(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】動物用コンタクトレンズ
(51)【国際特許分類】
G02C 7/04 20060101AFI20220302BHJP
A01K 29/00 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G02C7/04
A01K29/00
(21)【出願番号】P 2015245787
(22)【出願日】2015-12-17
【審査請求日】2018-10-17
【審判番号】
【審判請求日】2020-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2014260627
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000222473
【氏名又は名称】株式会社メニコンネクト
(74)【代理人】
【識別番号】100147038
【氏名又は名称】神谷 英昭
(72)【発明者】
【氏名】長谷川広瀬
(72)【発明者】
【氏名】山内俊明
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】下村 一石
【審判官】関根 洋之
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-151340号公報
【文献】Soczewkowa menazeria,2009年7月17日,URL,https://kopalniawiedzy.pl/szkla-kontaktowe-zwierzeta-S-and-V-Technologies-wszczepiac-Christine-Kreiner,8018
【文献】特開平1-187527号公報
【文献】特表2003-532911号公報
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00-13/00
G02B 5/00- 5/136
A01K29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の視覚により識別可能な認識領域を、コンタクトレンズの表面又は内部の少なくとも一部に有し、
前記認識領域は、染料、顔料及び発光剤の一つ以上を含んで形成されると共に、
前記認識領域が、380~780nmの波長における光反射率が
10%以上の物性を有し、
かつ、前記認識領域内に無機粒子を含む光反射領域を有し、
前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、JISZ8781-4によって算出される明度指数Wと面積S(mm
2)との積にて算出される明度指数強度J(J=W*S(mm
2))が
10以上で600以下であり、
前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、光反射率R(%)と面積S(mm
2
)との積にて算出される光反射強度I(I=R*S(%・mm
2
))が3以上で400以下であり、
飼い主が外観上、装用の有無を視認できる
、
ラブラドール・レトリバーまたはシーズーである犬用コンタクトレンズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物用コンタクトレンズに係わり、特に犬や猫などのペットに使用するコンタクトレンズの装用状体を獣医師や飼い主が容易に確認できるようにしたデザインに関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンタクトレンズ(以下、単に「レンズ」という)は視力矯正に関する技術だけでなく、レンズの規格や識別用のマークを付したもの、レンズを落とした時などに発見し易くするように蛍光物質により図柄を設けたもの、装用者の瞳の色又は質感を他覚的に変化させることを目的として虹彩模様が付されているものなどがある。
【0003】
識別用のマークには、染料成分をレンズ素材に含浸させ発色作業を行うもの(特許文献1)や、染料や顔料を成形キャビティ内に付着させた状態においてレンズにマークを付与するもの(特許文献2)などがある。これらのレンズは基本的には人に装用させることを目的としており、マークは規格などの情報が含まれていることはあっても、レンズを装用しているかどうかを第三者に識別させることを意識して付与されたものではない。
【0004】
また、蛍光物質により図柄を設けたレンズ(特許文献3)や、識別マーク部が発光又は発色するレンズ(特許文献4)がある。これらは、レンズを誤って落としてしまったときに発見が容易になるように蛍光物質や畜光物質によりマークを形成したものであり、基本的には、装用中に第三者に認識させることを意図しておらず、レンズも人が装用することを前提としている。
【0005】
一方、虹彩模様付きレンズは、主としておしゃれ感覚で使用されるために、ある程度目立つことも必要であるが、一般的には自然な瞳の色として表現されることが重要視される傾向がある。
【0006】
これらおしゃれ感覚のためのレンズとしては、虹彩模様を模したデザインを施す他に、例えば、円形透明着色中心部分と、当該部分を取囲むようにして分散状態の複数の光反射粒子を有する円形半透明部分を含むレンズが提案されている(特許文献5)。このレンズは全体が透明であって、自然な虹彩パターンがレンズを通して見えるようにするとともに、光反射粒子によって反射された光は、反射粒子を取囲む透明マトリクスの色彩を持つように設計されているので、周辺視界を乱されることがなく、装用者の瞳から受ける印象を他覚的に変化させるという特徴を有している。
【0007】
また、レンズ本体内に封入された少なくとも1種の光反射性粒子を含み、視覚的に知覚し得るきらめき効果を創生するのに充分な表面区域を有するレンズが提案されている(特許文献6)。このレンズの構成は基本的には前記と同じであるが、装用者の眼に輝き又はきらめき効果を生じさせることが特徴である。例示のレンズは、いずれも虹彩模様を直接表現しているものではなく、レンズ全体としては透明であって、視力矯正のためのレンズ中心部分を除いて、その周りを囲むようにして光反射粒子が個別には認識されない程度(具体的には約0.01~0.25mm2の面積)に細かく無数に分散されている。
【0008】
ところで、人がレンズを装用することは自らの意志によるものであり、視力矯正のためやおしゃれ感覚を満足させるため等に拘わらず、レンズを外したいときには自由に外すことができる。一方で、レンズの装用対象を動物と捉えた場合には、眼病治療や損傷を受けた角膜保護のために飼い主の同意を得て使用されるものであり、装用主体(動物)の意志に基づくものではない。したがって、動物のためであるにも拘わらず動物自身はレンズ装用を歓迎することは無いが、治療等が目的である以上、適切な装用状態を維持して自由に外すことがないようにしなければならない。そのため動物病院などでは、レンズの使用によって症状が悪化することのないように充分な事前検査を行うとともに、装用を気にする動物が自ら外してしまわないようにエリザベスカラーをつけることも行われている。動物にとってレンズは異物でしかなく、健康眼である限り、飼い主もレンズを装用させることは意図しないものである。
【0009】
このような動物用レンズに関しては、これまでにあまり多くの提案はなされていない。少ない一例としては、レンズの装用状態を維持するための形状に関して、瞬膜の入る室を形成するために眼組織から離れるように配慮された曲面中心部分と、該曲面中心部分とは逆の曲面を有し、眼組織上にレンズを接触させて支える周辺部分からなる動物用レンズの提案(特許文献7)がある。この例は産卵低下等を抑えるためにヒナ鳥のつつき挙動を制止させる目的でレンズによる視界のゆがみを生じさせ、一旦レンズを装用させたら動物の意志に関わりなく、眼からの脱落を防止し長期間の保持を容易にするものである。
【0010】
前記のとおり、動物用レンズは抵抗感を有する装用者に強いて装用を継続させることが基本であり、レンズが適切に装用されているかどうかを外観上容易に視認できることが望ましい。この確認は獣医師だけができれば良いというだけでなく、診察から自宅に連れ帰った飼い主にとっても、定期的に観察できることがより望ましいものなのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開昭62-31821号公報
【文献】再表WO2005/016617号公報
【文献】特開平6-258604号公報
【文献】特開2003-279904号公報
【文献】特開昭60-46523号公報
【文献】特表2004-514921号公報
【文献】特開平1-187527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上記従来技術に鑑みてなされたもので、動物用レンズが実際に装用された状態を獣医師だけでなく、一般の飼い主であっても外見上簡単に確認できるようなレンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために、本発明の動物用レンズは、人の視覚により識別可能な認識領域を、レンズの表面又は内部の少なくとも一部に有し、前記認識領域は、染料、顔料及び発光剤の一つ以上を含んで形成されると共に、前記認識領域が、(A)380~780nmの波長における光反射率が7%以上、(B)前記範囲内の波長の光吸収率が10%以上で、かつ、JISZ8781-4に規定される明度指数が30以上、(C)前記範囲内のいずれかの波長の光を発光すること、のうち少なくとも一つの物性を有することを特徴としている。
【0014】
「人の」とは、動物病院で装用状態を確認する獣医(専門医)のみならず、一般人である飼い主等も含めた意であり、「視覚により」とは(赤外線カメラなどの)特殊な装置を使用することなく、裸眼、メガネ・レンズなどにより矯正された眼の感覚器官によって識別することを意味する。そしてこの識別可能な認識領域が、レンズの表面又は内部の、両方またはそのいずれか一方に形成されているのである。
【0015】
前記認識領域は、いわゆる人の眼でみることのできる可視光線である380~780nmの波長において、光反射率が7%以上であるか、光吸収率が10%以上で明度指数が30以上であるか、この波長域内でいずれかの波長の光を発光することによって、第三者に知覚させることができる。動物は言葉を発することができないので、飼い主がレンズの装用状態を確認できるようにするためである。なお、認識領域の色は動物の目の色と異なるほど確認しやすい。一般に犬や猫等の愛玩動物の目の色は褐色などの暗い色が多いことから、黒色や褐色等の暗い色は好ましくなく、特に光吸収率で10%以上となる場合には白色等の明度の大きい明るい色が好ましい。なお、本明細書で使用する光反射率と光吸収率とは、JISZ8722に準じて測定した380~780nmの波長における分光反射率と分光吸収率の平均値を表す。
【0016】
また、前記認識領域の少なくとも1つが、0.4~50.0mm2の面積を有することが好ましい。一般の飼い主がレンズの装用状態の確認に余計な神経を使うことなく、通常の注意力で判別できる程度の大きさであることが必要だからである。特許文献6に記載の光反射性表面区域の最大面積である0.25mm2では小さ過ぎて判別しがたく、また、50mm2を超える面積では大き過ぎてレンズの変形や酸素透過量の減少等の恐れがある。なお、本発明の認識領域は、複数のドット集合体で構成された領域ではなく、各領域が一つの面で形成されていることが、観察する立場からは好ましい。ドットの集合体の様に、認識領域内に隙間があると領域を見つけ難くなるからである。面積の測定方法としては、投影機や測定顕微鏡等にて拡大して測定すると誤差が少なくなる場合がある。また、拡大した画像等をコンピューター上で計算したり、紙等に印刷して切り取り重さを量る方法もある。なお、前記認識領域の数は、1~12個が好ましく、2~8個がより好ましく、2~6個が最も好ましい。認識領域が瞼に隠れたり、小さ過ぎたりする欠点や、逆に、大き過ぎて犬の不快感を招く欠点を生じないデザインを作成し易いからである。
【0017】
前記認識領域内に無機粒子を含む光反射領域を有していても良く、前記光反射領域の、波長380~780nmにおける光反射率が7%以上であり、かつJISZ8781-4によって算出される明度指数が30以上であることが好ましい。また、前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、0.4~50.0mm2の面積を有することが好ましい。
【0018】
従来技術の光反射性粒子を利用したレンズはあくまでも人のおしゃれ感覚を表現する目的で使用された例であり、瞳に輝き又はきらめき効果を発現できることが重要である。しかし、人が装用する(能動的)レンズと本発明の動物が装用される(受動的)レンズとでは、本質的に求める作用・効果が異なることは前述の通りである。ファッション性ではなく、より視認性を重視している本発明においては、主要な愛玩動物(犬・猫など)の眼の色が黒色系であることから明度指数が30以上であることを構成要件としている。
【0019】
前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、光反射率R(%)と面積S(mm2)との積にて算出される光反射強度I(I=R*S(%・mm2))が0.7以上であることが好ましい。より好ましくは3以上であり、最も好ましくは10以上である。単に反射率だけではなく、前記領域の面積との関係により検出のし易さが変わるからである。また、レンズを装用した状態の前記光反射領域近傍の動物の目の色(背景色)が黒色系である場合には、前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、明度指数Wと面積S(mm2)との積にて算出される明度指数強度J(J=W*S(mm2))が3以上であることが好ましい。より好ましくは10以上であり、最も好ましくは25以上である。単に反射強度だけではなく、背景色との関係により検出のし易さが変わるからである。
【0020】
さらに前記光反射領域が、レンズの中心と同心円であって内径6mmから外周方向に向けて広がり、外径はレンズ外周端から0.2mm程度内側の径までである円環領域内に、複数箇所設けられていることが好ましい。レンズの中心部分は動物の視界を妨げることがないようにするとともに、複数箇所に偏在させることでレンズの発見を容易にし、レンズの一部が瞼で被覆されたとしても、覆われていない箇所に当該光反射領域が形成されていれば、本発明の目的を達することができるからである。
【0021】
また前記光反射領域が占有する面積が、前記円環領域の0.04~20%であることが適当である。前記範囲よりも面積が小さいとレンズを視認することの役に立たなくなり、前記範囲よりも面積が大きい場合には、視認に有利な反面、動物の角膜に対する酸素供給などの点で不利になるからである。元々動物用レンズは、治療・保護を目的としているので、安全性を犠牲にしてまで視認性を優先することはできないからである。
【0022】
前記複数の光反射領域のうちの少なくとも2つが同一の円周上であって、40°~140°の円周角をなすように配置されていることが好ましい。この位置関係によって、前記2つのうち一方の光反射領域が瞼で被覆されたとしても、他方の光反射領域は覆われていない場所に配置されることになるからである。
【0023】
そして前記光反射領域を形成する前記無機粒子が、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ベントナイト、マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化マグネシウム、黄酸化鉄、ベンガラ、グンジョウ、水酸化クロム、酸化クロム、カラミンから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらは特別な粒子ではなく、他の技術分野においても広く利用される汎用性が高いものだからである。この無機粒子の平均粒径が、0.1~10μmの範囲であることがさらに好ましい。なお、青色404号等のように、金属を含む又は金属を含まない有色の有機顔料を添加することにより、均一に又は安定して、印刷できる利点がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明の動物用レンズは、可視光線領域の光を吸収したり、反射したり、或いは特定の波長の光を発光する認識領域により、レンズが装用中であることを人に知覚させている。主要な愛玩動物(犬・猫など)の眼の色が黒色系であることから、視認性を重視した明度指数を基本構成要件とすることが好ましく、獣医師だけでなく、一般の飼い主からもレンズの有無や装用状態の観察が容易になる。
【0025】
また、本発明の動物用レンズには複数の光反射領域が所定の位置関係で配されているので少なくとも一つの光反射領域を視認することができ、レンズが眼の上で回転しても、適切な装用状態か否かを確認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本発明の動物用レンズの光反射領域の配置に関する一例を示す。
【
図2】
図2は、本発明の動物用レンズの光反射領域の配置に関する他の例を示す。
【
図3】
図3は、本発明の動物用レンズの光反射領域の配置に関する他の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、これまで人に使用されることを前提で提供されていたレンズを単に動物に転用するというものではなく、動物専用のレンズとして見た場合に、顧みられていなかった従来技術の課題を明確にした点に特徴がある。
【0028】
本発明の動物用レンズは、人の視覚により識別可能な認識領域を、レンズの表面又は内部の少なくとも一部に有しており、前記認識領域は、染料、顔料及び発光剤の一つ以上を含んで形成される。染料は、可視光の特定波長を吸収または反射して特定の色を人に知覚させることができればよく、分散染料、油溶性染料等が挙げられる。より具体的には、分散染料として、ディスパースブラック9、ディスパースブルー1、ディスパースバイオレット1等が挙げられ、油溶性染料としては、赤色218号、赤色225号、橙色201号、黄色201号、緑色202号、紫色201号等が挙げられる。これらの染料を単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、顔料や発光剤と組み合わせて使用しても良い。
【0029】
顔料としては、例えばカラーインデックスに記載される下記の番号の有機又は無機顔料が使用できる。例えば、Pigment Red 3、Pigment Violet 3、Pigment Orange 13、Pigment Blue 15、Pigment Green 7、Pigment Yellow 1、Pigment Black 7、PigmentWhite 6などが、動物の眼の色に応じて使用できる。これらの顔料も前記染料と同様に1種または2種以上を組み合わせて使用しても良い。また、染料や発光剤と組み合わせて使用しても良い。
【0030】
発光剤としては、各種の蛍光剤や蓄光剤が使用でき、例えばデイグロカラー社から販売されているオーロラピンク、ネオンレッド、ブレーズオレンジ、シクナルグリーンなどの蛍光剤が挙げられる。また、蓄光剤としては公知のCaAl2O4:Eu,Nd(紫色発光、発光ピーク波長440nm)、Sr4Al14O25:Eu,Dy(青緑色発光、発光ピーク波長495nm)、SrAl2O4:Eu,Dy(緑色発光、発光ピーク波長540nm)などが挙げられ、これらも前記染料、顔料と同様に1種以上を組み合わせて使用可能である。また、染料や顔料と組み合わせて使用しても良い。
【0031】
前記染料、顔料、発光剤の一つ以上を含む認識領域は、(A)380~780nmの波長における光反射率が7%以上、好ましくは10%以上で80%以下、(B)前記範囲内の波長の光吸収率が10%以上、好ましくは20%以上で80%以下であり、かつ、明度指数が30以上、好ましくは40以上で90以下、(C)前記範囲内のいずれかの波長の光を発光し、好ましくは最大発光光度が0.01μcd以上であり、より好ましくは1μcd~10000μcd以下であること、の(A)~(C)のうち少なくとも一つの物性を有する。当該認識領域により動物用レンズの装着状態を獣医または飼い主が確認することができる。認識領域の色材の量が必要以上に多いと、レンズの酸素透過性に悪影響を与えたり、装用している動物の視界を過度に妨げて違和感を増加させたり、観察者にギラツキ等による見難さを与える等の負の要因となるため望ましくない。
【0032】
本明細書では、前記(A)の物性を有する領域を「光反射領域」、(B)の物性を有する領域を「光吸収領域」、(C)の物性を有する領域を「発光領域」という。これらの領域は必ずしも単一の物性のみを示すものではなく、例えば光反射領域であって光吸収領域ともなり、或いは光吸収領域であって発光領域ともなり得る。
【0033】
「光反射領域」とは、いわゆる可視域の光を透過せず全反射するものだけでなく、波長380~780nmにおける光反射率が7%以上、好ましくは10%以上で80%以下であり、光反射領域外では通常のレンズ同様に光を透過させる無色透明或いは特定波長の光を反射あるいは吸収して有色透明な領域となっている。
【0034】
この光反射領域は、無機粒子をレンズ素材の表面又は内部の少なくともいずれかに含んで構成されている。無機粒子によって動物の眼の色の一部が被覆され、レンズの存在を確認しやすくしているのである。従来技術においては、無機粒子を使用して人の虹彩模様を形成し瞳の色や質感を変化させること、或いはきらめき効果を発現させているが、できるだけ自然に表現されていることが大切で、レンズの装用を第三者に気付かせないことの方が重要である。対照的に、本発明では治療等を目的として使用しているので、動物の眼にレンズが装用されていることを一般人(飼い主)にも容易に認識させることが必要である。したがって光反射領域は、人に使用されるレンズのように複雑な虹彩模様を呈しているよりも、単一色・平面的に形成されていることが好ましい。
【0035】
ここで簡単に本発明の動物用レンズの製造方法について説明する。無機粒子はレンズを構成するモノマー成分に溶解しないので、基本的には型やレンズに印刷することにより光反射領域が形成される。印刷用には無機粒子を分散させたモノマー等(以下、「分散液」という)を使用する。なお、本発明における「分散液」の「分散」とは、分散相(無機粒子)が分散媒(モノマー等の液体)に浮遊・懸濁した(従って、無機粒子が絶えず離合集散し得る)状態のことをいい、特許文献5に記載されている「分散」とは意味が異なる。特許文献5では、レンズ表面及び内部において光反射粒子が相互に間隔を隔てて離間(同文献
図6参照)している様を「分散」といい、この関係はレンズのポリマー構造中で固定されているため、光反射粒子の離合集散は生じない。ところで本発明の分散液にはレンズ素材を形成する後述のモノマーと同一もしくはそれと重合しやすいモノマーを選択する。この分散液をモールド重合の過程で使用する型に塗布するか、本来のレンズよりも厚みの薄い状態で一旦重合体(以下「半製品」と言う)を得て、この半製品に塗布したのち塗布部分を被覆するようにレンズ形成用モノマー成分を充填し、重合を完結させてレンズ成形品とする。
【0036】
型に塗布する方法によれば、無機粒子はレンズの表面に固定され、半製品を経由する方法によれば、レンズの内部に固定されることになる。なお、前者の分散液を型に塗布する方法の場合には、無機粒子がレンズ表面に直接表出しないように、予め型表面にレンズ素材を構成するモノマー成分を塗布して置いても良い。これにより装用中の無機粒子の剥落を防止するとともに、装用感を向上させることができる。
【0037】
前記分散液中に占める無機粒子の濃度は、使用する無機粒子やモノマー等によって適宜設定されるが5~80重量%、好ましくは10~60重量%である。前記濃度より薄いと光反射の機能を十分に果たすためには光反射領域の厚みを厚くする必要があり、レンズの製造工程や物性にも悪影響を及ぼし得る。また前記濃度よりも濃い場合には、相対的に分散液中のモノマー等の比率が低くなってレンズ表面への固定が困難になったり、分散液の粘度が高くなって印刷時の取扱いが難しくなる傾向がある。
【0038】
前記製造方法以外にも、レンズを成形もしくは切削加工して得た後で、分散液を塗布して固定するという方法もある。その場合には、レンズ表面に光反射領域の凹凸が形成されることになるので、動物にとって装用感の悪いものとなる可能性もある。ただし、犬や猫は第3の眼瞼と言われる瞬膜があるため人に比較して瞬きの回数が少ないので、このような製造方法で得たレンズでも、人よりも装用感の低下を感じないと思われる。また該凹凸を利用して動物の角膜上での装用状態を固定する(角膜上でのレンズの回転を制御する)ことにより、治療効果を向上させうる。
【0039】
いずれにしても、無機粒子は従来技術(特許文献5,6)に開示されているようにレンズの全体に粒として個別には認識されない程度に細かく無数に分散しているよりも、後述するように複数個所に裸眼で個別に認識できる程度の大きさに散在させてある方が、レンズの有無を確認し易くなるので、前記塗布工程において、任意の箇所に選択的に塗布することが望ましい。また、工程上は型に塗布する方が簡単であるが、無機粒子を確実にレンズ素材によって閉じ込めることができるので、無機粒子がサンドイッチされているように前記対策を施す方が好ましい。
【0040】
前記光反射領域は目立つ事が大切であり、動物に多い白目が少なく黒色系の眼の色に対しては高い明度指数を呈している方が好ましい。従って、本発明では、JISZ8781-4によって算出される明度指数が30以上、好ましくは40以上で90以下である。この測定方法としては、JIS Z 8722に規定されている分光測色方法によって求められる。明度指数が、前記数値より少ないとレンズを装用している動物の眼を見ても、レンズの存在や装用状態を確認し難くなるからである。また、明度指数が高すぎるとレンズの酸素透過性を低下させたりギラツいて見難い等の悪影響が生じることがあり、必要以上に高くすることはないのである。
【0041】
前記光反射領域はその少なくとも一つにおいて、0.4~50.0mm2、好ましくは0.5~20.0mm2、より好ましくは0.8~10.0mm2、最も好ましくは1.0~5.0mm2の面積を有している。面積が前記範囲よりも小さいものばかりでは、本発明のレンズの存在/装用状態の確認用としての機能が十分ではない。よほど注視すれば分かるというレベルであれば、従来のレンズと変わりがないからである。また前記範囲よりも大きくすると確認用として十分であるが、動物の視野を妨げたり、第三者が見たときに奇異に感じられるので好ましくない。
【0042】
前記光反射領域の形状は、点、線や面で形成されて、円形、楕円形、菱形、矩形、星型、ハート型など特に規定されるものではなく、どのような形状であっても良い。レンズの有無や装用状態を確認できれば良いからである。
【0043】
本発明の光反射領域を、該領域の面積をS(mm2)としたときの光反射率R(%)という観点で特定すると、RとSとの積にて算出される光反射強度I(I=R*S(%・mm2))が0.7以上であり、好ましくは3以上で400以下である。光を反射する領域の面積が大きくなれば反射率が多少低くても視認でき、逆に面積が小さくても反射率が高ければ、全体としてレンズを確認することができるからである。なお、前記光反射強度は本明細書にて特に定義したものでありJIS等に規定はない。また、レンズを装用した状態の前記光反射領域近傍の動物の目の色(背景色)が黒色系である場合には、前記光反射領域の少なくとも1つにおいて、明度指数Wと面積S(mm2)との積にて算出される明度指数強度J(J=W*S(mm2))が3以上であり、好ましくは10以上で600以下である。単に反射強度だけではなく、背景色との関係により検出のし易さが変わるからである。明度指数強度も本明細書にて特に定義したものでありJIS等に規定はない。
【0044】
光反射強度は面積と光反射率との相乗効果を示すものであり、必ずしも大きければ良いというものではない。レンズの面積の内、動物の為に視界を確保し、レンズの確認ができるという目的を達成することを考えて、0.7以上、好ましくは3~400の範囲内に設定することが好ましい。また、同様に、明度指数強度は3以上、好ましくは10~600の範囲内に設定することが好ましい。
【0045】
前記のように光反射領域は動物の視界を妨げて形成してはいけない。動物にとってレンズを装用するということは、ただでさえ抵抗がある。いくらエリザベスカラーで動物がレンズを勝手に外すことができないようにしても、動物にストレスを与えては却って治療の妨げともなる。そこで、前記光反射領域は、レンズの中心と同心円であって、内径は6mm、好ましくは8mm、より好ましくは10mmで、外径はレンズの外径よりも0.2mm、好ましくは0.3mmより内側の径を有する円環領域内に複数箇所設けられていることが望ましい。
【0046】
光反射領域は、円環形状に一つだけ形成されても良いが、複数個所に離れて設けられていることにより、円環一つの場合と同様にレンズの大きさを把握し、装用状態(眼の上におけるレンズの配置など)の確認が容易になる。なお、円環形状に設けた場合には、例えば反射板のような働きをするタペタムを有する猫の目のように光を反射する性質がある場合に差別化が困難に成り易い。これが人用のレンズと動物用のレンズを考える際の大きな相違点である。人用に作成する場合には虹彩模様を変化させることが重要なので複数個所に分断して形成したのでは、違和感があるレンズになってしまう。一方、動物用では上記目的のために視認しやすいことが第一である。従って、猫の目の虹彩部分の反射と識別できるようにするためにも、本発明では円環領域内に散在して複数個所設けることが好ましいのである。
【0047】
より具体的に示すと、
図1に示すような配置に光反射領域が各個別に認識できる大きさに散在していることである。レンズの光反射領域以外の部分は透明(有色も含む)であり、円環領域内に4個の光反射領域1がレンズ2の中心から同一距離で等間隔に設けられている。これにより、背景である動物の眼からの反射があっても、それとは異質の反射を示すために、レンズの観察に支障がないのである。
【0048】
図2には、8個のハート型の光反射領域5が円環領域内に並べられた例である。動物用レンズ6を装用させた状態で仮に上方あるいは下方安定により一部の光反射領域が瞼によって被覆されても、この図に示すように多数配置されていればどれかの領域を確認することができる。また動物の眼から反射する光が他に存在していてもハート型という人工的な形状のものは無いために十分に区別することができる。
【0049】
図3には、動物用レンズ11の中心に十字の光反射領域10を形成した例が示されている。図に示すように人用のレンズであれば視野に入るために従来ではありえない位置・形状であっても、動物用レンズはあくまで治療目的にするものであって、視力矯正を目的にするものではないことにより、この配置にすることが可能なのである。
【0050】
前記光反射領域が占有する面積は、前記円環領域の0.04~20%、好ましくは0.10~10%、より好ましくは0.2~5%、最も好ましくは0.5~3%であることが適当である。前記範囲よりも面積比率が小さくなるとレンズを視認することの役に立たなくなり、前記範囲よりも面積比率が大きい場合には、視認に有利な反面、動物の角膜に対する酸素供給などの点で不利になるからである。また動物用レンズは、刺激を緩和し薬剤を徐放するために含水性のソフトレンズが主流である。それに対して光反射領域は無機粒子を含むので硬くなり易く、また薬剤を含ませることも困難である。従って、その占有面積は必要最小限とすることが適切である。
【0051】
本発明の動物用レンズの素材としては前記の通り、薬剤を徐放する効果の高い含水性ソフトレンズが好ましく、該レンズを形成するための公知のモノマーとしては、例えば、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート、ジメチル(メタ)アクリルアミド、グリセロール(メタ)アクリレート、ビニルピロリドン、(メタ)アクリル酸等が、適当である。前記モノマー類と組み合わせて酸素透過性を向上させるために、シリコーン系モノマー等を使用しても良い。また、含水率を調整しレンズの強度を高めるためアルキル(メタ)アクリレートやスチレン等の疎水性モノマーやそれらのマクロモノマー等が必要量添加されてもよい。さらに、レンズの形状を安定化させるため、エチレングリコールジメタクリレート等の架橋剤を加えてもよい。
【0052】
なお角膜を保護するという視点からみれば必ずしも含水性である必要はなくガラス転移点の低い高分子重合体を与えるモノマー、例えばn-ブチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ〉アクリレート等を使用した非含水性ソフトレンズとしても良い。また、角膜の変形を治療する目的であれば硬質レンズであっても良く、シリコーン含有アルキル(メタ)アクリレート等のモノマーやシリコーン含有マクロマーなどを使用した酸素透過性ハードレンズを使用することもできる。
【0053】
さて、
図1の例では、前記複数の光反射領域が同一の円周上にあって、互いに90°の円周角をなすよう(すなわち円を四等分する円周上の点)に配置されている。このように、複数の光反射領域のうちの少なくとも2つが同一の円周上にあって、40°~140°、好ましくは60°~120°の円周角をなすように配置されていることが好ましい。この位置関係によって、前記2つのうち一方の光反射領域が瞼で被覆されたとしても、他方の光反射領域は視認できる位置にあるので、獣医師や飼い主が常にレンズの状態を確認できる。もちろん、一つ又は前記範囲外の配置で複数の光反射領域が形成されているだけでは、レンズが観察できないという訳ではない。様々な装用状態を考慮に入れた場合に、確実に視認できることを考慮すれば、前記の条件を具備するほうが好ましいということである。
【0054】
前記光反射領域を形成する無機粒子としては、具体的には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、無水ケイ酸、ケイ酸マグネシウム、ベントナイト、マイカ、オキシ塩化ビスマス、酸化マグネシウム、黄酸化鉄、ベンガラ、グンジョウ、水酸化クロム、酸化クロム、カラミンなどが挙げられ、これらから少なくとも一種を選択して使用する。中でも、酸化チタン、酸化亜鉛が好ましい。これらは白色度が高く、他の技術分野においても広く利用される汎用性が高く、使用実績、安全性などの観点から適切だからである。なお、無機粒子の他に、有機粒子や無機と有機との混合粒子を用いてもよい。
【0055】
前記無機粒子の平均粒径は、0.1~10μm、好ましくは0.3~5μmの範囲である。前記範囲よりも小さい粒径の場合には、光反射率が低くなる傾向があり、光反射領域の厚みを厚くすれば良いものの、今度はレンズとしての適度な厚みの範囲に抑えることが難しくなりやすい。また、前記範囲よりも大きい粒径の場合には、塗布前における分散液中での分散状態の維持が困難となり、また反射が強くなってギラついた印象になるので好ましくない。さらに塗布部分から無機粒子がレンズ表面に突出するおそれもあるので、前記適度な粒径のものを使用することが好ましい。
【0056】
以上の説明は、光反射領域に関する詳述であるが、光吸収領域や発光領域についても、面積、配置、形状などは共通するので、相違する点を簡単に述べる。本発明の光吸収領域は前記380~780nmの波長における光吸収率が10%以上であること、および、明度指数が30以上であることが要件である。光吸収率が高いということは黒色に近くなるが、一方で明度指数が30以上であることから比較的明るい色彩であることを意味する。動物の眼の色は一般に黒色系が多いことを考慮したものである。明度指数は、CIE1976L*a*b*の色空間における値(L*)であり、L*の座標の範囲は0~100である。明度指数が小さい値ほど暗い色になり、大きい値ほど明るい色になる。
【0057】
発光領域は前記蛍光剤や蓄光剤を使用して、人の視覚によって認識可能な波長の光を発するようにした領域であり、使用する発光剤によっては多少暗い環境下でも識別できる場合がある点で有利である。
【0058】
本発明の認識領域を有する動物用レンズについて、より具体的に説明するために以下に実施例を示す。
【0059】
(実施例1)
凸面を有するナイロン製の雄型を用意し、凸面中心から4mm外方向へ移動した位置に中心を有する半径1.5mmの円形の範囲に、
図1のように4箇所に、光反射領域を被覆するための組成物(増粘剤:20重量部、N-ビニルピロリドン(N-VP):6重量部、N,N-ジメチルアクリルアミド(DMA):9重量部、溶剤:65重量部を含む)を塗布し、60秒間放置して乾燥した。
【0060】
次いで、前記被覆組成物の塗布範囲の中心より半径1mmの範囲に4箇所に、分散液(増粘剤:20重量部、N-VP:4重量部、DMA:8重量部、溶剤:48重量部、無機粒子(二酸化チタン):20重量部を含む)を塗布し、さらに60秒間放置して乾燥した。
【0061】
次に、レンズ形成用モノマー組成物(メチルメタアクリレート(MMA):23重量部、N-VP:18重量部、DMA:34重量部、重合性基を有するポリマー:25重量部、エチレングリコールジメタクリレート(EDMA):0.2重量部、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN):0.05重量部を含む)を40mg注入された凹面を有するナイロン製の雌型に前記雄型を嵌合し、90℃で30分間放置して重合させた。冷後、重合体を雄型に吸着させた状態で、両型を分離した。
【0062】
雄型を旋盤に固定し、重合体の露出面を、水和後に所望の直径、度数と厚みのレンズ形状になるように切削した。雄型を旋盤から外し、雄型を撓めてレンズ形状の硬化物と雄型とを分離した。
【0063】
レンズ形状の硬化物を出荷用容器に入れ、精製水を加えて膨潤させ、溶出してくる未反応モノマー等を除去するために、精製水を捨て新たな精製水を注入する操作を10分ごとに5回繰り返した。容器内の精製水を捨て、精製水と0.9%の塩化ナトリウムと0.03%のEDTA3Naとを含む保存液3mlをこの出荷用容器に注入し、剥離可能な多層フィルムで密封したのち121℃で20分間高圧蒸気滅菌し、冷却してレンズ製品を3個製造した。
【0064】
多層フィルムを剥離し、レンズを検査した。レンズは外径17.8mm、ベースカーブ9.7mm、-0D、中心厚み0.3mm、中心から4.5~7.5mmの範囲に円形の光反射領域を
図1のように4箇所に有する良品レンズであった。黒色背景にて、光反射領域は肉眼で容易に確認でき、JISZ8781-4によって算出される明度指数が71であった。この明度指数の算出方法としては、JIS Z 8722に規定されている分光測色方法にしたがって、測定装置(島津製作所製分光光度計UV-2450と積分球ISR-2200)により測定した反射率を用いた。この際の380~780nmの平均の反射率は39%であった。なお、測定試料は実施例1の光反射領域と同程度の濃さに全面を施したレンズを使用した。
【0065】
また、前記光反射領域は、レンズの中心と同心円であって内径6mm、外径17mmの円環領域の面積の1箇所当たり約2.5%(面積としては7.7mm2)、4箇所合計で約10%を占めている。さらに、1箇所当たりの光反射強度Iは約300であり、明度指数強度は約500であった。このレンズを動物に使用できるようにするため洗浄し、出荷用容器に前記保存液3mlと共に入れ、剥離可能な多層フィルムで密封したのち121℃で20分間高圧蒸気滅菌し、冷却した。
【0066】
このレンズを褐色の目の大型犬のラブラドール・レトリバーと小型犬のシーズーに装用し、蛍光灯による通常の室内の明るさにて、肉眼でレンズを確認した。本発明例(実施例1)のレンズは容易に確認できた。
【0067】
[比較例1]マークのないレンズ
実施例1と同様にレンズを製造し測定した。但し、光反射領域を被覆するための組成物や分散液の塗布は行わず、マークのない無色透明のレンズを製造した。測定したところ、明度指数は22であり、光反射率は3.5%であった。このマークのない無色透明のレンズを褐色の目の大型犬のラブラドール・レトリバーと小型犬のシーズーに装用し、実施例1と同様にレンズを確認した。当該比較例1のレンズは背景の虹彩色との判別が困難なためか、容易には確認できなかった。
【0068】
[比較例2]黒色マークのレンズ
実施例1と同様にレンズを製造した。但し、染料を調合して黒色にした分散液を塗布し、測定したところ、明度指数は25であり、光反射率は4.8%であった。この黒いマークは白色の背景ではマークが容易に観察されたが、黒色の背景ではマークが観察され難かった。また、この黒いマークの付いたレンズを褐色の目の大型犬のラブラドール・レトリバーと小型犬のシーズーに装用し、実施例1と同様にレンズを確認した。当該比較例2のレンズは背景の褐色の虹彩色との判別が困難なためか、容易には確認できなかった。
【0069】
[比較例3]特許文献6に準じたレンズ
実施例1と同様にレンズを製造した。但し、分散液の塗布に際しては実施例1と同様に4箇所としたが、完成レンズの認識領域の1箇所の面積が0.25mm2になる半径0.17mmの円内に塗布した。文献からは、光反射性粒子の濃度が不明であるが、本発明の分散液濃度で塗布した場合には塗布部分の表面がすべて無機粒子に占有されているため、「本発明における塗布面積」と、「文献記載の光反射性粒子が占める区域」とは略等しいと判断した。また、二酸化チタンを使用している点において一致し、該粒子の視覚的なきらめき効果を最大にするための範囲の記載(約0.01~約0.25mm2の光反射性表面区域を有する)を参考に塗布面積を設定したものである。
【0070】
褐色の目の大型犬のラブラドール・レトリバーと小型犬のシーズーに、前記比較例3で製造したレンズを右目、実施例1で製造したレンズを左目に、それぞれ装用して比較したところ、レンズ装用中であることの確認は、本発明のレンズの方がはるかに容易であった。なお、比較例3において塗布箇所を8箇所まで増やしてみたが、レンズ有無の識別の容易性に関しては、本発明例の方が優れていた。
【0071】
(実施例2)
実施例1と同様にレンズを製造した。但し、半径1mmの円形の範囲に、光反射領域を被覆するための実施例1の組成物を塗布し、半径0.4mmの範囲に、分散液(増粘剤:20重量部、N-VP:4重量部、DMA:8重量部、溶剤:48重量部、酸化亜鉛:16重量部、青色404号:4重量部を含む)を塗布し、60秒間放置して乾燥した。さらに、分散液の塗布をもう一度行い、60秒間放置して乾燥した。
【0072】
次に、実施例1と同じレンズ形成用モノマー組成物を40mg注入された雌型に前記雄型を嵌合し、90℃で30分間放置して重合して硬化した。冷後、重合体を雄型に吸着させて状態で両型を分離し、雄型を撓めてレンズ形状の硬化物と雄型とを分離した。
【0073】
実施例1と同様にして、レンズ形状の硬化物を膨潤させ、未反応モノマー等の溶出処理、高圧蒸気滅菌処理を経て、レンズ製品を3個製造した。レンズを検査により、外径17.8mm、ベースカーブ9.7mm、-0D、中心厚み0.3mm、中心から5.4~6.6mmの範囲に円形状の光反射領域を4箇所に有する良品レンズが得られた。黒色背景にて、
図1の形状の4箇所の青色の光反射領域は肉眼で容易に確認できた。また実施例1と同様にして分光測色方法により測定した結果、JISZ8781-4によって算出される明度指数が45で、光反射率が17%であった。
【0074】
また、前記4箇所の光反射領域の合計面積は、レンズの中心と同心円であって内径6mm、外径17mmの円環領域の面積の約1.6%を占めている。さらに、1箇所当たり、光反射強度Iは、約18であり、明度指数強度は約50であった。
【0075】
このレンズを褐色の目の大型犬のラブラドール・レトリバーと小型犬のシーズーに装用し、実施例1と同様に肉眼でレンズを観察した。本発明例(実施例2)のレンズは容易に確認できた。
【0076】
(実施例3)
実施例1と同様にして、同様のレンズを製造した。但し、分散液の組成は増粘剤:20重量部、N-VP:8重量部、DMA:16重量部、溶剤:55重量部、染料(赤色218号):1重量部であった。このレンズを青色の目の大型犬のハスキーに装用し、実施例1と同様に肉眼でレンズを観察した。青色の目の背景に対するレンズの赤色の標識は容易に確認できた。比較として、このレンズを褐色のラブラドール・レトリバーに装用し、肉眼でレンズを観察した。褐色の目の背景に対するレンズの赤色の標識は容易には確認できなかった。
【0077】
(実施例4)
実施例1と同様にして、同様のレンズを製造した。但し、分散液の組成は増粘剤:20重量部、N-VP:8重量部、DMA:16重量部、溶剤:51重量部、発光着色剤(ブレーズオレンジ):5重量部であった。このレンズを青色の目のハスキーに装用し、肉眼でレンズを観察した。青色の目の背景に対するレンズの橙色の標識は容易に確認できた。また、灯っていた蛍光灯を消して暗くすると、レンズの標識は発光して容易に確認できた。比較として、このレンズを褐色のラブラドール・レトリバーに装用し、肉眼でレンズを観察した。褐色の目の背景に対するレンズの橙色の標識は容易には確認できなかったが、灯っていた蛍光灯を消して暗くすると、レンズの標識は発光して容易に確認できた。
【0078】
以上説明したように本発明の動物用レンズは、実際の装用状態を容易に識別できるレンズである。また、これまでのレンズ製造工程に光反射領域の形成工程を追加するだけで良く、この工程は人用レンズの虹彩模様を付加する工程と同様であるため、直ぐにでも採用可能な技術となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の動物用レンズは、人用とは異なる視点によって開発されたものである。近年の少子化に伴って、ペット用動物はコンパニオンアニマルとも呼ばれる程、人にとって大切な存在となっている。ペットフードの国内市場規模はこの5年間2600億円を維持しており、震災などの影響で消費の抑制傾向があったにもかかわらず、ペットのための出費は惜しまないということが分かる。
【0080】
このような事情を背景として、今後ますますペット用動物に対するケアも重要視されるようになる。本発明の動物用レンズは獣医師や飼い主にとって、レンズを使用して眼を治療・保護しようとする際に、その状態観察が容易に行えるという優れた特徴を有するレンズを提供することができるのである。
【符号の説明】
【0081】
1、5、10 光反射領域
2、6、11 動物用レンズ