(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】電車線のテンションバランサ
(51)【国際特許分類】
B60M 1/26 20060101AFI20220301BHJP
B60M 1/28 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B60M1/26 B
B60M1/28 K
(21)【出願番号】P 2018052067
(22)【出願日】2018-03-20
【審査請求日】2020-12-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】半田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】山川 盛実
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-189112(JP,A)
【文献】特開2010-173545(JP,A)
【文献】特開昭59-184033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/26
B60M 1/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向一端側に開口を有する蓋を具備し、構築物に支持される円筒状のばねケースと、
前記ばねケースの蓋の外側に固着されるフレームと、
不等辺三角形の各頂点に配置される第1ないし第3の3つの枢止点を有し、第1の枢止点において主軸によって前記フレームに枢着される回転アームと、
回転軸によって前記回転アームの第2の枢止点に一端が枢着され、前記ばねケースの蓋の開口を貫通してばねケース内を延び、他端部にばね押さえを具備するテンションロッドと、
前記ばね押さえと前記ばねケースの蓋との間に挿入されるコイルばねとを具備し、
前記回転アームの第3の枢止点に一端部が引き止められる電車線をそれの伸縮量にかかわらずほぼ一定の張力を維持したまま構築物に支持するテンションバランサにおいて、
前記回転アーム
と前記ばねケースの相互間を牽引して、電車線を引き留める回転アームの回転位置を位置決めする牽引装置と、
前記回転アーム及び前記ばねケースに、前記牽引装置をそれぞれ取り付けるための取付部とを具備
し、
前記牽引装置は、基端が前記回転アームに取り付けられて、電車線の延線側に張り出す取付けアームと、
一端が前記ばねケースに接続され、他端が前記取付けアームの先端部に接続される引っ張り工具とを具備し、
前記取付けアームの基端を取り付けるための一方の前記取付部は、回転アームの第1の枢止点と第3のそれとの間の異なる二点に位置し、
前記引っ張り工具の一端を接続するための他方の前記取付部は、前記ばねケースの下端部に位置することを特徴とする電車線のテンションバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、温度変化等により伸縮する電車線を一定の張力で構築物に引き留めるテンションバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
電車線のような架空線、特にトロリ線においては、温度変化による伸縮や、クリープ、摩耗による弾性伸び、さらに経年による支持物の傾斜などにより、その張力が影響を受けるため、張力を一定範囲に保持する必要がある。このため、従来、種々のテンションバランサが提案されている。
特許文献1に記載のテンションバランサは、構築物に支持される円筒状のばねケースと、ばねケースの一端側に固着されるフレームと、第1の枢止点においてフレームに枢着される回転アームと、回転アームの第2の枢止点に一端が枢着され、蓋を貫通してばねケース内を延び、他端部にばね押さえを具備するテンションロッドと、ばね押さえとばねケースの蓋との間に挿入されるコイルばねとを具備し、回転アームの第3の枢止点に電車線が引き留められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のテンションバランサにおいては、電車線を所定の引き留め位置に位置決めする際、回転アームと電車線の間に引っ張り工具を取り付けて引き緩め操作して、テンションロッドを引き出してコイルばねを伸ばし、回転アームの回転位置を決定してから、電車線の端部を回転アームに連結している。しかし、電車線の引き込み力とコイルばねのばね力とが引き合う状態での引っ張り工具の取り付け作業や取り外し作業が容易でない。また、電車線の断線時には、収縮したコイルばねを備えた構造上テンションロッドを引き出すのに大きな力が必要となり、引っ張り工具を接続しても引き出しが容易でない。さらに、電車線の工事の際に、安全に作業を行うため、一時的に電車線の張力を小さくすることが望ましいが、このような一時的な張力の変更に迅速に対応できないという問題がある。
したがって、本発明は、電車線の引き留め位置の位置決めを行う引っ張り工具の着脱が容易で、電車線の断線時でも電車線の引き留め位置の決定を妨げられることがなく、電車線の張力の一時的な変更作業が容易なテンションバランサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための、本発明のテンションバランサ1は、軸線方向一端側に開口4を有する蓋3を具備し、構築物に支持される円筒状のばねケース2にと、ばねケース2の蓋3の外側に固着されるフレーム7と、不等辺三角形の各頂点に配置される第1ないし第3の3つの枢止点22,23,24を有し、第1の枢止点22において主軸によってフレーム7に枢着される回転アーム8と、回転軸11によって回転アーム8の第2の枢止点23に一端が枢着され、ばねケース2の蓋3の開口4を貫通してばねケース2内を延び、他端部にばね押さえ12を具備するテンションロッド10と、ばね押さえ12とばねケース2の蓋3との間に挿入されるコイルばね13とを具備する。テンションバランサ1は、回転アーム8の第3の枢止点24に一端部が引き止められる電車線Wをそれの伸縮量にかかわらずほぼ一定の張力を維持したまま構築物に支持する。回転アーム8及びばねケース2には、これら相互間を牽引して、電車線Wを引き留める回転アーム8の回転位置を位置決めする牽引装置を取り付けるための取付部25,26,27をそれぞれ具備する。
【発明の効果】
【0006】
本発明のテンションバランサは、引っ張り工具を電車線に接続することなく、回転アームとばねケースの間に簡単に取り付けることができ、回転アームへの電車線の接続の如何に関わらず、回転アームを位置決めすることができて、電車線の引き留め位置を容易に調整でき、電車線の工事の際の一時的な張力の低減に迅速に対応できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明に係るテンションバランサの正面図である。
【
図2】テンションバランサの先端部の側面図である。
【
図3】
図1のテンションバランサの上部の斜視図である。
【
図4】
図1のテンションバランサの一部の分解斜視図である。
【
図5】
図1のテンションバランサにおけるばね押さえの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
テンションバランサ1は、
図1ないし
図3に示すように、構築物に垂直に支持される円筒状のばねケース2を具備する。ばねケース2は、軸線方向一端側に開口4を有する蓋3を具備し、吊り手5,6により構築物に固定される。
【0009】
ばねケース2の蓋3の外側にフレーム7が固着される。フレーム7は、平行一対の支持板7a,7bを有する。支持板7a,7b間に配置される回転アーム8は、概略不等辺三角形状の平行一対のアーム板8a,8bからなる。回転アーム8は、それの不等辺三角形の一の頂点付近の第1の枢止点22において、主軸9によってフレーム7に枢着される。
【0010】
テンションロッド10は、回転アーム8の不等辺三角形の他の頂点付近の第2の枢止点23において、回転軸11によって回転アーム8に枢着される。テンションロッド10の他端側は、ばねケース2の蓋の開口4を貫通してばねケース2内を延び、他端部にばね押さえ12を具備する。
【0011】
ばね押さえ12とばねケース2の蓋3との間に、コイルばね13が挿入される。電車線Wは、回転アーム8の不等辺三角形の他の頂点付近の第3の枢止点24に一端部が引き止められ、それの伸縮量にかかわらずほぼ一定の張力を維持したまま構築物に引き止められる。
【0012】
回転アーム8とばねケース2との間には、回転アーム8を回転させることにより回転アーム8に引き留めた電車線Wの引き留め位置を調整するための牽引装置Pが取り付けられる。牽引装置Pは、回転アーム8から延線側に張り出す取付アームCと、取付アームCの先端部に接続して回転アーム8を引き寄せ回転させる張線器やチェーンブロックなどの引っ張り工具Sとを具備する。取付アームCは、上部片C1の先端部に、平行する一対の下部片C2の先端部を枢着して構成される。取付アームCの上部片C1と下部片C2との基端は、回転アーム8第1の枢止点22と第3の枢止点24との間の上下に異なる二点に位置する取付部25,26に枢着される。取付部25は、上部片C1の基端を軸支するピン25bを貫通させるピン孔25aを具備する。取付部26は、下部片C2の基端を軸支するピン26bを貫通させるピン孔26aを備える。引っ張り工具Sの一端は、ばねケース2の下端部に位置する取付部27に接続される。取付部27は、ワイヤ接続孔27aを備えた引き手により構成される。
【0013】
図4に示すように、ガイドパイプ14はステンレス鋼製で、一端が、ばねケース2の蓋3の内側に固着され、コイルばね13の内側をこれに沿って延び、他端側に軸線方向に延びる対向一対の切欠溝15を有する。
【0014】
ばね押さえ12は、
図5に示すように、リング部材16と、ガイドプレート17と、引き手18とを具備する。
【0015】
リング部材16は、ガイドパイプ14の外径より大径の開口19を有し、この開口19内へわずかに突出するように等間隔に配置された4つのスペーサ20を具備する。スペーサ20は、短冊状の銅板をL字状に屈曲させてなり、リング部材16の開口19側の縁に掛け止められ、コイルばね13の他端とリング部材16との間に挟持される。スペーサ20は、ガイドパイプ14の外周と擦れ合っており、両者のかじりや焼き付きを防止する。
【0016】
ガイドプレート17は、リング部材16の開口19を横断するように設けられ、ガイドパイプ14の切欠溝15に、ガイドパイプ14の軸線方向に相対移動自在に係合する。
【0017】
テンションロッド10は、ガイドパイプ14内を延び、他端側においてばね押さえ12の引き手18に枢ピン21で結合される。
【0018】
収縮によってばね13にたわみが生じると、ばね押さえ12のリング部材16がスペーサ20を介して、ガイドパイプ14に当接し、コイルばね13の中心位置を保持する。リング部材16とガイドパイプ14との摺動抵抗は比較的小さく、接触による反力は無視できる。
【0019】
回転アーム8の取付部25,26とばねケース2の取付部27との間には、牽引装置Pを取り付け、また取り付けた牽引装置Pを取り外すことができる。従って、回転アーム8に電車線Wを接続したまま、引っ張り工具Sを取り付けて引き緩め操作し、回転アーム8を回転させテンションロッド10をばねケース2から引き出してコイルばね13を伸ばし、電車線Wの引き留め位置を前後方向に調整できる。引っ張り工具Sを電車線Wに接続することなく、回転アーム8とばねケース2との間に取り付けるので、電車線Wの断線時でも電車線Wの引き留め位置を位置決めできる。さらに、牽引装置Pの着脱が容易であるから、電車線Wの工事の際に、一時的に回転アーム8における電車線Wの引き留め位置を変更して電車線の張力を低減することにより工事作業を安全に行える。
【0020】
なお、本実施形態では、コイルばね13を垂直方向に内蔵したばねケース2が構築物に垂直に支持されるテンションバランサ1を構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、コイルばね13を水平方向に内蔵したばねケース2が構築物に水平に支持されるテンションバランサであってもよい。
【符号の説明】
【0021】
1 テンションバランサ
2 ばねケース
3 蓋
4 開口
5 吊り手
6 吊り手
7 フレーム
8 回転アーム
9 主軸(第1の枢止点)
10 テンションロッド
11 回転軸(第2の枢止点)
12 ばね押さえ
13 コイルばね
14 ガイドパイプ
15 切欠部
16 リング部材
17 ガイドプレート
18 引き手
19 開口
20 スペーサ
21 枢ピン
22 第1の枢止点
23 第2の枢止点
24 第3の枢止点
25 取付部
25a ピン孔
25b ピン
26 取付部
26a ピン孔
26b ピン
27 取付部
27a ワイヤ接続孔
P 牽引装置
C 取付アーム
S 引っ張り工具
W 電車線