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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】ホットメルト接着剤
(51)【国際特許分類】
   C09J 123/08 20060101AFI20220302BHJP
   C09J 123/12 20060101ALI20220302BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C09J123/08
C09J123/12
C09J11/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017128174
(22)【出願日】2017-06-30
(65)【公開番号】P2019011422
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2020-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】391047558
【氏名又は名称】ヘンケルジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】角田 敦
(72)【発明者】
【氏名】前田 直宏
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-512924(JP,A)
【文献】特表2014-514390(JP,A)
【文献】特開2013-064055(JP,A)
【文献】特表2006-515893(JP,A)
【文献】国際公開第2016/167931(WO,A1)
【文献】特表2014-527559(JP,A)
【文献】特表2017-516888(JP,A)
【文献】特表2018-513242(JP,A)
【文献】国際公開第2015/115449(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146845(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104539(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/208701(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/179609(WO,A1)
【文献】特表2016-524002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 123/08
C09J 123/12
C09J 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー、(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー、(C)粘着付与樹脂および(D)可塑剤を含み、
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーは、(A1)重量平均分子量が30000~60000のプロピレンホモポリマー、(A2)重量平均分子量が60000より大きく、90000以下のプロピレンホモポリマー、(A3)重量平均分子量が90000より大きく、150000以下のプロピレンホモポリマーのいずれかを含み、
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーと(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーの合計の重量100重量部当たり、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーが3重量部以上、60重量部未満であり、
(D)可塑剤が(D1)オイルと、(D2)ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソブチレンおよびポリイソプレンから選択される少なくとも1種の重合体を含む、ホットメルト接着剤。
【請求項2】
(D1)オイルがナフテンオイルを含む請求項1に記載のホットメルト接着剤。
【請求項3】
(D2)重合体がポリブテンを含む請求項1または2に記載のホットメルト接着剤。
【請求項4】
(D1)と(D2)の合計100重量部に対し、(D2)を5~90重量部含む、請求項1~3のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【請求項5】
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーの融点が100℃以下である、請求項1~4のいずれかに記載のホットメルト接着剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットメルト接着剤に関し、特に、感圧性接着剤(粘着剤)として有用なホットメルト接着剤に関する。
尚、本明細書において、「粘着」とは「接着」の下位概念であり、「接着剤」は、「粘着剤」と「非粘着性の接着剤」の両方を含む。
【背景技術】
【0002】
ホットメルト接着剤は、無溶剤で使用することができ、且つ、高速での接着ができるので、環境及び経済上の利点を有する。そこで、ホットメルト接着剤は、製本、包装材料、自動車内装、及び木工等、様々な分野に使用されている。
【0003】
ホットメルト接着剤の主剤として、柔軟性及び価格等の観点から、エチレン/酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン/エチルアクリレート共重合体(EEA)等のエチレン系共重合体、及びスチレンブロックコポリマー等の熱可塑性樹脂が使用されている。また、ポリプロピレン及びポリエチレン等のポリオレフィン系の部材に接着する場合、ポリプロプレン系樹脂及びエチレン/α-オレフィン等のオレフィン系ポリマーが、ホットメルト接着剤の主剤として使用されている。
【0004】
特許文献1~3は、オレフィンポリマーを主剤とするホットメルト接着剤を開示する。
特許文献1のホットメルト接着剤は、メタロセン触媒による重合で得られたメタロセン系プロピレンホモポリマー、及びエチレン系共重合体を含む(特許文献1[請求項1]、[0078]、[0079]、[表1]及び[表3]参照)。特許文献1のホットメルト接着剤は、高速塗工及びスパイラル塗工に優れ、ポリエチレンフィルム及び不織布との接着性にも優れる(特許文献1[0095]、[表1]、[0097]及び[表3]参照)。
【0005】
特許文献2は、エチレン/α-オクテンコポリマー、軟化点80~120℃のポリプロピレンホモポリマー及びワックスを含むホットメルト接着剤を開示する。(特許文献2[請求項1]~[請求項2]、[0056][表1])。
特許文献2のホットメルト接着剤は、耐熱接着性及び耐寒接着性の双方に優れ、紙製包装資材の接着に好適である(特許文献2[請求項6]及び[0038]参照)。
【0006】
特許文献3のホットメルト接着剤は、低分子量で低モジュラスのポリプロピレンポリマーを含む(特許文献3[請求項1]及び[0001]参照)。特許文献3のホットメルト接着剤は、紙箱および段ボール箱の密封、多様な適用でのラベル、ならびに使い捨ておむつに利用される(特許文献3[0002]参照)。使い捨てオムツに利用される場合、不織布への裏抜けが防止される(特許文献3[0067][表6][0068]参照)。
【0007】
オレフィン系ホットメルト接着剤は、様々な分野で利用されているが、近年、消費者から、スチレン系ホットメルト接着剤と同程度の粘着作用が求められることがある。
特許文献1~3のホットメルト接着剤をテープに塗工して粘着テープを作製した場合、いずれのホットメルト接着剤も、粘着剤として十分ではない。
【0008】
特許文献1~2のホットメルト接着剤は、タックが低く初期接着性に乏しいため、粘着テープを各種部材に、貼り付けることが容易ではない。更に、テープを剥離させる際の強度も低過ぎるので保持力に乏しい。
特許文献3のホットメルト接着剤は、粘着テープを部材へ貼り付けた後、剥離させる際の強度が高すぎるので、部材に糊残りが生じ得、粘着テープを破損し得る。
【0009】
このように、特許文献1~3に開示されているオレフィン系ホットメルト接着剤は、粘着剤として好適ではない。
粘着剤には、粘着テープを部材へ貼り付ける際の初期接着強度に優れること、貼り付け後、粘着テープを部材にしっかり保持できること、粘着テープが部材から剥離可能な適度な剥離強度を有することが必要である。
従って、様々な分野で、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れ、粘着剤として有用なオレフィンホットメルト接着剤の開発が要望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2013-064055号公報
【文献】特開2014-208812号公報
【文献】特表2016-524002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、その目的は、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れ、粘着剤として有用なオレフィンホットメルト接着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は、鋭意検討を行った結果、特定のメタロセン系オレフィンポリマーと、特定の可塑剤を配合すると、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れ、粘着剤として有用なオレフィンホットメルト接着剤が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
即ち、本発明は、一の要旨として、ホットメルト接着剤を提供し、それは、
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー、(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー、(C)粘着付与樹脂及び(D)可塑剤を含み、
(D)可塑剤は、(D1)オイル、及び(D2)ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソブチレンおよびポリイソプレンから選択される少なくとも1種の重合体を含む。
【0014】
本発明は、一の態様において、(D1)オイルは、ナフテンオイルを含む、ホットメルト接着剤を提供する。
本発明は、他の態様において、(D2)重合体は、ポリブテンを含む、ホットメルト接着剤を提供する。
本発明は、好ましい態様において、(D1)オイルと(D2)重合体の合計100重量部に対し、(D2)を5~90重量部含む、ホットメルト接着剤を提供する。
【0015】
本発明は、更なる態様において、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーの融点が100℃以下である、ホットメルト接着剤を提供する。
本発明は、他の要旨において、ホットメルト接着剤が塗工された粘着体を提供する。
本発明は、好ましい要旨において、粘着体を有する粘着製品を提供する。
【0016】
尚、本明細書で、「粘着剤」とは、接触しただけで付着し、液体から固体への状態変化を伴うことなく、直ちに実用に耐える接着力を示す結合材料をいう。
これに対し、「接着剤」とは、上述の「粘着剤」に加えて、「非粘着性の接着剤」を含む結合材料をいう。「非粘着性の接着剤」とは、実用に耐える接着力を示すために液体から固体への状態変化を必要とする結合材料を意味し、通常、単に「接着剤」と呼ばれることもある。「非粘着性の接着剤」は、接着力を発現する際に、溶媒の蒸発、冷却又は化学反応等の液体から固体へ変化する過程を必要とし、実質的な固形化時間を必要とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るホットメルト接着剤は、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー、(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー、(C)粘着付与剤および(D)可塑剤を含み、(D)可塑剤が(D1)オイルと、(D2)ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソブチレンおよびポリイソプレンから選択される少なくとも1種の重合体を有するので、粘着剤としての性能を有し、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れ、粘着剤として有用である。
【0018】
本発明のホットメルト接着剤は、より具体的にいえば、例えば、それを用いて製造した粘着体を、部材に容易に貼り付けることが可能な大きさの初期接着性を持ち、その粘着体を部材にしっかり保持でき(十分な大きさの保持力を有し)、さらに剥離性にも優れ、粘着体を部材から剥がす際に部材に糊残りを生じない。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のホットメルト接着剤に含まれる各成分について説明する。
<(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー>
本発明のホットメルト接着剤は、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー(以下「(A)プロピレンホモポリマー」ともいう)を含む。
本明細書では、「メタロセン系ポリオレフィン」は、メタロセン触媒存在下でオレフィンが重合したポリマーをいう。
すなわち、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーはメタロセン触媒存在下でプロピレンが重合したホモポリマーをいい、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されることはない。
【0020】
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーは、分子中にメタロセン触媒に由来する化学構造が含まれる。「メタロセン触媒に由来する化学構造」とは、例えば、下記式(I)で示されるような、メタロセン触媒そのもの、又は式(I)の変性体を含む化学構造を例示でき、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り特に制限されることはない。
【0021】
【化1】
[式(I)中、Mは金属(例えば、Ti,Zr,Hf,V,Cr,Mn,Ni,Fe,Co,Pd等)、またはハロゲン原子等が結合した金属を表し、二つのジシクロペンタジニド基は、ベンゼン環で更に縮環されていてもよく、それらの環は置換基で適宜置換されていてもよく、それらの環は、メチレン基等の連結基で適宜連結されていてもよい。]
【0022】
本発明のホットメルト接着剤は、(A)メタロセン系プロピレンホモポリマーを含むことで、初期接着強度がより向上し、粘着体をより容易に部材へ貼り付けることが可能となり、さらに、テープを部材へ保持する力もより高くなり得る。
【0023】
本発明において、(A)プロピレンホモポリマーの融点は、100℃以下であることが好ましく、60~95℃であることがより好ましく、65~90℃であることが最も好ましい。
融点は、示差走査熱量測定(DSC)を用いて測定された値をいう。具体的には、SIIナノテクノロジー社製のDSC6220(商品名)を用い、アルミ容器に試料を10mg秤量し、昇温速度5℃/minで測定して、融解ピークの頂点の温度を融点という。
【0024】
メタロセン触媒を用いてプロピレンを重合すると、(i)結晶性を有し、(ii)非常に分子量分布の狭いプロピレンホモポリマーが合成される。
(i)について、完全なアイソタクティック性、シンジオタクティック性を任意に制御できることを意味する。従って、結晶性に偏りを生じさせることが無く、メチル基の並び方や割合等について均一な重合体が得られ、付着力低下の原因となる低結晶性部位が生じる可能性が低くなる。従って、本発明のホットメルト接着剤を用いると、粘着体をより容易に部材に取り付けることができ、粘着体を部材に保持する力もより高くなり得る。
【0025】
(ii)について、(A)プロピレンホモポリマーの分子量分布の程度を表す多分散度(Mw/Mn)は、1.0~3.0となり得る。多分散度1.0~3.0のプロピレンホモポリマーを使用すると、ホットメルト接着剤の接着力をより向上し得る。分子量分布とは、合成高分子の分子量の分布を示す概念であり、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(上述の多分散度:Mw/Mn)が尺度となり得る。本明細書では、Mw、Mn、分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定される。
【0026】
(A)プロピレンホモポリマーとして、(A1)重量平均分子量が60000以下のメタロセン系プロピレンホモポリマー(以下「(A1)プロピレンホモポリマー」ともいう)、(A2)重量平均分子量が60000より大きく、90000以下のメタロセン系プロピレンホモポリマー(以下「(A2)プロピレンホモポリマー」ともいう)、(A3)重量平均分子量が90000より大きいメタロセン系プロピレンホモポリマー(以下「(A3)プロピレンホモポリマー」ともいう)を例示できる。
【0027】
(A1)プロピレンホモポリマーの重量平均分子量は、30000~60000であることが好ましく、特に重量平均分子量30000~55000であることが好ましい。
(A2)プロピレンホモポリマーの重量平均分子量は、60000より大きく、90000以下であることが好ましく、重量平均分子量は、60000より大きく、80000以下であることがより好ましい。
(A3)プロピレンホモポリマーは、重量平均分子量が90000より大きく、重量平均分子量が90000より大きく、150000以下であることが好ましく、重量平均分子量が90000より大きく、120000以下であることがより好ましい。
【0028】
(A)プロピレンホモポリマーとして、市販品を使用することができる。例えば、出光興産社製のエルモーデュ(商品名)、日本ポリプロ社製のウィンテック(商品名)等を例示することができる。
(A1)プロピレンホモポリマーとして、例えば、出光興産社製のエルモーデュX400S(商品名)を例示でき、(A2)プロピレンホモポリマーとして、出光興産社製のエルモーデュX600S(商品名)を例示でき、(A3)プロピレンホモポリマーとして出光興産社製のエルモーデュX900S(商品名)を例示することができる。
【0029】
本発明では、(A)プロピレンホモポリマーは、(A1)プロピレンホモポリマーを含むことが好ましいが、さらに、(A2)プロピレンホモポリマー及び/又は(A3)プロピレンホモポリマーを含んでもよい。
また、(A)プロピレンホモポリマーは、(A1)プロピレンホモポリマーを含まず、(A2)プロピレンホモポリマー又は(A3)プロピレンホモポリマーのみを含んでもよい。
【0030】
本発明では、(A)プロピレンホモポリマーと(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーの合計の重量100重量部当たり、(A)プロピレンホモポリマーが3量部以上、60重量部未満であることが好ましく、特に5~55重量部であることがより好ましく、15~45重量部であることが最も好ましい。
【0031】
本発明のホットメルト接着剤は、(A)プロピレンホモポリマーが上記範囲で配合される場合、保持力と剥離性とのバランスをより良好に好ましく保つことができる。
すなわち、本発明のホットメルト接着剤を感圧性接着剤(粘着剤)として用いると、粘着体をずらすことなく紙及びプラスチック等の部材に保持することができ、かつ、かかる粘着体を部材から剥がす際に、部材に接着剤が残らない、即ち、糊残りがない。
更に、本発明のホットメルト接着剤は、(A)プロピレンホモポリマーが上記範囲で配合されることによって、塗工適性にもより優れる。
【0032】
重量平均分子量(Mw)はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した値を意味する。具体的には、下記の装置及び測定方法を用いて値を測定することができる。検出器として、ウォーターズ社製のRIを用いる。GPCカラムとして、東ソー社製のTSKGEL GMHHR-H(S)HTを用いる。試料を1,2,4-トリクロロベンゼンに溶解して、流速を1.0ml/min、測定温度を145℃にて流し、ポリプロピレンによる検量線を用いて分子量の換算を行い、重量平均分子量を求める。
尚、数平均分子量(Mn)も同方法で求められるので、分子量分布もGPCで算出されることになる。成分(A)以外のMw、Mn、分子量分布についても、同様の方法で求められる。
【0033】
(A)プロピレンホモポリマーが(A1)プロピレンホモポリマーを含む場合、本発明のホットメルト接着剤は、ポリエチレンフィルム及び不織布等の部材に対する保持力を維持しつつ、低温塗工により優れる。従って、本発明のホットメルト接着剤を粘着剤として用いた場合、粘着体を部材により容易に取り付けることができ、糊残りの発生を更に防止できる。
【0034】
<(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー>
本発明のホットメルト接着剤は、(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー(以下「(B)エチレン/α-オレフィンコポリマー」ともいう)を含む。
本発明において、(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーとは、メタロセン触媒存在下でエチレンとα-オレフィンが共重合して得られたポリマーであり、分子中にメタロセン触媒に由来する化学構造を含み、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り特に制限されることはない。「メタロセン触媒に由来する化学構造」として、例えば、既出の式(I)に示されるような、メタロセン触媒そのもの、又は式(I)の変性体を含む化学構造を例示することができる。
【0035】
(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーとして、例えば、メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/プロピレン/ブテンコポリマーを例示できるが、特にエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/オクテンコポリマーが特に望ましい。
【0036】
(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーが、例えば、メタロセン触媒で重合して得られたエチレン/プロピレンコポリマー、エチレン/オクテンコポリマー、エチレン/ブテンコポリマー、エチレン/プロピレン/ブテンコポリマーを含む場合、本発明のホットメルト接着剤は、初期接着強度及び剥離強度により優れ、糊残りがより生じ難くなり、バランスにより優れる。
【0037】
(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーがエチレン/プロピレンコポリマーを含む場合、本発明のホットメルト接着剤は、初期接着強度及び剥離強度がより向上し、糊残りがより生じ難くなり、より高性能な粘着剤として使用され得る。
【0038】
(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマーがエチレン/オクテンコポリマーを含む場合、本発明のホットメルト接着剤は、低温塗工適性により優れ、初期接着強度及び剥離強度により優れ、糊残りをより生じさせず、性能のバランスにより優れる粘着剤となりえる。
【0039】
成分(B)に含まれる「メタロセン系エチレン/プロピレンコポリマー」は、230℃のメルトインデックスが200g/10min以下であることが好ましく、10~50g/10minであることがより好ましく、15~30g/10minであることが最も好ましい。メルトインデックスが上記範囲である場合、ホットメルト接着剤の剥離強度(保持力)がより向上し得る。従って、本発明のホットメルト接着剤を粘着剤として用いた場合、粘着体は部材からずれることなく、よりしっかり保持され得る。
【0040】
本明細書において、メルトインデックスとは、樹脂の流動性を示す指数を意味し、ヒーターで加熱された円筒容器内で一定量の合成樹脂を、定められた温度(例えば、230℃)で加熱、定められた荷重(例えば2.16kg)で加圧し、容器底部に設けられた開口部(ノズル)から10分間あたりに押出された樹脂量で示す。単位:g/10minが使用される。ASTM D1238で規定されている測定方法で測定する。
【0041】
<(C)粘着付与樹脂>
本発明のホットメルト接着剤は、(C)粘着付与樹脂を含む。
ホットメルト接着剤に、一般に粘着付与樹脂として使用され、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、粘着付与樹脂は特に制限されることはない。
【0042】
(A)プロプレンホモポリマーおよび(B)エチレン/α-オレフィンコポリマーの合計100重量部に対し、(C)粘着付与樹脂は、50~250重量部配合されることが好ましく、80~220重量部配合されることがより好ましく、100~220重量部配合されることが特に好ましい。
(C)粘着付与樹脂が上記割合で配合される場合、ホットメルト接着剤は、150℃以下の低温塗工及び160℃での塗工が可能であり、更に、ポリエチレンフィルム、不織布及び紙等に均一に塗工でき、粘着体を様々な部材に容易に付着させることができる。
【0043】
(C)粘着付与樹脂として、例えば、天然ロジン、変性ロジン、水添ロジン、天然ロジンのグリセロールエステル、変性ロジンのグリセロールエステル、天然ロジンのペンタエリスリトールエステル、変性ロジンのペンタエリスリトールエステル、水添ロジンのペンタエリスリトールエステル、天然テルペンのコポリマー、天然テルペンの3次元ポリマー、水添テルペンのコポリマーの水素化誘導体、ポリテルペン樹脂、フェノール系変性テルペン樹脂の水素化誘導体、脂肪族石油炭化水素樹脂、脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、芳香族石油炭化水素樹脂、芳香族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、環状脂肪族石油炭化水素樹脂、環状脂肪族石油炭化水素樹脂の水素化誘導体等を例示することができる。
【0044】
これらの粘着付与樹脂は、単独で、又は組み合わせて使用することができる。粘着付与樹脂は、色調が無色~淡黄色であって、臭気が実質的に無く、他成分との相溶性が良好なものであれば、液状タイプの粘着付与樹脂も使用できる。これらの特性を総合的に考慮すると、粘着付与樹脂として、石油炭化水素樹脂の水素化誘導体が好ましく、特に水素添加ジシクロペンタジエン系樹脂が望ましい。
【0045】
(C)粘着付与樹脂として、市販品を用いることができる。そのような市販品として例えば、荒川化学社製のアルコンP100(商品名)、アルコンM100(商品名)、ヤスハラケミカル社製のクリアロンM105(商品名)、エクソン社製のECR5400(商品名)、ECR179EX(商品名)、日本ゼオン社製のQuinton DX390(商品名)等を例示することができる。これらの市販の粘着付与樹脂は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0046】
<(D)可塑剤>
本発明のホットメルト接着剤は(D)可塑剤を含む。
本明細書において、(D)可塑剤は、加工性の改善、柔軟性の付与、粘度低下を目的として、ポリマーに配合される物質をいい、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り特に制限されることはない。
本発明のホットメルト接着剤は、(D)可塑剤を含むことで、160℃で塗工することができ、粘着剤として使用可能であり、タックを与えると共に、部材に貼り付けた粘着体を部材から剥がす際に糊残りを生じ難くし得る。
【0047】
(A)プロプレンホモポリマーおよび(B)エチレン/α-オレフィンコポリマーの合計100重量部に対し、(D)可塑剤は、50~150重量部配合されることが好ましく、100~150重量部配合されることがより好ましく、110~140重量部配合されることが特に好ましい。
(D)可塑剤が上記割合で配合される場合、ホットメルト接着剤は、タックがより付与されて初期接着強度がより向上する。
【0048】
本発明では、(D)可塑剤は、(D1)オイルと、(D2)ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソブチレンおよびポリイソプレンから選択される少なくとも1種の重合体(以下「(D2)重合体」ともいう)の両方を含む。
(D1)オイルとして、例えば、パラフィンオイル、ナフテンオイル、芳香族系オイルを例示できる。(D1)オイルの重量平均分子量は200~1000であることが好ましい。
(D)可塑剤が(D1)オイルを含む場合、本発明のホットメルト接着剤を使用する粘着体の部材への貼り付けはより容易になり得る。
【0049】
(D1)オイル及び(D2)重合体の総重量100重量部に対し、(D2)重合体を5~90重量部含むことが好ましく、(D2)重合体を10~65重量部含むことがより好ましく、(D2)重合体を15~55重量部含むことが最も好ましい。
本発明のホットメルト接着剤は、上述の組成を有する場合、より高性能な粘着剤となり得る。
【0050】
(D1)オイルは、ナフテンオイルを含むことが好ましい。
(D1)オイルとして市販品を使用することができる。例えば、Kukdong Oil&Chem社製のWhite Oil Broom350(商品名)、出光興産社製のダイアナフレシアS32(商品名)、ダイアナプロセスオイルPW-90(商品名)、DNオイルKP-68(商品名)、ニーナス社製のナイフレックス222B(商品名)、ペトロチャイナカンパニー社製のKN4010(商品名)、BPケミカルズ社製のEnerperM1930(商品名)、Crompton社製のKaydol(商品名)、エッソ社製のPrimol352(商品名)を例示することができる。
【0051】
(D)可塑剤が(D2)重合体を含む場合、本発明の形態のホットメルト接着剤を使用する粘着体の部材からのずれは、より高いレベルで防止され、糊残りはより生じ難くなり得る。
(D2)重合体は、重量平均分子量が2000~100000であることが好ましく、3000~80000であることがより好ましい。また、(D2)重合体は、ポリブテンを含むことが最も望ましい。
(D2)重合体の重量平均分子量が上記範囲にある場合、成分(D1)オイルと(D2)重合体との相溶性が向上し得、本発明のホットメルト接着剤は、初期接着強度及び剥離強度により優れ、糊残りがより生じ難くなり、性能のバランスにより優れる。
【0052】
(D2)重合体として市販品を使用することができる。そのような市販品として、例えば、日本石油社製の日石ポリブテンHV-300(商品名)、日石ポリブテンHV-1900(商品名)、日本曹達社製のB-1000(商品名)、BI-2000(商品名)、JXエネルギー社製のテトラックス(商品名)、ハイモール(商品名)、クラレ社製のLIR-15(商品名)、LIR-50(商品名)、日本ゼオン社製のニポールIR2200(商品名)等を例示できる。
【0053】
<(E)ワックス>
本発明のホットメルト接着剤は、(E)ワックスを含むことが好ましい。尚、本明細書で「ワックス」とは、常温で固体、加熱すると液体となる重量平均分子量が10000未満の有機物であり、一般的に「ワックス」とされているものをいい、ワックス状の性質を有するものであれば、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に制限されるものではない。
【0054】
(E)ワックスは、(E1)カルボン酸又はカルボン酸無水物で変性されたオレフィンワックスを含むことが好ましい。
本発明において、「(E1)カルボン酸又はカルボン酸無水物で変性されたオレフィンワックス」とは、カルボン酸又はカルボン酸無水物で、化学的又は物理的に加工されたオレフィンワックスをいい、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に限定されるものではない。化学的、物理的加工として、例えば、酸化、重合、配合、合成等を例示できる。
【0055】
そのような(E1)ワックスとして、例えば、カルボン酸又はカルボン酸無水物がオレフィンワックスにグラフト重合することで得られるワックス;及びオレフィンワックスを重合により合成する際に、カルボン酸又はカルボン酸無水物を共重合することで得られるワックスを例示することができる。
従って、種々の反応を用いて、カルボン酸又はカルボン酸無水物が「オレフィンワックス」に導入されて、結果的に変性されたオレフィンワックスであって良い。
オレフィンワックスを変性するための「カルボン酸」及び/又は「カルボン酸無水物」は、本発明のホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に限定されるものではない。
【0056】
カルボン酸又はカルボン酸無水物として、具体的には、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、アクリル酸及びメタクリル酸等を例示できる。これらのカルボン酸及び/又はカルボン酸無水物は単独で又は組み合わせて使用してよい。マレイン酸、無水マレイン酸が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
カルボン酸又はカルボン酸無水物で変性される「オレフィンワックス」とは、オレフィンが重合して得られるワックスをいい、本発明が目的とする(E1)ワックスを得ることができる限り、特に限定されるものではない。
【0057】
オレフィンワックスとして、具体的には、例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリブチレンワックス、ポリエチレン/ポリブテンワックス等を例示することができる。
従って、本発明における(E1)ワックスとして、無水マレイン酸で変性されたポリオレフィンワックスが特に好ましい。
【0058】
「(E)ワックス」は、(E1)ワックス以外に、ベースワックスを含むことができ、そのようなベースワックスとして、具体的には、例えば、
フィッシャートロプシュワックス、ポリオレフィンワックス(例えば、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリエチレン/ポリプロピレンワックス)等の合成ワックス;
パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油ワックス;
カスターワックスなどの天然ワックス
等を例示することができる。
【0059】
上述のベースワックスは、変性されていてもよい。変性する物質として、極性基を導入できれば、各種カルボン酸誘導体であってもよい。そのような「カルボン酸誘導体」として、下記のものを例示することができる:
酢酸エチル、酢酸ビニル等のカルボン酸エステル;
臭化ベンゾイル等の酸ハロゲン化物;
ベンズアミド、N-メチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド;
スクシンイミド等のイミド;
アジ化アセチル等のアジ化アシル;
プロパノイルヒドラジド等のヒドラジド;
クロロアセチルヒドロキサム酸等のヒドロキサム酸;
γ-ブチロラクトン等のラクトン;
δ-カプロラクタム等のラクタム。
尚、変性されたベースワックスは、(E1)カルボン酸又はカルボン酸無水物で変性されたオレフィンワックスを含まない。
【0060】
本発明では、(E)ワックスは、(E1)に加えて、ベースワックスとして記載した(E2)フィッシャートロプシュワックスを含むことが好ましい。「(E2)フィッシャートロプシュワックス」とは、フィッシャートロプシュ法によって合成され、一般的にフィッシャートロプシュワックスとされているものをいう。フィッシャートロプシュワックスは、成分分子が比較的幅広い炭素数分布を持つワックスから成分分子が狭い炭素数分布を持つようにワックスを分取したものである。代表的なフィッシャートロプシュワックスとして、サゾールH1(商品名)及びサゾールC80(商品名)を例示することができ、いずれもサゾールワックス社から市販されている。
【0061】
本発明において、(E1)ワックスの融点は100~130℃であることが好ましく、ベースワックス、好ましくは(E2)ワックスの融点は60~90℃であることが好ましい。融点の測定方法は、(A)成分の融点を測定方法と同一である。
(E)ワックスの酸価は、5~200mgKOH/gであることが好ましく、20~160mgKOH/gであることがより好ましい。酸価は、ASTM D1308又はBWM 3.01Aに準拠する方法で測定することができる。
【0062】
本発明に係るホットメルト接着剤は、必要に応じて、更に各種添加剤を含んでもよい。そのような各種添加剤として、例えば、安定化剤及び微粒子充填剤を例示することができる。
「安定化剤」とは、ホットメルト接着剤の熱による分子量低下、ゲル化、着色、臭気の発生等を防止して、ホットメルト接着剤の安定性を向上するために配合されるものであり、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができるものであれば、特に制限されるものではない。「安定化剤」として、例えば酸化防止剤及び紫外線吸収剤を例示することができる。
【0063】
「紫外線吸収剤」は、ホットメルト接着剤の耐光性を改善するために使用される。「酸化防止剤」は、ホットメルト接着剤の酸化劣化を防止するために使用される。酸化防止剤及び紫外線吸収剤は、一般的に粘着剤に使用されるものであって、後述する目的とする粘着体を得ることができるものであれば使用することができ、特に制限されるものではない。
【0064】
酸化防止剤として、例えばフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、リン系酸化防止剤を例示できる。紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤を例示できる。更に、ラクトン系安定剤を添加することもできる。これらは単独又は組み合わせて使用することができる。
【0065】
安定化剤として、市販品を使用することができる。例えば、住友化学工業(株)製のスミライザーGM(商品名)、スミライザーTPD(商品名)及びスミライザーTPS(商品名)、チバスペシャリティーケミカルズ社製のイルガノックス1010(商品名)、イルガノックスHP2225FF(商品名)、イルガフォス168(商品名)及びイルガノックス1520(商品名)、城北化学社製のJF77(商品名)を例示することができる。これら安定化剤は、単独で又は組み合わせて使用することができる。
【0066】
本発明のホットメルト接着剤は、更に、微粒子充填剤を含むことができる。微粒子充填剤は、一般に使用されているものであれば良く、本発明が目的とするホットメルト接着剤を得ることができる限り、特に限定されることはない。「微粒子充填剤」として、例えば雲母、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、酸化チタン、ケイソウ土、尿素系樹脂、スチレンビーズ、焼成クレー、澱粉等を例示できる。これらの形状は、好ましくは球状であり、その寸法(球状の場合は直径)については特に限定されるものではない。
【0067】
本発明のホットメルト接着剤は、成分(A)~(D)、場合によっては、成分(E)を配合し、必要に応じて種々の添加剤を配合し、加熱して溶融し混合することで製造することができる。具体的には、上記成分を攪拌機付きの溶融混合釜に投入し、加熱混合することで製造することができる。
【0068】
本発明のホットメルト接着剤は、(A)融点100℃以下のメタロセン系プロピレンホモポリマー、(B)メタロセン系エチレン/プロピレンコポリマー、(C)石油炭化水素樹脂の水素化誘導体、(D1)ナフテンオイル及び(D2)ポリブテンを含むことが好ましい。
特に、(D1)ナフテンオイル及び(D2)ポリブテンの総重量100重量部に対し、(D2)ポリブテンを5~90重量部含むことがより好ましく、(D2)ポリブテンを5~60重量部含むことが更に好ましく、(D2)ポリブテンを15~60重量部含むことが最も好ましい。
本発明のホットメルト接着剤は、上述の組成を有する場合、より高性能な粘着剤となり得る。
【0069】
本発明のホットメルト接着剤は、160℃の溶融粘度が20000mPa・s以下であることが好ましく、1000~20000mPa.sであることがより好ましく、1500~15000mPa・sであることが特に好ましい。「溶融粘度」とは、ホットメルト接着剤の溶融体の粘度であり、ブルックフィールドRVT型粘度計(スピンドルNo.27)で測定される。
本発明のホットメルト接着剤は、160℃の溶融粘度が上記範囲である場合、可塑剤等の添加剤の添加量を増やす必要がないので、保持力と剥離性とのバランスをより保ち易くなり得る。
【0070】
本発明のホットメルト接着剤は、ガラス転移温度(Tg)が15℃以下であることが好ましく、-10℃~10℃であることがより好ましく、0℃~10℃であることが最も望ましい。ホットメルト接着剤は、ガラス転移温度(Tg)が上記範囲内にある場合、硬くなりすぎず、寒冷地でも粘着体を部材へよりしっかり保持でき好ましい。
環境温度と比べ、ホットメルト接着剤のTgが高い場合、ホットメルト接着剤がガラス状態となり、粘着体を部材に保持することがより困難になり得る。寒冷地での粘着体の貼り付け考慮すると、ホットメルト接着剤のTgは上記範囲であることがより好ましい。
本明細書においてガラス転移温度(Tg)とは、動的粘弾性測定装置で周波数を10Rad/sに固定して行われる貯蔵弾性率G’の測定と同時に測定される損失正接(tanδ)を温度に対してプロットして、得られるピークの、ピークトップを示す温度をいう。
【0071】
本発明のホットメルト接着剤は、紙加工、製本、車輌部材、使い捨て製品等の組み立てに幅広く利用することができるが、粘着テープ等、粘着体の接着成分(粘着剤層又は粘着層)、すなわち、粘着剤として最も有効に利用することができる。
本発明のホットメルト接着剤を、例えば、テープ、フィルム、シート等の支持体に、粘着剤層として形成することで、本発明の粘着体が得られる。支持体の材質としては、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニル、エチレン酢酸ビニル、アセタール、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、金属箔、紙、繊維、布等を例示できる。
【0072】
ホットメルト接着剤を支持体上に形成した後、支持体はロール状に巻きとられる場合がある。巻きとり時、粘着剤層は支持体の裏面に接触するが、支持体をロールから逆方向に巻き戻しても、粘着剤層であるホットメルト接着剤は支持体裏面に残ることはない。よって、支持体の裏面に離型剤を塗工すること、及び離型部材(例えば、離型紙、離型フィルム等)を挟むことを必要とすることなく、粘着体等を効率良く製造することが可能となる。
【0073】
粘着製品は、粘着体の粘着剤層に、例えば、剥離紙、フィルム等の剥離部材が貼られている製品を含む。更に、粘着製品は、粘着体が、その粘着剤層を介して、例えば、ガラス、金属、プラスチック等の部材に貼り付けられて(又は結合されて)いる製品を含む。
【0074】
粘着製品は、(1)粘着体に形成された粘着剤層に、一旦剥離部材を貼り、剥離部材を剥がした後、粘着剤層を介して粘着体を部材に貼り付けて得るこができる。また、粘着製品は、(2)粘着体の粘着剤層に、一旦剥離部材を貼り付けることなく、粘着剤層を介して粘着体を部材に貼り付けて得ることもできる。
従って、「剥離部材を有する粘着製品」とは、粘着体の粘着剤層に剥離部材が貼られている製品をいう。「剥離部材を有さない粘着製品」とは、粘着剤層を介して粘着体が部材に貼られている製品をいい、剥離部材が粘着剤層に貼られていない製品をいう。
【0075】
具体的に、粘着製品として、例えば、医療用テープ、工業用テープ、シート、カイロ、貼布剤、シール、ラベル、ネームプレート、再閉鎖可能なファスナー等を例示できる。
「医療用テープ」とは、例えば、薬剤を含有する経皮吸収品、及び薬剤を含有しない単なるテープを含み、フィルム等の剥離部材が粘着剤層に貼り付けられた製品が多い。この場合、医療用テープは、フィルム等の剥離部材が剥がされた後、人肌に貼り付けられる。
【0076】
本明細書において、「工業用テープ」とは、いわゆるシーリングテープ及び養生テープをいう。工業用テープには、剥離部材を有する形態、剥離部材を有さない形態がある。剥離部材を有する場合、剥離部材が剥がされて、金属、プラスチック、無機材料等の部材に貼り付けられる。
「カイロ」を製造する場合、支持体として、例えばポリエステル等のフィルム及び不織布を例示することができ、その支持体上に粘着剤層が形成され、一旦剥離部材が粘着剤層に貼り付けられることが多い。部材として、例えば、綿、毛、シルク、レーヨン及びポリエステル等を素材とする衣類を例示できる。
【0077】
「ラベル」を製造する場合、支持体として、例えば紙及びプラスチック等が使用され、紙製の粘着体から剥離部材を剥がした後、粘着体を瓶(ガラス)、缶(金属)、プラスチック等に貼り付け、飲料用途に適用され得る。
このように、本発明に係る粘着製品には種々の態様があるが、いずれも部材から粘着体を剥離させたとき、粘着層が部材に残らず、界面剥離するように、設計される。
【0078】
ホットメルト接着剤を塗工する方法は、特に制限されるものではない。塗工方法は、接触塗工、非接触塗工に大別される。「接触塗工」とは、ホットメルト接着剤を塗工する際、噴出機を部材やフィルムに接触させる塗工方法をいい、「非接触塗工」とは、ホットメルト接着剤を塗工する際、噴出機を部材やフィルムに接触させない塗工方法をいう。接触塗工方法として、例えば、スロットコーター塗工及びロールコーター塗工等を例示でき、非接触塗工方法として、例えば、螺旋状に塗工できるスパイラル塗工、波状に塗工できるオメガ塗工やコントロールシーム塗工、面状に塗工できるスロットスプレー塗工やカーテンスプレー塗工、点状に塗工できるドット塗工などを例示できる。
上記塗工方法でホットメルト接着剤を支持体に塗工し、粘着体を製造する。粘着体に剥離部材を貼り付けて又は粘着体を部材に貼り付けて、種々の粘着製品が得られる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を更に詳細に、より具体的に説明することを目的として、実施例を用いて本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を何ら制限するものではない。
【0080】
ホットメルト接着剤を配合するための成分を、以下に示す。
(A)メタロセン系プロピレンホモポリマー
(A1)メタロセン系プロピレンホモポリマー(融点75℃、重量平均分子量45000)(出光興産社製エルモーデュX400S(商品名))
(A2)メタロセン系プロピレンホモポリマー(融点80℃、重量平均分子量70000)(出光興産社製エルモーデュX600S(商品名))
(A3)メタロセン系プロピレンホモポリマー(融点90℃、重量平均分子量130000)(出光興産社製エルモーデュX900S(商品名))
(A’4)チーグラーナッタ系プロピレンホモポリマー(融点145℃)(イーストマンケミカル社製イーストフレックスP1010(商品名))
(A’5)メタロセン系ポリエチレンホモポリマー(融点115℃)(三井化学株式会社製エクセレックス07500(商品名))
【0081】
(B)メタロセン系エチレン/α-オレフィンコポリマー
(B1)メタロセン系エチレン/プロピレンコポリマー(メルトインデックス20(g/10min:230℃))(エクソンモービル社製ビスタマックス6202(商品名))
(B2)メタロセン系エチレン/オクテンコポリマー(メルトインデックス15(g/10min:190℃))(ダウ社製インヒューズ9807(商品名))
(B3)メタロセン系エチレン/オクテンコポリマー(メルトインデックス500(g/10min:190℃))(ダウ社製アフィニティー GA1950(商品名))
(B’4)スチレン-ブタジエンブロックコポリマー(旭化成ケミカルズ社製アサプレンT-438(商品名))
(B’5)ポリ乳酸樹脂(Nature Works LLC社製Biopolymer4060D(商品名))
【0082】
(C)粘着付与樹脂
(C1)水素添加ジシクロペンタジエン系樹脂(JXTGエネルギー社製T-REZ HA103(商品名))
(C2)石油系炭化水素樹脂(ZIBO QILU YIXI LUHUA CHEMICAL社製 LUHOREZ A1100S(商品名))
【0083】
(D)可塑剤
(D1)オイル
(D1-1)ナフテンオイル(重量平均分子量400)(ペトロチャイナ社製KN40102(商品名))
(D1-2)パラフィンオイル(重量平均分子量500)(出光興産社製ダイアナフレシアS32(商品名))
(D2)ポリブテン、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリイソプレンから選択される重合体
(D2-1)ポリブテン(重量平均分子量3500)(日本石油社製日石ポリブテンHV-300(商品名))
(D2-2)ポリブタジエン(重量平均分子量4000)(日本曹達社製NISSO-PB B-1000(商品名))
(D2-3)水素化ポリブタジエン(重量平均分子量50000)(日本曹達社製NISSO-PB BI-2000(商品名))
(D2-4)ポリイソブチレン(重量平均分子量56000)(JXTGエネルギー社製HIMOL 4H(商品名))
(D2-5)ポリイソプレン(重量平均分子量66000)(クラレ社製クラプレン LIR-50(商品名))
【0084】
(E)ワックス
(E1)マレイン酸変性ワックス(クラリアント社製リコセン MA6252TP(商品名))
(E2)固形パラフィン(日本精蝋社製Paraffin Wax-155(商品名))
【0085】
(F)酸化防止剤
(F1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤(アデカ社製アデカスタブ AO-60(商品名))
【0086】
成分(A)~(F)を表1及び表2に示す割合で配合し、万能攪拌機を用いて150℃で2時間、溶融混合して、実施例1~13および比較例1~10のホットメルト接着剤を調製した。
【0087】
【表1】
【0088】
【表2】
【0089】
表1及び表2に示すホットメルト接着剤の組成(配合)に関する数値は、全て重量部である。ホットメルト接着剤の各々(実施例および比較例)について、ホットメルト接着剤のガラス転移温度(Tg)、160℃溶融粘度、タック、剥離強度、糊残りを評価した。以下、各評価の概要について説明する。
【0090】
<ガラス転移温度>
動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製のレオメータAR-G2(商品名))を用い、ガラス転移温度を測定した。ホットメルト接着剤を装置の治具にて加熱し、直径25mmφ、厚さ1,500μmの円盤状に成形した。ガラス転移温度の測定は、ステンレス製のパラレルプレートを用い、角速度10rad/sに固定し、温度スィープモードで速度5℃/分、-25℃~150℃の範囲で昇温して行った。軟化点以下の温度範囲で、損失弾性率(G”)と貯蔵弾性率(G’)の比で示される損失正接Tanδ(G”/G’)が測定される。その損失正接Tanδを温度に対してプロットした。得られたピークのピークトップを示す温度を読み取り、ホットメルト接着剤のガラス転移温度とした。
【0091】
<溶融粘度測定(160℃)>
JAI7-1991、B法に基づき、各ホットメルト接着剤の160℃の粘度を測定した。測定にはブルックフィールド粘度計を使用し、27番のローターを用いた。
【0092】
<タック(初期接着強度)>
厚さ50μmのPETフィルム(縦50cm×横24cm)上にホットメルト接着剤を塗布し、厚さ50μmの粘着層を形成した。このPETフィルムを2.5cm×10cmのサイズに成形(又は切断)し、試験体とした。この試験体を、粘着層の表面(接着剤塗布面)が外側となるようにループ状に巻き、巻かれた試験体を部材(PE板)に対し、20℃で300mm/分の速度で接触させて、部材に試験体を貼り付けた。その後、300mm/分の速度で試験体をPE板から引きはがした時の強度を測定し、タックを評価した。
◎:ループタックが1500(g/25mm)を超える
○:ループタックが1000(g/25mm)以上、1500(g/25mm)未満
△:ループタックが500(g/25mm)以上、1000(g/25mm)未満
×:ループタックが500(g/25mm)未満
【0093】
<剥離強度(保持力)>
上述のタックと同じ条件で作成した試験体を、粘着層の表面(接着剤塗布面)を、下記部材(1)~(4)の各々に貼り合わせ、200gゴムローラーで1往復荷重をかけ、評価用サンプルを得た。部材として、(1)SUS304、(2)ガラス、(3)PE、(4)PPの4種類を用いた。
評価用サンプルを23℃、65%R.H.の環境で18時間以上養生し、23℃、65%R.H.の環境下で剥離試験を行った。剥離試験は、島津製作所社製オートグラフAGS-Jを用いて、下記条件で実施した。
剥離方向:基材進行と同じ方向(MD方向)
チャック間距離:20mm
剥離速度:300mm/分
剥離長さ:50mm
解析方法:試験力平均
【0094】
各ホットメルト接着剤(実施例および比較例)について、少なくとも3個の評価用サンプルを作製し、3回測定し、その平均値を、剥離強度として記録した。剥離強度は、以下の基準で評価した
(1)SUS
◎:剥離強度が10N以上
○:剥離強度が5N以上、10N未満
△:剥離強度が2N以上、5N未満
×:剥離強度が2N未満
(2)ガラス
◎:剥離強度が10N以上
○:剥離強度が5N以上、10N未満
△:剥離強度が2N以上、5N未満
×:剥離強度が2N未満
(3)PE
◎:剥離強度が20N以上
○:剥離強度が10N以上、20N未満
△:剥離強度が2N以上、10N未満
×:剥離強度が2N未満
(4)PP
◎:剥離強度が10N以上
○:剥離強度が5N以上、10N未満
△:剥離強度が2N以上、5N未満
×:剥離強度が2N未満
【0095】
<糊残り>
剥離強度を測定後、速やかに剥離した部材の剥離面を指で触れることで、糊残りの有無(糊が剥離面に残っているか否か)を評価した。糊残りの評価基準について、以下に示す。
◎:糊残りなし
○:僅かに糊残りあり
△:やや糊残りあり
×:明らかに糊残りあり
━:剥離強度が2Nに満たず、評価の対象外
【0096】
表1に示すように、実施例1~13のホットメルト接着剤は、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れる。更にいえば、初期接着強度及び保持力に優れ、糊残りを生じさせ難い。従って、実施例のホットメルト接着剤は、粘着剤として有用であることが立証された。
これに対し、表2に示すように、比較例1~10のホットメルト接着剤は、成分(A)~(C)、(D1)(D2)のいずれかを含まないので、実施例のホットメルト接着剤と比べると、各性能のいずれかが著しく劣る。即ち、×と評価された性能がある。比較例のホットメルト接着剤は、初期接着強度、保持力、剥離性のバランスに優れることはない。
これらの結果から、成分(A)~(C)、(D1)(D2)を含むホットメルト接着剤を用いると、粘着体を部材に容易に貼り付けることができ、部材への保持力がより高く、糊残りがより生じ難いので、粘着剤として有効であることが実証された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は、粘着剤として有用なホットメルト接着剤、及びそのホットメルト接着剤が塗工された粘着体を提供できる。