(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】咀嚼又は嚥下の検知装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
A61B5/11 300
A61B5/11 310
(21)【出願番号】P 2019509438
(86)(22)【出願日】2018-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2018014112
(87)【国際公開番号】W WO2018182043
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-04-01
(31)【優先権主張番号】P 2017071032
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】396017534
【氏名又は名称】コンピュータ・ハイテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石上 惠一
(72)【発明者】
【氏名】大津 こう滋
(72)【発明者】
【氏名】清水 典昭
(72)【発明者】
【氏名】小林 明夫
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-171136(JP,A)
【文献】特開2009-279122(JP,A)
【文献】特開2012-217525(JP,A)
【文献】特開2016-140478(JP,A)
【文献】特開2008-061790(JP,A)
【文献】特開2017-056053(JP,A)
【文献】特開2017-060548(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/06 - 5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人の頭部又は頸部の所定部位に貼り付けられた変位センサの出力信号を取得する取得部と、
前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する平滑化部と、
指定された期間に前記人が咀嚼又は嚥下を行い、前記指定された期間後も前記人が継続して咀嚼又は嚥下を行う場合において、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号に基づき閾値を決定し、
前記閾値を決定した後に、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号が示す波形を前記平滑化部
が平滑化
した波形と前記閾値との比較結果に基づき
、前記指定された期間中の咀嚼又は嚥下を過去にさかのぼって検知するとともに、
前記変位センサの前記指定された期間後の
出力信号が示す波形を前記平滑化部が平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間後の咀嚼又は嚥下を検知する検知部と
を備える検知装置。
【請求項2】
前記検知部により検知された咀嚼又は嚥下の回数をカウントするカウント部
を備える請求項1に記載の検知装置。
【請求項3】
前記平滑化部は高周波数成分を減衰させるフィルタにより前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する
請求項1又は2に記載の検知装置。
【請求項4】
前記取得部は、前記人が発する声を拾音するマイクの出力信号を取得し、
前記検知部は、前記マイクの出力信号を用いて前記人の発声期間を特定し、前記発声期間中に関しては咀嚼又は嚥下を検知しない
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項5】
前記マイクを備え、
前記マイクは骨伝導マイクである
請求項4に記載の検知装置。
【請求項6】
前記変位センサの出力信号に含まれる音信号を当該出力信号から分離する信号分離手段を備え、
前記検知部は、前記信号分離手段により分離された音信号を用いて前記人の発声期間を特定し、前記発声期間中に関しては咀嚼又は嚥下を検知しない
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項7】
前記変位センサ
を備える請求項1乃至6のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項8】
ネットワークを介してサーバ装置と通信を行う通信手段を備える
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の検知装置。
【請求項9】
人の頭部の所定部位に貼り付けられた第1の変位センサの出力信号と、前記人の頸部の所定部位に取り付けられた第2の変位センサの出力信号を取得する取得部と、
前記第1の変位センサの出力信号が示す波形と前記第2の変位センサの出力信号が示す波形を互いに異なるカットオフ周波数のローパスフィルタにより平滑化する平滑化部と、
前記第2の変位センサの出力信号を用いて前記人により嚥下が行われている期間を特定し、
前記嚥下が行われている期間に関しては咀嚼を検知せず、前記嚥下が行われている期間を除く期間に関し前記平滑化部により平滑化された前記第1の変位センサの出力信号が示す波形に基づき咀嚼を検知し、前記平滑化部により平滑化された前記第2の変位センサの出力信号が示す波形に基づき嚥下を検知する検知部と
を備える検知装置。
【請求項10】
前記検知部により検知された咀嚼及び嚥下の各々の回数をカウントするカウント部を備え、
前記カウント部は、前記嚥下が行われている期間より後に前記検知部により検知された咀嚼を1からカウントし直す
請求項9に記載の検知装置。
【請求項11】
コンピュータに、
人の頭部又は頸部の所定部位に貼り付けられた変位センサの出力信号を取得する処理と、
前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する処理と、
指定された期間に前記人が咀嚼又は嚥下を行い、前記指定された期間後も前記人が継続して咀嚼又は嚥下を行う場合において、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号に基づき閾値を決定し、
前記閾値を決定した後に、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号が示す波形を前記平滑化する処理によって平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき
、前記指定された期間中の咀嚼又は嚥下を過去にさかのぼって検知するとともに、
前記変位センサの前記指定された期間後の
出力信号が示す波形を前記平滑化する処理によって平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間後の咀嚼又は嚥下を検知する処理と
を実行させるためのプログラム。
【請求項12】
コンピュータに、
人の頭部の所定部位に貼り付けられた第1の変位センサの出力信号と、前記人の頸部の所定部位に取り付けられた第2の変位センサの出力信号を取得する処理と、
前記第1の変位センサの出力信号が示す波形と前記第2の変位センサの出力信号が示す波形を互いに異なるカットオフ周波数のローパスフィルタにより平滑化する処理と、
前記第2の変位センサの出力信号を用いて前記人により嚥下が行われている期間を特定する処理と、
前記嚥下が行われている期間に関しては咀嚼を検知せず、平滑化した前記第1の変位センサの出力信号が示す波形に基づき、前記嚥下が行われている期間を除く期間に関し咀嚼を検知する処理と、
平滑化した前記第2の変位センサの出力信号が示す波形に基づき嚥下を検知する処理と
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、咀嚼又は嚥下を検知する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究により、咀嚼は、脳の活性化を促す等の多くの好影響をもたらすことが明らかになってきている。咀嚼を検知する装置があれば、咀嚼回数の増加を促すことができ、人の心身における健康の増進が促される。
【0003】
また、咀嚼と関連性の高い身体機能として嚥下がある。嚥下の能力は高齢化等により衰えるが、日々、意識的な嚥下を行うことで能力の低下が抑止される。従って、咀嚼と同様に、嚥下を検知する装置があれば、意識的な嚥下を促すことができ、人の心身における健康の増進が促される。
【0004】
例えば、特許文献1には、人の頬に張力検知センサを貼り付け、張力検知センサの検知結果に基づき咀嚼回数を数え、数えた回数を記録し表示する咀嚼回数記録装置が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、人の咽頭部にピエゾフィルムを貼り付け、ピエゾフィルムから発せられる電気信号の強度が所定の閾値を超えた回数を計測する嚥下機能評価訓練装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平07-171136号公報
【文献】特開2012-217525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
頬等に貼り付けた変位センサが1回の咀嚼に伴い出力する信号の波形には、複数回の起伏が含まれる場合がある。そのため、単純に変位センサの出力信号が示す波形の振幅が上限閾値を超えたこと、又は、振幅が下限閾値を下回ったことをもって咀嚼を検知すると、実際には行われていない咀嚼を誤って検知してしまう場合がある。嚥下に関しても同様である。
【0008】
上記の事情に鑑み、本発明は咀嚼又は嚥下を正しく検知する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、人の頭部又は頸部の所定部位に貼り付けられた変位センサの出力信号を取得する取得部と、前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する平滑化部と、指定された期間に前記人が咀嚼又は嚥下を行い、前記指定された期間後も前記人が継続して咀嚼又は嚥下を行う場合において、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号に基づき閾値を決定し、前記閾値を決定した後に、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号が示す波形を前記平滑化部が平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間中の咀嚼又は嚥下を過去にさかのぼって検知するとともに、前記変位センサの前記指定された期間後の出力信号が示す波形を前記平滑化部が平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間後の咀嚼又は嚥下を検知する検知部とを備える検知装置を第1の態様として提供する。
【0010】
上記の第1の態様に係る検知装置によれば、閾値を決定するための期間に行われた咀嚼又は嚥下も検知される。
【0011】
上記の第1の態様に係る検知装置において、前記検知部により検知された咀嚼又は嚥下の回数をカウントするカウント部を備える、という構成が第2の態様として採用されてもよい。
【0012】
上記の第2の態様に係る検知装置によれば、咀嚼又は嚥下の回数を容易にすることができる。
【0013】
上記の第1又は第2の態様に係る検知装置において、前記平滑化部は高周波数成分を減衰させるフィルタにより前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する、という構成が第3の態様として採用されてもよい。
【0014】
上記の第3の態様に係る検知装置によれば、ソフトウェア処理により、変位センサの出力信号が示す波形の平滑化が行われる。
【0019】
上記の第1乃至第3のいずれかの態様に係る検知装置において、前記取得部は、前記人が発する声を拾音するマイクの出力信号を取得し、前記検知部は、前記マイクの出力信号を用いて前記人の発声期間を特定し、前記発声期間中に関しては咀嚼又は嚥下を検知しない、という構成が第4の態様として採用されてもよい。
【0020】
上記の第4の態様に係る検知装置によれば、発声中に誤って咀嚼又は嚥下が検知される不都合が回避される。
【0021】
上記の第4の態様に係る検知装置において、前記マイクを備え、前記マイクは骨伝導マイクである、という構成が第5の態様として採用されてもよい。
【0022】
上記の第5の態様に係る検知装置によれば、騒音の多い環境下においても、発声期間の特定が正しく行われる。
【0023】
上記の第1乃至第3のいずれかの態様に係る検知装置において、前記変位センサの出力信号に含まれる音信号を当該出力信号から分離する信号分離手段を備え、前記検知部は、前記信号分離手段により分離された音信号を用いて前記人の発声期間を特定し、前記発声期間中に関しては咀嚼又は嚥下を検知しない、という構成が第6の態様として採用されてもよい。
【0024】
上記の第6の態様に係る検知装置によれば、発声中に誤って咀嚼又は嚥下が検知される不都合が回避される。
【0025】
上記の第1乃至第6のいずれかの態様に係る検知装置において、前記変位センサを備える、という構成が第7の態様として採用されてもよい。
【0026】
上記の第7の態様に係る検知装置によれば、ユーザは変位センサを別途準備する必要がない。
【0027】
上記の第1乃至第7のいずれかの態様に係る検知装置において、ネットワークを介してサーバ装置と通信を行う通信手段を備える、という構成が第8の態様として採用されてもよい。
【0028】
上記の第8の態様に係る検知装置によれば、管理者等は遠隔的に検知装置の動作状況や検知装置により検知された咀嚼又は嚥下を確認することができる。
【0029】
また、本発明は、人の頭部の所定部位に貼り付けられた第1の変位センサの出力信号と、前記人の頸部の所定部位に取り付けられた第2の変位センサの出力信号を取得する取得部と、前記第1の変位センサの出力信号が示す波形と前記第2の変位センサの出力信号が示す波形を互いに異なるカットオフ周波数のローパスフィルタにより平滑化する平滑化部と、前記第2の変位センサの出力信号を用いて前記人により嚥下が行われている期間を特定し、前記嚥下が行われている期間に関しては咀嚼を検知せず、前記嚥下が行われている期間を除く期間に関し前記平滑化部により平滑化された前記第1の変位センサの出力信号が示す波形に基づき咀嚼を検知し、前記平滑化部により平滑化された前記第2の変位センサの出力信号が示す波形に基づき嚥下を検知する検知部とを備える検知装置を第9の態様として提供する。
【0030】
上記の第9の態様に係る検知装置によれば、一連の動作として行われる咀嚼と嚥下を並行して検知することができる。
【0031】
上記の第9の態様に係る検知装置において、前記検知部により検知された咀嚼及び嚥下の各々の回数をカウントするカウント部を備え、前記カウント部は、前記嚥下が行われている期間より後に前記検知部により検知された咀嚼を1からカウントし直すという構成が第10の態様として採用されてもよい。
【0032】
上記の第10の態様に係る検知装置によれば、個々の嚥下のために行われる咀嚼の状態を知ることができる。
【0033】
また、本発明は、コンピュータに、人の頭部又は頸部の所定部位に貼り付けられた変位センサの出力信号を取得する処理と、前記変位センサの出力信号が示す波形を平滑化する処理と、指定された期間に前記人が咀嚼又は嚥下を行い、前記指定された期間後も前記人が継続して咀嚼又は嚥下を行う場合において、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号に基づき閾値を決定し、前記閾値を決定した後に、前記変位センサの前記指定された期間の出力信号が示す波形を前記平滑化する処理によって平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間中の咀嚼又は嚥下を過去にさかのぼって検知するとともに、前記変位センサの前記指定された期間後の出力信号が示す波形を前記平滑化する処理によって平滑化した波形と前記閾値との比較結果に基づき、前記指定された期間後の咀嚼又は嚥下を検知する処理とを実行させるためのプログラムを第11の態様として提供する。
また、本発明は、コンピュータに、人の頭部の所定部位に貼り付けられた第1の変位センサの出力信号と、前記人の頸部の所定部位に取り付けられた第2の変位センサの出力信号を取得する処理と、前記第1の変位センサの出力信号が示す波形と前記第2の変位センサの出力信号が示す波形を互いに異なるカットオフ周波数のローパスフィルタにより平滑化する処理と、前記第2の変位センサの出力信号を用いて前記人により嚥下が行われている期間を特定する処理と、前記嚥下が行われている期間に関しては咀嚼を検知せず、平滑化した前記第1の変位センサの出力信号が示す波形に基づき、前記嚥下が行われている期間を除く期間に関し咀嚼を検知する処理と、平滑化した前記第2の変位センサの出力信号が示す波形に基づき嚥下を検知する処理とを実行させるためのプログラムを第12の態様として提供する。
【0034】
上記の第11の態様に係るプログラムによれば、コンピュータにより、第1の態様の検知装置が実現される。また、上記の第12の態様に係るプログラムによれば、コンピュータにより、第9の態様の検知装置が実現される。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、咀嚼又は嚥下が正しく検知される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】第1実施形態に係る咀嚼検知装置の使用状態を示した図。
【
図3】第1実施形態に係る咀嚼検知装置の制御ユニットの機能構成を示した図。
【
図4】第1実施形態に係る咀嚼検知装置が取得する変位センサの出力信号を示した図。
【
図5】第1実施形態に係る咀嚼検知装置が平滑化を行った後の変位センサの出力信号を示した図。
【
図6】第1実施形態に係る咀嚼検知装置において咀嚼の検知に用いられる閾値の決定方法を説明するための図。
【
図7】第1実施形態に係る咀嚼検知装置が咀嚼を検知する処理を説明するための図。
【
図8】第1実施形態に係る咀嚼検知装置が咀嚼回数のカウント中に表示する画面を例示した図。
【
図9】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置の外観図。
【
図10】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置の使用状態を示した図。
【
図11】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置の制御ユニットの機能構成を示した図。
【
図12】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置が取得する変位センサの出力信号を示した図。
【
図13】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置が平滑化を行った後の変位センサの出力信号を示した図。
【
図14】第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置が咀嚼及び嚥下の回数のカウント中に表示する画面を例示した図。
【
図15】一変形例に係る咀嚼検知装置又は咀嚼・嚥下検知装置の動作を説明するための図。
【
図16】一変形例に係る咀嚼検知装置又は咀嚼・嚥下検知装置の動作を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[第1実施形態]
以下に本発明の一実施形態に係る咀嚼検知装置1を説明する。
図1は咀嚼検知装置1の外観図である。咀嚼検知装置1は、本体11と、本体11に有線接続された変位センサ12と、本体11に有線接続されたマイク13を備える。
【0038】
本体11は、スピーカ111と、ディスプレイ112と、ボタン群113と、制御ユニット114を備える。スピーカ111は後述するガイド音を発音する。ディスプレイ112は、例えば液晶ディスプレイであり、カウントされた咀嚼回数等の各種情報を表示する。
【0039】
ボタン群113は複数のボタンを有し、ユーザによる操作を受け付ける。
図1には、ボタン群113が「SELECT」ボタン、「UP」ボタン、「DOWN」ボタン、「START」ボタン、「STOP」ボタンの計5つのボタンを有する場合が例示されているが、これらのボタンの数、配置等は任意に変更されてよい。
【0040】
制御ユニット114は、例えば、メモリと、メモリに記憶されているプログラムに従いデータ処理を行うプロセッサと、外部の装置との間でデータの入出力を行う入出力インタフェースを備えるコンピュータである。ただし、制御ユニット114が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の集積回路を有する専用装置として構成されてもよい。
【0041】
変位センサ12は、ユーザの頭部の所定部位に貼り付けられ、ユーザの咀嚼時に当該所定位置に生じる形状の変化による変位(歪み量)に応じた振幅の信号を出力する。変位センサ12が貼り付けられる所定部位として適当な部位は、例えば頬の顎関節近傍であるが、咀嚼により形状が変化する部位であれば頭部のいずれの部位であってもよい。
【0042】
マイク13は、ユーザが発する声を拾音し、拾音したユーザの音声を示す信号を出力する。マイク13は、例えば骨伝導マイクであり、ユーザの頭部の所定部位に貼り付けられ、ユーザが発し頭蓋骨を介して顔の表面に伝わってくる声の振動を拾う。マイク13が貼り付けられる所定部位として適当な部位は、例えばこめかみ付近であるが、ユーザの発声により振動する部位であればいずれの部位であってもよい。
【0043】
図2は、ユーザの頭部に変位センサ12及びマイク13が貼り付けられた状態を示した図である。変位センサ12及びマイク13は、例えば医療用テープ等によりユーザの顔に貼り付けられる。
【0044】
変位センサ12が頭部に貼り付けられた状態でユーザが咀嚼を行うと、変位センサ12からは咀嚼に伴い頭部の表面に生じる形状の変化を示す信号が出力される。ただし、変位センサ12が出力する信号は、咀嚼だけでなく、ユーザが発声する間に頭部の表面に生じる形状の変化も示す。そのため、咀嚼検知装置1は、マイク13から音声を示す信号が出力されている期間(以下、「発声期間」という)は咀嚼の検知を行わない。発声期間の特定等については後述する。
【0045】
図3は、制御ユニット114の機能構成を示した図である。例えば制御ユニット114がコンピュータである場合、
図3に示される構成部のうち、取得部1141は主として入出力インタフェースにより実現され、記憶部1146は主としてメモリにより実現され、その他の構成部は主としてメモリに記憶されたプログラムに従ったプロセッサによるデータ処理により実現される。
【0046】
以下、制御ユニット114が備える構成部を説明する。取得部1141は、外部の装置から信号を取得する。取得部1141は、変位センサ12から出力される変位を示す信号(以下、「変位信号」という)を取得する変位信号取得部11411と、マイク13から出力される音を示す信号(以下、「音信号」という)を取得する音信号取得部11412と、ボタン群113から出力されるユーザにより行われた操作を示す信号(以下、「操作信号」という)を取得する操作信号取得部11413を有する。
【0047】
平滑化部1142は、変位信号取得部11411により取得された変位信号(変位センサ12の出力信号)が示す波形を、実質的にリアルタイムに平滑化する。平滑化部1142はフィルタを有し、フィルタによって変位信号が示す波形の高周波数成分を減衰させることにより、波形の平滑化を行う。
【0048】
音声フィルタ部1143は、音信号取得部11412により取得された音信号(マイク13の出力信号)に対し、人の音声の周波数成分を通過させ、他の周波数成分を減衰させるフィルタ処理を行う。このフィルタ処理により、音声フィルタ部1143は、ユーザが発した声の成分を多く含んだ音信号を生成する。
【0049】
検知・カウント部1144は、咀嚼を検知する検知部11441と、検知した咀嚼の回数をカウントするカウント部11442を有する。
【0050】
検知部11441は、まず、平滑化部1142により平滑化された変位信号が示す波形のピークとボトムを検知する。より具体的には、検知部11441は、変位信号が上限閾値より小さい値から上限閾値より大きい値に増加した後、上限閾値より小さい値に減少した場合、変位信号が上限閾値を上回っていた期間をピークを示す期間として検知する。
【0051】
また、検知部11441は、変位信号が下限閾値より大きい値から下限閾値より小さい値に減少した後、下限閾値より大きい値に増加した場合、変位信号が下限閾値を下回っていた期間をボトムを示す期間として検知する。そして、検知部11441は、1つのピークを検知した後に1つのボトムを検知した場合、1回の咀嚼を検知する。以下、1回の咀嚼を構成する1つのピークとその後に現れるボトムを「ピークとボトムのセット」という。
【0052】
図4は、平滑化の行われる前の変位信号が示す波形の例を示している。
図4に示す波形は、変位センサ12が頭部の所定部位に貼り付けられた状態でユーザが2回の咀嚼を行った場合の波形である。
図5は、平滑化部1142による平滑化の行われた後の変位信号が示す波形の例を示している。
図4及び
図5の横軸は時間を示し、縦軸は変位信号の振幅を示す。また、
図4及び
図5の破線T
Uは上限閾値(以下、上限閾値T
U)を示し、破線T
Lは下限閾値(以下、下限閾値T
L)を示す。そして、
図4及び
図5において、P
1、P
2、・・・は変位信号がピークを示す期間であり、B
1、B
2、・・・は変位信号がボトムを示す期間である。
【0053】
図4の例では、P
2とB
1が1つめのピークとボトムのセット、P
4とB
2が2つめのピークとボトムのセット、P
6とB
3が3つめのピークとボトムのセットとなる。この3つめのピークとボトムのセットは、2回目の咀嚼が行われている間に、例えば変位センサ12に何かが触れた等の理由により生じたノイズにより現れたものである。この場合、2回目の咀嚼を示す波形にピークとボトムのセットが2つ現れてしまい、咀嚼の誤検知が生じてしまう。
【0054】
一方、
図5の例では、P
2とB
1が1つめのピークとボトムのセット、P
5とB
2が2つめのピークとボトムのセットとなる。従って、検知部11441は咀嚼を正しく検知することができる。
【0055】
カウント部11442は、上記のように検知部11441により正しく検知される咀嚼を順次加算してゆくことで、例えば、「START」ボタンが押された後に行われた咀嚼の回数をカウントする。
【0056】
上述の説明においては、便宜上、閾値(上限閾値TU及び下限閾値TL)は固定値であるものとした。しかしながら、ユーザの咀嚼に伴い変位信号の振幅が変化する範囲は、ユーザの咀嚼の特性や変位センサ12が貼られる位置、貼り方等によって異なるため、同じ閾値が常に適切な閾値であるとは限らない。そのため、咀嚼検知装置1の検知部11441は咀嚼を検知するために閾値(上限閾値TU及び下限閾値TL)を自動調整する機能を備えている。
【0057】
図6は、検知部11441による閾値の決定方法を説明するための図である。
図6の横軸は時間を示し、縦軸は変位信号の振幅を示す。
図6のグラフE
1は、
図5に示した平滑化の行われた後の変位信号である。
図6のグラフE
2は、グラフE
1が示す変位信号の正側の尖頭値(振幅の直近の最大値)を、所定の値L
U以上の領域において、所定の時定数で減少させた値を示す。
図6のグラフE
3は、グラフE
1が示す変位信号の負側の尖頭値(振幅の直近の最小値)を、所定の値L
L以下の領域において、所定の時定数で増加させた値を示す。
【0058】
検知部11441は、平滑化部1142から平滑化の行われた変位信号(グラフE1が示す値)を取得すると、実質的にリアルタイムに、取得した変位信号に基づき、グラフE2が示す値及びグラフE3が示す値を算出する。続いて、検知部11441は、グラフE2が示す値に所定比率(例えば、0.8)を乗じた値を上限閾値TUとして算出する。また、検知部11441は、グラフE3が示す値に所定比率(例えば、0.8)を乗じた値を下限閾値TLとして算出する。グラフE4は検知部11441により算出される上限閾値TUを示し、グラフE5は検知部11441により算出される下限閾値TLを示す。
【0059】
図6において、P
1、P
2、・・・は、上記のように算出される経時変化する上限閾値T
Uを用いて特定される変位信号がピークを示す期間である。また、B
1、B
2、・・・は、上記のように算出される経時変化する下限閾値T
Lを用いて特定される変位信号がボトムを示す期間である。
【0060】
図3を参照しつつ、制御ユニット114の機能構成の説明を続ける。ガイド部1145は、咀嚼のタイミングをガイドする音の発音をスピーカ111(発音装置)に指示する。記憶部1146は、各種データを記憶する。記憶部1146が記憶するデータには、例えば検知部11441により決定された上限閾値T
U及び下限閾値T
Lを示すデータ、カウント部11442がカウントした咀嚼回数を示すデータ等が含まれる。
【0061】
表示指示部1147は、検知・カウント部1144によりカウントされた咀嚼回数等の各種情報の表示をディスプレイ112に指示する。
【0062】
続いて、咀嚼検知装置1の動作を説明する。ユーザが例えば「SELECT」ボタン、「UP」ボタン、「DOWN」ボタン等を操作して、目標とする咀嚼回数、咀嚼速度等を設定した後、「START」ボタンを操作すると、咀嚼検知装置1は設定された咀嚼速度に応じたテンポでガイド音の発音を開始する。具体的には、ガイド部1145によりスピーカ111に対するガイド音の発音の指示が開始され、スピーカ111によりガイド音の発音が開始される。
【0063】
同時に、変位信号取得部11411により、変位センサ12から出力される変位信号の取得が開始され、また、音信号取得部11412により、マイク13から出力される音信号の取得が開始される。
【0064】
ユーザは、スピーカ111から発せられるガイド音に合わせて咀嚼を行う。ユーザによる咀嚼に応じた波形を示す変位信号は、平滑化部1142により平滑化されて検知・カウント部1144に引き渡される。
【0065】
検知・カウント部1144の検知部11441は、平滑化部1142から平滑化された変位信号を受け取るとともに、音声フィルタ部1143からユーザが発した声の成分を多く含んだ音信号を受け取る。検知部11441は、平滑化部1142から受け取る平滑化された変位信号に基づき、実質的にリアルタイムに、
図6のグラフE
4及びグラフE
5に例示されるような経時変化する上限閾値T
U及び下限閾値T
Lを継続的に算出し、平滑化部1142から取得した平滑化された変位信号がピークを示す期間及びボトムを示す期間を特定する。
【0066】
図7は、検知・カウント部1144が咀嚼回数をカウントする処理を説明するための図である。
図7(A)は検知部11441が検知したピークを示す期間(P
1、P
2、・・・)及びボトムを示す期間(B
1、B
2、・・・)を示したグラフである。また、
図7(B)は検知部11441が音声フィルタ部1143から受け取るフィルタ処理の行われた音信号が示す音の音量の経時変化を示している。
図7(A)及び
図7(B)の横軸は時間を示している。また、
図7(B)の縦軸は音量を示している。
【0067】
検知部11441は、
図7(B)に示す音量が所定の閾値T
Sを超えている期間をユーザが発声している期間、すなわち発声期間として特定する。
図7(B)の例では、期間Cが発声期間である。
【0068】
検知部11441は、発声期間の特定と並行して、
図7(A)に示すピークとボトムがセットで現れた場合を咀嚼として検知する。ただし、検知部11441は、発声期間においては咀嚼の検知を行わない。
図7の例では、検知部11441は、発声期間C以外の期間に現れる、ピークP
2とボトムB
1のセットと、ピークP
6とボトムB
5のセットの各々に関し1回の咀嚼を検知する。すなわち、発声期間Cにおいて現れるピークP
3とボトムB
2のセットと、ピークP
4とボトムB
3のセットに関しては、それらを咀嚼として検知しない。
【0069】
カウント部11442は、上記のように検知部11441により検知される咀嚼の回数をカウントする。
【0070】
なお、検知部11441が発声期間における咀嚼を検知しない方法として、発声期間か否かにかかわらずピークとボトムのセットが現れた場合をいったん咀嚼として検知した後、それらのセットのうち発声期間に現れたセットに関してはその検知を取り消す方法が採用されてもよい。また、検知部11441は発声期間であるか否かにかかわらず咀嚼を検知し、カウント部11442が発声期間における咀嚼をカウントしない方法もまた、検知部11441が発声期間における咀嚼を検知しない方法と同義である。
【0071】
図8は、咀嚼回数のカウントが行われる間に、表示指示部1147の指示に従いディスプレイ112が表示する画面を例示した図である。ユーザはディスプレイ112に表示される咀嚼回数(累積値)と残り回数を見ながら、目標として設定した回数に達するまで咀嚼を行う。
【0072】
上述した咀嚼検知装置1によれば、ユーザは目標とする回数の咀嚼を、目標とする速さで行う動機付けを得ることができる。その結果、ユーザの咀嚼が促され、ユーザの心身の健康が増進される。
【0073】
[第2実施形態]
以下に本発明の上述した実施形態とは異なる一実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置2を説明する。咀嚼・嚥下検知装置2は、咀嚼検知装置1と比較し、咀嚼と並行し同じ人が行う嚥下を検知する点が異なっている。なお、咀嚼・嚥下検知装置2は、音声期間において咀嚼の検知を行わない機能を備えない。
【0074】
咀嚼・嚥下検知装置2は、構成及び動作の一部が咀嚼検知装置1と共通している。従って、以下、咀嚼・嚥下検知装置2が咀嚼検知装置1と異なっている点を中心に説明を行い、咀嚼・嚥下検知装置2が咀嚼検知装置1と共通する点については適宜、その説明を省略する。また、以下の説明に用いる図において、咀嚼検知装置1と咀嚼・嚥下検知装置2が備える共通又は対応する構成部には同じ符号を用いる。
【0075】
図9は咀嚼・嚥下検知装置2の外観図である。咀嚼・嚥下検知装置2は、咀嚼検知装置1が備えるマイク13に代えて、変位センサ23を備える。
【0076】
変位センサ23は、ユーザの頸部の所定部位に貼り付けられ、ユーザの嚥下時に当該所定位置に生じる形状の変化による変位(歪み量)に応じた振幅の信号を出力する。変位センサ23が貼り付けられる所定部位として適当な部位は、例えば咽頭部近傍であるが、嚥下により形状が変化する部位であれば頸部のいずれの部位であってもよい。
【0077】
図10は、ユーザの頭部に変位センサ12が貼り付けられ、同じユーザの頸部に変位センサ23が貼り付けられた状態を示した図である。変位センサ12及び変位センサ23は、例えば医療用テープ等によりユーザの身体に貼り付けられる。
【0078】
変位センサ12と変位センサ23が身体に貼り付けられた状態でユーザが咀嚼及び嚥下を一連の動作として行うと、変位センサ12からは咀嚼に伴い頭部の表面に生じる形状の変化を示す信号が出力され、変位センサ23からは嚥下に伴い頸部の表面に生じる形状の変化を示す信号が出力される。
【0079】
図11は、制御ユニット114の機能構成を示した図である。咀嚼・嚥下検知装置2は、咀嚼検知装置1が備える音声フィルタ部1143を備えない。また、咀嚼・嚥下検知装置2が備える取得部1141は、咀嚼検知装置1の取得部1141が有する音信号取得部11412を有しない。
【0080】
また、咀嚼・嚥下検知装置2が有する変位信号取得部11411は、変位センサ12から出力される変位信号を取得する第1変位信号取得部114111と、変位センサ23から出力される変位信号を取得する第2変位信号取得部114112を有する。
【0081】
また、咀嚼・嚥下検知装置2が有する平滑化部1142は、第1変位信号取得部114111により取得された変位信号(変位センサ12の出力信号)が示す波形を、実質的にリアルタイムに平滑化する第1平滑化部11421と、第2変位信号取得部114112により取得された変位信号(変位センサ23の出力信号)が示す波形を、実質的にリアルタイムに平滑化する第2平滑化部11422を有する。
【0082】
第1平滑化部11421と第2平滑化部11422はいずれも変位信号が示す波形の高周波数成分を減衰させるローパスフィルタ処理を行う。このローパスフィルタ処理により変位信号が平滑化される。ただし、第1平滑化部11421が行うローパスフィルタ処理のカットオフ周波数と、第2平滑化部11422が行うローパスフィルタ処理のカットオフ周波数は異なっている。咀嚼の平均的な周期は嚥下の平均的な周期より短い。従って、第2平滑化部11422のカットオフ周波数は、第1平滑化部11421のカットオフ周波数より低く設定されている。
【0083】
図12は、変位信号取得部11411が取得する変位信号の波形を例示したグラフである。
図12の上側のグラフは第1変位信号取得部114111が取得する変位信号の波形を例示し、
図12の下側のグラフは第2変位信号取得部114112が取得する変位信号の波形を例示している。
【0084】
また、
図13は、平滑化部1142により平滑化された変位信号の波形を例示したグラフである。
図13の上側のグラフは第1平滑化部11421により平滑化された変位信号の波形を例示し、
図13の下側のグラフは第2平滑化部11422により平滑化された変位信号の波形を例示している。
【0085】
図11を参照し、制御ユニット114の機能構成の説明を続ける。咀嚼・嚥下検知装置2が有する検知部11441は、第1平滑化部11421により平滑化された変位信号を用いて咀嚼を検知する第1検知部114411と、第2平滑化部11422により平滑化された変位信号を用いて嚥下を検知する第2検知部114412を有する。
【0086】
第2検知部114412が嚥下を検知する手順は、用いられる上限閾値及び下限閾値が異なる点を除き、第1検知部114411が咀嚼を検知する手順と同様である。
【0087】
第2検知部114412は、嚥下の検知に伴い、嚥下が行われている期間を特定する。第1検知部114411は、第2検知部114412により特定された、嚥下が行われている期間に咀嚼を検知しない。咀嚼と嚥下を同時に行うことは通常不可能であるためである。
【0088】
咀嚼・嚥下検知装置2が有するカウント部11442は、第1検知部114411が検知した咀嚼の回数をカウントする第1カウント部114421と、第2検知部114412が検知した嚥下の回数をカウントする第2カウント部114422を有する。
【0089】
第1カウント部114421がカウントする嚥下回数を示すデータと、第2カウント部114422がカウントする咀嚼回数を示すデータは順次、記憶部1146に上書きされる。
【0090】
咀嚼・嚥下検知装置2の制御ユニット114は、咀嚼検知装置1の制御ユニット114が有しない機能構成部として、演算部2148を備える。演算部2148は、第1カウント部114421によりカウントされた咀嚼回数と、第2カウント部114422によりカウントされた嚥下回数を用いて、所定の演算を行う。
【0091】
以下の説明において、演算部2148が行う演算は、嚥下が検知された時点の咀嚼回数をその時点までの嚥下回数で除算する処理であるものとする。この演算により、嚥下毎の咀嚼の平均回数が算出される。演算部2148により算出された嚥下毎の咀嚼の平均回数を示すデータは、嚥下が検知される毎に記憶部1146に上書きされる。
【0092】
図14は、咀嚼及び嚥下の回数のカウントが行われる間に、咀嚼・嚥下検知装置2のディスプレイ112が表示する画面を例示した図である。ユーザはディスプレイ112に表示される咀嚼回数(累積値)と残り回数を見ながら、目標として設定した回数に達するまで咀嚼を行う。その間、ユーザが嚥下を行うと、嚥下回数(累積値)と嚥下毎の咀嚼の平均回数の表示も更新される。
【0093】
上述した咀嚼検知装置1によれば、ユーザは咀嚼と共に嚥下も意識的に行うことができる。その結果、ユーザの嚥下の機能低下が抑制され、ユーザの心身の健康が維持される。
【0094】
[変形例]
上述した第1実施形態及び第2実施形態は本発明の技術的思想の範囲内において様々に変形可能である。以下にそれらの変形の例を示す。なお、これらの変形例は適宜組み合わせられてもよい。
【0095】
(1)上述した第1実施形態において、マイク13は骨伝導マイクである。マイク13の種別は骨伝導マイクに限られず、通常のマイク(空気中を伝わる音を拾うマイク)が採用されてもよい。ただし、マイク13が骨伝導マイクである場合、ユーザの音声をよく拾い、周囲の音はあまり拾わないため、望ましい。
【0096】
(2)上述した実施形態において、ガイド部1145はガイド音の発音をスピーカ111に指示する。これに代えて、もしくは加えて、ガイド部1145が発光装置に対しガイド光の発光を指示してもよい。なお、発光装置としてディスプレイ112が用いられてもよいし、咀嚼検知装置1がLED(Light Emitting Diode)等の発光素子を有する発光装置を備え、その発光装置がガイド部1145の指示に従い発光を行ってもよい。
【0097】
(3)上述した実施形態において、平滑化部1142は高周波数成分を減衰させるフィルタにより変位信号の平滑化を行う。平滑化部1142が変位信号を平滑化する方法は高周波数成分を減衰させるフィルタを用いる方法に限られない。例えば、平滑化部1142が変位信号の移動平均値を平滑化された変位信号として出力してもよい。
【0098】
(4)上述した第1実施形態において、マイク13はユーザの顔に貼り付けられる。マイク13をユーザに装着する方法は貼り付けに限られない。例えば、ヘッドバンド等によりマイク13がユーザの顔の表面に押しつけられた状態で固定されてもよい。
【0099】
(5)上述した第1実施形態において、変位センサ12から出力される変位信号が、マイク13から出力される音信号をミキシングされた後、本体11に入力されてもよい。この場合、制御ユニット114は、取得部1141により取得された信号に対しフィルタ処理を行い、当該信号から変位信号と音信号を分離する信号分離手段を備える。そして、平滑化部1142は信号分離手段により分離された変位信号を平滑化する。また、検知部11441は、信号分離手段により分離された音信号に基づき発声期間を特定する。この変形例においては、本体11は入力端子を最低1つ有せばよい。
【0100】
(6)上述した第1実施形態において、検知部11441はマイク13の出力信号に基づき発声期間を特定する。これに代えて、検知部11441が変位センサ12の出力信号に含まれる音信号に基づき発声期間を特定してもよい。この場合、制御ユニット114は、変位信号取得部11411により取得された変位信号に対しフィルタ処理を行い、変位信号から変位信号に含まれる音信号を分離する信号分離手段を備える。そして、検知部11441は、信号分離手段により分離された音信号に基づき発声期間を特定する。この変形例においては、マイク13を要さない。
【0101】
(7)上述した第1実施形態において、変位センサ12とマイク13は本体11に有線接続される。これに代えて、変位センサ12及びマイク13の両方、或いは一方が本体11と無線接続されてもよい。また、上述した第2実施形態において、変位センサ23が本体11と無線接続されてもよい。
【0102】
(8)上述した実施形態においては、平滑化された変位信号がピーク及びボトムを示す期間を特定するための閾値の自動調整が継続的に行われる。これに代えて、固定の閾値が用いられてもよい(
図5参照)。
【0103】
(9)検知部11441により行われる上限閾値TU及び下限閾値TLの算出の方法は上述した第1実施形態に例示の方法に限られず、変位センサ12の過去の出力信号(変位信号)に基づき閾値を決定する様々な方法が採用可能である。例えば、過去の変位信号に現れたピークの期間における最大値を、経過時間に応じて減少するウェイトを用いて加重平均した値を上限閾値TUとして算出し、過去の変位信号に現れたボトムの期間における最小値を、経過時間に応じて減少するウェイトを用いて加重平均した値を下限閾値TLとして算出する方法等が採用されてもよい。
【0104】
(10)検知部11441が、ユーザ等により指定された期間に変位センサ12又は変位センサ23から出力された出力信号に基づき閾値(上限閾値及び下限閾値)を決定する場合、検知部11441が、当該指定された期間、すなわち、閾値を決定するために変位信号を監視する期間において行われた咀嚼又は嚥下を検知し、カウント部11442がそれらの咀嚼又は嚥下の回数をカウントする構成が採用されてもよい。
【0105】
図15は、この変形例における咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2の動作を説明するためのグラフである。
図15のグラフは、咀嚼の開始前後に変位センサ12から出力される変位信号を模式的に示している。ユーザは、時点t1にボタン群113の「START」ボタンを指で押下し、その状態を維持しながら咀嚼を開始する。続いて、ユーザは、1回以上、咀嚼を終えた後、時点t2において「START」ボタンから指を離す。
図15に示される期間Aが、ユーザが「START」ボタンを押下していた期間(指定された期間)である。
【0106】
検知部11441は、「START」ボタンから指が離されたことをトリガに、期間Aにおける変位信号の上限値と下限値を特定し、上限値に1未満の所定比率(例えば、0.7)を乗じた値を上限閾値に決定し、下限値に1未満の所定比率(例えば、0.7)を乗じた値を下限閾値に決定する。
図15においては、それらの閾値の決定が時点t3において行われている。その後、検知部11441は、速やかに期間Aにおける咀嚼の検知を行う。その結果、ユーザが「START」ボタンから指を離した後、すぐさま、ディスプレイ112には期間Aに行われた咀嚼の回数が表示される。すなわち、検知部11441は、咀嚼を検知するための閾値の決定を時点t3において行った後、過去にさかのぼって、閾値の決定に用いた変位信号が示す咀嚼も検知する。その後、時点t2より後に行われた咀嚼の回数が、期間Aにおいて行われた咀嚼の回数に加算されてゆく。
【0107】
この変形例によれば、閾値の決定に要する期間内に行われた咀嚼も検知されるため、例えば目標回数に達する咀嚼を行う際、閾値の決定のために余分な咀嚼を行う必要がなく、望ましい。
【0108】
上記は咀嚼の検知に関する説明であるが、この変形例は嚥下の検知に関しても同様に採用可能である。
【0109】
(11)上述した第2実施形態において、咀嚼・嚥下検知装置2は発声期間の特定を行わないものとしたが、咀嚼・嚥下検知装置2が咀嚼検知装置1と同様にマイク13等を備え、発声期間を特定し、発声期間においては咀嚼又は嚥下を検知しない、という構成が採用されてもよい。
【0110】
(12)上述した第2実施形態において、第2検知部114412が嚥下を検知した場合、第1カウント部114421がカウントする咀嚼の回数を0にリセットし、その後に第1検知部114411により検知される咀嚼の回数を1からカウントし直す構成が採用されてもよい。
【0111】
図16は、この変形例における咀嚼・嚥下検知装置2の動作を説明するためのグラフである。
図16の上側のグラフは変位センサ12から出力され、第1平滑化部11421により平滑化された変位信号を示し、
図16の下側のグラフは変位センサ23から出力され、第2平滑化部11422により平滑化された変位信号を示し、横軸(時間軸)が揃えられている。
【0112】
第1カウント部114421はまず、期間Bにおいて、第1検知部114411により検知された咀嚼の回数を1からカウントする。その後、期間Cにおいて第2検知部114412により嚥下が検知されると、第1カウント部114421は期間Bにおいてカウントした咀嚼の回数を0にリセットし、期間Cに続く期間Dにおいて、第1検知部114411により検知された咀嚼の回数を1からカウントし直す。第1カウント部114421は、期間Dに続く期間(期間E、F・・・)においても同様の処理を行う。
【0113】
この変形例によれば、設定された嚥下毎の目標回数の咀嚼の達成が促される。
【0114】
(13)上述した実施形態の説明に用いた具体的な数値や算出式等はあくまで例示であって、他の様々な数値や算出式等が採用され得る。
【0115】
(14)上述した第1実施形態において、咀嚼検知装置1は変位センサ12及びマイク13を備える。これに代えて、咀嚼検知装置1が変位センサ12及びマイク13の少なくとも一方を備えず、咀嚼検知装置1に対し咀嚼検知装置1が有さない変位センサ及びマイクの少なくとも一方が接続される構成が採用されてもよい。
【0116】
また、上述した第2実施形態において、咀嚼・嚥下検知装置2は変位センサ12及び変位センサ23を備える。これに代えて、咀嚼・嚥下検知装置2が変位センサ12及び変位センサ23の少なくとも一方を備えず、咀嚼・嚥下検知装置2に対し咀嚼・嚥下検知装置2が有さない変位センサの少なくとも一方が接続される構成が採用されてもよい。
【0117】
また、咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2の本体11がスピーカ111及びディスプレイ112の少なくとも一方を備えず、本体11に対し本体11が有さないスピーカ及びディスプレイの少なくとも一方が接続される構成が採用されてもよい。
【0118】
(15)本発明は上述した咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2に例示される装置に加え、咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2に例示される装置が行う処理をコンピュータに実行させることで、コンピュータによって当該装置を実現させるためのプログラムを提供する。当該プログラムは、記録媒体に記録された状態で配布されてもよいし、インターネット等のネットワークを介してコンピュータに配信される形で配布されてもよい。
【0119】
(16)上述した咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2が通信部を備え、ネットワーク経由でサーバ装置とデータ通信を行ってもよい。この場合、例えば管理者等は、サーバ装置を介して遠隔的に異なるユーザにより用いられる複数の咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2の動作状況、咀嚼又は嚥下の検知結果等を確認、管理することができる。
【0120】
(17)上述した第1実施形態において、咀嚼検知装置1はカウント部11442により咀嚼回数をカウントする。また、上述した第2実施形態において、咀嚼・嚥下検知装置2はカウント部11442により咀嚼回数及び嚥下回数をカウントする。咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2がカウント部11442を備えず、咀嚼又は嚥下の検知は行うが、それらの回数をカウントしない構成が採用されてもよい。
【0121】
この変形例においては、記憶部1146には、例えば、咀嚼又は嚥下が検知されたタイミングを時系列で示すデータが記憶される。このデータは、例えば医師等により、咀嚼又は嚥下の指導等に利用される。
【0122】
(18)上述した第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置2を変形し、咀嚼の検知は行わず、嚥下のみを検知する装置としてもよい。
【0123】
(19)上述した第1実施形態に係る咀嚼検知装置1の説明において、検知部11441が変位信号から最初にピークを検知し、その後、ボトムを検知した際、1回の咀嚼を検知する場合を例として説明した。1回の咀嚼に応じたピークとボトムのいずれが先に現れるかは、変位センサを頭部に貼り付ける方向による。従って、検知部11441は、先にピークを検知した場合は、そのピークと、そのピークに続くボトムのセットを検知した際、1回の咀嚼を検知し、先にボトムを検知した場合は、そのボトムと、そのボトムに続くピークのセットを検知した際、1回の咀嚼を検知する。第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置2の検知部11441が咀嚼の検知を行う場合と、第2実施形態に係る咀嚼・嚥下検知装置2の検知部11441が嚥下の検知を行う場合も同様である。
【0124】
(20)上述した実施形態において、咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2はスピーカ111を備え、咀嚼のタイミングをスピーカ111が発する音によりガイドする。咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2がスピーカ111を備えなくてもよい。この場合、咀嚼検知装置1又は咀嚼・嚥下検知装置2は、例えばディスプレイ112におけるドットの点滅等により咀嚼のタイミングをガイドしてもよいし、ガイドが行われなくてもよい。
【符号の説明】
【0125】
1…咀嚼検知装置、2…咀嚼・嚥下検知装置、11…本体、12…変位センサ、13…マイク、23…変位センサ、111…スピーカ、112…ディスプレイ、113…ボタン群、114…制御ユニット、1141…取得部、1142…平滑化部、1143…音声フィルタ部、1144…検知・カウント部、1145…ガイド部、1146…記憶部、1147…表示指示部、2148…演算部、11411…変位信号取得部、11412…音信号取得部、11413…操作信号取得部、11421…第1平滑化部、11422…第2平滑化部、11441…検知部、11442…カウント部、114111…第1変位信号取得部、114112…第2変位信号取得部、114411…第1検知部、114412…第2検知部、114421…第1カウント部、114422…第2カウント部。