(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】嚢胞性線維症の処置のための方法及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7088 20060101AFI20220301BHJP
C12N 15/113 20100101ALI20220301BHJP
A61K 31/713 20060101ALI20220301BHJP
A61K 31/7105 20060101ALI20220301BHJP
A61K 31/7115 20060101ALI20220301BHJP
A61K 31/712 20060101ALI20220301BHJP
A61K 31/7125 20060101ALI20220301BHJP
A61K 35/761 20150101ALI20220301BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 11/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
A61K31/7088
C12N15/113 Z ZNA
A61K31/713
A61K31/7105
A61K31/7115
A61K31/712
A61K31/7125
A61K35/761
A61K48/00
A61P11/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2017567701
(86)(22)【出願日】2016-07-01
(86)【国際出願番号】 EP2016065565
(87)【国際公開番号】W WO2017005646
(87)【国際公開日】2017-01-12
【審査請求日】2019-05-27
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2015/001253
(32)【優先日】2015-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】591100596
【氏名又は名称】アンスティチュ ナショナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】タバリー,オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】ソンヌヴィル,フロランス
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103948926(CN,A)
【文献】Biochimica et Biophysica Acta,2013年,Vol.1832,pp.2340-2351
【文献】Journal of Cystic Fibrosis,2015年06月,Vol.14, Suppl.1,p.S11, WS06.4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
C12N 15/00-15/90
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3の核酸配列を含む核酸miR-9インヒビターであって、
前記核酸miR-9インヒビターが、miR-9に直接結合しないが、代わりにANO1核酸配列のmiR-9mRNAターゲット部位に結合する、嚢胞性線維症を処置するための核酸miR-9インヒビター。
【請求項2】
配列番号3の核酸配列
を含む核酸miR-9インヒビターをコードする嚢胞性線維症を処置するためのウイルスベクターであって、
前記核酸miR-9インヒビターが、miR-9に直接結合しないが、代わりにANO1核酸配列のmiR-9mRNAターゲット部位に結合する、ウイルスベクター。
【請求項3】
配列番号3の核酸配列
を含む核酸miR-9インヒビターを含む嚢胞性線維症を処置するための医薬組成物であって、
前記核酸miR-9インヒビターが、miR-9に直接結合しないが、代わりにANO1核酸配列のmiR-9mRNAターゲット部位に結合する、医薬組成物。
【請求項4】
miR-9mRNAターゲット部位が、ANO1 3’UTRに局在する、
請求項1記載の核酸miR-9インヒビター、請求項2記載のウイルスベクター、又は請求項3記載の医薬組成物。
【請求項5】
核酸miR-9インヒビターが、ターゲット部位ブロッカー(TSB)である、
請求項1記載の核酸miR-9インヒビター、請求項2記載のウイルスベクター、又は請求項3記載の医薬組成物。
【請求項6】
核酸miR-9インヒビターが、LNAヌクレオチド、又はモルホリノヌクレオチド、又は2’-O-メチルで修飾されたヌクレオチド、又は2’-0-メトキシエチルで修飾されたヌクレオチド、又は2’-フルオロで修飾されたヌクレオチドを含む、
請求項1記載の核酸miR-9インヒビター、請求項2記載のウイルスベクター、又は請求項3記載の医薬組成物。
【請求項7】
核酸miR-9インヒビターが、ウイルスベクターを用いて送達される、請求項1記載の核酸miR-9インヒビター。
【請求項8】
ベクターが、AAVベクターである、請求項7記載の核酸miR-9インヒビター。
【請求項9】
核酸miR-9インヒビターを、被検者に、核酸miR-9インヒビターが肺に到達することを可能とする任意の好適な方法を用いて投与するための、
請求項1記載の核酸miR-9インヒビター、請求項2記載のウイルスベクター、又は請求項3記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嚢胞性線維症の処置のための方法及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
嚢胞性線維症(CF)は、CFTR Cl-チャネルをコードする遺伝子における変異によって引き起こされる遺伝性疾患である(Riordan, 1989)。CFは、いくつかの器官に影響を及ぼすが、最も重篤な被害は肺で観察される。CFにおける肺疾患の病変形成は未だ完全には理解されていない。CFにおけるCFTRチャネル機能の喪失は、病原性の高い細菌による気道表面のコロニー形成に有利に働く。しかしながら、これが起こる機構については今なお議論の余地がある。CFTRチャネル活性は確実に、粘液線毛クリアランスへの重要な寄与要因である。ENaCチャネルによる、CFTR依存的なCl-分泌とNa+吸収との微妙なバランスは、線毛周囲液(periciliary fluid、PCF)の濃さを制御する。機能性CFTRの非存在下では、液体吸収は分泌を凌ぐ。このアンバランスは気道表面を脱水させ、これにより線毛運動が損なわれる。不動化された粘液は次いで、細菌の生存及び増殖のためのニッチになる。代替的な塩素イオンチャネル(クロライドチャネル)の活性化は、嚢胞性線維症における興味深い治療的手法であり得る。この手法は、あらゆる患者にその遺伝子型に関わらず適用されることもあり得よう。その代わりに、CFTRを対象とする治療は突然変異特有であることが必要であり、変異のあらゆるクラスに適用可能でないかもしれない手法でなければならない。CF気道における代替的な塩素イオンチャネルの活性化は、粘液線毛クリアランスを改善して且つ抗微生物活性を回復させるのに必要なクロライド及びビカーボナート(重炭酸イオン)分泌のための経路を提供することにより有益となり得よう。20年よりさらに前に、気道上皮細胞は第二のタイプのCl-分泌経路を持つということが見出された。CFTRはcAMPによってレギュレーションされるが、前記第二の経路はサイトゾルのCa2+濃度の増加によって活性化される。ATP又はUTPなどのプリン作動性アゴニストで気道上皮を刺激することは、強いが一過性の、経上皮Cl-輸送の破壊を引き起こす。この効果は、細胞内備蓄からのCa2+の遊離と、細胞膜を通るCa2+の流入との両者に依存する。CF患者でCFTRに欠陥がないので、Ca2+で活性化されるCl-分泌はCFTRに非依存的である。興味深いことに、Ca2+依存性Cl-分泌の刺激は、PCFの濃さに対して陽性の効果を有する。この効果は、Ca2+依存性経路の刺激が、CFTR欠陥を補い得ることを示唆する。オーファンタンパク質TMEM16Aは、Ca2+で活性化される塩素イオンチャネル(CaCC)の成分として同定された。TMEM16Aは、アノクタミン-1(ANO1)としても公知であるが、それらの一次配列及び予測構造(8つの膜貫通型ドメイン)が他のアニオンチャネルのものと類似性のない10のメンバーからなるタンパク質ファミリーに属する。しかしながら、TMEM16A活性及び発現は、未知の機構によってCFコンテクストで低減されたことが以前の研究により示されている。
【発明の概要】
【0003】
[課題を解決するための手段]
本発明は、嚢胞性線維症の処置のための方法及び医薬組成物に関する。詳細には、本発明は請求項によって定義される。
【0004】
[発明を実施するための形態]
本発明者らの目的は、遺伝子発現を負にレギュレーションするmiRNAの役割を研究することによって、CFにおけるANO1の発現の低下の原因を理解することであった。したがって、本発明者らは、生物情報学的研究方法を実施し、ANO1をターゲッティングし得るmiRNAを調べて、気管支上皮細胞株におけるRT-qPCRによりmiRNA候補の発現レベルを評定した。本発明者らは、相関性実験を実施し、ANO1を過剰発現しているmiRNAの3’UTRに結合しているmiRNA候補を調べて、これらの条件でのANO1の発現を定量化した。本発明者らはまた、細胞遊走率(cell migration rate)、及びANO1をレギュレーションするmiRNAをモデュレーションしているANO1クロライド活性も評定した。本発明者らは、ANO1の潜在的レギュレーターとして、miR-9を含む異なるmiRNAを同定している。本発明者らは、miR-9がCF細胞において過剰発現されていること、並びにCF及び非CF細胞においてmiR-9が過剰発現されるとANO1発現及びルシフェラーゼ活性が低減することを観察した。さらに、本発明者らは、miR-9が過剰発現されると、細胞遊走率及びANO1クロライド活性が低減することを観察した。結論として、これらの結果はmiR-9がその3’UTRに対合することによってANO1を直接レギュレーションすること、並びにmiR-9のモデュレーションが、細胞遊走率及びANO1クロライド活性を変化させることを示した。
【0005】
したがって本発明の第一の目的は、それを必要とする被検者において嚢胞性線維症を処置する方法であって、その被検者に治療上有効量の核酸miR-9インヒビターを投与することを含む方法に関する。
【0006】
本願明細書で使用する場合、「被検者」の用語は、哺乳動物を意味する。本発明に係る被検者とは、嚢胞性線維症に苦しむか又は嚢胞性線維症に苦しむリスクのある、任意の被検者(好ましくはヒト)をいう。本発明の方法は、World Health Organisation Classificationに概説され、E84群:ムコビシドーシス、肺の症状を伴う嚢胞性線維症、腸内症状を伴う嚢胞性線維症、及び他の症状を伴う嚢胞性線維症から選択されるような任意のタイプの嚢胞性線維症に対して実施され得る。
【0007】
本願明細書で使用する場合、「ANO1」の用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、TMEM16Aとしても公知であるアノクタミン-1タンパク質をいう。ANO1は、それらの一次配列及び予測構造(8つの膜貫通型ドメイン)が他のアニオンチャネルのものと類似性のない10のメンバーからなるタンパク質ファミリーに属する。例示的なヒト核酸配列は、NCBI参照配列NM_018043.5(配列番号:1)である。
【0008】
【0009】
「miRNA」の用語は、一般的に21~22ヌクレオチドの長さの成熟マイクロRNA(非コーディング小RNA)分子をいい、19から23までのヌクレオチドの長さも報告されている。miRNAは各々、もっと長い前駆体RNA分子(「前駆体miRNA」:プリmiRNA及びプレmiRNA)からプロセッシングされる。プリmiRNAは、非タンパク質-コード遺伝子から転写されるか、又はタンパク質-コーディング遺伝子に埋設される(イントロン又は非コーディングエクソン内)かのいずれかである。「前駆体miRNA」は、不完全に塩基対合された幹を含むヘアピン構造に折り畳まれて、Drosha及びDicerと呼ばれる2つのリボヌクレアーゼIII型エンドヌクレアーゼにより動物において触媒される二工程でプロセッシングされる。プロセッシングされたmiRNA(「成熟miRNA」とも呼ばれる)は、翻訳を抑制するためにそれらのターゲットmRNAとそれらを会合させることのできる大きなリボヌクレオタンパク質複合体(RISC)を構築する。本発明に関する全てのmiRNAは自体公知であり、それらの配列はデータベースhttp://www.mirbase.org/cgi-bin/mirna_summary.pl?org=hsaから公に入手できる。本願明細書で使用する場合、「miR-9」マイクロRNA(miR-79に相同)は、遺伝子レギュレーションに関わる短い非コーディングRNA遺伝子である。21ヌクレオチド以下の成熟miRNA(~21nt miRNA)は、Dicer酵素によってヘアピン前駆体配列からプロセッシングされる。顕性成熟miRNA配列は、miR-9前駆体の5’腕から、及びmir-79前駆体の3’腕からプロセッシングされる。成熟生成物は、mRNAとの相補性によりレギュレーションの役割を有すると考えられる。miR-9の例示的な配列は、MiRBase参照配列MIMAT0000441(UCUUUGGUUAUCUAGCUGUAUGA=配列番号:2)に見出される。
【0010】
本願明細書に記載される場合、「核酸miR-9インヒビター」(すなわち、miR-9を阻害する核酸)は、miR-9の生物活性を低減する(すなわち、阻害する)、任意の核酸、例えば、オリゴヌクレオチドである。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR-9自体又はmiR-9のターゲットmRNA配列のいずれかの核酸配列の少なくとも一部分に相補的核酸配列を含み、miR-9の阻害はそれゆえ、miR-9への、又はそのターゲットmRNAへのインヒビターの結合によって引き起こされる。両方の場合で、miR-9はそのターゲット配列の認識及び結合が妨げられ、したがって、遺伝子サイレンシングを誘導できない。本発明の核酸miR-9インヒビターは、一本鎖の、二本鎖の、部分的に二本鎖の、又は本質的にヘアピンの構造を含み得る。
【0011】
いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9に結合する。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9に結合して隔離させ、そのターゲットmRNA配列にそれが結合することを妨げる。結合は、核酸miR-9インヒビターに存在する少なくとも1つのヌクレオチドと、miR-9に存在する対応ヌクレオチドとの間の相補的塩基対を介して、核酸miR-9インヒビター及びmiR-9の少なくとも一部分が共に、塩基対合された核酸二本鎖を確定するように生じる。前記相補的塩基対合(したがって、二本鎖形成)は、miR-9の2以上の連続するヌクレオチド(例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21の連続するヌクレオチド)の領域に亘って生じることができる。核酸miR-9インヒビターが(先に記載したような)miR-9に結合する際に形成される塩基対合された核酸二本鎖は、一以上のミスマッチ対合を含み得る。いくつかの実施形態では、相補的塩基対合された核酸二本鎖の2以上の領域(例えば3、4、5又は6)が形成され、ここで各領域は一以上のミスマッチ対合により次の領域から分離されている。本願明細書で使用する場合、「相補的」の用語は、Watson-Crick塩基対合で別の核酸分子と水素結合を形成する核酸分子をいう。Watson-Crick塩基対合とは、以下の水素結合されたヌクレオチド対合、すなわちA:T及びC:G(DNAの場合);並びにA:U及びC:G(RNAの場合)をいう。例えば、2以上の相補的核酸分子鎖は、同数のヌクレオチドを有する(すなわち、同じ長さを有し、オーバーハングを伴って又は伴わずに1つの二本鎖領域を形成する)か、又は異なる数のヌクレオチドを有する(例えば、一本の鎖が別の鎖よりも短いがその鎖内に完全に含まれ得るか、又は一本の鎖が他の鎖をオーバーハングし得る)ことができる。ミスマッチ対合は、A:U(RNAにおいて)、A:T(DNAにおいて)及びC:G(RNA及びDNA両方において)の水素結合された標準Watson-Crick塩基対の1つを共に形成しない任意の2つのヌクレオチド塩基の間で形成される。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR-9配列の少なくとも一部分に相補的な核酸配列を含む。核酸miR-9インヒビターは、miR-9の2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21の連続するヌクレオチドに相補的な核酸配列を含み得る。
【0012】
いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR-9の相補的(すなわち、アンチセンス)配列と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸配列を含む。本発明によれば、第二の核酸配列と少なくとも70%の同一性を有する第一の核酸配列とは、第一の配列が第二の核酸配列と70;71;72;73;74;75;76;77;78;79;80;81;82;83;84;85;86;87;88;89;90;91;92;93;94;95;96;97;98;99又は100%の同一性を有することを意味する。配列同一性は、百分率同一性(又は類似性若しくは相同性)に換算して測定されることが多く、その百分率が高いほど、それら2つの配列はより類似している。比較のための配列のアライメントの方法は当技術分野において周知である。種々のプログラム及びアライメントアルゴリズムが、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math., 2:482, 1981; Needleman and Wunsch, J. Mol. Biol., 48:443, 1970; Pearson and Lipman, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 85:2444, 1988; Higgins and Sharp, Gene, 73:237-244, 1988; Higgins and Sharp, CABIOS, 5:151-153, 1989; Corpet et al. Nuc. Acids Res., 16:10881-10890, 1988; Huang et al., Comp. Appls Biosci., 8:155-165, 1992; and Pearson et al., Meth. Mol. Biol., 24:307-31, 1994に報告されている。Altschul et al., Nat. Genet., 6:119-129, 1994は、配列アライメント方法及び相同性計算の詳細な考察を提示している。例として、アライメントツールALIGN(Myers and Miller, CABIOS 4:11-17, 1989)又はLFASTA(Pearson and Lipman, 1988)を使用して配列比較を実施してもよい(Internet Program(登録商標)1996, W. R. Pearson及びUniversity of Virginia, fasta20u63 version 2.0u63、1996年12月リリース)。ALIGNは互いに照らして全体の配列を比較するが、LFASTAは局所的類似性の領域を比較する。これらのアライメントツール及びそれらそれぞれのチュートリアルは、インターネット上、例えばNCSAウェブサイトにて入手可能である。あるいは、およそ30アミノ酸を上回るアミノ酸配列の比較のためには、デフォルトパラメータに設定されたデフォルトBLOSUM62マトリックス(11のギャップ存在コスト(gap existence cost)、及び1の残基当たりギャップコスト(gap cost))を用いたBlast 2配列機能を採用することができる。短いペプチド(およそ30アミノ酸を下回る)をアラインメントする際、Blast 2配列機能を用い、デフォルトパラメータに設定されたPAM30マトリックス(開始ギャップ(open gap)9、伸長ギャップ(extension gap)1ペナルティー)を採用してアラインメントを実施するべきである。BLAST配列比較システムは、例えばNCBIウェブサイトから入手可能であるが、Altschul et al., J. Mol. Biol., 215:403-410, 1990; Gish. & States, Nature Genet., 3:266-272, 1993; Madden et al. Meth. Enzymol., 266:131-141, 1996; Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25:3389-3402, 1997;及びZhang & Madden, Genome Res., 7:649-656, 1997も参照されたい。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR-9に相補的な配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR9の相補的(すなわち、アンチセンス)配列と最大でも10(例えば最大で10、9、8、7、6、5、4、3、2、又は1)のヌクレオチド位置で異なる核酸配列を含む。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、miR9の相補的(すなわち、アンチセンス)配列と最大でも5(例えば最大で4、3、2、又は1)のヌクレオチド位置で異なる核酸配列を含む。したがって、前記核酸配列は、限られた数のヌクレオチド位置で以外はmiR9の相補的(すなわち、アンチセンス)配列と同一である。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、先に記載したように、60(例えば55、50、45、40、35、30、又は25)ヌクレオチドの最高長を有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9antagomirである。本願明細書で使用する場合、「antagomir」は、(例えば、先に記載したように)相補的塩基対合を介して特有のターゲットマイクロRNAに結合するように設計されている核酸オリゴマーである。antagomirは、マイクロRNAターゲット配列に全体的又は部分的に相補的な配列を有し得る。antagomirは、一本鎖の、二本鎖の、部分的に二本鎖の、又はヘアピンの構造を有し得る。antagomirはさらに、(例えば、後に記載するように)化学的に修飾されたヌクレオチドをさらに含み得る。antagomirを設計及び生成するための方法は、当技術分野において公知である。
【0014】
いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9マイクロRNA-スポンジである。本願明細書で使用する場合、用語「マイクロRNA-スポンジ」は、特有のターゲットマイクロRNAに対する複数(例えば少なくとも2、3、4、5又は6)の結合部位を含む核酸である。したがって、マイクロRNA-スポンジは、複数のターゲットマイクロRNA分子を結合して隔離させることができる。マイクロRNA スポンジは、ベクター(例えばウイルスベクター又はプラスミドベクター)から発現されるmRNAを含み得る。マイクロRNA-スポンジにおける、ターゲットマイクロRNAに対する複数の結合部位の存在により、スポンジが水を吸い上げると同じようにマイクロRNAが吸収されることが可能になる。マイクロRNA-スポンジは、(例えば、先に記載したように)相補的塩基対合を介してターゲットマイクロRNAを結合し得る。したがって、マイクロRNA-スポンジは複数(例えば少なくとも2、3、4、5又は6)の核酸配列を含み得、各配列はマイクロRNAターゲット配列の少なくとも一部分に相補的である。マイクロRNA-スポンジは複数(例えば少なくとも2、3、4、5又は6)の核酸配列を含み得、各配列はマイクロRNAターゲット配列に相補的である。マイクロRNA-スポンジを設計及び生成するための方法は、当技術分野において公知である。いくつかの実施形態では、2以上の核酸配列を含み、当該2以上の核酸配列の各々がmiR9の相補的(すなわち、アンチセンス)配列と少なくとも70%の配列同一性を有する核酸miR-9インヒビターが、miR-9マイクロRNA スポンジである。
【0015】
したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9に直接結合しないが、代わりにANO1核酸配列のmiR-9mRNAターゲット部位に結合する。これは、(例えば、立体障害により)前記ターゲット部位をブロッキングする効果、miR-9によるその認識及び結合を妨げる効果、並びに、したがってmiR-9及びその作用を阻害する効果を有する。mRNAターゲット部位へのmiR-9の結合とは対照的に、本発明の核酸miR-9インヒビターのmiR-9mRNAターゲット部位への結合は(例えばmRNA分解又は翻訳抑制による)前記ターゲットmRNAの遺伝子サイレンシングを誘導しない。いくつかの実施形態では、miR-9mRNAターゲット部位はANO1 3’UTRに局在する。いくつかの実施形態では、miR-9インヒビターはターゲット部位ブロッカー(TSB)である。核酸miR-9インヒビターのmiR-9mRNAターゲット部位への結合は、先に記載したように相補的塩基対合を介して生じ得る。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターとmiR-9mRNAターゲット部位との間の結合は、核酸miR-9インヒビターに存在する少なくとも1つのヌクレオチドと、miR-9mRNAターゲット部位に存在する対応ヌクレオチドとの間の相補的塩基対を介して、核酸miR-9インヒビター及びmiR-9mRNAターゲット部位の少なくとも一部分が共に、塩基対合された核酸二本鎖を確定するように生じる。前記相補的塩基対合(したがって、二本鎖形成)は、miR-9mRNAターゲット部位の2以上の連続するヌクレオチド(例えば3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20又は21の連続するヌクレオチド)の領域に亘って生じることができる。核酸miR-9インヒビターが(先に記載したような)miR-9mRNAターゲットに結合する際に形成される塩基対合された核酸二本鎖は、一以上のミスマッチ対合を含み得る。いくつかの実施形態では、相補的塩基対合された核酸二本鎖の2以上の領域(例えば3、4、5又は6)が形成され、ここで各領域は一以上のミスマッチ対合により次の領域から分離されている。いくつかの実施形態では、mRNAターゲット部位はターゲットANO1 mRNAの3’UTR(非翻訳領域)に局在する。核酸miR-9インヒビターがmiR-9mRNAターゲット部位への結合についてmiR-9と競合するいくつかの実施形態では、核酸は核酸配列TTTTCTCCGTCTTTGGGACCT(配列番号:3)を含む。したがって、前記核酸配列は、miR-9の種(seed)領域によってターゲッティングされる場所で相補的結合を介してANO1のmiR-9mRNAターゲット部位に結合することとなり、したがって、miR-9が結合するのを妨げる。
【0016】
いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターはmiR-9に対してターゲッティングされる小干渉(small interfering)RNA(siRNA)である。本願明細書で使用する場合、「siRNA」の用語は当技術分野におけるその一般的な意味を有し、二本鎖干渉RNAをいう。本発明の方法において有効なsiRNAは、およそ17ヌクレオチドからおよそ29ヌクレオチドまでの長さ、好ましくはおよそ19からおよそ25ヌクレオチドの長さの、短い二本鎖RNAを含む。siRNAは、センスRNA鎖、及び標準Watson-Crick塩基対合相互作用(以下、「塩基対合」)により一緒にアニーリングされた相補的アンチセンスRNA鎖を含む。センス鎖は、ターゲットmiRNA内に含まれる核酸配列と実質的に同一である核酸配列を含む。本願明細書で使用する場合、ターゲットmRNA内に含まれるターゲット配列と「実質的に同一である」siRNA中の核酸配列は、そのターゲット配列である同一である核酸配列であるか、又はターゲット配列と1若しくは2つのヌクレオチドが異なる核酸配列である。siRNAのセンス及びアンチセンス鎖は、2本の相補的一本鎖RNA分子を含み得るか、又は2つの相補的部分が塩基対合されて一本鎖の「ヘアピン」区域により共有結合された単一分子を含み得る。siRNAは、1以上のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は改変によって天然のRNAと異なる改変RNAでもあり得る。このような改変としては、siRNAの末端へ、若しくはsiRNAの1以上の内部ヌクレオチドへ、などの非ヌクレオチド材料の付加、又はsiRNAをヌクレアーゼ消化に耐性とする修飾、又はsiRNA中の1以上のヌクレオチドのデオキシリボヌクレオチドでの置換を挙げることができる。siRNAの1本又は両方の鎖は、3’オーバーハングも含み得る。本願明細書で使用する場合、「3’オーバーハング」とは、二本鎖形成RNA鎖の3’端から伸張している少なくとも1つの否対合ヌクレオチドをいう。したがって、1つの実施形態では、siRNAは、1からおよそ6ヌクレオチド(リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドを包含する)の長さ、好ましくは1からおよそ5ヌクレオチドの長さ、より好ましくは1からおよそ4ヌクレオチドの長さ、特に好ましくはおよそ2からおよそ4ヌクレオチドの長さの、少なくとも1つの3’オーバーハングを含む。好ましい実施形態では、3’オーバーハングはsiRNAの両方の鎖に存在し、2ヌクレオチドの長さである。例えば、siRNAの各鎖は、ジチミジル酸(「TT」)又はジウリジル酸(「uu」)の3’オーバーハングを含み得る。
【0017】
本発明の核酸miR-9インヒビターは、リボ核酸(RNA)若しくはデオキシリボ核酸(DNA)であっても、又はRNA及びDNAの両方を含んでいてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターは、RNAを含む。いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターは、DNAを含む。別段に示さない限り、本明細書における核酸配列は5’-3’方向に記載されている。当業者により理解されるであろうように、RNAとして記載されヌクレオチドUを含んでいる核酸配列は、UをTで置換することにより同様にDNAとして記載され得る。核酸(1または複数)及び/又はヌクレオチド(1または複数)に含まれるものとして、修飾された核酸(1または複数)及び修飾されたヌクレオチド(1または複数)が挙げられる。例えば、核酸又はヌクレオチドは、当該核酸又はヌクレオチドの安定性を高めるために、例えばヌクレアーゼ分解への抵抗性を改善することにより修飾され得る。いくつかの実施形態では、修飾された核酸は、ロックド(locked)核酸(LNA)ヌクレオチドを含む。より詳細には、LNAヌクレオチドのリボース部分は、2’酸素と及び4’炭素とを繋ぐ余分な架橋で修飾される。架橋は、3’-エンド(North)コンフォメーションにおけるリボースを「ロックする」が、これは多くの場合Aフォーム核酸二本鎖に見出される。LNAヌクレオチドは、オリゴヌクレオチド中のDNA又はRNA残基と所望の時点で混合されることができる。ロックされたリボースコンフォメーションは、塩基スタッキング及び骨格プレ-組織化を増強する。これは有意に、オリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーション特性(融点)を高める。修飾されたヌクレオチドの他の例として、2’-メトキシエトキシ(MOE)ヌクレオチド;2’-メチル-チオ-エチル、2’-デオキシ-2’-フルオロヌクレオチド、2’-デオキシ-2’-クロロヌクレオチド、2’-アジドヌクレオチド、及び2’-0-メチルヌクレオチドが挙げられる。本発明の核酸分子は1以上のコレステロール部分にコンジュゲーションされてもよい。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、又は4)のコレステロール部分にコンジュゲーションされる。本発明の核酸miR-9インヒビターは、そのヌクレオチド全てが修飾されたヌクレオチドであるように構築され得る。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは、修飾されたヌクレオチドからなる。いくつかの実施形態では、前記修飾されたヌクレオチドは、LNAヌクレオチド、又は2’-O-メチルで修飾されたヌクレオチド、又は2’-0-メトキシエチルで修飾されたヌクレオチド、又は2’-フルオロで修飾されたヌクレオチドからなる。いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターは合成2’-O-メチルRNAオリゴヌクレオチドであり、miRNAが会合した遺伝子サイレンシング複合体へのより強い結合でmiR-9ターゲットmRNAと競合する。核酸類似体は、3つの部分:ホスファート骨格、パッカー形状の(pucker-shaped)ペントース糖、リボース又はデオキシリボースの片方、及び4種のヌクレオベースのうちの1つからなる。類似体は、改変されたこれらの何れを有してもよい。典型的には、類似体ヌクレオ塩基はとりわけ、異なる塩基対合及び塩基スタッキング妥当性を与える。例としては、ユニバーサル塩基で、全ての4種の基準塩基と対合できるもの、及びPNAなどのホスファート-糖骨格類似体で、鎖の特性に影響を及ぼすものが挙げられる。人工的核酸としては、ペプチド核酸(PNA)、モルホリノ及びLNA、さらにはグリコール核酸(GNA)及びトレオース核酸(TNA)が挙げられる。これらの各々は、分子の骨格への変化により天然のDNA又はRNAから識別される。したがって、いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターは、ペプチド核酸(PNA)、グリコール核酸(GNA)、トレオース核酸(TNA)、及びモルホリノから選択される核酸類似体である。(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターは、少なくとも1つ(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18又は20)の修飾されたホスホジエステル結合を含み得る。いくつかの実施形態では、修飾されたホスホジエステル結合はホスホロチオエート結合である。いくつかの実施形態では、全てのホスホジエステル結合は修飾されたホスホジエステル結合である。
【0018】
本発明の核酸分子は、当技術分野において公知の任意の好適なプロセスを用いて作成され得る。したがって、核酸分子は化学合成技術を用いて作成され得る。あるいは、本発明の核酸分子は分子生物学技術を用いて生成され得る。
【0019】
一つの態様では、本発明は先に記載したように核酸miR-9インヒビターをコードする核酸配列を含む核酸ベクターを提供する。例えば、本発明の核酸分子は、ウイルスベクターを用いてターゲット細胞内へと送達され得る。ウイルスベクターは、ウイルスベクターとして働くことのできる任意のウイルスであり得る。好適なウイルスは、ターゲット細胞に感染させ、インビトロで増殖させることができ、また当技術分野において公知のリコンビナントヌクレオチド技術により修飾されることができるものである。したがって、一つの態様では、本発明は(先に記載したような)miR-9の核酸インヒビターをコードしている核酸配列を含むウイルスベクターであって、被検者において嚢胞性線維症の予防又は治療で使用するためのウイルスベクターを提供する。本発明での使用に好適なウイルスベクターとしては、ポックスウイルスベクター(非複製ポックスウイルスベクターなど)、アデノウイルスベクター、及びアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターが挙げられる。本願明細書で使用する場合、「非複製ウイルスベクター」は、ターゲット細胞の感染後に生産的に複製する能力を欠くウイルスベクターである。したがって、非複製ウイルスベクターがターゲット細胞(非複製ウイルスベクターを用いてワクチン接種を受けている個体中のヒトターゲット細胞など)の感染後にそれ自体のコピーを生成する能力は、極めて低減されるか又は存在しない。このようなウイルスベクターは、弱毒性又は複製欠損とも呼ばれ得る。その原因は、ターゲット細胞において複製に必須の遺伝子の欠損/欠失である可能性がある。したがって、非複製ウイルスベクターはターゲット細胞の感染後にそれ自体のコピーを事実上生成することができない。非複製ウイルスベクターはそれゆえ、有利なことに複製能のあるウイルスベクターと比べて向上した安全性プロファイルを有し得る。非複製ウイルスベクターは、ターゲット細胞でない細胞において複製する能力を保持し得、ウイルスベクター生成が可能となる。例として、非複製ウイルスベクター(例えば、非複製ポックスウイルスベクター)は、哺乳類細胞(例えば、ヒト細胞)などのターゲット細胞において生産的に複製する能力を欠くかもしれないが、鳥細胞(例えば、ニワトリ胚線維芽細胞、すなわちCEF細胞)において複製する能力を保持し得る(このためベクター生成が可能となる)。いくつかの実施形態では、非複製ポックスウイルスベクターは、修飾された牛痘ウイルスアンカラ(MVA)ベクター、NYVAC牛痘ウイルスベクター、カナリア痘(ALVAC)ベクター、及び鶏痘(FPV)ベクターから選択される。MVA及びNYVACは両方とも牛痘ウイルスの弱毒性誘導体である。牛痘ウイルスと比較して、MVAはおよそ200のオープンリーディングフレームのおよそ26を欠いている。いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターは非複製アデノウイルスベクター(非複製は先に定義したとおり)である。アデノウイルスは、El、又は両El及びE3遺伝子領域の欠失により非複製とされることができる。いくつかの実施形態では、アデノウイルスベクターは、ヒトアデノウイルスベクター、サルアデノウイルスベクター、B群アデノウイルスベクター、C群アデノウイルスベクター、E群アデノウイルスベクター、アデノウイルス6ベクター、PanAd3ベクター、アデノウイルスC3ベクター、ChAdY25ベクター、AdC68ベクター、及びAd5ベクターから選択される。
【0020】
本発明によれば、核酸miR-9インヒビターは被検者に、核酸miR-9インヒビターが肺に到達することを可能とする任意の好適な方法を用いて投与される。(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターが、当技術分野において公知の任意の好適な手段によって被検者に投与されてもよい。いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターが、被検者に全身に投与される(すなわち、全身投与を介する)。したがって、いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターが循環系に入って身体の至るところに分布させられるように、被検者に投与される。いくつかの実施形態では、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビターが、局所投与により、例えば肺に局所投与により被検者に投与される。
【0021】
いくつかの実施形態では、1以上の治療的組成物を上気道及び/又は下気道内に導入するように適合された任意のデバイスによって核酸miR-9インヒビターが送達される。デバイスは、液体の微細分散ミスト、泡、又は粉末の形態で本発明の治療的組成物を送達するように適合され得る。デバイスは、吸入に好適なミストを生成するためにテープなどの表面に付着された粉末を取り除く圧電効果又は超音波振動を使用し得る。デバイスは、ポンプ、液化ガス、圧縮ガスなどが挙げられる(これらに限定されない)当業者に公知の任意の推進(propellant)システムを使用し得る。本発明のデバイスは、典型的には治療的組成物の流れが通過する1つ以上のバルブと、その流れを制御するためのアクチュエータとを備えた容器を含む。本発明の構築体を投与するのに好適なデバイスとしては、吸入器及びネブライザーが挙げられる。種々のデザインの吸入器が市販されており、本発明の医薬を送達するのに採用され得る。これらとして、Accuhaler、Aerohaler、Aerolizer、Airmax、Autohaler、Clickhaler、Diskhaler、Easi-breathe吸入器、Fisonair、Integra、Jet吸入器、Miat-haler、Novolizer吸入器、Pulvinal吸入器、Rotahaler、Spacehaler、Spinhaler、Syncroner吸入器及びTurbohalerデバイスが挙げられる。したがって、いくつかの実施形態では、核酸miR-9インヒビターの完全性が維持されるという条件で、送達はネブライザー又は他のエアロゾル適用デバイスによって行なわれる。
【0022】
核酸miR-9インヒビターは、ボーラス送達などの単一送達にて被検者に投与されてもよい。あるいは、核酸miR-9インヒビターは、定時注入などの継続送達技術を用いて被検者に投与されてもよい。核酸miR-9インヒビターは、反復送達処方計画を用い、例えば時間ごと、日ごと、又は週ごとの基準で投与されてもよい。核酸miR-9インヒビター投薬は、単回又は複数回投与により成し遂げられてもよい。例として、核酸miR-9インヒビターは、単回投与からなる処方計画にて被検者に投与されてもよい。あるいは、核酸miR-9インヒビターは、複数回投与を含む処方計画にて被検者に投与されてもよい。例えば、投与処方計画は、1日あたり複数回投与、又は毎日、毎週、隔週、又は毎月の投与を含み得る。処方計画例は、最初の投与と、毎週又は隔週間隔でそれに続く複数回の後投与を含む。別の処方計画例は、最初の投与と、毎月又は隔月間隔でそれに続く複数回の後投与を含む。あるいは、核酸miR-9インヒビターの投与は、被検者におけるCF症候のモニタリングによってガイドされることができる。したがって、処方計画の例は、最初の投与と、被検者におけるCF症候のモニタリングによって決定されるような不規則なベースで実施される、それに続く複数回の後投与を含む。核酸を送達するための方法は、当技術分野において公知であり、当業者には珍しくないものであろう。例として、好適な核酸送達方法は、イオン泳動、ミクロスフェア(例えば、生体接着性ミクロスフェア)、ナノ粒子、樹状ポリマー、リポソーム、ヒドロゲル、シクロデキストリン、及びタンパク質性のベクターを含む。
【0023】
先に記載したような「治療上有効量」の核酸miR-9インヒビターが意味するのは、治療効果に達するのに十分な量の当該インヒビターである。しかしながら、本発明の化合物及び組成物の毎日の総使用量は、信頼できる医学的判断の範囲内で担当医により決定されることになる点は理解されるであろう。誰か特定の被検者に対する具体的な、治療上有効な用量レベルは、処置される障害及び障害の重症度;採用される具体的な化合物の活性;採用される具体的な組成物;被検者の年齢、体重、総体的な健康、被検者の性別及び食事;採用される具体的な化合物の投与の時間、投与経路、及び排泄速度;処置の継続期間;用いられる具体的なインヒビターと組み合わせて、又は同時に用いられる薬物;その他同種類の、医学分野において周知の因子を含む、様々な因子に依存するものであろう。例えば、所望の治療効果を成し遂げるのに必要とされるよりも低いレベルで化合物の用量を始めて、及び所望の効果が成し遂げられるまで投薬量を徐々に増加することは、充分に当技術分野の技術の範囲内である。しかしながら、生成物の毎日の投薬量は、成人一人1日あたり0.01から1、000mgまでの広い範囲に亘って変動され得る。典型的には、処置すべき被検者への投薬量の対症調整(symptomatic adjustment)のために、組成物は0.01、0.05、0.1、0.5、1.0、2.5、5.0、10.0、15.0、25.0、50.0、100、250及び500mgの有効成分を含有する。医薬は、典型的にはおよそ0.01mgからおよそ500mg有効成分、好ましくは1mgからおよそ100mgの有効成分を含有する。有効量の薬物は通常、1日あたり0.0002mg/kgからおよそ20mg/kg体重までの、とりわけ1日あたりおよそ0.001mg/kgから7mg/kg体重までの投薬量レベルで供給される。
【0024】
被検者への投与のために、核酸miR-9インヒビター(又は当該核酸miR-9インヒビターをコードするウイルスベクター)は、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビター又は(先に記載したような)ウイルスベクターを(有効成分として)含む医薬組成物として製剤化され得る。このような医薬組成物は、核酸miR-9インヒビター又はウイルスベクターを薬学的に許容し得る担体と組み合わせることによるなど、医薬組成物を調製するための公知の方法に従って製剤化されることができる。薬学的に許容し得る担体の限定を意図しない例としては、水、生理食塩水及びホスファート緩衝生理食塩水が挙げられる。薬学的に許容し得る担体に加えて、医薬組成物はさらに1種以上の塩、賦形剤、希釈剤、アルブミン、免疫調節剤及び/又は抗菌性化合物と組み合わせられることができる。薬学的に許容し得る塩は、例えば塩化水素酸若しくはリン酸などの無機酸で、又は酢酸、シュウ酸、酒石酸、マレイン酸などの有機酸で形成される酸付加塩を含む。遊離カルボキシル基で形成される塩は、例えばナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、又は水酸化第二鉄などの無機塩基や、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基に由来するものでもよい。好適な賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなど、及びこれらの組み合わせである。加えて、必要に応じ、医薬組成物は、湿潤又は乳化剤、及び/又はpH緩衝剤などの助剤物質を少量含有し得る。緩衝剤の例としては、コハク酸ナトリウム(pH6.5)、及びリン酸緩衝生理食塩水(PBS;pH6.5及び7.5)が挙げられるが、これらに限定されない。したがって、一つの態様では、本発明は、(先に記載したような)核酸miR-9インヒビター又は(先に記載したような)ウイルスベクター及び薬学的に許容し得る担体を含有する医薬組成物を提供する。医薬組成物は、5%~95%の核酸miR-9インヒビター又はウイルスベクターを、少なくとも10%、少なくとも25%、少なくとも40%、又は少なくとも50、55、60、70若しくは75%など含有し得る。
【0025】
本発明は、以下の図面及び実施例によりさらに例証される。しかしながら、これらの実施例及び図面は、本発明の範囲を何ら限定するよう解釈されるべきでない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】ANO1 mRNAのダウンレギュレーションとmiR-9のアップレギュレーションは、ヒト気管支上皮細胞株において相関している。a/非CF(16HBE14o-;n=5)及びCF(CFBE41o-;n=6)ヒト気管支上皮細胞におけるANO1 mRNAの相対的発現レベル。データは、qRT-PCRにより定量化され、標準化されたコントロールと比較した変化倍数として表す。b/qRT-PCRによって測定される、非CF及びCF気管支上皮細胞株におけるmiR-9発現。相対的発現レベルは、RNU6Bに標準化された。データは平均±SDとして表され、t検定により比較された。全てのqRT-PCR実験は、三重に実施された。c/非CF及びCF気管支上皮細胞株における、miR-9とANO1 mRNA発現レベルとの間の負の相関(ピアソンの相関分析p=0.012)。
【
図2】miR-9は、ANO1発現、ANO1クロライド活性及び非CF細胞の遊走率をレギュレーションする。非CF細胞(16HBE14o-)を48時間、miR-9の擬似物(30nM)又は負のコントロールでトランスフェクションした。a/ANO1 mRNA発現をRT-qPCRで分析してGAPDH(n=3)に標準化した。b/ANO1タンパク質発現を抗ANO1抗体及びβ-アクチンに標準化された(n=3)を用いたウェスタンブロットによって分析した。c/ハロゲン化物感受性YFP-H148q/I152Lタンパク質のI
-クエンチングによって評価されたANO1塩素イオンチャネル活性。mir-9の擬似物又は負のコントロール(n=8、三重)でトランスフェクションした非CF細胞のANO1クロライド活性の代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。d/miR-9の擬似物又は負のコントロール(左)でトランスフェクションした非CF細胞の創傷閉鎖を4時間撮った代表的な画像、及び修復中の遊走率の定量化結果(n=5)。
【
図3】非CF及びCF細胞においてmiR-9は直接、ANO1 3’UTRをターゲティングする。a/miR-9の擬似物(擬似miR-9)又は負のコントロール(コントロール)でコトランスフェクションされた、ルシフェラーゼ-3’UTR ANO1ベクターで、又はmiR-9結合部位に対して突然変異されたルシフェラーゼ-3’UTR ANO1ベクターで、一過性にトランスフェクションされた非CF細胞(16HBE14o-)における相対的ルシフェラーゼ活性。ホタルルシフェラーゼ活性は、ウミシイタケルシフェラーゼ活性に標準化された(n=3、8の複製物)。b/miR-9のインヒビター(inh miR-9)又は負のコントロール(コントロール)でコトランスフェクションされた、ルシフェラーゼ-3’UTR ANO1ベクターで、又はmiR-9結合部位に対して突然変異されたルシフェラーゼ-3’UTR ANO1ベクターで、一過性にトランスフェクションされた非CF細胞(CFBE41o-)における相対的ルシフェラーゼ活性。ホタルルシフェラーゼ活性は、ウミシイタケルシフェラーゼ活性に標準化された(n=3、8の複製物)。ヒストグラムは平均値±SDを表し、及びt検定によって比較された。
【
図4】特有のTSBは、CF細胞のANO1発現、クロライド活性及び遊走率を増加させる。CF細胞(CFBE41o-)を24時間、コントロールLNA(コントロール)又はANO1 TSBでトランスフェクションした。a/抗ANO1抗体を用いてウェスタンブロットによりANO1タンパク質発現を分析及び定量化して、β-アクチン(n=4)に標準化した。b/培地にI
-を注入した後のYFP-H148Q/I152Lタンパク質クエンチングの動態。YFP-H148Q/I152Lでトランスフェクションして24時間後に、画像に示すようにプラスミド細胞をコントロール又はANO1 TSBで選択的にミクロインジェクションする。c/ANO1 TSB又は負のコントロール(n=8、三重)でトランスフェクションし、そして非CF細胞(16HBE14o-)と比較したCF気管支上皮細胞のANO1クロライド活性の、代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。d/CF細胞の修復中の遊走率。CF細胞の創傷閉鎖を4時間撮った代表的な画像(左)、及び定量化結果(右)(n=5)。スケールバー10μm。ヒストグラムは平均値±SDを表し、t検定によって比較された。
【
図5】特有のTSBは、初代CF細胞のANO1発現、クロライド活性及び遊走率を増加させる。初代ヒト気管支上皮細胞(hAECB)、及びCF(F508del/F508del)患者からの気管支生検より単離され、完全に分化したヒト気管支の気液インターフェース培養物を、コントロールLNA(コントロール)又はANO1 TSBで3日間毎日トランスフェクションした。a/CF患者より単離されたヒト気管支の細胞においてトランスフェクションされた、フルオレセインがコンジュケーションされたTSBの共焦点顕微鏡分析(緑色)。核をDAPI(青色)で染色し、マージされた画像を示す。スケールバー10μm。b/抗ANO1抗体を用いてウェスタンブロットによりANO1タンパク質発現を分析及び定量化して、β-アクチン(n=6)に標準化した。c/ANO1 TSB又は負のコントロール(n=4)でトランスフェクションしたhAECBCF細胞のANO1クロライド活性の、代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。d/初代CF細胞の修復中の遊走率。CF細胞の創傷閉鎖を4時間撮った代表的な写真(左)、及び定量化結果(右)(n=4)。スケールバー20μm。e/トランスフェクションから30日後の、粘液動力学に対するコントロール又はANO1 TSBの効果。100ビーズの動きを各条件につき定量化し、平均速度をμm/msで求めた。スケールバー40μm。ヒストグラムは平均値±SDを表し、t検定によって比較された。
【
図6】特有のTSBの使用は、マウスにおいて良好に寛容化されており、CFマウスにおけるANO1クロライド活性を増加させる。a/コントロールLNA(コントロール)又はANO1 TSBでトランスフェクションされたMLE15細胞の、ANO1クロライド活性の代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。b/CFマウスについての実験の計画。コントロール又はANO1 TSBの鼻腔内滴下注入をマウス収容後7日及び14日に行い、第21日に殺処分した。c/収容の日からのマウスの成長曲線。矢印は、鼻腔内滴下注入を表す。d/ANO1 TSB又は負のコントロールを滴下注入されたCFマウスより単離された細胞のANO1クロライド活性の、代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。
【
図7】特有のTSBは、ヒト嚢胞性線維症気管支の腺細胞のANO1クロライド活性を増加させる。ヒト嚢胞性線維症気管支の腺細胞(KM4)を24時間、コントロールLNA(コントロール)又はANO1 TSBでトランスフェクションした。CF気管支の腺細胞のANO1クロライド活性の、代表的トレース及び元のトレース(左)、並びに定量化結果(右)。定量化結果は、24ウェル/実験/条件で、3回の異なる実験から得られた。
【実施例】
【0027】
材料及び方法
miRNAターゲット遺伝子のバイオインフォーマティクス分析
ANO1発現のレギュレーションにおけるmiRNAの役割は、コンピューターでの研究を用いて検討されており、ANO1の3’UTRが様々なmiRNAによって認識される数多くの種領域を含むと予測されることが示されている。ANO1 mRNAに対して予測される推定上のmiRが同定され、オンラインターゲット予測アルゴリズム:Targetscan(http://www.targetscan.org)、Pictar(http://pictar.mdc-berlin.de)、miRDB(http://mirdb.org/miRDB)及びmiRANDA(http://www.microrna.org)を用いて比較された。NCBI及びEnsemblゲノムブラウザ(http://www.ensembl.org/index.html)は、ヒトANO1遺伝子の情報(NM_018043;ENST00000355303)を提供していた。
【0028】
細胞培養
ヒト気管支上皮細胞株16HBE14o-(非CF)及びCFBE41o-(CF)は、Dr. D.C. Gruenert(San Francisco, CA, USA)からの贈与により得られ、10%ウシ成長血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含有するMEMにおいて培養された。細胞培養物を5%CO2加湿インキュベーター中で37℃生育及び維持した。初代ヒト気管支上皮細胞(hAECB)は、完全に分化したヒト気管支の気液インターフェース培養物(MucilAir(商標名)であり、CF(F508del/F508del)患者からの気管支生検より単離されて、Epithelix SARL(Geneva, Switzerland)から購入され提供者の指示に従って培養された。
【0029】
細胞トランスフェクション:擬似、インヒビター及びターゲット部位ブロッカー
HiPerfect(Qiagen, France)を30nMで用い、製造業者の指示に従ってmiR-9擬似、miR-9インヒビター又は負のコントロール(Thermo Fischer Scientific、フランス)で非CF及びCF細胞株をトランスフェクションした。トランスフェクションから48時間後に、miRNA及びRNA抽出、又はタンパク質抽出のために細胞を溶解させた。ANO1 3’UTR(ANO1 TSB)においてmiR-9ターゲット部位と重なるように設計されたLNA-増強オリゴヌクレオチド(LNA-enhanced oligonucleotide)で、又はmiRCURY LNA(ロックド核酸)マイクロRNAインヒビター負コントロール(LNAコントロール)(Exiqon, Denmark)で、Interferin(Polyplus, Ozyme, France)を用いてCF細胞株をトランスフェクションした。トランスフェクションから24時間後、タンパク質抽出のために細胞を溶解し、又はクロライド活性若しくは遊走アッセイ法のための実験を実施した。LNAコントロール又はTSB ANO1を含有し何らトランスフェクション試薬を含有しない培地を、ALI(気液インターフェース)細胞の上部区画(upper compartment)に添加してhAECB細胞をトランスフェクションした。2時間後に37℃で、上部区画から培地を除去してALI条件を復活させた。新たに調製したLNAコントロール又はTSB ANO1を3日間、毎日添加して、ANO1発現、ANO1クロライド活性及び遊走を処置後24時間で評価した。
【0030】
ルシフェラーゼアッセイ法
これらの実験のために、本発明者らはANO1-3’UTR-pMirTargetベクタールシフェラーゼプラスミド(Origene Technologies, Rockville, USA)、及びmiR-9(MIMAT0000441)の種領域で突然変異誘発された、突然変異ANO1 3’UTR-pMirベクターを用いた。CF及び非CF細胞を24ウェルプレートに播種して、Exgen 500(Euromedex, France)を用いて0.5μg pMirベクター及び0.1μgウミシイタケルシフェラーゼベクターを翌日にトランスフェクションした。細胞を30nMのmiR-9擬似物、miR-9のインヒビター又は負のコントロール(Thermo Fischer Scientific, France)でコトランスフェクションした。トランスフェクション後48時間で溶解液を調製し、ルシフェラーゼアッセイシステム(Promega, France)を用いてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼの両方をアッセイした。ホタルルシフェラーゼ活性はウミシイタケルシフェラーゼ活性に標準化された。
【0031】
RNA及びmiRNA抽出及び定量的RT-PCR(qRT-PCR)分析
Macherey-Nagelキット(Dueren, Germany)を用いてRNA及びmiRNAを抽出した。20ng miRNA試料を用いて、TaqMan MicroRNA Assayキット(Thermo Fischer Scientific)でヒトmiR-9及びRNU6Bに対して逆転写(RT)を実施した。1μgのRNA試料を用いて、High Capacity cDNA Reverse Transcriptionキット(Thermo Fischer Scientific)でANO1及びGAPDHに対するRTを行った。ABI StepOnePlus(商標名)(Thermo Fischer Scientific)及びTaqMan技術を用いて定量的PCRを実施した。相対的定量化のため、2-ΔΔCt法を用いて算出されたANO1 mRNAレベルは、GAPDH、及びそれぞれの非CFモデルの発現レベルに標準化され、miR-9レベルはRNU6Bに対して標準化された。各試料は三重に評価され、実験の質を裏付けた。
【0032】
ウェスタンブロット分析
以前に詳説されるように、20μg総タンパク質抽出物を還元して8%SDS-ポリアクリルアミドゲルにてサイズで分離し、その後PVDF膜(Bio-Rad, Marnes-la-Coquette, France)に転写して、5%BSA(PAA, Les Mureaux, France)中でブロッキングした。次に、その膜をANO1に対する特異的一次抗体(Abcam, Paris, France)及びβ-アクチン(Sigma, Saint Quentin Fallavier, France)とインキュベーションした。関心対象のタンパク質を検出し、画像化してれまでに報告されたように定量化した。
【0033】
遊走アッセイ法
遊走アッセイ法は、2つの単層間に均一な創傷を提供する特有の創傷アッセイチャンバ(Ibidi, Biovalley, Marne la Vallee, France)を用いて実施された。72時間以内でコンフルエント層を生成する一定数の細胞が、Ibidi(登録商標)シリコーン培養インサートの各ウェルに播種された。細胞を37℃で5%CO2にてインキュベーションした。24時間後、細胞をmiR-9の擬似物又は負のコントロール(Life Technologies, Saint Aubin, France)又はTSB ANO1/LNAコントロール(Exiqon)でトランスフェクションした。培養インサートを48時間後に除去し、細胞コロニー形成用の無細胞ギャップ(すなわち創傷)を残した。hAECB細胞については、創傷は液体窒素中に浸漬されたチップを用いて施された。37℃で5%CO2にて維持するためチャンバで4時間、Axiovert 200顕微鏡下に創傷閉鎖を観察した。創傷閉鎖中の平均遊走率をギャップの3つの区域において評価した。各時点で、及び各視野にて、AxioVision Relソフトウェア(Zeiss)を用いて5つの長さを測定した。
【0034】
ANO1クロライド活性
ハロゲン化物感受性YFP-H148Q/I152Lタンパク質(Thermo Fischer Scientific)のI-クエンチングによって、ANO1 Cl-活性を評価した。プローブを細胞内にトランスフェクションし、48時間の培養の後にコンダクタンスをUTP(10μμM)で刺激した。I-溶液(140mM)を添加し、以前に報告されたようにプレートリーダーに蛍光を記録した。各溶液の添加後、初発のI-流入速度を、非線形回帰を用いてYFP蛍光データの変化から算定して、元のトレース及び代表的なトレースを表した。定量分析のために、線形回帰を用いて蛍光クエンチングに対する勾配付けを実施して、クロライドコンダクタンス(I-取り込み)のサイズと関連付ける。棒グラフ表示のために、変化速度(ΔF/分)を用いる。
【0035】
微量注入(ミクロインジェクション)実験
ハロゲン化物感受性YFP-H148Q/I152Lタンパク質によるトランスフェクションから24時間後に、ガラス底のIbidi Dishに細胞を播種し、Xenowork極微操作装置(ミクロマニピュレータ)及びデジタルミクロインジェクタ(Sutter本発明者らにInstrument, CA, USA)を用いてANO1 TSB又はコントロールTSBをCF細胞中に微量注入した。異なるトランスフェクションを識別するために、ANO1 TSBはDextran Texas Red neutral(Thermo Fischer Scientific)を用いて微量注入された。微量注入の4時間後に微小灌流システム(Valvelink、Automate Scientific, CA, USA)によって、I-による細胞の活性化を実施し、Axiovert 200顕微鏡(Zeiss)で63倍対物レンズを用いて記録した。定量化は、ImageJソフトウェア(US National Institutes of Health, ML, USA)で実施された。
【0036】
動物
本発明者らのInstitutional Animal Care and Use Department(Ethical Committee for Laboratory Animal Care Charles Darwin Franceの承認20150511145844v3)に従って全ての実験を実施した。129/FVB異種交配バックグラウンドF508del-CFTRにおけるF5058del突然変異のためのCF雄性マウスモデルCftrtm1Eurマウスホモ接合、及びそれらの正常な同腹仔にについて研究を行なった。動物は、Specific Pathogen Free mouse facility of Paris 6に、食餌及び水を自由に摂取できるように維持され、重量を毎日記録した。マウスは、CDTA-CNRS(Orleaans, France)から、離乳後の8週齢で得られた。腸閉塞を最小限に抑えるために、ポリエチレングリコール(PEG-3350)及び電解質(Movicol(登録商標))を含有する市販の浸透圧緩下薬を、連続的に飲料水中6%で供給した10。滴下注入の前に、マウスはO2(2L/分)に送達された2.5%イソフルランで麻酔された。マウスの各鼻孔の外端部上への溶液のピペット操作によって、各チャレンジ用量(2週間の間、週一回)のTSB(10mg/kg)の鼻腔内投与を実施した。イソフルラン麻酔を受けたマウスを誘導チャンバから取り出し、直ちに滴下注入を実施した。最後のチャレンジから7日後に、致死量のCO2によってマウスを殺処分した。全採血の後、胸壁を切開して気管を単離した。気管の切片に対し、Premo Halideセンサを製造業者の指示に従って実行し、以前に報告されたようにクロライド活性を記録した。
【0037】
統計解析
全てのデータは、平均±SDとして記載される。図面の凡例において、nは反復された実験の数を示す。グループ間の差は、スチューデントt検定を用いて検定された。0.05よりも低いpの値を有意と考え、図面では、統計的有意差をp<0.05(*)、p<0.01(**)、及びp<0.001(***)で示す。
【0038】
結果
ANO1のダウンレギュレーションとmiR-9のアップレギュレーションとはヒト気管支上皮細胞株において相関している
本発明者らは以前、ANO1発現及び活性が非CFと比較してCFコンテクストで減少したことを示したが、これらの減少に関与する機構は未だにわかっていない。本発明者らは、遺伝子発現を転写後にレギュレーションしている小さな非コーディングRNAであるマイクロRNA(miRNA)に関心を抱いている。そこで、本発明者らは、異なるアルゴリズムのいくつかのデータベース:Targetscan、miRDB、miRANDA及びPictarを用いてANO1をターゲッティングし得たmiRNAを予測し、そして本発明者らは、4種のmiRNA:miR-9;miR-19a;miR-19b及びmiR-144がANO1をターゲッティングすると予測されることを見出した。予備実験後に、本発明者らはmiR-9に着目し、その他の結果は論文の補足データに入れられた。miR-9の発現は、TaqMan miRNAアッセイ法を用いqRT-PCRによって研究され、非CFと比較して(CFBE41o-対16HBE14o-)、ANO1発現とは対照的にCF気管支上皮細胞株において増加することが見出された(
図1a及び1b)。興味深いことに、本発明者らはピアソンの相関試験を用いて、ANO1転写物はmiR-9発現レベルに有意に関連している(p=0.012)ことを立証した(
図1c)。
【0039】
miR-9はANO1をレギュレーションする
CF細胞におけるmiR-9の発現増加により本発明者らは、ANO1がmiR-9の直接的なターゲットであるという仮説を立てることになった。そこで本発明者らは、非CF細胞(16HBE14o-)をmiR-9の擬似物でトランスフェクションし、miR発現にSmartflare法を用いてRT-PCRによりトランスフェクション効率を確かめている(論文の補足データ参照)。本発明者らはまた、miR-9の擬似物をトランスフェクションした後のmiR-9過剰発現は、他のmiRの定量化に対して特有であることも確かめた(miR-19a、例えば、補足データ)。次に、ANO1 mRNA及びタンパク質に対するmiR-9過剰発現の効果を評価した。非CF細胞をmiR-9擬似又は負のコントロールでトランスフェクションした。トランスフェクションの結果として、
図2aにmiR-9過剰発現(擬似miR-9)は、16HBE14o-細胞において平均60%まで、ANO1 mRNA発現を有意に減少させたことを示す。ウエスタンブロット及び免疫細胞化学によって調べたANO1タンパク質発現もまた、miR-9擬似のトランスフェクション後に有意に減少していた(
図2b)。本発明者らはしたがって、miR-9はANO1発現をレギュレーションすると結論付けた。
【0040】
miR-9は細胞のANO1クロライド活性及び遊走率をレギュレーションする
引き続き本発明者らは、ANO1クロライド活性に対するmiR-9過剰発現の効果を評価しようとした。
図2cは、miR-9過剰発現がANO1クロライド活性の減少をもたらすことを示す。本発明者らのグループにより以前、ANO1が細胞遊走に関与することが立証されているので、本発明者らはまた、miR-9存在の遊走率に対する効果も研究した。
図2dは、miR-9過剰発現が非CF細胞の遊走率を有意に減少させることを示す。これらの結果は、miR-9が細胞のANO1クロライド活性及び遊走率を変化させることを示す。
【0041】
miR-9はANO1を直接レギュレーションする
miR-9がANO1発現を、その3’UTRに結合することにより抑制するかどうかを調べるために、WT ANO1 3’UTRを含むルシフェラーゼレポーターベクター(WT-ANO1-3’UTR)又はmiR-9に対する予測結合部位での変異がある負のコントロールレポーター(mut-ANO1-3’UTR)で、16HBE14o-細胞をトランスフェクションした。miR-9擬似でのコトランスフェクションの結果、mut-ANO1-3’UTRと比較してWT-ANO1-3’UTRからルシフェラーゼ遺伝子発現の有意な減少が起こり、非CF細胞における直接的なiR-9-ANO1相互作用を立証していた(
図3a)。本発明者らは、CFBE41o
-細胞においてmiR-9のインヒビターを用いて同じ実験を行っており(
図3b)、CF細胞をmiR-9のインヒビターでトランスフェクションする場合にコントロールと比較してルシフェラーゼ活性が有意に増加することを観察したが、突然変異されたプラスミドでは有意差は観察されなかった。本発明者らはしたがって、miR-9はCF細胞においてANO1を直接レギュレーションすると結論付けた。
【0042】
特有のTSBの使用は、CF細胞のANO1発現、クロライド活性及び遊走率を増加させる
CFのコンテクストにおいて、ANO1発現を増加させてANO1クロライド活性を増加させることは興味深いはずである。miR-9は細胞中に多くのターゲットを有しているためmiR-9のインヒビターは特異的でないので、本発明者らは、ANO1 3’UTRに結合してmiR-9固定を妨げる特有のターゲット部位ブロッカー(TSB ANO1)を設計した。本発明者らは、CF細胞をコントロール又はTSB ANO1で24時間トランスフェクションし、ANO1タンパク質発現を定量化した後に本発明者らは、
細胞をTSB ANO1でトランスフェクションするとANO1タンパク質発現が有意に増加することを観察している(
図4a)。鏡検法を併用した微量注入実験により、本発明者らは、TSBコントロールで微量注入した単一細胞と、ANO1 TSBで微量注入した別の細胞とをを同じ視野に観察できる(
図4b)。この手法において、クロライド流出に伴う蛍光の減少は2つの細胞で完全に異なる。さらに、より古典的な方法によって、本発明者らはPremoハロゲン化物センサ法を用いてANO1クロライド活性も定量化したが、細胞をANO1 TSBでトランスフェクションすると明らかに、ANO1クロライド活性が有意に増加することを観察した(
図4c)。この場合、細胞をANO1 TSBでトランスフェクションすると、本発明者らは非CF細胞と同じクロライド活性を観察したことが認められるのは興味深い。最後に、本発明者らは遊走を調べ、細胞をANO1 TSBでトランスフェクションするとコントロールと比較して細胞の遊走率が有意に増加することを見出した。
【0043】
特有のTSBの使用は、初代CF細胞のANO1発現、クロライド活性及び遊走率を増加させる
インビボ上皮を模倣するために、本発明者らは初代ヒト気管支上皮細胞(hAECB)、及び患者からの気管支生検より単離され、完全に分化したヒト気管支の気液インターフェース(ALI)培養物CF(F508del/F508del)を、コントロール又はTSB ANO1でトランスフェクションすることにした。本発明者らは、TSB ANO1又はコントロールを含有し、何らトランスフェクション試薬を含有しない培地をALI細胞の頂端面に添加して、首尾良く細胞をトランスフェクションした(
図5a)。2時間後に37℃で、頂端面から培地を除去してALI条件を復活させた。新たに調製したコントロールオリゴヌクレオチド又はTSB ANO1を3日間添加して、トランスフェクションの効果を処置後24時間で観察した。ウエスタンブロットの結果は、本発明者らが初代細胞をANO1 TSBでトランスフェクションすると、コントロールと比較してANO1発現が有意に増加することを示した(
図5b)。さらに、トランスフェクション後に、本発明者らはANO1 TSBで初代CF細胞のANO1クロライド活性(
図5)及び遊走率(
図5d)が有意に増加することを観察した。本発明者らはまた、線毛運動頻度も蛍光性ビーズを用いて調べており、興味深いことにはANO1 TSBでビーズの平均速度が増加することを観察している。初代細胞におけるTSB ANO1の利用は、細胞のANO1クロライド活性、遊走率及び線毛運動頻度を改善することによりCF細胞の欠損パラメータをモデュレーションさせる。
【0044】
議論
本願において、本発明者らは知る限りで、とりわけCFにおける、miRNA及びANO1発現の間の直接的な相関についての第1の報告を開示する。このように、本発明者らはCF気管支上皮細胞においてmiR-9が有意に過剰発現されること、及びmiR-9はANO1を直接レギュレーションすることを見出した。ANO1 3’UTR mRNAへのmiR-9固定を妨げるように特に設計された、ターゲット部位ブロッカー(ANO1 TSB)を用いて本発明者らは、CF細胞株において、気液インターフェースで培養されたCF初代細胞において、またCFマウスにおいても、ANO1発現及びANO1クロライド活性を増加できることを示している。細胞をANO1 TSBでトランスフェクションすると、非CF細胞におけると同じレベルのクロライド活性があることが認められるのは興味深い。本発明者らは、インシリコの分析に基づき候補遺伝子手法を用いて、miR-9によるANO1レギュレーションを研究している。本発明者らは、いくつかのmiRNA-ターゲット相互作用アルゴリズムからの予測を調べており、それらの共通部分に着目している。4種のmiRNA:miR-9;miR-19a;miR-19b及びmiR-144が、ターゲットANO1 mRNAをターゲッティングすると強く予測された。予備実験後に、miR-19a及びmiR-19bはANO1をレギュレーションしないこと、そしてmiR-144はANO1をレギュレーションするが直接的でないことを本発明者らは観察した(論文の補足データ)。例えば、本発明者らはmiR-144がCFTR相互作用を介してANO1活性をレギュレーションし得るという仮説を立てたが、この結果はさらに精査する必要がある。実際に、いくつかの研究でmiR-144はCFTRをレギュレーションすることが既に示されており、別の研究ではCFTRとANO1との相互作用は未だ明らかでないとしてもそれらの共局在が有ることが示されている。本願では、本発明者らは非CFと比較してCF細胞においてmiR-9が過剰発現していることを見抜き、そしてさらに、本発明者らはmiR-9及びANO1の発現レベルが、CF及び非CF細胞において相関していることを立証している。本発明者らはしたがって、一意の手法を用い、ANO1をmiR-9のターゲットとして確証し、CF細胞におけるANO1発現の減少はmiR-9によるANO1抑制によって引き起こされることを立証したがCFTRでの突然変異がどのようにCFにおけるmiR-9脱レギュレーションを誘導するかはわからないままである。Galiettaらは以前に、ANO1発現がIL-4によって刺激されることを示しており11、そこで本発明者らは本願にかかる細胞をIL-4によって刺激してmiR-9発現が変化するかを調べたが、刺激なしとIL-4刺激の条件の間で差は無い(データ図示せず)。
【0045】
まとめると、本発明者らの結果は、ANO1 mRNAをターゲティングするmiRNAをCFにおける潜在的な治療ターゲットとして、またTSBを実際の選択肢として考えることができる、というエビデンスを提供する。ANO1は2008年に発見されていたので、このタンパク質はCFにおける治療ターゲットとして考えられるが12、これは塩素イオンチャネルとして定義されるからだけでなく、ANO1がHCO3-分泌、遊走、及び増殖のような、CFにおける他の脱レギュレーションされるパラメータに関わるからでもある7。さらに、ANO1をターゲティングすることはCFTR変異と無関係であるから、有望なターゲットであるらしいが、今までのところ利用可能又は示唆されている効率的な薬物療法はない。1991年に、ウリジン-5’-三リン酸がCF呼吸上皮におけるクロライド分泌を刺激できることをいくつかのがグループ発見した13。このヌクレオチドはプリン作動性レセプターに結合することによるシグナルを活性化して細胞内カルシウムを遊離させ、CFTRと異なる未定義のCaCCsを活性化する14。インビトロのCF組織培養研究によって、UTPは液体輸送を復活させ、期間粘液粘度、線毛運動頻度を高め、ナトリウム吸収を阻害し、またCFの処置に有益なはずである気道の水和を増加させるこことができることが立証されている15、16。これらの有望な結果から、INS365及びINS37217と呼ばれる新しい薬物(後にdenufosol(登録商標)と命名)の開発が可能となっている。これらの薬物は、UTPよりも酵素による分解への耐性が強い17。これらのデータに基づき、denufosol(Inspire Pharmaceuticals)は送達手法に噴霧を用いた臨床試験に移された。第一の臨床試験で得られたいくつかの有望な結果の後に、国際的な第3相臨床試験が466名の患者を対象にして完遂された。この試験はCF患者に対する何らかの利点を立証できず、会社に1日で$400,000,000の損失をもたらした。この成り行きを踏まえて、多くの点からこの結果を説明できるはずであり、Stanford University School of MedicineからのPr. Mossによる論文に充分に詳説された18。先ず、CaCCの分子同一性が第3相試験の後に突き止められ、denufosolの正確な効果は経験的なものに過ぎず、且つ非常に一過性であった。したがって、上皮の頂端表面へのUTPの投与でP2Y2レセプターへの結合が生じ、1秒から数分以内にクロライド流出の上昇に伴ってサイトゾルの遊離カルシウム濃度の迅速な増加を引き起こすことが充分に認められている11。第2に、CFのコンテクストにおいて、この薬物の安定性は非常に問題のあるままで、半減期が鼻内上皮では3時間から、CF患者の肺では17分から、そしてヌクレオシダーゼに起因して血液中では30秒からと非常に短かった17、19。第三に、薬物の有効性を確証するための、FEV1の適用可能なベースライン機能障害が穏やかに過ぎないか存在しない(予測の92%)若いCF患者(年齢平均14.2歳)に対する重要な選択基準が議論できよう。この場合、多くの薬物が、FEV1を改善しない患者に対する臨床的に有益な終点を明示した20、21。しかしながら、CaCCをターゲティングすることは期待できるものの、臨床的利点は未だ成し遂げられておらず、それが本発明者らがなぜ、より客観的な薬物手法についての本発明者らの研究に焦点を当てているかの理由である。
【0046】
事実、miRNAをサイレンシングする、antagomiR又はRNAスポンジ手法よりもさらに正確にするために、本発明者らは、ANO1の3’UTRにおけるmiRNA(1または複数)のターゲット部位(1または複数)をブロッキングするターゲット部位ブロッカー(TSB)を、miRNA阻害を回避するために使用している9。本発明者らは、inCF細胞株、及び世界中で最も流行している突然変異のF508delホモ接合の患者から得られた初代培養物における、miR-9によるANO1レギュレーションを研究した。これらの細胞においてTSB ANO1で、本発明者らはANO1発現、クロライド活性、及び細胞遊走を増加させるのに成功している。興味深いことに、本発明者らがCF細胞株及び気液インターフェースで分化された初代培養をTSB ANO1でトランスフェクションすると、細胞の遊走率の増加が観察された。遊走は、修復プロセスの一部であり、そこで本発明者らは、TSB ANO1でのCF患者の処置が気管支上皮の修復を改善し得るという仮説を立てた。本発明者らのデータは、嚢胞性線維症の処置のために本発明者らのターゲット部位ブロッカーを使用することの治療的潜在性を明示している。この手法の基本は、CF患者に提案される療法に関連して、何をするか、又はどのようにするか、のいずれかにつき革新的である。denufosolと対照的に、本発明者らはその分子生物学の知識を用いて新しく特有の手法を設計し、miRNAを用いて1つの特有のターゲットタンパク質の発現を増加させている。そのチャレンジは、CFのような複雑なシステムにおいてでもANO1の強い活性を誘導できる、非常に特有の分子を生成させることであった。さらに熟考した後、本発明者らは安定性及び特異性のためにLNAで修飾されたTSBを使用して遺伝子発現をコントロールすることを決定している。そのため、本手法はCFTR-突然変異非依存的であり、人工的なmiRNAターゲット部位の使用が現状では新規(emerging)である。CFが1900を上回る異なる変異によって引き起こされることを考慮し、本発明者らはANO1などのCFTRから独立した新しいターゲットを決定する試みを行っている。miRNAが人体中の種々の液体につき安定であるとしても22、23、denufosolの手法は失敗に終わったので、CFコンテクストの場合に薬物の分解はやはり決定的なポイントである。miRNAツールへの価値ある追加はLNA(ロックド核酸)から来ており、これはリボース環がN型(C3’-エンド)コンフォメーションで化学的にロックされた、二環式の高親和性RNA類似体である。LNAで修飾されたオリゴヌクレオチドはmRNAターゲットとハイブリダイズすると高い熱安定性を持つので、この修飾は必須である24、25。ロックド核酸(LNA)ベースのmiR-122のインヒビターである、MiravirsenはC型肝炎ウイルス感染の処置に対する臨床試験を現在受けているところである。肝臓特有のmiR-122の役割は、若干異常であり、;3’UTRをターゲティングしてシグナル抑制を引き起こす代わりに、C型肝炎ウイルスRNAの5’UTRに結合してその複製を促進する。Miravirsenの効果はチンパンジーで試験されており、LNAで修飾された抗miRNAは処置が終了した後8週間、25週まで検出されているので、正確で無毒、且つ非常に安定であることが示されている。さらに、HCV RNAレベルに対するMiravirsenの効果もまた、処置の終了時に長期化した26。本発明者らの研究にとって、Miravirsenの成功はCFの場合に潜在的な臨床的手法を提案する例及び着想として役立つ。本発明者らの場合、TSBはマウスモデルにおいてでも気道で分析される異なるパラメータを補正することができる。本発明者らの条件では、最後の滴下注入の後7日、クロライド流出の活性化を観察することができる。安定性及び生理学的活性は本発明者らの薬物の主要ポイントである。当然、気道での薬物の投与の方法は、CF患者での使用に至適化されるべきである。
【0047】
嚢胞性線維症病態の処置のためにクロライド流出を活性化する薬物を開発する努力は進行中であるが、CF患者に存在する異なるCFTR突然変異によって限定されている。本発明者らの知る限りでは、ANO1のように代替的な塩素イオンチャネルを正確に補正する代替的な療法が提案されるのは、本願の実証が最初である。本願では、miR-9の種領域をターゲッティングするTSBの使用は、嚢胞性線維症患者の処置のためのANO1療法の潜在的利点を実証する。本願研究の他の主要な結果は、ANO1をターゲッティングする短期間の処置が、嚢胞性線維症患者の上皮においてレギュレーション不全の異なる表現型因子を補正できることである。本発明者らは、ANO1をターゲッティングするTSBを用いた本手法には、CF患者のための代替的処置を提供する潜在性があると信じる。したがって、これらの結果は生理学をより理解することが患者にとって必須であることを明示する。
【0048】
参考文献:
本願の至るところで、種々の参考文献が本発明の属する技術分野の到達水準を表している。これらの参考文献の開示は、参照により本願明細書の開示に援用する。
【表1】
【配列表】