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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-02-28
(45)【発行日】2022-03-08
(54)【発明の名称】被覆超砥粒、砥粒、及びホイール
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20220301BHJP
   B24D 5/00 20060101ALI20220301BHJP
【FI】
B24D3/00 330D
B24D3/00 320B
B24D5/00 Z
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2021506365
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029807
(87)【国際公開番号】W WO2021025015
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2021-02-04
(31)【優先権主張番号】P 2019144242
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000220103
【氏名又は名称】株式会社アライドマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 顕人
(72)【発明者】
【氏名】岡村 克己
(72)【発明者】
【氏名】大畠 正裕
(72)【発明者】
【氏名】道内 真人
(72)【発明者】
【氏名】平井 慧
(72)【発明者】
【氏名】中村 暢秀
(72)【発明者】
【氏名】千原 健太朗
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-191779(JP,A)
【文献】特開2014-040589(JP,A)
【文献】特開平04-331076(JP,A)
【文献】特表2009-503144(JP,A)
【文献】特開平07-108461(JP,A)
【文献】特開2005-262355(JP,A)
【文献】特開平09-031442(JP,A)
【文献】特開2002-137168(JP,A)
【文献】L.M.Gameza, V.B.Shipilo, V.A. Savchuk,Investigation of sulphur additions on kinetic processes of cubic boron nitride crystallization in the Li-B-N-H system,Diamond and Related Materials,1998年01月,Vol.7, No.1,Page 32-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00
B24D 5/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部と、
前記砥粒本体部の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、を備え、
前記砥粒本体部の転位密度は、6×1012/m以上9×1014/m以下であり、
前記被覆膜は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含み、
前記転位密度は、放射光を用いたX線回折測定により前記立方晶窒化硼素の(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(531)の各方位面からの回折ピークのラインプロファイルを測定し、前記X線回折測定の測定条件は、各測定ピークに対応する半値全幅中に測定点が9点以上、ピークトップ強度が2000counts以上、かつ、測定範囲が半値全幅の10倍程度であり、測定されたラインプロファイル及び装置起因のラインプロファイルを擬Voigt関数によりフィッティングして、前記測定されたラインプロファイルから前記装置起因のラインプロファイルをデコンボリューション(deconvolution)することにより真のラインプロファイルを得て、前記真のラインプロファイルを修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて解析することによって算出される、被覆超砥粒。
【請求項2】
前記砥粒本体部の結晶組織は、単結晶である、請求項1に記載の被覆超砥粒。
【請求項3】
前記砥粒本体部の結晶組織は、多結晶である、請求項1に記載の被覆超砥粒。
【請求項4】
前記砥粒本体部の転位密度は、2×1014/m以下である、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項5】
前記砥粒本体部の転位密度は、5×1013/m以下である、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項6】
前記被覆膜は、アルミニウムと酸素とを含む、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項7】
前記被覆膜は、γ-Alを含む、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項8】
前記被覆膜は複数の結晶粒を含み、
前記複数の結晶粒の平均粒径は、500nm以下である、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項9】
前記被覆膜は、アルミニウムと酸素とを含み、
前記被覆膜において、アルミニウムと酸素との原子比率Al/Oは、0.2以上0.9以下である、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項10】
前記Al/Oは、0.4以上0.7以下である請求項9に記載の被覆超砥粒。
【請求項11】
前記被覆膜の厚さは、50nm以上1000nm以下である、請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項12】
前記被覆膜は、2種以上の単位層からなる多層構造を有する、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項13】
前記被覆超砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下である、請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の被覆超砥粒。
【請求項14】
立方晶窒化硼素からなり、転位密度が6×1012/m以上9×1014/m以下であり、
前記転位密度は、放射光を用いたX線回折測定により前記立方晶窒化硼素の(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(531)の各方位面からの回折ピークのラインプロファイルを測定し、前記X線回折測定の測定条件は、各測定ピークに対応する半値全幅中に測定点が9点以上、ピークトップ強度が2000counts以上、かつ、測定範囲が半値全幅の10倍程度であり、測定されたラインプロファイル及び装置起因のラインプロファイルを擬Voigt関数によりフィッティングして、前記測定されたラインプロファイルから前記装置起因のラインプロファイルをデコンボリューション(deconvolution)することにより真のラインプロファイルを得て、前記真のラインプロファイルを修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて解析することによって算出される、砥粒。
【請求項15】
前記砥粒の結晶組織は、単結晶である、請求項14に記載の砥粒。
【請求項16】
前記砥粒の結晶組織は、多結晶である、請求項14に記載の砥粒。
【請求項17】
前記転位密度は、6.5×1014/m以下である、請求項14から請求項16のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項18】
前記転位密度は、2×1014/m以下である、請求項14から請求項17のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項19】
前記転位密度は、5×1013/m以下である、請求項14から請求項18のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項20】
前記砥粒を構成する結晶子のサイズは250nm以上である、請求項14から請求項19のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項21】
前記結晶子のサイズは450nm以上である、請求項20に記載の砥粒。
【請求項22】
前記結晶子のサイズは600nm以上である、請求項21に記載の砥粒。
【請求項23】
前記砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下である、請求項14から請求項22のいずれか1項に記載の砥粒。
【請求項24】
円板状の基板と、
前記基板の少なくとも外周面を覆う超砥粒層とを備え、
前記超砥粒層は、請求項1から請求項13のいずれか1項に記載の被覆超砥粒及び請求項14から請求項23のいずれか1項に記載の砥粒の一方又は両方を有するホイール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、被覆超砥粒、砥粒、及びホイールに関する。本出願は、2019年8月6日に出願した日本特許出願である特願2019-144242号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
精密加工に用いられる工具として特許文献1(特開2002-137168号公報)の超砥粒工具(ホイール)が知られている。この超砥粒工具は、円板状の基板と、基板の外周部に形成された砥粒層とを備える。砥粒層は、超砥粒(主に立方晶窒化硼素砥粒)と、超砥粒同士を結合し、かつ、超砥粒を基板の外周部に固着する結合材とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-137168号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の被覆超砥粒は、
立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部と、
前記砥粒本体部の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、を備え、
前記砥粒本体部の転位密度は、9×1014/m以下であり、
前記被覆膜は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含む、被覆超砥粒である。
【0005】
本開示の砥粒は、
立方晶窒化硼素からなり、転位密度が9×1014/m以下である、砥粒である。
【0006】
本開示のホイールは、
円板状の基板と、
前記基板の少なくとも外周面を覆う超砥粒層とを備え、
前記超砥粒層は、上記の被覆超砥粒及び上記の砥粒の一方または両方を有するホイールである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、実施形態1に係る被覆超砥粒の概略を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す被覆超砥粒の破線円で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。
図3図3は、実施形態3に係るホイールの概略を示す斜視図である。
図4図4は、図3に示すホイールを(IV)-(IV)線を含む面で切断した状態を示す断面図である。
図5図5は、図4に示すホイールの破線円で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[本開示が解決しようとする課題]
特許文献1の砥粒層に含まれる超砥粒は、超砥粒自体(砥粒本体部)が裸砥粒である。研削加工時に被削材と接触する砥粒層部分は、局所的に高温に晒される。このため、特許文献1の工具を用いて研削加工を行った場合、立方晶窒化硼素砥粒が被削材成分(主に鉄族元素)と反応し、被削材の砥粒層への凝着や、砥粒層の化学的摩耗が進行し、工具の研削比が低下する傾向がある。
【0009】
そこで、本開示は、工具に用いた場合に、該工具が高い研削比を有することのできる被覆超砥粒、砥粒、及び、研削比が高いホイールを提供することを目的とする。
【0010】
[本開示の効果]
本開示によれば、工具に用いた場合に、該工具が高い研削比を有することのできる被覆超砥粒、砥粒、及び、研削比が高いホイールを提供することが可能となる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
(1)本開示の一実施形態に係る被覆超砥粒は、
立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部と、
前記砥粒本体部の表面の少なくとも一部を覆う被覆膜と、を備え、
前記砥粒本体部の転位密度は、9×1014/m以下であり、
前記被覆膜は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含む、被覆超砥粒である。
【0013】
本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。本明細書において、研削比とは、「研削によって除去された被削材の体積/超砥粒の総損耗体積」と定義される。
【0014】
(2)前記砥粒本体部の結晶組織は、単結晶であることが好ましい。
これによると、砥粒本体部の強度を向上させやすい。
【0015】
(3)前記砥粒本体部の結晶組織は、多結晶であることが好ましい。
これによると、超砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。
【0016】
(4)前記砥粒本体部の転位密度は、2×1014/m以下であることが好ましい。
これによると、転位密度がより低いため、砥粒本体部の靭性が向上する。更に被覆膜と砥粒本体部との界面の密着性も向上し、膜剥離が抑制される。
【0017】
(5)前記砥粒本体部の転位密度は、5×1013/m以下であることが好ましい。
これによると、転位密度が更に低いため、砥粒本体部の靭性が更に向上する。更に被覆膜と砥粒本体部との界面の密着性も更に向上し、膜剥離が更に抑制される。
【0018】
(6)前記被覆膜は、アルミニウムと酸素とを含むことが好ましい。
被覆膜がアルミニウム及び酸素を含むと、被覆膜の耐熱的安定性が向上し、耐摩耗性が向上する。その結果、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。
【0019】
(7)前記被覆膜は、γ-Alを含むことが好ましい。
これによると、被覆膜を構成する複数の結晶粒の平均粒径を小さくすることができるため、被覆膜の強度が向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上する。従って、被削材との接触に伴う衝撃による膜破壊と膜剥離が抑制される。よって被覆膜は、良好な耐摩耗性を長時間持続することができる。
【0020】
(8)前記被覆膜は複数の結晶粒を含み、
前記複数の結晶粒の平均粒径は、500nm以下であることが好ましい。
これによると、被覆膜の強度が更に向上する。
【0021】
(9)前記被覆膜において、アルミニウムと酸素との原子比率Al/Oは、0.2以上0.9以下であることが好ましい。
【0022】
これによると、被覆膜の耐摩耗性が更に向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上する。
【0023】
(10)前記Al/Oは、0.4以上0.7以下であることが好ましい。
これによると、被覆膜の耐摩耗性が更に向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が更に向上する。
【0024】
(11)前記被覆膜の厚さは、50nm以上1000nm以下であることが好ましい。
被覆膜の厚さが50nm以上であると、被覆膜自体の耐摩耗性を高め易く、被覆膜及び砥粒本体部の損傷を抑制し易い。被覆膜の厚さが1000nm以下であると、被覆膜の厚さが過度に厚過ぎず剥離し難いため、砥粒本体部の外周に被覆膜を形成した状態を維持し易い。
【0025】
(12)前記被覆膜は、2種以上の単位層からなる多層構造を有することが好ましい。
被覆膜が多層構造であると、各単位層の残留応力が上昇する。このため、被覆膜の硬度が向上し、被覆膜の損傷が抑制される。
【0026】
(13)前記被覆超砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下であることが好ましい。
【0027】
被覆超砥粒の粒径が30μm以上であると、過度に小さ過ぎず、超砥粒を基板に固着しやすくなるため被削材を研削し易い上に、取り扱い易く、ホイールを構築し易い。被覆超砥粒の粒径が600μm以下であると、過度に大き過ぎないため、被削材との接触に伴う砥粒本体部への衝撃力による破砕などの損傷が生じにくい。
【0028】
(14)本開示の一実施形態に係る砥粒は、
立方晶窒化硼素からなり、転位密度が9×1014/m以下である、砥粒である。
【0029】
本開示の砥粒は高い靱性を有し、該砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0030】
(15)前記砥粒の結晶組織は、単結晶であることが好ましい。
これによると、砥粒の強度を向上させやすい。
【0031】
(16)前記砥粒の結晶組織は、多結晶であることが好ましい。
これによると、砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。
【0032】
(17)前記転位密度は、6.5×1014/m以下であることが好ましい。
これによると、転位密度がより低いため、砥粒の靭性が向上する。
【0033】
(18)前記転位密度は、2×1014/m以下であることが好ましい。
これによると、転位密度がより低いため、砥粒の靭性が向上する。
【0034】
(19)前記転位密度は、5×1013/m以下であることが好ましい。
これによると、転位密度が更に低いため、砥粒の靭性が更に向上する。
【0035】
(20)前記砥粒を構成する結晶子のサイズは250nm以上であることが好ましい。
これによると、該砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。
【0036】
(21)前記結晶子のサイズは450nm以上であることが好ましい。
これによると、該砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。
【0037】
(22)前記結晶子のサイズは600nm以上であることが好ましい。
これによると、該砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。
【0038】
(23)前記砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下であることが好ましい。
砥粒の粒径が30μm以上であると、過度に小さ過ぎないため、被削材を研削し易い上に、取り扱い易く、ホイールを構築し易い。砥粒の粒径が600μm以下であると、過度に大き過ぎないため、被削材との接触に伴う砥粒本体部への衝撃力による破砕などの損傷が生じにくい。
【0039】
(24)本開示の一実施形態に係るホイールは、
円板状の基板と、
前記基板の少なくとも外周面を覆う超砥粒層とを備え、
前記超砥粒層は、上記の被覆超砥粒及び上記の砥粒の一方または両方を有するホイールである。
本開示のホイールは、高い研削比を有することができる。
【0040】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の実施形態の詳細を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0041】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0042】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiAlN」と記載されている場合、TiAlNを構成する原子数の比は従来公知のあらゆる原子比が含まれる。このことは、「TiAlN」以外の化合物の記載についても同様である。
【0043】
[実施形態1:被覆超砥粒]
本開示の一実施形態に係る被覆超砥粒について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、実施形態1に係る被覆超砥粒の概略を示す断面図である。図2は、図1に示す被覆超砥粒の破線円で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。
【0044】
本開示の被覆超砥粒1は、立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部2と、砥粒本体部2の表面の少なくとも一部を覆う、アルミニウムと、酸素及び窒素の一方又は両方と、を含む被覆膜と、を備え、砥粒本体部2の転位密度は、9×1014/m以下であり、被覆膜は、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含む。本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。この理由は下記(i)~(iv)の通りと推察される。
【0045】
(i)本開示の被覆超砥粒は、砥粒本体部が立方晶窒化硼素からなる。立方晶窒化硼素は、高い硬度を有する。従って、立方晶窒化硼素を砥粒本体部として用いた被覆超砥粒は、優れた耐摩耗性を示す。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0046】
(ii)本開示の被覆超砥粒は、砥粒本体部の表面の少なくとも一部が、被覆膜で覆われている。被覆超砥粒が被覆膜を有すると、研削加工時に、砥粒本体部と被削材成分とが化学反応を起こすことを抑制できる。更に、砥粒本体部を構成する原子の被覆膜及び被削材への拡散を防止できる。よって、砥粒本体部の摩耗の進行と被削材成分の凝着を抑制できるため、研削抵抗が低位で長時間安定する。その結果、凝着剥離や研削抵抗増大による砥粒本体部の破砕も低減される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0047】
(iii)本開示の被覆超砥粒において、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含む。これによると、被覆膜の耐熱的安定性が向上し、研削時の耐摩耗性が向上する。その結果、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0048】
(iv)本開示の被覆超砥粒において、砥粒本体部の転位密度は、9×1014/m以下である。砥粒本体部の転位密度が9×1014/m以下であると、砥粒本体部は優れた靱性を有することができる。また、砥粒本体部の格子欠陥が少なく、研削時の欠損を低減できる。更に、砥粒本体部の格子欠陥に由来する砥粒本体部と被覆膜との界面における格子欠陥も低減されるため、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上し膜剥離が抑制される。その結果、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0049】
(被覆超砥粒の粒径)
被覆超砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下であることが好ましい。実施形態1の被覆超砥粒において、被覆超砥粒の粒径とは、1粒の被覆超砥粒の粒径を意味する。
【0050】
被覆超砥粒の粒径が30μm以上であると、過度に小さ過ぎず、被覆超砥粒をホイールに固着し易くなるため被削材を研削し易い上に、取り扱い易く、ホイールを構築し易い。被覆超砥粒の粒径が600μm以下であると、過度に大き過ぎないため、被削材との接触に伴う砥粒本体部への衝撃力による破砕などの損傷が生じにくい。
【0051】
被覆超砥粒の粒径は、下限が30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、60μm以上が更に好ましい。被覆超砥粒の粒径は、上限が600μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましい。被覆超砥粒の粒径は、50μm以上300μm以下が好ましく、60μm以上150μm以下がより好ましい。
【0052】
被覆超砥粒の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製の「SALDシリーズ」)で測定される。
【0053】
[砥粒本体部]
(組成)
砥粒本体部は、立方晶窒化硼素(以下、「cBN」とも記す。)からなる。立方晶窒化硼素は、優れた硬度を有する。従って、立方晶窒化硼素を砥粒本体部として用いた被覆超砥粒は、優れた耐摩耗性を示す。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。砥粒本体部は、本開示の効果を奏する限り、不可避不純物を含むことができる。不可避不純物としては、例えば、炭素(C)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)が挙げられる。砥粒本体部中の不可避不純物の含有量は、例えば、質量基準で、0.001%以上0.5%以下とすることができる。
【0054】
砥粒本体部の組成は、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商標))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(Octane Elect(オクタンエレクト)EDS システム)(商標)により特定することができる。
【0055】
(転位密度)
砥粒本体部の転位密度は、9×1014/m以下である。砥粒本体部の転位密度が9×1014/m以下であると、砥粒本体部は優れた靱性を有することができる。また、砥粒本体部の格子欠陥が少なく、研削時の欠損を低減できる。更に、砥粒本体部の格子欠陥に由来する砥粒本体部と被覆膜との界面における格子欠陥も低減されるため、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上し膜剥離が抑制される。その結果、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0056】
砥粒本体部の転位密度の下限は、1×10/m以上が好ましく、1×1010/m以上がより好ましく、5×1010/m以上がより好ましい。砥粒本体部の転位密度の上限は9×1014/m以下であり、6.5×1014/m以下が好ましく、2×1014/m以下が好ましく、5×1013/m以下がより好ましい。砥粒本体部の転位密度は1×10/m以上9×1014/m以下が好ましく、1×10/m以上6.5×1014/m以下が好ましく、1×1010/m以上2×1014/m以下がより好ましく、5×1010/m以上5×1013/m以下が更に好ましい。
【0057】
砥粒本体部の転位密度は、大型放射光施設SPring-8(兵庫県)において測定される。具体的には下記の方法で測定される。
【0058】
立方晶窒化硼素からなる粉末を準備する。TOHO製の0.3mmΦのX線結晶解析用キャピラリー(TOHO製「マークチューブ」(商標))に測定粉末を充填し、封じ切り試験体とする。
【0059】
該試験体について、下記の条件でX線回折測定を行い、立方晶窒化硼素の主要な方位である(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(531)の各方位面からの回折ピークのラインプロファイルを得る。
【0060】
(X線回折測定条件)
X線源:放射光
装置条件:検出器MYTHEN
エネルギー:18keV(波長:0.6888Å)
カメラ長:573mm
測定ピーク:立方晶窒化硼素の(111)、(200)、(220)、(311)、(400)、(531)の6本。ただし、集合組織、配向によりプロファイルの取得が困難な場合は、その面指数のピークを除く。
【0061】
測定条件:各測定ピークに対応する半値全幅中に、測定点が9点以上となるようにする。ピークトップ強度は2000counts以上とする。ピークの裾も解析に使用するため、測定範囲は半値全幅の10倍程度とする。
【0062】
上記のX線回折測定により得られるラインプロファイルは、試料の不均一ひずみなどの物理量に起因する真の拡がりと、装置起因の拡がりの両方を含む形状となる。不均一ひずみや結晶子サイズを求めるために、測定されたラインプロファイルから、装置起因の成分を除去し、真のラインプロファイルを得る。真のラインプロファイルは、得られたラインプロファイルおよび装置起因のラインプロファイルを擬Voigt関数によりフィッティングし、装置起因のラインプロファイルを差し引くことにより得る。装置起因の回折線拡がりを除去するための標準サンプルとしては、LaBを用いた。また、平行度の高い放射光を用いる場合は、装置起因の回折線拡がりは0とみなすこともできる。
【0063】
得られた真のラインプロファイルを修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法を用いて解析することによって転位密度を算出する。修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法は、転位密度を求めるために用いられている公知のラインプロファイル解析法である。
【0064】
修正Williamson-Hall法の式は、下記式(I)で示される。
【0065】
【数1】
【0066】
(上記式(I)において、ΔKはラインプロファイルの半値幅、Dは結晶子サイズ、Mは配置パラメータ、bはバーガースベクトル、ρは転位密度、Kは散乱ベクトル、O(KC)はKCの高次項、Cはコントラストファクターの平均値を示す。)
上記式(I)におけるCは、下記式(II)で表される。
【0067】
C=Ch00[1-q(h+h+k)/(h+k+l] (II)
上記式(II)において、らせん転位と刃状転位におけるそれぞれのコントラストファクターCh00およびコントラストファクターに関する係数qは、計算コードANIZCを用い、すべり系が<110>{111}、弾性スティフネスC11が8.44GPa、C12が1.9GPa、C44が4.83GPaとして求める。コントラストファクターCh00は、らせん転位は0.203であり、刃状転位は0.212である。なお、らせん転位比率は0.5、刃状転位比率は0.5に固定する。
【0068】
また、転位と不均一ひずみの間にはコントラストファクターCを用いて下記式(III)の関係が成り立つ。
【0069】
<ε(L)>=(ρCb/4π)ln(R/L) (III)
(上記式(III)において、Rは転位の有効半径を示す。)
上記式(III)の関係と、Warren-Averbachの式より、下記式(IV)の様に表すことができ、修正Warren-Averbach法として、転位密度ρ及び結晶子サイズを求めることができる。
【0070】
lnA(L)=lnA(L)-(πLρb/2)ln(R/L)(KC)+O(KC) (IV)
(上記式(IV)において、A(L)はフーリエ級数、A(L)は結晶子サイズに関するフーリエ級数、Lはフーリエ長さを示す。)
修正Williamson-Hall法及び修正Warren-Averbach法の詳細は、“T.Ungar and A.Borbely,“The effect of dislocation contrast on x-ray line broadening:A new approach to line profile analysis”Appl.Phys.Lett.,vol.69,no.21,p.3173,1996.”及び“T.Ungar,S.Ott,P.Sanders,A.Borbely,J.Weertman,“Dislocations,grain size and planar faults in nanostructured copper determined by high resolution X-ray diffraction and a new procedure of peak profile analysis”Acta Mater.,vol.46,no.10,pp.3693-3699,1998.”に記載されている。
【0071】
(結晶組織)
砥粒本体部の結晶組織は、単結晶又は多結晶とすることができる。砥粒本体部の結晶組織が単結晶であると、砥粒本体部の強度が向上しやすい。一方、砥粒本体部の結晶組織が多結晶であると、該砥粒本体部を含む砥粒を用いた工具の研削比が向上しやすい。
【0072】
(結晶構造)
砥粒本体部の結晶構造は、X線回折(XRD)分析(ピーク強度の測定)(装置:JOEL社製「MiniFlex600」(商標))と上記の砥粒本体部の組成の情報を複合的に解析するか、又は日本電子社製の走査透過型電子顕微鏡(STEM)「JEM-2100F/Cs」(商標))及びSTEM付帯のエネルギー分散型X線分光法(EDX)での観察により特定することができる。
【0073】
(砥粒本体部を構成する結晶粒の粒径)
砥粒本体部2の組織が単結晶の場合、砥粒本体部の粒径は単結晶の粒径に該当する。
【0074】
砥粒本体部の組織が単結晶の場合、該単結晶の粒径(砥粒本体部の粒径に該当)の下限は、30μm以上、50μm以上、60μm以上とすることができる。該単結晶の粒径の上限は600μm以下、300μm以下、150μm以下とすることができる。該単結晶の粒径は、30μm以上600μm以下、50μm以上300μm以下、60μm以上150μm以下とすることができる。
【0075】
砥粒本体部2の組織が単結晶の場合、単結晶の粒径(砥粒本体部の粒径に該当)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製の「SALDシリーズ」)で測定される。
【0076】
砥粒本体部2の組織が多結晶の場合、砥粒本体部を構成する複数の結晶粒の平均粒径は、100nm以上6000nm以下が好ましく、更に200nm以上4000nm以下が好ましく、特に300nm以上2000nm以下が好ましい。
【0077】
砥粒本体部2の組織が多結晶の場合、砥粒本体部を構成する複数の結晶粒の平均粒径は、FIB(集束イオンビーム)により露出させた砥粒本体部の断面のSTEM(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F Dual-X」(商標))によるHAADF(High-angle Annular Dark Field)-STEM像から求められる。HAADF-STEM像における各結晶粒のコントラストの違いから画像分析ソフト(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」(商標))により各結晶粒の断面積を導出し、その断面積と同一面積を有する円の径(円相当径)を求める。10個の結晶粒における円相当径の平均値を砥粒本体部を構成する複数の結晶粒の平均粒径とする。
【0078】
(砥粒本体部を構成する結晶子及び結晶子サイズ)
本明細書において、砥粒本体部を構成する結晶子とは、単結晶中の結晶方位が同一である領域と定義される。また、結晶子サイズとは、単結晶中の結晶方位が同一である領域のサイズであり、砥粒の断面を観察した場合、結晶方位が同一である領域の長さと定義される。本明細書において、結晶子サイズは、結晶子の円相当径に該当する。
【0079】
上記の結晶子サイズは、250nm以上が好ましい。これによると、該砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。この理由は明らかではないが、結晶子サイズが大きいほうが研削時の亀裂伝播が抑制されるため、砥粒の靭性が向上し、研削時の砥粒の大きな欠損が抑制されるためと推察される。
【0080】
上記の結晶子サイズの下限は、250nm以上、450nm以上、600nm以上とすることができる。結晶子サイズの上限は、2000nm以下、1500nm以下、1000nm以下とすることができる。結晶子サイズは、250nm以上2000nm以下、450nm以上1500nm以下、600nm以上1000nm以下とすることができる。
【0081】
上記結晶子サイズは、上記の砥粒本体部の転位密度を算出する際に、同様に算出される。上記式(I)において、結晶子サイズはDで示される。
【0082】
(砥粒本体部の粒径)
砥粒本体部の粒径は、30μm以上600μm以下、50μm以上300μm以下、60μm以上150μm以下とすることができる。ここで、砥粒本体部の粒径とは、1粒の被覆超砥粒における砥粒本体部の粒径を意味する。
【0083】
砥粒本体部2の組織が単結晶の場合、砥粒本体部の粒径(単結晶の粒径に該当)は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製の「SALDシリーズ」)で測定される。
【0084】
砥粒本体部2の組織が多結晶の場合、砥粒本体部の粒径は、FIB(集束イオンビーム)により露出させた砥粒本体部の断面のSTEM(日本電子株式会社製「JEM-ARM200F Dual-X」(商標))によるHAADF(High-angle Annular Dark Field)-STEM像から求められる。HAADF-STEM像における各結晶粒のコントラストの違いから画像分析ソフト(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」(商標))により砥粒本体部の断面積を導出し、その断面積と同一面積を有する円の径(円相当径)を求める。該円相当径が、砥粒本体部の粒径に該当する。10個の砥粒本体部の平均値を、砥粒本体部の平均粒径とする。
【0085】
[被覆膜]
被覆膜3は、砥粒本体部2の表面の少なくとも一部を覆う。被覆膜が砥粒本体部2の表面の少なくとも一部を覆っていることは、下記の方法で確認することができる。
【0086】
被覆超砥粒をエポキシ樹脂で埋設した成形体を作製する。成形体における被覆超砥粒の含有量は、樹脂に対して50体積%以上とする。成形体の形状は、直方体又は立方体とする。
【0087】
成形体をCP(クロスセクションポリッシャ)加工する。この加工は、2段階に分けて行う。1段階目の加工として、少なくとも一つの被覆超砥粒の断面が見えるまで成形体のいずれかの面を加工する。次に、2段階目の加工として、加工面の表面を、被覆超砥粒の粒径の50%に相当する長さの厚み分を除去するように、更にCP加工する。ここで、被覆超砥粒の粒径は、上記のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値とする。
【0088】
成形体の断面をSEMで観察し、反射電子画像を得る。該反射電子画像から被覆膜が砥粒本体部2の表面の少なくとも一部を覆っていることを確認できる。
【0089】
被覆膜3は、砥粒本体部2の表面の全てを覆うことが好ましい。被覆超砥粒が被覆膜を有すると、研削加工時に、砥粒本体部と被削材成分とが化学反応を起こすことを抑制できる。更に、砥粒本体部を構成する原子の被覆膜や被削材への拡散を防止できる。よって、砥粒本体部の摩耗の進行と被削材成分の凝着を抑制できるため、研削抵抗が低位で長時間安定する。その結果、凝着剥離や研削抵抗増大による砥粒本体部の破砕も低減される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0090】
研削比とは、「研削によって除去された被削材の体積/被覆超砥粒の総損耗体積」である。研削比の算出方法について、下記に説明する。
【0091】
被覆超砥粒の総損耗体積は、次のようにして求められる。被覆超砥粒が固着されたホイールを用いて、研削加工の前後にカーボン板を削ることでホイールの砥面の起伏をカーボン板に転写する。カーボン板を削る際には、カーボン板を動かさずにホイールを回転させて切り込む。
【0092】
研削加工の前後で転写した各カーボン板の起伏の断面形状を、ホイールの回転方向に垂直な方向に沿って触針式の面粗さ計((株)東京精密社製「サーフコム」(商標))で計測する。研削加工前後の2つの断面形状を比較して減少した面積を求める。「(減少した面積)×(ホイールの直径)×円周率」を被覆超砥粒の総損耗体積とする。
【0093】
研削によって除去された被削材の体積(以下、「除去体積量」とも記す。)は、切込深さと被削材長さと厚みの積で求める。横軸を材料除去体積量とし、縦軸を摩耗量とする変化プロットをとり、ここから最小二乗法により変化の一次関数を求め、勾配を算出する。これを用いて、任意の除去体積量における被覆超砥粒の総損耗体積を算出する。
【0094】
(組成)
被覆膜3は、周期表の第4族元素(チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等)、第5族元素(バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等)、第6族元素(クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等)、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の第1元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の第2元素とからなる1種以上の化合物を含む。これによると、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。よって、本開示の被覆超砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0095】
第1元素と窒素とからなる化合物(窒化物)としては、例えば、窒化チタン(TiN)、窒化ジルコニウム(ZrN)、窒化ハフニウム(HfN)、窒化バナジウム(VN)、窒化ニオブ(NbN)、窒化タンタル(TaN)、窒化クロム(CrN)、窒化モリブデン(MoN)、窒化タングステン(WN)、窒化チタンジルコニウム(TiZrN)、窒化チタンハフニウム(TiHfN)、窒化チタンバナジウム(TiVN)、窒化チタンニオブ(TiNbN)、窒化チタンタンタル(TiTaN)、窒化チタンクロム(TiCrN)、窒化チタンモリブデン(TiMoN)、窒化チタンタングステン(TiWN)、窒化ジルコニウムハフニウム(ZrHfN)、窒化ジルコニウムバナジウム(ZrVN)、窒化ジルコニウムニオブ(ZrNbN)、窒化ジルコニウムタンタル(ZrTaN)、窒化ジルコニウムクロム(ZrCrN)、窒化ジルコニウムモリブデン(ZrMoN)、窒化ジルコニウムタングステン(ZrWN)、窒化ハフニウムバナジウム(HfVN)、窒化ハフニウムニオブ(HfNbN)、窒化ハフニウムタンタル(HfTaN)、窒化ハフニウムクロム(HfCrN)、窒化ハフニウムモリブデン(HfMoN)、窒化ハフニウムタングステン(HfWN)、窒化バナジウムニオブ(VNbN)、窒化バナジウムタンタル(VTaN)、窒化バナジウムクロム(VCrN)、窒化バナジウムモリブデン(VMoN)、窒化バナジウムタングステン(VWN)、窒化ニオブタンタル(NbTaN)、窒化ニオブクロム(NbCrN)、窒化ニオブモリブデン(NbMoN)、窒化ニオブタングステン(NbWN)、窒化タンタルクロム(TaCrN)、窒化タンタルモリブデン(TaMoN)、窒化タンタルタングステン(TaWN)、窒化クロムモリブデン(CrMoN)、窒化クロムタングステン(CrWN)、窒化モリブデンクロム(MoWN)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ケイ素(Si)を挙げることができる。
【0096】
第1元素と炭素とからなる化合物(炭化物)としては、例えば、炭化チタン(TiC)、炭化ジルコニウム(ZrC)、炭化ハフニウム(HfC)、炭化バナジウム(VC)、炭化ニオブ(NbC)、炭化タンタル(TaC)、炭化クロム(CrC)、炭化モリブデン(MoC)、炭化タングステン(WC)、炭化チタンジルコニウム(TiZrC)、炭化チタンハフニウム(TiHfC)、炭化チタンバナジウム(TiVC)、炭化チタンニオブ(TiNbC)、炭化チタンタンタル(TiTaC)、炭化チタンクロム(TiCrC)、炭化チタンモリブデン(TiMoC)、炭化チタンタングステン(TiWC)、炭化ジルコニウムハフニウム(ZrHfC)、炭化ジルコニウムバナジウム(ZrVC)、炭化ジルコニウムニオブ(ZrNbC)、炭化ジルコニウムタンタル(ZrTaC)、炭化ジルコニウムクロム(ZrCrC)、炭化ジルコニウムモリブデン(ZrMoC)、炭化ジルコニウムタングステン(ZrWC)、炭化ハフニウムバナジウム(HfVC)、炭化ハフニウムニオブ(HfNbC)、炭化ハフニウムタンタル(HfTaC)、炭化ハフニウムクロム(HfCrC)、炭化ハフニウムモリブデン(HfMoC)、炭化ハフニウムタングステン(HfWC)、炭化バナジウムニオブ(VNbC)、炭化バナジウムタンタル(VTaC)、炭化バナジウムクロム(VCrC)、炭化バナジウムモリブデン(VMoC)、炭化バナジウムタングステン(VWC)、炭化ニオブタンタル(NbTaC)、炭化ニオブクロム(NbCrC)、炭化ニオブモリブデン(NbMoC)、炭化ニオブタングステン(NbWC)、炭化タンタルクロム(TaCrC)、炭化タンタルモリブデン(TaMoC)、炭化タンタルタングステン(TaWC)、炭化クロムモリブデン(CrMoC)、炭化クロムタングステン(CrWC)、炭化モリブデンクロム(MoWC)、炭化アルミニウム(Al)、炭化珪素(SiC)を挙げることができる。
【0097】
第1元素と炭素と窒素とからなる化合物(炭窒化物)としては、例えば、炭窒化チタン(TiCN)、炭窒化ジルコニウム(ZrCN)、炭窒化ハフニウム(HfCN)、炭窒化アルミニウム(AlCN)、炭窒化珪素(SiCN)を挙げることができる。
【0098】
第1元素と硼素とからなる化合物(硼化物)としては、例えば、硼化チタン(TiB)、硼化ジルコニウム(ZrB)、硼化ハフニウム(HfB)、硼化バナジウム(VB)、硼化ニオブ(NbB)、硼化タンタル(TaB)、硼化クロム(CrB)、硼化モリブデン(MoB)、硼化タングステン(WB)、硼化アルミニウム(AlB)、硼化珪素(SiB)を挙げることができる。
【0099】
第1元素と酸素とからなる化合物(酸化物)としては、例えば、酸化チタン(TiO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化バナジウム(V)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化クロム(Cr)、酸化モリブデン(MoO)、酸化タングステン(WO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化珪素(SiO)を挙げることができる。
【0100】
第1元素と窒素と酸素とからなる化合物(酸窒化物)としては、例えば、酸窒化チタン(TiON)、酸窒化ジルコニウム(ZrON)、酸窒化ハフニウム(HfON)、酸窒化バナジウム(VON)、酸窒化ニオブ(NbON)、酸窒化タンタル(TaON)、酸窒化クロム(CrON)、酸窒化モリブデン(MoON)、酸窒化タングステン(WON)、酸窒化アルミニウム(AlON)、酸窒化珪素(SiON)、サイアロン(SiAlON)を挙げることができる。
【0101】
上記の化合物は、1種類を用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
被覆膜は、上記の化合物由来の固溶体を含むことができる。ここで、上記の化合物由来の固溶体とは、2種類以上の上記の化合物が互いの結晶構造内に溶け込んでいる状態を意味し、侵入型固溶体や置換型固溶体を意味する。
【0102】
被覆膜は上記の化合物及び上記の化合物由来の固溶体を合計で0体積%以上90体積%以下含むことが好ましく、5体積%以上70体積%以下含むことがより好ましく、10体積%以上50体積%以下含むことが更に好ましい。
【0103】
被覆膜は、アルミニウムと酸素とを含むことが好ましい。これによると、被覆膜の耐熱的安定性が向上し、耐摩耗性が向上する。その結果、被覆膜及び砥粒本体部の摩耗や破壊等の損傷が抑制される。
【0104】
アルミニウム及び酸素を含む化合物としては、Al(アルミナ)が挙げられる。Alには、α-Al、γ-Al、δ-Al、η-Al、θ-Al、κ-Al、ρ-Al、χ-Al等の結晶構造が存在する。被覆膜は、これらの結晶構造のいずれも含むことができる。ここで、Al(アルミナ)はAlとOの原子比が2:3であるが、本願におけるAl(アルミナ)は、AlとOの原子比率は2:3に完全に一致する必要は無く、後述のように、一定の範囲内でも構わない。
【0105】
被覆膜はアルミニウム及び酸素を含む化合物を合計で10体積%以上100体積%以下含むことが好ましく、30体積%以上95体積%以下含むことがより好ましく、50体積%以上90体積%以下含むことが更に好ましい。
【0106】
被覆膜3は、γ-Alを含むことが好ましい。これによると、被覆膜を構成する複数の結晶粒の平均粒径を小さくすることができるため、被覆膜の強度が向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上する。従って、被削材との接触に伴う衝撃による膜破壊と膜剥離が抑制される。よって被覆膜は、良好な耐摩耗性を長時間持続することができる。
【0107】
被覆膜において、アルミニウムと酸素との原子比率Al/Oは、0.2以上0.9以下であることが好ましい。これによると、被覆膜の耐摩耗性が更に向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が向上する。
【0108】
アルミニウムと酸素との原子比率Al/Oは、0.4以上0.7以下がより好ましく、0.45以上0.65以下が更に好ましい。これによると、被覆膜の耐摩耗性が更に向上し、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力が更に向上する。
【0109】
被覆膜におけるアルミニウムと酸素との原子比率の測定方法は、下記の通りである。被覆超砥粒に対し、ICP(誘導結合高周波プラズマ分光分析)によりAl含有量を、不活性ガス融解法により酸素含有量を測定する。それらを原子%に換算し、原子比率を計算する。
【0110】
被覆膜3は、不可避不純物や被覆膜形成プロセス中において残留する微量の未反応の金属アルミニウムや、アルミニウムと酸素とを含む化合物の非晶質成分等を含んでいてもよい。不可避不純物としては、製造プロセス中に使用する治具(主にSUSやカーボン)由来の微量の鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、炭素(C)等が挙げられる。
【0111】
被覆膜における不可避不純物の含有量は、質量基準で、0.001%以上0.5%以下が好ましく、0.001%以上0.1%以下がより好ましい。
【0112】
被覆膜3の組成分析は、定性的な評価をSEM-EDS分析、定量的な分析をICP分析を用いて行う。SEM-EDS分析の測定条件は砥粒本体部の組成分析の測定条件と同一であり、ICP分析の測定条件は被覆膜におけるアルミニウムと酸素との原子比率の分析方法と同一であるため、これらの説明は繰り返さない。
【0113】
(被覆膜を構成する複数の結晶粒の平均粒径)
被覆膜3は複数の結晶粒を含む多結晶とすることができる。この場合、複数の結晶粒の平均粒径は、500nm以下であることが好ましい。これによると、被覆膜の強度が更に向上し、被削材との接触に伴う衝撃力(応力)による被覆膜3自体の損傷を抑制し易い。更に、被削材との接触に伴う砥粒本体部2への衝撃力を緩和し易く、砥粒本体部2が損傷し難い。被覆膜3の平均粒径は、小さいほど被覆膜3自体の強度を高めることができる。
【0114】
被覆膜に含まれる複数の結晶粒の平均粒径は、上限が500nm以下が好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。該平均粒径は、下限が1nm以上が好ましく、5nm以上がより好ましく、10nm以上がより好ましい。該平均粒径は、1nm以上500nm以下が好ましく、5nm以上100nm以下がより好ましく、10nm以上50nm以下が更に好ましい。
【0115】
被覆膜に含まれる複数の結晶粒の平均粒径は、STEMによるHAADF-STEM像を用いて算出される。具体的には下記の方法で算出される。
【0116】
まず、被覆膜の厚さが100nm超の場合、被覆膜を機械研磨し、Ar-イオンミリング法により被覆膜の厚さを100nm以下とする。被覆膜の厚さが100nm以下の場合はこの操作は不要である。
【0117】
STEMの倍率を650万倍とし、被覆膜のHAADF-STEM像において原子配列を観察可能な領域を任意に10個以上特定する。この原子配列が見える1つの領域を1つの結晶粒とする。HAADF-STEM像では、結晶方位の異なる結晶粒は観察されないので、原子配列が観察可能な領域を結晶粒と見做すことができる。原子配列が見える1つの領域の円相当径を1つの結晶粒の粒径とする。円相当径は、画像処理ソフト(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」(商標))を用いて算出することができる。10個以上の結晶粒の平均粒径を、被覆膜に含まれる複数の結晶粒の平均粒径とする。
【0118】
(被覆膜の結晶構造)
被覆膜の結晶構造分析は被覆されている物質を特定するための分析であり、下記の方法で実施する。
【0119】
被覆膜の結晶構造は、エネルギー分散型X線(EDS)付帯のSTEM観察と、X線回折(使用機器:JOEL社製「MiniFlex600」(商標))を複合的に用いることで分析する。EDSは一般的な条件で測定する。XRDの観察条件は下記のとおりである。
【0120】
X線回折装置:JOEL社製「MiniFlex600」(商標)
特性X線: Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧: 45kV
管電流: 40mA
フィルター: 多層ミラー
光学系: 集中法
X線回折法: θ-2θ法。
【0121】
被覆膜の電子線回折を分析することで、非晶質を含有するか否かを検証することができる。
【0122】
(構造)
被覆膜3は、単層構造とすることができる。図2に示されるように、被覆膜3は、2種以上の単位層からなる多層構造とすることができる。被覆膜が多層構造であると、各単位層の残留応力が上昇する。このため、被覆膜の硬度が向上し、被覆膜の損傷が抑制される。
【0123】
被覆膜が多層構造の場合、層数は特に限定されない。例えば、2層や3層とすることができる。この場合、隣り合う各単位層の組成は、互いに異なることが好ましい。例えば、被覆膜3の構造が3層構造の場合(図2)、砥粒本体部2側から外側に向かって順に第1単位層31、第2単位層32、第3単位層33とするとき、第1単位層31と第3単位層33とを同じ組成とし、第2単位層32の組成を第1単位層31及び第3単位層33と異なる組成とすることができる。また、第1単位層31、第2単位層32及び第3単位層33の組成は、3層全て異なる組成とすることができる。被覆膜3の構造は、STEMによる断面観察により分析することができる。
【0124】
(厚さ)
被覆膜3の厚さは、50nm以上1000nm以下であることが好ましい。被覆膜の厚さが50nm以上であると、被覆膜自体の耐摩耗性を高め易く、被覆膜及び砥粒本体部の損傷を抑制し易い。被覆膜の厚さが1000nm以下であると、被覆膜の厚さが過度に厚過ぎず剥離し難いため、砥粒本体部の外周に被覆膜を形成した状態を維持し易い。
【0125】
被覆膜3の厚さは、被覆膜3が多層構造の場合、各層の厚さの合計とする。多層構造とする場合、各層の厚さは同一の厚さとしてもよいし異なる厚さとしてもよい。
【0126】
被覆膜の厚さの下限は、50nm以上が好ましく、100nm以上がより好ましく、150nm以上が更に好ましい。被覆膜の厚さの上限は、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下が更に好ましい。被覆膜の厚さは、100nm以上500nm以下がより好ましく、150nm以上300nm以下が更に好ましい。
【0127】
本明細書において、被覆膜の厚さとは無作為に選択された10粒の被覆超砥粒の被覆膜の厚さの平均値を意味する。該平均値を算出するための各被覆超砥粒の被覆膜の厚さは、下記の方法で算出される値である。
【0128】
まず、複数の被覆超砥粒をエポキシ樹脂で埋設した成形体を作製する。成形体における被覆超砥粒の含有量は、樹脂に対して50体積%以上とする。成形体の形状は、直方体又は立方体とする。
【0129】
成形体をCP(クロスセクションポリッシャ)加工する。この加工は、2段階に分けて行う。1段階目の加工として、少なくとも一つの被覆超砥粒の断面が見えるまで成形体のいずれかの面を加工する。次に、2段階目の加工として、加工面の表面を、被覆超砥粒の粒径の50%に相当する長さの厚み分を除去するように、更にCP加工する。ここで、被覆超砥粒の粒径は、上記のレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した値とする。
【0130】
成形体の断面をSEMで観察し、反射電子画像を得る。該反射電子画像から、1粒の被覆超砥粒の被覆膜において、無作為に選択された3箇所の厚さを実測する。3箇所の厚さの平均値を、該被覆超砥粒の被覆膜の厚さとする。
【0131】
(被覆超砥粒の製造方法)
被覆超砥粒の製造方法は、立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部を準備する工程(以下、「準備工程」とも記す。)と、前記砥粒本体部に前処理を行う工程(以下、「被覆前処理工程」とも記す。)と、該砥粒本体部の表面に被覆膜を形成する工程(以下、「被覆工程」とも記す。)とを備えることができる。
【0132】
(準備工程)
砥粒本体部の原料である立方晶窒化硼素を準備する。立方晶窒化硼素は特に限定されず、公知のものを用いることができる。
【0133】
(被覆前処理工程)
準備した立方晶窒化硼素からなる砥粒本体部に対して、前処理を行う。これにより砥粒本体部の転位密度を低減することができる。前処理としては、熱処理、電子線照射、プラズマ照射、マイクロ波照射が挙げられる。
【0134】
熱処理は、例えば、真空中で、温度850~1400℃、加熱時間15~300分とすることができる。これによると、砥粒本体部の転位密度を十分に低減することができる。温度は、後述の被覆後の熱処理工程における温度よりも高くすることが好ましい。
【0135】
電子線照射は、例えば、照射エネルギー10~40MeV、照射時間3~20時間とすることができる。これによると、砥粒本体部の転位密度を十分に低減することができる。
【0136】
(被覆工程)
次に、熱処理を行った砥粒本体部の表面に被覆膜を形成する。被覆膜の形成は、アークイオンプレーティング(AIP)法、HIPIMS(High Power Impulse Magnetron Sputtering)法、アークプラズマ粉末法等の物理蒸着法や、噴霧熱分解法やMOCVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)等の化学蒸着法により行われる。中でも、アークプラズマ粉末法が最適である。
【0137】
被覆条件は、ターゲット材として周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、珪素及び炭素から選ばれる少なくとも一つの単体もしくはそれらの合金、化合物を用いて、酸素、窒素及びアルゴンから選ばれる少なくとも1種を含む雰囲気下、放電電圧を10V以上200V以下、放電周波数を1Hz以上20Hz以下、コンデンサ容量を360μF以上1800μF以下、Shot数を1000以上10000000以下とすることが挙げられる。これにより、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム及び珪素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素と、酸素、窒素、炭素及び硼素からなる群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる1種以上の化合物を含有する被覆膜を砥粒本体部表面に形成することができる。
【0138】
(被覆後熱処理工程)
被覆膜形成後に、被覆後熱処理工程を行うことが好ましい。被覆膜形成直後の被覆膜は、主に非晶質であるため、適切に熱処理を付与することにより、組織制御が可能であり、かつ、被覆膜と砥粒本体部との密着力を向上させることができる。
【0139】
例えば、アルミニウム酸化物の場合、熱処理温度700℃以上でγ-Alが生成し始め、1200℃以上でα-Alが生成し始める。このような結晶構造の相転移は体積変化を伴うため、被覆膜の砥粒本体部との界面で不整合を生じる場合がある。また、熱処理温度が高くなると、被覆膜を構成する結晶粒の粒径が大きくなりやすい。一方、熱処理温度が低くなると、被覆膜を構成する結晶粒の粒径が小さくなりやすい。
【0140】
例えば、熱処理温度を800~1000℃とし、熱処理時間を30~240分とすることで、被覆膜にγ-Alを含有させ、かつ、被覆膜を構成する複数の結晶粒の平均粒径を500nm以下とすることで高硬度化させ、砥粒本体部と被覆膜との界面での不整合を抑制し、かつ砥粒本体部と被覆膜との間の原子の相互拡散により隙間なく密着させることができる。なお、微量の未反応の金属アルミニウムや、アルミニウムと酸素の非晶質成分が残存しても構わない。
【0141】
被覆膜に含まれるアルミニウムと酸素との原子比率(Al/O)は、アークプラズマ粉末や熱処理時の雰囲気の酸素分圧で制御できる。原子比率(Al/O)は、酸素分圧を下げると大きくなり、酸素分圧を上げると小さくなる。原子比率(Al/O)が0.2以上でγ-Alが生成し易く、0.9以下で絶縁性が維持でき、0.4以上0.7以下で最も研削比が向上する。
【0142】
[用途]
実施形態1に係る被覆超砥粒は、ホイールなどの研削工具(砥石)の砥粒に好適に利用できる。
【0143】
[実施形態2:砥粒]
本開示の一実施形態に係る砥粒は、立方晶窒化硼素からなり、転位密度が9×1014/m以下である。本開示の砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。この理由は下記の通りと推察される。
【0144】
本開示の砥粒は転位密度が低い。転位密度が低い場合、砥粒の靭性が向上する。従って、本開示の砥粒を用いた場合、研削加工中の砥粒の欠損が著しく抑えられる。よって、本開示の砥粒を用いた工具は高い研削比を有することができる。
【0145】
実施形態2の砥粒は、実施形態1の被覆超砥粒に含まれる砥粒本体部と同一の構成とすることができる。すなわち、実施形態1の砥粒本体部のみを砥粒として用いたものが、実施形態2の砥粒に該当する。
【0146】
実施形態2の砥粒の組成、転位密度、結晶組織、結晶構造、砥粒を構成する結晶粒の粒径、砥粒を構成する結晶子及び結晶子サイズ、砥粒を構成する結晶粒の平均粒径、用途は、実施形態1の被覆超砥粒に含まれる砥粒本体部と同一の構成とすることができる。
【0147】
(転位密度)
砥粒の転位密度は、9×1014/m以下である。砥粒の転位密度が9×1014/m以下であると、砥粒は優れた靱性を有することができる。また、砥粒の格子欠陥が少なく、研削時の欠損を低減できる。よって、本開示の砥粒を用いた工具は、高い研削比を有することができる。
【0148】
砥粒の転位密度の下限は、1×10/m以上が好ましく、1×1010/m以上がより好ましく、5×1010/m以上がより好ましい。砥粒の転位密度の上限は9×1014/m以下であり、6.5×1014/m以下が好ましく、2×1014/m以下が好ましく、5×1013/m以下がより好ましい。砥粒の転位密度は1×10/m以上9×1014/m以下が好ましく、1×10/m以上6.5×1014/m以下が好ましく、1×1010/m以上2×1014/m以下がより好ましく、5×1010/m以上5×1013/m以下が更に好ましい。
【0149】
砥粒の転位密度の測定方法は、実施形態1に記載の砥粒本体部の転位密度の測定方法と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0150】
(結晶組織)
砥粒の結晶組織は、単結晶又は多結晶とすることができる。砥粒の結晶組織が単結晶であると、砥粒の強度が向上しやすい。一方、砥粒の結晶組織が多結晶であると、該砥粒を用いた工具の研削比が向上しやすい。
【0151】
(砥粒を構成する結晶子のサイズ(結晶子サイズ))
砥粒を構成する結晶子のサイズ(結晶子サイズ)は、250nm以上が好ましい。これによると、該砥粒を用いた工具の研削比を向上させやすい。この理由は明らかではないが、結晶子サイズが大きいほうが研削時の亀裂伝播が抑制されるため、砥粒の靭性が向上し、研削時の砥粒の大きな欠損が抑制されるためと推察される。
【0152】
上記の結晶子サイズの下限は、250nm以上、450nm以上、600nm以上とすることができる。結晶子サイズの上限は、2000nm以下、1500nm以下、1000nm以下とすることができる。結晶子サイズは、250nm以上2000nm以下、450nm以上1500nm以下、600nm以上1000nm以下とすることができる。
【0153】
上記結晶子サイズの測定方法は、実施形態1に記載の砥粒本体部の結晶子サイズの測定方法と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0154】
(砥粒の粒径)
砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下が好ましい。ここで、砥粒の粒径とは、1粒の砥粒の粒径を意味する。
【0155】
砥粒の粒径が30μm以上であると、過度に小さ過ぎず、砥粒をホイールに固着し易くなるため被削材を研削し易い上に、取り扱い易く、ホイールを構築し易い。砥粒の粒径が600μm以下であると、過度に大き過ぎないため、被削材との接触に伴う砥粒への衝撃力による破砕などの損傷が生じにくい。
【0156】
砥粒の粒径は、下限が30μm以上が好ましく、50μm以上がより好ましく、60μm以上が更に好ましい。砥粒の粒径は、上限が600μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、150μm以下が更に好ましい。砥粒の粒径は、30μm以上600μm以下、50μm以上300μm以下、60μm以上150μm以下とすることができる。
【0157】
砥粒の粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製の「SALDシリーズ」)で測定される。
【0158】
上記以外の砥粒の構成の詳細は実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。
【0159】
本開示の砥粒の製造方法は、立方晶窒化硼素からなる砥粒前駆体を準備する工程と、該砥粒前駆体に熱処理、電子線照射、プラズマ照射又はマイクロ波照射を行うことにより、砥粒を得る工程とを備えることができる。これにより、立方晶窒化硼素からなり、転位密度の低減された砥粒を得ることができる。熱処理の具体的な条件は、実施形態1の被覆前処理工程と同一とすることができるため、その説明は繰り返さない。
【0160】
[実施形態3:ホイール]
本開示の一実施形態に係るホイールを、図3図5を用いて説明する。図3は、実施形態2に係るホイールの概略を示す斜視図である。図4は、図3に示すホイールを(IV)-(IV)線を含む面で切断した状態を示す断面図である。図5は、図4に示すホイールの破線円で囲まれた領域を拡大して示す断面図である。
【0161】
図3図5は、ホイールの超砥粒層が実施形態1の被覆超砥粒を含む場合を示しているが、これに限定されない。超砥粒層は被覆超砥粒に代えて実施形態2の砥粒を含んでいても良い。また、超砥粒層は被覆超砥粒と砥粒の両方を含んでいても良い。以下の説明では、超砥粒層が被覆超砥粒を含む場合として説明するが、超砥粒層が砥粒を含む場合、超砥粒層が被覆超砥粒及び砥粒を含む場合も、本実施形態に含まれるものとする。
【0162】
ホイール10は、円板状の基板11と、基板11の少なくとも外周面を覆う超砥粒層12とを備え、超砥粒層12は、実施形態1の被覆超砥粒1又は実施形態2の砥粒を有するホイールである。ホイール10は、損傷し難い被覆超砥粒1を備えるため、研削比が高い。
【0163】
[基板]
基板11の材質は、AlやAl合金、鉄や鉄合金、炭素工具鋼、高速度工具鋼、合金工具鋼、超硬合金、サーメットなどが挙げられる。基板11のサイズ(内・外径、厚さ)は、例えば、ホイール10を設置するマシニングセンタなどの工作機械のサイズ、即ち被削材のサイズに応じて適宜選択できる。基板11は、公知のホイールの基板を利用できる。
【0164】
[超砥粒層]
超砥粒層12は、本例では基板11の外周面111の表面と外周端面とを一連に覆うように形成される(図3図4)。超砥粒層12のサイズ(厚さ及び幅)は、基板11のサイズ(厚さ及び幅)に応じて適宜選択できる。厚さは、ホイール10の径方向に沿った長さをいい、幅は、ホイール10の軸方向に沿った長さをいう。この超砥粒層12は、被覆超砥粒1と結合材13とを備える(図5)。
【0165】
(被覆超砥粒)
被覆超砥粒1としては、実施形態1の被覆超砥粒を用いる。被覆超砥粒1の数は複数とすることができる。超砥粒層12の表面側の被覆超砥粒1は、その一部が結合材13から露出しており、その露出箇所が被削材を研削する切刃部を有する。
【0166】
一方、超砥粒層12の基板11側の被覆超砥粒1は、その全てが結合材13に埋設されている。埋設された被覆超砥粒1は、ホイール10で被削材を研削中に超砥粒層12の表面側の被覆超砥粒1が摩耗して脱落すると共に結合材13が摩耗する過程で、その一部が結合材13から露出し被削材を研削する。
【0167】
複数の被覆超砥粒1は全て、同一構成(材質やサイズ)の砥粒本体部2と同一構成(材質や厚さ)の被覆膜3とで構成されていてもよい。また、一部の被覆超砥粒1の砥粒本体部2や被覆膜3は、他部の被覆超砥粒1の砥粒本体部2や被覆膜3と異なる構成(材質やサイズ)であってもよい。また、超砥粒層12には超砥粒1以外の公知の砥粒が混在していてもよい。
【0168】
超砥粒層に含まれる複数の被覆超砥粒の平均粒径(体積基準のメジアン径d50)の下限は30μmが好ましく、40μmが好ましく、50μmが好ましく、60μmが好ましい。複数の被覆超砥粒の平均粒径(体積基準のメジアン径d50)の上限は600μmが好ましく、400μmが好ましく、300μmが好ましく、150μmが好ましい。複数の被覆超砥粒の平均粒径(体積基準のメジアン径d50)は、30μm以上600μm以下が好ましく、40μm以上400μm以下が好ましく、50μm以上300μm以下が好ましく、60μm以上150μm以下が好ましい。
【0169】
複数の被覆超砥粒の平均粒径は、超砥粒層を酸(例えば、王水(濃塩酸:濃硝酸=3:1の体積比で混合した液体))に浸漬し、結合材を酸に溶解させ、複数の被覆超砥粒のみを取り出し、取り出した複数の被覆超砥粒をレーザー回折式粒度分布測定装置で測定することで求める。超砥粒層が大きい場合には、超砥粒層を所定の体積(例えば、0.5cm)だけ切り取って、その部分から上述のように結合材を溶かして複数の被覆超砥粒を取り出す。
【0170】
(結合材)
結合材13は、被覆超砥粒1を外周面111(図4)に固着する。結合材13の種類は、例えば、レジンボンド、メタルボンド、ビトリファイドボンド、電着ボンド、及びこれらを複合したボンドの中から選択される1種のボンド、又は金属ロウが挙げられる。これらのボンドや金属ロウは、公知のボンドや金属ロウを利用できる。
【0171】
レジンボンドは、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を主成分とすることが挙げられる。メタルボンドは、銅、錫、鉄、コバルト、又はニッケルを含む合金を主成分とすることが挙げられる。ビトリファイドボンドは、ガラス質を主成分とすることが挙げられる。電着ボンドは、ニッケルめっきが挙げられる。金属ロウは、銀(Ag)ロウなどが挙げられる。
【0172】
結合材13の種類は、被覆超砥粒1の被覆膜3の材質などに応じて適宜選択できる。例えば、被覆超砥粒1の被覆膜3が導電性を有する場合、結合材13は、電着ボンドを除いて、レジンボンド、メタルボンド、ビトリファイドボンド、及び金属ロウを利用できる。被覆超砥粒1の被覆膜3が絶縁性を有する場合、電着ボンドを含む上記全てのボンドと金属ロウとを利用できる。
【0173】
ホイール10(図3)は、砥粒本体部2の表面の少なくとも一部に被覆膜3が被覆された複数の被覆超砥粒1(図1)を準備し、結合材13(図5)により複数の被覆超砥粒1を基板11の外周面111に固着することで製造できる。また、ホイール10は、被覆膜3が被覆されていない複数の砥粒本体部2を準備し、結合材13により複数の砥粒本体部2を基板11の外周面111に固着した後、砥粒本体部2の表面(切刃部)を覆うように被覆膜3を形成することで製造してもよい。この場合、被覆方法は、上述のAIP法、HIPIMS法、CVD法及びアークプラズマ粉末法のいずれも利用できる。
【0174】
(用途)
実施形態に係るホイール10は、自動車部品、光学ガラス、磁性材料、半導体材料などの研削や、エンドミル、ドリル、リーマなどの溝研削、刃先交換チップのブレーカ研削、各種工具の重研削に好適に利用できる。
【実施例
【0175】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0176】
[実施例1]
<被覆超砥粒及び砥粒の作製>
(試料1~試料6、試料9~試料18、試料20~試料23)
各試料について、砥粒本体部として、単結晶の立方晶窒化硼素を準備した。各試料で準備した砥粒本体部の平均粒径は、表1の「砥粒本体部」の「平均粒径(μm)」欄に記載の通りである。例えば、試料1では、砥粒本体部の平均粒径は75μmである。
【0177】
該立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉(日本特殊機械株式会社製の「NRF-658-0.7D1.5V形」)を用いて被覆前処理として熱処理を行った。該熱処理の条件(雰囲気、温度、時間)は、表1の「被覆前熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」の欄に示す通りである。例えば、試料1では、真空(真空とは、1×10-3Pa以下を意味する。)中、900℃で0.5時間熱処理を行った。
【0178】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、下記の通りである。
【0179】
被覆装置:ナノ粒子形成装置 APD-P アドバンス理工株式会社製
ターゲット:アルミニウム
導入ガス:O
成膜圧力:表1の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄に記載の通り。
【0180】
放電電圧:150V
放電周波数:6Hz
コンデンサ容量:1080μF
処理粉末量:30g
粉末容器の回転数:50rpm
【0181】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、上記の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、被覆超砥粒を得た。被覆後熱処理の条件は表1の「被覆後熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」欄に示す通りである。例えば、試料1では、真空(1×10-3Pa以下)中、850℃で30分間熱処理を行った。
【0182】
(試料7)
砥粒本体部として、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備した。試料7では被覆前熱処理工程を行わず、立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成して被覆超砥粒を得た。試料7では、被覆後熱処理を行わなかった。
【0183】
(試料8)
砥粒本体部として、平均粒径75μmの多結晶の立方晶窒化硼素を用いること以外は、試料6と同様の方法で被覆超砥粒を作製した。
【0184】
(試料19)
砥粒本体部として、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備した。該立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉を用いて被覆前熱処理を行った。被覆前熱処理の条件(雰囲気、温度、時間)は、表1の「被覆前熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」の欄に示す通りである。
【0185】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、ターゲット及び導入ガス以外は試料1と同一である。
【0186】
ターゲットは、アルミニウムとチタンアルミニウム(Tiを50原子%、Alを50原子%)を使用した。導入ガスはO(酸素)又はN(窒素)とした。
【0187】
まず、砥粒本体部の表面にチタンアルミニウムをターゲットとし、窒素ガスを導入しながら、窒素雰囲気(0.88Pa)下で第1単位層を平均厚み150nmで形成した。続いて、アルミニウムをターゲットとし、酸素ガスを導入しながら、酸素雰囲気(0.88Pa)下で第2単位層を平均厚み150nmで形成した。
【0188】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、上記の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、被覆超砥粒を得た。熱処理の条件は表1の「被覆後熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」欄に示す通りである。
【0189】
(試料24)
砥粒本体部として、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備した。該立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉を用いて被覆前熱処理を行った。被覆前熱処理の条件(雰囲気、温度、時間)は、表2の「被覆前熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」の欄に示す通りである。
【0190】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、ターゲット及び導入ガス以外は試料1と同一である。
【0191】
ターゲットは、チタンアルミニウム(Tiを50原子%、Alを50原子%)を使用し、窒素雰囲気(0.88Pa)下で被覆膜を形成した。導入ガスはN(窒素)とした。
【0192】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、上記の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、被覆超砥粒を得た。熱処理の条件は表2の「被覆後熱処理」の「雰囲気」、「温度」、「時間」欄に示す通りである。
【0193】
(試料25)
試料25では、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素をそのまま砥粒として用いた。すなわち、試料25では、被覆前熱処理、被覆膜の形成及び被覆後熱処理は行われなかった。
【0194】
(試料26)
試料26では、被覆膜形成の際、ターゲットとしてチタン及び、炭素を用い、雰囲気をアルゴンとした以外、試料5と同様の条件で被覆超砥粒を作製した。
【0195】
(試料27)
試料27では、被覆膜形成の際、ターゲットとしてチタン及び、炭素を用い、雰囲気を窒素とした以外、試料5と同様の条件で被覆超砥粒を作製した。
【0196】
(試料28)
試料28では、被覆膜形成の際、ターゲットとしてシリコン及び、アルミニウムを用い、雰囲気を窒素酸素混合ガスとした以外、試料5と同様の条件で被覆超砥粒を作製した。
【0197】
(試料29)
試料29では、被覆膜形成の際、ターゲットとしてチタン及び、硼素を用い、雰囲気をアルゴンとした以外、試料5と同様の条件で被覆超砥粒を作製した。
【0198】
(試料30)
試料30では、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、試料1と同様の被覆前熱処理を実施して砥粒を作製した。試料30では被覆膜の形成及び被覆後熱処理は行われなかった。
【0199】
<測定>
上記で作製された被覆超砥粒及び砥粒について、砥粒本体部(試料25及び試料30では砥粒)の転位密度、被覆膜の組成、被覆膜におけるアルミニウムと酸素との原子比率(以下、「Al/O比率」とも記す。)、被覆膜の平均粒径及び平均厚みを測定した。これらの具体的な測定方法は、実施形態1に示す方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表1及び表2の「砥粒本体部/砥粒」の「転位密度」欄、「被覆膜」の「組成」、「Al/O比率」、「平均粒径」及び「平均厚み」の欄に示す。
【0200】
<ホイールの作製>
上記で作製された被覆超砥粒又は砥粒を用いて、図3図5に示されるホイール10と同様の構成を有するホイールを作製した。具体的には、基板の外周面に、結合材により複数の超砥粒を固着させて、ホイールを作製した。基板は、S45Cからなり、直径(外径):50mm、取付孔径(内径):20mm、厚さ:8mmのものを用意した。結合材には、Agロウ材を用いた。
【0201】
<研削性能の評価>
各試料のホイールの研削性能の評価は、研削比を求めることで行った。研削比は、下記の装置に各試料のホイールを設置し、下記の条件で被削材を180分間研削して、「研削によって除去された被削材の体積/超砥粒の総損耗体積」から求めた。即ち、研削比が高いほど、研削性能に優れる。結果を表1及び表2に示す。
【0202】
被削材:SCM415焼入鋼(3.5mm×60mm×100mm)
装置:マシニングセンタV-55 株式会社牧野フライス製作所製
砥石周速度:2700mm/min
切り込み:0.17mm
送り速度:150mm/min
クーラント:エマルションタイプ(ユシローケン(登録商標))
【0203】
【表1】
【0204】
【表2】
【0205】
<評価>
試料1~試料6、試料8~試料24、試料26~試料29の被覆超砥粒及び試料30の砥粒は実施例に該当する。試料7の被覆超砥粒は、砥粒本体部の転位密度が9×1014超であり、比較例に該当する。試料25の砥粒は転位密度が9×1014超であり、比較例に該当する。
【0206】
試料1~試料6、試料8~試料24、試料26~試料30のホイールの研削比は、いずれも、試料7及び試料25のホイールの研削比よりも高いことが確認された。
【0207】
[実施例2]
<試料2-1~試料2-6>
試料2-1~試料2-5では、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施して砥粒を作製した。試料2-6では、平均粒径75μmの多結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施して砥粒を作製した。電子線照射の条件は、表3の「電子線照射条件」の「照射エネルギー」及び「照射時間」欄に示すとおりである。
【0208】
(試料2-7)
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備し、該立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉(日本特殊機械株式会社製の「NRF-658-0.7D1.5V形」)を用いて被覆前処理として熱処理を行った。該熱処理は、真空中、900℃で0.7時間行った。
【0209】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄参照)。
【0210】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、実施例1と同一の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、試料2-7の被覆超砥粒を得た。熱処理の条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆後熱処理」の「温度」、「時間」欄参照)。
【0211】
(試料2-8)
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備し、該立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄参照)。
【0212】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、実施例1と同一の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、試料2-8の被覆超砥粒を得た。熱処理の条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆後熱処理」の「温度」、「時間」欄参照)。
【0213】
(試料2-9)
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を準備し、該立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成して試料2-9の被覆超砥粒を得た。被覆装置及びその設定条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄参照)。
【0214】
(試料2-10)
試料2-10では、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を砥粒とした。
【0215】
(試料2-11)
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施した。電子線照射の条件は、表3の「電子線照射条件」の「照射エネルギー」及び「照射時間」欄に示すとおりである。
【0216】
電子線照射後の立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉(日本特殊機械株式会社製の「NRF-658-0.7D1.5V形」)を用いて被覆前処理として熱処理を行った。該熱処理は、真空中、900℃で0.7時間行った。
【0217】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成した。被覆装置及びその設定条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄参照)。
【0218】
立方晶窒化硼素粒子の表面に被覆膜を形成した後、実施例1と同一の真空熱処理炉を用いて被覆後熱処理を行い、試料2-11の被覆超砥粒を得た。熱処理の条件は、上記の試料1と同一とした(表3の「被覆後熱処理」の「温度」、「時間」欄参照)。
【0219】
<測定>
上記で作製された被覆超砥粒及び砥粒について、砥粒本体部(試料2-1~試料2-6、試料2-10では砥粒)の転位密度、被覆膜の組成、被覆膜におけるアルミニウムと酸素との原子比率(以下、「Al/O比率」とも記す。)、被覆膜の平均粒径及び平均厚みを測定した。これらの具体的な測定方法は、実施形態1に示す方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表3の「砥粒本体部/砥粒」の「転位密度」欄、「被覆膜」の「組成」、「Al/O比率」、「平均粒径」及び「平均厚み」の欄に示す。
【0220】
<ホイールの作製>
上記で作製された被覆超砥粒又は砥粒を用いて、実施例1と同様の方法で、実施例1と同一形状のホイールを作製した。
【0221】
<研削性能の評価>
各試料のホイールの研削性能の評価は、研削比を求めることで行った。研削比は、下記の装置に各試料のホイールを設置し、下記の条件で被削材を180分間研削して、「研削によって除去された被削材の体積/超砥粒の総損耗体積」から求めた。即ち、研削比が高いほど、研削性能に優れる。結果を表3に示す。
【0222】
被削材:SCM415焼入鋼(3.5mm×60mm×100mm)
装置:マシニングセンタ V-55 株式会社牧野フライス製作所製
砥石周速度:2700mm/min
切り込み:0.5mm
送り速度:100mm/min
クーラント:エマルションタイプ(ユシローケン(登録商標))
【0223】
【表3】
【0224】
<評価>
試料2-1~試料2-8、試料2-11の砥粒及び被覆超砥粒は実施例に該当する。試料2-9の被覆超砥粒は、砥粒本体部の転位密度が9×1014超であり、比較例に該当する。試料2-10の砥粒は転位密度が9×1014超であり、比較例に該当する。
【0225】
試料2-1~試料2-8、試料2-11のホイールの研削比は、いずれも、試料2-9及び試料2-10のホイールの研削比よりも高いことが確認された。
【0226】
試料2-1~試料2-6と、試料2-10とを比較すると、立方晶窒化硼素に電子線照射を行うと、転位密度が低下することが確認された。
【0227】
試料2-9と試料2-10とを比較すると、被覆膜を有する被覆超砥粒(試料2-9)は、砥粒のみ(試料2-10)に対して、砥粒本体部の転位密度が低く、約1.5倍の研削比を得られることが確認された。試料2-9の砥粒本体部の転位密度が低い理由は明らかではないが、被覆時、原子レベルのAl、酸素イオンが砥粒表面に照射されることで砥粒表面近傍の格子欠陥が緩和された可能性や、砥粒自体の転位のばらつきの可能性がある。
【0228】
試料2-8と試料2-9とを比較すると、被覆後熱処理を行った試料2-8は、被覆後熱処理を行っていない試料2-9に対して約2倍の研削比を得られることが確認された。この理由は明らかではないが、試料2-8では、被覆膜形成時に照射される分子レベルの粒子が、被覆後熱処理の際に拡散し、被覆砥粒表面近傍の欠陥を低減するためと推察される。
【0229】
試料2-7、試料2-8、試料2-9を比べると、電子線照射及び/又は熱処理を行うことで、更に砥粒本体部の転位密度が低下し、研削比が向上することが確認された。
【0230】
[実施例3]
<試料3-1>
試料3-1では、平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素を砥粒とした。
【0231】
<試料3-2>
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施して試料3-2の砥粒を作製した。電子線照射の条件は、表4の「電子線照射条件」の「照射エネルギー」及び「照射時間」欄に示すとおりである。
【0232】
<試料3-3~試料3-10>
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施した。電子線照射の条件は、表4の「電子線照射条件」の「照射エネルギー」及び「照射時間」欄に示すとおりである。
【0233】
電子線照射後の立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉(日本特殊機械株式会社製の「NRF-658-0.7D1.5V形」)を用いて熱処理を行い、試料3-3~試料3-10の砥粒を得た。熱処理は、真空中で、表4の「(被覆前)熱処理」の「温度」欄に記載される温度で、「時間」欄に記載される時間行った。例えば、試料3-3では、真空中、900℃で1時間熱処理を行った。
【0234】
<試料3-11~試料3-13>
平均粒径75μmの単結晶の立方晶窒化硼素に対して、電子線照射を実施した。電子線照射の条件は、表4の「電子線照射条件」の「照射エネルギー」及び「照射時間」欄に示すとおりである。
【0235】
電子線照射後の立方晶窒化硼素に対して、真空熱処理炉(日本特殊機械株式会社製の「NRF-658-0.7D1.5V形」)を用いて被覆前熱処理を行った。該熱処理は、真空中で、表4の「(被覆前)熱処理」の「温度」欄に記載される温度で、「時間」欄に記載される時間行った。例えば、試料3-11では、真空中、950℃で3.5時間熱処理を行った。
【0236】
被覆前熱処理後の立方晶窒化硼素の表面全体上に、アークプラズマ粉末法を用いて被覆膜を形成し、試料3-11~試料3-13の被覆超砥粒を得た。被覆装置及びその設定条件は、上記の試料1と同一とした(表4の「被覆膜形成時の雰囲気条件」欄参照)。
【0237】
<測定>
上記で作製された被覆超砥粒及び砥粒について、砥粒本体部(試料3-1~試料3-10では砥粒)の結晶子サイズ、転位密度、被覆膜の組成、被覆膜におけるアルミニウムと酸素との原子比率(以下、「Al/O比率」とも記す。)、被覆膜の平均粒径及び平均厚みを測定した。これらの具体的な測定方法は、実施形態1に示す方法と同一であるため、その説明は繰り返さない。結果を表4の「砥粒本体部/砥粒」の「結晶子サイズ」、「転位密度」欄、「被覆膜」の「組成」、「Al/O比率」、「平均粒径」及び「平均厚み」欄に示す。
【0238】
<ホイールの作製>
上記で作製された被覆超砥粒又は砥粒を用いて、実施例1と同様の方法で、実施例1と同一形状のホイールを作製した。
【0239】
<研削性能の評価>
各試料のホイールの研削性能の評価は、研削比を求めることで行った。研削比は、下記の装置に各試料のホイールを設置し、下記の条件で被削材を180分間研削して、「研削によって除去された被削材の体積/超砥粒の総損耗体積」から求めた。即ち、研削比が高いほど、研削性能に優れる。結果を表4に示す。
【0240】
被削材:SCM415焼入鋼(3.5mm×60mm×100mm)
装置:マシニングセンタ V-55 株式会社牧野フライス製作所製
砥石周速度:2700mm/min
切り込み:1.0mm
送り速度:100mm/min
クーラント:エマルションタイプ(ユシローケン(登録商標))
【0241】
【表4】
【0242】
<評価>
試料3-2~試料3-13の砥粒及び被覆超砥粒は実施例に該当する。試料3-1の被覆超砥粒は、砥粒本体部の転位密度が9×1014超であり、比較例に該当する。
【0243】
試料3-2~試料3-13のホイールの研削比は、いずれも、試料3-1のホイールの研削比よりも高いことが確認された。
【0244】
実施例3の結果から、電子線照射により、砥粒(又は砥粒本体部)を構成する立方晶窒化硼素の転位密度及び結晶子サイズを変化させることができ、より高性能なホイールを得ることができることが確認された。
【0245】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0246】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0247】
1 被覆超砥粒、2 砥粒本体部、3 被覆膜、31 第1単位層、32 第2単位層、33 第3単位層、10 ホイール、11 基板、111 外周面、12 超砥粒層、13 結合材
図1
図2
図3
図4
図5