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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】側面衝撃対応の車体構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/20 20060101AFI20220301BHJP
   B62D 25/04 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B62D25/20 F
B62D25/04 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018053699
(22)【出願日】2018-03-22
(65)【公開番号】P2019166850
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100180747
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 剛彦
(72)【発明者】
【氏名】▲桑▼原 光政
(72)【発明者】
【氏名】本宮 有也
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-226353(JP,A)
【文献】特開2017-196952(JP,A)
【文献】特開2012-171611(JP,A)
【文献】特開平08-020363(JP,A)
【文献】国際公開第2009/038088(WO,A1)
【文献】特開2014-080182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/20
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車室の外縁に沿ってフロアパネルの高さにおいて前後方向に延在するサイドシルと、
前記サイドシルから上向きに立設するピラーと、
前記サイドシルの内側において車幅方向に延在するように前記フロアパネルの下側に設けられるクロスメンバと、
を有し、
前記サイドシルを中空の閉断面構造に形成して、中空の前記サイドシルの上部を除いた下部に補強部材を設け、
前記クロスメンバは、前記補強部材についての車幅方向の内側に位置するように、前記サイドシルの下部の内側に隣接してまたは近接して設けられる、
側面衝撃対応の車体構造。
【請求項2】
前記サイドシルは、下向きに突出する下突出部を有する中空の閉断面構造に形成され、
前記補強部材は、前記下突出部に設けられる、
請求項1記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項3】
前記クロスメンバは、前記フロアパネルの下側に取り外し可能に取り付けられるバッテリモジュールに設けられるモジュールクロスメンバである、
請求項1または2記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項4】
前記モジュールクロスメンバは、前記サイドシルについての前記補強部材が設けられる下部の内面または前記サイドシルにおいて下向きに突出する下突出部の内面に隣接してまたは近接する位置に、前記内面と対向する荷重受面を有する、
請求項3記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項5】
前記モジュールクロスメンバの前記荷重受面の高さは、前記内面の高さ以下である、
請求項4記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項6】
前記サイドシルは、前記サイドシルにおいて下向きに突出して前記補強部材が設けられる下突出部の内側に、本体下面を有し、
前記モジュールクロスメンバは、前記本体下面の下側において前記下突出部の内面に隣接してまたは近接する端面を有する、
請求項3から5のいずれか一項記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項7】
モジュールクロスメンバは、前記サイドシルの内部に設けられる前記補強部材と、前記サイドシルの前記本体下面とに、連結される、
請求項6記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項8】
前記車体は、車幅方向に延在するように前記車体に固定されるフロアクロスメンバを有し、
前記バッテリモジュールの前記モジュールクロスメンバは、前記フロアクロスメンバの下側に取り外し可能に取り付けられる、
請求項3から7のいずれか一項記載の側面衝撃対応の車体構造。
【請求項9】
前記ピラーは、前記サイドシルの外側に被さる基部を有し、
前記基部は、前記サイドシルの上部と接合され、
前記補強部材は、前記基部と前記サイドシルとの接合位置より下側となる下部に設けられる、
請求項1から8のいずれか一項記載の側面衝撃対応の車体構造。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、側面衝撃に対応する車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ピラーの内部に補強部材を設ける車体構造を開示する。
これにより、ピラーに対して他の自動車が当たる場合に、ピラーが内側へ曲がり難くなるように剛性を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-080182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のようにピラーの内部に補強部材を設けたとしても、たとえばピラーの位置からずれた位置においてサイドシルに対して電柱が直接に衝突する場合、ピラーの補強部材は機能せず、サイドシルが内側へ変形することになる。
そこで、サイドシルにおいても、ピラーと同様に、補強部材を設けることが考えられる。
しかしながら、サイドシルの内部に補強部材を設けた場合、サイドシルの剛性が変形し難くなるように高まる。その結果、ピラーに対して他の自動車が当たる場合に、ピラーとサイドシルとの接合部が剥がれてしまう可能性がある。
【0005】
このように車体では、各種の側面への衝撃入力に対して好適に対応できるようにすることが求められている。
特に、車体では、衝撃が大きくなる可能性がある他の自動車がピラーに衝突する際の衝撃への対応性能を確保しつつ、サイドシルに対して直接的に衝撃が入力される場合への対応性能を高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る側面衝撃対応の車体構造は、車体の車室の外縁に沿ってフロアパネルの高さにおいて前後方向に延在するサイドシルと、前記サイドシルから上向きに立設するピラーと、前記サイドシルの内側において車幅方向に延在するように前記フロアパネルの下側に設けられるクロスメンバと、を有し、前記サイドシルを中空の閉断面構造に形成して、中空の前記サイドシルの上部を除いた下部に補強部材を設け、前記クロスメンバは、前記補強部材についての車幅方向の内側に位置するように、前記サイドシルの下部の内側に隣接してまたは近接して設けられる。
【0007】
好適には、前記サイドシルは、下向きに突出する下突出部を有する中空の閉断面構造に形成され、前記補強部材は、前記下突出部に設けられる、とよい。
【0008】
好適には、前記クロスメンバは、前記フロアパネルの下側に取り外し可能に取り付けられるバッテリモジュールに設けられるモジュールクロスメンバである、とよい。
【0009】
好適には、前記モジュールクロスメンバは、前記サイドシルについての前記補強部材が設けられる下部の内面または前記サイドシルにおいて下向きに突出する下突出部の内面に隣接してまたは近接する位置に、前記内面と対向する荷重受面を有する、とよい。
【0010】
好適には、前記モジュールクロスメンバの前記荷重受面の高さは、前記内面の高さ以下である、とよい。
【0011】
好適には、前記サイドシルは、前記サイドシルにおいて下向きに突出して前記補強部材が設けられる下突出部の内側に、本体下面を有し、前記モジュールクロスメンバは、前記本体下面の下側において前記下突出部の内面に隣接してまたは近接する端面を有する、とよい。
【0012】
好適には、モジュールクロスメンバは、前記サイドシルの内部に設けられる前記補強部材と、前記サイドシルの前記本体下面とに、連結される、とよい。
【0013】
好適には、前記車体は、車幅方向に延在するように前記車体に固定されるフロアクロスメンバを有し、前記バッテリモジュールの前記モジュールクロスメンバは、前記フロアクロスメンバの下側に取り外し可能に取り付けられる、とよい。
【0014】
好適には、前記ピラーは、前記サイドシルの外側に被さる基部を有し、前記基部は、前記サイドシルの上部と接合され、前記補強部材は、前記基部と前記サイドシルとの接合位置より下側となる下部に設けられる、とよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明において車体の車室の外縁に沿ってフロアパネルの高さにおいて前後方向に延在するサイドシルは中空の閉断面構造に形成され、その内部に設けられる補強部材は、中空の上部を除いた下部に設けられる。
補強部材は、たとえば、ピラーについてのサイドシルの外側に重なる基部とサイドシルの上部との接合位置より下側となるように、中空の閉断面構造のサイドシルの下部に設けられる。
よって、サイドシルから上向きに立設することで車室の側面において立設されるピラーに対して他の自動車が衝突し、ピラーを内側へ曲げるように側面から入力がある場合、ピラーおよびサイドシルの上部は、補強部材が設けられていない場合と同様に内側へ変形して衝撃を吸収することができる。
これに対して、仮にたとえばサイドシルの中空の上部に補強部材が設けられる場合、サイドシルは側面入力があっても内側へ変形し難くなる。その結果、ピラーが内側へ変形しようとする際に、内側へ変形し難いサイドシルからピラーが外れてしまう可能性がある。
また、中空の閉断面構造のサイドシルの下部には、補強部材を設け、クロスメンバは、サイドシルの下部の内側に隣接してまたは近接して設けられ、補強部材についての車幅方向の内側に位置する。
よって、たとえば電柱などがサイドシルに直接に衝突することでサイドシルが内側へ移動するように変形する場合、その変形を補強部材により抑えることができる。しかも、側面からの衝撃の一部を、補強部材を通じてクロスメンバへ効果的に逃がすことができる。
その結果、本発明では、車体の側面に対して他の自動車が衝突した場合での衝撃吸収性能を好適に確保しつつ、サイドシルに対して直接的に衝撃が入力される場合への対応性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の実施形態に係る自動車の車体を模式的に示す説明図である。
図2図2は、図1の車体の側面に対して他の自動車が衝突する状況の説明図である。
図3図3は、図1の車体の側面に電柱が衝突する状況の説明図である。
図4図4は、図1の車体における側面衝撃に対応する車体構造の説明図である。
図5図5は、図4の車体構造に対して、他の自動車が衝突する際の変形状態の説明図である。
図6図6は、比較例の車体構造での変形状態の説明図である。
図7図7は、車体構造の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施形態に係る自動車1の車体2を模式的に示す説明図である。図1(A)は、車体2の側面図である。図1(B)は、車体2の側面図である。
図1の自動車1は、車両の一例である。自動車1は、車体2の中央部に、乗員が乗車する車室3を有する。
【0019】
図1(A)に示すように、車体2についての車室3の側面部分には、サイドシル11、ルーフレール12、Aピラー13、Bピラー14、Cピラー15といった骨格部材が設けられる。
サイドシル11は、車室3の外縁に沿ってフロアパネル16の高さにおいて前後方向に延在する。
ルーフレール12は、車室3の外縁に沿ってルーフの高さにおいて前後方向に延在する。
Aピラー13は、Bピラー14、およびCピラー15は、車体2の側面において前後方向に並べて上下方向に延在する。
Aピラー13は、Bピラー14、およびCピラー15は、サイドシル11とルーフレール12とに連結される。
Aピラー13とBピラー14との間には、図示外の前ドアが開閉可能に配置される。
Bピラー14とCピラー15との間には、図示外の後ドアが開閉可能に配置される。
乗員は、前ドアまたは後ドアを開閉して、車室3に乗降する。
【0020】
図1(B)に示すように、車体2のフロアパネル16の下側には、バッテリモジュール20が設けられる。バッテリモジュール20は、複数のバッテリセルなどを有する。自動車1は、バッテリセルの蓄電電力により駆動モータを動作させ、駆動モータによる駆動力で走行することができる。
バッテリモジュール20は、左右のサイドシル11の間に収まる略立方体形状のモジュールケース21を有する。モジュールケース21内には、車幅方向に延在する複数のモジュールクロスメンバ22を有する。バッテリモジュール20は、複数のモジュールクロスメンバ22により、車体2の床面の下側に取り外し可能に取り付けられる。車体2に取り付けられたモジュールクロスメンバ22は、左右のサイドシル11の間に位置することで、車体2のクロスメンバとして機能し得る。
【0021】
ところで、図1の自動車1は、公道を走行するものであり、走行中に他の自動車61の車体2や電柱62などと衝突することがある。
自動車1の車体2は、各種の衝突において、車室3に乗っている乗員を保護できるようにすることが望ましい。
【0022】
図2は、図1の車体2の側面に対して他の自動車61が衝突する状況の説明図である。
図2において、他の自動車61の車体2は、左方向から車体2の左側面へ向かって衝突する。
この場合、車体2では、他の自動車61のフロントバンパーの高さ位置にあるBピラー14に衝撃が入力される。
このため、車体2では、Bピラー14が内側へ曲がって車室3へ入り込み難くなるように、Bピラー14の内部に補強部材18を設けることがある。
【0023】
図3は、図1の車体2の側面に電柱62が衝突する状況の説明図である。
図3では、右方向へ滑るように移動する車体2の左側面に電柱62が衝突する。
この場合、電柱62は、Bピラー14から前後にずれた位置において、サイドシル11に衝突する可能性がある。
このため、車体2では、Bピラー14と同様に、サイドシル11の内部に補強部材18を設けることが考えられる。
【0024】
しかしながら、車体2においてこのような複数の種類の衝突のそれぞれに対して個別に対策を講じる場合、以下のような問題が生じる可能性がある。
すなわち、たとえばサイドシル11の内部に補強部材18を設けた場合、当然にサイドシル11の剛性は変形し難くなるように高まる。
その結果、Bピラー14に対して他の自動車61が衝突する場合に、Bピラー14の基部42とサイドシル11との溶接などによる接合部43に対して未対策の場合よりも大きな力が作用し、接合部43が剥がれて破断してしまう可能性が高まる。
このように車体2では、側面に対する複数種類の衝撃入力に対して好適に対応できるようにすることが求められている。
【0025】
図4は、図1の車体2における側面衝撃に対応した車体2の構造の説明図である。
図4(A)は、車体2の構造を前方から見た説明図である。図4(B)は、車体2の構造を前上方から見た説明図である。
図4には、車体2の構造の骨格部材として、サイドシル11、Bピラー14、フロアクロスメンバ17、バッテリモジュール20のモジュールクロスメンバ22、が図示されている。
【0026】
サイドシル11は、内側ハット部材31、外側ハット部材32、中央板33、を有する。
内側ハット部材31および外側ハット部材32は、断面が略ハット形の長尺鋼材である。中央板33は、板状の長尺鋼材である。
内側ハット部材31と外側ハット部材32とは、中央板33を間に挟んでハット形状が向かい合うように重ねて、たとえばスポット溶接により互いに接合される。これにより、断面の外形が略四角形となる基本骨格部34が形成される。
サイドシル11は、内側ハット部材31が車体2の内側となるように、車室3の床面を構成するフロアパネル16の高さにおいて、車室3の外縁に沿って前後方向に延在させて設けられる。
【0027】
また、サイドシル11は、基本骨格部34から下向きに突出する下突出部35を有する。
下突出部35は、たとえば外側ハット部材32のハット形状部分を、内側ハット部材31より下へ突出させることにより形成できる。
この場合、サイドシル11は、下突出部35を含めた全体が、中空の閉断面構造となる。
下突出部35は、断面外形が略四角形のサイドシル11の基本骨格部34の車幅方向の幅より狭い幅で、基本骨格部34から下向きに突出する。
下突出部35は、サイドシル11の略前後長さに併せて、車体2の前後方向に延在するように形成される。
下突出部35は、フロアクロスメンバ17の高さ位置より下側へ向けて、または車室3のフロアパネル16の高さ位置より下側へ向けて下向きに突出する。
また、断面外形が略四角形のサイドシル11には、下突出部35の内側に、本体下面36が形成される。
【0028】
Bピラー14は、中空の略四角形断面を有する柱状骨格部材である。Bピラー14は、サイドシル11から上向きに立設するピラー本体41と、ピラー本体41から下向き突出する基部42とを有する。
基部42の外側部分は、サイドシル11の基本骨格部34の外側に被さる状態で、サイドシル11の基本骨格部34の上部外面と、たとえばスポット溶接により接合される。
基部42の内側部分は、サイドシル11の基本骨格部34の内側に被さる状態で、サイドシル11の基本骨格部34の上部内面と、たとえばスポット溶接により接合される。
これにより、Bピラー14は、サイドシル11に基部42が接合された状態で、サイドシル11から上向きに立設する。
【0029】
フロアクロスメンバ17は、車室3のフロアパネル16の下側に固定して設けられる骨格部材である。フロアクロスメンバ17は、車体2の両側に設けられる一対のサイドシル11の間において、車幅方向に延在するように設けられる。フロアクロスメンバ17の端部は、サイドシル11の基本骨格部34の内側に位置する。フロアクロスメンバ17は、サイドシル11の基本骨格部34と、たとえばスポット溶接により接合されてよい。
【0030】
モジュールクロスメンバ22は、フロアパネル16の下側に取り外し可能に取り付けられるバッテリモジュール20に設けられるクロスメンバである。
モジュールクロスメンバ22は、たとえばフロアクロスメンバ17の下側に重ねて、フロアクロスメンバ17とネジ56によりねじ止めされる。
取り付けた状態においてモジュールクロスメンバ22の端部は、サイドシル11の下突出部35の内側に隣接してまたは近接して位置する。モジュールクロスメンバ22は、車体2の両側に設けられる一対のサイドシル11の下突出部35の間において、車幅方向に延在する。
この場合、モジュールクロスメンバ22の端面は、サイドシル11の下突出部35の内面と対向する荷重受面51として機能する。
また、モジュールクロスメンバ22の端面である荷重受面51の高さは、サイドシル11の下突出部35の内面より一回り小さい。これにより、サイドシル11が内側へ向かって変形する場合、モジュールクロスメンバ22はその端面である荷重受面51の全体に対してサイドシル11が当たることになる。
内側へ向かって変形しようとするサイドシル11の荷重は、モジュールクロスメンバ22の端面の全体に作用できる。
これに対し、モジュールクロスメンバ22の端面である荷重受面51の一部に荷重が作用する場合には、モジュールクロスメンバ22の荷重受面51が部分的に変形し、モジュールクロスメンバ22が軸方向の入力に対して有する剛性を、サイドシル11の荷重を受けるために利用し難くなる。なお、モジュールクロスメンバ22の荷重受面51の高さがサイドシル11の下突出部35の内面の高さ以下であれば、同様の効果を期待できると考えられる。
【0031】
そして、本実施形態では、さらに閉断面構造のサイドシル11の内部に、補強部材18を設ける。
補強部材18は、サイドシル11の下突出部35に収まるサイズの断面略四角形の鋼材である。補強部材18は、サイドシル11の前端から後端までの全体にかけて前後方向に沿って延在するように長尺に形成される。
このように、補強部材18を、閉断面構造のサイドシル11の内部の全体にではなく、基本骨格部34を除いたサイドシル11の下部である下突出部35のみの内部に設けることにより、サイドシル11の基本骨格部34は、補強部材18が無い場合と同様に変形することができる。
また、補強部材18は、Bピラー14の基部42とサイドシル11の上部外面との接合部43の位置より下側に収まる。
サイドシル11の下突出部35およびそこに収まる補強部材18は、モジュールクロスメンバ22と、ネジ56によりねじ止めにより連結される。これにより、サイドシル11は、初期変形においてモジュールクロスメンバ22の上下へずれるように内側へ変形し難くなる。
また、モジュールクロスメンバ22は、下突出部35の内側に位置する本体下面36において、サイドシル11の基本骨格部34の下側に、ネジ56によりねじ止めされる。
このようにモジュールクロスメンバ22とサイドシル11とを、サイドシル11の変形方向に対して交差する方向でねじ止めすることにより、サイドシル11が変形し始めた後において、モジュールクロスメンバ22の位置を、サイドシル11の下突出部35の内側に維持することができる。
【0032】
このため、図4において破線矢印で図示するように、電柱62などがサイドシル11とBピラー14との接合部43に衝突した場合でも、サイドシル11についてのその前後の位置に衝突した場合であっても、補強部材18により剛性が向上したサイドシル11は、変形し難くなる。
しかも、サイドシル11が変形しようとする場合には、サイドシル11をモジュールクロスメンバ22の端面である荷重受面51の全体に当たるように変形させ、さらにサイドシル11が変形しようする場合にはサイドシル11をモジュールクロスメンバ22により支えて、サイドシル11そのものが内側へ向けて大きく変形してしまうことを抑制できる。サイドシル11に対して入力される力の一部は、モジュールクロスメンバ22に伝わり、モジュールクロスメンバ22から逃がすことができる。
【0033】
図5は、図4の車体構造に対して、他の自動車61が衝突する際の変形状態の説明図である。図5(A)は、他の自動車61が衝突し始めた入力開始時の状態である。図5(B)は、車体2の変形が進んだ状態である。
図5(A)に示すように、他の自動車61は、バンパーの高さ位置において、Bピラー14に衝突する。
これにより、Bピラー14は、ルーフレール12とサイドシル11との間で内側へ向けて折れるように変形し始める。
変形し始めたBピラー14が他の自動車61の荷重によりさらに内側へ向けて変形する場合、図5(B)に示すように、Bピラー14の基部42と接合されたサイドシル11では、その上部の基本骨格部34が内上方向へ向けて引き上げられるように変形する。
これにより、Bピラー14は、その基部42とサイドシル11との接合が破断しない状態のまま、内側へ向けて変形することができる。
【0034】
図6は、比較例の車体構造での変形状態の説明図である。
図6の比較例は、図5(B)に対応する変形状態である。
比較例の補強部材60は、断面外形が略四角形となる閉断面構造のサイドシル11の外側部分の全体に収まるように設けられる。
この比較例の場合、補強部材60が設けられることにより、サイドシル11の剛性が上がり、図4のように電柱62がサイドシル11に直接あたる場合でも、サイドシル11が内側へ向けて変形し難くなる。
しかしながら、Bピラー14の基部42と接合されるサイドシル11の上部の剛性も補強部材60により向上している。
このため、図6に示すように他の自動車61がBピラー14に衝突する場合、サイドシル11の上部は、Bピラー14の変形につられて内側へ向けて変形し難くなる。
その結果、Bピラー14の基部42とサイドシル11との接合部43に過大な引っ張り力が作用し、接合部43が破断し易くなる。
【0035】
以上のように、本実施形態では、車体2の車室3の外縁に沿ってフロアパネル16の高さにおいて前後方向に延在するサイドシル11は中空の閉断面構造に形成され、その内部に設けられる補強部材18は、中空の上部を除いた下部において前後方向に沿って延在する。
補強部材18は、たとえば、Bピラー14についてのサイドシル11の外側に被さる基部42とサイドシル11の上部外面との接合部43の位置より下側となるように、中空の閉断面構造のサイドシル11の下部に設ける。
よって、サイドシル11に基部42が接合された状態でサイドシル11から上向きに立設することで車室3の側面において立設されるBピラー14に対して他の自動車61が衝突し、Bピラー14を内側へ曲げるように側面から入力がある場合、Bピラー14およびサイドシル11の上部は、補強部材18が設けられない状態と同様に内側へ変形して衝撃を吸収することができる。
これに対して、仮にたとえばサイドシル11の中空の上部についても前後方向に沿って延在する補強部材18を設けた場合、側面入力に対してサイドシル11は全体的に内側へ変形し難くなる。その結果、ピラーが内側へ変形しようとする際に、サイドシル11とBピラー14の基部42との接合が破断して、内側へ変形し難いサイドシル11からピラーが剥がれてしまう可能性がある。
また、中空の閉断面構造のサイドシル11の下部には、補強部材18を設け、モジュールクロスメンバ22についての車幅方向の端面は、サイドシル11の下突出部35の内側に隣接してまたは近接して設けられ、補強部材18についての車幅方向の内側に位置する。よって、たとえば電柱62などがサイドシル11に直接に衝突することでサイドシル11が内側へ移動するように変形する場合、その変形を補強部材18およびモジュールクロスメンバ22により抑えることができる。側面からの衝撃を、モジュールクロスメンバ22へ効果的に逃がすことができる。
その結果、本実施形態では、車体2の側面に対して他の自動車61が衝突した場合にはBピラー14がサイドシル11から外れてしまうことを抑制してその衝撃をBピラー14およびサイドシル11の変形により吸収でき、しかも、車体2の側面のサイドシル11に対して直接に電柱62などが衝突した場合にはその衝撃を、補強部材18を通じてモジュールクロスメンバ22へ効果的に逃がすことができる。衝撃が大きくなる可能性がある他の自動車61がBピラー14に当たる際の衝撃への対応性能を好適に確保しつつ、それ以外の側面への衝撃入力に対しても好適に対応することができる。
【0036】
本実施形態では、フロアクロスメンバ17の高さ位置、または車室3のフロアパネル16の高さ位置より下側となるように下向きに突出する下突出部35を有し、下突出部35を含めたサイドシル11の全体が中空の閉断面構造に形成され、補強部材18は、下突出部35に収めて設けられる。よって、サイドシル11についての下突出部35より上側の部分は、補強部材18が設けられていない中空の構造となり、補強部材18を設けない既存のサイドシル11と同様の中空構造とすることができる。また、下向きに突出する下突出部35は、サイドシル11の車幅方向の幅より狭い幅で突出するので、サイドシル11の上側部分の変形は、補強部材18および下突出部35を設けているにもかかわらず、補強部材18および下突出部35とは独立したような状態で変形することができる。サイドシル11の車幅方向の幅で補強部材18および下突出部35を設けた場合、これらによりサイドシル11の変形が強く規制され、サイドシル11の変形は補強部材18および下突出部35を設けない場合とは異なるものになり易い。本実施形態では、このような事態を抑制し、サイドシル11をピラーとともに内側へ好適に変形させることができ、車体2の側面に対して他の自動車61が衝突した場合での衝撃吸収性能として既存のサイドシル11と同等のものが得られると期待できる。
【0037】
本実施形態では、モジュールクロスメンバ22は、フロアパネル16の下側に取り外し可能に取り付けられるバッテリモジュール20に設けられる。よって、本実施形態では、床下のバッテリモジュール20を有する車体2において、バッテリモジュール20のモジュールクロスメンバ22をサイドシル11の下部の内側にまたはサイドシル11から下向きに突出する下突出部35の内側に隣接してまたは近接して設けて、各種の側面への衝撃入力に対して好適に対応できるようにすることができる。
【0038】
本実施形態では、モジュールクロスメンバ22は、サイドシル11についての補強部材18が設けられる下部の内面またはサイドシル11において下向きに突出する下突出部35の内面に隣接してまたは近接する位置に、この内面と対向する荷重受面51を有する。よって、モジュールクロスメンバ22は、サイドシル11が内側へ変形する場合に、それを荷重受面51により受け止めることができる。サイドシル11を内側へ変形させようとする力をサイドシル11へ逃がすことができる。サイドシル11の変形を抑制できる。
【0039】
本実施形態では、モジュールクロスメンバ22の荷重受面51の高さは、サイドシル11についての補強部材18が設けられる下部の内面の高さ、またはサイドシル11において下向きに突出して補強部材18が設けられる下突出部35の内面の高さ以下である。よって、モジュールクロスメンバ22は、荷重受面51の全体により、内側へ変形しようとするサイドシル11の内面に当たる。よって、モジュールクロスメンバ22は、荷重受面51に当たった後に、サイドシル11の荷重受面51の上下方向へ向かって変形し難くなる。
【0040】
本実施形態では、サイドシル11は、サイドシル11において下向きに突出して補強部材18が設けられる下突出部35の内側に、本体下面36を有し、下面が略階段状に形成される。そして、モジュールクロスメンバ22の端面は、サイドシル11の本体下面36の下側において、下突出部35の内面に隣接してまたは近接する。よって、バッテリモジュール20を下側へ外す取り外し機能を損なうことなく、内側へ向かって変形するサイドシル11は、モジュールクロスメンバ22の端面に当たった状態に維持され易くなる。サイドシル11に対して強い入力があったとしても、サイドシル11をモジュールクロスメンバ22の端面と当接した状態に維持することができる。
【0041】
本実施形態では、モジュールクロスメンバ22は、サイドシル11の内部に設けられる補強部材18と、サイドシル11の本体下面36と、ねじ止めにより連結される。よって、サイドシル11が内側へ向かって変形しても、モジュールクロスメンバ22とサイドシル11との連結状態を維持できる可能性が高くなる。バッテリモジュール20の脱落を効果的に抑制できる。
【0042】
本実施形態では、車体2に、車幅方向に延在するように車体2に固定されるフロアクロスメンバ17を設け、バッテリモジュール20のモジュールクロスメンバ22を、フロアクロスメンバ17の下側に取り外し可能に取り付ける。よって、バッテリモジュール20を、車体2に対して脱落し難くなるように強固に取り付けることができる。
【0043】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0044】
図7は、車体構造の変形例の説明図である。
【0045】
図7(A)においてサイドシル11は、断面の外形が略四角形となる基本骨格部34のみで構成されている。そして、補強部材18は、中空の閉断面構造のサイドシル11についての、Bピラー14とサイドシル11との接合部43より下側となる下部に収めて設けられる。この場合でも、サイドシル11の上部は、Bピラー14の変形につられて内側へ変形できる。しかも、補強部材18の内側には、モジュールクロスメンバ22が位置しており、サイドシル11についての内側への変形を、モジュールクロスメンバ22で抑えることができる。
【0046】
図7(B)においてサイドシル11は、断面の外形が略四角形となる基本骨格部34のみで構成されている。そして、補強部材18は、中空の閉断面構造のサイドシル11についての、Bピラー14とサイドシル11との接合部43より下側となる下部の内側部分のみに収めて設けられる。この場合でも、サイドシル11の上部および外側は、Bピラー14の変形につられて内上側へ変形できる。しかも、補強部材18の内側には、モジュールクロスメンバ22が位置しており、サイドシル11についての内側への変形を、モジュールクロスメンバ22で抑えることができる。
【0047】
図7(C)においてサイドシル11は、縦長の略四角形となる基本骨格部34のみで構成されている。そして、補強部材18は、中空の閉断面構造のサイドシル11についての、下側へ延長した部分に収めて設けられる。この場合でも、サイドシル11の上部および外側は、Bピラー14の変形につられて内上側へ変形できる。しかも、補強部材18の内側には、モジュールクロスメンバ22が位置しており、サイドシル11についての内側への変形を、モジュールクロスメンバ22で抑えることができる。なお、サイドシル11の上部の内側に、フロアクロスメンバ17を設けてもよい。
【0048】
図7(D)は、図7での比較のために図示したものであり、上記実施形態と同様の車体2の構造である。
【0049】
図7(E)において、サイドシル11は、略四角形となる基本骨格部34の下側へ突出する下突出部35とともに、基本骨格部34の内側へ突出する内突出部37を有する。そして、サイドシル11は、基本骨格部34、下突出部35および内突出部37の全体において、閉断面構造に形成される。そして、補強部材18は、中空の閉断面構造のサイドシル11についての、下突出部35に収めて設けられる。しかも、補強部材18の内側には、モジュールクロスメンバ22が位置しており、サイドシル11についての内側への変形を、モジュールクロスメンバ22で抑えることができる。なお、サイドシル11の上部にある内突出部37の内側に、フロアクロスメンバ17を設けてもよい。
【0050】
図7(F)において、Bピラー14の基部42は、サイドシル11の外側を覆うようにサイドシル11の下部までにかけて延長して形成される。これ以外は、図7(D)と同様である。この場合でも、Bピラー14の基部42とサイドシル11との接合部43を、サイドシル11の上部外面とすることにより、Bピラー14の変形にしたがってサイドシル11の上部を変形させることができる。
【0051】
図7(G)において、モジュールクロスメンバ22は、上下に幅広に形成される。そして、モジュールクロスメンバ22の端面は、上下方向において階段形状に形成され、上端面52がサイドシル11の基本骨格部34の内側に位置し、下端面53がサイドシル11の下突出部35の内側に位置する。上端面52および下端面53は、荷重受面51として機能し得る。
そして、図7に示す各変形例においても、本実施形態と同様の効果を期待できる。
【符号の説明】
【0052】
1…自動車(車両)、2…車体、3…車室、11…サイドシル、12…ルーフレール、13…Aピラー、14…Bピラー(ピラー)、15…Cピラー、16…フロアパネル、17…フロアクロスメンバ、18…補強部材、20…バッテリモジュール、21…モジュールケース、22…モジュールクロスメンバ、31…内側ハット部材、32…外側ハット部材、33…中央板、34…基本骨格部、35…下突出部、36…本体下面、37…内突出部、41…ピラー本体、42…基部、43…接合部、51…荷重受面、52…上端面、53…下端面、56…ネジ、60…比較例の補強部材、61…他の自動車、62…電柱

図1
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図7