(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】躯体接合構造及びその構築方法、並びに割裂防止筋
(51)【国際特許分類】
E04G 23/02 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2017073458
(22)【出願日】2017-04-03
【審査請求日】2020-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】細井 泰行
(72)【発明者】
【氏名】渕上 勝志
(72)【発明者】
【氏名】箕尾 洋
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 学
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-018877(JP,A)
【文献】特開2016-102400(JP,A)
【文献】特開平11-152755(JP,A)
【文献】特開2011-190590(JP,A)
【文献】特開2014-227761(JP,A)
【文献】特開2001-317215(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体とが略棒状のシアキーを介して接合され、
前記増設躯体内の前記シアキーの部分の前記増設躯体の延びる方向における両側に、割裂防止筋が当接するようにして設けられ
、
前記シアキーの部分の一方側に当接する前記割裂防止筋の第1の当接部と他方側に当接する前記割裂防止筋の第2の当接部とがバネ部を介して連結され、
前記バネ部の付勢により前記第1の当接部と前記第2の当接部が前記シアキーの部分の両側に当接されていることを特徴とする躯体接合構造。
【請求項2】
前記増設躯体内の前記シアキーの部分の最大径が30mm以上であることを特徴とする請求項
1に記載の躯体接合構造。
【請求項3】
前記シアキーが中実の略棒状で形成され、
前記シアキーの前記増設躯体への埋込長さが、前記シアキーの太径部若しくは30mm以上の直径の前記シアキーの3倍以上であることを特徴とする請求項1
又は2に記載の躯体接合構造。
【請求項4】
前記割裂防止筋の一部が前記増設躯体の内方に延びるようにして前記増設躯体に埋設されていることを特徴とする請求項1~
3の何れかに記載の躯体接合構造。
【請求項5】
請求項1~
4の何れかに記載の躯体接合構造の構築方法であって、
既存躯体の表面に設けられている仕上材を残した状態で前記シアキーを前記既存躯体に埋め込んで固定する第1工程と、
前記仕上材を残した状態で、前記既存躯体から突出する前記シアキーの部分の両側に割裂防止筋を当接配置し、前記増設躯体を構成するコンクリートを打設する第2工程 を備えることを特徴とする躯体接合構造の構築方法。
【請求項6】
既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体とが略棒状のシアキーを介して接合される構造で、
前記増設躯体内の前記シアキーの部分の前記増設躯体の延びる方向における両側に当接して設けられる割裂防止筋であって、
前記シアキーの部分の一方側に当接する第1の当接部と他方側に当接する第2の当接部とがバネ部を介して連結されていることを特徴とする割裂防止筋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震補強等のために既存躯体に増設躯体を設置する際に増設躯体を既存躯体に接合する躯体接合構造及びその構築方法、並びに躯体接合構造に用いる割裂防止筋に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、既存躯体に増設躯体を接合する躯体接合構造として特許文献1の接合構造がある。特許文献1の接合構造は、既存躯体と増設躯体との間にシアキーとして棒状のアンカーを設け、アンカーに太径部と細径部を形成し、アンカーの細径部と太径部の一部を既存躯体側に配置し、太径部の残余部分を増設躯体側に配置したものである。この接合構造では、アンカーの細径部と太径部の一部を既存躯体側に配置することで既存躯体の鉄筋と干渉し難くし、既存躯体における施工性を高めている。
【0003】
また、別の躯体接合構造として特許文献2の接合構造がある。この接合構造は、既存建物の柱、梁で囲まれた空間における対向面に管体のシアキーを埋設し、その管体がせん断力を受けた時に管体が回転するのを防止するために管体から連結筋を突設させて側圧を低減し、対向する連結筋にわたって鉄筋を配筋して壁を構築するものである。この接合構造では、埋設された管体が面外方向および面内方向の力に対して大きな抵抗となり、壁、柱、梁を強固に接合できると共に、仕上材の上から管体を埋設する穴をコアドリルで形成することにより騒音、振動、粉塵の発生を防止することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-102400号
【文献】特開2001-317215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1のように、コンクリートで形成された増設躯体に棒状のシアキーを配置する躯体接合構造や、特許文献2のように管体のシアキーを配置する躯体接合構造では、シアキーが埋設されている箇所から割り裂く方向に力が発生し、増設躯体の延びる方向に裂けるようにして割裂破壊が発生することがある。そのため、このような割裂破壊を抑制できる躯体接合構造が求められている。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであり、既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体を略棒状のシアキーを介して接合する躯体接合構造において、シアキーが設けられている箇所から増設躯体の延びる方向に割裂破壊が拡がることを抑制することができる躯体接合構造及びその構築方法、並びに躯体接合構造に用いる割裂防止筋を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の躯体接合構造は、既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体とが略棒状のシアキーを介して接合され、前記増設躯体内の前記シアキーの部分の前記増設躯体の延びる方向における両側に、割裂防止筋が当接するようにして設けられ、前記シアキーの部分の一方側に当接する前記割裂防止筋の第1の当接部と他方側に当接する前記割裂防止筋の第2の当接部とがバネ部を介して連結され、前記バネ部の付勢により前記第1の当接部と前記第2の当接部が前記シアキーの部分の両側に当接されていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、シアキーの両側に当接する割裂防止筋によって増設躯体の延びる方向にコンクリートを割り裂こうとする力を効果的に低減し、ひび割れや割裂破壊の発生を防止することができ、割裂破壊に対する耐力を一層高めることができる。また、シアキーの両側に生じる支圧応力によって、コンクリートが圧壊する支圧破壊に対しても、シアキーの両側に当接する割裂防止筋に支圧応力を分散させ、支圧耐力を増加させることができる。また、シアキーの両側に割裂防止筋を当接する構造では、シアキーと割裂防止筋の位置決めが容易となり、施工性を高めることができる。
【0009】
前記シアキーの部分の一方側に当接する前記割裂防止筋の第1の当接部と他方側に当接する前記割裂防止筋の第2の当接部とがバネ部を介して連結され、前記バネ部の付勢により前記第1の当接部と前記第2の当接部が前記シアキーの部分の両側に当接されていることによれば、第1の当接部と第2の当接部で挟持するようにシアキーに当接させ、割裂防止筋をシアキーに仮止めすることができる。従って、割裂防止筋をシアキーに容易且つ確実に当接させることができると共に、先に既存躯体に配置されたシアキーに仮止めできるため、割裂防止筋を地組する必要性が無く、施工性を高めることができる。
【0010】
本発明の躯体接合構造は、前記増設躯体内の前記シアキーの部分の最大径が30mm以上であることを特徴とする。
これによれば、シアキーが太径である場合にはシアキーの設置本数を減らせる一方で、個々のシアキーの耐力が大きくなり割裂破壊が生じやすくなるが、このような太径のシアキーを用いた場合にも、シアキーが設けられている箇所から増設躯体の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを効果的に抑制することができる。
【0011】
本発明の躯体接合構造は、前記シアキーが中実の略棒状で形成され、前記シアキーの前記増設躯体への埋込長さが、前記シアキーの太径部若しくは30mm以上の直径の前記シアキーの3倍以上であることを特徴とする。
これによれば、中実の略棒状のシアキーは、管体と異なり内部へのコンクリート充填への配慮が不要で、増設躯体に十分な長さを容易に定着させることができる。また、シアキーを増設躯体に長く埋め込み、特許文献2の突設連結筋のような構造を用いずともシアキーの回転を防止することができる。
【0012】
本発明の躯体接合構造は、前記割裂防止筋の一部が前記増設躯体の内方に延びるようにして前記増設躯体に埋設されていることを特徴とする。
これによれば、割裂防止筋の一部を増設躯体の内方に延びるように埋設することにより、増設躯体のコンクリートと割裂防止筋との一体性を増し、シアキーが設けられている箇所から増設躯体の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを一層抑制することができる。更に、増設躯体内のシアキーの部分の両側に割裂防止筋を当接する場合には、割裂破壊に対する耐力をより一層高めることができると共に、シアキーの両側に当接する割裂防止筋に支圧応力を分散させ、より広い面積で応力を受けることができるため、支圧耐力を一層増加させることができる。
【0013】
本発明の躯体接合構造の構築方法は、本発明の躯体接合構造を構築する方法であって、既存躯体の表面に設けられている仕上材を残した状態で前記シアキーを前記既存躯体に埋め込んで固定する第1工程と、前記仕上材を残した状態で、前記既存躯体から突出する前記シアキーの部分の両側に割裂防止筋を当接配置し、前記増設躯体を構成するコンクリートを打設する第2工程を備えることを特徴とする。
これによれば、シアキーの両側に当接配置される割裂防止筋が増設側のコンクリートの損傷による変形を低減することができ、接合部の耐力だけではなく、剛性を増加することができる。したがって、通常は吹付タイル等の強度の低い仕上材が既存躯体の表面にある場合、仕上材の部分におけるシアキーの変形が大きく、既存躯体から増設躯体へせん断力を伝達することができないため、仕上材を除去して既存躯体の表面を目荒らし、既存躯体と増設躯体の一体性を高める処理を行う必要があるが、例えば径30mm以上のシアキーを用い、更に両側に当接配置される割裂防止筋を用いることにより、既存躯体と増設躯体の接合部のずれ方向の剛性が増大し、仕上材の除去処理を無くす或いは最小限に留めることや、既存躯体の表面を目荒らしする工程を無くすことが可能となり、躯体接合の施工性をより一層高め、施工時の騒音、振動を低減することができ、又、工期短縮を図ることができる。
【0014】
本発明の割裂防止筋は、既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体とが略棒状のシアキーを介して接合される構造で、前記増設躯体内の前記シアキーの部分の前記増設躯体の延びる方向における両側に当接して設けられる割裂防止筋であって、前記シアキーの部分の一方側に当接する第1の当接部と他方側に当接する第2の当接部とがバネ部を介して連結されていることを特徴とする。
これによれば、シアキーの両側に割裂防止筋を当接させることによって増設躯体の延びる方向にコンクリートを割り裂こうとする力を効果的に低減し、ひび割れや割裂破壊の発生を防止することができ、割裂破壊に対する耐力を一層高めることができる。また、シアキーの両側に生じる支圧応力によって、コンクリートが圧壊する支圧破壊に対しても、シアキーの両側に割裂防止筋を当接させることで支圧応力を分散させ、支圧耐力を増加させることができる。また、バネ部を介して連結される第1の当接部と第2の当接部で挟持するようにシアキーに当接させ、割裂防止筋をシアキーに仮止めし、容易に位置決めすることができる。従って、割裂防止筋をシアキーに容易且つ確実に当接させることができると共に、先に既存躯体に配置されたシアキーに仮止めできるため、割裂防止筋を地組する必要性が無く、施工性を高めることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、既存躯体とコンクリートで形成されている増設躯体を略棒状のシアキーを介して接合する躯体接合構造において、シアキーが設けられている箇所から増設躯体の延びる方向に割裂破壊が拡がることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】(a)は本発明による第1実施形態の躯体接合構造で設置された増設壁と既存躯体の柱及び梁を示す正面図、(b)は同図(a)の縦断面図。
【
図3】(a)は第1実施形態の躯体接合構造の部分正面図、(b)はその部分縦断説明図、(c)はその部分横断説明図。
【
図4】(a)は第1実施形態の躯体接合構造の第1施工例を説明する説明図、(b)は第1実施形態の躯体接合構造の第2施工例を説明する説明図。
【
図5】(a)はシアキーと割裂防止筋が離れている比較例の躯体接合構造におけるせん断力の作用を説明する正面説明図、(b)は同図(a)の比較例における割裂破壊を説明する平面説明図、(c)は同図(a)の比較例における支圧破壊を説明する平面説明図。
【
図6】本発明による第2実施形態の躯体接合構造におけるシアキーと割裂防止筋を示す斜視図。
【
図7】本発明による第3実施形態の躯体接合構造におけるシアキーと割裂防止筋を示す斜視図。
【
図8】(a)は本発明による第4実施形態の躯体接合構造におけるシアキーと割裂防止筋を示す分解斜視図、(b)はその斜視図。
【
図9】(a)は本発明による第5実施形態の躯体接合構造におけるシアキーと割裂防止筋を示す分解斜視図、(b)はその斜視図。
【
図10】本発明による第6実施形態の躯体接合構造の部分縦断説明図。
【
図11】本発明による第7実施形態の躯体接合構造の部分縦断説明図。
【
図12】第1実施形態の躯体接合構造で設置された増設壁と仕上材を表面に有する既存躯体の柱及び梁を示す正面図。
【
図13】第1実施形態の躯体接合構造で設置された増設床と既存躯体の柱及び梁を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔第1実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第1実施形態の躯体接合構造は、
図1~
図3に示すように、例えば柱11と梁12で構成される既存躯体10において柱11と梁12で囲まれる空間に増設壁を増設躯体20として設け、既存躯体10と増設躯体20とをせん断力を伝達する略棒状のシアキー30を介して接合するものである。既存躯体10はコンクリートで形成され、その内部には配筋13が埋設されている。増設躯体20もコンクリートで形成され、その内部には縦横に配筋21が埋設されている。
【0018】
第1実施形態におけるシアキー30は、中実の略棒状であり、柱状の太径部31と、太径部31よりも径が小さい柱状の細径部32を有する段付き形状であり、太径部31の一方の端面から突出するように細径部32が形成され、例えば丸鋼や異形鉄筋などの鋼材等で形成されている。シアキー30は、その細径部32と太径部31の一部が既存躯体10に埋め込むように固定され、太径部31の残部が増設躯体20に埋め込むように固定されて、既存躯体10と増設躯体20を接合する。
【0019】
シアキー30の太径部31の一部は、既存躯体10に埋め込んだ状態で既存躯体10の配筋13の位置まで到達しない長さで形成され、配筋13に干渉しないように既存躯体10に埋設されている。シアキー30の細径部32は、既存躯体10に埋め込んだ状態で既存躯体10の配筋13よりも深い位置まで延びる長さで形成され、既存躯体10の配筋13の間に入って配筋13よりも深い位置まで延びるように埋設されている。この既存躯体10に埋設される太径部31の一部の埋込長さは例えば20~30mm、細径部32の埋込長さは例えば60mm以上とすると良好である。
【0020】
シアキー30は、増設躯体20である増設壁の外周に所定間隔を開けて設置され、各設置個所で既存躯体10と増設躯体20に埋込固定され、既存躯体10と増設躯体20を接合している。尚、個々のシアキー30の耐力を大きくし、シアキー30の設置本数を減らす観点からは、シアキー30の太径部31の径を30mm以上とする等、増設躯体20内に埋め込まれるシアキー30の部分の最大径を30mm以上とすると好適である。また、シアキー30のせん断力による転倒を確実に防止する観点から、シアキー30の増設躯体20への埋込長さは太径部31の直径の3倍以上とすると好適であり、3倍~5倍程度とするとより好適である。
【0021】
増設躯体20の内部には略U字形状の割裂防止筋40が設けられている。割裂防止筋40は、増設躯体20内のシアキー30の部分に相当する太径部31に対し、増設躯体20の延びる方向における太径部31の両側に太径部31に近接するように設けられ、本実施形態では増設躯体20内の太径部31の両側に一対の割裂防止筋40・40が当接して設けられている。略U字形状の割裂防止筋40の一部は、増設躯体20の内方に延びるように設けられる延在部42になっており、割裂防止筋40は、シアキー30と当接する架橋部41を外側(柱11又は梁12側)、延在部42を内側(増設躯体20の中心側)にして増設躯体20に埋設されている。
【0022】
割裂防止筋40を設置する際には、例えば
図4(a)に示すように、既存躯体10の打継ぎ面にシアキー30を打ち込んで増設躯体20の配筋21を配置した後、図示の矢印のように割裂防止筋40を横向きにして差し込み、回転させてシアキー30に当接する所定位置に配置し、その後、型枠を設置してコンクリートを打設し、増設躯体20内に所定位置で割裂防止筋40を設置することが可能である。
【0023】
また、別例として
図4(b)のように、割裂防止筋40がシアキー30に当接するように実線で示すシアキー30と割裂防止筋40を地組して結束線等で仮止めし、その状態でシアキー30を既存躯体10の打継ぎ面に打ち込んで固定し、その後、配筋21を施してから型枠を設置してコンクリートを打設し、増設躯体20内に所定位置で割裂防止筋40を設置することが可能である。
【0024】
第1実施形態によれば、シアキー30の両側に近接する割裂防止筋40が増設躯体20の延びる方向に割り裂こうとする力が発生した際にシアキー30に当接し、増設躯体20の延びる方向にコンクリートを割り裂こうとする力を効果的に低減し、シアキー30が設けられている箇所から増設躯体20の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを抑制することができる。特に、増設躯体20内のシアキー30の部分の最大径が30mm以上でシアキー30が太径である場合には、シアキー30の設置本数を減らせる一方で、個々のシアキー30の耐力が大きくなり割裂破壊が生じやすくなるが、このような太径のシアキー30を用いた場合にも、シアキー30が設けられている箇所から増設躯体20の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを抑制することができる。更に、第1実施形態では、シアキー30の両側に割裂防止筋40を当接させることにより、増設躯体20の延びる方向にコンクリートを割り裂こうとする力を低減し、ひび割れや割裂破壊の発生を防止することができ、割裂破壊に対する耐力を一層高めることができる。
【0025】
また、シアキー30の両側に割裂防止筋40を当接させることにより、シアキー30の両側に生じる支圧応力により、コンクリート製の増設躯体20のシアキー側部のコンクリートが圧壊する支圧破壊に対し、シアキー30の両側に当接する割裂防止筋40に圧壊力、支圧応力を分散させ、支圧耐力を増加させることができる。また、シアキー30の両側に割裂防止筋40を当接する構造では、シアキー30と割裂防止筋40の位置決めが容易となり、施工性を高めることができる。
【0026】
付言すると、
図5のように、シアキー30の両側に割裂防止筋40と同形状の幅止め筋4を近接せずに離して配置した躯体接合構造では、
図5(a)の太線矢印のせん断力がシアキー30に作用した際に、
図5(b)の太線矢印のように割り裂こうとする力が発生し、ひび割れ、割裂破壊が拡がり易くなり、又、
図5(c)の太線矢印のようにシアキー30の支圧応力でコンクリートの圧壊による支圧破壊が発生し易くなる。
【0027】
また、割裂防止筋40の一部である延在部42を増設躯体20の内方に延びるように埋設することにより、コンクリートと割裂防止筋との一体性を増すことができ、シアキー30が設けられている箇所から増設躯体20の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを一層抑制することができる。また、割裂防止筋40が増設躯体20に配筋された既存躯体10に最も近い横筋の鉄筋21aの外側で増設躯体20の内方に延びる場合、鉄筋21aが割裂防止筋40により拘束され、シアキー30が設けられている箇所から増設躯体20の延びる方向にひび割れ、割裂破壊が拡がることを更に抑制することができる。また、増設躯体20に配筋された縦筋の鉄筋21bは、増設躯体20の端部で止まっているため、この部分では鉄筋とコンクリートの一体性が低く、増設躯体20の打継ぎ面に近い部分はせん断破壊を生じやすいが、割裂防止筋40の一部である延在部42を増設躯体20の内方に延びるように埋設することにより、鉄筋21bとコンクリートの一体性が低い部分を補強することができ、増設躯体20のせん断耐力を増加させることができる。更に、増設躯体20内のシアキー30の部分の両側に割裂防止筋40を当接する構造では、シアキー30の両側に当接する延在部42を有する割裂防止筋40に支圧応力を分散させ、より広い面積で応力を受けることができるため、支圧耐力を一層増加させることができる。
【0028】
また、例えば特許文献2の管体をシアキーとして用いる構成では、管体を長くすると増設躯体のコンクリート打設時に、管体内へコンクリートが十分に充填されない可能性があるため、管体を必要な長さだけ増設躯体20側へ延伸させることが難しい。そのため、シアキーがせん断力を受けた時に生じるシアキーの回転を防止するために、突設連結筋を用いている。この突設連結筋は、シアキーの回転変形を低減させることが主な目的であり、割裂防止筋40のように、割裂防止のためにコンクリートを拘束する効果や、支圧力を受ける面積を増加させる効果はない。一方、シアキー30は、管状ではなく中実の略棒状であるため、増設躯体20に十分な長さを定着させることが容易にでき、更に、シアキー30の長さを長くしてシアキー30の増設躯体20への埋込長さを30mm以上の太径部31の3倍以上とすることにより、突設連結筋を不要とし且つシアキーを構成する管体へのコンクリート充填に対する施工管理を無くし、シアキー30の回転を防止することができる。即ち、シアキー30の回転はシアキー30の長さを長くすることで防止し、それに加えて、割裂防止筋40により、増設躯体20の割裂破壊の防止、支圧耐力の増加、増設躯体20のせん断耐力の増加といった効果を期待することができるため、シアキー30と割裂防止筋40の組み合わせによって既存躯体10と増設躯体20をより強固に接続することができ、非常に効果的な耐震補強が実現される。
【0029】
〔第2実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第2実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、シアキー30aが異なること以外は第1実施形態と同様である。第2実施形態におけるシアキー30aは、
図6に示すように、全長に亘って略同一の外径を有する棒状であり、図示例では円柱形になっており、例えば丸鋼等で形成されている。ただし、異形棒鋼のように全く同一の外形ではない構成とすることも可能である。また、シアキー30aは、その一部が既存躯体10に埋め込むように固定され、残部が増設躯体20に埋め込むように固定されて既存躯体10と増設躯体20を接合する。シアキー30aには、埋め込まれた状態の増設躯体20の内部において、その両側に割裂防止筋40が近接するように設けられ、好適には両側に割裂防止筋40が当接して設けられる。
【0030】
尚、個々のシアキー30aの耐力を大きくし、シアキー30aの設置本数を減らす観点からは、シアキー30aの直径を30mm以上とすると好適である。また、シアキー30aのせん断力による転倒を確実に防止する観点から、シアキー30aの増設躯体20への埋込長さはシアキー30aの直径の3倍以上とすると好適であり、3倍~5倍程度とするとより好適である。
【0031】
第2実施形態によれば、第1実施形態と対応する構成から第1実施形態と対応する効果を得ることができる。
【0032】
〔第3実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第3実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、割裂防止筋40bが異なること以外は第2実施形態と同様である。第3実施形態における割裂防止筋40bは、
図7に示すように、第1実施形態の略U字形状の割裂防止筋40・40をバネ部43bを介して連結した形状を呈しており、先端側の延在部44b・44bと、バネ部43b側の延在部45b・45bと、延在部44bと延在部45bとの間を架橋する第1実施形態の割裂防止筋40の架橋部41に対応する部分である当接部46b・46bと、延在部45b・45bの根元側を連結する略弧状のバネ部43bから構成される。延在部44bと延在部45bとの間の間隔は、シアキー30aの直径より僅かに小さく形成されている。
【0033】
割裂防止筋40bの一対の当接部46b・46bの間に配置されたシアキー30aは、バネ部43bの付勢により、当接部46b・46bで挟持され、両側から当接部46b・46bがシアキー30aに当接するようになっている。そして、増設躯体20の内部において、増設躯体20の延びる方向のシアキー30aの両側に当接部46b・46bが当接した状態で、増設躯体20及び躯体接合構造が構築される。
【0034】
第3実施形態によれば、第2実施形態と対応する構成から第2実施形態と対応する効果を得ることができる。更に、第1の当接部46bと第2の当接部46bで挟持するようにシアキー30aに当接させ、割裂防止筋40bをシアキー30aに仮止めすることができる。従って、割裂防止筋40bをシアキー30aに容易且つ確実に当接させることができると共に、先に既存躯体10に配置されたシアキー30aに仮止めできるため、割裂防止筋40bを地組する必要性が無く、施工性を高めることができる。
【0035】
〔第4実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第4実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、割裂防止筋40cが異なること以外は第2実施形態と同様である。第4実施形態における割裂防止筋40cは、
図8に示すように、先端側の延在部47c・47cと、延在部47cから略L字状に屈曲して設けられる当接部48c・48cと、当接部48c・48cの根元側を連結する略弧状のバネ部49cから構成される。
【0036】
割裂防止筋40cの一対の当接部48c・48cの間に配置されたシアキー30aは、バネ部49cの付勢により、当接部48c・48cで挟持され、両側から当接部48c・48cがシアキー30aに当接するようになっている。そして、増設躯体20の内部において、増設躯体20の延びる方向のシアキー30aの両側に当接部48c・48cが当接した状態で、増設躯体20及び躯体接合構造が構築される。尚、図示例では、一対の割裂防止筋40c・40cが逆方向からシアキー30aに外嵌めされ、各々の割裂防止筋40cの当接部48c・48cが増設躯体20の延びる方向のシアキー30aの両側に当接するようになっている。
【0037】
第4実施形態によれば、第3実施形態と対応する構成から第3実施形態と対応する効果を得ることができる。
【0038】
〔第5実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第5実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、割裂防止筋40dが異なること以外は第2実施形態と同様である。第5実施形態における割裂防止筋40dは、
図9に示すように、第4実施形態の割裂防止筋40cの延在部47c・47cを無くした形状を呈する略U字形状であり、当接部48d・48dと、当接部48d・48dの根元側を連結する略弧状のバネ部49dから構成される。
【0039】
割裂防止筋40dの一対の当接部48d・48dの間に配置されたシアキー30aは、バネ部49dの付勢により、当接部48d・48dで挟持され、両側から当接部48d・48dがシアキー30aに当接するようになっている。そして、増設躯体20の内部において、増設躯体20の延びる方向のシアキー30aの両側に当接部48d・48dが当接した状態で、増設躯体20及び躯体接合構造が構築される。尚、図示例では、一対の割裂防止筋40d・40dが逆方向からシアキー30aに外嵌めされ、各々の割裂防止筋40dの当接部48d・48dが増設躯体20の延びる方向のシアキー30aの両側に当接するようになっている。
【0040】
第5実施形態によれば、延在部47cに起因する効果以外、第4実施形態と対応する構成から第4実施形態と対応する効果を得ることができる。
【0041】
〔第6実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第6実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、シアキー30eが異なること以外は第3実施形態と同様である。第6実施形態におけるシアキー30eは、
図10に示すように、細長棒状の鉄筋で構成されている。
【0042】
割裂防止筋40bの一対の当接部46b・46bの間に配置されたシアキー30eは、バネ部43bの付勢により、当接部46b・46bで挟持され、両側から当接部46b・46bがシアキー30eに当接するようになっている。そして、増設躯体20の内部において、増設躯体20の延びる方向のシアキー30eの両側に当接部46b・46bが当接した状態で、増設躯体20及び躯体接合構造が構築される。
【0043】
第6実施形態によれば、第3実施形態と対応する構成から第3実施形態と対応する効果を得ることができる。
【0044】
〔第7実施形態の躯体接合構造〕
本発明による第7実施形態の躯体接合構造及びその構成部材は、シアキー30fが異なること以外は第5実施形態と同様である。第7実施形態におけるシアキー30fは、
図11に示すように、細長棒状の鉄筋33fを鋼管34fに通して構成されている。
【0045】
割裂防止筋40dの一対の当接部48d・48dの間に配置されたシアキー30fは、バネ部49dの付勢により、当接部48d・48dで挟持され、両側から当接部48d・48dがシアキー30fの鋼管34fに当接するようになっている。増設躯体20の内部において、増設躯体20の延びる方向のシアキー30fの両側に当接部48d・48dが当接した状態で、増設躯体20及び躯体接合構造が構築される。尚、図示例では、一対の割裂防止筋40d・40dが逆方向からシアキー30fに外嵌めされ、各々の割裂防止筋40dの当接部48d・48dが増設躯体20の延びる方向のシアキー30fの鋼管34fの両側に当接するようになっている。
【0046】
第7実施形態によれば、第5実施形態と対応する構成から第5実施形態と対応する効果を得ることができる。
【0047】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記変形例や追記した内容も含まれる。
【0048】
例えば第1実施形態の図示例では、既存躯体10の仕上材のない表面に増設躯体20である増設壁を構築する場合を示したが、
図12に示すように、既存躯体10の表面に仕上材50が残った状態で増設躯体20を構築する構造も本発明に含まれる。
図12の躯体接合構造の構築では、例えば既存躯体10の表面に設けられている強度の低い吹付タイル、モルタル等の仕上材50を残した状態でシアキー30等を既存躯体10に埋め込んで固定する。この際、仕上材50の厚みが厚過ぎる場合には、50mm以下、より好適には30mm以下に事前処理することが好ましい。その後、仕上材50を残した状態で、既存躯体10から突出するシアキー30等の部分の両側に割裂防止筋40等を近接配置し、増設躯体20を構成するコンクリートを打設して躯体接合構造を得る。
【0049】
通常あと施工アンカーとして用いられる直径20mm程度までのシアキーでは吹付タイルや仕上げモルタル等の強度の低い仕上材が既存躯体の表面にある場合、仕上材部分でのシアキーの剛性が低いため、既存躯体から増設躯体へのせん断力の伝達ができない。そのため、仕上材を除去して既存躯体の表面を目荒らし、既存躯体と増設躯体の一体性を高める処理を行う必要があるが、本発明では、例えば径30mm以上のシアキーを用い、割裂補強筋を近接させることで仕上材の除去処理を無くす或いは最小限に留めることや、既存躯体の表面を目荒らしする工程を無くすことが可能となり、躯体接合の施工性をより一層高め、施工時の騒音、振動を低減することができる。また工期短縮を図ることができる。
【0050】
また、第1実施形態の図示例では、既存躯体10の柱11と梁12で構成される空間に増設躯体20として増設壁を形成する例を示したが、本発明における既存躯体10と増設躯体20は適宜であり、例えば
図13に示すように、既存躯体10の梁12で囲まれる空間に増設躯体20として増設床を形成し、既存躯体10と増設床である増設躯体20をシアキー30等で接合し、そのシアキー30等の増設床の延びる方向における両側に割裂防止筋40等を近接或いは当接して設ける場合も本発明に含まれる。その他、例えば増設躯体20を増設梁、或いは外付補強鉄骨フレームのコンクリート接合部等とする場合も本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、例えば耐震補強のために既存躯体に増設躯体を接合する際に利用することができる。
【符号の説明】
【0052】
10…既存躯体 11…柱 12…梁 13…配筋 20…増設躯体 21…配筋 21a、21b…鉄筋 30、30a、30e、30f…シアキー 31…太径部 32…細径部 33f…鉄筋 34f…鋼管 40、40b、40c、40d…割裂防止筋 41…架橋部 42…延在部 43b…バネ部 44b、45b…延在部 46b…当接部 47c…延在部 48c、48d…当接部 49c、49d…バネ部 4…幅止め筋 50…仕上材