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特許7032540低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20220301BHJP
   C22C 38/38 20060101ALI20220301BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20220301BHJP
   C21D 8/02 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/38
C22C38/58
C21D8/02 B
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2020534934
(86)(22)【出願日】2018-12-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-02-22
(86)【国際出願番号】 KR2018016593
(87)【国際公開番号】W WO2019125091
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178931
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ファン-ギョ
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-101781(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130885(WO,A1)
【文献】特開2017-145467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0283901(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101514435(CN,A)
【文献】特開2004-143499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00
C22C 38/38
C22C 38/58
C21D 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.5%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、
微細組織としてポリゴナルフェライトを含み、
前記ポリゴナルフェライトの面積分率は10~30%、前記ポリゴナルフェライトの平均硬度は180HV以下であることを特徴とする低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項2】
前記鋼材は、平均硬度200HV以上の残部組織をさらに含み、
前記残部組織は、針状フェライト、ベイナイト、パーライト、及びマルテンサイトを含むことを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項3】
前記パーライト及びマルテンサイトの面積分率の合計は全面積に対して10%以下であることを特徴とする請求項2に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項4】
前記鋼材は、質量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項5】
前記鋼材の-30℃基準のシャルピー衝撃エネルギーは200J以上であることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項6】
前記鋼材の降伏比は90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項7】
前記鋼材の引張強度は500MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材。
【請求項8】
質量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.5%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1100~1160℃の温度範囲で再加熱し、
前記再加熱されたスラブを1050℃以上の終了温度で粗圧延し、
前記粗圧延されたスラブを980℃以下の温度範囲で仕上げ圧延開始して(Ar3+50℃)~900℃の温度範囲で仕上げ圧延を終了し、
前記仕上げ圧延された鋼材を第1冷却速度で(Ar3-40℃)~(Ar3-70℃)の温度範囲まで1次冷却し、
前記1次冷却された鋼材を第2冷却速度で350~400℃の温度範囲まで2次冷却することを特徴とする請求項1に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項9】
前記仕上げ圧延の有効圧下率は65%以上であることを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項10】
前記第2冷却速度は前記第1冷却速度よりも10~40℃/sさらに速いことを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項11】
前記第1冷却の開始温度は(Ar3+10℃)~(Ar3+30℃)であることを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項12】
前記第1冷却速度は10~20℃/sであることを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項13】
前記第2冷却は前記第1冷却の直後に行われることを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項14】
前記第2冷却速度は30~50℃/sであることを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項15】
前記2次冷却された鋼材を常温まで空冷することを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。
【請求項16】
前記スラブは、質量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらに含むことを特徴とする請求項8に記載の低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイプ用鋼材及びその製造方法に関し、より詳しくは、低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイプ用鋼材は、様々な方法により造管成形を介してパイプとして製造される。パイプ成形時に塑性変形が容易で、パイプ全体の焼成変形性が均一であるだけでなく、パイプの成形時に亀裂や破断が発生しない場合、造管性に優れると評価される。尚、パイプの使用時に輸送圧力の急激な変化があってもパイプの破断が起こらずに変形することができる場合には、パイプの安定性に優れると評価される。パイプ用鋼材の造管性及び安定性の向上のために要求される物性は降伏比を下げることである。これは、鋼材の降伏比が低くなるにつれて、降伏応力と引張応力の間の差が大きくなり、塑性変形が起こってから破断に達するまでの余裕応力が増加するためである。
【0003】
降伏比は、微細組織に依存する物性である。一般に、硬度が異なる相が混合されると、降伏比が低くなる傾向を示す。すなわち、焼ならし熱処理によって製造されたフェライトとパーライトのバンドからなる微細組織では低い降伏比値が得られるのに対し、ベイナイトのみからなる高強度鋼では高い降伏比値が得られることが確認される。硬度が異なる2つの相が存在する場合、降伏強度は硬度が低い相の強度及び分率の影響を受け、引張強度は硬度が高い相の強度及び分率の影響を受ける。したがって、硬度が低い相及び硬度が高い相の強度及び分率を最適に制御することにより低降伏比を確保することができる。
【0004】
但し、パイプ用鋼材、特にラインパイプ用鋼材の場合には、降伏比だけでなく、一定レベル以上の強度及び靭性が要求されるため、降伏比だけを考慮して微細組織を制御することができない。硬度が低い相であるポリゴナルフェライトの分率を必要以上に高くすると、降伏強度が低くなるという問題が発生し、高硬度相であるマルテンサイト又はベイナイトの分率を高くすると、靭性が劣化するという問題が発生する。
【0005】
したがって、パイプ用鋼材、特にラインパイプ用鋼材の場合には、一定レベル以上の強度及び靭性を確保するとともに、低降伏比特性を備えることで造管性及び安全性を確保することが要求される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第1997-0043168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による低降伏比特性に優れた高強度鋼材は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.5%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなり、微細組織としてポリゴナルフェライトを含み、前記ポリゴナルフェライトの面積分率は10~30%、前記ポリゴナルフェライトの平均硬度は180HV以下であることを特徴とする。
【0009】
前記鋼材は、平均硬度200HV以上の残部組織をさらに含み、前記残部組織は、針状フェライト、ベイナイト、パーライト、及びマルテンサイトを含み得る。
【0010】
前記パーライト及びマルテンサイトの面積分率の合計は全面積に対して10%以下であることが好ましい。
【0011】
前記鋼材は、重量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらに含み得る。
【0012】
前記鋼材の-30℃基準のシャルピー衝撃エネルギーは200J以上であり得る。
【0013】
前記鋼材の降伏比は90%以下であり得る。
【0014】
前記鋼材の引張強度は500MPa以上であり得る。
【0015】
上記目的を達成するためになされた本発明の一態様による低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.5%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなるスラブを1100~1160℃の温度範囲で再加熱し、前記再加熱されたスラブを1050℃以上の終了温度で粗圧延し、前記粗圧延されたスラブを980℃以下の温度範囲で仕上げ圧延開始して(Ar3+50℃)~900℃の温度範囲で仕上げ圧延を終了し、前記仕上げ圧延された鋼材を第1冷却速度で(Ar3-40℃)~(Ar3-70℃)の温度範囲まで1次冷却し、前記1次冷却された鋼材を第2冷却速度で350~400℃の温度範囲まで2次冷却することを特徴とする。
【0016】
前記仕上げ圧延の有効圧下率は65%以上であることが好ましい。
【0017】
前記第2冷却速度は前記第1冷却速度よりも10~40℃/sさらに速いことが好ましい。
【0018】
前記第1冷却の開始温度は(Ar3+10℃)~(Ar3+30℃)であることが好ましい。
【0019】
前記第1冷却速度は10~20℃/sであることが好ましい。
【0020】
前記第2冷却は前記第1冷却の直後に行われることが好ましい。
【0021】
前記第2冷却速度は30~50℃/sであることが好ましい。
【0022】
上記2次冷却された鋼材を常温まで空冷することが好ましい。
【0023】
前記スラブは、重量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらに含み得る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、500MPa以上の引張強度及び90%以下の降伏比をともに確保可能な鋼材及びその製造方法を提供することができ、これにより、パイプ用鋼材の造管性及び安全性を効果的に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法に関する。以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の実施形態は、様々な形態に変形することができ、本発明の範囲は以下で説明する実施形態に限定されない。本実施形態は、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者に本発明をより詳細に説明するために提供されるものである。
【0026】
以下、本発明の鋼組成について、より詳細に説明する。以下、特に記載しない限り、各元素の含有量を示す%は重量を基準とする。
【0027】
本発明の一態様による低降伏比特性に優れた高強度鋼材は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.5%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなる。
【0028】
C:0.06~0.12%
Cは、固溶強化及び析出強化により鋼を強化させるのに効果的な元素である。特に、Cは、降伏強度よりは引張強度に大きな影響を与える元素であるため、降伏比の減少に効果的に寄与する元素である。したがって、本発明は、Cの含有量の下限を0.06%に制限する。但し、Cが過度に添加されると、靭性を低下させる場合があるため、本発明は、Cの含有量の上限を0.12%に制限する。したがって、本発明のCの含有量は、0.06~0.12%である。さらに、Cの含有量が0.10%を超えると、製鋼連続鋳造工程においてスラブの表面クラックが頻繁に発生することから、本発明の好ましいCの含有量は、0.06~0.10%である。
【0029】
Si:0.2~0.5%
Siは、脱酸剤として用いられるだけでなく、固溶強化に寄与して鋼の強度を向上させる元素である。また、Siは、相変態時において島状マルテンサイト(MA)の生成を助長する元素である。島状マルテンサイト(MA)は、低降伏比特性に寄与する元素である。したがって、本発明は、島状マルテンサイト(MA)の生成を考慮して、Siの含有量の下限を0.2%に制限する。但し、Siが過多に添加されると、加熱炉内で成長したスケールの剥離性が低下するため、圧延完了後の表面品質が劣化するという問題が発生することから、本発明は、Siの含有量の上限を0.5%に制限する。したがって、本発明のSiの含有量は、0.2~0.5%である。
【0030】
Mn:1.5~2.0%
Mnは、固溶強化元素として鋼の強度を向上させるとともに、鋼の硬化能を高めて低温変態相の生成を促進する元素である。降伏比を下げるためには、微細組織内に適正分率の低温変態相が含まれるようにする必要がある。したがって、低温変態相の生成のために、本発明は、Mnの含有量の下限を1.5%に制限する。但し、Mnが過多に添加されると、スラブ鋳造時に中心偏析によって粗大なベイナイトの生成を助長して、中心部の靭性が低下し、且つ鋼の溶接性も低下することから、本発明は、Mnの含有量の上限を2.0%に制限する。したがって、本発明のMnの含有量は、1.5~2.0%である。
【0031】
Al:0.003~0.05%
Alは、代表的な脱酸剤元素である。その含有量が0.003%未満の場合には、十分な脱酸効果が期待することができない。したがって、本発明は、Alの含有量の下限を0.003%に制限する。また、Alが過度に添加されると、非金属酸化物であるAlを過度に形成して、母材及び溶接部の靭性が低下するという問題があるため、本発明は、Alの含有量の上限を0.05%に制限する。したがって、本発明のAlの含有量は、0.003~0.05%であり、より好ましいAlの含有量は、0.005~0.05%である。
【0032】
N:0.01%以下
Nは、Alと結合して窒化物を形成することにより鋼の強度向上に寄与する元素である。但し、Nが過度に添加されると、固溶状態のNによる靭性阻害が問題になることから、本発明は、Nの含有量の上限を0.01%に制限する。また、鋼中のNを完全に除去することは工業的及び経済的に難しいことから、製造工程上許容可能な範囲であるNの含有量の下限を0.001%に制限する。したがって、本発明のNの含有量は0.01%以下であり、より好ましいNの含有量は、0.001~0.01%である。
【0033】
P:0.02%以下
Pは、製鋼中必然的に鋼中に含まれる元素であって、溶接性及び靭性を阻害するだけでなく、凝固時のスラブの中心部及びオーステナイト結晶粒界に容易に偏析される元素として鋼の靭性を阻害する。したがって、適正レベルの靭性を確保するためには、その含有量を一定レベル以下に制限することが好ましい。特に、Pの含有量が0.02%を超えると、鋼材の厚さ中心部において脆性破壊が助長されて低温靭性を確保することが難しいことから、本発明は、Pの含有量を0.02%以下に制限する。
【0034】
S:0.003%以下
Sは、製鋼中必然的に鋼中に含まれる不純物元素であって、鋼材の厚さ中心部においてMnSなどの非金属介在物を形成して、低温靭性を阻害する元素である。Sの含有量が0.003%を超えると、鋼材の厚さ中心部に多量の非金属介在物が形成されて脆性破壊の開始点として作用し、亀裂伝播の経路を提供するようになる。したがって、本発明は、靭性を確保するために、Sの含有量を0.003%以下に制限する。
【0035】
Cr:0.05~0.5%
Crは、冷却時に十分な硬化能を確保し、セメンタイトのような第2相及び低温変態相の効果に寄与することから、降伏比の低下に効果的に寄与する元素である。このような効果を得るために、本発明は、Crの含有量の下限を0.05%に制限する。これに対し、Crが過多に添加されると、溶接部の靭性を阻害することから、本発明は、Crの含有量の上限を0.5%に制限する。したがって、本発明のCrの含有量は、0.05~0.5%であり、より好ましいCrの含有量は、0.05~0.45%である。
【0036】
Mo:0.05~0.5%
Moは、Crと同様に硬化能が非常に大きい元素であり、少量の添加によっても低温変態相の生成を促進して降伏比を下げるのに効果的に寄与する元素である。Moの添加によりベイナイト又はマルテンサイトの分率を増加させ、それに応じて、降伏比を減少させる。このような効果を得るために、本発明は、Moの含有量の下限を0.05%に制限する。但し、Moは、合金コストが高い元素であることから、本発明は、経済性の面からMoの含有量の上限を0.5%に制限する。したがって、本発明のMoの含有量は、0.05~0.5%であり、より好ましいMoの含有量は、0.05~0.45%である。
【0037】
Nb:0.01~0.05%
Nbは、スラブにおいて炭化物又は窒化物の形で析出物として存在するが、再加熱工程において鋼内に固溶されて圧延時における再結晶を遅延させる役割を果たす。再結晶遅延によって圧延後のフェライト変態時にフェライト核生成を促進させることから、結晶粒微細化を介して鋼材の強度を向上させる。本発明は、このような効果を達成するために、Nbの含有量の下限を0.01%に制限する。但し、Nbの添加によって鋼材の強度が上昇するものの、結晶粒微細化による強度の上昇は、引張強度よりは降伏強度の上昇に大きく寄与する。したがって、Nbが過度に添加されると、強度は上昇するものの、降伏比が上昇することから、本発明は、Nbの含有量の上限を0.05%に制限する。したがって、本発明のNbの含有量は、0.01~0.05%である。
【0038】
Ca:0.0005~0.005%
Caは、MnSなどの非金属介在物を球状化させる役割を果たす。Caは、Sと反応してCaSを形成するため、MnSなどの非金属介在物の生成を抑制し、それに応じて、低温靭性が向上する。このようなMnSなどの非金属介在物の球状化効果を得るために、本発明は、Caの含有量の下限を0.0005%に制限する。但し、Caは、揮発性が大きく、収率が低い元素であるため、本発明は、製鋼工程で発生する負荷を考慮して、Caの含有量の上限を0.005%にする。したがって、本発明のCaの含有量は、0.0005~0.005%である。
【0039】
本発明の一態様による低降伏比特性に優れた高強度鋼材は、重量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらに含み得る。
【0040】
Ni:0.05~0.3%以下
Niは、鋼の強度及び靭性をともに向上させる効果的な元素である。したがって、このような強度及び靭性の向上の効果を得るために、本発明は、Niの含有量の下限を0.05%に制限する。但し、Niは、高価な元素であって、過多添加は経済性の面から好ましくないことから、本発明は、Niの含有量の上限を0.3%に制限する。したがって、本発明のNiの含有量は、0.05~0.3%である。
【0041】
Cu:0.05~0.3%
Cuは、固溶強化により強度を向上させる元素である。したがって、強度向上の効果を得るために、本発明は、Cuの含有量の下限を0.05%に制限する。但し、Cuが過多に添加される場合には、スラブ製造時の表面亀裂を誘発して局部腐食抵抗性を低下させ、且つ圧延のためのスラブ再加熱時に融点の低いCuが鋼の粒界に浸透して熱間加工時におけるクラックの発生を誘発する可能性があることから、本発明は、Cuの含有量の上限を0.3%に制限する。したがって、本発明のCの含有量は0.05~0.3%である。
【0042】
Ti:0.005~0.02%
Tiは、スラブ内においてTiN又はTiCの形の析出物として存在する。スラブ再加熱時においてNbは溶解されて再固溶されるが、Tiは再加熱工程において溶解されず、TiNの形でオーステナイト結晶粒界に存在する。オーステナイト結晶粒界に存在するTiN析出物は、再加熱時に発生するオーステナイト結晶粒の成長を抑制する役割を果たすため、最終的なフェライト結晶粒微細化に寄与して強度及び靭性を向上させる。このようなオーステナイト結晶粒の成長を抑制する効果を達成するために、本発明は、Tiの含有量の下限を0.005%に制限する。但し、Tiの添加量が過多であると、鋼中のNの含有量に対してTiの含有量が過度になることから、粗大な析出物を形成し得る。このような粗大な析出物は、オーステナイト結晶粒の成長抑制に寄与するのではなく、逆に靭性を低下させる要因として作用することから、本発明は、鋼中のNの含有量を考慮してTiの含有量の上限を0.02%に制限する。
【0043】
B:0.0005~0.0015%以下
Bは、焼入性が大きい元素であって、少量添加によっても低温変態相を容易に生成することから、強度向上及び降伏比減少に効果的に寄与する元素である。このような焼入性による効果を得るために、本発明は、Bの含有量の下限を0.0005%に制限する。但し、Bは製鋼工程中に制御が難しい元素であるだけでなく、適正量以上添加されると、結晶粒界脆性を誘発して靭性を急激に低下させることから、本発明は、Bの含有量の上限を0.0015%に制限する。したがって、本発明のBの含有量は、0.0005~0.0015%である。
【0044】
本発明は、上述した鋼組成に加えて、残りはFe及び不可避不純物からなる。不可避不純物は、通常の鉄鋼製造工程において意図されずに混入されるものであるため、これを全面的に排除することはできず、通常の鉄鋼製造分野における技術者であれば、その意味を理解し得る。また、本発明は、上述した鋼組成以外の他の組成の添加を全面的に排除するものではない。
【0045】
本発明の一実施形態による低降伏比特性に優れた高強度鋼材は、微細組織としてのポリゴナルフェライト及び残部組織を含む。ポリゴナルフェライトの平均粒度は10μm以下であり、好ましいポリゴナルフェライトの平均粒度は6μm以下である。また、鋼材の断面に対するポリゴナルフェライトの面積分率は10~30%であり、ポリゴナルフェライトの平均硬度は180HV以下である。残部組織は、針状フェライト、ベイナイト、パーライト、及びマルテンサイトを含み、残部組織の平均硬度は200HV以上である。また、残部組織のうち、パーライト及びマルテンサイトの合計分率は、鋼材全体の断面面積に対して10%以下である。
【0046】
本発明の一実施形態による低降伏比特性に優れた高強度鋼材の-30℃におけるシャルピー衝撃エネルギーは200J以上、引張強度は500MPa以上である。また、本発明の一実施形態による低降伏比特性に優れた高強度鋼材の降伏比は90%以下、より好ましくは88%以下である。
【0047】
以下、本発明による低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法についてより詳細に説明する。
【0048】
本発明の一態様による低降伏比特性に優れた高強度鋼材の製造方法は、重量%で、C:0.06~0.12%、Si:0.2~0.5%、Mn:1.5~2.0%、Al:0.003~0.05%、N:0.01%以下、P:0.02%以下、S:0.003%以下、Cr:0.05~0.5%、Mo:0.05~0.%、Nb:0.01~0.05%、Ca:0.0005~0.005%、残部Fe及びその他の不可避不純物からなるスラブを再加熱して粗圧延及び仕上げ圧延し、第1冷却速度で(Ar3-40℃)~(Ar3-70℃)の温度範囲まで1次冷却し、第2冷却速度で350~400℃の温度範囲まで2次冷却する。また、本発明で提供されるスラブは、重量%で、Ni:0.05~0.3%、Cu:0.05~0.3%、Ti:0.005~0.02%、及びB:0.0005~0.0015%のうちの1種又は2種以上をさらにを含み得る。
【0049】
本発明のスラブの組成含有量は、上述した鋼材の組成含有量に対応することから、本発明のスラブの組成含有量の制限理由についての説明は、上述したスラブの組成含有量の制限理由についての説明で代替する。
【0050】
スラブ再加熱
上述した組成を備えたスラブを、1100~1160℃の温度範囲で再加熱する。固溶Nbによる最終的な微細組織の結晶粒微細化の雰囲気を造成するために、一定温度以上にスラブを加熱してスラブ内のNbC析出物を十分に分解する必要がある。したがって、本発明は、固溶Nbによる結晶粒微細化効果を達成するために、スラブ再加熱温度の下限を1100℃に制限する。また、スラブの再加熱温度が上昇する場合には、NbC析出物の分解による固溶Nbの確保は容易であるが、オーステナイトの結晶粒成長も急激に発生し、最終的なフェライトの結晶粒サイズを増加させる。また、Nbの固溶量が過度な場合には、未再結晶域の温度が上昇して高温で圧延しても結晶粒微細化を十分に達成することができないことから、逆に低降伏比特性が劣化する。したがって、本発明のスラブ再加熱温度の上限は1160℃に制限する。
【0051】
粗圧延
スラブの再加熱後に粗圧延を行う。粗圧延時における再結晶現象によってオーステナイトの結晶粒微細化が行われる。粗圧延温度が1050℃未満の場合には、部分再結晶が発生し、鋼材内部のオーステナイト結晶粒サイズが不均一になる。特に、厚さ中心部のオーステナイト結晶粒サイズの不均一形状が激しくなり、最終的な中心部の微細組織において粗大なベイナイト微細組織が形成されるため低温靭性が劣化する。したがって、本発明は、粗圧延終了温度を1050℃以上に制限する。
【0052】
仕上げ圧延
粗圧延後に仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延において有効オーステナイト結晶粒サイズを微細化するためには、仕上げ圧延において加わる圧延エネルギーをオーステナイト結晶粒の変形帯形成又は転位形成を介して蓄積する必要がある。このために、仕上げ圧延の開始温度を制限する必要がある。仕上げ圧延の開始温度が980℃を超えると、焼鈍によって仕上げ圧延の圧延エネルギー蓄積効果がほとんど失われることから、有効オーステナイトの結晶粒を十分に微細化することができず、それに応じて、フェライト結晶粒の微細化効果を十分に達成することができない。したがって、目的とする微細組織を確保するために、本発明は、仕上げ圧延の開始温度を980℃以に制限する。
【0053】
また、オーステナイト結晶粒の変形帯は、仕上げ圧延温度が再結晶域の温度(Tnr)よりも低い場合に形成される。すなわち、仕上げ圧延全体で加わる圧下率ではなく、再結晶域の温度(Tnr)未満で加わる圧下率、すなわち、有効圧下率が強度及び靭性の向上にさらに影響を与える重要な要素である。仕上げ圧延中の有効圧下率が十分でないと、フェライト変態時に微細な結晶粒を生成できないだけでなく、有効オーステナイトの結晶粒が粗大になって焼入性によるベイナイト分率が過度に増加することから、靭性及び降伏比が劣化する。したがって、本発明の仕上げ圧延の有効圧下率は65%以上である。参考として、有効圧下率及び再結晶域の温度(Tnr)は、下記の式1及び式2を介して理論的に導出可能である。ここで、本発明の再結晶域温度(Tnr)とは、オーステナイトの再結晶が停止する温度を意味する。
[式1]
有効圧下率(%)=[(Tnr温度直下における鋼材の厚さ-鋼材の最終厚さ、mm)/Tnr温度直下における鋼材の厚さ、mm]*100
[式2]
Tnr(℃)=887+464*C+890*Ti+363*Al-357*Si+(6445*Nb-644*Nb1/2)+(732*V-230*V1/2
【0054】
仕上げ圧延時に加わる圧延エネルギーは、オーステナイト結晶粒の変形帯又は転位形成を介して蓄積される。仕上げ圧延温度が低くなるほど変形帯の生成が促進されて、フェライト核生成サイトが増加し、それに応じて、最終的な結晶粒が微細化する。また、仕上げ圧延温度が高くなるほど転位消滅などが容易であるため、圧延エネルギーが蓄積されずに容易に消滅する。したがって、本発明で制限された成分や仕上げ圧延の有効圧下率などを考慮すると、低温靭性の確保のために、仕上げ圧延は少なくとも900℃以下で終了する。仕上げ圧延後の冷却のために鋼材を移動させる場合には、空冷による鋼材の温度低下が発生する。冷却開始前の空冷により冷却開始温度がAr3+10℃以下に低下することを防止するために、仕上げ圧延の終了温度は(Ar3+50℃)以上に制限する。したがって、本発明の仕上げ圧延の終了温度は(Ar3+50℃)~900℃である。参考として、Ar3温度は、下記の式3を介して理論的に導出される。
[式3]
Ar3(℃)=910-310*C-80*Mn-20*Cu-15*Cr-55*Ni-80*Mo+0.35*(鋼材の厚さ-8、mm)
【0055】
第1冷却
仕上げ圧延後の冷却によってオーステナイトからフェライトへの変態を制御することで、鋼材の最終的な微細組織が決定される。目的とする降伏比を確保するためには、硬度が異なる相が適正割合で複合的に存在するようにする。特に、フェライトの分率及び高硬度相の硬度が適正範囲を満たすようにする。仕上げ圧延後、第1冷却による微細なポリゴナルフェライトを適切に導入するためには、Ar3よりもやや高い温度で第1冷却が開始するようにする。第1冷却がAr3よりも10~30℃程度高い温度で開始する場合には、最も適正割合の微細なポリゴナルフェライトを導入する。したがって、本発明の第1冷却の開始温度は(Ar3+10℃)~(Ar3+30℃)である。
【0056】
鋼材の低降伏比特性を確保するために、微細なフェライトと低温変態相が混合された微細組織を得る。但し、微細なフェライトの分率が過度な場合には、低降伏比特性を確保することができるものの、降伏強度が低下して高強度特性を確保することができなくなる。第1冷却の終了温度がAr3-70℃未満の場合には、フェライト分率が過度に増加して高強度特性の確保が難しく、第1冷却の終了温度がAr3-40℃を超えると、フェライト分率が低くなって低降伏比特性の確保が難しくなる。したがって、本発明は、第1冷却の冷却終了温度を(Ar3-70℃)~(Ar-40℃)に制限する。
【0057】
第1冷却においてベイナイト変態が開始せず、ポリゴナルフェライトが生成されるように第1冷却速度は速すぎないように制御される。したがって、第1冷却速度は10~20℃/sに制限される。第1冷却速度が10℃/s未満の場合には、水冷フェライトが比較的粗大に生成されて降伏強度が低くなり、第1冷却速度が20℃/sを超えると、ポリゴナルフェライトの生成量が基準に達することなく、低温変態相の分率が増加して低降伏比特性を確保することができない。したがって、本発明の第1冷却速度は10~20℃/sに制限される。
【0058】
第2冷却
第1冷却において未変態されたオーステナイトがベイナイトなどの低温変態相に十分に変態するように、第2冷却終了温度はベイナイト変態終了温度よりも十分に低くする。したがって、本発明は、第2冷却終了温度を400℃以下に制限する。これに対し、第2冷却終了温度が低すぎると、脆性が激しいマルテンサイトの生成量が増加するため、降伏比は低くなる一方で、靭性が低下する。したがって、マルテンサイトの生成を抑制するために、本発明の第2冷却終了温度は350℃以上に制限される。したがって、本発明の第2冷却終了温度は350~400℃である。第2冷却終了後には、空冷により常温まで冷却する。
【0059】
第1冷却においてフェライトに変態しないオースナイトが全部ベイナイトに変態するように、第2冷却速度は、第1冷却速度よりも速い速度で制御される。第2冷却速度は、第1冷却速度よりも10~40℃/sさらに速い。本発明の好ましい第2冷却速度は30~50℃/sである。
【0060】
また、微細組織の側面から第2冷却は第1冷却の直後に行われることが好ましい。
【実施例
【0061】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0062】
(実施例)
下記の表1に記載された成分系を満たす鋼スラブを製造し、それぞれのスラブに対して下記の表2の工程条件で鋼材を製造した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表2によって製造されたそれぞれの鋼材を長さ方向に沿って切断した引張試験片に対して引張試験を行うことで、降伏強度、引張強度、及び-30℃におけるシャルピー衝撃エネルギーを評価した。その結果は、下記の表3に示すとおりである。また、表2によって製造されたそれぞれの鋼材に対してエッチング後の微細組織を観察し、各組織の硬度を測定した。各鋼材のポリゴナルフェライトの分率及び硬度、ポリゴナルフェライトを除いた残りの相(パーライト+マルテンサイト)の分率及び硬度は下記の表4のとおりである。
【0066】
【表3】
【0067】
【表4】
【0068】
発明例1~16は、本発明の鋼組成、微細組織、及び工程条件をすべて満たすことから、200J以上の-30℃におけるシャルピー衝撃エネルギー、500MPa以上の引張強度、及び90%以下の降伏比をすべて満たすことが確認される。特に、発明例1~16は、降伏比がすべて90%未満であることが確認される。
【0069】
比較例1は、組成含有量は本発明の組成を満たすものの、第1冷却及び第2冷却を区分せずに1回の冷却だけを行い、第1冷却開始温度が本発明の技術範囲を超えることから、本発明の微細組織の条件を満たさないことが確認される。したがって、比較例1は、本発明が目的とする低温靭性を確保することができないことが確認される。
【0070】
比較例2は、組成含有量は本発明の組成含有量を満たすものの、仕上げ圧延有効圧下率及び第1冷却速度が本発明の範囲を満たさないことから、本発明の微細組織の条件を満たさないことが確認される。したがって、比較例2は、本発明が目的とする引張強度及び低温靭性を確保することができないことが確認される。
【0071】
比較例3は、組成含有量は、本発明の組成含有量を満たすものの、再加熱温度、粗圧延終了温度、仕上げ圧延終了温度、第1冷却開始温度、及び第1冷却終了温度が本発明の範囲を満たさないことから、本発明の微細組織の条件を満たさないことが確認される。したがって、比較例3は、本発明が目的とする低温靭性を確保することができないことが確認される。
【0072】
また、比較例4~13は、本発明の鋼組成、微細組織、及び工程条件をすべて満たしていないことから、本発明が目的とする物性を確保しないことが確認される。
【0073】
したがって、本発明の一実施形態による低降伏比特性に優れた高強度鋼材及びその製造方法は、低降伏比特性及び高強度性をともに満たし、安定性及び造管性が確保可能なパイプ用鋼材及びその製造方法を提供することができる。
【0074】
以上、実施形態を通じて本発明を詳細に説明したが、これと異なる形態の実施形態も可能である。したがって、本発明の思想及び技術的範囲は上述した実施形態に限定されない。