(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】フラップ付き編地および繊維製品
(51)【国際特許分類】
D04B 1/22 20060101AFI20220301BHJP
D04B 1/16 20060101ALI20220301BHJP
D02G 3/26 20060101ALI20220301BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20220301BHJP
A41D 31/04 20190101ALI20220301BHJP
A41D 31/00 20190101ALI20220301BHJP
A41D 13/002 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
D04B1/22
D04B1/16
D02G3/26
D01F8/14 C
A41D31/04 Z
A41D31/00 502C
A41D31/00 503G
A41D31/00 503F
A41D13/002
(21)【出願番号】P 2020514070
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2019014818
(87)【国際公開番号】W WO2019202993
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2020-09-23
(31)【優先権主張番号】P 2018078317
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501270287
【氏名又は名称】帝人フロンティア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】尾形 暢亮
(72)【発明者】
【氏名】原毛 孝徳
(72)【発明者】
【氏名】柴田 園未
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-223343(JP,A)
【文献】特表2008-517183(JP,A)
【文献】特開2006-097147(JP,A)
【文献】国際公開第2008/001920(WO,A1)
【文献】特開昭57-051871(JP,A)
【文献】特開2011-144487(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104480622(CN,A)
【文献】特表2017-529930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 1/00- 1/28
21/00-21/20
D03D 1/00-27/18
A41D27/00-27/28
31/00-31/32
D02G 3/26
D01F 8/14
A41D13/002
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地組織部とフラップ部とを含むフラップ付き編地であって、
前記フラップ部が袋状の形状を有し、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維が前記フラップ部の地組織側に含まれ、前記フラップ部が湿潤により可動であることを特徴とするフラップ付き編地。
【請求項2】
前記フラップ部に、仮撚捲縮加工糸が含まれる、
請求項1に記載のフラップ付き編地。
【請求項3】
前記仮撚捲縮加工糸が、30T/m以下のトルクを有する複合糸の構成糸として前記フラップ部に含まれる、
請求項2に記載のフラップ付き編地。
【請求項4】
S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とが交互に配されてなる
、請求項2に記載のフラップ付き編地。
【請求項5】
前記フラップ部に、撥水糸が含まれる、
請求項1~4のいずれかに記載のフラップ付き編地。
【請求項6】
フラップ付き編地が丸編地である、
請求項1~5のいずれかに記載のフラップ付き編地。
【請求項7】
湿潤時に、通気度および/または外観が変化する、
請求項1~6のいずれかに記載のフラップ付き編地。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のフラップ付き編地を用いてなる、スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、介護用衣料、裏地、浴衣、作業衣、防護服、履物、帽子、手袋、靴下、マスク、寝具、カーテン、寝具カバー、および椅子カバーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラップ部を含むフラップ付き編地であって、湿潤時に前記フラップ部が動くことにより通気度や外観が変化することが可能なフラップ付き編地および繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のフラップ部(ヒダ部)を有するフラップ付き編地が提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。かかるフラップ付き編地は複数のフラップ部により遮熱性や断熱性に優れる。
【0003】
しかしながら、従来のフラップ付き編地は湿潤時にフラップ部が動くものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭62-12341号公報
【文献】特公平3-17944号公報
【文献】特開平6-316844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、フラップ部を含むフラップ付き編地であって、湿潤時に前記フラップ部が動くことにより通気度や外観が変化することが可能なフラップ付き編地および繊維製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、フラップ部を含むフラップ付き編地においてフラップ部を構成する繊維などを巧みに工夫することにより、湿潤時にフラップ部を動かせることが可能になることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0007】
かくして、本発明によれば「地組織部とフラップ部とを含むフラップ付き編地であって、前記フラップ部が湿潤により可動であることを特徴とするフラップ付き編地。」が提供される。
【0008】
その際、前記フラップ部が袋状の形状を有することが好ましい。また、前記フラップ部に、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維が含まれることが好ましい。また、前記フラップ部に、仮撚捲縮加工糸が含まれることが好ましい。特に、前記仮撚捲縮加工糸が、30T/m以下のトルクを有する複合糸の構成糸として前記フラップ部に含まれることが好ましい。また、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とが交互に配されてなることが好ましい。また、前記フラップ部に、撥水糸が含まれることが好ましい。また、フラップ付き編地が丸編地であることが好ましい。また、湿潤時に、通気度および/または外観が変化することが好ましい。
【0009】
また、本発明によれば、前記のフラップ付き編地を用いてなる、スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、介護用衣料、裏地、浴衣、作業衣、防護服、履物、帽子、手袋、靴下、マスク、寝具、カーテン、寝具カバー、および椅子カバーからなる群より選択されるいずれかの繊維製品が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フラップ部を含むフラップ付き編地であって、湿潤時に前記フラップ部が動くことにより通気度や外観が変化することが可能なフラップ付き編地および繊維製品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】本発明のフラップ付き編地を模式的に示す図である。
【
図4】湿潤時にフラップ部が動く様子を模式的に示す図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明のフラップ付き編地は、地組織部とフラップ部とを含み、前記フラップ部が湿潤により可動である。
図4に模式的に示すように、湿潤により、前記フラップ部の先端部が地組織部より離れる方向に動く。
【0013】
ここで、前記フラップ部が
図3に示すように袋状の形状を有すると、遮熱性や断熱性が向上するだけでなく、フラップ部の外気側と地組織部側とで糸構成を変えることができ好ましい。
【0014】
また、前記フラップ部に、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維が含まれることが好ましい。特に、フラップ部が袋状の形状を有し、かつフラップ部の地組織部側にかかる複合繊維が配されていると、湿潤時に該複合繊維の見かけ長さが長くなることにより、フラップ部の先端部が地組織部より離れる方向に動く。
【0015】
かかる複合繊維としては、特開2006-97147号公報に記載された、ポリエステル成分とポリアミド成分とがサイドバイサイド型または偏心芯鞘型に接合された複合繊維が好適に用いられる。
【0016】
すなわち、ポリエステル成分としては、他方のポリアミド成分との接着性の点で、スルホン酸のアルカリまたはアルカリ土類金属、ホスホニウム塩を有し、かつエステル形成能を有する官能基を1 個以上もつ化合物が共重合された、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンタレフタレート等の変性ポリエステルが好ましく例示される。なかでも、汎用性およびポリマーコストの点で、前記化合物が共重合された、変性ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。その際、共重合成分としては、5- ナトリウムスルホイソフタル酸およびそのエステル誘導体、5-ホスホニウムイソフタル酸およびそのエステル誘導体、p-ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどがあげられる。なかでも、5-ナトリウムスルホイソフタル酸が好ましい。共重合量としては、2.0~4.5モル% の範囲が好ましい。該共重合量が2.0モル% よりも小さいと、優れた捲縮性能が得られるものの、ポリアミド成分とポリエステル成分との接合界面にて剥離が生じるおそれがある。逆に、該共重合量が4.5モル% よりも大きいと、延伸熱処理の際、ポリエステル成分の結晶化が進みにくくなるため、延伸熱処理温度を上げる必要があり、その結果、糸切れが多発するおそれがある。
【0017】
一方のポリアミド成分としては、主鎖中にアミド結合を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ナイロン-4、ナイロン-6、ナイロン-66、ナイロン-46、ナイロン-12などがあげられる。なかでも、汎用性、ポリマーコスト、製糸安定性の点で、ナイロン-6およびナイロン-66が好適である。
【0018】
なお、前記ポリエステル成分およびポリアミド成分には、公知の添加剤、例えば、顔料、艶消し剤、防汚剤、蛍光増白剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、耐光剤、紫外線吸収剤等が含まれていてもよい。
【0019】
前記の複合繊維は、任意の断面形状および複合形態をとることができる。偏心芯鞘型であってもよい。さらには、三角形や四角形、その断面内に中空部を有するものであってもよい。両成分の複合比は任意に選定することができるが、通常、ポリエステル成分とポリアミド成分の重量比で30:70~70:30(より好ましくは40:60~60:40)の範囲内であることが好ましい。
【0020】
前記複合繊維の形態はとしては長繊維(マルチフィラメント)が好ましい。その際、単繊維繊度、単繊維の本数(フィラメント数)としては特に限定されないが、単繊維繊度1~10dtex(より好ましくは2~5dtex )、単繊維の本数10~200本(より好ましくは20~100本)の範囲内であることが好ましい。
【0021】
また、前記複合繊維は、潜在捲縮性能が発現してなる捲縮構造を有していることが好ましい。異種ポリマーがサイドバイサイド型に接合された複合繊維は、通常、潜在捲縮性能を有しており、後記のように、染色加工等で熱処理を受けると潜在捲縮性能が発現する。捲縮構造としては、ポリアミド成分が捲縮の内側に位置し、ポリエステル成分が捲縮の外側に位置していることが好ましい。かかる捲縮構造を有する複合繊維は、特開2006-97147号公報に記載の製造方法により容易に得ることができる。複合繊維がこのような捲縮構造を有していると、湿潤時に、内側のポリアミド成分が膨潤、伸張し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が低下する( 複合繊維の見かけの長さが長くなる。)。一方、乾燥時には、内側のポリアミド成分が収縮し、外側のポリエステル成分はほとんど長さ変化を起こさないため、捲縮率が増大する( 複合繊維の見かけの長さが短くなる。)。
【0022】
前記の複合繊維は、湿潤時に、容易に捲縮が低下し通気性が性能よく向上する上で、無撚糸、または300T/m 以下の撚りが施された甘撚り糸であることが好ましい。特に、無撚糸であることが好ましい。強撚糸のように、強い撚りが付与されていると、湿潤時に捲縮が低下しにくく好ましくない。なお、交絡数が20~200個/m(好ましくは20~60個/m)程度となるようにインターレース空気加工および/または通常の仮撚捲縮加工が施されていてもさしつかえない。
【0023】
また、前記フラップ部に、仮撚捲縮加工糸が含まれることが好ましい。特に、仮撚捲縮加工糸が、30T/m以下のトルクを有する複合糸として前記フラップ部に含まれると、目面の安定化、抗スナッギング性、遮熱性、断熱性などが向上し好ましい。フラップ部が袋状の形状を有し、かつフラップ部の外気側にかかる複合糸が配されることは好ましい。
【0024】
このような複合糸としては、国際公開第2008/001920号パンフレットに記載されているような複合糸が好ましい。
【0025】
すなわち、製造条件または繊度において互いに異なる2種以上の仮撚捲縮加工糸で構成される複合糸である。仮撚捲縮加工糸には第1ヒーター域で仮撚をセットした、いわゆるone heater仮撚捲縮加工糸と、該糸をさらに第2ヒーター域に導入して弛緩熱処理することによりトルクを減らした、いわゆるsecond heater仮撚捲縮加工糸とがある。また、施撚の方向により、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とがある。本発明において、これらの仮撚捲縮加工糸を用いることができる。特に、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とで複合糸を構成すると、低トルクの複合糸が得られ好ましい。
【0026】
前記の複合糸は例えば以下の方法により製造することができる。すなわち、糸条を第1ローラ、セット温度が90~220℃(より好ましくは100~190℃)の熱処理ヒーターを経由して撚り掛け装置によって施撚することによりone heater仮撚捲縮加工糸を得てもよいし、必要に応じてさらに第2ヒーター域に導入して弛緩熱処理することによりsecond heater仮撚捲縮加工糸を得てもよい。仮撚加工時の延伸倍率は、0.8~1.6の範囲が好ましい。仮撚数は、仮撚数(T/m)=(32500/(Dtex)1/2)×αの式においてα=0.5~1.5が好ましく、通常は0.8~1.2位とするのがよい。ただし、Dtexとは糸条の総繊度である。用いる撚り掛け装置としては、デイスク式あるいはベルト式の摩擦式撚り掛け装置が糸掛けしやすく、糸切れも少なくて好ましいが、ピン方式の撚り掛け装置であってもよい。また、施撚の方向により、仮撚捲縮加工糸が有するトルクをS方向かZ方向か選択することができる。次いで、2種以上の仮撚捲縮加工糸を合糸することにより前記複合糸が得られる。
【0027】
かかる複合糸には、インターレース加工により交絡が付与されていることが好ましい。交絡(インターレース)の個数は、ソフトな風合いやストレッチ性を損なわないために30~200個/mの範囲内であることが好ましい。該個数が200個/mよりも大きいとソフトな風合いやストレッチ性が損なわれるおそれがある。逆に、該個数が30個/mよりも小さいと複合糸の集束性が不十分となり、製編性が損なわれるおそれがある。なお、交絡処理(インターレース加工)は通常のインターレースノズルを用いて処理したものでよい。
【0028】
かくして得られた複合糸のトルクとしては、30T/m以下(より好ましくは10T/m以下、特に好ましくはノントルク(0T/m))であることが好ましい。かかる低トルクの複合糸を用いて編地を構成することにより、ソフトな風合いやストレッチ性を損なうことなく優れた抗スナッギング性が得られる。トルクは小さいほど好ましくノントルク(0T/m)が最も好ましい。このようにノントルクとするには、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向の仮撚捲縮加工糸とを合糸する際、トルクの方向が異なること以外は同じトルクを有する2種の仮撚捲縮加工糸を使用するとよい。
【0029】
また、前記複合糸において、捲縮率が2%以上(より好ましくは10~20%)であることが好ましい。該捲縮率が2%未満では十分なソフトな風合いやストレッチ性が得られないおそれがある。
【0030】
前記複合糸において、単繊維繊度が4dtex以下(好ましくは0.00002~2.0dtex、特に好ましくは0.1~2.0dtex)であることが好ましい。該単繊維繊度は小さいほどよく、ナノファイバーと称せられる単繊維径が1000nm以下のものでもよい。該単繊維繊度が4dtexよりも大きいとソフトな風合いが得られないおそれがある。また、複合糸の総繊度としては33~220dtexの範囲内であることが好ましい(。さらに、複合糸のフィラメント数としては50~300本(より好ましくは100~300本)の範囲内であることが好ましい。
【0031】
また、前記複合糸を構成する繊維の単繊維断面形状としては、通常の丸断面でもよいが、丸断面以外の異型断面形状であってもよい。かかる異型断面形状としては、三角、四角、十字、扁平、くびれ付扁平、H型、W型などが例示される。これらの異型断面形状を採用することにより、編地に吸水性を付与することができる。
【0032】
前記複合糸を構成する繊維としては特に制限されず、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、アセテート繊維、さらには、綿、ウール、絹などの天然繊維やこれらを複合したものが使用可能である。特にポリエステル繊維が好ましい。かかるポリエステルとしては、テレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2~6のアルキレングリコール、すなわちエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールからなる群より選ばれた少なくとも1種を主たるグリコール成分とするポリエステルが好ましい。なかでも、エチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)またはトリメチレングリコールを主たるグリコール成分とするポリエステル(ポリトリメチレンテレフタレート)が特に好ましい。
【0033】
かかるポリエステルには、必要に応じて少量(通常30モル%以下)の共重合成分を有していてもよい。その際、使用されるテレフタル酸以外の二官能性カルボン酸としては、例えばイソフタル酸、ナフタリンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、β-ヒドロキシエトキシ安息香酸、P-オキシ安息香酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のごとき芳香族、脂肪族、脂環族の二官能性カルボン酸をあげることができる。また、上記グリコール以外のジオール化合物としては、例えばシクロヘキサン-1,4-ジメタノール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのごとき脂肪族、脂環族、芳香族のジオール化合物およびポリオキシアルキレングリコール等をあげることができる。
【0034】
前記ポリエステルは任意の方法によって合成したものでよい。例えばポリエチレンテレフタレートの場合について説明すると、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルのごときテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとをエステル交換反応させるかまたはテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるかしてテレフタル酸のグリコールエステルおよび/またはその低重合体を生成させる第1段階の反応と、第1段階の反応生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させる第2段階の反応によって製造されたものでよい。また、前記ポリエステルは、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステル、または、特開2004-270097号公報や特開2004-211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルであってもよい。さらには、ポリ乳酸やステレオコンプレックスポリ乳酸などの生分解性を有するポリエステルでもよい。
【0035】
前記ポリエステルに紫外線吸収剤がポリエステル重量対比0.1重量%以上(好ましくは0.1~5.0重量%)含まれていると、編地に紫外線遮蔽性が付加され好ましい。かかる紫外線吸収剤としては、ベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系有機紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系有機紫外線吸収剤、サリチル酸系有機紫外線吸収剤などが例示される。なかでも、紡糸の段階で分解しないという点からベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤が特に好ましい。
【0036】
かかるベンゾオキサジン系有機紫外線吸収剤としては、特開昭62-11744号公報に開示されたものが好適に例示される。すなわち、2-メチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-ブチル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2-フェニル-3,1-ベンゾオキサジン-4-オン、2,2’-エチレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-テトラメチレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、2,2’-p-フェニレンビス(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン)、1,3,5-トリ(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン-2-イル)ベンゼン、1,3,5-トリ(3,1-ベンゾオキサジン-4-オン-2-イル)ナフタレンなどである。
【0037】
また、前記ポリエステルに艶消し剤(二酸化チタン)がポリエステル重量対比0.2重量%以上(好ましくは0.3~2.0重量%)含まれていると、編地に防透性が付加され好ましい。
【0038】
さらに前記ポリエステルには、必要に応じて、微細孔形成剤(有機スルホン酸金属塩)、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤(三酸化二アンチモン)、蛍光増白剤、着色顔料、帯電防止剤(スルホン酸金属塩)、吸湿剤(ポリオキシアルキレングリコール)、抗菌剤、その他の無機粒子の1種以上が含まれていてもよい。
【0039】
また、前記の通り、フラップ部(好ましくはフラップ部の外気側)に、30T/m以下のトルクを有する複合糸が配されているか、または、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とが交互に配されていると、目面の安定化、抗スナッギング性が向上し好ましい。その際、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とが1本交互、複数本交互、1本:複数本交互いずれでもよい。
【0040】
また、前記フラップ部に、撥水糸が含まれることは好ましいことである。その際、撥水糸としては、撥水性ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリ塩化ビニル繊維などが好適である。
【0041】
ここで、撥水性ポリエステル繊維としては、シリコーン系化合物もしくはフッ素系化合物、炭化水素系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維、シリコーン系、炭化水素系、フッ素系のうちいずれかの撥水剤を用いて撥水加工が施されたポリエステル繊維であることが好ましい。その際、共重合もしくはブレンド量としてはポリエステル重量対比5~25重量%であることが好ましい。また、撥水加工が施されたポリエステル繊維において、撥水剤の含有量としては、加工前のポリエステル繊維重量対比0.4重量%以上(より好ましくは0.4~10重量%)であることが好ましい。
【0042】
その際、前記のフッ素系撥水剤は、パーフルオロオクタン酸およびパーフルオロオクタンスルホン酸を合計した濃度が5ng/g以下(好ましくは0ng/g)のフッ素系撥水剤であることが好ましい。かかるフッ素系撥水剤としては、N-メチロール基を含有しないモノマーのみから構成されたパーフルオロアルキルアクリレート共重合体や市販されているものなどが例示される。市販されているものでは、旭硝子(株)製のフッ素系撥水撥油剤であるアサヒガードEシリーズAG-E061、住友スリーエム(株)製のスコッチガードPM3622、PM490、PM930などが好ましく例示される。
【0043】
なお、前記撥水性ポリエステル繊維を製造する方法としては特に限定されず公知の方法でよい。シリコーン系化合物もしくはフッ素系化合物を共重合もしくはブレンドしてなるポリエステル繊維の製造方法としては、例えば、特開2010-138507号公報に記載された方法などが例示される。一方、撥水加工の方法としては、例えば、フッ素系撥水剤に必要に応じて制電剤、メラミン樹脂、触媒などを混合して得られた加工剤を、パッド法やスプレー法などによりポリエステル繊維に付与する方法が例示される。
【0044】
ここで、ポリエステル繊維に撥水加工を施す方法としては布帛の段階で撥水加工を施すよりも繊維の段階で撥水加工を施すことが好ましい。繊維の段階で撥水加工を施した場合、布帛の段階で撥水加工を施した場合と比べて、単繊維が撥水剤で被覆されることにより、被覆総面積が大きくなり撥水性の耐久性が向上し好ましい。
【0045】
前記撥水糸の形態としては、短繊維(紡績糸)でもよいし長繊維(マルチフィラメント)でもよい。特に、単繊維繊度が1.0~5.0dtex(より好ましくは1.5~3.0dtex)であることが好ましい。撥水糸のフィラメント数、総繊度としては、フィラメント数20本以上(より好ましくは20~200本)、総繊度30~200dtex(より好ましくは30~150dtex)であることが好ましい。
【0046】
本発明のフラップ付き編地は、前記の糸条を用いて、例えば、特公昭62-12341号公報、特公平3-17944号公報、特開平6-316844号公報などに記載されている方法により製造することができる。その際、シングル丸編機(好ましくは28ゲージ以上、特に好ましくは28~80ゲージ))を用いて製編することが好ましい。
【0047】
かくして得られたフラップ付き編地において、目付けとしては、100~300g/m2の範囲内であることが好ましい。
【0048】
また、通常の染色加工、減量加工、起毛加工、撥水加工、蓄熱加工、吸汗加工などの後加工を適宜施してもよい。その際、染色に用いる染料は分散染料、カチオン性染料、酸性染料など特に限定はされないが、カチオン性染料はカチオン性染料で染色可能な繊維を選択する必要があるため、より汎用性が高い分散染料を染色に用いるほうが好適である。また、撥水加工に用いられる撥水剤としては、パラフィン系撥水剤やポリシロキサン系撥水処理剤、フッ素系撥水処理剤、フッ素フリー撥水剤などの公知のものが使用でき、その処理も一般に行われているパディング法、スプレー法などの公知の方法で行えばよい。
【0049】
本発明のフラップ付き編地は、湿潤により可動である。その際、フラップ付き編地の通気度に異方性があることが好ましい。すなわち、編地裏面(フラップ側の面とは反対側の面)から編地表面(フラップ側の面)への通気度が、表面(フラップ側の面)から裏面(フラップ側の面とは反対側の面)への通気度が大きいことが好ましい。また、湿潤時に、通気度および/または外観が変化することが好ましい。
【0050】
かかるフラップ付き編地は、衣料(スポーツウエアー、アウターウエアー、インナーウエアー、紳士衣料、婦人衣料、医療用衣料、介護用衣料、裏地、浴衣、作業衣、防護服など)、履物、帽子、手袋、靴下、マスク、寝具、カーテン、寝具カバー、椅子カバーなどの繊維製品として好適に使用される。
【0051】
かかる繊維製品は、前記フラップ付き編地を用いているので、湿潤時(例えば発汗時)にフラップ部が可動である。そしてその結果、通気度が向上することにより優れた着用快適性が得られる。また、外観も変化する。
【実施例】
【0052】
次に本発明の実施例および比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)捲縮率
糸サンプルに0.044cN/dtexの張力を掛けてカセ枠に巻き取り、約3300dtexのカセを作製した。該カセの一端に0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS0(cm)を測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後0.0177cN/dtexの荷重を除去し、24時間自由な状態で自然乾燥し、再び0.0177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さをS1(cm)測定した。次いで、0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さを測定してS2(cm)を求め、次の数式で捲縮率を算出した。なお、10回の測定値の平均値で表した。
捲縮率(%)=((S1-S2)/S0)×100
(2)トルク
試料(捲縮糸)約70cmを横に張り、中央部に0.18mN×表示テックス(2mg/de)の初荷重を吊るした後、両端を引揃えた。
【0053】
糸は残留トルクにより回転しはじめるが初荷重が静止するまでそのままの状態で持ち、撚糸を得た。こうして得た撚糸を17.64mN×表示テックス(0.2g/de)の荷重下で25cm長の撚数を検撚器で測定した。得られた撚数(T/25cm)を4倍にしてトルク(T/m)を算出した。
(3)通気度
JIS L1096-2010 8.26.1 A法(フラジール形法)により通気度(cm3/cm2・s)を測定した。
【0054】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートを用いて通常の紡糸装置から280℃で溶融紡糸し、2800m/分の速度で引取り、延伸することなく巻取り、半延伸されたポリエチレンテレフタレート糸条を得た後、該ポリエチレンテレフタレート糸条を用いて、延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(S方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行って得たS方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸を得た。一方、前記ポリエチレンテレフタレート糸条を用いて延伸倍率1.6倍、仮撚数2500T/m(Z方向)、ヒーター温度180℃、糸速350m/分の条件で同時延伸仮撚捲縮加工を行い、Z方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸を得た。次いで、S方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とZ方向のトルクを有する仮撚捲縮加工糸とを合糸してインターレース加工(交絡処理)を行い、複合糸(44dtex/48fil、捲縮率16%、トルク0T/m)を得て糸種Aとした。なお、インターレース加工は、インターレースノズルを用い、オーバーフィード率1.0%、圧空圧0.3MPa(3kgf/cm2)で50個/mのインターレース(交絡)を付与した。
【0055】
一方、固有粘度[η]が1.3のナイロン6と、固有粘度[η]が0.39で2.6モル%の5-ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合させた変性ポリエチレンテレフタレートとをそれぞれ270℃ 、290℃ にて溶融し、サイドバイサイド型複合繊維を形成させ、冷却固化、油剤を付与した後、糸条を速度1000m/分、温度60℃の予熱ローラーにて予熱し、ついで、該予熱ローラーと、速度3050m 分、温度150℃ に加熱された加熱ローラー間で延伸熱処理を行い、巻取り、84dtex/24filの複合繊維を得て糸種Bとした。該複合繊維において、破断強度3.4cN/dtex、破断伸度40%であった。
【0056】
次いで、28ゲージの編機を使用して
図1の組織のシングル丸編地を製編した後、吸水加工を含む通常の染色工程にて酸性染料により青色に染色し、地組織部(G)とフラップ部(P)で構成されるフラップ付き編地を得た。かかるフラップ付き編地において、
図3に示すように、フラップ部が袋状の形状を有し、フラップ部の外気側に糸種A(複合糸)が配され、フラップ部の地組織側に糸種B(サイドバイサイド型複合繊維)が配されていた。
【0057】
次いで、該編地を温度20℃の水中に2時間浸漬した直後、一対のろ紙の間にはさみ、0.69mN/cm
2の圧力を5秒間かけて軽く水を拭き取り、外観確認したところ、
図4に模式的に示すように、記フラップ部の先端部が地組織部より離れる方向に動き外観変化が得られた。
【0058】
また、湿潤時前後で通気性(表面から裏面方向への通気性)を測定したところ、湿潤時に通気度が湿潤前に比べて67cm3/cm2・s大きくなった。
【0059】
[比較例1]
実施例1において、糸種Aのみを用いて、28ゲージの編機を使用して
図2の組織のシングル丸編地を製編した後、吸水加工を含む通常の染色工程にて分散染料により青色に染色し、地組織部(G)とフラップ部(P)で構成されるフラップ付き編地を得た。
【0060】
次いで、該編地を温度20℃の水中に2時間浸漬した直後、一対のろ紙の間にはさみ、0 .69mN/cm2の圧力を5 秒間かけて軽く水を拭き取り、外観確認したところ外観変化は得られなかった。また、湿潤時前後で通気性(表面から裏面方向への通気性)を測定したところ、湿潤時に通気度が湿潤前に比べて25cm3/cm2・s小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、フラップ部を含むフラップ付き編地であって、湿潤時に前記フラップ部が動くことにより通気度や外観が変化することが可能なフラップ付き編地および繊維製品が提供され、その工業的価値は極めて大である。
【符号の説明】
【0062】
(P):フラップ部
(G):地組織部
1:フラップ部の外気側
2:フラップ部の地組織部側