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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/20 20060101AFI20220301BHJP
   F16C 17/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
F16C33/20 A
F16C17/02 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020055998
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021156337
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2020-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591001282
【氏名又は名称】大同メタル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲見 茂
(72)【発明者】
【氏名】安田 絵里奈
(72)【発明者】
【氏名】二村 健治
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-132387(JP,A)
【文献】特開2019-168017(JP,A)
【文献】特開2009-162246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/20
F16C 17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
相手部材と摺動する摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材であって、
前記樹脂オーバレイ層は、
表面の粗さパラメータRkが0.4≦Rk≦1.2であるとともに、
任意の測定視野の面積をS1、及び前記測定視野の表面積をS2として算出した表面積比S=S2/S1が2.5≦S≦4.5である、
摺動部材。
【請求項2】
前記粗さパラメータRkは、0.6≦Rk≦1.0である請求項1記載の摺動部材。
【請求項3】
前記樹脂オーバレイ層は、5.0vol%~30vol%の固体潤滑剤を含む請求項1又は2記載の摺動部材。
【請求項4】
前記固体潤滑剤は、1.0vol%~15vol%のフッ素系樹脂を含む請求項3記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸受合金層の摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える摺動部材が公知である(特許文献1参照)。このような樹脂オーバレイ層は、相手部材との摺動時に潤滑油に気泡が発生すると、この気泡が破裂する際に衝撃力を受ける。この衝撃力は、樹脂オーバレイ層の軸受合金層からの剥離など、いわゆるキャビテーション損傷を招く原因となる。特許文献1では、固体潤滑剤を含有する樹脂オーバレイ層を用いることにより、キャビテーション損傷の低減を図っている。
【0003】
しかしながら、摺動部材を適用する機器のさらなる性能向上にともない、潤滑油における気泡はより発生しやすくなっている。そのため、特許文献1のような対策ではキャビテーション損傷の低減には不十分であるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-47276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、気泡の大きさを制御することで気泡の破裂時に受ける衝撃力を低減し、キャビテーション損傷を低減する摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために本実施形態の摺動部材は、相手部材と摺動する摺動面側に樹脂オーバレイ層を備える。前記樹脂オーバレイ層は、表面の粗さパラメータRkが0.4≦Rk≦1.2であるとともに、任意の測定視野の面積をS1、及び前記測定視野の表面積をS2として算出した表面積比S=S2/S1が2.5≦S≦4.5である。
【0007】
発明者は、摺動時に発生する気泡の大きさが、樹脂オーバレイ層の粗さパラメータRk及び表面積比Sに相関し、キャビテーション損傷に与える影響が変化することを見出した。つまり、キャビテーション損傷は、気泡の総体積を同一としたとき、微細な多数の気泡よりも、比較的大きな単一の気泡の方が低減されることがわかった。これにより、樹脂オーバレイ層の粗さパラメータRk及び表面積比Sを制御し、摺動時に発生する気泡の大きさをより大きくなる側へ誘導することによって、キャビテーション損傷は低減される。本実施形態では、上記のように粗さパラメータRk及び表面積比Sを制御することにより、気泡がより大きくなり、樹脂オーバレイ層が気泡の破裂時に受ける衝撃力が低減される。したがって、キャビテーション損傷を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態による摺動部材の断面を示す模式図
図2】一実施形態による摺動部材を示す模式的な斜視図
図3】一実施形態による摺動部材の製造方法を示す模式的な斜視図
図4】一実施形態による摺動部材の試験機を示す模式図
図5】一実施形態による摺動部材の試験条件を示す概略図
図6】一実施形態による摺動部材の実施例及び比較例の試験結果を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、摺動部材の一実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように摺動部材10は、裏金層11、軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13を備えている。なお、摺動部材10は、裏金層11と軸受合金層12との間に図示しない中間層を備えていてもよい。また、摺動部材10は、図1に示す例に限らず、裏金層11との樹脂オーバレイ層13との間に、複数の軸受合金層12や中間層、その他の機能を有する層を備えていてもよい。摺動部材10は、樹脂オーバレイ層13側の端部に相手部材と摺動する摺動面14を形成する。図1に示す本実施形態の場合、摺動部材10は、裏金層11の摺動面14側に軸受合金層12及び樹脂オーバレイ層13が順に積層されている。裏金層11は、例えば鉄や鋼などの金属又は合金で形成されている。軸受合金層12は、例えばAl若しくはCu又はそれらの合金などで形成されている。
【0010】
樹脂オーバレイ層13は、図示しない樹脂バインダ及び固体潤滑剤で構成されている。樹脂バインダは、樹脂オーバレイ層13の主成分であり、例えばポリアミドイミド、ポリイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミド、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂及びエラストマー樹脂から選択される一種以上が用いられる。また、樹脂バインダは、ポリマーアロイであってもよい。本実施形態では、樹脂バインダとして、ポリアミドイミドを用いている。また、固体潤滑剤は、例えば無機化合物やフッ素樹脂などが用いられる。無機化合物としては、例えば二硫化モリブデン、二硫化タングステン、h-BN、フッ化黒鉛、グラファイト、マイカ、タルク、メラミンシアヌレートなどから選択される一種以上が用いられる。フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが用いられる。本実施形態の場合、樹脂オーバレイ層13は、固体潤滑剤を5vol%~30vol%含んでいる。そして、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤は、例えばPTFEなどのフッ素樹脂を1vol%~15vol%含むことが好ましい。
【0011】
樹脂オーバレイ層13は、例えば充填剤をはじめとする添加剤を加えてもよい。この場合、添加剤は、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化シリコン、酸化マグネシウムなどの酸化物、モリブデンカーバイド、炭化ケイ素などの炭化物、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、立方晶窒化ホウ素、ダイヤモンドなどから選択される一種以上が用いられる。
【0012】
本実施形態の樹脂オーバレイ層13は、その表面の粗さパラメータRkが0.4≦Rk≦1.2である。樹脂オーバレイ層13の表面は、樹脂オーバレイ層13が摩耗する前の摺動面14に一致する。また、樹脂オーバレイ層13の粗さパラメータRkは、0.6≦Rk≦1.0であることがより好ましい。この場合、粗さパラメータRkは、カットオフ値を0.08に設定している。
【0013】
本実施形態の樹脂オーバレイ層13は、その表面における表面積比Sが2.5≦S≦4.5である。ここで、表面積比Sは、次のように定義される。樹脂オーバレイ層13の表面である摺動面14に、図2に示すように任意の測定視野15を設定する。この測定視野15の投影面積はS1と定義する。また、この測定視野15における摺動面14の凹凸を考慮した表面積を測定し、この表面積はS2と定義する。得られた測定視野15における投影面積S1及び表面積S2から、表面積比Sは、S=S2/S1として算出される。本実施形態の場合、レーザ顕微鏡を用いることにより、測定視野15における投影面積S1及び表面積S2が測定され、測定された投影面積S1及び表面積S2を用いて表面積比Sを算出している。
【0014】
次に、上記の構成による摺動部材10の製造方法について説明する。
図3に示すように裏金層11の一方の面側に軸受合金層12が形成されたバイメタル20は、半円筒形状に形成される。この場合、バイメタル20は、裏金層11を半円筒形状とした後、内周側に軸受合金層12を形成してもよい。バイメタル20は、半円筒形状に限らず、円筒形状又は円筒を周方向へ複数の分割した形状であってもよい。
【0015】
バイメタル20は、軸受合金層12の表面に樹脂オーバレイ層13となる樹脂材21が塗布される。樹脂材21は、樹脂オーバレイ層13を構成する樹脂バインダ及び固体潤滑剤が溶剤に懸濁された懸濁混合物である。この場合、樹脂オーバレイ層13となる懸濁した樹脂材21は、バイメタル20の軸受合金層12と対向する位置に設けられたスプレー22から吹き付けることにより塗布される。この他にも、樹脂材21は、ロール、パッド又はスクリーンなど任意のコーティング手順によって軸受合金層12の表面に塗布してもよい。そして、塗布された樹脂材21は、図示しない熱源によって数秒程度の短時間で軸受合金層12とは反対側に位置する最表面のみが急速に乾燥される。熱源は、例えば赤外線源などが用いられる。このように塗布された樹脂材21の最表面のみを急速に乾燥することにより、形成される樹脂オーバレイ層13の表面は粗さパラメータRk及び表面積比Sが所望の値に制御される。なお、バイメタル20は、平板状のままで樹脂材21から樹脂オーバレイ層13を形成した後に、円筒形状や半円筒形状に形成してもよい。
以上のように、樹脂材21をバイメタル20に塗布して最表面を乾燥した後、樹脂材21の全体を乾燥させることにより、樹脂オーバレイ層13を備える摺動部材10が形成される。
【0016】
以下、本実施形態による摺動部材10の実施例を比較例と対比しながら説明する。
上記の手順によって製造した摺動部材10の実施例及び比較例の試料は、図4に示すような試験機30を用いて、図5に示す条件で試験した。試験は、摺動部材10の樹脂オーバレイ層13に剥離が生じるか否かによって評価した。具体的には、図4に示す試験機30は、水槽31及びホーン32を備えている。摺動部材の試料33は、水34を貯えた水槽31に設置され、その摺動面35に相当する位置にホーン32から超音波を照射した。ホーン32から試料33までの距離は、0.25mmに設定した。この試験機30において、試料33には19,000Hzの超音波を1回あたり10秒間照射した。試料33の評価は、試料33の樹脂オーバレイ層13が剥離したか否かを確認し、樹脂オーバレイ層13が剥離するまでの試験の回数で行なった。この図5に示す試験条件は、実際の使用条件で発生する気泡から摺動部材10が受ける影響よりも厳しくするために、ホーン32と摺動面35との距離を小さく、かつ発生する気泡が破裂する回数を増大させるものである。つまり、この試験条件は、気泡の破裂に対する影響を確認するための加速試験に相当する。
【0017】
図6に示すように、粗さパラメータRk及び表面積比Sを満たす実施例1~実施例11は、これら粗さパラメータRk及び表面積比Sを満たさない比較例1~比較例6と比較して、樹脂オーバレイ層13が剥離するまでの試験の回数が増加している。つまり、実施例1~実施例11は、上述のように厳しい条件下でも樹脂オーバレイ層13が剥離するまでの試験回数が増加している。これに対し、比較例1~比較例6の場合、樹脂オーバレイ層13は、いずれも剥離が生じている。これらの結果から、粗さパラメータRk及び表面積比Sを制御することにより、樹脂オーバレイ層13のキャビテーション損傷は低減されることが分かる。具体的には、樹脂オーバレイ層13は、粗さパラメータRkが0.4≦Rk≦1.2であり、かつ表面積比Sが2.5≦S≦4.5であるとき、キャビテーション損傷が低減される。
【0018】
本実施形態による摺動部材10の実施例1~実施例11は、いずれも粗さパラメータRk及び表面積比Sを制御することにより、樹脂オーバレイ層13の摺動面14側に生成する気泡が大型化する。生成する気泡は、総体積が同一であれば、細かな多数の気泡よりもより大きな少数の気泡の方が樹脂オーバレイ層13に与える影響が小さい。これは、気泡が小さくなるほど、気泡の内部における圧力が高まり、この気泡の破裂の際に周囲へ与える衝撃力が大きくなるからである。その結果、より小さな気泡は、樹脂オーバレイ層13に与える衝撃力が増大し、樹脂オーバレイ層13に損傷を与えることになる。本実施形態による摺動部材10の実施例1~実施例11は、樹脂オーバレイ層13の表面が制御されることによって生成される気泡が大型化する。その結果、実施例1~実施例11では、気泡が樹脂オーバレイ層13に与える影響は減少し、キャビテーション損傷が低減すると考えられる。
【0019】
また、実施例1~実施例11及び比較例1~比較例6によると、粗さパラメータRk又は表面積比Sのいずれか一方だけを満たしても、樹脂オーバレイ層13はキャビテーション損傷が低減されないことがわかる。このことからも、本実施形態による摺動部材の実施例1~実施例11のように、樹脂オーバレイ層13のキャビテーション損傷を低減するためには、粗さパラメータRk及び表面積比Sの両立が必要であることが分かる。
【0020】
実施例1~実施例5によると、粗さパラメータRkが0.6≦Rk≦1.0である実施例3~実施例5は、実施例1及び実施例2と比較して、キャビテーション損傷がより低減されることが分かる。表面積比Sが2.5≦S≦4.5、かつ粗さパラメータRkが0.6≦Rk≦1.0にあるとき、生成される気泡がより大型化し、樹脂オーバレイ層13のキャビテーション損傷をより低減することができる。
【0021】
次に、実施例1~実施例5と、実施例6~実施例8とを比較すると、樹脂オーバレイ層13に5.0vol%~30vol%の固体潤滑剤が含まれる実施例6~実施例8は、固体潤滑剤がこの範囲を超える実施例1~実施例5と比較して、キャビテーション損傷がより低減されることが分かる。これにより、樹脂オーバレイ層13に適度な固体潤滑剤を含むことで生成される気泡が大型化し、樹脂オーバレイ層13のキャビテーション損傷をより低減することができる。
【0022】
特に、実施例9~実施例11によると、樹脂オーバレイ層13が5.0vol%~30vol%の固体潤滑剤を含み、この固体潤滑剤としてフッ素樹脂を1.0vol%~15vol%含むとき、キャビテーション損傷がより低減されることが分かる。これにより、樹脂オーバレイ層13に含まれる固体潤滑剤を適量のフッ素樹脂とすることで生成される気泡が大型化し、樹脂オーバレイ層13のキャビテーション損傷をより低減することができる。
【0023】
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0024】
図面中、10は摺動部材、12は軸受合金層、13は樹脂オーバレイ層、14は摺動面を示す。
図1
図2
図3
図4
図5
図6