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特許7032512オレフィン製造のための一体化された熱分解・脱水素プロセス
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  • 特許-オレフィン製造のための一体化された熱分解・脱水素プロセス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】オレフィン製造のための一体化された熱分解・脱水素プロセス
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/333 20060101AFI20220301BHJP
   C07C 4/04 20060101ALI20220301BHJP
   C07C 11/06 20060101ALI20220301BHJP
   C07C 11/08 20060101ALI20220301BHJP
   C07C 11/16 20060101ALI20220301BHJP
   C10G 57/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C07C5/333
C07C4/04
C07C11/06
C07C11/08
C07C11/16
C10G57/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020501551
(86)(22)【出願日】2018-07-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-09-17
(86)【国際出願番号】 US2018042748
(87)【国際公開番号】W WO2019018563
(87)【国際公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-03-11
(31)【優先権主張番号】62/534,101
(32)【優先日】2017-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516148335
【氏名又は名称】ルーマス テクノロジー エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】サンダラム, カンダサミー, ミーナクシ
(72)【発明者】
【氏名】ベナー, ロナルド, エム.
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第02418255(US,A)
【文献】特開平02-311426(JP,A)
【文献】国際公開第2010/032609(WO,A1)
【文献】特表2012-515785(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0112344(US,A1)
【文献】米国特許第03342890(US,A)
【文献】特表2020-528053(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 4/00- 11/30
C10G 1/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン及び/又はジエンを製造するプロセスであって、
C1~C4炭化水素含有フィードを熱分解して、オレフィン及びパラフィンの混合物を含有する分解炭化水素エフルエントを生成する工程と、
上記分解炭化水素エフルエントを脱水素して、追加のオレフィン及び/又はジエンを含有する脱水素炭化水素エフルエントを生成する工程と
を含み、
上記分解炭化水素エフルエントは上記脱水素工程前に成分分離されず、
上記熱分解工程において、上記フィードはn-ブタンを含有し40モル%~60モル%の範囲の転化率に制御するか、または、上記フィードはプロパンを含有し25モル%~40モル%の範囲の転化率に制御する、
プロセス。
【請求項2】
1種以上のC1~C4炭化水素を含有する炭化水素フィードとの直接熱交換により、上記分解炭化水素エフルエントを冷却することをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
上記熱分解は熱分解反応器又は熱交換器のいずれかで実施され、上記熱分解反応器又は熱交換器から回収された上記分解炭化水素エフルエントは550℃~725℃の範囲の温度である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項4】
上記分解炭化水素エフルエントを脱水素する前に上記分解炭化水素エフルエントを500℃~650℃の範囲の温度まで冷却することをさらに含む請求項3に記載のプロセス。
【請求項5】
上記脱水素エフルエントを、水素留分、メタン留分、C2留分、エチレン留分、エタン留分、C3留分、プロピレン留分、プロパン留分、C4留分、ブタジエン留分、ブテン留分、ブタン留分、及びC5+含有留分から選択される1つ以上の留分に分離することをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項6】
蒸気、二酸化炭素及び/又は窒素を上記C1~C4炭化水素含有フィードと混合して希釈フィード混合物を形成することをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項7】
上記希釈フィード混合物の希釈剤/炭化水素比は、重量で0.04~0.2の範囲である、請求項に記載のプロセス。
【請求項8】
上記脱水素工程よりも高い圧力で上記熱分解工程を実施することをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
上記脱水素工程のフィード入口温度よりも高いコイル出口温度で上記熱分解工程を実施することをさらに含む請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
上記C1~C4炭化水素含有フィードはイソブタンを含有し、上記プロセスは、上記イソブタンを位置異性化してn-ブタンを形成することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
上記C1~C4炭化水素含有フィードはイソブタンを含有し、上記プロセスは、上記脱水素炭化水素エフルエント中のイソブテンを位置異性化してn-ブテンを形成することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項12】
オレフィン及び/又はジエンを製造するプロセスであって、
1種以上のC1~C4炭化水素を含有する炭化水素フィードストックを熱分解反応器の対流ゾーンで加熱して加熱炭化水素混合物を形成する工程と、
上記加熱炭化水素混合物を蒸気と混合して、0.04~0.2の範囲の蒸気/炭化水素比を有する混合フィードストックを形成する工程と、
上記熱分解反応器の上記対流ゾーンで上記混合フィードストックを加熱する工程と、
上記熱分解反応器の放射ゾーンで上記混合フィードストックを反応させて、上記C1~C4炭化水素の一部を転化して、オレフィン及びパラフィンの混合物を含有する分解炭化水素エフルエントを生成する工程と、
上記分解炭化水素エフルエント全体を、上記分解炭化水素エフルエントを脱水素するための脱水素反応ゾーンに供給して、追加のオレフィン及び/又はジエンを含有する脱水素炭化水素エフルエントを生成する工程と、
上記脱水素炭化水素エフルエントを分離して、水素留分、メタン留分、C2留分、エチレン留分、エタン留分、C3留分、プロピレン留分、プロパン留分、C4留分、ブタジエン留分、ブテン留分、ブタン留分、及びC5+含有留分から選択される1つ以上の留分を回収する工程と
を含み、
上記フィードはn-ブタンを含有し、上記熱分解工程を40モル%~60モル%の範囲の転化率に制御するか、または、
上記フィードはプロパンを含有し、上記熱分解工程を25モル%~40モル%の範囲の転化率に制御する、
プロセス。
【請求項13】
上記熱分解反応器からの上記分解炭化水素エフルエントのコイル出口温度を660℃~725℃の範囲の温度に制御することをさらに含む請求項12に記載のプロセス。
【請求項14】
1種以上のC1~C4炭化水素を含有する炭化水素フィードとの直接熱交換により、上記分解炭化水素エフルエントを脱水素する前に上記分解炭化水素エフルエントを550℃~650℃の範囲の温度まで冷却することをさらに含む請求項13に記載のプロセス。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
現在まで、軽質パラフィン(エタン、プロパン及びブタン)からのオレフィンの製造は、蒸気の存在下での非接触熱分解又は接触脱水素という2つの主要な経路のいずれかに従ってきた。
【0002】
エチレンプラントは、エチレン又はプロピレン、あるいはエチレンとプロピレンの合計を最大にするように設計されている。熱経路では、目的の生成物(エチレン、プロピレン、ブタジエン/ブテン)の混合物が生成される。この混合物は、選択されたフィード及び反応条件によって変化する。オレフィンプラントで生成されるブタジエンの量は一般に少ない。熱分解装置は比較的高温で作動するため、主要生成物はエチレンである。
【0003】
一方、Lummus Technology LLCから入手可能なCATADIENE及びCATOFINユニット等の脱水素ユニットは、パラフィンをオレフィンに、オレフィンをジエンに脱水素するものであるが、これらのユニットは比較的低温で作動する。したがって、一次オレフィン(プロパンフィードからのプロピレン、n-ブタンフィードからのノルマルブテン、及びイソブタンフィードからのイソブテン)が主生成物である。フィードにノルマルブテンが含まれていると、ブタジエンも生成される。エタンの平衡転化率は非常に低いので、エタンからエチレンへの転化は著しいものではない。さらに、脱水素反応は、絶対圧を低くして又は不活性化合物の存在下でユニットを作動することによって、低分圧で行われる。経済的な転化率を達成するために、脱水素へのフィードを500~650℃まで加熱して反応を行わなければならない。
【0004】
歴史的には、エネルギーコストと資本コストの両方を考慮し、入手可能なフィード及び所望の主要生成物に基づいて、個々のプラントの経路が選択されてきた。例えば、ブタンをフィードとする場合、熱分解経路では大部分の生成物として約42%のエチレンが得られるが、接触脱水素経路では60%に近いブタジエン/ブテン生成物が得られる。これらの結果を変えるために反応条件を変更することはできるが、それにより、目的の生成物が変わることも、収率が大幅に変わることもない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
1つの態様において、本明細書に開示される実施形態は、オレフィン及び/又はジエンを製造するプロセスに関する。該プロセスは、C1~C4炭化水素含有フィードを熱分解して、オレフィン及びパラフィンの混合物を含有する分解炭化水素エフルエントを生成する工程を含んでもよい。また、該プロセスは、上記分解炭化水素エフルエントを脱水素して、追加のオレフィン及び/又はジエンを含有する脱水素炭化水素エフルエントを生成する工程を含んでもよい。
【0006】
別の態様において、本明細書に開示される実施形態は、オレフィン及び/又はジエンを製造するシステムに関する。該システムは、C1~C4炭化水素含有フィードを熱分解して、オレフィン及びパラフィンの混合物を含有する分解炭化水素エフルエントを生成するための反応ゾーンを有していてもよい。また、該システムは、上記分解炭化水素エフルエントを脱水素して、追加のオレフィン及び/又はジエンを含有する脱水素炭化水素エフルエントを生成するための脱水素反応ゾーンを有していてもよい。
【0007】
別の態様において、本明細書に開示される実施形態は、オレフィン及び/又はジエンを製造するプロセスに関する。該プロセスは、1種以上のC1~C4炭化水素を含有する炭化水素フィードストックを熱分解反応器の対流ゾーンで加熱して加熱炭化水素混合物を形成する工程を含んでもよい。次いで、上記加熱炭化水素混合物を蒸気又は他の不活性物質と混合して、0.04~0.2の範囲の蒸気(不活性物質)/炭化水素比を有する混合フィードストックを形成してもよい。次いで、上記混合フィードストックを上記熱分解反応器の上記対流ゾーンでさらに加熱してから、上記混合フィードストックを上記熱分解反応器の放射ゾーンで反応させて、上記C1~C4炭化水素の一部を転化して、オレフィン及びパラフィンの混合物を含有する分解炭化水素エフルエントを生成してもよい。次いで、上記分解炭化水素エフルエント全体を、上記分解炭化水素エフルエントを脱水素するための脱水素反応ゾーンに供給して、追加のオレフィン及び/又はジエンを含有する脱水素炭化水素エフルエントを生成してもよい。次いで、上記脱水素炭化水素エフルエントを分離して、水素留分、メタン留分、C2留分、エチレン留分、エタン留分、C3留分、プロピレン留分、プロパン留分、C4留分、ブタジエン留分、ブテン留分、ブタン留分、及びC5+含有留分から選択される1つ以上の留分を回収してもよい。
【0008】
他の態様及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】炭化水素混合物からオレフィンを製造するための本明細書の実施形態に係る一体化された熱分解・脱水素システムを示す簡略化されたプロセスフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書に開示される実施形態は、概して、炭化水素混合物の熱分解及び脱水素を行ってオレフィンを製造するための一体化されたプロセスに関する。
【0011】
これら2つのシステムを効率的に一体化することによって、目的の生成物にも有価値生成物の全生産においても柔軟性が得られることが分かった。最初に少量の蒸気を用いて又は蒸気を用いずに熱分解反応を低転化率まで行うことによって、脱水素ユニットへの最適化されたフィードが得られる。このストリームには不活性物質(メタン等の脱水素しにくい成分)が含まれてもよく、同時に該フィードは脱水素反応のために充分に加熱される。このストリームが脱水素触媒を通過すると、より重い分子量のパラフィンがまず脱水素される。エタン脱水素の活性は低いので、上記温度ではエチレン→エタン(逆反応)も生じにくい。その結果、熱分解と接触脱水素とを組み合わせたプロセスによって、熱分解単独又は脱水素単独と比較して、エチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエンがいずれも高い濃度で生成される。
【0012】
分解反応器は、非常に少ない蒸気量の存在下及び/又は蒸気の非存在下、極めて低い転化率で作動するように設計してもよい。これにより、熱反応器の設計がより低いコスト設計及びより低いエネルギー消費設計へと変更される。
【0013】
熱反応器からの生成物は接触脱水素反応器システムに直接供給できる。直接供給により、従来の接触脱水素反応器システムから予熱工程が取り除かれる。該システムは、フィード中の反応性及び非反応性(又は低反応性)炭化水素の混合物の恩恵を受けるため、転化率、選択性、及び有価値生成物の全収率が向上する。また、接触反応器部分に必要とされる触媒量がより少なくなる。
【0014】
例えば、ブタンフィードの場合、全ての有価値生成物(エチレン+プロピレン+ブタジエン/ブテン)は、総量として、従来の熱分解装置による約70%、又は従来の接触脱水素による約65%から、一体化システムでは80%超へと向上することになる。
【0015】
本明細書に開示されるシステムは、個々の有価値生成物の分割を変えるように設計することもできる。フィード組成、熱分解温度及び脱水素条件を変えることができることで、得られる生成物混合物での柔軟性が大きくなる。
【0016】
図1は、本明細書の実施形態に係る一体化された熱分解・脱水素システムの簡略化されたプロセスフロー図を示す。炭化水素をエチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン及び他のオレフィン若しくはジエン化合物へと熱分解するために、管状燃焼炉等の熱分解ヒー1を使用してもよい。熱分解は熱分解反応器又は熱交換器で実施されてもよい。熱分解ヒータ1は、対流部又はゾーン2及び分解部又は放射加熱ゾーン3を有する。熱分解ヒータ1は1本以上のプロセス管4(放射コイル)を有し、その中で、炭化水素フィードライン20から供給された炭化水素の一部が熱印加時に熱分解されて生成物ガスが生成される。炉床バーナ、床バーナ又は壁バーナ等の熱媒体入口8から熱分解ヒータ1の分解部3に導入された熱媒体が燃焼し、排気口10から排出されることで、放射及び対流熱が供給される。
【0017】
単一の炭化水素であっても、C1~C4又はC2~C6炭化水素等の炭化水素の混合物であってもよい炭化水素フィードストック20が、熱分解ヒータ1の対流部2に配置された加熱コイル24に導入されてもよい。加熱コイル24において、炭化水素フィードストックは、排気との対流熱交換により加熱及び/又は気化されてもよい。
【0018】
所望であれば、加熱された炭化水素フィードストック26は、次いで、蒸気、又は窒素、二酸化炭素若しくは任意の他の無機ガス等の不活性化合物と混合されてもよい。希釈蒸気又は不活性物質は、フローライン28を介して上記プロセスに供給されてもよい。プラントにおける上記プロセス又は追加のプロセスの様々な部分では低温又は飽和蒸気を使用してもよく、他の部分では高温過熱蒸気を使用してもよい。プラントにおける上記プロセス内などで使用する蒸気は、熱分解ヒータ1の対流ゾーン2に配置された加熱コイル(図示せず)を介して加熱又は過熱されてもよい。
【0019】
次いで、ストリーム29中の加熱炭化水素混合物は、熱分解ヒータ1内の加熱コイル24よりも低い高さに、したがって高い温度に配置されてもよい加熱コイル30に供給されてもよい。次いで、熱分解ヒータ1の放射ゾーン3に配置され、かつ炭化水素混合物を熱分解により部分的に転化するための温度で作動される1本以上のプロセス管4内の1本以上のコイル(標識なし)に、得られた過熱混合物をフローライン32を介して供給してもよい。次いで、分解された炭化水素生成物は、フローライン34を介して回収されてもよい。
【0020】
次いで、分解炭化水素生成物は、フローライン34、36を介して脱水素反応ゾーン40に供給されてもよい。場合によっては、追加の炭化水素38を分解炭化水素生成物34と組み合わせて、脱水素反応ゾーン40で転化してもよい。追加の炭化水素としては、例えば、炭化水素フィードストック20の一部等の追加のC2~C4又はC5炭化水素が挙げられる。1本以上のプロセス管4内の1本以上のコイルの出口温度に応じて、追加の炭化水素を使用して、分解エフルエントを所望の脱水素反応ゾーン入口温度まで冷却(急冷ではない)してもよい。
【0021】
次いで、フローライン36中の炭化水素は、図示されるように並列又は直列に作動する1つ以上の脱水素反応器61を備えていてもよい脱水素反応ゾーン40に送られてもよい。脱水素反応器はそれぞれ、脱水素触媒を含む1つ以上の床63を有していてもよい。脱水素エフルエントは、次いで、反応器61からフローライン65を介して回収され、フローライン67を介して生成物回収・分離ゾーン(図示せず)に送られてもよい。
【0022】
以上、熱分解ヒータに関して示し説明したが、フィードストックの熱分解は他の種類のヒータでも実施することができる。
【0023】
上述のように、本明細書の実施形態では、熱分解と脱水素とが一体化される。最初に少量の蒸気を用いて又は蒸気を用いずに熱分解反応を低転化率まで行うことによって、脱水素ユニットへの最適化されたフィードが得られる。このストリームには不活性化合物(メタン等の脱水素しにくい成分等)が含まれてもよく、同時に該フィードは脱水素反応のために充分に加熱される。
【0024】
このストリームが脱水素触媒を通過すると、より重い分子量のパラフィンがまず脱水素される。エタン脱水素の活性は低いので、上記温度ではエチレン→エタン(逆反応)も生じにくい。その結果、熱分解と接触脱水素とを組み合わせたプロセスによって、熱分解単独又は脱水素単独と比較して、エチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエンがいずれも高い濃度で生成される。
【0025】
例えば、100%のノルマルブタンを熱分解すると、約20重量%のCH4、42%のC2H4、18%のC3H6、5%のC4H6、4%のC4H8、及び1.2%のH2(残部:他の生成物)が高過酷度で得られる。100%のn-ブタンを接触脱水素すると、1.3%のC2H4、4.3%のC3H6、46%のノルマルブテン、12.5%のC4H6、0.6%のH2(残部:他の生成物)が得られる。これらは例示的な値でしかない。
【0026】
対照的に、本明細書の実施形態では、まず低い転化率(約50%)でn-ブタンを熱分解してから、接触脱水素を行うことができ、この場合、エチレン及びプロピレンの両方の収率が増加する。これらの不活性物質の存在下の未転化のブタンによって有効分圧が低下するが、これは、ブテンへの脱水素平衡に有利であり、したがってブテン及びブタジエンへと有利に脱水素される。熱分解エフルエントは、この反応の希釈剤として作用して、主要反応物の有効炭化水素分圧を低下させるとともに、コーク生成を抑制する。その結果、計算上では、約16%のエチレン、22%のプロピレン、及び43%のブテン+ブタジエンが期待できる。接触脱水素単独と比較して、ブテン+ブタジエンの収率は低くなる。しかしながら、エチレン+プロピレン+ブテン+ブタジエン(いわゆる高価値生成物)の合計は、熱分解又は接触脱水素のいずれか単独と比較して高くなる。本明細書の実施形態のエネルギー消費も低くなる。接触脱水素のためのフィードの予熱に使用されるエネルギーを、同じヒータにおいて少量の追加エネルギーと共に使用して熱分解反応を行うため、エネルギー消費は少ない。生成物回収のために単一の分離トレインを使用できる。したがって、一体化スキームによって、資本コストが削減され、エネルギー消費が抑制される。C4までのあらゆる軽質炭化水素フィードをこのスキームで使用できる。これにより、接触脱水素反応器へ供給するために純粋なブタン又はプロパンを製造する必要がないので、フィード調製コストも削減される。
【0027】
このように、これらのプロセスを公正に組み合わせて最適条件で作動させることによって、価値の低い副産物を最小量にしつつ、必要なオレフィン及びジオレフィンを最大量製造することができる。個々のプロセスでは、所定量のC3又はC4フィードに対して、一体化プロセスよりも少ない量のオレフィンが製造される。上記例に示したn-ブタンの代わりに、プロパン及び/又はプロパンとブタンの混合物を使用できる。イソブテンが必要ない場合には、例えば上記熱分解反応ゾーンの上流に配置された位置異性化反応器をさらに有することで、イソブタンを位置異性化してn-ブタンを形成し、フィードとして使用することができる。あるいは、例えば上記脱水素反応ゾーンの下流に配置された位置異性化反応器をさらに有することで、Lummus Technology LLCから入手可能なCDISIS技術を用いるなどして、イソブテン生成物をノルマルブテンへと位置異性化することもできる。
【0028】
上に示した例では、フィードとして100%のn-ブタンを使用した。本明細書の実施形態では、オレフィンを含有するもの等の任意のフィードを使用でき、該フィードはCl~C4炭化水素を含有していてもよい。換言すれば、本明細書におけるフィードストックは、メタン、エタン、プロパン、及び/又はブタン(ノルマル及び/又はイソ)を単独で、又はこれらの2つ以上の組み合わせとして含有していてもよい。また、本明細書におけるフィードストックは、エチレン、プロピレン及びブテン等のオレフィンを含有していてもよい。C5+不純物を有するフィードを使用することもできる。CO、N及び蒸気、又は任意の他の不活性ガスを希釈剤として使用して、熱分解及び接触脱水素反応器において分圧を低下させ、オレフィン選択性を高めることができる。
【0029】
いくつかの実施形態において、まず、接触脱水素反応器へのフィードを加熱するために使用される予熱器等においてフィードが予熱される。このヒータは、低過酷度熱分解反応器として作用してもよい。あるいは、(図1に示し説明したように)従来の熱分解ヒータをこの工程に使用することもできる。熱分解反応は、例えば、所望の熱分解転化率を達成するために、接触脱水素反応器に対する典型的なフィード予熱に必要とされる温度よりも高い温度で行ってもよい。あるいは、熱分解反応は、所望の転化率を達成するために、接触脱水素反応器に対する予熱の際の典型的な滞留時間よりも長い滞留時間にわたって起こってもよい。換言すれば、本明細書における一体化プロセス及び利点は、先行技術の接触脱水素プロセスを用い、フィードを接触脱水素温度まで加温するための予熱器(典型的な予熱により得られる転化率は実質的にゼロ又は最小(<1%)である)を単に備えることによって達成されるものではない。
【0030】
典型的には、熱分解反応は蒸気の存在下で行われる。本明細書の実施形態で目標とされる転化率は比較的低いので、少量の蒸気(0.04~0.2wt/wt、例えば0.05~0.15wt/wt)を使用してもよい。場合によっては、熱分解反応は、蒸気の非存在下で行ってもよい。フィード中にメタン(CH4)のような不活性化合物が充分な量で含まれる場合には、より低い蒸気/炭化水素(スチーム/オイル(S/O)とも呼ばれる)比を使用でき、先に述べたように0まで低くしてもよい。
【0031】
フィード組成に応じて、好適な低転化率を熱分解工程に使用できる。いくつかの実施形態において、好適な転化率は、10%未満、10~20%、20~30%、30~40%、40~50%、50~60%、60~70%、それらの組み合わせ(それらの間の全ての点を含む)であってもよい。いくつかの実施形態において、例えば、転化率は約10%~約70%の範囲であってもよい。例えばn-ブタンフィードの場合、目標転化率は70%未満、例えば60%未満又は55%未満又は50%未満となり、いくつかの実施形態では、約50%、又は40%~60%であってもよい。別の例としてプロパンに富むフィードの場合、熱分解工程における目標転化率は60%未満、例えば50%未満であってもよく、いくつかの実施形態においては、40%未満、例えば、20%又は25%又は30%の下限~35%又は40%又は50%の上限であってもよい。本明細書に記載する転化率は、特に断りのない限り、モルに基づく。
【0032】
使用されるフィードストックに応じて、熱分解反応器からのエフルエントは、H2、CH4、C2H4、C2H6、C3H6、C3H8、C4H6、C4H8、C4H10及びC5+を含有し得る。熱分解反応器における転化率は、いくつかの実施形態では、脱水素反応器フィード中のC5+材料の濃度が、例えば0.5重量%未満、1重量%未満、2重量%未満、又は5重量%未満等のように低くなるように制御されてもよい。
【0033】
熱分解工程のための最大コイル出口温度は比較的低く保たれるべきである。放射コイル出口温度(COT)は、例えば725℃未満であってもよく、675℃未満が好ましい。いくつかの実施形態において、COTは約550℃~約725℃、例えば約600℃~約700℃の範囲であってもよい。
【0034】
コイル出口温度がより高い場合、接触脱水素前に熱分解エフルエントを所望の温度まで冷却するために冷フィードを注入することができる。温度が非常に高いと、接触脱水素触媒の性能に影響が及ぼされる恐れがある。脱水素フィード温度は、使用する触媒に基づいて適宜選択されるべきである。この温度は、脱水素反応を行うのに充分なものでなければならない。典型的には、この温度(接触脱水素反応器への入口)は、約500℃~約650℃の範囲、例えば、約550℃~約650℃の範囲、又は約500℃~約600℃の範囲である。熱分解反応器から出た生成物は、(並列反応器に供給するためのT字配管等を介して同じ組成の2つ以上の部分に分離される場合と比較して)接触脱水素前に成分分離されない。
【0035】
プロパン及びブタンを熱分解すると、副産物としてメタンが生成される。したがって、メタン及び他の非反応種は、接触脱水素反応の希釈剤として作用し得る。脱水素反応器で目標とする転化率に応じて、脱水素反応は真空、又は大気圧より僅かに高い圧力で行うことができる。対応する熱分解作動圧力は、熱分解反応器から脱水素反応器への流れを促進するように適宜選択してもよい。
【0036】
熱分解前反応器と接触脱水素反応器との組み合わせは、周期的反応器、連続固定床反応器、移動床反応器又は流動床反応器等の様々な接触脱水素反応器構成で使用できる。例えば、周期的反応器運転(例えば7~15分サイクルのもの)では、熱分解から脱水素部への充分な切り替え弁を設けることによって、反応器間の熱分解エフルエント流の移行を促進するとともに、パージ流及び再生流を提供してもよい。脱水素反応器は、サイクル中7~15分毎に異なる反応器に切り替えてから、パージ及び再生工程を行った後、再び脱水素のためにオンラインになるという手順で作動する。周期的反応器システムの代わりに、他の固定床、沸騰床、移動床又は流動床脱水素反応器を使用することもできる。本明細書の実施形態は、特定の種類の脱水素反応器又は反応器スキームに限定されず、並列及び/又は直列構成であってもよい複数の種類の反応器を有していてもよい。
【0037】
脱水素反応器からのエフルエントは、オレフィン及びジエンを適切に分離及び回収するために処理されてもよい。例えば、1塔以上の蒸留塔を使用して、脱水素反応器エフルエントを2つ以上の留分、例えば、水素留分、メタン留分、C2留分、エチレン留分、エタン留分、C3留分、プロピレン留分、プロパン留分、C4留分、ブタジエン留分、ブテン留分、ブタン留分、及び/又はC5+含有留分に分離してもよい。所望であれば、C5+含有留分の一部又は全部をさらなる分解のためにリサイクルして、追加のC2~C4オレフィンを製造してもよい。
【0038】
上記のように、本明細書の実施形態では、一体化された熱分解・接触脱水素プロセスによってオレフィン及びジエンを製造できる。本明細書の実施形態では、生成されるエチレン、プロピレン、ブテン及びブタジエン生成物の合計が、熱分解又は脱水素のいずれか単独と比較してより多くなる。さらに、接触脱水素のためにフィードを予熱する場合と比較して、少量の追加エネルギーしか必要としないので、エネルギー消費が比較的低くなる。したがって、一体化スキームによって、資本コストが削減され、有価値オレフィン及びジエンの製造のためのエネルギー消費が抑制される。
【0039】
本開示には限られた数の実施形態しか示されていないが、本開示の恩恵を受ける当業者は、本開示の範囲から逸脱しない他の実施形態も考案され得ることを理解するであろう。したがって、該範囲は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるべきである。
図1