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特許7032745薬剤投与デバイス、及び薬剤投与システム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】薬剤投与デバイス、及び薬剤投与システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/158 20060101AFI20220302BHJP
   A61M 5/142 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A61M5/158 500T
A61M5/142 522
【請求項の数】 43
(21)【出願番号】P 2020557350
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050883
(87)【国際公開番号】W WO2020138193
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-09-09
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2018241860
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019205869
(32)【優先日】2019-11-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019224089
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000149435
【氏名又は名称】株式会社大塚製薬工場
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(72)【発明者】
【氏名】小林 只
(72)【発明者】
【氏名】米田 博輝
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博之
(72)【発明者】
【氏名】穐元 崇
(72)【発明者】
【氏名】御澤 秀壽
(72)【発明者】
【氏名】林 洸仁
(72)【発明者】
【氏名】武田 光市
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 敏光
(72)【発明者】
【氏名】森田 知樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 慎一郎
【合議体】
【審判長】内藤 真徳
【審判官】平瀬 知明
【審判官】栗山 卓也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-525078(JP,A)
【文献】特表2008-520369(JP,A)
【文献】特表2010-516337(JP,A)
【文献】特開2005-87519(JP,A)
【文献】特開2016-107044(JP,A)
【文献】特開2010-525869(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046868(WO,A1)
【文献】特表2010-531197(JP,A)
【文献】特開2013-162875(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0046243(US,A1)
【文献】特表2005-538755(JP,A)
【文献】国際公開第2017/139119(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/107806(WO,A2)
【文献】特表2016-533860(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/158
A61M 5/142
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記本体部と前記移動部とを連結する、少なくとも1つの連結部と、
を備え、
前記移動部は、前記本体部が皮膚に配置された状態で、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で往復動可能に構成され、
前記移動部は、外力を加えない状態で、前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持されるように構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
前記本体部、移動部、及び連結部は、一体的に形成されており、
前記移動部を前記第2のポジションへ移動させるために要する力が、前記移動部を前記第1のポジションへ移動させるために要する力よりも小さくなるように構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項2】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された筒状の本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた、平面視円形状の移動部と、
前記本体部と前記移動部とを連結する、環状の連結部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部は、外力を加えない状態で、前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持されるように構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
前記連結部の一端部は、前記移動部の外周面の全周に亘って連結され、
前記連結部の他端部の全周が、前記本体部に連結され、
前記本体部、前記移動部、及び前記連結部は、エラストマーにより一体的に形成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項3】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された筒状の本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記本体部と前記移動部とを連結する、複数の連結部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部は、外力を加えない状態で、前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持されるように構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
複数の前記連結部は、前記針部材の周囲において所定間隔おきに放射状に配置された複数の部位によって形成され、
前記各連結部は第1端部と、前記第1端部の反対側の第2端部とを有しており、
前記各連結部の第1端部は、前記移動部にそれぞれ連結され、前記各連結部の第2端部は、前記本体部に所定間隔をおいて連結されている、薬剤投与デバイス。
【請求項4】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記移動部に連結され、道具または指で把持可能な板状の操作部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記移動部を前記第2のポジションから前記第1のポジションに移動させるときに、前記操作部が利用可能に構成されており、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
前記針部材は、前記操作部に連結され、前記移動部から前記皮膚側へ突出している、薬剤投与デバイス。
【請求項5】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記移動部に連結され、道具または指で把持可能な板状の操作部と、
前記操作部の内部に形成され、薬剤を貯める貯留部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポ
ジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
前記貯留部から前記針部材へ薬剤が供給されるように構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項6】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された筒状の本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記本体部を支持し、前記皮膚に配置される基台と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されており、
前記基台は、前記本体部の外周全体を囲み、且つ前記本体部の径方向外方に延びるように形成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項7】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記本体部と一体的に形成され、前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
当該薬剤投与デバイスの再利用を防止するために、前記移動部を前記本体部から切断して離脱させるための離脱手段と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項8】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
前記移動部に連結され、道具または指で把持可能な操作部と、
少なくとも前記針部材の先端部を覆うことが可能な、前記操作部に連結された筒状のカバー部材と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が、初期状態である前記第1のポジションから前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成され、
前記カバー部材は、前記移動部とともに前記第1のポジションから第2のポジションに移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記カバー部材から露出し、前記移動部が前記第2のポジションから前記第1のポジションに移動した後に、前記針部材を皮膚から離れる方向に移動させると、前記カバー部材が前記針部材の先端部を覆うとともに、覆った状態を保持するように構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項9】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
筒状に形成され、前記本体部よりも上方に突出する収容部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記収容部は、前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、少なくとも前記移動部の外周面を囲むように、当該移動部を収容するように構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項10】
薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、
患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、
前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、
を備え、
前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成され、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、
前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成され、
前記針部材は、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれた状態で、前記移動部に対し、当該針部材の軸周りに、軸方向の位置を固定したまま回転可能に構成されている、薬剤投与デバイス。
【請求項11】
前記移動部は、外力を加えない状態で、前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持されるように構成されている、請求項4から10のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項12】
前記本体部と前記移動部とを連結し、前記移動部を前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持可能に構成された、少なくとも1つの連結部をさらに備えている、請求項4から11のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項13】
前記連結部は、弾性変形可能な材料により形成され、前記第1のポジションにおいて第1状態となり、前記第2のポジションにおいて第2状態となるように構成され、
前記連結部は、前記第1状態において上方に延び、前記第2状態において下方に延びた状態となり、
前記連結部は、弾性変形を伴って、前記第1状態と前記第2状態との間を遷移するように構成されている、請求項1、2、3または12に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項14】
前記連結部は、弾性変形可能な材料により形成され、前記第1のポジションにおいて第1状態となり、前記第2のポジションにおいて第2状態となるように構成され、
前記各連結部は、前記第1状態において折り曲げられ、前記第2状態において前記第1状態よりも延びた状態となるか、または前記第2状態において折り曲げられ、前記第1状態において前記第2状態よりも延びた状態となる、請求項1、2、3または12に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項15】
前記連結部は、2~10個設けられている、請求項13または14に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項16】
前記本体部、前記移動部、及び前記連結部は、一体的に形成されている、請求項3,12から15のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項17】
前記本体部、前記移動部、及び前記連結部は、弾性変形可能な、エラストマー、硬質樹脂、または金属によって形成されている、請求項1、3、12から16のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項18】
前記本体部は、筒状に形成され、
前記移動部は、前記第2のポジションにあるとき、少なくとも一部が前記本体部に収容されるように構成されている、請求項1から17のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項19】
前記薬剤を供給する薬剤ラインを取り付け可能に構成され、
前記薬剤ラインから前記針部材に前記薬剤が供給される、請求項1から18のいずれか
に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項20】
前記移動部に連結され、道具または指で把持可能な操作部をさらに備えている、請求項1から3、6、7、9から19のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項21】
前記操作部は、前記本体部よりも外形の大きい板状に形成されている、請求項4、5、8,20のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項22】
前記操作部に接続される延在部をさらに備えており、
前記移動部が第2のポジションにあるとき、前記延在部が、前記本体部の少なくとも一部を覆うように構成されている、請求項21に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項23】
前記操作部は前記移動部の外周から径方向外方に突出するように構成されており、
前記移動部が前記第1のポジションにあるときに、前記操作部と前記本体部との間に着脱自在に配置され、前記移動部が前記第2のポジションに移動するのを規制するストッパをさらに備えている、請求項4、5、8、20から22のいずれかに記載 の薬剤投与デ
バイス。
【請求項24】
薬剤を貯める貯留部をさらに備えており、
前記貯留部から前記針部材へ薬剤が供給されるように構成されている、請求項1から4、6から23のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項25】
前記本体部を支持し、前記皮膚に配置される基台をさらに備えている、請求項1から5、7から24のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項26】
前記基台において、前記皮膚に接する面の少なくとも一部に配置された粘着材をさらに備えている、請求項6または25に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項27】
前記基台と前記皮膚との間に隙間が形成されるように、前記基台の周縁の前記皮膚と対向する面に凹部が形成されている、請求項6、25または26に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項28】
前記基台に、複数の薬剤投与部が配置されており、
前記薬剤投与部は、前記本体部、前記移動部、及び前記針部材を備えている、請求項6、25から27のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項29】
前記複数の薬剤投与部の全ての前記移動部が連結されるように構成されている、請求項28に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項30】
前記本体部と前記移動部とを連結し、前記移動部を前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持可能に構成された、少なくとも1つの連結部をさらに備え、
前記基台、前記本体部、前記移動部、及び前記連結部は弾性変形可能な、エラストマー、硬質樹脂、または金属により一体的に形成されている、請求項6、25から29のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項31】
前記本体部が前記皮膚に取り付けられるように構成され、
前記本体部と前記皮膚との間に隙間が形成されるように、前記本体部に凹部が形成されている、請求項1から5、7から24のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項32】
前記操作部に前記針部材が固定されており、前記操作部を前記針部材とともに、前記移動部から離脱可能に構成されている、請求項4、5、8、20から22のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項33】
少なくとも前記針部材の先端部を覆うことが可能なカバー部材をさらに備え、
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記カバー部材から露出し、前記移動部が前記第2のポジションから前記第1のポジションに移動した後に、前記カバー部材が前記針部材の先端部を覆うとともに、覆った状態を保持するように構成されている、請求項1から7、9から32のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項34】
使用前の前記第1のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記カバー部材に覆われるように構成されている、請求項8または33に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項35】
前記カバー部材は、前記針部とともに前記移動部から離脱可能に構成されている、請求項8、33、または34に記載の薬剤投与デバイス。
【請求項36】
前記針部材の太さは、30ゲージ~35ゲージである、請求項1から35のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項37】
当該薬剤投与デバイスにおいて、前記皮膚に固定される面から、前記針部材が突出する長さは、1~10mmである、請求項1から36のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項38】
前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、少なくとも前記移動部を収容するように構成された収容部をさらに備えている、請求項1から8、10から37のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項39】
前記針部材は、前記移動部に対し、当該針部材の軸周りに回転可能に構成されている、請求項1から9、11から38のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項40】
初期状態において、前記移動部は前記第1のポジションに位置している、請求項1から39のいずれかに記載の薬剤投与デバイス。
【請求項41】
請求項1から40のいずれかに記載の、少なくとも1つの薬剤投与デバイスと、
少なくとも1つの薬剤容器と、
前記薬剤容器から前記各薬剤投与デバイスへ薬剤を供給する薬剤ラインと、
を備えている、薬剤投与システム。
【請求項42】
前記薬剤容器が輸液容器である、請求項41に記載の薬剤投与システム。
【請求項43】
請求項1から40のいずれかに記載の、少なくとも1つの薬剤投与デバイスと、
前記針部材に薬剤を供給可能なシリンジと、
を備えている、薬剤投与システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤投与デバイス、及び薬剤投与システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、輸液バッグに収容された薬剤を、カテーテルを介して患者の末梢静脈に投与する末梢静脈輸液療法が知られている。しかし、年齢や疾病、患者状態においては末梢静脈の確保が困難な場合があり、さらに高齢者や認知症患者、あるいは乳幼児を含む小児においては自らが抜針することで出血するといった問題等があった。
【0003】
これらの患者に対する輸液療法として、近年、皮下輸液療法が見直されている。皮下輸液療法によれば、末梢静脈の確保が困難であるという問題は解消され、安全性や管理性など他の点に対してもメリットが大きいと言える。今後、医療現場に皮下輸液療法が普及していく中で、対応が求められてくるであろう医療現場のニーズとリスク共に対応した製品が望まれると考えられる。例えば、特許文献1に記載の薬剤投与デバイスは、薬剤ラインに連結された複数の針部材が突出した基板を有しており、この基板を皮膚に貼り付けることで針部材を皮膚に刺し込み、薬剤を皮下投与できるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第7150726号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のデバイスでは、基板を皮膚に貼り付けと同時に、針部材が皮膚に刺し込まれるため、針の位置決めと針の穿刺を同時に行わなければならず、操作が煩雑であった。また、針部材が露出しているため、安全面でも問題があった。さらに、針部材が露出することで、患者には、針部材を皮膚に刺し込むという精神的障壁が存在すると考えられる。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、皮下に液状薬剤の投与を容易に行うことができる、薬剤投与デバイス及び薬剤投与システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る薬剤投与デバイスは、薬剤を皮下投与するための薬剤投与デバイスであって、患者の皮膚に配置されるように構成された本体部と、前記皮膚側に向けて突出する少なくとも1つの針部材が取り付けられた移動部と、を備え、前記移動部は、前記皮膚から離間する第1のポジションと前記皮膚に近接する第2のポジションと、の間で移動可能に構成されと、前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記皮膚に刺し込まれるように構成され、前記薬剤が、前記針部材に設けられた穴から排出されるように構成されている。
【0008】
この構成によれば、移動部を第1のポジションから第2のポジションに移動することで、針部材を皮膚に刺し込むことができる。針部材に設けられた穴からは、薬剤を排出できるため、移動部を第2のポジションに移動させるだけで、薬剤を皮下投与することができる。したがって、例えば、医療者または患者自らが、簡単な操作によって薬剤の皮下投与を行うことができる。
【0009】
なお、針部材は、移動部に直接取り付けられてもよいし、他の部材を介して間接的に取り付けられてもよい。また、本体部は患者の皮膚に配置されるものであるが、これは、直接的に配置されることのほか、粘着材などの他の部材を介して間接的に配置されることも含む意味である。
【0010】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記移動部は、外力を加えない状態で、前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持されるように構成することができる。
【0011】
この構成によれば、針部材が皮膚に差し込まれた状態、または皮膚から離間した状態の少なくとも一方に、外力を加えないで保持できるため、デバイスの取り扱いが容易になる。なお、いずれかのポジションに外力を加えなければ保持されないように構成されている場合には、ストッパなどの他の治具などを用いて、強制的にいずれかのポジションに保持することができる。
【0012】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記本体部と前記移動部とを連結し、前記移動部を前記第1のポジション及び前記第2のポジションの少なくとも一方に保持可能に構成された、少なくとも1つの連結部をさらに備えることができる。このほか、例えば、本体部とは連結されない部材によって、移動部をいずれかのポジションに保持することもできる。
【0013】
本体部と移動部とを連結部により連結することで、例えば、最終的な製品の部品点数を少なくすることができる。また、連結部を設けることで、簡易な構成により移動部のポジションの保持することができる。
【0014】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記連結部は、種々の構成にすることができるが、例えば、針部材の周囲全体を囲むように構成できる。連結部を複数設ける場合には、前記針部材の周囲において所定間隔おきに放射状に配置することができる。
【0015】
この構成によれば、複数の連結部が、所定間隔おきに放射状に配置されているため、移動部をその周方向においてバランスよく支持することができる。そのため、移動部が第1のポジションと第2のポジションとの間を移動する際に、移動部が傾きながら移動するなどの不具合を抑制することができる。
【0016】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記各連結部は、弾性変形可能な材料により形成され、前記第1のポジションにおいて第1状態となり、前記第2のポジションにおいて第2状態となるように構成され、前記各連結部は、前記第2状態において折り曲げられ、前記第1状態において前記第2状態よりも延びた状態となり、前記連結部は、弾性変形を伴って、前記第1状態と前記第2状態との間を遷移するように構成することができる。
【0017】
この構成によれば、連結部が、弾性変形を伴って、第1状態と第2状態との間を遷移するように構成されているため、連結部に弾性変形を伴うような外力が作用しない限り、移動部を第1のポジションまたは第2のポジションに保持することができる。
【0018】
このように、連結部を複数設ける場合、例えば、2~10個設けることができる。
【0019】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記本体部、移動部、及び連結部は、一体的に形成することができる。
【0020】
この構成によれば、本体部、移動部、及び連結部を1つの部材として取り扱うことができ、薬剤投与デバイス全体の構造を簡易にすることができる。したがって、部品点数が少なくなるため、製造コストも低減することができる。
【0021】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記本体部、移動部、及び連結部は、弾性変形可能な、エラストマー、硬質樹脂、または金属によって形成することができる。
【0022】
この構成によれば、エラストマーで形成すると、曲面状の皮膚に対する追従性が高く、針部材を皮膚に対して、的確に穿刺することができる。硬質樹脂、または金属で形成すると、外力に対して安定なデバイスとなる。
【0023】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記本体部は、筒状に形成することができ、前記移動部は、前記第2のポジションにあるとき、少なくとも一部が前記本体部に収容されるように構成することができる。
【0024】
この構成によれば、移動部が第2のポジションにあるときに、針部材が本体部に収容された状態で皮膚に刺し込まれるため、例えば、穿刺中に薬剤投与デバイスに外力がかかっても、針部材への影響を低減でき、針の抜けや折れ、あるいは皮膚に刺し込まれたまま針部材が動くことを防止することができる。
【0025】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記薬剤を供給する薬剤ラインを取り付け可能に構成され、前記薬剤ラインから前記針部材に前記薬剤を供給することができる。
【0026】
これにより、例えば、薬剤ラインを用いて輸液バッグ等の薬剤容器に接続すれば、長時間に亘って、薬剤を投与することができる。
【0027】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記移動部に連結され、道具または指で把持可能な操作部をさらに備えることができる。
【0028】
この構成によれば、操作部を道具や指で引っ張ることで、例えば、移動部を第2のポジションから第1のポジションへ容易に移動させることができる。
【0029】
操作部の構成は、特には限定されないが、例えば、前記操作部は、前記本体部よりも外形の大きい板状に形成することができる。
【0030】
これにより、本体部の軸方向において、操作部をコンパクトにすることができる。また、操作部を大きくすることにより、穿刺時に指で操作部を面で押すことが可能となり、安定的な穿刺動作に寄与する。
【0031】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記操作部に接続される延在部をさらに備えることができ、前記移動部が第2のポジションにあるとき、前記延在部が、前記本体部の少なくとも一部を覆うように構成することができる。
【0032】
この構成によれば、移動部が第2のポジションにあるとき、延在部が、本体部の少なくとも一部を覆うように構成されているため、延在部を皮膚に接触させたり、あるいは皮膚の近傍に配置することができる。したがって、第2のポジションにおいて、操作部を安定的に保持することができる。これにより、操作部が本体部全体を保護し、例えば、操作部に横方向から衝撃や負荷が作用したときに、操作部とともに移動部がずれたり、浮き上がったりするのを防止することができる。そのため、皮膚に刺し込まれた針部材が不意に抜けたり、皮膚に刺し込まれたまま針部材が動くのを防止することができる。
【0033】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記操作部は前記移動部の外周から径方向外方に突出するように構成することができ、前記移動部が前記第1のポジションにあるときに、前記操作部と前記本体部との間に着脱自在に配置され、前記移動部が前記第2のポジションに移動するのを規制するストッパをさらに備えることができる。
【0034】
この構成によれば、移動部が第1のポジションにあるときに、操作部と本体部との間に配置できるストッパを備えている。したがって、このストッパにより、操作部が、意図せず、本体部側に移動し、第2のポジションに移動するのを防止することができる。したがって、移動部を第1のポジションに保持することができる。
【0035】
上記薬剤投与デバイスにおいては、薬剤を貯める貯留部をさらに備えており、前記貯留部から前記針部材へ薬剤が供給されるように構成することができる。なお、貯留部には、薬剤ラインから薬剤を供給することもできる。
【0036】
この構成によれば、例えば、インスリン等の少量の薬剤を貯留部に収容することができる。そして、薬剤投与デバイスの移動部が第2のポジションにあるとき、例えば、貯留部を押すなどして圧力をかけると、貯留部中の薬剤を患者に投与することができる。また、貯留部には、薬剤ラインから薬剤を供給することができる。この場合、通常は、薬剤ラインから針部材に薬剤が供給されるが、例えば、何らかの理由で、薬剤ラインからの薬剤の供給が急に途絶えた場合、貯留部に収容されている薬剤を針部材から排出することができるため、薬剤の投与が中断されるのを防止し、安定的な薬剤の投与に寄与することができる。
【0037】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記本体部を支持し、前記皮膚に配置される基台をさらに備えることができる。
【0038】
この構成により、薬剤投与デバイスを広い面積で皮膚に固定することができるため、このデバイスを皮膚に安定的に固定することができる。
【0039】
上記薬剤投与デバイスでは、前記基台において、前記皮膚に接する面の少なくとも一部に配置された粘着材をさらに備えることができる。
【0040】
この構成によれば、これにより、基台を皮膚に対して強固に固定することができ、長時間わたる薬剤の投与が可能となる。
【0041】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記基台と前記皮膚との間に隙間が形成されるように、前記基台の周縁における前記皮膚に対向する面に凹部を形成することができる。
【0042】
この構成によれば、凹部により、基台と皮膚との間に指を入れることができるため、基台を皮膚から容易に取り外すことができる。
【0043】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記基台に、複数の薬剤投与部を配置することができる。前記薬剤投与部は、前記本体部、前記移動部、及び前記針部材、を備えることができる。なお、薬剤投与部は、本体部、移動部、及び針部材のほか、必要に応じて、例えば、上述した連結部も含めることができる。
【0044】
これにより、短時間で多量の薬剤を皮下投与することができる。なお、薬剤投与部には、上述した連結部を含めることもできる。
【0045】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記複数の薬剤投与部の全ての前記移動部が連結されるように構成することができる。
【0046】
この構成によれば、全ての移動部が連結されているため、一の操作によって、全ての薬剤投与部の移動部を第1のポジションから第2のポジションに移動、または第2のポジションから第1のポジションに移動させることができる。したがって、作業を効率的に進めることができる。なお、移動部は、例えば、上述した操作部によって連結することができる。
【0047】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記本体部を支持し、前記皮膚に配置される基台をさらに備えることができ、前記基台、前記本体部、移動部、及び連結部をエラストマーにより一体的に形成することができる。
【0048】
この構成によれば、皮膚に配置される基台もエラストマーで形成されているため、皮膚表面に追従するように基台を変形させて配置することができる。また、基台が、本体部、移動部、及び連結部と一体的に形成されているため、基台の皮膚に対する変形に、本体部、移動部、及び連結部も追従させることができる。したがって、移動部から突出する針部材を、基台の貫通孔から正確に突出させることができる。さらに、長時間に渡り薬剤投与デバイスを皮膚に装着しても、薬剤投与デバイスが皮膚から剥がれるリスクを低減することができる。また、デバイスの部品点数が少なくなり、基台、本体部、移動部、連結部からなる部材を射出成型等の方法で作成できることで、製造コストが抑えられるとともに、廃棄も簡単になる。また、部品点数が少ないことで、構造がより単純化し、不慣れな使用者でも扱いやすいものとなる。
【0049】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記本体部が前記皮膚に取り付けられるように構成され、前記本体部と前記皮膚との間に隙間が形成されるように、前記本体部に凹部を形成することができる。
【0050】
この構成によれば、凹部により、本体部と皮膚との間に指を入れることができるため、本体部を皮膚から容易に取り外すことができる。
【0051】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記操作部に前記針部材が固定され、前記操作部を前記針部材とともに、前記移動部から離脱可能に構成することができる。
【0052】
この構成によれば、薬剤の皮下投与後に、操作部を本体部から引っ張ると、針部材を移動部から離脱させることができる。これにより、薬剤投与デバイスの再利用を防止することができるとともに、針部材の分別回収を行うことができる。
【0053】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記針部材を前記本体部から離脱させるための離脱手段をさらに備えることができる。
【0054】
この構成によれば、薬剤の皮下投与後に、離脱手段により、薬剤投与デバイスが破壊され、薬剤投与デバイスの再利用を防止することができる。また、針部材の分別回収を行うことができる。
【0055】
上記薬剤投与デバイスにおいては、少なくとも前記針部材の先端部を覆うことが可能なカバー部材をさらに備えることができ、前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記カバー部材から露出し、前記移動部が前記第2のポジションから前記第1のポジションに移動した後に、前記カバー部材が前記針部材の先端部を覆うとともに、覆った状態を保持するように構成することができる。
【0056】
この構成によれば、薬剤の皮下投与後に、移動部を第1のポジションに移動した後に、カバー部材によって、針部材の先端が覆われるとともに、覆われた状態を保持できる。例えば、針部材がカバー部材に覆われた状態から、移動部を第2のポジションに移動しても、針部材がカバー部材に覆われた状態が保持されるため、針部材が再度使用されるのを防止することができる。
【0057】
上記薬剤投与デバイスにおいては、使用前の前記第1ポジションにあるとき、前記針部材の先端部が前記カバー部材に覆われるように構成することができる。
【0058】
これにより、使用前の第1のポジションにおいて、皮下投与前に針部材がカバー部材に覆われているため、針部材が他の部材や人体等に接触するのを防止することができる。
【0059】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記カバー部材は、前記針部材とともに前記移動部から離脱可能に構成することができる。
【0060】
これにより、薬剤の皮下投与後に、針部材をカバー部材とともに、移動部から離脱させることができる。そのため、薬剤投与デバイスの再利用を防止することができるとともに、針部材の分別回収を行うことができる。また、針部材がカバー部材に覆われているため、針部材に接触するのを防止することができるとともに、針部材の再利用を防止することができる。
【0061】
上記薬剤投与デバイスにおいて、前記針部材の太さは、特には限定されないが、薬剤の投与を効率的に行うために、例えば、30ゲージ(外径0.30mm)~35ゲージ(外径0.15mm)とすることができる。
【0062】
上記薬剤投与デバイスにおいては、当該薬剤投与デバイスが前記皮膚に固定される面から、前記針部材が突出する長さを、1~10mm(3/64~25/64inch)とすることができる。これにより、乳幼児から高齢者までの幅広い患者に対し、皮膚の厚さの個体差を勘案した、薬剤の皮下投与を効果的に行うことができる。
【0063】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記移動部が前記第2のポジションにあるとき、少なくとも前記移動部を収容するように構成された収容部をさらに備えることができる。
【0064】
この構成によれば、収容部によって、第2のポジションにある移動部及び操作部が衣服等へ引っ掛かるのを防止することができる。
【0065】
上記薬剤投与デバイスにおいては、前記針部材は、前記移動部に対し、当該針部材の軸周りに回転可能に構成することができる。
【0066】
この構成によれば、例えば、針部材の側面に針穴が形成されていたり、あるいは針部材の先端が斜めにカットされている場合には、針部材を軸周りに回転させることで、薬液の径方向の吐出位置を変更することができる。これにより、通液速度の調整も可能になる。
【0067】
本発明に係る第1の薬剤投与システムは、上述したいずれかの、少なくとも1つの薬剤投与デバイスと、少なくとも1つの薬剤容器と、前記薬剤容器から前記各薬剤投与デバイスへ薬剤を供給する薬剤ラインと、を備えている。
【0068】
この第1の薬剤投与システムは、例えば、輸液等の容量の大きい薬剤を投与するのに適している。すなわち、薬剤容器に輸液等を収容し、薬剤ラインを介して薬剤投与デバイスに投与することができる。
【0069】
本発明に係る第2の薬剤投与システムは、上述したいずれかの、少なくとも1つの薬剤投与デバイスと、前記針部材に薬剤を供給可能なシリンジと、を備えている。
【0070】
この第2の薬剤投与システムは、例えば、インスリン等の少量の薬剤を投与するのに適している。すなわち、インスリン等をシリンジに収容し、これをシリンジから薬剤投与デバイスに投与することができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明に係る薬剤投与デバイス及び薬剤投与システムによれば、皮下に液状薬剤の投与を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
図1】本発明の第1実施形態に係る薬剤投与デバイスの斜視図である。
図2図1の側面図である。
図3図1の平面図である。
図4図1の断面図である。
図5A】第2のポジションにある薬剤投与デバイスの断面図である。
図5B図5Aの斜視図である。
図6】身体の前面及び背面において、図1の薬剤投与デバイスが配置される位置の例を示す図である。
図7図1の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図8図1の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図9図1の薬剤投与デバイスから操作部及び針部材を取り外した状態を示す断面図である。
図10】本発明の第2実施形態に係る薬剤投与デバイスの斜視図である(第1のポジション)。
図11図10の断面図である。
図12】第2のポジションにある薬剤投与デバイスの斜視図である。
図13図12の断面図である。
図14】第1のポジションから第2のポジションへ遷移する途中を示す薬剤投与デバイスの断面図である。
図15図10の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図16図10の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図17図10の薬剤投与デバイスから操作部及び針部材を取り外した状態を示す断面図である。
図18図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図19図18の平面図である。
図20図18の断面図である。
図21図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図22図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図23図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図24図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図25A図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図25B図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図25C図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図25D図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図25E図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図26図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図27図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す側面図である。
図28図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す側面図である。
図29図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す側面図である。
図30図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図31図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図32図31の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図33図31の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図34図31の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図35図31の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図36図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図37図36の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図38図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図39図38の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図40図38の薬剤投与デバイスの使用方法を示す断面図である。
図41】ストッパの平面図である。
図42図41のストッパの使用方法を示す斜視図である。
図43図41のストッパの使用方法を示す斜視図である。
図44図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図45図44の薬剤投与デバイスの使用方法を示す斜視図である。
図46図45の断面図である。
図47図45の他の例を示す断面図である。
図48図1の薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図49A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図49B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図50】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図51A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す側面図である。(第1のポジション)
図51B図51Aの平面図である。
図51C図51Aの側面図である。(第2のポジション)
図52A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第1のポジション)
図52B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図53A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第1のポジション)
図53B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図54A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第1のポジション)
図54B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図55A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図)である。(第1のポジション)
図55B図55Aの正面図である。
図56A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図56B図56Aの正面図である。
図57A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第1のポジション)
図57B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図58A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第1のポジション)
図58B図58Aの側面図である。
図59A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第2のポジション)
図59B図59Aの側面図である。
図60A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第1のポジション)
図60B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第2のポジション)
図61A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第1のポジション)
図61B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第2のポジション)
図62A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第1のポジション)
図62B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第2のポジション)
図63A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第1のポジション)
図63B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。(第2のポジション)
図64A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第1のポジション)
図64B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。(第2のポジション)
図65A】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図65B】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図66】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図67】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す下面側の斜視図である。
図68】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図69】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す断面図である。
図70】本発明に係る薬剤投与デバイスの他の例を示す斜視図である。
図71図70の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
<A.第1実施形態>
以下、本発明に係る薬剤投与デバイスの第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る薬剤投与デバイスの斜視図(第1のポジション)、図2図1の側面図、図3図1の平面図、図4図1の軸方向の断面図、図5Aは第2のポジションにある薬剤投与デバイスの断面図、図5Bは第2ポジションにある薬剤投与デバイスの斜視図である。以下の第1実施形態を含め、本明細書に記載の薬剤投与デバイスは、いずれも液状薬剤を皮下投与するために用いられる。なお、液状薬剤は、生理食塩水等の輸液のような投与量の多い薬剤のほか抗菌薬、インスリン等の投与量が少量である薬剤とすることもできる。また、投与経路も皮下に限定されず、薬剤投与デバイスの針の長さを調製することにより皮内、皮下脂肪層、筋層への薬剤投与に用いることができる。以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0074】
<A-1.薬剤投与デバイスの概要>
図1図5に示すように、本実施形態に係る薬剤投与デバイスは、矩形の板状に形成された基台1と、この基台1上に一体的に形成された薬剤投与部2と、を備えている。
【0075】
基台1には、円形の貫通孔11が形成されており、この貫通孔11を覆うように、薬剤投与部2が設けられている。また、基台1の下面には、粘着材12が塗布されており、使用前には、この粘着材12を覆う剥離シート(図示省略)が取り付けられている。なお、基台1が大きい場合には、剥離シートを複数に分割した上で、粘着材12に貼り付けることもできる。また、剥離シートを、貫通孔11を覆うように配置してもよいし、貫通孔11が形成されている部分をさけて粘着材に取り付けられていてもよい。また、粘着材12を基台1の下面に塗布するのに代えて、粘着シートやその他のシール材を基台1の下面に貼り付けてもよい。あるいは、基台1に粘着材12を設けず、粘着テープやサージカルテープ等のテープを基台1から皮膚に亘って貼り付けることで、薬剤投与デバイスを皮膚に固定することもできる。この場合、基台1を皮膚に接触させた後に、テープによって、基台1を皮膚に貼り付けてもよいし、基台1には最初からテープが付されていてもよい。もちろん、粘着材12とテープを併用することもできる。
【0076】
薬剤投与部2は、貫通孔11を囲むように基台1に取り付けられた円筒状の本体部21と、この本体部21の内部空間を軸方向に移動可能な円筒状の移動部22と、この移動部22と本体部21とを連結する連結部23とを備えており、これらは後述する弾性材料により一体的に形成されている。なお、軸方向とは、本体部21を構成する円筒状の形状の軸芯の方向を意味する。
【0077】
連結部23は、移動部22の下端部の周縁部と、本体部21の上部開口の周縁部とを連結するように環状に形成されている。また、連結部23は、本体部と移動部の間で所定の幅を有する帯状に形成されている。そのため、図4に示すように、連結部23が、本体部21の上部開口の周縁部(第1端部)から上方に延びるときには、移動部22は基台1から離間した位置(以下、第1のポジションという)に配置され、図5A及び図5Bに示すように、連結部23が、本体部21の上部開口の周縁部から下方に延びるときには、移動部22は基台1に近接した位置(以下、第2のポジションという)に配置される。なお、第2のポジションは、移動部22の下端部が貫通孔11に入り込んだ位置としてもよい。
【0078】
移動部22が両ポジションの間を移動するとき、連結部23は弾性変形するため、各ポジションにおいては、外力が作用しない限り、移動部22が動かないように保持される。一方、外力を加えると、移動部22は両ポジションの間を移動する。図5Aに示すように、本実施形態では、移動部22が第2のポジションにあるときには、連結部23は本体部21の上部開口から移動部22の下端部に向かって負荷が作用せずに延びている(安定状態)。一方、図4に示すように、第1のポジションにあるときには、連結部23は折れ曲がって上方に延びている(準安定状態)。すなわち、第1のポジションにある連結部23には、弾性的な負荷が作用している。そのため、第1のポジションにある移動部22に下向きの力を加えると、連結部23は、折れ曲がっていない安定状態に復帰するように弾性変形して第2のポジションに移動する。したがって、移動部22は、弾性力によって素早く第2のポジションに移動する。また、移動部22には、上下方向に延び、上端及び下端が外部に開放されている内部空間が形成されており、この内部空間に後述する操作部3の固定部32が挿入される。
【0079】
本実施形態では、基台1、本体部21、連結部23、及び移動部22が弾性材料により一体的に形成されているが、弾性材料としては、例えば、シリコーンゴム、天然ゴム、合成天然ゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ウレタンゴム等のエラストマー、または金属等を採用することができる。例えば、これらを射出成形により一体的に成形することができる。
【0080】
また、この薬剤投与デバイスには、操作部3と、この操作部3に取り付けられた針部材4とがさらに設けられている。針部材4は内部に、軸方向に沿う流路を有するものである。操作部3は、本体部21の外形よりも大きい円板状の基部31と、この基部31の中央の下面から突出する円柱状の固定部32と、を備え、これらが一体的に形成されている。また、固定部32の先端には、径方向外方に突出するフランジ部33が形成されている。さらに、基部31の外周縁から中心に向かっては、直線状の第1通路311が形成されており、固定部32の上端付近から軸方向の中心付近までには直線状の第2通路321が形成されている。そして、これら第1通路311の中心側の端部と、第2通路321の上端とは連通しており、全体としてL字状の通路が操作部3の内部に形成されている。また、第1通路311の外周縁側の端部には、薬剤を供給するために、例えば、チューブ、びん針、点滴筒、クレンメ、コネクタ等からなる薬剤ライン5がコネクタ(図示省略:薬剤ラインと操作部とを接続するもの)を介して連結されている。なお、薬剤ライン5は、コネクタを介して操作部3に着脱自在に固定されていてもよいし、操作部3に分離不能に固定されていてもよい。また、後述するように、コネクタは操作部3に直接設けられず、例えば、操作部3に設けられたチューブを介して設けられてもよい。
【0081】
上述した針部材4は、固定部32の下端に刺し込まれて固定されており、第2通路321まで延びている。したがって、第1通路311に供給された薬剤は、第2通路321を介して、針部材4に設けられた穴から排出されるようになっている。針部材4は、例えば、太さ30ゲージ(外径0.30mm)~35ゲージ(外径0.15mm)、とすることができる。また、針部材4に設けられた穴とは、針先に設けられた穴、針横に設けられた穴(横穴)を含み、穴の位置は特には限定されない。また、穴は複数設けてもよい。
【0082】
なお、操作部3は、種々の材料で形成することができ、薬剤投与部2と同様の弾性材料で形成することもできるし、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等の硬質樹脂等の樹脂材料で形成することもできる。また、製造方法としては、例えば、針部材4は操作部3とともにインサート成形を行うこと、または接着剤等による接着手段で、針部材4を操作部3に固定することができる。なお、針部材4は、針のみで構成された部材のほか、針及び針基で構成されたものも含み得る。したがって、針が装着された針基を成形型に配置してインサート成形を行うこともできる。
【0083】
このように形成された操作部3は、固定部32を移動部22の内部空間に挿入することで固定される。このとき、固定部32のフランジ部33が、移動部22の下端から径方向外方に突出するため、これが抜け止めとなって、操作部3は移動部22に固定される。操作部3が移動部22に固定されたとき、図4に示すように、移動部22が第1のポジションにあるときには、針部材4は本体部21の内部に収容され、図5Aに示すように、移動部22が第2のポジションにあるときには、針部材4は基台1の貫通孔11から突出するようになっている。このとき、針部材4が粘着材12の下面から突出する長さLは、皮下投与のためには、例えば、1~10mm(3/64~25/64inch)とすることができる。なお、本実施例の皮下投与デバイスでは針部材は1本であるが、複数本とすることも可能である。
【0084】
なお、固定部32の移動部22に対する固定方法は、特には限定されず、例えば、フランジ部33を設けず、固定部32を移動部22に圧入することで摩擦力により固定したり、固定部32を接着剤で移動部22に固定したり、あるいは熱溶着によって固定部32を移動部22に固定することができる。なお、この薬剤投与デバイスは、初期状態では移動部22が第1のポジションに位置し、この状態で、包装、滅菌した後、出荷する。
【0085】
<A-2.薬剤投与デバイスの使用方法>
次に、上記のように構成された薬剤投与デバイスの使用方法について説明する。上記のように、移動部22は、初期状態では第1のポジションに位置している。そして、基台1から剥離シートを剥がして粘着材12を露出させる。次に、薬剤ライン5に、薬剤が収容された輸液バッグ(図示省略)を接続する。これによって輸液バッグから排出された薬剤が、薬剤ライン5を介して針部材4に供給される。そして、図7に示すように、薬剤ライン5及び針部材4を薬剤で満たした後、粘着材12を皮下投与すべき皮膚Sの表面に貼り付ける。なお、このデバイスが貼り付けられ、穿刺を行う部位は、例えば、図6の矢印で示す部位のように、体表面積が広く皮下に余裕のある部位が推奨される。続いて、操作部3を基台1側に押圧し、移動部22を第2のポジションに移動する。これにより、図8に示すように、針部材4が貫通孔11を通過し、素早く皮膚Sに刺し込まれ、薬剤が針部材4から皮下投与される。なお、基台1を皮膚に貼り付けた後に、薬剤ライン5と輸液バッグとを連結してもよい。
【0086】
その後、所定時間経過し、薬剤の投与が終了すると、操作部3を指で掴んで、上方に引き上げる。これにより、図7に示すように、移動部22が第1のポジションに移動するとともに、針部材4が皮膚Sから引き抜かれる。続いて、薬剤ライン5を取り外すとともに、基台1を皮膚から剥がし、必要に応じて、薬剤投与デバイスを廃棄する。ここで、(第2のポジションへの移動に要する力)<(第1のポジションへの移動に要する力)の関係となっており、これにより安定的な穿刺動作及び抜針動作を実現することができる。
【0087】
<A-3.薬剤投与デバイスの特徴>
以上のように、本実施形態によれば、移動部22を第1のポジションから第2のポジションに移動することで、針部材4の先端部を基台1の貫通孔11から突出させ、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。そして、針部材4の先端部からは、薬剤ライン5から供給される薬剤を排出できるため、移動部22を第2のポジションに移動させるだけで、薬剤を皮下投与することができる。したがって、患者及び使用者が、簡単な操作によって薬剤の皮下投与を行うことができる。特に操作部3の押し込み、及び引き上げといった操作により薬剤の投与が可能であり、針部材4が本体部21の内部に収容されているため、患者等の使用者にとっては、針を刺す・抜くという心理的障壁を低減することができる。また、この薬剤投与デバイスでは、基台1、本体部21、移動部22、及び連結部23は弾性材料により一体的に形成されているため、構造を簡易にすることができる。
【0088】
使用前の第1のポジションにおいては、針部材4が本体部21の内部に収容され、基台1よりも上方に針部材4の先端が位置するため、使用前に誤って針部材4が患者に刺さるのを防止することができる。したがって、安全性が高く、また衛生的でもある。
【0089】
また、皮膚に配置される基台1も弾性材料により形成されているため、皮膚表面に追従するように基台1を変形させて配置することができる。また、基台1が、本体部21、移動部22、及び連結部23と単一の部材で一体的に形成されているため、基台1の皮膚に対する変形に、本体部21、移動部22、及び連結部23も追従させることができる。したがって、移動部22から突出する針部材4を、基台1の貫通孔11から正確に突出させることができると共に、長時間に渡り薬剤投与デバイスを皮膚に装着しても薬剤投与デバイスが皮膚から剥がれるリスクを低減することができる。
【0090】
また、基台1に粘着材12が塗布されているため、薬剤投与デバイスを皮膚にしっかりと保持することができ、長時間に亘る薬剤投与中にデバイスが皮膚から外れるのを確実に防止することができる。
【0091】
針部材4と操作部3は一体的に形成されているため、これらを移動部22から取り外して廃棄することができる。そのため、薬剤投与デバイスが再利用されるのを防止することができる。そして、図9に示すように、これ以外の部品、つまり、一体的に形成されている基台1、本体部21、連結部23、及び移動部22を分別して回収すれば、これらを再利用することもできる。したがって、総廃棄量を低減することができる。
【0092】
<B.第2実施形態>
以下、本発明に係る薬剤投与デバイスの第2実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る薬剤投与デバイスが、第1実施形態と相違するのは、主として連結部の構成であり、その他の構成は概ね同じであるため、同一構成には同一符号を付して説明を省略することとする。図10は本実施形態に係る薬剤投与デバイスの斜視図(第1のポジション)、図11図10の断面図、図12は第2のポジションにある薬剤投与デバイスの斜視図、図13図12の断面図である。以下、本実施形態について、詳細に説明する。
【0093】
<B-1.薬剤投与デバイスの概要>
図10図13に示すように、本実施形態に係る薬剤投与デバイスは、基台1と、本体部21と、移動部22と、この移動部22と本体部21とを連結する複数(本実施形態では4個)の連結部23とを備えており、これらは後述する樹脂材料により一体的に形成されている。以下、主として、連結部について説明する。
【0094】
各連結部23は、板状に形成され、移動部22の下端部の周縁部と、本体部21の上部開口の周縁部とを連結するように、等間隔に放射状に配置されている。したがって、隣接する連結部23の間には隙間が形成されている。より詳細に説明すると、各連結部23は、第1部位231及び第2部位232を有し、これら第1部位231及び第2部位232は、薄肉状の折り曲げ部233を介して折り曲げ可能に連結されている。また、第1部位231の上端部は、移動部22の下端部に折り曲げ可能に連結されている。このように、各連結部23は、移動部22との連結部分を含め、2箇所において折れ曲がる。これにより、移動部22は、図10及び図11に示す第1のポジションと図12及び図13に示す第2のポジションとの間を移動可能となっている。なお、折り曲げ部233は、連結部23の一部を薄肉にすることで構成することに限定されず、切り込みを設ける、あるいは製造時に折り癖を付与する等の手段により構成することができる。
【0095】
例えば、図10及び図11に示す第1のポジションでは、各連結部23の第1部位231と、移動部22の側面(連結部よりも上方の側面)とがなす角αが、鈍角をなすように連結される。また、各連結部23は、折り曲げ部233を挟んで第1部位231と第2部位232とがなす角βが、鈍角をなすように折れ曲がっている(第1状態)。これにより、移動部22は、本体部21の上方に支持された状態となる。このとき、針部材4の先端は、基台1の下面よりも上方に位置する。すなわち、後述するように、針部材4が皮膚に穿刺されない状態に保持される。
【0096】
一方、図12及び図13に示す第2のポジションでは、各連結部23の第1部位231は、移動部22の側面に対して、角αが鋭角をなすように連結される。また、各連結部23は、折り曲げ部233を挟んで、角βが鋭角をなすように折れ曲がっている(第2状態)。これにより、移動部22は、第1のポジションよりも下方に位置し、少なくとも一部が本体部21の内部に入り込んだ状態となる。これにより、針部材4の先端は、基台1の下面よりも下方に位置する。すなわち、後述するように、針部材4が皮膚に穿刺された状態に保持される。
【0097】
図14は、第1のポジションから第2のポジションへ遷移する途中の薬剤投与デバイスの断面図である。図14に示すように、第1のポジションにおいて、移動部22の外周面と、連結部23の第2部位232の上端との水平方向の距離Dは、第1部位231の長さKよりも短くなっている。そのため、移動部22が第1のポジションから第2のポジションに移動する際には、各連結部23の第2部位232が、本体部21に対して径方向外方に広がるように弾性変形しつつ、連結部23が鋭角に折れ曲がる。移動部22が第2のポジションから第1のポジションに移動する際にも同様に、各連結部23の第2部位232が、本体部21に対して径方向外方に広がるように弾性変形する。したがって、移動部22が第1のポジションと第2のポジションとの間を移動する際には、第2部位232が弾性変形するように外力を加えなければならないため、外力が加わっていない状態、つまり第1のポジション及び第2のポジションでは、移動部22は動かないように保持される。換言すると、各ポジションにおいては、弾性変形を伴うような外力が作用しない限り、移動部22が動かないように保持される。また、例えば、(第2のポジションへの移動に要する力)<(第1のポジションへの移動に要する力)の関係とすることで、後述するように、安定的な穿刺動作及び抜針動作を実現することができる。
【0098】
特に、第1のポジションにおいて、移動部22を上方から押圧すると、第2部位232が弾性変形しつつ、連結部23が折れ曲がるため、移動部22は、素早く第2のポジションに移動する。このとき、各連結部23の第2部位232が均一に径方向外側に広がるように弾性変形することで、移動部22及び針部材4が上下方向の軸に対して真っすぐ平行に移動し、その結果、針部材4が皮膚に対して垂直に穿刺される。
【0099】
また、移動部22には、上下方向に延び、上端及び下端が外部に開放されている内部空間が形成されており、この内部空間に後述する操作部3の固定部32が挿入される。
【0100】
本実施形態では、基台1、本体部21、連結部23、及び移動部22が弾性変形可能な材料により一体的に形成されているが、そのような材料としては、上記第1実施形態で示した材料のほか、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ABSなどの硬質樹脂、または金属等を採用することができる。特に、上述した硬質樹脂(ポリオレフィン、ポリエステル、ABS等)であることが好ましい。また、JIS K6900で規定されている硬質プラスチック(曲げ弾性率または引張弾性率が700MPaより大きいプラスチック)を採用することができ、ポリプロピレン、ABS等が、この規定における硬質プラスチックに該当する。そして、例えば、これらを射出成形により一体的に成形することができる。
【0101】
その一方で、基台1、本体部21、連結部23、及び移動部22のいずれか一以上を異なる材料で形成することもできる。また、連結部23については、例えば、折り曲げ部233を公知のヒンジなどの別材料で形成することもでき、また柔軟性の高い部材を用いて第1部位231と第2部位232を接合し可動可能とすることもできる。
【0102】
また、この薬剤投与デバイスには、操作部3と、この操作部3に取り付けられた針部材4とがさらに設けられている。これらの構成は、上記第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0103】
<B-2.薬剤投与デバイスの使用方法>
次に、上記のように構成された薬剤投与デバイスの使用方法について説明するが、概ね第1実施形態と同じである。上記のように、移動部22は、初期状態では第1のポジションに位置している。そして、基台1から剥離シートを剥がして粘着材12を露出させる。次に、薬剤ライン5に、薬剤が収容された輸液バッグ(図示省略)を接続する。これによって輸液バッグから排出された薬剤が、薬剤ライン5を介して針部材4に供給される。そして、図15に示すように、薬剤ライン5及び針部材4を薬剤で満たした後、粘着材12を皮下投与すべき皮膚Sの表面に貼り付ける。なお、このデバイスが貼り付けられ、穿刺を行う部位は、上述した図6と同じにすることができる。続いて、操作部3を基台1側に押圧し、移動部22を第2のポジションに移動する。これにより、図16に示すように、針部材4が貫通孔11を通過し、素早く皮膚Sに刺し込まれ、薬剤が針部材4から皮下投与される。なお、基台1を皮膚に貼り付けた後に、薬剤ライン5と輸液バッグとを連結してもよい。
【0104】
その後、所定時間経過し、薬剤の投与が終了すると、操作部3を指で掴んで、上方に引き上げる。これにより、図15に示すように、移動部22が第1のポジションに移動するとともに、針部材4が皮膚Sから引き抜かれる。続いて、薬剤ライン5を取り外すとともに、基台1を皮膚から剥がし、必要に応じて、薬剤投与デバイスを廃棄する。
【0105】
<B-3.薬剤投与デバイスの特徴>
以上のように、本実施形態によれば、薬剤投与デバイスが、例えば、ポリプロピレンのような硬質樹脂等の樹脂材料で形成されている場合には、移動部22が連結部23によってしっかりと支持されるため、移動部22の変位が安定する。その結果、第1のポジションから第2のポジションへの針先の軌道が安定し、針部材4が斜めに皮膚に突き刺さるのを抑制することができる。このように、硬質樹脂等の樹脂材料を弾性変形させるために、本実施形態では、移動部22と本体部21との間に隙間を空けて複数の折り曲げ可能な連結部23を設け、連結部23が利用者によって手で操作できる程度に変形可能としている。また、連結部23が、所定間隔おきに放射状に配置されているため、移動部22の移動時に、連結部23が均等に変形し、移動部22をその周方向においてバランスよく支持することができる。
【0106】
針部材4と操作部3は一体的に形成されているため、図17に示すように、これらを移動部22から取り外して廃棄することができる。この点は、上記第1実施形態と同じである。
【0107】
連結部23の数は4つに限定されるものではなく、複数配置されていればよい。特に、連結部23の数が増えれば、移動部22を安定的に支持することができるが、数が増えすぎると、全ての連結部23を変形させるのが困難になる。したがって、連結部の数は2~10個であることが好ましい。
【0108】
また、連結部23の構成は特には限定されず、複数箇所で折り曲げ可能に構成してもよい。但し、第1のポジションと第2のポジションとの間で遷移する際に、弾性変形を伴うようにしておくことが好ましい。これにより、弾性変形が伴うような外力が加わらない限り、第1のポジションと第2のポジションに移動部22を保持することができる。
【0109】
あるいは、いずれかのポジションに外力を加えなければ保持されないように構成してもよい。例えば、治具などを用いて、移動部22を強制的にいずれかのポジションに保持することができる。
【0110】
連結部23を設ける箇所は特には限定されず、移動部22を第1のポジションと第2のポジションとの間で移動可能に、移動部22と本体部21とを連結できるのであれば、その連結位置は特には限定されない。
【0111】
<C.変形例>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能であるが、以下の変形例は、適宜組み合わせることができる。また、上述した各実施形態と以下の各変形例の構成も適宜組み合わせることができる。
【0112】
<C-1>
上記実施形態では、操作部3に通路311,321を設け、操作部3の固定部32に針部材4を刺し込んで固定しているが、針部材4及び針部材4へ薬剤を供給する通路311,321の構成は特には限定されず、種々の態様が可能である。
【0113】
例えば、図18図20に示すように、操作部3の基部31において、上述した第1通路311に相当する部分に切り欠き312を形成し、この切り欠き312にコネクタ(図示省略)を設け、このコネクタに薬剤ライン5側のコネクタ(図示省略)を挿入することができる。このとき、針部材4はL字状に形成した上で、一端部が固定部32を通過し、他端部が径方向に沿って切り欠き312に挿入されるようにすることができる。そして、切り欠き312に挿入される薬剤ライン5に針部材4の他端部を刺し込むようにする。なお、針部材4は操作部3及びコネクタとともにインサート成形を行うことで、操作部3に固定することができる。
【0114】
あるいは、図21に示すように、直線状の針部材4の上端部にチューブ6を直交するように連結し、全体としてL字状の針モジュール60を形成する。このとき、針部材4の通路とチューブ6とは連通している。チューブ6の長さは、操作部3の基部31の半径よりも長くする。そして、この針モジュール60を金型に配置してインサート成形を行い、操作部3を形成する。これにより、針モジュール60と操作部3とを一体的に成形することができる。そして、針モジュール60のチューブ6は、操作部3の基部31の外縁から突出しているため、このチューブ6の端部に設けられたコネクタ605に薬剤ライン5を接続することができる。なお、操作部3内に図4に示すような流路を形成し、チューブ6、流路、針部材4が連通していてもよい。
【0115】
このように、針部材4に薬剤を供給するための構成は特には限定されず、上述した図4に示すように、操作部3に、薬剤ライン5を取り付け、これに輸液バッグを接続することができる。また、図21に示すように、操作部3または針部材4にチューブ6を取り付け、これに輸液バッグに繋がれた薬剤ラインをコネクタ等を介して接続することもできる。あるいは、針部材4に直接輸液バッグに繋がれた管部材を連結することもできる。したがって、本発明では、針部材4、移動部22、または操作部3と、輸液バッグ等の薬液の供給源との間を連結し、薬液を供給するものが薬剤ラインに相当する。そして、このような薬剤ラインは、複数の管部材を連結することで構成することもできる。
【0116】
<C-2>
上記実施形態では、本体部21よりも外形の大きい操作部3を移動部22に連結し、指で掴むことで、移動部22を第2のポジションから第1のポジションに移動するようにしているが、移動部22を移動しやすくするための構成はこれに限定されない。例えば、操作部の基部31は、移動部22の上端以外に取り付けられてもよく、移動部22の外周面から径方向外方に突出するフランジ状に形成することもできる(図示省略)。また、図22に示すように、移動部22に、操作部の一態様として線材35を取り付けることもできる。線材35は、例えば、インサート成形などで、移動部22と一体的に成形し、固定することができる。また線材35は、基台1、本体部21、移動部22と同一材料とすることで、一体成型することもできる。このように、線材35の両端を移動部22に固定しておけば、この線材35を引っ張ることで、移動部22を第2のポジションから第1のポジションに容易に移動させることができる。
【0117】
<C-3>
上記実施形態では、針部材4が操作部3と一体になっているため、これらを引っ張って移動部22から取り外すことができるが、操作部3は必ずしも必要ではなく、例えば、図23に示すように、操作部3を設けず、上述した針モジュール60を、射出成形などで移動部22に固定することもできる。あるいは、図24に示すように、針部材4の上端部にコネクタ(図示省略)を設け、このコネクタを介して薬剤ライン5を連結することもできる。図23及び図24の態様では、移動部22を直接指で掴んだり、押したりすることで、ポジションの移動を行うことができる。したがって、移動部22の構成も特には限定されず、針部材4が取り付けられるように構成されていればよい。
【0118】
<C-4>
本発明の薬剤投与デバイスによる薬剤投与後に当該デバイスを皮膚から脱着した後、針モジュール60を有する操作部3の分別回収や薬剤投与デバイスの再使用を防止するため、例えば、操作部3を強く引っ張ることで、操作部3が移動部22から外れるようにすることができる。また、図25Aに示すように、連結部23に環状のミシン目231を形成し、針モジュール60を有する操作部3を移動部22とともに引きちぎれるようにすることもできる。これにより、図25Bに示すように、連結部23が破断し、移動部22が針部材4とともに本体部21から離脱する。あるいは、図25Cに示すように、連結部23にミシン目で形成された環状の破断部232を形成し、連結部23から突出させた破断部232の端部233を引っ張ることで、破断部232を連結部23から離脱させることができる。これにより、図25Dに示すように、連結部23が分離し、移動部22を本体部21から離脱させることができる。あるいは、図25Eに示すように、移動部22または連結部23に把手36を形成し、この把手36を引っ張って、針モジュール60を有する操作部3を移動部22とともに引きちぎれるようにすることもできる。なお、上記ミシン目や、把手36が、本発明の離脱手段を構成する。
【0119】
<C-5>
基台1を皮膚から剥がしやすくするため、例えば、図26に示すように、基台1と皮膚との間に隙間が形成されるように、基台1の下面に凹部14を形成することもできる。これにより、凹部14が形成されている隙間に、指を入れることができ、指によって基台1を把持して皮膚から剥がすことができる。また、凹部14に粘着材12を塗布せず、指をさらに入れやすいようにすることもできる。あるいは、凹部14を設けず、凹部14が形成されるべき部分に粘着材を塗布しないようにすることもでき、これによって、粘着材が塗布されていない部分に指を入れることができる。
【0120】
上記実施形態では、基台1を粘着材12によって皮膚に固定しているが、粘着材12は基台1の下面の全体に塗布されていないくてもよく、一部であってもよい。また、粘着材に限定されず、例えば、テープなどで基台1を皮膚に固定することもできる。
【0121】
基台1の大きさ、形状、厚みは特には限定されず、皮膚に配置することができ、貫通孔11が形成されていれば、特には限定されない。また、基台1を薬剤投与部2と別体で形成し、基台1上に薬剤投与部2を接着剤や熱溶着などで固定することもできる。
【0122】
<C-6>
上記実施形態では、基台1に一つの薬剤投与部2を設けているが、図27に示すように、複数の薬剤投与部2を設けることもできる。これにより、多量の薬剤を短時間で皮下投与することができる。
【0123】
このとき、各薬剤投与部2にそれぞれ薬剤ライン5を取り付けるほか、図28に示すように、一本の薬剤ライン5から分岐した複数の分岐ライン51をそれぞれ薬剤投与部2に連結することができる。また、薬剤ライン5及び分岐ライン51の一部を基台1に固定し一体化することもできる。これによってライン5,51の絡まりを防止したり、ライン5,51が粘着材12に付着するのを防止することができる。
【0124】
図29に示すように、複数の薬剤投与部2に対して、一の操作部30を取り付けることもできる。これにより、操作部30を押すことで全ての移動部22を同時に第1のポジションから第2のポジションに移動させ、また操作部30を引っ張ることで全ての移動部22を同時に第2のポジションから第1のポジションに移動させることができる。このように複数の薬剤投与部2を用いる場合には、針部材4を複数設けることができる。更に、本発明の薬剤投与デバイスは、薬剤が収容された少なくとも1つの薬剤容器(輸液バッグ)、薬剤容器と薬剤投与デバイスを接続する少なくとも1つの薬剤ライン等と組み合わせることで、薬剤投与システムを構成することができる。当該薬剤投与システムは、単数又は複数の薬剤投与部2を有する薬剤投与デバイスを単数又は複数用い、一回の薬剤投与で、1~20本の針部材4を同時に皮膚に刺し込んで薬剤を投与するように用いることができる。好ましくは1回の投与で1~10本、更に好ましくは1~5本の針部材を用いた薬剤投与システムとすることができる。この場合、1つの薬剤投与部2において、移動部22に複数の針部材4を設けることもできる。また、薬剤ラインの数は特には限定されずの薬剤投与部2と同じ数の薬剤ラインを設けてもよいし、複数の薬剤投与部2に接続可能な分岐した薬剤ライン(例えば、図28参照)を用いてもよい。また、輸液バッグの数も特には限定されず、複数の輸液バッグから複数の薬剤投与部2に薬剤を供給することもできる。複数の薬剤投与デバイスを用いる場合、適用場所(穿刺場所)としては、腹部、胸部、大腿部、背部、上腕等の適用場所を適宜選択し、薬剤投与デバイス同士を離して投与することができる。
【0125】
<C-7>
上記実施形態では、薬剤ライン5から針部材4へ直接薬剤を供給しているが、例えば、図30に示すように、針部材4と薬剤ライン5との間に、薬剤の貯留部38を設けることもできる。この貯留部38には、薬剤ライン5から供給された薬剤を貯めておく閉空間381が形成されており、この閉空間381に針部材4が連結されている。したがって、例えば、何らかの理由で薬剤ライン5からの薬剤の供給が停止したとしても、貯留部38に貯められた薬剤が針部材4に供給されるため、薬剤を安定的に皮下投与することができる。このように貯留部38を有する皮下投与デバイスの場合、針部材の本数を複数本とした場合でも、ラインの数が1本でよくライン同士の絡み等の問題が発生しない。なお、この貯留部38には、薬剤ライン5を設けず、貯留部38に貯留した薬剤のみを投与するようにすることもできる。
【0126】
<C-8>
上記実施形態において、一旦使用した針部材4の再度使用を防止するため、及び誤穿刺を防止するために、針をカバーする機構を設けることができる。例えば、図31に示すように、操作部3の固定部32の周囲に筒状のカバー部材8を取り付け、この状態で、操作部3、針部材4、及びカバー部材8を移動部22に取り付ける。カバー部材8は、概ね同心状で軸方向の長さがほぼ同じ外筒81と内筒82とを備え、初期状態では、内筒82が外筒81に収容されるようになっている。また、外筒81の外周面が移動部22の内部に固定されている。但し、強く引き上げられれば、外筒81は移動部22から離脱するようになっている。そして、内筒82は外筒81に沿って軸方向にスライドするようになっており、カバー部材8は外筒81の下端部と内筒82の上端部とが互いにロックされるロック機構(図示省略)を有している。
【0127】
また、外筒81の上端部は操作部3の基部31の下面に固定され、内筒82の下端部は、外筒81からやや突出した状態で、移動部22の下端に固定されている。すなわち、内筒82の下端部には、径方向外方に突出するフランジ部821が形成されており、このフランジ部821が移動部22の下端に係合している。
【0128】
このような構成によれば、第1のポジションから操作部3を下方に押圧すると、図32に示すように、移動部22が、カバー部材8及び針部材4とともに下方に移動し、針部材4が基台1の貫通孔11を通過して皮膚に刺し込まれる。この状態から操作部3を掴んで上方に引っ張ると、図31に示すように、移動部22は、カバー部材8及び針部材4とともに第1のポジションに移動する。この状態からさらに操作部3を上方に強く引っ張ると、図33に示すように、外筒81が移動部22から外れるとともに、内筒82をスライドして上方に引き上げられる。このとき、内筒82のフランジ部821が移動部22の下端に係合しているため、内筒82は、移動部22内に留まる。そして、外筒81の下端が内筒82の上端にロックされると、外筒81と内筒82とが軸方向に連結され、軸方向に拡張されたカバー部材8が形成される。その結果、針部材4は、拡張されたカバー部材8に収容されることになり、外部に露出しないようになる。また、外筒81と内筒82とはロックされているため、操作部3を押し込んでも、拡張されたカバー部材8が初期状態に戻らないようになっている。したがって、針部材4は拡張されたカバー部材8に収容されたままになり、再度の使用が防止されると共に、使用済みの針部材による誤穿刺を防止し感染症の防止につながる。
【0129】
また、図31に示す例では、移動部22が第1のポジションにあるときに内筒82が外筒81に収容されているが、例えば、図34に示すように、移動部22が第1のポジションにあるときに、内筒82が移動部22の下方に突出し、針部材4を覆うようにすることもできる。これにより、使用前に患者及び他の使用者が針部材4に触れるのを確実に防止することができる。そして、操作部3を押圧すると、内筒82のフランジ部821が皮膚に押され、図32に示すように、内筒82がスライドし外筒81に収容される。その後、操作部3を引き上げると、図31のように、移動部22、外筒81、及び内筒82が一体となって引き上げられる。そして、操作部3をさらに上方に引き上げたときに、外筒81の下端部と内筒82の上端部とがロックするように構成しておけば、図33のように、針部材4が内筒82に収容される。
【0130】
なお、操作部3を強い力で、さらに引き上げると、図35に示すように、内筒82のフランジ部821が移動部22の下端から外れ、カバー部材8、針部材4、及び操作部3を移動部22から離脱させることができ、分別回収が可能となる。そして、薬剤投与デバイス及び針部材4の再利用及び誤穿刺が防止される。このとき、針部材4はカバー部材8に収容された状態を維持できるため、感染などが防止される。
【0131】
図31図35の態様は、カバー部材8を内筒82と外筒81とで構成しているが、内筒のみでカバー部材を構成することもできる。例えば、図36の例では、移動部22の内部空間に円筒状のカバー部材9が固定されている。このカバー部材9は、下端部にフランジ部92が形成されており、このフランジ部92が移動部22の下端に係合している。また、このカバー部材9の内壁面の上部には、環状の突部91が形成されている。そして、このカバー部材9の内部には、操作部3の固定部32がスライド可能に挿入されている。また、固定部32の外周面の下部には、環状の溝34が形成されており、この溝34に、カバー部材9の突部91が係合可能となっている。
【0132】
以上のような構成において、図36の状態から操作部3を引き上げると、図37に示すように、固定部32が上方にスライドする。そして、固定部32の溝34に、カバー部材9の突部91が係合したところで、操作部3がそれ以上引き上げられないようになっている。すなわち、固定部32がカバー部材9から抜け出ないように、溝34と突部91とで抜け止め機構を構成している。この状態では、針部材4がカバー部材9に収容された状態となる。ここから、操作部3を強く引き上げると、カバー部材9のフランジ部92が移動部22から外れ、図35で示したのと同様に、針部材4がカバー部材9に収容された状態で操作部3、カバー部材9、及び針部材4が移動部22から離脱する。したがって、カバー部材9、針部材4、及び操作部3の分別回収が可能となり、薬剤投与デバイス及び針部材4の再利用及び誤穿刺が防止される。なお、引き上げられた固定部32とカバー部材9とを係合させる手段は、特には限定されず、上述した以外の種々の抜け止め機構などを適用することができる。
【0133】
また、薬剤投与デバイス及び針部材4の再利用を防止するには、次のような構成も採用することができる。例えば、図38に示すように、針部材4が取付けられた固定部32の外周面に雄ネジを形成し、これを雌ネジが形成された円筒状のカバー部材88に収容する。カバー部材88の軸方向の長さは、針部材4の半分程度とし、固定部32を針部材4とともに軸周りに回転させながら、カバー部材88の先端から針部材4が突出するようにする。そして、このカバー部材88を移動部22に固定する。但し、強く引き上げられれば、カバー部材88は移動部22から離脱するようになっている。また、カバー部材88の下端部にはフランジ部881が形成されているため、カバー部材88のフランジ部881と移動部22の下端とを係合させることができる。
【0134】
このような薬剤投与デバイスでは、図39に示す薬剤の皮下投与が終了後、第2のポジションから第1のポジションへ移動部22を移動させた後、図38の状態から針部材4とともに固定部32を軸周りに回転させる。これにより、図40に示すように、針部材4は操作部3とともに、カバー部材88の内部を軸周りに回転しながら上方へ移動する。そして、針部材4の先端がカバー部材88に完全に収容されると回転を停止する。その結果、針部材4がカバー部材88内に収容された状態が保持され、この状態から操作部3を下方に押し込んでも、針部材4は露出しないようになっている。したがって、針部材4の再度の使用が防止される。なお、針部材4の先端がカバー部材88に完全に収容されるまで針部材4を回転させると、回転がロックされるようにすることもできる。そして、図40の状態から、操作部3を強く引き上げると、移動部22からカバー部材88が離脱し、カバー部材88、針部材4、及び操作部3を分別回収することができる。その結果、薬剤投与デバイス及び針部材4の再利用及び誤穿刺を防止することができる。なお、ネジの代わりにルアーロックを用いることもできる。
【0135】
<C-9>
上記実施形態において、移動部22を第1のポジションに保持するためのストッパを設けることもできる。図41に示すように、このストッパ95は、円筒状のストッパ本体951と、このストッパ本体951の外周面に取り付けられた摘まみ部952とを、備え、樹脂材料などで形成されている。ストッパ本体951は、周方向の一部に、軸方向に延びる切り欠き部953が形成されており、全体として平面視C字状に形成されている。また、ストッパ本体951の内径は、移動部22の外径よりもやや大きく、操作部3の基部31及び本体部21の外径よりも小さく形成されている。また、切り欠き部953の周方向の幅は、移動部22の外径よりも小さくなっている。
【0136】
図42に示すように、ストッパ95は、薬剤投与デバイスの移動部22が第1のポジションにあるときに、操作部3と本体部21との間に挿入される。そして、ストッパ本体951の切り欠き部953を開き、移動部22の外周面を覆うように配置する。これにより、図43に示すように、ストッパ本体951が操作部3の基部31と本体部21との間に配置され、操作部3が本体部21側に移動するのが規制される。すなわち、移動部22が第1のポジションから第2のポジションに移動するのが規制される。したがって、移動部22が、何らかの衝撃や負荷によって、意図せずに、第2のポジションに移動するのを防止することができる。そして、移動部22を第2のポジションに移動させたいときには、摘まみ部952を引っ張る。これにより、切り欠き部953が広がり、ストッパ本体951を移動部22から取り外すことができる。なお、ストッパ95の構成は、特には限定されず、移動部22が第1のポジションにあるときに、操作部3の基部31と本体部21との間に着脱自在に配置可能な形態であればよい。したがって、操作部3も図42のような構成でなくてもよく、例えば、移動部22の外周面からフランジ状に突出するような構成であってもよく、このような操作部と本体部21との間にストッパ95を配置することもできる。
【0137】
<C-10>
上記実施形態において、移動部22が第2のポジションにあるとき、この状態を保持するように構成することもできる。例えば、図44に示すように、操作部3において、基部31の周縁から下方に延びる円筒状の延在部39を設けることができる。図45及び図46に示すように、この延在部39の下端部は、移動部22が第2のポジションにあるときに、基台1に接触するように構成されている。これにより、操作部3が基台1上で安定的に保持される。そのため、例えば、横方向から衝撃や負荷が作用したときに、操作部3及び移動部22がずれたり、浮き上がったりするのを防止することができる。したがって、皮膚に刺し込まれた針部材4が、意図せず、皮膚から抜けたり、針部材4が皮膚に刺さった状態で動くのを防止することができる。
【0138】
なお、延在部39の構成は、特には限定されず、移動部22が第2のポジションにあるときに、操作部3の基部31と基台1との間に配置されるような形態であればよく、円筒状でなくてよい。すなわち、第2のポジションにあるときに、延在部39の下端部が本体部21の下端部付近に位置するように構成すればよい。すなわち、第2のポジションにある延在部39によって本体部21の少なくとも一部、好ましくは大部分が覆われるように構成することができる。例えば、基部31と延在部39を含めた操作部3全体でマッシュルーム形状、ドーム形状等としてもよい。また、後述するように、基台1を設けない場合には、第2のポジションにあるときに、延在部39の下端は、本体部21の下端部付近にあり、皮膚に近接するか、皮膚に接触するため、上記のように、操作部3のずれを防止することができる。
【0139】
また、針部材4に薬剤を供給する薬剤ライン5は操作部3の基部31に連結するほか、例えば、図47に示すように、延在部39に穴391や切り欠きを形成し、固定部32の第2通路321に連結するようにチューブ6を固定することができる。これにより、チューブ6の一端に設けられたコネクタ605を薬剤ライン5に接続し、針部材4に薬剤を供給することができる。なお、薬剤ライン5を固定部32に直接連結することもできる。
【0140】
<C-11>
上記の実施形態では、移動部を第1のポジションに保持するには、移動部22、連結部23、及び本体部21の材料、形状及び寸法設計による。しかし、本発明はこれに限られるものではなく、外力を加えない状態で、移動部22を第1のポジションに保持できないように構成してもよい。この場合、上述したストッパ95を用いて、移動部22を第1のポジションに保持することができる。つまり、このような薬剤投与デバイスでは、例えば、図43の状態からストッパ95が外されると、外力を加えなくとも移動部22は第1のポジションから第2のポジションに移動し、例えば図5A,Bに示すように、針が皮膚に穿刺され投与が開始される。投与終了後は、薬剤投与デバイス全体を皮膚から剥がすか、固定部32を移動部22から取り外した後、薬剤投与デバイスを皮膚から引きはがすことができる。
【0141】
上記の実施形態では、移動部22を第1のポジションから第2のポジションへ移動させるのに要する力(以下、F1という)よりも、移動部22を第2のポジションから第1のポジションへ移動させるのに要する力(以下、F2という)の方が大きくなるように設計されている。なお、F1は移動部22を下側に押す際に要する力であり、F2は移動部22を上方へ引き上げる際に要する力である。しかし、本発明はこれに限らず、F1=F2となるように、またはF1>F2となるように、材料、形状及び寸法を設計することもできる。すなわち、本発明においては、材料を適宜変更したり、各部材(例えば、本体部21、移動部22、及び連結部23)の形状を調整したり、ストッパなどの他の部材を用いるなど、種々の方法を用いて、移動部22が第1のポジション及び第2のポジションに保持可能に構成されていればよい。
【0142】
<C-12>
本発明において、本体部21の形状は特には限定されず、上記実施形態のような下方にいくにしたがって径が大きくなる筒状のほか、内径が一定の筒状、下方にいくにしたがって径が小さくなる筒状、さらには多角筒状や異形状に形成することもできる。何れの場合も、軸方向とは、筒状の形状の軸芯の方向を意味する。また、連結部23の形状は、本体部21が円筒状であれば、環状であるが、本体部21が多角筒状であれば、それに合わせて連結部23は平面視多角形状に形成される。
【0143】
<C-13>
本発明において、操作部3の基部31の形状も特には限定されず、円板状以外の形状でもよく、矩形状、多角形状、異形状でもよい。また、操作部3の基部31の外形は、本体部21の上端側の端部(第1端部)と同じ、あるいはそれよりも小さくてもよい。これにより、第2のポジションにあるときに、本体部21から径方向に基部31が突出せず、この薬剤投与デバイスを皮膚に装着したときに、基部31と衣服との擦れや引っ掛かりによって、薬剤投与デバイスが皮膚から離脱するリスクを抑制することができる。
【0144】
<C-14>
上記薬剤投与デバイスは、少なくとも本体部21、連結部23、移動部22、針部材4を有し、針部材4に対して薬剤ライン5を直接または間接的に接続できるように構成されていれば足りる。すなわち、基台1は必ずしも必要ではなく、本体部21の軸方向の端部(第2端部)を皮膚に直接取り付けることもできる。また、図26で示したのと同様に、本体部21の下端部に凹部を形成し、皮膚から取り外しやすくすることもできる。この場合、本体部21の凹部以外の端部に粘着材を塗布したり、粘着シートやシールを配設することもできる。したがって、操作部3の有無のほか、各部材の形状、材料なども適宜変更することができる。例えば、本体部21、移動部22、及び連結部23は、移動部22が第1のポジションと第2のポジションとの間で移動可能であれば、材料は特には限定されない。したがって、上述したエラストマー等の軟質の樹脂材料のほか、例えば、また、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート等の硬質樹脂などの樹脂材料、金属など種々の材料で形成することができる。また、本体部21、移動部22、及び連結部23は、必ずしも一体的に形成されていなくてもよく、複数の材料を組み立てることで形成することもできる。
【0145】
上記各実施形態では、移動部22は、第2のポジションにあるときに、本体部21に収容されるように構成されているが、必ずしも収容されなくてもよい。すなわち、第2のポジションにおいて針部材4が皮膚に刺し込まれるのであれば、移動部22が本体部21の外側にあってもよい。この場合、連結部23の形状を調整し、第2のポジションにおいて、移動部22が本体部21の外側に配置されるように連結部23が長く形成される。但し、第2のポジションにおいて、移動部22が本体部21に収容されると、コンパクトになるため、移動部22の少なくとも一部が本体部21に収容されることが好ましい。また、針部材の先端形状は特に限定されるものではなく、公知の先端形状を採用することができる。
【0146】
<C-15>
上記薬剤投与デバイスにおいては、移動部22を皮膚に垂直に第1のポジションから第2のポジションに移動させるために、言い換えると針部材4を皮膚に垂直に穿刺するために、移動部22の周囲に、移動部22(または針部材4)が皮膚に対してほぼ垂直に移動するためのガイド部材(図示しない)を設けることができる。ガイド部材は、例えば、本体部21の内部空間に設けることができる。
【0147】
<C-16>
上記薬剤投与デバイスにおいては、穿刺時の針折れによる針部材4の皮膚内への留置を防止するために、例えば、図48に示すように、針部材4の外周面にフランジ部41を設けることができる。このフランジ部41は、移動部22が第2のポジションにあるときに、針部材において、固定部32と皮膚Sとの間で外部に露出した領域に設けることができる。これにより、仮に穿刺時に針折れが発生し、針部材4の先端が皮膚S内に残ったとしても、フランジ部41は皮膚Sの外にあるため、フランジ部41を把持して容易に針部材4を皮膚Sから排出することができる。また、穿刺時にフランジ部41が皮膚に接触するようにフランジ部41の位置を設定することで、フランジ部41から針部材4の先端までが穿刺長さとなり、より厳密に穿刺長さを管理することができる。なお、フランジ部41は、針部材4の外周面全体に設けられていなくてもよく、針部材4の外周面の一部から径方向外方に突出する部材であってもよい。更に、フランジ部41が針部材4の外周面の一部から径方向外方に突出する場合、図48に示すように、フランジ部41を針部材4の皮膚Sに近い位置に設けられているが、この位置に限定されるものではなく、例えば、移動部22または操作部3における固定部32に近い位置に設けることもできる。すなわち、フランジ部41は、皮膚Sと固定部32との間に設けられていればよい。
【0148】
<C-17>
板バネのような弾性部材で連結部を構成することにより、移動部の移動を制御することもできる。以下、いくつかの態様について説明する。
【0149】
<C-17-1>
図49A及び図49Bに示す薬剤投与デバイスの例では、円筒状の本体部21と、その内部で上下動可能な針部材4が取り付けられた移動部22とを備えている。これらは、例えば、硬質樹脂等の樹脂材料により一体的に形成することができるが、異なる材料を組み合わせて形成することもできる。また、本体部21の内壁面の上端部と、移動部22とは、板バネ状の弾性部材で構成された連結部23によって連結されている。より詳細に説明すると、図49Bに示すように、移動部22が本体部21の内部に入り込み、針部材4が本体部21の下部開口から突出する第2のポジションにあるとき、連結部23は、負荷がかかっていない水平状態に延びている。一方、図49Aに示すように、針部材4が皮膚から離れるように移動部22が上方に移動した第1のポジションでは、連結部23は、上方に向かって湾曲し、移動部22を下向きに付勢するように負荷が作用した状態となる。そして、図49Aに示す第1のポジションに移動部22を保持するために、移動部22の下端部には着脱自在にストッパ29が取り付けられる。ストッパ29は、移動部22を挟んだ本体部21の対向する上端と移動部22の下端との間に架け渡されるような部材であり、これによって移動部22が下方に移動するのを規制している。なお、ストッパの構成は特には限定されず、移動部22を第1のポジションに保持できるものであればよい。
【0150】
そして、第1のポジションにおいて、ストッパ29を取り外すと、移動部22は、連結部23によって下方に付勢され、図49Bに示すように、第2のポジションへ移動する。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態からストッパを取り外すと、移動部22が下方へ移動し、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。図49の構成では、移動部22が板バネ状の連結部23に拘束されて上下動するため、穿刺時のストロークを安定させることができる。したがって、目標とする穿刺位置により正確に針部材4を刺し込むことができる。また、板バネを垂直方向に向けて配置しているため、付勢力が強く、これによって針部材4をしっかりと皮膚に差し込むことができる。なお、弾性部材の形態は特には限定されず、例えば、図50に示すように、連結部23を構成する板バネが水平方向に延びるように配置すると、バネによる付勢力は弱くなるが、移動部22を第1のポジションに保持するための力も弱いので連結部23自身にかかる負荷も小さく連結部23の折れや、本体部21の損傷等の不具合の可能性が低い。
【0151】
<C-17-2>
本発明において、移動部22を本体部の外側で移動するように構成することもできる。例えば、図51の例では、板状の本体部21と、その下端部から水平方向に延びる板バネ状の弾性部材で構成された連結部23と、この連結部23の先端部に取り付けられた移動部22と、を備えている。これらは、例えば、硬質樹脂等の樹脂材料により一体的に形成することができるが、異なる材料を組み合わせて形成することもできる。移動部22は円筒状に形成され、上面には水平方向に突出するフランジ部229が設けられている。また、移動部22の下面からは針部材4が下方に向かって突出している。さらに、本体部21の上面には、直方体状の台部776が取り付けられ、この台部776の上端の側面には水平方向に延びる保持部材755が取り付けられている。この保持部材755は、連結部23の上方に配置されており、先端部に切り欠き756が形成されている。
【0152】
図51Aは移動部22が第2のポジションにある状態を示している。この状態では、連結部23は水平に延びており、負荷が作用していない。このとき、針部材4は皮膚に刺し込まれるようになっている。そして、図51B及び図51Cに示すように、移動部22を上方に移動させ、移動部22のフランジ部229を保持部材755の切り欠き756に引っ掛ける。このとき、連結部23が上方に曲げられ、弾性力が作用するが、移動部22は保持部材755に引っ掛けられ、第1のポジションに保持される。そして、この状態から、台部776を保持部材755とともに、本体部21から取り外すと、保持部材755と移動部と22の固定状態が解除され、図51Aに示すように、連結部23が水平に延び、針部材4が皮膚に刺し込まれる。なお、台部776を本体部21に取り付けたまま、単に移動部22を保持部材755から外すことで、針部材4を皮膚に刺し込んでもよい。
【0153】
以上のような構成によると、本体部21と移動部22が離れているため、例えば、皮膚において、針部材4が刺し込まれる箇所に炎症が生じているなど、不具合がある場合に、そのような不具合がない箇所に本体部21を取り付けることができる。したがって、皮膚に不具合がある場合、そこを避けて本体部21、つまり、このデバイスを取り付けることができる。また、以上のような構成によると、穿刺時(第2ポジション)には台部776が保持部材755とともに取り外されているので、デバイス全体の高さを低くすることができ、穿刺中にデバイスが外れる等の不具合を低減することができる。なお、本体部、連結部23、保持部材755の構成は特には限定されず、適宜変更することができる。したがって、例えば、連結部23と保持部材755とを入れ替えることができる。すなわち、連結部23を台部776の上端に取り付け、保持部材755を本体部21に取り付けることができる。そして、連結部23を下方に曲げつつ、移動部22を下方に移動させ、下方に配置された保持部材755に引っ掛けることができる。
【0154】
<C-18>
連結部23として、例えば、ゴムやコイルバネのような復元力のある弾性部材を用い、このような弾性部材によって、本体部21と移動部22とを連結し、移動部22の移動を制御することもできる。以下、いくつかの例を説明する。
【0155】
<C-18-1>
図52に示す薬剤投与デバイスの例では、上部及び下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。また、本体部21の内部において、移動部22の上部と本体部21の上部とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。移動部22は、図52A)に示すように、本体部21に針部材4が収容される第1のポジションと、図52Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとをとり得るように構成されている。そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は、圧縮されており、本体部21の上部に着脱自在に取り付けられたストッパ29により、移動部22及び針部材4は本体部21内に保持される。この状態から、ストッパ29を取り外すと、圧縮された弾性部材28が伸長し、これによって移動部22が下方に移動する。その結果、上記のように、針部材4が本体部21の下部の開口から突出する。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態でストッパ29を取り外すと、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。なお、移動部22とストッパ29とは、公知の方法で着脱自在に固定することができる。また、ここで示す本体部21、移動部22、及び針部材4は、本発明の薬剤投与部に相当し、この例における弾性部材28も、薬剤投与部に含まれる。
【0156】
<C-18-2>
図53に示す薬剤投与デバイスの例では、上部及び下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。また、移動部22の下部と本体部21の下部とを連結するように、バネまたはゴムなどの弾性部材28が取り付けられている。移動部22は、図53Aに示すように、本体部21に針部材4が収容される第1のポジションと、図53Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。
【0157】
そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は、伸長され、本体部21の上部に着脱自在に取り付けられたストッパ29により、移動部22及び針部材4は本体部21内に保持される。この状態から、ストッパ29を取り外すと、伸長された弾性部材28が縮み、これによって移動部22が下方に移動する。その結果、上記のように、針部材4が本体部21の下部の開口から突出する。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態でストッパ29を取り外すと、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。なお、移動部22とストッパ29とは、公知の方法で着脱自在に固定することができる。
【0158】
<C-18-3>
図54に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。また、移動部22の下部と本体部21の下部とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。さらに、本体部21の上部は弾性変形可能となっており、本体部の向かい合う面211,212には、留め具216がそれぞれ設けられており、これら向かい合う面211,212を押圧することで、両留め具216を固定することができる。移動部22は、図54Aに示すように、本体部21に針部材4が収容される第1のポジションと、図54Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。上述した留め具216は、第1のポジションにある移動部22の上端付近と対向する位置に配置されている。
【0159】
そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は、概ね自然長であり、負荷が作用していない。この状態から、上記のように、本体部21の向かい合う面211,212の両留め具216を押圧すると、移動部22が下方に押し出され、第2のポジションへ移動する。そして、本体部21の向かい合う面211,212が両留め具216を固定することで互いに接すると、第2のポジションにある移動部22の上方で本体部21の内部空間が狭まるため、移動部22が上方に移動するのが規制され、第2のポジションに保持される。このとき、弾性部材28は圧縮され、移動部22は弾性部材28によって上方に付勢されるが、上記のように本体部21の向かい合う面211,212が両留め具216により固定されるため、上方への移動が規制される。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態から本体部21の向かい合う面を押圧し、移動部22を第2のポジションに移動させると、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0160】
<C-18-4>
図55に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。また、移動部22の下部と本体部21の下部とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。さらに、本体部21の上部は弾性変形可能となっている。移動部22は、図55A及び図55Bに示すように、本体部21に針部材4が収容される第1のポジションと、図56A及び図56Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。また、移動部22の両側面からは、突出部225が突出している。この突出部225は、図示を省略するバネによって移動部22の両側面から突出している。但し、移動部22が第1のポジションにあるときには、突出部225と対向する本体部21の第1側面211及び第2側面212に、各突出部225が接し、それ以上の突出が規制されている。また、移動部22が第2のポジションにあるときの、本体部21の第1側面211及び第2側面212には、それぞれ貫通孔218が形成されており、各貫通孔218から突出部225が突出するようになっている。すなわち、移動部22が第2のポジションにあるときには、バネによって突出部225が押し出され、貫通孔218から突出するようになっている。これにより、移動部22は第2のポジションに保持されるようになっている。
【0161】
移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は、概ね自然長であり、負荷が作用していない。この状態から、本体部21における第1側面211及び第2側面212と直交する第3側面213及び第4側面214を押圧すると、第3側面213と第4側面214とが近接し、これによって移動部22が下方に押し出され、第2のポジションへ移動する。そして、移動部22が第2のポジションに移動すると、上記のように、各突出部225が各貫通孔218から突出し、移動部22は第2のポジションに保持される。このとき、弾性部材28は圧縮され、移動部22は弾性部材28によって上方に付勢されるが、上記のように突出部225が貫通孔218から突出しているため、移動部22の上方への移動が規制される。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態から本体部21の第3側面213及び第4側面214を押圧すると、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0162】
<C-18-5>
図57に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する円筒状の移動部22を有し、この移動部22の内部空間の上面には下方へ延びる針部材4が取り付けられている。そして、針部材4は、移動部22の下部の開口から突出している。また、この移動部22には、円柱状の本体部21が収容可能となっており、この本体部21の上部と移動部22の内部空間の上面とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。また、本体部21には上下方向に延びる貫通孔219が形成されており、この貫通孔219に針部材4が挿通されている。移動部22は、図57Aに示すように、本体部21の上方にある第1のポジションと、図57Bに示すように、下方に移動し、本体部21を移動部22の内部空間に収容する第2のポジションとを取りうるように構成されている。移動部22が第1のポジションにあるときには、弾性部材28が伸長し、針部材4は、本体部21の貫通孔219に収容され、本体部21の下方からは突出していない。また、移動部22を第1のポジションに保持するため、本体部21の外周面にはストッパ29が取り付けられ、移動部22が下方に移動しないように保持されている。
【0163】
本体部21の下面には皮膚との固定のために粘着材を設けることができる。そして、この粘着材により、本体部21を皮膚に接着した後、第1のポジションにおいて、ストッパ29を取り外すと、図57Bに示すように、弾性部材28が縮み、移動部22が下方に引っ張られる。これにより、針部材4が本体部21の貫通孔219から下方に突出する。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下面を皮膚に取り付け、この状態からストッパ29を取り外すと、本体部21から針部材4が突出し、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。なお、本体部21と皮膚との固定は、粘着材以外でもよく、上述したようなテープで固定することができる。
【0164】
<C-18-6>
図58及び図59に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する、円筒状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた円筒状の移動部22が収容されている。また、移動部22の上部と本体部21の内部空間の上面とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。これにより、移動部22は、弾性部材28によって下方に付勢されている。また、移動部22の対向する側面には突出部225がそれぞれ設けられている。また、本体部21の対向する側面には、スリット217がそれぞれ形成されており、各スリット217から、移動部22の突出部225が本体部21の外部へと突出している。各スリット217は、水平方向に延びる第1部位217aと、この第1部位217aの一端部から下方へ延びる第2部位217bとを有するL字状に形成されている。移動部22は、図58A及び図58Bに示すように、針部材4が本体部21に収容される第1のポジションと、図59A及び図59Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。
【0165】
そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は圧縮され、各突出部225が、各スリット217の第1部位217aに配置されている。これにより、突出部225が下方への移動を規制されるため、移動部22は第1のポジションに保持される。この状態から、円筒状の移動部22を回転させることにより突出部225を水平方向に移動させ、スリット217の第2部位217bの上端まで移動させると、突出部225は第2部位217bに沿って下方に移動可能となる。これにより、移動部22は、弾性部材28によって下方へ押し出され、第2のポジションへと移動する。そして、突出部225が第2部位217bの下端部まで移動すると、それ以上の下方への移動が規制されるため、針部材4が本体部21から突出する長さが一定に保持される。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態から突出部225を水平に移動させると、移動部22が下方へ移動し、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0166】
<C-18-7>
図60に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。また、移動部22の上部と本体部21の内部空間の上部とを連結するように、バネなどの弾性部材28が取り付けられている。これにより、移動部22は、弾性部材28によって下方に付勢されている。また、本体部21の下端部には、針部材4を保持する板状のストッパ29が着脱自在に取り付けられている。移動部22は、図60Aに示すように、針部材4が本体部21に収容される第1のポジションと、図60Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。
【0167】
そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、弾性部材28は圧縮され、針部材4の先端がストッパ29に接し、針部材4及び移動部22の下方への移動が規制されている。この状態からストッパ29を取り外すと、移動部22は、弾性部材28によって下方へ押し出され、第2のポジションへと移動する。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態からストッパ29を取り外すと、移動部22が下方へ移動し、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0168】
<C-18-8>
図60に示す薬剤投与デバイスにおいて、ストッパの構成は特には限定されず、種々の態様の公知のものを適用することができる。例えば、図61に示すように、移動部22が第1のポジション(図61A)にあるときに、針部材4の先端に接するストッパ29を設ける。このストッパ29は、回転可能となっており、本体部21の外部から回転操作を行うことができる。したがって、針部材4が第1のポジションにあるときに、ストッパ29を回転させ、針部材4との接触を解除すれば、弾性部材28によって移動部22が下方へ押し出され、第2のポジション(図61B)に移動する。
【0169】
<C-18-9>
図62に示すように、本体部21の下部に2つの部位から構成されたストッパ29を設ける。2つの部位29a,29bは、水平方向に移動可能となっており、2つの部位29a,29bが近接し、重なっているときに、第1のポジションにある針部材4と接触するようになっている。これにより、図62Aに示す移動部22が第1のポジションに保持される。また、ストッパ29の各部位29a,29bには、線材27の両端部が固定されている。線材27は、本体部21の両側に設けられたローラ275にそれぞれ引っ掛けられ、線材27の中間部が本体部21の上部から上方に突出している。そして、この突出部分には固定具279が取り付けられている。
【0170】
この構成により、固定具279を上方に引き上げると、線材27も上方に引き上げられる。これにより、線材27の両端に固定されたストッパ29の各部位29a,29bが、互いに離れるように移動する。その結果、図62Bに示すストッパ29と針部材4との接触が解除され、移動部22が下方に移動し、針部材4が本体部21から突出する。
【0171】
<C-19>
本体部を押圧することで、移動部の移動を制御することもできる。図63に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する、中空の直方体状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。移動部22は、本体部21の内部で上下動可能に保持されている。また、本体部21において、互いに向かい合う一対の面211,212は、塑性変形可能となっている。移動部22は、図63Aに示すように、針部材4が本体部21に収容される第1のポジションと、図63Bに示すように、本体部21の下部の開口から針部材4が突出する第2のポジションとを取りうるように構成されている。
【0172】
そして、移動部22が第1のポジションにあるときは、本体部21の向かい合う面211,212によって押圧され、これによって移動部22が第1のポジションに保持されている。この状態から、本体部21の向かい合う面211,212の上部付近を押圧し、互いに近接させると、移動部22が下方に押し出され、第2のポジションへ移動する。このとき、本体部21の向かい合う面211,212は、移動部22の上方において塑性変形により近接しているが、これによって、移動部22の上方で本体部21の内部空間が狭まるため、移動部22が上方に移動するのが規制され、第2のポジションに保持される。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態から本体部21の向かい合う面211,212を押圧すると、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0173】
<C-20>
移動部を移動させる手段として、例えば、図64に示すように構成することができる。図64に示す薬剤投与デバイスの例では、下部が開口する円筒状の本体部21を有し、この本体部21に、針部材4が取り付けられた移動部22が収容されている。移動部22は、本体部21の内部で回転可能に保持されており、移動部22を回転するためのダイヤル28が本体部21の外周面に取り付けられている。また、移動部22には針部材4が取り付けられており、図64Aに示すように、針部材4が本体部21の内部に収容された状態と、図64Bに示すように、針部材4が本体部21の下部の開口から突出する状態とを取りうるように構成されている。
【0174】
すなわち、針部材4が本体部21の内部に収容された状態での、移動部22の回転位置が第1のポジションであり、ここからダイヤル28によって移動部22を回転し、針部材4が本体部21から突出したときの移動部22の回転位置が第2のポジションとなる。したがって、移動部22が第1のポジションにあるときに、本体部21の下部の開口を皮膚に取り付け、この状態からダイヤル28を回転すると、針部材4を皮膚に刺し込むことができる。
【0175】
なお、上記<C-17>~<C-20>の態様においては、針部材に薬剤を供給するための構成は特には限定されず、移動部や、針部材に管部材が接続されていればよい。
【0176】
<C-21>
本体部の構成は、特には限定されず、例えば、図65に示すように構成することができる。図65Aは薬剤投与デバイスの斜視図、図65Bは操作部及び針部材を取り外した薬剤投与デバイスの斜視図である。図65の例では、上記実施形態の図1の構成と本体部21の構成が相違しており、図65Aに示すように、移動部22が第2のポジションにあるときに、本体部21が移動部22及び操作部3を収容するように構成することができる。すなわち、図65Bに示すように、本体部21の周縁を嵩高くし、移動部22が第2のポジションにあるときに、操作部3が本体部21の内部に収容されるようになっている。これにより、操作部3の周囲が本体部21によって囲まれるとともに、操作部3の上面と本体部21の上端部とが概ね一致し、第2のポジションにある操作部3を本体部21に収容することができる。なお、図65Aに示すように、本体部21の周縁の一部には、切り欠き部219を形成し、操作部3の側面がこの切り欠き部219を介して外部に露出するようにしてもよい。これにより、露出した操作部3の側面に薬剤ライン(図示省略)を連結することができる。
【0177】
また、図66に示すように、操作部3に延在部39を設ける場合、延在部39の下端が収まるように基台1の上面に溝115を形成することもできる。この溝115により、延在部39が外力を受けた場合、延在部39、移動部22、針部材4が移動するのを防止することができる。但し、同図に示すように、溝115によって延在部39が完全に固定されるのではなく、溝115の幅を延在部39の下端部の幅よりもやや広くしておき、延在部39が外力によってやや移動するようにすることもできる。これにより、延在部39に作用する力を吸収することができ、この力が基台1に直接的に伝わるのを抑制することができる。そのため、基台1が皮膚から剥がれるのを抑制することができる。
【0178】
なお、図65に示す例では、矩形状の基台1が設けられているが、基台1の4つの辺に沿ってスリット118が形成されている。このスリット118は、通気性向上のためにも受けられており、これによって、基台1が皮膚に取り付けられたときに皮膚が蒸れるのを抑制することができる。また、図67に示すように、基台1の下面に多数の突部119を設け、これによって基台1の下面と皮膚との間に隙間が形成されるようにしてもよい。あるいは、突部119が形成されている箇所以外の部分に小孔を形成し、通気性を向上することもできる。このような通気性向上のための構成は、本体部21を直接皮膚に取り付けるときのために、本体部21に設けることもできる。
【0179】
<C-22>
薬剤の供給方法として、図68に示すような薬剤投与デバイスを構成することもできる。図68の例では、基台1、本体部21、連結部23、移動部22、針部材4の構成は、特には限定されないが、例えば、図22と同じである。これに加え、移動部22に薬剤が収容されたシリンジ900を取り付け、シリンジ900の吐出口と針部材4とを連通させている。これにより、移動部22が第2のポジションに移動した後、シリンジ900のプランジャ―を押圧すると、薬剤がシリンジ900から吐出され、この薬剤が針部材4を通して皮膚に投与される。このような薬剤を供給するためのシリンジ900は、上述した他の薬剤投与デバイスに適宜適用することができる。なお、このシリンジ900が、本発明の貯留部の他の例とすることができる。
【0180】
<C-23>
例えば図4の例では、本体部21には移動部22が上下動するだけの円筒状の内部空間が形成されているが、例えば、図69に示すように、本体部21の下端部の開口の一部を塞ぎ、針部材4が通過する程度の貫通孔219を形成することもできる。
【0181】
<C-24>
また、各実施形態において針部材4を軸周りに回転可能にすることができる。例えば、針部材4の側面に針穴が形成されていたり、あるいは針部材4の先端が斜めにカットされている場合には、針部材4を軸周りに回転させることで、薬液の径方向の吐出位置を変更することができる。これにより、通液速度の調整も可能になる。このような構成にする場合、例えば図4において、操作部3を、移動部22に対して針部材4の軸周りに回転可能に接続することができる。これにより、針部材4の穿刺後に、操作部3を移動部22に対して回転することにより針穴の周方向の位置を変えることができる。このように、針穴の位置を変更可能にする場合には、所望の位置で操作部3を移動部22に対して固定すべくテープ等で操作部3を固定したり、あるいは移動部22に対して操作部3を所定の回転位置で保持可能に構成する必要がある。
【0182】
<C-25>
図70及び図71に示すように、本体部21の上端に、第2のポジションにある移動部22及び操作部3を収容するように収容部215を設けることもできる。この収容部215は、本体部21を上方に延長するように、円筒状に形成されている。このような収容部215を設けることで、第2のポジションにある移動部22及び操作部3が衣服等へ引っ掛かるのを防止することができる。なお、収容部215において、薬剤ライン5が通過する箇所には切り欠き151を形成することができる。なお、収容部215の位置は特には限定されず、第2のポジションにある移動部22及び操作部3を収容するように筒状に構成されていればよい。したがって、本体部21の上端に設ける以外に、例えば、本体部21の径方向の外側に設けることもできる。なお、図70及び図71の例は、第2実施形態を元にしているが、第1実施形態を元にしてもよいし、変形例で示した各種の例に適用することもできる。
【符号の説明】
【0183】
1 基台
12 粘着材
14 凹部
2 薬剤投与部
21 本体部
215 収容部
22 移動部
23 連結部
3 操作部
39 延在部
4 針部材
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25A
図25B
図25C
図25D
図25E
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
図49A
図49B
図50
図51A
図51B
図51C
図52A
図52B
図53A
図53B
図54A
図54B
図55A
図55B
図56A
図56B
図57A
図57B
図58A
図58B
図59A
図59B
図60A
図60B
図61A
図61B
図62A
図62B
図63A
図63B
図64A
図64B
図65A
図65B
図66
図67
図68
図69
図70
図71