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特許7032781ガリウムを含有する薄膜の原子層堆積方法
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  • 特許-ガリウムを含有する薄膜の原子層堆積方法 図1
  • 特許-ガリウムを含有する薄膜の原子層堆積方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ガリウムを含有する薄膜の原子層堆積方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/40 20060101AFI20220302BHJP
   H01L 21/205 20060101ALN20220302BHJP
【FI】
C23C16/40
H01L21/205
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2017179819
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019056133
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000143411
【氏名又は名称】株式会社高純度化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】水谷 文一
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0148350(US,A1)
【文献】Peter Jutzi et al.,Organometallics,1998年02月28日,vol.17,p.1305-1314
【文献】J. W. Elam, et al.,Chemical Materials,2006年01月07日,vol.18,p.3571-3578
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/40
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される前駆体を用いたガリウムを含有する薄膜の原子層堆積(ALD)法。
【化1】
(一般式(1)中、R1~R5すべてメチル基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子層堆積によりガリウムを含有する薄膜を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な化学蒸着(CVD:chemical vapor deposition)法と比べて、段差被覆性や膜厚制御性に優れる技術として、原子層堆積(ALD:atomic layer deposition)法が知られている。ALD法は、原子層単位で薄膜を形成する技術であり、通常は(1)原料を一層だけ基板表面と反応または吸着させ、余分な原料をパージする、(2)酸化剤や還元剤などの反応性ガスを供給して、基板上の原料を目的とする堆積物になるように反応させる、の二つの工程を繰り返すことにより行う成膜法である。このように、ALD法は、原料を連続的に堆積させず、一層ずつ堆積させるため、段差被覆性や膜厚制御性に優れるという特徴がある。また、ALD法では、原料を熱分解させないので、比較的低温下に絶縁膜を形成することができるため、例えば、メモリ素子のキャパシタや、液晶ディスプレイのようにガラス基板を用いる表示装置における、薄膜トランジスタのゲート絶縁膜の形成などにも用いられることが期待される。
【0003】
具体的には、ALD法では、ガス化した原料を前駆体として、熱分解しない温度で基板に飽和吸着させ、次の工程で、基板表面上で反応性ガスと化学反応させることにより、目的とする材料を堆積させる。例えば、特許文献1には、低融点、揮発性、及び熱安定性のガリウム化合物を用いて、ALD法により、ガリウム含有薄膜を堆積させる方法が開示されている。特許文献1では、ガリウム源として、[Me2Ga(NEtMe)]2を用い、反応性ガスとしてアンモニアを用いて、550℃でガリウムナイトライドの薄膜を堆積させる方法、或いは、ガリウム源として、同じく[Me2Ga(NEtMe)]2を用い、反応性ガスとしてオゾンを用いて、500℃で酸化ガリウム薄膜を堆積させる方法などが開示されている。
【0004】
非特許文献1には、ガリウム源としてガリウムトリイソプロポキシド(Ga(OiPr)3)を用い、酸素源として水を用いて、150~250℃でガラス基板上に薄膜を堆積させるGa23原子層堆積(ALD)法が開示されている。
【0005】
また、非特許文献2には、ガリウム源としてトリメチルガリウムを用い、酸化剤として酸素プラズマを用いて、Ga23薄膜をプラズマ強化ALD(PEALD)で堆積させる方法が開示されている。非特許文献2の方法では、250℃で、成膜速度0.53Å/cycleでALDを行った後、900℃で30分間アニールすることにより、多結晶のβ-Ga23相を形成させている。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、反応を450℃近い温度で行う必要があった。また、このときの前駆体は室温23℃において、固体であり取り扱いが容易ではなかった。非特許文献1に記載の方法では、150~250℃で成膜が行われているが、このGa(OiPr)3もまた固体であり、取り扱いに注意を要する。また、非特許文献2に記載の方法では、常温で液体のトリメチルガリウムとプラズマ酸素を用いて、100~400℃の低温で成膜しているが、酸素を用いる際に、プラズマによってラジカル種を生成させているために、これらが堆積途中で失活することで段差被覆性が悪くなるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】欧州特許出願公開第2492273A1号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】D-w. Choi et al., “Low temperature Ga2O3 atomic layer deposition using gallium tri-isopropoxide and water”, This Solid Films 546, (2013) 31-34
【文献】I Donmez et al., “Low temperature deposition of Ga2O3 thin films using trimethylgallium and oxygen plasma”, Journal of Vacuum Science & Technology A 31, (2013), 01A110-1- 01A110-4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
非特許文献1のIntroductionにあるように、ガリウムの低温ALDが可能な前駆体のニーズはあるが、これまでに知られるGa前駆体の多くは300℃以上の高温が必要である。比較的低温でのALDとしては、非特許文献1、2が挙げられるが、非特許文献1のGa(OiPr)3については、低温で蒸気圧が低いという問題がある。一方、非特許文献2では、前記したように、プラズマの生成や制御に関する問題がある。
本発明は、低温でも蒸気圧が高く、熱安定性の高いガリウム含有前駆体を用いて、プラズマやオゾンなどのラジカル種を用いない原子層堆積(ALD)によって、ガリウムを含有する薄膜を堆積する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の事項からなる。
本発明のガリウムを含有する薄膜の原子層堆積(ALD)法は、下記一般式(1)で表される前駆体を用いたものである。
【化1】
ただし、一般式(1)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基を表す。
前記一般式(1)において、R1~R5のうち4つが水素原子である場合、残りの1つは炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、R1~R5のうち4つがメチル基である場合、残りの1つはメチル基、ノルマルプロピル基又はイソプロピル基が好ましい。さらに、R1~R5はすべてメチル基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るシクロペンタジエニル配位子を持つガリウム(I)の熱分解温度は十分に高く、低温で蒸気圧が十分に高く、反応性も高いので、低温ALDに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はGa(C5(CH35)の熱重量測定結果を表す。
図2図2はGa(OiPr)3の熱重量測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の金属薄膜の原子層堆積(ALD)法は、下記一般式(1)で表される前駆体を用いることを特徴とする。
【化2】
【0014】
一般式(1)中、R1~R5は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素原子数1~4のアルキル基である。
前記一般式(1)において、R1~R5のうち4つが水素原子である場合、残りの1つは炭素原子数1~4のアルキル基が好ましく、R1~R5のうち4つがメチル基である場合、残りの1つはメチル基、ノルマルプロピル基又はイソプロピル基が好ましい。
【0015】
一般式(1)で表される前駆体は、具体的には、下記構造式で表されるη5-ペンタメチルシクロペンタジエニルガリウム(I)(以下「Cp*Ga」又は「Ga(C5(CH35)」ともいう。)であることが特に好ましい。
【化3】
【0016】
一般式(1)で表される前駆体は、種々の公知の方法により製造することができる。例えば、Cp*Gaは、P. Jutzi et al., ”A novel synthetic route to pentaalkylcyclopentadienylgallium (I)compounds”, Journal of Organometallic Chemistry 654 (2002) 176-179(以下「非特許文献3」という。)に記載の方法で合成することができる。具体的には、Ga粒子とI2とを2:1のモル比でトルエン中に入れ、50℃で12時間、超音波をかけて反応させる。得られた淡緑色のGaIの溶液中に、Ga成分と等量のCp*Kを添加して48時間攪拌すると、反応液が黄色に変化するとともに、淡灰色の沈殿が析出する。沈殿物をろ別し、トルエンを除去して黄色油状の生成物を回収する。黄色油状の生成物にはCp*Gaの他に、副生物である(ベンジル)ペンタメチルシクロペンタジエンが含まれるので、80℃(8Torr)で蒸留することにより、淡黄色液体のCp*Gaを収率52%で得る。Cp*Gaの1H-NMRスペクトルは、P. Jutzi et al., “Pentamethylcyclopentadienylgallium (Cp*Ga): Alternative Synthesis and Application as a Terminal and Bridging Ligand in the Chemistry of Chromium, Iron, Cobalt, and Nickel”,Organomeltallics, 1998, 17, 1305-1314(以下「非特許文献4」という。)に記載の1H-NMRスペクトル(500.1MHz(C66))のδ値1.92ppm(s,15H,Cp* メチル)とほぼ一致し、その構造が前記[化3]であることが確認される。
なお、Cp*Gaは、前記方法に限られることなく、種々の方法により合成することができる。
【0017】
また、一般式(1)で表される前駆体は、十分な揮発性と熱安定性とを有している。例えば、Cp*Gaでは、図1の熱重量測定の結果のように、約40℃で揮発し始めて、約190℃までにほぼ100%揮発する。一方、非特許文献4によると、このCp*Gaは約600℃まで分解しない。
【0018】
ALD法では、実用上、原料を基板上に吸着させる工程と、反応性ガスを供給して基板上の原料と反応させる工程で、基板温度(反応温度)は同一であり、その基板温度は、吸着した原料が熱分解する温度よりも低く、反応性ガスと十分に反応する程度に高くする必要がある。原料は、基板が設置された反応室に外部から気相で供給されるが、基板で凝縮させないため、原料が固体または液体の場合は、基板温度よりも低い温度で昇華または蒸発させなければならない。このようにALD用前駆体には、熱分解温度より十分に低い温度で、(1)基板に単層吸着すること、(2)必要な蒸気圧(または昇華圧)を持つこと、(3)吸着した原料が反応性ガスとよく反応して膜の一部を形成しうること、が要求される。
【0019】
ALD成膜における原料の基板への吸着は、物理吸着でも化学吸着でもよく、膜の一部または全部となる元素を含まない部分の脱離反応を伴う吸着でもよいが、本発明に係る前駆体である、一価のガリウムとシクロペンタジエニル配位子との化合物は、熱分解する温度よりも低く、蒸発する温度より高い温度で単層吸着する。すなわち、この化合物はシクロペンタジエニル配位子が一つだけ結合した、ハーフサンドイッチ構造をしており、ガリウム原子部分が基板に吸着しやすく、吸着後の表面に露出している基はシクロペンタジエニル配位子の部分のみになるので、気相から次の層の吸着が起こりにくいため、単層吸着するのである。
【0020】
また、本発明の前駆体は、室温(23℃)において液体であり、低温でも十分な蒸気圧を持つ。
さらに、本発明の前駆体は、一価のガリウムとシクロペンタジエニル配位子との化合物であり、ガリウムは三価やゼロ価(金属)になりやすいので、熱分解温度よりも低い温度領域での反応性が高く、ALDに好適である。本発明の前駆体に対する反応性ガスは限定されないが、酸化膜を形成させたいときには水が好ましく使用できる。プラズマによって活性化した酸素や、オゾンを反応性ガスとして使用することもできるが、本発明の原料は反応性が高いので、低温においてもラジカル種を含まない反応性ガスでもALD成膜が可能である。
【実施例
【0021】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0022】
[実施例1]
非特許文献3に記載の方法と同様の手順でGa(C5(CH35)を合成した。Ga(C5(CH35)は光と熱に極めて敏感と予想されたため、合成は不活性ガス中で行った。
1H-NMRスペクトル(400MHz(C66))において、Cp*のメチル基に相当する1.928ppm(s,15H,Cp* メチル)のピークが、非特許文献4に記載の値(1.92ppm(s,15H,Cp* メチル)500.1MHz(C66))とほぼ一致することで、目的としているGa(C5(CH35)が合成できたことを確認した。
このGa(C5(CH35)について、Arフロー中で熱重量測定を行ったところ、図1のようになり、約40℃から蒸発し始めて、約190℃までに、熱分解することなく、ほぼ100%蒸発した。
また、このGa(C5(CH35)を大気に曝すと、白煙をともない発熱した。また、NMR測定のため、NMR用の重ベンゼンに溶解させた際に、この溶媒中のわずかな水分とも激しく反応して白煙を発した。このように、Ga(C5(CH35)は、室温でも水と激しく反応することが確認された。前記したようにGa(C5(CH35)は、約190℃まで熱的に安定なので、約140℃程度以下の低い温度でも好適にALDに使用できることが確認された。
【0023】
[比較例1]
実施例1におけるGa(C5(CH35)の代わりに、非特許文献1に記載のGa(OiPr)3について、実施例1と同様に熱重量測定を行ったところ、図2のようになり、約250℃まで熱分解することなく、ほぼ100%蒸発したが、このGa(OiPr)3は常温で固体であり、融解した後に蒸発し始めるのは、約150℃と比較的高めの温度であった。非特許文献1に示されているようにALDに好適な温度領域は150~250℃であり、下限温度はGa(C5(CH35)よりも高い。
図1
図2