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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】有機EL素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/50 20060101AFI20220302BHJP
   C08L 65/00 20060101ALI20220302BHJP
   C08L 79/02 20060101ALI20220302BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20220302BHJP
   H01L 27/32 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
H05B33/22 B
C08L65/00
C08L79/02
G09F9/30 365
H01L27/32
H05B33/14 A
H05B33/22 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017245764
(22)【出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2019114620
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-10-26
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第66回高分子討論会(開催日:平成29年9月21日)高分子学会予稿集66巻2号(発行日:平成29年9月6日)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度よりの、国立研究法人科学技術振興機構の研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム COI拠点「フロンティア有機システムイノベーション拠点」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】大久 哲
(72)【発明者】
【氏名】夫 勇進
(72)【発明者】
【氏名】城戸 淳二
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 道法
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-187130(JP,A)
【文献】特開2015-120679(JP,A)
【文献】特開2011-049058(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0320304(US,A1)
【文献】特開2000-215984(JP,A)
【文献】特表2019-508836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/00-33/28
H01L 51/50-51/56
C08L 79/02
C08L 65/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンイミン誘導体である高分子1と、下記一般式(1)で表される高分子2とを含有する高分子混合薄膜を有する有機EL素子。
【化1】
(一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基を表し、X-は臭化物イオン(Br-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、酢酸イオン(CH3CO2 -)、メトキシ酢酸イオン(CH2OCH2CO2 -)、ビニル酢酸イオン(CH2=CHCH2CO2 -)、塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)、トリフルオロメタン硫酸イオン(CF3SO3 -)、硝酸イオン(NO3 -)、亜硝酸イオン(NO2 -)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド((CF3SO3 -2-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4 -)、又はヘキサフルオロリン酸イオン(PF6 -)、nは1~1000の整数を表す。)
【請求項2】
前記高分子混合薄膜中、高分子2の割合が50重量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
陽極と陰極との間に、陽極側からそれぞれ少なくとも一層の発光層、電子輸送層、及び電子注入層をこの順に有する有機EL素子であって、
該電子輸送層が酸化亜鉛薄膜であり、
該電子注入層が前記高分子混合薄膜であり、
該酸化亜鉛薄膜と該高分子混合薄膜とが隣接して配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子電子注入材料を含む有機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子の駆動電圧は電子注入層の膜厚に対し敏感である。たとえば、非特許文献1では、非常に電子注入性に優れた電子注入材料であるポリエチレンイミン(PEI)、エトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)が報告されている。これらの材料の超薄膜層(≦10nm)をITO陽極に隣接して配置することで、非常に大きな双極子を形成し、大きな仕事関数シフトを起こし、電子注入性が改善される。しかし、これらは脂肪族材料であるため、電荷輸送性には乏しく、膜厚が少しでも厚くなると電圧が大幅に上昇してしまう。特許文献1では、陰極と発光層との間に設けるバッファ層の材料として、PEIやPEIEを含む1~4級のアミンを有する材料に電子を輸送する第2材料及びこれらに化学ドーピングが可能な第3材料を混合した例が報告されている。これら混合材料により、電荷の輸送性を付与することができ、膜厚依存性を改善することができる。しかしながら、第2材料として不安定なホスフィンオキシドを使用する等、改善すべき点が残されている。特許文献2では、電子注入層又は電子輸送層の超薄膜材料として、電荷輸送性の共役系構造を主鎖に持つ分子の側鎖にPEIを連結した重合体が報告されている。電荷輸送性のユニットを持っているため、膜厚増大に伴う駆動電圧の上昇を抑制できるが、合成が難しい点が難点である。以上により、数十nmの厚膜であっても、良好な電子注入性と電子輸送性を兼ね備えた電子注入輸送材料の開発にはまだ大きな課題を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-167981号公報
【文献】特開2015-170641号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Zhou et al., Science 336, 327 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、有機EL素子の駆動電圧に対する膜厚依存性が少なく、大気安定なキャリア注入材料を含む有機EL素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の事項からなる。
本発明の有機EL素子は、ポリエチレンイミン誘導体である高分子1と、下記一般式(1)で表される高分子2と、を含有する高分子混合薄膜を有する。
【化1】
【0007】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基を表し、X-は臭化物イオン(Br-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、酢酸イオン(CH3CO2 -)、メトキシ酢酸イオン(CH2OCH2CO2 -)、ビニル酢酸イオン(CH2=CHCH2CO2 -)、フッ化物イオン(F-)、塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)、トリフルオロメタン硫酸イオン(CF3SO3 -)、硝酸イオン(NO3 -)、亜硝酸イオン(NO2 -)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミドイオン((CF3SO3 -2-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4 -)、又はヘキサフルオロリン酸イオン(PF6 -)を表し、nは1~1000の整数を表す。
【0008】
本発明の有機EL素子は、ポリエチレンイミン誘導体である高分子1と、下記一般式(2)又は(3)で表される高分子2とを含有する高分子混合薄膜を有する。
【化2】
【0009】
一般式(2)又は(3)中、nは1~1000の整数を表す。
前記高分子混合薄膜中の高分子2の割合は50重量%以下であることが好ましい。
前記有機EL素子は、陽極と陰極との間に、陽極側からそれぞれ少なくとも一層の発光層、電子輸送層、及び電子注入層をこの順に有し、該電子輸送層が酸化亜鉛薄膜であり、該電子注入層が前記高分子混合薄膜であり、該酸化亜鉛薄膜と該高分子混合薄膜とが隣接して配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る高分子混合薄膜は、ポリエチレンイミン誘導体である特定の高分子と、主鎖にフルオレン骨格及び側鎖にアンモニウム塩を有する高分子とを含有する薄膜であり、大気中で安定である。
【0011】
このような高分子混合薄膜を有機EL素子の電子注入層に用いることで、駆動電圧の膜厚依存性が少なく、大気中で安定な有機EL素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施例1~5及び比較例1、3の有機EL素子の電流密度-電圧特性及びこれを対数で表したグラフである。
図2図2は、参考例1の有機EL素子の駆動電圧に対するLiq:PVPh4Py混合膜の膜厚依存性を表すグラフである。
図3図3は、本発明の有機EL素子を模式的に示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の有機EL素子について詳細に説明する。
本発明の有機EL素子は、ポリエチレンイミン誘導体である高分子1と、主鎖にフルオレン骨格を有し、側鎖に4級アンモニウム塩構造を有し、下記一般式(1)で表される高分子2とを含有する高分子混合薄膜を有する。
前記高分子1は、ポリエチレンイミン誘導体である。前記ポリエチレンイミン誘導体としては、アルコールや水に可溶な高分子であれば制限されないが、たとえば、ポリエチレンイミン(PEI)、エトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)等が好ましい。
【0014】
【化3】
【0015】
上記構造式中、nは1以上、具体的には1~1000の整数を表す。
高分子1には、前記ポリエチレンイミン誘導体に代えて、アルコールや水に可溶な汎用ポリマーを使用することもできる。前記汎用ポリマーには、たとえば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール及びポリアリルアミンがある。
前記高分子2は、下記一般式(1)で表される。前記高分子2は主鎖にフルオレン骨格を有し、側鎖に4級アンモニウム塩構造を有する。すなわち、高分子2は、主鎖に共役骨格を持ち、側鎖にイオン部位を持つことが好ましい。
【0016】
【化4】
【0017】
一般式(1)中、R1及びR2はそれぞれ独立にアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素原子数1~8のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ヘキシル基、n-オクチル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基等が好ましい。これらのうち、n-オクチル基、1-メチルヘプチル基、1-エチルヘキシル基、1-プロピルペンチル基、等がより好ましく、n-オクチル基が特に好ましい。なお、これらのアルキル基は、本発明の効果を損ねない範囲内で、窒素や酸素等のヘテロ原子を1つ以上含んでもよい。
【0018】
-は、臭化物イオン(Br-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、酢酸イオン(CH3CO2 -)、メトキシ酢酸イオン(CH2OCH2CO2 -)、ビニル酢酸イオン(CH2=CHCH2CO2 -)、塩化物イオン(Cl-)、ヨウ化物イオン(I-)、トリフルオロメタン硫酸イオン(CF3SO3 -)、硝酸イオン(NO3 -)、亜硝酸イオン(NO2 -)、ビストリフルオロメタンスルホニルイミド((CF3SO3 -2-)、テトラフルオロホウ酸イオン(BF4 -)、又はヘキサフルオロリン酸イオン(PF6 -)である。これらのうち、臭化物イオン(Br-)、チオシアン酸イオン(SCN-)、酢酸イオン(CH3CO2 -)等が好ましく、臭化物イオン(Br-)がより好ましい。
【0019】
nは1以上、具体的には1~1000の整数を表す。
一般式(1)において、R1及びR2がいずれもn-オクチル基であり、X-がBr-である場合、高分子2の構造式は以下のとおりである。前記構造式を有する化合物は、たとえば、Lumtec社で市販されている。
【0020】
【化5】
【0021】
また、前記高分子2’は、下記一般式(2)又は(3)で表される。
【化6】
【0022】
一般式(2)又は(3)中、nは1以上の整数を表す。具体的には、nは1~1000の整数が好ましい。前記高分子2’には、たとえば、Lumtec社の市販品を用いてもよい。
なお、一般式(1)、(2)、(3)のnが1000を超えると、二種の高分子の相溶性が低下し、相分離を引き起こすことになる。
高分子2及び高分子2’はいずれか一方を使用してもよいし、併用してもよい。すなわち、前記高分子混合薄膜は、高分子1及び高分子2を含有するか、高分子1及び高分子2’を含有するか、高分子1、高分子2及び高分子2’を含有する。以下、高分子2及び高分子2’をまとめて「高分子2」とも記載する。
【0023】
本発明に係る高分子混合薄膜中、高分子2の割合は50重量%以上であることが好ましい。つまり、上記高分子混合薄膜中に、高分子1及び高分子2は、99~50:1~50の重量比で含まれることが好ましい。
【0024】
上記高分子混合薄膜は、高分子1及び高分子2をそれぞれ、メタノール等のアルコール溶媒に溶解させた後、混合し、塗布による成膜により形成することができる。前記塗布には種々の方法があるが、回転遠心力により容易に膜厚を調整できるとの観点から、スピンコートが好適である。
【0025】
上記高分子混合薄膜の膜厚は、通常5~40nm、好ましくは20~30nmである。上記高分子混合薄膜の膜厚が前記範囲内にあると、有機EL素子の駆動電圧の膜厚依存性が効果的に抑制される。上記高分子混合薄膜の膜厚が前記範囲を超えても下回っても、高電圧となる。
【0026】
次に、図3を参照しながら、電子注入層7に前記高分子混合薄膜を用いた有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、陽極2と陰極8との間に、陽極2側からそれぞれ少なくとも一層の発光層5、電子輸送層6、及び電子注入層7をこの順に有する。すなわち、支持基板1上に、陽極2、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、及び陰極8がこの順に積層されて構成される。これらの層に加えて、必要に応じて所定の層が設けられる。図3は、支持基板1、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7及び陰極8がこの順に積層される有機EL素子の例である。
【0027】
有機EL素子は、上記した各構成要素を順次積層することによって形成される。
有機EL素子は、たとえば、塗布成膜によって各層を形成する。具体的には、表面に予め陽極2が形成された支持基板1を用意し、該陽極2上に正孔注入材料及び正孔輸送材料を含むインクをそれぞれ塗布成膜し、正孔注入層3及び正孔輸送層4をこの順に形成する。次に、発光層5となる材料を含むインクを正孔輸送層4上に塗布成膜し、発光層5を形成した後、電子輸送材料及び電子注入材料を含むインクを発光層5上にそれぞれ塗布成膜し、電子輸送層6及び電子注入層7を形成する。最後に、陰極材料を含むインクを電子注入層7上に塗布成膜して陰極8を形成し、有機EL素子を形成する。
【0028】
塗布成膜には、たとえば、バーコート法、キャピラリーコート法、スリットコート法、インクジェット法、スプレーコート法、ノズルコート法、及び印刷法等が用いられる。各層の形成には、すべて同じ塗布法を用いてもよいし、インクの種類に応じて適宜最適な塗布法を個別に用いてもよい。
なお、陽極2は、上記した溶液塗布法の他に、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、及びメッキ法等によって形成してもよい。陰極8は、陰極材料を含むインクを塗布成膜するか、又は陰極8となる導電性薄膜をラミネート又は転写することによって形成される。
【0029】
上記した有機EL素子の製造工程は、大気中で行うことができ、たとえば、クリーンルームにおいて行うことができる。なお、必要に応じて、不活性ガス雰囲気下において上記製造工程を行ってもよい。
また、上記有機EL素子は、枚葉方式によって各層を形成する以外に、たとえば、ロール・ツー・ロール法によって形成してもよい。
【0030】
次に、有機EL素子の層構成及び各層の構成材料について説明する。
上記のとおり、有機EL素子は、支持基板1上に、陽極2、発光層5、電子輸送層6、電子注入層7、及び陰極8がこの順に積層されて構成される。これらの層は、本発明の効果を損なわない範囲内で無機物や、有機物と無機物とを含む層、等を含んでもよい。有機物は、低分子化合物でも高分子化合物でもよく、また低分子化合物と高分子化合物との混合物でもよいが、高分子化合物を含むことが好ましい。
【0031】
以下に本発明の有機EL素子の層構成の例を示す。
(i)支持基板1/陽極2/発光層5/電子輸送層6/電子注入層7/陰極8
(ii)支持基板1/陽極2/正孔注入層3/正孔輸送層4/発光層5/電子輸送層6/電子注入層7/陰極8
【0032】
<支持基板1>
支持基板1には、ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、光透過性を示すものが用いられ、トップエミッション型の有機EL素子の場合、光透過性又は不透光性のものが用いられる。
支持基板1には、具体的には、ガラス板、金属板、プラスチック、高分子フィルム、及びシリコン板、並びにこれらを積層したもの等が用いられる。
【0033】
<陽極2>
ボトムエミッション型の有機EL素子の場合、陽極2には光透過性を示す電極が用いられ、たとえば、電気伝導度の高い金属酸化物、金属硫化物及び金属等の薄膜が挙げられ、具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、インジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、金、白金、銀、及び銅等からなる薄膜が用いられる。また、ポリアニリン若しくはその誘導体、又はポリチオフェン若しくはその誘導体等の有機の透明導電膜を陽極2として用いてもよい。
トップエミッション型の有機EL素子の場合、陽極2には、光を反射する材料を用いてもよい。このような材料としては、仕事関数3.0eV以上の金属、金属酸化物、金属硫化物が好ましい。
陽極2の膜厚は、通常20nm~1μmであり、好ましくは50nm~500nmである。
【0034】
<正孔注入層3>
正孔注入層3には、正孔注入材料として、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化ルテニウム及び酸化アルミニウム等の酸化物、ヘテロポリ酸(PMA)、フェニルアミン系、スターバースト型アミン系、フタロシアニン系、アモルファスカーボン、ポリアニリン、並びにポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT:PSS)等のポリチオフェン誘導体等を用いてもよい。正孔注入層3は、これらの正孔注入材料をたとえば、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、テトラヒドロフラン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセルソルブアセテート、及び水等に溶解させて成膜する。
正孔注入層3の膜厚は、通常1nm~1μmであり、好ましくは5nm~200nmである。
【0035】
<正孔輸送層4>
正孔輸送層4は、正孔注入層3及び発光層5の間のインターレイヤー(interlayer;IL)層であり、たとえば、塗布型の有機EL素子の場合、PEDOT:PSSの上にこのインターレイヤー層を形成すると、寿命が向上する。正孔輸送材料には、たとえば、ポリ(9,9-ジオクチルフルオレン-アルト-N-(4-ブチルフェニル)ジフェニルアミン)(TFB)等がある。
正孔輸送層4の膜厚は、通常1nm~1μmであり、好ましくは10nm~20nmである。
【0036】
<発光層5>
発光層5は、通常、蛍光やりん光を発光する有機物、又は該有機物とドーパントとから構成される。なお、有機物は、上記のとおり、低分子化合物でも高分子化合物でもよいが、標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が103~108程度の高分子化合物を含むことが好ましい。
発光材料には、種々のものが用いられる。青色に発光する材料には、たとえば、オキサジアゾール誘導体、ポリ[(9,9-ジ-n-オクチルフルオレニル-2,7-ジイル)-アルト-(ベンゾ[2,1,3]チアジアゾール-4,8-ジイル)](F8BT)等のチアジアゾール誘導体、及びそれらの重合体、ジスチリルアリーレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、並びにポリフルオレン誘導体が挙げられる。緑色に発光する材料には、たとえば、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、並びにポリフルオレン誘導体が挙げられる。赤色に発光する材料には、たとえば、クマリン誘導体、チオフェン環化合物、及びそれらの重合体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、並びにポリフルオレン誘導体が挙げられる。
【0037】
<電子輸送層6>
電子輸送層6は、陰極から電子を効率良く発光層に輸送するために陰極8と発光層5の間に電子輸送層6が設けられる。電子輸送材料には、たとえば、酸化亜鉛(ZnO)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-3-イル)フェニル)-2-メチルピリミジン(B3PymPm)、4,6-ビス(3,5-ジ(ピリジン-4-イル)フェニル)-2-フェニルピリミジン(B4PyPPm)、2-(4-ビフェニリル)-5-(p-t-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(tBu-PBD)、1,3-ビス[5-(4-t-ブチルフェニル)-2-[1,3,4]オキサジアゾリル]ベンゼン(OXD-7)、3-(ビフェニル-4-イル)-5-(4-t-ブチルフェニル)-4-フェニル-4H-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、バソクプロイン(BCP)、1,4-ビス(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼン(DPB)、1,3,5-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBi)等が挙げられる。
電子輸送層6の膜厚は、通常1nm~1μmであり、好ましくは10nm~50nmである。
【0038】
<電子注入層7>
電子注入層7には、本発明に係る高分子混合薄膜が好適に用いられる。この高分子混合薄膜は、上記のとおり、高分子1及び高分子2を含有する溶液を用いて成膜する。
上記高分子混合薄膜以外に、電子注入材料として、炭酸セシウム(Cs2CO3);8-キノリノラトナトリウム(Naq)、8-ヒドロキシキノリノラートリチウム(Liq)、リチウム2-(2-ピリジル)フェノラート(Lipp)、及びリチウム2-(2’,2’’-ビピリジン-6’-イル)フェノラート(Libpp)等のリチウムフェノラート塩等を用いてもよい。これらのうち、Liqは大気中で安定であり、大気下に曝露できないCs2CO3よりも低電圧化及び高効率化できることから、塗布型電子注入材料として有用である。また、これらの材料は、通常、有機ポリマーバインダーに添加して用いられる。
本発明に係る高分子混合薄膜は、大気中で安定に存在し、かつ、電荷の注入性や輸送性に優れるため、該高分子混合薄膜を用いることで、高輝度で発光する素子が得られる。
電子注入層7の膜厚は、駆動電圧と発光効率とが適度な値となり、かつ、ピンホールが発生しない厚さとすればよく、通常0.5nm~1μm、好ましくは20nm~30nmである。
【0039】
<陰極8>
陰極8には、一般的にAlの金属電極が用いられる。その他、たとえば、PEDOT:PSS等の導電性樹脂からなる薄膜、並びに樹脂及び導電性フィラーからなる薄膜等が用いられる。
樹脂及び導電性フィラーからなる薄膜の場合、樹脂には導電性樹脂が使用でき、導電性フィラーには、金属微粒子や導電性ワイヤー等が使用できる。導電性フィラーには、Au、Ag、Al、Cu、及びC等が使用できる。
【実施例
【0040】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
【0041】
〔有機EL素子の作製〕
下記の構造を有する有機EL素子を作製した。
ITO(陽極)/PMA(10nm厚;正孔注入層)/TFB(20nm厚;正孔輸送層)/F8BT(80nm厚;発光層)/ZnOナノ粒子(10nm厚/電子輸送層)/電子注入層/Al(陰極)
電子注入層は、実施例1~5及び比較例1~3に記載するように形成した。
【0042】
[実施例1]
高分子1であるエトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)と、高分子2である下記構造式で表される化合物(以下「PFN-Br」という。)を重量比1:1で、3.0mg/mLとなるように、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールに溶解させた溶液を、電子輸送層である酸化亜鉛膜上に12nmの膜厚となるようにスピンコート塗布し、電子注入層を形成した。
【0043】
【化7】
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
実施例1において、スピンコート塗布を16nmの膜厚となるように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、電子注入層を形成した。
【0045】
[実施例3]
実施例1において、スピンコート塗布を20nmの膜厚となるように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0046】
[実施例4]
実施例1において、スピンコート塗布を30nmの膜厚となるように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0047】
[実施例5]
実施例1において、スピンコート塗布を40nmの膜厚となるように行ったこと以外は、実施例1と同様にして、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0048】
[比較例1]
実施例3において、高分子2であるPFN-Brを使用しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0049】
[比較例2]
比較例1において、スピンコート塗布の膜厚を20nmから30nmに変更したこと以外は、比較例1と同様にして、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を表1に示す。
【0050】
[比較例3]
実施例3において、高分子1であるエトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)を使用しなかったこと以外は、実施例3と同様にして、電子注入層を形成した。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例1~5及び比較例1、3の有機EL素子の電流密度-電圧特性及びこれを対数で表したグラフを図1に示す。図1から、単体のPEIE(比較例1)、単体のPFN-Br(比較例3)よりも、膜厚12~30nmのPEIE:50wt%PFN-Br(実施例1~4)の方が低電圧であることがわかる。これはPEIEとPFN-Brとの混合により、仕事関数の改善効果が出たためと考えられる。膜厚20nmのPEIE:50wt%PFN-Br(実施例3)を用いた場合が最も低電圧であったが、膜厚依存性は非常に低かった。表1にも、PEIE単体に比べて、PEIEとPFN-Brとの混合物では、大幅に電圧の膜厚依存性が抑制されることが示されている。
【0053】
〔電極の仕事関数のシフト〕
高分子1であるエトキシ化ポリエチレンイミン(PEIE)と、高分子2であるPFN-Brとを表2に示す重量比で、5.0mg/mLとなるように、2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールに溶解させた溶液を、ITO上に形成したZnOナノ粒子膜上に20nmの膜厚となるようにスピンコート塗布し、仕事関数を測定した。
PEIE:PFN-Br混合膜の代わりに、PFN-Br単体及びPEIE単体を用いた同濃度の溶液の仕事関数も測定した。
結果を表2に示す。
【0054】
【表2】
PEIE及びPFN-Brをそれぞれ単体で使用した場合よりも、PEIEに対して、PFN-Brを適量混合した場合に、仕事関数が低下した。仕事関数低下のメカニズムは定かではないが、PEIEやPFN-Br単体によるZnOナノ粒子上の双極子形成の数よりも、混合物による双極子形成の数の方が大きかったために、より仕事関数のシフトが大きくなったものと考えられる。
【0055】
[参考例1]
LiqとPVPh4Pyを10:90、30:70、50:50、70:30、100:0の重量比で混合したLiq:PVPh4Py混合膜を、電子輸送層である酸化亜鉛膜上に2nm、8nm、16nmの膜厚となるように形成し、電子注入層を形成した。
得られた有機EL素子の1000cd/m2の輝度のときの駆動電圧を図2に示す。
また、参考例1の有機EL素子は、実施例1~5の有機EL素子に比べて、大幅に駆動電圧及び膜厚依存性が高かった。
【化8】
【符号の説明】
【0056】
1 支持基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 電子注入層
8 陰極
図1
図2
図3