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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】近視治療のための眼用レンズ
(51)【国際特許分類】
   G02C 7/02 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
G02C7/02
【請求項の数】 40
(21)【出願番号】P 2019506147
(86)(22)【出願日】2017-07-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 US2017044635
(87)【国際公開番号】W WO2018026697
(87)【国際公開日】2018-02-08
【審査請求日】2020-07-20
(31)【優先権主張番号】62/502,995
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/369,351
(32)【優先日】2016-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517075883
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ワシントン
【氏名又は名称原語表記】University of Washington
【住所又は居所原語表記】4545 Roosevelt Way NE, Suite 400, Seattle, Washington 98105 US
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ネイツ,ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】クチェンベッカー,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ネイツ,モーリーン
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-513252(JP,A)
【文献】国際公開第2015/147758(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104678572(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡フレームと、
眼鏡フレームに取り付けられる第1眼用レンズであって、該第1眼用レンズは、第1領域、及び、該第1領域を取り囲む第2領域を含み、前記第1眼用レンズの前記第2領域は間隔を空けられる複数のドットを含み、前記第1眼用レンズの前記第1領域はドットを有しない、第1眼用レンズと、
前記眼鏡フレームに取り付けられる第2眼用レンズであって、該第2眼用レンズは、第1領域、及び、該第1領域を取り囲む第2領域を含み、前記第2眼用レンズの前記第2領域は間隔を空けられる複数のドットを含み、前記第2眼用レンズの前記第1領域はドットを有しない、第2眼用レンズと、
を備え、
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記ドットは、それぞれ、0.08mm以上0.5mm以下の最大寸法を有かつ、それぞれ、0.8mm以下の間隔を空けられ、それぞれの眼用レンズによって伝達された入射光に対して、それらの眼用レンズは、前記ドット上で光入射を散乱する、眼鏡。
【請求項2】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は、前記眼鏡の着用者の視覚軸と一直線に並ぶ、請求項1に記載の眼鏡。
【請求項3】
前記各ドットは同じ大きさである、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項4】
前記ドットは0.6mm以下の間隔を空けられる、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項5】
前記ドットは0.5mm以下の間隔を空けられる、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項6】
前記ドットは0.4mm以下の間隔を空けられる、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項7】
前記ドットは0.35mm以下の間隔を空けられる、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項8】
前記ドットは正方形グリッド上に配置される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項9】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は2mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項10】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は3mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項11】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は4mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項12】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は5mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項13】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は6mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項14】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は7mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項15】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は8mm以上の最大寸法を有する、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項16】
前記第1眼用レンズ及び前記第2眼用レンズの前記第1領域は円形である、請求項2に記載の眼鏡。
【請求項17】
前記ドットは対応するレンズの表面にある隆起物である、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項18】
前記隆起物は透過性材料で形成される、請求項17に記載の眼鏡。
【請求項19】
前記透過性材料は透明である、請求項18に記載の眼鏡。
【請求項20】
前記透過性材料は色付きである、請求項18に記載の眼鏡。
【請求項21】
前記透過性材料はレンズ材料と同じ屈折率を有する、請求項18に記載の眼鏡。
【請求項22】
前記隆起物は球体である、請求項17に記載の眼鏡。
【請求項23】
前記ドットは、前記対応するレンズの表面にある凹部である、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項24】
前記ドットは、各レンズの対面する表面の間の含有物である、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項25】
前記レンズは透明レンズである、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項26】
前記眼鏡は色付き眼鏡である、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項27】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも30%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項28】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも35%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項29】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも40%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項30】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも45%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項31】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも50%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項32】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも55%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項33】
前記ドットパターンは、前記第2領域を通して見られる物体の像コントラストを、前記第1領域を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも60%低減させ、像コントラストは、白黒の正方形のチェックボードの異なる部分間の明度差に基づいて、又は、前記第1領域又は前記第2領域における各レンズの光学伝達関数に基づいて決定される、請求項1又は2に記載の眼鏡。
【請求項34】
前記間隔を空けられる複数のドットに対応する前記レンズの表面に個々の量の材料を堆積すること、及び、
前記間隔を空けられる複数のドットを形成する前記レンズ表面に隆起物を設けるように、前記堆積材料を硬化することを含む、請求項1又は2に記載の眼鏡を製作する方法。
【請求項35】
前記材料は、インクジェットプリンタを使用して堆積される、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記堆積材料は、放射を使用して硬化される、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記放射は紫外線放射を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
当該眼鏡は、人間被験者の近視の進行速度を低減する、請求項1に記載の眼鏡。
【請求項39】
それぞれの眼用レンズ用に、前記ドットはグリッドパターンで配置される、請求項1に記載の眼鏡。
【請求項40】
それぞれの眼用レンズ用に、前記ドットはセミランダム又はランダムなパターンで配置される、請求項1に記載の眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近視治療のための眼用レンズ、このようなレンズの形成方法、このようなレンズの使用方法、及びこのようなレンズの有効性を監視するための方法を特徴とする。
【背景技術】
【0002】
眼は、外部源からの光が、レンズによって、波長依存フォトセンサの配列である網膜の表面で焦点を結ばれる、光学センサである。眼の水晶体が受け入れられる様々な形態の各々は、眼によって観察される外部の像に一致する倒立像を網膜の表面上に生成するように、外部光線が最適に若しくはほぼ最適に焦点を結ばれる焦点距離に関連する。眼の水晶体が受け入れられる様々な形態の各々において、眼の水晶体は、眼から一定の距離の範囲内にある外部物体から放射又は反射される光の焦点を最適に若しくはほぼ最適に結び、その距離の範囲外にある物体に焦点を合わせるのはあまり最適ではなく、若しくは焦点を合わせられない。
【0003】
通常の視力を有する者においては、眼軸長又は水晶体から網膜表面までの距離が、遠くの物体にほぼ最適に焦点を合わせるための焦点距離に一致する。通常の視力を有する者の眼は、“遠近調節”と呼ばれる、眼の水晶体の形状を変えるための力を加える、筋肉への神経性入力をしないで、遠くの物体に焦点を合わせる。より近くにある近傍物体は、遠近調節の結果として通常の者によって焦点を合わせられる。
【0004】
しかしながら、多くの人は、近視(“近眼”)などの眼軸長に関連する疾患に苦しんでいる。近視の者は、眼の軸長が、遠近調節なしで遠くの物体に焦点を合わせるのに必要とされる軸長よりも長い。その結果、近視の者は近くにある物体は明瞭に見えるが、より離れたところにある物体はぼやけて見える。近視の者は一般的に遠近調節を行うことが可能であるが、焦点を合わせられる物体の平均距離は通常の視力を有する者より短い。
【0005】
通常、幼児は生まれながら遠視で、眼軸長は、遠近調節なしで遠くの物体に最適に若しくはほぼ最適に焦点を合わせるのに必要とされるよりも短い。“正視化現象”と呼ばれる眼の正常な発達の間に、眼軸長は、眼の他の寸法に相対的に、遠近調節なしで遠くの物体にほぼ最適に焦点を合わせる長さまで増加する。眼が最終的な大人の大きさまで成長するにつれて、生物学的過程が、眼の大きさに対してほぼ最適な相対的な眼軸長を維持するのが理想である。しかしながら、近視の者においては、全体的な眼の大きさに対する相対的な眼軸長は、発達の間に増加し続け、遠くの物体にほぼ最適に焦点を合わせる長さを超えて、次第に顕著な近視へと導く。
【0006】
近視は遺伝的要因と同様に、行動要因による影響を受けると考えられている。従って、近視は行動要因に対処する治療装置によって軽減され得る。例えば、近視を含む眼軸長に関連する疾患を治療するための治療装置は、米国特許出願公開第2011/0313058(A1)号明細書に記載されている。
【発明の概要】
【0007】
眼軸長の延長の原因となる、網膜の信号を低減する眼鏡及びコンタクトレンズが開示される。例示の実施形態は、紫外線によってレンズに硬化され結合される、透明な液体プラスチックの隆起物のパターンを適用することで処理された、ポリカーボネート又はトライベックスのレンズブランクを使用して製作される。各透明プラスチックの隆起物は、それが結合する下層のポリカーボネートと同様の屈折率を有するので、隆起物の位置では、隆起物と下層のレンズは単一の光学部品として機能する。このような光学部品の配列は、配列によって伝達される光を全方向にかなり均一に分散する、収差が大きいレンズ配列として働く。その結果、網膜像におけるコントラストが低減する。眼鏡レンズは、使用者の視野の周辺にある物体は、コントラストと明瞭度とが低減して見えるが、使用者が軸上の物体を見るときに最大の視力を経験できるようにする、レンズ軸に位置する隆起物のない間隙を有する。
【0008】
一例では、網膜上の像は、隆起物配列なしでレンズによって生成され得る物の74%の平均光度を有する、正常に焦点が合った像からなる。焦点が合った像に重ね合わせられるのは、正常に焦点が合った像の平均輝度の25%に等しい、均一な網膜照度の背景である。
【0009】
これらの眼鏡に関して、屈折異常を矯正する(しかし治療しない)のに通常使用される物に比べて、焦点の合った像のコントラストが低減される。コントラスト低減の正確な量は、伝達される像における暗い及び明るい面積の相対量による。上記の例に関して、光の24%が均一に分散されるとき、最大コントラスト低減は、コントラストが輝度差/平均輝度として定義されるところで、48%となり得る。実験によって、このコントラスト低減量が、眼軸長の延長の制御を担うメカニズムに関連する眼の生理機能に対して大幅な影響を有することが実証された。
【0010】
本発明の様々な態様が以下に要約される。
【0011】
一般的に、第一態様では、本発明は、眼鏡フレームと、フレームに取り付けられる一組の眼用レンズとを含む眼鏡を特徴とする。レンズは各レンズに分布されるドットパターンを含み、ドットパターンは1mm以下の距離で間隔を空けられるドットの配列を含み、各ドットは0.3mm以下の最大寸法を有する。
【0012】
眼鏡の実装は、後続の特徴及び/又は他の態様の特徴のうちの1つ以上を含み得る。例えば、各ドットは0.2mm以下(例えば、0.1mm以下、0.05mm以下、0.02mm以下、0.01mm以下)の最大寸法を有し得る。いくつかの実施形態では、各ドットはほぼ同じ大きさである。ドットは0.8mm以下(例えば、0.6mm以下、0.5mm以下、0.4mm以下、0.35mm以下)の間隔を空けられることがある。ドットは、正方形グリッド、六角形グリッド、他のグリッド上に、又はセミランダム若しくはランダムなパターンで配置され得る。ドットは、例えば0.55mm、0.365mm、又は0.24mmなどの、一定の間隔で離され得る。あるいは、ドット間隔はレンズの中心からのドットの距離によって変化し得る。例えば、ドット間隔は、レンズの中心からの距離が増加するにつれて、単調に増加又は単調に減少することがある。
【0013】
ドットパターンは、1mmより大きい最大寸法を有する、ドットのない透明間隙を含み、透明間隙は眼鏡の着用者の視覚軸と一直線に配置される。透明間隙は、2mm以上(例えば、3mm以上、4mm以上、5mm以上、6mm以上、7mm以上、8mm以上)かつ1.5cmまで(例えば、1.5cm以下、1.4cm以下、1.3cm以下、1.2cm以下、1.1cm以下、1.0cm以下)の最大寸法(例えば直径)を有することができる。透明間隙は、八角形、正方形、又は他の多角形形状などの、ほぼ円形又は同様の形状の場合がある。
【0014】
いくつかの実施形態では、ドットは、対応するレンズの表面にある隆起物である。隆起物は透過性材料で形成され得る。いくつかの場合においては、透過性材料は透明及び/又は無色である。代替的に若しくは付加的に、透過性材料の少なくともいくつかは、色付けされ得る(例えば、赤色の波長を吸収する色素で)。透過性材料は、レンズ材料と実質的に同じ屈折率を有し得る。隆起物は実質的に球形又は半球形の場合がある。
【0015】
ある実施形態では、ドットは対応するレンズの表面にある凹部である。
【0016】
ドットは各レンズの対面する表面の間の含有物の場合がある。
【0017】
レンズは透明レンズの場合がある。いくつかの実施形態では、レンズは色付きレンズである。
【0018】
ドットパターンは、ドットパターンを通して見られる物体の像コントラストを、透明間隙を通して見られる物体の像コントラストと比較して、少なくとも30%(例えば、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%)低減させる。いくつかの実施形態では、レンズは、透明間隙を通る着用者の軸上の視力を20/20以上(例えば20/15)に矯正する屈折力を有し、ドットパターンを通る着用者の周辺視野の少なくとも一部に関しては、レンズは着用者の視力を20/25以上、20/30以上、20/40以上、若しくは同様に矯正する。
【0019】
他の態様では、本発明は、ドットパターンに対応するレンズの表面に材料の個々の分量を堆積することと、ドットパターンを形成するレンズ表面の隆起物をもたらすように、堆積された材料を硬化することとを含む、眼鏡を製作する方法を特徴とする。材料はインクジェットプリンタを使用して堆積され得る。堆積される材料は放射(例えば紫外線放射)を使用して硬化され得る。
【0020】
一般的に、他の態様では、本発明は、眼鏡フレームと、フレームに取り付けられる一組の眼用レンズと、を含む、着用者のためにカスタマイズされる眼鏡を特徴としており、レンズは着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する屈折力を有し、レンズは各レンズにわたって分布されるドットパターンを含み、ドットパターンはドットの配列を含み、ドットの配列は、着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、レンズが着用者の視力を20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように配置される。眼用レンズの実施形態は、他の態様の特徴のうちの1つ以上を含み得る。
【0021】
一般的に、さらなる態様では、本発明は、眼鏡フレームと、フレームに取り付けられる一組の眼用レンズと、を含む、着用者のためにカスタマイズされる眼鏡を特徴としており、レンズは着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する屈折力を有する。眼鏡は各レンズにわたって分布される光学的拡散体を含み、光学的拡散体は、着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、レンズが着用者の視力を20/40以上、20/30以上、若しくは20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように構成される。
【0022】
眼用レンズの実施形態は、後続の特徴及び/又は他の態様の特徴のうちの1つ以上を含み得る。例えば、光学的拡散体は、各レンズの表面に積層されるフィルムを含み得る。レンズは各々、1mmより大きい最大寸法を有する、光学的拡散体のない透明間隙を含む場合があり、透明間隙は眼鏡の着用者の視覚軸と一直線に配置される。
【0023】
一般的に、さらなる態様では、本発明は、2つの対面する湾曲面と、各レンズにわたって分布されるドットパターンとを含む眼用レンズであって、2つの対面する湾曲面は、着用者の軸上の視力を20/20以上に矯正する屈折力を共同して有し、ドットパターンは間隔の空けられたドットの配列を含み、ドットは、着用者の周辺視野の少なくとも一部に関して、レンズが着用者の視力を20/25以上に矯正し、軸上の像コントラストと比較して像コントラストを少なくとも30%低減させるように配置され、ドットパターンは、着用者の視覚軸と一直線上に並べられる、ドットがない透明間隙を含む、眼用レンズを特徴とする。
【0024】
眼用レンズの実施形態は、後続の特徴及び/又は他の態様の特徴のうちの1つ以上を含み得る。例えば、眼用レンズは眼鏡レンズの場合がある。あるいはいくつかの実施形態では、眼用レンズはコンタクトレンズである。
【0025】
一般的に、他の態様では、本発明は、人の近視の進行を観察し阻止する方法であって、人の脈絡膜の厚さの変化を一定期間にわたって測定すること、及び、軸上の像コントラストと比較して、人の周辺視野の像コントラストを低減させる眼用レンズを人に供給することを含む方法を特徴とする。
【0026】
本方法の実装は、後続の特徴及び/又は他の態様の特徴のうちの1つ以上を有し得る。例えば、眼用レンズは前述の態様の眼鏡に提供され得る。あるいは、眼用レンズはコンタクトレンズとして提供される。いくつかの実装では、変化の測定は、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を使用して人の脈絡膜の厚さを測定することを含む。
【0027】
他の利点において、開示される実施形態は、使用者の軸上の視力を、使用者に混乱を生じさせる範囲まで低下させることなく、両眼の水晶体における眼軸長の延長の原因となる、網膜の信号を低減する特徴を有する、眼鏡を特徴とする。例えば、透明間隙を通して通常の軸上で見えるようにしながら、着用者の周辺視野を適度に不鮮明にするドットパターンを形成することで、着用者が一日中、毎日使用できるようになる。開示される実施形態はまた、異なる組の眼鏡の使用を替えることを含むアプローチとは対照的に、一組だけの眼鏡のみを使用することで使用者の両眼に治療効果をもたらすことができる。
【0028】
さらに、ドットパターンは、特にドットパターンが透明及び無色のとき、及び/又はコンタクトレンズが使用されるとき、他者にほとんど気づかれないことが可能である。ドットパターンの目立たなさは、ある着用者、特に、より目立つ装置を(例えば、学校又は仲間内で)毎日使用すると人目を気にすることがある子供たちが、より一貫して使用する結果になり得る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1A】近視を治療するための眼用レンズを有する眼鏡を示す図である。
図1B図1Aで示される眼用レンズにあるドットパターンを示す図である。
図2】近視を治療するための例示の眼用レンズを使用して経験される、コントラスト減少を示す図である。
図3A】眼用レンズにあるドットパターンを形成するためのインクジェットプリントシステムを示す図である。
図3B図3Aに示されるシステムを使用してドットパターンを作成するための方法における段階を示すフロー図である。
図3C図3Bのインクジェットプリント方法を使用してドットパターンを形成するためのプリントテンプレートを示す図である。
図3D】インクジェットプリントシステムにおける複数のレンズの位置決めをするために使用される冶具の上面図である。
図4A】例示の眼用レンズにあるドットパターンを示す写真である。
図4B】例示の眼用レンズにあるドットパターンを示す写真である。
図4C】例示の眼用レンズにあるドットパターンを示す写真である。
図5A】脈絡膜の厚さを示す、眼の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像である。
図5B】脈絡膜の厚さを示す、眼の光コヒーレンストモグラフィ(OCT)画像である。
図6A】脈絡膜の厚さを示すOCT画像である。
図6B】脈絡膜の厚さを示すOCT画像である。
図6C】脈絡膜の厚さを示すOCT画像である。
図6D】脈絡膜の厚さを示すOCT画像である。
図7】被験者の治療前及び治療後の網膜位置の関数として、相対的な脈絡膜の厚さを示す図である。
図8】試作品Iレンズに使用されるドットパターンを示す写真である。
図9】試作品Iレンズと初期研究とを使用して行われる研究結果を比較する図である。軸長差異測定の時間経過を示す。
図10】試作品IIレンズで使用されるドットパターンを示す写真である。
図11】試作品IIIレンズで使用されるドットパターンを示す写真である。
図12】初期研究(“第一拡散体”)、試作IIIレンズ(“新拡散体”)及び制御グループ(“拡散体なし”)からの被験者に関する、180日後のジオプトリにおける変化を比較する棒グラフである。
図13】コンタクトレンズにドットパターンを形成するためのレーザシステムの概略図である。
図14A】コンタクトレンズのためのドットパターンの例を示す図である。
図14B】コンタクトレンズのためのドットパターンの例を示す図である。
図15A】ドットパターンを有するコンタクトレンズの写真である。
図15B】ドットパターンを有する眼鏡レンズの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1Aを参照すると、明瞭な視野を実質的に損なうことなく両眼を同時に治療できる、近視軽減眼鏡が開示される。さらに、眼鏡が故障することなく、着用者が自身の外見を意識することなく、同様の日常活動に従事できるように、眼鏡は十分に頑丈で目立たないものであって、このことは眼鏡が一般的に子供の眼軸長の延長を止めるために使用されるので特に所望される。
【0031】
近視軽減眼鏡100は1組のフレーム101と、フレームに取り付けられる眼用レンズ110a及び110bとで構成される。眼用レンズ110a及び110bは、コントラスト低減区域130a及び130bにそれぞれ囲まれた、透明間隙120a及び120bをそれぞれ有する。透明間隙120a及び120bは、着用者の軸上の視点位置と一致するように位置決めされ、一方でコントラスト低減区域130a及び130bは着用者の周辺視野に相当する。図1Bを参照すると、コントラスト低減区域130a及び130bは、ドット140の配列で構成され、これらの区域を通して着用者の眼に光を散乱させることによって着用者の周辺視野にある物体のコントラストを低減させる。
【0032】
透明間隙の大きさ及び形状は変化し得る。一般的に、透明間隙は、着用者の視力が(例えば20/15若しくは20/20に)最適に矯正され得るように、視円錐を着用者にもたらす。いくつかの実施形態では、間隙は約0.2mm(例えば約0.3mm以上、約0.4mm以上、約0.5mm以上、約0.6mm以上、約0.7mm以上、約0.8mm以上、約0.9mm以上)から約1.5cm(例えば約1.4cm以下、約1.3cm以下、約1.2cm以下、約1.1cm以下、約1cm以下)までの範囲の(x-y面における)最大寸法を有する。例えば図1Aに示されるように間隙が円形の場合、この寸法は円の直径と一致するが(つまり、Ax=Ay)、円形でない(つまり、楕円形、多角形、Ax≠Ay)間隙もまたあり得る。
【0033】
透明間隙は、見る者の視野において約30度以下(例えば、約25度以下、約20度以下、約15度以下、約12度以下、約10度以下、約9度以下、約8度以下、約7度以下、約6度以下、約5度以下、約4度以下、約3度以下)の立体角をなすことができる。水平及び垂直な視野平面でなされる立体角は、同じ場合もあり、異なる場合もある。
【0034】
ドットは、レンズ110a及び110bの各々の表面上に隆起物を配列することで形成される。隆起物は、屈折率が下層のレンズと同等な、ポリカーボネートの場合は1.60である、光学的に透明な材料から形成される。例えば、レンズがポリカーボネートで形成される実施形態では、隆起物は、光活性化したポリウレタン又はエポキシベースのプラスチックなどの、PCと類似した屈折率を有するポリマーで形成され得る。PCに加えて、レンズそのものはまた、アリルジグリコールカーボネートのプラスチック、ウレタンベースのモノマー、又は他の耐衝撃性モノマーから製造され得る。あるいは、レンズは、屈折率が1.60より大きい、より緻密で屈折率の大きなプラスチックのうちの1つから製作され得る。
【0035】
いくつかの実施形態では、隆起物材料は、レンズ材料の屈折率(例えば、可視光線域にある1つ以上の波長で測定される)の0.1以内(例えば、0.09以下、0.08以下、0.07以下、0.06以下、0.05以下、0.04以下、0.03以下、0.02以下、0.01以下、0.005以下、0.002以下、0.001以下以内)である屈折率を有するように選定される。
【0036】
隆起物は、ドットが入射光を散乱させて、コントラスト低減区域で見られる物体のコントラストを低減できるようにする、大きさ及び形状である。隆起物は概ね球体、楕円体、又は不規則な形状の場合がある。一般的に、隆起物の寸法(例えば、図1Bに示される直径)は、可視光線を散乱させるのに十分大きいが、通常の使用中に着用者によって解像されないように十分小さくあるべきである。例えば、隆起物は約0.001mm以上(例えば約0.005mm以上、約0.01mm以上、約0.015mm以上、約0.02mm以上、約0.025mm以上、約0.03mm以上、約0.035mm以上、約0.04mm以上、約0.045mm以上、約0.05mm以上、約0.055mm以上、約0.06mm以上、約0.07mm以上、約0.08mm以上、約0.09mm以上、約0.1mm以上)から約1mm以下(例えば、約0.9mm以下、約0.8mm以下、約0.7mm以下、約0.6mm以下、約0.5mm以下、約0.4mm以下、約0.3mm以下、約0.2mm以下、約0.1mm以下)の範囲にある寸法(x-y面で測定される)を有することができる。
【0037】
例えば、光の波長と同等の寸法(例えば、0.001mmから約0.05mm)を有する、より小さな隆起物に関して、光の散乱はレイリー若しくはミー散乱と見なされることがあることに留意されたい。例えば約0.1mm以上の、より大きな隆起物に関しては、光の散乱は隆起物のレンズ効果に起因する場合があり、例えば、非常に小さな曲率半径を有するレンズによって、使用者の網膜のかなり前方にある点で焦点を結ぶことに起因する。このような場合では、各隆起物からの光は、使用者の網膜に到達するときに、その焦点からかなり離れ、使用者によって像として解像されない。
【0038】
一般的に、隆起物の寸法は各レンズにわたって同じ場合もあり、異なる場合もある。例えば、寸法は、例えば透明間隙から測定した隆起物の位置の関数として、及び/又はレンズの縁からの距離の関数として、増大若しくは減少する。いくつかの実施形態では、隆起物の寸法はレンズの中心からの距離が増加につれて、単調に変化する(例えば、単調に増大又は単調に減少する)。いくつかの場合では、寸法の単調な増加/減少は、隆起物の直径をレンズの中心からの距離の関数として線形に変化させることを含む。
【0039】
図1Bに図示される隆起物は、正方形グリッド上に配置され、各方向に均一に間隔を空けられている。これは、y方向にD、x方向にDで示される。一般的にドットは、近視軽減のための見る者の周辺における十分なコントラスト低減を、集合的にもたらすように間隔を空けられている。通常は、ドットの間隔がより小さいと、より大きなコントラスト低減につながる(隣り合うドットが重ならない又は融合しないという条件で)。一般的に、Dx及びDyは、約0.05mm(例えば、約0.1mm以上、約0.15mm以上、約0.2mm以上、約0.25mm以上、約0.3mm以上、約0.35mm以上、約0.4mm以上、約0.45mm以上、約0.5mm以上、約0.55mm以上、約0.6mm以上、約0.65mm以上、約0.7mm以上、約0.75mm以上)から約2mm(例えば、約1.9mm以下、約1.8mm以下、約1.7mm以下、約1.6mm以下、約1.5mm以下、約1.4mm以下、約1.3mm以下、約1.2mm以下、約1.1mm以下、約1mm以下、約0.9mm以下、約0.8mm以下)の範囲である。例として、ドット間隔は、0.55mm、0.365mm、又は0.240mmの場合がある。
【0040】
図1Bに図示される隆起物は、x及びy方向に等間隔で配置されるが、より一般的には各方向における間隔は異なることがある。さらに、隆起物は正方形でないグリッドに配列されることがある。例えば、六角形のグリッドが使用されることがある。規則的でない配列もまた可能で、例えばランダムな又はセミランダムなドット配置が使用されることがある。ランダムなパターンの場合における所定寸法は、X及びY方向におけるドットの平均間隔である。
【0041】
ドットは図1Bに円形の足跡を有するものとして図示されるが、より一般的には、ドットは他の形状を有することができる。例えば、ドットは、楕円形ドットの場合など、一方向に(例えば、x方向又はy方向に)引き延ばされる場合がある。いくつかの実施形態では、ドットの形状はランダムである。
【0042】
コントラスト低減区域130a及び130bにおいてドットの間でレンズに入射する光景からの光は、使用者の網膜に光景の像を与えるが、一方でドットに入射する光景からの光は与えないと考えられる。さらに、ドットに入射する光はなおも網膜に伝達されるので、網膜における光度を大幅に低減することなく、像のコントラストを低減させる効果を有する。従って、使用者の周辺視野におけるコントラスト低減は、ドットで覆われたコントラスト低減区域の表面積の割合に関連する(例えば、ほぼ比例する)。一般的に、ドットは、コントラスト低減区域130a及び130bの面積(x-y面で測定される)の少なくとも10%(例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、例えば90%以下、80%以下、70%以下、60%以下など)を占める。
【0043】
一般的にドットパターンは、着用者の周辺視野における物体の像のコントラストを、この領域における見る者の視力を著しく悪化させることなく、低減させる。ここで周辺視野とは、透明間隙の視野の外側にある視野を指す。これらの領域における像コントラストは、測定されるレンズの透明間隙を使用して見られる像のコントラストに対して、40%以上(例えば、45%以上、50%以上、60%以上、70%又は、さらに、80%以上)低減される。コントラスト低減は、個々の場合の需要に従って、設定され得る。通常のコントラスト低減は、約50%から55%の範囲内であると考えられる。50%より低いコントラスト低減は、非常に軽症な場合に使用されることがあり、一方でより素因を持っている対象者は、55%より大きなコントラスト低減を必要とすることがある。周辺視力は、有意なコントラスト低減を実現しながら、自覚的屈折検査によって決められる20/30以上に(例えば、20/25以上、20/20以上)矯正されることができる。
【0044】
ここで、コントラストとは、同じ視野にある、2つの物体の間の輝度の差異を指す。従って、コントラスト低減は、この差異の変化を指す。
【0045】
コントラスト及びコントラスト低減は、様々な方法で測定され得る。いくつかの実施形態では、コントラストは、制御された条件の下でレンズの透明間隙及びドットパターンを通って得られる、白黒の正方形のチェックボードなどの、標準パターンの異なる部分間の明度差に基づいて測定される。
【0046】
代替的に若しくは付加的に、コントラスト低減はレンズの光学伝達関数(OTF)に基づいて決定され得る(例えばhttp://www.montana.edu/jshaw/documents/18%20EELE582_S15_OTFMTF.pdfを参照)。OTFに関して、コントラストは、明るい及び暗い領域が異なる“空間周波数”で正弦曲線的に変調される、刺激の伝達に関して特定される。これらの刺激は、明るい及び暗いバーが、ある範囲にわたってバーの間の間隔が変化しながら、交互に入れ替わるように見える。全ての光学システムに関して、コントラストの伝達は、最も高い空間周波数を有する、正弦曲線的に変化する刺激に関して最も低い。全ての空間周波数に関するコントラストの伝達を表す関係は、OTFである。OTFは点広がり関数のフーリエ変換をすることで得られる。点広がり関数は、レンズを通って検知器配列に点光源を結像することで得られ、点からの光が検知器にどのように分布されるかを決める。
【0047】
測定の不一致が起きた場合、OTF技術は好ましい。
【0048】
いくつかの実施形態では、コントラストは、透明間隙の面積と比較される、ドットに覆われたレンズの面積の割合に基づいて推定される。この概算では、ドットに当たる全ての光は網膜域全体にわたって均一に分散し、像のより明るい区域で得られる光量を減少させ、より暗い区域に光を加えると仮定される。従って、コントラスト低減は、レンズの透明間隙とドットパターンとを通して測定される光透過率に基づいて計算され得る。
【0049】
一般的に、眼用レンズ110a及び110bは透明若しくは色付きである。つまり、レンズは全ての可視波長に対して光学的透過性を示し、透明及び/又は無色に見え、あるいは分光フィルタを含み、色付きに見える。例えば、眼用レンズは着用者に伝達される赤色の光の量を減少させるフィルタを含む場合がある。人の眼にあるL錐体の過度な刺激は(とくに子供においては)、最適でない眼軸長の延長よび近視の結果をもたらすと考えられている。従って、眼用レンズを使用して赤色の光を分光フィルタにかけることは、着用者の近視をさらに軽減させ得る。
【0050】
分光フィルタリングは、レンズの表面にフィルムを付着させることでもたらされ得る。フィルムは、材料をレンズ表面に物理的に堆積させること、材料の層を表面にコーティングすること、又はあらかじめ形成されたフィルムを表面に積層することによって付着され得る。適切な材料は、吸収性フィルタ材料(例えば染料)、又は多層フィルムを含み、干渉フィルタリングをもたらす。いくつかの実施形態では、分光フィルタリングは、レンズ材料そのものにフィルタリング材料を含むこと及び/又は隆起物を形成するのに使用される材料にフィルタリング材料を含ませることによって実現され得る。
【0051】
図2を参照すると、分光フィルタリングとドットパターンからのコントラスト低減との効果が、眼鏡210を使用して白い背景にある黒い文章を見ることで図示される。文章に対する白い背景は、眼鏡が赤い波長をフィルタリングすることによって、緑色に見えるようになる。像コントラストは透明間隙220a及び220bでは影響を受けていないが、見る者の視覚枠内の他の所で低減されている。
【0052】
一般的に、ドットは、UV LED 基板直接印刷、パッド印刷、ホットスタンピング、及びスクリーン印刷技術を含む様々な方法でレンズから形成できる。いくつかの実施形態では、ドットは硬化性材料を無地の眼用レンズの表面にインクジェットして、材料を硬化してドットパターンを固定することによって形成される。図3Aを参照すると、インクジェット及び硬化システム300は、インクジェットプリンタ320と、プリンタと通信するコンピュータ310とを含む。プリンタ320は、制御装置330、貯蔵器340、インクジェットプリントヘッド350、及びステージ360を含む。ステージ360はレンズ301を支持し、プリントヘッド350に対するレンズの位置を決める。貯蔵器340はインクジェットするための硬化されていない材料を貯蔵する。インクジェットに適した硬化性材料の例は、光重合によってともに架橋された、様々な市販の専売モノマー及びオリゴマーを含む。
【0053】
操作の間、プリントヘッド350は貯蔵器340から硬化していない材料を受け取る。
【0054】
ステージ360はプリントヘッド350に対してレンズ301を動かし(矢印361で図示されるように)、一方でプリントヘッド350はレンズに硬化していない材料302の滴を噴出する。ステージ及び/又はプリントヘッドのいずれかが、この工程における可動部分となり得る。所望される隆起物の寸法によって、滴の体積が変化する。滴の体積は、0.001mmから0.015mm(例えば、約0.002mm、約0.003mm、約0.004mm、約0.005mm、約0.006mm、約0.008mm、約0.010mm、約0.012mm、)の範囲の場合がある。レンズ表面に接触する際に、滴が表面を濡らして、硬化していない隆起物305を形成する。あるいは、いくつかの実施形態では、ステージ360が固定されており、一方でアクチュエータがプリントヘッドをレンズに対して動かす。
【0055】
システム300はUVランプ370も含む。ステージ360はレンズをランプ370に隣り合う位置に置き、ランプが堆積された材料を硬化させて最終的な隆起物を形成できるようにする。適切なUVランプの例は、360~390nmの範囲の波長を放射するLEDを含む。
【0056】
制御装置330は貯蔵器340、プリントヘッド350、ステージ360、及びUVランプ370と通信し、各々の作動を調整して滴の印刷と硬化を促進する。具体的には、制御装置330はプリントヘッド350とステージ360との間の相対的な動作、インクジェットの滴の噴出頻度、及び滴の体積を制御し、システム300が所望のドットパターンをレンズ301に形成できるようにする。制御装置330はまた、硬化されていない材料の粘度を制御するために、硬化されていない材料の温度を制御する(例えば、貯蔵器340若しくは他の箇所に関連する加熱器によって)。使用者は、コンピュータ310を通して滴のパターンを入力し、プリンタに関する対応する制御信号を発生させ、信号を制御装置330に伝達する。
【0057】
市販のインクジェットプリンタが使用されることがある。適切なインクジェットプリンタは、カリフォルニア州アーバインのローランド DGA社(Roland DGA)、及びジョージア州スワニーのミマキ社(Mimaki)ブランドの、UV LED基板直接プリンタを含む。
【0058】
ドットパターンをインクジェットすることは、アイケアの専門家が、安価でかつ効率的な方法で患者のためにドットパターンを個人向けに変更することを可能にする。図3Bを参照すると、個人向けに変更された眼鏡は、全てアイケア専門家のオフィスで行われ得る順序380によって提供される。第一段階381において、アイケア専門家は、例えば被写体を屈折させることによって、患者の処方を決定する。この段階はドットパターンが形成される眼用レンズの度を決定する。患者はまた、標準の度付き眼鏡に対してするのと同じように、自分の眼鏡のフレームを選択する。
【0059】
次の段階382では、アイケア専門家は患者に適切なドットパターンを選定する。変化し得るドットパターンに関するパラメータは、例えば、ドットの大きさ、ドットの密集度、透明間隙の大きさと形状、及びレンズにある透明間隙の位置を含む。これらの各々は、所望される周辺視野におけるコントラスト低減量と透明間隙の角度範囲とによって個別化され得る。例示のドットパターンが図3Cに示される。このパターンは、ほとんどのレンズブランクより大きな範囲にわたってドットを印刷し、レンズ表面がドットパターンによって完全に覆われることを確実にする。画像を生成するのに適切な市販のソフトウェア(例えば、Visio、PowerPoint、又はWordなどの、Microsoft Office製品)が、標準のインクジェットドライバソフトウェアと併用して使用されて、インクジェットプリンタに対する制御信号を発生させることがある。あるいは、パターンに関して選択されたパラメータをインクジェットプリンタのコンピュータに入力するために、アイケア専門家によって特別なソフトウェアが使用されることがある。
【0060】
次に、段階383において、インクジェットプリンタが、コンピュータからの信号に従って、硬化していない材料の滴を堆積して所望のパターンのドットを形成する。そして段階384において、プリントされるパターンが硬化放射にさらされる。いくつかの実施形態では、透明な中心などのドットパターンの中心は、レンズの光心と一直線上になる。これは、例えば、レンズ測定計を使用して光心を測定及びマーキングすること、そしてプリントパターンをマークされた光心と一直線上にすることによって行われ得る。ある実装においては、光心が円形レンズの幾何学的中心と一直線になるように、レンズの光心がまずマークされ、円形に縁取られる。そして、ドットパターンが円形レンズの中心に来るように、滴がレンズにプリントされ、ここで光心と一致する。代替的に若しくは付加的に、光心が常にレンズの幾何学的中心に一致するように、レンズブランクが製作若しくは選択され得る。
【0061】
最後に段階385で、レンズが縁取られてフレームに取り付けられる。
【0062】
いくつかの実装においては、レンズはフレームに取り付けられ、ドットが硬化する前にフレームが着用者に装着される。この方法では、必要ならばプリントされたドットパターンがレンズから落とされ、再びプリントされることが可能である。
【0063】
図3Dを参照すると、いくつかの実装では、レンズを製造する間に複数のレンズブランクを支持するために、冶具390が使用される。冶具390は、各々がレンズを確実に保持する大きさであるレンズ保持器392が一表面に配列されていることを特徴とする、トレイ391を含む。例えば、もし直径60mmのレンズブランクが使用される場合、レンズ保持器は各々、それぞれのレンズを強固に保持するように、直径が60mmである。操作の間、1つ以上のレンズを有する冶具390は、ステージ360に置かれる。システム300がレンズ表面に正確に噴射できるように、冶具は各レンズを正確な位置に保持する。さらに、冶具はバッチごとに複数のレンズを製造できるようにする。図3Dの冶具は48個のレンズ保持器を有するが、一般的には、冶具は、インクジェットシステムによって与えられる物理的制限を受ける、任意の数のレンズを保持するように設計され得る。例えば、約24個のレンズ、約48個のレンズ、約100個のレンズ、約200個のレンズ、約300個のレンズ、約400個のレンズ、約500個のレンズ、又は500以上のレンズを操業ごとに収容する冶具などの、多くのサイズの冶具があり得る。
【0064】
図4A図4Cは、図3Cのパターンを使用してプリントされるレンズの写真を示す。図4Aはレンズ全体を示し、一方で図4B及び4Cはドットパターンの拡大部分を示し、図4Cの部分は透明間隙を含む。
【0065】
隆起物を形成するための他の方法もまたあり得る。例えば、インクジェットの代わりに、転写又は平版印刷を使用できる。転写印刷は、隆起物を異なる基板に形成し、別の工程段階で、レンズの表面にそれらを転写することを含む。平版印刷は、連続した均一な隆起物材料の層をレンズ表面に形成し、ドットパターンを形成するようにその層をパターン形成することを含む。光学若しくはコンタクト方式のリソグラフィが層のパターン形成に使用できる。あるいは、隆起物は、レンズを形成するのに使用されるのと同じ成形過程を使用して、レンズ表面に成形されることがある。この場合、隆起物はレンズ型の一部である。いくつかの実施形態では、ドットパターンは、レンズの表面に積層されるフィルムによって設けられることがある。
【0066】
上述の複数の実施形態におけるドットパターンは、眼用レンズの表面に形成される隆起物であるが、同等の光学的特性及びレンズ耐久性をもたらす他の実装も可能である。例えば、いくつかの実施形態では、コントラスト低減はレンズ表面にある凹部の配列によってもたらされる。凹部は、上述の隆起物と似た寸法を有することができる。凹部は、エッチング(例えば、物理的エッチング若しくは化学的エッチング)又はレンズ表面から材料を除去すること(例えば、レーザ光線、分子線、若しくはイオンビームを使用して)などの、様々な技術を使用して形成され得る。いくつかの実施形態では、凹部はレンズを成形する際に形成される。
【0067】
代替的に若しくは付加的に、ドットパターンは、レンズ材料そのものに組み込まれることがある。例えば、レンズが成形されるときに、ビーズ材料とバルクレンズ材料の屈折率が異なる、適当な大きさの透過性ビーズがレンズ材料に散布される。透明間隙はバルクレンズ材料のみで形成される。
【0068】
いくつかの実施形態では、コントラスト低減は、粗面などの他の拡散構造によってもたらされる。ホログラフィック拡散体又はすりガラス拡散体が使用され得る。いくつかの実施形態では、拡散体はレンズの表面に積層されるフィルムによって供給され得る。
【0069】
前述の記載は、眼鏡の眼用レンズに関連するものであるが、開示される原理はコンタクトレンズなどの、他の形態の眼用レンズに適合され得る。いくつかの実施形態では、ドットパターンがコンタクトレンズに形成され、類似の治療効果をもたらす。コンタクトレンズのドットパターンの大きさ及び間隔は、眼鏡レンズに関して上述されるドットパターンに匹敵する、使用者の視野における立体角をなす大きさである。
【0070】
ドットパターンは、様々な方法でコンタクトレンズに形成され得る。例えば、ドットパターンは、上述の技術を使用して、コンタクトレンズ表面にプリント又は転写され得る。あるいは、ドットパターンは、散乱材料をコンタクトレンズに散布することによって形成され得る。
【0071】
いくつかの実施形態では、ドットは、コンタクトレンズ表面をレーザ光線に露光することによって、コンタクトレンズの片面又は両面に形成される。レーザ光線は、表面のコンタクトレンズ材料を局所的に除去し、小さなくぼみを残す。コンタクトレンズ表面をレーザ光線に選択的に露光することによって、ドットパターンが表面に形成され得る。例えば、レーザの光線は、光線がパルス状である間に、表面に対して動かされ得る。光線とコンタクトレンズ表面との間の相対運動は、表面が固定されたまま光線を動かすこと、光線が固定されたまま表面を動かすこと、又は光線と表面の両方を動かすことによって生じる。
【0072】
図13を参照すると、レンズ表面にドットを形成するためのレーザシステム1300は、レーザ1320、ビームチョッパ1330、集束光学部品1340、鏡1350、及びステージ1370を含む。レーザ1320はレーザ光線を鏡1350に向けて、鏡1350はステージ1370によって鏡1350に対する位置を決められるコンタクトレンズ1301に向かって、光線を偏向する。アクチュエータ1360(例えば圧電アクチュエータ)が鏡1350に取り付けられる。ステージは、コンタクトレンズ1301を支持する、湾曲した取付面1380を含む。レーザシステム1300は、レーザ1320、ビームチョッパ1330、及びアクチュエータ1360と通信する制御装置(例えばコンピュータ制御装置)も含む。
【0073】
ビームチョッパ1330及び集束光学部品1340は、光線経路に位置する。チョッパ1330は光線を周期的に遮断し、コンタクトレンズ1301がレーザ光線の個々のパルスに露光されるようにする。1つ以上の光学的に作動される要素(例えば1つ以上のレンズ)を一般的に含む集束光学部品1340は、光線によって除去される範囲が所望のドットの大きさに一致するように、コンタクトレンズ1301の表面にある十分に小さな点に光線の焦点を合わせる。アクチュエータ1360は、光線に対して鏡1350の方向を変えて、コンタクトレンズ表面にある異なる対象点へのパルス状の光線を走査する。制御装置1310は、レーザシステムがコンタクトレンズに既定のドットパターンを形成するように、レーザ1320、チョッパ1330、及びアクチュエータ1360の操作を調整する。
【0074】
いくつかの実施形態では、ステージ1370もアクチュエータを含む。ステージアクチュエータは、例えば光線伝播方向に直交する2つの横方向の寸法にコンタクトレンズを動かす、多軸アクチュエータの場合がある。代替的に若しくは付加的に、アクチュエータは光線方向に沿ってステージを動かす場合がある。ステージを光線方向に動かすことは、レンズ表面の湾曲にかかわらず、レンズ表面の露光部分を光線の焦点位置に維持し、それによってレンズ表面にわたってほぼ一定なドットの大きさを維持するのに使用される。ステージアクチュエータはまた、このステージ動作をシステムの他の要素に調和させる制御装置1310によって制御される。いくつかの実施形態では、ステージアクチュエータは鏡アクチュエータの代わりに使用される。
【0075】
一般的に、レーザ1320は、コンタクトレンズ材料を除去するのに十分なエネルギを有する光を発生させることが可能な任意の型のレーザであり得る。ガスレーザ、化学レーザ、色素レーザ、固体レーザ、及び半導体レーザが使用され得る。いくつかの実施形態では、(9.4μm又は10.6μmの発光波長を有する)COレーザなどの、赤外レーザが使用され得る。例えば、アリゾナ州スコッツデールのユニバーサルレーザシステムズ社(Universal Laser Systems, Inc.)製のCOレーザシステム(例えば、60W VLS 4.60システム)などの市販のレーザシステムが使用され得る。
【0076】
パルス幅及びパルスエネルギは通常、コンタクトレンズ表面からある量の材料を除去して所望の大きさのドットを形成するように選定される。コンタクトレンズに関するドットパターンの例が、図14Aに示される。ここで、コンタクトレンズ1400は透明間隙1410、コントラスト低減領域1420、及び透明な外側領域1430を含む。コントラスト低減領域1420は内径ID及び外径ODを有する環状領域である。IDは透明間隙1410の直径と一致する。コンタクトレンズは、ODより大きなレンズ直径LDを有する。
【0077】
一般的にIDは、通常の室内照明の条件下で(例えば、使用者が容易に本の文章を読むことができる、一般的な教室又はオフィスの照明など)、使用者の瞳孔の直径より小さい。このことは、このような照明条件の下で、使用者の周辺視野における像コントラストが低減されることを確実にする。いくつかの実施形態では、IDは約0.5mmから約2mmの範囲(例えば、約0.75mmから約1.75mmの範囲、約0.9mmから約1.2mmの範囲、約0.6mm以上、約0.7mm以上、約0.8mm以上、約0.9mm以上、約1mm以上、約1.1mm以上、約1.2mm以上、約1.9mm以下、約1.8mm以下、約1.7mm以下、約1.6mm以下、約1.5mm以下、約1.4mm以下、約1.3mm以下)である。
【0078】
一般的にODは、コントラスト低減領域が通常の室内照明の条件下で使用者の瞳孔を超えて広がるように十分大きい。いくつかの実施形態では、ODは約2.5mm以上である(例えば、約3mm以上、約4mm以上、約5mm以上、例えば、約10mm以下、約8mm以下、約7mm以下、約6mm以下など)。
【0079】
一般的に、コンタクトレンズにあるドットの寸法及び間隔は、所望の光学的効果(例えば上述のような)をもたらすように選定され、ドットを形成するのに使用される方法の制限を受ける。いくつかの実施形態では、ドットは約0.005mm以上(例えば、約0.01mm以上、約0.015mm以上、約0.02mm以上、約0.025mm以上、約0.03mm以上、約0.035mm以上、約0.04mm以上、約0.045mm以上、約0.05m以上、約0.055mm以上、約0.06mm以上、約0.07mm以上、約0.08mm以上、約0.09mm以上、約0.1mm)から約0.5mm以下(例えば、約0.4mm以下、約0.3mm以下、約0.2mm以下、約0.1mm)の最大横寸法を有することがある。
【0080】
ドットの間隔はまた、所望の光学的効果をもたらすように変化し得る。通常、くぼみの間隔(つまり、隣り合うくぼみの中心の間を測定される)は、約0.05mm(例えば、約0.1mm以上、約0.15mm以上、約0.2mm以上、約0.25mm以上、約0.3mm以上、約0.35mm以上、約0.4mm以上、約0.45mm以上)から約1mm(例えば、約0.9mm以下、約0.8mm以下、約0.7mm以下、約0.6mm以下、約0.5mm以下)の範囲である。
【0081】
コントラスト低減領域におけるドットの相対的な面積は、眼鏡レンズに関して上述したように変化し得る。
【0082】
LDはコンタクトレンズの直径と一致し、通常は約10~20mmの範囲である。一般的に、LDはODより少なくとも1mm以上大きい(例えば、約2mm以上、約3mm以上、約4mm以上、約5mm以上、約6mm以上、約7mm以上、約8mm程度)。コンタクトレンズの縁にドットを含まない少なくともいくらかの余白を含むことは、ドットがコンタクトレンズの品質をその縁で減少させないこと(例えば流涙によって)、又はコンタクトレンズと使用者の眼球との間の密閉の完全性が低減することを確実にする。
【0083】
図14Aに示されるコンタクトレンズのドットパターンは、ドットが各々同じ大きさで、隣り合うドット間の間隔が同じであることを特徴とするが、他のドットの配列も可能である。例えば、図14Bを参照すると、コンタクトレンズ1450は様々な大きさのドットを特徴とする。ここで、コンタクトレンズ1450は、透明間隙1460、コントラスト低減領域1470、及び透明な外側領域1480を含む。コントラスト低減領域1470は、レンズの中心に対してドット位置の半径方向距離が増加するにつれてドットの大きさが増加するドットパターンを含む。従って、透明間隙1460に最も近いドット1471が最小で、外側領域1480に最も近いドット1472が最大である。
【0084】
システム1300はコンタクトレンズを除去するものとして示されるが、より一般的には、レーザアブレーションは眼鏡レンズにも使用することができる。
【0085】
近視の進行及び治効は、様々な技術(例えば、自覚的屈折検査及び/又は眼軸長の測定)を使用して被験者で観察されるが、脈絡膜厚さの変化(つまり、脈絡膜厚さの増加)が、この目的における信頼性のある生体指標であると考えられる。脈絡膜厚さは、光コヒーレンストモグラフィ(OCT)を使用して測定できる。被験者の脈絡膜厚さを示す、例示の深部OCT画像が、図5A及び5Bに示される。脈絡膜は、画像を左から右に渡る、2つの黄色の曲線の間に断面で示される。OCT画像は可変の倍率を有するので、厚さを測定するときに、一連の治療にわたって厚さが変わらない内部標識が参照として使用され得る。このような標識の例は、脈絡膜と網膜との間の網膜色素上皮(RPE)層で、その厚さは図5Bに図示される赤線で示される。
【実施例
【0086】
初期研究/比較例
従来の調査では、レンズ表面に取り付けられた拡散フィルタを使用する概念実証眼鏡は、被験者の軸長の延長を減速できることが分かったが、多くの課題があった。使用されるフィルタは、市販のバンガーター遮蔽箔(Bangerter Occlusion Foil)(“BOF”)であった。レンズ形状と一致するように切り取られ、右側レンズに付着される、薄い可撓性の静的ビニルフィルムで作られる拡散体があった。使用される“フォイル”は、“BOF-0.8 視力20/25”で、その名が示唆するように、名目上は最も良く矯正された視力を20/25に低減させた。しかしながら、実際は、20/15~20/20の範囲で最も良く矯正できた被験者の視力は、BOF-0.8フィルタがあると、20/30~20/40の範囲の結果が出た。本研究の被験者が、1つの眼で片側のみに拡散体を着用したのは、それがもたらす視力の大きな低下によるもので、両眼で視力を20/30~40に低下させる眼鏡を着用することに対する耐性及び安全性に関する懸念があったためである。拡散体群を単眼にすることで、本研究の被験者は1つの眼を高視力で使用することができたので、通常通り機能することができた。しかし理想的には、市販の製品においては、治療は両方の眼に同時に行われるべきである。
【0087】
初期研究における他の問題は、ビニルフィルタがレンズから誤って外れる場合があったことである。この問題に対処するために、試験において、各被験者は、2組の眼鏡を供給され、もし第一組からフィルタが取れた場合に第二組を使用するように指示された。そして、被験者に新しい予備の組を供給することが可能であった。理想としては、市販の製品においては、拡散体は標準のレンズとして耐久性があるべきである。
【0088】
新研究
初期研究で使用される眼鏡における問題に対処し、同時に軸長の延長を減速するための有効性を維持又は向上させるように、試作レンズが設計された。BOF-0.8フィルタが視力をそれほど大幅に低下させた主な理由は、ビニルフィルムそのものの光学的品質が非常に低いためであると考えられる。厚さの不均一さが、画像をゆがめて視覚を困難にする“波打った”パターンを作り出した。しかし、この画像の劣化はいかなる治療価値も有さないと考えられた。ゆえに、新研究の試作レンズにおける1つの目標は、眼鏡に付着されるいかなる種類のフィルムも除外し、拡散体をレンズそのものの永久的な部分として備えることであった。新しい設計では、これらのレンズの拡散体構成要素は、画像のコントラストを下げる目的を果たすが、光学的品質の全ての他の側面は標準治療と本質的に同じである。
【0089】
眼鏡の開発の第一段階は、BOF-0.8フィルタの拡散量(及び、おそらく治療価値)を再現するが、標準(つまり、拡散しない)レンズの他の光学的特性を全て有するレンズを製造することであった。新しい試作品の有効性は、有効性に関する基準として使用された初期研究のBOF-0.8フィルタと比較された。新しい試作品の研究の長さを低減するために、光コヒーレンス・トモグラフィ(OCT)を使用して測定される脈絡膜厚さが、治効の生体指標として使用された。脈絡膜はOCTを使用して画像化され、BOF-0.8フィルタが正確に測定された脈絡膜の厚さを生成することを実証した。本研究で得られる画像が、図6A図6Dに示される。OCTは非侵襲的に中心窩を通る網膜の断面図をもたらす。内境界膜神経線維層(NFL)、神経節細胞層(GCL)、内網状層(IPL)、内顆粒層(INL)、視細胞内節外節接合部(IS/OS PR)、外顆粒層(ONL)、網膜色素上皮(RPE)を含む複数の層が分解され得る。最深層は脈絡膜である。図6A及び図6Cは、BOF-0.8フィルタを用いた治療の前と後の、一被験者の網膜の分割されていない画像を示す。脈絡膜層の相対的な厚さは、治療前と比べて治療後に明白である。図6B及び図6Dは脈絡膜の外側境界線を示す、分割線(赤色)を含む。図6Cは治療後39日目の脈絡膜を示す。図6Dは、画定された脈絡膜の外側境界線と共に、治療後39日目の脈絡膜を示す。厚さは、境界線からRPE境界までの距離として測定された。
【0090】
図7は、本研究に関する網膜における位置の関数として、相対的な脈絡膜厚さのプロットを示す。マークされた治療後の脈絡膜の厚さ(上側、青い曲線)は、治療前の測定(下側、黒い曲線)と比べて、網膜にわたって明白である。
【0091】
例:試作品I
第一試作眼鏡である試作品Iは、拡散要素を組み込み、像のコントラストをBOF-0.8フィルタと実質的に同じ量下げて、一方で実用性と耐久性を有し、BOF-0.8フィルタのビニル基板に見られる多くの光学的欠点がないレンズを供給するように開発された。レンズは、UV硬化性材料を使用して、レンズにドットパターンをインクジェットプリントすることで形成された。ローランド DG社のインクジェットプリンタのVersaUVライン、及びミマキ社のUVフラットベッドプリンタのプリンタの両方が、異なる型の試作品Iで使用された。UV硬化性材料がまた、ローランド社及びミマキ社から調達された。
【0092】
レンズは、透明なポリカーボネートの飛散防止レンズで、分光フィルタリングをしない。ドットパターンは0.55mmの間隔を有する正方形グリッド上にプリントされた。ドットの体積は0.004mmであった。ドットパターンはレンズ全体を覆い、透明間隙を残さなかった。プリントされたパターンは、365nm~385nmの範囲で放射する、UV LEDを使用して硬化された。試作品Iレンズの例の写真が、図8に示される。
【0093】
我々は、被験者内実施要綱を使用して、試作品Iレンズを試験した。少数の被験者が採用され、彼らの最良矯正視力に屈折された。軸長の初期減少は、脈絡膜の肥厚の結果であるという仮説が、OCT研究で試験された。これに関し、
【0094】
基準値測定の一週間後、被験者は処理されていない左眼(OS)レンズと、右眼(OD)レンズに取り付けられるBOF-0.8フィルタとを備えた眼鏡を着用した。そして4週間後に、被験者は左眼(OS)を新しい試作品レンズに替え、右眼は処理されていないレンズを着用した。左眼と右眼の脈絡膜の厚さの絶対的な差異(OD-OS)が、BOF-0.8フィルタを右眼に1か月着用した後に著しく増加した。OD眼鏡が取り外され、OS眼が試作品Iで治療されたとき、OSの軸長における対応する大幅な減少(p=0.0083)と、OD-OS値の上昇(p=0.0032)があった。脈絡膜の厚さの増加をもたらすことに関して、試作品IとBOF-0.8フィルタとの間に有効性の大きな違いはなかった。しかし、BOF-0.8フィルタに比べて、我々の試作品Iを着用したときに、最良矯正視力における大幅な差異があった。
【0095】
例2:試作品II
試作品IIの目標は、20/15~20/20の測定最良矯正視力を許容するが、BOF-0.8フィルタと同等若しくはそれより良い有効性を示すレンズを製造することであった。この目標を達成するために、試作品IIは、試作品Iのドットパターンを小さな中心透明領域を組み込むように変更することで、製造された。ドットは0.55mmの間隔を有する正方形グリッドパターン上に形成された。透明間隙は、直径3.8mmの円形で形成された。試作品IIレンズの写真が図9に示される。
【0096】
眼鏡が装着されたとき、着用者がまっすぐ前を見ているときに透明領域を通して見るようにするため、透明領域が瞳孔と一致するように位置決めされた。20/15~20/20に最良矯正された被験者は、試作品IIを着用して透明領域から視力検査表を読んだときに、20/15~20/20という結果になった。
【0097】
我々は、少数の被験者を採用し、透明領域を備えたレンズを左眼に、備えていないレンズを右眼に着用してもらうことで、試作品Iと対照して、透明領域を備えた試作品IIを試験した。我々は、2つの眼の間の脈絡膜の厚さの増加を比較し、透明領域を備えたレンズと備えていないレンズとの間で差異がないことがわかった。これは、被験者が20/15~20/20の最良矯正視力で試験し、初期研究で使用される元のレンズの有効性(脈絡膜の厚さの増加によって測定される)を維持できるようにした、分光フィルタリングがない拡散体レンズを設計することが可能であることを実証した。
【0098】
例3:試作品III
忍容性と有効性を同時に最大化するために、さらなる改良が調査された。我々は、透明領域が大きいほど、試作品はより忍容性を示すと考えたが、周辺コントラスト低減を増大させると有効性も増加し得ると仮定した。ゆえに、我々は、これらの2つの値を試みて、もう1つの試作品:試作品IIIを製造した。試作品I及びIIのように、試作品IIIは分光フィルタリングを有しなかった。試作品IIIのドットパターンは、より大きな透明間隙と、透明領域の外側の試作品IIより大きなコントラスト低減を含むように変更された。具体的には、透明間隙は直径5.0mmに拡大され、正方形グリッド間隔は0.365mmに減少された。ドットの大きさは試作品IIと同じままであった。試作品IIIレンズの写真は、図10で示される。
【0099】
設計目標は、子供たちとその親が満足し快適な、良い視力を可能にする試作品を開発することであった。20/15~20/20の最良矯正視力を有する子供たちのための試作品IIIを使った視力は、レンズの透明間隙を通して見ながら視力を検査した際に、20/15~20/20であった。我々はまた、被験者が周辺拡散体を通して見ながら、“軸外”視力を検査した。透明間隙を通して、20/15~20/20の最良矯正視力を有する被験者は、拡散領域を通して見るときに20/20~20/25の視力を示した。
【0100】
我々は、両眼に着用された試作品IIIを用いて小さな試験を開始した。レンズの主な目的は、レンズの耐久性及び忍容性を分析することであった。試験は1つの群を有した。被験者は7から10歳で近視進行の病歴があった。被験者は、親が自分たちの子供の急速な近視進行を懸念しているために、全員が眼科医によって我々に紹介された。研究は単一施設で、シアトルのワシントン大学での眼科研究であった。8人の子供が参加した。カールツァイスメディテック社(Carl Zeiss Meditec)のIOLマスターの光学的生体計測器で軸長を観察しながら、眼鏡を着用して6か月経過した4人の子供に関する予備結果が、得られた。子供たちはまた、一日に何時間レンズを着用したかを記録し、眼鏡に関する問題若しくは懸念を書き留める日記をつけるように依頼された。
【0101】
被験者が軸長測定のために研究室に来た時に、我々は彼らの日記を見て眼鏡に変化若しくは劣化の兆候があるか検査した。我々はまた、被験者とその親に、眼鏡に関する問題又は懸念があったか尋ねた。眼鏡の耐久性に顕著な問題はなく、被験者と親からの苦情はなかった。
【0102】
しかしながら、図12を参照すると、試作品IIIを着用した被験者の軸長と、初期研究の6か月での結果とを比較すると興味深い。この図は、180日後の被験者の眼に関するジオプトリの変化を比較する棒グラフである。第一の棒は、制御眼鏡を表し、第二の棒は初期研究の元の拡散体眼鏡を表す。第三の棒は、6か月の研究を完了した4人の子供たちに関する6か月後の試作品IIIを表す。
【0103】
我々は、20/15~20/20の視力を可能にする、安定した耐久性のある眼鏡を製作できるということを実証した。この被験者の小規模なグループは、眼鏡に非常に満足し、6か月後に進行速度が遅くなったことを示す。
【0104】
例4:コンタクトレンズ
ドットパターンは次のようにコンタクトレンズに形成された。各場合において、-7.5Dコンタクトレンズが、VLS4.60CO2レーザシステム(アリゾナ州スコッツデールのユニバーサルレーザシステム社)のステージにある転がり軸受に置かれた。各場合のレンズ直径は14mmであった。
【0105】
コンタクトレンズはそれぞれ、5%出力、10%出力、及び20%出力設定で露光された。各露光において、レーザスキャン速度は、25%に設定され、解像度は0.002インチに設定された。露光範囲は12.7mmの外径と、1mmの内径とを有する。範囲内の露光パターンは、0.0116インチのグリッド間隔を有する正方形グリッドであった。
【0106】
可視ドットパターンが、5%及び10%の出力設定に対して形成された。20%の出力設定は、コンタクトレンズを切断する結果となった。
【0107】
コンタクトレンズの1つの写真は、図15Aに示されている。ドットパターンが明らかに目に見える。
【0108】
例5:レーザ除去を使用した眼鏡レンズ
ドットパターンは、60W、10.6μmのVLS4.60CO2レーザシステム(アリゾナ州スコッツデールのユニバーサルレーザシステム社)を使用して、いくつかのTrivex眼鏡レンズに形成された。レンズは5%と40%の間の様々な出力に、ラスター及びベクタープリントモードの両方で露光された。レーザは1000PPIに設定された。速度設定は、25%又は100%であった。
【0109】
ベクターモードに露光されたレンズの写真が、図15Bに示される。ベクターモードでプリントされた、この例におけるドットパターンは、明らかに目に見える。
【0110】
多くの実施形態が記載されている。他の実施形態は、後述の特許請求の範囲にある。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14A
図14B
図15A
図15B