(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/34 20140101AFI20220302BHJP
B23K 26/03 20060101ALI20220302BHJP
B23K 26/073 20060101ALI20220302BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20220302BHJP
【FI】
B23K26/34
B23K26/03
B23K26/073
B23K26/00 M
(21)【出願番号】P 2020516233
(86)(22)【出願日】2019-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2019016008
(87)【国際公開番号】W WO2019208270
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2020-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2018087297
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】猪瀬 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】松本 直幸
(72)【発明者】
【氏名】置田 大記
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-088120(JP,A)
【文献】米国特許第07094988(US,B1)
【文献】特開2015-024440(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/34
B23K 26/03
B23K 26/073
B23K 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、
前記構造部材に対す
るレーザ光の照射による入熱領域内に前記亀裂を収めるべく、スポット径が3mm未満の前記レーザ光を移動させて前記入熱領域を拡大させ、
該入熱領域を拡大するための前記レーザ光の照射は、温度センサで検出される前記構造部材の力学的溶融温度以下の部位、又は、予めデータとして取得した冷却時間が経過して前記構造部材の力学的溶融温度以下になった部位に対して成され、
前記レーザ光を前記亀裂に沿って複数回パスさせて、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるようにする補修用レーザ溶接方法。
【請求項2】
前記レーザ光の前記亀裂に沿う複数回のパスのうち、2回目以降のパスを初回パスの軌跡の両側で交互に行わせる請求項
1に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項3】
前記レーザ光を照射している部位にシールドガスを供給する請求項1
又は2に記載の補修用レーザ溶接方法。
【請求項4】
既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、
レーザ発振器と、
前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を前記構造部材に照射しつつ移動するレーザヘッドと、
前記レーザ光が照射された前記構造部材の温度分布を検出する温度センサと、
前記レーザヘッドから照射するレーザ光のスポット径及び前記レーザヘッドの移動をコントロールする制御部を備え、
前記制御部は、前記レーザヘッドから照射するレーザ光のスポット径を3mm未満に設定し、前記レーザ光の照射による入熱領域内に前記亀裂を収めるべく、前記レーザヘッドを移動させて前記入熱領域を拡大させ、該入熱領域を拡大するための前記レーザ光の照射を前記温度センサで検出される前記構造部材の力学的溶融温度以下の部位に対して行わせ
、前記レーザ光を前記亀裂に沿って複数回パスさせて、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるように前記レーザヘッドを制御する補修用レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、橋梁や建築物等の既設構造物の構造部材、或いは、機械部品等の機械構成部材に生じた亀裂の補修に用いるのに好適な補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁や建築物等の既設構造物の鋼材(構造部材)に、経年劣化や金属疲労によって亀裂が発生した場合には、例えば、レーザ光を用いた溶接補修装置を採用して、亀裂が生じている溶接補修箇所にレーザ光を照射することで、この溶接補修箇所を溶融させて亀裂を消去するようにしていた(特許文献1参照)。
【0003】
上記した構造部材に生じた亀裂の補修には、まず第1に亀裂を残さないことが要求される。したがって、上記した溶接補修装置によって亀裂をなくす場合には、比較的大きなスポット径(φ3~7mm)のレーザ光を亀裂に沿って移動させるようにしていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記した従来の溶接補修装置では、レーザ光のスポット径を大きくすることによるエネルギ密度の低下を補うために、大出力のレーザ光を使用したり、レーザスポットの移動速度を遅くしたりする必要があった。
【0006】
また、従来の溶接補修装置では、上記したように、大出力のレーザ光を使用したり、レーザスポットの移動速度を遅くしたりした場合において、レーザ光を下方に向けて照射する、いわゆる下向き姿勢での溶接では、溶け落ちが生じ易い。
【0007】
つまり、上記した従来のレーザ光を用いた溶接補修装置では、下向き姿勢での溶接の場合において、亀裂を残さず且つ溶け落ちを生じさせずに溶接を行うことが容易ではないという問題があり、これらの問題を解決することが従来の課題となっている。
【0008】
本開示は、上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、必要なレーザ出力の低減及び高速施工を実現したうえで、溶接姿勢が例え下向きであったとしても、溶け落ちを生じさせることなく簡単且つ確実に亀裂を消去することが可能な補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の第1の態様は、既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、前記構造部材に対するレーザ光の照射による入熱領域内に前記亀裂を収めるべく、スポット径が3mm未満の前記レーザ光を移動させて前記入熱領域を拡大させ、該入熱領域を拡大するための前記レーザ光の照射は、温度センサで検出される前記構造部材の力学的溶融温度以下の部位、又は、予めデータとして取得した冷却時間が経過して前記構造部材の力学的溶融温度以下になった部位に対して成され、前記レーザ光を前記亀裂に沿って複数回パスさせて、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるようにする構成としている。
ここで、「力学的溶融温度」とは、加熱されて低下する構造部材の降伏強度が失われる温度であり、施工後、放熱によって冷却され、この温度以下になると構造部材の降伏強度は回復する。
【0010】
本開示において、スポット径を3mm未満としているのは、高いエネルギ密度を得るためであるが、スポット径を小さくし過ぎると、亀裂を収める入熱領域を拡大するためのレーザ光の移動量が多くなって(亀裂のトレースが困難となって)実用性が損なわれるので、実用に即したスポット径を採用することが望ましい。
【0011】
本開示の第1の態様に係る補修用レーザ溶接方法では、構造部材に生じている亀裂を補修するに際して、構造部材に対するレーザ光の照射による入熱領域内に亀裂が収まるように、スポット径が3mm未満のレーザ光を移動させて入熱領域を拡げるので、亀裂残りのない溶接補修が簡単に成されることとなる。例え下向き姿勢の補修溶接であったとしても、レーザ光のスポット径が3mm未満であるため、同時に力学的溶融温度以上となる範囲が狭く、その結果、溶け落ちが回避されることとなる。
【発明の効果】
【0012】
本開示に係る補修用レーザ溶接方法によれば、必要なレーザ出力の低減及び高速施工を実現したうえで、例え下向き姿勢の補修溶接であったとしても、溶け落ちを回避しつつ簡単且つ確実に亀裂を消去することが可能であるという非常に優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本開示の一実施形態に係る補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を概略的に説明する模式図である。
【
図2A】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合のレーザ光を亀裂に沿って3回移動させる際のパス軌跡説明図である。
【
図2B】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合のレーザ光を亀裂に沿って7回移動させる際のパス軌跡説明図である。
【
図3A】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合の亀裂残りの要因となる溶け込み不足が生じる断面形状における形状係数説明図である。
【
図3B】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合の亀裂残りの要因となる溶け込み不足を回避し得る断面形状における形状係数説明図である。
【
図4】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合に溶接施工裕度を確認するのに用いられるグラフである。
【
図5】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合にレーザ光にウィービングを行わせて亀裂を跨がせる際のパス軌跡説明図である。
【
図6】
図1の補修用レーザ溶接装置により亀裂補修を行う場合にレーザ光に複数回亀裂を跨がせる際のパス軌跡説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係る補修用レーザ溶接方法に用いる補修用レーザ溶接装置を示している。
【0015】
図1に概略的に示すように、この補修用レーザ溶接装置1は、既設構造物の鋼材(構造部材)Wに生じた亀裂Waを溶融させて消去するものである。この補修用レーザ溶接装置1は、レーザ発振器2と、このレーザ発振器2から供給されるレーザ光Lを内蔵した光学系3により集光して亀裂Waが生じている補修箇所に照射するレーザヘッド4と、レーザ発振器2からのレーザ光Lをレーザヘッド4へ導く光ファイバ5と、レーザヘッド4を補修箇所に沿って移動させると共に補修箇所に接近離間させる駆動部6と、レーザ光Lが照射された鋼材Wの温度分布を検出する図示しない温度センサと、レーザ光Lを照射する補修箇所にノズル7を介してシールドガスGを供給するガス供給源8を備えている。
【0016】
また、この補修用レーザ溶接装置1は、レーザヘッド4から照射するレーザ光Lのスポット径や駆動部6によるレーザヘッド4の移動やガス供給源8からのガス供給量等をコントロールする制御部9を備えている。この制御部9は、レーザ光Lの焦点LFが鋼材Wの外部に位置するようにレーザヘッド4を制御すると共に、亀裂Waが生じている補修箇所に照射されるレーザ光Lのスポット径φが3mm未満になるようにレーザヘッド4を制御する。
【0017】
この場合、制御部9は、鋼材Wに対するスポット径φが3mm未満のレーザ光Lの照射による入熱領域内に亀裂Waを収めるべく、駆動部6に指令を与えてレーザヘッド4を移動させることで、入熱領域を拡げるようにしている。
【0018】
具体的に説明すれば、この実施形態において、レーザヘッド4を移動させて、
図2Aに示すように、スポット径φが3mm未満のレーザスポットS(レーザ光L)を鋼材Wの亀裂Waに沿って3回パス(移動)させることで、入熱領域を拡げるようにしている。そして、3回のパスP1~P3のうちの後続する2,3回目のパスP2,P3を1回目のパスP1の両側で行うようにしており、互いに隣接するレーザスポットSの各周縁部同士が重なるようにすることで、亀裂残りが生じないようにしている。
【0019】
この際、鋼材Wの温度分布が図外の温度センサで検出されており、レーザスポットSのパスP1~P3のうちのパスP1に続くパスP2,P3は、いずれも制御部9にコントロールされて、鋼材Wの力学的溶融温度以下になっている部位に対して行われる。すなわち、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるように制御部9によってコントロールされている。
【0020】
ここで、レーザスポットSのパスによる鋼材Wの溶融部分が力学的溶融温度以下になるまでの冷却時間を予めデータとして取得して蓄積しておき、この冷却時間が経過してパスP1による溶融部分が鋼材Wの力学的溶融温度以下になった部位に対してパスP1に続くパスP2,P3を行うようにしてもよい。
【0021】
なお、レーザスポットSを鋼材Wの亀裂Waに沿ってパスさせる回数は、上述した3回のパスに限定されるものではない。例えば、パスさせる回数は、2回や4~6回でもよいし、
図2Bに示すように、レーザスポットSを鋼材Wの亀裂Waに沿って7回パスさせるようにしてもよい。
【0022】
この場合も、7回のパスP1~P7のうちの後続する2回目以降のパスP2~P7を1回目のパスP1の両側で交互に行い、互いに隣接するレーザスポットSの各周縁部同士を重ね合わせて亀裂残りが生じないようにすることが望ましい。すなわち、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるように制御部9によってコントロールする。
【0023】
このように構成された補修用レーザ溶接装置1を用いて鋼材Wに生じている亀裂Waを補修するに際しては、制御部9からの指令により駆動部6を動作させて、レーザヘッド4を移動させると共に、制御部9からの指令によりガス供給源8からのシールドガスGの供給を開始する。
【0024】
このとき、レーザヘッド4から照射されるレーザ光Lのスポット径φは、制御部9により3mm未満に設定されており、レーザヘッド4の移動により、
図2Aに示すように、スポット径φが3mm未満のレーザスポットS(レーザ光L)を鋼材Wの亀裂Waに沿って1回パス(移動)させる。
【0025】
このレーザスポットSの1回のパスP1で亀裂Waをトレースし得ない場合は、パスP1に続いて2,3回目のパスP2,P3を行う。これらのパスP2,P3は、1回目のパスP1の両側で行い、互いに隣接するレーザスポットSの各周縁部同士を重ねることで、亀裂残りが生じないようにする。
【0026】
また、2,3回目のパスP2,P3は、図外の温度センサで検出される鋼材Wの温度分布に基づいて、先行するパスP1による溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから行われるように制御部9によってコントロールされ、このようなレーザスポットSの3回のパスP1~P3によって、鋼材Wの亀裂Waが消去されて溶接補修が完了する。
【0027】
この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置1によれば、鋼材Wに対するレーザ光Lの照射による入熱領域内に亀裂Waが収まるように、スポット径φが3mm未満のレーザスポットSを3回パスさせて入熱領域を拡げているので、亀裂残りのない溶接補修が簡単に成されることとなる。また、この実施形態のように、下向き姿勢の補修溶接の場合も、レーザ光Lのスポット径φが3mm未満であるため、同時に力学的溶融温度以上となる範囲が狭く、その結果、溶け落ちが回避されることとなる。
【0028】
この際、鋼材Wに照射するレーザ光Lはスポット径φが3mm未満のエネルギ密度の高いレーザ光なので、必要なレーザ出力が小さくて済むうえ、高速での施工を行い得ることとなる。
【0029】
また、温度センサで検出される温度情報により、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるように制御部9によってコントロールされているので、補修箇所において降伏強度が回復しない部位が生じることが回避されることとなる。
【0030】
さらに、この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置1では、スポット径φが3mm未満のレーザスポットSを亀裂Waに沿って3回パスさせる際に、パスP1~P3のうちの2,3回目のパスP2,P3を1回目のパスP1の両側で行うようにしている。したがって、パスP1,P2,P3が順次並ぶようにして重ねる場合と比較して、先行のパスによる溶融部分が力学的溶融温度以下になるのを待たなくて済む分だけ、施工時間の短縮が図られることとなる。
【0031】
そこで、この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置1による亀裂補修の施工裕度(補修箇所への入熱量Qの範囲)を確かめるべく、形状係数に基づいて良好と判定される場合の補修条件に対応する溶接施工条件でレーザ溶接を実施した。
【0032】
上記形状係数は、溶接施工後の断面形状における溶け込み深さH
WLを鋼材Wの厚みtで除して表され、この形状係数(H
WL/t)は、
図3Aに示す亀裂残りの要因となる溶け込み不足の断面形状において1.0よりも小さい。望ましくは、
図3Bに示す溶け込み不足を回避する断面形状のように、1.0以上に設定することがよく、より望ましくは、形状係数(H
WL/t)を1.1程度とする。
【0033】
図4の形状係数(H
WL/t)と入熱量パラメータ(Q/t)[J/mm・mm]との関係を表すグラフに示すように、この実施形態に係る補修用レーザ溶接であるタイプB(スポット径φ=0.8mm×3パス、シールドガスなし)及びタイプC(スポット径φ=0.8mm×3パス、シールドガスあり)では、溶接施工後の好ましい断面形状の形状係数を1.15≧(H
WL/t)≧1.00とする。この場合、タイプBではこの形状係数が1.15≧(H
WL/t)≧1.00に収まる施工裕度が36J/mm・mmであり、同じくタイプCでは形状係数が1.15≧(H
WL/t)≧1.00に収まる施工裕度が64J/mm・mmであり、いずれも施工の条件範囲が広いことが判る。
【0034】
これに対して、比較例として行った補修用レーザ溶接であるタイプA(スポット径φ=3.0mm×1パス、シールドガスなし)では、形状係数が1.15≧(HWL/t)≧1.00に収まるポイントが1点しかなく、施工裕度(施工の適正条件範囲)が極めて狭いことが判る。これにより、この実施形態に係る補修用レーザ溶接方法では、施工の条件範囲が広いことが実証できた。
【0035】
この際、シールドガスのないタイプBとシールドガスがあるタイプCとを比較すると、シールドガスがあるタイプCの方の溶け込みが少ないことが判る。したがって、溶接施工時において、シールドガスによる抜熱によって断面形状の微調整を行い得ることが判る。
【0036】
上記した実施形態では、スポット径φが3mm未満のレーザスポットSを亀裂Waに沿って3回(7回)パスさせる場合を示したが、これに限定されるものではない。他のパスパターンとして、
図5に示すように、亀裂Waの補修を行う場合に、レーザスポットSをジグザグのパスpを描くように移動させて(ウィービングさせて)亀裂Waを跨がせたり、
図6に示すように、亀裂Wa補修を行う場合に、レーザスポットSをパスp1~pnのように細かく移動させて複数回亀裂Waを跨がせたりしてもよい。
【0037】
本開示に係る補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置の構成は、上記した実施形態に限られるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
【0038】
本開示の第1の態様に係る補修用レーザ溶接方法は、既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶融させて消去する補修用レーザ溶接方法であって、前記構造部材に対するレーザ光の照射による入熱領域内に前記亀裂を収めるべく、スポット径が3mm未満の前記レーザ光を移動させて前記入熱領域を拡大させ、該入熱領域を拡大するための前記レーザ光の照射は、温度センサで検出される前記構造部材の力学的溶融温度以下の部位、又は、予めデータとして取得した冷却時間が経過して前記構造部材の力学的溶融温度以下になった部位に対して成され、前記レーザ光を前記亀裂に沿って複数回パスさせて、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるようにする構成としている。
【0039】
本開示の第1の態様では、構造部材に生じている亀裂を補修するに際して、構造部材に対するレーザ光の照射による入熱領域内に亀裂が収まるように、スポット径が3mm未満のレーザ光を移動させて入熱領域を拡げるので、亀裂残りのない溶接補修が簡単に成されることとなる。例え下向き姿勢の補修溶接であったとしても、レーザ光のスポット径が3mm未満であるため、同時に力学的溶融温度以上となる範囲が狭く、その結果、溶け落ちが回避されることとなる。
【0040】
この際、構造部材に照射するレーザ光はスポット径が3mm未満のエネルギ密度の高いレーザ光なので、必要なレーザ出力が小さくて済むうえ、高速での施工を行い得ることとなる。
【0041】
また、入熱領域を拡大するためのレーザ光の照射は、温度センサで検出される構造部材の力学的溶融温度以下の部位、又は、予めデータとして取得した冷却時間が経過して前記構造部材の力学的溶融温度以下になった部位に対して成されるので、補修箇所において降伏強度が回復せずに溶け落ちてしまう部位が生じることが回避されることとなる。
【0043】
また、本開示の第2の態様は、前記レーザ光の前記亀裂に沿う複数回のパスのうち、2回目以降のパスを初回パスの軌跡の両側で交互に行わせる構成としている。
【0044】
本開示の第2の態様では、パスが順次並ぶようにして重ねる場合と比較して、先行のパスによる溶融部分が力学的溶融温度以下になるのを待たなくて済む分だけ、施工時間の短縮が図られることとなる。
【0045】
さらに、本開示の第3の態様は、前記レーザ光を照射している部位にシールドガスを供給する構成としており、本開示の第3の態様では、シールドガスによる抜熱によって断面形状の微調整を行い得ることとなる。
【0046】
一方、本開示の第4の態様に係る補修用レーザ溶接装置は、既設構造物の構造部材に生じた亀裂を溶融させて消去する補修用レーザ溶接装置であって、レーザ発振器と、前記レーザ発振器から供給されるレーザ光を前記構造部材に照射しつつ移動するレーザヘッドと、前記レーザ光が照射された前記構造部材の温度分布を検出する温度センサと、前記レーザヘッドから照射するレーザ光のスポット径及び前記レーザヘッドの移動をコントロールする制御部を備え、前記制御部は、前記レーザヘッドから照射するレーザ光のスポット径を3mm未満に設定し、前記レーザ光の照射による入熱領域内に前記亀裂を収めるべく、前記レーザヘッドを移動させて前記入熱領域を拡大させ、該入熱領域を拡大するための前記レーザ光の照射を前記温度センサで検出される前記構造部材の力学的溶融温度以下の部位に対して行わせ、前記レーザ光を前記亀裂に沿って複数回パスさせて、先行するパスによる溶融部分が冷却されて力学的溶融温度以下になってから、後行のパスが行われるように前記レーザヘッドを制御する構成としている。
【0047】
本開示の第4の態様では、構造部材に生じている亀裂を補修するに際して、構造部材に対するレーザ光の照射による入熱領域内に亀裂が収まるように、スポット径が3mm未満のレーザ光を移動させて入熱領域を拡げるので、亀裂残りのない溶接補修が簡単に成される。つまり、例え下向き姿勢の補修溶接であったとしても、レーザ光のスポット径が3mm未満であるため、同時に力学的溶融温度以上となる範囲が狭い。その結果、溶け落ちが回避されることとなる。
【0048】
この際、構造部材に照射するレーザ光はスポット径が3mm未満のエネルギ密度の高いレーザ光なので、必要なレーザ出力が小さくて済むうえ、高速での施工を行い得ることとなる。加えて、入熱領域を拡大するためのレーザ光の照射は、温度センサで検出される構造部材の力学的溶融温度以下の部位に対して成されるので、補修箇所において降伏強度が回復せずに溶け落ちてしまう部位が生じることが回避されることとなる。
【0049】
本開示の補修用レーザ溶接方法及び補修用レーザ溶接装置において、レーザには、ファイバーレーザやYAGレーザや半導体レーザを用いるのが一般的であるが、これらのものに限定されない。
【符号の説明】
【0050】
1 補修用レーザ溶接装置
2 レーザ発振器
4 レーザヘッド
8 ガス供給源
9 制御部
G シールドガス
L レーザ光
P,P1~P7 パス
p,p1~pn パス
S レーザスポット(レーザ光)
W 鋼材(構造部材)
Wa 亀裂
φ スポット径