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特許7032369磁気特性測定装置、及び磁気特性測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】磁気特性測定装置、及び磁気特性測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/12 20060101AFI20220301BHJP
【FI】
G01R33/12 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019211399
(22)【出願日】2019-11-22
(65)【公開番号】P2021081383
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2020-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】591011775
【氏名又は名称】電子磁気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】岩田 成弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 一彦
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 智裕
【審査官】小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】実開昭63-67886(JP,U)
【文献】特開平2-103485(JP,A)
【文献】特開平2-189485(JP,A)
【文献】実開昭51-147072(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2007/0216404(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/00-33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サーチコイルが巻回され磁性材料を挟むように配置される一対の電磁石と、
前記一対の電磁石の間における磁界強度を測定する磁界センサと、
前記一対の電磁石に励磁電流を供給しつつ、前記磁界センサで測定される前記磁界強度と前記サーチコイルで測定される磁束密度とにより前記磁性材料の磁気特性を測定する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記一対の電磁石の離間間隔ごとに予め取得した前記励磁電流と前記磁界強度との関係を電磁石特性情報として記憶する記憶部と、前記磁性材料を励磁する励磁磁界の振幅及び周期が入力される入力部と、前記磁気特性の測定制御を実行する計測制御部と、を含み、
前記計測制御部は、前記電磁石特性情報に基づいて前記離間間隔と前記励磁磁界の前記振幅とに対応する目標電流値を取得し、前記入力部から入力された前記励磁磁界の前記周期と前記目標電流値とに基づいて前記励磁電流の電流波形を設定する、磁気特性測定装置。
【請求項2】
前記計測制御部は、前記磁気特性を測定する前に、前記一対の電磁石に減衰交流電流を供給して前記一対の電磁石を脱磁する、請求項1に記載の磁気特性測定装置。
【請求項3】
サーチコイルが巻回された磁性材料を一対の電磁石で挟むように配置する配置工程と、
前記磁性材料を励磁する励磁磁界の振幅及び周期の設定値と、前記一対の電磁石の離間間隔とを取得する設定値取得工程と、
前記一対の電磁石に供給する励磁電流の電流波形を設定する電流波形設定工程と、
前記電流波形で励磁したときの前記一対の電磁石の間における磁界強度と前記サーチコイルで測定される磁束密度とを取得して前記磁性材料の磁気特性を測定する測定工程と、含み、
前記電流波形設定工程においては、前記一対の電磁石の離間間隔ごとに予め取得した前記励磁電流と前記磁界強度との関係としての電磁石特性情報に基づいて、前記離間間隔と前記励磁磁界の前記振幅とに対応する目標電流値を取得し、前記励磁磁界の前記周期と前記目標電流値から前記電流波形を設定する、磁気特性測定方法。
【請求項4】
前記測定工程の前に、前記一対の電磁石に減衰交流電流を供給して前記一対の電磁石を脱磁する、請求項3に記載の磁気特性測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性測定装置、及び磁気特性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性材料は、印加される磁界の強さに対する磁束密度を測定することによりB-H特性を評価することができ、いわゆる磁気ヒステリシスループから保磁力、残留磁束密度、透磁率、ヒステリシス損等の磁気特性を求めることができる。ここで、一般的に、B-H特性の測定においては、ソフト材(軟磁性体)に対しては励磁コイルが巻回されたリング状の試験片が用いられ、ハード材(硬磁性体)のようにより広いレンジの励磁磁界が必要な場合には、測定対象の磁性材料を挟むように設けられる電磁石が使用される。例えば、特許文献1には、磁性材料を挟むように配置された互いに対向する2つのコアを有し、当該コアに巻回されたソレノイドに通電することにより、磁性材料を磁化させる磁気ヒステリシス特性装置が開示されている。
【0003】
B-H特性の測定に用いられる上記のような電磁石は、磁性材料の大きさに合わせて一対のコアの間隔を調整できるよう構成されており、これにより磁性材料を効率的に磁化させることができる。また、上記の特許文献1に係る従来技術においては、電磁石が磁性材料に対して発生させる磁界の強さをホール素子によって検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開昭63-67886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来技術では、電磁石が発生させる磁界の強さが2つのコアの間隔により異なるため、例えば寸法の異なる複数の磁性材料のB-H特性を測定する場合に、所望の強度の磁界を印加するためにソレノイドに通電させるべき目標電流値も異なってしまう。このため、ソレノイドに流す電流値を0[A]から目標電流値まで上昇させる所要時間、すなわち所望の磁界強度に達するまでの所要時間も、電磁石のコア間隔により変化することになる。このとき、磁気ヒステリシスループの横幅は、印加磁界の周期が長いほど細く、印加磁界の周期が短いほど太くなる。つまり、互いに寸法の異なる複数の磁性材料は、電磁石のコア間隔に伴い印加される磁界の周期も異なるため、たとえ同一の素材からなる場合であっても、測定されるB-H特性が互いに異なってしまい、磁気特性の適切な評価を行うことができない虞が生じる。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電磁石のコア間隔が異なる場合であっても、磁気特性の適切な評価を行うことができる磁気特性測定装置、及び磁気特性測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
<本発明の第1の態様>
本発明の第1の態様は、サーチコイルが巻回され磁性材料を挟むように配置される一対の電磁石と、前記一対の電磁石の間における磁界強度を測定する磁界センサと、前記一対の電磁石に励磁電流を供給しつつ、前記磁界センサで測定される前記磁界強度と前記サーチコイルで測定される磁束密度とにより前記磁性材料の磁気特性を測定する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記一対の電磁石の離間間隔ごとに予め取得した前記励磁電流と前記磁界強度との関係を電磁石特性情報として記憶する記憶部と、前記磁性材料を励磁する励磁磁界の振幅及び周期が入力される入力部と、前記磁気特性の測定制御を実行する計測制御部と、を含み、前記計測制御部は、前記電磁石特性情報に基づいて前記離間間隔と前記励磁磁界の前記振幅とに対応する目標電流値を取得し、前記入力部から入力された前記励磁磁界の前記周期と前記目標電流値とに基づいて前記励磁電流の電流波形を設定する、磁気特性測定装置である。
【0008】
本発明の第1の態様に係る磁気特性測定装置においては、一対の電磁石についての離間間隔ごとの励磁電流と磁界強度との関係を予め記憶し、測定対象の磁性材料を励磁するための励磁磁界の振幅及び周期が入力されることにより、一対の電磁石に印加される励磁電流の電流波形が設定される。このとき、励磁電流の電流波形は、離間間隔の大きさに拘らず、所定の目標磁界を磁性材料に印加するのに必要な振幅を有すると共に、当該周期を任意に設定することができる。このため、例えば同一の素材からなり寸法の異なる2つの磁性材料を測定する場合であっても、励磁電流の周期を統一することにより、それぞれ同一条件で磁気特性を評価することができる。従って、本発明に係る磁気特性測定装置によれば、電磁石のコア間隔が異なる場合であっても、磁気特性の適切な評価を行うことができる。
【0009】
<本発明の第2の態様>
本発明の第2の態様は、上記した本発明の第1の態様において、前記計測制御部は、前記磁気特性を測定する前に、前記一対の電磁石に減衰交流電流を供給して前記一対の電磁石を脱磁する磁気特性測定装置である。
【0010】
本発明の第2の態様に係る磁気特性測定装置によれば、測定工程の前に、一対の電磁石に減衰交流電流を供給して脱磁することにで、一対の電磁石におけるコアの残留磁束密度の影響を低減することができ、特にソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)に対する測定結果の信頼性を向上させることができる。
【0011】
<本発明の第3の態様>
本発明の第3の態様は、サーチコイルが巻回された磁性材料を一対の電磁石で挟むように配置する配置工程と、前記磁性材料を励磁する励磁磁界の振幅及び周期の設定値と、前記一対の電磁石の離間間隔とを取得する設定値取得工程と、前記一対の電磁石に供給する励磁電流の電流波形を設定する電流波形設定工程と、前記電流波形で励磁したときの前記一対の電磁石の間における磁界強度と前記サーチコイルで測定される磁束密度とを取得して前記磁性材料の磁気特性を測定する測定工程と、含み、前記電流波形設定工程においては、前記一対の電磁石の離間間隔ごとに予め取得した前記励磁電流と前記磁界強度との関係としての電磁石特性情報に基づいて、前記離間間隔と前記励磁磁界の前記振幅とに対応する目標電流値を取得し、前記励磁磁界の前記周期と前記目標電流値から前記電流波形を設定する、磁気特性測定方法である。
【0012】
本発明の第3の態様に係る磁気特性測定方法においては、一対の電磁石についての離間間隔ごとの励磁電流と磁界強度との関係が予め記憶され、測定対象の磁性材料を励磁するための励磁磁界の振幅及び周期が入力されることにより、一対の電磁石に印加される励磁電流の電流波形が設定される。このとき、励磁電流の電流波形は、離間間隔の大きさに拘らず、所定の目標磁界を磁性材料に印加するのに必要な振幅を有すると共に、当該周期を任意に設定することができる。このため、例えば同一の素材からなり寸法の異なる2つの磁性材料を測定する場合であっても、励磁電流の周期を統一することにより、それぞれ同一条件で磁気特性を評価することができる。従って、本発明に係る磁気特性測定方法によれば、電磁石のコア間隔が異なる場合であっても、磁気特性の適切な評価を行うことができる。
【0013】
<本発明の第4の態様>
本発明の第4の態様は、上記した本発明の第3の態様において、前記測定工程の前に、前記一対の電磁石に減衰交流電流を供給して前記一対の電磁石を脱磁する、磁気特性測定方法である。
【0014】
本発明の第4の態様に係る磁気特性測定方法によれば、測定工程の前に、一対の電磁石に減衰交流電流を供給して脱磁することで、一対の電磁石におけるコアの残留磁束密度の影響を低減することができ、特にソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)に対する測定結果の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電磁石のコア間隔が異なる場合であっても、磁気特性の適切な評価を行うことができる磁気特性測定装置、及び磁気特性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る磁気特性測定装置の全体構成図である。
図2】本発明に係る電磁石特性情報の一例を部分的に示すグラフである。
図3】磁気特性測定において計測制御部が実行する制御手順を示すフローチャートである。
図4】本発明に係る磁気特性測定装置の励磁磁界、励磁電流、及び磁気ヒステリシスループの波形を模式的に示す図である。
図5】従来技術の磁気特性測定方法に係る励磁磁界、及び磁気ヒステリシスループの波形を模式的に示す図である。
図6】コアに印加される減衰交流電流の波形の一例である。
図7】一対の電磁石が発生させる磁束密度について残留磁界の影響を模式的に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下に説明する内容に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において任意に変更して実施することが可能である。また、実施の形態の説明に用いる図面は、いずれも構成部材を模式的に示すものであって、理解を深めるべく部分的な強調、拡大、縮小、又は省略などを行なっており、構成部材の縮尺や形状等を正確に表すものとはなっていない場合がある。
【0018】
図1は、本発明に係る磁気特性測定装置1の全体構成図である。磁気特性測定装置1は、磁界を印加したときの磁性材料2の磁束密度を測定することにより、磁性材料2の磁気ヒステリシスループを測定するためのシステムであり、本実施形態においては、磁化装置10、BHアナライザ20、及び制御装置30を備える。
【0019】
ここで、磁性材料2は、磁気特性が未知の測定対象であり、例えばハード材(硬磁性体)からなることとして説明するが、ソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)であってもよい。尚、磁性材料2は、断面積が既知の柱状に形成されている。
【0020】
磁化装置10は、磁性材料2を挟むように配置される一対の電磁石11、一対の電磁石11に閉磁路を形成するヨーク12、及び一対の電磁石11の離間間隔Gを手動で調整するためのハンドル13を備える。一対の電磁石11は、それぞれコア11a及びソレノイドコイル11bを含み、コア11aに巻回されたソレノイドコイル11bに励磁電流が供給されることにより、磁性材料2に対して励磁磁界を発生させて磁化させることができる。励磁電流及び励磁磁界の波形形状は、直流と見做せる程度に比較的低周波の三角波や正弦波である。
【0021】
本実施形態における一対の電磁石11は、磁性材料2の寸法に合わせて離間間隔Gが手動で設定されると共に、測定者が離間間隔Gを読み取るものとして説明するが、離間間隔Gの設定及び読み取りについては自動的に行われるよう構成されてもよい。
【0022】
BHアナライザ20は、磁化装置10を制御しつつ、磁化された磁性材料2の磁束密度Bを測定することにより磁性材料2の磁気特性測定を行う装置であり、サーチコイル21、ホールセンサ22、H計測部23、B計測部24、及び電源部25を含む。
【0023】
サーチコイル21は、磁性材料2に巻回されたコイルであり、磁性材料2が磁化することに伴って誘起される電圧を測定する。また、「磁界センサ」としてのホールセンサ22は、一対の電磁石11の間に生じる磁界強度に伴う電圧を測定する。
【0024】
H計測部23は、ホールセンサ22から取得した電圧に基づいて、一対の電磁石11の間に生じる磁界強度Hを算出する。また、B計測部24は、サーチコイル21から取得した電圧に基づいて、磁性材料2の磁化に伴う磁束密度Bを算出する。そして、電源部25は、一対の電磁石11のソレノイドコイル11bに、後述する電流波形の励磁電流を供給する。
【0025】
制御装置30は、例えば公知のパーソナルコンピュータなどの電子計算機からなり、入力部31、出力部32、計測制御部33、及び記憶部34を含む。制御装置30は、通信ケーブルCを介してBHアナライザ20との間で制御信号や測定データの授受を行うことにより、磁性材料2の磁気特性測定を総合的に管理する。尚、BHアナライザ20及び制御装置30は、一体的に構成されていてもよい。
【0026】
入力部31は、例えばキーボードやマウス、テンキー等からなる入力インターフェースであり、詳細を後述するように、磁性材料を励磁する励磁磁界の振幅及び周期や、一対の電磁石11の離間間隔Gを入力するために使用される。また、出力部32は、例えば測定条件や測定結果を表示するディスプレイ等からなる出力インターフェースであり、磁気特性測定に係る操作をアプリケーション上で実行する場合には測定操作に係る操作ボタン等が表示される。尚、出力部32は、測定条件や測定結果の測定情報を纏めて後述する記憶部34に出力することで記憶部34に保存させてもよく、又は当該測定情報を外部の機器に送信してもよい。
【0027】
計測制御部33は、詳細を後述するように、磁気特性測定方法に係る制御手順に従って磁性材料2に対する磁気特性の測定制御を実行する。
【0028】
記憶部34は、一対の電磁石11についての励磁電流の大きさに対する磁界強度の大きさを、一対の電磁石11の離間間隔Gごとに予め取得した電磁石特性情報を記憶している。そして、計測制御部33は、磁気特性測定を行う場合に、記憶部34に記憶された電磁石特性情報から必要な情報を読み出すことにより、磁気特性の測定条件を設定する。
【0029】
図2は、本発明に係る電磁石特性情報の一例を部分的に示すグラフである。より具体的には、図2は、上記した一対の電磁石11について、離間間隔Gが10mm、20mm、30mmのそれぞれの場合において、ソレノイドコイル11bに供給する電流Iの大きさとホールセンサ22で測定される磁束密度Bの大きさとの関係を表すI-B特性の測定データである。尚、コア11aの透磁率をμとした場合、公知のB=μHの関係を通して磁束密度Bを磁界強度Hに換算することができる。
【0030】
図2に示すI-B特性は、上記した磁化装置10に磁性材料2を配置しない状態で、複数の離間間隔Gに対して事前に測定される。また、複数の当該測定データに基づいて、相関関係による推定や補間処理により、測定していない離間間隔Gに対してもI-B特性を算出することができ、想定される範囲内の離間間隔Gに対して電流Iと磁束密度Bとの対応関係表(データテーブル)を電磁石特性情報として用意し、予め記憶部34に保存される。
【0031】
次に、磁気特性測定方法に係る制御手順について説明する。図3は、磁気特性測定において計測制御部33が実行する制御手順を示すフローチャートである。計測制御部33は、サーチコイル21が巻回された磁性材料2を一対の電磁石11で挟むように配置された状態において(配置工程)、図3に示す制御手順を実行することにより、磁性材料2の磁気特性を測定する。
【0032】
配置工程による準備が整った後、制御装置30における計測制御部33は、図3に示す制御手順を開始し、入力部31により必要な設定情報が入力されているか否かを判定する。より具体的には、計測制御部33は、磁性材料2を励磁する励磁磁界の振幅及び周期の設定値と、一対の電磁石11の離間間隔Gとが入力されているか否かを判定する(ステップS1、設定値取得工程)。
【0033】
計測制御部33は、必要な設定情報が入力されていないと判定された場合には(ステップS1でNo)、例えば出力部32にエラーメッセージを表示するなどの方法により測定者に設定情報の入力を要求し、測定の開始を保留する。
【0034】
計測制御部33は、必要な設定情報が入力されていると判定された場合には(ステップS1でYes)、ソレノイドコイル11bに供給する電流Iの最大値、すなわち励磁電流の目標電流値を算出する(ステップS2)。より具体的には、計測制御部33は、記憶部34に記憶されている電磁石特性情報に基づいて、入力部31から入力された離間間隔Gと励磁磁界の振幅とに対応する電流値を目標電流値として取得する。
【0035】
目標電流値が算出されると、計測制御部33は、入力部31から入力された励磁磁界の周期と目標電流値とに基づいて、一対の電磁石11に供給する励磁電流の電流波形を設定する(ステップS3)。すなわち、計測制御部33は、算出された目標電流値と入力部31から入力された励磁磁界の周期とを、それぞれ励磁電流の振幅及び周期とする三角波の電流波形として設定する。これにより、計測制御部33は、ステップS2及び3の手順を通して、一対の電磁石11に供給する励磁電流の電流波形を設定することができる。
【0036】
図4は、本発明に係る磁気特性測定装置1の励磁磁界、励磁電流、及び磁気ヒステリシスループの波形を模式的に示す図である。より具体的には、図4(a)は、磁化装置10において磁性材料2に印加される励磁磁界の波形であり、入力部31から入力される任意の振幅(目標磁界H)及び周期Pにより規定される三角波である。また、図4(b)は、磁性材料2に当該励磁磁界を印加するためにソレノイドコイル11bに供給される励磁電流の波形である。
【0037】
ここで、図4(b)においては、同一の素材からなり寸法の異なる2つの磁性材料2を測定する場合についてのそれぞれの励磁電流の電流波形を示している。より具体的には、電流波形W1は、磁性材料2の寸法が相対的に小さく一対の電磁石11の離間間隔Gが小さい場合において、目標磁界Hの印加に必要な励磁電流の振幅が比較的小さい電流値I1に抑えられるときの励磁電流である。これに対し、電流波形W2は、磁性材料2の寸法が相対的に大きく一対の電磁石11の離間間隔Gが大きい場合において、目標磁界Hの印加に必要な励磁電流の振幅として比較的大きい電流値I2が必要となるときの励磁電流である。
【0038】
すなわち、図3のステップS3及びステップS4においては、一対の電磁石11の離間間隔Gに応じて、ソレノイドコイル11bに供給するための励磁電流の電流波形が設定される(電流波形設定工程)。
【0039】
そして、電流波形が設定されると、計測制御部33は、当該電流波形に従って一対の電磁石11の励磁を開始し、磁性材料2の初磁化曲線を測定する(ステップS4)。ここで、磁性材料2の初磁化曲線は、図4(c)の磁気ヒステリシスループにおいて原点Oから磁気飽和点PMSまでの曲線として表される。
【0040】
初磁化曲線は、磁性材料2に印加される磁界強度が目標磁界Hに達するまでの時間、すなわち上記した励磁磁界及び励磁電流の周期Pの1/4に相当する時間tMSまでの期間においてサーチコイル21で検出される磁束密度Bに基づいて測定される。そのため、計測制御部33は、磁性材料2が磁気飽和に達する時間tMSが経過したか否かを判定し(ステップS5)、時間tMSが経過するまで初磁化曲線の測定を継続する(ステップS5でNo)。
【0041】
測定を開始してから時間tMSが経過すると(ステップS5でYes)、計測制御部33は、ホールセンサ22で測定される磁界強度Hの大きさが所定の磁界閾値HTH以上に達しているか否かを判定する(ステップS6)。ここで、磁界閾値HTHとは、磁性材料2に十分な磁界強度が印加されているか否かを判定するために事前に任意に設定される閾値であり、例えば目標磁界Hよりも僅かに低い値として設定される。
【0042】
そして、計測制御部33は、磁界強度Hが磁界閾値HTH未満である場合には(ステップS6でNo)、例えば出力部32を介してエラー表示を行うことにより(ステップS7)、所望の磁界強度Hが得られないことを測定者に通知し、磁気特性測定を終了する。ここで、磁界強度Hが磁界閾値HTHに満たない状態とは、一対の電磁石11に印加される励磁電流が不足している場合や、測定者がホールセンサ22の設置を失念した場合等が想定される。
【0043】
一方、磁界強度Hが磁界閾値HTH以上である場合には(ステップS6でYes)、計測制御部33は、初磁化曲線の測定が正常に完了したものとして、設定された電流波形に従って磁気測定を継続することにより磁性材料2のヒステリシスループを測定する(ステップS8)。これにより、図4(c)に示すように、磁性材料2のメジャーループが測定される。
【0044】
ここで、本発明に係る磁気特性測定装置1においては、予め取得される電磁石特性情報に基づいて励磁電流の波形形状を設定しているため、磁性材料2の寸法に拘らず磁性材料2に印加される励磁磁界の周期と振幅が共通化される。このため、本発明に係る磁気特性測定装置1によれば、寸法の異なる複数の磁性材料2であっても、それぞれの磁性材料2が互いに同一の素材からなる限り、図4(c)に示すように同一のヒステリシスループとして磁気特性を公平に評価することができる。
【0045】
続いて、上記した本発明に対する比較対象として、従来技術に係る磁気特性測定について説明する。図5は、従来技術の磁気特性測定方法に係る励磁磁界、及び磁気ヒステリシスループの波形を模式的に示す図である。当該従来技術においては、一対の電磁石11に印加する励磁電流を所定のペースで上昇させ、ホールセンサ22で測定される磁界強度Hが目標磁界Hに達した時間に基づいて励磁磁界の周期を設定している。
【0046】
ここで、同一の素材からなり寸法の異なる2つの磁性材料2の磁気特性を従来技術で測定する場合について、それぞれの励磁磁界の磁界波形を磁界波形W3及び磁界波形W4として図5(a)に示している。より具体的には、磁界波形W3は、磁性材料2の寸法が相対的に小さく一対の電磁石11の離間間隔Gが小さい場合において、目標磁界Hに達するまでの時間t1が比較的短い励磁磁界である。これに対し、磁界波形W4は、磁性材料2の寸法が相対的に大きく一対の電磁石11の離間間隔Gが大きい場合において、目標磁界Hに達するまでに比較的長い時間t2を要する励磁磁界である。
【0047】
すなわち、従来技術に係る磁気特性測定方法では、ホールセンサ22で測定される磁界強度Hを基準に励磁磁界の周期が設定されるため、磁性材料2を確実に目標磁界Hで励磁できる反面、励磁磁界の周期が一対の電磁石11の離間間隔Gに依存して変化する。この場合、測定される磁気ヒステリシスループは、図5(b)の実線で示されるように励磁磁界の周期が短いほど横幅(磁界強度のレンジ)が過大評価され、図5(b)の破線で示されるように励磁磁界の周期が長いほど横幅が過少評価されることになる。つまり、同一の素材からなる2つの磁性材料2を測定しても、互いの寸法の違いにより磁気特性の適切な評価を行うことができなくなってしまう。尚、図5(b)においては、初磁化曲線の描画を省略している。
【0048】
以上のように、本発明に係る磁気特性測定装置1においては、一対の電磁石11についての離間間隔Gごとの励磁電流と磁界強度との関係を予め記憶し、測定対象の磁性材料を励磁するための励磁磁界の振幅及び周期が入力されることにより、一対の電磁石11に印加される励磁電流の電流波形が設定される。このとき、励磁電流の電流波形は、離間間隔Gの大きさに拘らず、磁性材料2に目標磁界Hを印加するのに必要な振幅を有すると共に、周期を任意に設定することができる。このため、例えば同一の素材からなり寸法の異なる2つの磁性材料2を測定する場合であっても、励磁電流の周期を統一することにより、それぞれ同一条件で公平に磁気特性を評価することができる。従って、本発明に係る磁気特性測定装置1によれば、電磁石のコア間隔が異なる場合であっても、磁気特性の適切な評価を行うことができる。
【0049】
<変形例>
上記した本発明に係る磁気特性測定装置1において、比較的大きな励磁磁界によりハード材(硬磁性体)の磁気特性測定を行なった場合には、一対の電磁石11においてコア11aの保磁力に伴う磁界が残留しやすくなる。この状態で、例えばソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)の磁気特性測定を続けて行なった場合には、印加する励磁磁界が比較的狭いレンジであるにも拘らず励磁磁界の初期値が0ではないため、測定結果の信頼性が低下することになる。
【0050】
そこで、上記した磁気特性測定装置1は、磁性材料2の磁気特性を測定する測定工程の前に、制御装置30からの制御に基づいて電源部25が一対の電磁石11に減衰交流電流を供給することにより、一対の電磁石11のコア11aが脱磁されるよう構成されている。図6は、コア11aに印加される減衰交流電流の波形の一例である。このとき、インダクタンスが比較的大きい一対の電磁石11は、当該インダクタンスの大きさに合わせた比較的低周波の減衰交流電流により効率的に脱磁される。
【0051】
図7は、一対の電磁石11が発生させる磁束密度について残留磁界の影響を模式的に示すグラフである。より具体的には、図7は、ソレノイドコイル11bに供給される電流Iの大きさと一対の電磁石11が発生させる磁束密度Bの大きさとの関係を表すI-B特性のグラフである。
【0052】
本発明に係る脱磁機能により一対の電磁石11のコア11aが脱磁される場合には、図7の特性αとして示されるように、ソレノイドコイル11bに供給される電流Iが0[A]の場合に磁束密度Bが0[T]となる。このため、励磁磁界のレンジが比較的小さいソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)の磁気特性測定において、ソレノイドコイル11bに供給する電流Iが比較的小さい場合であっても、当該電流Iに対応する磁束密度Bで磁性材料2を励磁することができ、測定結果の信頼性を向上させることができる。
【0053】
これに対し、一対の電磁石11のコア11aを脱磁しない場合には、図7の特性βとして示されるように、ソレノイドコイル11bに供給される電流Iが0[A]であっても磁性材料2に残留磁束密度B[T]が印加される。これに伴い、ソレノイドコイル11bに供給される電流Iが比較的小さい範囲における磁束密度Bの値が不正確となり、測定結果の信頼性を低下させることになる。
【0054】
以上のように、本発明の変形例に係る磁気特性測定装置1によれば、測定工程の前に、一対の電磁石11に減衰交流電流を供給して一対の電磁石11を脱磁することにより、磁気特性測定においてコア11aの残留磁束密度Bの影響を低減することができるため、特にソフト材(軟磁性体)やセミハード材(半硬磁性体)に対する測定結果の信頼性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0055】
1 磁気特性測定装置
2 磁性材料
10 磁化装置
11 一対の電磁石
11a コア
11b ソレノイドコイル
20 BHアナライザ
21 サーチコイル
22 ホールセンサ
30 制御装置
31 入力部
33 計測制御部
34 記憶部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7