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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ガスケット
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/10 20060101AFI20220302BHJP
   F16J 15/12 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
F16J15/10 P
F16J15/12 F
F16J15/10 K
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017218962
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019090468
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2020-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 和宏
(72)【発明者】
【氏名】姫崎 仁
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 由紀子
(72)【発明者】
【氏名】福島 寛史
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/065857(WO,A1)
【文献】特開昭58-134213(JP,A)
【文献】特開2017-001310(JP,A)
【文献】特開2000-026785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00-15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる第1部材及び第2部材間に圧縮状態で介在されて、前記第1部材及び前記第2部材間を密封するガスケットであって、
金属製の基板と、前記基板の厚さ方向両面に接着剤層を介して接着されたコンパウンド層と、を備え、
前記コンパウンド層は、ゴム材又は樹脂材からなるバインダーと繊維材とを含有し、且つ、層内に前記繊維材間に形成される複数の空隙を有し、
前記コンパウンド層の前記空隙には、防錆性の油が含浸され
前記第1部材と前記第2部材との圧縮により前記空隙から前記油が滲み出し、
前記油は、前記第1部材と前記基板との間及び前記基板と前記第2部材との間に油膜として介在し、
前記第1部材、前記第2部材及び前記基板のいずれかが他の前記第1部材、前記第2部材及び前記基板と異なる金属材料からなることを特徴とするガスケット。
【請求項2】
請求項1に記載のガスケットにおいて、
前記油は、動粘度(25℃)が10000mm /sec以下のシリコーン油であり、前記コンパウンド層に対して、0.5~3重量%含有されていることを特徴とするガスケット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガスケットにおいて、
前記バインダーを構成するゴム材は、SBR又はNBRであることを特徴とするガスケット。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3に記載のガスケットにおいて、
前記第1部材及び前記第2部材は、内燃機関のオイルパン及びシリンダブロックであることを特徴とするガスケット。
【請求項5】
請求項1乃至請求項に記載のガスケットにおいて、
前記第1部材及び前記第2部材は、自動車の足回り部に配される配管であり、前記配管同士の継ぎ手部に適用されることを特徴とするガスケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケットに関し、例えば、内燃機関におけるオイルパンとシリンダブロックとの締結部に用いられるシールワッシャや、シリンダヘッドとシリンダヘッドカバーとの間に介在されるシリンダヘッドカバーガスケット、さらには、各種配管の継ぎ手部等をシールするガスケット等に関する。
【背景技術】
【0002】
前記のような広義のガスケットとしては、特許文献1、3に記載されたガスケットや、特許文献2に記載されたシール部材が提案されている。特許文献1には、基板1の両面に油膨潤タイプのゴム被膜がコーティングされ、そのゴム被膜に多数の油入りマイクロカプセルを含浸またはコーティングしたガスケットが記載されている。また、特許文献2には、プラスチック、ゴム等の弾性素材のみからなり、弾性素材内の気泡部分或いは網目構造部分に油が含浸されている弾性シール部材が記載されている。さらに、特許文献3には、基材繊維と、油潤滑性を有するゴム材と、無機充填材とを含有するコンパウンド層を金属板の表面にコーティングしたガスケット材が記載されている。
【0003】
特許文献1に記載されたガスケットは、締め付け手段による押圧力を受け、破られたマイクロカプセルから油がゴム被覆内に浸透してゴム被覆を膨潤させることにより、ガスケットの弾性変形能力を減退させないようにするものである。また、特許文献2に記載された弾性シール部材は、弾性素材内の気泡部分或いは網目構造部分の隙間に油を充填することにより気体の通過を抑えてシール性の向上を図ろうとするものである。さらに、特許文献3に記載されたガスケット材は、コンパウンド層が油に触れると膨潤するため、油シール部に用いればフランジ面へのなじみ性が良いことから、比較的低面圧でも優れたシール性を発揮させようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】実開平5-30633号公報
【文献】特開平8-209114号公報
【文献】特開平8-312787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、金属製の2つのシール対象部材間に前記のようなガスケットやシール部材を圧縮状態で介在させて当該シール対象部材間をシールする際、ガスケットと当該シール対象部材間に水分が滞留することがある。このように水分がシール対象部材間に滞留すると、金属製のシール対象部材が発錆し、シール性が低下することにもなる。
前記特許文献1~3に記載されたガスケットやシール部材は、いずれも、油の特性を利用してガスケットの性状を向上させるものと解される。しかし、これら特許文献には、水分が前記のような金属製の2つのシール対象部材に対して及ぼす悪影響(発錆等)を抑制させるために、油を関与させるという技術思想はない。
【0006】
本発明は、前記実情に鑑みなされたもので、金属材料からなるシール対象部材の発錆を抑制し、シール性を維持することができるガスケットを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガスケットは、金属材料からなる第1部材及び第2部材間に圧縮状態で介在されて、前記第1部材及び前記第2部材間を密封するガスケットであって、金属製の基板と、前記基板の厚さ方向両面に接着剤層を介して接着されたコンパウンド層と、を備え、前記コンパウンド層は、ゴム材又は樹脂材からなるバインダーと繊維材とを含有し、且つ、層内に前記繊維材間に形成される複数の空隙を有し、前記コンパウンド層の前記空隙には、防錆性の油が含浸され、前記第1部材と前記第2部材との圧縮により前記空隙から前記油が滲み出し、前記油は、前記第1部材と前記基板との間及び前記基板と前記第2部材との間に油膜として介在し、前記第1部材、前記第2部材及び前記基板のいずれかが他の前記第1部材、前記第2部材及び前記基板と異なる金属材料からなることを特徴とする。
【0008】
本発明のガスケットによれば、シール対象部材である第1部材及び第2部材間を密封する際、コンパウンド層は第1部材及び第2部材によって圧縮され、コンパウンド層の空隙に存在している防錆性の油が滲み出す。そして、油は、コンパウンド層と第1部材及び第2部材との間に油膜として介在するようになる。したがって、金属材料からなる第1部材及び第2部材とコンパウンド層との間に水分が滞留することを抑制し、第1部材及び第2部材の発錆による腐食の促進が抑えられる。
【0009】
本発明のガスケットにおいて、前記油は、動粘度(25℃)が10000mm /sec以下のシリコーン油であり、前記コンパウンド層に対して、0.5~3重量%含有されてもよい。
これによれば、シリコーン油は、鉱物油よりも粘度安定性に優れるため、適度な粘度のシリコーン油を選択することにより、滲み出したシリコーン油を、当該ガスケットの周辺に留まらせることができる。
また、油の動粘度(25℃)が10000mm2/sec以下であるから、コンパウンド層に油を含浸させ易い。
そして、コンパウンド層に対して、0.5~3重量%含有されていれば、第1部材及び第2部材に対して発錆を抑制する作用が適正に発揮される。因みに、油の含有量が0.5重量%未満であれば、第1部材及び第2部材に対して発錆を抑制する作用を充分に得ることができなくなる。また、油の含有量が3重量%を超えると、コンパウンド層の強度が低下する傾向となる。
【0010】
本発明のガスケットにおいて、前記バインダーを構成するゴム材は、SBR又はNBRであってもよい。
これによれば、SBR又はNBRは耐油性に優れるため、本発明のように油が含浸されるコンパウンド層に用いられるバインダーとして好適である。
【0011】
本発明のガスケットにおいて、前記第1部材及び前記第2部材は、内燃機関のオイルパン及びシリンダブロックであってもよい。
【0012】
本発明のガスケットにおいて、前記第1部材及び前記第2部材は、自動車の足回り部に配される配管であり、前記配管同士の継ぎ手部に適用されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のガスケットによれば、金属材料からなるシール対象部材の発錆を抑制し、シール性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係るガスケットが適用される内燃機関の一例を概略的に示す部分破断正面図である。
図2】本発明に係るガスケットの一実施形態を示す図であり、(a)は図1におけるX部の拡大図、(b)は(a)におけるX1部の拡大図、(c)は(b)におけるX2部の拡大図である。
図3】本発明に係るガスケットの他の実施形態を示す図であり、(a)は図1におけるY部の拡大図、(b)は(a)におけるY1部の拡大図、(c)は(b)におけるY2部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係るガスケットが適用される内燃機関の一例を概略的に示す。図1に示す内燃機関1は、下からオイルパン2、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びシリンダヘッドカバー(ロッカーカバー)5がこの順序で上下方向に積み重なって構成される。オイルパン2とシリンブロック3とは、その周辺部において複数のボルト6…によって締結一体とされる。また、シリンダブロック3とシリンダヘッド4とは、その周辺部においてシリンダヘッドガスケット7を介し複数のボルト8…によって締結一体とされる。さらに、シリンダヘッド4とシリンダヘッダカバー5とは、その周辺部においてシリンダヘッドカバーガスケット9を介し複数のボルト10…によって締結一体とされる。
【0016】
図2(a)(b)(c)は、本発明に係るガスケットの一実施形態であって、図1に示すオイルパン2とシリンダブロック3とのボルト6による締結部に用いるシールワッシャ11に具現化した例を示す。オイルパン2は、冷延鋼板等の金属材からなり、上向きに開口する箱型形状のオイルパン本体20と、オイルパン本体20における開口部の外周縁部に形成された外向きの鍔部21とを含む。鍔部21は、その周方向に沿って適宜間隔毎に形成された複数のボルト挿通孔21aを有している。シリンダブロック3は、アルミニウム等の鋳造体からなり、その下面の前記ボルト挿通孔21aに対応する部位に雌ねじ穴31が形成されている。ボルト6は、頭部61と雄ねじ部62とからなり、鉄等の金属材によって構成される。ボルト6は、雄ねじ部62を、後記するシールワッシャ11を介してボルト挿通孔21aに挿通し、シリンダブロック3の雌ねじ穴31にねじ込むことによって、オイルパン2とシリンダブロック3とを締結一体とする。
【0017】
本発明に係るガスケットの一実施形態としてのシールワッシャ11は、金属材料からなる第1部材及び第2部材間に圧縮状態で介在されて、前記第1部材及び前記第2部材間を密封するガスケットである。本実施形態では、第1部材はボルト6であり、第2部材はオイルパン2である。シールワッシャ11は、ボルト挿通用の透孔11aを有する環状体であり、金属製の基板110と、基板110の厚さ方向両面110a,110aに接着剤層111,111を介して接着されたコンパウンド層112,112とを備える。前記基板110は、オイルパン2とは異なった鉄等の金属材からなり、厚さが5μm~1000μmのものが用いられる。コンパウンド層112は、厚さが50μm~500μmであり、ゴム材又は樹脂材からなるバインダー112aと繊維材112bとを含有し、且つ、層内に複数の空隙112cを有する。本実施形態では、コンパウンド層112の厚さは、基板110の厚さより薄い。空隙112cは、コンパウンド層112の全体に存在しており、図2(b)(c)では個々に独立しているように図示されているが、実際は隣接する空隙112cと連通するものが複数存在している。そして、コンパウンド層112の前記空隙112cには、防錆性の油113が含浸されている。
【0018】
コンパウンド層112に含有されるバインダー112aを構成するゴム材としては、ニトリルゴム(NBR)、アクリルゴム(ACM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン-プロピレンゴム(EPM)、フッ素ゴム(FPM/FKM)、シリコーンゴム(VMQ)、クロロスルフォン化ポリエチレン(CSM)、エチレン酢ビゴム(EVA)、塩化ポリエチレン(CPE)、塩化ブチルゴム(CIR)、エビクロルヒドリンゴム(ECO)、ニトリルイソプレンゴム(NIR)、天然ゴム(NR)等を用いることができる。バインダー112aを構成するゴム材としては、好ましくは、NBR又はSBRが用いられる。本実施形態ではNBRが用いられている。また、バインダー112aを構成する樹脂材としては、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、硅素樹脂等を用いることができる。図例では、バインダー112aがゴム材から構成されていることを示している。
【0019】
さらに、コンパウンド層112に含有される繊維材112bとしては、石綿以外の圧縮性無機繊維または圧縮性有機繊維が用いられる。具体的には、石綿以外の無機繊維としては、ガラス繊維、セラミック繊維、岩綿、鉱滓綿、溶融石英繊維、化学処理高シリカ繊維、溶融硅酸アルミナ繊維、アルミナ連続繊維、安定化ジルコニア繊維、窒化ホウ素繊維、チタン酸アルカリ繊維、ウィスカー、ボロン繊維等を用いることができる。また、有機繊維としては、芳香族ポリアミド繊維、ポリアミド系繊維、ポリオレフィン系繊維、ポリエステル系繊維、ポリアクリロニトリル系繊維、ポリビニルアルコール系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ尿素系繊維、ポリウレタン系繊維、ポリフルオロカーボン系繊維、フェノール繊維、セルロース系繊維等を用いることができる。コンパウンド層112は、前記ゴム材又は樹脂材と繊維材とに加え、ゴム薬品や充填材等の添加剤を含有していてもよい。なお、図2(b)(c)では、都合上、コンパウンド層112におけるゴム材の割合は、繊維材112bの割合より多いように図示されているが、実際は、繊維材112bの割合の方がゴム材の割合より多い。
【0020】
接着剤層111に用いられる接着剤としては、フェノール系接着剤やエポキシ系接着剤等が用いられるが、本実施形態のように高熱部位に用いられるシールワッシャ11の場合には、耐熱性のフェノール系接着剤が好ましく用いられる。コンパウンド層112が有する複数の空隙112cは、バインダー112aを構成するゴム材の加硫反応時に、或いは、樹脂材の架橋反応時に、含まれる溶媒が揮発して繊維材112b間に形成されるものである。空隙112cに含浸される油113としては、シリコーン油が好ましく用いられる。また、油113の動粘度(25℃)は、10000mm/sec以下であることが好ましい。そして、油113は、コンパウンド層112に対して、0.5~3重量%含有されていることが好ましい。
【0021】
前記のように構成されるシールワッシャ11は、ボルト6によってオイルパン2とシリンダブロック3とが締結一体とされると、第1部材としてのボルト6の頭部61と第2部材としてのオイルパン2の鍔部21との間に圧縮された状態で介在する。これによって、ボルト6の頭部61とオイルパン2の鍔部21との間が密封され、ボルト挿通孔21aを通じた、オイルパン2内への外気の浸入やオイルパン2に貯留されたエンジンオイルの外部漏出が防止される。このとき、コンパウンド層112は、ボルト6における頭部61の座面61aとオイルパン2における鍔部21の座面21bとによって圧縮され、コンパウンド層112の空隙112cに存在している防錆性の油113が滲み出す。そして、油113は、コンパウンド層112と前記座面61a,21bとの間に油膜として介在するようになる。したがって、金属材料からなるボルト6の頭部61及びオイルパン2の鍔部21とコンパウンド層112との間に油膜が介在することにより、水分が油膜にはじかれ、水分が滞留することが抑制され、頭部61及び鍔部21の発錆による腐食の促進が抑えられる。これにより前記密封機能の低下が抑えられる。特に、本実施形態では、ボルト6とオイルパン2とが異なった金属材料からなるので、前記のように水分が滞留すると、ボルト6の頭部61とオイルパン2の鍔部21との間に局部電池が形成されて電解腐食を生じる懸念がある。しかし、ボルト6の頭部61及びオイルパン2の鍔部21と基板110との間には、油膜が形成されて水分が滞留することがないから、このような懸念が未然に防止される。
【0022】
そして、本実施形態では、コンパウンド層112を構成するバインダー112aが、耐油性に優れるNBRからなるから、油113が含浸されるコンパウンド層112が油113によって劣化する懸念がない。なお、コンパウンド層112を構成するバインダー112aとしてSBRを用いた場合も、耐油性に優れるから、NBRを用いた場合と同様に油113によって劣化する懸念がない。また、油113として、シリコーン油が用いられるから、シリコーン油が鉱物油よりも粘度安定性に優れるため、適度な粘度のシリコーン油を選択することにより、滲み出したシリコーン油を、当該シールワッシャ11の周辺に留まらせることができる。これによって、前記油膜の形成が安定的になされ、水分の滞留による頭部61及び鍔部21の発錆が抑えられ、腐食の促進がより確実に抑制される。さらに、油113の動粘度(25℃)が、10000mm/sec以下とされているから、コンパウンド層112に油113を容易に含浸させることができる。油113の動粘度(25℃)が、10000mm/secを超えると、油113がコンパウンド層112の空隙112cに浸入し難くなり、コンパウンド層112に油113が含浸し難くなる傾向となる。また、油113は、コンパウンド層112に対して、0.5~3重量%含有されているから、ボルト6の頭部61及びオイルパン2の鍔部21に対して発錆を抑制する作用が適正に発揮される。因みに、油113の含有量が0.5重量%未満であれば、ボルト6の頭部61及びオイルパン2の鍔部21に対して発錆を抑制する作用を充分に得ることができなくなる。また、油の含有量が3重量%を超えると、コンパウンド層112の強度が低下する傾向となる。加えて、油の含有量が3重量%を超えると、コンパウンド層112が圧縮された際に、油113の滲み出し量が過剰となり、シールワッシャ11の周辺部を汚染する恐れがある。
【0023】
図3(a)(b)(c)は、本発明に係るガスケットの他の実施形態を示す。当該ガスケットは、シリンダヘッド4とシリンダヘッドカバー(以下、ヘッドカバーと略称する)5との間に介在されるシリンダヘッドカバーガスケット(以下、ヘッドカバーガスケットと略称する)9に具現化したものである。ヘッドカバーガスケット9は、シリンダヘッド4とヘッドカバー5との間の互いの各種連通部(不図示)を除く相互の合体面間に圧縮された状態で介在するように形成される。シリンダヘッド4及びヘッドカバー5はアルミダイキャスト等の金属材からなる。ヘッドカバー5は、下向きに開口する蓋形の形状であり、蓋形本体部50と、蓋形本体部50における開口部の外周縁部に形成された外向きの鍔部51とを含む。鍔部51は、その周方向に沿って適宜間隔毎に形成された複数のボルト挿通孔51aを有している。シリンダヘッド4は、その周辺部における上面に、前記ボルト挿通孔51aに対応する部位に雌ねじ穴41が形成されている。ボルト10は、頭部101と雄ねじ部102とからなる。ボルト10は、雄ねじ部102を、金属製のワッシャ103を介してボルト挿通孔51aに挿通し、シリンダヘッド4の雌ねじ穴41にねじ込むことによって、ヘッドカバー5とシリンダヘッド4とを締結一体とする。
【0024】
本発明に係るガスケットの他の実施形態としてのヘッドカバーガスケット9は、金属材料からなる第1部材及び第2部材間に圧縮状態で介在されて、前記第1部材及び前記第2部材間を密封するガスケットである。本実施形態では、第1部材はヘッドカバー5であり、第2部材はシリンダヘッド4である。ヘッドカバーガスケット9は、金属製の基板90と、基板90の厚さ方向両面90a,90aに接着剤層91,91を介して接着されたコンパウンド層92,92とを備える。前記基板90は、シリンダヘッド4及びヘッドカバー5とは異なる鉄等の金属材からなる。コンパウンド層92は、ゴム材又は樹脂材からなるバインダー92aと繊維材92bとを含有し、且つ、層内に複数の空隙92cを有する。そして、コンパウンド層92の前記空隙92cには、防錆性の油93が含浸されている。
コンパウンド層92の構成は、図2に示す実施形態のコンパウンド層112と同様であり、また、接着剤層91及び油93の性状等は、同実施形態における接着剤層111及び油113の性状等と同様である。
【0025】
前記のように構成されるヘッドカバーガスケット9は、ボルト10によってシリンダヘッド4とヘッドカバー5とが締結一体とされると、第1部材としてのヘッドカバー5と第2部材としてのシリンダヘッド4との間に圧縮された状態で介在する。これによって、シリンダヘッド4とヘッドカバー5とのそれぞれの合体面4a,5aの間が密封され、シリンダヘッド4内の油や燃焼ガス等の外部漏出や、外気のシリンダヘッド4内への浸入が防止される。このとき、コンパウンド層92は、シリンダヘッド4の合体面4aとヘッドカバー5の合体面5aとによって圧縮され、コンパウンド層92の空隙92cに存在している防錆性の油93が滲み出す。そして、油93は、コンパウンド層92と前記合体面4a,5aとの間に油膜として介在するようになる。したがって、金属材料からなるヘッドカバー5及びシリンダヘッド4とコンパウンド層92との間に水分が滞留することが抑制され、ヘッドカバー5及びシリンダヘッド4の発錆による腐食の促進が抑えられる。これにより前記密封機能の低下が抑えられる。
コンパウンド層92の他の構成や、油93の性状等は、前記実施形態と同様であるから、その作用・効果等の説明は割愛する。
【0026】
なお、図3に示す実施形態において、金属製のワッシャ103に変えて、図2に示すようなシールワッシャ11を用いることも可能である。このように、シールワッシャ11をシリンダヘッド4とヘッドカバー5との締結部に用いることにより、ボルト10及びヘッドカバー5とシールワッシャ11とにおいて、図2に示す例と同様の作用・効果が得られる。また、本発明に係るガスケットに用いられる油113,93は、シリコーン油に限らず、ガスケットに適用するうえで支障がないのであれば鉱物等を用いてもよい。油113,93の動粘度(25℃)は、10000mm/sec以下に限らず、コンパウンド層112,92に含浸するのであれば、10000mm/secより大きくてもよい。また、コンパウンド層112,92に含浸される油113,93の量は、0.5~3重量%に限らず、発錆を抑制できるのであれば、0.5重量%より少なくてもよい。また、コンパウンド層112,92に所望の強度が保たれるのであれば、当該油113、93の量は、3重量%より多くてもよい。
【0027】
また、本発明に係るガスケットを、シリンダヘッドガスケット7(図1参照)に適用することも可能である。さらに、本発明に係るガスケットを、オイルパン2とシリンダブロック3との間に挟まれるオイルパンガスケット(不図示)に適用することも可能である。そして、オイルパン2が冷延鋼板から構成される一方、シリンダブロック3がオイルパン2とは異なるアルミニウム等の金属材から構成されていてもよい。この場合、シリンダブロック3とオイルパン2との間には、油膜が形成されて水分が滞留することがないから、オイルパン2とシリンダブロック3との間に局部電池が形成されて電解腐食を生じるような懸念が未然に防止される。
【0028】
さらにまた、本発明に係るガスケットを、自動車の他の足回り部分に適用することも可能である。特に、自動車の足回り部は、凍結防止材が撒かれる環境下に晒らされる場合に、凍結防止剤に含まれる塩化ナトリウムによる発錆が問題とされるが、本発明のガスケットを用いればこのような懸念を払しょくするのに効果的である。加えて、図1に示す実施形態において、第1部材と第2部材とが異なる金属材料で構成される例を述べたが、両者が同じ金属材料で構成されていてもよい。例えば、第2部材としてのオイルパン2がアルミニウムから構成されることによって、第1部材としてのシリンダブロック3と第2部材とが同じ金属材料で構成されていてもよい。
さらに、前記実施形態では、本発明に係るガスケットが内燃機関に適用された例について述べたが、他の産業機械における密封対象部位、或いは、各種配管の継ぎ手部等に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0029】
2 オイルパン(第2部材)
6 ボルト(第1部材)
4 シリンダヘッド(第2部材)
5 シリンダヘッドカバー(第1部材)
11 シールワッシャ(ガスケット)
9 シリンダヘッドガスケット(ガスケット)
110,90 基板
110a,90a 厚さ方向両面
111,91 接着剤層
112,92 コンパンド層
112a,92a バインダー
112b,92b 繊維材
112c,92c 空隙
113,93 油
図1
図2
図3