的に分析し、車両の平均交通量や移動履歴を把握することができる。このような動向を受けて、特許文献1は、車両の走行軌跡を表すプローブデータに基づいて、道路の通行規制や規制解除を検出する技術について言及している。特許文献2は、プローブデータから得られる車両の走行軌跡を、地図データベース上のリンクにマッチングさせ、複数の車両について、マッチングされたリンク毎に車両通過件数を集計し、車両の通過件数が閾値未満であるリンクの通行が規制されているものと判定する技術について言及している。特許文献3は、収集期間が異なるプローブデータを用いて作成した車両の過去の走行位置データの分布地図と、車両の未来の走行位置データの分布地図との差分から、新規に閉鎖された道路を検出する技術について言及している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-241090号公報
【文献】特開2005-284588号公報
【文献】特開2007-41294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1~3に記載の技術では、ある道路が車両通行止めにあるか否かを適切に判断することは困難である。その理由は、ある道路を車両が1台も通行しない状況が特定の時間帯に日常的に生じる場合に、その特定の時間帯の交通量がゼロであるという事実のみで、その道路が通行止めにあるとは断定できないためである。車両が1台も通行しない状況が、ある道路の特定の時間帯に日常的に生じ得るか否かは、道路毎に異なり、また、同じ道路でも曜日毎に異なり得るものである。また、ある道路の通行量は、その道路の周辺のエリアのイベントの有無にも影響を受ける。これらの事情を考慮に入れて、ある道路が車両通行止めにあるか否かを判断するのが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、リンクが車両通行止めにあるか否かを適切に判断することのできる交通量判定システムを提案することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明に関わる交通量判定システムは、リンクの周辺のエリアを通過する車両の過去と現在との間の交通量の変化を加味して、リンクを通過する車両の過去の交通量からリンクを通過する車両の現在の交通量の推定値を算出する推定部と、リンクを通過する車両の現在の実際の交通量と推定値とを比較し、当該現在の実際の交通量と当該推定値との間の誤差が、リンクを通過する車両の過去の交通量に基づく上記誤差の分布において定まる標準偏差の2倍の範囲を超えて少ないときに、リンクが通行止めにあるものと判定する判定部と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明に関わる交通量判定システムによれば、リンクが車両通行止めにあるか否かを適切に判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に関わるリンクとその周辺のエリアとの関係を示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に関わる交通量判定システムの機能ブロックを示す説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に関わる交通量判定方法の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施形態に関わるリンクの通行止めを判定する具体例の説明図である。
【
図5】本発明の実施形態に関わるリンクの通行止めを判定する具体例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、各図を参照しながら本発明の実施形態について説明する。ここで、同一符号は同一の構成要素を示すものとし、重複する説明は省略する。
図1は、本実施形態に関わるリンク60とその周辺のエリア70との関係を示す説明図である。リンク60は、道路区間に対応して定義され、道路上のある点(例えば、ある交差点)を始点とし、道路上の別の点(例えば、別の交差点)を終点とするベクトルである。対面通行の道路には、同一区間に通行方向の異なる二つのリンクが定義される。エリア70は、メッシュと呼ばれる区域に分割された道路地図情報であり、道路地図情報は、複数のリンクの接続関係に関わる情報を含む。リンク60は、道路地図情報に含まれている複数のリンクのうちの一つである。エリア70の輪郭は、例えば、1辺の長さが数kmの正方形でもよい。
【0010】
図2は、本発明の実施形態に関わる交通量判定システム10の機能ブロックを示す説明図である。交通量判定システム10は、複数の車両40から取得したプローブデータに基づいて道路の交通量を判定するコンピュータシステムである。各車両40は、自車の位置を検出する位置検出装置41と、プローブデータを路上装置50に無線送信する通信装置42とを備えている。プローブデータは、車両40の位置情報、速度情報、及び時刻情報を担っており、このようなプローブデータを無線送信する車両40は、プローブカーと呼ばれる。位置検出装置41は、例えば、GPS(Global Positioning System)である。通信装置42と路上装置50との間の路車間通信方式は、例えば、光ビーコン、無線LAN(Local Area Network)、又はDSRC(Dedicated Short Range Communication)である。
【0011】
複数の路上装置50のうち、一部の路上装置50は、リンク60に沿って配置されており、他の一部の路上装置50は、エリア70内のリンク60以外のリンク(図示せず)に沿って配置されている。交通量判定システム10は、各路上装置50が車両40から受信するプローブデータを収集することにより、リンク60を通過する車両40の交通量に関わる情報と、エリア70(エリア70内のリンク60以外の全てのリンク)を通過する車両40の交通量に関わる情報とを取得する。なお、路上装置50は、必須ではないため、交通量判定システム10は、車両40から無線通信(例えば、携帯電話回線又は専用回線)を通じてプローブデータを受信してもよい。
【0012】
交通量判定システム10は、通信部21、推定部22、及び判定部23を備える。交通量判定システム10は、そのハードウェア資源として、プロセッサ、記憶資源、及び通信インタフェースを備えている。記憶資源は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体(例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ、メモリカード、光ディスクドライブ、又は半導体メモリなど)の記憶領域である。記憶資源には、交通量判定システム10の動作を制御する交通量判定プログラムが記憶されている。交通量判定プログラムは、
図3に示すステップ301~305の処理を交通量判定システム10に実行させるコンピュータプログラムである。交通量判定システム10のハードウェア資源と交通量判定プログラムとの協働により、通信部21、推定部22、及び判定部23の各機能が実現される。推定部22及び判定部23の各機能と同様の機能を、専用のハードウェア資源(例えば、特定用途向け集積回路(ASIC))やファームウェアを用いて実現してもよい。
【0013】
通信部21は、車両40から無線送信されるプローブデータを受信し、これを履歴データ31として、記憶資源に格納する。履歴データ31には、リンク60を通過する車両40の過去から現在に至る一定期間の交通量に関わる履歴情報と、エリア70を通過する車両40の過去から現在に至る一定期間の交通量に関わる履歴情報とが含まれている。プロセッサは、履歴データ31から、リンク60の時間帯毎の交通量(但し、偶発的な事故などに起因して増減する例外的な交通量の変動を除く)の平均値を曜日毎に算出し、これをリンク60の基準交通量32として記憶資源に格納する。リンク60の基準交通量32は、同じ曜日でも、時間帯毎に異なり得るものであり、また、同じ時間帯でも、曜日毎に異なり得る。プロセッサは、エリア70内のリンク60以外の各リンクについても、基準交通量32を算出する。プロセッサは、履歴データ31から、エリア70の時間帯毎の交通量(但し、偶発的な事故などに起因して増減する例外的な交通量の変動を除く)の平均値を曜日毎に算出し、これをエリア70の基準交通量33として記憶資源に格納する。エリア70の基準交通量33は、同じ曜日でも、時間帯毎に異なり得るものであり、また、同じ時間帯でも、曜日毎に異なり得る。
【0014】
推定部22は、リンク60の周辺のエリア70を通過する車両40の過去と現在との間の交通量の変化を加味して、リンク60を通過する車両40の過去の交通量からリンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35を算出する。具体的には、推定部22は、エリア70を通過する車両40の過去の交通量(例えば、現在と同時刻における過去のエリア70の基準交通量33)に対する、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34の比率(例えば、交通量34/基準交通量33)を、リンク60を通過する車両40の過去の交通量(例えば、現在と同時刻における過去のリンク60の基準交通量32)に乗じることにより、リンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35を算出する(例えば、推定値35=基準交通量32×交通量34/基準交通量33)。このように、リンク60の周辺のエリア70を通過する車両40の過去と現在との間の交通量の変化を加味することにより、リンク60を通過する車両40の現在の交通量を適切に推定することができる。例えば、ある時間帯のリンク60の交通量が減少しているとしても、イベントの開催に伴う交通規制などにより、そのリンク60の周辺のエリア70の同時間帯の交通量も減少しているならば、そのような交通量の減少は、自然な交通現象であるから、エリア70の交通量の減少の度合いを加味してリンク60の交通量を推定するのが適切である。これにより、エリア70を通過する車両40の過去と現在との間の交通量の変化を考慮せずに、リンク60の交通量の減少をリンク60の通行止めとして単純に判断することに起因する誤判定を抑制できる。一方、リンク60の周辺のエリア70の交通量が増加しているか、或いは殆ど変化していないにも関わらず、エリア70に比して、リンク60の交通量が減少しているならば、リンク60が通行止めにある可能性が考えられる。
【0015】
判定部23は、リンク60を通過する車両40の現在の実際の交通量36が、リンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35よりも統計的誤差を超えて少ないときに、リンク60が通行止めにあるものと判定する。交通量36と推定値35との間の誤差の分布が正規分布に従う場合、推定値35の約95.5%は、標準偏差の2倍の範囲内に分布するものと考えられる。このため、統計的誤差を超えるとは、例えば、標準偏差の2倍を超えることを意味するものと解釈し得る。但し、統計的誤差の解釈は、この例に限られるものではなく、統計学的に妥当な他の解釈を適用してもよい。
【0016】
図3は、本実施形態に関わる交通量判定方法の処理の流れを示すフローチャートである。ステップ301の処理に先立って、交通量判定システム10の記憶資源には、履歴データ31が記憶されており、履歴データ31から、予め基準交通量32,33が算出されているものとする。通信部21は、プローブデータから、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34に関わる情報と、リンク60を通過する車両40の現在の実際の交通量36に関わる情報とを取得する(ステップ301)。推定部22は、リンク60の周辺のエリア70を通過する車両40の過去と現在との間の交通量の変化を加味して、リンク60を通過する車両40の過去の交通量からリンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35を算出する(ステップ302)。判定部23は、交通量36が推定値35よりも統計的誤差を超えて少ないか否かを判定する(ステップ303)。交通量36が推定値35よりも統計的誤差を超えて少ない場合には(ステップ303:YES)、判定部23は、リンク60が通行止めにあるものと判定する(ステップ304)。交通量36が推定値35よりも統計的誤差を超えて少なくない場合には(ステップ303:NO)、判定部23は、リンク60が通行止めされていないものと判定する(ステップ305)。
【0017】
ここで、
図4を参照しながら、リンク60の通行止めを判定する具体例について説明する。例えば、現在と同時刻における過去のエリア70の基準交通量33を7台/5分とし、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34を1.4台/5分とする。この場合、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34は、基準交通量33の20%(=1.4/7×100%)であるため、エリア70全体の現在の交通量は、同時刻の過去に比して、20%に減少している。現在と同時刻における過去のリンク60の基準交通量32を10台/5分とすると、リンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35は、2台/5分(=10/5分×0.2)である。リンク60を通過する車両40の現在の実際の交通量36が1台/5分であとすると、推定値35と交通量36との差は、統計的誤差37の範囲内にあるため、リンク60は、通行止めされていないものと判定される。
【0018】
次に、
図5を参照しながら、リンク60の通行止めを判定する他の具体例について説明する。例えば、現在と同時刻における過去のエリア70の基準交通量33を7台/5分とし、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34を7.7台/5分とする。この場合、エリア70を通過する車両40の現在の実際の交通量34は、基準交通量33の110%(=7.7/7×100%)であるため、エリア70全体の現在の交通量は、同時刻の過去に比して、110%に増加している。現在と同時刻における過去のリンク60の基準交通量32を10台/5分とすると、リンク60を通過する車両40の現在の交通量の推定値35は、11台/5分(=10/5分×1.1)である。リンク60を通過する車両40の現在の実際の交通量36が0台/5分であとすると、交通量36は推定値35よりも統計的誤差37を超えて少ないため、リンク60は、通行止めされているものと判定される。
【0019】
本実施形態によれば、リンク60の周辺のエリア70の過去と現在との間の交通量の変化を考慮に入れてリンク60の現在の交通量の推定値35を算出することにより、リンク60が通行止めにあるか否かの誤判定を抑制することができる。
【0020】
なお、リンク60又はエリア70の交通量を測定する方式は、車両40からプローブデータを取得する方式に限られるものではなく、公知の方式(例えば、画像認識、レーザ式レベルセンサ、超音波センサ、又はループコイルを用いる方式)でもよい。
【0021】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更又は改良され得るととともに、本発明には、その等価物も含まれる。即ち、実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0022】
10…交通量判定システム 21…通信部 22…推定部 23…判定部 31…履歴データ 32…基準交通量 33…基準交通量 34…交通量 35…推定値 36…交通量 37…統計的誤差 40…車両 41…位置検出装置 42…通信装置 50…路上装置 60…リンク 70…エリア