IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社熊谷組の特許一覧

<>
  • 特許-床、壁、及び、構造体 図1
  • 特許-床、壁、及び、構造体 図2
  • 特許-床、壁、及び、構造体 図3
  • 特許-床、壁、及び、構造体 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】床、壁、及び、構造体
(51)【国際特許分類】
   E04C 2/16 20060101AFI20220301BHJP
   E04C 2/30 20060101ALI20220301BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20220301BHJP
   E04B 1/86 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
E04C2/16 E
E04C2/30 L
E04B1/94 P
E04B1/86 T
E04B1/94 W
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018065567
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019173498
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001317
【氏名又は名称】株式会社熊谷組
(74)【代理人】
【識別番号】100141243
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 靖夫
(72)【発明者】
【氏名】増子 寛
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-321323(JP,A)
【文献】登録実用新案第3209379(JP,U)
【文献】特開2017-222786(JP,A)
【文献】特開2017-053187(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04C 2/00 - 2/54
E04H 1/00 - 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる補強材とを備えた構造体であって、
前記構造体が床部材もしくは壁部材で、
前記補強材が、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバーを成形して成る補強材であることを特徴とする構造体。
【請求項2】
前記中空部に、耐火材、遮音材、及び、吸音材のいずれか一つまたは複数を配置することを特徴とする請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
前記木部材の前記補強材側に嵌合用の穴を設けるとともに、
前記補強材の前記穴に対向する位置に、前記穴に嵌合する突起部を設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる補強材とを備えた床であって、前記補強材が、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバーを成形して成る補強材であることを特徴とする床。
【請求項5】
板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる補強材とを備えた壁であって、前記補強材が、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバーを成形して成る補強材であることを特徴とする壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、床や壁、及び、床部材や壁部材などの構造体に関するもので、特に、剛性及び強度の向上させることのできる構造体の構成とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、柱や梁などを、木の板の各層を互いに直交するように積層接着した直交集成材(CLT;Cross Laminated Timber)から構成する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
このCLTは、軽量であるだけでなく、直交積層であるため、高い寸法安定性が得られるだけでなく、断熱性にも優れており、かつ、プレキャスト化も容易であることから、木造住宅などに用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-53187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、床部材や壁部材などをCLTで構築した場合には、剛性や耐力に問題があるため、これらの構造体を補強してやる必要があるが、補強材として、鋼板を用いた場合には、CLTを用いた場合の利点である軽量化の妨げになっていた。
【0005】
本発明は、従来の問題点に鑑みてなされたもので、床や壁の剛性や耐力を確保しつつ、軽量化やプレキャスト化が容易な構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる補強材とを備えた構造体であって、前記構造体が床部材もしくは壁部材で、前記補強材が、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバー(CNF;cellulose nanofiber)を成形して成る補強材であることを特徴とする。
なお、セルロースナノファイバー(CNF)は、セルロースナノファイバー(CNF)単体に限らず、セルロースナノファイバー(CNF)と樹脂とを混合したCNF樹脂複合材、セルロースナノファイバー(CNF)とセメントや石灰などの水硬性材料と混合したもの、または、セルロースナノファイバー(CNF)とカーボンファイバーやアラミド繊維などの他の高強度繊維と混合したものを指す。
また、セルロースナノファイバー(CNF)から成る補強板には、板材の両面にセルロースナノファイバー(CNF)から成るシートを貼り付けて成るCNF複合板も含まれるものとする。
このように、木部材の一方の板面に、軽量でかつ木材よりも剛性及び強度が高いセルロースナノファイバー(CNF)から補強材を取付ければ、軽量化を確保しつつ、床あるいは壁の剛性や耐力を向上させることができる。
また、セルロースナノファイバー(CNF)は、成形が容易なので、中空部を有する板状の補強材を容易に作製できるとともに、床部材や壁部材をプレキャスト化がすることも容易である。なお、上記のCNF樹脂複合材を用いれば、構造物に、難燃性等の特性を付与することも可能である。
更に、セルロースナノファイバー(CNF)は、直交集成材(CLT)と同じく、木材を原料としているので、環境配慮設計ができるという利点も有する。
【0007】
また、前記中空部に、耐火材、遮音材、及び、吸音材のいずれか一つまたは複数を配置したので、耐火性能や遮音性能(特に、対重量衝撃音性能)、もしくは、防音性能を向上させることができる。
また、構造体の一方の板面側もしくは両方の板面側に耐火材が配置すれば、床もしくは壁の耐火性能を向上させることができる。
また、前記木部材の前記補強材側に嵌合用の穴を設けるとともに、前記補強材の前記穴に対向する位置に、前記穴に嵌合する突起部を設けて、前記木部材に前記補強材を取付けてもよい
また、本発明は、床の室内側の面を板状の木部材で構成し、前記木部材の室内側とは反対側の板面に、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバーを成形して成る補強材を取付けるなどして、板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる補強材から成る床を構成すれば、軽量化でかつ剛性や耐力の向上した床を構築することができる。
また、壁についても、板状の木部材と、前記木部材の一方の板面に取付けられる、前記木部材の板面に平行な方向に延長する中空部を有する、セルロースナノファイバーを成形して成る補強材とから構成すれば、軽量化でかつ剛性や耐力の向上した壁を構築できる。

【0008】
なお、前記発明の概要は、本発明の必要な全ての特徴を列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施の形態1に係る床構造と床部材とを示す図である。
図2】床部材の他の例を示す図である。
図3】床構造の他の例を示す図である。
図4】本実施の形態2に係る壁構造と壁部材とを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1(a)~(c)は本実施の形態1に係る床1の構造と床部材10を示す図で、2は床部材10を支持する梁、3は壁である。
床部材10は、板状の木部材11と、木部材11の梁2側の板面に接着等により取付けられた補強材12と、補強材12の梁2側の板面に設けられた耐火材13とを備えた、梁2の長さ方向と平行な方向である長さ方向の寸法lが梁2の長さ方向と直交する方向である幅方向の寸法wよりも長い平面視長方形の部材で、補強材12には、上記の幅方向に延長する断面が矩形の中空部12Sが複数形成されている。
本例では、木部材11として、CLT(Cross Laminated Timber)の板材を用い、木補強材12として、セルロースナノファイバー(CNF;cellulose nanofiber)を射出成形して成る板材を用いた。CNFは、植物の細胞壁を形作る、太さが4~100nmのセルロースの束から成り、主に、木材などを原料として製造されるもので、これを射出成形や押出成形、圧縮成形などにより、板状や枠状あるは筒状に成形したものが補強材として用いられる。
CNFは、密度が鋼鉄の約1/5と低いだけでなく、引張強度が鋼鉄の約10倍と高いので、このようなCNFから成る補強材12で、CLTから成る木部材11を裏面側から補強してやれば、床部材10の軽量化を図ることができるとともに、剛性や耐力を向上させることができる。また、本発明の床部材10は、木部材のみで構成したものに比較して剛性や耐力が高いため、支持スパン長さを長くすることができる。すなわち、床1に敷設する床部材10の枚数や梁2の本数を少なくできるので、床1を効率よく構築することができる。
なお、中空部12Sに、砂、コンクリート、あるいは、鋼棒などの遮音材14を配置すれば、床1の遮音性能、特に、対重量衝撃音性能を高めることができる。
また、中空部12Sに耐火材を配置すれば、補強材12の梁2側の板面に設けられた耐火材13の量を少なくすることができる。また、吸音材を配置すれば、隣室からの音などを吸収することができる。
また、本例では、木部材11とを木材であるCLTから構成するとともに、補強材12を、CO2の削減効果を有するCNF構成から構成したので、環境配慮設計ができるという利点も有する。
【0011】
なお、前記実施の形態1では、木部材11に補強材12を接着等により取付けたが、図2(a)に示すように、木部材11の補強材12側に嵌合用の穴11Sを設けるとともに、補強材12の上記穴11Sに対向する位置に突起部12Kを設け、穴11Sに突起部12Kを嵌合させることにより、木部材11に補強材12を取付けてもよい。
また、前記例では、補強材12の中空部12Sを一列としたが、図2(b)に示すように、複数列であってもよい。また、断面形状についても、矩形だけでなく、円形や三角形など他の形状であってもよい。
また、中空部12Sの延長方向としては、梁2の幅方向に限定されるものではなく、梁2の長さ方向であってもよいが、本例のように、梁2の幅方向とする方が支持スパン長さを長くできるので好ましい。
また、前記実施の形態1では、木部材11を構成する材料としてCLTを用いたが、合板など、他の木部材を用いてもよい。また、補強材12を構成する材料についても、CNFに限定されるものではなく、CNFと樹脂とを混合したCNF樹脂複合材を用いてもよいし、CNFとセメントや石灰などの水硬性材料と混合したものや、CNFとカーボンファイバーやアラミド繊維などの他の高強度繊維と混合したものを用いてもよい。
また、CNFから成る補強材12として、板材の両面にCNFから成るシートを貼り付けた複合板を用いてもよい。
【0012】
また、前記実施の形態1では、木部材11と補強材12と耐火材13とを一体にユニット化した床部材10を複数配置して床1を構成したが、はじめに、梁2側の板面に耐火材13を取付けた補強材12を配置し、その後に、補強材12の室内側の板面に木部材11を接着もしくは嵌合して床1を構成してもよい。
また、図3(a)に示すように、室内側に配置される木部材11の幅寸法よりも小さな幅寸法を有する、耐火材131を取付けた補強材121、耐火材132を取付けた補強材122、耐火材133を取付けた補強材123を先に配置し、その上に幅寸法の大きな木部材11を接着もしくは嵌合してもよい。
あるいは、図3(b)に示すように、耐火材13を取付けた補強材12の上に、補強材12の幅寸法より小さな幅寸法を有する複数の木部材111~113を取付ける構成としてもよい。
また、図3(c)に示すように、木部材111~113の幅寸法と補強材121~123の幅寸法とが同じ場合には、例えば、木部材111と木部材112との貼り合わせ位置を補強材122の中心に位置させるなど、木部材11と補強材12との貼り合わせ位置とをずらして、木部材11と補強材12とを接着もしくは嵌合することが好ましい。
なお、前記実施の形態1では、架構式の床1について説明したが、本願発明の床部材10は、剛性や耐力が高いので、下の階の天井を支持する二重床構造の基礎床など、他の構成の床にも適用可能である。
【0013】
実施の形態2.
図4(a),(b)は本実施の形態2に係る壁3の構造と壁部材30を示す図で、本例の壁部材30は、板状の木部材31と、木部材31の室内側とは反対側の板面に接着等により取付けられた補強材32と、補強材32の木部材31とは反対側の板面に設けられた耐火材33とを備え平面視矩形の部材で、補強材32には、床1に垂直な方向である上下方向に延長する断面が矩形の中空部32Sが複数形成されている。
本例では、実施の形態1の床部材10と同様に、木部材31としてCLTの板材を用いるとともに、補強材12として、セルロースナノファイバーを射出成形して成る板材を用いている。
また、中空部32Sには、吸音材34を配置し、隣室からの音などを吸収するようにしているが、中空部32Sに耐火材を配置してもよい。
また、中空部12Sに、砂、コンクリート、あるいは、鋼棒などの遮音材を配置して、遮音性能を高めるようにしてもよい。
CNFは、前述したように、密度が鋼鉄の約1/5と低いだけでなく、引張強度が鋼鉄の約10倍と高いので、このようなCNFから成る補強材12で、CLTから成る木部材31を裏面側から補強してやれば、壁部材30の軽量化を図ることをできるとともに、剛性や耐力を向上させることができる。
なお、図4(c)に示すように、木部材31の補強材32側に嵌合用の穴31Sを設け、補強材32の上記穴31Sに対向する位置に突起部32Kを設けて、穴31Sに突起部32Kを嵌合させることにより、木部材31に補強材32を取付けてもよい。
また、同図に示すように、木部材31の室内側にも耐火材34を設けてもよい。
また、本例の壁3も、木部材31を木材であるCLTから構成し、補強材32をCO2の削減効果を有するCNF構成から構成したので、環境配慮設計ができる。
【符号の説明】
【0014】
1 床、2 梁、3 壁、10 床部材、11 木部材、12 補強材、
12S 中空部、13 耐火材、14 遮音材。

図1
図2
図3
図4