IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社北里メディカルの特許一覧

<>
  • 特許-生体細胞移植具 図1
  • 特許-生体細胞移植具 図2
  • 特許-生体細胞移植具 図3
  • 特許-生体細胞移植具 図4
  • 特許-生体細胞移植具 図5
  • 特許-生体細胞移植具 図6
  • 特許-生体細胞移植具 図7
  • 特許-生体細胞移植具 図8
  • 特許-生体細胞移植具 図9
  • 特許-生体細胞移植具 図10
  • 特許-生体細胞移植具 図11
  • 特許-生体細胞移植具 図12
  • 特許-生体細胞移植具 図13
  • 特許-生体細胞移植具 図14
  • 特許-生体細胞移植具 図15
  • 特許-生体細胞移植具 図16
  • 特許-生体細胞移植具 図17
  • 特許-生体細胞移植具 図18
  • 特許-生体細胞移植具 図19
  • 特許-生体細胞移植具 図20
  • 特許-生体細胞移植具 図21
  • 特許-生体細胞移植具 図22
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】生体細胞移植具
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/425 20060101AFI20220302BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
A61B17/425
A61M25/00 530
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018543945
(86)(22)【出願日】2017-10-04
(86)【国際出願番号】 JP2017036192
(87)【国際公開番号】W WO2018066616
(87)【国際公開日】2018-04-12
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2016197989
(32)【優先日】2016-10-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509038108
【氏名又は名称】株式会社北里コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110003111
【氏名又は名称】あいそう特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100089060
【弁理士】
【氏名又は名称】向山 正一
(72)【発明者】
【氏名】井上 太
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 千恵
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第00066488(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2005/0137448(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0310767(US,A1)
【文献】米国特許第03877430(US,A)
【文献】特開2004-129789(JP,A)
【文献】特開2001-120581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/42
A41D 19/00 - 19/04
A61M 25/00
37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵巣もしくは卵巣皮質の小断片化物である生体細胞を卵管の漿膜と卵管間に移植するための生体細胞移植具であって、
前記生体細胞移植具は、前記生体細胞を収納可能な可撓性チューブと、前記可撓性チューブ内に挿入された細胞押出シャフトとを備え、
前記可撓性チューブは、先端から後端まで貫通したルーメンと、縮径先端開口部とを備え、
前記細胞押出シャフトは、前記可撓性チューブの前記縮径先端開口部より小径である小径先端部と、前記小径先端部および前記縮径先端開口部より大径であり、かつ、前記可撓性チューブの内径より若干小さい外径を有する拡径部とを備え、
前記拡径部の先端は、前記小径先端部より前記細胞押出シャフトの後端側に位置し、
前記細胞押出シャフトの前記拡径部と前記可撓性チューブの縮径先端開口部の当接により、前記可撓性チューブ内における前記細胞押出シャフトの挿入進行が規制され、かつ、前記拡径部と前記縮径先端開口部との当接後、前記細胞押出シャフトを押し込むことにより、前記拡径部は、前記縮径先端開口部を押し広げ通過し、前記チューブの前記縮径先端開口部より突出可能であることを特徴とする生体細胞移植具。
【請求項2】
前記縮径先端開口部は、内径および外径が、先端に向かってテーパー状に縮径している請求項1に記載の生体細胞移植具。
【請求項3】
前記細胞押出シャフトは、塑性変形可能な金属製棒状部材からなる内芯を備えている請求項1または2に記載の生体細胞移植具。
【請求項4】
前記細胞押出シャフトは、前記拡径部が前記可撓性チューブの前記縮径先端開口部より突出後に、前記可撓性チューブの後端と当接する先端部突出長規制部材を備えている請求項1ないし3のいずれかに記載の生体細胞移植具。
【請求項5】
前記生体細胞移植具は、湾曲した先端領域を備えている請求項1ないし4のいずれかに記載の生体細胞移植具。
【請求項6】
前記可撓性チューブは、前記チューブの先端側部分の側面に設けられた生体細胞充填用の側口を備えている請求項1ないし5のいずれかに記載の生体細胞移植具。
【請求項7】
前記生体細胞移植具は、湾曲先端領域を備え、前記可撓性チューブは、前記チューブの先端側部分の側面に設けられた生体細胞充填用の側口を備え、前記側口は、前記湾曲先端領域の湾曲方向の側部側となる位置に形成されている請求項1ないし4のいずれかに記載の生体細胞移植具。
【請求項8】
前記生体細胞充填用の側口は、前記可撓性チューブの基端側に位置する開始端と、前記開始端より、前記可撓性チューブの中心軸方向かつ先端方向に延びる傾斜開口面と、前記傾斜開口面の先端に位置する起立開口面を備え、前記側口は、前記開始端から前記起立開口面に向かって開口幅が広がっている請求項6または7に記載の生体細胞移植具。
【請求項9】
前記小径先端部の先端と前記拡径部の先端間の距離は、0.2~10mmである請求項1ないし8のいずれかに記載の生体細胞移植具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体細胞を生体内に移植するための生体細胞移植具に関するものである。具体的には、卵巣(もしくは卵巣皮質)の小断片化物である生体細胞を卵管の漿膜と卵管間に移植するための卵巣細胞卵管漿膜下移植具である。
【背景技術】
【0002】
卵巣内には卵子の源となる原始卵胞が存在する。原始卵胞の数は胎生期にピークとなるが、その数は出生以降増加せず、加齢と共に減少する。月経が発来すると毎月1,000個程度の原始卵胞が休眠状態から活性化されて発育を開始し、卵巣局所で産生される因子および下垂体から分泌されるゴナドトロピンの内分泌作用を受けて発育を続け排卵に至る。卵巣内の残存原始卵胞の数が約1,000個以下となると、定期的な卵胞の活性化がおこらなくなり、発育した卵胞の顆粒膜細胞より分泌されるエストロゲンが欠乏し、更年期症状や子宮内膜増殖不全による無月経を呈する。同時に排卵もおこらなくなり、閉経となる.
【0003】
卵巣内の卵胞数が急激に減少し、40歳未満で残存卵胞数が限界値(約1,000個以下)以下となり閉経する疾患が早発卵巣不全(POI;primary ovarian
insufficiency)である。早発卵巣不全は、全女性の100人に1人に自然発生する。原因としては、染色体・遺伝子異常、自己免疫疾患、医原性(卵巣手術、化学療法、放射線療法)などが知られているが、原因不明のものも多い。早発卵巣不全の有効な治療法は、提供卵子(ドナー卵子)を用いた体外受精胚移植であり、自らの卵子で妊娠することは非常に困難である。しかし、日本では、提供卵子による体外受精は普及していない。その理由として、他人の卵子ではなく自分の卵子で妊娠したいという強い思いがあると考えられる。また、日本における卵子提供は禁止されてはいないものの、卵子の無償提供の原則と、卵子採取のためリスクのある卵巣刺激、採卵をドナーが受ける必要があることから、卵子提供者が非常に少ない。
【0004】
河村氏および他のグループにより提案された休眠原始卵胞の人為的活性化法(IVA;in vitro activation)が、早発卵巣不全に対して、有効であり、今後、臨床応用が進むものと考える。
休眠原始卵胞の人為的活性化法では、以下のような手技が行われる。
1)腹腔鏡下卵巣摘出
2)卵巣組織凍結、残存卵胞組織検査
3)卵巣組織培養:解凍した卵巣皮質を1-2mm大の立方、直方体状に小断片化し、PTEN抑制剤およびPI3K活性化剤を用いて卵巣組織培養を48時間行い、PI3K-Aktシグナルを活性化させる。
4)卵巣自家移植:培養終了後に卵巣組織を十分に洗浄し、腹腔鏡下に卵巣自家移植を行う。早発卵巣不全患者は卵巣の血流が悪く、移植した卵巣の着が難しいと考えられる。そこで、血流が豊富で、かつ、経腟超音波で観察しやすく採卵手技が容易である卵巣漿膜下への移植を選択している。
5)卵胞発育モニター、体外受精胚移植
卵巣自家移植後は、ホルモン検査(LH、FSH、E2)および経腟超音波を行い、卵胞発育を2週間毎に調べる.卵胞が発育した際には、通常の体外受精と同様に採卵する。成熟卵子が得られた場合は、媒精または顕微授精により受精させ、胚をガラス化法により一旦凍結保存する.消退出血を発来させ、ホルモン補充周期下に解凍胚移植を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
休眠原始卵胞の人為的活性化法は、新たな手技であり、この手技を行うためには、卵巣自家移植、具体的には、卵巣(もしくは卵巣皮質)の小断片化物である生体細胞を卵管の漿膜と卵管間に良好に移植することが重要である。
【0006】
本発明の目的は、卵巣(もしくは卵巣皮質)の小断片化物である生体細胞を卵管の漿膜と卵管間に良好に移植することができる生体細胞移植具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
卵巣もしくは卵巣皮質の小断片化物である生体細胞を卵管の漿膜と卵管間に移植するための生体細胞移植具であって、
前記生体細胞移植具は、前記生体細胞を収納可能な可撓性チューブと、前記可撓性チューブ内に挿入された細胞押出シャフトとを備え、
前記可撓性チューブは、先端から後端まで貫通したルーメンと、縮径先端開口部とを備え、
前記細胞押出シャフトは、前記可撓性チューブの前記縮径先端開口部より小径である小径先端部と、前記小径先端部および前記縮径先端開口部より大径であり、かつ、前記可撓性チューブの内径より若干小さい外径を有する拡径部とを備え、
前記拡径部の先端は、前記小径先端部より前記細胞押出シャフトの後端側に位置し、
前記細胞押出シャフトの前記拡径部と前記可撓性チューブの縮径先端開口部の当接により、前記可撓性チューブ内における前記細胞押出シャフトの挿入進行が規制され、かつ、前記拡径部と前記縮径先端開口部との当接後、前記細胞押出シャフトを押し込むことにより、前記拡径部は、前記縮径先端開口部を押し広げ通過し、前記チューブの前記縮径先端開口部より突出可能である生体細胞移植具。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明の実施例の生体細胞移植具の正面図である。
図2図2は、図1に示した生体細胞移植具の先端部の拡大縦断面図である。
図3図3は、図1に示した生体細胞移植具の基端部の拡大縦断面図である。
図4図4は、図1に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図5図5は、図1に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図6図6は、図1に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図7図7は、図1に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図8図8は、図1に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図9図9は、本発明の生体細胞移植具の他の実施例の正面図である。
図10図10は、本発明の生体細胞移植具の他の実施例の正面図である。
図11図11は、図10に示した生体細胞移植具の側口付近の拡大正面図である。
図12図12は、図10に示した生体細胞移植具の側口付近の拡大右側面図である。
図13図13は、図10に示した生体細胞移植具に使用される可撓性チューブの側口部分を説明するための拡大縦断面図である。
図14図14は、図10に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図15図15は、図10に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
図16図16は、本発明の他の実施例の生体細胞移植具の先端部の拡大縦断面図である。
図17図17は、本発明の他の実施例の生体細胞移植具の基端部の拡大縦断面図である。
図18図18は、本発明の生体細胞移植具の他の実施例の正面図である。
図19図19は、図18に示した生体細胞移植具の側口付近の拡大正面図である。
図20図20は、図18に示した生体細胞移植具の側口付近の拡大右側面図である。
図21図21は、図18に示した生体細胞移植具に使用される可撓性チューブの側口部分を説明するための拡大縦断面図である。
図22図22は、図18に示した生体細胞移植具の作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の生体細胞移植具を図面に示した実施例を用いて説明する。
本発明の生体細胞移植具1は、生体細胞12を収納可能な可撓性チューブ2と、可撓性チューブ2内に摺動可能に挿入された細胞押出シャフト3とを備える。可撓性チューブ2は、先端から後端まで貫通したルーメン24と、縮径先端開口部23とを備える。細胞押出シャフト3は、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より小径である小径先端部32と、小径先端部32および縮径先端開口部23より大径であり、かつ、可撓性チューブ2の内径より若干小さい外径を有する拡径部33とを備え、拡径部33の先端は、小径先端部32と近接しかつ細胞押出シャフト3の後端側に位置する。細胞押出シャフト3の拡径部33と可撓性チューブ2の縮径先端開口部23の当接により、可撓性チューブ2内における細胞押出シャフト3の挿入進行が規制され、かつ、拡径部33と縮径先端開口部23との当接後、細胞押出シャフト3を押し込むことにより、拡径部33は、縮径先端開口部23を押し広げ通過し、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より突出可能なものとなっている。
【0010】
図示する実施例の生体細胞移植具1は、多数の生体組織小断片化物を移植部位に同時に移植するためのものである。特に、図示する生体細胞移植具1は、卵巣の小断片化物を多数、同時に卵管の漿膜と卵管間への移植に有効な卵巣細胞卵管漿膜下移植具に応用した実施例である。
この実施例の生体細胞移植具(卵巣細胞卵管漿膜下移植具)1は、生体細胞12を収納可能な可撓性チューブ2と、可撓性チューブ2内に摺動可能に挿入された細胞押出シャフト3とを備える。
可撓性チューブ2は、図1ないし図3に示すように、チューブ本体21と、チューブ本体21の先端に形成された縮径先端開口部23と、チューブ本体21の後端部に形成されたテーパー状拡径部26を備える。そして、可撓性チューブ2は、先端(縮径先端開口部23)から後端(テーパー状拡径部26の後端27)まで貫通したルーメン24を備えている。
【0011】
可撓性チューブは、長さ50~300mm、好ましくは、100~250mmである。また、外径は、1~5mm、好ましくは、1.5~3.5mmである。また、内径は、0.8~4.8mm、好ましくは、1.3~3.3mmである。可撓性チューブの形成材料としては、ある程度の保形性を備えるものが好ましい。可撓性チューブの形成材料としては、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー)、ポリアミド(例えば、6ナイロン、66ナイロン)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFE)などが使用できる。さらに、チューブ2の外面には、図1に示すように、複数の挿入深度確認用マーカー22を付すことが好ましい。
【0012】
縮径先端開口部23は、少なくとも内径が他の部分(縮径先端開口部23より後端側部分)より小径となっている。この実施例の生体細胞移植具1では、チューブ2の先端の内径は、先端に向かってテーパー状に縮径している。このようにすることにより、細胞押出シャフト3の押し込時における縮径先端開口部23のシャフト3の拡径部の通過が容易となる。なお、縮径先端開口部23の内径は、縮径先端開口部23より後端側部分の内径の65/100~95/100が好ましく、特に、70/100~90/100が好ましい。
【0013】
また、この実施例の生体細胞移植具1では、チューブ2の先端部は、外径も先端に向かってテーパー状に縮径している。このため、チューブの先端部の移植部位への挿入が容易なものとなっている。テーパー状縮径部の長さは、1~10mmが好ましく、特に、2~7mmが好ましい。
【0014】
テーパー状拡径部26は、内径、外径ともに他の部分(テーパー状拡径部26より先端側部分)より大径となっている。テーパー状拡径部26の外径は、テーパー状拡径部26より先端側部分の外径の1.1~1.5倍が好ましく、特に、1.2~1.4倍が好ましい。また、テーパー状拡径部26の長さは、5~50mmが好ましく、特に、10~40mmが好ましい。
【0015】
細胞押出シャフト3は、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より小径である小径先端部32と、小径先端部32および縮径先端開口部23より大径であり、かつ、可撓性チューブ2の内径より若干小さい外径を有する拡径部33とを備える。拡径部33の先端は、小径先端部32と近接しかつ細胞押出シャフト3の後端側に位置する。具体的には、小径先端部32の先端と拡径部33の先端間の距離は、0.2~10mm程度が好ましく、特に、0.5~5mm程度が好ましい。
【0016】
この実施例の細胞押出シャフト3は、図2および図3に示すように、シャフト本体31と、シャフト本体31の先端に設けられた小径先端部32と、小径先端部32より大径である拡径部33とを備えている。また、実施例の細胞押出シャフト3は、内芯35と、内芯35を被包する内芯被覆部36と、内芯被覆部36を被包する外層37とを備えている。そして、この実施例の細胞押出シャフト3では、外層37の先端が、内芯被覆部36の先端より所定長基端側に位置し、外層37の先端部により、拡径部33が形成されている。
【0017】
内芯35としては、ある程度の剛性を有するものが好ましい。具体的には、内芯35としては、金属製線状部材もしくは硬質樹脂製線状部材が好適である。特に、塑性変形可能な金属製棒状部材が好適である。棒状部材としては、中実状もしくは中空状のいずれのものであってもよい。内芯35として、塑性変形可能な金属製棒状部材を用いることにより、シャフト3および生体細胞移植具1の先端部の所用形状への形状付けが可能となる。金属製棒状部材としては、ステンレス鋼などの金属線が好適であり、特に、焼き鈍ししたステンレス鋼が好ましい。
【0018】
シャフト3の小径先端部32の先端(内芯被覆部36の先端)は、図2に示すように先端に向かって縮径する半球状に形成されている。このため、生体内への挿入および抜去時に生体内壁に損傷を与えることを防止できる。また、内芯被覆部36は、内芯35の先端および後端を含む全体を被包するものとなっている。
【0019】
内芯被覆部36の形成材料としては、ポリエステル、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー)、ポリアミド(例えば、6ナイロン、66ナイロン)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート)、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFE)などが使用できる。
【0020】
さらには、内芯被覆部36の形成材料としては、可撓性を有するものを用いてもよい。例えば、ウレタンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴムなどの合成ゴム、ラテックスゴムなどの天然ゴム、軟質塩化ビニール、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレンコポリマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレンとポリエチレンもしくはポリブテンの混合物)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート)、ポリアミド、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、スチレン系エラストマー(例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマー、スチレン-エチレンブチレン-スチレンコポリマー)などのエラストマー、ポリウレタン、特に、熱可塑性ポリウレタン(熱可塑性ポリエーテルポリウレタン、熱可塑性ポリエステルポリウレタン、特に、好ましくは、ソフトセグメント部分とハードセグメント部分を有するセグメント化熱可塑性ポリエーテルポリウレタン、より具体的には、ソフトセグメントの主成分としては、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが好ましく、ハードセグメントの主成分としては、1、4-ブタンジオールなどが好ましい。)等が使用できる。好ましくは、シリコーンゴムなどのゴム、もしくはエラストマーである。特に、好ましくは、シリコーンゴムである。シリコーンゴムとしては、200%モジュラス30~90kg/cm程度、好ましくは、40~60kg/cm のものが用いられる。
【0021】
この実施例の外層37は、内芯被覆部36の先端部および基端部が露出するように、内芯被覆部36の側部を被覆している。なお、外層37は、内芯被覆部36の後端部を被覆してもよい。また、内芯被覆部と外層は、一体に形成されたものであってもよい。外層37の形成材料としては、上述した内芯被覆部36にて説明した形成材料が使用できる。特に、外層37は、可撓性チューブ2の内面との摺接抵抗が少ないことが好ましい。この点より、外層37の形成材料としては、フッ素樹脂(例えば、PTFE、ETFE)が好適である。
また、細胞押出シャフト3の先端部およびチューブ2の先端部内面は、細胞難付着性表面となっていてもよい。このようにすることにより、付着に起因する細胞残留が極めて少ないものとなる。細胞難付着性表面は、例えば、生体投与可能なシリコーンオイル、植物性オイルなどのオイルを用いることができる。
【0022】
なお、この実施例の生体細胞移植具1では、シャフト3のほぼ全体に外層37が形成されている。外層37を備えることにより、操作安定性、具体的には、シャフト3の前後の摺動操作性が良好となる。しかし、外層37を有するものに限定されるものではなく、例えば、図16および図17に示す生体細胞移植具1dのように、シャフト3cの先端部分にのみ外層37aが形成されたものであってもよい。この実施例のシャフト3cでは、シャフト本体31cの先端側部分にのみ外層37aが形成されており、外層37aの後端より後方は、内芯35と内芯被覆部36により構成され、拡径部33より、小径なものとなっている。
【0023】
細胞押出シャフト3は、可撓性チューブ2より、所定長長いものとなっている。シャフト3の全長は、50~300mm、好ましくは、100~250mmである。また、外径は、1~3mm、好ましくは、1~2.5mmである。
また、この実施例のシャフトでは、後端部にチューブ状の把持部34が設けられている。把持部34は、シャフトの摺動操作時に把持される。
【0024】
さらに、この実施例の細胞押出シャフト3では、基端側部分に、先端部突出長規制部材38が設けられている。この規制部材38は、シャフト3の押込により、チューブ2の後端27に当接し、それ以上のシャフトの押込を防止する。このような規制部材38を設けることにより、シャフト3の押込時におけるシャフトの先端部の突出長を設定することができ、過剰な先端部の突出を防止できる。また、当接するまで押し込む必要があることを術者が認識できるため、確実にシャフトの先端部の拡径部をチューブの先端より突出させることができ、細胞のチューブ内に残留を防止できる。
【0025】
この実施例の規制部材38は、図3に示すように、チューブ2の後端27の後端面に当接可能なリング状部材である。規制部材38の形成材料としては、内芯被覆部36の形成材料として説明したものが好適に使用できる。
そして、この実施例の生体細胞移植具(卵巣細胞卵管漿膜下移植具)1は、細胞押出シャフト3の拡径部33と可撓性チューブ2の縮径先端開口部23の当接により、可撓性チューブ2内における細胞押出シャフト3の挿入進行が規制されるものとなっている。図2に示すように、可撓性チューブ2内に挿入された細胞押出シャフト3は、シャフト3の小径先端部3の先端部が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より突出し、シャフト3の拡径部33が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23に当接することにより、それ以上の挿入が規制される。
【0026】
この状態において、シャフト3の小径先端部3の先端部は、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より若干突出している。シャフト3の小径先端部3の可撓性チューブ2の縮径先端開口部23からの突出長としては、0.2~5mmが好適であり、特に、0.5~3mmが好ましい。
また、シャフト3の拡径部33が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23に当接した状態において、図3に示すように、シャフト3の後端側部分は、チューブ2の後端27より突出している。また、シャフト3の規制部材38は、チューブ2の後端27に当接していない。
【0027】
そして、シャフト3の拡径部33と可撓性チューブ2の縮径先端開口部23が当接した状態において、細胞押出シャフト3を押し込むと、図5に示すように、シャフト3の拡径部33は、チューブ2の縮径先端開口部23を押し広げ通過し、拡径部33の先端が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より突出する。また、拡径部33の先端が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より突出した後、シャフト3の規制部材38が、チューブ2の後端27に当接する。これにより、それ以上のシャフト3の先端方向への摺動が規制される。
【0028】
次に、本発明の生体細胞移植具1の作用を図6ないし図8を用いて説明する。
例えば、腹腔鏡下にて卵巣を摘出し、摘出した卵巣組織を凍結保存する。そして、解凍した卵巣組織(卵巣皮質)を1~2mm程度の大きさに小断片化し、PTEN抑制剤およびPI3K活性化剤を用いて卵巣組織培養を48時間行い、PI3K-Aktシグナルを活性化させる。そして、培養終了後に卵巣組織を十分に洗浄し、腹腔鏡下に卵巣自家移植を行う。最初に、細胞押出シャフト3を若干、後端側に引き、可撓性チューブ2の先端部内に、細胞収納部が形成された本発明の生体細胞移植具1を準備する。続いて、多数の小断片化卵巣組織を必要によりアプリケータを用いて、可撓性チューブ2の先端開口部より、チューブ2の先端部の細胞収納部に充填する。
【0029】
腹腔鏡下にて、卵管付近を部分切開し、切開により発現した卵管の漿膜と卵管間13に、上記のように準備した本発明の生体細胞移植具1の先端部を配置する。そして、シャフト3を先端側に摺動させることにより、チューブ2内に充填された小断片化卵巣組織は、卵管の漿膜と卵管間13に徐々に移植される。そして、シャフト3の先端方向の進行が進むことにより、図7に示すように、シャフト3の規制部材38が、チューブ2の後端27に当接する。これにより、チューブ2内の大半の小断片化卵巣組織の移植が進行したことが確認できる。さらに、シャフト3を押し込むことにより、図8に示すように、シャフト3の拡径部33は、チューブ2の縮径先端開口部23を押し広げ通過し、拡径部33の先端が、可撓性チューブ2の縮径先端開口部23より突出する。これにより、シャフト2内のほぼすべての小断片化卵巣組織は、卵管の漿膜と卵管間13に移植される。
【0030】
また、本発明の生体細胞移植具は、図9に示す生体細胞移植具1aのように、湾曲先端領域10を備えるものであってもよい。湾曲先端領域10は、細胞押出シャフト3の先端部を湾曲形状に形状付けし、これにより、可撓性チューブ2aを湾曲追従するものとすることにより形成できる。さらには、細胞押出シャフト3の先端部および可撓性チューブの先端部をともに湾曲形状に形状付けすることにより、形成することもできる。湾曲先端領域10は、生体細胞移植具1aの先端から20~100mmの部分を湾曲させることにより形成することが好ましい。
【0031】
また、本発明の生体細胞移植具は、図10に示す生体細胞移植具1bのように、生体細胞充填用の側口25を備えるものであってもよい。生体細胞充填用の側口25は、可撓性チューブ2bの先端側領域に形成することが好ましい。
生体細胞充填用の側口25としては、図11ないし図15に示すように、可撓性チューブ2bの先端方向に向かって、側口が深くなるものが好ましい。この実施例のものでは、側口25は、基端側に位置する開始端25aと、開始端25aより、可撓性チューブ2bの中心軸方向かつ先端方向に延びる傾斜開口面25cと、傾斜開口面25cの先端に位置する起立開口面25bを備えている。側口25は、開始端25aから起立開口面25bに向かって開口幅が広がっている。また、側口25は、開始端25aから起立開口面25bに向かって、側口の深さが深くなっている。
【0032】
側口25の軸方向長としては、5~15mmが好適であり、特に、7~12mmが好ましい。側口(開口)25の最大幅における幅は、可撓性チューブ2bの内径と同じもしくは近いものであることが好ましい。起立面25bは、可撓性チューブ2bの中心軸に直交するものが好ましい。そして、側口25を上記のような形態とすることにより、図14に示す様に、側口25より、可撓性チューブ2bの先端側に確実かつ容易に、生体細胞を充填することができる。また、図15に示すように、細胞押出シャフト3をその小径先端部32が、側口25の先端付近に位置する状態にて、生体に挿入することができ、挿入時における側口25でのキンクを防止できる。
【0033】
また、図10に示す生体細胞移植具1bでは、上述した生体細胞移植具1と同様に、湾曲先端領域10を備えている。この実施例の生体細胞移植具1bでは、湾曲先端領域10の基端側である非湾曲先端領域(ストレート部分)の先端部に、生体細胞充填用の側口25が設けられている。なお、開口25は、湾曲先端領域10に設けてもよく、位置は、先端部でも基端部でもよい。
【0034】
そして、この実施例では、側口25は、図12に示す様に、湾曲先端領域10の湾曲方向の側部側となる位置に形成されている。言い換えれば、側口25は、図12に示す様に、湾曲先端領域10の湾曲方向の内側および外側ではなく、側面側となる位置に形成されている。このため、可撓性チューブ2bを作業台等の平面部に、湾曲先端領域も平面部に接触するように載置したとき、側口25が上面を向くものとなる。これにより、側口への細胞充填操作が容易なものとなる。
また、湾曲先端領域を備えない可撓性チューブに生体細胞充填用の側口を設ける場合には、側口は、先端付近に設けることが好ましい。
【0035】
また、本発明の生体細胞移植具における生体細胞充填用の側口は、図18ないし図22に示す生体細胞移植具1cが備える側口85のような形態のものであってもよい。この実施例においても生体細胞充填用の側口85は、可撓性チューブ2cの先端側領域に形成することが好ましい。
この実施例における生体細胞充填用の側口85は、図18ないし図22に示すように、可撓性チューブ2cの基端方向に向かって、側口が深くなるものとなっている。また、側口85は、先端側に位置する開始端85aと、開始端85aより、可撓性チューブ2cの中心軸方向かつ基端方向に延びる傾斜開口面85cと、傾斜開口面85cの終端に位置する起立開口面85bを備えている。側口85は、開始端85aから起立開口面85bに向かって開口幅が広がっている。また、側口85は、開始端85aから起立開口面85bに向かって、側口の深さが深くなっている。
【0036】
側口85の軸方向長としては、5~15mmが好適であり、特に、7~12mmが好ましい。側口(開口)85の最大幅における幅は、可撓性チューブ2cの内径と同じもしくは近いものであることが好ましい。起立面85bは、可撓性チューブ2cの中心軸に直交するものが好ましい。そして、側口85を上記のような形態とすることにより、図22に示す様に、側口85より、可撓性チューブ2cの基端側に確実かつ容易に、生体細胞を充填することができる。
【0037】
また、この実施例の生体細胞移植具1cでは、図18に示すように、上述した生体細胞移植具1bと同様に、湾曲先端領域10を備えている。この実施例の生体細胞移植具1cでは、湾曲先端領域10の基端側である非湾曲先端領域(ストレート部分)の先端部に、生体細胞充填用の側口85が設けられている。なお、開口85は、湾曲先端領域10に設けてもよく、位置は、先端部でも基端部でもよい。
【0038】
そして、この実施例の生体細胞移植具1cにおいても、側口85は、図18に示す様に、湾曲先端領域10の湾曲方向の側部側となる位置に形成されている。言い換えれば、側口85は、図18に示す様に、湾曲先端領域10の湾曲方向の内側および外側ではなく、側面側となる位置に形成されている。このため、可撓性チューブ2cを作業台等の平面部に、湾曲先端領域も平面部に接触するように載置したとき、側口85が上面を向くものとなる。これにより、側口への細胞充填操作が容易なものとなる。
また、湾曲先端領域を備えない可撓性チューブに生体細胞充填用の側口を設ける場合には、側口は、先端付近に設けることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の生体細胞移植具は、以下のものである。
(1) 生体細胞を収納可能な可撓性チューブと、前記可撓性チューブ内に挿入された細胞押出シャフトとを備える生体細胞移植具であって、
前記可撓性チューブは、先端から後端まで貫通したルーメンと、縮径先端開口部とを備え、
前記細胞押出シャフトは、前記可撓性チューブの前記縮径先端開口部より小径である小径先端部と、前記小径先端部および前記縮径先端開口部より大径であり、かつ、前記可撓性チューブの内径より若干小さい外径を有する拡径部とを備え、前記拡径部の先端は、前記小径先端部と近接しかつ前記細胞押出シャフトの後端側に位置し、
前記細胞押出シャフトの前記拡径部と前記可撓性チューブの縮径先端開口部の当接により、前記可撓性チューブ内における前記細胞押出シャフトの挿入進行が規制され、かつ、前記拡径部と前記縮径先端開口部との当接後、前記細胞押出シャフトを押し込むことにより、前記拡径部は、前記縮径先端開口部を押し広げ通過し、前記チューブの前記縮径先端開口部より突出可能である生体細胞移植具。
【0040】
この生体細胞移植具によれば、可撓性チューブに生体細胞、例えば、多数の卵巣の小断片化物を充填した後、充填部位にシャフトの先端部が当接もしくは近接する状態にて、細胞移植部位、例えば、卵管の漿膜と卵管間に、生体細胞移植具の先端部を配置した後、シャフトを先端方向に進行させることにより、生体細胞を移植部位に移植可能である。また、シャフトの進行により、シャフトの拡径部が、チューブの縮径先端開口部に当接し、充填細胞の大半が移植具より吐出されたことを操作者は容易に認識する。さらに、シャフトを押し込むことにより、チューブ内残留生体細胞が、チューブより押し出され、移植部位に移植される。チューブ内の生体細胞を確実に押出し可能であり、かつ、残留細胞押出し作業をおこなっていることを、押込抵抗より、操作者が容易に認識できる。これにより、良好に、生体細胞を目的移植部位に移植することができる。
【0041】
また、上記の実施態様は、以下のものであってもよい。
(2) 前記縮径先端開口部は、内径および外径が、先端に向かってテーパー状に縮径している上記(1)に記載の生体細胞移植具。
(3) 前記細胞押出シャフトは、塑性変形可能な金属製棒状部材からなる内芯を備えている上記(1)または(2)に記載の生体細胞移植具。
(4) 前記細胞押出シャフトは、前記拡径部が前記可撓性チューブの前記縮径先端開口部より突出後に、前記可撓性チューブの後端と当接する先端部突出長規制部材を備えている上記(1)ないし(3)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
(5) 前記生体細胞移植具は、湾曲した先端領域を備えている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
(6) 前記可撓性チューブは、前記チューブの先端側部分の側面に設けられた生体細胞挿入用側口を備えている上記(1)ないし(5)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
(7) 前記生体細胞移植具は、湾曲先端領域を備え、前記可撓性チューブは、前記チューブの先端側部分の側面に設けられた生体細胞充填用の側口を備え、前記側口は、前記湾曲先端領域の湾曲方向の側部側となる位置に形成されている上記(1)ないし(4)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
(8) 前記生体細胞移植具は、多数の生体組織小断片化物を移植するためのものである上記(1)ないし(7)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
(9) 前記生体細胞移植具は、卵巣の小断片化物を卵管の漿膜と卵管間に移植するためのものである上記(1)ないし(8)のいずれかに記載の生体細胞移植具。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22