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特許7032619バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法
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  • 特許-バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20220302BHJP
   A23L 2/38 20210101ALI20220302BHJP
   A23L 11/50 20210101ALI20220302BHJP
   A23L 27/50 20160101ALI20220302BHJP
   C12G 3/022 20190101ALI20220302BHJP
【FI】
C12N1/20 A
A23L2/38 102
A23L11/50 107
A23L27/50 103
C12G3/022 119F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017217905
(22)【出願日】2017-11-13
(65)【公開番号】P2018082695
(43)【公開日】2018-05-31
【審査請求日】2020-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2016221189
(32)【優先日】2016-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE P-02543
(73)【特許権者】
【識別番号】516341833
【氏名又は名称】信州中野商工会議所
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100128794
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 庸悟
(72)【発明者】
【氏名】河原 岳志
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123049(JP,A)
【文献】特開2014-207891(JP,A)
【文献】特開2009-131229(JP,A)
【文献】特開2008-295352(JP,A)
【文献】国際公開第2005/045053(WO,A1)
【文献】特開2004-313171(JP,A)
【文献】特開2008-283864(JP,A)
【文献】特開2006-311847(JP,A)
【文献】特開2006-288261(JP,A)
【文献】国際公開第2006/109821(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペディオコッカス・ペントサセウスに属する乳酸菌株であって、米麹を原料として用いる食品を製造する場合において、前記米麹を得るために精米を原料として製麹を行う際に麹菌と共に添加されて前記麹菌と共に増殖させて使用できるもので、バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性をもつ受託番号:NITE P-02543号として寄託されている乳酸菌PP165株であることを特徴とする乳酸菌。
【請求項2】
請求項1記載の乳酸菌である乳酸菌PP165株を、精米を原料として製麹を行う際に麹菌と共に添加することで、前記麹菌と共に増殖させて米麹を得ることを特徴とする抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法。
【請求項3】
請求項2記載の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて発酵調味料を製造することを特徴とする抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法。
【請求項4】
請求項2記載の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて味噌を製造することを特徴とする抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法。
【請求項5】
請求項2記載の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて酒や甘酒を製造することを特徴とする抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス属細菌の増殖を抑制できるなど、優れた抗菌活性をもつ乳酸菌、及び、その乳酸菌の添加によるバチルス属細菌の混入と増殖を抑えた食品の製造方法に関する。
【0002】
味噌や醤油などの発酵調味料の製造現場では、しばしば、バチルス(Bacillus)属細菌の混入による風味や見た目の変調(変敗)の影響により製品の歩留まりが大きく低下する問題を抱えている。
【0003】
従来、バチルス属細菌の汚染や増殖による害を防ぎ、品質良好な発酵調味料を得るための発酵調味料の製造法としては、例えば、発酵調味料とするための原料を蒸煮し、製麹した後、麹を食塩水と仕込み、発酵させ、発酵調味料を得るに際し、前記蒸煮した原料を乳酸発酵して乳酸発酵物とし、この乳酸発酵物を製麹して麹とし、この麹を仕込む(特許文献1参照)ものが提案されている。
【0004】
また、上記の先行技術を発展させたものとして、大豆抽出液に浸漬した米を蒸煮して製造した蒸し米に、ラクトコッカス ラクティスを接種し、乳酸発酵させた後、製麹することで得た米麹と、蒸煮した大豆に、ペディオコッカス アシディラクティシを接種することで乳酸発酵した大豆を利用した、米味噌の製造方法(特許文献2参照)が提案されている。
【0005】
さらに、乳酸菌の抗菌作用を食品の製造工程に活かすものとしては、2009年に日本でも食品添加物として認可されたナイシンが挙げられる。これは広い抗菌作用と安全性、風味に影響を及ぼさない点に特徴をもつ成分だが、麹菌が生産するプロテアーゼ(たんぱく質分解酵素)によって分解されることと、コストが割高である点が課題として残っている。
【0006】
そして、特許文献2に発明の構成要件として記載されている乳酸菌について、ラクトコッカス ラクティスは、バクテリオシンの一種のナイシンを生産する乳酸菌であり、ペディオコッカス アシディラクティシもバクテリオシン生産菌である。以上の先行技術は、基本的にバクテリオシンの抗菌性を利用するものである。また、この抗菌性を利用する方法では、バチルス属細菌の汚染や増殖を防ぐと共に、味噌の風味も問題ないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第3027352号公報(請求項1)
【文献】特許第4729679号公報(請求項2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法に関して解決しようとする問題点は、従来のナイシンの抗菌性を利用する方法では、そのナイシンが、例えば麹菌が増殖する環境ではその麹菌が生産するプロテアーゼによって分解されるなど、その抗菌作用を効率的に発揮できない点と、食品の風味やうま味を積極的に向上させるものではない点にある。
【0009】
そこで本発明の目的は、バチルス属細菌の増殖を抑制できるなど、優れた抗菌活性をもつ乳酸菌、食品の風味やうま味を向上できる乳酸菌、及び、それを用いた食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために次の構成を備える。
本発明にかかる乳酸菌の一形態によれば、ペディオコッカス・ペントサセウスに属する乳酸菌株であって、米麹を原料として用いる食品を製造する場合において、前記米麹を得るために精米を原料として製麹を行う際に麹菌と共に添加されて前記麹菌と共に増殖させて使用できるもので、バチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性をもつ受託番号:NITE P-02543号として寄託されている乳酸菌PP165株であることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法の一形態によれば、前記の乳酸菌である乳酸菌PP165株を、精米を原料として製麹を行う際に麹菌と共に添加することで、前記麹菌と共に増殖させて米麹を得ることを特徴とすることができる。
【0012】
本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法の一形態によれば、前記の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて発酵調味料を製造することを特徴とすることができる。
【0013】
本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法の一形態によれば、前記の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて味噌を製造することを特徴とすることができる。
【0014】
本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法の一形態によれば、前記の抗菌性乳酸菌を用いた食品の製造方法によって得られた米麹を、原料として用いて酒や甘酒を製造することを特徴とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明にかかるバチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法によれば、高品質商品の製造に抗菌作用を効率的に発揮できることや、食品の風味やうま味を向上できるという特別有利な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品のうちの味噌の製造方法の工程例を示す工程図である。
図2】本発明にかかる抗菌性乳酸菌を用いた食品のうちの醤油豆の製造方法の工程例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明にかかるバチルス属細菌の増殖を抑制する抗菌性乳酸菌株、及び、それを用いた食品の製造方法の形態例を、添付図面(図1、2)に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明では、味噌及び醤油もろみ素材中に存在する乳酸菌の抗菌作用に着目し、その味噌及び醤油もろみ素材から、変敗の主要原因菌として知られるバチルス・サブティリス(Bacillus Subtilis)やバチルス・メチロトロフィカス(Bacillus methylotrophicus)を含むバチルス属細菌に対して抗菌活性をもつ複数の乳酸菌株の取得に成功した。16srDNA領域の遺伝子配列解析による菌種判定の結果、これらの抗菌性菌株は、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)の菌株であることが明らかになった。
そして、そのペディオコッカス・ペントサセウスの複数の乳酸菌株のうち、受託番号:NITE P-02543号として寄託されている乳酸菌PP165株が、バチルス属細菌に対して最も強い抗菌活性を有することを確認した。
【0020】
このペディオコッカス・ペントサセウスを、食品の製造方法に用いる抗菌性乳酸菌として利用すれば、良質の食品を提供できる。すなわち、食品原料に、抗菌性乳酸菌としてのペディオコッカス・ペントサセウスを添加し、バチルス属細菌の生育を抑制することで、発酵調味料などの食品を高品質に製造することができる。
また、この抗菌活性をもつペディオコッカス・ペントサセウスは、バイオプリザバティブとして利用することが可能であり、食品の保存性を向上させる添加剤としても利用できる。
【0021】
実証試験によれば、抗菌性乳酸菌としてのペディオコッカス・ペントサセウスが、極めて優れた抗菌作用を有していることが確認された。なお、以下に示したペディオコッカス・ペントサセウスの実証試験結果は、乳酸菌PP165株のものである。例えば、このペディオコッカス・ペントサセウスを、製品(味噌、醤油豆)の製麹工程で、原料1gあたり1×10CFU/mL以上添加し、同時にバチルス・スブティリスとバチルス・メチロトロフィカス(各1×10CFU/mL)を添加する条件において、そのバチルス属2種は検出限界(1×10CFU/mL)以下まで抑制されることが、実証試験によって確認された。なお、ペディオコッカス・ペントサセウスは、製麹工程で、生菌数が1×10CFU/mL以上まで増殖し、食塩を添加した後の熟成期間において、塩分濃度が12%の場合には、生菌数が1ヵ月後には1×10CFU/mL程度となって2ヵ月後には1×10CFU/mL程度まで減少したが、その抗菌作用は維持された。
【0022】
また、醤油豆については、ペディオコッカス・ペントサセウスと上記バチルス属2種(各1×10CFU/mL)を製麹工程で添加し、引き続く発酵熟成工程で、塩分濃度が5%の減塩条件下で実証試験を行ったが、ペディオコッカス・ペントサセウスが製麹工程で添加された試験区では、バチルス属2種を検出限界(1×10CFU/mL)以下まで抑制できたのに対し、ペディオコッカス・ペントサセウスが添加されなかった試験区では、バチルス属2種が増殖した。これによって、ペディオコッカス・ペントサセウスはバチルス属2種に対する抗菌効果が優れていることが確認された。なお、この塩分濃度が5%の場合には、ペディオコッカス・ペントサセウスの生菌数が出麹時には1×10CFU/mL程度となって熟成期間の1ヵ月後にも1×10CFU/mL以上程度である状態を維持していた。
【0023】
そして、本発明にかかる抗菌性乳酸菌(ペディオコッカス・ペントサセウス)は、タンパク質分解酵素に耐性を示し、高温でも抗菌活性が失活しない乳酸菌であり、生菌の状態で素材中に添加することで速やかに増殖し、バチルス属細菌に特に優れた抗菌作用を発揮する。増殖可能な塩分濃度は、5%程度以下であるが、製麹工程で添加することにより味噌や醤油などの発酵調味料の製造においても、その効果を充分に発揮させることができる。
【0024】
ところで、抗菌作用を持つ乳酸菌を素材中に添加する食品の製造方法については、技術分野の欄で説明したように、従来の基準としても、素材中で良好に抗菌作用が発揮されることの他に、製品風味に悪影響を及ぼさない点が重要となっているが、風味やうま味を積極的に向上させる効果を期待するものではなかった。
【0025】
これに対して、本発明にかかるペディオコッカス・ペントサセウスを利用した製品では、バチルス属細菌の増殖を検出限界以下まで抑制する効果に加え、塩慣れ効果(塩味を和らげる効果)など、従来の製造法と比較して製品風味の改善効果がみられている。
【0026】
有機酸の分析結果では、ペディオコッカス・ペントサセウスの作用後に、製品中にコハク酸、乳酸、酢酸などの旨味成分の増加が認められるため、これらの有機酸の複合的な作用により抗菌作用と風味改善作用が発揮されていることが考えられる。このような旨味成分の生産は、この菌株独自の特性によるもので、従来の乳酸菌株に対する優位性に相当すると考えられる。
【0027】
味噌と醤油豆を製造する乳酸菌実証試験では、クエン酸とリンゴ酸の含有量は同等であったが、コハク酸、乳酸及び酸については、対照区に比べ、乳酸菌添加区で明らかに増加傾向がみられた。このように、有機酸が増加することで、バチルス菌に対する抗菌作用が強化されると共に、風味と旨味が向上していると考えられる。
【0028】
また、乳酸菌の特性解析によれば、ペディオコッカス・ペントサセウスの示す抗菌作用については、高温でも抗菌活性が失活しない乳酸菌であることが確認されていると共に、麹菌のたんぱく質分解酵素であるプロテアーゼの他に、プロティナーゼK、カタラーゼ、リパーゼによっても影響を受けないことが確認されている。
【0029】
ペディオコッカス・ペントサセウスの耐熱性についての試験結果によれば、100℃で60分加熱後も、バチルス菌に対する抗菌作用に関する相対活性値が90%以上であり、高温でも抗菌活性が失活しない乳酸菌であることを示した。この抗菌作用は、味噌製造の工程に想定されている温度帯だけでなく、ある程度の加熱を想定した他の食品製造の環境においても有効に作用することを示している。
【0030】
また、ペディオコッカス・ペントサセウスの酵素耐性についての試験結果によれば、バチルス菌2種に対する該乳酸菌の培養上清は、麹菌のプロテアーゼ、カタラーゼ、プロティナーゼK、リパーゼ処理に、相対活性値が90%以上の強い抗菌作用を示し、酵素処理によっても影響されない高い酵素耐性を示した。従って、このペディオコッカス・ペントサセウスの抗菌作用は、プロテアーゼを生産する麹菌との共存下でも、十分に発揮されるものである。
【0031】
以上に説明したように、ペディオコッカス・ペントサセウスは、熱耐性の抗菌力及び各種の分解酵素耐性に優れ、麹菌と栄養分の奪い合いをすることがなく共存できて、麹菌と同時に増殖できる相性のよい抗菌性乳酸菌であって、しかも、麹菌の生長を阻害しないが、バチルス菌の増殖を高度に抑制できる抗菌性乳酸菌である。
【0032】
さらに、このペディオコッカス・ペントサセウスは、MRS培地における生育ついて、塩分濃度5%及びアルコール濃度5%まで確認しており、幅広い多くの飲料品を含む食品製造に利用できる。すなわち、味噌や醤油の発酵調味料の他に、例えば、漬物などの発酵食品や酒又は甘酒などの発酵飲料品を含む食品の製造に広く利用できる。
また、このペディオコッカス・ペントサセウスであって、受託番号:NITE P-02543号として寄託されている乳酸菌PP165株は、その特性が優れており、食品(飲食料品)の製造に加え、動物用飼料や医薬品の製造における発酵を伴う工程においても、より広く適切に利用できる。
【0033】
なお、抗菌性乳酸菌(ペディオコッカス・ペントサセウス)、及び、バチルス菌(バチルス・サブティリス)の生育と、塩分濃度との関係(塩分耐性)について、MRS培地を用い、濁度測定法によって測定したところ、次の結果を得ている。先ず、塩分を添加しない場合は、抗菌性乳酸菌とバチルス菌のどちらも、急激に増殖する。また、塩分濃度が10%では、抗菌性乳酸菌もバチルス菌も増殖が検出できないレベルで生育が抑制される。そして、塩分濃度が5%では、抗菌性乳酸菌とバチルス菌のどちらも、ゆっくりではあるが、増殖することが確認されている。なお、通常の味噌の塩分濃度は、一般的に12%程度となっており、抗菌性乳酸菌とバチルス菌のどちらも、その生育が適正に抑制される。
【0034】
次に、本発明にかかるペディオコッカス・ペントサセウスを用いた発酵調味料の製造について説明する。
図1及び2に示す抗菌性乳酸菌を用いた食品(発酵調味料)の製造方法の工程例では、食品原料が、発酵調味料を製造するために加熱殺菌された発酵調味料用原料であって、その発酵調味料用原料に対するペディオコッカス・ペントサセウスの添加が、麹菌を添加することで行われる製麹工程で行われ、該製麹工程において前記麹菌と前記ペディオコッカス・ペントサセウスの両方を増殖させた後に、食塩を添加して発酵調味料を製造することを特徴としている。
【0035】
発酵調味料のうちの味噌を製造する際の製造工程(図1参照)では、精米した米を水に浸漬して蒸煮した原料に、麹菌を添加する製麹工程において、ペディオコッカス・ペントサセウスを添加する。なお、製麹工程の期間は、例えば48時間程度になっている。そして、その製麹工程が終わった原料に、大豆を水に浸漬して蒸煮した原料を混合し、食塩水を添加して諸味をつくり、その諸味を発酵熟成することで味噌を製造する。
【0036】
発酵調味料のうちの醤油豆を製造する際の製造工程(図2参照)では、大豆を水に浸漬して蒸煮した原料に、麹菌を添加して製麹する製麹工程において、ペディオコッカス・ペントサセウスを添加する。その製麹工程が終わった原料に、調味料を加え発酵熟成することで醤油豆を製造する。
ところで、このペディオコッカス・ペントサセウスを原料に添加するタイミングは、麹菌の添加と同時でもよいし、麹菌の添加の後でもよく、厳格に限定されるものではなく、製麹工程において、麹菌とペディオコッカス・ペントサセウスのどちらも増殖できるように添加すればよい。
【0037】
ペディオコッカス・ペントサセウスは、抗菌性に優れているため、前述した塩分濃度が5%の醤油豆(醤油もろみ)の製造に関する実証試験結果にあるように、発酵調味料を極めて適切に減塩することが可能となる。なお、一般的に味噌などの発酵調味料の塩分濃度は12%程度であり、通常の減塩された発酵調味料の塩分濃度は8%程度が限界であったが、本発明にかかるペディオコッカス・ペントサセウスを用いることで、塩分濃度が7%以下、さらには塩分濃度が5%以下の発酵調味料を適切に製造することが可能となる。
【0038】
さらに、液体培養されたペディオコッカス・ペントサセウスを、乾燥オカラの粉に混ぜて担持させることで菌担持粉状体とし、該菌担持粉状体を前記発酵調味料用原料に散布して添加することで、より均一に接種することができ、原料をムラなくより均一に発酵させることができる。
【0039】
以上、本発明につき好適な形態例を挙げて種々説明してきたが、本発明はこの形態例に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのは勿論のことである。
図1
図2