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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】乱流特性の導出方法および導出装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 17/00 20060101AFI20220302BHJP
   G01M 15/02 20060101ALI20220302BHJP
   G01M 15/14 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
G01K17/00 Z
G01M15/02
G01M15/14
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018070922
(22)【出願日】2018-04-02
(65)【公開番号】P2019184252
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-01-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)革新的燃焼技術「研究開発題目名」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】801000027
【氏名又は名称】学校法人明治大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】中別府 修
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-217743(JP,A)
【文献】特開2002-267787(JP,A)
【文献】特開平10-10276(JP,A)
【文献】特開平5-223684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 17/00-17/20
G01F 1/00-1/30、
1/34-1/54
G01M 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乱流熱伝達場における第1計測点から第3計測点のそれぞれにおける熱流束を検出し、 前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における移動時間を求め、
前記移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出する乱流特性の導出方法。
【請求項2】
前記熱流束の相関係数の所定の関係は、前記熱流束の相関係数が最大となる関係である請求項1に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項3】
前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における熱流束の相互相関係数であり、
前記移動時間は、前記相互相関係数を所定関係とする前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間の乱流の移動時間であり、
前記第1計測点から第3計測点の配置および前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間の乱流の移動時間に基づいて、前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分を導出する請求項1または2に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項4】
前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間の熱流束の相互相関係数であり、
前記移動時間は、前記相互相関係数を所定関係とする前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間の乱流の移動時間であり、
前記第1計測点から第3計測点の配置および前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、及び前記第3計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間の乱流の移動時間に基づいて、前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面の法線回りの渦度を導出する請求項1または2に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項5】
前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点から第3計測点のそれぞれにおける熱流束の自己相関係数であり、
前記自己相関係数および前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分に基づいて、前記乱流特性として、前記乱流熱伝達場内の乱流における乱れのスケールを導出する請求項1または2に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項6】
乱流熱伝達場における第1計測点から第4計測点のそれぞれにおける熱流束を検出し、 前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と第3計測点、前記第3計測点と前記第4計測点、及び前記第4計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、前記第3計測点と前記第4計測点、及び前記第4計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における移動時間を求め、
前記移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出する乱流特性の導出方法。
【請求項7】
前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分及び前記平面に垂直な速度の成分を導出する請求項6に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項8】
前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室、タービン、またはボイラー室に形成されている請求項1から7のうちのいずれ1項に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項9】
前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室に形成されており、
前記熱流束の相関係数は、前記熱流束における高周波数成分の相関係数である請求項8に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項10】
前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室に形成されており、
前記第1計測点から第3計測点は、前記燃焼室における上死点にあるピストンの天面よりもシリンダヘッド側に配置されている請求項8または9に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項11】
前記乱流熱伝達場は、気密空間に形成されている請求項1から10のうちのいずれか1項に記載の乱流特性の導出方法。
【請求項12】
乱流熱伝達場における第1計測点から第3計測点のそれぞれにおける熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点から第3計測点間におけるそれぞれの3つの移動時間を求める移動時間算出部と、
前記3つの移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出する乱流特性導出部と、
を備える乱流特性の導出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乱流特性の導出方法および導出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン(内燃機関)の熱効率を向上させるためには、エンジンの筒内(燃焼室内)の高温ガスから壁面を介して外部へ逃げる熱損失を低減することが重要である。熱損失を低減するためには、熱損失とエンジン筒内の乱流の関係を把握し、エンジン筒内の流動や燃料濃度の分布の制御、乱流特性に合わせた内壁面への熱輸送低減構造の導入が効果的であると考えられている。
【0003】
エンジン動作時の熱損失の状況は、温度センサを用いて壁面温度の時系列データを採取し、この温度データを境界条件とした壁面の非定常熱伝導解析を通して熱流束時系列データを算出することで把握できる。(例えば、非特許文献1、2、特許文献1参照)。一方、エンジン筒内は乱流熱伝達場となっており、高性能な熱流束の計測では乱流特性を反映した熱流束の変動が記録されることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-83206号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】榎本良輝、他2名、”四サイクルガソリン機関の燃焼室壁への直接熱損失:(第1報,ピストンおよびシリンダライナへの熱損失)”日本機械学会論文集(B編)、50巻456号(1984)、p1972-1980
【文献】中別府修他3名、“燃焼場の壁面熱流束を計測する薄膜抵抗センサに関する研究”、日本機械学会論文集,Vol.82,No.840,2016,DOI:10.1299/transjsme.16-00083
【文献】Kazuhito Dejima, Osamu NAKABEPPU, et al.、“Local three-point heat flux measurement on sub-millimeter scale in an internal combustion engine”、Proc. of 11th Asia-Pacific Conference on Combustion, P239,2017
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、乱流の効果を反映した熱流束の変動から、どのように乱流特性を導出するかについての課題があった。乱流特性を示す量としては、壁面に沿う速度、壁面の法線回りの渦度、乱流における速度や温度の乱れが持つ空間スケールの平均値や変動値などがある。計測された熱流束データから、これらの値を精度よく導出することが求められている。また、この課題は、エンジン以外の乱流熱伝達場においても同様であった。
【0007】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる乱流特性の導出方法および導出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決した本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、乱流熱伝達場における第1計測点から第3計測点のそれぞれにおける熱流束を検出し、前記第1計測点から第3計測点における熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点から第3計測点間におけるそれぞれの移動時間を求め、前記移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出するものである。
【0009】
このように、乱流熱伝達場における3つの計測点で検出した熱流束の相関係数が所定の関係、例えば最大となる3つの移動時間を求め、これらの移動時間に基づいて、乱流熱伝達場における乱流特性を導出することにより、乱流熱伝達場における流体塊の移動を乱流熱伝達場内の複数の点で関連付けて計測することができる。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0010】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記熱流束の相関係数の所定の関係は、前記熱流束の相関係数が最大となる関係であるようにしてもよい。
【0011】
熱流束の相関係数の所定の関係が、熱流束の相関係数が最大となる関係であることにより、乱流熱伝達場における流体塊の移動を乱流熱伝達場内の複数の点で精度よく関連付けて計測することができる。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性をさらに精度よく導出することができる。なお、熱流束の相関係数の所定の関係が、熱流束の相関係数が最大となる関係以外の関係、例えば、熱流束の相関係数が最大に近似する関係となるようにしてもよい。
【0012】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点から第3計測点間のそれぞれにおける熱流束の相互相関係数であり、前記移動時間は、前記相互相関係数を所定関係とする前記第1計測点から第3計測点同士の間におけるそれぞれの流体塊の移動時間であり、前記第1計測点から第3計測点の配置および前記第1計測点から第3計測点同士の間におけるそれぞれの流体塊の移動時間に基づいて、前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分を導出するようにしてもよい。
【0013】
このように、乱流特性が、第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分である場合であっても、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0014】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点から第3計測点間のそれぞれにおける熱流束の相互相関係数であり、前記移動時間は、前記相互相関係数を所定関係とする前記第1計測点から第3計測点同士の間におけるそれぞれ流体塊の移動時間であり、前記第1計測点から第3計測点の配置および前記第1計測点から第3計測点同士の間におけるそれぞれ流体塊の移動時間に基づいて、前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面の法線回りの渦度を導出するようにしてもよい。
【0015】
このように、乱流特性が、第1計測点から第3計測点を含む平面の法線回りの渦度である場合であっても、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0016】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記熱流束の相関係数は、前記第1計測点から第3計測点のそれぞれにおける熱流束の自己相関係数であり、前記自己相関係数および前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分に基づいて、前記乱流特性として、前記乱流熱伝達場内の乱流における乱れのスケールを導出するようにしてもよい。
【0017】
このように、乱流特性が、前記乱流熱伝達場内の乱流における乱れのスケールである場合であっても、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0018】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、乱流熱伝達場における第1計測点から第4計測点のそれぞれにおける熱流束を検出し、前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と第3計測点、前記第3計測点と前記第4計測点、及び前記第4計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点と第2計測点、前記第2計測点と前記第3計測点、前記第3計測点と前記第4計測点、及び前記第4計測点と前記第1計測点とのそれぞれの間における移動時間を求め、前記移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出する乱流特性の導出方法である。
【0019】
このように、乱流熱伝達場における4つの計測点で検出した熱流束の相関係数が所定の関係、例えば最大となる4つの移動時間を求め、これらの移動時間に基づいて、乱流熱伝達場における乱流特性を導出することにより、より多くの計測点で乱流熱伝達場における流体塊の移動を関連付けて計測することができる。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性をさらに精度よく導出することができる。
【0020】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記乱流特性として、前記第1計測点から第3計測点を含む平面に沿う速度の直交2成分及び前記平面に垂直な速度の成分を導出するようにしてもよい。
【0021】
このように、第4計測点で移動速度を計測することにより、平面に沿う速度の直交2成分に加えて、平面に垂直な速度の成分を導出することができる。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性をさらに精度よく導出することができる。
【0022】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法では、前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室、タービン、またはボイラー室に形成されているようにしてもよい。
【0023】
このように、乱流熱伝達場が内燃機関の燃焼室、タービン、またはボイラー室に形成されている場合などにおいて、内燃機関の燃焼室、タービン、またはボイラー室に形成される乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0024】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室に形成されており、前記熱流束の相関係数は、前記熱流束における高周波数成分の相関係数であるようにしてもよい。
【0025】
このように、熱流束の相関係数が、熱流束における高周波数成分の相関係数であることにより、熱流束における低周波数成分が除去されている。熱流束における低周波成分には、乱流熱伝達場が内燃機関の燃焼室である場合におけるピストン運動に伴う成分が含まれている。このため、熱流束における低周波数成分が除去されていることにより、ピストン運動に伴う成分が除去される。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性をより精度よく導出することができる。
【0026】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法は、前記乱流熱伝達場は、内燃機関の燃焼室に形成されており、前記第1計測点から第3計測点は、前記燃焼室における上死点にあるピストンの天面よりもシリンダヘッド側に配置されているようにしてもよい。
【0027】
このように、内燃機関の燃焼室における上死点にあるピストンの天面よりもシリンダヘッド側は、内燃機関内における熱流束が発生しやすい領域であるので、第1計測点から第3計測点が燃焼室における上死点にあるピストンの天面よりもシリンダヘッド側に配置されていることにより、内燃機関内における熱流束が発生しやすい領域における乱流特性を導出することができる。
【0028】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法では、乱流熱伝達場は、気密空間に形成されているようにしてもよい。
【0029】
このように、乱流熱伝達場が気密空間に形成されていることにより、気密空間における乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0030】
また、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出装置は、乱流熱伝達場における第1計測点から第3計測点のそれぞれで計測した熱流束の相関係数が所定の関係となる前記第1計測点から第3計測点間におけるそれぞれの3つの移動時間を求める移動時間算出部と、前記3つの移動時間に基づいて、前記乱流熱伝達場における乱流特性を導出する乱流特性導出部と、を備えるものである。
【発明の効果】
【0031】
本発明に係る乱流特性の導出方法および導出装置によれば、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】(A)は、一実施形態に係る乱流特性導出システムの側断面図、(B)は、その熱流束センサのセンサ部を正面から見た図である。
図2】熱流束センサが取り付けられたエンジンの側断面図である。
図3】乱流特性を導出する流れを説明する説明図である。
図4】計測点の座標と速度、渦度を説明する図である。
図5】計測点を正三角形状に配置した場合の計測点の座標と速度、渦度を説明する図である。
図6】(A)は、実施例1の3つの計測点でそれぞれ計測した熱流束のクランク角度ごとの変化を示すグラフ、(B)は、その高周波成分のクランク角度ごとの変化を示すグラフである。
図7】(A)は、実施例1の2つの計測点間の相互相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフ、(B)は、実施例1の3つの計測点の自己相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフである。
図8】(A)は、実施例1の熱流束におけるx方向の速度成分uの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例1の熱流束におけるy方向の速度成分vの分布を示すヒストグラムである。
図9】(A)は、実施例1の熱流束における渦度ωの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例1の熱流束の乱流スケールLを示すグラフである。
図10】実施例1における乱流スケールの逆数と速度の二乗の関係を示すグラフである。
図11】(A)は、実施例2の3つの計測点でそれぞれ計測した熱流束のクランク角度ごとの変化を示すグラフ、(B)は、その高周波成分のクランク角度ごとの変化を示すグラフである。
図12】(A)は、実施例2における燃焼前の2つの計測点間の相互相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフ、(B)は、実施例2における燃焼後の2つの計測点間の相互相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフである。
図13】(A)は、実施例2の3つの計測点の自己相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフ、(B)は、実施例2の3つの計測点の自己相関係数の遅れ時間ごとの変化を示すグラフである。
図14】(A)は、実施例2における燃焼前の熱流束のx方向の速度成分uの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例2における燃焼後の熱流束のx方向の速度成分uの分布を示すヒストグラムである。
図15】(A)は、実施例2における燃焼前の熱流束のy方向の速度成分vの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例2における燃焼後の熱流束のy方向の速度成分vの分布を示すヒストグラムである。
図16】(A)は、実施例2における燃焼前の熱流束の渦度ωの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例2における燃焼前の熱流束の渦度ωの分布を示すヒストグラムである。
図17】(A)は、実施例2における燃焼前の熱流束の乱流スケールLの分布を示すヒストグラム、(B)は、実施例2における燃焼前の熱流束の乱流スケールL乱流スケールLの分布を示すヒストグラムである。
図18】(A)は、実施例2における燃焼前の乱流スケールの逆数と速度の二乗の関係を示すグラフ、(B)は、実施例2における燃焼後の乱流スケールの逆数と速度の二乗の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態に係る乱流特性の導出方法および導出装置について、図面を参照して具体的に説明する。図1(A)は、一実施形態に係る乱流特性導出システムの側断面図、(B)は、その熱流束センサのセンサ部を正面から見た図である。図1(A)に示すように、乱流特性導出システム1は、乱流特性導出装置10と、熱流束センサ20とを備えている、乱流特性導出装置10は、熱流束検出部11と、移動時間算出部12と、乱流特性導出部13とを備えている。
【0034】
熱流束センサ20は、アダプタ21と、センサ部22と、を備えている。センサ部22は、アダプタ21の先端に取り付けられている。アダプタ21には、先端と後端とを貫通する貫通穴23が形成されている。熱流束センサ20におけるセンサ部22と乱流特性導出装置10は、配線30によって接続されており、配線30は、貫通穴23を通っている。センサ部22は、図1(B)に示すように、円盤状の基板22Mを備えており、基板22Mには、第1計測点22A~第3計測点22Cが取り付けられている。
【0035】
このうち、第1計測点22A~第3計測点22Cは、それぞれ正三角形の頂点に配置されている。また、基板22Mの直径は、例えば約900μmであり、隣接する計測点同士(第1計測点22Aと第2計測点22B、第2計測点22Bと第3計測点22C、第3計測点22Cと第1計測点22A)の間の距離は、例えば約779μmである。
【0036】
熱流束センサ20は、図2に示すように、乱流熱伝達場となるエンジン50における燃焼室51内の内表面に、センサ部22における第1計測点22A~第3計測点22Cが露出するようにして取り付けられている。第1計測点22A~第3計測点22Cの配置位置は、それぞれ第1計測点P1~第3計測点P3となる。
【0037】
熱流束センサ20のセンサ部22が取り付けられるエンジン50は、上記の燃焼室51および燃焼室51を内包するエンジンブロック(シリンダブロック)52を備えている。さらに、エンジン50は、吸気バルブ53、排気バルブ54、及び図示しない点火プラグ等が設けられたシリンダヘッド55、燃焼室51内を上下するピストン56、およびピストン56を上下動させるコンロッド57を備えている。
【0038】
本実施形態において、熱流束センサ20のセンサ部22は、シリンダヘッド55に設けられた排気バルブ54の近傍におけるエンジンブロック52に埋め込まれて取り付けられている。センサ部22は、エンジン50の燃焼室51における上死点にあるピストン56の天面よりもシリンダヘッド55側(天面よりも高い位置)に配置されているのがよいが、その他の位置に配置されていてもよい。例えば、センサ部22は、エンジンブロック52における点火プラグの側方や、ピストン56の上面に取り付けられていてもよい。あるいは、燃焼室51における上死点にあるピストン56の天面よりもクランクシャフト側(天面よりも低い位置)に配置されていてもよい。
【0039】
熱流束センサ20のセンサ部22の表面は、取り付けられたエンジンの燃焼室51の内面に対して面一となるようにされている。このため、熱流束センサ20のセンサ部22の表面は、たとえば、燃焼室51における側方に取り付けられる際には、エンジンブロック52の内側に形成されるシリンダの側壁の曲面に沿った曲面状としてもよい。ここで、センサ部22における第1計測点22A~第3計測点22Cは、極狭の範囲に配置されているので、シリンダの側壁の曲面は、平面に近似して考えることができる。
【0040】
また、熱流束センサ20のセンサ部22は、ピストン56やシリンダヘッド55に取り付けられていてもよい。熱流束センサ20のセンサ部22がピストン56に取り付けられる場合などは、熱流束センサ20のセンサ部22の表面は平面状としてもよい。また、熱流束センサ20のセンサ部22の表面は、取り付けられたエンジン50の燃焼室51に対して面一となるようにされているが、面一ではなく、表面から若干出っ張ったり、逆に引っ込んだりした態様であってもよい。
【0041】
熱流束センサ20のセンサ部22における第1計測点22A~第3計測点22Cは、それぞれエンジン50の燃焼室51内における乱流熱伝達場の第1計測点P1~第3計測点P3のそれぞれの温度を計測して、乱流特性導出装置10に送信する。乱流特性導出装置10では、熱流束検出部11において、第1計測点22A~第3計測点22Cから送信された温度の温度変化を求め、温度変化に基づいて一次元非定常熱伝導解析を行って、第1計測点P1~第3計測点P3のそれぞれの位置における熱流束を検出する。なお、第1計測点22A~第3計測点22Cの一部または全部を抵抗体で形成し、抵抗体の抵抗温度計数および抵抗値に基づいて、第1計測点22A~第3計測点22Cの温度変化を求めるようにしてもよい。あるいは、第1計測点22A~第3計測点22Cは、熱電対などの温度計によって構成してもよい。さらには、これらのものを組み合わせて構成してもよく、第1計測点22A~第3計測点22Cに対して同種のものを用いてもよいし、異種のものを用いてもよい。
【0042】
乱流特性導出装置10における移動時間算出部12は、熱流束検出部11で検出された第1計測点22A~第3計測点22Cのそれぞれの位置における乱流の熱流束に基づいて、乱流の第1計測点22A~第3計測点22Cの間における流体塊の移動時間を算出する。ここでは、例えば、第1計測点22Aと第2計測点22Bの間の移動時間、第2計測点22Bと第3計測点22Cの間の移動時間、第3計測点22Cと第1計測点22Aの間の移動時間、の3つの移動時間を計測する。また、その他の計測点の間の移動時間を検出するようにしてもよい。
【0043】
乱流特性導出部13は、移動時間算出部12で算出した移動時間等に基づいて、燃焼室51内の乱流熱伝達場における乱流特性を導出する。乱流特性導出部13で導出される乱流特性には、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分である第1速度成分uと第2速度成分v、および燃焼室51の壁面に相当する平面の法線回りの渦度ωが含まれる。また、乱流特性導出部13で導出される乱流特性には、燃焼室51内における乱流の乱れのスケールLが含まれる。
【0044】
乱流特性導出装置10では、図3に示すように、単サイクル解析と、単サイクル解析を複数回実行する複数サイクル解析を行う。単サイクル解析では、隣接3点熱流束計測により、エンジン50の燃焼室51における隣接3点(第1計測点P1~第3計測点P3)の熱流束時系列データf1、f2、f3を検出する。第1計測点P1~第3計測点P3は、あらかじめ記憶された位置である。
【0045】
続いて、相関解析により、第1計測点P1~第3計測点P3の位置(座標)と熱流束時系列データf1、f2、f3から2つの計測点間における3組の熱流束の相互相関係数を求め、熱流束信号に類似波形が現れる時間差から乱れが2つの計測点間を移動する移動時間τ12、τ23、τ31を求める。また、熱流束時系列データの自己相関係数を求め、乱流の乱れが第1計測点P1~第3計測点P3を通過する通過時間τ11、τ22、τ33を求める。
【0046】
さらに、乱流特性の導出として、第1計測点P1~第3計測点P3と組み合わせて、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分である第1速度成分uと第2速度成分v、および燃焼室51の壁面に相当する平面の法線回りの渦度ωを導出する。また、乱流特性として求めた燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分である第1速度成分uと第2速度成分vと自己相関係数とに基づいて乱れスケールを導出する。
【0047】
図1に示す乱流特性導出装置10では、熱流束検出部11において、エンジン50の燃焼室51における第1計測点P1~第3計測点P3の熱流束時系列データf1、f2、f3を生成する。また、移動時間算出部12において、熱流束時系列データf1、f3、f3から2つの計測点間における3組の熱流束の相互相関係数を求め、熱流束信号に類似波形が現れる時間差から乱れが2つの計測点間を移動する移動時間τ12、τ23、τ31を求める。また、移動時間算出部12において、熱流束時系列データの自己相関係数を求め、乱流の乱れが第1計測点P1~第3計測点P3を通過する通過時間τ11、τ22、τ33を求める。また、乱流特性導出部13において、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分である第1速度成分uと第2速度成分v、および燃焼室51の壁面に相当する平面の法線回りの渦度ω、さらには乱流の乱れのスケールLを算出する。エンジン50内の乱流特性を示す速度成分u、v、渦度ω、および乱れスケールLが求められる。
【0048】
また、乱流特性導出装置10は、エンジン50における複数のサイクルでこの手順を繰り返す複数サイクル解析を行う。乱流特性導出装置10は、複数サイクル解析により、第1速度成分u、第2速度成分v、渦度ω、および乱れスケールLの平均量、変動量、および乱流スペクトルを求める。以下、乱流特定としての速度成分u、v、渦度ω、および乱れスケールLの導出手順について説明する。
【0049】
[熱流束の検出]
エンジン50の燃焼室51内の熱流束を検出するためには、まず、燃焼室51の内壁面上の熱輸送に影響する乱流スケールよりも小さな領域内で、図2(B)に示すように、三角形、例えば正三角形の頂点を構成する3点である第1計測点P1~第3計測点P3で同時に熱流束を計測する。第1計測点P1~第3計測点P3が正三角形の頂点に配置されていることにより、乱流特性を算出する際の算出式を簡便な式とすることができる。なお、第1計測点P1~第3計測点P3が頂点に配置される三角形は、正三角形以外の三角形でもよく、例えば、二等辺三角形でもよいし、不等辺三角形でもよい。
【0050】
エンジン50の内壁面の熱流束は、エンジン50の圧縮工程から膨張行程にかけてのピストン56が上死点付近にある期間に増加する。熱流束センサ20は、この熱流束が増加する期間に熱流束を計測する。なお、乱流特性導出装置10では、この期間に得られた熱流束のデータに基づいてエンジン50内の乱流特性を導出する。
【0051】
[高周波数成分熱流束データの作成]
エンジン50の燃焼室51内で計測した熱流束データには、ピストン運動に伴う低周波数の変動と乱流運動に伴う高周波数の変動が含まれている。乱流特性を導出する際には、高周波数の変動成分を利用すると歪みの少ない特性が得られるため、低周波数成分を除去した高周波数成分の熱流束データを作成する。なお、ここでの高周波数成分は、熱流束データ(対象とするデータ)から低周波成分が除かれた熱流束データの成分である。
【0052】
高周波数成分の熱流束データを作成するためには、例えば、計測したデータから移動平均処理による低周波数成分データを作成し、この低周波数成分データを元の測定データから減じる手法を利用することができる。なお、熱流束データから除去される低周波数成分は、例えば、エンジン回転数の20~40倍程度の周波数とする。具体的に、例えば、エンジン回転数が2000RPM(=33.3Hz)であるときには、800Hz以下の熱流束データをノイズとして除去される低周波数成分のデータとする。
【0053】
[燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分:x方向の速度成分u、第2速度成分:y方向の速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ωの導出]
例えば、エンジン50の燃焼室51における第1計測点P1~第3計測点P3を含む平面上のx-y座標を設定し、図4に示すように、第1計測点P1~第3計測点P3の3点の座標をそれぞれP1(0,y1)、P2(x2,0)、P3(x3,0)として設定する。この第1計測点P1~第3計測点P3の3点でそれぞれ計測した熱流束の高周波数成分データをそれぞれ熱流束時系列データfi(t)(i=1,2,3)とする。これらの3つの熱流束時系列データf1(t)、f2(t)、f3(t)の中から、異なる2つのデータを選んだ3通りの組み合わせ(i=1,j=2),(i=2,j=3),(i=3,j=1)に対して、下記(1)式で定義される3つの相互相関係数Φij(Φ12,Φ23,Φ31)を時間差τに対して算出し、算出した相互相関係数Φijが最大値を取る時間差より、2つのセンサ間を乱れが移動する移動時間τij(τ12,τ23,τ31)を求める。なお、相互相関係数Φijとは、2点で観測された信号波形の間の相関の度合いを示し、一方の信号の時間をずらしながら相互相関係数を計算し、最大相関を示す時間差を求めることで、現象や情報が2点間を移動する時間を求められる。ここで、時間差τは想定される乱れの移動時間程度に、また、時間tの変域ta~tbは乱流変動の複数周期を含むように定める。
【0054】
【数1】
【0055】
このとき、相互相関係数Φij(Φ12,Φ23,Φ31)が最大値を取る3通りの移動時間τij(τ12、τ23、τ31)と第1計測点P1~第3計測点P3の配置から、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分u、第2速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ωは、下記(2)式で表すことができる。
【0056】
【数2】
【0057】
例えば、図5に示すように、第1計測点P1~第3計測点P3がそれぞれ一辺の長さがlの正三角形の頂点に配置されている場合、第1計測点P1~第3計測点P3の座標がそれぞれP1(0,l×31/2/2)、P2(-l/2,0)、P3(l/2,0)として、壁面上の解析用x-y座標を取る。第1計測点22A~第3計測点22Cで測った熱流束データの相互相関係数から得られた移動時間τ12,τ23,τ31とセンサ間距離lを用いて、(3)式より壁面に沿う速度の第1速度成分u、第2速度成分vと壁面の法線回りの渦度ωを算出する。
【数3】
こうして、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分u、第2速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ωを求めることができる。
【0058】
[乱れスケールの導出]
乱流の乱れスケールを導出するにあたり、3つの熱流束時系列データf1(t)、f2(t)、f3(t)のそれぞれの自己相関係数Φii(i=1,2,3)を時間差τに対して(4)式で算出し、τ=0の次に極大となる時間差より乱れが各計測点を通過する移動時間τii(i=1,2,3)を求める。なお、自己相関係数Φiiとは、観測された信号波形とその波形の時間をずらした波形間の相関の度合いを示し、極大相関を示す時間差を求めることで、観測波形が持つ周期現象の周期を求められる。
【0059】
【数4】
【0060】
また、下記(5)式に示すように、同時に計測した3つの熱流束時系列データf1(t)、f2(t)、f3(t)に対して、相互相関で求めた速度(第1速度成分u、第2速度成分v)の絶対値と、自己相関から求めた移動時間τii(i=1,2,3)と、を乗じることにより、乱れのスケールが得られる。こうして、3つの移動時間τii(i=1,2,3)から、それぞれ第1計測点P1~第3計測点P3を通過する乱れのスケールLi(i=1,2,3)が得られる。
【0061】
【数5】
【0062】
以上の手順により、エンジン50における燃焼室51の内壁面上の3点で計測した熱流束のデータに基づいて、相互相関および自己相関を調べ、第1計測点P1~第3計測点P3の情報を用いて、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分u、第2速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ωを導出し、さらには、燃焼室51内を通過する乱れスケールを導出することができる。
【0063】
さらには、複数サイクルの熱流束時系列データに対して、上記の手順を繰り返してもよい。複数サイクルの熱流束時系列データに対して、上記の手順を繰り返し、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分u、第2速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ω、燃焼室51内を通過する乱れスケールなどの乱流特性を導出することにより、これらの乱流特性量の平均値、変動値を統計的に算出できる。また、速度を二乗したエネルギーを乱流スケールの逆数である波数のベキで表すと、ベキ指数から乱流エネルギーのスペクトル特性を導出することができる。
【0064】
このように、本実施形態に係る乱流特性の導出方法および導出装置によれば、エンジン50の燃焼室51における第1計測点P1~第3計測点P3の熱流束を検出し、第1計測点P1~第3計測点P3における熱流束の相関係数が最大となる移動時間を求め、この移動時間に基づいて燃焼室51内の乱流特性を導出している。このため、燃焼室51内における熱流束の移動を燃焼室51内の複数の点で関連付けて計測することができるので、燃焼室51における熱流束から乱流特性を精度よく導出することができる。
【0065】
また、乱流特性としては、燃焼室51の壁面に相当する平面に沿う速度の直交2成分(第1速度成分u、第2速度成分v)および壁面の法線回りの渦度ω、燃焼室51内を通過する乱れスケールなどとしている。これらの乱流特性について、燃焼室51における熱流束から精度よく導出することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る乱流特性の導出方法および導出装置によれば、検出した熱流束のデータから低周波数成分を除去して、高周波数成分によって熱流束データを作成している。このため、熱流束データに基づいて導出される乱流特性におけるエンジン回転数などに起因するノイズの影響を小さくすることができるので、乱流特性を精度よく導出することができる。
【0067】
また、本実施形態に係る乱流特性の導出方法および導出装置では、乱流熱伝達場がエンジン50における燃焼室51とされている。このため、乱流熱伝達場としての燃焼室51における乱流特性を精度よく導出することができる。なお、乱流熱伝達場は、乱流によって熱の移動が生じえる領域であればよく、エンジンの燃焼室のほか、エンジン以外の内燃機関、あるいはタービンやボイラー室などであってもよい。また、乱流熱伝達場は、エンジンの燃焼室などのように気密空間であってもよいし、気密状態ではない開放空間であってもよい。
【0068】
また、上記の実施形態では、3つの計測点で移動時間を検出して、これらの計測点における移動時間に基づいて乱流特性を導出するが、4つの計測点あるいは5つ以上の計測点で移動時間を検出し、これらの計測点における移動時間に基づいて乱流特性を導出してもよい。例えば、4つの計測点で移動時間を検出する場合には、3つの計測点を含む平面(例えばエンジンブロックの壁面)に垂直な成分を導出することができる。したがって、乱流熱伝達場における熱流束から乱流特性をさらに精度よく導出することができる。
【実施例
【0069】
次に、本実施形態に係る乱流特性の導出方法および導出装置の実施例について説明する。
[実施例1]
まず、実施例1について説明する。実施例1では、自動車用ガソリンエンジンを2000RPMの速度でモータリングさせる条件で運転し、一辺が779μmの正三角形の頂点にそれぞれ配置した第1計測点P1から第3計測点P3(図4参照)を燃焼室に設置し、第1計測点P1から第3計測点P3でそれぞれ計測した熱流束から熱流束時系列データを作成した。
【0070】
図6(A)は、第1計測点P1から第3計測点P3の3つの計測点でそれぞれ計測した熱流束のクランク角度ごとの変化を示すグラフである。図6(A)中、実線で示すグラフが第1計測点P1で計測した熱流束データ、幅の広い破線で示すグラフが第2計測点P2で計測した熱流束データ、幅の狭い破線(点線)で示すグラフが第3計測点P3で計測した熱流束データである。なお、図6(A)中における各グラフに対応する滑らかな曲線は、800Hz以下の周波数成分を示す移動平均曲線である。以後、以下のステップ1~ステップ4の手順で1サイクルの熱流束データから乱流特性を導出する。
【0071】
[ステップ1]
図6(A)に示す熱流束データから800Hz以下の周波数成分を含む移動平均データを減ずると、図6(B)に示す高周波数成分データが得られる。ここで得られる高周波数成分データは、乱流変動を含むデータである。図6(A)に示すデータは、乱流変動およびピストン運動に伴う800Hz以下の周波数成分(低周波数成分)の変動が含まれている。低周波数成分には、例えば、ピストン運動に伴う低周波数の変動が含まている。図6(B)に示すデータは、ピストン運動に伴う低周波数の変動などの乱流変動を含むデータに対してはノイズとなる低周波数成分を除去したデータである。
【0072】
[ステップ2]
続いて、図6(B)に示す3つの高周波成分熱流束データのグラフにおける2つずつの3組の組み合わせを選択し、(4)式を用いてピストンの上死点前後におけるクランク角度20度の範囲で相互相関係数を計算する。その結果を図7(A)に示す。図7(A)に示すように、第1計測点P1と第2計測点P2との間の相互相関係数Φ12が最大となるクランク角度の差は約2.01°であり、角度差を時間差に換算すると167μsである。相互相関係数Φ12の最大値を取る時間を、第1計測点P1と第2計測点P2の間の乱流変動の移動時間τ12とする。このため、第1計測点P1と第2計測点P2の間の移動時間τ12=167μs(クランク角度=2.01°)が得られる。
【0073】
また、第2計測点P2と第3計測点P3との間の相互相関係数Φ23が最大となるクランク角度の差はは約1.98°であり、時間差は165μsである。このため、第2計測点P2と第3計測点P3の間の移動時間τ23=165μs(クランク角度=1.98°)が得られる。また、第3計測点P3と第1計測点P1との間の相互相関係数Φ31が最大となるクランク角度の差はは約-3.20°であり、時間差-267μsである。このため、第3計測点P3と第1計測点P1の間の移動時間τ31=-267μs(クランク角度=-3.20°)が得られる。
【0074】
[ステップ3]
図7(A)に示す相互相関解析の結果によって得られる移動時間τ12、τ23、τ31を上記の(3)式に代入することにより、シリンダ周方向の速度(図5に示すx方向の速度)u=0.41m/s、シリンダの周から中心に向かう速度(図5に示すy方向の速度)v=-4.38m/s、シリンダヘッド内壁面の法線回りの渦度ω=19.2krad/sがそれぞれ得られた。なお(3)式におけるl=779μmである。
【0075】
[ステップ4]
続いて、図6(B)に示す3つの高周波数成分熱流束データに対して、ピストンの上死点前後におけるクランク角度20度の範囲で自己相関係数を計算する。その結果を図7(B)に示す。図7(B)に示すように、第1計測点P1の自己相関係数Φ11が極大となるクランク角度は約19.0°であり、角度差を時間差に換算すると1582μsである。自己相関係数Φ11がτ=0(クランク角度=0°)の次に極大値をとる正の時間を第1計測点P1の移動時間(通過時間)τ11とする。このため、第1計測点P1の移動時間(通過時間)τ11=1582μs(クランク角度=19.0°)が得られた。
【0076】
また、第2計測点P2の自己相関係数Φ22が極大となるクランク角度は約16.6°であり、時間差は1380μsである。このため、第2計測点P2の移動時間(通過時間)τ22=1380μs(クランク角度=16.6°)が得られた。また、第3計測点P3の自己相関係数Φ33が極大となるクランク角度は約11.4°であり、時間差は947μsである。このため、第3計測点P3の移動時間(通過時間)τ33=947μs(クランク角度=19.0°)が得られた。
【0077】
さらに、第1計測点P1から第3計測点P3のそれぞれの移動時間τ11、τ12、τ33、ステップ3で求めたx方向の速度成分u、y方向の速度成分vから、第1計測点P1から第3計測点P3の3つの乱れスケールが得られた。その結果、第1計測点P1の乱流スケールL1=6.96mm、第2計測点P2の乱流スケールL2=6.07mm、第3計測点P3の乱流スケールL3=4.17mmがそれぞれ得られた。
【0078】
上記のステップ1~ステップ4の手順を連続200サイクルの熱流束データに適用し、以下の乱流特性量が得られた。まず、x方向の速度成分uに関して、図8(A)に示すヒストグラムが得られた。図8(A)に示すヒストグラムでは、正規分布に近い分布が確認され、平均値0.068m/sと変動値±5.17m/sが得られた。y方向の速度成分vに関しては、図8(B)に示すヒストグラムが得られた。図8(B)に示すヒストグラムでは、正規分布に近い分布が確認され、平均値0.164m/sと変動値±4.45m/sが得られた。
【0079】
また、渦度ωに関しては、図9(A)に示すヒストグラムが得られた。図9(A)に示すヒストグラムでは、正規分布に近い分布が確認され、平均値-0.739krad/sと変動値±26.2krad/sが得られた。また、乱れスケールLに関しては、図9(B)に示すヒストグラムが得られた。図9(B)に示すヒストグラムでは、対数正規分布に近い分布が確認され、平均値=5.10mmに対して分布範囲が1.58mm~16.5mm(平均値の1/3.2~3.2倍)にわたる数値が得られた。また、乱流スケールの逆数と速度の二乗の間には、図10に示すように、べき指数が-1.85となる関係があり、等方性乱流の特性に比べて高波数の乱れの減衰が大きいことが分かった。
【0080】
[実施例2]
続いて、実施例2について説明する。実施例2では、自動車用ガソリンエンジンを模した実験用エンジンを2000RPMの条件で運転し、一辺が779μmの正三角形の頂点にそれぞれ配置した第1計測点P1から第3計測点P3(図4参照)を燃焼室に設置し、第1計測点P1から第3計測点P3でそれぞれ計測した熱流束から熱流束時系列データを作成した。
【0081】
図11(A)は、第1計測点P1から第3計測点P3の3つの計測点でそれぞれ計測した熱流束のクランク角度ごとの変化を示すグラフである。図11(A)中、実線で示すグラフが第1計測点P1で計測した熱流束データ、幅の広い破線で示すグラフが第2計測点P2で計測した熱流束データ、幅の狭い破線(点線)で示すグラフが第3計測点P3で計測した熱流束データである。なお、図11(A)中における各グラフに対応する滑らかな曲線は、1200Hz以下の周波数成分を示す移動平均曲線である。以後、以下のステップ1~ステップ4の手順で1サイクルの熱流束データから乱流特性を導出する。
【0082】
[ステップ1]
図11(A)に示す熱流束データから1200Hz以下の周波数成分を含む移動平均データを減ずると、図11(B)に示す高周波数成分データが得られる。ここで得られる高周波数成分データは、乱流変動を含むデータである。図11(B)に示すデータは、ピストン運動に伴う低周波数の変動などの乱流変動を含むデータに対してはノイズとなる低周波数成分を除去したデータである。
【0083】
[ステップ2]
続いて、図11(B)に示す3つの高周波成分熱流束データのグラフにおける2つずつの3組の組み合わせを選択し、(4)式を用いてピストンの上死点前-60°~0°の範囲で相互相関係数を計算する。その結果を図12(A)に示す。図12(A)に示すように、第1計測点P1と第2計測点P2との間の相互相関係数Φ12が得られる。この相互相関係数Φ12を最大とする時間差から、第1計測点P1と第2計測点P2の間の移動時間τ12=-474μs(クランク角度=-5.70°)が得られる。同様に、第2計測点P2と第3計測点P3の間の移動時間τ23=-0.833μs(クランク角度=-0.01°)、第3計測点P3と第1計測点P1の間の移動時間τ31=427μs(クランク角度=5.12°)が得られる。
【0084】
さらに、図11(B)に示す3つの高周波成分熱流束データのグラフにおける2つずつの3組の組み合わせを選択し、(4)式を用いてピストンの上死点後20°~80°の範囲で相互相関係数を計算する。その結果を図12(B)に示す。図12(A)に示すように、第1計測点P1と第2計測点P2との間の相互相関係数Φ12が得られる。この相互相関係数Φ12を最大とする時間差から、第1計測点P1と第2計測点P2の間の移動時間τ12=60.8μs(クランク角度=0.73°)が得られる。同様に、第2計測点P2と第3計測点P3の間の移動時間τ23=-148μs(クランク角度=-2.51°)、第3計測点P3と第1計測点P1の間の移動時間τ31=138μs(クランク角度=1.66°)が得られる。エンジン内では、燃焼によって乱流状態が変化するため、このように、燃焼時を境として熱流束データを分けて計算を行うことにより、燃焼前の乱流特性と燃焼後の乱流特性を分けて求めることができる。
【0085】
[ステップ3]
図12(A)に示す相互相関解析の結果によって得られる移動時間τ12、τ23、τ31を上記の(3)式に代入することにより、燃焼前の乱流特性として、方向の速度u=-0.18m/s、y方向の速度v=-2.00m/s、シリンダヘッド内壁面の法線回りの渦度ω=0krad/sがそれぞれ得られた。また、図12(B)に示す相互相関解析の結果によって得られる移動時間τ12、τ23、τ31を上記の(3)式に代入することにより、燃焼の乱流特性として、x方向の速度成分u=-13.55m/s、y方向の速度成分v=-4.14m/s、シリンダヘッド内壁面の法線回りの渦度ω=43.6krad/sがそれぞれ得られた。
【0086】
[ステップ4]
続いて、図11(A)に示す3つの高周波数成分熱流束データに対して、燃焼前(クランク角度-60°から0°)で自己相関係数を計算する。その結果を図13(A)に示す。図13(A)に示すように、第1計測点P1の自己相関係数Φ11が極大となるクランク角度は約4.44°、そのときの時間差は370μsである。このため、第1計測点P1の移動時間(通過時間)τ11=370μs(クランク角度=4.44°)が得られた。
【0087】
また、第2計測点P2の自己相関係数Φ22が極大となるクランク角度は約11.88°、そのときの時間差は990μsである。このため、第2計測点P2の移動時間(通過時間)τ22=990μs(クランク角度=11.88°)が得られた。また、第3計測点P3の自己相関係数Φ33が極大となるクランク角度は約4.8°、そのときの時間差は400μsである。このため、第3計測点P3の移動時間(通過時間)τ33=400μs(クランク角度=4.8°)が得られた。
【0088】
また、図11(A)に示す3つの高周波数成分熱流束データに対して、燃焼後(クランク角度20°から80°)で自己相関係数を計算する。その結果を図13(B)に示す。図13(B)に示すように、第1計測点P1の自己相関係数Φ11が極大となるクランク角度は約7.75°、そのときの時間差は646μsである。このため、第1計測点P1の移動時間(通過時間)τ11=646μs(クランク角度=7.75°)が得られた。
【0089】
また、第2計測点P2の自己相関係数Φ22が極大となるクランク角度は約13.0°、そのときの時間差は1086μsである。このため、第2計測点P2の移動時間(通過時間)τ22=1086μs(クランク角度=13.0°)が得られた。また、第3計測点P3の自己相関係数Φ33が極大となるクランク角度は約12.5°、そのときの時間差は1045μsである。このため、第3計測点P3の移動時間(通過時間)τ33=1045μs(クランク角度=12.5°)が得られた。
【0090】
さらに、第1計測点P1から第3計測点P3のそれぞれの移動時間τ11、τ12、τ33、ステップS3で求めたx方向の速度成分u、y方向の速度成分vから、第1計測点P1から第3計測点P3の3つの乱れスケールが得られた。その結果、燃焼前(クランク角度-60°から0°)のときには、第1計測点P1の乱流スケールL1=0.73mm、第2計測点P2の乱流スケールL2=1.99mm、第3計測点P3の乱流スケールL3=0.81mmがそれぞれ得られた。また、燃焼後(クランク角度20°から80°)のときには、第1計測点P1の乱流スケールL1=7.75mm、第2計測点P2の乱流スケールL2=13mm、第3計測点P3の乱流スケールL3=12.5mmがそれぞれ得られた。
【0091】
上記のステップ1~ステップ4の手順を連続200サイクルの熱流束データに適用し、以下の乱流特性量が得られた。具体的には、燃焼前後のx方向の速度成分uについては、それぞれ図14(A)(B)に示すヒストグラムが得られた。また、燃焼前後のy方向の速度成分vについては、それぞれ図15(A)(B)に示すヒストグラムが得られた。これらのヒストグラムの分布に見られるように、燃焼前後のx方向の速度成分uおよびy方向の速度成分vについては、燃焼の前後で速度の低下が見られ、ヒストグラムの分布は中心に集まる傾向が見られた。
【0092】
また、燃焼前後の渦度ωについては、それぞれ図16(A)(B)に示すヒストグラムが得られた。これらのヒストグラムの分布に見られるように、渦度ωについては、燃焼の前後で高い渦度の頻度が減少し、低い渦度の頻度が増加する傾向が見られた。これらの速度および渦度の変化は燃焼に伴うガスの粘性の増加が影響していると推察され、エンジン内の乱流状態を把握することができる。
【0093】
また、燃焼前後の乱れスケールLについては、それぞれ図17(A)(B)に示す分布が得られた。これらのヒストグラムの分布に見られるように、乱れスケールLについては、燃焼の前後で平均値Lavgが6.78mmから4.69mmに減少し、分布も小スケール側へ広がった。この結果から、乱れスケールLは、燃焼の前後で低下することが分かった。また、乱流スケールの逆数と速度の二乗の間には、図18に示すように、燃焼の前後でべき指数が-1.5から-1.7に変化したことが分かる。この結果から、燃焼によるガス温度の上昇に伴い、相対的に波数の大きな(スケールの小さな)乱れの減衰が生じることが分かった。
【符号の説明】
【0094】
1…乱流特性導出システム
10…乱流特性導出装置
11…熱流束検出部
12…移動時間算出部
13…乱流特性導出部
20…熱流束センサ
21…アダプタ
22…センサ部
22A…第1計測点
22B…第2計測点
22C…第3計測点
22M…基板
23…貫通穴
50…エンジン
51…燃焼室
52…エンジンブロック
53…吸気バルブ
54…排気バルブ
55…シリンダヘッド
56…ピストン
57…コンロッド
P1…第1計測点
P2…第2計測点
P3…第3計測点
図1
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