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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】補強アンカー
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/06 20060101AFI20220301BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
E21D9/06 301E
E02D5/80 103
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018002929
(22)【出願日】2018-01-11
(65)【公開番号】P2019123990
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】松本 真輔
(72)【発明者】
【氏名】坂本 博明
(72)【発明者】
【氏名】堀 壮大
(72)【発明者】
【氏名】菅 浩一
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 玄之
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-015006(JP,A)
【文献】特開2013-199772(JP,A)
【文献】特開2001-220740(JP,A)
【文献】特開平06-146274(JP,A)
【文献】特開2017-179719(JP,A)
【文献】特開2000-336767(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104612722(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 9/06
E02D 5/80
E21D 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、
前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板と、
板状部材からなり、前記受圧板を下方から当接する滑り止め部材と、を備え、
前記滑り止め部材は、切削可能な固定部材により前記切削壁に固定され
前記受圧板は、受圧板本体と、該受圧板本体及び前記切削壁の間に介在され前記切削壁の壁面に当接する積層板と、を有し、
前記滑り止め部材は、前記積層板を下方から当接した位置で前記切削壁に固定されていることを特徴とする補強アンカー。
【請求項2】
シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、
前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板を備え、
前記受圧板は、受圧板本体と、該受圧板本体及び前記切削壁の間に介在される積層板と、を有し、
前記積層板には、前記受圧板本体よりも下方に延長されて一体に形成された滑り止め部材が設けられ、
前記滑り止め部材は、前記積層板が前記受圧板本体と前記切削壁との間に介在された状態で切削可能な固定部材により前記切削壁に固定されていることを特徴とする補強アンカー。
【請求項3】
シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、
前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板と、
板状部材からなり、前記受圧板を下方から当接する滑り止め部材と、を備え、
前記滑り止め部材は、切削可能な固定部材により前記切削壁に固定され、
前記滑り止め部材には、厚さ方向に貫通する貫通孔が設けられ、
前記固定部材は、前記貫通孔に挿通可能なボルト又はピン材からなる棒状部材であり、
前記棒状部材が前記切削壁に打ち込まれていることを特徴とする補強アンカー
【請求項4】
前記貫通孔は、複数設けられ、それぞれが互いに上下方向にずれた位置に配置されていることを特徴とする請求項に記載の補強アンカー。
【請求項5】
前記貫通孔と前記棒状部材との間に充填材が充填されていることを特徴とする請求項又はに記載の補強アンカー。
【請求項6】
シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、
前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板と、
板状部材からなり、前記受圧板を下方から当接する滑り止め部材と、を備え、
前記滑り止め部材は、切削可能な固定部材により前記切削壁に固定され、
前記滑り止め部材は、ガラス繊維補強発泡ウレタンから形成されており、含有されるガラス繊維の方向を前記受圧板の荷重方向に一致させて配置されていることを特徴とする補強アンカー
【請求項7】
前記受圧板と前記切削壁の壁面との間には、前記壁面の凹凸を吸収する不陸調整部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の補強アンカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばシールド掘削用立坑壁に用いられる補強アンカーに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地下トンネルや下水本管などをシールド工法により施工する際に採用されるシールド掘進用の立坑壁として、例えば硬質ウレタン樹脂をガラス長繊維により強化した複合材料であって、シールド掘削機のカッターによって切削可能な部材により構成した切削壁が用いられている。
【0003】
さらに、このようなシールド掘進用の切削壁として、例えば特許文献1に示されるように、切削壁において切削可能なアンカーにより補強する工法が知られている。
特許文献1には、シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、シールド掘削機によって切削可能で、引張り材の引張力を受けて切削壁の壁面に圧接する受圧板を備えた補強アンカーについて記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-15006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したような従来の切削壁を切削可能なアンカーで補強する場合には、アンカーの緊張定着時に切削壁と受圧板との間で滑りが発生し、所定の位置にアンカーを打設できないといった問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、緊張定着時における立坑壁と受圧板との間の滑りを抑制することで、アンカーを所定の位置に確実に打設することができる補強アンカーを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る補強アンカーは、シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板と、板状部材からなり、前記受圧板を下方から当接する滑り止め部材と、を備え、前記滑り止め部材は、切削可能な固定部材により前記切削壁に固定されていることを特徴としている。
【0008】
本発明では、固定部材を用いて滑り止め部材が切削壁に固定されている。受圧板は、滑り止め部材により下方から当接された状態で支持されているので、引張り材を緊張定着する際に切削壁と受圧板との間で生じる滑りを抑制することができる。そのため、アンカーを所定の位置に確実に打設することができ、補強アンカーに引張り材の引張力(緊張力)が確実に付与されて切削壁が補強される。
したがって、シールド掘進用の立坑壁への切削可能な補強アンカーの打設を確実に行うことができる。
【0009】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記受圧板は、受圧板本体と、該受圧板本体及び前記切削壁の間に介在される積層板と、を有し、前記滑り止め部材は、前記積層板を下方から当接した位置で前記切削壁に固定されていることが好ましい。
【0010】
この場合には、切削壁に固定部材によって固定された滑り止め部材によって受圧板の積層板が下方から当接されて支持され、引張り材を緊張定着する際に切削壁と積層板との間で生じる滑りを抑制することができる。
【0011】
また、本発明に係る補強アンカーは、シールド掘削機で切削可能な切削壁を貫通させて引張り材によって所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、前記シールド掘削機によって切削可能な補強アンカーであって、前記引張り材の引張力を受けて前記切削壁の壁面に圧接する受圧板と、前記受圧板は、受圧板本体と、該受圧板本体及び前記切削壁の間に介在される積層板と、を有し、前記積層板には、前記受圧板本体よりも下方に延長されて一体に形成された滑り止め部材が設けられ、前記滑り止め部は、前記積層板が前記受圧板本体及び前記切削壁の間に介在された状態で切削可能な固定部材により前記切削壁に固定されていることを特徴としている。
【0012】
本発明では、受圧板における積層板に一体に形成されている滑り止め部材が切削壁に固定部材によって固定されているので、引張り材を緊張定着する際に切削壁と積層板との間で生じる滑りを抑制することができる。そのため、アンカーを所定の位置に確実に打設することができ、補強アンカーに引張り材の引張力(緊張力)が確実に付与されて切削壁が補強される。
したがって、シールド掘進用の立坑壁への切削可能な補強アンカーの打設を確実に行うことができる。
【0013】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記滑り止め部材には、厚さ方向に貫通する貫通孔が設けられ、前記固定部材は、前記貫通孔に挿通可能なボルト又はピン材からなる棒状部材であり、前記棒状部材が前記切削壁に打ち込まれていることが好ましい。
【0014】
この場合には、棒状部材が滑り止め部材と切削壁とにわたって連続して挿通されるので、滑り止め部材を切削壁の壁面に対して強固に固定することができる。
【0015】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記貫通孔は、複数設けられ、それぞれが互いに上下方向にずれた位置に配置されていることが好ましい。
【0016】
この場合には、複数の貫通孔が横方向の直線上に形成された場合に比べて、断面欠損の小さな構造を実現することができる。
【0017】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記貫通孔と前記棒状部材との間に充填材が充填されていることが好ましい。
【0018】
この場合には、棒状部材が充填材によって貫通孔内で強固に固定されるので、滑り止め部材を切削壁の壁面に強固に固定することができ、切削壁と受圧板との間で生じる滑りをより確実に抑制することができる。また、本発明では、貫通孔内において、棒状部材との間に充填材を充填することで、複数ある棒状部材で均等に荷重を分担することができる。
【0019】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記滑り止め部材は、ガラス繊維補強発泡ウレタンから形成されており、含有されるガラス繊維の方向を前記受圧板の荷重方向に一致させて配置されていることが好ましい。
【0020】
この場合には、滑り止め部材を形成するガラス繊維の繊維方向を受圧板の荷重方向に向けて配置することで、受圧板の鉛直分力による圧縮に耐え得る構成とすることができる。
【0021】
また、本発明に係る補強アンカーは、前記受圧板と前記切削壁の壁面との間には、前記壁面の凹凸を吸収する不陸調整部材が設けられていることを特徴としてもよい。
【0022】
この場合には、受圧板を切削壁の壁面に対して所定の姿勢で配置することができ、引張り材を緊張定着する際に、受圧板がずれて滑り易くなることを防ぐことができる。また、本発明では、受圧板と切削壁の間に不陸調整部材を設けることで、アンカー力を受圧板背面の芯材に伝達することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の補強アンカーによれば、緊張定着時における切削壁と受圧板との間の滑りを抑制することで、アンカーを所定の位置に確実に打設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施の形態による切削壁を備えた立坑の概略構成を示す側面図である。
図2図1に示す立坑を上方からみた図である。
図3】複数の補強アンカーで補強された切削壁の正面図である。
図4】切削壁に施工されている補強アンカーの正面図である。
図5図4示すA-A線断面図であって、切削壁に施工されている補強アンカーを上方から見た一部破断した図である。
図6図4示すB-B線断面図であって、切削壁に施工されている補強アンカーの一部破断した図である。
図7図4示すC-C線断面図であって、切削壁に施工されている補強アンカーの縦断面図である。
図8】滑り止め部材の構成を示す斜視図である。
図9】(a)~(d)は、補強アンカーの施工手順を説明するための縦断面図である。
図10】滑り止め部材の作用を説明するための斜視図である。
図11】第2の実施の形態による切削壁に施工されている補強アンカーの正面図であって、図4に対応した図である。
図12図11に示す切削壁に施工されている補強アンカーの一部破断した図であって、図6に対応した図である。
図13】第1変形例による切削壁に施工されている補強アンカーの正面図であって、図4に対応した図である。
図14図13に示す切削壁に施工されている補強アンカーの一部破断した図であって、図6に対応した図である。
図15】第2変形例による切削壁に施工されている補強アンカーの正面図であって、図4に対応した図である。
図16】第3変形例による切削壁に施工されている補強アンカーの正面図であって、図4に対応した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明による実施の形態の補強アンカーについて、図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1及び図2に示すように、本実施の形態による補強アンカー1は、シールドトンネルの掘進工事で使用されるシールド掘削機2の発進部となる切削壁3を貫通させて所定の引張力が付与された状態で地盤に定着され、シールド掘削機2によって切削可能な材料により構成されている。
【0027】
立坑30は、シールド掘削機2の発進基地として地中に施工され、上面視で矩形状をなし、地上から掘り下げた掘削面に鉄筋コンクリート造の壁体を構築したものである。立坑30は、シールド掘削機2を掘進方向に向けた状態で配置可能な寸法で、かつ発進に必要な設備を設置可能な寸法で構築されている。
【0028】
なお、立坑30は、上面視形状が矩形であることに限定されず、円形であってもかまわない。さらに、立坑30の構造としては、鉄筋コンクリート造であることに制限されず、立坑30の外郭部に沿って土留めとして打設した長尺の複数のH形鋼と、そのH形鋼同士の間をコンクリート又はモルタルで充填した壁や、ケーソン等で沈下させたコンクリート壁であってもよい。
【0029】
シールド掘削機2は、立坑30の底盤上に設けられた発進架台32上において、カッター21を切羽、すなわち切削壁3の壁面3aに対向させ、かつシールド掘削機2の中心軸をトンネル中心軸に一致させた状態で配置される。
【0030】
切削壁3は、シールド掘削機2の発進基地として地中に施工された立坑30のうちシールド掘削機2で切削される発進領域に設けられている。具体的に切削壁3は、シールド掘削機2の外径よりも大径の円形断面で、シールド掘削機2のカッター21によって切削される。
【0031】
切削壁3は、硬質ウレタン樹脂をガラス長繊維で強化した複合材から形成された例えばSEW壁(積水化学工業社所有のSEW(Shield Earth Retaining Wall System)工法によって施工された壁)、H形鋼型のFRPや炭素繊維により補強されたコンクリート等のシールド発進・到達用土留め壁を採用することができる。
また、切削壁3は、ポリエステル樹脂をガラス長繊維や炭素繊維で強化した複合材料からなる掘削可能な複数のアンカー1、1、…により補強されている。
【0032】
切削壁3は、図3に示すように、複数の鉛直方向に延びる切削部形成用芯材(以下、「芯材34」という)が水平方向に所定の間隔をあけて配置され、芯材34、34同士の間にはソイルセメント硬化体のみからなるセメント硬化部35を備えた構成となっている。
芯材34は、シールド掘削機2のカッター21によって切削可能な材料である硬質ウレタン樹脂をガラス長繊維により強化した柱状複合材料(施工現場の地盤や立坑の大きさによって特に限定されないが、例えば、600×300mmの積水化学工業株式会社、エスロンネオランバーFFU)の上下にH形鋼が継手及びボルトナット等を介して固定されて得られている。
【0033】
図4図7に示すように、補強アンカー1は、一端側の定着端11b(図1及び図2参照)を定着材によって地盤Gに定着させるとともに、他端(突出端11a)側を切削壁3から突出させたアンカー材11(引張り材)と、アンカー材11の突出端11aに引張力を超える摩擦力をもって一体的に外嵌し、外周面にねじ部12a(図7参照)を有するグリップ部材12(引張り材)と、グリップ部材12の外側に嵌合され、切削壁3の壁面3aを圧接する受圧板4と、グリップ部材12のねじ部12aに締め込まれて受圧板4を切削壁3側に圧接した状態で保持する押さえナット13と、板状部材からなり、受圧板4を下方から当接する滑り止め部材5と、を備えている。
ここで、アンカー材11とグリップ部材12とが引張り材を構成している。
【0034】
アンカー材11は、図1に示すように、切削可能な炭素繊維より線からなる引張り材として機能し、切削壁3の壁面3a側から裏面側の地盤Gまで削孔されたアンカー固定孔31(図7参照)に挿入され、先端部分(定着端11b)が地盤Gにおいてアンカー固定孔31に充填されたグラウト16により定着される。アンカー材11は、受圧板4を介して切削壁3の壁面3aに土圧や水圧に耐える力で圧接させる引張張力を付与することができる。なお、本実施の形態のアンカー材11は、立坑30内から斜め下方に向けて配置されている。
そして、アンカー材11のうち突出端11a及び定着端11bを除く部分は、図7に示すように波付き硬質ポリエチレン管等のシース管15に挿通され、アンカー固定孔31に充填されるグラウト16に対して非定着の状態になっている。
【0035】
図6及び図7に示すように、グリップ部材12は、いわゆるテンドングリップを用いることができ、定着用膨張モルタル14を介してアンカー材11の突出端11aに一体に設けられている。グリップ部材12は、FRP等の切削可能な材料から形成されており、外周面に押さえナット13が螺合可能なねじ加工がされている。受圧板4及び押さえナット13を装着させた状態において、グリップ部材12とアンカー材11の突出端11aとの間には定着用膨張モルタル14が注入され、膨張した状態で硬化している。定着用膨張モルタル14は、硬化に伴い膨張するため、アンカー材11の突出端11aとグリップ部材12とがその膨張により一体に密接され、ひいては摩擦力によりグリップ部材12は受圧板4に定着する。なお、定着用膨張モルタル14は、一般のアンカー工法に使用される公知のものを使用することができる。
【0036】
押さえナット13は、FRP等の切削可能な材料からなるものが用いられ、上述したようにグリップ部材12の外周面のねじ部12aに螺合可能である。押さえナット13を締め付けることで、受圧板4を引張り軸O方向で切削壁3の壁面3a側に押し付けることができる。つまり、受圧板4は、押さえナット13を締め付けることにより、切削壁3との間で挟持される。
【0037】
受圧板4は、FRP等の切削可能な材料から形成され、受圧板本体40と、受圧板本体40及び切削壁3の間に介在される積層板41と、を有している。
【0038】
受圧板本体40は、図7に示すように、グリップ部材12が挿通可能な挿通孔40aが設けられている。挿通孔40aの内径は、グリップ部材12の外径とほぼ一致している。受圧板本体40は、挿通孔40aの孔軸方向で積層板41を介して壁面3aに当接する第1端面40bが孔軸方向に対して斜めに交差し、孔軸方向で押さえナット13側の第2端面40cが孔軸方向に直交する平面となっている。第1端面40b及び第2端面40cは、それぞれ面方向に直交する方向から見て矩形状に形成されている。
【0039】
積層板41は、板状をなし、中心部にグリップ部材12が挿通可能な挿通孔41aが形成されている。積層板41は、グリップ部材12に外嵌した状態で、一方の第1板面41bが受圧板本体40の第1端面40bに当接し、他方の第2板面41cが切削壁3の壁面3aのうち芯材34の側面に当接するように設けられている(図5参照)。
【0040】
滑り止め部材5は、図4及び図6に示すように、受圧板4に対して左右両側のそれぞれに設けられている。一対の滑り止め部材5は、それぞれ板状の厚さ方向を切削壁3の壁面3aに直交する方向に向けた状態で、かつ積層板41の左右方向の片側を下方から当接させた位置で、切削可能なボルト51(固定部材、棒状部材)により切削壁3の壁面3aに固定されている。つまり、積層板41は、左右の両下端がそれぞれ滑り止め部材5に載置された状態で支持されている。
【0041】
滑り止め部材5には、厚さ方向に貫通し、前記ボルト51が挿通可能な孔径からなる一対のボルト挿通孔52、52(貫通孔)が設けられている(図8参照)。一対のボルト挿通孔52、52は、厚さ方向で立坑内側から見た正面視で幅方向の略中央の位置で上下方向に間隔をあけて配置されている。一対のボルト挿通孔52、52のそれぞれに挿通されるボルト51は、切削壁3に向けて打ち込まれている。
なお、滑り止め部材5は、滑り止め部材5自体の許容応力度や受圧板4から受ける鉛直分力に基づいて予め設計された形状、大きさ、ボルト挿通孔52の孔径、位置が設計される。例えば、本実施の形態では、上下一対のボルト挿通孔52、52の上側に十分な余白(間隔)を設けるように設計することで、ボルト51で拘束されたボルト挿通孔52間の4面(図10に示す符号5A参照)で鉛直分力によるせん断に耐える構造とすることができる。なお、本実施の形態では、下側のボルト挿通孔52において、下側余白は上側余白より短い寸法に設定されている。
【0042】
図6及び図7に示すように、滑り止め部材5において、ボルト挿通孔52及び切削孔3に削孔されるボルト孔36とボルト51との間にはエポキシ系接着剤や充填用樹脂等の充填材53が充填されている。つまり、ボルト51は、ボルト挿通孔52と切削壁3及び地盤Gに貫通されるボルト孔36とを跨るように固定されている。ここで、ボルト51は、ボルト挿通孔52と例えばFRP等の切削可能な材料からなる。
【0043】
滑り止め部材5は、本実施の形態ではガラス繊維補強発泡ウレタン(例えば、積水化学工業株式会社、エスロンネオランバーFFU)から形成されており、含有されるガラス繊維の方向を受圧板4の荷重方向に一致させて配置されている。
【0044】
次に、切削壁3に補強アンカー1を施工する方法、すなわち切削壁3を補強アンカー1を用いて補強する施工について、図面を用いて説明する。
先ず、図1及び図2に示すように、施工された切削壁3のうち予め設定された複数の位置に切削壁3を貫通するとともに地盤Gに達する所定長のアンカー固定孔31を、削孔機を使用して削孔する。具体的には、切削壁3の芯材34、34同士(図3参照)の間のセメント硬化部において、削孔ドリルを用いて、例えば下方斜め5~45度の傾斜角度で穿孔する。
【0045】
アンカー材11用のアンカー固定孔31を削孔した後、図4及び図9(a)に示すように、受圧板4の積層板41が取り付けられる位置の下側の切削壁3の壁面3aの所定位置に、一対の滑り止め部材5、5を固定する。滑り止め部材5は、滑り止め部材5自体の許容応力度や受圧板4から受ける鉛直分力に基づいて予め設計された形状、大きさ、ボルト挿通孔52の孔径、位置が決められたものを加工しておく。
【0046】
先ず、滑り止め部材5を所定の壁面3aの固定位置に、例えば接着材等を使用して仮に固定する。このとき、滑り止め部材5は、鉛直分力による圧縮に耐えるように、材料の繊維方向を鉛直方向(受圧板4の荷重方向)に向けて配置する。
そして、切削壁3には、滑り止め部材5に形成されているボルト挿通孔52と同軸となるように切削壁3にボルト孔36を削孔する。切削壁3に削孔されるボルト孔36は、その孔長がボルト51の長さに対応していればよく、ボルト51が切削壁3に根入れされる適宜な長さに設定されている(図6参照)。なお、ボルト51及びボルト孔36は、場合によっては切削壁3より奥の地盤Gに到達するように設けられていてもよい。
【0047】
その後、図9(b)に示すように、滑り止め部材5のボルト挿通孔52及び切削壁3のボルト孔36に充填材53を充填する。そして、図9(c)に示すように、ボルト51を回転させながらボルト挿通孔52及びボルト孔36に挿入し、孔内の充填材53の余剰分が孔から溢れたことを確認することで充填状態を把握する。なお、ボルト51の挿通の際には、くさび状のナット等を使用することでボルト挿通孔52の中心軸にボルト51を配置させることが好ましい。
【0048】
ここで、滑り止め部材5の一例として、積層板41の厚みが60mmのときに、滑り止め部材5の厚みを100mm以上とし、ボルト挿通孔52の孔径を、例えば直径25mmのボルト51に対して3~10mm程度大きく設定することができる。そして、ボルト挿通孔52のボルト51との空隙部にはエポキシ系接着剤もしくは充填用樹脂を注入、充填したものを採用する。このように構成される滑り止め部材5では、図10に示すように、4面(図10の符号5Aの面)で鉛直分力によるせん断に耐えるようにしたものを採用する。ここで、滑り止め部材5の面5Aは、受圧板4と一対のボルト51、51で拘束された穴間、すなわち本実施の形態では受圧板4と上側のボルト51との間と、上下のボルト51、51間で、滑り止め部材5の前面に対して直交する平面である。
【0049】
そして、図7に示すように、部分的にシース管15を被着させたアンカー材11の先端がアンカー固定孔31の先端部に達するとともに、アンカー材11の突出端11aが切削壁3の壁面3aから突出し、かつ押さえナット13の締め込み長を確保した突出長でアンカー固定孔31に挿入する。このときシース管15は、切削壁3から地盤G側に向けて所定長の長さになるように配置されている。なお、予めアンカー材11の突出端11aには、グリップ部材12を外側から嵌合させておく。
その後、アンカー材11が挿入されたアンカー固定孔31に定着材(グラウト16)を注入する。このとき、シース管15の内側にグラウト16が浸入しないようにする。これにより、アンカー材11の先端側の定着端11b(図1及び図2参照)は、グラウト16の硬化に伴いアンカー固定孔31内で地盤Gと一体に固定され、定着される。
【0050】
ここで、グリップ部材12は、図7に示すように、予め例えば工場等でアンカー材11の突出端11aに固定する加工をしておく。具体的には、アンカー材11の突出端11aの外側からグリップ部材12を嵌合させた後、グリップ部材12とアンカー材11の突出端11aとの間に定着用膨張モルタル14を注入し硬化させる。このとき定着用膨張モルタル14が膨張し、アンカー材11の突出端11aとグリップ部材12とが接着した状態で固定され、その膨張圧による摩擦力によって密接した状態で一体化される。これにより、定着用膨張モルタル14の膨張、硬化により所定の摩擦力が得られることになる。
【0051】
次に、図9(d)に示すように、グリップ部材12の外側に受圧板4、支圧板17の順で挿通させ、さらに押さえナット13をグリップ部材12の外周面のねじ部12aに螺合させる。つまり、グリップ部材12の押さえナット13より張り出した部分をジャッキアップ装置(図示省略)により把持してアンカー材11を引抜く方向に緊張力を付与して所定の緊張状態とするとともに、押さえナット13を切削壁3側に締め込み、緊張状態を保持させる。これにより、受圧板4を切削壁3に圧接させることができる。
これにより複数のアンカー材11、11、…によって切削壁3を補強することができ、切削壁3が完成した状態となる。
【0052】
このように、本実施の形態では、緊張力が付与された状態のアンカー材11の突出端11aに固定されたグリップ部材12に締め込まれる押さえナット13によって、受圧板4が切削壁3の壁面3aに圧接されて拘束される。これにより受圧板4からアンカー力を切削壁3に伝達することができ、補強アンカー1にアンカー力が付与されて切削壁3が補強される。
そして、このように構成される切削壁3では、複数の補強アンカー1によって補強されているので、切削壁3が土水圧によって立坑30内側に撓んだりすることが抑えられる。
【0053】
次に、上述した構成の補強アンカーの作用について、図面を用いて詳細に説明する。
本実施の形態では、図7に示すように、切削壁3にボルト51によって固定された滑り止め部材5によって受圧板4の積層板41が下方から当接されて支持されているので、アンカー材11を緊張定着する際に切削壁3と積層板41との間で生じる滑りを抑制することができる。そのため、補強アンカー1を所定の位置に確実に打設することができ、補強アンカー1にアンカー材11の引張力(緊張力)が確実に付与されて切削壁3が補強される。
したがって、シールド掘進用の立坑壁30への切削可能な補強アンカー1の打設を確実に行うことができる。とくに、シールド外径が大きいときの立坑壁30の場合には、上述したように滑り止め部材5と受圧板4との間で滑りが生じやすいことから、上記の効果が大きい。
【0054】
また、本実施の形態では、ボルト51によって滑り止め部材5と切削壁3にわたって挿通されるので、滑り止め部材5を切削壁3の壁面3aに対して強固に固定することができる。
【0055】
また、本実施の形態の滑り止め部材5は、ボルト挿通孔52が複数(2つ)設けられ、それぞれが互いに上下方向にずれた位置に配置されているので、一対のボルト挿通孔52が横方向の直線上に形成された場合に比べて、断面欠損の小さな構造を実現することができる。
【0056】
しかも、本実施の形態では、滑り止め部材5を固定するボルト51が充填材53によってボルト挿通孔52及びボルト孔36内で強固に固定されるので、滑り止め部材5を切削壁3の壁面3aに強固に固定することができ、切削壁3と受圧板4との間で生じる滑りをより確実に抑制することができる。
【0057】
このように、本実施の形態による補強アンカー1では、緊張定着時における切削壁3と受圧板4との間の滑りを抑制することで、アンカーを所定の位置に確実に打設することができる。
【0058】
次に、他の実施の形態、及び変形例による補強アンカーについて説明する。なお、上述した第1の実施の形態の構成要素と同一機能を有する構成要素には同一符号を付し、これらについては、説明が重複するので詳しい説明は省略する。
【0059】
(第2の実施の形態)
図11及び図12に示すように、第2の実施の形態による補強アンカー1Aは、滑り止め部材5を受圧板4と別体ではなく一体に設けた構成となっている。
すなわち、受圧板4の積層板41には、受圧板本体40よりも下方に延長されて一体に形成された滑り止め部材44が設けられている。滑り止め部44は、積層板41が受圧板本体40及び切削壁3の間に介在された状態で切削可能なボルト51により切削壁3に固定されている。滑り止め部材44におけるボルト51による固定位置は、積層板41の左右両側の下方位置で、それぞれ上下に間隔をあけて一対のボルト挿通孔52、52(ボルト51、51)が設けられている。
【0060】
この場合には、受圧板4における積層板41に一体に形成されている滑り止め部材5が切削壁3にボルト51によって固定されているので、アンカー材11を緊張定着する際に切削壁3と積層板41との間で生じる滑りを抑制することができる。そのため、アンカーを所定の位置に確実に打設することができ、補強アンカー1Aにアンカー材11の引張力(緊張力)が確実に付与されて切削壁が補強される。
したがって、開口径が大きいシールド掘進用の立坑壁30への切削可能な補強アンカー1Aの打設を確実に行うことができる。
【0061】
(第1変形例)
次に、第1変形例による補強アンカー1Bについて、図13及び図14を用いて説明する。
第1変形例による補強アンカー1Bは、受圧板4の積層板41と切削壁3の壁面3aとの間に不陸調整部材6を設けた構成となっている。不陸調整部材6は、例えば、布袋の中にグラウトを充填した材料が用いられ、切削壁3の構築時に生じる壁面3aの不陸(凹凸)を吸収することができる。
そのため、受圧板4(積層板41)を切削壁3の壁面3aに対して所定の姿勢で配置することができ、アンカー材11を緊張定着する際に、受圧板4がずれて滑り易くなることを防ぐことができる。また、アンカー力を受圧板4の背面の芯材34、34に伝達することができる。
【0062】
以上、本発明による補強アンカーの実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述した第1の実施の形態の滑り止め部材5では一対のボルト挿通孔52、52が上下方向に間隔をあけて配置された構成としているが、このような配置、数量であることに制限されることはない。例えば、シールド開口径が大きく、鉛直分力が大きくなる場合には、1つの滑り止め部材5におけるボルト51の本数を増やす構成とすればよい。例えば、図15に示す第2変形例のように3つのボルト挿通孔52(ボルト51)のそれぞれが互いに上下方向にずれた位置に千鳥状に配置されている構成とすることも可能である。また、図16に示す第3変形例のように4つのボルト挿通孔52(ボルト51)のそれぞれが互いに上下方向にずれた位置に千鳥状に配置されている構成とすることも可能である。
【0063】
また、本実施の形態では、滑り止め部材5を固定するための棒状部材としてボルト51を採用しているが、これに限定されず、ピン材等からなる棒状部材を固定部材として採用することも可能である。
【0064】
また、本第1の実施の形態では、1つの受圧板4に対して2つの滑り止め部材5、5で下方から支持しているが、例えば横方向に隣り合う受圧板4、4同士の間に位置する1つの滑り止め部材5でそれら隣り合う受圧板4、4の両方を支持するようにしてもよい。
【0065】
さらに、本実施の形態では、滑り止め部材5、44を切削壁3に固定する固定部材としてボルト51を用いているが、ボルト51であることに限定されることはなく、例えばボルトに代えてピンを用いたり、接着材等の固定部材によって固定する構成であってもよい。
【0066】
さらにまた、本第1の実施の形態では、積層板41の下方から滑り止め部材5を当接させているが、積層板41が省略された構造の場合には、受圧板本体40下方から滑り止め部材5を当接させる構成であってもかまわない。
【0067】
加えて、本第1の実施の形態では、積層板41の下方から滑り止め部材5を当接させているが、積層板41と一体となった滑り止め部材を受圧板本体40の上方に取り付ける構成であってもかまわない。
【0068】
また、本実施の形態では、補強アンカー1、1A、1Bを設ける切削壁3の適用対象が発進基地としているが、これに限定されることはなく、シールド掘削機2が発進される箇所の切削壁が設けられていればよい。例えば、到達基地となる立坑であっても、さらにこの到達基地からシールド掘削機2を方向転換させて発進させる場合の立坑であってもかまわない。
【0069】
さらに、切削壁3の断面形状として、本実施の形態のように円形断面に限定されることはなく、例えば矩形断面などの他の形状であってもよい。
【0070】
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、上記した実施の形態における構成要素を周知の構成要素に置き換えることは適宜可能である。
【符号の説明】
【0071】
1、1A、1B 補強アンカー
2 シールド掘削機
3 切削壁
3a 壁面
4 受圧板
5 滑り止め部材
6 不陸調整部材
11 アンカー材
12 グリップ部材
13 押さえナット
14 定着用膨張モルタル
30 立坑
31 アンカー固定孔
36 ボルト孔
40 受圧板本体
41 積層板
44 滑り止め部材
51 ボルト(固定部材、棒状部材)
52 ボルト挿通孔(貫通孔)
53 充填材
G 地盤
O 引張り軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16