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特許7032843培地製造方法、培地製造パラメータ決定方法、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】培地製造方法、培地製造パラメータ決定方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/04 20120101AFI20220302BHJP
【FI】
G06Q50/04
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2021545100
(86)(22)【出願日】2019-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2019036250
(87)【国際公開番号】W WO2021049044
(87)【国際公開日】2021-03-18
【審査請求日】2021-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520495869
【氏名又は名称】エピストラ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】特許業務法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小澤 陽介
(72)【発明者】
【氏名】都築 拓
【審査官】大野 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-544353(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0010898(US,A1)
【文献】米国特許第07742877(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
培地の製造方法であって、
培地製造システムの培地最適化エンジンによって、培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された他の培地の製造に係るパラメータの値に少なくとも基づいて前記培地の評価結果を予測する予測モデルを作成するステップと、
前記培地最適化エンジンによって、前記パラメータの値から前記予測モデルで予測した前記評価結果を用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
作成した前記パラメータの値を用いて実行環境において培地を製造させるステップと、
を備える培地製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップは、前記パラメータの値に基づいて回帰モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記培地最適化エンジンによって、前記他の培地の製造に係る前記製造条件に含まれる製造手順を少なくとも1つ取得するステップと、
前記培地最適化エンジンによって、前記製造手順に係る前記パラメータのうち可変とするものを決定するステップと、
前記培地最適化エンジンによって、決定した可変とする前記パラメータの探索範囲を設定するステップと、
製造された前記培地を評価した評価結果を前記培地製造システムに記憶するステップと、
をさらに備え、
前記パラメータの前記値を作成するステップでは、前記培地最適化エンジンによって、前記探索範囲内の前記値から前記予測モデルで予測した評価結果に基づいて、可変とした前記パラメータの値を決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
評価結果には、
記培地を用いた培養の結果を評価する評価結果
を含むことを特徴とする培地製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップは、回帰関数の確率モデルを前記予測モデルとして作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項6】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記他の培地の製造手順に係る第1の前記パラメータと、前記製造手順に係る第2の前記パラメータとの種類が異なる場合に、前記培地最適化エンジンによって、前記第1のパラメータの値を前記第2のパラメータの値に変換する関数を用いて、前記予測モデルに基づいて決定された前記第1のパラメータの値を変換するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項7】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記培地最適化エンジンによって、前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たすまで、可変とする前記パラメータに対して前記探索範囲内の値を1つ以上設定して、前記パラメータの値を作成するステップと製造された前記培地を評価した前記評価結果を前記培地製造システムに記憶するステップとを繰り返すこと、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項8】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記培地最適化エンジンによって、前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たす前記パラメータの値に基づいて、前記製造手順に設定する前記パラメータの値を決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項9】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記培地最適化エンジンによって、前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たす場合に、前記パラメータに前記値を設定した前記製造手順を出力するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項10】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップでは、複数の前記製造手順を取得し、
前記製造手順のそれぞれを用い試験製造された前記培地を評価した前記評価結果を前記培地製造システムに記憶するステップと、
前記培地最適化エンジンにより、前記試験製造された培地の評価結果に応じ、少なくとも1つの前記製造手順を選択するステップと、
をさらに備え、
前記培地最適化エンジンにより、選択された前記製造手順について、前記可変とするパラメータを決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項11】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップにおいて、
前記培地の製造に用いる前記製造条件と前記他の培地に係る前記製造条件との間の距離を計算するステップと、
前記距離に応じて前記製造手順を少なくとも1つ決定するステップと、
を実行することを特徴とする培地製造方法。
【請求項12】
請求項3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップでは、予定されている製造条件と同一の製造条件での前記他の培地の前記製造手順を取得すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記培地最適化エンジンによって、前記他の培地の製造に係る第1の前記パラメータを要素とする第1のベクトルと、前記培地の製造に用いる第2の前記パラメータを要素とする第2のベクトルとに対して、1回以上の行列演算と1回以上の線形または非線形変換との組み合わせによって、前記他の培地と前記培地との間の距離を算出する関数を作成し、作成した前記関数により算出される前記距離の近いものから順に所定数の前記他の培地について、製造に係る前記第1のパラメータの値を取得するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記複数の他の培地のそれぞれについて、取得した前記パラメータの値を用い製造した前記評価用培地の評価結果を前記培地製造システムが取得するステップと、
前記評価結果に応じて選択した1つ以上の前記他の培地である第1の他の培地に関連して実験的に製造された第2の他の培地に係る前記パラメータの値を前記培地製造システムが取得するステップと、
をさらに備え、
前記予測モデルを作成するステップは、前記第1の他の培地の製造に係る前記パラメータの値と、前記第2の他の培地に係る前記パラメータの値とに基づいて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項15】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記培地製造システムによって行われる、前記パラメータの値を作成するステップは、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値のセットを複数作成するステップと、
前記セットのそれぞれについて、前記セットに含まれる前記パラメータの値を用い製造し評価用培地の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果に応じて1つの前記セットに含まれる前記パラメータの値を、前記パラメータの値を作成するステップにより作成する前記パラメータの値として決定するステップと、
を備えることを特徴とする培地製造方法。
【請求項16】
請求項15に記載の培地製造方法であって、
前記パラメータの値のセットを複数作成するステップは、C源の種類及び量、N源の種類及び量、各種アミノ酸の種類及び量、P源の種類及び量、各種無機物塩の種類及び量、各種ビタミン類の種類及び量、生体抽出物の種類及び量、ホルモンの種類及び量、成長因子の種類及び量、ならびにバッファーの種類及び量のうち、いずれか1種類以上を変化させた前記パラメータの値のセットを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項17】
請求項15に記載の培地製造方法であって、
前記培地製造システムによって、原料投入順序、温度、撹拌速度、撹拌時間のうち、いずれか1種類以上を変化させた前記パラメータの値のセットを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項18】
請求項15に記載の培地製造方法であって、
前記培地の評価結果を取得するステップは、
製造された前記培地を用いて行われた培養の結果
前記培養の客体となる物質の生産量の多さもしくは前記生産量の分散の小ささ、
前記培養の客体となる前記物質の品質の高さもしくは前記品質の分散の小ささ、
前記培養の客体となる前記物質の生産にかかるコストの低さ、
前記培養の客体となる細胞の収量の多さもしくは前記収量の分散の小ささ、または
前記培養の客体となる前記細胞の品質の高さもしくは前記品質の分散の小ささ、
に応じ評価した評価結果取得する、
ことを特徴とする培地製造方法。
【請求項19】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造時に既知の第1の前記パラメータの値と、前記他の培地の製造時に培地製造環境においてセンサにより測定された測定値とに基づいて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項20】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造に用いられた製造設備の属性を前記パラメータに含めて、前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項21】
請求項1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造に係る前記パラメータには前記培地の原料が含まれており、前記原料に関する1つ以上の属性を、前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項22】
請求項21に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記原料に係る外部環境を表す要素を前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項23】
請求項21に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記原料のロット、キャンペーン、仕入先、または前記原料の抽出源の少なくともいずれかを前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項24】
請求項15に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップでは、前記製造に係るパラメータの値である製造パラメータ値および前記培養に係るパラメータの値である培養パラメータ値に基づいて、前記予測モデルを作成し、
前記評価結果を取得するステップでは、前記予測モデルを用いて作成された前記パラメータの値を用いて前記培養を行った前記評価用培地の評価結果を取得すること、
を特徴とする培地製造方法。
【請求項25】
培地の製造に係るパラメータの値を決定する方法であって、
培地製造システムの培地最適化エンジンによって、培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された複数の他の培地の製造に係る前記パラメータの値に基づいて前記培地の評価結果を予測する予測モデルを作成するステップと、
前記培地最適化エンジンによって、前記パラメータから前記予測モデルで予測した前記評価結果を用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
前記培地最適化エンジンによって、作成した前記パラメータの値を前記培地の製造に用いる前記パラメータの値として決定するステップと、
を備える培地製造パラメータ決定方法。
【請求項26】
請求項25に記載の培地製造パラメータ決定方法であって、
前記パラメータの値を作成するステップは、
前記パラメータから前記予測モデルで予測した前記評価結果を用いて前記パラメータの値のセットを複数作成するステップと、
前記セットのそれぞれについて、前記セットに含まれる前記パラメータの値を用いて評価用培地を製造し、製造した前記評価用培地を用いた培養を行い、前記培養の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果に応じて1つの前記セットを選択し、選択した前記セットに含まれる前記パラメータの値を、前記パラメータの値を作成するステップにより作成した前記パラメータの値として決定するステップと、
を備えることを特徴とする培地製造パラメータ決定方法。
【請求項27】
培地の製造に係るパラメータの値を決定するためのプログラムであって、
コンピュータに、
培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された複数の他の培地の製造に係る前記パラメータの値に少なくとも基づいて前記培地の評価結果を予測する予測モデルを作成するステップと、
前記パラメータから前記予測モデルで予測した前記評価結果を用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
作成した前記パラメータの値を前記培地の製造に用いる前記パラメータの値として決定するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、培地製造方法、培地製造パラメータ決定方法、培地、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、生命科学における実験室実験を実行し管理するシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2018/0196913号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
培地を用いた培養時の利得を最大化したいニーズが存在するところ、特許文献1には、そのような最大化を行う手法は開示されていない。
【0005】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、効用の高い培地を製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、培地の製造方法であって、培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された複数の他の培地の製造に係るパラメータの値に基づいて予測モデルを作成するステップと、前記予測モデルを用いて前記パラメータの値を作成するステップと、作成した前記パラメータの値を用いて培地を製造するステップと、を備えることとする。
【0007】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、効用の高い培地を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る培地製造システムの全体構成例を示す図である。
図2】実行結果DB70に記憶される実行結果の一例を示す図である。
図3】本実施形態の培地製造システム全体の処理の流れを示すフローチャートである。
図4】本実施形態の培地製造システムを実現するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。
図5】第2実施形態に係る培地製造システムの全体構成例を示す図である。
図6】第3実施形態に係る培地最適化エンジン50を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<概要>
細胞を培養することで、有用物質を生産したり、その培養した細胞自体を役に立てたりするケースは多い。ケースには、たとえば、幹細胞培養、発酵食品生産、医薬品生産、食用物質生産などがある。しかしながら、細胞の種類や、生成したい物質、培養を実行する条件に依存して、最も効率よく細胞を培養するための培地の組成や培地の生産条件は異なる。たとえば、生産物が変わる、スケールが変わる、用いる菌体が変わるなどで、収量を最大化する培地の組成は異なることがある。また、物質の収量を最大化したい場合と、物質の品質を最大化したい場合とで培地の組成が異なることもある。したがって、それぞれのケースについて最適な生産条件を求める必要が生じる。結果的に生産条件の探索にかかるコストが大きくなってしまう。コストには、探索を施行する回数と、一回あたりの実験を施行するための時間的コストが含まれる。
【0011】
そこで本実施形態では、最適化したい新規の培養と似た別の条件の過去の培養結果を利用することで、少ない回数の試行で効率よく最適化を実行している。たとえば、実際の生産スケールでの最適化の場合、探索を行うことにより生産物の品質や、生産量などが大きくばらついてしまうことは問題であるところ、生産スケールに移行する以前の条件で得られた探索の結果を有効に利用することで探索の起点を適切に設計し、試行回数を減らすことが可能となっている。
【0012】
具体的には、本実施形態の培地製造システムでは、培地を作成し、その出来を評価する際に、少なくとも1種類以上の関連する過去の培地の製造ログと評価結果とに基づいて、製造ログに含まれるパラメータ(特徴量)から評価結果を予測する予測モデルを作成し、この予測モデルを用いて次にどのようなパラメータで培地を調製して評価するのか1つ以上の候補とその優先順位を決定し、それを実際に調整した上で、調整した培地の性能評価を行い、性能評価によって得られた評価結果を含む実行結果を記録し、次の培地調製パラメータの決定の際に参照するようにする。このように逐次的に培地調製手順を改良していくことにより、効率的に培地調製のパラメータ逐次最適化を行うことができる。関連する過去の培地には、培養に関する培養条件、培養の評価指標、および培地製造の製造条件のうちの少なくともいずれかが異なる培地が含まれる。関連する過去の培地を複数用いる場合には、培養に関する培養条件、培養の評価指標、および培地製造の製造条件が全て同じ培地が含まれていても良い。また、たとえば、培養条件および製造条件の異なる度合を評価した場合に、その度合が所定の閾値以下であるもののみを関連する過去の培地として特定するようにしてもよい。なお、製造条件には、培地の製造プロセス全体の操作の実行に必要な、培地の成分、実行手順、各手順への入出力、各手順で行う操作、ならびに、操作に関するパラメータ(制約条件を含む。)およびそのパラメータに設定するパラメータ値などが含まれる。また、培養条件には、培養対象となる客体(物質や生物など)、培養の手順、各手順への入出力、各手順で行う操作、操作に関するパラメータ(制約条件を含む。)およびそのパラメータに設定するパラメータ値などが含まれる。製造ログには、培地の製造プロセスに用いられた製造条件が含まれる。培地の性能評価は、調製した培地を用いて性能試験(たとえば、細胞培養試験、生産物試験など)を行った結果を、評価指標に応じて評価をするようにしてもよいし、培養を伴わない性能評価を行ってもよい。培養を伴わない性能評価は、たとえば、外観(色調及び培地形状、異物混入のないことなどを確認する。原料、培地の種類により吸光度計や 色差計などが用いられる。)、溶状(使用方法に準じた溶解性・色調を確認するなど。)、水分量(赤外線水分計(ケット式)により水分量を測定することができる。)、pH(たとえば、ガラス電極法によりpHを測定する。寒天培地は蒸留水で5倍希釈、ブイヨン培地は希釈なしで測定する。)、ゼリー強度(寒天培地のみ実施する。使用法に従って培地を作製し、たとえば、レオメーターにてゼリー強度を測定することができる。)、培養能(ミスラ法、混訳法、濁度法などがある。)などがある。
【0013】
<第1実施形態>
第1実施形態に係る培地製造システムは、評価プロセスは固定したうえで、培地の製造に係る最適化を行う。
【0014】
<システム構成>
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る生産システムは、実行環境10、培地製造プロセス20、培地評価プロセス30、培地最適化エンジン50、実行指示コンパイラ60、実行結果DB70の6つの構成要素を含んでいる。なお、実行指示コンパイラ60は省略することも可能である。
【0015】
実行環境10は、培地製造プロセス20および培地評価プロセス30を実行するための培養機器や人間、輸送装置、計測装置などの集合体である。実行環境10には、1つ以上のアクチュエータと1つ以上のオブジェクトなどが含まれる。実行環境10は、たとえば、工場、実験室、厨房、工作室などが該当する。
【0016】
培地製造プロセス20は、実行環境10上で培地製造に必要な動作を行うための操作および計算の集合体であり、培地原料12および製造条件13を入力として培地21を製造し、培地21の製造に関する製造ログ22を出力する。製造条件13は、培地最適化エンジン50により作成され、実行指示コンパイラ60により実行指示61として実行環境10に与えられる。
【0017】
培地評価プロセス30は、培養条件32および培地21を入力として、培養条件32に応じた手順によって培地の評価(たとえば、培養試験、生産物試験など)を行い、得られた評価結果31を出力する。
【0018】
この評価結果31を最適化するような培地製造プロセス20の実行条件である製造条件13を試行錯誤によって求めることが本発明の主要な目的である。
【0019】
実行結果DB70は、実行環境10で実行された培地製造プロセス20および培地評価プロセス30の実行結果を記憶する。図2は、実行結果DB70に記憶される実行結果の一例を示す図である。同図に示すように、実行結果には、日時と、培地製造プロセス20における製造ログ22と、培地評価プロセス30による評価結果31および培養条件32とを含む。上述したように製造ログ22には、培地製造プロセス20に用いられた製造条件が含まれる。また、培養条件には、培養対象となる客体(物質や生物など)、培養の目的、培養の手順、各手順への入出力、各手順で行う操作、操作に関するパラメータ(制約条件を含む。)およびそのパラメータに設定するパラメータ値などが含まれる。
【0020】
実行指示コンパイラ60は、製造条件13を基に、実行環境10に対して、培地製造に必要な実行指示61と実行スケジュール62とを自動的に生成する機能を持っている。
【0021】
培地最適化エンジン50は、実行結果DB70に保存されている1種類以上の関連する過去の製造ログ22(すなわち、培養に関する培養条件、培養の評価指標、および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる培地に関する過去の製造ログ22である。複数の過去の製造ログ22を用いる場合には、培養に関する培養条件、培養の評価指標、および培地製造の製造条件が全て同じである培地に関する製造ログ22が含まれていてもよい。)とその評価結果31とを含む実行結果に基づいて、最適化の対象となっている培地の製造手順に関するパラメータ(特徴量ベクトル)を説明変数とし、評価結果31を目的変数とする予測モデルを作成する。本実施形態では、予測モデルは、不確実性を考慮した確率モデルであるものとする。確率モデルは、たとえば、出力(および入力)について確率分布を考慮した確率変数を用いた予測モデルであることを想定する。培地最適化エンジン50は、上記関連する過去の製造ログ22に関して、最適化しようとしている培地に関する培養条件および製造条件の少なくともいずれかの項目と、実行結果に含まれている培養条件32および製造条件13の対応する項目とを用いてこれら培地間の距離を計算し、当該距離が所定の閾値以下であるもののみを選択することができる。
【0022】
距離の計算についての具体例は例えば以下のようなものがある。
【0023】
(1)異なる生産物質間、特にタンパク質
タンパク質の疎水性(溶解度、酸解離定数、分配係数など)、分子量、アミノ酸配列が入力になりうる。たとえば、タンパク質の疎水性を取得して、その疎水性の軸における距離を2つの異なるタンパク質間の「近さ」と定義することなどが例としてあげられる。
【0024】
(2)環境(工場)違い、スケールアップ
培地製造を行うための設備のスペック(槽スケール、槽比熱、混合用プロペラ大きさ、外気温、湿度、など)に基づいて距離指標を設定することができる。たとえば、槽比熱という1つの指標に関して、対象となる槽の情報を取得すれば、槽比熱の軸をもとに培養条件の近さを判定することができる。また、外気温の情報も同時に取得し、温度を所定値に保つために必要な投入熱量を特徴量として使うこともできる。
【0025】
(3)原料違い(たとえば糖源を変えた時、水源をかえた時など)
異なる国や環境で、培養を行うとき、培養の原料の質が異なるということは普遍的に起こることである。たとえば、タイ地域では、大規模培養の糖源としてキャッサバシロップやサトウキビ糖蜜を用いているが、北米地域では糖源としてはコーンシロップを用いることが一般的である。また、同一品目でも産地によって組成は違う。他にも、日本のような国では水源は軟水であるが、イギリスのような国では水源はミネラルを多く含む硬水である。それらの原料の成分を質量分析などの計測手法で取得したうえで、その結果から近さを表す関数を構成する(重量あたりのスクロース割合、不純物割合、重量あたりのミネラル含有率など。)ことができる。
【0026】
(4)上記、複数の指標の組み合わせ。
たとえば、疎水性、槽比熱、水硬度、といった妥当性が確認されている異種の特徴量を複数取り出し、それらを組み合わせた空間における距離を計測することもできる。たとえば、ユークリッド距離で近さを測ることができる。
【0027】
培地最適化エンジン50は、過去の1種類以上の関連する培地の製造ログ22および評価結果31から、所与の特徴抽出ルールに基づいて1種類以上の特徴量を抽出する変換を行う。また、培地最適化エンジン50は、ある製造条件と他の製造条件との構造が異なる場合などには、両者の間に適切な対応を設計することができる。また、培養条件または製造条件の少なくともいずれかの異なる実行結果に関して、両者の実行パラメータ値の間に少なくともひとつの行列演算と少なくともひとつの線形または非線形変換を組み合わせた形で特徴量変換関数を設計することで、両者の対応を取ることができる。また、上記特徴量変換関数自体が逐次最適化によって変更可能であってもよい。
【0028】
また、培地最適化エンジン50は、特徴量またはユーザの事前知識を使用して、製造条件または培養条件のどの要因が評価結果の改善に最も寄与しているか分析するなど、適切に用いることで可変パラメータの選択と探索範囲の設定を効果的に行うことができる。培地最適化エンジン50は、特徴量抽出系を、過去の実行結果21を探索空間上に射影したり、探索空間の1つ以上の変数に何らかの変換を加えて探索範囲を制限したりするなど適切に用いることで、探索点の生成を効果的に行うことができる。
【0029】
本実施形態では、培地最適化エンジン50は、実行結果DB70に保存されている1種類以上の関連する過去の実行結果21またはそれを基に生成された特徴量を基に、探索範囲に対する評価結果または何らかの特徴量に関する回帰モデル(応答曲面)を生成する。回帰モデルの生成には、たとえば、ガウス過程、ニューラルネットワーク、ベイジアンニューラルネットワーク、FandomForest回帰、Tree Structured Paizen Estimator、マルチタスクガウス過程などを用いることができる。培地最適化エンジン50は、探索点を生成する際は、ここで生成された回帰モデルを用いて作成することができる。回帰モデルを使った探索点生成には、ベイズ最適化やマルチタスクベイズ最適化の手法(獲得価値関数の最大化手法)を用いることができる。本実施形態では、最適(評価結果31の最大化)なパラメータ値を決定するために、複数の探索点を生成して探索を行うものとするが、確率モデルを用いて1つ以上の探索点を最適なパラメータ値として決定してもよい。
【0030】
実行指示コンパイラ60は、製造条件13および培養条件32の情報を基に、実行環境10に対して、培地の製造および培地を用いた培養の実行に必要な実行指示と実行スケジュールとを自動的に生成する機能を持っている。実行環境10からは、実行環境10に関する情報(実行環境情報11)が実行指示コンパイラ60に与えられる。実行環境情報11とは、培地製造プロセス20および培地評価プロセス30の内部の状態で、プロセスの実行に関係するものの状態を一意に特定するのに十分なデータであり、それを用いてリソースの専有状態やアクチュエータの種類などから、各操作に現在実行可能なアクチュエータを特定したり、各操作の実行時間を見積もるなどしたりして実行スケジュールの生成に利用することができる。実行環境情報11には、少なくとも、各アクチュエータ及びオブジェクトの個数、種類、配置、状態などに関する情報が含まれる。
【0031】
<処理>
図3は、本実施形態の培地製造システム全体の処理の流れを示すフローチャートである。
【0032】
培地最適化エンジン50は、培養条件、製造条件および処理の終了条件の入力を受け付ける(S201)。入力は、たとえば、オペレータから受け付けることができる。ここで受け付ける培養条件および製造条件は、全てのパラメータについてのパラメータ値が含まれていなくてよく、たとえば固定するパラメータ値が含まれていてもよい。
【0033】
培地最適化エンジン50は、入力された培養条件および製造条件に関連する実行結果(複数可)を実行結果DB70から検索する(S202)。関連するか否かは、上述したように、入力された培養条件および製造条件の少なくともいずれかの項目と、実行結果に含まれている培養条件32および製造条件13の対応する項目とを用いてこれらの間の距離を計算し、当該距離が所定の閾値以下であるもののみを選択するようにすることができる。
【0034】
培地最適化エンジン50は、検索した実行結果に含まれている製造ログと評価結果とを用いて予測モデルを作成する(S203)。予測モデルの作成は、たとえば、ガウス過程フィッティングなどにより行うことができる。なお、予想モデルの作成は、製造ログおよび評価結果を参考に演繹的に決定されたモデルの入力を受け付けるようにしてもよい。また、培地最適化エンジン50は、製造条件中のパラメータのうち可変パラメータについて、予測モデルを用いて設定する値(探索点)を決定する(S203)。
【0035】
培地製造プロセス20は、探索点を設定した製造条件に基づいて培地を作成し(S204)、培地評価プロセス30は、作成された培地を評価する(S206)。
【0036】
培地最適化エンジン50は、日時と、培地製造プロセス20における製造ログ22と、培地評価プロセス30による評価結果31および培養条件32とを含む実行結果を作成して実行結果DB70に登録する(S207)。
【0037】
ここで培地最適化エンジン50は、評価結果31が終了条件を見たさなければ(S208:No)、ステップ203からの処理を繰り替えし、評価結果が13終了条件を満たした場合には(S208:No)、処理を終了する。
【0038】
<ハードウェア構成>
図4は、本実施形態の培地製図尾システムを実現するコンピュータのハードウェア構成例を示す図である。コンピュータは、CPU101、メモリ102、記憶装置103、通信インタフェース104、入力装置105、出力装置106を備える。記憶装置103は、各種のデータやプログラムを記憶する、例えばハードディスクドライブやソリッドステートドライブ、フラッシュメモリなどである。通信インタフェース104は、通信ネットワークに接続するためのインタフェースであり、例えばイーサネット(登録商標)に接続するためのアダプタ、公衆電話回線網に接続するためのモデム、無線通信を行うための無線通信機、シリアル通信のためのUSB(Universal Serial Bus)コネクタやRS232Cコネクタなどである。入力装置105は、データを入力する、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、ボタン、マイクロフォンなどである。出力装置106は、データを出力する、例えばディスプレイやプリンタ、スピーカなどである。
【0039】
本実施形態に係る培地製造システムが備える実行環境10、培地製造プロセス20、培地評価プロセス30、培地最適化エンジン50、および実行指示コンパイラ60の全部または一部は、CPU101が記憶装置103に記憶されているプログラムをメモリ102に読み出して実行することにより実現され、実行結果DB70は、メモリ102および記憶装置103が提供する記憶領域の一部として実現される。
【0040】
<実施例1>
以下、本実施形態に係る実施例を示す。
【0041】
実施例1は、最適化したい指標(評価値)を、評価結果からどう計算するか定義するものである。
評価指標:培養液単位体積あたりから収穫できる、タンパク質Pの量
最適化の目的:上記評価指標の最大化
【0042】
探索の起点となる製造条件および培養条件:
1.培地製造プロセス
1.1. 操作:表1-2の配合にしたがって、各成分を精製水に撹拌混合することで溶解する。
INPUT: 各成分(表1-2)
OUTPUT:培地
パラメータ: 撹拌速度=300rpm、撹拌時間=30分、培地量=80000L
1.2. 操作:オートクレーブを用いて、殺菌する。
INPUT: 培地
OUTPUT:(殺菌済)培地
パラメータ: 殺菌温度=120℃、殺菌時間=100分
1.3.操作:苛性ソーダ水溶液を用いて、pHを調整する。
INPUT:(殺菌済)培地
OUTPUT:(pH調整済)培地
パラメータ:目標pH=6.9
2.培地評価プロセス
2.1.操作:生産プロセスで作られた培地を用いて、細菌を培養する(10Lの培養槽)
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:細菌、培地
パラメータ: 菌株=大腸菌BB4、培養時間=10時間、培養温度=37℃
2.2.操作:IPTGを用いて、特定タンパク質Pの発現を誘導する
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:細菌、培地
パラメータ: 培養時間=20時間、培養温度=37℃
2.3.操作:SDS-PAGEを行いタンパク質Pの生産量を定量する。
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:タンパク質量
【0043】
表1-1
【0044】
表1-2:培地成分
【0045】
探索範囲:パラメータの中から、可変パラメータと変域を設定(探索範囲)
可変パラメータ:培地成分、撹拌速度、撹拌時間
変域:表2
【0046】
テンプレート:
1.培地製造プロセス
1.1.操作:表2の配合にしたがって、各成分を精製水に撹拌混合することで溶解する。
INPUT: 各成分(表2)、精製水
OUTPUT:培地
パラメータ:培地量=80000L
可変パラメータ:表2
1.2.操作:オートクレーブを用いて、殺菌する。
INPUT: 培地
OUTPUT:(殺菌済)培地
パラメータ:殺菌温度=120℃、殺菌時間=100分
1.3.操作:苛性ソーダ水溶液を用いて、pHを調整
INPUT: (殺菌済)培地
OUTPUT:(pH調整済)培地
パラメータ:目標pH=6.9
2.培地評価プロセス
2.1.操作:生産プロセスで作られた培地を用いて、細菌を培養する(10Lの培養槽)。
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:細菌、培地
パラメータ: 菌株=大腸菌BB4、培養時間=10時間、培養温度=37℃
2.2.操作:IPTGを用いて、特定タンパク質Pの発現を誘導する。
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:細菌、培地
パラメータ:培養時間=20時間、培養温度=37℃
2.3.操作:SDS-PAGEを行い目的タンパク質Pの生産量を定量する。
INPUT: 細菌、培地
OUTPUT:タンパク質量
【0047】
表2:探索範囲(※全体が100%になるように精製水量で調整)
【0048】
・可変部分
パラメータ(可変パラメータ):培地成分、撹拌条件
【0049】
・固定部分
パラメータ(固定パラメータ):pH
装置特徴量:locationID、タンクサイズ、プロペラサイズ
観測情報:外気温、外界湿度、材料pH、水の硬度
【0050】
過去の実行結果:
ケース1:工場Bでの製造
データ数:120
例:表3-1
【0051】
表3-1:工場Bでの実行結果例
【0052】
ケース2:工場Cでの製造
データ数:300
例:表3-2
【0053】
表3-2:工場Cでの実行結果例
【0054】
・探索点を埋め込んだパラメータ
【0055】
表4-1:探索点
【0056】
表4-2:探索クエリ培地成分
【0057】
<説明>
発明の実施例として、異なる複数の培養設備における過去の培地製造パラメータ値と対応する評価結果を利用して、新たな培養設備での最適な培地製造パラメータ値を求める場合の例を提示する。ここでは仮に培地Xを製造するため、中国に新しい培地工場Aを新設することを考える。培地工場Aで培地Xを利用したタンパク質Pの生産効率(g/L)を最大化させられるような培地の最適製造バラメータ値を求めたい。培地Xは過去に、タイに存在する培地工場B、日本に存在する培地工場Cにおいて最適製造パラメータの探索を終えており、それらの知見を有効に活用して、培地工場Aでの最適製造パラメータを効率よく決定することが求められる。培地工場A、B、C間では、培地製造のためのタンクの容量などの設備スペックが異なる他、原料の調達先や、外界の環境などが異なるため、それらの違いを包含した上での最適な培地製造パラメータ値を逐次最適化によって導出する。
【0058】
培地工場Aにおいて培地Xの製造条件を最適化する際、まずは培地工場Aで動作する、探索の起点となる実行プロトコル候補を選択する。ここでは上記のような探索の起点となる実行プロトコルが選択されたものとする。探索の起点となる実行プロトコルには、表1-1、表1-2のパラメータの項に記載の培地製造パラメータ値が記載されているほか、タンクサイズやプロペラサイズといった培地工場Aの装置特性を表す装置特徴量値が記載されている。記載されているlocationIDはonehot vectorであり、工場ごとに存在するが、観測できていない不確定要素を説明するための変数として導入しうるものである。次に、探索の起点となる実行結果(製造条件および培養条件)のうち、最適化を行いたいパラメータを選択して可変パラメータとし、それぞれについて変域を設定することで探索範囲を定義する。ここでは表2のように定義したとする。探索の起点となる製造条件および培養条件に、表2のような探索範囲を設定したものをテンプレートとする。
【0059】
次に、過去に培地Xを工場B、工場Cで製造した際の製造条件及びその培養条件を含む実行結果を取得する。実行結果には、実行プロトコルのパラメータ値のほか、装置特徴量や、実行時の観測情報(たとえば、外気温や外界湿度など)、製造した培地の性能評価結果などが含まれている。今回の場合は工場Bの120件、工場Cの300件のデータ値をそれぞれ取得したものとする。取得したデータ値の一例として、表3-1、表3-2のようなものが含まれている。次に、上記取得したデータ値をベクトル表現に直した上で、パラメータ空間(パラメータ-装置特徴量-観測情報が全て含まれる)空間上に回帰モデルを生成する。この場合、工場Bの120件、工場Cの300件のデータを全てパラメータ空間上にマッピングした上で、それに対してガウス過程回帰を行ったものとする。次に、得られた上記回帰モデルを基に、上記探索範囲内に所与の個数の探索点を生成する。今回の場合、パラメータ空間内における、工場Aの装置特徴量、及び計測により取得した観測情報(外気温=27℃、外界湿度=65%)を基に指定される部分空間が探索範囲であるので、その探索範囲において獲得関数(本実施形態ではExpected Improvement)を計算し、その最適化を行うことで表4-1、表4-2に示されるような探索点を1つ生成した。次に、生成した探索点の情報をテンプレートに書き込むことで実行プロトコルを生成した。次に、実行環境10において、生成した実行プロトコルを実行することで、上記評価結果を含む実行結果を得た。この評価結果が目標値に達するか、所定の実行回数に達した場合は探索を終了する。終了条件を満たさない場合には、この結果を含む過去の結果を参照して、次の実行プロトコルの生成に戻り、探索を継続する。
【0060】
以上のようにして、過去に製造された培養条件または製造条件の異なる培地の製造条件および評価結果に基づいて、ベイズ最適化などの手法により回帰モデルを作成し、獲得関数を用いて探索点を生成し、所望の(事前似設定した目標値の範囲内の)評価結果を得ることのできる製造条件のパラメータを探索することが可能となり、この製造条件を用いて所望の評価結果を得ることのできる培地を製造することができる。
【0061】
上述の実施例1では、工場間の知見の転移(すなわち、製造条件のうち生産設備に関するパラメータの異なる条件での知見の転移)と同じ処理を行うことにより、菌体、原料物質、糖源、キャンペーンなどの異なる培地製造条件間で転移学習を行うことも可能である。
【0062】
また、最適化コストの大きいタスクを解きたいとき、それに類似した最適化コストの小さいタスクをまず解き、その知見を転移させることで目的のタスクを解決することができる。
【0063】
たとえば、新たな動物細胞Kを大規模培養するための培地製造パラメータ値を求める場合を考える。生産スケールでの培地製造条件の最適化はコスト(時間的なものおよび金銭的なもの)が双方ともかかるため、より実行コストの低い小規模培地製造での条件検討結果をまず先に多数行い、その後に生産スケールでの条件検討を少数回行うことにより最適化を行うことで、最適な製造条件を求めるコストを低減することができる。
【0064】
また、たとえば、ある何らかの条件のタスクの転移X→X’を考える。この問題を単純に解くだけなら実施例1と同じであるが、ここでは過去に複数の条件でタスクの転移X→X’を行ったことがある実績がある場合を考慮する。このようなケースで、ある新しい培養対象についてタスクの転移X→X’を行うような場合、(培養対象の種類は違っても)過去のX→X’の実績から効率的に転移を行うことができる。
【0065】
また、たとえば、新しい菌体Aで生産物質Pを大規模培養するための培地製造パラメータを求める場合を考える。過去には生産物質Q、R、S、Tで小規模装置での培地製造条件をまず行い、その知見を基に生産物質Q、R、S、Tを大規模製造する実行パラメータ値を求めた実績がある。このような場合、生産物質Q、R、S、Tでの実績をもとに、製造スケールアップを行うための変換を学習し、それを基に生産物質Pのスケールアップを効率的に行うことができる。
【0066】
また、回分培養を行った結果を用いて、培養前後の培養液中に存在する物質を分析(どの成分が消費されていたか、どの成分が評価値にどのくらい寄与していたかの分析)し、その結果を培地製造パラメータに直接反映するようにしてもよい。
【0067】
<第2実施形態>
第1実施形態では、培地の評価プロセスは固定したうえで、培地の製造に係る製造条件の最適化を行った。第2実施形態では、製造条件とともに培養条件の最適化も行う。
【0068】
図5は、第2実施形態に係る培地製造システムの全体構成例を示す図である。第2実施形態の培地製造システムは、実行環境10、培地製造プロセス20、培地評価プロセス30、培地最適化エンジン50、実行指示コンパイラ60、実行結果DB70に加えて、培養プロセス33、および精製プロセス34を備えている。なお、精製プロセス34は省略することもできる。
【0069】
培養プロセス33は、実行環境10上で細胞培養に必要な動作を行うための操作および計算の集合体であり、培養結果(培養懸濁液や、観測結果(培地組成、菌体画像))を出力する。精製プロセス34は、培養結果に対して、抽出や精製などの処理を行い、一連の生産プロセスの成果物である精製結果(たとえば、単離された細胞、単離されたタンパク質、単離されたアミノ酸など)を出力する。
【0070】
第2実施形態において培地評価プロセス30は、培養結果や精製結果に含まれる成果物や観測結果に対して評価を行い、その評価結果31(たとえば、成果物の収量、品質、生産コスト、消費電力など)を出力する。この評価結果31を最適化するような培養プロセス33および精製プロセス34の実行条件を試行錯誤によって求めることが第2実施形態に係る培地製造システムの主要な目的である。
【0071】
培地最適化エンジン50は、保存されている1種類以上の関連する過去の実行結果(製造ログ22、評価結果31および培養条件32)に基づいて、最適化の対象となっている培地の製造手順および培養手順に関するパラメータを説明変数とし、評価結果31を目的変数とする予想モデルを作成する。第1実施形態と同様に、培地最適化エンジン50は、上記関連する過去の製造ログ22に関して、最適化しようとしている培地に関する培養条件および製造条件の少なくともいずれかの項目と、実行結果に含まれている培養条件32および製造条件13の対応する項目とを用いてこれら培地間の距離を計算し、当該距離が所定の閾値以下であるもののみを選択するようにしてもよい。
【0072】
培地最適化エンジン50は、過去の1種類以上の関連する培地の製造ログ22、培養条件32および評価結果31から、所与の特徴抽出ルールに基づいて1種類以上の特徴量を抽出する変換を行う。なお、第2実施形態では、培養条件32には、精製プロセス34に関する実行手順、各手順への入出力、各手順で行う操作、ならびに、操作に関するパラメータ(制約条件を含む。)およびそのパラメータに設定するパラメータ値などが含まれる。
【0073】
培地最適化エンジン50は、最適化の対象となっている培地に係る製造手順および培養手順の両方について、可変パラメータを設定するとともに、可変パラメータに対して、次にどのようなパラメータ値(探索点)を設定するべきかを、たとえばベイズ最適化の手法により行うことができる。
【0074】
第2実施形態においても図3に示す処理は実行されるところ、培地最適化エンジン50は、ステップS202において、製造条件のみでなく培養条件についても可変パラメータを設定し、ステップ203において製造条件および培養条件の両方について可変パラメータを設定してその値(探索点)を変化させながら最適点(評価結果が最も高いもの)を探索することができる。また、第2実施形態では、評価指標を変更することもできる。たとえば、収量の最大化を評価指標とした実行結果に基づいて、品質の改善を評価指標とした培地の最適化を行うこともできる。また、第2実施形態では、ステップS204およびステップS206の間に、培養プロセス33により行われる培養のステップS205が追加される。
【0075】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0076】
たとえば、本実施形態では、ベイズ最適化を想定したが、たとえば直交表を用いるようにしてもよい。さらに、ガウス過程回帰に代えて、VAE(Variational AutoEnoder)やランダムフォレスト回帰、Tree-structured Parzen Estimatorを用いた回帰を行うようにしてもよい。
【0077】
<第3実施形態>
【0078】
上記第1実施形態および第2実施形態では、実行結果に含まれているパラメータに基づいて回帰モデルを作成した。第3実施形態では、過去に実施された製造手順にパラメータとして含まれていなかったものも含めた特徴量ベクトルを用いて予測モデルを作成する。図6は、第3実施形態に係る培地最適化エンジン50を説明する図である。第3実施形態の培地最適化エンジン50が特徴量決定部51を備え、特徴量決定部51は、実行結果に加えて、各種のセンサ81や情報源83からの情報から、予測モデル53の作成に用いる特徴量ベクトル52を作成する。特徴量決定部51は、センサ81からの計測情報と、実行環境10からの実行環境情報とを要素とするベクトルに対して、1回以上の行列演算と1回以上の線形または非線形変換との組み合わせによって、製造手順に含まれていたパラメータに追加するパラメータ(特徴量)を決定し、特徴量ベクトル52を作成出力する。
【0079】
すなわち、実行環境10において、製造手順に記載されていたパラメータ以外の情報をセンサ81で計測し、センサ81による計測値(たとえば、逐次計測した温度、湿度、原料組成など)と、事前に得られていたパラメータ(たとえば、原料の種類、装置のスペックなど)を特徴量決定部1に入力し、特徴量決定部51は、入力された情報に基づいて特徴量ベクトル52を作成することになる。このようにして、培養ごと、環境ごとに得られた特徴量ベクトルを用いて予測モデル53を作成して製造パラメータ54の探索点を求めることができるので、知見の転移を効率的に行うことが可能となる。
【0080】
また、特徴量決定部51は、各種の情報源83からの情報84を特徴量ベクトル52に加えることができる。情報源83からの情報84には、外部環境、設備に関する情報、原料に関する情報が含まれる。
【0081】
外部環境には、たとえば、気候、気温、湿度、設置場所、月などが含まれうる。
【0082】
設備に関する情報には、たとえば、製造のスケール、装置構成、設置場所などが含まれうる。
【0083】
原料に関する情報を特徴量として用いることは、同一の原料として製造手順上は表現され得るものであっても、その組成が異なるような場合に有効である。原料に関する情報には、原料の成分、原料の属性、または原料に関する外部環境を表す情報が含まれうる。また、原料に関する情報は、化学処理、サンプル調製、観測(X線回折、質量分析、クロマトグラフィなど)などでセンサにより測定するようにすることができる。
【0084】
原料の種類として、糖源、水源、N源、各種無機塩類、バッファー、各種ビタミン類、血清、ホルモンなどが存在する。
【0085】
糖源の種類として、キャッサバ、サトウキビ糖蜜、甜菜、コーン、合成糖(純粋なもの)などが含まれうる。また、糖源の組成は、ショ糖、グルコース、果糖、マルトース、フルクトース、ガラクトース、などの糖類の濃度から規定される空間として表現することができる。天然由来の糖源の場合には、カリウムイオン、硫酸イオン、塩化物イオン、その他ビタミン類、アミノ酸、各種増殖阻害物質、微量成分、水分量、などが糖類に加えて含まれうる。糖源についての情報は、情報として与えてもよいし、化学処理、サンプル調製、観測(X線回折、質量分析)などでセンサにより測定するようにしてもよい。
【0086】
水源に関する情報として、単位体積の水に含まれるミネラル類(金属イオンの種類など)の濃度や総和がありうる。
【0087】
各種原料に増殖阻害物質が含まれているか否か、どの程度含まれているかを情報として与えることもできる。典型的な増殖阻害物質として、m-メトキシアセトフェノン、アポシニン、フルフラール、HMF、バニリン、シリングアルデヒドなど、あとは水銀、カドミウム、クロムなどの有毒金属など既知の増殖阻害物質の濃度などを与えることがあり得る。
【0088】
各種原料に含まれているN源を特徴量とすることもできる。N源として、ペプトンの種類(獣肉、心筋、ミルク、カゼイン、ゼラチン、大豆)、アミノ酸組成(代表的アミノ酸(典型的な20+α)を1つ以上含む基底)などがあり得る。
【0089】
各種原料に含まれている無機塩類の組成を特徴量とすることもできる。天然培地の場合、各種原料に含まれているほか、浸透圧調整、膜電位制御のために塩類を添加することが多い。無機塩類の組成には、Na、K、Ca、Zu、Fe、Cu、Mn、Seなどのイオンが含まれうる。
【0090】
各種原料に含まれているビタミンの組成を特徴量とすることもできる。ビタミンの組成は、各種脂溶性ビタミン群や水溶性ビタミン群として代表的なものが全て含まれうる。天然培地の場合はエキス類のほか糖源やペプトンにも含まれるため、そちらの組成の特徴量としても用いられるほか、合成培地の場合は個別で添加するし、天然培地の場合も個別に添加することができる。エキス類の種類には、肉エキス、植物エキス、酵母エキスなどがある。
【0091】
その他、各種バッファー類の組成(PHの安定のために添加することがあるため、原料に関する特徴量としうる。)、血清の組成(種々の、アルブミン、成長因子,細胞増殖促進物質、細胞障害保護因子、栄養因子などが含まれる。無血清培地の場合、代わりにタンパク質やペプチドなどを添加することがある。)、タンパク質・ペプチドなどの組成(たとえば、アルブミン、トランスフェリン、フィブロネクチンやフェチュインなどがある。)、脂肪酸・脂質などの組成(たとえば、ステロイド類などがある。)、ホルモンの組成なども特徴量とすることができる。
【0092】
また、原料の属性としては、原料のロット、キャンペーン、仕入先、原料の抽出源などの要素を特徴量とすることができる。
【0093】
ロットを特徴量に組み入れることは、ロットやキャンペーン間に存在する原材料、外部環境の違いを補正するために用いることができる。原材料のロット/キャンペーンが変わるごとに、原材料について特徴量抽出を行い、その情報を基に製造パラメータを調整することができる。
【0094】
また、原料に係る外部環境を表す情報として、たとえば、原料の調達や作成が行われた時期(季節、月等)、原料の調達や作成が行われた場所の気候などが含まれうる。
【0095】
以上のような情報を原料に関する情報として、特徴量ベクトルに加えることが可能である。これにより、製造手順においてはパラメータとして認識されていなかった要素をパラメータに組み込むことができるので、知識転移を適切に行うことが可能となる。
【0096】
たとえば、種培養と本培養の間に特徴量の決定処理を挟むことで、ロット間誤差を最小化することができる。大規模培養を行う際、いきなり大規模なタンクから培養するということは通常行わない。まずは「種培養」といって、小規模な装置で培養を行い、その結果を大きなタンクに移行して大規模な培養を行うという手順を取る。この際、小規模培養槽のサンプリング結果を質量分析器などで分析し、それからタスク特徴量を抽出し、その情報を基に本培養のパラメータを変化させることが有効な場面は多いと考えられる。
【0097】
また、評価プロセスの一部である、培養プロセスを複数種類使い分けることで、培地製造の最適化を効率的に行うことも可能である。
【0098】
はじめに、回分培養という、培養の際、培地を流加しない手法で培養を行い、培養後の培地成分を分析することによって、初期培地成分のうち、どの成分が多く使われたのか、また客体の増殖を阻害する物質がどの程度排出されたのかを推定することができる。その情報を用いて、流加培養(培養途中で流加培地を徐々に足していく培養形態)または連続培養では、初期培地の組成と、流加培地の組成を適切に調整することが好適である。
【0099】
たとえば、培地分析の結果、糖源が足りていないと判断したら、初期培地や流加培地の糖限の量を増やす。培養途中に酸性度が高くなりすぎると判断したら、初期培地に入れるバッファーの量を増やし、流加培地にアルカリ(炭酸水素Naなど)を適当量加えるなどの変更を行う。培地中に増殖阻害因子が増えすぎている場合、それらを打ち消すような成分を培地に添加するなどの事項に対応する変更を製造パラメータへ反映することでより良い培地組成を効率的に得ることができる。
【0100】
なお、本発明は、以下のような構成を備えることができる。
【0101】
[項目1](他の培地組成を起点とする培地製造)
培地の製造方法であって、
培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された他の培地の製造に係るパラメータの値に少なくとも基づいて予測モデルを作成するステップと、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
作成した前記パラメータの値を用いて培地を製造するステップと、
を備える培地製造方法。
[項目2](回帰モデル)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップは、前記パラメータの値に基づいて回帰モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目3](最適化対象のパラメータの決定と、その範囲内でのクエリの生成。+培養による培地製造条件の評価)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記他の培地の製造に係る前記製造条件に含まれる製造手順を少なくとも1つ取得するステップと、
前記製造手順に係る前記パラメータのうち可変とするものを決定するステップと、
決定した可変とする前記パラメータの探索範囲を設定するステップと、
製造された前記培地を評価するステップと、
をさらに備え、
前記パラメータの前記値を作成するステップでは、可変とする前記パラメータについて前記探索範囲内の前記値を前記予測モデルに基づいて決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目4]
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記培地を評価するステップは、
製造された前記培地を用いた培養を行うステップと、
前記培養の結果を評価するステップと、
を含むことを特徴とする培地製造方法。
[項目5](確率モデル)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップは、回帰関数の確率モデルを前記予測モデルとして作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目6](変換系設計してマッピング)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記他の培地の製造手順に係る第1の前記パラメータと、前記製造手順に係る第2の前記パラメータとの種類が異なる場合に、前記第1のパラメータの値を前記第2のパラメータの値に変換する関数を用いて、前記予測モデルに基づいて決定された前記第1のパラメータの値を変換するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目7](逐次最適化による探索を終了条件が満たされるまで繰り返す)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たすまで、可変とする前記パラメータに対して前記探索範囲内の値を1つ以上設定して、前記パラメータの値を作成するステップと、前記培地を製造するステップと、前記培養を行うステップと、前記培養の結果を評価するステップとを繰り返すこと、
を特徴とする培地製造方法。
[項目8](過去の実験データからの最適プロトコルの出力)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たす前記パラメータの値に基づいて、前記製造手順に設定する前記パラメータの値を決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目9](過去の実験データからの最適プロトコルの出力)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記培地を評価した評価結果が所定条件を満たす場合に、前記パラメータに前記値を設定した前記製造手順を出力するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目10](少なくとも一回の実験を挟んで起点を決定する)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップでは、複数の前記製造手順を取得し、
前記製造手順のそれぞれを用いて前記培地を試験製造するステップと、
試験製造された前記培地を評価するステップと、
前記試験製造された培地の評価結果に応じて、少なくとも1つの前記製造手順を選択するステップと、
をさらに備え、
選択された前記製造手順について、前記可変とするパラメータを決定すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目11]
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップにおいて、
前記培地の製造に用いる前記製造条件と前記他の培地に係る前記製造条件との間の距離を計算するステップと、
前記距離に応じて前記製造手順を少なくとも1つ決定するステップと、
を実行することを特徴とする培地製造方法。
[項目12](同一条件の実行例を起点とする)
項目3に記載の培地製造方法であって、
前記製造手順を少なくとも1つ取得するステップでは、予定されている製造条件と同一の製造条件での前記他の培地の前記製造手順を取得すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目13](距離の近い異種プロトコルのパラメータ値から回帰)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記他の培地の製造に係る第1の前記パラメータを要素とする第1のベクトルと、前記培地の製造に用いる第2の前記パラメータを要素とする第2のベクトルとに対して、1回以上の行列演算と1回以上の線形または非線形変換との組み合わせによって、前記他の培地と前記培地との間の距離を算出する関数を作成し、作成した前記関数により算出される前記距離の近いものから順に所定数の前記他の培地について、製造に係る前記第1のパラメータの値を取得するステップをさらに備えること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目14](実験を挟んで決定する)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記複数の他の培地のそれぞれについて、取得した前記パラメータの値を用いて評価用培地を製造し、製造した前記評価用培地の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果に応じて選択した1つ以上の前記他の培地である第1の他の培地に関連して実験的に製造された第2の他の培地に係る前記パラメータの値を取得するステップと、
をさらに備え、
前記予測モデルを作成するステップは、前記第1の他の培地の製造に係る前記パラメータの値と、前記第2の他の培地に係る前記パラメータの値とに基づいて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目15](試験培養の評価から最終のパラメータを決定)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記パラメータの値を作成するステップは、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値のセットを複数作成するステップと、
前記セットのそれぞれについて、前記セットに含まれる前記パラメータの値を用いて評価用培地を製造し、製造した前記評価用培地の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果に応じて1つの前記セットに含まれる前記パラメータの値を、前記パラメータの値を作成するステップにより作成する前記パラメータの値として決定するステップと、
を備えることを特徴とする培地製造方法。
[項目16](成分パラメータの限定列挙)
項目15に記載の培地製造方法であって、
前記パラメータの値のセットを複数作成するステップは、C源の種類及び量、N源の種類及び量、各種アミノ酸の種類及び量、P源の種類及び量、各種無機物塩の種類及び量、各種ビタミン類の種類及び量、生体抽出物の種類及び量、ホルモンの種類及び量、成長因子の種類及び量、ならびにバッファーの種類及び量のうち、いずれか1種類以上を変化させた前記パラメータの値のセットを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目17](培地製造パラメータの限定列挙)
項目15に記載の培地製造方法であって、
原料投入順序、温度、撹拌速度、撹拌時間のうち、いずれか1種類以上を変化させた前記パラメータの値のセットを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目18](培地の評価指標)
項目15に記載の培地製造方法であって、
前記培地の評価結果を取得するステップは、
製造された前記培地を用いた培養を行うステップと、
前記培養の客体となる物質の生産量の多さもしくは前記生産量の分散の小ささ、
前記培養の客体となる前記物質の品質の高さもしくは前記品質の分散の小ささ、
前記培養の客体となる前記物質の生産にかかるコストの低さ、
前記培養の客体となる細胞の収量の多さもしくは前記収量の分散の小ささ、または
前記培養の客体となる前記細胞の品質の高さもしくは前記品質の分散の小ささ、
に応じて前記培養の評価を行うステップと、
をさらに含むことを特徴とする培地製造方法。
[項目19](センサの計測情報を特徴量ベクトルに加える)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造時に既知の第1の前記パラメータの値と、前記他の培地の製造時に培地製造環境においてセンサにより測定された測定値とに基づいて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目20](スケールアップ/環境違い=設備の属性を特徴量ベクトルに含める)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造に用いられた製造設備の属性を前記パラメータに含めて、前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目21](原料違い)
項目1に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記他の培地の製造に係る前記パラメータには前記培地の原料が含まれており、前記原料に関する1つ以上の属性を、前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目22](原料に関する外部環境)
項目21に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記原料に係る外部環境を表す要素を前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目23](ロット違い)
項目21に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップにおいて、前記原料のロット、キャンペーン、仕入先、または前記原料の抽出源の少なくともいずれかを前記パラメータに含めて前記予測モデルを作成すること、
を特徴とする培地製造方法。
[項目24](培地+培養の最適化)
項目15に記載の培地製造方法であって、
前記予測モデルを作成するステップでは、前記製造に係るパラメータの値である製造パラメータ値および前記培養に係るパラメータの値である培養パラメータ値に基づいて、前記予測モデルを作成し、
前記評価結果を取得するステップでは、前記予測モデルを用いて作成された前記パラメータの値を用いて前記培養を行うこと、
を特徴とする培地製造方法。
[項目25](他の培地組成を起点とするパラメータ設定)
培地の製造に係るパラメータの値を決定する方法であって、
培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された複数の他の培地の製造に係る前記パラメータの値に基づいて予測モデルを作成するステップと、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
作成した前記パラメータの値を前記培地の製造に用いる前記パラメータの値として決定するステップと、
を備える培地製造パラメータ決定方法。
[項目26](試験培養の評価から最終のパラメータを決定)
項目25に記載の培地製造パラメータ決定方法であって、
前記パラメータの値を作成するステップは、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値のセットを複数作成するステップと、
前記セットのそれぞれについて、前記セットに含まれる前記パラメータの値を用いて評価用培地を製造し、製造した前記評価用培地を用いた培養を行い、前記培養の評価結果を取得するステップと、
前記評価結果に応じて1つの前記セットを選択し、選択した前記セットに含まれる前記パラメータの値を、前記パラメータの値を作成するステップにより作成した前記パラメータの値として決定するステップと、
を備えることを特徴とする培地製造パラメータ決定方法。
[項目27](培地1)
項目1に記載の培地製造方法により作成された培地。
[項目28](培地2)
項目25に記載の培地製造パラメータ決定方法により決定された前記パラメータ値を用いて製造された培地。
[項目29]
培地の製造に係るパラメータの値を決定するためのプログラムであって、
コンピュータに、
培養の客体、培養の評価指標および培地製造の製造条件の少なくともいずれかが異なる、過去に製造された複数の他の培地の製造に係る前記パラメータの値に少なくとも基づいて予測モデルを作成するステップと、
前記予測モデルを用いて前記パラメータの値を作成するステップと、
作成した前記パラメータの値を前記培地の製造に用いる前記パラメータの値として決定するステップと、
を実行させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0102】
10 実行環境
11 実行環境情報
13 製造条件
20 培地製造プロセス
21 実行結果
22 製造ログ
30 培地評価プロセス
31 評価結果
32 培養条件
33 培養プロセス
34 精製プロセス
50 培地最適化エンジン
60 実行指示コンパイラ
61 実行指示
62 実行スケジュール
70 実行結果DB
図1
図2
図3
図4
図5
図6