(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】分解性センサを有する布
(51)【国際特許分類】
D03D 1/00 20060101AFI20220301BHJP
D03D 15/47 20210101ALI20220301BHJP
G01N 33/36 20060101ALI20220301BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20220301BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20220301BHJP
A61B 5/27 20210101ALI20220301BHJP
【FI】
D03D1/00 Z
D03D15/47
G01N33/36 A
G01N27/04 Z
G01N27/22 Z
A61B5/27
(21)【出願番号】P 2018506246
(86)(22)【出願日】2016-08-05
(86)【国際出願番号】 EP2016068740
(87)【国際公開番号】W WO2017025457
(87)【国際公開日】2017-02-16
【審査請求日】2019-05-23
(32)【優先日】2015-08-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】507343327
【氏名又は名称】サンコ テキスタイル イスレットメレリ サン ベ ティク エーエス
【氏名又は名称原語表記】SANKO TEKSTIL ISLETMELERI SAN. VE TIC. A.S.
【住所又は居所原語表記】Organize Sanayi Bolgesi 3. Cadde 16400 Inegol-Bursa(TR)
(74)【代理人】
【識別番号】100060759
【氏名又は名称】竹沢 荘一
(74)【代理人】
【識別番号】100083389
【氏名又は名称】竹ノ内 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100198317
【氏名又は名称】横堀 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル シバノグル
(72)【発明者】
【氏名】イトカ イルマズ
(72)【発明者】
【氏名】オズギュル アクデミル
(72)【発明者】
【氏名】デニズ イイドアン
(72)【発明者】
【氏名】オナー ユッケレン
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/140096(WO,A1)
【文献】特表2007-529049(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0020313(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D1/00-27/18
D04B1/00-1/28
21/00-21/20
G01N27/00-27/10
27/14-27/24
33/00-33/46
A61B5/27
G06K19/00-19/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項6】
前記分解性要素(4,4a,4b,4c,4d)は、前記電気的特性を変化させるため
に、加水分解または水溶性である液体と接触させたときに、その質量または寸法を減少さ
せるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載の布(1)。
【請求項22】
電気回路(3)であって、
前記電気回路の少なくとも一部分を構成する少なくとも1つの導電性要素(2,2a,2b,2c)と、前記導電性要素に接続されたセンサ(12)とを備えており、
前記センサ(12)は、予め設定された条件において少なくとも部分的に分解するように構成された分解性要素(4,4a,4b,4c,4d)を有しており、それにより、前記分解性要素の分解が前記センサ(12)の電気的特性を変えるものであり、
前記電気回路は、布(1)内に挿入するのに適した構成となっており、
前記分解性要素(4,4a,4b,4c,4d)は、2個の前記導電性要素(2,2a,2b,2c)の間に挿入された抵抗器(4a)とコンデンサ(4b)の誘電体部分(42b)から選択されるか、それらの組み合わせであることを特徴とする電気回路(3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣類のライフサイクルをモニタするような布を有する、布および衣類に関するものであり、特に、その衣類がその寿命の間に受けた、洗濯サイクルや加熱処理等の、所定のイベントをモニタするものである。
【背景技術】
【0002】
この技術分野において、センサを備えた衣類は公知である。例えば、衣類が複数のセンサを備え、例えばその衣服の着用者の活動等、異なるタイプの複数のパラメータをモニタするものが知られている。
他の既知の布には、センサが衣類に沿って信号を送信し、この衣類の着用者のバイタルデータをモニタするものがある。より一般的には、圧電糸を有する布等の技術的糸を備えた布、例えば、環境発電を行うものが知られている。
【0003】
特許文献1は、布内に、着用者の1つあるいは複数の身体のバイタルサインを感知するための材料を含んだ、情報インフラを有する、乳児用の衣類を開示している。
この情報インフラの構成要素は、高導電率成分又は低導電率成分、又はこれらの両方の成分の導電性繊維で構成することができる。
これらの導電性繊維は、身体上のセンサを介して、心拍数、脈拍数、体温、酸素飽和度(パルスオキシメトリ)を含む1つ以上の身体のバイタルサインをモニタし、個人状況のモニター(PSM)にリンクするのに使用される。
この導電性材料は、異なる方法で布内に組み込むことができる。例えば、これらの導電性材料を、この布内に織込んだり、編み込んだりすることができる。
【0004】
特許文献2は、1つまたは複数の送信要素を含んだ、編込まれ、あるいは織込まれ、または、編組された、テキスタイルリボンを開示している。
これらの送信要素は、好ましくは、非導電性繊維によって互いに分離されている。
これらの送信要素は、非導電性繊維に織込まれ、あるいは編み込まれていてもよく、これらは、同じ衣類の2個の電子デバイスの間、又は、1つの衣類の1つの電子デバイスと別の衣類やベルトに配置された第2の電子デバイスとの間を、相互に接続し、信号を送信するために使用される。言い換えれば、このリボンはBUSとして使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】US 6687523 B1
【文献】US 6727197 B1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
いくつかの布、特にセンサや技術的糸を備えた布における問題は、過度の高温での洗濯サイクルや、水の代わりにドライクリーニング(あるいはその逆)等、適当でない、又は不適切な処理を受けると、これらの布が損傷する可能性があることである。
同様に、衣類が雨や雪のような、適当でないあるいは不適当な又は不適切な着用条件で着用された場合、損傷する可能性がある。損傷には、水中への落下や、アイロン等による偶発的な損傷もある。
【0007】
他のケースとして、この損傷は、例えば、自宅で何回も洗濯した後のように、特定の回数のイベントの後に発生することがある。この損傷は、特にセンサや技術的糸だけが損傷している場合は、一目で見えるとは限らない。そのため、ユーザは、衣類の実際の状態を知らないことがある。
そのため、衣類や布の状態を検出する方法を見出す要求がある。特に、得られた情報により、ユーザが、例えば、その衣類をより良く管理したり、古着の価値を評価したりする等の要求である。
【0008】
さらに、布が損傷した場合、このデータにより、損傷が布の品質の低さに起因するものであるか、又は衣類自体の悪い取り扱い、例えば、あまりに頻繁にクリーニングされたり、温度が高すぎたり、間違った方法でクリーニングされているためであるのか、評価することができる。
他の衣類、例えば、作業服は、一定回数の洗濯に対してのみ、保証されている。すなわち、一定回数の洗浄後、その幾つかの特性が失われる。
【0009】
従って、衣類について実施される所定のイベントの性質及び可能性を評価する必要性、さらには、その衣服に施された所定のイベントの回数を評価する必要もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
これらの目的及び他の目的は、独立請求項に記載された、布、物品(例えば衣類)、及び、衣類のライフサイクルをモニタするための手段や方法によって、達成される。好ましい態様は、従属請求項に列挙されている。
本発明の1つの実施例によれば、布は、電気回路の少なくとも一部を構成する少なくとも1つの導電性要素と、前記導電性要素に結合されたセンサとを備え、前記センサは、分解性要素を備えている。
前記分解性要素は、前記センサの電気的特性を変更するために、予め設定された条件において、少なくとも部分的に分解するように構成されている。
【0011】
前記センサの「分解性要素」は、前記センサの少なくとも1つの電気的特性に影響を及ぼす所定の条件において、漸進的(かつ非可逆的)に変化する、少なくとも1つの特性を有する要素である。
【0012】
本発明の代表的な実施例では、前記分解性要素は、例えば、水分解性要素である。水分解性要素は、この水分解性要素の電気的特性が次第に変化するように構成されている。例えば、前記布が洗濯されるたびに、前記分解性要素の寸法又は質量が徐々に減少する(すなわち、「分解する」)。
これは、当技術分野で公知の様々な方法で達成することができる。一例として、前記水分解性要素は、水と接触して、加水分解を受け、この水分解性要素の一部が侵食される。代案として、この水分解性要素は水溶性であってもよい。
【0013】
そのような水分解性要素は、この分解性要素を備えた布について実行される洗濯サイクル数をモニタするために使用することができる。
実際、この布が洗濯されるたびに、分解性要素はその寸法(好ましくはその全寸法の小さな割合)を減少させ、従って、この分解性要素が結合されている電気回路の電気的特性が変化する。
一例として、2本の導電性糸の間に介在する水分解性要素は、抵抗器として作用させることができる。布が洗濯されると、水分解性要素の寸法が縮小される。その結果、前記要素間の抵抗は測定可能な状態で変化する(典型例として、階段状に上昇する)。この変化は、洗濯サイクルの発生を示すために使用できる。
【0014】
また、水分解性要素は、その内容の一部を失う一方で、実質的にその寸法(又はその「外部」寸法)を維持することもできる。
一例として、水分解性の担体は、水分解性要素で充填され、水と接触すると、実質的にその寸法を変えることなく、浸食又は溶解される。
より一般的には、水分解性要素は、水との接触時にその内容物の(少なくとも)一部を失う(すなわち、その質量及び/又は充填材を失う)ように構成されており、それにより、電気回路の電気的特性が変化する。
【0015】
さらなる例として、圧電素子を「分解性要素」として使用することができる。既知のように、圧電素子はそれが機械的刺激を受けると、電気信号を発生する。
この電気信号の強さは、圧電素子の構造の関数であり、特に、圧電素子の分極に比例する。
例えば、圧電素子に所定の温度を加えることによって、この圧電素子の内部構造(ひいては分極)を変えることができる。
従って、圧電素子の材料は、所定の温度、例えば、布の洗濯サイクル毎に対応する所定の温度に曝されると、前記分極を失うように選定することができる。その結果、前記布ある特定の温度で洗濯すると、前記圧電素子の分極が変化する。この変化は、1回又は複数回発生する可能性がある。前述のように、前記圧電素子のこの分解は、この圧電素子を組み込んだセンサの信号に変化をもたらし、加熱処理の発生を示すのに使用できる。
【0016】
本発明の一実施例によれば、前記布は、織物又は編物であり、前記導電性要素は、前記布内に編み込まれる導電性糸である。すなわち、導電性糸は、布の織物構造又は編物構造の一部である。その結果、導電性糸を前記布内に容易に組み込むことができる。また、前記布の外観は、前記導電性糸の存在によって特に影響を受けない。
上述したように、本発明の好ましい実施例によれば、前記分解性要素は、前記布に対して行われるクリーニングサイクル又は加熱処理の間に、部分的に分解するように構成されている。
【0017】
これらのイベントは、特に衣類の寿命に関係している。本発明の実施例によれば、クリーニングサイクル、及び/又は、加熱処理の発生をモニタすることが可能である。状況によっては、これらの2種類のイベントを同時に行ってもよく、いずれにしても、それらは同時に実施することができる。
一例として、洗濯機に温水を使用することができる。その結果、洗濯機により、クリーニングサイクル及び加熱処理を同時に行うことができる。
【0018】
さらなる実施例では、分解性要素の「寿命」を、布/衣類の予想寿命と等しくすることもできる。
一例として、衣類が、もし、例えば100回のクリーニングサイクルの後に放棄され、もはや使用されなくなると仮定すると、前記分解性要素は、クリーニングサイクル毎に、約1%、例えば、0.5%ずつ、分解する特性を有するように構成することができる。
その結果、前記分解性要素の「耐用期間」中に、この分解性要素の実際の分解度を使用して、例えば、その衣類の残りの予想寿命を表示することができる。
前記分解性要素について測定可能な特徴がもはや存在しなくなったか、又は、予め設定された値(すなわち、上記の例では、0%、又は、50%)に達したときには、この事実に基づき、この衣類を新しいものに交換する必要のあることが表示される。
【0019】
上述したように、本発明の一実施例によれば、前記分解性要素は水溶性である。その結果、この分解性要素は、水と接触する度に、その寸法/質量が減少する。
別の実施例では、この要素は、水中で部分的に加水分解されるポリマーであって、炭素粉末またはグラフェン等の充填材を含むことにより抵抗性要素とされた、ポリマーである。このポリマーのマトリクスおよび充填材の一部は、洗濯毎に失われるので、この要素の抵抗値は、その初期値から、洗濯毎に変化する。
【0020】
好ましくは、水分解性要素は、通常の洗濯サイクルの間、この分解性要素のごく一部分が失われる(例えば、侵食されるか除去される)ように構成されている。
【0021】
このような結果は、水分解性要素の適切な寸法設定によって、及び/又は、この水分解性要素の材料(単数又は複数)を適切に選択することによって、得ることができる。
【0022】
本発明の一実施例によれば、前記分解性要素は、2本の導電性要素の間に挿入された抵抗器である。特に、(水)分解性要素は、2本の導電性要素の間に挿入され、抵抗器として機能する。前に述べたように、水分解性抵抗器は、洗浄されるたびにその寸法/質量を減少させる。その結果、この分解性要素の電気抵抗は、洗濯サイクル毎に増加する。
【0023】
分解性の抵抗器を実施するのに適した材料は、当該技術分野において知られている。例えば、ポリエーテル、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等が挙げられる。さらに、ポリマーと共に、導電性充填剤、マグネシウム、ケイ素等を使用してもよい。
【0024】
本発明の他の実施例では、分解性要素、好ましくは水分解性要素が、コンデンサを形成するように、2枚の導電性要素の間に配置される。特に、この分解性要素は、コンデンサの誘電体部分として機能する。
水分解性要素は変化する、例えば、その質量又は体積又はその寸法が、洗濯されるたびに減少する。その結果、導電性要素及び分解性要素によって形成されるコンデンサの容量は、洗濯サイクル毎に変化する。
分解性コンデンサに適した材料としては、例えば、脂肪族ポリイソシアネートと、架橋ポリエーテルポリオール及び/又は架橋ポリエステルポリオールとから得られた伸縮性ポリウレタンがある。
【0025】
本発明の別の実施例では、導電性要素、例えば、導電性糸は、水分解性要素の周りに巻き付けられてインダクタのコイルを形成するものであり、前記分解性要素をインダクタのコアとすることができる。
その結果、導電性要素及び分解性要素によって形成されるインダクタのインダクタンスは、変化する、例えば、洗濯サイクル毎に低下する。
分解性インダクタ用の適切な材料としては、当該技術分野で知られている。例えば、 ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、および、熱可塑性ポリウレタン(TPU)が挙げられる。
【0026】
前と同様に、水分解性要素は、洗濯されるたびにその質量又は寸法を減少させる。その結果、導電性要素及び分解性要素によって形成されるインダクタのインダクタンスは、洗濯サイクル毎に変化する。
【0027】
より一般的には、受動的電気回路要素(抵抗器、コンデンサ、インダクタ、メモリスタ等)は、これらの電気回路要素が、予め設定された条件を受けたときにその電気的特性を変化させることができる要素を備えている場合に、分解性センサとして使用することができる。典型例として、水と接触したときにその要素が寸法(又は、一般的にはその質量)を減少させることができる場合である。
【0028】
洗濯した時にその質量/寸法を減少させる分解性要素を有する、センサとして好ましい材料は、前に列挙した通りである。使用するのに適した材料は、例えば、それらの中に、導電性炭素不純物(カーボンブラック、カーボンパウダー、カーボンナノチューブ、グラフェン等)が分散された、ポリエーテル系マトリックス材料である。
【0029】
異なる実施例によれば、前記分解性要素は、圧電素子を含む。特に、圧電素子は熱を受けると「分解性」になる。特に、圧電素子は、ある特定の温度で加熱すると分極を失うようにその構造を変えることができ、この分極の損失は、進行性の損失であるのが望ましい。
上述したように、この圧電素子は、洗濯サイクル中に必要とされる温度と実質的に等しい温度で分極を失うように(例えば、材料の適切な選択によって)構成することができる。その結果、洗濯サイクルの間、もし布が加熱されると、圧電素子は分極を失う。一般に、分極は、最初のイベントが発生した後に実質的に完全に失われる。従って、このセンサは一度だけのタイプである。他の実施例によれば、分極は、幾つかの段階を経て徐々に失われ、このセンサは、洗濯サイクルの前よりも後において、毎回、低下した信号を生成する(すなわち、洗濯サイクル中に加熱処理が行われる)。
【0030】
一実施例によれば、圧電センサは、圧電シートを有する。好ましくは、圧電センサは、2枚の導電性(例えばアルミニウム)シートの間に挟まれた、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、または、同族のポリマー等の電気紡糸材料を含んでいる。この導電性シートは、プルアップ/ダウン抵抗器を有する、コントローラのアナログ/デジタル変換器に、直接、接続されるのがよい。
【0031】
一実施例によれば、この分解性要素は、衣類が使用されたことや、衣類が洗濯されたことを示すことができる。この目的のために、この分解性要素は、布がユーザによって着用されたときに第1の分解度となり、洗濯サイクル又は加熱処理により第2の分解度となるように構成されている。好ましくは、前記第2の分解度は、前記第1の分解度よりも大きい。
この分解性要素の分解を(例えば、コントローラを用いて)測定する場合、前記第1の分解度と前記第2の分解度とを区別し、関連するイベントの発生を認識することが可能である。言い換えれば、分解性要素を含むセンサを使用して、異なる種類のイベントの発生をモニタし、これらを区別することができる。
【0032】
言い換えれば、分解性要素を含むセンサは、異なる種類のイベントの発生をモニタし、これらを区別するのに使用できる。
【0033】
一例として、水分解性要素は、正常な使用中に、例えば、使用者の汗、又は、皮膚との接触に伴い、加水分解によってゆっくりと非常に小さな割合で侵食される。これとは対照的に、水溶性の分解性要素は、洗濯サイクルの間、正常な使用中よりも速くかつより高い比率で分解することができる。
【0034】
実施例によれば、前記分解性要素には、予め設定された条件とは異なる、望ましくないイベントにおける、第3の分解度が付与される。
【0035】
一例として、過度に高い温度での加熱は、圧電素子の実質的に完全な、脱分極を引き起こし、それにより、この圧電素子による電気信号の生成が停止する。これにより、布や衣類に対して、過度に攻撃的な加熱処理が行われたことを知ることができる。同様に、水溶性要素の寸法が突然大きく損なわれることは、過度に攻撃的なクリーニングサイクルが実施されたことを示すことができる。
【0036】
本発明の実施例によれば、本発明の前記各態様のいずれかによる布を備える衣類等の物品を提供する。さらなる実施例では、この物品は、前記電気的特性の変化を測定するために、前記電気回路に結合されたコントローラを含んでいる。
【0037】
言い換えれば、前記コントローラは、前記分解性要素の分解の結果として、前記センサからの信号等、前記電気回路の電気的特性が、経時的に変化するか否かをチェックする。
【0038】
このチェックは、連続的に行ってもよく、離散的な時間間隔で行ってもかまわない。一例として、前記コントローラは、前記電気回路内で電気信号を送信し、前記分解性要素における前記電気回路の抵抗/静電容量/インダクタンスをチェックする。あるいは、このコントローラは、例えば圧電素子から受信した、前記電気信号を受信し、評価することもできる。
【0039】
本発明の実施例によれば、前記コントローラは、衣類のボタンの中に配置される。これにより、この衣類には、センサ(すなわち、前記分解性要素を備えた前記回路)と、センサからの信号を受信し評価する手段(すなわち、前記コントローラ)との両方を備えることができる。
【0040】
本発明の一態様によれば、前述の発明の態様の1つ以上による、布又は衣類のライフサイクルをモニタするための方法をさらに提供する。特に、この方法は、以下のステップを含んでいる。
(a)電気回路の少なくとも一部分を構成する少なくとも1つの導電性要素と、前記導電性要素に接続されたセンサとを有する布を提供するステップであって、前記センサは、予め設定された条件において部分的に分解するように構成された分解性要素を有しており、それにより、前記分解性要素の分解が前記センサの電気的特性を変えるものであり、
(b)前記電気的特性をモニタし記憶するステップと、
(c)前記ステップ(b)で記憶された前記モニタデータの関数として、前記電気的特性の分解値、及び/又は、分解イベントの数を評価するステップと、
(d)前記ステップ(c)における前記評価の関数として、前記布の状態を決定するステップとを含む、ことを特徴とする方法。
【0041】
好ましい実施例によれば、前記方法のステップ(c)は、以下の各ステップを含むことを特徴とする。
(c1)前記モニタされた前記電気的特性の関数を時間の関数として評価するステップと、
(c2)前記ステップ(c1)でモニタされた前記電気的特性の関数の導関数を評価するステップと、
(c3)前記ステップ(c2)の前記導関数のピークを計数するステップを含み、各ピークは前記イベントの1回の発生に関連している。
【0042】
典型例として、前記ステップ(c3)は、もし、ピークが特定の閾値よりも大きい場合、イベントの発生のみをカウントするのに実行される。
【0043】
本発明のさらなる態様は、電気回路の少なくとも一部を構成する少なくとも1つの導電性要素と、前記導電性要素に結合されたセンサとを含む、前記電気的回路に関する。前記センサは、このセンサの電気的特性を変化させるために、予め設定された条件で少なくとも部分的に分解するように構成された、分解性要素を備え、この回路は布に挿入されるのに適した構成となっている。
【0044】
好ましくは、前記電気回路には、布内に配置することができる導電性要素が設けられている(これらは、例えば、緯糸/経糸等の布を製造するために使用できる導電性糸である)。また、前記分解性要素は、布内に容易に配置できるか、又は、この布に載せることができる材料であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【
図1】本発明の一実施例に係る、布の概略図である。
【
図2】本発明の他の実施例に係る、布の概略図である。
【
図2A】水分解性要素としての、抵抗器を有する実施例を示す図である。
【
図2B】水分解性要素としての、誘電体を有する実施例を示す図である。
【
図2C】水分解性要素としての、インダクタを有する実施例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施例における、水分解性抵抗器を含む電気回路の概略図である。
【
図3A】本発明の一実施例における、水分解性抵抗器の漸進的分解を示す概略図である。
【
図4】本発明の一実施例における、水分解性のコンデンサを含む電気回路の概略図である。
【
図5】本発明の一実施例における、水分解性のインダクタを含む電気回路の概略図である。
【
図6】本発明の他の実施例に係る、分解性要素の概略図である。
【
図6A】
図6の実施例の代案を示す、分解性要素の概略図である。
【
図7】
図8Aに概略的に示された異なる条件下における水分解性抵抗器の、時間の関数としての、電気抵抗を示す図である。
【
図8】
図7の抵抗の、時間の関数としての導関数を示す図である。
【
図8A】水分解性要素に関するテストの、異なる条件を説明する概略図である。
【
図9】本発明の一実施例に係る、分解性ピエゾ要素を含む電気回路の概略図である。
【
図9A】
図9の実施例における、ピエゾ要素のSEM画像である。
【
図9B】
図9のセンサを有する、他の電気回路の概略図である。
【
図10】
図9の分解性ピエゾ要素の、漸進的分解の概略図である。
【
図11】本発明のさらなる実施例の、電気回路の概略図である。
【
図11A】本発明のさらなる実施例の、電気回路の概略図である。
【
図11B】本発明のさらなる実施例の、電気回路の概略図である。
【
図12】異なる分解性要素の、電気的特性の変化を示す図である。
【
図13A】洗濯サイクルの影響を受けていない布に設置されたセンサに関して実施された、テストの結果を示す図である。
【
図13B】洗濯サイクルの影響を受けていない布に設置されたセンサに関して実施された、テストの結果を示す図である。
【
図13C】摂氏60度の洗濯サイクルを受けた布に設置されたセンサに関して実施された、テストの結果を示す図である。
【
図13D】摂氏60度の洗濯サイクルを受けた布に設置されたセンサに関して実施された、テストの結果を示す図である。
【
図14】縫い目にセンサがある、デニム製品を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、添付の例示的および非限定的な図面を参照して、本発明の実施例を詳細に説明する。
【0047】
各図を参照すると、物品11(
図1及び
図2に概略的に示されている)は布1を備え、この布1は、電気回路3を構成する少なくとも1つの導電性要素2を含んでいる。センサ12は、1つ以上の導電性要素2に結合された分解性要素4を含んでいる。この分解性要素4の分解が、電気回路3の1つ(又はそれ以上)の電気的特性の変化を引き起こす。
【0048】
好ましくは、上記のような電気的特性の変動を評価するために、コントローラ10がこの電気回路3に結合されている。
【0049】
布1は、好ましくは、織物又は編物である。従って、導電性要素2は、織物又は編物の一部である導電性糸2a、2bである。すなわち、導電性要素は、布自体の織物構造又は編物構造の糸として、布に挿入することができる。
【0050】
好ましい実施例では、布1は、ズボンのデニム織物である。いずれにしても、布1は、一般的な布とすることができる。
図1には、布1の織物構造における、2本の導電性糸2a、2bが示されている。
図2には、他の布
1の編物構造からなる導電性糸2が示されている。
図2Aは、水分解性要素としての、抵抗器を有する実施例を示す図である。
図2Bは、分解性要素としての、誘電体を有する実施例を示す図である。
図2Cは、水分解性要素としての、インダクタを有する実施例を示す図である。
【0051】
導電性糸は、例えば、スチール、銅、又は銀のワイヤであり、それらは、例えば、モノフィラメントであってもよいし、最終糸を形成する複数の導電性繊維のブレンドであってもよい。
【0052】
他の導電性要素を使用することもできる。
図6の実施例では、布に結合された2個の金属要素2cが、導電性要素として使用されている。
【0053】
さらなる実施例によれば、
図6Aに示すように、スナップ2e(典型例としては雄スナップ)は、点線で示す導電性要素2a、2b(例えば鋼製糸)にクリンプされ、導電性要素にオーミック接触している。これにより、例えば、コントローラによって記録されたデータを、外部のデータプロセッサにダウンロードするために、(例えば標準的な雌スナップを介して)外部の回路に接続される。
【0054】
一般に、導電性要素は、布の一部に沿って電気信号を伝達する。より詳細には、導電性要素は、電気的閉回路の一部を形成するように、分解性要素に結合されている。
【0055】
より詳細には、導電性要素2,2a,2b,2cは、布1内に配置/結合されて、好ましくは、コントローラ10と共に、閉回路、すなわち電気回路3を形成する。コントローラ10は、布1内に挿入することができ、あるいは、布1の外部の要素とすることもできる。
【0056】
一例として、コントローラ10は、本願の出願人が出願したEP15179147.2に開示されているように、布に結合されるように構成されたボタン内に挿入することができる。導電性要素2,2a,2b,2cは、外部コントローラ10が最終的な衣類の布1に結合されるときに、この外部コントローラ10との電気回路を閉成するように配置されている。電気的コントローラ10は、電気信号を生成及び/又は評価し、この電気回路3の電気的特性をモニタするための既知の手段を含んでいる。
【0057】
一例として、
図3には、電気回路3の簡略化された概略図が示されている。
【0058】
この電気回路3は、2本の導電性糸2a,2bを含んでいる。糸2a,2bは、上述したように、布1内に挿入することができる。この布1は、分かりやすくするために示されていない。分解性要素4aが、糸2a,2bの間に挿入されている。電気回路は、コントローラ10によって閉成されている。
【0059】
電気回路3は、図示されているものよりも複雑なものでもよい。例えば、
図11に示しているように、この回路3は、後述するように、コントローラ10がデジタル信号を制御可能にするための、アナログ-デジタル変換器(ADC)5を備えることもできる。
【0060】
実施例によれば、電気回路3は、短絡を避け、かつ、外乱を制限するために、プルアップ又はプルダウン抵抗7を含んでいてもよい。一般に、センサ12は、分解性要素4、例えば、
図11に示すような分解性の抵抗器4aの方への、及び/又はそこからの、信号を生成できる。特に、電気回路3は、一般的に、分解性要素4とコントローラ10との間で信号の伝送を可能にするように構成される。
【0061】
図11の特定の実施例では、センサは、分解性抵抗器4aと、この抵抗器4aに対して直列に接続された更なる抵抗器7aとを備え、分圧器を形成する。一態様によれば、この抵抗器7aの抵抗値は、次式のように選定することができる。
【0062】
R_iniは、抵抗器4aの抵抗の初期値であり(すなわち分解前)、R_finは抵抗器4aの動作寿命の終わりに予想される、より大きな最終抵抗値である。分圧抵抗器7aは、抵抗値 R_iniとR_finの幾何平均によって定義されるR_divを有するのが望ましい。言い換えれば、分圧抵抗器7aの抵抗値は、次の式に従って選択することができる。
【数1】
【0063】
上述した分圧抵抗器7aの好ましい値は、アナログ-デジタル変換器ADC5の入力における最大ダイナミックレンジを保証する。上述の分圧器は、抵抗器4aの抵抗値を測定する際に特に有用である。
【0064】
図11Aに示すように、抵抗器7aは、分解性のインダクタ4cを有する分解性のセンサと組み合わせて、分圧器を形成するのに使用してもよい。この場合、分解性インダクタ4c(詳細は後述する)は、好ましくは、非分解性のコンデンサ7bに対して並列に接続される。
【0065】
また、
図11Bに示すように、(プルアップ/プルダウン)抵抗を用いずに、分圧器を使用することもできる。
図11Bには、容量性分圧器が示されており、分解性コンデンサ4bが基準コンデンサ7cと直列に接続されている。
【0066】
図9Bには、分解性ピエゾセンサと組み合わせた、プルアップ/プルダウン抵抗7の実施例を示している。この例では、プルアップ/プルダウン抵抗7の抵抗値は、
図11のような分圧抵抗と共に電圧分割に使用されないので、より自由に選択することができる。
【0067】
一実施例によれば、センサ12は、物品11(
図14参照)の継ぎ目11a、11b内に配置することができ、これにより、センサ12は、物品を見たときには見えない、すなわち継ぎ目内に隠されている。換言すれば、センサ12は、布によって囲まれ、継ぎ目11a内に配置されてもよい。ここで使用される継ぎ目11a,11bは、布の2箇所の重ね部分が互いに接合されている物品11の一部である。
図14に、継ぎ目11aのクローズアップが、概略的に示されている。
図14に示す継ぎ目11aは、1つの継ぎ目の実施例を表しているが、他の実施例には様々なタイプの継ぎ目が使用される。他の実施例では、様々な縫い目タイプ及び他の方法を使用して、継ぎ目を形成することができる。
図示の実施例では、物品11は1着のデニムジーンズである。しかし、他の実施例では、異なる材料及び異なる物品を使用することができる。一例として、物品11は、着用者が着用する衣装のアイテムであって、ショーツ、シャツ、全身スーツ、脚及び腕用のスリーブ等を含むが、これらに限定されなくてもよい。
【0068】
図14は、2枚の布片1a,1bから形成された継ぎ目11aを示しており、これらは縫い目13によって互いに接合されて、継ぎ目11aを形成している。センサ12は、継ぎ目11a内に配置され、継ぎ目
11a内で少なくとも部分的に伸びる導電性要素2a,2bに接続されている。
【0069】
特に、
図14は、物品11、すなわち、1着のデニムパンツである衣類を示している。本明細書の開示の様々な態様による他の実施例として、物品は、例えば、ユーザが着用することができる1着の衣装であれば、異なる衣類であってもよい。
図示の実施例では、物品11は、少なくとも、パンツの各脚の外側側面(継ぎ目11a)及び内側の内側側面(継ぎ目11b)に、継ぎ目11a,11bを含んでいる。継ぎ目11a,11bは、一般に、着用者の脚の長手方向に沿って延びており、従って、着用者が物品11を着用しているとき、パンツの脚の上部は、概して着用者の大腿骨に平行であり、また、パンツの脚の下部は、着用者の脛骨及び腓骨に平行である。
【0070】
さらに、詳細には示されていないけれども、物品11の上部、例えば、パンツの上部、すなわち通常はベルトを収容するように構成されたパンツの部分に、さらなる継ぎ目を設けることもできる。
センサ12は、必要に応じて、これらの継ぎ目のいずれかに配置することができる。さらに、継ぎ目11a,11bが物品を製造するために使用され、センサが物品の既存の継ぎ目内に配置され得ることに留意されたい。このような継ぎ目には、より大きな領域にセンサを収容するために、他の領域の継ぎ目に対してよりも、大きい寸法(例えば、より大きい幅)を有する領域が設けられてもよい。
【0071】
また、一部の実施例では、センサのために特別に作成された継ぎ目内にセンサを配置することができる。換言すれば、センサを収容する目的のみで、「構造的」機能をもたない継ぎ目を、物品に設けることもできる。
センサが収容される「ポケット」を形成するために、継ぎ目を物品上に形成してもよい。
【0072】
また、コントローラ10も、物品11の継ぎ目11a,11b 内に配置することができる。コントローラ10は、分解しない導電要素(例えば、鋼製糸等の導電性糸)によってセンサに接続することができる。
【0073】
前述したように、本発明の異なる実施例には、様々な種類の分解性要素を使用することができる。水分解性要素及び圧電素子を備えた実施例について、ここでより詳細に説明する。
【0074】
図3を参照すると、2本の導電性糸の間に、水分解性抵抗器4aが介在している。
【0075】
この水分解性抵抗器4は、好ましくは、ポリエーテル系、及び/又は、ポリエステル系のポリウレタンで出来ている。
【0076】
水分解性抵抗器4aは、布1が洗浄されるたびに、その質量/寸法を部分的に減少させる。これを、
図3Aに模式的に示す。特に、水分解性抵抗器の分解が、
図3Aの下段から上段にかけて示されている。より詳細には、
図3Aの最下段には、分解前の完全な水分解性抵抗器が示されている。最上段では、水分解性抵抗器4aが完全に分解している。
図3Aの最下段と最上段の間に、中間の分解状態のものが示されている。
【0077】
水溶性抵抗器がその質量/寸法を減少させるたびに、すなわち、水溶性抵抗器がその材料の一部を失うたびに、関連する電気的特性(すなわち抵抗)が変化する。
【0078】
水分解性抵抗器(より一般的には、後述する水分解性要素42b及び41cのような水分解性要素)は、その関連する電気的特性(例えばこの例では、抵抗器の抵抗)が、各洗濯サイクルにおいて、約1%~5%、変化するように構成されるのが望ましい。
上述したように、実際には、抵抗器4aの抵抗は、抵抗器4a自体の質量/寸法に依存する。特に、抵抗器4aの質量/寸法の減少と共に、その抵抗が増加する。実際には、抵抗器が質量を失うと(抵抗器の外形寸法の減少、又は抵抗器のフィラーの損失によって)、電流が流れる電気回路が狭まり、その抵抗器の抵抗値が上昇する。
【0079】
後述するように、布1のライフサイクルを評価するために、コントローラ10によって、センサ12内の抵抗器4aの抵抗の変化を感知することができる。特に、布1に関して、洗濯サイクルの履歴を評価することができる。
【0080】
水分解性要素は、抵抗器としてだけでなく、他の方法でも使用できる。一例として、
図4には、コンデンサ4bに水分解性要素が使用されている実施例が示されている。特に、コンデンサ4bは、2つの導電性糸2a、2bの2枚の部分40b,41b(すなわち、第1導電性糸2aの1部分40bと第2導電性糸2bの1部分41b)を含んでいる。
これら2枚の部分40b、41bの間には、水分解性の誘電体部分42bが介在して、コンデンサ4bが形成されている。前述したように、洗濯サイクルの間、水分解性の誘電体部分42bは、その質量/寸法を部分的に減少させ、従って、コンデンサ4bの静電容量が変化する、すなわち、低下する。
【0081】
図5に概略的に示す他の実施例では、分解性要素が、インダクタ4cのコア41cとして使用されている。より詳細には、導電性糸2aの1部分40cは、水分解性のコア41cの周りに巻き付けられ、インダクタ4cを構成している。
【0082】
洗濯サイクル中、水分解性のコア41cは、その質量/寸法を部分的に減少させるので、インダクタ4cのインダクタンスは変化する、すなわち、低下する。
【0083】
より一般的には、本発明の異なる実施例において、異なる水分解性要素を使用することができる。水分解性要素の部分分解(例えば、加水分解によって生じる腐食による)が、電気回路3内で顕著な変化を引き起こす。すなわち、電気回路3の電気的特性の値を変化させる。
【0084】
上述の実施例において、水分解性要素によって変化する「電気的特性」は、関連する水分解性要素4a,42b,41cにおける、電気回路3の抵抗(
図3)、静電容量(
図4)、及び、インダクタンス(
図5)である。
【0085】
上述したように、前記導電性要素は、導電性糸に限定されない。
【0086】
図6の実施例を参照すると、衣類に結合された2個の金属要素2cの間には、水分解性要素4が介在している。例えば、この金属要素は、金属製のボタンの一部として構成することができる。
【0087】
特に、分解性要素4は、2個の金属要素2cの間に電気的信号を伝達できるように、これらの金属要素2c間を接続する。
【0088】
このような電気的信号は、例えば追加のボタン(図示せず)に埋め込まれた、コントローラ10(
図6には図示せず)によって生成することができる。
【0089】
ここまで、水分解性要素を説明した。しかし、異なる流体(すなわち、水以外)と接触させた場合に、それらの質量/寸法を減少させるように、分解性要素を構成することもできる。例えば、ドライクリーニングに使用される、テトラクロロエチレン、又は、他の溶媒である。
さらに、本発明のさらなる実施例において、液体と接触させたときにそれらの質量/寸法を減少させない分解性要素4を使用することもできる。
【0090】
その一例として、
図9には、ピエゾ分解性要素4dが示されている。特に、図示の実施例では、ピエゾ分解性要素4dは、2枚の導電層20a、20bの間に介在する層として形成することができる(ピエゾ分解性要素と共に、他の導電要素を併用することもできる)。
【0091】
本実施例の圧電性分解要素4dは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、特に、半結晶性のポリ(フッ化ビニリデン)ポリマーからなっている。圧電性分解要素4dは、機械的な刺激を受けると電気信号を発生する。例えば、圧電性分解要素を有する布が、曲げられ、伸ばされ、プレスされ、しわが形成され、剪断され、応力を受け、解放/緩和される、等のような場合である。
【0092】
図9Aに、PVDFファミリーメンバーのSEM(走査電子顕微鏡)画像を示す。
図9Bには、圧電センサ12が電気回路内に示されている。このセンサ(特に導電層)は、コントローラ10の、プルアップ/ダウン抵抗器7を有する、アナログ/デジタル変換器5に直接接続されている。
【0093】
この電気信号の強度は、ピエゾ分解性要素の分極(すなわち、
図10の電気双極子41dの向き)に依存する。圧電素子は、熱を受けると部分的に分極を失う(すなわち、電気双極子41d間の配列を部分的に失う)。従って、一実施例では、ピエゾ分解性要素4dの材料は、クリーニングサイクル中に到達した温度で分極を失うように、選択される。
【0094】
その結果、布1がクリーニングサイクル中に(例えば、温水との接触により)加熱されると、ピエゾ分解性要素4dは部分的に分極を失い、このピエゾ分解性要素4dによって生成された電気信号の強度が低下する。
【0095】
前述したように、ピエゾ分解性要素4dは、1回のクリーニングサイクルの間に加熱されたときには、分極を完全に失わない材料で作ることができる。
【0096】
言い換えると、このピエゾ分解性要素によって生成される電気信号は、好ましくは、加熱処理後に変化する。この変化は、好ましくは5%~95%、より好ましくは10%~50%の間である。
図10に、圧電素子の「分解」が示されている。分解していない圧電素子(完全に分極した圧電素子)が左側に示され、完全に分解した圧電素子(すなわち、完全に、脱分極された圧電素子)が右側に示されている。中間状態が、中央に表示されている。
【0097】
言い換えれば、ピエゾ分解性要素4dの電気双極子41dは、
図10の左側では完全に整列され、中央では部分的に整列され、右側では、整列されていない。
【0098】
圧電素子4dの材料は、加熱処理の発生回数を計数できるように選択することができる。異なる圧電素子を使用して、異なるイベントの発生、特に加熱処理の回数を計数することができる。
【0099】
本発明の他の実施例でも、同様に、異なる分解性要素を使用することができる。
【0100】
一般に、上述のように、分解性要素4は、予め設定された条件の期間中、すなわち所定のイベントの発生時に部分的に分解する。これにより、この分解性要素4が結合されている電気回路3の、電気的特性が変化するように構成される。
【0101】
本発明のさらなる実施例によれば、分解性要素4は、上記所定のイベント以外でも分解するように構成できる。一例として、分解性要素4は、布1の「正常な使用」中に、例えば、布1を備えた衣類がユーザによって装着されたときにも、分解する。
【0102】
好ましくは、正常な使用中の分解速度(すなわち分解速度)は、所定のイベント中の分解速度とは異なる。特に、予め設定されたイベント中の分解は、正常な使用中の分解よりも大きい(好ましくは速くなる)。換言すれば、正常な使用中の分解の割合は、所定のイベント中の分解の割合よりも低い。分解は、通常、センサによって生成された信号の変化として検出される。
【0103】
そのような実施例の一例が、
図7及び
図8Aに示されている。特に、
図7には、異なる条件下(すなわち、「正常な使用」中、及び、洗濯サイクル中)で、水分解性抵抗器の応答を評価するために、水分解性抵抗器4aを備えた布1に関して実施されたテストの結果が示されている。
図8Aに、このテストを模式的に示す。
【0104】
特に、布1に関して、汗シミュレーション6(すなわち、「正常な使用」のシミュレーション)、及び、洗濯サイクルシミュレーション8が実行された。 汗シミュレーションは、ヒスチジン一塩酸塩一水和物、リン酸ナトリウム、及び塩化ナトリウムで調製した、pH5.5の溶液に、布を浸漬することによって行った。
【0105】
水分解性抵抗器4aの抵抗を測定する段階Mは、汗シミュレーション6、及び洗濯サイクルシミュレーション8の前後で行われた。図示されるように、2サイクルの、汗シミュレーション6及び洗濯サイクルシミュレーションが実行された。その後、布は静止状態、すなわち、布が、使用されていないし、特定の処理も受けてもいない状態に置かれた。
【0106】
図7を参照してより詳細に述べると、時間AとBとの間、時間CとDとの間で、汗シミュレーション6が実行された。時間BとCの間、及び、時間DとEの間で、洗濯シミュレーション8が実行された。時間EとFの間では、布を静止状態とした。
【0107】
前述したように、
図7のテストの結果は、
図8Aに示されている。特に、時間AとBとの間、及び、時間CとDとの間では、水分解性抵抗器4aの抵抗が、ゆっくりかつ少量だけ増加する(水分解性抵抗器4aの緩やかな分解に対応)様子が示されている。この緩やかな分解は、例えば、使用者の皮膚や汗に接触するのに伴う、布1の「正常な使用」に起因する。
【0108】
時間BとC、及び、時間DとEとの間には、高速の分解が示されている。この高速の分解は、洗濯サイクルによるものである。特に、時間Bと時間Cとの間の洗濯サイクルは、時間Dと時間Eとの間の洗濯サイクルよりも長かったことに留意されたい。時間Eの後、水分解性水抵抗器4aの抵抗は実質的に一定である。これは、布の不使用によるものである。
【0109】
この挙動は、水分解性抵抗器4aのみに限定されない。一例として、水分解性コンデンサ4b、及び、水分解性インダクタ4cも、同様の挙動、例えば、正常な使用中の第1の分解度、加熱処理中の第2の分解度、等を示すように構成することができる。
【0110】
ピエゾ分解性要素4dも、同様の挙動を示すことができる。一例として、使用者の体から放出された熱は、ピエゾ分解性要素4dの分極の緩やかな分解を引き起こす可能性がある。
【0111】
さらに、他の実施例では、分解性要素は、正常な使用中の分解、及び、加熱処理/洗濯サイクル中の分解以外の、第3の分解度を有することもできる。特に、第3の分解度は、望ましくないイベントの発生を示すように構成されることが好ましい。
【0112】
第3の分解度は、典型例としては、予め設定された条件の分解度とは異なる。言い換えれば、望ましくないイベントの間の分解の比率は、予め設定された条件の間の分解の比率とは異なる(典型例として、より大きい、及び/又は、より速い)。
【0113】
一例として、ピエゾ分解性要素は、布1が高すぎる温度で加熱されると、分極量を大幅に失う可能性がある。一例として、圧電素子は、ある特定の温度(布1に加えてはならない温度)でガラス転移を起こし、分極を完全に失う。換言すれば、分解性要素は、単一の望ましくないイベントの間に、完全に分解する可能性もある。
【0114】
以前に開示された実施例を参照すると、布が長時間水中に置かれた場合、水分解性要素は大幅に分解する(例えば、大きく腐食され、又は溶解される)ことがある。
【0115】
一般に、本発明の実施例は、唯1度だけでの分解、すなわち、予め設定された1つのイベントでの分解を有する分解性要素を有することができる。異他の実施例では、2段階の分解(すなわち、所定のイベントでの分解、及び、正常な使用中、又は、望ましくないイベント中の分解)を有する分解性要素を有することもできる。
【0116】
更なる実施例では、前述の3つの分解度の全てを有する、分解性要素とすることもできる。
【0117】
1つの分解性要素4を有する実施例について説明してきた。しかしながら、より多くの数の分解性要素4を有するものも可能である。
【0118】
さらに、異なる種類の分解性要素を異なる実施例で使用して、異なるイベントをモニタすることもできる。一例として、水分解性要素を使用して洗濯サイクルの数をカウントしながら、ピエゾ分解性要素を用いて加熱処理をモニタすることができる。
【0119】
特に、
図7及び
図8を参照して、(特に、水分解性抵抗器4aを参照して)、分解性要素4のテストについて説明する。コントローラ10は、電気回路3の電気的特性をチェックする。この実施例では、コントローラ10は、電気回路3の抵抗をチェックする。このチェックは、連続的であってもよく、又は、連続した測定値の数で表示される、離散的な時間間隔で実行されてもよい。測定された電気的特性の変化は、所定のイベントの発生を示すことができる。
【0120】
前に述べたように、ADC5(
図11)は、好ましくは、モニタされたデータを、コントローラ10によって扱うことができるデジタル信号に変換する。このモニタされたデータの変化は、コントローラ10のメモリに記憶される。これにより、モニタされたデータの値を時間の関数として保持することができる。この時間情報は、コントローラ10自体により提供することができる、すなわち、内部のクロックで提供することができる。
図7の実施例では、時間経過に伴う電気回路3の抵抗値の傾向が示されている。
次に、モニタされたデータ(すなわち電気回路3の電気的特性)の変動を使用して、所定のイベントの発生回数を評価する。
【0121】
この目的のために、様々な分析方法を使用することができる。例えば、コントローラにおけるリアルタイムかつオンラインの高速データ分析や、PCを使って実行される、オフラインデータマイニングなどがある。
【0122】
図示の実施例、特に
図8を参照すると、前記電気的特性(この例では抵抗)と時間との間の前記関数の導関数が計算される。既知のように、前記関数の導関数は、関数の前記変化の程度を示す。従って、導関数のピークp1,p2は、モニタされたデータのより大きな変動の瞬間に対応している。既知のように、この大きな変化は、所定のイベントにおいて生じる。
【0123】
有意なピークp1及びp2の数を評価するために、閾値を設定することができる。言い換えると、前記導関数が閾値を超えるたびに、コントローラは1つのピークをカウントする、すなわち、所定のイベントの発生をカウントする。
【0124】
図示の実施例では、2回の洗濯サイクルが実行されている。すなわち、
図7の、時間BとCの間、及び、DとEの間で実行されている。その結果、
図8の導関数は、2個のピークp1(時間Bと時間Cの間)とp2(時間Dと時間Eの間)を示している。これらのピークは、所定の閾値TVよりも大きいので、コントローラは2回の所定のイベントを計数する。
【0125】
望ましくないイベントの発生をカウントするために、しきい値TVよりも大きい他のしきい値TV2を選択することができる。これにより、もしピークがTVとTV2の間にある場合、コントローラ10は、所定のイベントの発生をカウントする。
逆に、もし、ピークがTVとTV2の両方より上にある場合、望ましくないイベントの発生がカウントされる。図示の実施例では、布1に望ましくないイベントは起きなかった。そのため、TV2を上回る導関数のピークは存在していない。
【0126】
他の方法を使用して、所定のイベントの発生回数を評価することもできる。一例として、1つ又は複数のイベント(例えば、洗濯サイクル)の発生時、又は、センサ12のライフサイクル全体における、関連する電気的特性の変化を評価するために、異なるセンサ12を用いてテストを実施することができる。
【0127】
図13A~13Dは、さらなるテストの結果を示す。2個の布サンプルのセンサを2500分間テストした。第1のセンサは、何の洗濯も行われなかったサンプルに設置された(テスト結果は、図
13A、及び、図
13B)。第2のサンプルについては、60℃で一連の洗濯を行った。両方のサンプルのセンサは、抵抗センサであった。
【0128】
図13Aは、洗濯されなかったサンプルにおけるセンサの抵抗値が、わずかに変動したことを示している。特に、抵抗値は、200KΩと215KΩの間の範囲にある。このような変動は、周囲の環境の湿度に対する応答に起因するものである。その微分値(その傾向は
図13Bに示されている)は、多数のピークがいずれも非常に低い値であり、コントローラ10によって洗濯のイベントとして認識され得ないものであることを示している。
【0129】
これとは対照的に、洗濯を受けたサンプルのセンサは、その抵抗値が目立って変化している。実際には、
図13Cに、全体として600KΩ以上の変動が示されている。各洗濯サイクルは、センサの分解性の部分を減少させ、それにより、関連する抵抗の値を迅速に(そして目立って)増加させている。
その結果、
図13Dの微分値は、
図13Bの微分値と比較して、より高いピークを示している(両図におけるy軸上のスケールの比率は、1:10であることに留意)。これまで述べたように、これらのピークは、コントローラ10によって洗濯サイクルとして識別される。
【0130】
図12は、参照符号12a,12b,12c及び12dによって識別される、4つの異なるセンサ12の、ライフサイクルのシミュレーションの結果を示している。
【0131】
センサ12a,12b,12c及び12dは、これらのセンサ12a,12b,12c及び12dの全寿命をシミュレートするために、強い化学浴に入れられた。
【0132】
図から分かるように、センサ12aは、イベントに対して特に高い「感度」を備えている(すなわち、電気的特性として、大きく、かつ速い変動をもたらす)が、他のセンサ12b、12dと比べて、寿命が短くなっている。
実際、
図12のセンサ12aの曲線は、他のセンサ12b、12dよりも早く実質的に平坦になることが分かる。
【0133】
センサ12cは、センサ12aと同様の挙動をするが、イベントに対する感度は低い(センサ12cは、
図7のようなグラフ内で、より小さい段差を生ずるか、又は、
図8のようなグラフ内で、より低いピークを生じる)。
センサ12b及び12dは、センサ12a及び12cよりもはるかに長い寿命を備え、センサ12bはセンサ12dよりも感度が高い(それぞれ、センサ12aと12cの関係に似ている)。
【0134】
一般に、これらの又は類似のテストの結果から、コントローラ10を、センサ12a,12b,12c及び12dの各々の応答を評価する、例えば、電気的特性の変動(すなわち、
図7の段差の高さ)を予測したり、電気的特性の変動速度(すなわち、
図7の段差の継続性、従って、
図8のピークの高さ)を予測したりするように、構成することができる。
【0135】
さらに、これらの結果から、センサ12a,12b,12c及び12dの寿命の予測、すなわち、イベント(洗濯サイクル)に応答してセンサ12a,12b,12c及び12dの電気的特性に実質的な変動がなくなる時期、すなわち、
図12の曲線が実質的に平坦になる時期を、予測できる。
【0136】
一般に、コントローラ10は、特定のイベント、例えば、洗濯サイクルに応答して、電気的特性の値の変化を認識するように構成することができる。さらに、布の「正常な使用」を評価するために、さらなる分析方法を実行することもできる。
一例として、長期間に亘って起こる抵抗の小さな変動、例えば、
図7の時間CとDとの間の小さな変動は、コントローラ10によって、「正常な使用」として認識されることができる。一般に、コントローラ10には、値の各ジャンプの振幅を、特定のイベントに関連付けるアルゴリズムを提供することができる。
【0137】
一般に、モニタされたデータ(例えば、
図7の抵抗)の評価は、コントローラ10が、布1(従って、布1を有する衣類)のライフサイクル、すなわち布1に対してなされたイベントを推定することを可能にする。
特に、モニタされたデータの評価は、布1に対してなされたイベントを推定することができ、布1上で起こった異なる種類のイベント(例えば、洗濯サイクル、及び/又は、加熱処理、及び/又は、正常な使用、及び/又は、望ましくないイベント、等)をモニタし、区別するのに使用することができる。
【符号の説明】
【0138】
1 布
1a 布片
1b 布片
2 導電性要素
2a (第1)導電性糸
2b (第2)導電性糸
2c 金属要素
2e スナップ
3 電気回路
4 分解性要素
4a 水分解性抵抗器
4b 水分解性コンデンサ
4c 水分解性インダクタ
4d ピエゾ分解性要素
5 アナログ/デジタル変換器
6 汗シミュレーション
7 プルアップ/ダウン抵抗器
7a 抵抗器
7b 非分解性のコンデンサ
7c 基準コンデンサ
10 コントローラ
11 物品
11a 継ぎ目
11b 継ぎ目
12 センサ
12a~12d センサ
13 縫い目
20a 導電層
20b 導電層
40b 第1導電性糸の1部分
40c 第1導電性糸の1部分
41b 第2導電性糸の1部分
41c 水分解性のコア
41d 電気双極子
42b 水分解性の誘電体部分
TV 所定の閾値
TV2 他のしきい値
M 抵抗を測定する段階