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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】表面処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
H01L21/302 105B
H01L21/302 101E
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017196603
(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公開番号】P2019071346
(43)【公開日】2019-05-09
【審査請求日】2020-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085556
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100115211
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 三十義
(74)【代理人】
【識別番号】100153800
【弁理士】
【氏名又は名称】青野 哲巳
(72)【発明者】
【氏名】宮里 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】日野 守
(72)【発明者】
【氏名】宮本 栄司
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 直道
(72)【発明者】
【氏名】饗場 広明
【審査官】鈴木 聡一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-077721(JP,A)
【文献】国際公開第2010/128673(WO,A1)
【文献】特開2007-201067(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有物を含み、歪点が600℃~1000℃である被処理基板の被処理面をドライエッチングする表面処理方法であって、
前記被処理基板を、処理領域を通過するように搬送方向へ搬送する工程と、
フッ素系反応成分を含有するプロセスガスを、前記処理領域に供給する工程と、
前記処理領域に搬入前の被処理基板の温度を、55℃超100℃以下に調節する工程と、
を備え、前記プロセスガスの露点が15℃~30℃であることを特徴とする表面処理方法。
【請求項2】
シリコン含有物を含み、歪点が600℃~1000℃である被処理基板の被処理面をドライエッチングする表面処理装置であって、
処理領域を有する処理部と、
前記被処理基板を、前記処理領域を通過するように搬送方向へ搬送する搬送手段と、
フッ素系反応成分を含有するプロセスガスを、前記処理領域に供給するプロセスガス供給手段と、
前記処理領域の前記搬送方向の上流側に配置され、前記被処理基板の温度を、55℃超100℃以下に調節する基板温度調節手段と、
を備え、前記プロセスガスの露点が15℃~30℃であることを特徴とする表面処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン含有物を含む被処理基板を表面処理する方法及び装置に関し、特に高歪点ガラス基板等のドライエッチングに適した表面処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板などの表面粗さ形成には機械研磨やフッ化アンモニウム水溶液などを用いたウェットエッチングによる加工方法が主流である。
また、ガラスを基板とするフラットパネルディスプレイなどの製造工程においては、ガラス基板が剥離帯電しやすく、帯電後の放電によって電子回路等が破壊されることがある。特許文献1においては、前記剥離帯電を防止するために、ガラス基板の裏面を、フッ化水素系ガスを含有するプラズマでドライエッチングすることによって一定の表面粗さにすることが提案されている。ドライエッチング(気相化学反応)時のガラス基板温度は、25℃に設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5679513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、例えばヒートサイクルによるプリントパターンのずれ等を無くすために、歪点が600℃~1000℃程度の高歪点ガラス基板が開発されている。ちなみに一般的な青板ガラスの歪点は500℃程度である。
高歪点ガラスは線膨張率が低い。一方、高歪点ガラスは粗さを発現させる組成物の割合が少なく、フッ化水素等によってエッチングはされても一定の表面粗さにすることが難しいとされている。
本発明は、かかる事情に鑑み、高歪点のガラスなどの被処理基板を少ないエッチング量で表面粗化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、発明者は鋭意研究考察を行なった。
解決手段として、例えば、フッ化水素等のフッ素系反応成分を含有するプロセスガスを加熱して被処理基板に接触させることが考えられる。一般的には、室温の被処理基板と、加温したプロセスガスとを組み合わせた条件では、ガス成分が被処理基板の表面に吸着されやすいために高反応が望める。
しかし、フッ化水素によるシリコン含有基板のドライエッチング反応においては、前記組み合わせ条件下では、反応過程で基板表面に生成される液相の凝集層が厚くなり過ぎ、エッチング反応は進むが高Ra(粗さ)の発現は鈍くなる。
また、処理効率の観点からは、被処理基板の幅と同程度の大きさの吹出ノズルを用いて、被処理基板の幅方向の全域を一度に処理するのが効率的であるところ、該吹出ノズルにはガスを幅方向に均一化するためのチャンバー、多孔板、スリット等を含む整流部を設ける必要があり(特開2004-006586号等参照)、そこにガス加熱及び保温手段を組み込むのは容易でない。
これに対し、被処理基板を加熱することにすれば、凝集層を蒸発させながら反応が進むため、高い表面粗さの発現が望める。
【0006】
本発明は、かかる考察研究に基づいてなされたものであり、シリコン含有物を含む被処理基板の被処理面をドライエッチングする表面処理方法であって、
前記被処理基板の歪点が600℃~1000℃であり、
前記被処理基板を、処理領域を通過するように搬送方向へ搬送する工程と、
フッ素系反応成分を含有するプロセスガスを、前記処理領域に供給する工程と、
前記処理領域に搬入前の被処理基板の温度を、35℃以上100℃以下に調節する工程と、
を備えたことを特徴とする。
これによって、高歪点の被処理基板を少ないエッチング量で確実に表面粗化できる。
35℃を下回ると、エッチング量が増える一方で所期の表面粗さが得られない。
100℃を上回ると、装置構成を耐熱仕様にする必要があり、コスト高になる。また、被処理面に白濁部ないしは曇りが表出し、帯電抑制効果も低下する。
前記被処理基板の線膨張率は1~50(10-7/℃)程度であることが好ましい。
前記基板温度調節工程における、被処理基板の加熱方式としては、赤外線(IR)、紫外線(UV)、レーザー、プラズマ、温風などが挙げられる。
被処理基板を搬送することで、前記処理領域を通過させることが好ましい。被処理基板を搬送しながら加熱することが好ましい。
前記基板温度調節工程は、被処理基板を処理空間に搬入する直前に行うことが好ましい。これによって、加温後の被処理基板が放熱しないうちに処理領域に導入でき、放熱防止のための保温手段を設けるべき範囲を縮小したり、保温手段を省略したりできる。
【0007】
前記プロセスガスの露点は、15℃~40℃であることが好ましい。これによって、高歪点の被処理基板を一層確実に表面粗化できる。
【0008】
本発明装置は、シリコン含有物を含む被処理基板の被処理面をドライエッチングする表面処理装置であって、
処理領域を有する処理部と、
前記被処理基板を、前記処理領域を通過するように搬送方向へ搬送する搬送手段と、
フッ素系反応成分を含有するプロセスガスを、前記処理領域に供給するプロセスガス供給手段と、
前記処理領域の前記搬送方向の上流側に配置され、前記被処理基板の温度を、35℃以上100℃以下に調節する基板温度調節手段と、
を備え、前記被処理基板の歪点が600℃~1000℃である。
前記プロセスガスは、フッ素含有ガスと水を含む原料ガスを大気圧近傍下でプラズマ化することによって生成することが好ましい。
前記処理領域の圧力は、大気圧近傍であることが好ましい。
本明細書において大気圧近傍とは、1.013×10~50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10~10.664×10Paが好ましく、9.331×10~10.397×10Paがより好ましい。
シリコン含有物としては、SiO、SiN、Si、SiC、SiOC等が挙げられる。
フッ素系反応成分は、前記シリコン含有物と反応可能な化合物であり、HF、COF等が挙げられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高歪点の被処理基板を少ないエッチング量で確実に表面粗化できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る表面処理装置の概略構成を示す正面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿う、前記表面処理装置のノズル部の平面図である。
図3図3は、実施例1の結果を示すグラフである。
図4図4は、基板温度100℃超としたときの粗化処理後の被処理面の写真である。
図5図5は、前記基板温度100℃超としたときの粗化処理後の被処理面のAFM(原子間力顕微鏡)像である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る表面処理装置1を示したものである。被処理基板9は、例えばフラットパネルディスプレイ等の半導体装置になるべきガラス基板である。ガラス基板9は、SiO等のシリコン含有物を主成分として含んでいる。
ガラス基板9は、歪点600℃~1000℃程度の高歪点ガラスである。
ガラス基板9の線膨張率は比較的低く、1~50(10-7/℃)程度である。
ガラス基板9の裏面(被処理面9a)の初期粗さは、例えばRa=0.1nm~0.2nm程度である。
【0012】
表面処理装置1は、ガラス基板9を搬送方向MDに搬送しながら、該ガラス基板9の被処理面9a(裏面ないしは下面)をドライエッチングによって粗化処理する。これによって、被処理面9aに表面粗さRa=オングストロームオーダー~ナノオーダー、好ましくはRa=0.3nm~1nm程度の微小凹凸を形成する。
【0013】
表面処理装置1は、HF発生部10と、ドライエッチング処理部20と、搬送手段30を備えている。
HF発生部10は、互いに対向する一対の電極11,11を含む大気圧プラズマ生成部によって構成されている。図示は省略するが、少なくとも1つの電極の対向面には、アルミナ(Al)などの固体誘電体が設けられている。これら電極11のうち一方は、高周波電源15に接続され、他方は電気的に接地されている。電極11,11間に好ましくはパルス状の高周波電圧が印加されることによって大気圧近傍のグロー放電が生成され、電極間空間11cが放電空間となる。
【0014】
電極間空間11c(放電空間)の上流端に原料ガス供給部12が接続されている。フッ素含有原料ガスは、フッ素含有ガスと、水(HO)と、キャリアガスを含む。
フッ素含有ガスとしては、CF、C、C、C等のPFC(パーフルオロカーボン)、CHF、CH、CHF等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)、SF、NF、XeF、その他のフッ素含有化合物が挙げられる。ここでは、フッ素含有ガスとして、CFが用いられている。
【0015】
キャリアガスとしては、ヘリウム、アルゴン、ネオン、キセノン等の希ガス、窒素、その他の不活性ガスが挙げられる。キャリアガスは、フッ素含有ガスを搬送する機能の他、フッ素含有ガスを希釈する希釈ガスとしての機能、及び放電空間11cにおける放電生成ガスとしての機能等を有している。
【0016】
フッ素含有原料ガスが、放電空間11cにおいてプラズマ化(励起、活性化、ラジカル化、イオン化などを含む)されることで、フッ素含有ガス(CF)が分解されて、フッ素系反応成分であるフッ化水素(HF)が生成される。これによって、フッ素含有原料ガスからプロセスガスが生成される。フッ化水素の生成反応式は、例えば下式である。
CF+2HO→4HF+CO (式1)
プロセスガスは、フッ化水素(HF)と水(HO)を含む。プロセスガスの露点(フッ酸水の凝縮点)は、15℃~40℃程度であることが好ましい。
プロセスガス中のフッ素系反応成分は、フッ化水素(HF)に限られず、COF等であってもよい。
【0017】
電極間空間11c(放電空間)の下流端にプロセスガス供給路13が接続されている。プロセスガス供給路13は、処理部20へ延びている。
【0018】
処理部20は、ノズル部21と、対向部材23を含み、図示しない処理チャンバーに収容されている。処理チャンバーの内圧は、ほぼ大気圧である。
【0019】
図1及び図2に示すように、ノズル部21は、搬送方向MDと直交する幅方向TD(図1の紙面直交方向)へ延びる容器状になっている。ノズル部21の上面21f(処理領域画成面)には、吹出口21a及び吸込口21bが形成されている。吹出口21aは、幅方向TD(図1の紙面直交方向)に延びるスリット状になっている。吹出口21aの幅方向TDの寸法は、ガラス基板9の幅寸法(図1の紙面直交方向の寸法)と同程度か、それより少し大きい。図示は省略するが、ノズル部21の内部には、整流部が設けられている。整流部は、チャンバー、スリット、多孔板等を含む(特開2004-006586号等参照)。プロセスガス供給路13からのプロセスガスが、整流部を通過することによって、ノズル部21の幅方向TD(図1の紙面直交方向)に均一化されたうえで、吹出口21aから上方へ吹出される。
【0020】
吸込口21bは、幅方向TD(図1の紙面直交方向)へスリット状に延びている。吸込口21bは、吸引路14を介して真空ポンプなどの吸引手段(図示省略)に接続されている。
【0021】
吹出口21aと吸込口21bとは、ノズル上面21fにおける搬送方向MDの両側(図1の左右)に離れて配置されている。好ましくは、吹出口21aは、ノズル上面21fにおける搬送下流側(図1において左側)の端部近くに配置され、吸込口21bは、ノズル上面21fにおける搬送上流側(図1において右側)の端部近くに配置されている。
なお、前記の配置とは逆に、吹出口21aが搬送上流側に配置され、吸込口21bが搬送下流側に配置されていてもよい。吹出口21aがノズル上面21fの搬送方向の中央部に配置され、一対の吸込口21bが、吹出口21aを挟んで搬送上流側と搬送下流側に配置されていてもよい。
【0022】
ノズル部21の上方に離れて対向部材23が配置されている。対向部材23は、水平な板状に形成され、ノズル部21と平行に幅方向TD(図1の紙面直交方向)へ延びている。対向部材23の下面23a(対向面)が、ノズル部21の上面21fと上下方向(対向方向)に対向している。これら対向する面23a,21fどうしの間に扁平空間22が形成されている。扁平空間22は、幅方向TD(図1の紙面直交方向)へ延びている。図2に示すように、扁平空間22の幅方向TDの両端部は、一対の端壁27によって塞がれている。
【0023】
扁平空間22における吹出口21aから吸込口21bまでの部分が、処理領域22aとなっている。扁平空間22ひいては処理領域22aの搬送方向MDの両端部は開放されている。処理領域22aにおける搬送方向MDと直交する2方向は、上下の面23a,21fと一対の端壁27とによって塞がれている。つまり、処理領域22aは、搬送方向MDの両側を除いて閉じられている。
扁平空間22ひいては処理領域22aの内圧は、大気圧近傍である。
【0024】
HF発生部10と、プロセスガス供給路13と、吹出口21aを含むノズル部21とによって、プロセスガスを処理領域22aに供給するプロセスガス供給手段26が構成されている。
【0025】
搬送手段30は、例えばローラーコンベアによって構成され、ガラス基板9を水平に支持するとともに、該ガラス基板9を搬送方向MDに沿って扁平空間22ひいては処理領域22aに通す。搬送時のガラス基板9の被処理面9aは、下方へ向けられている。ノズル上面21fから搬送中のガラス基板9の被処理面9a(下面)までの距離dは、例えばd=1mm~5mm程度であり、好ましくはd=4mm程度である。
【0026】
なお、図1及び図2に示すように、搬送手段30における、ノズル部21の直近両側の駆動ローラ34は、ノズル部21の幅寸法とほぼ同じ軸長の円筒形状(丸太形状)になっている。駆動ローラ34の外周部には、Oリング等の軟質材からなる環状体34cが間隔を置いて設けられている。環状体34cが、ガラス基板9と接触される。駆動ローラ34は、上面開口のローラ収容箱37に収容されている。ローラ収容箱37には乾燥ガスが供給されている。
また、搬送手段30は、ノズル上面21fのフリーローラー35を含む。フリーローラー35の外周にはOリング等の軟質材からなる環状体35cが設けられている。環状体35cが、ガラス基板9と接触される。
幅方向TDに隣接するフリーローラー35間、及び幅方向TDの最も外側のフリーローラー35の更に外側には、遮蔽壁36が設けられている。
【0027】
図1に示すように、さらに表面処理装置1は、基板温度調節手段40を備えている。基板温度調節手段40は、処理部20ひいては処理領域22aよりも搬送方向の上流側(図1において右側)に配置されている。基板温度調節手段40は、一対の赤外線加熱器41,41を含む。一対の赤外線加熱器41,41は、ガラス基板9が通る搬送路を上下から挟むように配置されている。図2に示すように、各赤外線加熱器41は、ノズル部21と平行に幅方向TDに延びている。下側の赤外線加熱器41は、搬送手段30のコロ31と干渉しないように配置されている。
なお、上下の赤外線加熱器41,41のうち一方を省略してもよい。例えば上側の赤外線加熱器41を省略してもよい。
好ましくは、赤外線加熱器41は、ノズル部21ひいては処理領域22aのできるだけ近くに配置されている。例えば、赤外線加熱器41から処理領域22aまでの距離Dは、D=10mm~100mm程度が好ましい。ガラス基板9の移動速度が2~20m/min程度でガラス基板9の温度を35℃以上100℃以下に加熱できることが好ましい。
なお、基板温度調節手段40が、赤外線加熱器41に代えて、レーザー加熱器、プラズマ加熱器、温風加熱器などを含んでいてもよい。
【0028】
基板温度調節手段40は、ガラス基板9の温度を35℃以上100℃以下に調節する。
35℃を下回ると、所期の表面粗さが得られない。
100℃を上回ると、エッチング処理部20や搬送手段30を耐熱仕様にする必要があり、コスト高になる。また、ガラス基板9の被処理面に白濁部ないしは曇りが表出し、帯電抑制効果も低下する。
【0029】
前記の表面処理装置1によって、ガラス基板9が次のようにしてドライエッチング(表面粗化)される。
HF発生部10におけるフッ素含有原料ガスのプラズマ化によって、フッ化水素(HF)を含むプロセスガスが生成される。該プロセスガスが、プロセスガス供給路13を経てエッチング処理部20に送られ、吹出口21aから処理領域22aに供給される(プロセスガス供給工程)。
【0030】
併行して、搬送手段30によって、ガラス基板9を搬送方向MDに沿って搬送する(搬送工程)。
ガラス基板9がエッチング処理部20に到達する直前で、基板温度調節手段40によってガラス基板9を加熱する。ガラス基板9の加熱設定温度は、35℃以上100℃以下に調節する(基板温度調節工程)。
加熱されたガラス基板9を処理領域22a内に搬入する。搬入の直前でガラス基板9を加熱することで、ガラス基板9が放熱しないうちに処理領域22a内に配置されるようにできる。したがって、断熱材等の保温手段を設けるべき範囲を縮小したり、保温手段を省略したりできる。
【0031】
処理領域22aにおいて、前記加熱されたガラス基板9の被処理面9aにプロセスガスが接触する。これによって、被処理面9a上でフッ化水素及び水蒸気が凝縮してフッ酸水の凝集層が形成される。このフッ酸水の凝集層とガラス基板9のシリコン含有物との間にエッチング反応が起きる。反応式は、例えば下式である。
SiO+4HF+HO→SiF+3HO (式2)
プロセスガスの露点を15℃~40℃とし、かつガラス基板9を加熱しておくことで、前記凝集層の厚みを確実に抑えることができる。
【0032】
この結果、被処理面9aに表面粗さRa=オングストロームオーダー~ナノオーダー、好ましくはRa=0.3nm~1nm程度の微小凹凸を形成することができる。
ガラス基板9が、歪点600℃~1000℃程度の高歪点ガラスであっても、ガラス基板9を加熱しておくことで、少ないエッチング量で所望の表面粗さRaを得ることができる。
プロセスガスを加熱する必要がないから、ノズル部21にガス加熱及び保温手段を組み込む必要がなく、装置構成を簡素化できる。
【0033】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、プロセスガスのフッ化水素は、プラズマ放電によって生成されるものに限られない。HF発生手段は、大気圧プラズマに限られず、コロナ放電でもよい。フッ化水素水溶液を気化させたガスをプロセスガスとしてもよい。フッ化水素水溶液をバブリングしドライエッチング処理する方式でも良い。
【実施例1】
【0034】
実施例を説明する。本発明が以下の実施例に限定されるものではない。
図1に示す装置1と実質的に同じ構成の表面処理装置を用いた。
被処理基板9として、歪点600~800℃の高歪点ガラスを用いた。
ガラス基板9の被処理面9aの初期(エッチング処理前)の表面粗さRaは、Ra=0.18nmであった。
ガラス基板9の幅(図1の紙面直交方向の寸法)は、370mmであった。
ガラス基板9の搬送方向(図1の左右方向)の長さは、470mmであった。
ガラス基板9の厚さは、0.7mmであった。
ガラス基板9の搬送速度は、6.0m/minであった。
赤外線加熱器41によるガラス基板9の加熱設定温度すなわち基板温度は、下記の4通りとした。
25℃(基板加熱無し)、35℃、55℃、125℃
前記加熱後の基板9を処理領域22aに通した。
【0035】
併行して、CFとArとHOを含むフッ素含有原料ガスをHF発生部10においてプラズマ化してプロセスガスを生成した。
フッ素含有原料ガスのCFの流量は0.8slmであり、Arの流量は11.2slmであった。
プロセスガスの供給流量は、12slmであった。
プロセスガスの露点は、30℃であった。
このプロセスガスをエッチング処理部20へ送り、吹出口21aから処理領域22aに供給することで、ガラス基板9の被処理面9aに接触させた。
【0036】
処理後のガラス基板9の被処理面9aの表面粗さRa及びエッチング量を測定した。
測定器としては、走査型プローブ顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式:AFM5100N)を用いた。
エッチング量は、処理前後のガラス基板9の重量から算出した。
【0037】
測定結果は、表1及び図3のグラフの通りであった。
基板加熱効果により液相の凝集層が厚くなり過ぎず、少ないエッチング量で高Raが発現した。基板温度を35℃以上100℃以下とすることによって、高歪点ガラス基板を確実かつ良好に表面粗化できることが確認された。
【0038】
【表1】
【0039】
図4は、基板温度125℃における、粗化処理後の被処理面9aを撮影した写真であり、図5は、そのAFM像である。
基板温度が100℃超であると、被処理面9aに白濁ないしは曇りが表出し、AFM像では表面が陥没、隆起しているのが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイの製造に適用できる。
【符号の説明】
【0041】
1 表面処理装置
9 被処理基板
9a 被処理面
20 処理部
26 プロセスガス供給手段
30 搬送手段
40 基板温度調節手段
41 赤外線加熱器
図1
図2
図3
図4
図5