(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】紫外線遮蔽素材及び紫外線遮蔽素材の製造方法、並びに微細化酸化チタンナノチューブの製造方法及び二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムによって被覆された微細化酸化チタンナノチューブの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 23/04 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
C01G23/04 B
(21)【出願番号】P 2016220882
(22)【出願日】2016-11-11
【審査請求日】2019-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】514205171
【氏名又は名称】ナノジークスジャパン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513099603
【氏名又は名称】兵庫県公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】591064508
【氏名又は名称】御国色素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100129676
【氏名又は名称】▲高▼荒 新一
(72)【発明者】
【氏名】河南 治
(72)【発明者】
【氏名】安西 英男
(72)【発明者】
【氏名】田中 良治
(72)【発明者】
【氏名】野並 宏典
(72)【発明者】
【氏名】梅村 詠子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直行
(72)【発明者】
【氏名】中浜 亮
(72)【発明者】
【氏名】内沖 義彦
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-171860(JP,A)
【文献】特開2014-024732(JP,A)
【文献】国際公開第2004/056927(WO,A1)
【文献】特開2003-112923(JP,A)
【文献】特開2011-006292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタンナノチューブが二酸化珪素とバリウムとで被覆され、
前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長は、50ナノメートル以上100ナノメートル以下であることを特徴とする、
紫外線遮蔽素材。
【請求項2】
酸化チタンナノチューブが二酸化珪素によって被覆され、
二酸化珪素によって被覆された酸化チタンナノチューブがバリウムで被覆され、
前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長は、50ナノメートル以上100ナノメートル以下であることを特徴とする、
紫外線遮蔽素材。
【請求項3】
前記バリウムは、前記酸化チタンナノチューブに対して25wt%以上35wt%以下の割合であることを特徴とする、
請求項1又は2に記載の紫外線遮蔽素材。
【請求項4】
前記酸化チタンナノチューブは、粒径0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下のビーズを用いた湿式媒体ミルにより、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるように微細化された状態であることを特徴とする、
請求項1から3のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の紫外線遮蔽素材において、
前記酸化チタンナノチューブが二酸化珪素とバリウムとに被覆された状態で樹脂中に分散されていることを特徴とする、
紫外線遮蔽素材。
【請求項6】
前記酸化チタンナノチューブは、前記樹脂中に0.5wt%以上3.0wt%以下の割合で分散されていることを特徴とする、
請求項5に記載の紫外線遮蔽素材。
【請求項7】
酸化チタンナノチューブが二酸化珪素とバリウムとによって被覆され、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長は、50ナノメートル以上100ナノメートル以下である紫外線遮蔽素材の製造方法であって、
水熱合成を用いて酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、
前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素とバリウムとで被覆する被覆ステップと、
前記被覆ステップで被覆された酸化チタンナノチューブを酸化チタンナノチューブの平均チューブ長を50ナノメートル以上100ナノメートル以下に微細化する微細化ステップと、
を含むことを特徴とする、
紫外線遮蔽素材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線遮蔽素材及び紫外線遮蔽素材の製造方法、並びに微細化酸化チタンナノチューブの製造方法及び二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムによって被覆された微細化酸化チタンナノチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紫外線を遮蔽する紫外線遮蔽素材として、酸化チタンナノチューブを用いた紫外線遮蔽素材が知られている(特許文献1)。この紫外線遮蔽素材は、水熱合成により酸化チタンから酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブとビーズとを混合した状態で前記酸化チタンナノチューブと前記ビーズとを攪拌する攪拌ステップと、前記酸化チタンナノチューブに超音波を照射する超音波処理ステップと、を含む方法で製造されることで、平均チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブが水性溶媒に分散してなることにより、水性溶媒に十分な分散性を有し、高い紫外線遮蔽効果と透明性とが両立可能な紫外線遮蔽素材を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、この方法で製造した紫外線遮蔽素材を樹脂と混合して長時間紫外線照射環境下で使用すると、紫外線と酸化チタンナノチューブが持つ光触媒活性によって樹脂が劣化し、例えば、樹脂が黄変するという課題がある。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、高い紫外線遮蔽効果と透明性を保ちつつ、樹脂に混合して使用する場合であっても、樹脂の劣化速度を低減することができる紫外線遮蔽素材を提供することを主目的とする。
【0006】
本発明者らは、上述した主目的を達成するために、酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆することで酸化チタンナノチューブが持つ光触媒活性を低減させると共に、酸化チタンナノチューブを平均チューブ長が10ナノメートルから100ナノメートルまで微細化することで透明性を高め、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の紫外線遮蔽素材は、二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとによって被覆された酸化チタンナノチューブからなることを特徴とするものである。酸化チタンはナノチューブ構造を形成することにより、高い紫外線遮蔽効果と光触媒活性効果が得られることになるが、表面を二酸化珪素被膜又は二酸化珪素被膜とバリウム被膜とで被覆することにより光触媒活性効果を抑えつつ、高い紫外線遮蔽効果を保つことができる。
【0008】
このとき、酸化チタンナノチューブは、酸化チタンを出発原料として、水熱合成を用いて調製したものである。具体的には、10mol/dm3(以下、「M」とも言う。)以上20mol/dm3以下の水酸化ナトリウム水溶液中に酸化チタンを添加し、110℃以上180℃以下の温度で0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下の圧力に保ち、10時間以上100時間以下の時間で水熱合成を行うことで調整したものである。なお、水熱合成の温度は120℃以上180℃以下であってもよく、140℃以上180℃以下であってもよく、155℃以上170℃以下であってもよい。こうすることにより、平均チューブ長が150ナノメートルより大きく1000ナノメートルより短く、かつ、直径が5ナノメートルより大きく20ナノメートルより小さい酸化チタンナノチューブが得られる。なお、この平均チューブ長及び直径は、水熱合成処理の圧力及び温度を変更することで適宜調製することができ、例えば、平均チューブ長が100ナノメートルより大きく1500ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブとしても良いし、平均チューブ長が100ナノメートルより大きく500ナノメートルより短い酸化チタンナノチューブとしてもよい。酸化チタンナノチューブの平均チューブ長が1000ナノメートル以下の場合には、酸化チタンナノチューブの凝集を抑え、酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素被膜やバリウム被膜で被覆し易く、また、高い透明度を保つことができる点で好ましい。
【0009】
また、本発明の紫外線遮蔽素材において、水熱合成を行う際には、アルカリ性雰囲気下であり、かつ、常圧より高い圧力下で水熱合成を行うことが好ましい。ここで、アルカリ性雰囲気下とは、pHが13以上であることが好ましい。このとき、10M以上の水酸化ナトリウムによりpH13以上とすることが好ましく、15M以上の水酸化ナトリウムによりpH13以上とすることがより好ましい。また、常圧より高い圧力とは、0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下の圧力が好ましく、0.25メガパスカル以上0.35メガパスカル以下がより好ましい。水熱合成を行う際の圧力を0.2メガパスカル以上の圧力とすることで、酸化チタンを所望の長さのナノチューブ形状にすることができる。
【0010】
更に、酸化チタンナノチューブの表面を被覆するバリウムの割合は、酸化チタンナノチューブに対して、バリウムを25wt%以上35wt%以下の割合であってもよいし、15wt%以上45wt%以下の割合であってもよいし、20wt%以上40wt%以下の割合であってもよい。バリウムの割合が15wt%以上の場合には、酸化チタンナノチューブの表面がバリウムで十分に被覆され、酸化チタンナノチューブの表面の露出が抑えられることにより、十分に光触媒活性効果を抑えられるため好ましい。一方、バリウムの割合が15wt%以下の場合には、酸化チタンナノチューブの表面がバリウムで十分被覆されず、十分に光触媒活性効果を抑えられない可能性があるため、好ましくない。
【0011】
酸化チタンナノチューブの表面を被覆する二酸化珪素の割合は、酸化チタンナノチューブに対して、二酸化珪素を25wt%以上35wt%以下の割合であってもよいし、10wt%以上45wt%以下の割合であってもよいし、20wt%以上40wt%以下の割合であってもよい。二酸化珪素の割合が10wt%以上の場合には、酸化チタンチューブの表面が二酸化珪素で十分に被覆され、酸化チタンチューブの表面の露出が抑えられることにより、十分に光触媒活性効果を抑えられるため好ましい。一方、二酸化珪素の割合が10wt%以下の場合には、酸化チタンナノチューブの表面が二酸化珪素で十分被覆されず、十分に光触媒活性効果を抑えられない可能性があるため、好ましくない。
【0012】
更にまた、本発明の紫外線遮蔽素材において、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長は、50ナノメートル以上100ナノメートル以下が好ましく、50ナノメートル以上90ナノメートル以下であることが好ましく、50ナノメートル以上80ナノメートル以下がより好ましい。平均チューブ長が50ナノメートルより小さい場合には、十分な紫外線遮蔽効果が得られない可能性があるため好ましくなく、平均チューブ長が100ナノメートルより大きい場合には、十分な透明性が得られない可能性があるため好ましくない。こうすることにより、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性を両立した紫外線遮蔽素材を提供することができる。
【0013】
なお、ここで平均チューブ長は、粒度分布測定装置(Malvern社製,品名:Zetasizer Nano ZS)を用いて測定した結果と、透過型電子顕微鏡で目視確認した結果に基づいて定めた。ここで、粒度分布測定装置によって得られる結果は、対象物が回転した状態の回転状態の粒子径でるため、粒子径として得られるのは長径である。この結果と、対象物がチューブ形状であることを透過型電子顕微鏡により目視で確認した結果と組み合わせることで、チューブ形状の長径は平均チューブ長であると言えるため、粒度分布測定装置によって得られた粒子径を平均チューブ長と見なすことができる。
【0014】
そして、平均チューブ長のコントロールは、分散過程で混合液をサンプリングする等の手段により平均チューブ長を確認し、所望の平均チューブ長となるまで分散を継続し、その液組成と量における分散時間を確定することにより行うことができる。なお、分散時間は、液中の酸化チタンナノチューブの含有濃度及びpH、分散液の種類、分散剤等の添加剤の有無及び種類その他の条件により適宜選択することができる。
【0015】
このとき、酸化チタンナノチューブの平均チューブ長は、粒径0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下のビーズを用いた湿式媒体ミルにより、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるように微細化された状態であることが好ましく、50ナノメートル以上90ナノメートル以下となるように微細化された状態であることが好ましく、50ナノメートル以上80ナノメートル以下となるように微細化された状態であることがより好ましい。平均チューブ長が50ナノメートルより小さい場合には、十分な紫外線遮蔽効果が得られない可能性があるため好ましくなく、平均チューブ長が100ナノメートルより大きい場合には、十分な透明性が得られない可能性があるため好ましくない。こうすることにより、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性を両立した紫外線遮蔽素材を提供することができる。なお、酸化チタンナノチューブを微細化した後に二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆しても良いし、二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被膜された状態の酸化チタンナノチューブを微細化してもよい。
【0016】
また、微細化処理に使用する湿式媒体ミルとしては、例えば、ボールミル、ペイントコンディショナー、攪拌層型ビーズミル、縦型流通管型ビーズミル、横型流通管型ビーズミル、アニュラー型ビーズミル等が挙げられる。
【0017】
更に、微細化処理する際の濃度としては、10wt%から35wt%が好ましく、10wt%から20wt%がより好ましい。二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆された酸化チタンナノチューブ、又は酸化チタンナノチューブの濃度が35wt%よりも高い場合には、混合液の流動性が低くなり、ビーズの動きが鈍くなり、微細化処理が進まなくなる可能性があるため好ましくない。加えて、湿式媒体ミルへの投入がしづらくなるため、工程面でのハンドリングが悪くなり、生産性が低くなる可能性があるため好ましくない。
【0018】
このとき、微細化処理に使用するビーズの硬さは、モース硬度7以上10以下が好ましく、8以上9以下がより好ましい。具体的には、例えば、ガーネット、石英、ケイ素、ベリリウム、ジルコニウム、オスミウム、トパーズ、タングステンカーバイト、コランダム、アルミナ、シリコンカーバイト、ダイヤモンド等が好ましい。ビーズのモース硬度が7未満の場合には、酸化チタンナノチューブを十分な細かさにすることができず、平均チューブ長が長くなる可能性があるため、好ましくない。
【0019】
更にまた、ビーズの粒径は、0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下が好ましく、0.1ミリメートル以上0.28ミリメートル以下がより好ましく、0.1ミリメートル以上0.2ミリメートル以下が最も好ましい。ビーズの粒径が0.1ミリメートルより小さなビーズを用いた場合、処理媒体の粘性や流速の影響を受け、ビーズ分離が難しくなるため、処理流量を上げることが難しく生産効率を落とす場合があり、十分なせん断力を処理物へ与えることができず、微細化が困難である場合があるため好ましくない。また、0.3ミリメートルより大きなビーズを用いた場合、均質にせん断力を付与できない場合があり、目標とする平均チューブ長への微細化が困難である場合があるため好ましくない。なお、ここでビーズの粒径は、走査型電子顕微鏡により写真を撮影し、この撮影画像の100個の粒子のそれぞれの粒径について画像解析装置を用いて測定される平均粒子径による値である。
【0020】
そしてまた、連続循環式のビーズミルにおけるビーズの分離方法については、前記ビーズの粒径のビーズを分離できる方式であれば、特に限定されるものではない。例えば、スクリーンタイプ、ギャップセパレータタイプ、遠心分離タイプ、遠心分離スクリーン併用タイプ等が挙げられる。
【0021】
そして更に、使用する溶媒については、塗膜化に使用する樹脂に相溶するものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、イオン交換水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールに代表されるアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒、ギ酸エチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル系溶媒、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、アニソール等のエーテル系溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミン形溶媒、n-ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、1,5-ヘキサジエン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキサジエン、ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、クメン等の炭化水素系溶媒を用いることができる。これらの溶媒の中でも、イオン交換水、アルコール系溶媒は比較的安全性が高く、バリウムで表面が被覆された酸化チタンナノチューブを微細化でき、高い分散性を示すため、特に好ましい。なお、これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
加えて、本発明の紫外線遮蔽素材において、酸化チタンナノチューブは、樹脂中に分散されていることを特徴としてもよい。本発明の紫外線遮蔽素材において、酸化チタンナノチューブの表面は二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとによって被覆されているため、樹脂中に分散した状態では、酸化チタンナノチューブの光触媒活性効果が抑制され周囲の樹脂の分解を低減し、樹脂が劣化することに起因する、例えば、黄変を低減することができ、長期間使用した場合の変色を低減することができる。このように、二酸化珪素被膜やバリウム被膜を用いることにより、酸化チタンナノチューブの光触媒活性効果を抑制することができる。
【0023】
このとき、酸化チタンナノチューブは樹脂に対して0.5wt%以上3.0wt%以下の割合で分散されていても良いし、0.2wt%以上5.0wt%以下の割合であってもよいし、0.5wt%以上3.0wt%以下の割合であってもよい。酸化チタンナノチューブを樹脂中に0.2wt%以上分散させることにより、十分な紫外線遮蔽効果が得られる点で好ましく、5.0wt%以上分散させることにより、透明性が低下する点で好ましくない。
【0024】
また、このとき使用される樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル・スチレン樹脂、ポリメチルメタアクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等の汎用性プラスチック樹脂や、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のエンジニアプラスチック樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂等であってもよいし、ブチラール樹脂、高密度ポリエチレン樹脂、低密度ポリエチレン樹脂、フラン樹脂、ガラス繊維強化プラスチック樹脂、変性シリコーン樹脂、高分子量高密度ポリエチレン樹脂、メチルメタクリレート樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリイソブチレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、反応性ポリウレタン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレンエチレンブチレンブロック共重合体樹脂、トリレンジイソシアネート樹脂、スチレンエチレンプロピレンスチレンブロック共重合体樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂等の各種樹脂であってもよいし、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、イソブチレン・イソプレンゴム、ブチルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、塩素化ブチルゴム、エピクロルヒドリンゾム等の合成ゴムであってもよいし、スチレンブタジエンスチレン樹脂やスチレンイソプレンスチレン樹脂等のブロックポリマーであってもよいし、スチレンブタジエン系重合体樹脂、ポリブタジエン樹脂、メチルメタクリレートブタジエン系重合体樹脂、2-ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン系重合体樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン系重合体樹脂、クロロプレンラテックス樹脂等のラテックスであってもよいし、メタアクリル樹脂やアクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、アクリルスチレン共重合体樹脂、アクリルアミド共重合体樹脂、アクリルエポキシ共重合体樹脂、アクリルウレタン共重合体樹脂、アクリルポリエステル共重合体樹脂、シリコンアクリル共重合体樹脂、ポリアミド樹脂等であってもよい。本発明におけるバリウムで表面に被覆された酸化チタンナノチューブは、透明性が高いため、透明な樹脂であっても有色の樹脂であっても、樹脂の色を大きく損なうことなく、紫外線遮蔽効果を樹脂に付加することができる。
【0025】
本発明の紫外線遮蔽素材の製造方法は、
二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆された酸化チタンナノチューブからなる紫外線遮蔽素材の製造方法であって、
水熱合成を用いて酸化チタンナノチューブを合成する合成ステップと、
前記合成ステップで合成した酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆する被覆ステップと、
前記被覆ステップで被覆した酸化チタンナノチューブを微細化する微細化ステップと、
を含むことを特徴とする、
ものである。
【0026】
この紫外線遮蔽素材の製造方法では、水熱合成を用いて酸化チタンナノチューブを合成することにより、粒状の酸化チタンと比較して、高い透明性と高い紫外線遮蔽効果を得ることができる。この酸化チタンナノチューブの表面を被覆ステップで二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆し、微細化ステップで微細化することにより、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性とを維持しつつ、光触媒活性効果を抑え、樹脂等に分散させた際であっても、樹脂に対する影響を低減し、樹脂が劣化することに起因する、例えば、黄変を低減することで、全体としての透明性の低下を低減することができる。
【0027】
本発明の微細化酸化チタンナノチューブの製造方法は、酸化チタンナノチューブを、粒径0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下のビーズを用いて、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるまで湿式媒体ミルで微細化処理することを特徴とするものである。この方法を用いて酸化チタンナノチューブを微細化することで、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性とを有する紫外線遮蔽素材に利用可能な酸化チタンナノチューブを製造することができる。すなわち、この方法を用いて微細化した微細化酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムで被覆することで、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性とを維持しつつ、光触媒活性効果を抑え、樹脂等に分散させた際であっても、樹脂に対する影響を低減し、樹脂が劣化することに起因する、例えば、黄変を低減することで、全体としての透明性の低下を低減することができる紫外線遮蔽素材に利用可能となる。
【0028】
本発明のバリウムで被覆された微細化酸化チタンナノチューブの製造方法は、二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆された酸化チタンナノチューブを、粒径0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下のビーズを用いて、前記酸化チタンナノチューブの平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるまで湿式媒体ミルで微細化処理することを特徴とするものである。この方法を用いて微細化した二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとで被覆された酸化チタンナノチューブは、高い紫外線遮蔽効果と高い透明性とを維持しつつ、光触媒活性効果を抑え、樹脂等に分散させた際であっても、樹脂に対する影響を低減し、樹脂が劣化することに起因する、例えば、黄変を低減することで、全体としての透明性の低下を低減することができる紫外線遮蔽素材に利用可能となる。
【0029】
なお、本発明の紫外線遮蔽素材を特定するにあたり、発明を特定する事項としては、構造若しくは特性で特定することが望ましいことではあるが、本発明の紫外線遮蔽素材である酸化チタンナノチューブ及び被覆された酸化チタンナノチューブが微細化し、分散化された状態において、後述するように、酸化チタンナノチューブ及び被覆された酸化チタンナノチューブの分散体としての全体の傾向に関する知見は得られているが、個々の酸化チタンナノチューブがどのような構造又は特性を有するかについて、現段階において発明者らは正確に断定できるだけの知見を有していない。すなわち、研究機関である公立大学法人兵庫県立大学の設備及び知見をもってしても、本発明の紫外線遮蔽素材について、構造若しくは特性で特定するに至らなかったという事実自体が、本発明を記載するにあたり、構造若しくは特性で特定することができない不可能・非実在的事情が存在することを表していると言える。
【0030】
また、本発明の紫外線遮蔽素材が、どのような特性を有するために高い紫外線遮蔽効果を保ちながら、樹脂に分散させた際、樹脂に対して光触媒活性を抑制することができているかを判明するには至っていない。しかしながら、酸化チタンナノチューブの表面を二酸化珪素又は二酸化珪素とバリウムとによって覆われることにより、酸化チタンナノチューブの光触媒活性効果を抑制しているためと考えている。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1は、二酸化珪素で被覆された酸化チタンナノチューブのTEM写真である。
【
図2】
図2は、二酸化珪素で被覆された酸化チタンナノチューブのEELS分析結果図である。
【
図3】
図3は、二酸化珪素被膜の表層をバリウムで被覆された酸化チタンナノチューブのTEM写真である。
【
図4】
図4は、二酸化珪素被膜の表層をバリウムで被覆された酸化チタンナノチューブのEELS分析結果図である。
【
図5】
図5は、紫外線照射0dayにおける酸化チタン粒子と各サンプルとの透過率の比較を示すグラフである。
【
図6】
図6は、紫外線照射4dayにおける酸化チタン粒子と各サンプルとの透過率の比較を示すグラフである。
【
図7】
図7は、紫外線照射によるサンプルの色の変化を説明するための写真である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、本発明の実施の形態の一例である紫外線遮蔽素材の実施形態について、詳細に説明する。この紫外線遮蔽素材は、酸化チタンナノチューブ(以下、「TiO2-NTs」と言う。)の表面に二酸化珪素とバリウムとで被覆することで、バリウム被覆酸化チタンナノチューブ(以下、「Ba-TiO2-NTs」と言う。)を調整する。なお、本発明は被膜の方法や材料は以下の実施の形態に限定されるものではなく、公知の被膜方法や種々の材料を用いても同様の効果を得ることができる。
【0033】
(水熱合成処理)
このTiO2-NTsは、酸化チタンを出発原料として、水熱合成を用いて調製した。具体的には、10M以上20M以下の水酸化ナトリウム水溶液中に酸化チタンを添加し、110℃以上180℃以下の温度で0.2メガパスカル以上0.6メガパスカル以下の圧力に保ち、10時間以上100時間以下の時間で水熱合成を行った。水熱合成後、中和させた後に洗浄・乾燥させて粉末状のTiO2-NTsを得た。なお、水熱合成の温度は120℃以上180℃以下であってもよく、140℃以上180℃以下であってもよく、155℃以上170℃以下であってもよい。こうすることにより、平均チューブ長が50ナノメートルから1000ナノメートルの酸化チタンナノチューブを合成することができる。
【0034】
(二酸化珪素被覆処理)
酸化チタンナノチューブが2.5グラムに対して、テトラエトキシシラン(以下、「TEOS」と言う。)が2.0グラム、エタノールが85ミリリットル、イオン交換水が45ミリリットル、アンモニア水溶液が30ミリリットルとなるように互いに混合し、いずれの成分も揮発しない温度まで加熱した状態でマイクロ波を照射しながら攪拌し、スラリーを得た。このとき、混合する各成分の量としては、酸化チタンナノチューブが2.5グラムに対して、テトラエトキシシランが0.75グラムから2.0グラム、エタノールが20ミリリットルから120ミリリットル、イオン交換水が15ミリリットルから90ミリリットルの範囲であることが好ましい。また、アンモニア水溶液は、スラリーのpHが11以上13程度、好ましくはpH12となるように、アンモニア水溶液を10ミリリットルから60ミリリットルの範囲で添加することが好ましい。
【0035】
次に、このスラリーを遠心分離して沈殿物をアルコールに懸濁して回収し、乾燥させて二酸化珪素で被覆された酸化チタンナノチューブ(以下、「Si-TiO
2-NTs」と言う。)を得た。こうして得られたSi-TiO
2-NTsのTEM写真を
図1に、EELS分析写真を
図2に示す。また、
図2中、
図2Aは、分析領域のTEM写真、
図2Bは、チタン分布状況を示す図、
図2Cは、珪素分布状況を示す図である。
【0036】
図1に示すように、二酸化珪素で被覆された状態において、チューブ形状を維持していることは明らかである。また、
図2Bから示されるように、このチューブ形状の位置にはチタンが分布しており、
図2Cに示されるように、チューブ形状の表面付近には珪素が分布している。よって、これらの結果より、酸化チタンナノチューブの表面が二酸化珪素で被覆されていると言える。
【0037】
(バリウム被覆処理)
続いて、Si-TiO
2-NTsを10wt%から20wt%の濃度で水中に分散させ、10wt%から20wt%に調製した水酸化バリウム水溶液を二酸化珪素で被覆された水酸化ナノチューブ分散液に対して10wt%以上の分量となるよう添加し、70℃から85℃の温度になるように加熱した後、自然冷却した。続いて、遠心分離して沈殿物を水中に再分散し、pHが7になるまで中和し、再度遠心分離して沈殿物を採取し、乾燥させてBa-TiO
2-NTsを得た。こうして得られたBa-TiO
2-NTsのTEM写真を
図3に、EELS分析写真を
図4に示す。また、
図4中、
図4Aは、分析領域のTEM写真、
図4Bは、チタン分布状況を示す図、
図4Cは、バリウム分布状況を示す図である。
【0038】
図3に示すように、バリウムで被覆された状態において、チューブ形状を維持していることは明らかである。また、
図4Bから示されるように、このチューブ形状の位置にはチタンが分布しており、
図4Cに示されるように、チューブ形状の表面付近にはバリウムが分布している。よって、これらの結果より、酸化チタンナノチューブの表面がバリウムで更に被覆されていると言える。
【0039】
(微細化処理)
こうして得られたBa-TiO2-NTsを、必要であれば少量の分散剤と共に、任意の溶媒へ濃度が10wt%から35wt%となるように添加して混合し、得られた混合液と粒径が0.1ミリメートル以上0.3ミリメートル以下の大きさの分散用のビーズとを湿式媒体ミル内で平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下の範囲に入るまで混合攪拌することにより、Ba-TiO2-NTsを微細化した。こうすることにより、平均チューブ長が50ナノメートル以上100ナノメートル以下に微細化されたBa-TiO2-NTsを得た。
【0040】
なお、ここでは、Ba-TiO2-NTsを微細化することで微細化されたBa-TiO2-NTsを得たが、微細化するタイミングはこのタイミングに限定されるものではなく、Ba-TiO2-NTsを微細化した後に、二酸化珪素及びバリウムで被膜してもよいし、Si-TiO2-NTsを微細化した後にバリウムで被覆してもよい。いずれのタイミングで微細化した場合であっても、同様の方法で微細化が可能であり、微細化されたBa-TiO2-NTsを得ることができる。
【実施例】
【0041】
(TiO2-NTsの調製)
10Mの水酸化ナトリウム水溶液中にアナターゼ型酸化チタンを質量比が10:1の割合で添加し、150℃の温度で20時間水熱合成を行った。こうして得られた反応物を中和した後水洗し、100°で2時間乾燥させ、TiO2-NTsを得た。
【0042】
(TiO2-NTsの微細化処理)
TiO2-NTsをイオン交換水に10wt%になるよう添加し、少量分散剤を添加して混合した。この混合液と0.1ミリメートルのジルコニアビーズ(モース硬度8)を同一容器内に入れ、浅田鉄工製ペイントシェーカーにて、分散処理をしつつ、適宜液をサンプリングしてTiO2-NTsの平均チューブ長を確認し、50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるまで分散処理を継続して、微細化されたTiO2-NTs水分散体を得た。こうして得られたTiO2-NTs水分散体中のTiO2-NTsの平均チューブ長を粒度分布測定装置(Malvern社製,品名:Zetasizer Nano ZS)で測定したところ、87ナノメートルであった。
【0043】
こうして得られたTiO2-NTs水分散体中のTiO2-NTsを、混合物を含むカーボネート系ポリウレタン樹脂に1.0wt%混合し、比較サンプル2とした。また、TiO2-NTsに変えて、酸化チタン粒子(石原産業社製,品番:TTO-W5)を1.0wt%混合したものを、比較サンプル1とした。なお、比較サンプル1で用いた酸化チタン粒子の粒子径を測定したところ、108ナノメートルであった。
【0044】
(二酸化珪素被覆処理)
45ミリリットルのイオン交換水、85ミリリットルのエタノール、30ミリリットルでアンモニア水溶液、2.5グラムのTiO2-NTs、2gのTEOSを300rpmで攪拌しながら、マイクロ波発生装置(四国計測工業株式会社,品番:SMW-118)にてマイクロ波を480Wで1分10秒間照射し、その後、マイクロ波の出力を45Wに切り替え、2分間照射してスラリーを得た。続いて、得られたスラリーを遠心分離機に6000rpmにて5分間遠心分離を行い、得られた沈殿物にエタノールを添加して再懸濁する工程を3回繰り返し、110℃の恒温槽に入れて2時間乾燥させてSi-TiO2-NTsを得た。
【0045】
(バリウム被覆処理)
次に、100グラムのSi-TiO2-NTsを1リットルのイオン交換水に分散させた。また、別の容器に12グラムの水酸化バリウムを100ミリリットルのイオン交換水に溶解した。続いて、Si-TiO2-NTsの分散液に水酸化バリウム水溶液を添加し、80℃に加温した状態を2時間維持した後、室温まで自然冷却した。
【0046】
続いて、遠心分離機に6000rpmで5分間遠心分離を行い、得られた沈殿物を1リットルのイオン交換水に再度分散させ、硫酸を少量ずつ加えながらpH7まで中和した。この液を再度同じ条件で遠心分離を行い、沈殿物を採取し、110℃の恒温槽に入れて2時間乾燥させBa-TiO2-NTsを得た。
【0047】
(Ba-TiO2-NTsの微細化処理)
Ba-TiO2-NTsをイオン交換水に10wt%になるよう添加し、少量分散剤を添加して混合した。この混合液と0.1ミリメートルのジルコニアビーズ(モース硬度8)を同一容器内に入れ、浅田鉄工製ペイントシェーカーにて、分散処理をしつつ、適宜液をサンプリングしてBa-TiO2-NTsの平均チューブ長を確認し、50ナノメートル以上100ナノメートル以下となるまで分散処理を継続して、微細化されたBa-TiO2-NTs水分散体を得た。こうして得られたBa-TiO2-NTs水分散体中のBa-TiO2-NTsの平均チューブ長を粒度分布測定装置(Malvern社製,品名:Zetasizer Nano ZS)で測定したところ、79ナノメートルであった。
【0048】
こうして得られた微細化Ba-TiO2-NTs水分散体中の微細化Ba-TiO2-NTsを、混合物を含むカーボネート系ポリウレタン樹脂に0.5wt%混合したものをサンプル1、1.0wt%混合したものサンプル2、2.0wt%混合したものをサンプル3とした。
【0049】
(性能評価)
上記方法で調整した各サンプルを、それぞれガラス板の表面に塗布し、表面にサンプルが塗布された状態のガラス板について、吸光度測定装置(島津製作所社製,型番:UV-1280)を用いて吸光度を測定し、各サンプルの透過率を算出する。ここで透過率とは、それぞれの波長において透過した光の強さについてブランクで透過した光の強さに対する割合を算出したものである。この結果を、
図5に示す。なお、
図5において、縦軸は透過率(パーセント)、横軸は波長(ナノメートル)である。また、
図5中、実線は比較サンプル1の結果を、細点線は比較サンプル2の結果を、太点線はサンプル1の結果を、一点鎖線はサンプル2の結果を、二点鎖線はサンプル3の結果をそれぞれ示す。
【0050】
(経時性能の評価)
更に、上記サンプルの経時変化を評価した。具体的には、各サンプルが塗布されたガラス板から3センチ離れた距離から紫外線ランプ(東芝雷テック株式会社製,殺菌ランプGL-6)で4日間紫外線を照射した。そして、それぞれのサンプルについて、吸光度測定装置(島津製作所社製,型番:UV-1280)を用いて吸光度を測定し、各サンプルの透過率を算出した。なお、この条件で紫外線ランプから1日で照射される紫外線量は、3年間屋外で曝される紫外線量と同程度である。こうして得られた、4日間紫外線を照射した後の透過率の計測結果を、
図6に示す。なお、
図6において、縦軸は透過率(パーセント)、横軸は波長(ナノメートル)である。また、
図6中、実線は比較サンプル1の結果を、細点線は比較サンプル2の結果を、太点線はサンプル1の結果を、一点鎖線はサンプル2の結果を、二点鎖線はサンプル3の結果をそれぞれ示す。
【0051】
更に、
図5及び
図6に示したグラフより、計測した透過率について、可視光領域の一例として400ナノメートルの波長における0Day及び4Dayの透過率及びその変化率を次の表1に示す。なお、ここで変化率とは、4Dayの透過率の値から0Dayの透過率の値を減算した値を0Dayの透過率の値で除算した割合を示すものであり、この変化率の値が小さいほど、紫外線照射の前後で透過率の変化が小さいこと、すなわち、透明度を維持していることを示すものである。
【0052】
【0053】
波長が400ナノメートルの透過率について、比較サンプル1とサンプル1からサンプル3を比較すると、表1に示すように、比較サンプル1と比較してサンプル1からサンプル3の全てにおいて、透過率が大きく上回っていることは明らかである。このことから、比較サンプル1と比較してサンプル1からサンプル3は、紫外線照射後であっても、高い透明性を保っていると言える。また、変化率について比較サンプル1とサンプル1からサンプル3を比較すると、比較サンプル1及び比較サンプル2の変化率と比較して、サンプル1からサンプル3はいずれも低い変化率を示している。このことから、紫外線照射前後における透明度の変化が小さいと言える。すなわち、サンプル1からサンプル3の透明度は、比較サンプル1及び比較サンプル2と比較して、紫外線照射前から透明度が高く、しかも、紫外線照射後も透明度が高い状態を維持していると言える。
【0054】
次に、比較サンプル1、比較サンプル2、サンプル1からサンプル3の紫外線照射時間における色の変化について、
図7を用いて詳しく説明する。ここで、
図7は、比較サンプル1、比較サンプル2及びサンプル1からサンプル3を含むサンプルを撮影した写真であり、左から順番に、比較サンプル1、比較サンプル2、サンプル1、サンプル2、サンプル3の順番で並べて配置されている。また、それぞれのサンプルは、上から順番に紫外線照射前、紫外線照射4日目の結果を示している。
【0055】
比較サンプル1と比較サンプル2とを比較すると、4日目の比較サンプル1と比較して比較サンプル2の色の変化が大きいと言える。このことから、比較サンプル1と比較して、比較サンプル2の樹脂の劣化が進んでいると言える。比較サンプル1と比較して比較サンプル2の樹脂の劣化が進んでいる理由は明らかではないが、発明者らは、酸化チタンがナノチューブ形状を形成することにより、光触媒活性効果が増加することで、酸化チタンナノチューブに紫外線が照射されることで、酸化チタンナノチューブの周囲の樹脂の劣化を促したためであると考えている。一方、比較サンプル2とサンプル1からサンプル3とを比較すると、比較サンプル2と比較して、サンプル1からサンプル3の色の変化が小さいと言える。このことから、比較サンプル2と比較して、サンプル1からサンプル3の樹脂の劣化が抑えられていると言える。比較サンプル2と比較してサンプル1からサンプル3の樹脂の劣化が抑えられている理由は明らかではないが、発明者らは、酸化チタンナノチューブの表面がバリウムで被覆されることにより、光触媒活性が抑えられたためであると考えている。
【0056】
以上の結果より、サンプル1からサンプル3は、高い透明性と高い紫外線遮蔽効果を有し、紫外線照射後であっても、高い透明性を保っていると言える。また、サンプル1からサンプル3が含まれる樹脂の劣化を低減することができるため、樹脂に分散した状態の透明性を高いまま保つことができる。