(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】低放射率薄膜コーティング中に超高速レーザー処理した銀含有層を含むコーティングされた物品、及び/又はその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/36 20060101AFI20220301BHJP
C03C 23/00 20060101ALI20220301BHJP
B32B 17/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
C03C17/36
C03C23/00 D
B32B17/00
(21)【出願番号】P 2020564198
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 IB2019056575
(87)【国際公開番号】W WO2020026192
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2020-11-13
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517413513
【氏名又は名称】ガーディアン・グラス・エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】GUARDIAN GLASS, LLC
【住所又は居所原語表記】2300 Harmon Road, Auburn Hills, MI 48326-1714 United States of America
(73)【特許権者】
【識別番号】519142608
【氏名又は名称】ガーディアン・ヨーロッパ・エスエイアールエル
【氏名又は名称原語表記】GUARDIAN EUROPE S.A.R.L.
【住所又は居所原語表記】19 Rue du Puits Romain,L-8070 Bertrange, Luxembourg
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーラサミ ヴィクター
(72)【発明者】
【氏名】ディステルドルフ ベルント
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0226631(US,A1)
【文献】特表2015-529622(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0368817(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107056084(CN,A)
【文献】特表2014-515719(JP,A)
【文献】特表2015-527275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-23/00
B32B 17/00-17/12
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティングされた物品を作製する方法であって、
基材上に低放射率(low-E)コーティングを形成することであって、前記low-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、各前記銀系層は1つ以上の誘電体層の間に挟まれている、ことと、
前記low-Eコーティングを、10
-12
秒以下の持続時間、355~500nmの波長、及び30kW/cm
2
を超えるエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光することであって、前記露光は、前記low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)各前記銀系層に対する粒界、及び各前記銀系層内の空孔、(b)各前記銀系層の屈折率、並びに、(c)蒸着されたままの状態と比較した前記low-Eコーティングの放射率を減少させるように実行される、ことと、を含む、方法。
【請求項2】
前記基材がホウケイ酸塩ガラスである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材がソーダ石灰シリカガラスである、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
各前記銀系層が、酸化亜鉛を含むそれぞれの層の上に提供され、これらに接触している、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
酸化亜鉛を含む各前記層が、前記露光前に実質的に結晶質である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記low-Eコーティングが、第1及び第2の銀系層を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記low-Eコーティングが、少なくとも3つの銀系層を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記low-Eコーティングが、複数の銀系層を含み、前記露光が、下層の前記銀系層のテクスチャよりも最上層の前記銀系層のテクスチャを変更するように実施される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記レーザーパルスが、少なくとも50kW/cm
2
のエネルギー密度、及び/又は1、10、若しくは100フェムト秒単位の持続時間を有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記露光後に前記low-Eコーティングを熱処理することを更に含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記露光が、前記low-Eコーティングの形成とインラインで実行される、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記露光が、前記low-Eコーティングが形成される前記基材側から実行される、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記low-Eコーティングの垂直放射率が、蒸着されたままの状態の前記low-Eコーティングと比較して少なくとも9%改善する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記露光が、各前記銀系層のそれぞれの少なくとも一部の再結晶化を促進するように実行される、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記露光が、少なくとも銀系層に対してアサーマルである、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
コーティングされた物品を作製する方法であって、
ガラス基材上に低放射率(low-E)コーティングを有することであって、前記low-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、前記銀系層は少なくとも第1の誘電体層と第2の誘電体層との間に挟まれている、ことと、
前記low-Eコーティングを、10
-12
秒以下の持続時間及び少なくとも50kW/cm
2
のエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光することであって、前記露光は、前記low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)前記銀系層内の空孔を減少させる、(b)前記銀系層の屈折率を減少させる、(c)前記low-Eコーティングの可視透過率を上昇させる、かつ、(d)前記low-Eコーティングの放射率を、蒸着されたままの形態と比較して、任意に前記low-Eコーティングの放射率低減とシート抵抗低減との間の関係性を切り離すのに十分なレベルまで減少させるように実行される、ことと、を含む、方法。
【請求項17】
前記銀系層が、酸化亜鉛を含むそれぞれの層の上に提供され、これらに接触している、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記レーザーパルスが、1、10、又は100フェムト秒以下の持続時間を有する、請求項16~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記low-Eコーティングの垂直放射率が、蒸着されたままの状態の前記low-Eコーティングと比較して少なくとも9%改善する、請求項16~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記露光が、前記銀系層の少なくとも一部の再結晶化、及び/又は前記銀系層に対する粒界の減少を促進するように実行される、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記露光が、前記銀系層に対してアサーマルである、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記low-Eコーティングが、複数の銀系層を含み、前記露光が、下層の前記銀系層のテクスチャよりも最上層の前記銀系層のテクスチャを変更するように実施される、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の特定の例示的実施形態は、低放射率(low-E)コーティングを支持する基材(例えば、ガラス基材)、及び/又はその製造方法に関する。より具体的には、本発明の特定の例示的実施形態は、銀含有low-Eコーティングの超高速レーザー処理、かかるコーティングを含むコーティングされた物品、及び/又は関連する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングされた物品は、当該技術分野において既知である。コーティングされた物品は、例えば、絶縁ガラス(IG)ユニット、積層製品、車両用窓、及び/又は同様の窓用途で使用されている。
【0003】
特定の状況では、コーティングされた物品の設計者は、望ましい可視透過率、望ましい色値、高い光対太陽利得比(LSG、太陽熱利得係数(SHGC)で除算した可視透過率(Tvis)に等しい)値、低い放射率(又は低いエミッタタンス)、低いSHGC値、及び低いシート抵抗(Rs)の組み合わせを目指すことが多い。例えば、高可視透過率は、特定の窓用途において、より望ましいコーティングされた物品を可能にし得る。低放射率(low-E)、低SHGC、高LSG、及び低シート抵抗特性は、例えば、このようなコーティングされた物品が、相当量の赤外線(IR)放射が物品を通過するのを阻止することができる。例えば、IR放射を反射することにより、車両又は建物内部の望まれない加熱を低減することが可能である。
【0004】
low-Eコーティングは一般に、誘電体層の間に挟まれた、例えば銀などの赤外反射材料を含む1つ以上の薄膜層を含む。一重、二重、三重、及び更には四重の銀コーティングが開示されている。low-Eコーティングは、商業用及び住宅用窓、天窓、及び他の用途において有利であり、モノリシック、積層、IGユニット、及び他の製品に組み込まれている。しかしながら、非常に薄い銀系層及び低シート抵抗を有するコーティングを有することは、多くの点で必要条件と矛盾しており、成長及び他のプロセスの慎重な最適化を要する。当業者には理解されるように、商業的適用可能性のために複数のコータープラットフォームにわたってそのような最適化を実行することは、ほとんど不可能であると見なされるであろう。したがって、シート抵抗、放射率、銀厚さ、及び蒸着速度などを最適化するための観点から、薄い銀系フィルムを含む積層体を後処理する方法を見出すことが望ましい。
【0005】
このようなコーティングの品質を改善するために、多くの試みがなされてきた。例えば、LSG、SHGC、放射率、及び/又は他の値を促進するために、銀系又は他のIR反射層の品質を改善する試みがなされてきた。また、現在のlow-Eコーティングは、多種多様な用途に有用であるが、特に、スパッタリングによって蒸着される銀系薄膜は、高い動的蒸着速度で形成されるため、このようなフィルムの品質を改善することが望ましいことが理解されるであろう。蒸着の性質は、多くの場合、フィルムが多くの様々な構造欠陥(例えば、空孔、フェレンケル欠陥、転位など)を有するようなものである。これらの欠陥は、本質的に表面欠陥及び/又はバルクであってもよく、また、場合によっては、薄膜がバルク挙動を呈することを防ぎ得る。フィルムのエネルギー地形において、これらの欠陥は、深いエネルギー井戸内に閉じ込められ得る。
【0006】
この点に関して、スパッタリング蒸着は、典型的には、蒸着温度が溶融温度よりも著しく低いことが多いため、蒸着された原子の過冷却を伴う。スパッタリング蒸着フィルムは、一般に、所与の蒸着温度に対する熱平衡値よりもはるかに高い空孔濃度を含有する。加熱は、例えば、粒界、転位などを介してフィルム表面に移動することを可能にすることによって、空孔の数を低減することができる。
【0007】
従来の加熱はミリ秒よりも大きい時間スケールを伴う。実際、1~10分以上の時間スケールを含む熱処理は珍しくない。このような加熱法では、電子及びフォノンの両方が同時に加熱される。しかしながら、残念ながら、典型的な加熱時間スケールは、熱が基材又は隣接する媒体に拡散するのに十分な長さであり、実際の金属膜に拡散するよりも長い時間であることが多い。作り出される温度勾配は、熱媒体の平均自由行程よりもはるかに大きい。混入原子は、再結晶化後に金属系内に容易に拡散することができる。また、動力学的に常に平衡に近い場合であっても、いずれの場合も基材の選択によって制限される一般的に使用される温度では、欠陥は容易に焼鈍されない。
【発明の概要】
【0008】
特定の例示的実施形態は、これら及び/又は他の懸念事項に対処する。例えば、本発明の特定の例示的実施形態は、low-E及び/又は他のコーティングにおける赤外線反射層の品質を改善するための技術に関する。すなわち、特定の例示的実施形態は、low-E及び/又は他のコーティングにおける銀系層の欠陥の数を低減し、及び/又は再結晶化を促進する。これは、ピコ秒及びサブピコ秒(例えば、フェムト秒)のレーザーによって可能になる、超高速融解を使用することによって、特定の例示的な実施形態において達成される。特定の例示的実施形態は、シート抵抗、放射率、可視透過率などを有利に改善する。
【0009】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品を作製する方法が提供される。低放射率(low-E)コーティングは、基材(例えば、ホウケイ酸又はソーダ石灰シリカガラス)上に形成され、このlow-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、各銀系層は1つ以上の誘電体層の間に挟まれている。low-Eコーティングは、10-12秒以下の持続時間、355~500nmの波長、及び30kW/cm2を超えるエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光される。露光は、low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)各銀系層に対する粒界、及び各銀系層内の空孔、(b)各銀系層の屈折率、並びに、(c)蒸着されたままの状態と比較したlow-Eコーティングの放射率を減少させるように実行される。
【0010】
異なる例示的実施形態では、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上の銀系層が提供されてもよい。
【0011】
特定の例示的実施形態によれば、各銀系層は、酸化亜鉛などの金属酸化物を含むそれぞれの層(例えば、酸化亜鉛スズを含む層)の上に提供され、それに接触していてもよい。金属酸化物を含む各層(例えば、酸化亜鉛などを含む各層)は、レーザー露光の前に実質的に結晶質であってもよい。
【0012】
特定の例示的実施形態によれば、low-Eコーティングの垂直放射率は、蒸着されたままの状態のlow-Eコーティングと比較して、少なくとも9%改善し得る。
【0013】
特定の例示的実施形態によれば、レーザー露光は、各銀系層の少なくとも一部の再結晶化を促進するように実行され得る。
【0014】
特定の例示的実施形態によれば、露光による曝露は、少なくとも銀系層に対してアサーマルであってもよい。
【0015】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品を作製する方法が提供される。この方法は、ガラス基材上に低放射率(low-E)コーティングを有することであって、このlow-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、各銀系層は1つ以上の誘電体層の間に挟まれていることを含む。low-Eコーティングは、10-12秒以下の持続時間及び少なくとも50kW/cm2のエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光され、露光は、low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)各銀系層内の空孔を減少させる、(b)各銀系層の屈折率を減少させる、(c)low-Eコーティングの可視透過率を上昇させる、かつ、(d)low-Eコーティングの放射率を、蒸着されたままの形態と比較して、low-Eコーティングの放射率低減とシート抵抗低減との間の関係性を切り離すのに十分なレベルまで減少させるように実行される。導電率(例えば、シート抵抗)もまた、特定の例示的実施形態において改善され得る。
【0016】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品が提供される。コーティングされた物品は、ガラス基板と、ガラス基板によって支持されるスパッタリング蒸着された低放射率(low-E)コーティングと、を含み、low-Eコーティングは、酸化亜鉛を含む層の上に設けられ、この層に接触している少なくとも1つの銀系層を含む。low-Eコーティングを、少なくとも50kW/cm2のエネルギー密度を有するサブピコ秒レーザーパルスでレーザー処理して、銀系層中の空孔と、銀系層と酸化亜鉛を含む隣接する下層との間の双晶粒界を除去する。low-Eコーティングは、改善され、0.02未満のレーザー処理後放射率を有する(例えば、各銀系層が25nm未満、より好ましくは20nm未満である)。
【0017】
本明細書に記載の特徴、態様、利点、及び例示的実施形態は、更なる実施形態を実現するために組み合わされてよい。
【0018】
これら及び他の特徴及び利点は、図面と併せて、例示的な実施形態の以下の詳細な説明を参照することによって、より良好かつより完全に理解され得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】特定の例示的実施形態の溶融プロセスを示す概略図である。
【
図2】第1のサンプルセットと関連して使用された、例示的な二重銀low-Eコーティングである。
【
図3A】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対する透過率をプロットしたグラフである。
【
図3B】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対する透過率をプロットしたグラフである。
【
図4A】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対するガラス側反射をプロットしたグラフである。
【
図4B】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対するガラス側反射をプロットしたグラフである。
【
図5A】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対するフィルム側反射をプロットしたグラフである。
【
図5B】
図2に関連して記載された透明及びEagleガラスサンプルについて、レーザー処理前後の波長に対するフィルム側反射をプロットしたグラフである。
【
図6】第2のサンプルセットと関連して使用された、例示的な一重銀low-Eコーティングである。
【
図7】元のコーティングされたままのサンプルの透過曲線と共に、第2のサンプルセットの5つのサンプルの波長に対する透過率をプロットしたグラフである。
【
図9】第3のサンプルセットと関連して使用された、例示的な一重銀low-Eコーティングである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の特定の例示的実施形態は、銀含有low-Eコーティングの超高速レーザー処理、かかるコーティングを含むコーティングされた物品、及び/又は関連する方法に関する。薄膜の超高速レーザー改質は、ピコ秒又はサブピコ秒(例えば、10-12秒以下、より好ましくは1、10、又は100フェムト秒単位(及び場合によっては更に短い))の持続時間のレーザーパルスを伴い、例えば、積層体が1つ以上の銀系層を含む場合、積層体の性能を改善する。レーザー改質が実行され、銀系層中の銀の少なくともいくらかの結晶化又は再結晶化を引き起こす可能性が高い。しかしながら、銀系層の改善のおそらくより強い原動力は、粒子の再配向及び粒界への影響に関する。この点に関して、銀系層は、改善されたテクスチャを有し、より高密度かつよりバルク様になることができる。加えて、銀系層とその下の少なくとも誘電体層との間の境界面、及び/又は、銀系層と上層との間の境界面が改善される。例えば、銀を含む層が酸化亜鉛を含む層(例えば、酸化亜鉛スズを含む層など)上に直接形成され、かつそれに接触すると、レーザー改質が双晶粒界の数を低減するのに役立つため、界面は改善される。Ni、Cr、及び/又はTiを含む層(例えば、NiCrOxを含む層)の下に形成され、かつこれに直接接触する、例えば銀を含む層間の界面に関しても同じ又は同様であり得る。溶融の開始は、バルク銀の融点よりもはるかに低い温度で、上側界面及び/又は下側界面(例えば、銀系層とNiCrOxを含む層との間の界面、及び/又は銀系層と酸化亜鉛を含む層との間の界面)で生じ、ひいては界面の粗さの改善に貢献すると考えられる。処理された銀系層は、より少ない欠陥(内部により少ない空孔及び粒界を含む)を伴ってよりバルク様であり、かつ、双晶粒界がより少ないため、全体としての積層体は、改善された導電率(及びより低いシート抵抗)、放射率(半球及び垂直の両方)、可視透過率、及び赤外線反射を呈する。積層体内の銀系層の屈折率及びk値が低下し、それによってコーティングの光学性能が向上する。加えて、このようなコーティングは、例えば、レーザー処理後の積層体の測定値として、より堅牢で、かつ/又は耐食性となることが可能であり、(引張ではなく)圧縮応力を示した。
【0021】
従来のコーティングでは、シート抵抗と放射率との間に関係性がある。一般に、それらは直接相関しており、シート抵抗の低減は、予想される放射率の減少を伴う。しかしながら、特定の例示的実施形態は、最終的に、処理後の電子の移動性に影響を及ぼす、フェムトレーザーなどを使用する。特定の例示的実施形態は、この方法で、この関係性が切り離される、0.02未満(及び場合によっては0.015未満)のレベルまで放射率を低減することができる。したがって、特定の例示的実施形態のレーザー処理は、導電率を減少させることができるが、期待される変化に対応しないように、垂直及び半球放射率を低減することもできる。
【0022】
驚くべきことに、かつ予想外に、積層体は、銀の結晶化(又は再結晶化)の顕著な量を伴わずに改善され得る。これは、典型的には加熱処理が作用する原理とは対照的であり、レーザーが金属と共に使用されるときにしばしば発生する再溶融/アブレーションに反している。特定の例示的実施形態では、超高速レーザー処理は、レーザーパルスを介してエネルギーを送達する。この技術におけるあらゆる「加熱」は、原子がコーティング中に拡散することができないような時間スケールで生じる。その代わりに、レーザー処理は、実質的に質量がないために小さい熱容量を有する電子を単に励起する。したがって、全体的な物理的温度測定値は、高いものではない。熱電対及び熱イメージャを使用して収集されたデータは、従来の熱ヒート処理及び多くの他の種類のレーザー処理において予想されたものとは対照的に、サンプル上のコーティングの温度が明らかに上昇しなかったことが明らかになった。例えば、連続(CW)レーザー処理は、この特性を有さない。また、CWレーザーを用いた場合にはシート抵抗の改善を行うことができるが、銀系層中に焦げ跡が見られる可能性がある。特定の例示的実施形態では、積層体の超高速レーザー改質と、積層体の温度が300℃を超える(例えば、その表面温度によって測定される)ことの回避が可能である。特定の例示的実施形態では、積層体の超高速レーザー改質は、少なくとも内部の銀系層に対して「アサーマル」である。場合によっては、この技術は、積層体全体に対してアサーマルであってもよい。したがって、特定の例示的実施形態では、積層体の温度は、300℃以下まで上昇し、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下、時には5~10℃以下だけ上昇する。したがって、特定の例示的な実施形態は、驚くべきことに、かつ予想外に、大きな温度上昇を伴わず、かつ大幅な結晶化(又は再結晶化)を必要とせずに、優れた伝導率及び放射率レベルを達成することができる。特定の例示的な実施形態はアブレーションを伴わないが、いくつかの例では、いくらかの焦げ跡が視認可能であり得る。
【0023】
理論に束縛されるものではないが、特定の例示的実施形態が動作し得る特定の機構の可能な説明がここで提供される。超高速レーザー露光が使用される場合、10,000Kの倍数である温度まで「加熱された」電子によって引き起こされる熱スパイクが存在する。レーザーがコーティング上に示される場合、この熱スパイクは、最初の数ピコ秒で銀系層に対して均質な融解を生み出す。より詳細には、レーザーパルスは、伝導電子を励起し(例えば、高密度電子「ガス」に関連して)、束縛電子も励起される。この高温電子ガスは、イオン格子と相互作用する(例えば、フォノン雲に関連して)。フォノン雲は、音響及び光学分岐の両方を含み、光学フォノンは有利には局在的である。したがって、レーザーパルスは、約1ピコ秒で(ナノ)結晶性及び/又は他の銀を液体に変化させることができる。メルトフロントは吸収深さを超えて伝搬し、生成される温度勾配は、平均自由行程よりも小さい。
【0024】
超高速加熱は、必要とされる面積当たりのエネルギー密度(例えば、0.1~0.5J/cm2)を送達して、高密度の電子を励起し、急速な加熱と後続の冷却をもたらすことができる。高い空孔濃度(nc)の生成は、相転移の重要な影響を有する。いくつかの二次再結晶化は、高ncの存在下で進行することができるが、おそらくより有意には、粒界移動が加速され、銀のバルク品質が向上するにつれて、より大きな粒が形成又は再形成される。有利には、この方法は、コーティングにおける観察可能な温度上昇につながらず、上述のように、この方法は、少なくとも銀に対してアサーマルである。その結果、系に加えられる表面エネルギー及び歪みエネルギーは非常に低い。少なくとも約30kW/cm2の電力密度が、特定の例示的実施形態を、例えば、本明細書に記載される持続時間で可能にするために必要と考えられる。
【0025】
図1は、特定の例示的実施形態の溶融プロセスを示す概略図である。
図1に示すように、パルスビーム102は、上部絶縁体104を通って、(特定の例示的実施形態ではレーザーの波長に等しい)消光長Lまで、かつ銀系層106内へと延在する。消光長Lは、好ましくは下部絶縁体108内に延在しない。以下でより詳細に論じられる例示的な積層体から理解されるように、下部絶縁体108は、酸化亜鉛を含む層(例えば、酸化亜鉛スズを含む層)であってもよく、上部絶縁体104は、Ni、Cr、及び/又はTiを含む層(例えば、NiCrOxを含む層)であってもよい。特定の例示的実施形態では、下部絶縁体108は、レーザービーム処理の前に結晶質であってもよい。
【0026】
パルスビーム102の幅において、固相線部分106aは液化されて液体部分106bを生成する。メルトフロント106cは、銀系層106の深さを通って(例えば、その後の走査により、消光長Lへの変化などによって)徐々に拡大する。有利には、溶融の開始は、バルク銀の融点よりもはるかに低い温度で行われる。音響フォノンは、下部絶縁体108内に結合される。上述したように、励起が非常に急速であり、電子が大量のエネルギーを非常に少ない質量で伝達するため、このプロセスは本質的にアサーマルである。また理解されるように、このプロセスでは、銀系層又は積層体内の任意の他の層の意図的な熱的加熱は存在せず、提供される吸収層は存在しない。
【0027】
有利には、レーザーパルス持続時間は、Eフォノンの結合時間よりも短い。この状態でない場合、レーザーは、金属膜の内部に電子励起を生じさせる代わりにプラズマに結合する。したがって、特定の例示的実施形態は、パルス方式で非常に短い時間のレーザー薄膜処理を用いる。これにより、エネルギー損失及び基材損傷のリスクが低下する。
【0028】
超薄膜銀系層は、上記のように、銀では970℃未満の超高速レーザーパルス下で溶融する。厚いフィルム(例えば、バルク系)では、表面対体積比は非常に小さく、表面の曲率は無視できる。したがって、溶融温度に対する表面効果を無視することができる。しかしながら、Agを含み、ナノサイズの粒子(例えば3~5nm)からなるナノメートル薄膜の場合、表面対体積比が大きくて表面曲率が高く、溶融温度はサイズ依存性である。この挙動は、熱力学理論によって部分的に説明されており、電子回折、X線回折、示差走査熱量測定、及び透過電子顕微鏡によって実験的に示されている。しかしながら、Agと誘電体との界面との高速レーザーパルス相互作用の動力学下での更なる効果は、ナノ厚さの銀膜の融解温度の125℃程度までの有意な低下を伴う。フィルム内の圧力は、Agの蒸気圧よりもはるかに高いため、フィルムの蒸発は期待されない。その代わりに、最初の融解開始に続いて、界面での急速な急冷と欠陥の焼鈍が続く。一般的に、
Tm,f=T0(1-σSL/(L0<r>))であり、
式中、Tmは粒径(例えば、半径)rを有するフィルムの融点であり、T0は銀膜のバルク融解温度であり、σSLは固液界面エネルギーであり、L0は、融合のバルク潜熱である。しかしながら、薄膜積層体環境における真空圧力が考慮されても、この等式から予測されるものとTm、fの実験的に導かれた値との間に大きな差がある。これに対する1つの考えられる理由は、曲率効果又は非平衡効果による固液界面エネルギーの変化であるかもしれない。実際に、レーザー光は、表面プラズモン励起を介してAg/絶縁体フィルム界面に結合し、それによって集合的な電子振動が、レーザー光子の効率的な吸収を促進する。
【0029】
以下のレーザーパラメータは、特定の例示的実施形態に関連して使用され得る。
・レーザーモード:ピコ秒以下、より好ましくは1、10、又は100フェムト秒単位(ただし、場合によっては更に短い)の幅のパルス。特定の例示的実施形態では、パルスモード持続時間は、10-12秒、より好ましくは1、10、又は100フェムト秒単位であってもよい。数ピコ秒未満(例えば、9ピコ秒未満、より好ましくは5ピコ秒未満、更により好ましくは1~3ピコ秒以下)が好ましい。1つの例示的な持続時間は、100~500フェムト秒(より好ましくは100~300フェムト秒、例えば、100又は200フェムト秒)である。1フェムト秒未満の持続時間において、例えば、約30kW/cm2の見かけの閾値が満たされないため、本明細書に記載される結果を達成するには、電力密度は、一般には低すぎることになる。
・レーザータイプ:エキシマレーザー(例えば、チャープモードで操作)。いくつかの例では、SHG(第二次高調波発生)レーザーに対するタンデムTi-サファイヤも使用することができる。
・電力密度:少なくとも約30kW/cm2、より好ましくは少なくとも約50kW/cm2。電力密度は、好ましくは、フィルムに対する損傷又は傷跡を回避するように選択される。50kW/cm2では、50%を超える結晶化が達成された。
・波長:一般に、355~500nmの波長を使用することができる。サンプルを、355nmの波長のエキシマレーザーを用いて作製した。また、サンプルを、400nmのSHGレーザーを用いて作製した。場合によっては、405nmのGaNレーザーを使用することができる。
・ビームプロファイル:均一フラットトップ(HFT)。HFTビームプロファイル(例えば、ガウシアンビームプロファイルと比較して)は、有利には表面に顕微鏡的傷跡を残さず、耐食性の改善が観察された。
・ビームサイズ:好ましくは<500マイクロメートルであり、特定の例示的実施形態では、鋭利なビームが可能である。
・促進される吸収機構:界面及びバルクAgプラズモン媒体(例えば、積層体内に別個の吸収層を有することによって支援される熱プロファイルを使用することと比較して)。この方法は、有利には、一重、二重、及び三重の銀積層体上で良好に機能する。特定の例示的実施形態は、有利には、別個の吸収層を欠いており、その代わりに、上記のようにアサーマルである。
・ビーム光学:非常に高い走査速度の移動ターゲットを伴う、ガルバノレーザーの可能性がある。いくつかの実装では、Shafter-Kirchoofのライン発生器を使用することができる。
・フルエンス範囲:0.5~5J/cm2、より好ましくは0.5~3J/cm2、及び場合によっては最小0.1~0.6J/cm2
・繰り返し率:1~100KHz
・ショット間安定性:0.5~1%rms
・長期駆動:0.1-0.5%rms
・レーザー処理環境:レーザー処理は、周囲空気、窒素環境、完全又は部分的真空下などで行われてもよい。
【0030】
このように得られた実験データに基づいて、本明細書に記載の技術は、シート抵抗、放射率(垂直及び半球の両方)、透過率、及び屈折率(又は複数の銀含有層を含む積層体の場合は複数の屈折率)の一部又は全てを改善するために使用することができると考えられる。例えば、シート抵抗は、少なくとも9%、より好ましくは少なくとも11%、より好ましくは少なくとも15%、及び場合によっては15~20%以上改善(例えば、低下)でき、垂直及び半球放射率は、少なくとも9%、より好ましくは少なくとも11%、より好ましくは少なくとも15%、及び場合によっては15~20%以上改善(例えば、低下)でき、垂直放射率は、好ましくは0.02未満、より好ましくは0.015未満のレベルに達することができ、550nmにおける銀系層の屈折率は、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも15%、及び場合によっては20~25%以上改善(例えば、低下)でき、可視透過率(TY)は、少なくとも0.25%、より好ましくは少なくとも0.5%、及び場合によっては0.75~1.5%以上改善(例えば、増加)できると考えられる。場合によっては、可能な限り低い可視透過率の増加が望ましい場合があり、場合によっては達成可能であり得る。一般に、例えば、波長、パルス持続時間、デューティサイクル、及びエネルギー密度などのいくつかのパラメータ、並びに初期フィルム結晶子サイズ及びシード層を変更することによって、時間定数tau及び抵抗率を調整することができ、その結果、銀薄膜及び厚膜の基本的特性を符号化することができる。一例として、波長450nmの100~200フェムト秒のパルスに対して0.5~5J/cm2、より好ましくは0.5~2J/cm2の範囲の面積当たりのエネルギー密度を使用することができる。
サンプルセット1
【0031】
図2は、第1のサンプルセットと関連して使用された、例示的な二重銀low-Eコーティングである。
図2に示されるコーティングを、両方の基材が市販されている、厚さ3.2mmの透明ガラス及び厚さ0.7mmのEagleガラス上に形成した。既知のように、前者はソーダ石灰シリカ系ガラスであり、後者はホウケイ酸塩ガラスである。このサンプルセットで使用されるコーティングの公称物理的厚さは、以下のように指定された。
【表1】
【0032】
レーザー照射領域は、Eagleガラスと比較して透明ガラス上でより顕著であったことに留意されたい。
図3A~
図3Bは、これらの透明及びEagleガラスサンプルそれぞれについて、レーザー処理前後の波長に対する透過率をプロットしたグラフであり、
図4A~
図4Bは、これらの透明及びEagleガラスサンプルそれぞれについて、レーザー処理前後の波長に対するガラス側反射をプロットしたグラフであり、
図5A~
図5Bは、これらの透明及びEagleガラスサンプルそれぞれについて、レーザー処理前後の波長に対するフィルム側反射をプロットしたグラフである。以下の表は、サンプルの透過、反射、及び色変化情報を要約し、シート抵抗情報も同様に提供する。
【表2】
【0033】
透過率が増加し、シート抵抗が減少したことが分かる。透過性の着色もまた、主に一定のままであり、a及びbの色座標は、フィルム及びガラス側反射に対して中程度のみの変化であった。
【0034】
以下の表は、X線回折(XRD)測定によって収集されたサンプルのテクスチャ変化情報を要約する。Eagleガラスのテクスチャ変化(レーザー処理後)は45%増加し、透明ガラスのテクスチャ変化(レーザー処理後)は、57%増加した。透明ガラス上の銀のコーティングされたままの状態と比較して、Eagleガラス上の銀のコーティングされたままの状態は、比較的乏しいテクスチャを提示し、これは、透明ガラス上のコーティングと比較して、Eagleガラス上のコーティングにおいてテクスチャ変化が大きなものではなかった理由を説明するのに役立ち得る。
【表3】
【0035】
サンプルを測定し、レーザー処理前後の上側及び下側銀系層について屈折率(550nmにおける)を決定した。透明ガラスサンプルの上側及び下側銀系層のコーティングされたまま(前)の屈折率は、それぞれ0.11及び0.16であり、これらの値は、レーザー処理後にそれぞれ0.08及び0.10に低下した。レーザー処理前の表面粗さは5.84nmであり、この値は、レーザー処理後に5.94nmに上昇した。
【0036】
Eagleガラスサンプルの上側及び下側銀系層のコーティングされたまま(前)の屈折率は、それぞれ0.14及び0.20であり、これらの値は、レーザー処理後にそれぞれ0.11及び0.19に低下した。レーザー処理前の表面粗さは5.70nmであり、この値は、レーザー処理後に5.67nmに低下した。
【0037】
透明及びEagleガラスサンプルの両方において、層厚は、レーザー処理後に実質的に同じままであった。すなわち、0.4nm超の厚さ変化を呈した層はなく、0.3nm超の厚さ変化を呈した層が最も多かった。
【0038】
このデータを考慮すると、二重銀low-Eコーティングでは、上側の銀が下側の銀よりも改善されると推測される。また、三重銀low-Eコーティングでは、下層の銀層と比較して最上層の銀への変化が最も多く、したがって、全体的なコーティングの放射率の変化に最も寄与することも推測される。
サンプルセット2
【0039】
図6は、第1のサンプルセットと関連して使用された、例示的な一重銀low-Eコーティングである。
図6に示すコーティングを、厚さ3.8mmの透明ガラス上に形成した。このサンプルセットで使用されるコーティングの公称物理的厚さは、以下のように指定された。
【表4】
【0040】
測定値は、5種類のサンプルと元のコーティングされたままのサンプルについて取得した。最初の4つのサンプルでは135mWのレーザー出力を使用し、5番目のサンプルは130mWのレーザー出力を使用した。サンプル1~2及び5の重なり又は線間隔は0.03mmであり、サンプル3の重なり又は線間隔は0.02mmであり、サンプル4の重なり又は線間隔は0.01mmであった。サンプル2のレーザー走査速度は3mm/sであり、全ての他のサンプルについては5mm/sであった。
【0041】
図7は、元のコーティングされたままのサンプルの透過曲線と共に、第2のサンプルセットの5つのサンプルの波長に対する透過率をプロットしたグラフである。
図8は、
図7のグラフの一部の拡大図である。透過率の改善は、重なりを増やす(遅い走査軸に沿ってオフセットを減少させる)ことによって達成され、第4のサンプルで最も顕著であった。サンプル4~5は、レーザー処理に関連する微小な損傷がないことが確認された。
サンプルセット3
【0042】
一重銀low-Eコーティングを有するいくつかの追加のサンプルコーティングされた物品を、一般的なパラメータセットで処理した。これらのパラメータには、150mWの出力、5mm/秒の走査速度、0.035mmの重なり又は線間隔を有する。レーザーは、100KHzの繰り返しパルス速度及び1mmのビーム直径を有する532nmの波長で操作される。一般に、0.1~5.0Wの処理出力及び0.04~0.025mmの重なり又は線間隔は、試験のために考慮され、異なる例示的実施形態では実現可能であると考えられる。
【0043】
熱処理された積層体は、
図6に示されるものと一致する1つのサンプルと、上記に提供されたサンプル層の厚さと、
図9に示される構成を有する2つの積層体とを含んだ。
図9に示すコーティングを、厚さ3.8mmの透明ガラス上に形成した。これら2つのサンプルセットで使用されるコーティングの公称物理的厚さは、以下のように指定された。
【表5】
【0044】
以下の表は、これらのコーティングがレーザー処理後にいかに改善されたかを示すデータを提供する。
【表6】
【0045】
本明細書に記載される例示的な実施形態は、例えば、商業用途及び/又は住宅用途の内窓及び外窓、天窓、ドア、冷蔵庫/冷凍庫などの陳列棚(例えば、それらのドア及び/又は「壁」用)、車両用途などを含む、多種多様な用途に組み込むことができる。
【0046】
本明細書に記載される技術は、low-Eコーティングの特定の例に関連して論じられている。しかしながら、異なるlow-Eコーティングが、本明細書に記載の超高速レーザー処理から利益を得ることができることに留意されたい。このようなlow-Eコーティングは、1つ、2つ、3つ、又はそれ以上のAg系層を有してもよく、ZnOx、ZnSnOxなどを含む下層を有しても、有さなくてもよく、Ni、Cr、Ti、及び/又は類似のもの(例えば、NiCrOx)などを含む銀系層オーバーコートを有しても、有さなくてもよい。例えば、酸化亜鉛(例えば、亜鉛酸化スズ)を含む層を銀系層の直接下で接触させて使用できるが、他の金属酸化物包含層及び/又は他の層が異なる例示的実施形態で使用されてもよいと理解されるであろう。これらの金属酸化物包含層及び/又は他の層は、特定の例示的実施形態においてレーザー露光の前に実質的に結晶質であってもよい。
【0047】
コーティングを支持する単一のガラス基材を含むコーティングされた物品に関連して特定の例示的実施形態が記載されているが、本明細書に記載される技術は、それらの間に空隙を画定するのに役立つスペーサシステムによって分離された2つの実質的に平行な離間した基材を含むIGユニットと関連して適用可能であり得ることが理解されるであろう。low-Eコーティングは、その主表面のうちの任意の1つ以上(例えば、表面2及び/又は3)に提供されてもよい。空隙は、酸素を伴って、又は伴わずに、Ar、Kr、Xeなどの不活性ガスで充填されてもよい。また、本明細書に記載される技術は、いわゆる三重IGユニットに関して適用され得ることも理解されるであろう。このようなユニットでは、第1、第2、及び第3の実質的に平行な離間した基材は、第1及び第2のスペーサシステムによって分離され、low-E及び/又は反射防止(AR)コーティングは、最も内側の基材及び最も外側の基材の内面のうちの任意の1つ以上、及び/又は中央基材の表面の一方若しくは両方に隣接して提供されてもよい。low-Eコーティングは、主表面(典型的には内部主表面)のうちの任意の1つ以上に提供されてもよい。同様に、本明細書に記載される技術は、真空断熱ガラス(VIG)ユニットに関連して使用することができ、第1及び第2の実質的に平行な離間した基材は、複数のスペーサ又はピラー及び周辺縁部封止部と関連してこの構成で維持される。このような場合の周辺縁部封止部は、典型的にはフリット材料で形成され、VIGユニットの間隙又は空洞を密封封止する。間隙又は空洞は、大気圧よりも低い圧力で維持される。上記IGユニット例と同様に、low-Eコーティングは、その主表面のうちの任意の1つ以上(例えば、表面2及び/又は3)に提供されてもよい。更に、積層物品はまた、本明細書に開示される技術から利益を得ることができる。
【0048】
レーザー処理は、支持基材のコーティングされた側又は非コーティング側から実施されてもよいことに留意されたい。したがって、レーザー処理は、組み立てられたIGユニット、VIGユニット、若しくは積層製品、及び/又は、その部分組立品(例えば、IGユニットの基材がスペーサシステムと共に固定される前、IGユニットの基材がフリットと共に封止される前、及び/又は空洞のポンプダウン前、基材が何かに積層される前など)において、実施されてもよい。
【0049】
本明細書で使用するとき、用語「熱処理」及び「熱処理する」は、ガラス含有物品の、熱焼き戻し及び/又は熱強化を達成するのに十分な温度まで物品を加熱することを意味する。この定義は、例えば、オーブン又は加熱炉内でコーティングされた物品を、少なくとも約550℃、より好ましくは少なくとも約580℃、より好ましくは少なくとも約600℃、より好ましくは少なくとも約620℃、最も好ましくは少なくとも約650℃の温度で十分な期間にわたって加熱して、焼き戻し及び/又は熱強化を可能にすることを含む。これは、特定の実施形態において、少なくとも約2分、又は最大約10分であってよい。これらのプロセスは、異なる時間及び/又は温度を伴うように適合されてもよい。
【0050】
本明細書で使用するとき、用語「~上」及び「~によって支持されている」などは、明示的に記載されない限り、2つの要素が互いに直接隣接していることを意味するものと解釈されるべきではない。換言すれば、第1の層は、第2の層との間に1つ以上の層が存在する場合であっても、第2の層「上」又は「によって支持されている」とされ得る。
【0051】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品を作製する方法が提供される。低放射率(low-E)コーティングは、基材上に形成され、このlow-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、各銀系層は1つ以上の誘電体層の間に挟まれている。low-Eコーティングは、10-12秒以下の持続時間、355~500nmの波長、及び30kW/cm2を超えるエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光され、露光は、low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)各銀系層に対する粒界、及び各銀系層内の空孔、(b)各銀系層の屈折率、並びに、(c)蒸着されたままの状態と比較したlow-Eコーティングの放射率を減少させるように実行される。
【0052】
前段の特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、基材はホウケイ酸塩ガラス又はソーダ石灰シリカガラスであり得る。
【0053】
2つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、各銀系層は、酸化亜鉛を含むそれぞれの層の上に提供され、これらに接触し得る。
【0054】
前段の特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、酸化亜鉛を含む各層は、露光前に実質的に結晶質であり得る。
【0055】
4つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングは、第1及び第2の銀系層を含み得る。
【0056】
5つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングは、少なくとも3つの銀系層を含み得る。
【0057】
6つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングは、複数の銀系層を含み得、露光は、下層の銀系層のテクスチャよりも最上層の銀系層のテクスチャを変更するように実施され得る。
【0058】
7つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、レーザーパルスは、少なくとも50kW/cm2のエネルギー密度、及び/又は1、10、若しくは100フェムト秒単位の持続時間を有し得る。
【0059】
8つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングは、露光後に熱処理され得る。
【0060】
9つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、low-Eコーティングの形成とインラインで実行され得る。
【0061】
10の前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、low-Eコーティングが形成される基材側から実行され得る。
【0062】
11の前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングの垂直放射率は、蒸着されたままの状態のlow-Eコーティングと比較して、少なくとも9%改善し得る。
【0063】
12の前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、各銀系層の少なくとも一部の再結晶化を促進するように実行され得る。
【0064】
13の前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、少なくとも銀系層に対してアサーマルであり得る。
【0065】
特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品を作製する方法が提供され、この方法は、ガラス基材上に低放射率(low-E)コーティングを有することであって、このlow-Eコーティングは、少なくとも1つのスパッタリング蒸着された銀系層を含み、各銀系層は1つ以上の誘電体層の間に挟まれていることを含む。low-Eコーティングは、10-12秒以下の持続時間及び少なくとも50kW/cm2のエネルギー密度を有するレーザーパルスに露光され、露光は、low-Eコーティングの温度が300℃を超えて上昇することを回避する一方で、(a)各銀系層内の空孔を減少させる、(b)各銀系層の屈折率を減少させる、(c)low-Eの可視透過率を上昇させる、かつ、(d)low-Eコーティングの放射率を、蒸着されたままの形態と比較して、low-Eコーティングの放射率低減とシート抵抗低減との間の関係性を切り離すのに十分なレベルまで減少させるように実行される。
【0066】
前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、各銀系層は、酸化亜鉛を含むそれぞれの層の上に提供され、これらに接触し得る。
【0067】
2つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、レーザーパルスは、1、10、又は100フェムト秒以下の持続時間を有し得る。
【0068】
3つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングの垂直放射率は、蒸着されたままの状態のlow-Eコーティングと比較して、少なくとも9%改善し得る。
【0069】
4つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、各銀系層の少なくとも一部の再結晶化、及び/又は各銀系層に対する粒界の減少を促進するように実行され得る。
【0070】
5つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、露光は、少なくとも銀系層に対してアサーマルであり得る。
【0071】
特定の例示的実施形態では、ガラス基板と、ガラス基板によって支持されるスパッタリング蒸着された低放射率(low-E)コーティングと、を含み、low-Eコーティングは、酸化亜鉛を含む層の上に設けられ、この層に接触している少なくとも1つの銀系層を含む、コーティングされた物品が提供される。low-Eコーティングを、少なくとも50kW/cm2のエネルギー密度を有するサブピコ秒レーザーパルスでレーザー処理して、銀系層中の空孔と、銀系層と酸化亜鉛を含む隣接する下層との間の双晶粒界を除去する。low-Eコーティングは、0.02未満のレーザー処理後放射率を有する。
【0072】
前段の特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、コーティングされた物品は、その上面にlow-Eコーティングがある状態で熱処理可能であり得る。
【0073】
2つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、ガラス基材はソーダ石灰シリカガラスであり得る。
【0074】
3つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、low-Eコーティングは、少なくとも第1及び第2の銀系層を含み得る。
【0075】
4つの前段のいずれかの特徴に加えて、特定の例示的実施形態では、酸化亜鉛を含む層はスズを更に含み得る。
【0076】
特定の例示的実施形態では、断熱ガラスユニットが提供される。これは、5つの前段のいずれか1つのコーティングされた物品と、基材と、基材の周辺縁部の周囲に設けられたスペーサシステムであって、コーティングされた物品及び基材を互いに実質的に平行に離間された関係に維持することを助けるスペーサシステムと、を備え得る。
【0077】
本発明は、現在実用的で好ましい実施形態と考えられるものと関連して説明されたが、本発明は、開示される実施形態及び/又は蒸着技術に限定されるものではなく、寧ろ、添付の特許請求の範囲の趣旨及び範囲内に含まれる様々な修正及び同等の構成を網羅することを意図するものであることを理解されたい。