(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】抗PD-1抗体およびその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220301BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220301BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 31/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220301BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220301BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20220301BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20220301BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220301BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220301BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220301BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220301BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220301BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220301BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P31/00
A61P35/00
A61P35/02
A61P37/02
A61P37/06
A61P43/00 111
C07K16/28
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
(21)【出願番号】P 2018524522
(86)(22)【出願日】2016-07-27
(86)【国際出願番号】 CN2016091962
(87)【国際公開番号】W WO2017016497
(87)【国際公開日】2017-02-02
【審査請求日】2018-03-30
【審判番号】
【審判請求日】2020-04-10
(31)【優先権主張番号】201510451773.6
(32)【優先日】2015-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520117341
【氏名又は名称】シャンハイ ユンイ ヘルスケア アンド テクノロジー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】リュ リル
(72)【発明者】
【氏名】ヤン シンシュ
(72)【発明者】
【氏名】ルオ ハイシャン
(72)【発明者】
【氏名】リュ フウ
(72)【発明者】
【氏名】シュアイ チェンロン
(72)【発明者】
【氏名】ワン チャン
(72)【発明者】
【氏名】ツォン チェン
(72)【発明者】
【氏名】ドュアン チン
(72)【発明者】
【氏名】グ ホンジュアン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン タッチ テディ
【合議体】
【審判長】田村 聖子
【審判官】高堀 栄二
【審判官】伊藤 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-340714(JP,A)
【文献】特表2006-521783(JP,A)
【文献】特表2013-521769(JP,A)
【文献】特表2014-515017(JP,A)
【文献】特開2014-12003(JP,A)
【文献】特表2014-515922(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N15/00-15/13
C07K16/00-16/28
CA/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
配列番号25に示すポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、及び配列番号29に示すポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を有し、
前記
モノクローナル抗体またはその抗原結合断片はPD-1と結合す
る、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
請求項
1に記載の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片であって、キメラのものである
モノクローナル抗体または抗原結合断片。
【請求項3】
請求項
1に記載の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片であって、ヒトのものである
モノクローナル抗体または抗原結合断片。
【請求項4】
請求項
3に記載の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片であって、S228P突然変異を有するヒト重鎖IgG4定常領域およびヒト抗体の軽鎖κ定常領域を含む
モノクローナル抗体または抗原結合断片。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか
1項に記載のモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする
単離された核酸。
【請求項6】
請求項
5に記載の単離された核酸を含むベクター。
【請求項7】
請求項
5に記載の
単離された核酸を含む宿主細胞。
【請求項8】
請求項1~
4のいずれか
1項に記載の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片と、薬学的に許容される担体とを含む薬物組成物。
【請求項9】
必要な被験者においてPD-1とPD-L1またはPD-L2の結合を遮断するか、あるいはIFN-γおよびIL-2の分泌を増加する治療剤であって、請求項
8に記載の薬物組成物を有する治療剤。
【請求項10】
必要な被験者において腫瘍を治療する治療剤であって、ここで、前
記腫瘍は、固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれ、
請求項
8に記載の薬物組成物を有する治療剤。
【請求項11】
請求項1~
4のいずれか
1項に記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を製造する方法であって、所定の条件においてモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む細胞を培養することによって、前記モノクローナル抗体または抗原結合断片を生成させ、かつ
前記細胞または
前記細胞
の培養物から前記
モノクローナル抗体または抗原結合断片を回収することを含む方法。
【請求項12】
請求項1~
4のいずれか
1項に記載のモノクローナル抗体または抗原結合断片を含む薬物組成物を製造する方法であって、前記モノクローナル抗体または抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせることによって前記薬物組成物を得ることを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2015年7月28日に提出した中国特許出願番号が201510451773.6の優先権を出張し、その全内容を全体として引用して本明細書に取り入れる。
【0002】
[電子形式で提出された配列の引用]
本出願は、配列表を含み、EFS-Webによって電子形式で提出され、ASCIIフォーマットの配列表として、ファイル名は「配列表ファイル」で、作成日付は2016年7月6日で、大きさは約40kBである。EFS-Webによって提出された配列表は本明細書の一部で、かつその全内容を全体として引用して本明細書に取り入れる。
【0003】
[発明分野]
本発明は、抗PD-1モノクローナル抗体、前記抗体をコードする核酸と発現ベクター、前記ベクターを含む組み換え細胞、および前記抗体を含む組成物に関する。また、前記抗体を製造する方法、および前記抗体で癌および自己免疫疾患を含む疾患を治療する方法を提供する。
【0004】
[発明背景]
腫瘍細胞は色々な手段で腫瘍微小環境における宿主の免疫を「編集」することによって免疫系から逃れることができる。腫瘍のこのいわゆる「癌免疫逃避」を実施する手段の一つは、免疫系の重要な調節剤である免疫チェックポイントタンパク質の発現を上方調節することによって、免疫応答を抑制することである。このような免疫抑制共シグナルはPD-1受容体およびその配位子であるPD-L1によって仲介される。
【0005】
PD-1(プログラム細胞死タンパク質1)は1型膜貫通タンパク質で、長さは288アミノ酸で、主要な免疫チェックポイントの一つである(Blankら、2005、癌免疫療法、54:307-314)。PD-1は主に活性化されたT細胞において発現され、かつ配位子であるPD-L1およびPD-L2と相互作用して抑制シグナルが誘導されることで、T細胞の増殖、サイトカインの生成および細胞毒性が減少される(Freemanら、2000、J. Exp.Med.、192:1027-34)。PD-L1はT細胞、B細胞、内皮細胞、上皮細胞および抗原提示細胞、ならびに肺、肝臓および心臓の組織細胞と数種類の腫瘍細胞を含む、多くの種類の細胞において発現される。それに対し、PD-L2は抗原提示に特化した細胞、たとえば樹状細胞やマクロファージだけにおいて発現される。
【0006】
PD-1とPD-L1の間の相互作用は免疫応答の調節にとって重要で、かつPD-L1を発現する腫瘍細胞が免疫の監視から逃れる主な機構である(Zippeliusら、2015、癌免疫研究、3(3):236-44)。T細胞のPD-1の持続的な発現は疲弊した表現型を特徴付け、エフェクター機能の低下で注意される。異なる種類の腫瘍浸潤リンパ球(TIL)においてこの発現型が観察され、かつ予後不良および腫瘍再発に関連する(Wherry、2011、Nat.Immunol.、12:492-99)。
【0007】
PD-1/PD-L1の相互作用の遮断は免疫系を活性化して抗腫瘍の免疫応答を強化させることができ、かつすでに数個の相同マウス腫瘍モデルにおいて証明され、PD-1またはその配位子を遮断して抗腫瘍活性を促進する(Hiranoら、2005、癌研究、65:1089-96)。そのため、PD-1とPD-L1の間の相互作用は癌免疫治療で注目される標的である。
【0008】
癌免疫治療は癌治療の最新の突破で、患者自身の免疫系を利用して腫瘍細胞を攻撃する。免疫チェックポイントタンパク質の阻害剤は数種類の腫瘍(たとえば転移性メラノーマ、肺癌、乳腺癌、腎細胞癌など)を治療する潜在力。最近、癌免疫療法を応用する研究は、特に転移性癌では、期待できる結果が示された。(WeinstockとMcDermott、2015、TherAdv Urol.、7(6):365-77)。また、癌免疫治療はホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、非ホジキンリンパ腫などを含む血液癌の治療において巨大な潜在力が示された(ZouとChen L、2008、Nat Rev Immunol.、8(6):467-77)。免疫チェックポイント阻害剤による副作用は無視できる程度で、可逆的で制御可能で、かつ有効な免疫チェックポイント阻害剤は実質的に癌患者の全生存期間を改善することができる。免疫チェックポイント阻害剤は標的治療または従来の放射線治療や化学治療と併用することができ、かつこのような併用治療は有効に多くの種類の癌を治療することができる。BMS、Merck、MedImmuneおよびCureTechはすでに抗PD-1モノクローナル抗体のたとえば市場段階の三回試験を含む臨床試験が開始され、そしてRoche、MedImmune、Merck SeronoおよびBMSもすでに抗PD-L1 mAbのたとえば撤回または中止された三回試験を含む臨床試験が開始された(clinicaltrials.gov、2015)。
【0009】
BMS、Nivolumab(Opdivo<登録商標>)の全ヒトIgG4 mAbはすでにI期臨床試験が行われた。この試験における第一回は2010年に、39名の晩期固形腫瘍患者で行われた(Brahmerら、2010、J. Clin. Oncol.、28:3167-75)。応答結果は3/39で、多くの免疫関連有害作用(AE)および一例の重篤なAEが伴った。第二回の試験は2012年に、294名の患者で行われた(Topalianら、2014、J.Clin.Oncol.、32:1020-30)。16%の非小細胞肺癌患者、28%の転移性メラノーマ患者、29%の腎細胞癌患者および0%の去勢抵抗性前立腺癌患者または結直腸癌患者において客観的反応があった。15%の患者においてグレード3/4の治療関連のAEが生じ、かつ3例の死亡があった。
【0010】
そのため、進歩があったが、本分野では、有効にPD-1/PD-L1シグナル伝達活性を抑制しながら、ヒトに対して最小限の不利な副作用が生じる抗PD-1抗体を含むより有効な治療剤が必要である。
【発明の概要】
【0011】
このような需要に満足させるため、本発明は、混合リンパ球反応およびT細胞刺激試験で測定されたように、高親和力で特異的にPD-1と結合して免疫細胞のIFN-γおよびIL-2の分泌を誘導するモノクローナル抗体を提供する。具体的に、ニボルマブ(Nivolumab)と比べ、本発明の全ヒト抗PD-1抗体はPD-1に対してより高い親和力を有する。また、前記抗体はペムブロリズマブ(Pembrolizumab)(Keytruda<登録商標>、Merck)(ヒト化IgG4抗PD-1 mAb)に相当する特性を示すが、全ヒトのもので、簡単なヒト化mAbではないため、人体においてペムブロリズマブ(Pembrolizumab)よりも少ない免疫原性の不利な副作用を有する。
【0012】
一つの一般的な側面では、本発明は、PD-1と結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
一つの具体的な側面では、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、以下のポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む、抗体または抗原結合断片に関する。
【0013】
(1)それぞれ配列番号30、31、32、26、27、および28で、
(2)それぞれ配列番号6、7、8、2、3、および4で、
(3)それぞれ配列番号14、15、16、10、11、および12で、
(4)それぞれ配列番号22、23、24、18、19、および20で、
(5)それぞれ配列番号38、39、40、34、35、および36で、
(6)それぞれ配列番号46、47、48、42、43、および44で、あるいは
(7)それぞれ配列番号54、55、56、50、51、および52で、
ここで、前記抗体またはその抗原結合断片はPD-1、好ましくは特異的にヒトPD-1と結合する。
【0014】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号25、1、9、17、33、41または49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域を含むか、あるいは配列番号29、5、13、21、37、45または53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む、抗体または抗原結合断片に関する。
【0015】
一つの実施形態によれば、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片はヒト/ネズミキメラのものである。
もう一つの実施形態によれば、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片はヒトのものである。
【0016】
もう一つの実施形態によれば、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、さらに、一つの定常領域、好ましくは一つのヒト重鎖IgG4定常領域、より好ましくは一つまたは複数の突然変異(たとえばS228P突然変異)を有するヒト重鎖IgG4定常領域、および一つのヒト抗体の軽鎖κ定常領域を含む。
【0017】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、単離された本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸に関する。
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含むベクターに関する。
【0018】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む宿主細胞に関する。
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸と薬学的に許容される塩とを含む薬物組成物に関する。
【0019】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者においてPD-1とPD-L1またはPD-L2の結合を遮断する方法、あるいはIFN-γおよびIL-2の分泌を増強する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用することを含む方法に関する。
【0020】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者の疾患、障害または症状(好ましくは感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病)を治療する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用することを含む方法に関する。
【0021】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者の過剰増殖性疾患を治療する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用することを含む方法に関する。前記過剰増殖性疾患は、非悪性疾患でもよく、アテローム性動脈硬化、良性増殖、良性前立腺肥大を含むが、これらに限定されない。前記過剰増殖性疾患は、腫瘍または悪性疾患でもよい。前記腫瘍は、固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれてもよい。
【0022】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を製造する方法であって、所定の条件においてモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む細胞を培養することによって、前記モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を生成させ、かつ細胞または細胞培養物から前記抗体またはその抗原結合断片を回収することを含む方法に関する。
【0023】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む薬物組成物を製造する方法であって、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と混合することによって前記薬物組成物を得ることを含む方法に関する。
【0024】
発明の詳述、およびその好適な実施形態ならびに添付された請求の範囲を含む、以下の公開内容から、本発明のほかの側面、特徴および利点は明らかである。
図面を合わせると前記概要および以下の発明の詳述をさらに理解することができる。もちろん、本発明は図面で示された具体的な実施形態に限定されない。
【0025】
図面は以下の通りである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、PD-1-hFcタンパク質とビオチンで標識されたPD-L1-hFcの結合活性を示す。
【
図2】
図2は、PD-1タンパク質で形質移入して安定したHEK293細胞のフローサイトメトリープロファイルを示す。
【
図3】
図3は、ELISAによって検出されたPD-1タンパク質で免疫された後の遺伝子組み換えマウスの血清抗体力価を示すが、ここで、1671~1675はマウスのID番号を表す。
【
図4A】
図4Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とヒトPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図4B】
図4Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とヒトPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図5A】
図5Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とカニクイザルPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図5B】
図5Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とカニクイザルPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図6A】
図6Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とほかの免疫チェックポイントタンパク質の結合活性を示す。
【
図6B】
図6Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とほかの免疫チェックポイントタンパク質の結合活性を示す。
【
図7A】
図7Aは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-hPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図7B】
図7Bは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-hPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図7C】
図7Cは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-hPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図8A】
図8Aは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-cPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図8B】
図8Bは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-cPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図8C】
図8Cは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体とCHO-K1-cPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図9A】
図9Aは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図9B】
図9Bは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図9C】
図9Cは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図10A】
図10Aは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図10B】
図10Bは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図10C】
図10Cは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図11A】
図11Aは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図11B】
図11Bは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図12A】
図12Aは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図12B】
図12Bは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図13】
図13は、PBMCを使用したT細胞刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図14】
図14は、供与体1由来のPBMCを使用した混合リンパ球反応において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIL-2分泌に対する影響を示す。
【
図15】
図15は、供与体2由来のPBMCを使用した混合リンパ球反応において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIL-2分泌に対する影響を示す。
【
図16】
図16は、供与体1由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図17】
図17は、供与体2由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図18】
図18は、供与体1由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図19】
図19は、供与体2由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図20】
図20は、供与体3由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図21】
図21は、供与体4由来のPBMCを使用した混合リンパ球刺激試験において、本発明の実施形態によるキメラ抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図22A】
図22Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とヒトPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図22B】
図22Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とヒトPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図22C】
図22Cは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とヒトPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図23A】
図23Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とカニクイザルPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図23B】
図23Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とカニクイザルPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図23C】
図23Cは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とカニクイザルPD-1-hFcタンパク質の結合活性を示す。
【
図24A】
図24Aは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とCHO-K1-hPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図24B】
図24Bは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とCHO-K1-hPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図25A】
図25Aは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とCHO-K1-cPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図25B】
図25Bは、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とCHO-K1-cPD-1の細胞に基づいた結合活性を示す。
【
図26】
図26は、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体と活性化されたヒトPBMCの結合活性を示す。
【
図27】
図27は、フローサイトメトリーによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体と活性化されたカニクイザルPBMCの結合活性を示す。
【
図28A】
図28Aは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とほかの免疫チェックポイントタンパク質の結合活性を示す。
【
図28B】
図28Bは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とほかの免疫チェックポイントタンパク質の結合活性を示す。
【
図28C】
図28Cは、ELISAによって検出された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体とほかの免疫チェックポイントタンパク質の結合活性を示す。
【
図29A】
図29Aは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図29B】
図29Bは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図30A】
図30Aは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図30B】
図30Bは、タンパク質に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図31A】
図31Aは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図31B】
図31Bは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L1の結合に対する抑制を示す。
【
図32A】
図32Aは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図32B】
図32Bは、細胞に基づいた受容体配位子遮断試験によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のPD-1タンパク質とその配位子であるPD-L2の結合に対する抑制を示す。
【
図33】
図33は、PBMCを使用したT細胞刺激試験において、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図34】
図34は、混合リンパ球反応において、本発明の実施形態によるキメラと全ヒト抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図35】
図35は、PBMCを使用したT細胞刺激試験において、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図36A】
図36Aは、混合リンパ球反応において、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図36B】
図36Bは、混合リンパ球反応において、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体のIFN-γ分泌に対する影響を示す。
【
図37】
図37は、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)に対する影響を示す。
【
図38】
図38は、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体の補体依存性細胞傷害に対する影響を示す。
【
図39】
図39は、示差走査熱量測定法(DSC)によって測定された本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体の熱安定性を示す。
【
図40】
図40は、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体の凍結・解凍安定性を示す。
【
図41】
図41は、本発明の実施形態による全ヒト抗PD-1抗体の溶解度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[発明の詳述]
背景および明細書全体において、複数の出版物、文章および特許が引用または記述され、これらの参考文献におけるいずれも全体として引用して本明細書に取り入れられる。本明細書に含まれる書類、法案、材料、装置、文章などの検討は本発明の前後文を提供するためである。本発明で公開されたものまたは保護を要求されたもののいずれに対しても、このような検討はこれらの事項のいずれかまたは全部が既存技術の一部になることを認めるわけではない。
【0028】
別途に定義しない限り、本明細書で用いられるすべての技術と科学用語はいずれも本発明が属する分野の当業者が通常理解する意味と同様である。さらに、本明細書で用いられる具体的な用語は明細書で定義された意味を有する。本明細書で引用されたすべての特許、公開された特許出願および出版物は、ここで完全に記述されるように、引用によって本明細書に取り入れられる。注意すべきのは、前後文で別途に明示されない限り、本明細書および添付された請求の範囲で用いられるように、単一の形態の「一」、「一つ」および「当該」は複数の形態を含む。
【0029】
別途に説明されない限り、すべての場合、本明細書に記載のいずれの数値(たとえば本明細書に記載の濃度または濃度範囲)も用語「約」で修飾されたものと理解されるべきである。そのため、一つの数値は、通常、記載された値の±10%を含む。たとえば、1mg/mLの濃度は0.9mg/mL~1.1mg/mLを含む。同様に、1%~10%(w/v)の濃度範囲は0.9%(w/v)~11%(w/v)を含む。前後文で別途に明示されない限り、本明細書で用いられるように、使用された数値の範囲は特別にすべての可能な下位範囲、当該範囲内におけるすべての単一の数値を含み、このような範囲内における整数および当該値の分数を含む。
【0030】
本発明は、通常、単離された抗PD-1モノクローナル抗体、前記抗体をコードする核酸と発現ベクター、前記ベクターを含む組み換え細胞、および前記抗体を含む組成物に関する。また、前記抗体を製造する方法、および前記抗体で癌および自己免疫疾患を含む疾患を治療する方法を提供する。本発明の抗体は一つまたは複数の期待される機能特性を有し、PD-1と結合する高親和力、PD-1に対する高特異性、PD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断する能力、ならびにサイトカインであるIFN-γおよびIL-2の分泌を刺激する能力を含むが、これらに限定されない。
【0031】
一般的な側面では、本発明は、PD-1と結合する単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片に関する。
本明細書で用いられるように、用語「抗体」は広義で使用され、イムノグロブリンまたは抗体分子を含み、それにヒト、ヒト化、複合およびキメラ抗体、ならびにモノクローナルまたはポリクローナル抗体断片が含まれる。通常、抗体は特定の抗原に対して結合特異性を示すタンパク質またはペプチド鎖である。抗体の構造は、周知のものである。重鎖定常ドメインのアミノ酸配列によって、イムノグロブリンは主に5つのクラス(すなわちIgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM)に分かれる。IgAおよびIgGはさらに同クラスのIgA1、IgA2、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4に細分される。そのため、本発明の抗体は主な5つのクラスまたは相応するサブクラスのいずれでもよい。好ましくは、本発明の抗体はIgG1、IgG2、IgG3またはIgG4である。その定常領域のアミノ酸配列によって、脊椎動物の種の抗体の軽鎖を2つの顕著に異なるタイプの一つ、すなわちκおよびλに分類することができる。そのため、本発明の抗体はκまたはλの軽鎖定常ドメインを含んでもよい。具体的な実施形態によって、本発明の抗体はラットまたはヒト抗体由来の重鎖および/または軽鎖の定常領域を含む。重鎖および軽鎖の定常ドメイン以外、抗体は、さらに、軽鎖可変領域と重鎖可変領域からなる抗原結合領域を含み、各領域に3つのドメイン(すなわちCDR1、CDR2およびCDR3)が含まれる。軽鎖可変ドメインは任意にLCDR1、LCDR2およびLCRD3と、重鎖可変ドメインは任意にHCDR1、HCRD2およびHCDR3と呼ばれてもよい。
【0032】
本明細書で用いられるように、用語「単離された抗体」とは基本的に異なる抗原特異性を有するほかの抗体を含まない抗体をいう(たとえば、特異的にPD-1と結合する単離された抗体は基本的にPD-1と結合しない抗体を含まない)。さらに、単離された抗体は基本的にほかの細胞物質および/または化学物質を含まない。
【0033】
本明細書で用いられるように、用語「モノクローナル抗体」とは基本的に同質の抗体群から得られる抗体をいい、すなわち、少量に存在しうる天然の突然変異以外、群に含まれる単一の抗体は同一のものである。本発明のモノクローナル抗体はハイブリドーマ法、ファージディスプレイ技術、単一リンパ球遺伝子クローン技術、または組換えDNA法によって製造することができる。たとえば、ハイブリドーマによってモノクローナル抗体を生成させることができるが、前記ハイブリドーマは非ヒト遺伝子組換え動物(たとえば遺伝子組換えマウスまたはラット)から得られる、ヒト重鎖組換え遺伝子および軽鎖組換え遺伝子を含むゲノムを有するB細胞を含む。
【0034】
本明細書で用いられるように、用語「抗原結合断片」とは抗体断片、たとえばダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ジスルフィド結合安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド結合安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、一本鎖抗体分子(scFv)、単一ドメイン抗体(sdab)、scFv二量体(2価ダイアボディ)、一つまたは複数のCDRを含む部分抗体からなる多重特異性抗体、ラクダ単一ドメイン抗体、ナノ抗体、ドメイン抗体、2価ドメイン抗体、または抗原と結合するが完全の抗体構造を含まない任意のほかの抗体断片をいう。抗原結合断片は同様の抗原(親抗体または親抗体断片と結合する同様の抗原)と結合することができる。具体的な実施形態によれば、抗原結合断片は軽鎖可変領域、軽鎖定常領域、および重鎖定常領域のFdセグメントを含む。ほかの具体的な実施形態によれば、抗原結合断片はFabおよびF(ab')を含む。
【0035】
本明細書で用いられるように、用語「一本鎖抗体」とは約15~約20のアミノ酸からなる短鎖ペプチドで連結した重鎖可変領域と軽鎖可変領域を含む、本分野の通常の一本鎖抗体をいう。本明細書で用いられるように、用語「単一ドメイン抗体」とは重鎖可変領域および重鎖定常領域を、あるいは重鎖可変領域だけを含む、本分野の通常の単一ドメイン抗体をいう。
【0036】
本明細書で用いられるように、用語「ヒト抗体」とはヒトから生成する抗体、または本分野で既知の任意の技術によって製造されるアミノ酸配列を有するヒトから生成する抗体と一致する抗体をいう。ヒト抗体の定義は、完全または全長の抗体、その断片、ならびに/あるいは少なくとも一つの重鎖および/または軽鎖ポリペプチドを含む抗体を含む。
【0037】
本明細書で用いられるように、用語「ヒト化抗体」とは抗体の抗原結合特性が維持され、かつ人体における抗原性が低下するように、修飾によってヒト抗体との配列相同性を増強させた非ヒト抗体をいう。
【0038】
本明細書で用いられるように、用語「キメラ抗体」とはイムノグロブリン分子のアミノ酸配列が2つまたはそれ以上の種由来の抗体をいう。通常、軽鎖および重鎖の可変領域はいずれも1種類の哺乳動物(たとえばマウス、ラット、ウサギなど)から誘導される、所要の特異性、親和力、および性能を有する抗体の可変領域に相応し、定常領域はもう1種類の哺乳動物(たとえばヒト)から誘導される抗体の配列に相応することで、当該種において免疫応答を引き起こすことを避ける。
【0039】
本明細書で用いられるように、用語「PD-1」とは程プログラム細胞死タンパク質1をいい、活性化したT細胞、B細胞および骨髄系細胞において発現される50~55kDaの1型膜貫通受容体である(Greenwaldら、Annu.Rev. Immunol.23:515-48; Sharpeら、2007、Nat. Immunol.8:239-45)。ヒトPD-1のアミノ酸配列はGenBankに記載され、登録番号はNP_005009.2である。PD-1の2種類の配位子、すなわちPD-L1およびPD-L2がすでに同定された。
【0040】
本明細書で用いられるように、用語「特異的にPD-1と結合する」抗体とは、PD-1、好ましくはヒトPD-1と結合する抗体をいい、そのKD値は1×10-7M以下、好ましくは1×10-8 M以下、より好ましくは5×10-9M以下、1×10-9 M以下、5×10-10M以下、1×10-10 M以下である。用語「KD」とはKdとKaの比(すなわちKd/Ka)から得られる解離定数をいい、かつモル濃度(M)で表示される。本発明によれば、本分野の方法によって抗体のKD値を確認することができる。たとえば、抗体のKDは表面プラスモン共鳴、たとえばBiacore<登録商標>システムのようなバイオセンサーシステム、またはバイオレイヤー干渉の測定・分析技術、たとえばOctet RED96システムによって確認することができる。
【0041】
抗体のKD値が小さいほど、抗体と標的抗原の結合の親和力が高い。
一つの具体的な側面では、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、以下のポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0042】
(1)それぞれ配列番号30、31、32、26、27、および28で、
(2)それぞれ配列番号6、7、8、2、3、および4で、
(3)それぞれ配列番号14、15、16、10、11、および12で、
(4)それぞれ配列番号22、23、24、18、19、および20で、
(5)それぞれ配列番号38、39、40、34、35、および36で、
(6)それぞれ配列番号46、47、48、42、43、および44で、あるいは
(7)それぞれ配列番号54、55、56、50、51、および52で、
ここで、前記抗体またはその抗原結合断片はPD-1、好ましくは特異的にヒトPD-1と結合する。
【0043】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、配列番号25、1、9、17、33、41または49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域を含むか、あるいは配列番号29、5、13、21、37、45または53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む、抗体またはその抗原結合断片に関する。好ましくは、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、それぞれ、配列番号25、1、9、17、33、41または49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号29、5、13、21、37、45または53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。
【0044】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、
a.配列番号25のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
b.配列番号1のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号5のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
c.配列番号9のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
d.配列番号17のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
e.配列番号33のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
f.配列番号41のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、あるいは
g.配列番号49のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号53のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
を含む抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0045】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号6、7、8、2、3、および4のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号5と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号1のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号5のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0046】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号14、15、16、10、11、および12のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号13と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号9のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0047】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号22、23、24、18、19、および20のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号17と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号21と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号17のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0048】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号30、31、32、26、27、および28のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号25と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号29と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号25のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0049】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号38、39、40、34、35、および36のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号37と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号33のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0050】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号46、47、48、42、43、および44のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号41と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号45と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号41のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0051】
一つの実施形態において、本発明は、単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、LCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、それぞれ配列番号54、55、56、50、51、および52のポリペプチド配列を有する、抗体またはその抗原結合断片に関する。もう一つの実施形態において、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域、および配列番号53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。好ましくは、前記の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、配列番号49のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号53のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域を含む。
【0052】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、キメラのものである抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0053】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、ヒトのものである抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0054】
もう一つの具体的な側面によれば、本発明は、本発明の単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、一つの定常領域、好ましくはヒト重鎖IgG4定常領域、より好ましくはS228P突然変異を有するヒト重鎖IgG4定常領域(配列番号75)、およびヒト抗体の軽鎖、好ましくはヒト軽鎖κ定常領域(配列番号77)を含む抗体またはその抗原結合断片に関する。
【0055】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸に関する。当業者にとって、タンパク質のアミノ酸配列を変えないまま、タンパク質のコード配列を変えることができることがわかる(たとえば、置換、削除、挿入など)。そのため、当業者にとって、タンパク質のアミノ酸配列を変えないまま、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸配列を変えることができることがわかる。
【0056】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含むベクターに関する。ここの公開に基づき、当業者に既知の任意のベクター、たとえばプラスミド、コスミド、ファージベクターまたはウイルスベクターを使用することができる。一部の実施形態において、前記ベクターは組換え発現ベクター、たとえばプラスミドである。前記ベクターは通常の機能の発現ベクターの構築に使用される任意のエレメント、たとえばプロモーター、リボソーム結合エレメント、ターミネーター、エンハンサー、選択マーカーや複製起点を含んでもよい。プロモーターは構成型、誘導型または抑制型のプロモーターでもよい。本分野において、多くの発現ベクターは核酸を細胞に送達することができ、本発明で細胞における抗体またはその抗原結合断片の生成に有用であることが知られている。本発明の実施形態によれば、通常のクローン技術または人工遺伝子合成によって組換え発現ベクターを生産することができる。
【0057】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む宿主細胞に関する。ここの公開に基づき、当業者に既知の任意の宿主細胞を、本発明の抗体またはその抗原結合断片の組換え発現に使用することができる。一部の実施形態において、宿主細胞は大腸菌TG1またはBL21細胞(たとえばscFvまたはFab抗体の発現に使用される)またはCHO-K1細胞(たとえば全長IgG抗体の発現に使用される)である。具体的な実施形態によれば、通常の方法、たとえば化学的形質移入、熱ショックまたはエレクトロポレーションによって組換え発現ベクターを宿主細胞に形質転換させ、宿主細胞のゲノムに安定して組み込まれ、組換え核酸は有効に発現される。
【0058】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を製造する方法であって、所定の条件においてモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む細胞を培養することによって、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を生成させ、かつ細胞または細胞培養物から(たとえば上清液から)抗体またはその抗原結合断片を回収することを含む方法に関する。細胞から発現された抗体またはその抗原結合断片を収穫し、かつ本分野で既知の通常の技術および本明細書に記載の通常の技術によって精製することができる。
【0059】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、単離された本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸と薬学的に許容されるベクターとを含む薬物組成物に関する。
【0060】
本明細書で用いられるように、用語「ベクター」とは、任意の賦形剤、希釈剤、充填剤、塩、緩衝剤、安定剤、相溶剤、油、脂質、小嚢を含む脂質、マイクロスフェア、脂質封入体、または本分野で既知の薬物製剤に使用されるほかの物質をいう。もちろん、ベクター、賦形剤または希釈剤の特性は具体的な応用の投与形態によって決まる。本明細書で用いられるように、用語「薬学的に許容されるベクター」とは、本発明に記載の組成物の有効性または本発明に記載の組成物の生物活性に干渉しない無毒物質をいう。具体的な実施形態によれば、ここの公開に基づき、抗体薬物組成物に適する任意の薬学的に許容されるベクターはいずれも本発明に使用することができる。
【0061】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者においてPD-1とPD-L1またはPD-L2の結合を遮断するか、あるいはIFN-γおよびIL-2の分泌を増強する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用する方法に関する。
【0062】
PD-1と結合する抗体およびその抗原結合断片の機能活性は本分野で既知の方法および本明細書に記載の方法によって特徴付けることができる。PD-1と結合する抗体およびその抗原結合断片を特徴付ける方法は、Biacore、ELISAおよびFACS分析を含む親和力および特異性の試験、PD-1とPD-L1およびPD-L2の結合に対する遮断を検出するための受容体配位子結合試験、PD-1とPD-L1およびPD-L2の結合を遮断することによって、リンパ球のサイトカインの生成に対する誘導を検出する試験、抗体の抗体依存性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)の存在の有無を検出するための細胞毒性試験、マウス腫瘍モデルにおける腫瘍生長に対する抑制を検出する実験などを含むが、これらに限定されない。具体的な実施形態によれば、PD-1と結合する抗体およびその抗原結合断片を特徴付ける方法は以下の実施例2~12に記載の方法を含む。
【0063】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者において感染性疾患または移植片対宿主病を治療する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用する方法に関する。もう一つの一般的な側面では、本発明は、必要な被験者において腫瘍を治療する方法であって、被験者に本発明の薬物組成物を施用する方法に関する。
【0064】
本明細書で用いられるように、用語「被験者」とは動物、好ましくは哺乳動物である。具体的な実施形態によれば、被験者は哺乳動物で、非霊長類(たとえば、ラクダ、ロバ、シマウマ、ウシ、ブタ、ウマ、ヤギ、ヒツジ、ネコ、イヌ、ラット、ウサギ、モルモットまたはマウス)または霊長類動物(たとえばサル、チンパンジーまたはヒト)を含む。具体的な実施形態において、前記被験者はヒトである。
【0065】
本発明の実施形態によれば、前記薬物組成物は治療有効量の抗PD1抗体またはその抗原結合断片を含む。本明細書で用いられるように、用語「治療有効量」とは被験者において所要の生物または薬物反応を引き起こす活性成分または構成要素の量をいう。前記目的によって、経験および通常の手段によって治療有効量を決めることができる。
【0066】
本明細書で用いられるように、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片では、治療有効量とは必要な被験者において免疫応答を刺激する抗PD-1抗体またはその抗原結合断片の量をいう。同様に、本明細書で用いられるように、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片では、治療有効量とは疾患、障害または病症を治療するか、疾患、障害または病症の進展を予防または緩和するか、あるいは免疫疾患、障害または病症に関連する症状を軽減させるか完全に軽減させる、抗PD-1抗体またはその抗原結合断片の量をいう。
【0067】
具体的な実施形態によれば、治療される疾患、障害または病症は過剰増殖性疾患、感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病である。より具体的な実施形態によれば、治療される疾患、障害または病症は感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病である。より具体的な実施形態によれば、治療される疾患、障害または病症は非悪性過剰増殖性疾患で、アテローム性動脈硬化、良性増殖、良性前立腺肥大を含むが、これらに限定されない。ほかの具体的な実施形態によれば、治療される疾患、障害または病症は腫瘍または悪性過剰増殖性疾患で、好ましくは、腫瘍は、固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれる。
【0068】
具体的な実施形態によれば、治療有効量とは1、2、3、4またはこれ以上の以下の効果を実現させるに十分な治療量。(i)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の重篤度の軽減または改善、(ii)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の持続時間の減少、(iii)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の進展の予防、(iv)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の退化、(v)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の進展または発作の予防、(vi)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の再発の予防、(vii)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状を有する被験者の入院治療の減少、(viii)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状を有する被験者の入院時間の減少、(ix)治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状を有する被験者の生存率の増加、(xi)被験者において治療される疾患、障害または病症あるいはそれに関連する症状の抑制または軽減、ならびに/あるいは(xii)もう一つの療法の増強または改善といった予防または治療の効果である。
【0069】
治療有効量または投与量は、たとえば治療される疾患、障害または病症、投与形態、標的部位、被験者の生理状態(たとえば年齢、体重、健康状況を含む)、被験者がヒトか動物か、施用されるほかの薬物、および当該処理が予防か治療かといった様々な要素によって変わる。滴定の治療投与量を最適化することによって、安全性および有効性を最適化する。
【0070】
具体的な実施形態によれば、被験者に施用する予定の経路に適するように、本明細書に記載の組成物を調製する。たとえば、本明細書に記載の組成物は静脈内、皮下または筋肉内への施用に適する形態に調製することができる。
【0071】
本明細書で用いられるように、用語「治療」、「治療される」および「療法」とはいずれも下記疾患に関連する測定可能な生理的パラメーターの少なくとも一つの改善または逆転をいい、前記疾患は、癌、炎症性疾患、障害または病症、免疫性疾患、障害または病症、自己免疫性疾患、障害または病症、あるいは感染性疾患、障害または病症を含み、被験者において必ずしも識別できるわけではないが、被験者において識別することができる。用語「治療」、「治療される」および「療法」とは、さらに、疾患、障害または病症を消退させるか、その進展を阻害するか、あるいは少なくともその進展を遅延させることをいう。具体的な実施形態において、用語「治療」、「治療される」および「療法」とは、疾患、障害または病症(たとえば腫瘍、より好ましくは癌)に関連する一つまたは複数の症状の進展または発作を軽減・予防するか、その持続時間を減少させることをいう。具体的な実施形態において、用語「治療」、「治療される」および「療法」とは、疾患、障害または病症の再発を予防することをいう。具体的な実施形態において、用語「治療」、「治療される」および「療法」とは、疾患、障害または病症を有する被験者の生存率を増加することをいう。具体的な実施形態において、用語「治療」、「治療される」および「療法」とは、被験者の疾患、障害または病症を治癒することをいう。
【0072】
具体的な実施形態によれば、癌、炎症性疾患、障害または病症、免疫性疾患、障害または病症、自己免疫性疾患、障害または病症、あるいは感染性疾患、障害または病症を治療するための組成物は、ほかの治療と併用することができ、化学治療、抗CD20 mAb、抗CTLA-4抗体、抗血管新生剤、放射療法、ほかの免疫腫瘍薬物、標的療法、抗PD -L1抗体またはほかの抗癌薬を含むが、これらに限定されない。
【0073】
本明細書で用いられるように、前後文で被験者に2種類またはこれ以上の療法を施用する用語「併用」とは1種類よりも多い療法を使用することをいう。使用される用語「併用」は、被験者に施用する治療の順番を限定しない。たとえば、被験者への第一の療法(たとえば、本明細書に記載の組成物)は第二の療法を施用する前(たとえば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間または12週間前)、同時、あるいは後(たとえば、5分間、15分間、30分間、45分間、1時間、2時間、4時間、6時間、12時間、16時間、24時間、48時間、72時間、96時間、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、8週間または12週間後)でもよい。
【0074】
もう一つの一般的な側面では、本発明は、本発明のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を含む薬物組成物を製造する方法であって、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせることによって前記薬物組成物を得ることを含む方法に関する。
【0075】
実施形態
また、本発明は以下の非限定的な実施形態を提供する。
実施形態1は単離されたモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって、以下のポリペプチド配列を有するLCDR1、LCDR2、LCDR3、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含む、抗体またはその抗原結合断片である。
【0076】
(1)それぞれ配列番号30、31、32、26、27、および28で、
(2)それぞれ配列番号6、7、8、2、3、および4で、
(3)それぞれ配列番号14、15、16、10、11、および12で、
(4)それぞれ配列番号22、23、24、18、19、および20で、
(5)それぞれ配列番号38、39、40、34、35、および36で、
(6)それぞれ配列番号46、47、48、42、43、および44で、あるいは
(7)それぞれ配列番号54、55、56、50、51、および52で、
ここで、前記の抗体またはその抗原結合断片はPD-1と結合する。
【0077】
実施形態2は実施形態1の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、配列番号25、1、9、17、33、41または49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域を含むか、あるいは配列番号29、5、13、21、37、45または53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。
【0078】
実施形態3は実施形態2の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、それぞれ配列番号25、1、9、17、33、41または49と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の重鎖可変領域を含むか、ならびに配列番号29、5、13、21、37、45または53と少なくとも95%の相同性を有するポリペプチド配列の軽鎖可変領域を含む。
【0079】
実施形態4は実施形態3の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、
(a) 配列番号25のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号29のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(b) 配列番号1のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号5のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(c) 配列番号9のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号13のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(d) 配列番号17のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号21のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(e) 配列番号33のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号37のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
(f) 配列番号41のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号45のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、あるいは
(g) 配列番号49のポリペプチド配列を有する重鎖可変領域、および配列番号53のポリペプチド配列を有する軽鎖可変領域、
を含む。
【0080】
実施形態5は実施形態1~4のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、前記の抗体またはその抗原結合断片はキメラのものである。
実施形態6は実施形態1~5のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、前記の抗体またはその抗原結合断片はヒトのものである。
【0081】
実施形態7は実施形態6の単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、S228P突然変異を有するヒト重鎖IgG4定常領域およびヒト抗体の軽鎖κ定常領域を含む。
実施形態8は実施形態1~7のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、前記抗体または抗原結合断片はKD値が5×10-9 M以下、好ましくはKD値が1×10-9 M以下のヒトPD-1と結合し、ここで、KDは表面プラスモン共鳴分析(たとえばBiacoreシステム)またはバイオレイヤー干渉測定技術(たとえばOctet RED96システム)によって測定される。
【0082】
実施形態9は単離された実施形態1~8のいずれかのモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする核酸である。
実施形態10は実施形態9の単離された核酸を含むベクターである。
【0083】
実施形態11は実施形態10の核酸を含む宿主細胞である。
実施形態12は実施形態1~8のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片と薬学的に許容される担体とを含む薬物組成物である。
【0084】
実施形態13は必要な被験者においてPD-1とPD-L1またはPD-L2の結合を遮断するか、あるいはIFN-γおよびIL-2の分泌を増加する方法で、前記被験者に実施形態12の薬物組成物を施用することを含む。
【0085】
実施形態14は、必要な被験者において感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病を治療する方法で、前記被験者に実施形態12の薬物組成物を施用することを含む。
【0086】
実施形態15は実施形態14の方法で、前記方法はさらに必要な被験者の感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病を治療するために、被験者に別の製剤を施用することを含む。
【0087】
実施形態16は必要な被験者の過剰増殖性疾患を治療する方法で、被験者に実施形態12の薬物組成物を施用することを含む。
実施形態17は実施形態16の方法で、前記の過剰増殖性疾患は非悪性疾患で、好ましくはアテローム性動脈硬化、良性増殖および良性前立腺肥大からなる群から選ばれる。
【0088】
実施形態18は実施形態16の方法で、前記の過剰増殖性疾患は腫瘍または悪性疾患で、好ましくは、前記腫瘍は、固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれる。
【0089】
実施形態19は実施形態16~18のいずれかの方法で、前記方法はさらに必要な被験者の過剰増殖性疾患を治療するために、被験者に別の製剤を施用することを含む。
実施形態20は実施形態1~8のいずれかのモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を製造する方法で、所定の条件においてモノクローナル抗体または抗原結合断片をコードする単離された核酸を含む細胞を培養することによって、モノクローナル抗体または抗原結合断片を生成させ、かつ細胞または細胞培養物から抗体または抗原結合断片を回収することを含む。
【0090】
実施形態21は実施形態1~8のいずれかのモノクローナル抗体または抗原結合断片を含む薬物組成物を製造する方法であって、前記モノクローナル抗体または抗原結合断片を薬学的に許容される担体と組み合わせることによって前記薬物組成物を得ることを含む。
【0091】
実施形態22は実施形態1~8のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、必要な被験者の感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病の治療に使用される。
【0092】
実施形態23は実施形態1~8のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片で、過剰増殖性疾患、たとえば非悪性疾患(アテローム性動脈硬化、良性増殖および良性前立腺肥大からなる群から選ばれる)、または腫瘍(固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれる)の治療に使用される。
【0093】
実施形態24は薬物組成物の製造における実施形態1~8のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片の使用で、前記薬物組成物は必要な被験者の感染性疾患、炎症性疾患、免疫性疾患、自己免疫性疾患または移植片対宿主病の治療に使用される。
【0094】
実施形態25は薬物組成物の製造における実施形態1~8のいずれかの単離されたモノクローナル抗体または抗原結合断片の使用で、前記薬物組成物は過剰増殖性疾患、たとえば非悪性疾患(アテローム性動脈硬化、良性増殖および良性前立腺肥大からなる群から選ばれる)、または腫瘍(固形腫瘍、血液癌、膀胱癌、胆管癌、脳癌、乳癌、結腸癌、食道癌、胃癌、膠細胞腫、頭部癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、骨髄腫、頸部癌、卵巣癌、メラノーマ、膵臓腺癌、腎臓癌、唾液腺癌、胃癌、胸腺上皮癌、および甲状腺癌からなる群から選ばれる)の治療に使用される。
【実施例】
【0095】
本発明の以下の実施例はさらに本発明を説明するためのものである。もちろん、以下の実施例は本発明を限定せず、かつ本発明の範囲は添付された請求の範囲によって決まる。
実施例1 抗PD-1抗体の製造
ヒトPD-1タンパク質を免疫原として使用して抗PD-1抗体を製造した。ヒトイムノグロブリン遺伝子組換えマウス技術によって全ヒト抗体の開発と製造を行い、初めてAbgenix(XenoマウスおよびMedarex(HuMab「マウス」); Lonbergら、1994、ネーチャー 368: 856-859; LonbergおよびHuszar、1995、Internal Rev. Immunol. 13:65-93; HardingおよびLonberg,、1995、Ann. N.Y. Acad. Sci. 764:536-546)に記載された。
【0096】
抗体の生産、精製および検証試験を行うことによって、PD-1に高親和力(KD<1×10-9)を有する抗体が得られた。当該抗体はPD-1に特異性を有し、かつほかの免疫チェックポイントタンパク質、たとえばB7.1、CD28、CTLA-4やICOSと交差反応が発生せず、PD-1とPD-L1およびPD-L2の結合を遮断することができる。通常の分子生物学的方法によって生成した抗PD-1抗体の重鎖と軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を測定し、そして表1にまとめた。
【0097】
【0098】
表1に示された抗PD-1抗体の重鎖と軽鎖の可変領域は表2にまとめた核酸配列によってコードされる。
【0099】
【0100】
全ヒト由来の抗PD-1抗体を製造した。当該全ヒト抗PD-1抗体は高親和力(KD<1×10-9M)でヒトPD-1の細胞外ドメインに結合し、かつPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断した。抗PD-1抗体はヒトB7.1、CD28、CTLA-4、ICOSまたはほかの類似するタンパク質抗原との非特異的結合を示さなかった。混合リンパ球およびT細胞刺激試験によって抗PD-1抗体の生物学的活性を評価したところ、試験において、これらはIFN-γおよびIL-2サイトカインの分泌を増加した。理論に縛れたくないが、抗PD-1抗体はPD-1が介する免疫応答を負に調節するシグナル伝達経路の抑制に使用し、そしてこれによって腫瘍特異的免疫応答を増強するか、あるいは単一の療法として、または癌免疫療法として抗PD-L1モノクローナル抗体またはほかの抗癌薬と併用し、特にPD-L1陽性腫瘍を罹患する患者に使用することができる。抗PD-1抗体は癌や自己免疫疾患の治療に使用することができる。
【0101】
実施例2 抗PD-1抗体の製造
(工程1)免疫原A、PD-1ECD-hFcタンパク質(本明細書でPD-1-hFcともいう)の製造
通常の分子生物学クローン技術(SambrookおよびRussell、1989、「モレキュラー・クローニング:研究室マニュアル」、ニューヨーク:コールド・スプリング・ハーバー研究所出版社、第二版)によって、配列番号72のLeu25-Glu167番目のアミノ酸に相応するヒトPD-1細胞外ドメインのコード配列(PD-1ECD、配列番号71)を、ヒトIgG Fc断片(hFc)のコード配列とともに、pCpCベクター(Invitrogen、#V044-50)にクローンした。ポリエチレンイミン(PEI,Polysciences)およびプラスミドによって、HEK293細胞(Invitrogen)に対して一過性形質移入を行い、37℃でFreeStyle 293発現培地(Invitrogen)において増幅を行った。4日間増幅した後、培地を回収して遠心で細胞成分を除去した。組換えPD-1ECD-hFcを含有する培養上清液に対してタンパク質Aクロマトグラフィーを行った(Mabselect、GEヘルスケア)。UV検出器によって紫外(UV)吸収(A280nm)をモニタリングし、UV A280nmの吸収スペクトルがベースラインのレベルに戻るまで、PBS(pH7.2)でサンプルを洗浄し、この時0.1Mグリシン塩酸塩(pH2.5)でPD-1ECD-hFc融合タンパク質をタンパク質A親和カラムから溶離させた。4℃で、サンプルをPBSリン酸塩緩衝液(pH7.2)で一晩透析した。透析後、0.22ミクロンの無菌フィルターで精製されたPD-1免疫原をろ過し、分けて-80℃で保存した。
【0102】
上記PD-1ECD-hFc組換えタンパク質を製造する方法と同様の方法によって、hFcと融合した組換えヒトPD-L1細胞外ドメイン(PD-L1ECD)を製造した(Uniprotデータベースのタンパク質Q9NZQ7.1のPhe19-Thr239番目のアミノ酸に相応する)。タンパク質をビオチン(Sigma S3295)と混合してインキュベートし、精製されたPD-L1ECD-hFc(本明細書でPD-L1-hFcともいう)をビオチン化した。
【0103】
PD-1
ECD-hFc免疫原を特徴付けるために、サンプルのタンパク質の濃度および純度を測定し、そして免疫原の分子量および生物活性を測定した。
配位子結合試験によってPD-1
ECD-hFc免疫原の生物学的活性を測定した。PBSで組換えPD-1
ECD-hFcタンパク質を1μg/mLの濃度まで希釈し、かつ100μLの希釈されたPD-1
ECD-hFcタンパク質のサンプルをマイクロタイタープレートの各ウェルに添加し、当該プレートが組換えタンパク質で被覆されるように4℃で一晩インキュベートした。その後、ブロッキング溶液(1%のBSAを含有するpH7.4のPBS緩衝液、w/v)によって37℃で当該プレートを2時間ブロッキングした後、連続に希釈したビオチン化されたPD-L1
ECD-hFcタンパク質または対照タンパク質(ビオチン化された非PD-L1
ECD-hFc)で37℃で1時間インキュベートした。ストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)複合体(Sigma B2438)を添加し、かつプレートを室温で30分間インキュベートした。100μLのテトラメチルベンジジン(TMB)を入れ、かつプレートを室温で15分間インキュベートした。50uLの1N HClを入れて反応を停止させ、マイクロプレートリーダーによってOD450nmを測定した。
図1および表3は濃度依存性のビオチン化されたPD-L1
ECD-hFcタンパク質または対照タンパク質と精製されたPD-1
ECD-hFc融合タンパク質の結合を示す。ビオチン化されたPD-L1
ECD-hFcとPD-1
ECD-hFcの結合が観察されたが、PD-L1
ECD配列を含まない対照タンパク質では結合が観察されなかった。
【0104】
【0105】
(工程2)免疫原B、hPD-1を過剰発現するHEK293細胞の製造
ヒトPD-1をコードするヌクレオチド配列(配列番号73)をpIRESベクター(Clontech)にサブクローンし、そして当該プラスミドを製造した。PEIおよび当該プラスミドでHEK293およびCHO-K1細胞(Invitrogen)に対して一過性形質移入を行い、0.5μg/mLの抗生物質および10%(w/w)牛胎児血清(FBS)を含有するDMEM培地において2週間培養して形質転換体を選別した。有限希釈で一つの96ウェルプレートに移し、当該プレートを37℃、5%(v/v)CO2で約2週間インキュベートした。選別後、単クローンを6ウェルプレートにおいて増幅し、市販の抗PD-1抗体(R&D Systems)を使用し、フローサイトメトリーによって増幅されたクローンを選別した。FACS測定によって、より高い生長速度およびより高い蛍光強度を示したクローンをさらに増幅させ、かつ液体窒素で冷凍保存した。
【0106】
図2はhPD-1タンパク質で形質移入して安定したHEK293細胞のフローサイトメトリープロファイルを示す。表4はhPD-1タンパク質の発現レベルの指標としてのFACS陽性細胞の百分率を示す。
【0107】
【0108】
(工程3)免疫原C、hPD-1発現構築ベクターの製造
ヒトPD-1全長タンパク質(配列番号73)のコード配列をpcDNA3.1ベクター(Invitrogen)にサブクローンし、得られたプラスミドを1.0um金コロイド弾(Bio-RAD)に包埋した後、Heliosジーンガンの説明書に従い、Heliosジーンガン(Bio-rad No.165-2431)によって免疫を行った。
【0109】
(工程4)ハイブリドーマ細胞の融合と抗体の選別
ヒトIg Fcは宿主であるマウスのFc受容体とマッチしないため、hFcを含有する免疫原がマウスにおいて引き起こす免疫反応が弱く、モノクローナル抗体の製造の効率が低くなる。マウスのゲノムにヒトイムノグロブリン(Ig)可変領域をコードする遺伝子およびラットIg定常領域の遺伝子を導入することによって、Harbour H2L2遺伝子組換えマウスを作り、マウスにhV-rCを含むキメラIgを含有させ、同時にマウスIgの発現が不活性化された(WO2010/070263A1)。Harbour H2L2遺伝子組換えマウスは野生型マウス(たとえばBalb/c)に相当する免疫応答および抗体力価を示すことができる。
【0110】
(4A部分)免疫原Aで6~8週齢のHarbour H2L2遺伝子組換えマウス(北京維通利華)を免疫させ、かつマウスを特定の病原体のない(SPF)条件で飼育した。初回の免疫において、50ugの免疫原Aを0.25mLの完全フロイントアジュバント(CFA)とともに各マウスの腹腔に注射した。免疫応答を増強するために、初回の免疫の2週間後、50ugの免疫原Aを0.25mLの不完全フロイントアジュバント(IFA)とともに各マウスの腹腔に注射した後、3週間置いて免疫強化を与えた。免疫の1週間後血液サンプルを収集した。ELISAおよびFACS分析によって血清における抗体力価および特異性を検出し、結果を
図3および表5に示す。表5はPD-1
ECD-hFcで免疫されたマウスの血清が免疫原Aとの結合の異なるレベルを示すことを説明する。最高の血清希釈度は約一百万であった。ブランク対照は1%(w/w)BSAであった。表5で示されたOD450nm値はELISAによって測定された第三回の免疫強化の7日間後の血清抗体価値である。
【0111】
【0112】
(4B部分)免疫原Bで6~8週齢のHarbour H2L2遺伝子組換えマウス(北京維通利華)を免疫させ、マウスをSPF条件で飼育した。X-treme遺伝子HP DNA形質移入試薬(Roche、#06 366 236 001)によって、全長hPD-1をコードするpIRESプラスミドでHEK293細胞に形質移入して安定させた(実施例2、工程2を参照する)。T-75培養瓶において細胞を培養した。細胞が90%コンフルエンスになった時、培地を吸い出し、DMEM培地(Invitrogen)で細胞を2回洗浄し、かつ細胞が培養瓶から分離するまで、37℃で無酵素細胞分解液(Invitrogen)で処理した。細胞を収集してDMEM培地で2回洗浄し、細胞計数を行ってPBS緩衝液(pH7.2)で2×107個細胞/mLに調整した。マウスに毎回0.5mLの細胞懸濁液を免疫注射した。初回の免疫の2週間後、免疫強化を与え、さらに3週間置いて免疫強化を与えた。免疫の1週間後血液サンプルを収集した。フローサイトメーターによって血清抗体価および特異性を検出した。第二回の免疫強化後、血清抗体価はフローサイトメーターでは1:1000超で、ELISAでは1:10000超であった。
【0113】
(4C部分)免疫原Cで6~8週齢のHarbour H2L2遺伝子組換えマウス(北京維通利華)を免疫させ、かつマウスをSPF条件で飼育した。すべてのマウスをHeliosジーンガンで4回免疫させ、毎回の免疫は4ドースであった。1ドースは1ugのcDNAを含有する。初回の免疫の2週間後、免疫強化を与え、さらに3週間置いて免疫強化を与えた。免疫の1週間後血液サンプルを収集し、ELISAおよびFACSによって血清抗体価を検出した。第二回の免疫強化後の血清抗体価はフローサイトメーターでは1:1000で、ELISAでは1:10000超であった。
【0114】
上記工程4A~Cが完成する前、hPD-1に対する特異的免疫応答を有するマウスを選んで融合させ、かつ腹膜内に100μgの精製されたPD-1ECD-hFc(免疫原Aまたは免疫原Cに対して免疫させたマウス)またはhPD-1を形質移入して安定したHKE293細胞(免疫原Bに対して免疫させたマウス)を注射することによって、最後の一回の免疫強化を与えた。5日間後、マウスを殺処分し、その脾臓細胞を収集した。NH4OHを最後濃度が1%(w/w)になるように脾臓細胞のサンプルに入れることによって、サンプルにおける赤血球を分解させた。1000rpmでサンプルを遠心し、かつDMEM培地で3回洗浄した。脾臓細胞の活力を検出した後、高効率電気融合方法(酵素学方法、Vol.220)によって、生存する脾臓細胞をマウス骨髄腫細胞SP2/0(ATCC)と5:1の比率で融合させた。
【0115】
融合細胞を20%FBSおよび1×ヒポキサンチン-アミノプテリン-チミジン(HAT)培地(w/w)を含有するDMEM培地に再懸濁させ、かつ濃度を105個細胞/200μLに調整した。200uLの融合細胞を96ウェルプレートの各ウェルに入れ、37℃、5%CO2でインキュベートした。細胞の融合の14日間後、ハイブリドーマ上清液を収集してELISAおよびAcumen(マイクロプレート細胞試験)によって選別した。37℃、5%(v /v) CO2の条件において、10%(w/w)熱不活性化したFBSを含有するDMEMを含む24ウェルプレートで、ELISAではOD450nmが1.0超でAcumenではMFI値が100超のクローンを増幅した。3日間培養した後上清液を収集した。抗体のサブタイプを検出し、かつELISAおよびフローサイトメーター(実施例3を参照する)によって組換えPD-1ECDタンパク質およびPD-1陽性細胞に対する結合活性を検出した。受容体配位子結合試験によって、ハイブリドーマ上清液のブロッキング活性を確認した(実施例4~5を参照する)。
【0116】
24ウェルプレートの選別結果に基づき、ELISA結合試験ではOD450nm値が1.0超で、FACS結合試験ではMFI値が50超で受容体配位子結合試験では抑制率が60%超のクローンを選び、かつサブクローンした。37℃および5%(v/v)CO2の条件において、10%(v/v)FBSを含有するDMEM培地で96ウェルプレートにおいて有限希釈によってサブクローンした。10日間培養した後上清液を収集してELISAおよびAcumenによって初期選別を行った。陽性クローンを24ウェルプレートにおいて3日間増幅して培養した。上清液を収集した。ELISAおよびFACS結合試験によって結合活性を検出し、かつ受容体配位子結合試験によって生物活性を評価した。選択基準は、ELISAにおけるOD450nm>1.0で、FACSにおけるMFI値>50で、受容体配位子結合試験における抑制率>60%である。選択基準に合ったクローンを10%(w/w)FBSを含有するDMEM培地で37℃、5%(v/v)CO2の条件において増幅し、かつハイブリドーマ細胞がその後の抗体の生成と精製に使用できるように液体窒素で冷凍した。
【0117】
(工程5)リード候補抗体の生産と精製
ハイブリドーマ細胞由来の抗体の濃度が約1-10ug/mLと低く、かつ抗体の濃度が幅広く変わる。さらに、FBSおよび培地の成分は分析に干渉する可能性がある。そのため、小規模の抗体の生産と精製を行う必要がある(1~5 mg)。
【0118】
T-75培養瓶において、ハイブリドーマ無血清培地(Invitrogen)で実施例2におけるハイブリドーマ細胞を培養し(第4部分)、かつ3代継代した。ハイブリドーマ細胞が良い状態にある時、細胞を2L培養瓶に移した。各培養瓶に500mLの生産培地を入れ、かつ細胞密度を105個細胞/mLに調整した。培養瓶を37℃の回転インキュベーターに置き、回転数は3回/分であった。ハイブリドーマ細胞を14日間培養した後、上清液を収集して細胞を除去した。その後、0.45ミクロンのフィルターで上清液をろ過した。その後、培養上清液を精製に使用したか-30℃で保存した。
【0119】
ハイブリドーマ培養上清液に2 mLタンパク質Gカラム(GEヘルスケア)を通させることによってモノクローナル抗体を精製した。まず、PBS緩衝液(pH7.2)でタンパク質Gカラムを平衡化した後、ハイブリドーマ培養上清液を3mL/分の一定の流速で平衡化されたタンパク質Gカラムに仕込んだ。その後、4倍体積のPBS緩衝液でカラムを洗浄した。その後、溶離緩衝液(0.1M酢酸塩緩衝液、pH2.5)で抗PD-1抗体を溶離し、UV検出器によって溶離液のUV吸光度(A280紫外吸収ピーク)をモニタリングした。溶離液に10%の1.0M Tris-HCL緩衝液を入れることによってpHを中和し、サンプルを0.22ミクロンのフィルターによって無菌ろ過を行った。無菌ろ過された精製した抗PD-1抗体を得た。
【0120】
UV吸光度(A280/1.4)で精製した抗PD-1抗体の濃度を検出し、かつ純度および内毒素のレベルを検出した(Lonzaキット)。分析結果は表6に示す。精製した抗PD-1抗体の内毒素濃度は1.0EU/mg未満であった。
【0121】
【0122】
実施例3 リード候補抗体の特徴付け
(A部分)ELISAによる抗PD-1抗体と組換えPD-1ECD-hFcタンパク質の結合の検出
ELISAによって実施例2で選ばれた精製した抗PD-1抗体と組換えヒトPD-1ECD-hFcタンパク質、カニクイザルPD-1ECD-hFcタンパク質およびほかのPD-1ファミリー関連免疫チェックポイントタンパク質の結合を分析することによって、抗体の特異性を確認した。
【0123】
実施例2で選ばれた精製した免疫原A(hPD-1
ECD-hFcタンパク質)、カニクイザルPD-1
ECD-hFcタンパク質(免疫原Aを製造する方法で製造され(実施例2、工程1を参照する)、カニクイザルPD-1細胞外ドメインのアミノ酸配列を含み、UniprotデータベースのB0LAJ3タンパク質のLeu25-Gln167番目のアミノ酸に相応する)およびほかの免疫チェックポイントタンパク質(CD28、B7-1、ICOS、CTLA4およびNC-Fc)(R&D Systems)をPBSで1ug/mLに希釈した。100uLの希釈された組換えタンパク質を96ウェルプレートの各ウェルに入れた。プラスチック膜で当該プレートを密封し、4℃で一晩インキュベートした。洗浄緩衝液(PBS+0.01%(v/v)Tween20)でプレートを2回洗浄し、そしてブロッキング緩衝液(PBS+0.01%(v/v)Tween20+1%(w/w)BSA)で室温で2時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を吸い取り、各ウェルに100uLの精製した抗PD-1抗体を入れ、37℃で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液(PBS+0.01%(v/v)Tween20)でプレートを3回洗浄した。各ウェルにHRPで標識された二次抗体(Sigma)を入れ、37℃で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液でプレートを3回洗浄した後、100uLのTMB基質を各ウェルに入れ、室温で30分間インキュベートした。各ウェルに100uLの停止液(0.1N HCl)を入れ、反応を停止させた。ELISAプレートリーダー(384plus SpectraMax、Molecular Devices)によって450nmにおける吸光値を測定した。結果は
図4~6および表7~9に示す。IgG対照はヒトIgGであった。
【0124】
【0125】
【0126】
【0127】
(B部分)フローサイトメーターによる抗PD-1抗体とPD-1発現細胞の結合の検出
ヒトPD-1全長をコードする核酸配列を含むpIRESプラスミド(実施例2工程2)でCHO-K1細胞を安定して形質移入することによって、ヒトPD-1を安定して発現するCHO-K1細胞(本明細書でCHO-K1-hPD-1細胞という)を生成させた。カニクイザルPD-1全長をコードする核酸配列を含むpIRESプラスミドでもう一つのCHO-K1を安定して形質移入することによって、カニクイザルPD-1を安定して発現するCHO-K1細胞(本明細書でCHO-K1-cPD-1細胞という)を生成させた。CHO-K1-hPD-1およびCHO-K1-cPD-1細胞を培養し、T-75培養瓶において90%コンフルエンス(confluence)に増幅した。培地を吸い出し、HBSS(Hanks平衡塩溶液、Invitrogen)で細胞を2回洗浄した。無酵素細胞分解液(Versene溶液、Invitrogen)で細胞を処理して収集した。その後、HBSSで細胞を2回洗浄し、細胞計数を行い、かつHBSSで細胞を2×10
6個細胞/mLに再懸濁させた。細胞懸濁液に最終濃度が1%になるようにヤギ血清を入れ、細胞を氷の上で30分間ブロッキングした後、HBSSで2回洗浄した。遠心後細胞を収集し、FACS緩衝液(HBSS+1%BSA、v/v)で2×10
6個細胞/mLに再懸濁させた。その後100uLの細胞懸濁液を96ウェルプレートの各ウェルに入れた。100uLの実施例2で得られた精製した抗PD-1抗体を96ウェルプレートの各ウェルに入れ、氷の上で2時間インキュベートした。細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、かつ100uLのAlexa 488で標識された二次抗体(Invitrogen)を96ウェルプレートに入れ、氷の上で1時間インキュベートした。FACS緩衝液でサンプルを3回洗浄し、各ウェルに100uLの固定緩衝液(4%パラホルムアルデヒド、v/v)を入れ、10分間インキュベート。その後、FACS緩衝液で細胞を2回洗浄し、かつ100μLのFACS緩衝液に再懸濁させた。FACS Calibur(BD)によって平均蛍光強度(MFI)を検出し、結果は
図7~8および表10~11に示す。IgG対照はヒトIgGで、表中の値は細胞群の平均蛍光強度。
【0128】
【0129】
【0130】
(C部分)抗PD-1抗体の結合親和力と解離定数
解離定数はOcted red 96(Fortiebio)によって測定された。詳細な操作および方法はメーカーによって提供される装置説明書に従って行われる。つまり、ストレプトアビジンセンサー(SAセンサー、Fortiebio)によって親和力の測定を行った。ビオチン化されたPD-1ECD-hFc(免疫原A)を0.1%(w/w)BSAおよび0.02%(v/v)Tween20を含有するPBS緩衝液(pH7.4)で10ug/mLに希釈し、かつストレプトアビジンセンサーでインキュベートした。5種類の異なる濃度の抗PD-1抗体を免疫原Aを担持するストレプトアビジンセンサーと30℃で3分間インキュベートした。さらに反応混合物を0.1%(v/w)BSAおよび0.02%(v/v)Tween20を含有するPBS緩衝液(pH7.4)で30℃で5分間インキュベートした。Octet Red 96によってリアルタイムで抗PD-1抗体と免疫原Aの結合と解離シグナルを記録した。Octet Userソフトによって親和力、結合定数および解離定数を確認し、結果を表12に示す。
【0131】
【0132】
実施例4 抗PD-1抗体のPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断する能力の測定
タンパク質および細胞に基づいた受容体配位子結合試験によって、抗PD-1抗体のPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断する能力を検出した。
【0133】
実施例2におけるビオチン化された組換えPD-1ECD-hFcの製造のように、ビオチン化された組換えPD-L1ECDおよびPD-L2ECDタンパク質を製造した。PD-L1の細胞外ドメインはUniprotデータベースのQ9NZQ7.1タンパク質のPhe19-THr239番目のアミノ酸に、PD-L2の細胞外ドメインはUniprotデータベースのQ9BQ51タンパク質のLeu20-Pro219番目のアミノ酸に相応する。
【0134】
PBSで精製されたPD-1
ECD-hFc(実施例2)を最終濃度が1.0ug/mLになるまで希釈し、100uLの希釈されたPD-1
ECD-hFcを96ウェルプレートの各ウェルに入れた後、プラスチック膜で封じ、4℃で一晩インキュベートした。洗浄緩衝液(PBS+0.01%(v/v)Tween20)でプレートを2回洗浄し、そしてブロッキング緩衝液(PBS+0.01%(v/v)BSA+1%Tween20(w/w))で室温で2時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液を吸い出し、50uLの実施例2で得られた精製した抗PD-1抗体を96ウェルプレートの各ウェルに入れた。各ウェルに100uLのビオチン化された組換えPD-L1
ECDまたはPD-L2
ECDタンパク質を入れ、混合し、37℃で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液(PBS+0.01%(v/v)Tween20)でプレートを3回洗浄した。その後、各ウェルに100uLのHRPで標識されたストレプトアビジン(Sigma)を入れ、37℃で2時間インキュベートした。その後、洗浄緩衝液でプレートを3回洗浄し、かつ100uLのTMB基質を各ウェルに入れた。室温で30分間インキュベートした後、100uLの停止液(0.1N HCl)を入れて反応を停止させた。ELISAプレートリーダー(384plus SpectraMax、Molecular Devices)によってOD450nmにおける吸光値を検出した。
図9~10に示された結果から、抗PD-1抗体がPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断することができることが示された。
【0135】
T-75培養瓶において、CHO-K1-hPD-1細胞を培養して60~80%コンフルエンスに増幅した。培地を吸い出し、かつPBSで細胞を2回洗浄した。TrypLE TM Express(Invitrogen)で細胞を処理して収集した。8mLの培地を入れてトリプターゼを中和し、細胞計数を行った。細胞を300gで5分間遠心し、かつ1×10
6個細胞/mLでブロッキング緩衝液に再懸濁させた。細胞を37℃で15分間ブロッキングした。同時に、96ウェル丸底プレートのウェルを200uLのブロッキング緩衝液で37℃で1時間ブロッキングした。ブロッキング緩衝液を捨て、かつ200uLの細胞を96ウェルプレートの各ウェル(2×10
5個細胞/ウェル)に分けた。プレートを500gで5分間遠心し、上清液を捨てた。細胞を100uLの予めブロッキング緩衝液において製造した抗体に再懸濁させた。100uLのビオチン化されたPD-L1-Fcまたはビオチン化されたPD-L2-Fc(ブロッキング緩衝において、60ug/mL)を96ウェルプレートの各ウェルに入れ、軽く振とうして混合した。プレートを4℃で90分間インキュベートし、かつ200uLのブロッキング緩衝液で2回洗浄した。ブロッキング緩衝液を捨て、細胞を100uLのストレプトアビジン-Alexa 488溶液(ブロッキング緩衝液において、1:500、Invitrogen)に再懸濁させ、4℃で1時間インキュベートした。ブロッキング緩衝液でプレートを3回洗浄し、かつ200uLのブロッキング緩衝液に再懸濁させた。FACS Calibur(BD)によって平均蛍光強度(MFI)を検出した。
図11~12に示された結果から、抗PD-1抗体が細胞によって発現されたPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断することができることが示された。
【0136】
実施例5 リンパ球刺激試験による抗PD-1抗体のPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合を遮断する能力の検出
(A)T細胞刺激試験を行い、抗PD-1抗体のPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合に対する遮断によるT細胞刺激に対する影響を検出した。
【0137】
(工程1)Ficoll勾配によって全血から末梢血単核球(PBMC)を分離した。
全血をPBSで1:1(v/v)の比率で希釈し、無菌ピペットで慎重にFicoll溶液(GE Healthcare)の上に入れた。Ficollと希釈された全血の体積比は3:4であった。サンプルを20℃、400gで30分間遠心した。遠心したら3層の溶液になり、上層は血漿で、中間の乳白色の層は単核球であった。無菌ピペットで中間層から単核球を収集してそれを新しい遠心管に移した。サンプルの3倍体積のPBSを入れ、サンプルを室温で100gで10分間遠心した。上清液を捨て、10mL PBS緩衝液でリンパ球を再懸濁させた。PBSでリンパ球を3回洗浄することによって血小板を除去した。その後10mLの10%FBSを含有するRPMI1640培地(Invitrogen)でリンパ球を再懸濁させた。
【0138】
(工程2)PBMC刺激実験
PD-L1ヌクレオチド配列をpIRESプラスミド(pIRES-puro-PD-L1)にサブクローンすることによって、PD-L1全長タンパク質をコードする構築体を生成させた。抗CD3抗体(OKT3)(Kipriyanovら、1997、Peds. 10:445-453)を細胞表面にアンカーさせ、OKT3 scFvをマウスCD8a(NCBI登録番号:NP-1074579.1、113-220番目のアミノ酸)のC末端に融合させ、かつpIRES-OS8(SambrookおよびRussell,Id.)にサブクローンした。実施例2における製造方法に従い、pIRES-puro-PD-L1およびpIRES-OS8をCHO-K1および293F細胞に共形質移入させることによって、安定したCHO-K1-PD-L1/OS8および293F-PD-L1/OS8細胞系を生成させた。当該細胞でT細胞を刺激した。実験前、10ug/mLのマイトマイシンで37℃でCHO-K1-PD-L1/OS8および293F-PD-L1/OS8細胞を3時間処理した。
【0139】
96ウェルプレートのウェルに100μLのPBMC(5×104個細胞含有)を入れた後、テスト抗体溶液を96ウェルプレートに入れ、室温で15分間インキュベートした。各ウェルに50uLの5×103 CHO-K1-PD-L1/OS8または293F-PD-L1/OS8を入れ、37℃、5%CO2で72時間培養した。上清液を収集し、かつ分析前に収集して-20℃で保存した。
【0140】
(工程3)ELISAによるインターフェロンγ(IFN-γ)またはインターロイキンIL-2の分泌の検出
それぞれヒトIFN-γ Quantikine ELISAキット(R& D Systems SIF50)およびヒトIL-2 Quantikine ELISAキットD2050(R& D Systems S2050)によって、メーカーによって提供された操作説明書およびキット試薬で、培養上清液におけるIFN-γまたはIL-レベルを定量した。つまり、IFN-γおよびIL-2ポリクローナル抗体をELISAマイクロプレートに被覆させ、各ウェルに400uLの培養上清液および標準品を入れ、室温で2時間インキュベートした。洗浄緩衝液で4回プレートを洗浄した後、HRPで標識された抗ヒトIFN-γおよびIL-2抗体を入れ、室温で2時間インキュベートした。洗浄後、呈色基質を入れ、室温で光を避けて30分間インキュベートし、停止液を入れて反応を停止させた。ELISAプレートリーダーによって450nmにおける吸光度を測定し、
図13および表13に示された結果から、PBMCリンパ球刺激実験で分析された抗PD-1抗体がIFN-γ分泌を増強させることができることわかる。IgG対照はヒトIgGで、表に示された値は培養上清液におけるIFN-γ濃度(pg/mL)である。
【0141】
【0142】
(B)混合リンパ球反応を行い、抗PD-1抗体のPD-1とその配位子であるPD-L1およびPD-L2の結合に対する遮断によるT細胞刺激に対する影響を検出した。
(工程1)ヒトCD14+細胞からの樹状細胞の分離と培養
メーカーによって提供された説明書に従い、FicollPaque Plus(GEヘルスケア)によって全血からPBMCを分離した。当該方案は実施例5A工程1の記載と同様である。
【0143】
PBMCを10%FBSを含有するRPMI 1640完全培地に再懸濁させ、細胞濃度を1×105個細胞/mLに調整した。細胞を37℃、5%(v/v)CO2のT-75培養瓶において2時間培養した。培養上清液および付着していない細胞を新しいT-75培養瓶に移し、元のT-75培養瓶に新しいRPMI 1640完全培地(10%FBSが補充してある)を補充し、37℃ 5%(v/v)CO2で2時間インキュベートした。培養上清液および付着していない細胞を捨て、壁付着細胞に10%FBSを含有するRPMI 1640完全培地を補充し、37℃ 5%(v/v)CO2の条件で18時間培養した。培養上清液および付着していない細胞を捨て、壁付着細胞に500U/mLの組換えヒトGM-CSF(PEPROTECH)および500U/mLの組換えヒトインターロイキンIL-4(PEPROTECH)を添加したRPMI 1640完全培地を補充し、4日間培養した。4日間後、培地にGM-CSFおよびIL-4を添加したRPMI 1640完全培地を補充し、さらに細胞を2日間培養した。その後1ug/mL LPSを含有するRPMI 1640完全培地で当該培地を置換し、18時間インキュベートした。その後EDTAを含有するPBSを入れて300gで5分間遠心し、樹状細胞を収集した。上清液を吸い出し、さらにPBSで細胞を1回洗浄した。収集されたヒトCD14+樹状細胞をRPMI 1640完全培地に再懸濁させ、細胞計数を行った。
【0144】
(工程2)ヒトCD4+ T細胞の分離と精製
メーカーによって提供された説明書に従い、MagCellectTMヒトCD4+ T細胞分離キット(R& D Systems)によって、PBMCからヒトCD4+ T細胞を分離・精製した。
【0145】
(工程3)混合リンパ球反応
異なる健康なボランティア由来の精製されたCD4+細胞を樹状細胞と96ウェルプレートにおいて共培養した。細胞密度を105個細胞/80uLに調整した。105個の精製されたCD4+ T細胞および2×104個の樹状細胞を96ウェルプレートの各ウェルに入れ、実施例2で得られた精製した抗PD-1抗体をプレートの相応するウェルに入れ、かつプレートを37℃ 5%CO2のインキュベーターで6日間インキュベートした。上清液を収集し、サイトカインのレベルを測定した。
【0146】
(工程4)ELISAによる上清液におけるIFN-γおよびIL-2のレベルの検出
それぞれヒトIFN-γ Quantikine ELISAキット(R& D Systems SIF50)およびヒトIL-2 Quantikine ELISAキットD2050(R& D Systems S2050)によって、メーカーによって提供された操作説明書およびキット試薬で、前記工程で収集された上清液におけるIFN-γまたはIL-レベルを定量した。
【0147】
IL-2の結果は
図14~15および表14~15に示し、IL-2レベルが抗PD-1抗体濃度につれて増加することが示された。IgG対照はヒトIgGで、表14~15に示された値は培養上清液におけるIL-2の濃度(pg/mL)である。PBMC供与体-1およびPBMC供与体-2は献血者IDを指す。
【0148】
【0149】
【0150】
IFN-γの結果は
図16~21および表16~19に示し、IFN-γレベルが抗PD-1抗体濃度につれて増加することが示された。IgG対照はヒトIgGで、表16~19に示された値は培養上清液におけるIFN-γ濃度(pg/mL)である。PBMC供与体-1およびPBMC供与体-2は献血者IDを指す。
【0151】
【0152】
【0153】
【0154】
【0155】
実施例6 抗PD-1抗体可変領域におけるアミノ酸配列の同定
全RNAの分離:実施例2で得られたハイブリドーマクローンの上清液を特徴付けた(すなわち生物活性の検証と測定、実施例3~5)後、遠心して5×107個のハイブリドーマ細胞を収集した。1mLのTrizolを細胞の沈殿に入れ、混合して1.5mL遠心管に移し、室温で5分間インキュベートした。サンプルに0.2mLのクロロホルムを入れ、15秒ボルテックスした。2分間置いた後、混合物を4℃、12000gで5分間遠心した。上清液を収集し、新しい1.5mL遠心管に移し、0.5mLのイソプロパノールを入れ、軽く混合し、サンプルを室温で10分間インキュベートした。サンプルを4℃、12000gで15分間遠心した。上清液を吸い出し、沈殿物を1mLの75%(v/v)エタノールで洗浄した。混合物を4℃、12000gで5分間遠心し、上清液を捨て、沈殿物を自然乾燥した。沈殿物にDEPCで処理された水(55℃水浴10分間)を入れ、全RNAを得た。
【0156】
逆転写とPCR:1ugのRNAおよび逆転写酵素を最終体積が20uLの反応混合物に入れ、混合物を42℃で60分間インキュベートした後、70℃で10分間インキュベートすることで反応を停止させた。1uL cDNA、25 pmol各プライマー、1uL DNAポリメラーゼ、250umol dNTPsおよび緩衝系を含む50uLのPCR反応混合物を調製した。PCRプログラムは以下の通りに設定された。95℃で3分間変性させ、35サイクルの変性(95℃30秒)、アニーリング(55℃30秒)および伸長(72℃35秒)の後、72℃で最後に5分間伸長させることによって、PCR産物を得た。使用された市販の逆転写キットはPrimeScript RT Master Mix(Takara,RR036)で、市販のQ5ハイフィデリティーポリメラーゼPCRキットはNEB(M0492)からのものであった。
【0157】
クローンと配列決定:アガロースゲル電気泳動によって5uLのPCR産物を検出し、NucleoSpin Gel& PCR精製キット(MACHEREY-NAGEL、740609)によってアガロースゲルからサンプルを回収した。連結反応:50ngのサンプルに50ngのTベクター、0.5uLのリガーゼおよび1uLの緩衝液を入れ、水で最終体積が10uLになるように調整した。T4 DNAリガーゼ(NEB,M0402)で反応混合物を16℃で30分間インキュベートした。氷の上で5分間インキュベートされた100uLの感受性細胞(Ecos 101感受性細胞、Yeastern、FYE607)に5uLの連結産物を入れ、42℃で1分間熱ショックさせ、さらに氷の上で1分間インキュベートした。650uLの抗生物質を含まないSOC培地を入れて細胞を回収し、振とうしてインキュベーターにおいて37℃、200rpmで30分間インキュベートした。200uLの各細菌培養物を抗生物質を含有するLB寒天プレートに塗布し、37℃で一晩置いた。翌日に、TベクターのプライマーであるM13FおよびM13RでPCR反応を行った。ピペットチップで細菌集落を取ってPCR反応混合物に浸漬させ、上下に吸い取った。半分の反応混合物を100nMアンピシリンを含有するLB寒天プレートに移した。PCR反応終了後、5uLのPCR産物を取ってアガロースゲル電気泳動によって検出し、陽性サンプルを配列決定分析に付した(Kabat、1991、「目標タンパク質配列」、NIH、Bethesda、MD)。配列決定の結果は表1~2に示す。
【0158】
実施例7 全ヒト抗PD-1抗体の形質転換、発現および精製
(工程1)プラスミドの構築と製造:実施例6で得られた抗PD-1抗体の重鎖と軽鎖可変領域の配列。抗PD-1抗体の重鎖可変領域の配列をシグナルペプチドおよびヒト重鎖IgG4定常領域(S228P突然変異がある)を含有する発現ベクターにサブクローンした。抗PD-1抗体の軽鎖可変領域の配列をシグナルペプチドおよびヒト抗体の軽鎖κ定常領域を含有する発現ベクターにサブクローンした。配列決定によって組換えプラスミドを検証・確認した(配列決定方法は実施例6と同様である)。キット(MACHEREY-NAGEL)によってアルカリ溶解を行うことによって、組換えプラスミドの純度と質量を向上させ、かつ0.22uMフィルター(Millpore)でプラスミドをろ過した。精製されたプラスミドを形質移入に使用した。
【0159】
(工程2)形質移入:37℃、130RPM、8%CO2(v/v)の条件において、FreeStyle 293培地(Invitrogen)でHEK293E細胞(Invitrogen)を培養した。HEK293E細胞の細胞密度を1~1.5x10 6/mLに調整し、形質移入に使用した。10%(v/v)F68(Invitrogen)をFreeStyle 293培地に入れ、最終濃度が0.1%(v/v)で、培地Aとした。5mLの培地Aを200ug/mL PEI(Sigma)と混合することによって、培地Bを生成させた。5mLの培地Aを100ug/mL 工程1で得られた組換えプラスミドと混合することによって、培地Cを生成させた。5分間インキュベートした後、培地Bと培地Cを混合して15分間インキュベートすることによって、混合物Dを生成させた。10mLの混合物Dをゆっくり100mLのHEK293E細胞に入れ、PEIが局部に集中しないように連続に撹拌した。HEK293E細胞を振とうして一晩インキュベートした。翌日に、最終濃度が0.5%(w/v)になるようにペプトンを入れた。約5~7日目に、抗体の力価を検出した。約6~7日目に、HEK293E培養物を遠心し(30分間、3500RPM)、上清液を収集して0.22uMフィルターでろ過することによって精製した。
【0160】
(抗体3)抗体の精製:タンパク質Aカラム(GE)を0.1M NaOHで30分間洗浄したか、5倍ベッド体積の0.5M NaOHで内毒素を溶離させた。長時間に使用されていないカラムは1M NaOHで少なくとも1時間浸漬し、内毒素を含まない水で中性pHまで洗浄し、かつ10倍ベッド体積の1%Triton×100で洗浄した。その後、5倍ベッド体積のPBS(PBSリン酸塩緩衝液、pH7.2)でカラムを平衡化した。工程2で得られたろ過上清液をカラムにかけ、必要によって流出物を収集した。5倍ベッド体積のPBSでカラムを洗浄した後、5倍ベッド体積の0.1Mグリシン-HCl pH3.0で溶離させた。0.5倍ベッド体積の1M Tris-HCl(NaCl 1.5M)pH8.5で抗PD-1抗体を含有する溶離液を中和した。内毒素の汚染を避けるように、ヒト抗PD-1抗体を1×PBSで4時間透析した。透析後、分光光度法またはキットによって抗PD-1抗体の濃度を測定し、HPLC-SECによって抗体の純度を測定し、内毒素検出キット(Lonza)によって内毒素の含有量を測定した。全ヒト抗PD-1抗体を特徴付け、結果は
図22~41および表20~25に示す。
【0161】
【0162】
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
実施例8 Biacoreによる結合と解離定数の検出
抗ヒトFc IgGの流動セル1と2への固定化:HBS-EP+(10mM HEPES、150mM NaCl、3mM EDTA、0.05%P2O、pH 7.4)を流動緩衝液として使用し、かつ固定化指南で抗ヒトFc IgGの固定化を行った。新しく混合された50mmol/L NHSと200mmol/L EDCでSシリーズCM5センサーチップの流動セル1と2を活性化させた。10mM NaAC(pH4.5)に希釈された20μg/mLの抗ヒトFc IgGを活性化された流動セル1と2に注射した。残った活性カップリング部位を1Mエタノールアミンでブロッキングした。
【0168】
組換えHisで標識されたhPD-1 ECDタンパク質を50nMに希釈した後、HBS-EP +緩衝液で2倍の連続希釈を4回行った。His-標識のhPD-1 ECDタンパク質の濃度は0nM、3.125nM、6.25nM、12.5nM、25nMおよび50nMであった。HBS-EP+を流動緩衝液として使用してKDの測定を行った。各抗体を10uL/minの流速でCM5センサーの流動セル2に注射することによって、230RU応答をさせた。その後、製造されたHis-標識のhPD-1ECDタンパク質を30uL/minの流速で流動セル1と2に注射し、180秒持続した。緩衝液の流動を400秒維持して(30uL/min)解離の測定に使用した。表面からテストされる抗体を除去するため、pH 1.5の10mMグリシン-HClを20秒(30uL/min)で注射した。流動セル1を参照流動セルとして使用した。連続に希釈された各濃度のHis-標識のPD-1ECDタンパク質に対し、上記工程を繰り返した。Biacore T200評価ソフト1.0によって各抗体のKD値を評価し、1:1結合モデルでデータをフィットした。結果は表25に示す。
【0169】
実施例9 ADCCとCDCのエフェクター機能分析
推測された全ヒト抗PD-1抗体のエフェクター機能の欠失を実証するために、抗体依存性細胞傷害(ADCC)試験および補体依存性細胞傷害(CDC)試験を行った。
【0170】
ADCC試験に対し、ADCC培地(フェノールレッド無し)でPD-1を発現するJurkat T細胞サンプルの濃度を12.5×10
4個細胞/mLに調整した。40uLの細胞懸濁液(1×10
4個生存細胞)をV底96ウェルプレートの各ウェルに入れた。ADCC培地(フェノールレッド無し)で20uLの抗体を連続に希釈し、同じものに3つずつ各ウェルに入れた。最終の抗体濃度は、1.4ng/mL、4.1ng/mL、12.3ng/mL、0.037ug/mL、0.111ug/mL、0.333ug/mLおよび1ug/mLであった。プレートを22~25℃で30分インキュベートした。ADCC培地(フェノールレッド無し)で安定してFcγRIII58Vを形質移入したNK92細胞を調整することによって、標的細胞に40μLの安定してFcγRIII58Vを形質移入したNK92細胞を入れることによって、エフェクター細胞と標的細胞の比が1:1になるようにした。その後プレートを37℃で4時間インキュベートした。4時間インキュベートした後、各ウェルに100uLのCytoTox 96キット(Promega)からの基質を入れた。細胞分解の最大放出量の対照として100uLのCytoTox 96キットからの基質の加入の10分間前に、2uLの分解液(CytoTox-ONETMキット、Promega)を入れた。プレートを室温で10分間インキュベートした後、各ウェルに50uLの停止液を入れ、30秒混合した。560/590nmにおける吸光度を測定し、GraphPad Prism 5.0で1%分解値を計算した。
図37に示された結果から、抗-HLA抗体はPD-1を発現するJurkatT細胞においてADCCを誘導したが、全ヒト抗PD-1抗体はPD-1を発現するJurkat T細胞にADCC作用がなかったことが示された。
【0171】
CDC試験に関し、PBMCを回収してCD4+ T細胞分離キット(Stemcell、No.19052)によってCD4+ T細胞を分離した。CD4+細胞を抗CD3抗体(クローン:OKT3)とともに48時間インキュベートすることによって、PD-1の発現を誘導した。細胞を収集し、細胞培地で細胞濃度を1.25×10
6個細胞/mLに調整した。白い平底96ウェルプレートに40uL/ウェルの細胞を入れた。各ウェルに40μL/ウェルの全ヒト抗PD-1抗体を入れ、CDC培地で連続に希釈し、同じものに2つずつ各ウェルに入れた。最終の抗体濃度は、0ng/mL、16ng/mL、80ng/mL、0.4ug/mL、2ug/mLおよび10ug/mLであった。プレートをドラフトチャンバーで30分インキュベートした。市販の精製ヒト補体(Quidel、cat # 042637)を20uL/ウェルで細胞を含有するウェルに最終濃度が20%になるように入れた。プレートを37℃で20時間インキュベートした。メーカーによって提供されたプロトコールに従い、Celltiter-glo細胞活力発光キット(Promega、No.G7573)によって細胞の活力を検出した。プレートをマイクロプレートシェーカーで200の速度で2分間振とうした後、室温で10分間インキュベートした。Envisionによって発光シグナルを読み取った。データ分析を行うために、GraphPad Prism 5.0によって細胞毒性%を計算した。
図38に示された結果から、抗HLA抗体は活性化したCD4+ T細胞においてCDCを誘導したが、全ヒト抗PD-1抗体は活性化したCD4+ T細胞にCDC作用がなかったことが示された。
【0172】
実施例10 示差走査熱量測定法(DSC)による抗体熱安定性の検出
サンプル緩衝液で全ヒト抗PD-1抗体を1mg/mLに調整し、最終体積は約700uLであった。パラメーターは以下の通りに設定した(VP-DSC)。開始温度30℃、最終温度100℃、走査速度50℃/時間で、再走査回数は0で、プレスキャン(prescan)は恒温で3分間で、ポストスキャン(PostScan)は恒温で0分間で、後サイクルは恒温25℃で、ろ過時間は25秒で、フィードバックモード/ゲインは無しで、流動セルのリセットパラメーターは35℃であった。得られたタンパク質-緩衝液の熱分析図の結果は、相応する緩衝液-緩衝液走査値を引くことによって、ベースラインをトレースラインにフィットした。Origin TM 7.0ソフトによって熱分析図において観察された各ピークの最大値におけるTmsを記録した。結果を
図39に示す。
【0173】
実施例11 抗体の凍結・解凍安定性
全ヒト抗PD-1抗体の凍結・解凍安定性は以下のように特徴付けられた。100uLの各抗PD-1抗体の少量の冷凍原液を室温で解凍した。完全に解凍すると、サンプルを-80℃の冷蔵庫で快速に冷凍し、かつ-80℃で少なくとも2時間維持した後、さらに室温で解凍した。サンプルに対して同様の冷凍/解凍のサイクルを3回行った。目視で沈殿の状況をチェックした。3回の冷凍/解凍のサイクル後、サンプルから20uLの少量試料を取ってサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)分析を行った。HPLC-SECによって特徴付け、冷凍/解凍のサイクルの前と後の全ヒト抗PD-1抗体の安定性を分析した。
図38に示された結果から、3回の冷凍/解凍のサイクル後、単量体のIgGはテストされた各抗PD-1抗体の95%以上を占めたことが示された。
【0174】
実施例12 抗体の溶解度
4℃において、10mgのIgGを14000gの遠心ろ過器(Amicon Ultra-0.5mL 30K)で>100mg/mLまで濃縮することによって、全ヒト抗PD-1抗体の溶解度を特徴付た。2mLまたはそれ以上のIgGを遠心ろ過器に入れ、4℃で14000gで濃縮させた。遠心の設定時間は2 min、3 min、5 min、8 min、15 minおよび20 min、毎回に20uL分けて収集管に入れ、分光光度計によってA280において濃度を検出した。濃度が100mg/mLに達した時、遠心を止めた。HPLC-SECの特徴付けに関し、6uLの濃縮サンプルをHPLC-SECカラムに注射し、ピーク面積に基づいて単量体および多量体の百分率を確認した。
図41に示された結果から、テストされたすべての全ヒト抗PD-1抗体が100mg/mL超の溶解度を有し、かつテストされたすべての全ヒト抗PD-1抗体に対して単量体IgGが95%超であったことが示された。
【0175】
本発明を詳しく説明する場合、その具体的な実施形態を参照し、本発明の主旨と範囲を逸脱しない限り、様々な変更や修飾を加えることができることは、当業者にとって明らかである。
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