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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】光通信システムの測定装置
(51)【国際特許分類】
   H04B 10/077 20130101AFI20220301BHJP
【FI】
H04B10/077 150
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019026482
(22)【出願日】2019-02-18
(65)【公開番号】P2020136854
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】特許業務法人大塚国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【弁理士】
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100131886
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 隆志
(74)【代理人】
【識別番号】100170667
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 浩次
(72)【発明者】
【氏名】多賀 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】釣谷 剛宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英憲
【審査官】安藤 一道
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-234701(JP,A)
【文献】特開2008-041928(JP,A)
【文献】特開2011-024189(JP,A)
【文献】特開2003-166904(JP,A)
【文献】特開2017-011506(JP,A)
【文献】特開2002-353891(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00849893(EP,A2)
【文献】特開2020-28089(JP,A)
【文献】POGGIOLINI, Pierluigi,The GN Model of Non-Linear Propagation in Uncompensated Coherent Optical Systems,Journal of Lightwave Technology,Volume: 30, Issue: 24,IEEE,2012年09月,pp.3857-3879
【文献】Kyo Inoue,Experimental Study on Channel Crosstalk Due to Fiber Four-Wave Mixing Around the Zero-Dispersion Wavelength,Journal of Lightwave Technology,volume 12,Issue 6,IEEE,1994年,pp.1023-1028
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 10/077
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数間隔のn+1個(nは4以上の整数)の周波数の内の、対象周波数を除くn個の周波数の光信号を生成して、測定対象の光伝送路に出力する出力手段と、
前記光伝送路が出力する、前記n個の周波数の光信号の四光波混合により前記光伝送路で生じる前記対象周波数の光信号のパワーを測定する測定手段と、
前記対象周波数の光信号のパワーに調整値を乗ずることで、前記光伝送路で生じる非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を判定する判定手段と、
を備え
前記判定手段は、周波数と調整係数との関係を示す係数情報を保持しており、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数に基づく値であることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記対象周波数の前記光伝送路における利得は、前記光伝送路の伝送帯域に渡る利得の平均値を含む所定範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記対象周波数の前記光伝送路における利得は、前記光伝送路の伝送帯域に渡る利得の最大値であることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記光伝送路のスパン数に基づきスパン数補正値を求め、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数を、少なくとも前記スパン数補正値を使用して補正した値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記光伝送路のスパン長の平均値に基づきスパン長補正値を求め、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数を、少なくとも前記スパン長補正値を使用して補正した値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記光伝送路の波長分散に基づき波長分散補正値を求め、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数を、少なくとも前記波長分散補正値を使用して補正した値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記光伝送路の分散スロープ及び前記光伝送路の各スパンの分散スロープの分散又は標準偏差に基づき分散スロープ補正値を求め、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数を、少なくとも前記分散スロープ補正値を使用して補正した値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項8】
前記判定手段は、複数のスパン長の平均値それぞれに対応する複数の前記係数情報を保持しており、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記光伝送路のスパン長の平均値に基づき複数の前記係数情報から選択された前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数に基づく値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項9】
前記判定手段は、複数の波長分散それぞれに対応する複数の前記係数情報を保持しており、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記光伝送路の分散に基づき複数の前記係数情報から選択された前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数に基づく値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項10】
前記判定手段は、分散スロープと、分散スロープの分散又は標準偏差との組み合わせそれぞれに対応する複数の前記係数情報を保持しており、
前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記光伝送路の分散と、前記光伝送路の各スパンの分散スロープの分散又は標準偏差との組み合わせに基づき複数の前記係数情報から選択された前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数に基づく値であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項11】
前記nは50以上の整数であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項12】
前記nは100以上の整数であることを特徴とする請求項1から10のいずれか1項に記載の測定装置。
【請求項13】
前記判定手段は、前記光伝送路で生じる非線形干渉雑音のパワースペクトル密度に基づき前記光伝送路の汎用光信号対雑音比をさらに判定することを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光通信システムの品質測定技術に関し、より詳しくは、光通信システムの汎用光信号対雑音比(G-OSNR)の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
光通信システムにおいて、光増幅器は光雑音を発生する。したがって、光通信システムの品質を評価するパラメータの1つとして、光信号対雑音比(OSNR)が使用されている。また、光通信システムにおいては、その線形光学特性及び非線形光学特性に基づく光信号の品質劣化が生じる。なお、波長分散に代表される線形光学特性については、現在、電気的に補償する種々の技術が確立されており、光通信システムのパフォーマンスを劣化させる主要因ではなくなっている。一方、自己位相変調等の非線形光学特性に対しては、現在においても効果的な補償技術が確立されておらず、光通信システムのパフォーマンスを劣化させる主要因となっている。
【0003】
非特許文献1は、非線形光学特性による光信号の品質劣化を非線形干渉雑音として定量化することを開示している。また、非特許文献2は、光雑音及び定量化した非線形干渉雑音を考慮した光通信システムの品質評価パラメータである汎用光信号対雑音比(G-OSNR)を提案している。具体的には、光信号、光雑音及び非線形干渉雑音のパワーを、それぞれ、PCH、PASE及びPNLとすると、G-OSNRは、PCH/(PASE+PNL)で求められる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】P.Poggiolini,et.al.,"The GN-Model of Fiber Non-Linear Propagation and its Applications",JLT-32,no.4,pp.694-721,2014年2月15日
【文献】Mateo,et.al.,SubOptic 2016,Paper Th1A.1,2016年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1は、GNRF(Gaussian Noise Reference Formula)と呼ばれる計算式を用いて非線形干渉雑音量を求めることを提案している。具体的には、周波数fにおける非線形干渉雑音のパワースペクトル密度GNLI(f)を、以下の式(1)で求めることを提案している。
【0006】
【数1】
(1)
【0007】
なお、上記式(1)の各変数は、対象とする光通信システムの損失、波長分散、分散スロープといった、種々のパラメータであるが、その詳細については非特許文献1に記載されているためここでは省略する。非特許文献1は、光通信システムの種々のパラメータ等に基づき非常に複雑な2重積分の計算を行うことで非線形干渉雑音のパワースペクトル密度GNLI(f)を理論的に求めることを開示している。しかしながら、非特許文献1は、非線形干渉雑音のパワースペクトル密度GNLI(f)を測定する具体的な方法については開示していない。
【0008】
本発明は、非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を測定できる測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によると、測定装置は、所定の周波数間隔のn+1個(nは4以上の整数)の周波数の内の、対象周波数を除くn個の周波数の光信号を生成して、測定対象の光伝送路に出力する出力手段と、前記光伝送路が出力する、前記n個の周波数の光信号の四光波混合により前記光伝送路で生じる前記対象周波数の光信号のパワーを測定する測定手段と、前記対象周波数の光信号のパワーに調整値を乗ずることで、前記光伝送路で生じる非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を判定する判定手段と、を備え、前記判定手段は、周波数と調整係数との関係を示す係数情報を保持しており、前記対象周波数の光信号のパワーに乗じる前記調整値は、前記係数情報が示す前記対象周波数の調整係数に基づく値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態による測定装置の構成図。
図2】一実施形態による測定装置が出力する光信号の周波数の関係を示す図。
図3】一実施形態による係数情報を示す図。
図4】一実施形態による係数情報を生成するためのモデルを示す図。
図5】一実施形態による測定装置が出力する光信号の周波数の関係を示す図。
図6】一実施形態による測定装置の送信側の構成図。
図7】周波数間隔Δfと周波数ftの光信号のパワーの偏差との関係の一例を示す図。
図8】光信号数nと周波数ftの光信号のパワーの偏差との関係の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものでなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴うち二つ以上の特徴が任意に組み合わされてもよい。また、同一若しくは同様の構成には同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
本発明者は、GNLI(f)を求める上記式(1)の内、絶対値を求める部分が、3つの周波数f1、f2及びf3=f1+f2-fの非縮退四光波混合により生じる周波数fの光信号のパワーに相当し、よって、非縮退四光波混合により生じる周波数fの光信号のパワーを測定し、測定したパワーに適切な調整値を乗ずることで、非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を求めることができることを見出し、本発明に至った。なお、3つの周波数f1、f2及びf3=f1+f2-fの非縮退四光波混合により生じる周波数fの光信号のパワーは、理論的には以下の式(2)で求めることができる。
【0014】
【数2】
【0015】
なお、上記式(2)の各パラメータは、式(1)と同様である。
【0016】
<第一実施形態>
図1は、本実施形態による測定装置の構成図である、測定装置は、3つの光源部11~13と、多重部2と、光パワー測定部3と、演算部4と、を有し、光通信システム(光伝送路)80の非線形干渉雑音のパワースペクトル密度を測定する。また、測定した非線形干渉雑音のパワースペクトル密度に基づき非線形干渉雑音量を求め、さらに、G-OSNRを求める様に構成することもできる。
【0017】
光源部11は、周波数f1の光信号を生成して多重部2に出力し、光源部12は、周波数f2の光信号を生成して多重部2に出力し、光源部13は、周波数f3の光信号を生成して多重部3に出力する。なお、非縮退四光波混合により周波数ftの光信号を生じさせるため、光源部11から13は、偏波状態が時間と共に変化する光信号を生成する様に構成することが望ましい。例えば、光源部11~13それぞれに、互いにインコヒーレントな光信号を生成する複数の光源を設ける構成とすることができる。この場合、光源部11~13は、複数の光源が生成する光信号を合波することで、偏波状態が時間と共に変化する光信号を生成することができる。また、光源部11から13には、単一の光源と、単一の光源が生成して出力する光信号の偏波状態を時間と共に変化させる偏波スクランブラとを設ける構成とすることもできる。多重部2は、周波数f1、f2及びf3の光信号を周波数多重(波長多重)して、測定対象の光通信システム80に出力する。
【0018】
ここで、光通信システム80においては、周波数f1、f2、f3の3つの光信号による非縮退四光波混合により周波数ftの光信号が生成される。本実施形態では、周波数f1、f2、f3及びftの4つの光信号を周波数軸上で並べたときに、隣接する2つの光信号の間隔がいずれもΔfとなる様に、周波数f1、f2及びf3を設定する。なお、4つの周波数f1、f2、f3及びftの大小関係は任意である。図2(A)及び図2(B)は、それぞれ、周波数配置の一例を示している。
【0019】
図2(A)においては、周波数ftが最も低く、周波数f1が2番目に低く、周波数f2が2番目に高く、周波数f3が最も高い配置となっている。一方、図2(B)においては、周波数f1が最も低く、周波数f2が2番目に低く、周波数ftが2番目に高く、周波数f3が最も高い配置となっている。なお、取り得る周波数配置は、図2に示す以外にも多数ある。
【0020】
光パワー測定部3は、非縮退四光波混合により生じた周波数ftの光信号のパワーを測定し、演算部4に出力する。なお、送信側において偏波スクランブラにより偏波を変動させる場合、周波数ftの光信号のパワーを測定する期間は、送信側において与えた偏波変動の周期より大きい期間とする。演算部4には、例えば、図3に示す様な、周波数と係数との対応関係を示す係数情報が格納されている。演算部4は、係数情報に基づき周波数ftの係数ctを判定して調整値とする。そして、演算部4は、光パワー測定部3が測定した周波数ftの光信号のパワーと調整値とを乗ずることでGNLI(ft)を求める。以下、演算部4に予め格納する係数情報の求め方について説明する。
【0021】
まず、図4に示す様に、測定対象の光通信システム80と同じスパン数の光通信システムのモデルを定義する。なお、1つのスパンとは、ある光増幅部の直後から次の光増幅部までの区間である。本例において、光通信システム80のスパン数を5とし、よって、図5に示すモデルのスパン数も5としている。なお、図4においては、各スパンの長さ(スパン長)を80kmとしている。
【0022】
まず、定義したモデルについて、非特許文献1に開示されている式(1)により各周波数fにおけるGNLI(f)を計算により求める。また、式(2)に基づき、定義したモデルにおいて非縮退四光波混合により生じる光信号のパワーも各周波数fについて計算で求める。そして、各周波数fについて、計算により求めたGNLIを非縮退四光波混合により生じる光信号のパワーで除することで、係数情報を作成することができる。
【0023】
以上、本実施形態では、測定対象の光通信システム80と同じスパン数のモデルに基づき周波数と係数との対応関係を示す係数情報を予め計算して演算部4に格納しておく。そして、演算部4は、光パワー測定部3により測定された、非縮退四光波混合で生じる周波数ftの光信号のパワーと、係数情報から判定される周波数ftの係数ctに基づく調整値とを乗ずることで、簡易にGNLI(ft)を測定することができる。そして、周波数ftを測定対象の光通信システム80で使用する帯域幅に渡り変化させながらGNLI(ft)を測定することで、非線形干渉雑音量を測定することができる。また、並行して光雑音のパワーと、光信号のパワーを測定することで、G-OSNRを測定することができる。なお、係数情報における係数の値が、周波数に応じてそれ程変化しない場合には、GNLI(ft)に測定対象の光通信システム80で使用する帯域幅を乗ずることで、簡易的に非線形干渉雑音量を測定することができる。
【0024】
<第二実施形態>
続いて、第二実施形態について第一実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態においては、周波数f1、f2及びf3の3つの光信号の非縮退四光波混合で生じる周波数ftの光信号のパワーを測定していた。本実施形態では、周波数f1~fnのn個の光信号の非縮退四光波混合で生じる周波数ftの光信号のパワーを測定する。なお、本実施形態においてnは4以上の整数とする。また、周波数fk(kは2~nまでの整数)は、周波数fk-1より高い周波数とする。図5(A)及び図5(B)は、周波数f1~fnと、測定対象の周波数ftとの関係の一例を示している。図5(A)において、周波数ftは、周波数f1より低い。図5(B)において、周波数ftは、周波数fk-1と周波数fkの間の周波数である。なお、周波数ftより周波数の低い光信号の数(k-1)と、周波数ftより周波数の高い光信号の数(n-k+1)は、同じであっても異なっていても良い。また、図には示していないが、周波数ftを周波数fnより高い周波数とすることもできる。いずれにしても、周波数f1~fn及び周波数ftを周波数軸上で並べると、隣接する2つの周波数の周波数間隔Δfが同じとなる様にする。図5(A)及び図5(B)から明らかな様に、第一実施形態は、本実施形態によるn=3としたものである。
【0025】
図6(A)~図6(C)は、本実施形態による測定装置の送信側の構成図である。周波数コム光源10は、所定の周波数間隔Δfの複数の光信号(連続光)を生成する光源であり、1000個程度の光信号を生成できるものが実用化されている。図6(A)は、周波数ftを周波数f1より低い配置(図5(A))又は周波数ftを周波数fnより高い配置とする場合に適用できる構成である。この場合、周波数コム光源10は、周波数f1~fnの光信号を生成し、生成したn個の光信号を偏波スクランブラ50に出力する。偏波スクランブラ50は、周波数f1~fnの光信号の偏波を時間と共に変化させる。なお、偏波スクランブラ50を設ける理由は第一実施形態と同様である。図6(B)は、周波数ftを周波数fk-1と周波数fkとの間に配置(図5(B))する場合に適用できる構成である。この場合、一方の周波数コム光源10は、周波数f1~fk-1の光信号を生成し、生成した光信号を多重部2に出力する。また、他方の周波数コム光源10は、周波数fk~fnの光信号を生成し、生成した光信号を多重部2に出力する。多重部2は、2つの周波数コム光源10からの計n個の光信号を合波して偏波スクランブラ50に出力する。図6(C)は、任意の周波数配置に適用できる構成である。この場合、周波数コム光源10は、所定の周波数間隔Δfの計(n+1)個の光信号を生成し、生成した(n+1)個の光信号を波長選択スイッチ(WSS)60に出力する。波長選択スイッチ60は、周波数ftに対応する光信号を抑圧し、残りのn個の光信号を偏波スクランブラ50に出力する。なお、測定装置の受信側の構成及び受信側における処理は第一実施形態と同様である。
【0026】
続いて、n=4以上とする理由について説明する。図7は、周波数間隔Δfを変化させながら、1600kmで20スパン(80km/スパン)の光通信システム80を伝送後に実際に測定した周波数ftの光信号のパワーを示している。なお、縦軸は、計算値からの偏差(%)で示している。第一実施形態の様に、n=3であると、周波数間隔Δfが400MHz程度までにおいて偏差を小さいが、周波数間隔Δfが400MHzを超えたあたりから偏差が大きくなる。図7は、n=4の場合と、n=8の場合も示している。n=4及びn=8の場合には、周波数間隔Δf=700MHzを超えたあたりから偏差が大きくなる。
【0027】
図9は、周波数間隔Δfを900MHzで一定とし、光信号数nを変化させたときの、周波数ftの光信号のパワーの実測値の偏差を示している。図9より、光信号数n=50以上とすることで、周波数ftの光信号のパワーの変動は十分小さくなっている。さらに、光信号数n=100以上とすることで、周波数ftの光信号のパワーの変動はより小さくなっている。この様に、非縮退四光波混合で生じる周波数ftの光信号のパワーの実測値は、周波数ftの位置に光信号を生じさせる光信号の数が小さい場合、周波数間隔Δfを大きくすると、図3に示す係数を求める際に利用した理想値との誤差が大きくなる。これは、GNLI(ft)の誤差に繋がる。
【0028】
ここで、周波数間隔Δfを十分に小さくできるのであれば第一実施形態で説明した様に、n=3としても、精度良くGNLI(ft)を測定することができる。しかしながら、光源が生成する光信号の周波数安定性によっては、n=3で精度良くGNLI(ft)を測定するための周波数間隔Δfを確保できない場合がある。また、光通信システム80の距離が長くなると、許容できる周波数間隔Δfの最小値は大きくなる。つまり、使用する光源や測定対象の光通信システム80によっては、n=3では、精度良く、GNLI(ft)を測定することができなくなり得る。例えば、図示していないが、8000kmで100スパン(80km/スパン)の光通信システム80においては、n=3の場合、100MHzを超えたあたりから偏差が大きくなる。つまり、8000kmで100スパン(80km/スパン)の光通信システム80において、n=3とすると、100MHzより小さい周波数分解能で測定する必要があるが、これは、実質的に不可能である。
【0029】
このため、本実施形態では、nを4以上、50以上、又は、100以上とする。nを増加させることで、非縮退四光波混合により周波数ftの位置に光信号を生じさせる光信号の組み合わせ数を大きくすることができる。例えば、図5(A)の配置では、f1、fm及びfm+1(mは2からn-1までの整数)の光信号の組み合わせそれぞれが、周波数ftの位置に光信号を生じさせる。これにより、周波数間隔Δfを増加させても、実測される周波数ftの光信号のパワーと、図3の係数の算出に利用した光信号のパワーとの差を小さくでき、よって、精度良く、GNLI(ft)を測定することができる。
【0030】
<第三実施形態>
続いて、第三実施形態について第一実施形態及び第二実施形態との相違点を中心に説明する。第一実施形態及び第二実施形態において、係数情報は、測定対象の光通信システム80と同じスパン数のモデルに基づき生成されていた。したがって、様々なスパン数の光通信システムを測定するには、様々なスパン数のモデルに基づき係数情報を生成しておき、測定する光通信システムのスパン数に応じて使用する係数情報を選択する必要があった。本実施形態では、所定のスパン数の1つのモデルに基づき生成された係数情報のみを演算部4に格納しておき、測定対象の光通信システム80のスパン数に応じて係数情報を補正して使用する構成について説明する。
【0031】
まず、演算部4には、図3に示す、例えば、5スパンのモデルに基づく係数情報と、GNLI(f)を求める上述した式(1)を格納しておく。また、演算部4には、測定対象の光通信システム80のスパン数を設定する。
【0032】
演算部4は、モデルとした5スパンの場合におけるGNLI(ft)と、測定対象の光通信システム80のスパン数でのGNLI(ft)との比をスパン数補正値として、式(1)に基づき計算する。そして、演算部4は、係数情報から判定される係数ctにスパン数補正値を乗ずることで、光通信システム80のスパン数における周波数ftでの調整値を求め、これを非縮退四光波混合で生じる周波数ftの光信号のパワーに乗ずることでGNLI(ft)を求める。
【0033】
例えば、ある1つのモデルについて係数情報を算出するためには、式(1)に基づき、各周波数fについて、つまり、周波数fを変数として、GNLI(f)を計算する必要があり、その計算量は膨大である。つまり、複数のスパン数のモデルについて、それぞれ、係数情報を作成するには膨大な計算を行わなければならない。
【0034】
本実施形態では、予め1つの係数情報を作成し、測定対象の周波数ftのスパン補正値のみを、式(1)により求める。つまり、複数の周波数fそれぞれについて式(1)の計算を行うのではなく、所定の周波数ftのみについて、2つのスパン数(その他のパラメータは同一)での比を求める計算のみ行う。このため、スパン数補正値を求めるための計算量は多くはない。
【0035】
以上の構成により、様々なスパン数の光通信システムについて、1つの係数情報により、GNLI(ft)を測定することができる。
【0036】
<第四実施形態>
第一実施形態及び第二実施形態では、測定対象の光通信システム80と同じスパン数のモデルに基づき求めた係数情報を使用してGNLI(ft)を測定し、第三実施形態では、係数情報の作成に使用したモデルとは異なるスパン数の光通信システム80を測定する場合の構成について説明した。ここで、図4に示す様に、係数情報の作成に使用するモデルは、計算の簡易化のため、各スパンのパラメータ(スパン長、波長分散、分散スロープ)が同一であるものとしていた。しかしながら、測定対象の光通信システム80とモデルのスパン数が同じであったとしても、測定対象の光通信システム80において、各スパンのスパン長、波長分散及び分散スロープが同じとは限らない。以下では、第一実施形態~第三実施形態と比較してより精度よくGNLI(ft)を求める構成について説明する。
【0037】
<スパン長>
本発明者の研究・調査により、光通信システムの各スパンのスパン長のばらつきは、測定結果に影響を与えず、光通信システムの各スパンのスパン長の平均値のみが測定結果に影響を当たることが分かった。したがって、複数のスパン長の平均値に対応する係数情報をそれぞれ作成しておき、測定対象の光通信システム80のスパン長の平均値に最も近い平均値に対応する係数情報を選択して使用することで、精度よくGNLI(ft)を測定することができる。或いは、各スパンの長さが同じモデル(図5では80km)で求めた係数情報に加えて、スパン長の平均値と、係数情報を補正するためのスパン長補正値との関係を示すスパン長補正情報を演算部4に格納しておく構成とすることもできる。この場合、演算部4は、係数情報で判定される係数をスパン長補正情報で判定されるスパン長補正値で補正して調整値を求め、この調整値によりGNLI(ft)を判定する。
【0038】
<波長分散>
本発明者の研究・調査により、スパン長と同様、各スパンの波長分散(単位距離当たりの値)についても、光通信システム全体の分散とモデルの分散が同じであれば測定結果に影響を与えないことが分かった。したがって、上記、スパン長と同様に、複数の分散に対応する係数情報を演算部4に格納しておき、測定対象の光通信システムの分散に一番近い分散に対応する係数情報を使用することで、より精度よくGNLI(ft)を求めることができる。また、スパン長と同様に、1つの係数情報で求められる係数を、測定対象の光通信システムの分散に基づき補正して使用する構成とすることができる。この場合、分散と係数を補正するための分散補正値との関係を示す分散補正情報を予め作成して演算部4に格納しておく。
【0039】
<分散スロープ>
本発明者の研究・調査により、分散スロープ(単位距離当たりの値)については、平均値に加えて、各スパンの分散スロープのばらつきが測定結果に影響を与えることが分かった。したがって、測定対象の分散スロープの値及び標準偏差(又は分散)の組み合わせに応じた係数情報を作成しておく構成とすることで、より精度よくGNLI(ft)を求めることができる。或いは、分散スロープの値及び標準偏差(又は分散)と、分散スロープ補正値との関係を示す分散スロープ補正情報を予め求めて演算部4に格納しておく構成とすることもできる。この場合、演算部4は、測定対象の光通信システム80全体の分散スロープと、各スパンの分散スロープの標準偏差(又は分散)とに基づき分散スロープ補正値を求め、求めた分散スロープ補正値で係数を補正して調整値を求めることで、より精度よくGNLI(ft)を判定することができる。
【0040】
なお、スパン長、波長分散、分散スロープによる係数の補正、又は、スパン長、波長分散、分散スロープに応じた係数情報の使用は組み合わせて使用することができる。
【0041】
<第五実施形態>
第一実施形態から第四実施形態においては、測定対象の光通信システム80の利得プロファイル(周波数と利得との関係)がフラットであることを想定していた。通常の波長多重光通信システムにおいては、各波長の利得の変動を抑える等化器が使用されており、この想定は、一般的には妥当である。しかしながら、測定対象の光通信システム80の利得プロファイルがフラットではない場合、周波数ftに応じて測定結果は異なる。
【0042】
ここで、測定対象の光通信システム80で使用する帯域幅に渡り周波数ftを変化させながらGNLIを測定するのであれば、実測値に基づき非線形干渉雑音量を求めるため問題がないが、1つの周波数ftで測定したGNLIに測定対象の光通信システム80で使用する帯域幅を乗ずることで簡易的に非線形干渉雑音量を求める場合、周波数ftの値に応じて測定結果が変動する。
【0043】
このため、測定対象の光通信システム80の利得プロファイルがフラットではない場合、周波数ftについては、利得が、信号帯域幅の利得の平均値、或いは平均値を含む所定範囲内になる周波数に設定することで測定値の誤差を抑えることができる。なお、利得が高い程、GNLIの値が増大し、G-OSNRが劣化するため、最悪値を判定するには、利得の最も高い周波数を周波数ftとすることもできる。
【0044】
<その他の実施形態>
また、本発明による測定装置は、コンピュータを上記測定装置として動作・機能させるプログラムにより実現することができる。これらコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記憶媒体に記憶されて、又は、ネットワーク経由で配布が可能なものである。
【0045】
発明は上記の実施形態に制限されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0046】
10:周波数コム部、2:多重部、60:波長選択スイッチ、50:偏波スクランブラ、3:光パワー測定部、4:演算部
図1
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図4
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図8