(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】電解液の原料、電解液の製造方法、及びレドックスフロー電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20220301BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20220301BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/02
(21)【出願番号】P 2019552768
(86)(22)【出願日】2018-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2018040913
(87)【国際公開番号】W WO2019093252
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017214891
(32)【優先日】2017-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000215800
【氏名又は名称】テイカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】加來 宏一
(72)【発明者】
【氏名】巽 遼多
(72)【発明者】
【氏名】鶴村 達也
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-079679(JP,A)
【文献】特開2013-008642(JP,A)
【文献】特開2002-193621(JP,A)
【文献】特開2003-331902(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/18
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒に溶解されて電解液を形成する電解液の原料であって、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である電解液の原料。
【請求項2】
X線回折の1番目から3番目に高いピークの少なくとも一つが、2θで20.0°以上25.0°以下、及び27.5°以上32.5°以下の少なくとも一つの位置にある請求項1に記載の電解液の原料。
【請求項3】
X線回折のピークが、2θで11.90°±0.5°、24.05°±0.5°、30.75°±0.5°、及び41.35°±0.5°の少なくとも一つの位置にある請求項1又は請求項2に記載の電解液の原料。
【請求項4】
X線回折のピークが、2θで19.45°±0.5°、26.00°±0.5°、48.10°±0.5°、及び54.00°±0.5°の少なくとも一つの位置にある請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の電解液の原料。
【請求項5】
X線回折のピークが、2θで22.80°±0.5°、40.20°±0.5°、及び43.70°±0.5°の少なくとも一つの位置にある請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の電解液の原料。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の電解液の原料を電解液の溶媒に溶解させる工程を備える電解液の製造方法。
【請求項7】
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに繋げられるタンクに電解液を貯留する工程を備え、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体であるレドックスフロー電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解液の原料、電解液の製造方法、及びレドックスフロー電池の製造方法に関する。
本出願は、2017年11月7日付の日本国出願の特願2017-214891に基づく優先権を主張し、前記日本国出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー由来の電力を蓄電する大容量の蓄電池の一つに、特許文献1のレドックスフロー電池(RF電池)が知られている。特許文献1のRF電池では、正極・負極の両方の電解液に、活物質としてマンガンイオンとチタンイオンの両方のイオンを含む電解液を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示に係る電解液の原料は、
溶媒に溶解されて電解液を形成する電解液の原料であって、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である。
【0005】
本開示に係る電解液の製造方法は、
本開示に係る電解液の原料を電解液の溶媒に溶解させる工程を備える。
【0006】
本開示に係るレドックスフロー電池の製造方法は、
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに繋げられるタンクに電解液を貯留する工程を備え、
前記電解液は、電解液の原料を溶媒に溶解して形成され、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係る電解液の原料をX線回折したときの分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)である。
【
図2】硫酸チタンと硫酸マンガンとの混合粉末、硫酸チタン粉末、及び硫酸マンガン粉末のそれぞれをX線回折したときの分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
上記電解液は、電解液の溶媒(例えば、硫酸水溶液)に溶質(電解液の原料)として硫酸塩(硫酸マンガン及び硫酸チタン)を溶解して製造している。この溶解時間は長いため、容易に溶解できることが望まれている。
【0009】
そこで、溶解し易くて溶解時間を短縮できる電解液の原料を提供することを目的の一つとする。
【0010】
また、上記電解液の原料を用いて電解液を製造する電解液の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0011】
更に、上記電解液の原料を溶解した電解液を用いてレドックスフロー電池を製造するレドックスフロー電池の製造方法を提供することを目的の一つとする。
【0012】
[本開示の効果]
上記電解液の原料は、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0013】
上記電解液の製造方法は、短時間で電解液を製造できる。
【0014】
上記レドックスフロー電池の製造方法は、レドックスフロー電池の生産性に優れる。
【0015】
《本開示の実施形態の説明》
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0016】
(1)本開示の一態様に係る電解液の原料は、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である。
【0017】
上記の構成によれば、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0018】
(2)上記電解液の原料の一形態として、
X線回折の1番目から3番目に高いピークの少なくとも一つが、2θで20.0°以上25.0°以下、及び27.5°以上32.5°以下の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる。
【0019】
上記の構成によれば、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0020】
(3)上記電解液の原料の一形態として、
X線回折のピークが、2θで11.90°±0.5°、24.05°±0.5°、30.75°±0.5°、及び41.35°±0.5°の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる。
【0021】
上記の構成によれば、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0022】
(4)上記電解液の原料の一形態として、
X線回折のピークが、2θで19.45°±0.5°、26.00°±0.5°、48.10°±0.5°、及び54.00°±0.5°の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる。
【0023】
上記の構成によれば、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0024】
(5)上記電解液の原料の一形態として、
X線回折のピークが、2θで22.80°±0.5°、40.20°±0.5°、及び43.70°±0.5°の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる。
【0025】
上記の構成によれば、溶解し易くて溶解時間を短縮できる。
【0026】
(6)本開示の一態様に係る電解液の製造方法は、
上記(1)から上記(5)のいずれか1つに記載の電解液の原料を電解液の溶媒に溶解させる工程を備える。
【0027】
上記の構成によれば、短時間で電解液を製造できる。溶解し易い電解液の原料を溶解するからである。
【0028】
(7)本開示の一態様に係るレドックスフロー電池の製造方法は、
正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える電池セルに繋げられるタンクに電解液を貯留する工程を備え、
前記電解液は、電解液の原料を溶媒に溶解して形成され、
前記電解液の原料は、
2質量%以上83質量%以下のTiと、
3質量%以上86質量%以下のMnと、
6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である。
【0029】
上記の構成によれば、レドックスフロー電池の生産性に優れる。タンクに貯留する電解液の製造時間が短いからである。
【0030】
《本開示の実施形態の詳細》
本開示の実施形態の詳細を、以下に説明する。実施形態での説明は、電解液の原料、電解液の製造方法、レドックスフロー電池の製造方法の順に行う。
【0031】
〔電解液の原料〕
図1(適宜
図2太線)を参照して実施形態に係る電解液の原料を説明する。実施形態に係る電解液の原料は、電解液の溶媒(後述)に溶解されて電解液を構築する。この電解液は、代表的には、レドックスフロー(RF)電池(図示略)の電解液として利用される。この電解液の原料の特徴の一つは、電解液の原料が特定量のTiとMnとSとを含む固体又は半固体である点にある。以下、詳細を説明する。
【0032】
電解液の原料は、TiとMnとSとを含む固体又は半固体である。固体としては、粉末、又は粉末を圧縮成形した圧粉成形体などが挙げられる。半固体としては、ペーストが挙げられる。即ち、粉末や圧粉成形体を構成する各粒子やペーストが特定量のTiとMnとSとを含む。電解液の原料(各粒子やペースト)の詳細な組成式は不明である。Tiの含有量は、例えば、2質量%以上83質量%以下が挙げられ、更に6質量%以上65質量%以下が挙げられ、特に15質量%以上52質量%以下が挙げられる。Mnの含有量は、例えば、3質量%以上86質量%以下が挙げられ、更に7質量%以上70質量%以下が挙げられ、特に18質量%以上58質量%以下が挙げられる。Sの含有量は、例えば、6質量%以上91質量%以下が挙げられ、更に10質量%以上75質量%以下が挙げられ、特に17質量%以上52質量%以下が挙げられる。Ti,Mn,及びSの含有量が上述の範囲を満たすことで、活物質としてTiイオンとMnイオンの両方を含む電解液を構築し易い。
【0033】
含有元素の種類及びその含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析法により求めることができる。
【0034】
電解液の原料(各粒子やペースト)の詳細な組織は、上述の組成式と同様、不明である。電解液の原料は、CuのKα線でX線回折(XRD)したとき、特定のピークを有する(
図1)。即ち、電解液の原料は、結晶構造を備えると考えられる。また、電解液の原料の結晶構造は、硫酸チタンと硫酸マンガンとの混合粉末が有するピークのうち、一部のピークを有さない(
図1、適宜
図2太線)。
【0035】
図1は、実施形態に係る電解液の原料(粉末)をX線回折したときの分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)である。
図2の太線は、硫酸チタンと硫酸マンガンとをそれらのモル比が1:1となるように混合した混合粉末をX線回折したときの分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)である。なお、参考として、
図2には、硫酸チタン粉末をX線回折したときの分析結果(細線)と、硫酸マンガン粉末をX線回折したときの分析結果(点線)とを併せて示している。
図1,
図2の縦軸は、ピークの強度(intensity/cps(count per second))を示し、横軸は、ピークの位置(2θ/deg)を示す。
【0036】
以下の説明におけるピークの位置は、断りが無い限り、CuのKα線でX線回折したときの2θでの位置をいう。以下の説明におけるピークの強度は、断りが無い限り、同分析によるピークの頂点とピークの根元との差をいう。即ち、ピークの強度は、バックグラウンドを除去したピークの強度をいう。バックグラウンドとは、測定試料を含まずに、測定試料の測定時と同様の測定条件でXRD測定を行ったときの強度と同一として定義できる。ピークの根元とは、ピークの存在しない点を結んだ線をいう。
【0037】
電解液の原料(各粒子やペースト)は、1番目から3番目に高いピークの少なくとも一つが20.0°以上25.0°以下、及び27.5°以上32.5°以下の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる(
図1)。例えば、1番目に高い(最大強度)のピークが27.5°以上32.5°以下の位置にあることが挙げられる(
図1)。1番目から3番目に高いピークの少なくとも一つが27.5°以上32.5°以下の範囲内に位置することにより、詳しいメカニズムは不明であるが、溶媒(後述)に溶解し易くて溶解時間を短縮できる。硫酸チタンと硫酸マンガンの個々の粉末や、硫酸チタンと硫酸マンガンとの混合粉末ではなく、電解液の原料がTiとMnとを含んでいるため、溶媒に溶解し易いと考えられる。
【0038】
硫酸チタンと硫酸マンガンとの上記混合粉末における最大強度のピークは、27.5°以上32.5°以下の位置に存在しない。上記混合粉末における最大強度のピークは、11.10°以下の位置に存在する(
図2太線)。混合粉末における最大強度のピークは、例えば、10.60°±0.5°に位置することが挙げられる。
【0039】
これに対して本例の電解液の原料における最大強度のピークは、11.10°以下の位置、例えば、10.60°±0.5°の位置に存在しない(
図1)。本例の電解液の原料における最大強度のピークは、例えば、30.75°±0.5°の位置にあることが挙げられる。この最大強度を示すピークの半価幅は、1°以下が挙げられる。本例の電解液の原料における11.10°以下の位置、例えば、10.60°±0.5°の位置(上記混合粉末における最大強度のピークの位置)のピークの強度は、例えば、本例における上記最大強度のピークの20%以下が挙げられ、更には15%以下が挙げられ、特に10%以下が挙げられる。
【0040】
電解液の原料における2番目に高い強度のピークは、例えば、27.5°以上32.5°以下の位置にあることが挙げられる。上記混合粉末における2番目に高い強度のピークは、27.5°以上32.5°以下の位置に存在しない。上記混合粉末における2番目に高い強度のピークは、例えば、18.50°±0.5°の位置に存在する(
図2太線)。これに対して本例の電解液の原料における2番目に高い強度のピークは、例えば、18.50°±0.5°の位置に存在しない(
図1)。本例の電解液の原料における2番目に高い強度のピークは、例えば、31.10°±0.5°の位置にあることが挙げられる。この2番目に高い強度を示すピークの半価幅は、1°以下が挙げられる。本例の電解液の原料における18.50°±0.5°の位置(上記混合粉末における2番目に高い強度のピークの位置)のピークの強度は、例えば、本例における上記2番目のピークの20%以下が挙げられ、更には15%以下が挙げられ、特に10%以下が挙げられる。
【0041】
電解液の原料における3番目に高い強度のピークは、例えば、20.0°以上25.0°以下の位置にあることが挙げられる。上記混合粉末における3番目に高い強度のピークは、例えば、20.0°以上25.0°以下の位置に存在しない。上記混合粉末における3番目に高い強度のピークは、例えば、25.60°±0.5°の位置に存在する(
図2太線)。これに対して本例の電解液の原料における3番目に高い強度のピークは、例えば、25.60°±0.5°の位置に存在しない(
図1)。本例の電解液の原料における3番目に高い強度のピークは、例えば、22.80°±0.5°、及び24.05±0.5°の少なくとも一つの位置にある。この3番目に高い強度を示すピークの半価幅は、1°以下が挙げられる。本例の電解液の原料における25.60°±0.5°の位置(上記混合粉末における3番目に高い強度のピークの位置)のピークの強度は、例えば、本例における上記3番目のピークの20%以下が挙げられ、更には15%以下が挙げられ、特に10%以下が挙げられる。
【0042】
これら1番目から3番目に高い強度のピークの全てが、20.0°以上25.0°以下の位置、又は27.5°以上32.5°以下の一方の位置にあってもよい。また、1番目から3番目に高い強度のピークの位置は、互いに入れ替わることを許容する。XRDの測定は、結晶の配向性などに影響を受け、同一組成の化合物であってもピーク強度比が変動する可能性があるためである。例えば、1番目に高いピークと2番目に高いピークとが、上述した27.5°以上32.5°以下の位置ではなく、20.0°以上25.0°以下の位置にあり、3番目に高いピークが、上述した20.0°以上25.0°以下の位置ではなく、27.5°以上32.5°以下の位置にあってもよい。1番目に高いピークと2番目に高いピークの一方と3番目に高いピークとが、20.0°以上25.0°以下又は27.5°以上32.5°以下の一方の位置にあり、1番目に高いピークと2番目に高いピークの他方が、20.0°以上25.0°以下又は27.5°以上32.5°以下の他方の位置にあってもよい。上述したように1番目に高いピークと2番目に高いピークとが27.5°以上32.5°以下の位置にある場合、1番目に高いピークが、30.75°±0.5°の位置ではなく、31.10°±0.5°の位置にあり、2番目に高いピークが31.10°±0.5°の位置ではなく、30.75°±0.5°の位置にあってもよい。
【0043】
更に、電解液の原料におけるピークは、11.90°±0.5°、19.45°±0.5°、26.00°±0.5°、41.35°±0.5°、48.10°±0.5°、及び54.00°±0.5°の少なくとも一つの位置にある。これらの位置に示すピークの半価幅は、1°以下が挙げられる。更に、電解液の原料におけるピークは、40.20°±0.5°、及び43.70°±0.5°の少なくとも一つの位置にあることが挙げられる。この位置に示すピークの半価幅は、1°以下が挙げられる。
【0044】
[用途]
実施形態に係る電解液の原料は、RF電池の電解液の原料に好適に利用できる。
【0045】
〔電解液の原料の作用効果〕
実施形態に係る電解液の原料は、溶解し易い。そのため、溶解時間を短縮できる。よって、RF電池の設置箇所で電解液の溶媒が調達可能であれば、電解液の原料のみをRF電池の設置箇所に運んで、その設置箇所で溶媒に溶解して電解液を製造することもできる。その場合、電解液の原料を溶解した電解液をRF電池の設置箇所に運ばなくてもよい。特に、電解液を電池の仕向地(国内外を問わず)で用いる場合、輸送する材料は、電解液の原料だけでよい。そのため、電解液自体を輸送する場合に比べて格段に輸送の手間や費用を削減できる。電解液の原料は、嵩が小さく軽量だからである。また、電解液の原料は、電解液の原料の組成を適宜選択するだけで所望の濃度の電解液を製造できる。そのため、電解液の濃度(成分)の調整が容易である。
【0046】
〔電解液の原料の製造方法〕
上述の電解液の原料の製造は、電解液の原料の形態に応じて適宜選択できる。上述の電解液の原料の製造は、電解液の原料の製造方法(I)~(III)により行える。電解液の原料の製造方法(I)は、半固体(ペースト)の電解液の原料を製造する方法であり、準備工程と、撹拌工程と、濾過工程とを備える。電解液の原料の製造方法(II)は、固体(粉末自体)の電解液の原料を製造する方法であり、電解液の原料の製造方法(I)の濾過工程後に更に乾燥工程を経る。即ち、電解液の原料の製造方法(II)は、準備工程と、攪拌工程と、濾過工程と、乾燥工程とを備える。電解液の原料の製造方法(III)は、固体(圧粉成形体)の電解液の原料を製造する方法であり、電解液の原料の製造方法(II)の乾燥工程後に更に成形工程を経る。即ち、電解液の原料の製造方法(III)は、準備工程と、攪拌工程と、濾過工程と、乾燥工程と、成形工程とを備える。上述の電解液の原料は、電解液の原料の製造方法(I)~(III)により製造されたものである。以下、各工程の詳細を説明する。
【0047】
[電解液の原料の製造方法(I)]
(準備工程)
準備工程では、TiとMnとが溶解した硫酸溶液を準備する。この硫酸溶液におけるTiとMnの濃度は、高濃度であることが好ましい。TiとMnの濃度が高濃度な硫酸溶液であれば、TiとMnとSの含有量が多い電解液の原料(各粒子やペースト)を製造し易い。また、TiとMnとSとを含む固体又は半固体の生成速度が加速されることも期待できる。ここでいう高濃度とは、硫酸溶液におけるTi及びMnの含有量が0.3mol/L(M)以上であることを言う。Ti及びMnの含有量は、更に0.5M以上が好ましく、特に1.0M以上が好ましい。Ti及びMnの含有量の上限値は、例えば5.0M以下程度が挙げられる。このTi及びMnの濃度を調整することで、製造される電解液の原料のTi及びMnの含有量を調整できる。
【0048】
(攪拌工程)
攪拌工程では、準備工程で準備した硫酸溶液を攪拌する。上記硫酸溶液の撹拌により、硫酸溶液中に析出物を析出させる。上記硫酸溶液を攪拌せず上記硫酸溶液を静置するだけでも析出物を析出させられなくもないが、上記硫酸溶液を攪拌することで析出物の析出時間を短くできる。上記硫酸溶液を撹拌する際、上記硫酸溶液に対して添加剤を加えることが好ましい。添加剤を加えることで、析出物の析出の促進を図れる。添加剤としては、例えば、(a)Ti粉末及びMn粉末、及び(b)硫酸溶液の少なくとも一つが挙げられる。加えるTi粉末としては、例えば、硫酸チタニル(TiSO4・2H2O)が挙げられる。加えるMn粉末としては、硫酸マンガンが挙げられる。上記粉末の投入量は、上記粉末の投入後における硫酸溶液中のTi及びMnのモル数が、上記粉末の投入前における硫酸溶液中のTi及びMnのモル数の1.005倍以上1.05倍以下となる量が挙げられる。加える硫酸溶液における硫酸の濃度は、例えば、70質量%以上が好ましく、更に80質量%以上が好ましく、特に90質量%以上が好ましい。加える硫酸溶液における硫酸の濃度は、98質量%程度が最も好ましい。硫酸溶液の投入量は、例えば、投入後の硫酸濃度が3.0M以上となる量が好ましく、更に投入後の硫酸濃度が5.0M以上となる量が好ましく、特に投入後の硫酸濃度が6.0M以上となる量が好ましく、投入後の硫酸濃度が7.0M以上となる量が最も好ましい。硫酸溶液の投入量の上限は、例えば、投入後の硫酸濃度が10.0M程度となる量が挙げられる。攪拌は、適宜な手法が利用でき、例えばスターラなどが利用できる。攪拌を止めた後、析出した析出物は、硫酸溶液中に沈殿する。
【0049】
(濾過工程)
濾過工程では、上記析出物を含む硫酸溶液を濾過する。この硫酸溶液の濾過により、析出物と上澄み液とを分離して析出物を取り出す。取り出した析出物は、ペーストである。このペーストは、TiとMnとSとを含み、上述した特定のピークが特定の位置に存在する。
【0050】
[電解液の原料の製造方法(II)]
(乾燥工程)
乾燥工程では、濾過工程で取り出した析出物を乾燥させる。この析出物の乾燥により、粉末状の電解液の原料を作製する。この電解液の原料を構成する各粒子は、TiとMnとSとを含み、上述した特定のピークが特定の位置に存在する。析出物の乾燥は、例えば、濾紙で水分を拭き取ることで、静置する場合に比較して素早く行える。乾燥工程は、析出物を加熱することで行ってもよい。
【0051】
[電解液の原料の製造方法(III)]
(成形工程)
成形工程では、乾燥工程で作製した粉末の電解液の原料を圧縮成形する。この圧縮成形により、圧粉成形体の電解液の原料を作製する。この圧粉成形体を構成する各粒子は、TiとMnとSとを含み、上述した特定のピークが特定の位置に存在する。作製する圧粉成形体の1個当たりの質量(サイズ)は、例えば、nL(n=任意の数値、L=リットル)の溶媒に対応した質量(サイズ)とすることが挙げられる。それにより、溶媒の容量に応じて圧粉成形体の個数を調整することで、電解液の調製を容易に行える。
【0052】
[用途]
上記電解液の原料の製造方法は、RF電池における電解液の原料の製造に好適に利用できる。上記電解液の原料の製造方法で製造された電解液の原料は、上述の撹拌工程での上記添加剤としても好適に利用できる。
【0053】
〔電解液の原料の製造方法の作用効果〕
電解液の原料の製造方法は、溶解し易くて溶解時間を短縮できる電解液の原料を製造できる。特に、電解液の原料の製造が容易である。攪拌と濾過と乾燥と成形はいずれも単純作業であるからである。また、種々の組成の電解液の原料を容易に製造できる。準備する硫酸溶液のTi及びMnの濃度を調整すれば、製造される電解液の原料のTi及びMnの含有量を調整できるからである。
【0054】
〔電解液の製造方法〕
上述した実施形態に係る電解液の原料、又は上述の電解液の原料の製造方法により製造された電解液の原料は、上述したように電解液を構築する。電解液は、溶解工程を備える電解液の製造方法により製造される。
【0055】
[溶解工程]
溶解工程では、実施形態に係る電解液の原料、又は上述の電解液の原料の製造方法により製造された電解液の原料を電解液の溶媒で溶解する。この溶解により、電解液を製造でき、特に、RF電池用の電解液を製造できる。
【0056】
電解液の溶媒の種類は、例えば、H2SO4、K2SO4、Na2SO4、H3PO4、H4P2O7、K2HPO4、Na3PO4、K3PO4、HNO3、KNO3、HCl、及びNaNO3から選択される少なくとも一種の水溶液が挙げられる。その他、電解液の溶媒の種類は、有機酸溶液や水が挙げられる。
【0057】
この電解液は、TiイオンとMnイオンとSイオン(硫酸イオン:SO4
2-)とを含む。溶解する電解液の原料が、上述のようにTiとMnとSとを含むからである。電解液におけるTiイオン及びMnイオンの濃度はそれぞれ、0.3M以上5.0M以下が好ましく、更に0.5M以上が好ましく、特に1.0M以上が好ましい。電解液におけるSイオン(硫酸イオン:SO4
2-)の濃度は、1.0M以上10.0M以下が好ましく、更に1.0M以上5.0M以下が好ましく、特に1.0M以上4.0M以下が好ましい。電解液におけるTiイオンの価数は4価が好ましく、Mnイオンの価数は2価が好ましい。
【0058】
[用途]
実施形態に係る電解液の原料の製造方法は、RF電池の電解液の製造に好適に利用できる。
【0059】
〔電解液の製造方法の作用効果〕
実施形態に係る電解液の製造方法は、短時間で電解液を製造できる。溶解し易い電解液の原料を溶解するからである。
【0060】
〔レドックスフロー電池の製造方法〕
上述した実施形態に係る電解液の製造方法により製造された電解液は、上述したようにRF電池の電解液として利用される。RF電池は、代表的には、電池セルと、タンク(正極と負極)と、循環機構(正極と負極)とを備える。電池セルは、正極電極と、負極電極と、前記正極電極と前記負極電極との間に介在される隔膜とを備える。タンクは、電解液を貯留する。循環機構は、電池セルとタンクとを繋ぎ、電解液を電池セルに供給して循環させる。RF電池は、電解液を除いて公知の構成を利用できる。RF電池は、貯留工程を備えるRF電池の製造方法により製造される。
【0061】
[貯留工程]
貯留工程では、電解液をタンクに貯留する。この電解液は、電解液の原料を溶媒に溶解して形成されたもので、上述の実施形態に係る電解液の製造方法により製造された電解液である。電解液の原料は、上述した実施形態に係る電解液の原料、又は上述の電解液の原料の製造方法により製造された電解液の原料である。即ち、電解液の原料は、2質量%以上83質量%以下のTiと、3質量%以上86質量%以下のMnと、6質量%以上91質量%以下のSとを含む固体又は半固体である。溶媒は、上述した溶媒を利用できる。貯留工程では、電解液をタンク内で作製することでタンク内に貯めてもよいし、別途タンク外で作製した電解液をタンク内に注ぐことで貯めてもよい。電解液をタンク内で作製する場合には、例えば、タンク内に溶媒(硫酸溶液)を貯留しておき、その溶媒に電解液の原料を投入して溶解することが挙げられる。
【0062】
[用途]
実施形態に係るRF電池の製造方法は、RF電池の製造に好適に利用できる。
【0063】
〔レドックスフロー電池の製造方法の作用効果〕
実施形態に係るRF電池の製造方法は、RF電池の生産性に優れる。タンクに貯留する電解液の製造時間が短いからである。
【0064】
《試験例1》
電解液の原料作製して、電解液の原料の構造を分析すると共に溶解性を評価した。
【0065】
〔試料No.1-1〕
試料No.1-1の電解液の原料は、上述した電解液の原料の製造方法(II)と同様にして、準備工程、攪拌工程、濾過工程、乾燥工程を順に経て作製した。即ち、作製した試料No.1-1の電解液の原料は粉末である。
【0066】
[準備工程]
準備工程では、Tiの濃度が1.5M、Mnの濃度が1.2M、Sの濃度が7.0Mの硫酸溶液を準備した。この硫酸溶液は、硫酸チタン粉末と硫酸マンガン粉末とを用意し、両粉末を硫酸溶媒に溶解して作製した。
【0067】
[攪拌工程]
攪拌工程では、上記硫酸溶液をスターラで攪拌した。この攪拌は、上記硫酸溶液中にある程度の量の析出物が沈殿するまで行った。
【0068】
[濾過工程]
濾過工程では、析出物と上澄み液とを分離して析出物を取り出した。
【0069】
[乾燥工程]
乾燥工程では、取り出したペースト状の析出物を濾紙で拭き取り、粉末状となるまで乾燥させて粉末の電解液の原料を作製した。
【0070】
〔成分分析〕
電解液の原料の成分をICP発光分光分析法により分析した。この分析は、市販のICP発光分光分析装置(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製 iCAP6300)を用いて行った。
【0071】
試料No.1-1の電解液の原料は、Tiを8.39質量%、Mnを9.01質量%、Sを14.82質量%含んでいた。この結果から、試料No.1-1におけるTiとMnとSのモル比は、Ti:Mn:S=1.0:0.9:2.6であり、試料No.1-1の組成は、例えば、Ti1.0Mn0.9SO4(2.6)・12H2Oであることが推定できる。
【0072】
〔試料No.1-101〕
試料No.1-101の電解液の原料は、硫酸チタン粉末と硫酸マンガン粉末とを準備し、両粉末をこれらのモル比が1:1となるように混合して作製した。
【0073】
〔構造分析〕
各試料の電解液の原料をCuのKα線でX線回折して、その電解液の原料のピークの位置と強度とを分析した。この分析は、市販のXRD装置(Philips社製 X‘pert-PRO)を用いた。試料No.1-1の分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)を
図1に示す。試料No.1-101の分析結果を示す片対数グラフ(縦軸が対数目盛)を
図2の太線で示す。参考として、
図2には、試料No.1-101の硫酸チタン粉末を同様にX線回折したときの分析結果(細線)と、試料No.1-101の硫酸マンガン粉末を同様にX線回折したときの分析結果(点線)とを併せて示している。各図の縦軸は、ピークの強度(intensity/cps(count per second))、横軸は、ピークの位置(2θ/deg)を示す。
【0074】
試料No.1-1の電解液の原料は、
図1に示すように、最大強度のピークが10.60°±0.5°の位置に存在しないことがわかる。最大強度のピークは、27.5°以上32.5°以下の位置、具体的には略30.75°の位置に存在することがわかる。また、2番目に高い強度のピークは、18.50°±0.5°の位置に存在しないことがわかる。2番目に高い強度のピークは、27.5°以上32.5°以下の位置、具体的には略31.10°の位置に存在することがわかる。更に、3番目に高い強度のピークは、25.60°±0.5°の位置に存在しないことがわかる。3番目に高い強度のピークは、20°以上25°以下の位置、具体的には略22.80°の位置と略24.05の位置とに存在することがわかる。これらの強度を示すピークの半価幅はいずれも、1°以下であることが分かる。そして、その他のピークは、代表的には、略11.90°、19.45°、26.00°、40.20°、41.35、43.70°、48.10°、及び54.00°などの位置にあることが分かる。
【0075】
一方、試料No.1-101の電解液の原料は、
図2の太線に示すように、最大強度のピークが27.5°以上32.5°以下の位置に存在しないことがわかる。最大強度のピークは、10.60°の位置に存在することがわかる。また、2番目に高い強度のピークは、27.5°以上32.5°以下の位置に存在しないことがわかる。2番目に高い強度のピークは、18.50°の位置に存在することがわかる。更に、3番目に高い強度のピークは、20°以上25°以下の位置に存在しないことがわかる。3番目に高い強度のピークは、25.40°の位置に存在することがわかる。
【0076】
図1,
図2に示すように、試料No.1-1の電解液の原料におけるXRDの分析結果は、試料No.1-101の電解液の原料におけるXRDの分析結果と大きく異なることがわかる。その上、試料No.1-1の電解液の原料におけるXRDの分析結果は、試料No.1-101の硫酸チタン粉末及び硫酸マンガン粉末におけるXRDの分析結果と大きく異なることがわかる。即ち、試料No.1-1の電解液の原料は、試料No.1-101の電解液の原料と試料No.1-101の硫酸チタン粉末及び硫酸マンガン粉末と、異なる物質であると考えられる。
【0077】
〔溶解性の評価〕
各試料の電解液の原料の溶解性を評価した。この評価は、電解液の溶媒に対する電解の原料の溶解時間を測定することで行った。溶解時間は、電解液の原料と溶媒とを混合してから、その混合液が透明(電解液)になるまでの時間とした。ここでは、溶媒には、3Mの硫酸2.4mlとこの硫酸溶媒と同量の純水の2種類用いた。それぞれの溶媒と1gの電解液の原料とを混合した。
【0078】
試料No.1-1の電解液の原料における溶解時間は、硫酸溶媒を用いた場合、2分であり、純水を用いた場合、1分であった。一方、試料No.1-101の電解液の原料における溶解時間は、硫酸溶媒を用いた場合、180分であり、純水を用いた場合、30分であった。このように、試料No.1-1の電解液の原料における溶解時間は、試料No.1-101の電解液の原料における溶解時間よりも大幅に短いことがわかった。
【0079】
試料No.1-1及びNo.1-101の電解液の原料を溶解した電解液の成分を、上述の成分分析と同様、ICP発光分光分析法により分析した。試料No.1-1及びNo.1-101のいずれも、硫酸溶媒を用いた場合、その電解液におけるTiの濃度は、0.61Mであり、Mnの濃度は、0.57Mであり、Sの濃度は、4.07Mであった。また、試料No.1-1及びNo.1-101のいずれも、純水を用いた場合、その電解液におけるTiの濃度は、0.61Mであり、Mnの濃度は、0.57Mであり、Sの濃度は、1.2Mであった。この結果から、試料No.1-1の電解液の原料を溶媒に溶解した電解液は、RF電池の電解液として利用可能であることがわかった。
【0080】
本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。