(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】しいたけの発生方法
(51)【国際特許分類】
A01G 18/60 20180101AFI20220302BHJP
【FI】
A01G18/60
(21)【出願番号】P 2017152178
(22)【出願日】2017-08-07
【審査請求日】2020-06-23
(73)【特許権者】
【識別番号】517180350
【氏名又は名称】深山農園株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000242024
【氏名又は名称】株式会社北研
(74)【代理人】
【識別番号】100129056
【氏名又は名称】福田 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100095739
【氏名又は名称】平山 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】深山 幹朗
(72)【発明者】
【氏名】横張 大輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 信
(72)【発明者】
【氏名】後藤 多佳子
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-013358(JP,A)
【文献】特開2004-236625(JP,A)
【文献】特開平09-322649(JP,A)
【文献】特開平02-268622(JP,A)
【文献】特開2003-199429(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0277383(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 18/00 - 18/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成される被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm
2の細孔を穿つ発芽処理を施
した後、6時間~18時間に該細孔から菌床に水分供給を促すことを特徴とするしいたけの発生方法。
【請求項2】
細孔の深さを10~20mmとし、相互の間隔を2~6個/10
4mm
2としたことを特徴とする請求項1記載のしいたけの発生方法。
【請求項3】
しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成される被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する長さ5~10mmの切れ目を入れる発芽処理を施
した後、6時間~18時間に切れ目から菌床に水分供給を促すことを特徴とするしいたけの発生方法。
【請求項4】
切れ目の相互の間隔を2~6個/10
4mm
2としたことを特徴とする請求項3記載のしいたけの発生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しいたけの人工栽培、特に菌床栽培におけるしいたけの発生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、菌床を用いたしいたけの栽培においては、一つの菌床でしいたけを複数回発生させる場合に、その都度、発芽処理を付与する必要があった。
この発芽処理の一般的な方法には、引用文献1~5にあるように、
1)菌床管理温度を5~10℃程度の幅で変化させる方法(温度変化法)、2)菌床を水中に浸漬する方法(浸水法)、3)菌床を手や専用器具でたたく方法(打床法)、4)菌床内部に水を注入する方法(注水法)、5)棚の上下などで位置を変える方法(菌床の移動法)、等が知られている。
これに加えて、菌床の上面からのみきのこを発生させる上面栽培においては、6)菌床と栽培袋の間に溜めている水を排水して再び給水する方法(側面水の排給水法)、7)菌床を反転させて上面部分のみを水で満たしたフルーツパックに浸漬する方法(部分浸水法)、等が知られている。
【0003】
これら発芽処理方法には、それぞれ効果の大きさや適用の幅などに特徴があり、実栽培では、その特徴にあわせて栽培条件・栽培目的・使用品種などが使い分けられている。しかし、そのいずれにも一長一短があり、時間と労力が必要であることや発芽調整が困難であること等の問題点がある。
例えば、上記2)の浸水や(6)の上面栽培における反転排給水法や、(7)のフルーツパックを利用した部分浸水法では、菌床の運搬や個々の菌床保持が必須であるため、非常に労力が掛かるという問題点がある。
一方、(3)の打床法には、比較的労力が小さいものの、処理を行なう個々の作業員によってバラツキが起きやすいため、発芽調整が難しいという問題点がある。
【0004】
そこで本発明者が、上記(1)~(7)の問題点を総合して検討したところ、イ)これらには科学的な立証が不足しており、ロ)又、経験や勘に頼るところが大きい現状があることから、必ずしも適時に適切な処理が為されているわけではないという分析が得られた。
この分析に基づいて、問題点を検討したところ、これらの発芽処理に共通の課題として、「菌床全体を刺激すること」の適否が挙げられた。そして、この「菌床全体を刺激する」ことを前提とすると、下記の(a)、(b)の懸念が指摘されるものとなった。
(a)きのこ原基が十分に準備されている状態の菌床に対して刺激が大きい処理を選択した場合には、集中発生を引き起こしてきのこ一個重が小さくなったり、菌床状態が悪化する懸念が生じる。
具体的には、イ)発生させたくない場所からの発生を誘発し、ロ)出荷可能なきのこの収量が減少し、ハ)上面栽培では菌床の側面および底面から発生したきのこが収穫できず腐敗によって菌床が傷み、ニ)加えて、腐敗したきのこが害菌・害虫を誘引・増殖させる、等の虞が挙げられる。
(b)逆に、きのこ原基の準備が不十分である場合、あるいは、菌体量が減少して活力の低下している菌床に対して、刺激の小さい処理を選択した場合には、きのこが発生しなかったり、ほとんど変化がなかったりする懸念が生じる。
具体的には、ホ)収量の低下や菌床の使用寿命の低下等が引き起こされることが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】キノコ栽培全科 大森清寿・小出博志編 農文協
【文献】きのこ栽培指標 長野県ほか
【文献】改訂版最近きのこ栽培技術 (株)プランツワールド
【文献】2015年夏期セミナー研修会資料 全国サンマッシュ生産協議会・株式会社北研
【特許文献】
【0006】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のことから、しいたけの発芽処理方法にあっては、原基が十分準備された時期に、菌床全体でない局所的な刺激を、全体を考慮しつつ適度な刺激で与えるべきではと、本発明者は考察し、そしてこれを解決すべき手法を模索した結果、菌糸蔓延後に菌床表面に形成される「被膜の存在」に着目し、この「被膜の存在を活用する」ことに腐心して本発明に至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載のしいたけの発生方法は、しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成される被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm2の細孔を穿つ発芽を施した後、6時間~18時間に該細孔から菌床に水分供給を促すことを特徴とする。
【0009】
請求項2記載のしいたけの発生方法は、細孔の深さを10~20mmとし、相互の間隔を2~6個/104mm2としたことを特徴とする。
【0011】
請求項3記載のしいたけの発生方法は、しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成される被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する長さ5~10mmの切れ目を入れる発芽を施した後、6時間~18時間に切れ目から菌床に水分供給を促すことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載のしいたけの発生方法は、切れ目の相互の間隔を2~6個/104mm2としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載のしいたけの発生方法によれば、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm2の細孔を穿つ発芽処理を施すことで、無処理のものと比較して、しいたけの発生個数が増加し、収量としての生重が増大し、しいたけ一個の大きさを問う個重の値も適正値に増大したことが確認された。
その発生位置も、例えば上面栽培においては、側面、底面からの発生は皆無で、すべてが望む上面から発生するという結果が得られた。
【0015】
請求項2記載のしいたけの発生方法によれば、細孔を穿つ発芽処理における細孔の刺激の強さが適確で、その刺激が局所的でありながら、適当間隔をおいて菌床全体に及ぶことが確認された。
【0016】
請求項1乃至2記載のしいたけの発生方法によれば、発芽処理後6時間~18時間に該細孔から菌床に水分供給を促すことで、発生個数と収量の増大が促され、且つ、その水分吸収の時間が短縮化されることが確認された。
【0017】
請求項3記載のしいたけの発生方法によれば、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する長さ5~10mmの切れ目を入れる発芽処理を施すことで、上記請求項1の発明と同様、しいたけの発生個数の増加、収量の増大、一個重の増大が得られ、その発生位置も望む位置からのものとなる。
【0018】
請求項4記載のしいたけの発生方法によれば、切れ目を入れる発芽処理における刺激の強さが適確で、その刺激が局所的でありながら適当間隔をおいて菌床全体に及ぶものとなる。
【0019】
請求項3乃至4記載のしいたけの発生方法によれば、発芽処理後6時間~18時間に該切れ目から菌床に水分供給を促すことで、発生個数と収量の増大が促され、且つ、その水分吸収の時間が短縮化されるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の各工程の流れ示すチャート図である。
【
図3】本発明に使用するスペックで釘体を用いたものを示す斜視図である。
【
図4】本発明に使用するスペックで刃物体を用いたものを示す斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
先ず、本発明の対象とする被膜形成の過程について説明する。
本発明にあっては、先ず、培地にしいたけ菌を接種し、その菌糸が蔓延しつつ培地を分解腐朽させる培養する過程を経る。そして、菌糸が培地全体に蔓延する段階になると、菌床の一部に原基形成が開始される。この原基は、後に菌糸層から発芽し、幼子実体を経て子実体へと熟成し、きのこを生育させる上で重要な役割を果たすものである。
この原基形成が始まると、これに並行して菌床の表面には菌糸塊の形成が開始され、即ち、菌床表面に小さな粒状の凹凸が表れ、そこには菌糸が集合体となった塊、菌糸塊の形成が始まる。そして、菌床表面は、多くの場合原基の形成と同時又は若干遅れた速度で少しづつ茶色に色づけされ、やがては焦げ茶色に着色される褐変化の状態に至る。すると、この表面には一定層の膜の形成されたものとなり、これが本発明の対象とする「被膜」となる。
【0022】
さて上記培養の過程にあって、しいたけは、一つの菌床を一回限りのきのこ発生で終了させるのでなく、生育したきのこを菌床から刈り取った後、再度その菌床に発芽刺激を付与することで2回目のきのこを生育させる。そして、これを2~12回程度繰り返す栽培法を採る。即ち、一つの菌床から複数回きのこを発生させる方法となる。
この一つの菌床から複数回の発生にあっては、冒頭に説明した如く、菌床と原基になんらかの刺激を与えないと、発芽が極めて低調となり、やがてきのこが発生しなかったり、又は、その収量が少量で効率の悪いものとなってしまう傾向がある。
【0023】
そこで、本発明では、上記問題の解決策として、「被膜」に着目することになるが、この被膜とは、上記の如く、原基形成と並行して進められる、菌床表面の菌糸塊が成長して色の褐変化を伴って一定層に形成される膜をいうものである。
この被膜は、1~7mm程度の厚みを備えたものとなり、その硬さは、膜としての一定の硬度を備えるものの、過度に硬いものではなく、例えればソフトボール球の表面の如き、比較的柔軟な弾性を備えたものとなる。
この被膜が菌床全面に亘って形成されたものとなる。
【0024】
さて斯かる被膜に対し、本発明しいたけの発生方法は、しいたけ菌を接種し菌糸蔓延で培地を分解腐朽させて培養する過程において菌床表面に形成された被膜に対し、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm2の細孔を穿つ処理を施す。
即ち、発芽時における菌床に対し、上記過程で形成される被膜の表面に、被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する細孔を穿つ処理を施し、それによって発芽に至る刺激を与えるものとする(以下これを細孔発芽処理という)。
その細孔とは、断面積0.5~20mm2(直径約1~5mmに相当)の孔体で、それが被膜を破った後、その下の菌糸層まで到達する深さの孔体とする。
この孔体は、円孔が代表的であるが、これに限らず、楕円形、三角形、四角形、星形等を断面形状とする孔体を含む。
【0025】
具体的には、
図3に示す如く、例えば、太さが直径2mmで、長さが150mm程度の釘体1aを6本用意し、これを170mm×90mmの板状盤体2に略等間隔に分散させて打ち付けたスペック3を準備する。
分散の度合いは、170mm×90mmの面積に6本なので、6本/1.53×10
4mm
2となる。これを100mm×100mmの面積に換算すると約4本/10
4mm
2となる。
【0026】
斯かるスペックを用いて、上記段階に至った被膜に対し、菌床の上面から釘体を刺し込み、その先端を被膜下の菌糸層の15mm程度の深さにまで到達させる。
そして、釘体の刺し込みが確認されたら、これを静かに引き抜いて、元の菌床の状態に戻す。
すると、当該菌床の表面被膜には断面直径2mmで深さ15mmの細孔が穿たれたものとなる。
このスペックの上下動は、昇降器具を用いるか、或いは、人の手によるかのいずれであっても良い。
【0027】
切れ目を入れる発芽処理を施す場合(以下これを切れ目発芽処理という)には、上記釘体に換えて、先端の尖った刃物体(例えばナイフ)を用い、その長さを5~10mmとすることができる。
具体的には、
図4の如くで、幅8mm、厚み0.6mm、長さ150mmの刃物体1bの6本を、上記釘体と同様、170mm×90mmの板状盤体2に等間隔に分散させて立設したスペック3を用いる。
その概要は釘体の場合と同様である。
【0028】
次いで、細孔発芽処理を施した後、必要に応じて、6時間~18時間に該細孔から菌床に水分供給を促す操作を加える。
即ち、しいたけの栽培にあっては、発生から収穫の間のいずれかの時点で給水を行わなければならないが、この給水は必ずしも十分な量には足らず、若しくは、その給水に24時間以上の長時間を要するものであった。
そこで、この給水を上記細孔発芽処理と同時期に行った場合、収穫量および一個重等により望ましい結果が得られるものとなる。
具外的には、上記上面栽培で被膜に細孔発芽処理又は切れ目発芽処理を施した菌床に対し、フルーツパックに400ml程度の水を溜め、そこに当該菌床を上下を逆さまにした形態、即ち、細孔発芽処理を施した面が下向きとなる形態で、浸漬させる。
この処理は、給水の時間短縮を図る意味では、20時間以内、望ましくは6時間から18時間の間に行うのが望ましい。
【0029】
上記細孔発芽処理及び水分供給操作を経て、菌床には幼子実体が生まれ、それが子実体へと生育して、きのこの熟成へと向かい、1回目の刈り取りを終了させる。
そして、再度その菌床に発芽刺激を付与することで2回目以降の複数回きのこの収穫を促すが、このとき、上記本発明発芽処理を加えるものとなる。
尚、本発明発芽処理を加える間隔は、必ずしも複数回に対して毎回行う必要はなく、品種や環境の変化に応じて、回数及び間隔を定めるものとする。
【0030】
切れ目発芽処理の場合も、上記細孔発芽処理とまったく同様である。
【0031】
次いで、本発明の作用及び効果を説明する。
上記しいたけの発生方法によって、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する断面積0.5~20mm2の細孔を穿つ発芽処理を施すことで、無処理のものと比較して、しいたけの発生個数を増加させ、収量としての生重を増大させ、しいたけ一個の大きさを問う個重の値も適正値に増大させることができるものとなる。このことが後述する実施例1によって確認された。
これは、細孔を穿つ処理を施すことで、被膜細胞の一部が破壊され、且つ、その細孔付近から外気が導入され、それら刺激に対する防御反応として、発芽反応が活性化されたものと推察される。
【0032】
又、その時期的条件にあっても、上記過程において菌床表面に形成される被膜が褐変化する時期は、原基が十分に準備された状態に相当し、なんらかの刺激で発芽の促される準備が整えられた状態と捉えられる。
【0033】
又、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する細孔を穿つ処理を施すことで、菌床全体を均一に刺激することのない局所的な刺激とし、且つ、その細孔の大きさを断面積0.5~20mm2の孔とすることで、その刺激が強すぎず、又、弱すぎない刺激となって、集中発生による一個重の小さなものとなる弊を避けて、一個重の大きく、市場価値の高いものとなった。
【0034】
その発生位置も、上面栽培においては、側面、底面からの発生は皆無となり、すべてが望む上面から発生するものとなる。このことが、実施例2によって確認された。
これは、上記刺激を望む位置、例えば上面栽培であれば上面方向から与えれば、その刺激に反応して望む位置としての上面から発生するものと推察される。
【0035】
又、細孔の深さを10~20mmとし、相互の間隔を2~6個/104mm2とすることで、個重が適切なものとなることが確認された。
これは刺激自体は局所的であるが、それが相互に適当間隔を保つことから、全体に亘って刺激が適正に分散され、一個重が大になったものと推察される。
【0036】
更に、発芽処理後6時間~18時間に該細孔から菌床に水分供給を促すことで、発生個数と収量の増大が促され、且つ、その水分吸収の時間が短縮化されるものとなる。このことが、実施例3によって確認された。
これは上記発芽処理が、表面被膜を破ってその下の菌糸層まで到達する細孔を穿つものとすれば、その経路を伝って水が浸入し易く、それが菌糸層内部にまで浸透して、短時間で、十分なる水分の供給がなされたものである。
【0037】
この作用及び効果についても、切れ目発芽処理の場合は上記細孔発芽処理とまったく同様である。
【実施例1】
【0038】
本実施例においては、上記被膜に細孔発芽処理を施し、きのこの発生個数、生重、個重等を測定し、同処理の有効性を確認した。
先ず、培地組成はコナラのチップとオガコを容量比6:4で混合したものに栄養体としてシイタケ短期栽培用ニューバイデル(株式会社北研)を培地仕上がり重量比10%添加、含水率を60%に調整し、高圧殺菌(118℃・60分)を行なった。放冷後、品種は北研705号(株式会社北研)を接種して20℃で120日間の培養を行なった。発生については菌床の上面からのみきのこを発生させる上面栽培を行ない、発生管理は6ヶ月間とした。
上記条件の下に、対照区と処理区とを設定した。対照区は、菌床への発芽刺激を側面水の温度変化のみとしたものをC1、この温度変化に加え菌床を水を溜めたフルーツパックに浸して内部に浸水させたものをC2とした。一方、上記細孔発芽処理を施したものを処理区とし、バージンの培地からきのこの発生を促したもの(一番発生のもの)をA1とし、一度発生したものから再度の発生を促し4回目に相当するもの(4番発生のもの)をA2とし、同様に6回目に相当するもの(6番発生のもの)をA3とした。菌床の数は各区10個を供試体とした。細孔を穿つ処理は、直径2mm、長さ150mmの先端を尖らせた棒状体(釘)を170mm×90mmの板体に6本の間隔で植設したスペックを作成し、このスペックにて上記菌床の表面に細孔を穿つことで行った。
上記各供試体の、きのこの発生個数、重量としての生重、一個当たりの重量として個重をそれぞれ測定した。
尚、実施例に示す細孔発芽処理を施すスペックは、断面直径が2mmで、150mmの長さの釘体6本を、170mm×90mmの板状盤体に等間隔に分散させて打ち付けものを用いた。
【0039】
【0040】
穏やかな刺激である温度変化のみで発芽を促したC1区と比較して、フルーツパック浸水を施したC2区にあっては、きのこの発生個数が増加し収量も最も多いものとなった。しかし、発生が局所に集中発生するケースが多く、一個あたりの重量としての生重は減少してしまった。
これに対し、本発明処理を施したA1区~A3区にあっては、きのこの発生個数及び収量としての生重が増加し、且つ、きのこ個重も増加した。即ち、きのこの発生個数及び全体の収量が増加しただけでなく、一個当たりの個重も増加することが確認された。また、発生期間全般にわたって発生が局所に集中することなく平均的に発生する傾向が認められた。
尚、A1~A3区を比較すると、A3区で個数及び生重が最も増加し、発生初期~中期では収量の変動がやや大きかった一方で後期に発生がやや集中する傾向があった。相互を比較するとA3区が好適なものとなったが、これは今回供試体として北研705号を用いたが、異なる品種を用いた場合には適したタイミングが異なる可能性があり、必ずしも6番発生が好適なものとの判断はできないと考えられる。
【実施例2】
【0041】
本発明処理に基づいて、きのこの発生を希望する部位からの発芽促進効果について検討した。
培養は実施例1と同様で、培地組成はコナラのチップとオガコを容量比6:4で混合したものに栄養体としてシイタケ短期栽培用ニューバイデル(株式会社北研)を培地仕上がり重量比10%添加、含水率を60%に調整し、高圧殺菌(118℃・60分)を行なった。放冷後、品種は北研705号(株式会社北研)を接種して20℃で120日間の培養を行なった。
発生については、菌床の上面から発生させる上面栽培を行い、1回目の発生終了後の菌床に対して温度変化のみで発芽を促したC1区(対照区)、菌床を手でたたいて刺激する打床区をC2区、菌床と栽培袋の間に溜めている水を排水して再び給水する反転排給水区をC3区、菌床を反転させ上面部分のみを水で満たしたフルーツパックに浸漬する部分浸水をC4区とした。
細孔発芽処理は、上記実施例1と同様とした。
各区における、きのこの発生を希望する場所を上面としたとき、その上面及びそれ以外の場所からの発生数を測定した。
【0042】
【0043】
その結果、温度変化のみの対照区(C1)及び、打床区(C2)・反転排給水(C3)・フルーツパックを利用した部分浸水(C4)では、菌床側面および底面といった発芽を希望しない場所からの発生がそれぞれ12%、41%、44%、25%を占めた。又、(C3)、(C4)区では処理に掛かる労力が大きい傾向があった。
一方、本発明の細孔発芽処理区(A)にあっては、発生はすべて望む上面からという結果が得られ、希望する場所からの発生が100%となることが判明した。加えて、労力が小さくて済むものであった。
【実施例3】
【0044】
(A)
実施例2によって細孔発芽処理の有効性が確認できたが、これに「菌床に水分を供給する操作」を加えた場合、きのこの発生及び収穫等に如何なる影響を与えるかを検証した。
即ち、しいたけの栽培にあっては、発生期間のいずれかの時点で適時給水を行わなければならないが、この給水を上記細孔発芽処理と同時期に行った場合、収穫量および一個重等により望ましい結果が得られるのではないかと予想し、これを検証することとした。
【0045】
先ず、細孔発芽処理を行なった後に、「水分の供給操作」を施すにあたって、その細孔発芽処理をおこなった菌床が、どの程度の水分を吸収するかを求めた。
しいたけの培養条件は上記実施例1と同様で、培地組成はコナラのチップとオガコを容量比6:4で混合したものに栄養体としてシイタケ短期栽培用ニューバイデル(株式会社北研)を培地仕上がり重量比10%添加、含水率を60%に調整し、高圧殺菌(118℃・60分)を行なった。放冷後、品種は北研705号(株式会社北研)を接種して20℃で120日間培養を行なった後に、栽培袋を除去して全面栽培で管理を行なった。
発生条件は、13℃と22℃を12時間交替で変化させる条件で行ない、発芽刺激は浸水(4時間)を行なった。初回発生終了後の菌床を用いて無処理の対照区(C)と処理を行なった処理区(A)を設定(各区菌床10個供試)して、散水管理を一日2回30分で3日間行ない、菌床重量の変化を測定した。
【0046】
【0047】
この結果、対照区(C)と比較して処理区(A)では、無処理の対照区(C)の重量増加が0.98%であったのに対し、処理区(A)では4.04%の増加となり、顕著な菌床重量の増加が見られた。
従って、先ず、細孔発芽処理と水分の供給操作によって、菌床に水分が十分且つ適正範囲に吸収されることが確認された。
【0048】
(B)上記(A)に基づいて、細孔発芽処理によって菌床に十分な水分が吸収されることが確認できたが、その十分な水分が吸収された菌床によってきのこ収量に如何なる影響を与えるかを検証した。
使用した菌床は、前述の実施例と同様に北研705号とした。初回発生後に休養管理(23℃・7日間)を行ない、処理を行なわない対照区(C1)、(C2)と細孔発芽処理に浸水操作を加えた処理区(A1)、(A2)を設定した。操作時間は(C1)、(A1)で6時間、(C2)、(A2)で18時間とした。
【0049】
【0050】
この結果、6時間操作では、処理のないC1区ではパック浸水前と後で菌床重量の差が55gで、きのこ収量が192g/菌床であったのに対し、細孔発芽処理に浸水操作を加えたA1区ではパック浸水の前後で菌床重量の差が70gで、きのこ収量が192g/菌床であった。18時間処理では、処理のないC2区ではパック浸水前と後で菌床重量の差が80gで、きのこ収量が322g/菌床であったのに対し、処理を施したA2区ではパック浸水の前後で菌床重量の差が168gで、きのこ収量は349g/菌床であった。
即ち、無処理の対照区と処理区とを比較した場合、無処理のC1区及びC2区に対し処理区のA1区及びA2区は、吸水量が多くなると共に、きのこ収量も増加する傾向が認められた。又、操作時間を比較した場合にも、6時間操作のA1区に対して18時間操作のA2区では、吸水量及び収量ともに操作時間の長いA2区が値の高いものであった。
従って、吸水量及び収量をともに高める意味では、処理を施すとともにその操作時間をできる限り長時間に保つことが望ましいものとなる。
一方、その操作時間については、18時間操作したA2区が349g/菌床であったのに対し、6時間操作したA1区は298g/菌床となり、A1区の収量はA2区の約85%に達するものであった。
このことから、6時間以上の浸水操作を施すなら、実効性のある比較的高い吸水量及び収量が確保できることが判明した。
ここから浸水時間(給水時間)を6時間から18時間とすることで、実効性の高い吸水量と収量が期待できるものとなる。
尚、上記6時間及び18時間の処理時間は、通常のきのこ栽培における浸水では24時間以上を要し、この点からも、細孔発芽処理に浸水操作を加えたものは時間短縮と収量増大に効果あることが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0051】
しいたけ菌床栽培において、既存の方法への利用はもちろん、人件費・施設費等の低減がより大きく求められる工場生産においても、本発明を用いることで効率的かつ効果的に細孔発芽処理を行なうことが可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1a・・ 釘体
1b・・ 刃物体
2・・ 板状盤体
3・・ スペック
3・・ 培地