(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性材料、全固体二次電池および固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01B 1/06 20060101AFI20220301BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20220301BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20220301BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220301BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220301BHJP
C01D 15/04 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B13/00 Z
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/525
C01D15/04
(21)【出願番号】P 2020508657
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2018012946
(87)【国際公開番号】W WO2019186821
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2021-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】小島 みゆき
(72)【発明者】
【氏名】宮西 啓太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 洋介
(72)【発明者】
【氏名】勝田 祐司
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-513788(JP,A)
【文献】特開2006-179305(JP,A)
【文献】LI Yutao et al.,"Fluorine-Doped Antiperovskite Electrolyte for All-Solid-State Lithium-Ion Batteries",Angewandte Chemie International Edition,2016年,Vol.55,p.9965-9968
【文献】SCHWERING Georg et al.,"High Lithium Ionic Conductivity in the Lithium Halide Hydrates Li3-n(OHn)Cl(0.83≦n≦2) and Li3-n(OHn)Br(1≦n≦2) at Ambient Temperatures",CHEMPHYSCHEM,2003年,Vol.4,p.343-348
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 13/00
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/525
C01D 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオン伝導性材料であって、
組成式が、Li
a(OH)
bF
cBr(ただし、1.8≦a≦2.3、b=a-c-1、0.01≦c≦0.11)であり、逆ペロブスカイト型の結晶相を含む。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウムイオン伝導性材料であって、
層状逆ペロブスカイト型の結晶相をさらに含む。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン伝導性材料であって、
Cu-Kα線を用いたX線回折法による2θ=31.2°近傍におけるピーク強度Aと、2θ=30.2°近傍におけるピーク強度Bとして、0≦B/(A+B)≦0.2である。
【請求項4】
全固体二次電池であって、
正極と、
負極と、
前記正極と前記負極との間に位置し、請求項1ないし3のいずれか1つに記載のリチウムイオン伝導性材料を含むリチウムイオン伝導性材料層と、
を備える。
【請求項5】
請求項4に記載の全固体二次電池であって、
前記正極は、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含み、
前記負極は、Tiを含み、かつ、Li/Li
+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能である材料を含む。
【請求項6】
請求項5に記載の全固体二次電池であって、
前記層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物が、コバルト酸リチウムである。
【請求項7】
固体電解質の製造方法であって、
Arガス雰囲気下で、LiBrと、LiOHと、LiFとを、モル比1:X:Y(ただし、0.87≦X≦1,0.01≦Y≦0.13)にて攪拌しつつ、250℃以上600℃以下にて0.1時間以上加熱する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性材料に関連し、リチウムイオン伝導性材料は、例えば、全固体二次電池に用いられる。
【背景技術】
【0002】
従来より、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のポータブル機器には、リチウム電池が用いられている。これらの用途のリチウム電池では、イオンを移動させる媒体として、リチウム塩を可燃性の有機溶媒に溶解させた液体の電解質、すなわち、電解液が使用されている。電解液を用いる電池では、電解液の漏液、発火、爆発等を防止するために、様々な対策を講じる必要がある。一方、近年、容易に安全性を確保することができる固体のリチウムイオン伝導性材料を使用した全固体リチウム電池が注目されている。全固体リチウム電池では、要素の全てが固体であるため、安全対策が容易であり、漏液や腐食による性能の劣化の問題も生じ難い。
【0003】
リチウムイオン伝導性材料の研究として、例えば、Georg Schwering、他3名、"High Lithium Ionic Conductivity in the Lithium Halide Hydrates Li3-n(OHn)Cl (0.83≦n≦2) and Li3-n(OHn)B r(1≦n≦2) at Ambient Temperatures"、CHEMPHYSCHEM、2003年4月、343-348 、WILEY-VCH発行、がある。この文献では、逆ペロブスカイト型構造を有するリチウムイオン伝導材料である様々なLi3-n(OHn)Cl(0.83≦n≦2)およびLi3-n(OHn)Br(1≦n≦2)に関して実験が行われており、これらの材料の温度とイオン伝導率との関係について報告されている。
【0004】
米国特許出願公開第2013/0202971号明細書では、Li3OCl、Li3OBr等の逆ペロブスカイト型のリチウムイオン伝導性材料について記載されている。Yutao Li、他10名、"Fluorine-Doped Antiperovskite Electrolyte for All-Solid-State Lithium-Ion Batteries"、Angewandte Chemie International Edition、2016年、55、9965-9968、WILEY-VCH発行、では、逆ペロブスカイト型のLi2(OH)0.9F0.1ClとLi2OHBrとに関して、温度とリチウムイオン伝導率との関係について報告されている。
【0005】
以上のように、リチウムイオン伝導率が高いリチウムイオン伝導性材料に関して、様々な材料の研究が行われているが、電池に求められる様々な特性に応じた材料の選択肢を広げるために、リチウムイオン伝導率が比較的高い多くの種類の材料の提案が求められている。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、リチウムイオン伝導率が高い新規なリチウムイオン伝導性材料を提供することを目的としている。
【0007】
本発明に係るリチウムイオン伝導性材料は、組成式が、Lia(OH)bFcBr(ただし、1.8≦a≦2.3、b=a-c-1、0.01≦c≦0.11)であり、逆ペロブスカイト型の結晶相を含む。好ましくは、層状逆ペロブスカイト型の結晶相をさらに含む。
【0008】
好ましくは、リチウムイオン伝導性材料は、Cu-Kα線を用いたX線回折法による2θ=31.2°近傍におけるピーク強度Aと、2θ=30.2°近傍におけるピーク強度Bとして、0≦B/(A+B)≦0.2である。
【0009】
本発明は、上記リチウムイオン伝導性材料を含む全固体二次電池にも向けられている。好ましい形態では、全固体二次電池の正極は、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物を含み、負極は、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離が可能である材料を含む。
【0010】
前記層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物は、好ましくは、コバルト酸リチウムである。
【0011】
本発明は、固体電解質の製造方法にも向けられている。固体電解質の製造方法では、Arガス雰囲気下で、LiBrと、LiOHと、LiFとを、モル比1:X:Y(ただし、0.87≦X≦1,0.01≦Y≦0.13)にて攪拌しつつ、250℃以上600℃以下にて0.1時間以上加熱する。
【0012】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】リチウムイオン伝導性材料のX線回折スペクトルの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の好ましい一の実施の形態に係る全固体二次電池1を示す縦断面図である。全固体二次電池1は、上から順に、正極11と、固体電解質である、または、固体電解質を含むリチウムイオン伝導性材料層13と、負極12とを順に有する。すなわち、リチウムイオン伝導性材料層13は、正極11と負極12との間に位置する。正極11は、集電体111と、正極活物質を含む正極層112とを含む。負極12は、集電体121と、負極層122とを含む。負極層122は、負極活物質を含む材料により形成される。
【0015】
正極層112の正極活物質は、好ましくは、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物である。さらに好ましくは、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物は、コバルト酸リチウム(LiCoO2)である。リチウム複合酸化物は、好ましくは焼結体である。負極層122は、好ましくは、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能である。換言すれば、Li/Li+平衡電位から0.4V以上高い電位でリチウムイオンの挿入および脱離が可能である。このような材料の具体例として、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、ニオブチタン複合酸化物(Nb2TiO7)、酸化チタン(TiO2)を挙げることができる。
【0016】
全固体二次電池1の正極11および負極12の構成および材料は、上述のものには限定されず、他の様々な構成および材料が採用可能である。
【0017】
全固体二次電池1の製造の一例では、正極層112上に集電体111を形成した正極11と、負極層122上に集電体121を形成した負極12とが準備される。そして、正極層112および負極層122をリチウムイオン伝導性材料に対向させつつリチウムイオン伝導性材料を正極11と負極12との間に挟んで加熱する等により、リチウムイオン伝導性材料がリチウムイオン伝導性材料層13となって全固体二次電池1が製造される。正極11、リチウムイオン伝導性材料層13および負極12は、他の手法により結合されてもよい。また、リチウムイオン伝導性材料に他の材料が加えられてリチウムイオン伝導性材料層13が形成されてもよい。すなわち、リチウムイオン伝導性材料層13はリチウムイオン伝導性材料を含む層である。
【0018】
次に、リチウムイオン伝導性材料の実験例について説明する。
【0019】
(実験例1)
原料として、市販のLiOH(純度98.0%以上)、LiBr(純度99.9%以上)を用意した。露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にて、それぞれの原料をLiOH:LiBrが1.0:1.0(モル比)となるように秤量し混合した。得られた混合粉末をアルミナ製のるつぼ(純度99.7%)に投入し、さらに石英管へ入れ、フランジで密閉した。
【0020】
この石英管を管状炉へセットし、フランジのガス導入口から露点-50℃以下のArガスを流してガス排出口から排出させながら、かつ、混合粉末を攪拌しながら、350℃で30分間の熱処理を行った。冷却後、ガス導入口およびガス排出口を閉じ、再び露点-50℃以下のAr雰囲気グローブボックス内にてるつぼを取り出した。るつぼ内から合成物を取り出し、乳鉢で粉砕してリチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0021】
なお、Arガス雰囲気下での加熱温度および加熱時間は適宜変更可能であり、一般的には、加熱温度は250℃以上600℃以下であり、加熱時間は0.1時間以上であればよい。
【0022】
(実験例2)
原料として、市販のLiOH(純度98.0%以上)、LiBr(純度99.9%以上)およびLiF(純度99.9%)を用意した。LiOH:LiBr:LiFが0.95:1.0:0.05(モル比)となるように秤量し、実験例1と同様の処理を行ってリチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0023】
(実験例3)
LiOH:LiBr:LiFを0.9:1.0:0.1(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例2と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0024】
(実験例4)
LiOH:LiBr:LiFを0.85:1.0:0.15(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例2と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0025】
(実験例5)
LiOH:LiBr:LiFを0.99:1.0:0.01(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例2と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0026】
(実験例6)
LiOH:LiBr:LiFを0.87:1.0:0.13(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例2と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0027】
(実験例7)
LiOH:LiBr:LiFを1.0:1.0:0.11(モル比)となるように秤量した点を除き、実験例2と同様の処理をし、リチウムイオン伝導性材料の粉末を得た。
【0028】
<結晶構造解析>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料の粉末に対して、結晶構造解析を行った。まず、グローブボックス内にてリチウムイオン伝導性材料の粉末を乳鉢で粉砕し、気密ホルダに入れ、空気に触れないようにして測定した。X線回折装置によるCu-Kα線を用いたX線回折法により結晶相を同定した。測定条件は40kV,40mA,2θ=10-70°とし、封入管式X線回折装置(ブルカー社製、D8 ADVANCE)を使用した。測定のステップ幅は0.02°とした。
図2は、実験例3のX線回折スペクトルを示す。
【0029】
各実験例のリチウムイオン伝導性材料の粉末のX線回折スペクトルにおいて、2θ=31.2°近傍に最強ピークを持つICDD No.035-0241の逆ペロブスカイト型のLi2(OH)Brのピークの位置と同様の位置にピークが検出された。OHとFはそれぞれイオン半径が1.37Å、1.33Åであり、置換によるピークシフトはほとんど起きないと考えられることから、逆ペロブスカイト型のLi2(OH)1-xFxBr(ただし、0≦x≦1)の結晶相またはこれに類似する構造の結晶相を含むと推定される。「逆ペロブスカイト型の」という表現は、「逆ペロブスカイト型の結晶構造を有する」と同義である。
【0030】
実験例2~6の回折スペクトルでは、2θ=30.2°近傍に最強ピークを持つICDD No.072-6895の層状逆ペロブスカイト型のLi5(OH)2Br3のピークの位置と同様の位置にピークが検出された。上記の通りOHとFの置換によるピークシフトはほとんど起きないと考えられることから、層状逆ペロブスカイト型のLi5(OH)2-xFxBr3(ただし、0≦x≦2)の結晶相またはこれに類似する構造の結晶相を含むと推定される。「層状逆ペロブスカイト型の」という表現は、「層状逆ペロブスカイト型の結晶構造を有する」と同義である。
【0031】
ここで、層状逆ペロブスカイト型物質の含有割合を相対比較するため、次の方法で逆ペロブスカイト型物質と層状逆ペロブスカイト型物質のX線回折スペクトルにおけるピーク強度比を計算した。逆ペロブスカイト型物質に対応すると考えられる2θ=31.2°近傍のX線回折スペクトルのピーク強度をA、層状逆ペロブスカイト型物質に対応すると考えられる2θ=30.2°近傍のX線回折スペクトルのピーク強度をBとし、B/(A+B)の値をピーク強度比として求めた。なお、算出には、市販のソフトウエアMDI社製JADE7を用いた。JADE7のピークサーチ条件は、フィルタタイプについては放物線フィルタ、ピーク位置定義についてはピークトップ、しきい値と範囲については、しきい値σ=3.0、ピーク強度%カットオフ=0.1%、BG決定の範囲=1.0、BG平均化のポイント数=7、角度範囲=10.0~70.0°とし、可変フィルタ長(データポイント)ON、Kα2ピークを消去ON、現存のピークリストを消去ONとした。
【0032】
<組成分析>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料の粉末に対して、組成分析を行った。リチウムイオン伝導性材料1gを100ccのイオン交換水に溶解して水溶液とし、適宜希釈して、ハロゲンのFとBrはイオンクロマトグラフィー(IC)にて、LiはICP発光分光分析法(ICP-AES)にて、検量線法で定量分析を行った。直接分析できないOH基に関しては、F、Br、Liの分析値からモル量を算出し、Fは-1価、Brは-1価、Liは+1価として分析値から算出した小数点二桁のモル数を乗じ、OHを-1価として、F、Br、Li、OHの電荷×モル数の合計が0.00となるようにOHのモル数を算出した。
【0033】
<リチウムイオン伝導率の測定>
上記各実験例で得られたリチウムイオン伝導性材料のリチウムイオン伝導率を測定するために、SUSセルを作製した。まず、リチウムイオン伝導性材料の粉末1gにセラミックスペーサを0.05g混合し、乳鉢で軽く混合した。得られたセラミックスペーサ入りリチウムイオン伝導性材料の粉末0.02gを、500ÅのAuスパッタを施した直径15.5mm、厚さ0.3mmのステンレス鋼板の上全体に広がるように敷き詰めた。さらにリチウムイオン伝導性材料の粉末上に、500ÅのAuスパッタを施した直径15.5mm、厚さ0.3mmのステンレス鋼板を、Auスパッタ面がリチウムイオン伝導性材料の粉末と接するように載せて積層体とし、その上に重しを載せた。
【0034】
積層体をグローブボックス内にある電気炉へ入れ、400℃で45分間熱処理を行ってリチウムイオン伝導性材料の粉末を溶融させた後、溶融されたリチウムイオン伝導性材料を100℃/hで冷却してリチウムイオン伝導性材料層を形成し、SUSセルを得た。SUSセルの厚さを測定し、上下の0.3mmのステンレス鋼板とAuスパッタ厚さの合計をSUSセルの厚さから引いたところ、各実験例のリチウムイオン伝導性材料層の厚さは30μmと算出された。
【0035】
SUSセルのリチウムイオン伝導率を0.3MHzから0.1Hzの範囲で交流インピーダンス測定により行った。交流インピーダンス測定は、2枚のSUS板のリチウムイオン伝導性材料層とは反対側の面にそれぞれ測定端子を接続して行った。
【0036】
表1は、組成分析、リチウムイオン伝導率測定、および、X線回折スペクトルにおけるピーク強度比の結果を示す。
【0037】
【0038】
表1において、「*」を付す実験例2、3、5ないし7が、リチウムイオン伝導率が高い実施例である。他の実験例は比較例である。これらの実験例から、原料のLiBr:LiOH:LiFのモル比を1:X:Yとして、0.87≦X≦1、かつ、0.01≦Y≦0.13とすることにより、比較的高いリチウムイオン伝導率を有する新規なリチウムイオン伝導性材料が得られると考えられる。また、少しでもLiFを原料に含めることにより、リチウムイオン伝導率が向上することが分かる。
【0039】
詳細な理由は不明であるが、XおよびYに関する上記条件により、副相であるLi5(OH)2-xFxBr3(ただし、0≦x≦2)の生成の有無および一部の未反応原料の存在が複雑に関係し合ってリチウムイオン伝導率が向上すると考えられる。このとき、組成式をLia(OH)bFcBrとすると、cの値は0.01以上0.11以下である。ただし、b=a-c-1であり、秤量や分析過程のばらつきにより、aの値は1.8以上2.3以下の範囲である。より好ましくは、cの値は0.05以上0.11以下である。X線回折スペクトルにおける上述のピーク強度比(B/(A+B))は、0以上0.2以下である。より好ましくは、ピーク強度比(B/(A+B))は、0.02以上0.2以下である。
【0040】
上記リチウムイオン伝導性材料および全固体二次電池、並びに、これらの製造方法は、上述のものには限定されず、様々に変更されてよい。
【0041】
例えば、リチウムイオン伝導性材料は、全固体二次電池以外の用途に用いられてもよい。リチウムイオン伝導性材料の製造条件は適宜変更されてよい。また、リチウムイオン伝導性材料の製造に用いられる原料には他の材料が含められてもよい。
【0042】
既述のように、全固体二次電池1の構造および製造方法は適宜変更されてよい。上記正極11および負極12は一例に過ぎない。全固体二次電池1は、正極11および負極12を個別に先に製造するのではなく、集電体111、正極層112、リチウムイオン伝導性材料、負極層122、集電体121が重ねられた状態で加熱および加圧が行われてもよい。
【0043】
上記SUSセルの製造において、一方のステンレス鋼板に代えて正極層の板、例えば、コバルト酸リチウムの板を用い、他方のステンレス鋼板に代えて負極層の板、例えば、Tiを含み、かつ、Li/Li+平衡電位を基準として、0.4V以上でリチウムイオンを挿入および脱離可能な板を用いて、上記SUSセルと同様の加熱処理を行っても全固体二次電池を製造することが可能である。
【0044】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0045】
発明を詳細に描写して説明したが、上述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【符号の説明】
【0046】
1 全固体二次電池
11 正極
12 負極
13 リチウムイオン伝導性材料層