(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】クレーン
(51)【国際特許分類】
B66C 23/82 20060101AFI20220302BHJP
B66C 23/26 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
B66C23/82 C
B66C23/26 C
(21)【出願番号】P 2017078876
(22)【出願日】2017-04-12
【審査請求日】2018-05-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】特許業務法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 大朗
【合議体】
【審判長】平田 信勝
【審判官】田村 嘉章
【審判官】段 吉享
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-127150(JP,A)
【文献】特開2007-290789(JP,A)
【文献】実開昭48-110865(JP,U)
【文献】特開昭62-244895(JP,A)
【文献】実開昭49-95665(JP,U)
【文献】特開2012-148848(JP,A)
【文献】実開昭63-26686(JP,U)
【文献】米国特許第4579235(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 19/22 - 23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームフットピンを介してブームが取り付けられる上部旋回体と、
前記上部旋回体
の左右方向の両端部の各々に設けられて
、前記上部旋回体の天板から上方に突出する
左右一対の立上板を有する支持部に支持されるマストフットピンを介して
、基端部であるマストフット部が前記支持部に接続されて前記上部旋回体に回転可能に取り付けられ前記ブームを起伏させるマストと、
組立時に前記マストを前記上部旋回体の上に倒伏された状態から上方に位置するほど前方に位置するように傾斜した状態まで起立させるマスト起立装置とを具備し、
前記マスト起立装置は、
前記上部旋回体において前記マストフットピンよりも下方に取り付けられたシリンダ装置と、
前記シリンダ装置の駆動力を前記マストに伝達し、前記マストを起立させるアーム部とを備え、
前記アーム部は、
前記マストフットピンに回転可能に支持されるアーム本体と、
前記アーム本体に設けられ前記マストを下方から支持するマスト支持部と、
前記アーム本体に設けられ前記シリンダ装置のロッドに接続されるロッド接続部とを有し、
前記マストは、
前記マストフットピンに対し前記マストフットピンの軸方向に交差する平面に沿って移動させて嵌め合わせ可能となるように前記マストの長手方向のうちの外側に開放する溝部と、
前記マストフットピンが前記溝部に嵌め合わされた状態を保つ
、前記マストの長手方向の端部に位置する抜止部材とを有し、
前記抜止部材は、前記マストフットピンの外周に沿う曲面状に形成された軸当たり面を有し、
前記溝部の内面及び前記抜止部材の前記軸当たり面が前記マストフットピンの外周の全周に沿う曲面となって
おり、
前記マストフットピンと前記アーム部との連結部分は、一対の前記立上板から内側に、前記アーム部が有するアーム板、前記マストフット部、ブッシュの順で嵌められていることを特徴とするクレーン。
【請求項2】
前記抜止部材は、前記マストフットピンが前記溝部に嵌め合わされた状態で、前記溝部の開口に架け渡されるように構成されていることを特徴とする請求項1記載のクレーン。
【請求項3】
前記マストフットピンが左右方向に離れて一対設けられ、
前記上部旋回体は、
前記一対のマストフットピンのそれぞれを支持する一対の支持部と、
ウィンチ装置とを有し、
前記ウィンチ装置が前記一対のマストフットピンの間に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のクレーン。
【請求項4】
前記ウィンチ装置が、前記ブームから吊り下げられるフックを巻上及び巻下可能なフック巻上用ウィンチであることを特徴とする請求項3記載のクレーン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、従来のクレーンが開示されている。特許文献1記載のクレーンは、下部走行体に搭載された旋回フレームと、旋回フレームにブームフットピンを介して取り付けられたブームと、旋回フレームにマストフットピンを介して取り付けられたマストとを備えている。
【0003】
この種のクレーンは、分解された状態で作業現場に搬入され、作業現場において組み立てられる。ここで、分解された状態のクレーンは、マストフットピンが旋回フレームから取り外されており、マストが倒伏した状態となっている。このため、作業現場でクレーンを組み立てるに当たり、マストを旋回フレームに接続した上で、起立させる必要がある。
【0004】
そこで、特許文献1記載のクレーンは、組立時においてマストを起立させるため、マスト起伏用アダプタと、シリンダ装置とを備えている。
【0005】
マスト起伏用アダプタは、マストフットピンに回転可能に取り付けられるアダプタ本体と、アダプタ本体に設けられてマストを下方から支持するマスト通常支持部と、シリンダ装置のロッド部に接続される接続部とを備えている。組立時において、シリンダ装置がロッド部を進出させると、マスト起伏用アダプタは、マストフットピンを中心にアダプタ本体が回転し、マスト通常支持部がマストを押し上げることでマストを起立させる。
【0006】
この特許文献1記載のマスト起伏用アダプタは、上記のように、アダプタ本体がマストフットピンに軸支された状態においては、マストを起立させることができる上に、マストフットピンを取り外した状態においては、シリンダ装置がロッド部を進出させることで、旋回フレームからマストを離反させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、この種のマスト起伏用アダプタは、左右方向に互いに離れた一対の基部側板によって主体が構成されており、マストフットピンが挿入される部分においては、一対の基部側板の間に、マストと、ブッシュとが嵌め込まれるのが一般的である。このため、組み立てられた状態のクレーンは、旋回フレームに設けられた一対のマスト支持部板体の間に、一対の基部側板とマストとブッシュとが嵌め込まれ、これらがマストフットピンを介して一体に連結されている。
【0009】
しかしながら、この従来のクレーンの構造では、マストフットピンを旋回フレームのマスト支持部板体から引き抜く際、マストについては作業工程上吊られているため脱落は回避できるものの、ブッシュやマスト起伏用アダプタについては脱落してしまうことがあった。
【0010】
また、組立時において、マストフットピンをマスト支持部板体の取付穴に挿入する際にあっては、マスト支持部板体の取付穴に対し、マスト起伏用アダプタの取付穴と、マストの取付穴と、ブッシュの中央穴との4部材の穴の中心軸を合わせる必要がある。しかし、マスト,マスト起伏用アダプタ及びブッシュは重量物であるため、これらの中心軸をずれない様に合わせた状態を保ちつつ、マストフットピンを取付穴に挿入するのは、非常に困難であるという問題もある。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上部旋回体に対し、マストを取り付け又は取り外しをするに当たり、作業性を向上させることができるクレーンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のクレーンは、ブームフットピンを介してブームが取り付けられる上部旋回体と、前記上部旋回体の左右方向の両端部の各々に設けられて、前記上部旋回体の天板から上方に突出する左右一対の立上板を有する支持部に支持されるマストフットピンを介して、基端部であるマストフット部が前記支持部に接続されて前記上部旋回体に回転可能に取り付けられ前記ブームを起伏させるマストと、組立時に前記マストを前記上部旋回体の上に倒伏された状態から上方に位置するほど前方に位置するように傾斜した状態まで起立させるマスト起立装置とを具備し、前記マスト起立装置は、前記上部旋回体において前記マストフットピンよりも下方に取り付けられたシリンダ装置と、前記シリンダ装置の駆動力を前記マストに伝達し、前記マストを起立させるアーム部とを備え、前記アーム部は、前記マストフットピンに回転可能に支持されるアーム本体と、前記アーム本体に設けられ前記マストを下方から支持するマスト支持部と、前記アーム本体に設けられ前記シリンダ装置のロッドに接続されるロッド接続部とを有し、前記マストは、前記マストフットピンに対し前記マストフットピンの軸方向に交差する平面に沿って移動させて嵌め合わせ可能となるように前記マストの長手方向のうちの外側に開放する溝部と、前記マストフットピンが前記溝部に嵌め合わされた状態を保つ、前記マストの長手方向の端部に位置する抜止部材とを有し、前記抜止部材は、前記マストフットピンの外周に沿う曲面状に形成された軸当たり面を有し、前記溝部の内面及び前記抜止部材の前記軸当たり面が前記マストフットピンの外周の全周に沿う曲面となっており、前記マストフットピンと前記アーム部との連結部分は、一対の前記立上板から内側に、前記アーム部が有するアーム板、前記マストフット部、ブッシュの順で嵌められていることを特徴とする。
【0013】
また、このクレーンおいて、前記抜止部材は、前記マストフットピンが前記溝部に嵌め合わされた状態で、前記溝部の開口に架け渡されるように構成されていることが好ましい。
【0014】
また、このクレーンにおいて、前記マストフットピンが左右方向に離れて一対設けられ、前記上部旋回体は、前記一対のマストフットピンのそれぞれを支持する一対の支持部と、ウィンチ装置とを有し、前記ウィンチ装置が前記一対のマストフットピンの間に配置されていることが好ましい。
【0015】
また、このクレーンにおいて、前記ウィンチ装置が、前記ブームから吊り下げられるフックを巻上及び巻下可能なフック巻上用ウィンチであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明のクレーンによれば、上部旋回体に対し、マストを取り付け又は取り外しをするに当たり、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態のクレーンの全体図である。
【
図2】
図2は、同上のクレーンの組立時の平面図である。
【
図3】
図3は、同上のクレーンの組立時のマスト起立装置周辺の側面図である。
【
図5】
図5は、同上のアーム部が取り付けられた状態のマストフットピン周辺の拡大断面図である。
【
図7】
図7は、同上のクレーンのマストフットピン周辺の分解断面図である。
【
図8】
図8A~Cは、同上のクレーンの組立工程を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について添付図面に基づいて説明する。
【0019】
本実施形態のクレーンは、
図1に示すように、移動式クレーンであり、具体的にはクローラクレーンである。クレーンは、下部走行体1と、下部走行体1に搭載された上部旋回体2と、上部旋回体2にブームフットピン27を介して取り付けられたブーム3と、上部旋回体2にマストフットピン26を介して取り付けられたマスト4と、組立時にマスト4を起立させるマスト起立装置6とを備えている。
【0020】
以下においては、上部旋回体2のキャブ9(運転室)の向きを基準に前後方向を定義し、特に、上部旋回体2においてキャブ9側を前側として説明する。また、前後方向に直交しかつ水平面に沿う方向を左右方向として定義する。
【0021】
下部走行体1は、地面に接地して移動することが可能な車体である。下部走行体1には、上部旋回体2が搭載されている。本実施形態の下部走行体1は、一対のクローラを有する。
【0022】
上部旋回体2は、下部走行体1に対して鉛直軸周りに旋回可能に取り付けられている。上部旋回体2には、ブーム3,マスト4及びマスト起立装置6が搭載されている。上部旋回体2の前方にはキャブ9が取り付けられており、上部旋回体2の後端部には、必要に応じてカウンタウェイト(不図示)が搭載される。
【0023】
ブーム3は、上部旋回体2に対して、ブームフットピン27を介して連結されることで、水平軸周りに回転可能に取り付けられている。ブーム3は、ラチスブーム又はテレスコピック等により構成されるが、本実施形態のブーム3はラチスブームにより構成される。ブーム3は、上部ブームと下部ブームとを備えており、一方向に延びている。ブーム3は、作業上必要とされる長さに応じて、上部ブームと下部ブームとの間に中間ブームが足される。なお、ブーム3の先端部には必要に応じてジブが取り付けられる。
【0024】
クレーンは、ブーム3の先端部から吊り下げられるフック31(主フック311・補フック312)を有している。フック31は、ワイヤロープを介してウィンチ装置(フック巻上用ウィンチ32)に巻き回されており、このフック巻上用ウィンチ32によって巻上及び巻下を行うことができる。
【0025】
マスト4は、ガイライン51を介してブーム3に連結されており、ブーム3を起立又は倒伏する方向に、ブームフットピン27を中心にして回転させる。言い換えると、マスト4はブーム3を起伏させる。マスト4は、上部旋回体2に対し、マストフットピン26を介して回転可能に取り付けられている。
【0026】
マスト4の上端部には、複数のシーブを含む上部スプレッダ52が設けられており、上部旋回体2の後端部には、複数のシーブを含む下部スプレッダ53が設けられている(上部スプレッダ52と下部スプレッダ53を含むマスト駆動装置をスプレッダと言う)。上部スプレッダ52のシーブと下部スプレッダ53のシーブとは、マスト起伏ウィンチ54によって巻き取り・繰り出し可能なワイヤロープが交互に掛けられている。マスト起伏ウィンチ54を駆動すると、上部スプレッダ52と下部スプレッダ53との距離を変更することができ、これにより、マスト4を起伏させる(マスト4をマストフットピン26周りに回転させる)ことができる。なお、マスト起伏ウィンチ54は、上部旋回体2に搭載されているが、マスト4に取り付けられてもよい。
【0027】
このような構成のクレーンは、作業現場に搬入または搬出されるときに、トラック等の荷台に分解された状態で積載される。分解された状態のクレーンは、上部旋回体2にマストフットピン26が取り付けられたままであり、マスト4が、マストフットピン26から取り外されており、倒伏した状態(以下、倒伏状態という)となっている。作業現場に搬入された分解状態のクレーンは、搬入後、作業現場で組み立てられる。
【0028】
図2に、倒伏状態のマスト4が上部旋回体2に取り付けられた状態のクレーンの平面図を示す。なお、
図2において、ブーム3は未だ取り付けられていない。
【0029】
マスト4は、左右方向に離れた一対の支柱部41と、一対の支柱部41の先端部同士を繋ぐ横桟部45とを備えている。横桟部45には、マストフットピン26の中心軸に平行な軸周りに回転可能な複数のシーブからなる上部スプレッダ52が取り付けられている。支柱部41の基端部(以下、マストフット部42という)は、マストフットピン26を介して、上部旋回体2に設けられた支持部25に接続されている。
【0030】
上部旋回体2は、左右一対の側板21と、一対の側板21の各々の上端に設けられた天板22と、上部旋回体2の底面を構成する底板23とを備えている。底板23は、一対の側板21の下端部にわたって形成されている。
【0031】
支持部25は、マストフットピン26を支持するように構成される。支持部25は、上部旋回体2の左右方向の両端部の各々に設けられており、上部旋回体2の天板22の前端部に配置されている。各支持部25は、天板22の前端部から上方に突出する左右一対の立上板251を有する(つまり、本実施形態において立上板251は、計4箇所に形成されている)。一対の立上板251には、一つのマストフットピン26が支持される(
図6参照)。
【0032】
図3に、マストフットピン26の周辺部を鉛直面に沿って切断した拡大断面図を示す。クレーンは、組立時において倒伏状態のマスト4を起立させるマスト起立装置6を備えている。マスト起立装置6は、シリンダ装置61と、アーム部7とを備えている。
【0033】
シリンダ装置61は、マスト4を押し上げる動力装置であり、例えば、油圧シリンダ611により構成される。シリンダ装置61は複数設けられており、マスト4の支柱部41に対して一対一となるように配置される。各シリンダ装置61は、シリンダ611と、シリンダ611に対して進退可能なロッド612とを備えている。
【0034】
シリンダ611は、マストフットピン26よりも下方に配置されている。シリンダ611の下端部は、上部旋回体2の底板23に設けられた軸支部24によって、回転可能に支持されている。本実施形態において、シリンダ611の長手方向は、上下方向に沿っているが、より具体的に言うと、上方に位置するほど前方に位置するようにやや傾斜している。シリンダ611が傾斜していることで、ロッド612を進退(進出又は退避)させたときに、シリンダ611の上端部の前後方向の移動量を小さくすることができる。この結果、配置レイアウトの自由度を向上することができる。
【0035】
ロッド612は、シリンダ611の長手方向に平行な方向に、進退可能に構成されている。シリンダ611の長手方向は、上述したように、上下方向に沿うように配置されているため、ロッド612は上方に進出可能に構成されている。ロッド612の先端部はアーム部7に接続されており、ロッド612が進出すると、アーム部7が押し上げられる。
【0036】
アーム部7は、シリンダ装置61の駆動力を倒伏状態のマスト4に伝達し、マスト4を起立させるための部材である。アーム部7は、マストフットピン26によって回転可能に支持される。アーム部7は、
図4に示すように、アーム本体71と、マスト支持部72と、ロッド接続部73とを備えている。
【0037】
アーム本体71は、アーム部7の主体を構成する。アーム本体71は、左右方向に離れた一対のアーム板711を備えている。一対のアーム板711の各々には、マストフットピン26を挿通するための挿通孔712が形成されている。この挿通孔712にマストフットピン26が挿通されることで、アーム本体71は、マストフットピン26に回転可能に支持される。
【0038】
マスト支持部72は、マスト4の支柱部41を下方から支持する。マスト支持部72は、一対のアーム板711を架け渡すように形成された支持板721により構成されている。支持板721と一対のアーム板711とは、例えば溶接により一体に形成されている。
【0039】
ロッド接続部73は、ロッド612に接続される部分である。ロッド接続部73は、マストフットピン26よりもマスト支持部72側に形成されており、本実施形態では、マスト支持部72の直ぐ下方に配置されている。本実施形態のロッド接続部73は、ロッド612に対してピン接合するための貫通孔731により構成されている。
【0040】
このような構成のアーム部7は、
図5に示すように、挿通孔712にマストフットピン26を挿入することで取り付けられる。マストフットピン26に取り付けられたアーム部7は、マスト支持部72がマスト4の支柱部41の下方に位置する。この状態で、シリンダ装置61のロッド612を進出させると、マスト支持部72がマスト4の支柱部41を押し上げ、これにより、マスト4を起立させることができる。
【0041】
ここで、
図6に、マストフットピン26とアーム部7との連結部分の
図5におけるA矢視図を示す。
図6に示すように、マストフットピン26には、マストフットピン26を支持する一対の立上板251から内側に、アーム板711,マストフット部42,ブッシュ8の順で嵌められている。このように、本実施形態のマスト4は、マストフットピン26に対してマストフット部42が取り付けられているが、マストフット部42をマストフットピン26に取り付ける前に、マストフットピン26,ブッシュ8及びアーム板711を立上板251に対して固定した状態で、マストフット部42を取り付けることができるように構成されている。
【0042】
また、マストフットピン26は、立上板251から側方に突出した部分に、マストフットピン26の軸方向に直交する方向に延びた溝261が形成される。この溝261には、上部旋回体2側に固定された固定板262が嵌め込まれる。これによって、マストフットピン26は抜け止めされている。
【0043】
マストフット部42は、
図7に示すように、側面視U字状の溝部43と、抜止部材44とを備えている。溝部43は、マスト4の長手方向のうちの外側に開放しており、マストフットピン26に対し、マストフットピン26の軸方向に交差する平面(本実施形態ではマストフットピン26の軸方向に直交する平面)に沿って移動させて嵌め合わせ可能に構成されている。溝部43は、一対の支柱部41のそれぞれに形成されている。
【0044】
抜止部材44は、マストフットピン26が溝部43に嵌め合わされた状態を保つ部材である。抜止部材44は、マストフットピン26が溝部43に嵌め合わされた状態で、溝部43の開口に架け渡されるように構成されている。抜止部材44は、ブロック441と、ブロック441を溝部43の開口に固定するボルト443・ナット444とを備えている。ブロック441は、マストフットピン26の外周に沿って曲面状に形成された軸当たり面442を有している。
【0045】
抜止部材44は次のようにして取り付けられる。マストフットピン26に溝部43を嵌め合わせた状態で、マストフットピン26の外周面に軸当たり面442が当たるようにブロック441を配置する。この状態において、溝部43の開口部と、ブロック441とをボルト443とナット444とで接続する。
【0046】
次に、上部旋回体2に固定されたマストフットピン26に対し、マスト4を取り付ける作業工程について説明する。
【0047】
アーム部7の挿通孔712とブッシュ8とにマストフットピン26が挿入された状態で、マストフットピン26が支持部25に固定されている。この状態で、作業者は、
図8Aに示すように、マスト4を別のクレーンで吊り上げ、マストフット部42側ほど下方に位置するようにマスト4を傾斜させる。ここで、マスト4を吊り上げるための吊持部46の位置を、当該傾斜が得られる箇所に設定しておくことが好ましい。これにより、マスト4に取り付けられたマスト起伏ウィンチ54が上部旋回体2に干渉するのを防ぐことができる。
【0048】
この状態で、マストフット部42をマストフットピン26に近付け、溝部43をマストフットピン26に対して嵌め合わせる。この状態で、抜止部材44を取り付ける。そして、
図8Bに示すように、マスト4を上部旋回体2の上に載置する。また、このとき、マスト起伏ウィンチ54を上部旋回体2に固定する。
【0049】
次いで、
図8Cに示すように、マスト起立装置6によりマスト4を立ち上げる。この後、特に図示しないが、倒伏状態のブーム3を上部旋回体2に取り付け、スプレッダによってマスト4を駆動して、ブーム3を起伏させる。
【0050】
このように、本実施形態のクレーンは、マスト4を組み立てるときに、マストフットピン26を予め支持部25に取り付けた状態で、マスト4を取り付けることができる。このため、従来構造のようにマストフット部42と支持部25との取付孔の中心軸の位置を合わせた上でマストフットピン26を挿入するといった困難な作業を回避できる。
【0051】
しかも、マストフットピン26を予め支持部25に取り付けておくことができるため、シリンダ装置を使用してマストフットピン26を挿入する構造も不要である。このため、マストフットピン26を挿入するためのシリンダ装置を取り付けるスペースが不要となり、上部旋回体2上のレイアウトに余裕ができる。
【0052】
また、分解する際においては、上記工程と逆の工程を行うが、その際において、マストフットピン26を引き抜かないでも、マスト4を取り外すことができる。このため、マストフットピン26を引き抜いた際に、アーム部7及びブッシュ8が脱落することが起こらない。その上、マスト4を取り外す際に、マストフットピン26を引き抜く必要がないため、マストフットピン26を引き抜くための作業スペースを確保する必要がない。
【0053】
このように、一対のマストフットピン26の間において、マストフットピン26を挿入するためのシリンダ装置や作業スペースが不要となるため、一対のマストフットピン26の間に、ウィンチ装置(フック巻上用ウィンチ32)を配置することができる(
図1参照)。この結果、フック巻上用ウィンチ32を前方に寄せることができ、マストフットピン26の軸方向に見て、フック巻上用ウィンチ32をマストフットピン26に重なる位置に配置することができるため、例えば、カウンタウェイト脱着装置を搭載するような場合にあっても、前後方向の長さを輸送制限内に収めやすくできる。
【0054】
また、本実施形態のアーム部7は、
図3に示すように、マストフットピン26に取り付けられており、この結果、シリンダ611の軸支部24について、従来の構造よりも前側に近付けることができるものである。ここで、
図3において、二点鎖線で従来のマスト起立装置を示す。
【0055】
従来のマスト起立装置は、アーム部7’の回転軸74がマストフットピン26から離れた位置にあった。ところで、ブーム7’が地面に倒伏している状態で、ブーム7’の先端とマスト4の先端とをガイライン51で連結するために、マスト4を前方に倒さなければならない。このとき、マスト4を鉛直となるように押し上げただけでは、ワイヤロープとスプレッダとの摩擦などの影響により、自重では前方に倒れない。そのため、自重で前方に倒れる位置(以下、所定位置)までマストを押し上げなければならない。
【0056】
従来の構造のように、アーム部7’の回転軸74がマストフットピン26から離れた位置にある構造において、シリンダ装置61’を本実施形態と同じ位置に配置しようとすると、マスト4が所定位置にまで押し上げられる前に、ロッドとアーム部7’の回転軸74とが干渉してしまう。このため、従来の構造において、マスト4を所定位置にまで押し上げるためには、二点鎖線の位置にシリンダ装置61’を配置した上で、ロッドをアーム部7’の回転軸74から離れる方向に逃がしながらロッドを進出させる必要があった。
【0057】
しかし、本実施形態のクレーンでは、アーム部7の回転軸をマストフットピン26と同軸としたため、シリンダ611を前側に位置させても、ロッド612がマストフットピン26に干渉することなく、所定位置までマスト4を押し上げることができる。この結果、上部旋回体2の内部のスペースに余裕ができ、レイアウトについての設計上の自由度を上げることができる。
【0058】
〔効果〕
以上説明したように、本実施形態のクレーンは、ブームフットピン27を介してブーム3が取り付けられる上部旋回体2と、上部旋回体2にマストフットピン26を介して回転可能に取り付けられブーム3を起伏させるマスト4と、組立時にマスト4を起立させるマスト起立装置6とを具備する。マスト起立装置6は、上部旋回体2においてマストフットピン26よりも下方に取り付けられたシリンダ611と上方に進出可能なロッド612とを有するシリンダ装置61と、シリンダ装置61の駆動力をマスト4に伝達し、マスト4を起立させるアーム部7とを備える。アーム部7は、マストフットピン26に回転可能に支持されるアーム本体71と、アーム本体71に設けられマスト4を下方から支持するマスト支持部72と、アーム本体71に設けられシリンダ装置61のロッド612に接続されるロッド接続部73とを有する。マスト4は、マストフットピン26に対しマストフットピン26の軸方向に直交する平面に沿って移動させて嵌め合わせ可能な溝部43と、マストフットピン26が溝部43に嵌め合わされた状態を保つ抜止部材44とを有する。
【0059】
この構成によれば、上部旋回体2にマスト4を取り付けるに当たって、マストフットピン26を上部旋回体2に予め取り付けておくことができる。また、マスト4を上部旋回体2から取り外すに当たって、マストフットピン26を取り外す必要がないため、アーム部7等が脱落することがない。この結果、上部旋回体2に対するマスト4の脱着作業についての作業性を向上させることができる。
【0060】
その上、アーム部7の回転軸がマストフットピン26により構成されているため、シリンダ装置61のシリンダ611を、前後方向のうちのマストフットピン26側に近付けることができる。この結果、上部旋回体2の内部のスペースに余裕ができ、レイアウトについての設計上の自由度を上げることができる。
【0061】
また、本実施形態のクレーンは、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態のクレーンにおいて、抜止部材44は、マストフットピン26が溝部43に嵌め合わされた状態で、溝部43の開口に架け渡されるように構成されている。
【0062】
この構成によれば、マスト4がマストフットピン26周りに回転し、シリンダ装置61が溝部43の開口側からマスト4を押し上げることになっても、マスト4がマストフットピン26から離脱するのを防ぐことができる。
【0063】
また、マスト4の支柱部41には、クレーン作業時にブーム等を経由して吊り下げる吊り荷の荷重,マスト4自体の自重,及び,シリンダ装置61によって押し上げられる力が掛かる。この荷重及び力は、マスト4の支柱部41に掛かるため、支柱部に41に孔や切欠き等があると、当該部分に応力集中が生じやすくなる。このため、マスト4の支柱部41に孔や切欠きを設けることは好ましくない。本実施形態では、マスト4をマストフットピン26に取り付けるために、抜止部材44を溝部43の開口に架け渡すようにして取り付けられており、支柱部41に孔や切欠き等を設けていない。
【0064】
一方、このような取付方法を採用せず、例えば、支柱部41とマストフットピン26とを固定することも考えられる。しかしながら、この場合、マストフットピン26を固定するための固定部材を取り付ける孔等を支柱部41に設ける必要がある。この場合、固定部材の重量が増大することや孔が設けられることで、支柱部41に応力集中が生じやすくなる。
【0065】
従って、本実施形態では、支柱部41に対し、上述の孔等が不要となるため、上述の荷重や力によって、支柱部41に応力集中が発生するのを抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態のクレーンは、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態のクレーンは、マストフットピン26が左右方向に離れて一対設けられる。上部旋回体2は、一対のマストフットピン26のそれぞれを支持する一対の支持部25と、クレーン作業で動作させるウィンチ装置とを有する。ウィンチ装置が一対のマストフットピン26の間に配置されている。
【0067】
この構成によれば、ウィンチ装置を一対のマストフットピン26の間に配置することで、上部旋回体2上のスペースに、余裕を生じさせることができる。
【0068】
また、本実施形態のクレーンは、次の付加的な構成を備える。すなわち、本実施形態のクレーンにおいて、ウィンチ装置が、ブームから吊り下げられるフック31を巻上及び巻下可能なフック巻上用ウィンチ32である。
【0069】
この構成によれば、フック巻上用ウィンチ32を上部旋回体2上において、ブームに近い位置に配置することができる。
【0070】
〔応用〕
上記実施形態のクレーンは、クローラクレーンであったが、ホイールクレーンであってもよいし、あるいは下部走行体1を有さない定置式クレーンであってもよく、クレーンの種類は特に限定されない。
【0071】
上記実施形態のクレーンにおいて、一対のマストフットピン26の間に配置されたウィンチ装置は、フック巻上用ウィンチ32であったが、マスト起伏ウィンチ54であってもよく、ウィンチ装置は、フック巻上用ウィンチ32に限定されない。
【0072】
また、上記実施形態のマストの溝部は、マストフットピンに対してマストフットピンの軸方向に直交する平面に沿って移動させて嵌め合わせたが、必ずしも、軸方向に直交する平面に沿って移動するものでなくてもよい。
【0073】
その他、上記実施形態の構成は、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば、適宜設計変更を行うことができる。
【符号の説明】
【0074】
2 上部旋回体
25 支持部
26 マストフットピン
27 ブームフットピン
3 ブーム
32 フック巻上用ウィンチ(ウィンチ装置)
4 マスト
43 溝部
44 抜止部材
6 マスト起立装置
61 シリンダ装置
611 シリンダ
612 ロッド
7 アーム部
71 アーム本体
72 マスト支持部
73 ロッド接続部