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  • 特許-ミルクを処理する方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ミルクを処理する方法
(51)【国際特許分類】
   A23C 3/00 20060101AFI20220302BHJP
   A23C 9/00 20060101ALI20220302BHJP
   A23C 7/00 20060101ALI20220302BHJP
   A23L 3/015 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A23C3/00
A23C9/00
A23C7/00
A23L3/015
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2017568367
(86)(22)【出願日】2016-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-07-19
(86)【国際出願番号】 AU2016050579
(87)【国際公開番号】W WO2017004668
(87)【国際公開日】2017-01-12
【審査請求日】2019-06-25
(31)【優先権主張番号】2015902620
(32)【優先日】2015-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AU
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】517456211
【氏名又は名称】ナチュロ ピーティーワイ リミテッド
【住所又は居所原語表記】43 LINK CRES,Coolum Beach,Queensland 4573 Australia
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ハスティングス ジェフリー ジョン
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103300143(CN,A)
【文献】特表2008-533002(JP,A)
【文献】特開平03-258260(JP,A)
【文献】特開平05-227925(JP,A)
【文献】米国特許第02072417(US,A)
【文献】山本 和貴、「高圧力を活用した食品加工 その2 動向」、日本調理科学会誌 、2010, vol. 43, no. 1, pp. 44-49
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C 1/00-23/00
A23L 3/00-3/3598
FSTA/CAplus(STN)
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルクを処理する方法であって、
前記ミルクを60℃未満の温度に維持する均質化工程と、
前記ミルクを350MPaから1500Mpaの高圧にさらす高圧処理工程と、
を含み、
前記高圧処理工程の前記高圧は、前記高圧処理工程の間に、60℃の限界温度を超える前記ミルクの温度の上昇を引き起こさず、
前記高圧処理工程の高圧が、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が少なくとも45℃まで上昇するように前記ミルクの温度上昇を引き起こし、
前記高圧処理工程は、処理されるミルクの病原体の負荷の大きさに応じた処理時間だけ行う、方法。
【請求項2】
前記高圧処理工程の高圧が、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が50℃~55℃に上昇するように前記ミルクの温度上昇を引き起こす、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ミルクを、前記高圧処理工程の間に、500MPa~750MPaの高圧にさらす、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ミルクを600MPaの高圧にさらす、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ミルクを、前記高圧処理工程の間に、前記ミルク中の病原体レベルが、ヒトが摂取するのに安全なレベルに低下するような時間の間高圧にさらす、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記高圧処理工程において、前記ミルクを3分以下または4分以下の時間にわたって高圧にさらす、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記高圧処理工程の前に、前記ミルクを初期温度に冷却する工程をさらに含み、前記初期温度は、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が60℃を超えないように選択する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記初期温度を、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が50℃~55℃の範囲に上昇するように選択する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記初期温度が33℃~37℃である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記高圧処理工程を、前記ミルクを密封容器にパッケージングし、前記密封容器を流体に浸漬することによって行い、その後前記流体を加圧し、それにより前記ミルクを前記高圧にさらす、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記高圧処理工程を、前記ミルクを密封容器にパッケージングし、前記密封容器を流体に浸漬することによって行い、その後前記流体を加圧し、それにより前記ミルクを前記高圧にさらし、
加圧前の前記流体の温度が、前記初期温度と同じ温度である、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ミルクにUV処理および/またはオゾン処理および/または遠心除菌を施す工程をさらに含む、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記方法を、ウシ、ヒツジ、ヤギ、またはスイギュウのいずれかの動物から得られたミルクを処理するために使用する、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記高圧処理工程の後に、前記ミルクを4℃未満の温度に冷却する工程をさらに含む、請求項1から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ミルクを特定の脂肪含有量に標準化する工程をさらに含む、請求項1から14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法を、動物からミルクを得てから72時間以内に完了するか、または動物からミルクを得てから48時間以内に完了する、請求項1から15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
ミルクを処理する方法であって、
(a)動物からミルクを得て、0℃~4℃の温度で前記ミルクを貯蔵する工程と、
(b)前記ミルクを浄化する工程と、
(c)前記ミルクを50℃~55℃の温度で均質化する工程と、
(d)前記ミルクを密封容器にパッケージングする工程と、
(e)前記ミルクを初期温度に冷却する工程と、
(f)均質化されたミルクを高圧処理する工程であって、パッケージングされたミルクを、500MPaと1500MPaの間の高圧にさらされた流体に浸漬する工程と、
(g)高圧処理工程の後、パッケージングされたミルクを4℃未満の温度に冷却する工程とを含み、
前記初期温度は、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が50℃~55℃に上昇するように選択
前記高圧処理工程は、処理されるミルクの病原体の負荷の大きさに応じた処理時間だけ行う、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、ミルクを処理する方法および当該方法によって処理されたミルク製品に関する。
【背景技術】
【0002】
生乳には、通常、ヒトが摂取するのに安全ではない可能性がある微生物/病原体が含まれている。ヒトの摂取のために安全な病原性レベルを有するミルクを製造するための生乳を処理するプロセスが知られている。低温殺菌と呼ばれるこれらのプロセスには、ミルクを高い温度にさらすことが含まれる。
【0003】
最も一般的な低温殺菌プロセスには、ミルクを約72.5℃の温度に約15秒間加熱し、約14日間の消費期限でヒトが摂取できる安全な病原性レベルを有するミルクを製造することが含まれる。このプロセスによって製造されたミルクは、単に低温殺菌ミルク、フレッシュミルクまたはフレッシュ殺菌ミルクと呼ばれることが多い。
【0004】
ミルクの超高温処理(UHT)処理には、約4秒間にわたって135℃を超える温度でミルクを殺菌して、比較的安定した賞味期限を有するUHTミルクと呼ばれるミルクを製造することが含まれる。約121℃の温度でミルクを殺菌して、約21~31日間の消費期限を有する延長消費期限ミルク(ESL)と呼ばれるミルクが製造される。
【0005】
ミルクを低温殺菌するのに必要な温度のために処理熱が増加するにつれて、ミルクのタンパク質および酵素の著しい変性とともに、ミルクのいくつかの官能特性の変化がもたらされる。その結果、低温殺菌プロセスによってミルクの栄養品質が低下し、処理温度が上昇するにつれて分解の程度が増大する。したがって、ESLまたはUHTミルクよりも栄養品質が高いが消費期限がより短い低温殺菌ミルクの場合には、栄養価と賞味期限との間のトレードオフが生じる。低温殺菌されたミルクの消費期限が短いことにより、特定の市場、特に十分な酪農産業のない地域にミルクの消費者がいる市場では、その輸送および販売が困難になる。これらのタイプの市場では、栄養的に劣っているが賞味期限の長いESLまたはUHTミルクのみが提供されることが多い。
【0006】
したがって、重要なタンパク質および酵素が保持され消費期限が延長された高い栄養価を有するミルクを製造する必要がある。
【0007】
尚、本明細書中でのあらゆる先行技術文献(またはそれから派生した情報)またはあらゆる公知の事項についての言及は、その先行技術文献(またはそれから派生した情報)または公知の事項が、本明細書が関わるのと同じ努力傾注分野において周知の一般的知識の一部を形成することを了承、承認することではなく、またはいかなる示唆でもなく、そのようなものと解釈されるべきではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、改善された特徴および特性を有する方法および製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の態様によれば、本発明は、ミルクを約60℃未満の温度に維持する均質化工程と、ミルクを約350MPa超の高圧にさらす高圧処理工程とを含み、前記高圧処理工程の前記高圧は、前記高圧処理工程の間に、約60℃の限界温度を超える前記ミルクの温度の上昇を引き起こさない、ミルクを処理する方法を提供する。
【0010】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧処理工程の高圧が、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が少なくとも約45℃まで上昇するように前記ミルクの温度上昇を引き起こす方法を提供する。
【0011】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧方法工程の高圧が、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が約50℃~約55℃に上昇するように前記ミルクの温度上昇を引き起こす方法を提供する。
【0012】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクを約500MPa~約750MPaの高圧にさらす方法を提供する。
【0013】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記ミルクを約600MPaの高圧にさらす方法を提供する。
【0014】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記ミルクを、ミルク中の病原体レベルがヒトの摂取のために実質的に安全なレベルに低下するような時間にわたって前記高圧処理工程における高圧にさらす方法を提供する。
【0015】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記ミルクを約3分以下または約4分以下の時間にわたって前記高圧処理工程における高圧にさらす方法を提供する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧処理工程の前に、前記ミルクを初期温度に冷却する工程をさらに含み、前記初期温度を、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が60℃を超えないように選択する方法を提供する。
【0017】
別の態様によれば、本発明は、前述の態様による方法において、前記初期温度を、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が約50℃~約55℃の範囲に上昇するように選択する方法を提供する。
【0018】
別の態様によれば、本発明は、前述の態様による方法において、前記初期温度が約33℃~約37℃である方法を提供する。
【0019】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧処理工程を、前記ミルクを密封容器にパッケージングし、前記密封容器を流体に浸漬することによって行い、前記流体を引き続き加圧し、それにより前記ミルクを前記高圧にさらす方法を提供する。
【0020】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、加圧前の流体の温度が前記初期温度と概ね同じ温度である方法を提供する。
【0021】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記ミルクにUV処理および/またはオゾン処理および/または遠心除菌を施す工程をさらに含む方法を提供する。
【0022】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記方法を、ウシ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウまたはカーディナルのいずれかの動物から得られたミルクを処理するために使用する方法を提供する。
【0023】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記高圧処理工程の後に、前記ミルクを約4℃未満の温度に冷却する工程をさらに含む方法を提供する。
【0024】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記ミルクを特定の脂肪含有量に標準化する工程をさらに含む方法を提供する。
【0025】
別の態様によれば、本発明は、第1の態様による方法において、前記方法を、動物からミルクを得てから約72時間以内に完了するか、または動物からミルクを得てから約48時間以内に完了する方法を提供する。
【0026】
第2の態様によれば、本発明は、ミルクを処理する方法であって、(a)動物からミルクを得て、約0℃~約4℃の温度で前記ミルクを貯蔵する工程と、(b)前記ミルクを浄化する工程と、(c)前記ミルクを約50℃~約55℃の温度で均質化する工程と、(d)前記ミルクを密封容器にパッケージングする工程と、(e)前記ミルクを初期温度に冷却する工程と、(f)均質化されたミルクを高圧処理する工程であって、パッケージングされたミルクを約500MPaよりも高圧にさらされた流体に浸漬する該工程と、(g)高圧処理工程の後、パッケージングされたミルクを約4℃未満の温度に冷却する工程とを含み、前記初期温度は、前記高圧処理工程の間に、前記ミルクの温度が約50℃~約55℃に上昇するように選択する方法を提供する。
【0027】
第3の態様によれば、本発明は、前述の態様のいずれか1つによって製造されたミルクを提供する。
【0028】
別の態様によれば、本発明は、第3の態様によるミルクにおいて、前記ミルクが約60~約90日間の保存可能期間を有するミルクを提供する。
【0029】
ある態様によれば、本発明は、ミルクを処理する方法において、前記方法が、以下の工程:均質化工程と、前記ミルクを高い圧力にさらす高圧処理工程とを含む方法を提供する。
【発明の効果】
【0030】
望ましい効果として、上記の態様の方法は、病原体レベルの低いミルクを製造するとともに、従来の方法によって製造されたミルクと比較して改善された栄養価、官能特性および保存可能期間をミルクに与えることができる。
【0031】
図面を参照して説明される以下の実施形態の例は、少なくとも一つの好ましい実施形態であるがこの実施形態に限定されるものではないことは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(好ましい実施形態)
例示する実施形態の特徴を示すために組み込まれた図面において、同様の参照符号は、図面全体を通して同様の部分を特定するために使用される。
【0034】
図1を参照すると、本発明のある実施形態に従ってミルクを処理する方法のフローチャートが示されている。この方法は、ミルクから細菌および他の病原体を除去するために、低温殺菌の代わりに高圧を使用する。ミルクを処理するために高圧を使用することにより、当該方法を典型的な低温殺菌プロセスよりも低い温度で行うことが可能になり、これによりミルクの高温処理に伴う特定のタンパク質および酵素の分解を回避することができる。本発明の方法はまた、低温殺菌されたミルクよりも安定した保存可能期間を有するミルクを製造することができる。本発明の方法はまた、ミルクの官能変化を回避することができ、さもなければUHTミルクを製造するために使用される低温殺菌、特に高温低温殺菌に基づき官能変化が起こり得る。図1の方法は、ミルクを均質化する工程1と、ミルクを初期負荷温度に冷却する工程2と、ミルクを密封容器に移送する工程3と、密封容器内のミルクを高圧処理工程に供する工程4と、ミルクを冷却する工程5とを含む。しかし、本明細書に記載のミルクを処理する方法には、ある一定の任意の工程を含めることもできる。
【0035】
本例の実施形態では、生乳は、典型的には、農場で動物を搾乳することによって得られ、搾乳後にできる限り短時間で約0℃~約4℃に温度を下げることができる。次いで、冷却されたミルクは、処理のために約0℃~約4℃の温度でミルクを貯蔵することができる大桶に輸送することができる。
【0036】
次いで、貯蔵されたミルクは浄化器を通過させて、一定の異物を除去して、その後ミルクが均質化されるときに起こり得る沈降作用を最小限にさせることができる。
【0037】
次いで、ミルクは予熱工程を経ることができ、ここで、ミルクは、約45℃~約60℃の範囲に、好ましくは約50℃~55℃の範囲に予熱されることができる。ミルクが予熱されたら、次いで、ミルクは均質化工程を経ることができ、ここで、ミルクは、ミルクの温度を約45℃~60℃、好ましくは約50℃~55℃の範囲に維持したまま均質化工程1を経ることができる。約45℃以下の温度でミルクを均質化すると、ミルクの早期腐敗、白血球や上皮細胞の沈降などの有害な影響を引き起こす可能性がある。ミルクが約60℃または約58℃を超える温度に加熱されると、ホスファターゼ酵素ならびにカゼインおよびホエータンパク質の変性が起こり始め、ミルクの栄養的品質が低下し得る。均質化の間にミルクの温度を約50℃~55℃の範囲に保つことにより、約45℃~60℃の範囲外のミルクが受ける有害な作用の間の緩衝が可能になることが判明した。
【0038】
ミルクを均質化すると、ミルク内の脂肪小球のサイズが小さくなり、その小さくなった小球がミルクの中に均一に分散する。この工程においては、ミルクを、小さな孔に加圧して脂肪少球のサイズを小さくし、ミルクの残部に均一に分散させることができる。均質化工程1は、ミルクが約25℃より高く(すなわち周囲温度より高い)、約60℃より低い温度にあるときに実施することができる。特に好ましい実施形態では、均質化工程は、約45℃~約55℃の温度のミルクを用いて実施することができる。
【0039】
均質化の後、ミルクを温度制御されたバランスタンク2に供給することができる。バランスタンクは、ミルクの温度を45℃~60℃の範囲、または約50℃~約55℃の好ましい範囲よりも低くするように構成されている。また、バランスタンクは、ミルクの温度を下流の高圧処理工程の初期負荷温度より高く維持するように構成されている。ミルクがバランスタンク2によって温度制御された後、次いで、ミルクは充填ヘッドに移送される。特定の実施形態では、バランスタンクは、ミルクが重力の影響で移送ヘッドに流れることができるように、充填ヘッドよりも高い位置に配置されてもよい。
【0040】
充填ヘッドは、個々のパッケージ3にミルクを分配し、その後に密封することができる。パッケージは、PETボトル、ガラスボトル、パウチまたは他の任意の適切なパッケージであり得る。
【0041】
次いで、パッケージングされたミルクは、高圧処理工程4を経ることができる。高圧処理工程において、パッケージングされたミルクを、高圧処理チャンバ内の流体、例えば水に浸漬して高圧にさらす。高圧処理チャンバ内の圧力が増加するにつれて、流体はパッケージングされたミルクに静水圧を均等に加える。パッケージングされたミルクを所定の時間にわたり高圧にさらすことにより、ミルク中の特定の病原体を失活させ、それによりヒトの摂取にとって実質的に安全な病原体レベルを有するミルクを製造することが可能であることが判明した。またミルクの高圧処理により、低温殺菌ミルクよりもより長い保存可能期間を有するミルクが得られ、低温殺菌ミルクでは遠すぎて保存可能期間を過ぎる前に移送できない市場にも、ミルクを輸送することが可能になることも判明した。
【0042】
高圧処理工程においてミルクに適用される高圧は、約350MPa~約1500MPaのオーダーであり得るが、他の圧力レベルも使用され得る。より高い圧力を用いる場合には、高圧状態にさらす時間が、より低い圧力の場合よりも短い時間しか必要とならず、前記処理工程を通してより高い搾乳量をもたらすことになり得る。しかし、その高い圧力の処理のために、比較的高価な装置が必要となり、低い圧力の場合よりも関連する作業コストが高くなり得る。同様に、より低い圧力を用いる場合には、ミルクをより長い時間にわたって高圧状態にさらすことが必要となり、場合によってはそれが処理工程の商業的な実行可能性に影響を及ぼす可能性がある。実施形態の1つの例では、高圧処理工程において、ミルク内の一定の病原体の不活性化を引き起こすべく、パッケージングされたミルクを約3分間にわたって約600MPaの高圧にさらした。高圧処理工程を実施することは、プロセスを複雑化し、またプロセスの費用を増大させ得る比較的高い圧力を避けるのに有益であり得る。また、この圧力では、約3分間の時間枠内の処理でヒトの摂取のために実質的に安全な病原体レベルを有するミルクが製造されることが判明した。一部の実施形態では4分または約5分の処理時間が許容可能であるが、時間枠が長いほど、他の滅菌方法と比較してバッチで実施される高圧処理工程の商業的実現可能性が低くなる可能性があるので、約3分の時間枠が好ましい。しかし、高圧処理工程における病原体レベルを低下させるのに必要な正確な時間は、処理されるミルクの特性に応じたものであり得ることを理解されたい。例えば、病原体の負荷がより高いミルクは、病原体レベルを適切に低下するために、高圧処理でより長い処理時間を必要とすることがある。同様に、病原体の負荷が比較的低いミルクは、十分な病原体死滅率を達成するために高圧処理でより短い処理時間しか必要でなく、600MPa未満の圧力での高圧処理を使用して約3分以内に十分な病原体死滅亡率を達成することができる。特定の非限定的な実施形態では、高圧処理工程における約500MPa~約750MPaの高圧は、許容可能な時間枠内で許容可能な結果を生じることが判明しているが、ミルクの初期病原体負荷およびミルク中に存在する病原体の種類などの特定のパラメータが、高圧処理工程を行うときのパラメータに影響を及ぼし得ることを理解されたい。いくつかの実施形態では、ミルクが、約2分以下または約1分以下または約45秒未満の短い時間枠だけ高圧にさらされてもよい。
【0043】
高圧処理工程における流体の初期負荷温度は、ミルク中の一定の病原体の死滅率を増加させて、ミルクがヒトの摂取のためにより安全となるように選択することができる。負荷温度は、高圧のために生じ得る高圧処理チャンバ内の温度上昇を考慮に入れることもできる。理論に縛られるものではないが、チャンバ内の約100MPaの増加ごとに約3℃~4℃の温度上昇が予想され得る。したがって、チャンバが大気圧から600MPaまで加圧されると、温度が33℃~37℃から約50℃~55℃に上昇し得るように、約600MPaの高圧処理チャンバ内の温度として約33℃~約37℃の負荷温度を選択することができる。ミルクの温度を約50~55℃に維持すると、ミルクの一定の栄養成分が変性し始める温度である約60℃または約58℃を好適に避けることができる。ミルクの特定の栄養および/または官能特性の劣化を避けるべく温度を約58℃または約60℃未満に保ちながら、ミルク中の病原体、特に高圧に一部耐性を示し得る病原体の死滅率を高めさせるために、約50℃~約55℃のような比較的高い温度で高圧処理を行うことが有益であり得る。しかし、約45℃以下の温度でミルクを高圧処理することにより許容可能な結果が得られるが、より低い温度では、高圧処理工程をより長い時間またはより高い圧力で実施する必要があり得ることが判明した。高い圧力と約60℃未満の高温とを組み合わせることで、意外にも、低温殺菌に比べて商業的に実行可能な処理工程により、ヒトが摂取するために実質的に安全な病原体レベルを有するミルクを製造できることが判明した。このような方法によって製造されたミルクは、低温殺菌されたミルクと比較して官能特性および栄養特性が改善され、また、保存可能期間がより長い。
【0044】
言い換えれば、病原体レベルを低下させるために約45℃または約50℃というおおよその下限を上回るが、栄養価および/または官能特性に関してミルクの劣化を回避または最小限に抑えるために約60℃というおおよその上限を下回る温度でミルクに高圧処理工程を実施することが有益であり得る。
【0045】
また、ミルクを処理する方法の温度管理は、セレウス菌のような一定の芽胞形成病原体の発芽を補助し得、発芽した芽胞は高圧処理工程の高圧によって失活され得ることも判明している。例えば、約600MPaの高圧で操作される高圧処理工程において、約33℃~37℃の初期負荷温度、約50℃~約55℃のミルク温度をもたらす温度管理により、一定の芽胞形成病原体の発芽を補助することで、発芽した芽胞が高圧処理工程の高圧によってより容易に失活され得ることも判明している。さらに、高圧処理工程の初期段階の間、圧力は指定された高圧まで上昇する。圧力上昇の初期段階でのこれらのより低い圧力が、当該プロセスの温度管理と共に芽胞形成病原体の発芽をさらに補助し得るので、高圧力での病原体の殺滅を容易にすることができる。このようにして、高圧処理工程での温度および圧力管理により、セレウス菌のような特定の芽胞形成病原体の死滅率を高めることができる。
【0046】
約45℃~60℃、好ましくは約50℃~55℃の温度でミルクを均質化し、引き続き均質化されたミルクを高圧処理工程に供することで、得られるミルクは、低温殺菌プロセスによって製造されたミルクと比較して、実質的に低い病原体レベルならびに改善された栄養価、保存可能期間および官能特性を示し得ることが判明した。
【0047】
特定の好ましい実施形態では、高圧処理工程のチャンバを加圧するために使用される流体の温度は、予熱により高圧処理工程におけるミルクの初期負荷温度と同じまたは同程度の温度とすることができる。流体を予熱することによって、高圧の作用により、上昇した圧力がパッケージングされたミルクの温度を上昇させるのと概ね同じ程度まで流体の温度が上昇する。このようにして、流体と充填されたミルクとの間の熱伝達が最小限に抑えられ、それによりパックミルクの温度を、上記の理由で約45℃~約60℃、または約50℃~約55℃に制御するプロセスが単純化される。
【0048】
ミルクの高圧処理に続いて、パッケージングされたミルクは、比較的高い温度、例えば約50℃~55℃であり、冷却5がその後の貯蔵および輸送に必要となり得る。冷却は、例えばミルクの温度を4℃未満に低下させるために、パッケージングされたミルクの上および周りに冷却水を噴霧するなどの任意の適切な冷却方法工程によって達成することができる。別の冷却方法工程として、パッケージングされたミルクを減圧環境に供し、それによりパッケージングされたミルクの温度を低下させるフラッシュ冷却工程を挙げることができる。これらの方法でミルクを冷却すると、急速な温度低下が起こり、ミルクが高温にさらされる時間を制限し、ミルクの保存可能期間を延ばすことができる。ミルクの内部温度が約4℃未満になったら、その後ミルクを市場に流通させるまで4℃未満で貯蔵するためにミルクを冷蔵室に移送することができる。
【0049】
高圧処理工程で十分な時間をかけて処理されたミルクは、実質的に低下した病原体レベルを示し得る。病原体レベルは、ヒトが摂取するのに安全なレベル、またはヒトが摂取するのに安全なレベルに近いレベルであり得る。病原体レベルは、低温殺菌プロセスによって処理されたミルクの病原体レベルと同じか、概ね同程度であり得る。
【0050】
場合によっては、ミルク中に最初に存在する病原体の負荷、およびミルク中に存在する病原体の種類に応じて、ミルク中の病原体レベルを低下させるために高圧処理工程に加えて更なる処理が必要となることがあり得る。一部の実施形態では、必要に応じてミルクのUV処理またはオゾン処理を行って、ミルクの病原体レベルをさらに低下させることができる。一部の実施形態では、高圧処理工程の前に、ミルクの病原体負荷を低下させるために、遠心除菌工程を実施することもできる。例えば、病原体の初期負荷が特に高いミルクを処理する場合、高圧処理工程の前にこれらの追加の処理工程の1つを使用することで好ましい結果を得ることができる。
【0051】
本明細書に記載の方法を使用して標準化されたミルクを処理し、例えばスキムミルクなどの、種々の脂肪およびSNFレベルを有する処理済みミルクを製造することができる。
【0052】
本明細書において、ミルクは、哺乳動物の乳腺によって産生される液体を指す。ミルクは、溶存炭水化物とミネラルのタンパク質凝集体とを含む、水系流体内の乳脂肪小球のエマルションまたはコロイドである。本明細書に記載の方法は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、スイギュウおよびカーディナルを含む任意の動物のミルクを処理するために使用することができる。本明細書に記載のミルク処理法は、これらの動物からミルクを得た時点から72時間以内、好ましくは48時間以内に完了することが好ましい。このような時間枠で処理されたミルクは、改善された官能特性を示すことができ、より長い保存可能期間を示すことができる。
【0053】
本明細書に記載のミルクを処理する方法によって製造されたミルクは、ミルクの栄養成分を保持され、官能特性が改善されたミルクを製造する点で低温殺菌またはESLミルクのような他の方法によって処理されたミルクと比較して好ましい一定の効果を有する。さらに、本明細書に記載のミルクを処理する方法によって処理されたミルクは、約45日以上、または約60~90日の期間、またはそれ以上の長い保存可能期間を示し、したがって低温殺菌ミルクの保存可能期間を超えている。そのような保存可能期間の長期化により、海上貨物輸送のような経済的な方法によってミルクを遠隔地の市場に輸送することが可能となり、良好な栄養および官能特性を有するミルクを遠隔地の市場に安いコストで供給することができる。
【0054】
本発明の範囲から逸脱することなく、多くの変更した実施形態が可能であることは当業者にとって明らかである。
図1