(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20220301BHJP
B23K 9/127 20060101ALI20220301BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20220301BHJP
B23K 37/02 20060101ALI20220301BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20220301BHJP
B23K 9/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B23K9/095 510D
B23K9/127 502B
B23K9/12 331B
B23K37/02 B
B23K9/00 501L
B23K9/02 S
(21)【出願番号】P 2017190483
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】592009281
【氏名又は名称】株式会社IHIプラント
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】喜田 啓介
(72)【発明者】
【氏名】全 洪秀
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-141738(JP,A)
【文献】特開昭62-137176(JP,A)
【文献】特開平3-114671(JP,A)
【文献】特開平8-309537(JP,A)
【文献】特開平8-39251(JP,A)
【文献】特開2005-334965(JP,A)
【文献】国際公開第2009/005202(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2004-0066446(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0030097(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B23K 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直進方向および高さ方向の少なくともいずれかの移動量に、
前記高さ方向には垂直に交差し、前記直進方向には斜めに交差する方向である横方向の移動量が対応付けられた移動量情報を格納する記憶部と、
前記移動量情報に基づいてトーチを前記横方向に移動させる制御部と、
を備える溶接装置。
【請求項2】
前記制御部は、トリガーの発生に基づいて、前記移動量情報に基づく前記トーチの前記横方向の移動を開始する請求項1に記載の溶接装置。
【請求項3】
溶接対象の前記高さ方向の変位を検出する変位検出部をさらに備え、
前記変位検出部の変位検出結果が所定の閾値を超えた場合に前記トリガーが発生する請求項2に記載の溶接装置。
【請求項4】
前記トーチを前記横方向に移動させる横移動モータをさらに備え、
前記移動量情報には、前記トーチを前記直進方向に移動させる走行モータおよび前記トーチを前記高さ方向に移動させる昇降モータの少なくともいずれかのパルス数に、前記横移動モータのパルス数が対応付けられており、
前記制御部は、前記走行モータまたは前記昇降モータのパルス数と、前記移動量情報とから、前記横移動モータのパルス数を決定し、決定したパルス数で前記横移動モータを駆動させる請求項1から3のいずれか1の請求項に記載の溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、メンブレンに形成されたコルゲーションを溶接する技術が開示されている。特許文献1では、溶接線がコルゲーションの長手方向に対して垂直に交差している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
扇形のメンブレンに、略周方向に直線状に延びるコルゲーションを形成する場合がある。この場合、メンブレンの縁がコルゲーションの長手方向に対して斜めに交差する。このメンブレンを上方から見ると、メンブレンの縁がコルゲーションの区間において直線にならない。すなわち、メンブレンの縁に沿って溶接する際、コルゲーションの区間において溶接線が曲線となる。このため、コルゲーションの区間において、溶接士が溶接装置のトーチの移動を調整する操作を行わなければならず、作業が煩雑になるという課題がある。
【0005】
本開示は、作業を簡素化することが可能な溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示の一態様に係る溶接装置は、直進方向および高さ方向の少なくともいずれかの移動量に、高さ方向には垂直に交差し、直進方向には斜めに交差する方向である横方向の移動量が対応付けられた移動量情報を格納する記憶部と、移動量情報に基づいてトーチを横方向に移動させる制御部と、を備える。
【0007】
また、制御部は、トリガーの発生に基づいて、移動量情報に基づくトーチの横方向の移動を開始してもよい。
【0008】
また、溶接対象の高さ方向の変位を検出する変位検出部をさらに備え、変位検出部の変位検出結果が所定の閾値を超えた場合にトリガーが発生するとしてもよい。
【0009】
また、トーチを横方向に移動させる横移動モータをさらに備え、移動量情報には、トーチを直進方向に移動させる走行モータおよびトーチを高さ方向に移動させる昇降モータの少なくともいずれかのパルス数に、横移動モータのパルス数が対応付けられており、制御部は、走行モータまたは昇降モータのパルス数と、移動量情報とから、横移動モータのパルス数を決定し、決定したパルス数で横移動モータを駆動させてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、溶接の作業を簡素化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】溶接装置によって溶接されるメンブレンの構成を示す平面図である。
【
図3】コルゲーションとコルゲーションとが繋がる位置付近をメンブレンの上方から見たときの拡大平面図である。
【
図5】キャリッジおよびトーチの構成を示す斜視図である。
【
図6】
図5のVI方向からキャリッジを見たときのキャリッジおよびトーチの構成を示す斜視図である。
【
図7】
図5のVII方向からキャリッジを見たときのキャリッジおよびトーチの構成を示す斜視図である。
【
図8】キャリッジおよびトーチの構成を示す模式図である。
【
図10】制御部が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の一実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本開示を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本開示に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0013】
図1は、一実施形態による溶接装置によって溶接されるメンブレン10の構成を示す平面図である。メンブレン10は、例えば、LNG地下タンク内の底面に設置される。メンブレン10は、例えば、ステンレスの板によって構成される。メンブレン10は、複数の扇形のメンブレン11と複数の略長方形のメンブレン12とを溶接して形成される。メンブレン10は、全体として円形に形成される。
図1では、円形に形成されるメンブレン10の一部が示されている。
【0014】
扇形のメンブレン11には、略周方向に直線状に延びるコルゲーション13aが形成される。
図2は、コルゲーション13aの構成を示す側面図である。コルゲーション13aは、メンブレン11を波状に加工して形成される。コルゲーション13aは、メンブレン11の背面側から表面側に隆起している。メンブレン11がLNG地下タンク内の底面に設置されると、コルゲーション13aは、メンブレン11の上方に突出する。メンブレン11は、平面部14とコルゲーション13aとが境界部15a、15bにおいて切り替わる。コルゲーション13aは、頂部18において立ち上がりから立下りに切り替わる。コルゲーション13aは、変曲部19a、19bにおいて曲がる方向が切り替わる。境界部15aと変曲部19aとの間では、メンブレン11が表面側に曲がる。変曲部19aと変曲部19bとの間では、メンブレン11が裏面側に曲がる。変曲部19bと境界部15bとの間では、メンブレン11が表面側に曲がる。変曲部19a、19bでは、接線の傾きが最も急になる。
【0015】
図1に戻って、略長方形のメンブレン12には、径方向に延びるコルゲーション13bが形成される。メンブレン12には、コルゲーション13bからメンブレン12の幅方向に延びるコルゲーション13cが形成される。コルゲーション13cは、コルゲーション13bからメンブレン12の縁に進むに従ってメンブレン10の中心方向に傾斜する。コルゲーション13b、13cは、コルゲーション13aと同様な形状に形成される。
【0016】
メンブレン11とメンブレン12とは、メンブレン10の周方向に交互に配置される。メンブレン11のコルゲーション13aは、メンブレン12のコルゲーション13cに繋がる。このようにして、メンブレン10には、コルゲーション13a、13b、13cが網目状に形成される。コルゲーション13a、13b、13cは、メンブレン10が熱収縮によって破損することを防止する。
【0017】
メンブレン11とメンブレン12との境界部分では、メンブレン12上にメンブレン11が重ねられる。コルゲーション13aとコルゲーション13cとが繋がる位置16では、コルゲーション13c上にコルゲーション13aが重ねられる。メンブレン11の縁には、隅肉溶接が行われ、メンブレン11とメンブレン12とが溶接される。すなわち、メンブレン11の縁が溶接線17となる。なお、メンブレン11上に重ねられたメンブレン12の縁に隅肉溶接が行われてもよい。この場合、メンブレン12の縁が溶接線17となる。
【0018】
溶接線17は、コルゲーション13aとコルゲーション13cとが繋がる位置16においてコルゲーション13a、13cに交差している。溶接線17は、コルゲーション13a、13cの長手方向に対して斜めに交差している。
【0019】
図3は、コルゲーション13aとコルゲーション13cとが繋がる位置16付近をメンブレン10の上方から見たときの拡大平面図である。平面部14の区間の溶接線17は、直線状になっている。
図3では、X方向、Z方向を図示のように定義している。X方向は、平面部14の区間の溶接線17に沿った直進方向である。Z方向は、コルゲーション13a、13cの長手方向である。
図3の下側は、メンブレン10の中心側であるとする。
図3の上側は、メンブレン10の外周側であるとする。また、
図3では、溶接線17を挟んで右側にメンブレン11が配置されるとする。また、
図3では、溶接線17を挟んで左側にメンブレン12が配置されるとする。
【0020】
角度A1は、メンブレン11における外周側の境界部15aと、平面部14における溶接線17との間の角度である。角度A2は、メンブレン12における外周側の境界部15aと、平面部14における溶接線17との間の角度である。溶接線17は、角度A1よりも角度A2が小さくなるようにコルゲーション13aに交差する。また、角度A3は、メンブレン11における中心側の境界部15bと、平面部14における溶接線17との間の角度である。角度A4は、メンブレン12における中心側の境界部15bと、平面部14における溶接線17との間の角度である。溶接線17は、角度A3よりも角度A4が大きくなるようにコルゲーション13aに交差する。
【0021】
中心側の平面部14における溶接線17は、外周側の平面部14における溶接線17の延長線に対して、コルゲーション13a、13cの長手方向(Z方向)にずれる。角度A1よりも角度A2が小さく、角度A3よりも角度A4が大きい場合、中心側の平面部14における溶接線17は、中心側の平面部14における溶接線17に対してメンブレン11側へずれる。
【0022】
コルゲーション13aの区間の溶接線17は、略S字の曲線が2回現れるような曲線状になっている。具体的には、溶接線17は、境界部15aから変曲部19aに進むに従ってメンブレン11側へ曲がっている。換言すると、境界部15aから変曲部19aに進むに従って、コルゲーション13a、13cの長手方向の軸に対する溶接線17の接線の傾斜角が小さくなる。変曲部19a付近では、コルゲーション13a、13cの長手方向のずれ量が大きくなる。また、溶接線17は、変曲部19aから頂部18に進むに従ってメンブレン12側へ曲がっている。換言すると、変曲部19aから頂部18に進むに従って、コルゲーション13a、13cの長手方向の軸に対する溶接線17の接線の傾斜角が大きくなる。頂部18では、溶接線17の接線が、平面部14における溶接線17に略平行となる。また、溶接線17は、頂部18から変曲部19bに進むに従ってメンブレン11側へ曲がっている。換言すると、頂部18から変曲部19bに進むに従って、コルゲーション13a、13cの長手方向の軸に対する溶接線17の接線の傾斜角が小さくなる。変曲部19b付近では、コルゲーション13a、13cの長手方向のずれ量が大きくなる。また、溶接線17は、変曲部19bから境界部15bに進むに従ってメンブレン12側へ曲がっている。換言すると、変曲部19bから境界部15bに進むに従って、コルゲーション13a、13cの長手方向の軸に対する溶接線17の接線の傾斜角が大きくなる。
【0023】
なお、溶接線17は、角度A1よりも角度A2が大きく、角度A3よりも角度A4が小さくなるようにコルゲーション13aに交差してもよい。この場合、中心側の平面部14における溶接線17は、外周側の平面部14における溶接線17に対してメンブレン12側へずれる。また、この場合、溶接線17は、境界部15aから変曲部19aに進むに従ってメンブレン12側へ曲がる。溶接線17は、変曲部19aから頂部18に進むに従ってメンブレン11側へ曲がる。溶接線17は、頂部18から変曲部19bに進むに従ってメンブレン12側へ曲がる。溶接線17は、変曲部19bから境界部15bに進むに従ってメンブレン11側へ曲がる。
【0024】
図4は、一実施形態による溶接装置1の構成を示すブロック図である。溶接装置1は、キャリッジ20、トーチ30、制御盤40、溶接電源50およびリモートコントローラ60を含んで構成される。
【0025】
キャリッジ20には、トーチ30が連結される。キャリッジ20は、制御ケーブルを介して制御盤40に接続される。キャリッジ20は、制御盤40の制御に従って、トーチ30を移動させる。トーチ30は、アークを発生させる電極を含んで構成される。トーチ30は、ガス・パワーケーブルを介して制御盤40に接続される。リモートコントローラ60は、リモートコントローラケーブルを介して制御盤40に接続される。なお、リモートコントローラ60は、ワイヤレスで制御盤40に接続されてもよい。
【0026】
溶接電源50は、制御盤40に接続される。溶接電源50は、電源52に接続される。電源52は、例えば、商用電源である。溶接電源50は、電源52から供給される電力に基づいて、アークを発生させる電力を生成する。溶接電源50の電力は、制御盤40を介してトーチ30に供給される。溶接電源50は、ガスボンベ54に接続される。ガスボンベ54には、ガス(例えば、アルゴンガス)が充填される。ガスボンベ54のガスは、溶接電源50および制御盤40を介してトーチ30に供給される。
【0027】
図5は、キャリッジ20およびトーチ30の構成を示す斜視図である。
図6は、
図5のVI方向からキャリッジ20を見たときのキャリッジ20およびトーチ30の構成を示す斜視図である。
図7は、
図5のVII方向からキャリッジ20を見たときのキャリッジ20およびトーチ30の構成を示す斜視図である。
図5~
図7では、X方向、Y方向およびZ方向を図示のように定義している。X方向は、平面部14の区間の溶接線17に沿った直進方向であり、キャリッジ20の走行方向を示す。Y方向は、キャリッジ20の高さ方向を示す。Z方向は、コルゲーション13a、13cの長手方向であり、X方向およびY方向の双方に交差する横方向を示す。
【0028】
キャリッジ20は、ベース部21とアーム部22とを含んで構成される。キャリッジ20のベース部21は、レール23に連結される。レール23は、略長方形の平板によって構成される。レール23は、長手方向が溶接線17に平行となるように配置される。ベース部21は、レール23に沿って移動可能となっている。すなわち、レール23に沿った方向がキャリッジ20の走行方向(X方向)となる。
【0029】
キャリッジ20のアーム部22は、ベース部21に連結されている。アーム部22は、レール23に交差する方向にベース部21から延びている。具体的には、アーム部22は、コルゲーション13aの長手方向(Z方向)に延びている。アーム部22は、ベース部21に対して、高さ方向(Y方向)および横方向(Z方向)に移動可能となっている。また、アーム部22は、ベース部21との連結部を支点として、高さ方向(Y方向)に沿った軸周りに回転可能となっている。コルゲーション13aと溶接線17との間の角度に応じて、ベース部21に対するアーム部22の角度が変えられる。
【0030】
アーム部22には、トーチ30が連結されている。トーチ30は、溶接線17付近にセットされる。トーチ30の電極は、溶接時にアークを発生する。トーチ30の電極とメンブレン10との距離は、自動調整が可能となっている。トーチ30は、走行方向に交差する方向にウィービングが可能となっている。
【0031】
アーム部22には、ワイヤ送給部24が設けられている。ワイヤ送給部24は、溶材であるワイヤをトーチ30に送給する。
【0032】
アーム部22には、変位検出部25が設けられている。変位検出部25は、メンブレン10に対向するアーム部22の下面に設けられている。変位検出部25は、変位検出部25とトーチ30とを結ぶ仮想線Lが、コルゲーション13aの長手方向に沿った軸と平行となるように配置される。
【0033】
変位検出部25は、溶接対象であるメンブレン10の高さ方向の変位を検出する。具体的には、変位検出部25は、2個のローラ26を含んで構成される。2個のローラ26は、走行方向に並べられる。2個のローラ26は、メンブレン10に接触する。変位検出部25は、2個のローラ26の高さ位置の差を、高さ方向の変位として検出する。変位検出結果は、制御盤40に送信される。
【0034】
図8は、キャリッジ20およびトーチ30の構成を示す模式図である。キャリッジ20のベース部21には、走行モータMxが設けられる。走行モータMxは、ベース部21をレール23に沿って移動させる。走行モータMxは、例えば、パルスモータである。走行モータMxは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた移動量分だけベース部21を走行方向に移動させる。
【0035】
ベース部21とアーム部22との連結部には、昇降モータMyおよび横移動モータMzが設けられている。昇降モータMyは、ベース部21に対してアーム部22を高さ方向(Y方向)に移動させる。横移動モータMzは、ベース部21に対してアーム部22を横方向(Z方向)に移動させる。昇降モータMyおよび横移動モータMzは、例えば、パルスモータである。昇降モータMyは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた移動量分だけアーム部22を高さ方向に移動させる。横移動モータMzは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた移動量分だけアーム部22を横方向に移動させる。
【0036】
ワイヤ送給部24には、ワイヤ送給モータMfが設けられている。ワイヤ送給モータMfは、ガイドノズル27を介してワイヤをトーチ30の電極の先端に供給する。
【0037】
アーム部22とトーチ30との連結部には、旋回リンク機構28が設けられている。旋回リンク機構28は、Z方向に沿った軸周りにトーチ30を回転可能となっている。アーム部22には、トーチ角モータMθが設けられている。トーチ角モータMθは、旋回リンク機構28を作動させてトーチ30の角度を変更させる。トーチ角モータMθは、コルゲーション13aの区間においてトーチ30をY方向に対して傾斜させる。トーチ角モータMθは、例えば、パルスモータである。トーチ角モータMθは、制御盤40から与えられるパルス数に応じた角度だけトーチ30を回転させる。
【0038】
図9は、トーチ30の構成を示す模式図である。トーチ30には、高さ調整モータMvおよびウィービングモータMoが設けられている。高さ調整モータMvは、トーチ30の高さ方向にトーチ30を移動させる。制御盤40は、高さ調整モータMvの駆動と自動電圧制御(AVC)とによって、トーチ30の電極とメンブレン10との距離を調整する。自動電圧制御は、アークの電圧を制御する技術である。高さ調整モータMvの駆動により、コルゲーション13aの区間においてトーチ30が傾斜していても、トーチ30の電極とメンブレン10との距離が調整される。
【0039】
ウィービングモータMoは、X方向およびY方向に垂直に交差する方向にトーチ30を移動させる。制御盤40は、ウィービングモータMoの駆動によってビード幅を調整する。
【0040】
図4に戻って、制御盤40は、制御部42および記憶部44を含んで構成される。制御部42は、CPU、ROM、RAM等を含む半導体集積回路で構成される。CPUは、プログラムに従った演算を行う。ROMには、プログラム等が格納される。RAMは、ワークエリアとして使用される。制御部42は、プログラムを実行することで、溶接装置1の各部を制御する。また、制御部42は、リモートコントローラ60から与えられる信号に応じて、各部を制御することもできる。
【0041】
記憶部44は、例えば、不揮発性記憶装置である。記憶部44には、コルゲーション13aの区間における移動量情報が格納される。制御部42は、この移動量情報に従って、コルゲーション13aの区間の溶接を行う。
【0042】
移動量情報には、
図3に示すようなコルゲーション13aの区間の溶接線17の軌跡に沿った移動量が示されている。移動量情報は、コルゲーション13aの形状(例えば、突出高さや曲率など)や溶接線17がコルゲーション13aを横切る角度から決定される。具体的には、移動量情報には、直進方向(X方向)の移動量に横方向(Z方向)の移動量が対応付けられている。移動量情報には、コルゲーション13aの区間の溶接線17の軌跡の長さ分だけ、直進方向の移動量と横方向の移動量との対応付けが為されている。直進方向の移動量は、例えば、走行モータMxのパルス数で表わされる。横方向の移動量は、例えば、横移動モータMzのパルス数で表わされる。
【0043】
コルゲーション13aの形状(例えば、突出高さや曲率など)、または、溶接線17がコルゲーション13aを横切る角度が異なると、コルゲーション13aの区間の溶接線17の軌跡が異なる。このため、移動量情報は、溶接線17の軌跡が異なる複数のパターンが予め準備される。それら複数のパターンの中から使用する移動量情報が、溶接開始前に設定される。
【0044】
次に、溶接装置1の動作を説明する。
図10は、制御部42が行う処理の流れを示すフローチャートである。まず、トーチ30が、メンブレン10の平面部14の区間の溶接線17にセットされる。溶接開始ボタンの押下操作などの溶接開始を示す操作が行われると、制御部42は、走行モータMxを駆動させる(S100)。具体的には、制御部42は、走行モータMxにパルスを順次に供給する。これにより、キャリッジ20が溶接線17に沿った方向に移動する。また、溶接開始を示す操作が行われると、制御部42は、ワイヤ送給モータMfを駆動させて、トーチ30の電極の先端へワイヤを供給する。また、制御部42は、トーチ30への電力およびガスの供給を開始する。これにより、トーチ30の電極とメンブレン10との間にアークが発生する。すなわち、平面部14の区間の溶接線17に沿って溶接が行われる。
【0045】
次に、制御部42は、変位検出部25によって高さ方向の変位が検出されたか否かを判断する(S110)。具体的には、制御部42は、2個のローラ26による変位検出結果を取得する。制御部42は、変位検出結果が所定の閾値を超えた場合、変位が検出されたと判断する。所定の閾値は、コルゲーション13aの立ち上がりと、平面部14の表面粗さとを区別できる値に設定される。
【0046】
変位が検出されない場合(S110におけるNO)、制御部42は、変位が検出されるまで、横移動モータMzを停止させる。すなわち、この場合、制御部42は、平面部14の区間の溶接を継続する。
【0047】
変位が検出された場合(S110におけるYES)、制御部42は、平面部14からコルゲーション13aへ切り替わる境界部15aに到達したと判断する。すなわち、変位検出部25によって変位が検出されたことが、コルゲーション13aの区間における溶接の開始を示すトリガーとなる。このトリガーが発生すると、制御部42は、記憶部44から移動量情報を読み出す。その後、制御部42は、変位が検出されたときの走行モータMxのパルス数を基準パルス数に設定する(S120)。
【0048】
次に、制御部42は、走行モータMxの駆動を継続し、走行モータMxにおける基準パルス数からのパルス数をカウントする(S130)。
【0049】
また、制御部42は、変位検出部25によって検出された変位の大きさに応じて、トーチ角モータMθを駆動させる。これにより、トーチ30は、コルゲーション13aの立ち上がり面および立ち下がり面に合わせた角度に傾斜することとなる。
【0050】
また、制御部42は、変位検出部25の検出結果および走行モータMxのパルス数に応じて、昇降モータMyを駆動させる。これにより、トーチ30は、コルゲーション13aに合わせて高さ方向に移動することとなる。
【0051】
次に、制御部42は、コルゲーション13aの区間が終了したか否かを判断する(S140)。具体的には、制御部42は、現時点における走行モータMxのパルス数を、移動量情報における直進方向の移動量を表すパルス数に照合させる。制御部42は、移動量情報における直進方向の移動量を表すパルス数よりも、現時点における走行モータMxのパルス数が大きい場合、コルゲーション13aの区間が終了したと判断する。
【0052】
コルゲーション13aの区間が終了していない場合(S140におけるNO)、制御部42は、横移動モータMzのパルス数を決定する(S150)。横移動モータMzのパルス数は、走行モータMxのパルス数と移動量情報とに基づいて決定される。直前のステップS140において、現時点における走行モータMxのパルス数と、移動量情報における直進方向の移動量を表すパルス数との照合が行われていた。制御部42は、照合されたパルス数に対応する横方向の移動量を表すパルス数を、現時点における横移動モータMzのパルス数に決定する。
【0053】
次に、制御部42は、決定したパルス数のパルスを横移動モータMzに供給する。すなわち、制御部42は、決定したパルス数で横移動モータMzを駆動させる(S160)。これにより、トーチ30は、直進方向の位置に対応する横方向の位置に移動する。
【0054】
その後、制御部42は、ステップS130以降の処理を繰り返す。ステップS130以降の処理を繰り返すことで、トーチ30は、直進方向に移動するに従って、その直進方向に対応する横方向の移動が行われることとなる。これにより、トーチ30は、
図3に示すような曲線を描いて移動することとなる。
【0055】
コルゲーション13aの区間が終了した場合(S140におけるYES)、制御部42は、横移動モータMzを停止させる。これにより、コルゲーション13aの区間の溶接が終了する。トーチ30は、コルゲーション13aから境界部15bを超えて平面部14に到達する。制御部42は、溶接終了ボタンの押下操作などの溶接終了を示す操作が行われるまで、平面部14の区間の溶接を継続する。
【0056】
以上説明したように、本実施形態の溶接装置1は、コルゲーション13aの区間において、トーチ30が直進方向の位置に応じて横方向に移動する。したがって、溶接装置1によれば、溶接線17がコルゲーション13aを斜めに横切るとしても、溶接線17に沿って容易に溶接することができ、溶接の作業を簡素化することが可能となる。
【0057】
また、溶接装置1は、ベース部21に対するアーム部22の角度を、コルゲーション13aと溶接線17との間の角度に合うように変えることができる。また、溶接装置1は、変位検出部25とトーチ30とを結ぶ仮想線Lが、コルゲーション13aの長手方向に沿った軸と平行となるように配置される。したがって、溶接装置1は、コルゲーション13aの長手方向に対する溶接線17の角度が異なるとしても、トーチ30の移動と変位検出部25による変位の検出とを連動させることができる。
【0058】
また、溶接装置1は、変位検出部25が高さ方向の変位を検出したことをトリガーとしてトーチ30の横移動が開始される。したがって、溶接装置1は、平面部14からコルゲーション13aに移る際に、自動的に溶接を継続することができる。
【0059】
また、溶接装置1は、溶接線17に沿った方向の移動量が、移動量情報に設定された移動量を超えた場合に、トーチ30の横移動が終了される。したがって、溶接装置1は、コルゲーション13aから平面部14に移る際に、自動的に溶接を継続することができる。
【0060】
以上、添付図面を参照しながら一実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0061】
例えば、上述した実施形態において、トーチ30の横移動を、リモートコントローラ60によって更に調整可能としてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、変位検出部25が高さ方向の変位を検出したことをトリガーとしてトーチ30の横移動が開始された。しかし、トーチ30の横移動の開始のトリガーは、変位検出部25の検出結果に限らない。例えば、トーチ30の横移動の開始を示す信号をリモートコントローラ60から受信したことをトリガーとしてもよい。また、平面部14の区間の溶接を行わず、コルゲーション13aの区間の溶接のみを行う場合もあり得る。このような場合、溶接開始を示す操作を、トーチ30の横移動の開始のトリガーとしてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、直進方向の移動量が、移動量情報に設定された移動量を超えた場合に、トーチ30の横移動が終了された。しかし、トーチ30の横移動の終了は、この態様に限らない。例えば、制御部42は、トーチ30の横移動の終了を示す信号をリモートコントローラ60から受信したときに、トーチ30の横移動を終了してもよい。また、制御部42は、変位検出部25の検出結果に基づいて、トーチ30の横移動を終了してもよい。
【0064】
また、上記実施形態において、移動量情報は、直進方向の移動量に横方向の移動量が対応付けられていた。しかし、移動量情報は、高さ方向(Y方向)の移動量に横方向の移動量が対応付けられてもよい。コルゲーション13aの区間では、トーチ30が高さ方向に移動するからである。高さ方向の移動量は、例えば、昇降モータMyのパルス数で表わされる。制御部42は、昇降モータMyのパルス数をカウントする。制御部42は、現時点における昇降モータMyのパルス数を、移動量情報における高さ方向の移動量を表すパルス数に照合させる。制御部42は、照合されたパルス数に対応する横方向の移動量を表すパルス数を、現時点における横移動モータMzのパルス数に決定する。そして、制御部42は、決定したパルス数で横移動モータMzを駆動させる。また、移動量情報は、直進方向の移動量と高さ方向の移動量との両方に横方向の移動量が対応付けられてもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、溶接装置1を、コルゲーション13a、13b、13cが形成されたメンブレン10の溶接に使用していた。しかし、溶接装置1の溶接対象は、コルゲーション13a、13b、13cが形成されたメンブレン10に限らない。溶接装置1は、その他の溶接対象の溶接に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本開示は、溶接装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 溶接装置
30 トーチ
42 制御部
44 記憶部