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特許7032635無駄時間補償装置及びそれを備えた共振抑制制御装置
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  • 特許-無駄時間補償装置及びそれを備えた共振抑制制御装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】無駄時間補償装置及びそれを備えた共振抑制制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 11/36 20060101AFI20220302BHJP
   G05B 13/04 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G05B11/36 501
G05B13/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017222813
(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公開番号】P2019095903
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(74)【代理人】
【識別番号】100085213
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100087538
【弁理士】
【氏名又は名称】鳥居 和久
(74)【代理人】
【識別番号】100087572
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 克明
(74)【代理人】
【識別番号】100105843
【弁理士】
【氏名又は名称】神保 泰三
(72)【発明者】
【氏名】増井 陽二
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-059186(JP,A)
【文献】特開2017-182179(JP,A)
【文献】特開2003-195905(JP,A)
【文献】特開2017-099084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 - 13/04
G05B 17/00 - 17/02
G05B 21/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無駄時間を有する制御対象に対して前記無駄時間の補償を行う無駄時間補償装置であって、
前記無駄時間をモデル化することにより、前記制御対象に対する入力指令に前記無駄時間を考慮する無駄時間補償部を備え、
前記無駄時間補償部は、前記無駄時間のパデ近似の逆数においてその分母がローパスフィルタの伝達関数に置き換えられた伝達関数を有する、無駄時間補償装置。
【請求項2】
請求項1に記載の無駄時間補償装置において、
前記制御対象の出力値を入力指令に対して負帰還させるフィードバックループをさらに備え、
前記無駄時間補償部は、前記フィードバックループに設けられている、無駄時間補償装置。
【請求項3】
請求項2に記載の無駄時間補償装置において、
前記無駄時間補償部は、前記フィードバックループ内の微分器に対する入力値に、前記無駄時間を考慮する、無駄時間補償装置。
【請求項4】
無駄時間を有する制御対象の出力値を入力指令に対して負帰還するフィードバックループを備えた多慣性共振システムの共振を抑制する共振抑制制御装置であって、
前記フィードバックループに設けられ、請求項1から3のいずれか一つに記載の無駄時間補償装置と、
前記フィードバックループに設けられ、振動の減衰比を調整する減衰比調整部と、
を備える、共振抑制制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無駄時間を有する制御対象に対して前記無駄時間の補償を行う無駄時間補償装置に関する。
【背景技術】
【0002】
制御対象を制御する際に、サンプリング周期及び制御装置内での通信等によって、前記制御対象に実際に入力される指令が入力指令に対して遅れることが知られている。このような遅れは、一般的に無駄時間と呼ばれる。この無駄時間は、前記制御対象の制御に影響を与えることが知られている。
【0003】
例えば、前記制御対象が複数の慣性を有し且つ共振を生じる多慣性共振システムの場合、該多慣性共振システムが無駄時間を有すると、前記制御対象の振動に影響を与えることが知られている。
【0004】
このような前記無駄時間による振動の影響を低減するために、例えば特許文献1に開示されている共振抑制制御装置が知られている。この共振抑制制御装置は、軸ねじれトルクの検出遅れによる無駄時間要素と、インバータのトルク伝達特性の無駄時間要素とを考慮して、軸ねじれトルク検出値をハイパスフィルタに通して共振周波数成分を抑制する。
【0005】
具体的には、前記共振抑制制御装置は、トルク指令から前記ハイパスフィルタの出力を減算し、該減算出力を位相補償器に通して位相補償後トルク指令値を求め、該位相補償後トルク指令値をモータトルク指令としてインバータに与える。なお、前記位相補償器の伝達関数GPHCは、以下のとおりである。
PHC=(α・s+ωphc)/(s+ωphc
【0006】
ただし、αは位相補償パラメータであり、ωphcは位相補償フィルタカットオフ周波数である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-99084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1に開示されている共振抑制制御装置は、ハイパスフィルタを用いることにより、軸ねじれトルク検出値のうち直流成分には影響を与えずに共振周波数成分を抑制できる。しかしながら、前記特許文献1の共振抑制制御装置では、モータトルク指令において無駄時間の影響を低減するために、位相補償器の伝達関数GPHCにおいて、無駄時間を考慮して位相補償パラメータαを適宜調整する必要がある。
【0009】
本発明の目的は、無駄時間を有する制御対象に対して前記無駄時間の補償を容易に行うことができる無駄時間補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る無駄時間補償装置は、無駄時間を有する制御対象に対して前記無駄時間の補償を行う無駄時間補償装置である。前記無駄時間補償装置は、前記無駄時間をモデル化することにより、前記制御対象に対する入力指令に前記無駄時間を考慮する無駄時間補償部を備え、前記無駄時間補償部は、前記無駄時間のパデ近似の逆数においてその分母がローパスフィルタの伝達関数に置き換えられた伝達関数を有する(第1の構成)。
【0011】
本発明者は、無駄時間の補償を行う無駄時間補償部について検討した。本発明者は、無駄時間の補償について検討する過程で、以下の点に気付いた。
【0012】
無駄時間をパデ近似で表して、その逆数を求めることにより、無駄時間を考慮した伝達関数が得られる。しかしながら、例えば前記無駄時間を1次のパデ近似で表した場合、(4)式のような式になるため、その逆数は(4)’式になる。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
このように、前記無駄時間のパデ近似の逆数は、分母=0のときにsが正になるため、時間の経過とともに値が発散する。すなわち、前記逆数の分母は、制御における不安定要素である。
【0016】
これに対し、上述の構成のように、前記逆数の分母をローパスフィルタの伝達関数(1+Ts:Tは時定数)とすることで、前記ローパスフィルタを通過する周波数領域では無駄時間を考慮して制御を行うことが可能になるとともに、制御が発散することを防止できる。
【0017】
前記第1の構成において、無駄時間補償装置は、前記制御対象の出力値を入力指令に対して負帰還させるフィードバックループをさらに備え、前記無駄時間補償部は、前記フィードバックループに設けられている(第2の構成)。これにより、制御対象の制御に用いられるフィードバックループにおいて、無駄時間を考慮できるため、例えば共振が生じる制御対象において振動を迅速且つ効果的に抑制できるなど、前記制御対象を精度良く制御することができる。
【0018】
前記第2の構成において、前記無駄時間補償部は、前記フィードバックループ内の微分器に対する入力値に、前記無駄時間を考慮する(第3の構成)。これにより、微分フィードバック制御を行うフィードバックループ内で無駄時間を考慮することができる。すなわち、制御対象に対して微分フィードバック制御を行った場合、共振が生じる場合があるが、上述の第1の構成のように無駄時間のパデ近似の逆数を用いることにより、共振を迅速且つ効果的に抑制できる。
【0019】
本発明の一実施形態に係る共振抑制制御装置は、無駄時間を有する制御対象の出力値を入力指令に対して負帰還するフィードバックループを備えた多慣性共振システムの共振を抑制する共振抑制制御装置である。この共振抑制制御装置は、前記フィードバックループに設けられ、上述の第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成を有する無駄時間補償装置と、前記フィードバックループに設けられ、振動の減衰比を調整する減衰比調整部と、を備える(第4の構成)。
【0020】
これにより、共振が生じる制御対象に対してフィードバックループを備えた多慣性共振システムの共振を、無駄時間を考慮して効果的に抑制できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態に係る無駄時間補償装置によれば、制御対象の入力指令に対して無駄時間を考慮する無駄時間補償部は、前記無駄時間のパデ近似の逆数においてその分母がローパスフィルタの伝達関数に置き換えられた伝達関数を有する。これにより、制御の発散を防止しつつ、前記無駄時間を考慮して前記制御対象を制御することができる。したがって、前記制御対象の制御において前記無駄時間の補償を容易に行うことができる無駄時間補償装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、実施形態に係る無駄時間補償装置を備えた試験装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図2図2は、制御対象に対して微分フィードバック制御を行うフィードバックループを示すブロック線図である。
図3図3は、制御対象のボード線図である。
図4図4は、制御対象のステップ応答を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態に係る無駄時間補償装置を備えた試験装置1の概略構成を機能ブロックで示す図である。この試験装置1は、自動車のモータなどの供試体Mの特性を試験するための試験装置である。なお、試験装置1で試験する供試体Mは、モータ以外の回転体であってもよい。
【0025】
具体的には、試験装置1は、制御装置2と、モータ駆動回路3と、電動モータ4と、トルク検出器5とを備える。
【0026】
制御装置2は、入力指令であるモータトルク指令rと後述のフィードバック値とを用いて、モータ駆動回路3に対する駆動指令を生成する。制御装置2は、トルク検出器5の出力値を用いてモータトルク指令rに対して負帰還するフィードバックループ10(共振抑制制御装置)を有する(図2参照)。なお、制御装置2が前記駆動指令を生成する構成は、従来と同様であるため、制御装置2の詳しい説明は省略する。フィードバックループ10の構成については後述する。
【0027】
モータ駆動回路3は、特に図示しないが、複数のスイッチング素子を有する。モータ駆動回路3は、前記駆動指令に基づいて前記複数のスイッチング素子が駆動することにより、電動モータ4の図示しないコイルに電力を供給する。
【0028】
電動モータ4は、図示しない回転子及び固定子を有する。前記固定子のコイルにモータ駆動回路3から電力が供給されることにより、前記回転子が前記固定子に対して回転する。前記回転子は、図示しない中間軸を介して、供試体Mに対し、供試体Mと一体で回転可能に連結されている。これにより、前記回転子の回転によって、電動モータ4から供試体Mにトルクを出力することができる。なお、電動モータ4の構成は、一般的なモータの構成と同様であるため、電動モータ4の詳しい説明は省略する。
【0029】
トルク検出器5は、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸に設けられている。トルク検出器5は、電動モータ4から出力されたトルクを検出する。トルク検出器5で検出されたトルクの出力値は、制御装置2にフィードバックループ10の入力値として入力される。すなわち、トルク検出器5の出力値は、フィードバック制御に用いられる。なお、トルク検出器5の構成は、従来の構成と同様であるため、トルク検出器5の詳しい説明は省略する。
【0030】
上述のような構成を有する試験装置1は、電動モータ4、トルク検出器5及び供試体Mを含む軸系の剛性によって、電動モータ4の回転時に機械共振(単に共振という)が生じる。供試体Mの試験において、前記共振が周波数の測定範囲内で発生した場合、トルク検出器5では、電動モータ4の出力トルクに前記共振の振動成分が加わったトルク(例えば軸トルク)が検出される。そのため、前記共振の振動成分を除去することが望まれる。また、前記軸系に対して外乱が加わった場合には、トルク検出器5で検出される軸トルクの値が大きく変動しやすい。
【0031】
これに対し、本実施形態において、制御装置2は、図2に示すように、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器5の出力値をフィードバックするフィードバックループ10を有する。すなわち、本実施形態の試験装置1は、制御装置2、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0032】
なお、図2において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器5の出力値であり、dは外乱であり、KDは微分係数であり、sは微分要素であり、Fd1及びFd2はフィルタ52の伝達関数である。
【0033】
また、図2における符号Pは制御対象であり、本実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。なお、制御対象Pには、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸のうち、電動モータ4からトルク検出器5までの範囲も含む。
【0034】
フィードバックループ10は、微分要素sを含む微分フィードバック系である。フィードバックループ10には、トルク検出器5の出力値が入力される。フィードバックループ10は、減衰比調整部51(微分器)と、フィルタ52(無駄時間補償装置)とを有する。減衰比調整部51は、微分要素s及び微分係数KDによって、制御対象に対する減衰比を調整する。フィルタ52は、制御対象Pの共振の各振動モードの一部を抽出する振動モード抽出部52aと、無駄時間の影響を排除する無駄時間補償部52bとを有する。フィードバックループ10では、トルク検出器5の出力値は、フィルタ52及び減衰比調整部51によって処理された後、フィードバック値としてモータトルク指令rに負帰還される。
【0035】
本実施形態では、制御対象Pが2次の振動モードを有する場合について説明する。すなわち、以下の説明において、制御対象Pは、1次の振動モードに関与する制御対象P1と2次の振動モードに関与する制御対象P2とを用いて、P=P1・P2で表される。なお、制御対象Pの振動モードは、3次以上であってもよい。
【0036】
共振を生じる制御対象Pの伝達関数は、固有振動数ωn及び減衰比ζを用いて、(1)式のような2次遅れ標準形の伝達関数で近似することができる。
【0037】
【数3】
【0038】
ここで、Kは振動モードのゲインである。また、各記号において、添え字が“1”の場合は、1次の振動モードに関係する値を意味し、添え字が“2”の場合は、2次の振動モードに関係する値を意味する。
【0039】
フィードバックループ10において、共振を抑制したい所定の振動モードをフィルタ52によって抽出した後、微分処理及び係数演算(KD・s)を行った信号をモータトルク指令rに対して負帰還させることで、前記所定の振動モードのみの振動を抑制することができる。
【0040】
具体的には、制御対象P1で生じる1次の振動モードの振動を抑えたい場合には、(1)式にP・Fd1=P1を代入して、(2)式のように、フィルタ52の振動モード抽出部52aにおける伝達関数Fd1を、制御対象P2で生じる2次の振動モードの逆関数で表す。
【0041】
【数4】
【0042】
上述の(2)式から得られるフィルタ52の振動モード抽出部52aにおける伝達関数Fd1を用いることにより、フィルタ52によって制御対象P1で生じる1次の振動モードのみが抽出される。これにより、フィードバックループ10における入力側と出力側との間の周波数特性は、(3)式で表される。
【0043】
【数5】
【0044】
上述の(3)式に示すように、前記周波数特性は、1次の振動モードの周波数特性を表す有理関数と2次の振動モードの周波数特性を表す有理関数との積の形で表される。よって、1次の振動モードのみに減衰比ζ1の調整項が含まれる。
【0045】
すなわち、フィルタ52の振動モード抽出部52aによって1次の振動モード以外の振動モード(本実施形態では2次の振動モード)を除去したうえで、微分処理及び係数演算を行うことができる。これにより、複数の振動モードを有する制御対象P(=P1・P2)に対しても、フィルタ52の振動モード抽出部52aによって所定の共振モード(1次の振動モード)のみを抽出して、該1次の振動モードに係る減衰比を調整することができる。したがって、前記1次の振動モードに対して共振抑制の効果を得ることができる。
【0046】
なお、制御対象Pの2次の振動モードに対して共振抑制の効果を得る場合も、P・Fd2=P2を上述の(1)式に代入することにより、フィルタ52の振動モード抽出部52aにおける伝達関数Fd2を得ればよい。また、上述の制御を制御装置等に実装する際には、Fd1、Fd2がプロパ関数となるように、分母に、制御帯域に影響しないローパスフィルタを追加する。
【0047】
ところで、試験装置1において制御対象Pを制御する際には、制御装置2のサンプリング周期及び通信等によって、モータトルク指令rに対して供試体Mに入力されるトルクが遅れを生じる。このような遅れは、いわゆる無駄時間と呼ばれ、制御対象Pの制御に影響を与える。
【0048】
特に、本実施形態のように共振を生じる制御対象Pの場合には、制御対象Pの制御時に上述のような無駄時間が存在すると、制御対象Pで生じる共振を十分に抑制できない場合がある。
【0049】
図3に、微分フィードバック制御を行わない場合、及び、上述の共振抑制制御を行った場合のボード線図を示す。なお、図3において、上図がゲイン特性を示すボード線図であり、下図が位相特性を示すボード線図である。図3のボード線図において、微分フィードバック制御を行わない場合(図3において“微分FBなし”)の波形を一点鎖線で示し、上述の共振抑制制御を行った場合(図3において“微分FBあり“)の波形を破線で示す。
【0050】
図3に示すように、微分フィードバック制御を行わない場合には、所定の周波数で共振によって振動が大きくなる。また、上述の共振抑制制御を行った場合でも、微分フィードバック制御を行わない場合に比べてピークは小さいものの、共振によって振動が大きくなる。
【0051】
これに対し、本実施形態では、フィルタ52の無駄時間補償部52bの伝達関数Fd2において、無駄時間を考慮する。一般的に、無駄時間を有理関数に近似する手法としてパデ近似が広く知られている。無駄時間をパデ近似で表した式を、(4)式に示す。このパデ近似を用いることにより、無駄時間をフィルタ52の無駄時間補償部52bの伝達関数Fd2で考慮することが可能になる。
【0052】
【数6】
【0053】
ここで、Lは、無駄時間である。
【0054】
本発明者は、フィルタ52の無駄時間補償部52bの伝達関数Fd2で無駄時間を考慮するために、上述の(4)式で表される無駄時間のパデ近似の逆数を用いることを思いついた。しかしながら、上述の(4)式を単に逆数にしただけでは、(4)’式のように、分母=0のときにsが正になるため、時間の経過とともに値が発散する。すなわち、前記逆数の分母は、制御における不安定要素であり、フィードバックループを用いて制御対象Pを制御することができない。
【0055】
【数7】
【0056】
これに対し、本発明者は、鋭意検討の結果、上述の(4)’式において、(5)式のように分母をローパスフィルタの伝達関数(1+Ts:Tは時定数)に置き換えることにより、値を発散させることなく、無駄時間を考慮した微分フィードバック制御が可能であることに想到した。
【0057】
【数8】
【0058】
すなわち、無駄時間のパデ近似の逆数を用いることにより、微分フィードバック制御で無駄時間を考慮しつつ、前記逆数の分母をローパスフィルタの伝達関数に置き換えることにより、制御の発散を防止できる。これにより、微分フィードバック制御において、無駄時間を考慮した制御と、無駄時間のパデ近似を用いても発散しない制御との両立を図れる。
【0059】
図3のボード線図に、無駄時間を考慮した場合(図3において“本実施形態”)を実線で示す。図3に示すように、無駄時間を考慮した場合には、微分フィードバック制御を行わない場合(図3における一点鎖線)及び既述の共振抑制制御のみを行った場合(図3における破線)に比べて、共振による振動を抑制することができる。
【0060】
図4にステップ応答を示す。図4では、無駄時間を考慮した場合(図4において“本実施形態”)を実線で示し、無駄時間を考慮せずに既述の共振抑制制御のみを行った場合(図4において“微分FBあり”)を破線で示す。この図4に示すように、無駄時間を考慮した場合には、無駄時間を考慮しない場合に比べて、振動が早く収束する。
【0061】
したがって、上述のように微分フィードバック制御において無駄時間を考慮することにより、共振を迅速且つ容易に抑制することができる。
【0062】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0063】
前記実施形態では、フィルタ52は、制御対象Pの各振動モードのうち一部の振動モードを抽出する振動モード抽出部52aと、無駄時間の影響を排除する無駄時間補償部52bとを有する。しかしながら、フィルタは、無駄時間補償部52bのみを有していてもよい。また、振動モード抽出部52aと無駄時間補償部52bとは、別のフィルタによって構成されていてもよい。
【0064】
前記実施形態では、微分フィードバック制御において無駄時間をフィルタ52の無駄時間補償部52bの伝達関数Fd2で考慮している。しかしながら、微分フィードバック制御以外の制御で且つ無駄時間が影響する制御に対して、前記実施形態のように無駄時間をフィルタの伝達関数で考慮してもよい。また、前記実施形態の構成は、制御対象の共振を抑制する場合以外にも適用可能である。
【0065】
例えば、前記実施形態のように無駄時間を考慮した制御を、フィードフォワード制御に適用してもよい。すなわち、フィードフォワードによって制御対象に対する指令を生成する際に、無駄時間のパデ近似の逆数において分母をローパスフィルタの伝達関数に置き換えた伝達関数を用いて、無駄時間を考慮した指令を生成してもよい。
【0066】
前記実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。しかしながら、制御対象は、他の構成を含んでもよいし、他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。
【0067】
前記実施形態では、無駄時間の1次のパデ近似を用いて説明したが、無駄時間(位相のずれ)によっては、2次以上のパデ近似を用いてもよい。また、複数の振動モードに対し、パデ近似を用いて無駄時間を考慮してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、無駄時間を有する制御対象に対して前記無駄時間の補償を行う無駄時間補償装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 試験装置
2 制御装置
3 モータ駆動回路
4 電動モータ
5 トルク検出器
10 フィードバックループ(共振抑制装置)
51 減衰比調整部(微分器)
52 フィルタ(無駄時間補償装置)
52a 振動モード抽出部
52b 無駄時間補償部
P、P1、P2 制御対象
図1
図2
図3
図4