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特許7032775人工合成mRNAの発現を効率化する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】人工合成mRNAの発現を効率化する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20220302BHJP
   C12N 15/67 20060101ALI20220302BHJP
   C12P 21/00 20060101ALI20220302BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220302BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220302BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20220302BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C12N15/09 Z ZNA
C12N15/67 Z
C12P21/00 C
A61K48/00
A61K45/00
A61K31/7105
A61P31/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2016219227
(22)【出願日】2016-11-09
(65)【公開番号】P2018074954
(43)【公開日】2018-05-17
【審査請求日】2019-10-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開の事由1 ウェブサイトの掲載日:平成28年7月4日 ウェブサイトのアドレス:http://shibu.pharm.or.jp/tokai/160709Program.pdf (2)公開の事由2 発行者: 日本薬学会東海支部 刊行物名:第62回(平成28年度)日本薬学会東海支部総会・大会 講演要旨集 発行日:平成28年7月9日 (3)公開の事由3 集会名:第62回(平成28年度)日本薬学会東海支部総会・大会 開催日:平成28年7月9日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 感染症実用化研究事業 肝炎等克服実用化研究事業 B型肝炎創薬実用化等研究事業委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】星野 真一
(72)【発明者】
【氏名】細田 直
(72)【発明者】
【氏名】野木森 拓人
【審査官】坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-534826(JP,A)
【文献】特開2015-221026(JP,A)
【文献】特表2011-522527(JP,A)
【文献】Journal of Molecular Biology,2012年,Vol.422,p.635-649
【文献】第39回日本分子生物学会年会プログラム・要旨集,2016年11月16日,2P-0239
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的遺伝子のmRNAと、
2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質と、を組み合わせてなり、
前記機能抑制物質が以下の(a)~(d)からなる群より選択される化合物あり、
前記2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素が2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素3である、
標的細胞内で目的遺伝子を発現させるための組成物:
(a)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNA;
(b)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするアンチセンス核酸;
(d)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするリボザイム。
【請求項2】
前記mRNAを含有する第1要素と、前記機能抑制物質を含有する第2要素とからなるキットであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記mRNAと前記機能抑制物質を含有することを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記mRNAを含有し、標的細胞への導入時に、前記機能抑制物質が併用導入されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記機能抑制物質を含有し、標的細胞への導入時に、前記mRNAが併用導入されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記mRNAが5'キャップ構造、コザック配列、前記目的遺伝子のコード領域、及びポリ(A)鎖を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記mRNAが、前記コード領域と前記ポリ(A)鎖の間に配置される安定化シス配列を更に備える、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記遺伝子が酵素遺伝子である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記酵素が、ZFN、TALEN及びCRISPR-Cas9からなる群より選択されるヌクレアーゼである、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
請求項9に記載の組成物を有効成分とする、B型肝炎ウイルス除去剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工合成mRNAの標的細胞内での発現効率を向上させる技術及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで遺伝子治療はウイルスをはじめとするDNAをベクターとして実施されてきたが、ゲノムに組込まれることによる発癌等の危険性が大きな問題として残されていた。一方で、人工合成mRNAは、DNAと異なりゲノムへの挿入などのリスクがない安全な核酸医薬として、注目を集めているが、RNAが本来もつ不安定性と翻訳効率の低さが欠点として指摘されている。
【0003】
本発明者らの研究グループは、外来性の合成mRNA(人工合成mRNA)の細胞内における分解機構の解明を通して人工合成mRNAを安定化する技術の開発を行ってきた。従来、人工合成mRNAは細胞内のmRNA(内在性mRNA)と同じ分子機構で分解されると信じられてきたが、本発明者らの研究によって、人工合成mRNAが全く異なるメカニズムで分解されることが明らかとなり、分解系を阻害することで人工合成mRNAを安定化することに成功した(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-226531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
RNA医薬の今後の発展を見据えると、細胞内での安定化或いは翻訳効率の向上を通して人工合成mRNAの発現量を更に高めることが望まれる。即ち、人工合成mRNAの発現効率を向上させる技術へのニーズ(必要性)は依然として高い。そこで本発明は、標的細胞内における人工合成mRNAの発現効率を向上させる技術及びその用途を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく検討する中、本発明者らは、細胞内に侵入した人工合成mRNAを外来性として認識し、細胞内mRNAから識別する機構が存在するに違いないと考え、当該着想の下で研究を進めた。詳細かつ緻密な研究計画を立て、各種実験を施行した結果、外来性mRNAの識別機構が明らかとなり、細胞内でmRNAの識別に関与する因子として、OAS(2’-5’oligoadenylate synthetase)を同定することに成功した。OASは細胞内mRNAとは結合しないが、外来性の合成mRNAに選択的に結合し、識別する。驚くべきことに、本因子を阻害すると外来性の合成mRNAが安定化されるだけでなく、その翻訳量も増大することが判明した。即ち、OASの阻害によれば、mRNAの安定化と翻訳効率の向上によって、外来性の合成mRNA(人工合成mRNA)の発現効率を向上できるとの知見がもたらされた。OASの阻害は、分解系の上流において合成mRNAを外来性と識別する過程を標的とするものであり、外来性の合成mRNAの分解系そのものを阻害する手段(特許文献1)とは一線を画する。また、合成mRNAを安定化するだけでなく翻訳量の増大も引き起こす点で、より有効かつ効果的な手段といえる。以下の発明は、主として、以上の成果及び考察に基づく。
[1]目的遺伝子のmRNAと、
2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質と、を組み合わせてなり、
前記機能抑制物質が以下の(a)~(d)からなる群より選択される化合物または2',5'-オリゴアデニル酸誘導体であり、
前記2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素が2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素3である、
標的細胞内で目的遺伝子を発現させるための組成物:
(a)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNA;
(b)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするアンチセンス核酸;
(d)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするリボザイム。
[2]前記mRNAを含有する第1要素と、前記機能抑制物質を含有する第2要素とからなるキットであることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[3]前記mRNAと前記機能抑制物質を含有することを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[4]前記mRNAを含有し、標的細胞への導入時に、前記機能抑制物質が併用導入されることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[5]前記機能抑制物質を含有し、標的細胞への導入時に、前記mRNAが併用導入されることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[6]前記mRNAが5'キャップ構造、コザック配列、前記目的遺伝子のコード領域、及びポリ(A)鎖を備える、[1]~[5]のいずれか一項に記載の組成物。
[7]前記mRNAが、前記コード領域と前記ポリ(A)鎖の間に配置される安定化シス配列を更に備える、[6]に記載の組成物。
[8]前記遺伝子が酵素遺伝子である[1]~[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[9]前記酵素が、ZFN、TALEN及びCRISPR-Cas9からなる群より選択されるヌクレアーゼである、[8]に記載の組成物。
[10][9]に記載の組成物を有効成分とする、B型肝炎ウイルス除去剤。
[11]以下のステップ(1)及び(2)のみからなる、標的細胞内で目的タンパク質を発現させる方法であって、
(1)標的細胞に2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質を導入するステップ;
(2)前記標的細胞に目的遺伝子のmRNAを導入するステップ;
前記機能抑制物質が以下の(a)~(d)からなる群より選択される化合物または2',5'-オリゴアデニル酸誘導体であり、
前記2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素が2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素3である、方法:
(a)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNA;
(b)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするアンチセンス核酸;
(d)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするリボザイム。
[12]前記標的細胞が、生体から分離された状態の細胞である[11]に記載の方法。
その他、本発明は、以下のような形態として実現することも可能である。
【0007】
[1]目的遺伝子のmRNAと、
2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質と、を組み合わせてなる、
標的細胞内で目的遺伝子を発現させるための組成物。
[2]前記mRNAを含有する第1要素と、前記機能抑制物質を含有する第2要素とからなるキットであることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[3]前記mRNAと前記機能抑制物質を含有することを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[4]前記mRNAを含有し、標的細胞への導入時に、前記機能抑制物質が併用導入されることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[5]前記機能抑制物質を含有し、標的細胞への導入時に、前記mRNAが併用導入されることを特徴とする、[1]に記載の組成物。
[6]前記mRNAが5'キャップ構造、コザック配列、前記目的遺伝子のコード領域、及びポリ(A)鎖を備える、[1]~[5]のいずれか一項に記載の組成物。
[7]前記mRNAが、前記コード領域と前記ポリ(A)鎖の間に配置される安定化シス配列を更に備える、[6]に記載の組成物。
[8]前記機能抑制物質が以下の(a)~(d)からなる群より選択される化合物である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組成物:
(a)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNA;
(b)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト;
(c)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするアンチセンス核酸;
(d)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素を標的とするリボザイム。
[9]前記機能抑制物質が2',5'-オリゴアデニル酸誘導体である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の組成物。
[10]前記2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素が2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素3である、[1]~[9]のいずれか一項に記載の組成物。
[11]前記遺伝子が酵素遺伝子である、[1]~[10]のいずれか一項に記載の組成物。
[12]前記酵素が、ZFN、TALEN及びCRISPR-Cas9からなる群より選択されるヌクレアーゼである、[11]に記載の組成物。
[13][12]に記載の組成物を有効成分とする、B型肝炎ウイルス除去剤。
[14]以下のステップ(1)及び(2)を含む、標的細胞内で目的タンパク質を発現させる方法:
(1)標的細胞に2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質を導入するステップ;
(2)前記標的細胞に目的遺伝子のmRNAを導入するステップ。
[15]前記2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素が2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素3である、[14]に記載の方法。
[16]前記標的細胞が、生体から分離された状態の細胞である、[14]又は[15]に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】HeLa細胞にOAS1 siRNA、OAS2 siRNA、OAS3 siRNAもしくはコントロールsiRNAとしてLuciferase siRNAを導入した。導入48時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その3時間後、細胞をPBSで洗浄し、その0、1、2、4時間後に細胞を回収した。A: ノザンブロット法により5xFlag-EGFPpA72 mRNA(上パネル)、臭化エチジウムにより28S rRNA(下パネル)を検出した結果を示している。B: Aを定量した結果を示している。0時間後におけるmRNA量を100%として示している。C: mRNAの半減期を算出した結果を示している。
図2】HeLa細胞にOAS1 siRNA、OAS2 siRNA、OAS3 siRNAもしくはコントロールsiRNAとしてLuciferase siRNAを導入した。導入48時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その6時間後、細胞をPBSで洗浄し、その7時間後に細胞を回収した。A: ウエスタンブロット法により5xFlag-EGFPの発現を検証した。抗Flag抗体(上パネル)、抗GAPDH抗体(下パネル)を用いたウエスタンブロッティングの結果を示している。B: Aを定量した結果を示している。5xFlag-EGFP量をGAPDH量で標準化し、コントロールの5xFlag-EGFP量を1とした相対値で示している。
図3】A: HeLa細胞にpCMV-5xMyc-OAS3、pCMV-5xMyc-PABPC1もしくはコントロールとしてpCMV-5xMycを導入した。導入24時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その3時間後に細胞を回収した。ノザンブロット法により5xFlag-EGFPpA72 mRNA(上パネル)、ウエスタンブロット法により5xMyc-OAS3および5xMyc-PABPC1タンパク質の発現を確認した。レーン1~3は可溶化画分、レーン4~6は免疫沈降画分のRNA及びタンパク質を検出した。
図4】HeLa細胞にpCMV-5xMyc-Dom34とともにpCMV-5xFlag-RNaseL、pCMV-5xFlag-RNaseL Y312AもしくはコントロールとしてpCMV-5xFlagを導入した。導入24時間後に細胞を回収した。A: 抗Myc抗体(上パネル)、抗Flag抗体(下パネル)を用いたウエスタンブロッティングの結果を示している。レーン1~3は可溶化画分、レーン4~6は免疫沈降画分のタンパク質を検出した。B: Aを定量した結果を示している。5xMyc-Dom34量を5xFlag-RNaseLもしくは5xFlag-RNaseL Y312A量で標準化し、5xFlag-RNaseLと共沈降した5xMyc-Dom34量を100%として示している。
図5】OAS1、OAS2、OAS3に対して作製したsiRNAの標的位置を示す図。
図6】外来性mRNA(人工合成mRNA)の分解機構。
図7】実験に使用したmRNA(5xFlag-EGFP-pA72 mRNA)の構造(塩基配列:配列番号1、コードするアミノ酸配列:配列番号2)。5'末端から3'末端方向に、ベクター由来の配列(配列番号3)、コザック配列(CCCACC)、コード領域(配列番号4)、終止コドン、制限酵素サイト(EcoRI、EcoRV、SalI)(配列番号5)、β-グロビン3'非翻訳領域(配列番号6)、3'非翻訳領域に繋がるβ-グロビン遺伝子のゲノム配列(AATGATG)、制限酵素サイト(XbaI)(TCTAGA)、ポリ(A)鎖が配置される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
1.目的遺伝子発現用の組成物
本発明の第1の局面は標的細胞内で目的遺伝子を発現させるための組成物(以下、「本発明の組成物」とも呼ぶ)に関する。本発明者らの検討によって、細胞内に侵入した合成mRNAを外来性として認識し、細胞内mRNAから識別する機構が解明され、細胞内における人工合成mRNAの分解経路の全体像が明らかとなった。また、解明に成功した識別機構の中心分子である2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)を阻害することによって人工合成mRNAが安定化され且つその翻訳量も増大し、人工合成mRNAの発現が効率化することが実験的に確認された。即ち、人工合成mRNAを標的細胞に導入する際にOASの機能を抑制する物質を併せて導入すれば、標的細胞内での人工合成mRNAの発現を効率化することができるとの知見が得られた。この知見に基づき、本発明の組成物は、二つの要素、即ち、目的遺伝子のmRNA(以下、「本発明のmRNA」とも呼ぶ)とOASの機能抑制物質(以下、「本発明の機能抑制物質」とも呼ぶ)を組み合わせて用いる点に特徴を有する。本明細書において「・・・を組み合わせて用いる」又は「・・・を組み合わせてなる」とは、上記二つの要素が併用されることをいう。併用の具体的な態様を以下で説明する。尚、人為的な操作によって調製されるという特徴を表すとともに、細胞内(内在性)mRNAと区別する目的で、本発明のmRNAのことを「人工合成mRNA」と呼称することがある。また、二つの用語「抑制」と「阻害」は、その意味するところが重複し、しばしば置換可能に用いられる。そこで本明細書では、前後の文脈から区別が特に必要な場合を除き、統一して用語「抑制」を使用する。
【0010】
「mRNAの発現の効率化」とは、mRNAが高発現すること、即ち、発現産物(タンパク質)の量が増大することをいう。発現の効率化は、mRNAの安定化及び/又は翻訳効率の向上によって達成され得る。典型的には、本発明によれば、mRNAの安定化と翻訳効率の向上(翻訳量の増大)の両方によってmRNAの発現率が高められる。
【0011】
一態様では、本発明のmRNAを含有する第1要素と、本発明の機能抑制物質を含有する第2要素とからなるキットの形態で本発明の組成物が提供される。この場合、標的細胞に対して同時又は所定の時間的間隔を置いて両要素が投与されることになる。好ましくは、機能抑制物質の作用の発現に要する時間を考慮し、第2要素を導入した後、所定の時間差で第1要素を導入する。例えば、第2要素の導入から1時間~48時間後、好ましくは4時間~30時間後に第1要素を導入する。第1要素と第2要素を同時に導入することにしてもよい。ここでの「同時」は厳密な同時性を要求するものではない。従って、両要素を混合した後に標的細胞へ導入する等、両要素の導入が時間差のない条件下で実施される場合は勿論のこと、片方の導入後、速やかに他方を導入投与する等、両要素の導入が実質的な時間差のない条件下で実施される場合もここでの「同時」の概念に含まれる。
【0012】
本発明の別の態様では、第1要素と第2要素とを混合した配合剤として本発明の組成物が提供されることになる。一方、本発明のmRNAを含有する組成物とし、その導入時に本発明の機能抑制物質が併用導入されるようにしてもよい。この場合の組成物と機能抑制物質の導入のタイミングは、上記のキットの形態の場合と同様である。即ち、好ましくは機能抑制物質を導入した後、本発明のmRNAを含有する組成物を導入することになる。また、当該態様とは逆に、機能抑制物質を含有する組成物とし、その導入時に本発明のmRNAが併用導入されるようにしてもよい。この場合の導入のタイミングは上記態様の場合に準ずる。
【0013】
有効成分(mRNA、機能阻害物質)の保護を目的としてエキソヌクレアーゼ阻害剤、エンドヌクレアーゼ阻害剤、リン脂質、リン酸カルシウム、ポリエチレンイミン、ナノミセル形成剤であるポリエチレングリコール-ポリカチオン、緩衝剤、無機塩類、2価イオン等を、細菌の混入を阻止することを目的として抗生物質等を、細胞の増殖能を亢進させる目的として動物血清、成長因子、糖類、ビタミン類、2価イオン等を本発明の組成物に含有させてもよい。また、製剤上許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水など)を本発明の組成物に含有させてもよい。更に、有効成分の細胞導入効率を亢進させる目的として、ライフテクノロジー社が提供するOpti-MEM等の特殊合成培地を用いてもよい。
【0014】
2.目的遺伝子のmRNA
本発明の組成物の構成要素であるmRNA(本発明のmRNA)は目的遺伝子のコード領域(目的遺伝子の発現産物であるタンパク質をコードする領域)を備える。「目的遺伝子」とは、本発明のmRNAを利用して標的細胞内で発現させる遺伝子である。様々な遺伝子を目的遺伝子として採用できる。目的遺伝子の例は、酵素(例えばヌクレアーゼ(ZFN(Zinc Finger Nuclease)、TALEN(Transcription Activator-Like Effector Nuclease)、CRISPR-Cas9等)、サイトカイン、ホルモン、神経伝達物質等の遺伝子、その機能低下(例えば変異によるもの)や欠損などが疾患の原因となる遺伝子、正常に機能をしているがその発現の増強が望まれる遺伝子、標的細胞が本来有しない遺伝子であってそれが発現されることにより標的細胞の生存、維持等に有益な遺伝子、標的細胞に作用し、標的細胞が本来有する機能を高めるタンパク質又は標的細胞が本来有する機能とは異なる機能を発揮させるタンパク質をコードする遺伝子、標的細胞には作用せず、標的細胞から分泌されて周囲の細胞に作用するタンパク質(例えば、細胞間ネットワークに関与するタンパク質)をコードする遺伝子である。標的細胞及び周囲の細胞に対しては実質的に作用しないタンパク質をコードする遺伝子も目的遺伝子となり得る。このような遺伝子として、例えば医薬品等に利用されるタンパク質等をコードする遺伝子(例えば、ヒトエリスロポエチン遺伝子、ヒトフィブリノーゲン遺伝子、ヒト血清アルブミン遺伝子、ヒトラクトフェリン遺伝子、ヒトα-グルコシダーゼ遺伝子)が挙げられる。かかる遺伝子を採用することにより、標的細胞内で医薬品等として利用可能な組換えタンパク質を産生させることが可能である。尚、ZFN遺伝子(IL28Bを標的としたもの)の配列を配列番号7(ZFN-right)及び配列番号8(ZFN-left)に、TALEN遺伝子の配列を配列番号9に、CRISPR-Cas9遺伝子の配列(例えばScience. 2013 Feb 15;339(6121):819-23.を参照することができる)を配列番号10にそれぞれ示す。
【0015】
「標的細胞」とは、その中で目的遺伝子を発現させる細胞である。本発明では、標的細胞にOASの機能抑制物質と本発明のmRNAが導入されることになる。標的細胞は特に限定されず、各種真核細胞を標的細胞として用いることができる。例えば、標的細胞として、哺乳動物(ヒト、サル、ウシ、ウマ、ウサギ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター等)の各種細胞、例えば心筋細胞、平滑筋細胞、脂肪細胞、線維芽細胞、骨細胞、軟骨細胞、破骨細胞、実質細胞、表皮角化細胞(ケラチノサイト)、上皮細胞(皮膚表皮細胞、角膜上皮細胞、結膜上皮細胞、口腔粘膜上皮、毛包上皮細胞、口腔粘膜上皮細胞、気道粘膜上皮細胞、腸管粘膜上皮細胞など)、内皮細胞(角膜内皮細胞、血管内皮細胞など)、神経細胞、グリア細胞、脾細胞、膵臓β細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、肝細胞、これらの前駆細胞又は幹細胞、或いは人工多能性幹細胞(iPS細胞)、間葉系幹細胞(MSC)、胚性幹細胞(ES細胞)、胚性生殖細胞(EG細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)などを使用することができる。また、継代細胞、特定の細胞系譜へと分化誘導された細胞、株化細胞(例えば、HeLa細胞、CHO細胞、Vero細胞、HEK293細胞、HepG2細胞、COS-7細胞、NIH3T3細胞、Sf9細胞)を用いることもできる。
【0016】
生体から分離された状態の標的細胞(即ち、単離された標的細胞)、又は生体を構成した状態の標的細胞に対して本発明が適用される。従って、In vitro、In vivo及びEx vivoのいずれの環境下でも本発明を実施することが可能である。ここでの「単離された」とは、その本来の環境(例えば生体を構成した状態)から取り出された状態にあることをいう。従って通常は、単離された標的細胞は培養容器内又は保存容器内に存在し、それへのin vitroでの人為的操作が可能である。具体的には、生体から分離され、生体外で培養状態にある細胞(株化された細胞を含む)は、単離された標的細胞としての適格を有する。尚、上記の意味において単離された状態にある限り、組織体を形成した状態であっても単離された細胞である。
【0017】
単離された標的細胞は生体(例えば患者)より調製することができる。一方、独立行政法人理化学研究所バイオリソースセンター、独立行政法人 製品評価技術基盤機構、ATCC (American Type Culture Collection)、DSMZ(German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)などより入手した細胞を、単離された標的細胞として使用することもできる。
【0018】
本発明のmRNAはその翻訳に必要な5'キャップ構造(m7G(7-メチルグアノシン)が5'末端ヌクレオシドに5'-5'三リン酸橋を介して結合した構造)及びポリ(A)鎖も備える。ポリ(A)鎖の長さは特に限定されないが、例えば、30~200塩基である。5’キャップ構造には翻訳開始因子eIF4Eが、ポリ(A)鎖にはポリ(A)鎖結合タンパク質PABP(poly(A)-binding protein)が結合し、両者が足場タンパク質である翻訳開始因子eIF4Gを介して複合体を形成することでmRNAは環状構造をとることになる(Wells SE, et al. Mol Cell. 1998;2:135-140)。さらに、翻訳終結因子eRF3はPABP-eIF4Gと複合体を形成し、3’UTRをループアウトする(Uchida N, et al. J Biol Chem. 2002;277:50286-50292)。このようなmRNAの環状化は、翻訳終結部位と翻訳開始部位を物理的に近づけ、翻訳を終えたリボソームを、3’UTRを経ることなく終止コドンから次の翻訳開始にリサイクルすることで、翻訳開始の効率に大きく寄与する。5’末端キャップ構造と3’末端ポリ(A)鎖は、このような翻訳の効率化だけでなく、エキソヌクレアーゼによる末端からのmRNA分解を阻害することでmRNAを安定化し、翻訳の効率化とmRNA安定化の両過程において転写後の遺伝子発現制御に大きく貢献する。
【0019】
上記要素の他、5'末端非翻訳領域(5'UTR)及び/又は3'末端非翻訳領域(3'UTR)を本発明のmRNAが備えていてもよい。通常、5'UTRの一部としてコザック配列が用いられる。また、好ましくは、3'UTRの一部として安定化シス配列が用いられる。安定化シス配列を用いることにより、mRNAの更なる安定化を図ることができる。安定化シス配列の具体例はPRE(pyrimidine-rich element)である。例えば、β-グロビンのPREをコード領域とポリ(A)鎖の間に介在させてmRNAを構成することにより、より安定性の高いmRNAを得ることができる。β-グロビンのPREの配列を配列表の配列番号11~13に示す(Mol Cell Biol. Sep 2001; 21(17): 5879-5888を参照)。β-グロビン遺伝子等、その3'UTRにPREを含む遺伝子の3'UTR(具体例を配列番号6に示す)の全体又は一部(但し、PREを含むもの)を用いて、本発明のmRNAの3'UTRを構成してもよい。一方、安定化シス配列とは対照的にARE (AU-rich element)、GRE (GU-rich element)等のシス因子はmRNAを不安定化することが知られている(例えば Louis I et al., 2014, J Interferon Cytokine Res. 34: 233-241を参照)。従って、本発明のmRNAは、このような不安定化をもたらすシス配列を含まないことが好ましい。
【0020】
本発明のmRNAの5’UTR又は3'UTRを構成し得る要素として、上記の要素の他、mRNAの調製に利用する鋳型(市販のクローニング用プラスミドなど)に由来する配列、制限酵素認識配列(制限酵素サイト)を挙げることができる。
【0021】
本発明のmRNAはin vitro転写系、化学合成等の方法によって調製することができる。in vitro転写用のキット(例えば例えばプロメガ社が提供するRiboMAXsystem、ニッポンジーン社が提供するCUGA7 in vitro transcription kit、ライフテクノロジーズ社が提供するMEGAscript T7 kit)を利用すれば、簡便に目的のmRNAを調製することが可能である。5'キャップ構造の付加も公知の方法で行えば良く、例えばNew England Biolabsが提供する3'-O-Me-m7G(5')ppp(5')G RNA Cap Structure Analogを利用することができる。
【0022】
本発明のmRNAとして、2種類以上のmRNAを併用することにしてもよい。例えば、特定の遺伝子のコード領域を有するmRNAと、当該遺伝子の発現産物と相互作用する発現産物をコードする領域を有するmRNAを併用することができる。
【0023】
本発明の組成物に使用するmRNAの量は、本発明の組成物の使用目的、使用する目的遺伝子の特徴、標的細胞の種類等を考慮しつつ、標的細胞内で十分な量の発現産物が得られるように設定すればよい。mRNA量の例を示すと、一回分の量として3 cm 培養ディッシュあたり0.5~1.0μgのmRNAを含有させるとよい。
【0024】
3.機能抑制物質
本発明における機能抑制物質は2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)に作用し、OASによる人工合成mRNAの識別を抑制ないし阻害する。即ち、本発明の機能抑制物質の標的はOASである。OASは大別して、OAS1、OAS2、OAS3の3種類が存在することが知られている。機能抑制物質は、これらの分子の少なくとも1つに対して抑制効果を発揮する。ここで、本発明者らが明らかにした人工合成mRNA分解のメカニズムでは(図6を参照)、(i)人工合成mRNAは、細胞質に導入されるとオリゴアデニル酸合成酵素OAS3によって結合識別される。(ii)この人工合成mRNAを結合したOAS3はATPを基質にして2',5'-オリゴアデニル酸(2-5A)を合成する。(iii)2-5AはエンドヌクレアーゼRNaseLに結合し、不活性型のモノマーを活性型のダイマーへと変換する。(iv)一方で、細胞質において人工合成mRNAはリボソームによって翻訳されるが、細胞内mRNAと違ってmRNPを形成できない外来性の人工合成mRNAは翻訳効率が低いことと二次構造を形成しやすいため、リボソームが途中でストールする。(v)そのストールしたリボソームを識別してDom34-GTPBP2が会合し、これが活性型ダイマーとなったRNaseLを特異的にリクルートする。(vi)その結果、外来性の人工合成mRNAがRNaseLによって特異的に分解される。
【0025】
OASの中で最大のOAS3は機能ドメインを複数持ち、より長いRNAを認識する特徴を有し、上記の通り外来性の人工合成mRNAの識別において中心的役割を果たす。従って、本発明における機能抑制物質の標的として最も好ましい。そこで、好ましい態様ではOAS3を標的とする機能抑制物質を採用する。実際、OAS3の機能阻害によって人工合成mRNAの発現が飛躍的に効率化すること(例えば、後述の実施例に示した実験結果)及びその効果はOAS1又はOAS2を標的とした場合に比較して格段に高いことが確認されている。尚、OASの詳細は公共のデータベースに掲載されており、本発明を実施する上で必要な情報(例えば、RNA干渉を利用して機能阻害する場合のsiRNAの設計に必要な配列情報など)は容易に入手することができる。NCBIのデータベースでは、OAS1はGene ID: 4938として、OAS2はGene ID: 4939、OAS3はGene ID:4940としてそれぞれ登録されている。
【0026】
2種類以上の機能抑制物質を併用することにしてもよい。この場合、各機能抑制物質の標的、作用等は同一又は類似であっても、或いは異なっていてもよい。例えば、OAS1の機能抑制物質、OSA2の機能抑制物質及びOAS3の機能抑制物質からなる群より選択される二以上の機能抑制物質を併用する。標的が同一の機能抑制物質を2種類以上併用することも可能である。例えば、OAS3を標的とする、異なる2種類以上の機能抑物質を併用することができる。
【0027】
本発明の機能抑制物質の例は次の通りである。
(a)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)を標的とするsiRNA
(b)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)を標的とするsiRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト
(c)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)を標的とするアンチセンス核酸
(d)2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素(OAS)を標的とするリボザイム
【0028】
上記(a)及び(b)は、いわゆるRNAi(RNA interference;RNA干渉)による発現抑制に利用される化合物である。換言すれば、上記(a)又は(b)の化合物を機能抑制物質として採用すれば、RNAiによりOASの発現を抑制することができる。RNAiは真核細胞内で引き起こすことが可能な、配列特異的な転写後遺伝子抑制のプロセスである。哺乳動物細胞に対するRNAiでは、標的mRNAの配列に対応する配列の短い二本鎖RNA(siRNA)が使用される。通常、siRNAは21~23塩基対である。哺乳動物細胞は二本鎖RNA(dsRNA)の影響を受ける2つの経路(配列特異的経路及び配列非特異的経路)を有することが知られている。配列特異的経路においては、比較的長いdsRNAが短い干渉性のRNA(即ちsiRNA)に分割される。他方、配列非特異的経路は、所定の長さ以上であれば配列に関係なく、任意のdsRNAによって惹起されると考えられている。この経路ではdsRNAが二つの酵素、即ち活性型となり翻訳開始因子eIF2をリン酸化することでタンパク質合成のすべてを停止させるPKRと、RNase L活性化分子の合成に関与する2',5'オリゴアデニル酸合成酵素が活性化される。この非特異的経路の進行を最小限に留めるためには約30塩基対より短い二本鎖RNA(siRNA)を使用することが好ましい(Hunter et al. (1975) J Biol Chem 250: 409-17; Manche et al. (1992) Mol Cell Biol 12: 5239-48; Minks et al. (1979) J Biol Chem 254: 10180-3; 及び Elbashir et al. (2001) Nature 411: 494-8を参照されたい)。
【0029】
標的特異的なRNAiを生じさせるためには標的遺伝子のmRNA配列の一部と相同なセンスRNA及びこれに相補的なアンチセンスRNAからなるsiRNAを細胞内に導入するか、又は細胞内で発現させればよい。上記(a)は前者の方法に対応する化合物であり、同様に上記(b)は後者の方法に対応する化合物である。
【0030】
特定の遺伝子を標的とするsiRNAは、通常、当該遺伝子のmRNAの配列における連続する領域と相同な配列からなるセンスRNAとその相補配列からなるアンチセンスRNAがハイブリダイズした二本鎖RNAである。ここでの「連続する領域」の長さは通常15~30塩基、好ましくは18~23塩基、より好ましくは19~21塩基である。
【0031】
末端に数塩基のオーバーハングを有する二本鎖RNAが高いRNAi効果を発揮することが知られている。そこで本発明においても、そのような構造のsiRNAを採用することが好ましい。オーバーハングを形成する塩基の長さは特に限定されないが、好ましくは2塩基(例えばTT、UU、UG)である。
【0032】
修飾したRNAからなるsiRNAを用いることにしてもよい。ここでの修飾の例としてホスホロチオエート化、修飾塩基(例えば蛍光標識塩基)の使用が挙げられる。
【0033】
RNAi法に使用するdsRNAは化学合成によって、又は適当な発現ベクターを用いてin vitro又はin vivoで調製することができる。発現ベクターによる方法は、比較的長いdsRNAの調製を行うことに特に有効である。siRNAの設計には通常、標的配列に固有の配列(連続配列)が利用される。尚、適当な標的配列を選択するためのプログラム及びアルゴリズムが開発されている。
【0034】
OAS1を標的としたsiRNAの配列の例を以下に示す。
CUACAGAGAGACUUCCUGA dTdT(配列番号14。後述の実施例で使用した配列)
【0035】
OAS2を標的としたsiRNAの配列の例を以下に示す。
CGCUCUGAGCUUAAAUGAU dTdT(配列番号15。後述の実施例で使用した配列)
【0036】
OAS3を標的としたsiRNAの配列の例を以下に示す。
GAAGGAUGCUUUCAGCCUA dTdT(配列番号16。後述の実施例で使用した配列)
【0037】
上記(b)の「siRNAを細胞内で生成する核酸コンストラクト」とは、それを細胞に導入すると細胞内でのプロセスによって所望のsiRNA(標的遺伝子に対するRNAiを引き起こすsiRNA)が生ずる核酸性分子をいう。当該核酸コンストラクトの一つの例はshRNA(short hairpin RNA)である。shRNAは、センスRNAとアンチセンスRNAがループ構造部を介して連結された構造(ヘアピン構造)を有し、細胞内でループ構造部が切断されて二本鎖siRNAとなり、RNAi効果をもたらす。ループ構造部の長さは特に限定されないが、通常は3~23塩基である。
【0038】
核酸コンストラクトの別の例は、所望のsiRNAを発現し得るベクターである。このようなベクターとしては、後のプロセスによってsiRNAに変換されるshRNAを発現する(shRNAをコードする配列がインサートされた)ベクター(ステムループタイプ又はショートヘアピンタイプと呼ばれる)、センスRNAとアンチセンスRNAを別々に発現するベクター(タンデムタイプと呼ばれる)が挙げられる。これらのベクターは当業者であれば常法に従い作製することができる(Brummelkamp TR et al.(2002) Science 296:550-553; Lee NS et al.(2001) Nature Biotechnology 19:500-505; Miyagishi M & Taira K (2002) Nature Biotechnology 19:497-500; Paddison PJ et al.(2002) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1443-1448; Paul CP et al.(2002) Nature Biotechnology 19 :505-508; Sui G et al.(2002) Proc Natl Acad Sci USA 99(8):5515-5520; Paddison PJ et al.(2002) Genes Dev. 16:948-958等が参考になる)。現在、種々のRNAi用ベクターが利用可能である。このような公知のベクターを利用して本発明のベクターを構築することにしてもよい。この場合、所望のRNA(例えばshRNA)をコードするインサートDNAを用意した後、ベクターのクローニングサイトに挿入し、RNAi発現ベクターとする。尚、標的遺伝子に対するRNAi作用を発揮するsiRNAを細胞内で生じさせるという機能を有する限り、ベクターの由来や構造は限定されるものではない。
【0039】
上記(c)はアンチセンス法による発現抑制に利用される化合物である。換言すれば、上記(c)の化合物を機能抑制物質として採用すれば、アンチセンス法によりOASの発現を抑制することができる。アンチセンス法による発現阻害を行う場合には例えば、標的細胞内で転写されたときに、OASをコードするmRNAの固有の部分に相補的なRNAを生成するアンチセンス・コンストラクトが使用される。このようなアンチセンス・コンストラクトは例えば、発現プラスミドの形態で標的細胞に導入される。一方、アンチセンス・コンストラクトとして、標的細胞内に導入されたときに、OASをコードするmRNA/又はゲノムDNA配列とハイブリダイズしてその発現を阻害するオリゴヌクレオチド・プローブを採用することもできる。このようなオリゴヌクレオチド・プローブとしては、好ましくは、エキソヌクレアーゼ及び/又はエンドヌクレアーゼなどの内因性ヌクレアーゼに対して抵抗性であるものが用いられる。
【0040】
アンチセンス核酸としてDNA分子を使用する場合、OASをコードするmRNAの翻訳開始部位(例えば-10~+10の領域)を含む領域に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0041】
アンチセンス核酸と、標的核酸との間の相補性は厳密であることが好ましいが、多少のミスマッチが存在していてもよい。標的核酸に対するアンチセンス核酸のハイブリダイズ能は一般に両核酸の相補性の程度及び長さの両方に依存する。通常、使用するアンチセンス核酸が長いほど、ミスマッチの数が多くても、標的核酸との間に安定な二重鎖(又は三重鎖)を形成することができる。当業者であれば、標準的な手法を用いて、許容可能なミスマッチの程度を確認することができる。
【0042】
アンチセンス核酸はDNA、RNA、若しくはこれらのキメラ混合物、又はこれらの誘導体や改変型であってもよい。また、一本鎖でも二本鎖でもよい。塩基部分、糖部分、又はリン酸骨格部分を修飾することで、アンチセンス核酸の安定性、ハイブリダイゼーション能等を向上させることなどができる。また、アンチセンス核酸に、細胞膜輸送を促す物質(例えば Letsinger et al., 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 86:6553-6556; Lemaitre et al., 1987, Proc. Natl. Acad. Sci. 84:648-652; PCT Publication No. W088/09810, published December 15, 1988を参照されたい)や、特定の細胞に対する親和性を高める物質などを付加してもよい。
【0043】
アンチセンス核酸は例えば市販の自動DNA合成装置(例えばアプライド・バイオシステムズ社等)を使用するなど、常法で合成することができる。核酸修飾体や誘導体の作製には例えば、Stein et al.(1988), Nucl. Acids Res. 16:3209やSarin et al., (1988), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 85:7448-7451等を参照することができる。
【0044】
標的細胞内におけるアンチセンス核酸の作用を高めるために、pol IIやpol IIIといった強力なプロモーターを利用することができる。即ち、このようなプロモーターの制御下に配置されたアンチセンス核酸を含むコンストラクトを標的細胞に導入すれば、当該プロモーターの作用によって十分な量のアンチセンス核酸の転写を確保できる。
【0045】
アンチセンス核酸の発現には、哺乳動物細胞(好ましくはヒト細胞)で機能することが知られている任意のプロモーター(誘導性プロモーター又は構成的プロモーター)によって行うことができる。例えば、SV40初期プロモーター領域 (Bernoist and Chambon, 1981, Nature 290:304-310)、ラウス肉腫ウイルスの3'末端領域由来のプロモーター(Yamamoto et al., 1980, Cell 22:787-797)、疱疹チミジン・キナーゼ・プロモーター(Wagner et al., 1981, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 78:1441-1445)等のプロモーターを使用することができる。
【0046】
本発明の一態様では、リボザイムによる発現抑制を利用する(上記(d)の化合物の場合)。部位特異的認識配列でmRNAを開裂させるリボザイムを用いて標的mRNAを破壊することもできるが、好ましくはハンマーヘッド・リボザイムを使用する。ハンマーヘッド・リボザイムの構築方法については例えばHaseloff and Gerlach, 1988, Nature, 334:585-591を参考にすることができる。
【0047】
アンチセンス法を利用する場合と同様に、例えば安定性やターゲット能を向上させることを目的として、修飾されたオリゴヌクレオチドを用いてリボザイムを構築してもよい。効果的な量のリボザイムを標的細胞内で生成させるために、例えば、強力なプロモーター(例えばpol IIやpol III)の制御下に、当該リボザイムをコードするDNAを配置した核酸コンストラクトを使用することが好ましい。
【0048】
ここで、本発明における機能抑制物質として2',5'-オリゴアデニル酸(2-5A)誘導体を用いることも可能である。この場合、機能抑制物質である2-5A誘導体が、エンドヌクレアーゼRNaseLへの2-5Aの結合を競合阻害し、その結果、OASの機能阻害が生じることになる。エンドヌクレアーゼRNaseLへの2-5Aの結合を競合阻害するという特性を示す限り、2-5A誘導体の構造は特に限定されない。また、既存の2-5A誘導体を使用しても、或いは新たに合成した2-5A誘導体を使用することにしてもよい。2-5AがエンドヌクレアーゼRNaseLへ結合し得る条件下で供試2-5A誘導体を併存させた場合に2-5Aの結合量を測定することよって、本発明の機能抑制物質として利用可能である2-5A誘導体に該当するか否かの判定ないし評価を行うことができる。従って、本発明の機能抑制物質として利用可能な2-5A誘導体を特定することは当業者であれば容易になし得る。
【0049】
本発明の組成物に使用する機能抑制物質の量は、本発明の組成物の使用目的、使用する機能抑制物質の特性、標的細胞の種類等を考慮しつつ、標的細胞内で所望の効果を発揮できるように設定すればよい。機能抑制物質としてsiRNAを採用する場合には、例えば、一回分の量として、培養液中においてその濃度が10~50 nMとなるようにsiRNAを含有させるとよい。
【0050】
4.導入方法
本発明を利用して標的細胞内で目的遺伝子を発現させるためには、典型的には以下のステップ(1)及び(2)を行う。
(1)標的細胞に2'-5'-オリゴアデニル酸合成酵素の機能抑制物質(本発明の第2要素)を導入するステップ
(2)前記標的細胞に目的遺伝子のmRNA(本発明の第1要素)を導入するステップ
【0051】
ステップ(1)における、機能抑制物質としてのsiRNA等の標的細胞への導入、及びステップ(2)におけるmRNAの標的細胞への導入は公知の方法で行うことができる。例えば、リン酸カルシウム共沈降法、エレクトロポレーション(Potter, H. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 7161-7165(1984))、リポフェクション(Felgner, P.L. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 84,7413-7417(1987))、マイクロインジェクション(Graessmann, M. & Graessmann,A., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 73,366-370(1976))、Hanahanの方法(Hanahan, D., J. Mol. Biol. 166, 557-580(1983))、酢酸リチウム法(Schiestl, R.H. et al., Curr. Genet. 16, 339-346(1989))、プロトプラスト-ポリエチレングリコール法(Yelton, M.M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. 81, 1470-1474(1984))、超音波遺伝子導入法、カチオン性ポリアミン酸を利用した方法(例えば特開2011-173802号公報を参照)、カチオン性ポリマーセグメントと非架電親水性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーからなるポリイオンコンプレックス(PIC)型の高分子ミセルを利用した方法(例えば、特開2004-352972号公報、国際公開第2012/005376号パンフレットを参照)等によって実施することができる。
【0052】
上でも言及したように、機能抑制物質の作用の発現に要する時間を考慮すれば、機能抑制物質とmRNAは、この順序で且つ間隔をあけて導入することが好ましい。従って、好ましくは、ステップ(1)の後、所定の時間(例えば1時間~48時間、好ましくは4時間~30時間)が経過した段階でステップ(2)を行う。但し、ステップ(1)とステップ(2)を同時に行うことにしてもよい。この場合、例えば、導入操作に先立って機能抑制物質とmRNAを混合したものを用意し、これを標的細胞へ導入する(この場合はステップ(1)とステップ(2)が同時に一つの操作として実施されることになる)。或いは、機能抑制物質とmRNAを別個に用意しておき、両者を実質的に時間差のない条件でそれぞれ標的細胞に導入する。
【0053】
5.用途
本発明の組成物によれば、標的細胞内で人工合成mRNAの発現を効率化することができ、目的タンパク質が高発現する。従って、本発明は、目的タンパク質の高発現が望まれる様々な用途への適用が可能である。本発明の用途の例として、(A)各種ウイルス性疾患(例えばB型肝炎、後天性免疫不全症候群AIDS、成人T細胞白血病)や遺伝病(例えばデュシェンヌ型筋ジストロフィー、嚢胞性腺維症、βサラセミア、Hurler症候群、網膜色素変性症、X連鎖型腎性尿崩症)の治療、(B)癌免疫療法、(C)iPS細胞の作製、(D)幹細胞(例えばiPS細胞やES細胞などの多分化能幹細胞)又は前駆細胞の分化誘導、を挙げることができる。
【0054】
(A)及び(B)は、いわゆるRNA医薬として本発明を利用するものである。(A)の具体例はB型肝炎の治療である。例えば、ゲノムに組み込まれたウイルスDNAを切断・分解するヌクレアーゼ(ZFN、TALEN、又はCRISPR-Cas9)遺伝子を目的遺伝子として組み込んだmRNAを用いることにより、従来のウイルスベクターを使用した方法で問題となる発がんリスクを伴わないウイルス治療が可能となる。このように、本発明の組成物はウイルス除去剤としても有用である。遺伝病の治療においては、例えば、疾患原因遺伝子(機能低下又は欠損により疾患を引き起こすもの)を目的遺伝子とし、本発明を適用する。(B)の用途では、本発明を利用してがん抗原のmRNAを抗原提示細胞に導入し、癌ワクチンを体内で産生させることになる。(C)の用途に本発明を適用すれば、ウイルスベクターを使用することなく初期化因子を導入することが可能になるため、細胞のがん化の問題を克服することができる。(D)の用途においても同様の利点が得られる。
【0055】
本発明の組成物をRNA医薬として利用する場合の製剤化は常法に従って行うことができる。製剤化する場合には、製剤上許容される他の成分(例えば、緩衝剤、賦形剤、崩壊剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、生理食塩水、担体など)を含有させることができる。緩衝剤としてはリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などを用いることができる。賦形剤としては乳糖、デンプン、ソルビトール、D-マンニトール、白糖等を用いることができる。崩壊剤としてはデンプン、カルボキシメチルセルロース、炭酸カルシウム等を用いることができる。緩衝剤としてはリン酸塩、クエン酸塩、酢酸塩等を用いることができる。乳化剤としてはアラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、トラガント等を用いることができる。懸濁剤としてはモノステアリン酸グリセリン、モノステアリン酸アルミニウム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ラウリル硫酸ナトリウム等を用いることができる。無痛化剤としてはベンジルアルコール、クロロブタノール、ソルビトール等を用いることができる。安定剤としてはプロピレングリコール、アスコルビン酸等を用いることができる。保存剤としてはフェノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、クロロブタノール、メチルパラベン等を用いることができる。防腐剤としては塩化ベンザルコニウム、パラオキシ安息香酸、クロロブタノール等と用いることができる。
【0056】
製剤化する場合の剤型も特に限定されない。剤型の例は注射剤、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤及びシロップ剤である。
【0057】
本発明のRNA医薬はその剤型に応じて経口投与又は非経口投与(静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内又は腹腔内注射、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用される。これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる(例えば、経口投与と同時に又は所定時間経過後に静脈注射等を行う等)。ここでの「対象」は特に限定されず、ヒト及びヒト以外の哺乳動物(ペット動物、家畜、実験動物を含む。具体的には例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスター、サル、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ニワトリ、ウズラ等である)を含む。好ましい一態様では本発明のRNA医薬はヒトに対して適用される。
【0058】
本発明のRNA医薬の投与量は、期待される治療効果が得られるように設定される。治療上有効な投与量の設定においては一般に患者の症状、年齢、性別、及び体重などが考慮される。尚、当業者であればこれらの事項を考慮して適当な投与量を設定することが可能である。投与スケジュールとしては例えば1日1回~数回、2日に1回、或いは3日に1回などを採用できる。投与スケジュールの作成においては、患者の症状や有効成分の効果持続時間などを考慮することができる。
【実施例
【0059】
1.目的
様々な臨床応用が期待されている人工合成mRNAの標的細胞内での発現の効率化を目指し、以下の検討を行った。
【0060】
2.研究材料および方法
(1)プラスミド
RNAトランスフェクション用のベクターpBK-5F-EGFP-pA72は以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-ACC CTC GAC CCC ACC ATG GCA TCA ATG GAT -3’(配列番号17)と、5’-ATC GAA TTC AAG CTT AGT ACA GCT CGT CCA TGC C -3’(配列番号18)を用いpCMV-5xFlag-EGFP(Hosoda, N., Funakoshi, Y., Hirasawa, M., Yamagishi, R., Asano, Y., Miyagawa, R., Ogami, K., Tsujimoto, M., Hoshino, S. (2011) Anti-proliferative protein Tob negatively regulates CPEB3 target by recruiting Caf1 deadenylase. EMBO J 30, 1311-1323.)を鋳型としたPCR法により得られたDNA断片を、XhoIおよびEcoRIにより処理した。このDNA断片をpBluskript II SK(-)(アジレント・テクノロジー株式会社)のXhoI、EcoRIサイトに挿入し、pBK-5F-EGFPを得た。次に、オリゴヌクレオチド5’-CTT GAA TTC GAT ATC GTC GAC GCT CGC TTT CTT GCT GTC CAA TTT CT -3’(配列番号19)と、5’- GTC TCT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT TTT CTA GAC ATC ATT GCA ATG AAA A -3’(配列番号20)を用いpFlag-CMV5/TO-BGG(Funakoshi et al., Mechanism of mRNA deadenylation: evidence for a molecular interplay between translation termination factor eRF3 and mRNA deadenylases. Genes Dev. 2007 Dec 1;21(23):3135-48.)を鋳型としたPCR法により得られたDNA断片を、EcoRIにより処理した。このDNA断片をpBK-5F-EGFPのEcoRIサイトおよび平滑化したBamHIサイトに挿入し、pBK-5F-EGFP-pA72を作製した。
【0061】
pCMV-5xMyc-OAS3は以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-CGG AAG CTT ATG GAC TTG TAC AGC ACC CCG-3’(配列番号21)と、5’-ATC TCA CAC AGC AGC CTT CAC TGG-3’(配列番号22)を用いHeLa細胞由来の総RNAを鋳型とし、逆転写後、PCR法により得られたDNA断片をHindIIIおよびEcoRVにより処理した。このDNA断片をpCMV-5xMyc(Hosoda, N., Funakoshi, Y., Hirasawa, M., Yamagishi, R., Asano, Y., Miyagawa, R., Ogami, K., Tsujimoto, M., Hoshino, S. (2011) Anti-proliferative protein Tob negatively regulates CPEB3 target by recruiting Caf1 deadenylase. EMBO J 30, 1311-1323.)のHindIII、EcoRVサイトに挿入し、pCMV-5xMyc-OAS3を作製した。
【0062】
pCMV-5xMyc-PABPC1は以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-TAG CGG ATC CAT GAA CCC CAG TGC CCC CAG-3’(配列番号23)と、5’-CCC TGA GTC GAC TTA AAC AGT TGG AAC ACC-3’(配列番号24)を用いpGEX6P1-PABP(Hoshino, S., Imai, M., Mizutani, M., Kikuchi, Y., Hanaoka, F., Ui, M., and Katada, T. (1998). Molecular cloning of a novel member of the eukaryotic polypeptide chain-releasing factors (eRF). Its identification as eRF3 interacting with eRF1. J Biol Chem 273, 22254-22259.)を鋳型としたPCR法により得られたDNA断片を、BamHIおよびSalIにより処理し、SalIサイトを平滑化した。このDNA断片をpCMV-5xMyc(Hosoda, N., Funakoshi, Y., Hirasawa, M., Yamagishi, R., Asano, Y., Miyagawa, R., Ogami, K., Tsujimoto, M., Hoshino, S. (2011) Anti-proliferative protein Tob negatively regulates CPEB3 target by recruiting Caf1 deadenylase. EMBO J 30, 1311-1323.)のBglIIサイト及び、平滑化したNotIサイトに挿入し、pCMV-5xMyc-PABPC1を作製した。
【0063】
pCMV-5xMyc-Dom34は以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-TCC GAA TTC ATG AAG CTC GTG AGG AAG AAC-3’(配列番号25)と、5’- GGC GAA TTC TTA ATC CTC TTC AGA ACT GGA -3’(配列番号26)を用いpFlag-Dom34(Saito, S., Hosoda, N., and Hoshino, S. (2013). The Hbs1-Dom34 protein complex functions in non-stop mRNA decay in mammalian cells. J Biol Chem 288, 17832-17843.)を鋳型としたPCR法により得られたDNA断片を、EcoRIにより処理した。このDNA断片をpCMV-5xMyc(Hosoda, N., Funakoshi, Y., Hirasawa, M., Yamagishi, R., Asano, Y., Miyagawa, R., Ogami, K., Tsujimoto, M., Hoshino, S. (2011) Anti-proliferative protein Tob negatively regulates CPEB3 target by recruiting Caf1 deadenylase. EMBO J 30, 1311-1323.)のEcoRIサイトに挿入し、pCMV-5xMyc-Dom34を作製した。
【0064】
pCMV-5xFlag-RNaseLは以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-CTT GAA TTC ATG GAG AGC AGG GAT CAT AAC AAC-3’(配列番号27)と、5’-ATC TCA GCA CCC AGG GCT GGC CAA CCC-3’(配列番号28)を用いHeLa細胞由来の総RNAを鋳型とし、逆転写後、PCR法により得られたDNA断片をEcoRIおよびEcoRVにより処理した。このDNA断片をpCMV-5xFlag(Ruan, L., Osawa, M., Hosoda, N., Imai, S., Machiyama, A., Katada, T., Hoshino, S., and Shimada, I. (2010). Quantitative characterization of Tob interactions provides the thermodynamic basis for translation termination-coupled deadenylase regulation. J Biol Chem 285, 27624-27631.)のEcoRIおよびEcoRVサイトに挿入し、pCMV-5xFlag-RNaseLを作製した。
【0065】
pCMV-5xFlag-RNaseL Y312Aは以下のように作製した。まず、オリゴヌクレオチド5’-GCC GAC CAT TCC CTT GTG AAG GTT-3’(配列番号29)と、5’-ATT CCG CCT CGC TGT CAT AAC AAG-3’(配列番号30)を用いpCMV-5xFlag-RNaseLを鋳型としたinverse-PCR法により得られたDNA断片をライゲーションし、pCMV-5xFlag-RNaseL Y312Aを作製した。
【0066】
尚、OAS3の配列を配列番号32(アミノ酸配列)と配列番号33(塩基配列)に、PABPC1の配列を配列番号34(アミノ酸配列)と配列番号35(塩基配列)に、Dom34の配列を配列番号36(アミノ酸配列)と配列番号37(塩基配列)に、RNaseLの配列を配列番号38(アミノ酸配列)と配列番号39(塩基配列)に、RNaseL Y312Aの配列を配列番号40(アミノ酸配列)と配列番号41(塩基配列)にそれぞれ示す。
【0067】
(2)siRNA配列
<OAS1を標的としたsiRNA>
CUACAGAGAGACUUCCUGA dTdT(配列番号14)
<OAS2を標的としたsiRNA>
CGCUCUGAGCUUAAAUGAU dTdT(配列番号15)
<OAS3を標的としたsiRNA>
GAAGGAUGCUUUCAGCCUA dTdT(配列番号16)
【0068】
(3)RNA合成
T7 RNAポリメラーゼを用いて、pBK-5F-EGFP-pA72をBsmBIで処理したものを鋳型として5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを合成した。RNA合成はT7 RNAポリメラーゼ(タカラバイオ株式会社)を用い、その取扱い説明書に従って行った。
【0069】
(4)トランスフェクション
HeLa細胞は5% 牛胎仔血清を添加したDulbecco’s Modified Eagle’s Medium (日水製薬)を用い5% CO2存在下37℃で培養した。HeLa細胞を25%コンフルエントとなるように35 mmディッシュに撒種し、24時間培養後、ディッシュあたり10 nMまたは、50 nMのsiRNAをLipofectamine RNAiMAX(ライフテクノロジーズ)を用い取扱い説明書に従って導入した。siRNA導入後48時間後に1.0μgのRNAをLipofectamine RNAiMAX(ライフテクノロジーズ)を用い取扱い説明書に従って導入した。プラスミドについてはPEI MAX (Polysciences, Inc)を用い取扱説明書に従って導入した。
【0070】
(5)RNAの解析
RNAトランスフェクション後のHeLa細胞からのtotal RNAの単離は、グアニジンチオシアン酸塩、酸性フェノール、クロロホルムを用いた方法(AGPC法)により行った。調製したtotal RNAは、アガロースMOPSバッファーゲル(20 mM MOPS (pH 7.0), 5 mM 酢酸ナトリウム, 1 mM EDTA, 2.0 % アガロース, 2.46 M ホルムアルデヒド)により分離した後、アルカリ条件下(3 M 塩化ナトリウム, 8 mM 水酸化ナトリウム)でナイロン膜Biodyne-B (Pall)に転写した。転写後のナイロン膜は、UVで固定したのち、7% SDS, 250 mM Na3PO4 (pH 7.4), 2 mM EDTA 溶液中においてFlagプローブと42℃で一晩ハイブリダイゼーションした。Flagプローブは、ターミナル・デオキシヌクレオチジル・トランスフェラーゼ(TdT) (ライフテクノロジーズ) により、オリゴヌクレオチド5’-CTT ATC GTC GTC ATC CTT GTA ATC-3’(配列番号31)の3’末端に[α-33P]dATPを取り込ませることにより作製した。ナイロン膜に取り込まれた放射活性は、バイオ・イメージングアナライザーTyhoon FLA 7000 (GE Healthcare)を用い検出した。
【0071】
(6)タンパク質の解析
タンパク質の細胞内発現は、以下に示すウエスタンブロット法により行った。導入後の細胞からのタンパク質ライセートの調製は、SDS-PAGEサンプルバッファー(50 mM Tris-HCl (pH6.8), 4%グリセロール, 2% SDS, 2% 2-メルカプトエタノール, 0.004%ブロモフェノールブルー) を用い行った。タンパク質ライセートは8、10、12、もしくは15%のアクリルアミドを用いたSDS-PAGE法により分離した後、ニトロセルロース膜BioTrace NC (Pall)に電気的に転写した。転写後のニトロセルロース膜は、抗Flag M2マウスモノクローナル抗体(Sigma)、抗Myc 9E10マウスモノクローナル抗体(Roche)、抗Myc(A-14)ラビットポリクローナル抗体(Santa Cruz)、もしくは抗GAPDH抗体(Saito, S., Hosoda, N., Hoshino, S. (2013) Hbs1-Dom34 functions in non-stop mRNA decay (NSD) in mammalian cells. J Biol Chem 288, 17832-17843.)およびペルオキシダーゼ付加抗マウスIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)、ペルオキシダーゼ付加抗ラットIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)、もしくはペルオキシダーゼ付加抗ウサギIgG(Jackson ImmunoResearch Laboratories, Inc.)とインキュベートした。ニトロセルロース膜上のペルオキシダーゼ酵素活性は、ルミノール化学発光法を用い、LAS3000mini(富士写真フィルム株式会社)により検出した。
【0072】
(7)免疫沈降法
タンパク質の結合実験は、以下に示す免疫沈降法により行った。細胞回収後、バッファーA (20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 50 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 0.5% Nonidet P-40, 1 mM DTT, 5 mg/ml cOmplete mini (Roche)及び1 μg/ml RNase A (Sigma))もしくはバッファーB(20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 50 mM NaCl, 0.5% Nonidet P-40, 1 mM DTT, 5 mg/ml cOmplete mini (Roche)及び40 U/ml RNase inhibitor (TAKARA))により細胞を溶解した。15000 rpm/10分の遠心により得られた可溶化画分にanti-Flag M2 agarose (Sigma)またはanti-c-Myc agarose affinity gel antibody produced in rabbit (Sigma)を添加し、10℃で1時間転倒混和した。その後バッファーC(20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 50 mM NaCl, 1 mM MgCl2, 0.5% Nonidet P-40, 1 mM DTT, 0.1 mM PMSF, 2 μg/ml aprotinin, 2 μg/ml leupeptin及び2 μg/ml PepstatinA)またはバッファーD(20 mM Tris-HCl (pH 7.5), 50 mM NaCl, 0.5% Nonidet P-40及び1 mM DTT)によりビーズを洗浄後、SDS-PAGEサンプルバッファーを添加した。ウエスタンブロット法によりタンパク質を、ノザンブロット法によりmRNAを検出した。
【0073】
3.結果
HeLa細胞にOAS1 siRNA、OAS2 siRNA、OAS3 siRNAもしくはコントロールsiRNAとしてLuciferase siRNAを導入した。導入48時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その3時間後に細胞をPBSで洗浄し、その0、1、2、4時間後に細胞を回収した。回収した細胞からtotal RNAを単離し、ノザンブロット法で解析した。その結果、図1に示すように、OAS3のノックダウンにより5xFlag-EGFP-pA72 mRNAの安定化が観察されるが、OAS1及びOAS2のノックダウンにおいては有意な効果は観察されなかった。人工合成mRNAの分解においてOAS3が機能していることが明らかとなった。この結果は、外来性人工合成mRNAを識別するOAS3(図3を参照)を阻害すれば外来性人工合成mRNAが安定化することを示す。
【0074】
HeLa細胞にOAS1 siRNA、OAS2 siRNA、OAS3 siRNAもしくはコントロールsiRNAとしてLuciferase siRNAを導入した。導入48時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その6時間後に細胞をPBSで洗浄し、その7時間後に細胞を回収した。回収した細胞のライセートを調製し、タンパク質(5xFlag-EGFP)の細胞内発現量をウエスタンブロットで解析した。その結果、図2に示すように、OAS3のノックダウンにより5xFlag-EGFPタンパク質の発現量が増大するが、OAS1及びOAS2のノックダウンにおいては有意な発現量の増大は認められなかった。OAS3の機能阻害により外来性人工合成mRNAが安定化し、翻訳量が増大することが明らかとなった。この結果は、OAS3を阻害すれば外来性人工合成mRNAから産生されるタンパク質を増大させることができることを示す。
【0075】
HeLa細胞にpCMV-5xMyc-OAS3、pCMV-5xMyc-PABPC1もしくはコントロールとしてpCMV-5xMycを導入した。導入24時間後に5xFlag-EGFP-pA72 mRNAを導入し、その3時間後に細胞を回収した。回収した細胞のライセートを調製し、抗c-Myc抗体を用いた免疫沈降実験を行った。ライセートおよび免疫沈降画分に含まれる5xFlag-EGFPpA72 mRNAをノザンブロット法により(図3A上パネル)、5xMyc-OAS3および5xMyc-PABPC1タンパク質をウエスタンブロット法により(図3A上パネル)検出した。OAS3はプラスミド由来のmRNAには結合せず、外来性の人工合成mRNAを選択的に識別し、結合することが示された。
【0076】
HeLa細胞にpCMV-5xMyc-Dom34とともにpCMV-5xFlag-RNaseL、pCMV-5xFlag-RNaseL Y312AもしくはコントロールとしてpCMV-5xFlagを導入した。導入24時間後に細胞を回収した。回収した細胞のライセートを調製し、抗Flag抗体を用いた免疫沈降実験を行った。ライセートおよび免疫沈降画分に含まれる5xMyc-Dom34(図4A上パネル)および5xFlag-RNaseLもしくは5xFlag-RNaseL Y312A(図4A下パネル)を検出した。免疫沈降画分に含まれる5xMyc-Dom34を定量した(図4B)。RNaseLのダイマー形成を阻害するY312Aの変異により、RNaseLとDom34の結合は抑制された。活性化型であるダイマーRNaseLにDom34はより強く結合することが明らかとなった。
【0077】
4.考察
本検討の成果により、新たにOAS3が人工合成mRNAの分解に機能することが明らかとなった。図3の実験に示したように、OAS3のsiRNAをトランスフェクトしOAS3の機能を抑制することで、人工合成mRNAを細胞内で安定化させ、産生されるタンパク質を増大することが可能である。先に、Dom34およびGTPBP2は人工合成mRNAの分解に機能することを示している(特許文献1)。さらに3’→5’方向の分解を触媒するエキソヌクレアーゼ-Ski複合体およびRNaseLにより人工合成mRNAが分解されることを示している(特許文献1)。これら報告と併せて考察すれば、以下の分子機構が想定される。OAS3は人工合成mRNAを識別し2-5Aを合成する。2-5Aにより活性化されたRNaseLはDom34と結合する。Dom34はGTPBPとともにストールしたリボソームに結合することが報告されている。人工合成mRNAでストールしたリボソーム近傍にDom34、GTPBPおよびRNaseLがリクルートされる。その結果、人工合成mRNAはRNaseLのもつエンドヌクレアーゼ活性によりエンド切断を受ける。こうしてできた断片化人工合成mRNAはエキソヌクレアーゼ-Ski複合体により分解される。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明によれば、標的細胞に導入した人工合成mRNAの発現が効率化し、目的遺伝子の高発現が可能となる。本発明の用途としてRNA医薬(各種ウイルス性疾患の治療、癌免疫療法等)、iPS細胞の作製、幹細胞又は前駆細胞の分化誘導が想定される。
【0079】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
【配列表フリーテキスト】
【0080】
配列番号1:人工配列の説明:プラスミドの配列
配列番号3:人工配列の説明:ベクター由来の配列
配列番号4:人工配列の説明:EGFP
配列番号5:人工配列の説明:制限酵素サイト
配列番号14:人工配列の説明:siRNA
配列番号15:人工配列の説明:siRNA
配列番号16:人工配列の説明:siRNA
配列番号17~30:人工配列の説明:プライマー
配列番号31:人工配列の説明:プローブ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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