(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】天敵生物を用いた害虫防除方法
(51)【国際特許分類】
A01K 67/033 20060101AFI20220302BHJP
A01M 1/00 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A01K67/033 502
A01M1/00 Z
(21)【出願番号】P 2017158344
(22)【出願日】2017-08-21
【審査請求日】2020-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2016162109
(32)【優先日】2016-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000354
【氏名又は名称】石原産業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 修
(72)【発明者】
【氏名】森 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】大朝 真喜子
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/022726(WO,A1)
【文献】特開2010-187606(JP,A)
【文献】特開2005-185222(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0024048(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/033
A01M 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む装置を作物栽培圃場に設置し、当該装置中に備えた天敵生物を用いて害虫を防除する方法で
あって、
前記装置が、更に樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を含み、当該部材を用いて樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置し、
前記装置中に、天敵生物の餌を更に備え、
前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線の表面と、当該表面の少なくとも一部を覆って配置された微小な間隙構造又は細孔を有する基材との間に、放湿性の保水材を挟んで設置し、更に前記基材を防水部材で覆って配置し、樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を用いて設置する、前記方法。
【請求項2】
樹木又は作物の幹、枝又は茎に設置する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記天敵生物が、ミヤコカブリダニ、ケナガカブリダ二、ヘヤカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、トウヨウカブリダニ、ククメリスカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、リモニカスカブリダニ、アンデルソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ、チリカブリダニ、ディジェネランスカブリダニ、コウズケカブリダニ、イチレツカブリダニ、及びトウナンカブリダニからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記微小な間隙構造又は細孔を有する基材が、高分子ポリマー素材、不織布、パルプ、フェルト、ウレタンフォーム、フィルターマット、ウールマット、及びスポンジからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記放湿性の保水材が、高吸水性樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記防水部材が、ポリエチレン、及び塩化ビニールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材が、紐、ゴム、面ファスナー、粘着テープ、針金、及びネットからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記樹木又は作物が、果樹類、野菜類、茶類、及び花卉類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記害虫が、ハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類、ホコリダニ類、サビダニ類、及びアブラムシ類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天敵生物を用いた害虫防除方法に関する。また本発明は、前記方法に用いる装置に関する。本発明によれば、天敵生物の個体数を維持又は増殖させ、かつ、風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から天敵生物を保護するための装置を利用して、害虫の防除に有効な天敵生物の個体数を維持し、当該天敵生物により害虫を防除することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、天敵を中心としたIPM(総合的病害虫管理)が注目されている。当該IPMは、例えば、防除対象の害虫であるハダニ類やアザミウマ類を餌にするミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ククメリスカブリダニなどの多食性のカブリダニ類を天敵生物として利用する管理方法である。天敵生物は、本来の餌となる上記の害虫がいないか或いは少数である場合に、例えば、サトウダニやサヤアシニクダニのような、所謂餌ダニをその代替餌として与えると、増殖することが知られている。これらの餌ダニは、砂糖、小麦粉、きな粉、乾燥果実又はかつお節などの保存食品の害虫として見出される。餌ダニは、大量に増殖させることが可能であるため、理論上は、餌ダニを利用することで、天敵生物を大量に繁殖させることができる。しかし、餌ダニは、上記したように、天敵生物の本来の餌である害虫が活動する環境とは異なる、砂糖、小麦粉などがある環境で活発に活動するため、これらの餌ダニを天敵生物とともに作物上に施用したとしても、餌ダニの個体数を維持するのが難しく、害虫防除の目的で天敵生物の活動を十分に支えることはできなかった。
【0003】
上記の場合に、天敵生物の個体数を維持するため、これらの餌ダニを追加的に作物に施用する方法も考えられているが、その作業は煩雑であり現実的でない。また、天敵生物を用いた害虫防除方法と化学農薬による害虫防除方法とを組み合わせるためには天敵生物及び餌ダニを追加する頻度を増やす必要があり、費用が増大する。このような問題を解決するべく、例えば、特許文献1では、保湿剤、水、天敵、天敵の餌となる餌昆虫、餌昆虫の餌となるカビを培養するための培地及び天敵の産卵基質を包括する容器で構成された天敵増殖装置が提案されている。
【0004】
また、樹木や作物に寄生する害虫を駆除する方法として、特許文献2では、殺虫剤を可塑性の基材に含有させ(浸み込ませ)、防水層で覆った状態で樹木や作物の一部に取り付け、その内部に侵入した害虫を駆除する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-325541号公報
【文献】特開2008-100920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1に開示された装置は、構造が複雑かつ大掛かりであり、その割には天敵生物の生息環境(定住性)の面で必ずしも十分に満足し得るものではなかった。また、当該装置では、天敵生物、特に天敵生物の餌となる餌ダニの増殖維持に必要となる適度な湿度の保持のために、乾燥が継続する場合は装置の上又は注水孔から適宜水を補填するなど、煩雑な操作を要する。また、保湿剤として、綿状パルプやアルギン酸ナトリウムなどを使用しており、これらの保湿剤に水を添加すると、装置内は水滴が存在した状態になり、水滴があるとその方向に集まる習性がある天敵生物や餌ダニは水滴中で死んでしまうことがある。体長が小さい天敵生物及びその餌となる餌ダニが水滴中で死んでしまわないよう、その生息環境における水滴の存在は避けなければならない。
【0007】
また、天敵生物を利用するIPM(総合的病害虫管理)では、広い作物栽培圃場に多数の天敵生物の保護装置を設置する必要があることから、使用する装置は、安価であることに加えて、作業者に与える負荷(手間)を極力軽減し、省力化を達成した構成のものであることが望まれる。この点からも、装置を設置した後、より長期間にわたって、持続的に且つ安定して天敵生物を装置から放飼することができれば、装置を頻繁に取り換える必要がなくなり、作業者における装置の取り換えの手間が軽減され、大幅な省力化を達成でき、極めて有用である。
【0008】
さらに、たとえ天敵生物の個体数維持又は増殖に有効な装置を提供できたとしても、当該装置が風雨や農薬の高圧散布に晒された場合、水や農薬の装置内への浸入や、当該装置自体が設置された樹木や作物から落下するといった問題が発生し、天敵生物の個体数が大幅に減少し、ひいては害虫を防除するとの目的を達成できなくなる。
【0009】
特許文献2に記載された害虫の駆除方法は、殺虫剤(化学物質)を利用するものであり、特許文献2に記載された害虫の駆除材の中に侵入した害虫は駆除されるものの、本願発明のような天敵生物を利用するものではないため、その他の害虫は全く駆除できず、害虫防除の観点では満足し得るものではない。
【0010】
本発明の目的は、上述の問題に鑑み、簡易な構成で、煩雑な維持管理操作を要せず、天敵生物の個体数を維持又は増殖させることができ、かつ、風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から天敵生物を保護することが可能な装置を用いることにより、害虫の防除に有効な天敵生物の個体数を維持し、当該天敵生物により効率的に害虫を防除する方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は、以下の本発明によって達成される。すなわち本発明によれば、以下の各態様が提供される。
【0012】
(1)微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む装置を作物栽培圃場に設置し、当該装置中に備えた天敵生物を用いて害虫を防除する方法。
(2)前記装置が、更に樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を含み、当該部材を用いて樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置する、前記(1)に記載の方法。
(3)微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、防水部材、及び樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を含む装置を、樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置し、当該装置中に備えた天敵生物を用いて害虫を防除する方法。
(4)天敵生物、微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、防水部材及び樹木又は作物に設置するための部材を含む装置を樹木又は作物に設置し、前記天敵生物を用いて害虫を防除する方法。
(5)前記樹木又は作物の幹、枝又は茎に設置する、前記(2)~(4)のいずれかに記載の方法。
【0013】
(6)前記天敵生物が、ミヤコカブリダニ、ケナガカブリダ二、ヘヤカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、トウヨウカブリダニ、ククメリスカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、リモニカスカブリダニ、アンデルソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ、チリカブリダニ、ディジェネランスカブリダニ、コウズケカブリダニ、イチレツカブリダニ、及びトウナンカブリダニからなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記天敵生物が、ミヤコカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、ククメリスカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、リモニカスカブリダニ又はトウナンカブリダニである、前記(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(8)前記微小な間隙構造又は細孔を有する基材が、高分子ポリマー素材、不織布、パルプ、フェルト、ウレタンフォーム、フィルターマット、ウールマット、及びスポンジからなる群から選択さる少なくとも1種である、前記(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
【0015】
(9)前記放湿性の保水材が、高吸水性樹脂である、前記(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(10)前記防水部材が、ポリエチレン、及び塩化ビニールからなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(9)のいずれかに記載の方法。
【0017】
(11)前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材が、紐、ゴム、面ファスナー、粘着テープ、針金、及びネットからなる群から選択される少なくとも1種である、前記(2)~(10)のいずれかに記載の方法。
【0018】
(12)前記樹木又は作物が果樹類、野菜類、茶類、及び花卉類からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(2)~(11)のいずれかに記載の方法。
【0019】
(13)前記害虫が、ハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類、ホコリダニ類、サビダニ類、及びアブラムシ類からなる群から選択される少なくとも1種である、前記(1)~(12)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(14)前記装置中に、天敵生物の餌を更に備えた、前記(1)~(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線の表面と、当該表面の少なくとも一部を覆って配置された微小な間隙構造又は細孔を有する基材との間に、放湿性の保水材を挟んで設置し、さらに前記基材を防水部材で覆って配置し、樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を用いて設置する、前記(2)~(14)のいずれかに記載の方法。
(16)前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線の表面を、微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、防水部材、及び樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材の全てを兼ね備えたもので覆って設置する、前記(2)~(14)のいずれかに記載の方法。
(17)前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線の表面を、放湿性の保水材を基材と防水部材の間に挟んで包装して成るシート状吸収性物品にて、防水部材が外側になるように覆って設置することからなる前記(16)に記載の方法。
(18)前記樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線の表面と、当該表面の少なくとも一部を覆って配置された微小な間隙構造又は細孔を有する基材との間に、天敵生物が収容された収容体を挟んで設置する、前記(15)又は(17)に記載の方法。
【0021】
(19)微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む、天敵生物増殖用の装置。
(20)樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を含む、前記(19)に記載の天敵生物増殖用の装置。
【0022】
(21)天敵生物、微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む、害虫防除用の装置。
(22)樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材を含む、前記(21)に記載の害虫防除用の装置。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、天敵生物の個体数を維持又は増殖させ、かつ、風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から天敵生物を保護するための装置を提供し、その装置を利用することで、害虫の防除に有効な天敵生物の個体数を維持し、当該天敵生物により効率的に害虫を防除する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の「微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む装置を作物栽培圃場に設置し、当該装置中に備えた天敵生物を用いて害虫を防除する方法(以下、本発明方法と記載する)」並びに「天敵生物、微小な間隙構造又は細孔を有する基材、放湿性の保水材、及び防水部材を含む、害虫防除用の装置(以下、本発明装置と記載する)」について、好ましい実施形態を挙げて説明する。
【0025】
(天敵生物)
本発明で用いることができる天敵生物としては、例えばカブリダニ科やナガヒシダニ科などの多食性のダニ類を挙げることができ、ミヤコカブリダニ、ケナガカブリダ二、ヘヤカブリダニ、スワルスキーカブリダニ、トウヨウカブリダニ、ククメリスカブリダニ、ニセラーゴカブリダニ、リモニカスカブリダニ、アンデルソニカブリダニ、フツウカブリダニ、キイカブリダニ、チリカブリダニ、ディジェネランスカブリダニ、コウズケカブリダニ、イチレツカブリダニ、トウナンカブリダニなどを好適例として挙げることができる。製品として入手できる天敵生物やインセクタリー植物に集めた天敵生物、土着の天敵生物などを用いてよい。本発明では、特に制限されないが、1)天敵生物自身を袋体などに入れずに直接本発明の装置に備えるようにしてもよいし、2)天敵生物を、その餌となる餌ダニなどと共に袋体に収容した収容体を本発明装置に備えるようにしてもよい。前記1)の具体例としては、天敵生物を袋体などに入れずに、本発明装置の微小な間隙構造又は細孔を有する基材部分に直接つける方法が挙げられる。この方法としては、天敵生物がボトルに収容されている製品(例えば商品名:スワルスキー/アリスタライフサイエンス社製)から前記基材に天敵生物を接種する(ふりかける)方法が挙げられる。また、天敵生物を樹木又は作物の幹、枝、葉上、本発明装置に移動しうる範囲の土表又は草本、下草、花叢、或いは農業用支柱又は農業用誘引線などに接種する方法が挙げられる。さらにまた、前記袋体や特願2016-162470号に記載の「天敵昆虫の保護装置」などを、天敵生物が本発明装置に移動しうる範囲の枝や農業用誘引紐などに吊り下げ又は幹や農業用支柱などに立て掛ける方法が挙げられる。前記2)の具体例としては、前記収容体を本発明装置内に設置する方法が挙げられる。この方法としては、天敵生物が、その餌となる餌ダニ、当該餌ダニの餌となるもの、増量剤などとともにパックに収容された製品(例えば商品名:スワルスキープラス/アリスタライフサイエンス社製又は商品名:スワルスキー・ブリーディングシステム/バイオベスト社製)を用いる方法が挙げられる。
【0026】
本発明では天敵生物の活動を支えるために、天敵生物の餌として、前述した餌ダニの他、花粉、糖や蜜などの糖類、又はカビなどを利用することができる。餌ダニとしては、サトウダニ、サヤアシニクダニ、ケナガコナダニなどを挙げることができる。餌ダニに加えて、餌ダニの餌となるフスマ、砂糖などを併用してもよい。花粉としては、例えば、Biobest社製の商品名「Nutrimite」を用いることができる。
【0027】
(微小な間隙構造、凹凸又は細孔を有する基材)
本発明で用いることができる微小な間隙構造、凹凸又は細孔を有する基材(以下、基材とも記載する)は、天敵生物が入れる程度の空間を有するもの、また、その内部で天敵生物が産卵できる程度の空間を有するものが挙げられる。細孔は、基材を貫通するものであってもなくてもよいが、貫通するものが好ましい。具体的には以下に示す素材から適宜選択し基材を形成することができるが、素材そのもの自体が微小な間隙構造、凹凸又は細孔を有するものであっても、組み合せにより集積体とし、微小な間隙構造凹凸又は細孔を有する構造を作り出してもよい。微小な間隙構造凹凸又は細孔を有する素材としては、例えば高分子ポリマー素材、不織布(ポリエステルやポリプロピレンなどのポリオレフィン製、ポリエチレンやナイロンなどの合成樹脂製など)、パルプ、フェルト、ウレタンフォーム、フィルターマット、ウールマット、スポンジ、海綿又はスウェードなどが挙げられる。前記集積体としては、例えば人工芝、藁、たわし、フランネル、毛糸、面ファスナー、ネット、麻布、ガーゼ、毛織物、寒冷紗又は綿フラノなどの紙などが挙げられ、不織布やパルプが集積体と解釈される場合もある。また、前述したものを適宜組み合わせて用いることも可能であり、例えば面ファスナーに毛糸、麻布、ガーゼなどを付着させ基材として用いることもできる。また、天敵生物などを収容した収容体も上記素材を有してよく、前記収容体を用いる際に、更に他の基材を用いてよい。
【0028】
本発明における基材の間隙又は細孔の大きさは、用いる天敵生物の種類に応じ適切な大きさが変わるため一概に規定できないが、例えば0.05~10mm程度、望ましくは0.1~3mm程度の幅又は直径を有する基材を使用することができる。
【0029】
基材自体の大きさは特に制限されるものではないが、例えば、前記天敵生物がパックに収容された製品と同程度の大きさ~やや大き目であってもよく、また、本発明装置の設置対象となる樹木又は作物の幹、枝、茎を挟んだり、それらに巻きつけたりすることが可能な程度の大きさを有するものであってもよい。
【0030】
(放湿性の保水材)
本発明で用いることができる放湿性の保水材(以下、保水材とも記載する)としては、水を吸収し、放湿性の性質を有するものであればよく、例えば園芸用に開発された高吸水性樹脂や紙オムツなどで使用される高吸水性樹脂が挙げられる。また、これら以外にも、例えば、寒天、マンナン、アガー、ゼラチン、ペクチンなどの自然由来物のほか、それら自然由来物などから作られたゲル化剤や増粘剤なども利用することができる。前記高吸水性樹脂、自然由来物、ゲル化剤又は増粘剤は、水を含ませた状態で、本発明装置内に設置することができる。本発明装置内に保水材を設置することにより、当該装置内の湿度(相対湿度、以下同様)を望ましくは70%以上、さらに望ましくは80%以上の高湿度環境とすることができ、これにより天敵生物又はその餌となる餌ダニにとって好適な生息環境となる。前記天敵生物又はその餌ダニは高湿度環境を好み、捕食活動や産卵活動が活発になることから、保水材を設置することは、それらの個体数の増殖・維持に有効である。特に、保水材と前記基材とを組み合わせて本発明装置内に設置することにより、天敵生物又はその餌ダニの生育環境の提供と、産卵活動の促進をはかることが可能となり、それらの個体数の増殖・維持に極めて有効である。
【0031】
前記した園芸用に開発された高吸水性樹脂は、水を含ませて膨潤させた状態で本発明装置内に設置するといった、使用者にとって簡便な方法で使用することが可能である。このような簡便な使用方法でありながら、天敵生物又はその餌ダニが生息する空間内の湿度を前記した適切な状態に保つことができる。園芸用に開発された高吸水性樹脂は、水で膨潤された後は水蒸気の状態で放湿するものであり、たとえ水を好む天敵生物や餌ダニが集まってきたとしても、その表面をそれらが歩行することも可能であり、決して水滴中で死んでしまうようなことはない。このような保水材を使用することは、天敵生物又はその餌ダニの増殖を持続的に可能とする生息環境を提供する上で重要な要素の1つである。
【0032】
前記した園芸用に開発された高吸水性樹脂としては、代表的なものとしてはポリアクリル酸塩架橋体からなるものが挙げられる。これらは、クリスタルソイルなどの名称でも販売されており、本発明では、このような製品に水を含ませて膨潤させたものを用いることができる。当該高吸水性樹脂としては、前記した材質で、直径0.5~3mm、望ましくは1~2mmに粒子状に成型したものが挙げられ、これを水で膨潤したものをそのまま、或いは、透湿性フィルム、不織布、ナイロン製ネット(例えば、商品名テトロンゴース)又はプラスチック製ネットなどの包装体に封入して用いることができる。また、前記直径に満たない小粒径の高吸水性樹脂の場合は、前記包装体に封入し、高吸水性樹脂の集積体として用いることができる。この際、当該包装体自体の網目の大きさが0.5mmを超えないもの、より望ましくは0.1mmを超えないものを用いることにより、天敵昆虫やその餌ダニが集積体内部へ侵入し、その中で死亡してしまうことを回避できる。また前記高吸水性樹脂は、予め吸水された状態で市販されているものを利用することもでき、吸水後の直径は概ね10~15mm程度であり、この大きさのものであれば、通常0.8~1.0gの水分を含んでいる。前記高吸水性樹脂の放湿量は0.01~0.5g/個/日、望ましくは0.05~0.2g/個/日である。この放湿量は、20℃、湿度75%における値である。放湿量の具体的な測定方法としては、吸水させた高吸水性樹脂を、20℃、湿度75%の恒温恒湿器内に1日間静置し、初期の重量と放湿後の重量の差を測定することにより算出できる。
【0033】
前記した園芸用に開発された高吸水性樹脂(予め吸水された状態のものを含む)は、具体的には市販されている、例えば、三洋化成製のアクアパール(商品名)やサンウェット(商品名);株式会社大創産業が販売するジュエルポリマーパール(商品名)などが使用できる。これらの高吸水性樹脂は、水を加えることで100倍以上に膨潤し、内部に多くの水を保水できる一方、放湿性を示す。本発明において、高吸水性樹脂製のボール(球)を使用する場合は、水を加えて膨潤させた状態で水滴を切って使用することが重要である。その理由は、先に述べたように、装置内に水滴が存在すると、天敵生物や餌ダニが水滴に向かって集まり、水滴中で死んでしまうことがあるため、増殖を安定して維持できなくなるからである。前記高吸水性樹脂製のボール(球)は、水を加えて膨潤させた状態のものを、そのまま本発明装置内に設置することが可能であり、また、水を加えて膨潤させた高吸水性樹脂製のボール(球)を複数で用いる場合は、それらを透湿性の袋などに封入された形態で、本発明装置内に設置することも可能である。
【0034】
前記した紙オムツなどで使用される高吸水性樹脂としては、ポリアクリル酸塩、ポリスルホン酸塩、無水マレイン酸塩、ポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール又はポリエチレンオキシドのような合成ポリマー系のもの、或いは、ポリアスパラギン酸塩、ポリグルタミン酸塩、ポリアルギン酸塩、デンプン、セルロース、吸収紙、綿状パルプのような天然物由来系のものが挙げられる。本発明では、これら高吸水性樹脂に水を含ませて膨潤させたものをそのまま、或いは、透湿性フィルム、不織布、ナイロン製ネット(例えば、商品名テトロンゴース)又はプラスチック製ネットなどの包装体に封入されたものを用いることができるが、当該高吸水性樹脂は微小径であるものが多く、包装体に封入されたものを用いることが取扱い上は望ましい。なお、包装体の表面が毛羽立って微小な間隙構造をつくるか、適当な凹凸を有する場合には、包装体は基材として機能することもできる。この際、当該包装体自体の網目の大きさが0.5mmを超えないもの、より望ましくは0.1mmを超えないものを用いることにより、天敵昆虫やその餌ダニが包装体内部へ侵入し、その中で死亡してしまうことを回避できる。また、本発明においては、紙オムツ自体を用いることができ、その場合、紙オムツは保水材である高吸水性樹脂を予め含んでいることから、使用時には紙オムツに吸水させればよい。紙オムツ(重量10.5g)に100gの水を吸湿させた場合の紙オムツ1個当りの放湿量は0.017g/分である。この放湿量は、25℃、湿度65%における値である。放湿量の具体的な測定方法としては、吸水させた紙オムツを、25℃、湿度65%の恒温恒湿器内に6時間静置し、初期の重量と放湿後の重量の差を測定することにより算出できる。
【0035】
また保水材は、水や、水を含ませた状態の前記高吸水性樹脂、自然由来物、ゲル化剤又は増粘剤を、ポリエチレン製のフィルムに封入したもので、水蒸気を放出できるように当該フィルムに小孔を設け構成されたものであってもよい。
【0036】
前述した通り、本発明においては、本発明装置内の湿度を、70%以上の状態に、例えば30日間維持することが望ましい。このためには、本発明装置内に配置させる保水材は、水蒸気を適切に放出し続けるものであることが重要である。このような機能を示す保水材として有用な高吸水性樹脂(高分子化合物)の素材としては、前記したようなものが挙げられる。中でも、周囲の温度に応じて水蒸気の放出が調節されるような機能性を示す、温度応答性の高分子化合物を利用することがより好ましい。具体的には、例えば、常温付近又はそれ以上の温度では水蒸気を放出し、常温を下回る温度、特に結露が懸念されるような温度では、水蒸気の放出が止まったり吸湿したりする機能性を示す高分子化合物を好適に利用できる。このような高分子化合物は市販のものを利用でき、商品毎に設定されている、放湿、吸湿温度を参考にして、本発明装置を適用する樹木又は作物や栽培施設の条件などに応じ適宜に選択して利用することが好ましい。この際、複数種の高分子化合物を併用することも好ましい形態である。また、前記した高吸水性樹脂(例えば高吸水性樹脂製のボール・球)は、吸水して膨潤した状態で本発明装置内に複数個を挿入した場合であってもその放湿量の総量は概ね一定であり、本発明装置内の湿度を所望の状態に維持するのに好適である。しかも、前記高吸水性樹脂を本発明装置内へ挿入する個数を調整することにより、所望の湿度を維持する期間を調整すること、例えば挿入する個数を増やせば、より長期間にわたり所望の湿度を維持することが可能となる。
【0037】
本発明装置を、温室、ビニールハウスなどの施設内に設置し使用する場合、これらの施設内は、通常、湿度調整が行われないことが多い。そのため、本発明装置内の湿度を所望の範囲に保つことは、天敵生物の安定放飼のために極めて有用である。本発明装置によれば、その装置内の湿度を70%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上に、少なくとも30日間維持することができる。保水材の使用量などの具体的な手段は、前記装置の大きさ、それに用いる材質の違いなどにより異なり、一概に規定することは難しいが、例えば、本発明装置内の湿度を70%以上に30日間以上維持することは、保水材を、水を含んだ状態の重量で、通常0.8~1000g、好ましくは4~200gとなるよう前記装置内に載置することで実現できる。園芸用に開発された高吸水性樹脂を保水剤とした本発明装置の場合には、通常0.8~20g、好ましくは4~10gとなるよう前記装置内に載置することで実現できる。なお、保水材の量が多くなればなるほど、多量の水を含むことができるため、本発明装置内の湿度をより長期間70%以上に維持できる。従って、水を含んだ状態での保水材の重量は上記例示に限定されない。
【0038】
(防水部材)
本発明において、防水部材を設けることにより、本発明装置を樹木又は作物に設置した後の、風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から当該装置(その内部の天敵生物)を保護することができる。防水部材を構成する材料としては、不透水性のものであればよく、例えば、ポリエチレンや塩化ビニールなどを素材とするものが挙げられる。本発明において防水部材は、前記素材のものをシート状、フィルム状、テープ状に形成したものが好適に利用され、例えば、養生テープが挙げられる。防水部材の大きさは、本発明装置に設置される基材及び保水材を覆う程度の大きさがあればよく、設置する対象の樹木や作物の種類や生育程度に応じ適宜調整することができる。また、防水部材を複数組み合わせたり、複数層に重ねたりして使用することにより、或いは、例えばテープ状の防水部材を樹木又は作物巻きつけて使用することにより、前記基材及び保水材を覆うことも可能である。
【0039】
(樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材)
本発明で用いることのできる樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置するための部材は、本発明装置を樹木又は作物(特に、それらの幹、枝、茎)、或いは農業用支柱又は農業用誘引線に設置又は固定することができる部材(以下、設置部材と記載する)であれば、特に制限されず、例えば紐、ゴム、面ファスナー、粘着テープ、針金、ネットなどが挙げられる。設置部材は、本発明装置を設置する対象の樹木や作物の種類や生育程度に応じ、適切な種類や大きさのものを選択することができる。
【0040】
(その他の態様)
本発明において、基材、保水材、防水部材、設置部材及び包装材の一部又は全ての機能を兼ね備えたものを用いてもよい。例えば、紙オムツ、尿取りパット、生理用品などのような、放湿性の保水材を基材と防水部材の間に挟んで包装して成るシート状吸収性物品は、列記された5種の材料の全ての機能を備えている。該吸収性物品は、一般に不織布;高吸水性樹脂、吸収紙、綿状パルプなどの保水材;ポリエチレン又は塩化ビニール製のフィルムなどの防水部材;面テープや粘着テープなどの設置部材を備えている。該吸収性物品中の不織布と防水部材は、保水材の包装材としても機能するものである。また、防水部材と設置部材を兼ね備えたものとして、片面が撥水加工された粘着テープ(例えば市販の養生テープ)などが挙げられる。本発明では、これらを好適に利用することができる。なお、本発明装置として、上記シート状の吸収性物品を樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置する場合は、防水部材が外側になるように設置するのが好ましい。
【0041】
(害虫)
本発明方法において防除対象となる害虫としては、例えばハダニ類、アザミウマ類、コナジラミ類、ホコリダニ類、サビダニ類が挙げられる。
【0042】
(樹木又は作物)
本発明に係る樹木又は作物としては、例えば、マンゴー、ナシ、リンゴ、オウトウ、モモ、ブドウ、ビワ、イチジク、柑橘のような果樹類;トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、メロン、スイカ、カボチャ、イチゴ、インゲンなどの野菜類;茶類;又はバラ、カーネーションなどの花卉類が挙げられ、前記した害虫が発生するような樹木又は作物に対して用いることができ、また当該害虫が発生する可能性がある場所で用いることができる。本発明装置を用いることで、前記害虫の発生の予防や防除をすることができる。
【0043】
(本発明装置の設置方法)
本発明装置は、天敵生物が風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から保護できるように設置される。例えば、基材及び保水材の外側に防水部材が配置され、草本や土表などに置いて設置される。または、基材及び保水材の外側に防水部材が配置され、設置部材を用いて作物栽培圃場にある樹木又は作物(特に、それらの幹、枝、茎)、或いは農業用支柱又は農業用誘引線に設置される。また、本発明装置は、天敵生物が増殖できるよう、餌ダニを装置内又は装置の外表面などに配置しても良い。樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に本発明装置を設置する場合、樹木、作物側或いは農業用支柱又は農業用誘引線側(内側)に天敵生物、基材及び保水材が配置され、更にそれらを覆うように(外側に)防水部材が配置されるよう設置する。このような配置にすることで、装置内の天敵生物、基材及び保水材を風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から保護することができる。
【0044】
本発明装置内の天敵生物、基材及び保水材の配置順序は特に制限されるものではなく、作物栽培圃場にある樹木又は作物側或いは農業用支柱又は農業用誘引線側に任意の順序でそれら部材が配置されてよい。例えば、樹木又は作物側或いは農業用支柱又は農業用誘引線側から順に、(1)天敵生物、基材及び保水材(但しこれらの配置順序は問わない)、(2)防水部材、(3)設置部材のように装置を樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線に設置(固定)することができる。また、樹木又は作物側或いは農業用支柱又は農業用誘引線側から順に、(1)、(3)、(2)のように装置を設置(固定)することもできる。さらに、天敵生物(パックに収容された製品でもよい)と保水材を、基材や防水部材で挟んだり、包んだりした状態で設置することも可能である。例えば、放湿性の保水材を基材と防水部材の間に挟んだり、包んだりした状態のものに天敵生物を備えて設置でき、保水材を基材と防水部材の間に挟んで包装して成るシート状吸収性物品に天敵生物を備えて設置してもよい。また、前記基材として、本発明装置の設置対象となる樹木又は作物の幹、枝、茎或いは、農業用支柱又は農業用誘線を挟んだり、それらに巻きつけたりすることが可能な程度の大きさを有するものを用い、天敵生物(パックに収容された製品でもよい)と保水材と共に樹木又は作物の幹、枝、茎を挟んだり、それら樹木又は作物の幹、枝、茎或いは、農業用支柱又は農業用誘引線に巻きつけたりした状態で設置することも可能である。なお、本発明装置の設置方法は、天敵昆虫が保護されるような状態で草本や土表に置いても良い。
【0045】
本発明において紙オムツを用いる場合、それは基材、保水材、防水部材及び設置部材を兼ね備えたものであることから、ここへ天敵生物(パックに収容された製品でもよい)と水を加え、樹木、作物、農業用支柱又は農業用誘引線など、作物栽培圃場に設置(付属の粘着テープで固定)することができる。
【0046】
上述する本発明装置は、天敵生物が風雨や農薬の高圧散布などの外部環境から保護できるように設置されるため、予め装置内に含まれておらず、後から備えた天敵生物をも増殖させることのできる天敵生物増殖用の装置としても用いることができる。
【実施例】
【0047】
本発明に関し、実施例で具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって限定的解釈を受けるものではない。
【0048】
(実施例1)
天敵生物としてスワルスキーカブリダニのパック製剤(商品名:スワルスキー・ブリーディングシステム、縦・横それぞれ6~7cmの大きさのティーバッグ形状の袋体に、スワルスキーカブリダニを250頭、餌ダニとしてのサトウダニを1000~2000頭、フスマを3g収容)1個、保水材として1個あたり0.8~1.0gの水を吸水した高吸水性樹脂(商品名:ジュエルポリマーパール、株式会社大創産業製)10個を用い、それらを微小な間隙構造又は細孔を有する基材であるフェルト(10cm×20cm)で挟み、防水部材と設置部材を兼ねた養生テープでポットに植えたマンゴー(品種:アーウィン、高さ:80~90cm程度)の主幹に巻きつけ固定した。
マンゴーのポットを2連制で設け、互いに接触しないよう間隔をあけてガラス温室内に設置した。設置6日後及び11日後に、マンゴーの全葉上のスワルスキーカブリダニの個体数を計測した。その結果を第1表に示す。この結果から、スワルスキーカブリダニが安定して放飼されていることがわかる。
また、設置17日後に、上記スワルスキーカブリダニのパック製剤中に生存しているスワルスキーカブリダニの個体数をパックを破き計測したところ76頭(2つのパック製剤の合計数)であった。この結果から、スワルスキーカブリダニの有効数(生存数)が維持され、長期的に放飼可能であることがわかる。
【0049】
【0050】
(実施例2)
天敵生物としてスワルスキーカブリダニのパック製剤(商品名:スワルスキー・ブリーディングシステム)1個を、100mlの水を吸水させたペット用オムツ(商品名(登録商標):マナーおむつ(超小型犬用)、第一衛材株式会社製)1個で挟み、ポットに植えたみかん樹(品種:宮川早生、高さ:80~90cm程度)の主幹に養生テープで巻きつけ固定した。パック製剤1個とペット用オムツ1個のセットを1樹に2セット固定した(発明区1)。100mlの水を吸水させたペット用オムツのみ2個をポットに植えたみかん樹の主幹に養生テープで巻きつけ固定し、スワルスキーカブリダニのパック製剤2個をペット用オムツの上部に吊り下げた(発明区2)。また、ペット用オムツを使用しないことを除いて発明区2と同様のみかん樹の場所にスワルスキーカブリダニのパック製剤2個を吊り下げた(比較区)。
前記みかん樹は、互いに接触しないよう間隔をあけてガラス温室内に設置した。設置14日後、18日後及び23日後に、みかんの全葉上のスワルスキーカブリダニの個体数と害虫のミカンハダニ数を計測した。その結果を第2表に示す。この結果から、スワルスキーカブリダニが安定して放飼され、ミカンハダニの個体数が抑制されていることがわかる。
【0051】
【0052】
上記の3つの試験区のパック製剤の近傍の温度及び湿度を自動温度湿度記録計を用いて測定した。発明区1と発明区2では、オムツの内部に自動温度湿度記録計のセンサーを設置した。比較区では、直射日光が当たらないようにして、パック製剤の近くにセンサーを設置した。その結果を第3表に示す。温度は試験区間で大きな差を認められなかったが、相対湿度は発明区1や発明区2の平均値、最低値は比較区に比べて高く、カブリダニや餌ダニの増殖にとって好適な環境であったことがわかる。
【0053】
【0054】
(実施例3)
天敵生物としてスワルスキーカブリダニのパック製剤(商品名:スワルスキー・ブリーディングシステム)1個を、100mlの水を吸水させたペット用オムツ(商品名:マナーおむつ(超小型犬用)、第一衛材株式会社製)1個で挟み、きゅうり(品種:半白節成、高さ:30~60cm程度)を植えたポットにさした支柱に養生テープで巻きつけ固定した(発明区3)。100mlの水を吸水させたペット用オムツのみ1個をポットにさした支柱に養生テープで巻きつけ固定し、スワルスキーカブリダニのパック製剤1個をペット用オムツの上部の支柱に吊り下げた(発明区4)。また、ペット用オムツを使用しないことを除いて発明区4と同様の場所にスワルスキーカブリダニのパック製剤1個を吊り下げた(比較区)。各区連制は2とした。
前記きゅうりは、互いに接触しないよう間隔をあけてガラス温室内に設置した。設置9日後、12日後及び14日後に、きゅうり上のスワルスキーカブリダニの個体数を計測した。その結果(2連制の合計)を第4表に示す。発明区では、比較区と比べて多くのスワルスキーカブリダニが観測された。
【0055】
【0056】
(実施例4)
天敵生物としてミヤコカブリダニのパック製剤(商品名:カルフォルニカス・ブリーディングシステム、バイオベスト社製、縦・横それぞれ6~7cmの大きさのティーバッグ形状の袋体に、ミヤコカブリダニを100頭、餌ダニとしてのサヤアシニクダニを1000~2000頭、フスマを3g収容)1個を、100mlの水を吸水させたペット用オムツ(商品名:マナーおむつ(超小型犬用)、第一衛材株式会社製)で挟み、きゅうり(品種:半白節成、高さ:30~60cm程度)を植えたポットにさした支柱に養生テープで巻きつけ固定した(発明区5)。100mlの水を吸水させたペット用オムツのみ1個をポットにさした支柱に養生テープで巻きつけ固定し、ミヤコカブリダニのパック製剤1個をペット用オムツの上部の支柱に吊り下げた(発明区6)。また、ペット用オムツを使用しないことを除いて発明区6と同様の場所にミヤコカブリダニのパック製剤1個を吊り下げた(比較区)。各区連制は2とした。
前記きゅうりは、互いに接触しないよう間隔をあけてガラス温室内に設置した。設置9日後、12日後及び14日後に、きゅうり上のミヤコカブリダニの個体数を計測した。その結果(2連制の合計)を第5表に示す。発明区では、比較区と比べて多くのミヤコカブリダニが観測された。
【0057】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の活用例としては、農園芸分野での害虫管理、特に、天敵生物の利用を中心としたIPM(総合的病害虫管理)において、有効に用いられる。