(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】焼結磁石又はプラスチック磁石から磁性粒子を回収する方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
B09B 5/00 20060101AFI20220301BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20220301BHJP
【FI】
B09B5/00 Z ZAB
B09B3/00 303Z
(21)【出願番号】P 2019524513
(86)(22)【出願日】2017-07-17
(86)【国際出願番号】 EP2017067985
(87)【国際公開番号】W WO2018015331
(87)【国際公開日】2018-01-25
【審査請求日】2020-06-17
(32)【優先日】2016-07-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(73)【特許権者】
【識別番号】509017435
【氏名又は名称】ユニベルシテ、ド、ルーアン、ノルマンディー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE DE ROUEN NORMANDIE
(73)【特許権者】
【識別番号】519020476
【氏名又は名称】アンスティチュ・ナシオナル・デ・シアンス・ザプリケ・ドゥ・ルーアン・ノルマンディー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス・マート
(72)【発明者】
【氏名】シリル・エモニエ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マリー・ル・ブルトン
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-132052(JP,A)
【文献】特開2001-110615(JP,A)
【文献】特開2012-079947(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0311294(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第104668567(CN,A)
【文献】特開2017-039960(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00-5/00
B09B101/00-101/95
C22B7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子を対象物Aから回収する方法であって、
前記対象物Aが、前記磁性粒子の間に粒界相をさらに含む焼結磁石であり、
-前記粒界
相を変態させ、前記
磁性粒子を放出させることを意図した温度T
1及び圧力P
1の条件下で2g/molを超えるモル質量の高密度流体Fdに前記対象物Aを接触させる段階(302)であって、前記温度及び圧力の条件が、前記対象物A又は前記放出される
前記磁性粒子の溶融を引き起こす温度未満である段階と、
-前記粒界相の変態反応を停止させるために
、前記T
1
の温度値をT
2
の温度値に調整し、及び/又は、
前記P
1
の圧力値をP
2
の圧力値に調整する段階(303)と、
-
前記粒界相から分離された
前記磁性粒子を取り戻す段階(304)と、
を少なくとも含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記対象物Aが保護層によって囲まれており、前記保護層を弱化するために前記対象物を腐食性溶液と接触させる前処理段階(301)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記温度T
2及び/又は前記圧力P
2の値が、
前記粒界相から分離された
前記磁性粒子の物理化学的性質の完全性を維持するように選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
対象となる前記
磁性粒子の完全性を保護するために、
前記T
2
の温度値が100℃以下であり、前記P
2
の圧力値が0.1から25MPaであることを特徴とする、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記
粒界相を変態し、
前記粒界相から前記磁性粒子を分離するために、以下のリスト:水、蒸留水、アルコール、水/アルコール混合物、水と塩化ナトリウムとの混合物、及び、水とメタ重亜硫酸ナトリウムとの混合物から選択される高密度流体Fdが使用されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記反応を可能にするために前記高密度流体Fdに前記対象物Aを接触させる段階(302)が、温度センサC
T1及び圧力センサC
P1を備えた第1のチャンバ(1)で行われ、前記反応を停止させる段階(303)が、圧力センサC
P2及び温度C
T2を備えた第2のチャンバ(10)で行われることを特徴とする、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
-前記第1のチャンバにおいては、100℃から400℃の温度であり、
-前記第2のチャンバにおいては、100℃以下で前記流体の凝固温度以上の温度であり、
-前記第2のチャンバにおいては、25MPa未満で0.1MPaを超える圧力である、
温度及び圧力の条件下で動作することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記
磁性粒子が篩分けによって回収されることを特徴とする、請求項1から7の何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記
磁性粒子がサイクロン効果によって回収されることを特徴とする、請求項1から8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記対象物AがNd-Fe-B磁石で構成され、Nd
2Fe
14B微結晶並びに少量の水酸化ネオジムNd(OH)
3を分離することを特徴とする、請求項1から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記Nd-Fe-B磁石を、室温で蒸留水とNaClとから構成される溶液に接触させる前処理段階を含むことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
磁性粒子を対象物Aから回収する装置であって、
前記対象物Aが、前記磁性粒子の間に粒界相をさらに含む焼結磁石であり、
-請求項1から
5の何れか一項
又は請求項8から11の何れか一項に記載の方法の段階を実行するために、前記対象物Aを含有し、2g/molを超えるモル質量の高密度流体Fdのための導入管(5)、温度設定モジュール(20)、並びに、温度制御器C
T1、C
T2及び圧力C
P1、C
P2を備える第1のチャンバ(1)と、
-
前記粒界相から
分離される磁性粒子を回収するためのモジュール(14、26)と、
を少なくとも備えることを特徴とする装置。
【請求項13】
前記対象物
Aを含む第1のチャンバ(1)と、密封手段(3、4)と、
2g/molを超えるモル質量の高密度流体Fdのための第1の導入管(5)と、
前記第1のチャンバ(1)内の温度及び圧力を監視するための温度センサC
T1
及び圧力センサC
P1
と、前記
粒界相の変態に役立つ前記高密度流体Fd及び前記放出される
前記磁性粒子を含む混合物の排出管(8)
とを少なくとも備え、
前記排出管(8)が、前記混合物の導入のための管(8)と、前記反応で使用された前記高密度流体を回収するために放出された前記
磁性粒子の通路を妨げるグリッド又は篩(12)を備えた排出管(11)と、前記第1のチャンバ(1)に対する前記高密度流体のためのリサイクル回路(11、13)と、を備える第2のチャンバ(10)に接触し、
前記第2のチャンバ(10)が、前記反応を停止させ、放出された前記
磁性粒子の物理化学的性質を維持するように設計された
温度センサC
T2
及び圧力センサC
P2
及び冷却手段(12)を備えていることを特徴とする、請求項
1から11の何れか一項に記載の
方法の段階を実施するための装置。
【請求項14】
処理される前記対象物を収容する第1のチャンバ(1)と、密封手段(3、4)と、高密度流体のための第1の導入管(5)と、前記
粒界相の変態に使用される前記高密度流体Fd及び前記分離される
磁性粒子を含有する混合物のための排出管(8)と、を少なくとも備え、
前記混合物が、前記反応を停止させ、前記放出される
磁性粒子の物理化学的性質を保持するように設計された温度制御手段(21)を備えるサイクロン型装置(24)に導入されることを特徴とする、請求項12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば焼結磁石、プラスチック磁石又は磁気テープ中の磁性粒子を回収するための方法及びシステムに関する。
【0002】
特に多くの産業分野で使用されているNd-Fe-B永久磁石の回収に適している。
【0003】
また、この方法の実施によって変態され得るマトリクスによってリンクされた対象となる要素を回収することが望まれる対象物の場合にも、その用途が見出される。
【背景技術】
【0004】
発明の詳細な説明の残りの部分において、「対象物」という語は、ポリマー、セラミック又は金属マトリクスと、磁性粒子、強誘電性粒子、電気的粒子、光学的粒子、機械的粒子、触媒的粒子等、すなわち、対象となる化学組成の粒子から回収された「粒子」とからなる物体を示す。「対象となる化学組成」又は「対象となる要素」という表現は、回収し、場合によっては評価することを望む要素を示す。例を挙げて以下の詳細な説明で説明する。高密度流体は、そのモル質量が2g/molを超える流体に対応する。
【0005】
マトリクスという用語は、粒子と様々な粒子の間の結び付きを可能にする相とに関連付けられている。マトリクスは、例えば、ポリマー、セラミック又は金属マトリクスであり得る。
【0006】
電気電子機器廃棄物(WEEE)を構成する「都市鉱山」の利用は、先進工業国によるこれらの要素の結果としての消費と環境の保護との両方によって動機づけられる特権的選択としての地位を確立し、それは、人の活動によって日々発生する廃棄物の可能な限り最善のリサイクルを必要とする。WEEEからの永久磁石のリサイクルは、すべての材料を評価することを可能にするプロセスの開発を必要とする。
【0007】
焼結磁石、プラスチック磁石又は磁気テープにおける対象となる材料の中には、磁石を含有する対象物の解体から直接得られるネオジムNd-Fe-B磁石又はサマリウムコバルトSm-Co磁石のような磁石があり、例えばハードドライブ、スピーカー、電気モーターなどのようなWEEEがある。
【0008】
これらの対象物の磁性相を再利用するために、水素処理と、それに続いて、高温アニーリングを用いて水素を脱着させることが知られている。
【0009】
水素デクレピテーション処理は、希土類合金及び磁石を「粉砕」するための既知の方法である。
【0010】
デクレピテーション処理において、水素は、最初に粒界と反応する。なぜなら、これらは、主に希土類元素から構成されており、それ故に非常に反応性が高いからである。続いて、水素化粒界がこのように弱まると、水素は、磁性粒子に導入されて水素化化合物が形成される。水素の挿入によって引き起こされる粒界の脆化及び結晶格子の拡大(Nd-Fe-B磁石の場合には約5%の体積増加が見られる)は、材料の原子化を誘発するであろう。磁性粒子は、その後粉末の形態で回収され、新しい磁性材料の製造に使用することができる。
【0011】
米国特許第6,633,837号明細書には、ボンド磁石を溶解することによる回収方法を開示されている。
【0012】
米国特許第8,734,714号明細書には、磁性要素から希土類元素を回収するために水素を使用して磁性相を回収する方法が開示されている。水素ガスの使用は、非常に重要な安全上の予防措置を課す。
【0013】
他の方法では、強酸浴を使用して磁石を溶解し、ネオジムを抽出し、これは、経済的及び環境的問題を引き起こす。さらに、酸は、一度だけ処理して使用しなければならない。
【0014】
湿式冶金法は、酸浴を使用して材料を溶解し、これは、強い環境的制約がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第6,633,837号明細書
【文献】米国特許第8,734,714号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
したがって、現在、環境を保護しながら磁気特性を劣化させることなく磁性元素を回収することができる工業的方法を得る必要性がある。本発明による方法は、溶融ではなく元素の変態に基づいて水/ソルボサーマル処理を実施する。温度及び圧力の条件は、放出される対象物又は要素の溶融を引き起こす条件の下に留まるように選択される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、マトリクスMに存在する要素Gを対象物Aから回収する方法であって、
-前記粒界相又は前記マトリクスMを変態させ、前記要素Gを放出させるように設計された温度T1及び圧力P1の条件下で2g/molを超えるモル質量の高密度流体Fdに前記対象物Aを接触させる段階であって、前記温度及び圧力の条件が、前記対象物A又は前記放出される要素Gの溶融を引き起こす温度未満である段階と、
-前記粒界相の変態反応を停止させるために前記T2温度及び/又はP2圧力値を調整する段階と、
-前記マトリクスMから分離された要素Gを取り戻す段階と、
を少なくとも含むことを特徴とする方法に関する。
【0018】
前記対象物が保護層によって囲まれているとき、この方法は、前記保護層を弱化するために前記対象物Aを腐食性溶液と接触させる前処理段階を含む。
【0019】
前記温度T2及び/又は前記圧力P2の値は、前記マトリクスMから分離された要素Gの物理化学的性質の完全性を維持するように選択される。
【0020】
前記反応を停止させるために、この方法は、対象となる前記要素Gの完全性を保護するように、前記温度の値を100℃以下に低下させ、前記圧力を0,1から25MPaに低下させる。
【0021】
前記粒界を変態し、前記マトリクスから対象の前記要素を分離するために、以下のリスト:水、蒸留水、アルコール、水/アルコール混合物、水と塩化ナトリウムとの混合物、及び、水とメタ重亜硫酸ナトリウムとの混合物から選択される高密度流体Fdの使用がなされる。
【0022】
前記反応を可能にする前記高密度流体Fdに前記対象物Aを接触させる段階は、温度センサCT1及び圧力センサCP1を備えた第1のチャンバで行われ、前記反応を停止させる段階は、圧力センサCP2及び温度CT2を備えた第2のチャンバで行われる。
【0023】
この方法は、
-前記第1のチャンバにおいては、前記高密度流体との接触が行われる100℃から400℃の温度であり、
-前記変態が停止される前記第2のチャンバにおいては、100℃以下で前記流体の凝固温度を超える温度であり、
-前記第2のチャンバにおいては、25MPa未満で0.1MPaを超える圧力である、
温度及び圧力の条件下で行われる。
【0024】
前記要素Gは、篩分け又はサイクロン効果によって回収される。
【0025】
この方法は、焼結磁石又はプラスチック磁石の磁性粒子の回収のために行われる。
【0026】
前記対象物Aは、Nd-Fe-B磁石で構成され、Nd2Fe14B微結晶及び少量の水酸化ネオジムNd(OH)3は、分離される。
【0027】
この方法は、前記Nd-Fe-B磁石を、室温で蒸留水とNaClとから構成される溶液に接触させる前処理段階を含む。
【0028】
本発明は、マトリクスMに存在する要素Gを対象物Aから回収する装置であって、
-本発明による方法の段階を実行するために、前記対象物Aを含有し、2g/molを超えるモル質量の高密度流体Fdを導入するための管、温度制御、並びに、温度制御モジュールCT1、CT2及び圧力CP1、CP2を備える第1のチャンバと、
-前記マトリクス、特に前記粒界相から要素Gを回収するためのモジュールと、
を少なくとも備えることを特徴とする装置に関する。
【0029】
一変形例によれば、この装置は、処理される前記対象物Aと、密封手段と、高密度流体Fdを導入するための第1の管と、前記マトリクスMの変態に使用される前記高密度流体Fd及び前記放出される要素Gを含有する混合物を排出するための管とを含む第1のチャンバを少なくとも備え、前記排出管が、前記反応で使用された前記高密度流体を回収するために、放出された前記粒子の通路を妨げるグリッド又はスクリーンを備える排出管と、前記第1のチャンバに対する前記高密度流体のリサイクル回路と、を備える第2のチャンバに接続され、前記第2のチャンバが、前記反応を停止させ、放出された前記粒子の物理化学的性質を維持するように設計された制御手段を備えている。
【0030】
他の変形例によれば、この装置は、処理される前記対象物Aを収容する第1のチャンバと、密封手段と、高密度流体を導入するための第1の管と、前記マトリクスMの変態に使用される前記高密度流体Fd及び前記分離される要素Gを含有する混合物を排出するための管と、を少なくとも備え、前記混合物が、前記反応を停止させ、前記放出される粒子の物理化学的性質を保持するように設計された温度制御手段を備えるサイクロン型装置に導入される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本発明の他の特徴及び利点は、図面に関連した以下の説明を読むことにより明らかになるであろう。
【0032】
【
図1A】本発明による方法を実施するための概略装置を示す図である。
【
図1B】本発明による方法を実施するための概略装置の代替的な実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明による方法を明確に理解するために、以下の実施例は、対象物A内の磁性相(ネオジム-鉄-ホウ素)Nd-Fe-Bを回収するための非限定的な例示として与えられ、このNd-Fe-B磁性相は、マトリクスMによって焼結され、又は結合されている。ネオジム-鉄-ホウ素合金は、1から20μmのサイズのNd2Fe14B粒子からなる。この材料に磁気特性を与える粒子がある。これらの粒子の間には、ネオジムを主成分とする粒界相があり、このため、文献では「ネオジムリッチ」と呼ばれる。この粒界相は、粒子を磁気的に切断し、高い保磁力、すなわち減磁抵抗を有する材料を与える。マトリクスでコーティングされた磁性材料は全て、この方法で処理できる。この方法は、回収し、評価したい、マトリクス中に分散している任意の対象元素又は対象粒子に適用することができ、このマトリクスは、合金、セラミック又はポリマーであり得る。
【0034】
図1Aは、例えば、WEEEの解体から直接もたらされるNd-Fe-B磁石のような、処理されるべき対象物が配置されるオートクレーブチャンバを図式化している。チャンバ1は、処理すべき対象物「A」を導入するための開口部2と、例えば気密シールを確実にするためのシール4を備えたカバー3とを備える。例えばバルブ6を備えた第1の導入管5は、貯蔵器7に貯蔵された溶媒のような高密度流体Fdを注入することを可能にする。先に定義したように、流体又は高密度流体は、粒界相の変態を引き起こすという特異性を有し、従って、この例では、温度及び圧力の選択された動作条件下で粒子の磁気特性を維持しながらNd
2Fe
14B粒子を放出することができる。プロセスの通常の運転において水素を使用しないという事実は、有利には、安全上の懸念を克服することを可能にする。
【0035】
チャンバはまた、処理されて、例えば容器16内に格納される対象物のための連続的な導入管15を備えていてもよい。
【0036】
例えば、処理される対象物Aは、以下からなるネオジム-鉄-ホウ素焼結永久磁石である:
-ネオジムを主成分とする粒界相からなり、このため、文献では「ネオジムリッチ」と呼ばれ、材料に磁気特性を与える、1から20μmの粒径のNd2Fe14B粒子。
【0037】
対象部Aはまた、以下を有する複合プラスチック磁石であり得る:
-ポリマーで作られた粒界マトリクス又は相、及び、
-プラスチックマグネットの用途に応じた様々な組成の磁性粒子。
【0038】
セラミックの場合、マトリクスは、無機相になる。
【0039】
変態に使用された流体とNd2Fe14B粒子とを含む混合物は、バルブ9を備えた排出管8を通って排出され、この排出管は、例えば第2のチャンバ10に開かれている。
【0040】
この第2のチャンバ10は、反応に使用された流体を主に回収するためにNd2Fe14B粒子の通過を防止するために選択された寸法のオリフィスを含むスクリーン又は篩12を備えた排出管11を備える。次いで、流体は、ポンプ13を用いて管11を通って、例えばメインチャンバ1の導入管5に再利用される。粒子Nd2Fe14Bは、第2のチャンバ10に保持される。粒子Nd2Fe14Bは、チャンバの底にあるハッチ14で排出することができる。第2のチャンバ10の貯蔵条件(温度及び/又は圧力)は、マトリクスから分離された磁性粒子が劣化せず、酸化せず、それらの磁気特性を保持するように選択される。
【0041】
分離された粒子を回収するための別の解決策は、特に、
図1Bに示すように、第2のチャンバにサイクロンタイプの装置24を使用することにある。Nd
2Fe
14B粒子と流体とを含有する混合物は、管25によって、本体と円錐部とからなるサイクロンに導入される。サイクロン型装置は、
図1Bに示すように、冷却手段21と温度及び圧力センサC
T2、C
P2を備えている。Nd
2Fe
14B粒子は、高密度流体から分離され、排出管26を介して回収される。流体は、例えば
図1Aのものと同様の再循環回路に接続された管27を通して排出される。
【0042】
変態が行われるチャンバ1又はメインチャンバはまた、粒子を解放するためのマトリクス又は粒界相の変態を開始するのに必要な温度に達するために加熱手段20を備えている。加熱手段20は、例えば、発熱抵抗体又は他の任意の適切な加熱装置の形態である。チャンバ1は、例えば、反応が起こるメインチャンバ1内の温度及び圧力を監視するために温度センサCT1及び圧力センサCP1を備えている。
【0043】
第2のチャンバ10は、Nd-Fe-B磁石処理の場合には、反応を停止させ、Nd2Fe14B粒子の磁気相の組成を安定させるために、温度センサCT2及び圧力センサCP2並びに冷却手段12を備えている。
【0044】
図2は、回収される対象物が磁石であり得る、支持体32上に取り付けられた、ニッケル33で覆われたNd-Fe-B磁石31を含むコンピュータハードディスク30を示す。
【0045】
図3は、例えば
図1に示す装置によって磁性相を回収するために実施される段階を示す。
【0046】
第1の段階301は、任意選択であり、可能性のある保護層を弱めるために対象物Aを腐食性の溶液、例えばニッケル層用のNaCl塩化ナトリウム溶液に浸すことからなり、この保護層は、部分的に攻撃され、これは、第1のチャンバ1内での反応中におけるその脆化及びその破砕を引き起こす。ポリマーマトリクスの場合、それは、第1のチャンバでの処理中に解重合して可溶化する。
【0047】
第2の段階302において、磁性粒子を解放するために、対象物Aを、対象の相を包含するマトリクス、粒界相又は有機マトリクスの変態を引き起こすように選択された高密度流体に浸漬又は接触させる。チャンバ1は、所望の温度T1及び圧力P1に加熱及び加圧される。温度及び圧力の条件は、対象物A又は放出される磁性粒子の融解を引き起こす温度を厳密に下回るように、例えば反応を引き起こすために250℃及び25MPaで選択される。事実、放出された粒子の融解はない。高密度流体Fdは、材料の粒界相の劣化を引き起こし、結晶粒のゆるみに続く固体磁石の原子化をもたらす。プラスチック磁石の場合、温度及び圧力の上昇は、マトリクスの解重合を引き起こし、有機化学種は、流体と同伴する。このようにして得られた粉末は、粒子の磁気特性を保持するためにできるだけ早く反応媒体から除去される。
【0048】
このために、第3の段階303における方法は、変態を停止するために温度の値を減少させ、これは、得られた要素の完全性の維持を温度及び圧力の条件が可能にする設備の領域に対する対象となる相の移動に対応する。この段階では、すでに反応した材料は脇に置くが、連続供給プロセスの場合は反応を継続することができる。この第2のチャンバでは、粒界相の変態を停止するために、温度T2は、冷却手段によって下げられ、100℃未満の値に維持され、圧力P2は、0.1MPaと25MPaとの間である。このプロセスの最後には、回収された粉末は、ミリメートル寸法の金属膜の残留物とマイクロメートルサイズの磁性粉末Nd2Fe14Bで構成されている。そのため、金属膜の残留物は、単純な篩分けで除去され得る。液体に溶解したポリマーマトリクスの場合、磁性粒子は、媒体から有機化学種を除去するために濾過中に保持される。この保護層は、回収され、当業者に知られている従来の金属リサイクル回路に直接一体化されることができる。環境の観点からは、これは、追加の利点である。
【0049】
例えば、第2のチャンバ内で実行される第4の段階304の間、粒子は流体から、濾過によって、磁気分離によって、「サイクロン」効果によって、又は当業者に知られており、この方法に適応している任意の方法によって抽出される。
【0050】
このようにして得られた粉末は、新たな磁性材料を製造するための原料となり得る。最終的な磁石の磁気特性は、処理条件によって異なるが、その後の製造技術、焼結、ポリマーマトリクスへの分散などによっても異なる。
【0051】
2つの相(マトリクス及び磁性粒子)は、前述のように単純な濾過又は磁気分離によって分離することができる。それは、最も適切な方法でこれら2つの段階の評価を可能にする。例えば、Nd-Fe-B磁石の場合、「ネオジムリッチ」マトリクスは、Nd(OH)3水酸化物の形態で回収される。その後、Nd2Fe14B成分は、磁性原料として回収され、Nd(OH)3部分は、再販される。
【0052】
篩にかけた後、粉末は、平均粒径10μmのNd2Fe14B微結晶と少量の水酸化ネオジムNd(OH)3で主に構成されている。
【0053】
変態に使用された流体は、主反応器への回路内の適切な回路によってリサイクルのために抽出されてもよい。
【0054】
反応に用いられる流体又は溶媒は、例えば、水又は蒸留水であり、これらは、使いやすく安価であるという利点を有する。アルコール又は水/アルコール混合物などの他の溶媒を使用することができる。添加することができる試薬は、例えば、業界で通常使用されている腐食剤のファミリーからのものである。これらの試薬は、マトリクスの分解を促進するが、目的の粒子の完全性に悪影響を及ぼさないようにする必要がある。一例として、遥かに少量使用され、反応時間に影響を与えるNaCl塩化ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムを挙げることが可能である。
【0055】
例えば、次の比率の混合物を使用することが可能である:1gのNaClと0.1gのNa2S2O5に対して100mlの水。他の腐食性の塩も使用できる。
【0056】
対象物Aの前処理の第1の段階は、例えばNd-Fe-B磁石を、蒸留水100mlとNaCl0.1gとの混合物を含む複合溶液と室温で2時間接触させることからなる。この工程により、特に試薬の不在下での作業、反応時間の短縮、設備の保護が可能になる。この方法は、磁気シード分離段階を行う前に第1のステップ301を行う。
【0057】
酸化に非常に敏感なネオジム-鉄-ホウ素永久磁石は、一般に、機器に使用されるときに外気に晒されるのを制限するために、1つ以上の金属膜で覆われる。それらは、エラストマー中に埋め込まれた粒子からなることもでき、それは、例えばポリマーマトリクス中のNd-Fe-B合金粉末から構成され、ここで、それらは、バウンド磁石又はプラスチック磁石と呼ばれる。この方法は、磁性粒子分離段階を行う前に第1のステップ301を行う。
【0058】
反応段階のための温度及び圧力の動作条件は、特に使用される流体に応じて選択され、その結果、使用される流体は劣化しない。例えば、その温度は、水の場合は、100℃から400℃であり得る。
【0059】
反応終了時の温度の値は、物理化学的プロセスを停止し、回収された粒子の磁気的性質を保持するために選択され、この値は、100℃未満であるが、流体の凝固温度より高いであろう。圧力値は、大気圧Patmから25MPaで様々であり得る。第2のチャンバで粒子の分離及び貯蔵を行うために使用される技術に応じて、圧力P2は、篩い分けの場合(例えば25MPa)に第1のチャンバの圧力と同じであり得、又は、例えばサイクロン溶液の使用の場合に0.1から25MPaの間であり得る。
【0060】
本発明の範囲から逸脱することなく、上述し且つ2つの別々のチャンバで行われる段階は、温度及び圧力センサ、並びに、この方法の全ての操作条件を満たすように適合される温度及び圧力を調節する手段を備えた単一のチャンバで行うことができる。この場合の単一のチャンバはまた、個別の粒子回収手段及び反応のための流体を備えており、それらは、リサイクル回路によってリサイクルされてもよい。
【0061】
上記の方法段階は、回収される要素が、マトリクス中に分散され、使用される流体が、選択された操作条件下で粒界相の変態を可能にする他の種類の材料にも適用される。
【0062】
本発明による方法は、WEEEに含まれる磁石を解体した後、材料の劣化及び環境への影響を最小限に抑えながら、粉末の形態で合金を粉末化することを可能にする。この粉末は、新しい磁性材料の製造に使用できる。この方法は、その実施が簡単であり、工業規模で容易に使用される。理論的には同じ反応槽を新しい磁石のリサイクルに再利用することができるので、この手順は、環境への影響が少ない。反応は、密閉された環境で起こり、大気中での蒸発はない。
【符号の説明】
【0063】
1 チャンバ
2 開口部
3 カバー
4 シール
5 導入管
6 バルブ
7 貯蔵器
8 排出管
9 バルブ
10 チャンバ
11 管
12 篩
13 ポンプ
14 ハッチ
15 導入管
16 容器
20 加熱手段
21 冷却手段
24 サイクロンタイプの装置
25 管
26 排出管
27 管
30 コンピュータハードディスク
31 Nd-Fe-B磁石
32 支持体
33 ニッケル