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特許7032347保存安定性に優れたポリスチレンスルホン酸塩水溶液とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】保存安定性に優れたポリスチレンスルホン酸塩水溶液とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/18 20060101AFI20220301BHJP
   C08F 12/30 20060101ALI20220301BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20220301BHJP
   C08F 4/04 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C08L25/18
C08F12/30
C08K3/01
C08F4/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019057160
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158574
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2020-01-16
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】重田 優輔
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-204646(JP,A)
【文献】特開平11-181004(JP,A)
【文献】特開平10-237248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C08C19/00- 19/44
C08F 6/00-246/00
C08F 301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラスチレンスルホン酸塩モノマーを、水溶媒中、水溶性のアゾ開始剤を重合開始剤に用い加熱して重合反応させ、重合反応における重合転化率が80~100%となった時点で、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液のpHが11.0~13.0となる量の塩基を添加し、さらに加熱して重合反応させて得られる、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量として分子量10,000~100,000ダルトン(Da)、かつ重量平均分子量として分子量20,000~200,000ダルトン(Da)のポリスチレンスルホン酸塩水溶液であって、
(i)得られたポリスチレンスルホン酸塩水溶液のAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0であり、
(ii)前記ポリスチレンスルホン酸塩水溶液を70℃で保管したとき、少なくとも60日間はAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0を維持し、かつ
(iii)塩基添加直後のパラスチレンスルホン酸塩水溶液のpHと70℃で60日間保管した後のpHとの差が+/-1.0となる、
ポリスチレンスルホン酸塩水溶液。
【請求項2】
水溶性のアゾ開始剤が、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド及び2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレートからなる群より選ばれる、請求項1に記載のポリスチレンスルホン酸塩水溶液。
【請求項3】
重合転化率が、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるパラスチレンスルホン酸塩モノマー由来のピーク面積(a)とポリスチレンスルホン酸塩由来のピーク面積(b)としたとき、100×[1-{a/(a+b)}]によって算出される百分率である、請求項1又は請求項2に記載のポリスチレンスルホン酸塩水溶液。
【請求項4】
パラスチレンスルホン酸塩モノマーを、水溶媒中、水溶性のアゾ開始剤を重合開始剤に用い加熱して重合反応させ、重合反応における重合転化率が80~100%となった時点で、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液のpHが11.0~13.0となる量の塩基を添加し、さらに重合反応させて得られるポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法であって、
(i)得られたポリスチレンスルホン酸塩水溶液のAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0であり、
(ii)前記ポリスチレンスルホン酸塩水溶液を70℃で保管したとき、少なくとも60日間はAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0を維持する、
ポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法。
【請求項5】
パラスチレンスルホン酸塩単量体100重量部に対し、0.1~10重量部の塩基を添加する、請求項4に記載のポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤、洗浄剤、アレルゲン捕捉剤等として有用であり、色相と水素イオン濃度に関して、長期の貯蔵時においても優れた保存安定性を有するポリスチレンスルホン酸塩水溶液とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パラスチレンスルホン酸塩は、疎水性のベンゼン環および強電解質であるスルホン酸(塩)基を有する機能性モノマーであり、その重合物は、高耐熱性、酸や塩基への高い化学的安定性、低毒性、界面活性など多くの特色を有する。
【0003】
近年、パラスチレンスルホン酸塩の重合体の使用用途は多岐にわたり、各種水性分散体を製造するための分散剤をはじめ、アイロン剤などの衣料仕上げ用の合成糊、ヘアケア用品、ミセル増強剤や再汚染防止剤といった洗浄助剤(ビルダー)、衣類用賦香剤における天然香料などの分散安定剤、帯電防止剤、レジスト酸発生剤、水処理剤、アレルゲン捕捉剤、イオン交換樹脂、メッキ液添加剤、半導体やハードディスク製造用の洗浄剤、シェールオイル採掘用流体の添加剤として利用されている。
【0004】
上記の利用分野において、パラスチレンスルホン酸塩の重合体に対して、種々の改良が求められている。そのうち、保存安定性に関するニーズは強く、特に色相と水素イオン濃度(pH)の安定性は、多くの用途に共通する改良ニーズである。
【0005】
特に、アイロン剤などの衣料仕上げ用の合成糊、洗浄剤、ヘアケア用品、アレルゲン捕捉剤、衣料用賦香剤などのハウスホールド用途に関しては、長期保存安定時の品質安定性は、製品価値に直接影響する重要因子である。
【0006】
すなわち、パラスチレンスルホン酸塩の重合物に関して、その色相は淡色化又は無色化が強く求められているのみならず、高温高湿といった劣悪な条件下においてもそのpHが安定化した重合物およびその製法の開発は強く求められている。
【0007】
パラスチレンスルホン酸塩類及びその(共)重合物の色相に関しては、いくつかの要因が示唆されている。
【0008】
特許文献1によると、パラスチレンスルホン酸ナトリウムの色相については、鉄分及び特定の不純物の色相への影響が示唆されており、鉄分や特定の不純物を一定量に低減した、色相の優れた高純度パラスチレンスルホン酸ナトリウムを用いることで、その重合物の色相を低減することが可能となる旨記載されている。
【0009】
また、パラスチレンスルホン酸ナトリウム(共)重合体の色相については、重合開始剤の影響が示唆されている(例えば特許文献2)。
【0010】
すなわち、例えば、2,2´-アゾビス(2-アミジノプロパン)ジハイドロクロライドのようなアゾ系開始剤をパラスチレンスルホン酸塩のラジカル重合へ適応することで、製造直後の色相を改良できる。
【0011】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に関しては、色相(APHA)および水素イオン濃度(pH)は、製造直後のみ評価しており、その保存安定性に関する記載はない。
【0012】
また、特許文献3には、スチレンスルホン酸塩との共重合体を含む、(メタ)アクリル酸共重合体の製造直後の色相改良および保存中の経時着色を抑制する製造法が記載されている。特許文献3では、過硫酸塩と還元剤を併用し重合反応を行うことで、得られる重合物の製造直後および保存中の経時着色を改良している。
【0013】
しかしながら、アゾ系開始剤を用いた重合物に関しては、製造直後の着色は改善できても、その水溶液を保管している間、特に室温以上の温度で保存されている場合、徐々に着色されていく旨記載されており、アゾ系開始剤を用いた色相の保存安定性に関する記載はない。また、水素イオン濃度(pH)に関しては、製造直後のみ評価しており、その保存安定性に関する記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特許第5946094号公報
【文献】特開平11-181004号公報
【文献】特開平14-241428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明者らが検討した結果、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液の色相及び水素イオン濃度に関する保存安定性は、製造条件によって大きく異なることが判明した。すなわち、過硫酸塩等のラジカル重合開始剤を用いた場合、着色が発生し、一般に着色が発生しにくいとされているアゾ基を有するラジカル重合開始剤を用いると、色相の改善は可能であっても、水素イオン濃度の安定性が両立困難となることが判明した。
【0016】
本発明は、上記の背景及び課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造直後の色相(APHA)を60以下に改良し、かつ60日間以上の長期間においても、その色相(APHA)と水素イオン濃度(pH)の経時劣化を抑制または防止することで、保存安定性に優れたポリスチレンスルホン酸塩水溶液とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液を得るためにスチレンスルホン酸塩単量体を特定の開始剤を用いて重合させ、次いでその反応系中、pHが11.0以上となるように塩基を共存させ、水溶液中に残存した重合開始剤残渣または重合物末端に結合した重合開始剤残渣を、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液製造段階において分解させることで、色相と水素イオン濃度に関する保存安定性を著しく改良したポリスチレンスルホン酸塩水溶液が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち本発明は、パラスチレンスルホン酸塩モノマーを、水溶媒中、水溶性のアゾ開始剤を重合開始剤に用い加熱して重合反応させ、重合反応における重合転化率が80~100%となった時点で、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液のpHが11.0~13.0となる量の塩基を添加し、さらに加熱して重合反応させて得られるポリスチレンスルホン酸塩水溶液であって、
(i)得られたポリスチレンスルホン酸塩水溶液のAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0であり、
(ii)前記ポリスチレンスルホン酸塩水溶液を70℃で保管したとき、少なくとも60日間はAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0を維持する、
ポリスチレンスルホン酸塩水溶液に係る発明である。
【0019】
また本発明は、水溶性のアゾ開始剤が、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド及び2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレートからなる群より選ばれる、上記のポリスチレンスルホン酸塩水溶液に係る発明である。
【0020】
また本発明は、重合転化率が、ゲル浸透クロマトグラフィー分析によるパラスチレンスルホン酸塩モノマー由来のピーク面積(a)とポリスチレンスルホン酸塩由来のピーク面積(b)としたとき、100×[1-{a/(a+b)}]によって算出される百分率である、上記のポリスチレンスルホン酸塩水溶液に係る発明である。
【0021】
また本発明は、ゲル浸透クロマトグラフィーで求めた数平均分子量が1,000~500,000である、上記のポリスチレンスルホン酸塩水溶液に係る発明である。
【0022】
また本発明は、パラスチレンスルホン酸塩モノマーを、水溶媒中、水溶性のアゾ開始剤を重合開始剤に用い加熱して重合反応させ、重合反応における重合転化率が80~100%となった時点で、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液のpHが11.0~13.0となる量の塩基を添加し、さらに重合反応させて得られるポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法であって、
(i)得られたポリスチレンスルホン酸塩水溶液のAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0であり、
(ii)前記ポリスチレンスルホン酸塩水溶液を70℃で保管したとき、少なくとも60日間はAPHA値が10~60かつpHが11.0~13.0を維持する、
ポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法に係る発明である。
【0023】
また本発明は、水溶性のアゾ開始剤をパラスチレンスルホン酸塩単量体100重量部に対し、0.1~10重量部の塩基を添加する、上記のポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法に係る発明である。
【発明の効果】
【0024】
本発明のポリスチレンスルホン酸塩水溶液は、色相及び水素イオン濃度に関して、高温条件においても高い保存安定性を有しており、従来までの課題であったタンクやコンテナ等での貯蔵時における品質劣化を抑制することができる。
【0025】
さらにこれらの重合物水溶液は特にアイロン剤などの衣料仕上げ用の合成糊、洗浄剤、ヘアケア用品、アレルゲン捕捉剤、衣料用賦香剤等の家庭用品用途など、着色が懸念される用途への適応可能となる。
【0026】
本発明のポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法によれば、上記の特質を有するポリスチレンスルホン酸塩水溶液を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1、比較例1、比較例4及び比較例5で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の着色の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はAPHA値を示す。
図2】実施例1、比較例1、比較例4及び比較例5で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の水素イオン濃度の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はpH値を示す。
図3】実施例2及び比較例2で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の着色の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はAPHA値を示す。
図4】実施例2及び比較例2で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の水素イオン濃度の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はpH値を示す。
図5】実施例3及び比較例3で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の着色の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はAPHA値を示す。
図6】実施例3及び比較例3で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液の水素イオン濃度の経時変化を示す図であり、横軸(X軸)は試験日数(日)、縦軸(Y軸)はpH値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨の範囲内で適宜変形して実施できる。
【0029】
本発明に用いられるスチレンスルホン酸塩単量体としては、特に限定するものではなく、例えばスチレンスルホン酸ナトリウム、スチレンスルホン酸カリウム、スチレンスルホン酸アンモニウム、スチレンスルホン酸リチウム、スチレンスルホン酸等が挙げられる。入手容易性の観点から、スチレンスルホン酸ナトリウム又はスチレンスルホン酸リチウムが好ましく、さらに好ましくはスチレンスルホン酸ナトリウムが用いられる。
【0030】
<ポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法>
本発明のポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造方法は、特に限定はされないが、スチレンスルホン酸塩単量体を溶解した水溶液及び本発明の重合開始剤を重合容器に一括仕込んで重合した後、次いで塩基を添加して熟成を行う一括重合法、スチレンスルホン酸塩単量体を溶解した水溶液、及び本発明に用いられる重合開始剤を重合容器にて滴下しながら重合した後、次いで塩基を添加して熟成を行う逐次添加法などが挙げられる。
【0031】
これらの内でも、一括重合法では重合反応の重合熱の除去が困難となることがあるため、逐次添加法が好ましく用いられる。また、逐次添加法において、粉末供給装置(パウダーフィーダー)を用いて、粉末状のパラスチレンスルホン酸塩を供給しても良い。
【0032】
逐次添加法の一例として、次の処方を例示する。すなわち、
・撹拌機、冷却管及び窒素導入管を取付けた反応器に、水又は別途調整したパラスチレンスルホン酸塩水溶液の内容物を初期仕込として仕込む。
・内容物が入った反応器を十分脱酸素し、所定温度まで昇温する。
・昇温後、パラスチレンスルホン酸水溶液と、水溶性ラジカル重合開始剤水溶液とを、それぞれ少量ずつ連続的に添加する。
・添加が終了した後に、内容物が入った反応器を所定温度にし、重合反応させる。
・重合反応が所定時間または量に到達した後に、任意の種類及び量の塩基を添加して熟成工程を行う。
以上により、本発明の重合物水溶液を得ることができる。
【0033】
ここで、撹拌機、冷却管及び窒素導入管を取り付けた反応器に、パラスチレンスルホン酸水溶液を添加する際、パラスチレンスルホン酸塩と水、必要に応じて分子量調節剤や還元剤を仕込んでよく、これらを水溶液として仕込んだ後に十分脱酸素し、所定温度で保温するとよい。
【0034】
また、撹拌機、冷却管及び窒素導入管を取り付けた反応器に、水溶性ラジカル重合開始剤水溶液を添加する際、水溶性ラジカル重合開始剤と水を仕込み、これらを水溶液として仕込んだ後に十分脱酸素し、所定温度で保温するとよい。
【0035】
本発明における、塩基添加の目的は、ラジカル重合開始剤として使用するアゾ化合物由来の重合開始剤残渣を、ポリスチレンスルホン酸塩水溶液の製造段階において、加水分解または熱分解を促進させることである。
【0036】
すなわち、後述するアゾ開始剤由来のアミジン、アミド、イミダゾリン部位およびその分解で生じる低級アミン、アンモニア類を、ポリスチレンスルホン酸水溶液の製造段階において、加水分解または熱分解を促進させることで、これらアミン、アンモニア類が長期保存中に生成することによる水素イオン濃度(pH)の変動を抑制あるいは防止することが目的である。
【0037】
そのため、加水分解または熱分解を促進させる観点から、塩基の添加量は、モノマー全量100重量部に対し、0.05~10重量部、さらには0.1~10重量部、特に0.3~5重量部とすることが好ましい。
【0038】
また、塩基添加直後のパラスチレンスルホン酸塩水溶液のpHが11.0~13.0の範囲であり、密閉容器等の容器内にて塩基を添加したパラスチレンスルホン酸塩水溶液を70℃で60日間保管した後のpHが11.0~13.0の範囲を維持することが好ましい。さらに塩基添加直後のパラスチレンスルホン酸塩水溶液のpHと70℃で60日間保管した後のpHとの差が+/-1.0、さらには-1.0~0.0(変動なし)、特に-0.5~0.0(変動なし)となることが好ましい。
【0039】
塩基の添加時期は、重合転化率が、80~100%となった時点が好ましく、重合転化率が90%~100%となった時点で添加するのがさらに好ましい。
【0040】
重合転化率が80%未満の時点で塩基を投入した場合、増粘し撹拌が困難となったり、分子量制御が困難となったり、重合転化率が100%に到達しないことがある。
【0041】
ここで重合転化率とは、反応物、例えば内容物が入った反応器より試料を採取し、それを実施例に示すゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)などの手法により重合物を分析、解析することで、重合物の生成物量を定量する。その定量値を基に反応物中の原料の反応量、すなわち減少量を算出するものである。
【0042】
さらに具体的には、GPCを用いて定量する場合を例示する。すなわち、原料であるモノマー由来のピーク面積(a)と反応により生成した重合物由来のピーク面積(b)とした場合、重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]によって算出される百分率として算出されるものである。
【0043】
本発明に用いられる塩基は特に限定されないが、例えば、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム、マグネシウムのようなアルカリ金属またはアルカリ土類金属類の水素化物、水酸化物や、炭酸塩、リン酸塩等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の塩や、トリエチルアミン、ヒドロキシエチルアミン、ピリジンのようなアミン類などが挙げられ、特に好ましくは、アルカリ金属の水酸化物である。金属分の混合が懸念される場合には、パラスチレンスルホン酸塩と同種のアルカリ金属を用いるのが良い。添加する塩基は、そのまま添加してもよいし、作業性の面から、任意濃度の水溶液として添加しても良い。
【0044】
重合反応の際の仕込み時のスチレンスルホン酸塩単量体の水溶液濃度としては、生産効率、重合物の粘度を考慮して5~30重量%の範囲が好ましく、スチレンスルホン酸ナトリウムに関しては18~22重量%の範囲が特に好ましい。
【0045】
また、逐次添加法にてスチレンスルホン酸塩単量体を溶解した水溶液を添加する場合、そのスチレンスルホン酸水溶液の濃度に応じて加熱しながら添加を行ってもよい。その際の加熱温度は、25~50℃が好ましく、加熱による単独重合抑制の観点からさらに好ましくは38~42℃である。
【0046】
単量体水溶液を逐次添加する場合、反応器に初期に仕込む水は特に限定されないが、好ましくはイオン交換水であり、水道水由来の塩素分や金属分が反応に支障とならない場合は、水道水を用いてもよい。また、生産効率を向上させる目的で、別途調製したパラスチレンスルホン酸塩水溶液を反応器に初期に仕込むこともできる。
【0047】
重合温度は通常のラジカル重合反応において実施されている温度で十分であるが、通常10~100℃、より好ましくは40~90℃で、重合転化率の観点から、さらに好ましくは70~90℃である。
【0048】
重合時間は、2~30時間が好ましく、さらに好ましくは2~10時間である。逐次添加法にて反応を行う場合、パラスチレンスルホン酸水溶液および重合開始剤溶液の連続添加を行う工程の反応時間は、好ましくは1~5時間、塩基を添加して重合反応を継続する工程の反応時間は、好ましくは、1~5時間である。塩基を添加して重合反応を継続する工程の反応時間が1時間未満である場合、本発明の目的である、重合開始剤残渣の分解反応が完結せず、水素イオン濃度に関する長期安定性が得られないことがある。
【0049】
本発明のポリスチレンスルホン酸塩水溶液製造時において、その色相や保存安定性を損なわない範囲で他のモノマーを共重合しても良い。パラスチレンスルホン酸塩以外の他のモノマーとしては、パラスチレンスルホン酸塩とラジカル共重合できるものであり、その共重合体が水に可溶であれば特に制限はない。
【0050】
共重合に用いるコモノマーとしては、例えば、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N―(クロロフェニル)マレイミド、N―(メチルフェニル)マレイミド、N―(イソプロピルフェニル)マレイミド、N―(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N -(1-ピレニル)マレイミド、N-(2 ,3-キシリル)マレイミド、N-(2 ,4-キシリル)マレイミド、N-(2 ,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3 ,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド等のマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物、スチレン、クロロスチレン、ジクロロスチレン、ブロモスチレン、ジブロモスチレン、フロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-シアノスチレン、p-アセトキシスチレン、塩化p-スチレンスルホニル、エチルp-スチレンスルホニル、メチルp-スチレンスルホニル、プロピルp-スチレンスルホニル、p-ブトキシスチレン、4-ビニル安息香酸、2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、3-イソプロペニル-α ,α ’-ジメチルベンジルイソシアネートなどのスチレン類、ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2- フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2―ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル) プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸s e c-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノプロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのメタクリル酸エステル類、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N ,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1 ,3-ブタジエン類、その他、アクリルアミド、メタクリルアミド、スルフォフェニルアクリルアミド、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、塩化ビニル、α-シアノエチルアクリレート、無水シトラコン酸、ビニル酢酸、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサミック酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ジアセトンメタクリレート、ビニルスルホン酸、イソプレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、ビニルピロリドン、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール等が挙げられる。
【0051】
これらの中で、スチレンスルホン酸塩との共重合性、入手性などを考慮すると、スチレン類、メタクリル酸、アクリル酸、アクリル酸エステル類、メタクリル酸エステル類、N-置換マレイミド類が好ましい。
【0052】
また、これらの共重合物製造において、重合反応時にパラスチレンスルホン酸塩及びコモノマーの混合物が均一に溶解する組成とするために、水と水溶性溶媒の混合溶媒中で重合反応を行った後、水溶性溶媒を除去する操作を行うことで、パラスチレンスルホン酸塩共重合体の水溶液を得ても良い。水溶性溶媒としては、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトニトリル等が挙げられる。
【0053】
また、共重合に用いるコモノマーの比率(パラスチレンスルホン酸塩に対するモル百分率)としては、その共重合体が水に可溶であれば特に制限はないが、通常0.05~50モル%、より好ましくは1.0~20モル%である。
【0054】
重合反応において、急激な重合を避けるため、及び低分子量域での分子量制御性を考慮し、水溶性の分子量調節剤を用いてもよい。
【0055】
分子量調節剤は特に限定されるものではないが、例えば、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1 ,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム等が挙げられる。
【0056】
分子量調節剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.1~10重量部であるが、汎用される分子量調節剤であるメルカプタン類を用いる場合、得られる水溶液及びそれらを用いた製品類に対し臭気が付与されてしまう可能性があるため、添加量を0.1~3重量部とするのが好ましい。
【0057】
本発明において用いられるラジカル重合開始剤は、水溶性のアゾ重合開始剤とするとよい。アゾ重合開始剤は熱及び光により分解し、窒素ガスと炭素ラジカルを発生するアゾ基(R-N=N-R、Nは窒素、Rは炭素に結合したアミド基、アミジン基、イミダゾリル基、カルボキシル基を有する構造)を持った化合物である。
【0058】
水溶性の重合開始剤として、例えば、過硫酸アンモニウムのような過酸化物が例示されるが、反応性の高い水酸化物ラジカルを生成し、着色要因となることがある。これと比較してアゾ重合開始剤は分解時、穏和な反応性を示す炭素ラジカルを生成するため、色相安定性が要求される本発明において好ましい。
【0059】
水溶性のアゾ重合開始剤としては、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド(2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩)、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレート等が挙げられるが、水溶性、入手容易性、分解温度、安全性の観点から2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドの使用が好ましい。
【0060】
ラジカル重合開始剤の使用量は、モノマー全量100重量部に対し、通常、0.1~10重量部とするとよい。
【0061】
上記の通り、本発明に係るパラスチレンスルホン酸塩の重合物は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される数平均分子量として分子量1,000~500,000ダルトン(Da)、重量平均分子量として分子量2,000~1,000,000ダルトン(Da)、好ましくは数平均分子量として分子量10,000~100,000ダルトン(Da)、重量平均分子量として分子量20,000~200,000ダルトン(Da)程度とするとよい。
【0062】
この重合物の詳しい物性、例えば水素イオン濃度に寄与する重合開始剤分解物である低級アミン、アミジン分解物、アンモニアなどは存在するとしても極めて微量であるため測定が困難である。また、反応中に生じる可能性がある中間体や開始剤の分解物は重合したポリスチレンスルホン酸の高分子鎖末端に導入あるいは付着等してその量の測定が極めて困難となりうる。このため、新たなポリスチレンスルホン酸としてその製造方法を示すことが分かり易く、便宜である。
【実施例
【0063】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
【0064】
<ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液のAPHA値の測定>
色差計(日本電色工業株式会社製、ZE-6000)の電源を入れ、30分間安定させた後、測定方法を透過に、光源/視野の設定をC/2に設定した。角セル(セル長36mm)に水を入れて、標準校正を行った後、18wt%ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を角セルに移してセットし、APHA値を測定した。
【0065】
<水素イオン濃度 pHの測定>
ハンディ型pHメーター(Mettler Toledo株式会社製、SevenGo pH meter SG2)に、pH電極(Mettler Toledo株式会社製、InLaB 413/IP67)を用いて測定を実施した。ガラス製規格瓶に任意の水溶液を50ml移し、室温でpHメーターに接続したpH電極を2分間付けた後、pHメーターの値を読み取った。測定直前に、pH標準液(和光純薬株式会社製、pH4.01、pH6.86、pH9.18)にて3点校正後を行い、測定を実施した。
【0066】
<ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)による重合物の分析>
東ソー株式会社製 HLC-8320を用いて原料モノマーと重合物の定量(面積%)を行った。試料を水またはアセトニトリルまたはその混合溶媒に溶解し、0.1wt%溶液を調製し、以下の条件でGPC測定を行った。モノマー由来のピーク面積(a)と重合物由来のピーク面積(b)から、下式により重合物の転化率を算出した。
重合物の転化率(面積%)=100×[1-{a/(a+b)}]
カラム=TSK ガードカラムAW-H+TSK AW6000+TSK AW3000
溶離液=硫酸ナトリウム水溶液(0.05mol/L)/アセトニトリル=90/10(Vol比)溶液
流速・注入量・カラム温度=0.6ml/min、注入量=10μl、カラム温度=40℃
検出器=UV検出器(波長230nm)
検量線=標準ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(創和科学製)を用いて、ピークトップ分子量と溶出時間から作成した
【0067】
<使用試薬>
実施例に記載の化合物は下記を使用したが、本発明はこれらの実施例により何らの制限を受けるものではない。
パラスチレンスルホン酸ナトリウム … 東ソー・ファインケム株式会社製
パラスチレンスルホン酸リチウム … 東ソー・ファインケム株式会社製
パラスチレンスルホン酸アンモニウム … 東ソー・ファインケム株式会社製
2,2‘-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩 … 富士フイルム和光純薬株式会社製
3-メルカプト-1,2-プロパンジオール … 富士フイルム和光純薬株式会社製
水酸化ナトリウム … 富士フイルム和光純薬株式会社製
亜硫酸水素ナトリウム … 富士フイルム和光純薬株式会社製
【0068】
実施例1
還流冷却管、窒素導入管、パドル型撹拌機を取り付けた2Lガラス製四つ口フラスコに、純水30.0gを仕込み、窒素雰囲気下、85℃のオイルバスで加熱した。ここに、別途調製したパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液〔パラスチレンスルホン酸ナトリウム210.0gを純水790.0gに溶解し、脱気処理したもの〕を40℃で保温しながら180分、2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩5.0gを純水46.5gに溶解したものである開始剤水溶液を、210分かけてフィードし、重合を行った。
【0069】
重合を開始して3時間後、48%水酸化ナトリウム水溶液6.0gを添加し、オイルバスを90℃に昇温し、さらに3時間重合を継続し、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。重合を開始して3時間後の転化率は95%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0070】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.5万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は20、pHは12.8であった。
【0071】
実施例2
実施例1において、パラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液、開始剤水溶液、48%水酸化ナトリウム水溶液の組成を変更する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。
【0072】
変更した仕込組成は、パラスチレンスルホン酸ナトリウム210.0g、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール0.4gを純水790.0gに溶解し、脱気処理したものであるパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液、2,2’-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩2.6gを純水46.5gに溶解したものである開始剤水溶液、48%水酸化ナトリウム水溶液4.5gであった。重合を開始して3時間後の転化率は93%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0073】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4万、重量平均分子量は9万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は30、pHは12.7であった。
【0074】
実施例3
実施例1において、パラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液、開始剤水溶液の組成を変更する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。
【0075】
変更した仕込組成は、パラスチレンスルホン酸ナトリウム210.0g、亜硫酸水素ナトリウム5.0gを純水790.0gに溶解し、脱気処理したものであるパラスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液、2,2‘-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩3.0gを純水46.5gに溶解したものである開始剤水溶液であった。重合を開始して3時間後の転化率は95%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0076】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.5万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は20、pHは12.5であった。
【0077】
実施例4
実施例1において、48%水酸化ナトリウム水溶液の添加量を3.0gに変更する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。重合を開始して3時間後の転化率は95%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0078】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.2万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は20、pHは11.2であった。
【0079】
実施例5
実施例1において、パラスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりにパラスチレンスルホン酸リチウムを、水酸化ナトリウムの代わりに水酸化リチウムを用いたこと以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸リチウム水溶液を得た。重合を開始して3時間後の転化率は98%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0080】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸リチウムの数平均分子量は4.8万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は40、pHは12.5であった。
【0081】
実施例6
実施例1において、パラスチレンスルホン酸ナトリウムの代わりにパラスチレンスルホン酸アンモニウムを用いたこと以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム水溶液を得た。重合を開始して3時間後の転化率は91%、反応終了時の転化率は100%であった。
【0082】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸アンモニウムの数平均分子量は5.0万、重量平均分子量は11万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は30、pHは12.5であった。
【0083】
比較例1
実施例1において、重合を開始して3時間後の48%水酸化ナトリウム水溶液の添加せずに、重合終了後(すなわち重合開始から6時間後)室温へ冷却した後に48%水酸化ナトリウム水溶液6.0gを添加する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。反応終了時の転化率は100%であった。
【0084】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.2万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は30、pHは12.8であった。
【0085】
比較例2
実施例2において、重合を開始して3時間後の48%水酸化ナトリウム水溶液の添加せずに、重合終了後(すなわち重合開始から6時間後)室温へ冷却した後に48%水酸化ナトリウム水溶液4.5gを添加する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。反応終了時の転化率は100%であった。
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4万、重量平均分子量は9万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は30、pHは12.7であった。
【0086】
比較例3
実施例3において、重合を開始して3時間後の48%水酸化ナトリウム水溶液の添加せずに、重合終了後(すなわち重合開始から6時間後)室温へ冷却した後に48%水酸化ナトリウム水溶液6.0gを添加する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。反応終了時の転化率は100%であった。
【0087】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.5万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は20、pHは12.5であった。
【0088】
比較例4
比較例1において、開始剤水溶液の組成を変更する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。変更した仕込組成は、開始剤水溶液〔過硫酸アンモニウム4.2gを純水46.5gに溶解したもの〕であった。反応終了時の転化率は100%であった。
【0089】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.2万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液の製造直後のAPHA値は100、pHは13.0であった。
【0090】
比較例5
実施例1において、開始剤水溶液の組成を変更する以外は同様にして、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を得た。変更した仕込組成は、開始剤水溶液〔過硫酸アンモニウム4.2gを純水46.5gに溶解したもの〕であった。反応終了時の転化率は100%であった。
【0091】
GPCで求めたポリスチレンスルホン酸ナトリウムの数平均分子量は4.2万、重量平均分子量は10万だった。当該ポリマーの15wt%水溶液のAPHA値は120、pHは12.5であった。
【0092】
<安定性試験>
実施例1~3及び比較例1~5で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液に関し、評価を以下の通りに行った。
【0093】
安定性試験は、各種ポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液を、それぞれポリプロピレン製100ml細口瓶(中栓無し)に100ml充填し、密栓した後、個別にチャック付きラミネート袋(アルミタイプ)に入れ、インパルス式シーラーで熱溶着した。これらを恒温恒湿試験機(EYELA製、KCL-1000)に格納し、設定温度70℃、設定湿度60%RHにて、60日間安定性加速試験を実施した。それぞれ0日間、10日間、30日間、60日間時点において色相(APHA値)と水素イオン濃度(pH)の測定を行い、経時変化を観察した。また、0日間の測定値は製造直後の値を使用した。
【0094】
それぞれの試験結果を表1に示す。実施例1~4で得られたポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液は色相、水素イオン濃度に関し、優れた安定性を有することは明らかである。比較例1~3は、実施例1~4と同様に、2,2'-アゾビス-(2-アミジノプロパン)二塩酸塩を重合開始剤として用いているが、水素イオン濃度に関する経時安定性が著しく悪く、比較例4、5は色相安定性が著しく悪いことは明らかである。
【0095】
【表1】
【0096】
表1に基づいた、実施例1及び比較例1、4、5のAPHA値に関する結果を図1に、水素イオン濃度に関する結果を図2に示す。表1に基づいた、実施例2及び比較例2のAPHA値に関する結果を図3に、水素イオン濃度に関する結果を図4に示す。表1に基づいた、実施例3及び比較例3のAPHA値に関する結果を図5に、水素イオン濃度に関する結果を図6に示す。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の色相および水素イオン濃度に関する保存安定性が改良されたポリスチレンスルホン酸塩水溶液は、色相が優れるため、顔料分散体やポリマーエマルジョンを製造するための分散剤、衣類洗濯及びアイロン仕上げ用の合成糊など各種ハウスホールド用途などに有用であり、長期保存安定性が高く、タンクやコンテナでの保存時の品質劣化が起こりにくいため、品質劣化に起因する、製品配合時の処方変更等が不要になることから生産効率の向上が可能となるため、産業上極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6