(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】コア-シェル型量子ドット及びその合成方法
(51)【国際特許分類】
H01S 3/16 20060101AFI20220302BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20220302BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20220302BHJP
H01L 29/06 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
H01S3/16
B82Y20/00
B82Y40/00
H01L29/06 601D
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017169691
(22)【出願日】2017-09-04
【審査請求日】2020-08-28
(32)【優先日】2016-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508145241
【氏名又は名称】クリスティー デジタル システムズ ユーエスエー インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】Christie Digital Systems USA,Inc.
【住所又は居所原語表記】10550 Camden Dr. Cypress, CA 90630 , USA
(74)【代理人】
【識別番号】100104569
【氏名又は名称】大西 正夫
(72)【発明者】
【氏名】ホンジャ ファン
(72)【発明者】
【氏名】オレクサンドル ヴォズニー
(72)【発明者】
【氏名】マイケル アダチ
(72)【発明者】
【氏名】ランディー サバティーニ
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー ビカニック
(72)【発明者】
【氏名】ショールド ホーグランド
(72)【発明者】
【氏名】エドワード サージェント
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0252274(US,A1)
【文献】国際公開第2015/186033(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0117311(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0032183(US,A1)
【文献】国際公開第2015/009728(WO,A1)
【文献】Dmitri V. Talapin, et al.,Highly Emissive Colloidal CdSe/CdS Heterostructures of Mixed Dimensionality,Nano Letters,Vol. 3, No. 12,米国,American Chemical Society,2003年10月12日,1677-1681頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00-3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体を備えるコア及び
前記コアを実質的に覆うシェルを備え
た量子ドットであって、
前記コアは、第1側と前記第1側の反対側の第2側とを有し、前記コアは、前記シェルが前記第1側で最も薄く且つ前記第2側で最も厚くなるように前記シェルの内側に偏心して配置され、前記シェルは、前記第1側でゼロ以上の厚さを有しており、
前記コア及び前記シェルは、それぞれ異なる格子定数を有し、前記シェルが歪力を前記コアに及ぼすようになっており、前記歪力は、前記コアの励起子微細構造を修正するように構成され
、前記量子ドットに関連する第1の励起子吸収ピークが、第1のピークエネルギーを有する第1の修正ピークと、第2のピークエネルギーを有する第2の修正ピークとに分裂され、前記第1のピークエネルギーが、室温での熱エネルギー分よりも大きく前記第2のピークエネルギーから分離されるようになっている、量子ドット。
【請求項2】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記コアはCdSeを含み、前記シェルはCdSを含む量子ドット。
【請求項3】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記コアはウルツ鉱型結晶構造を含み、前記第1側は前記ウルツ鉱型結晶構造の(0001)ファセットを含む量子ドット。
【請求項4】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記シェルの厚さは、前記第1側で約1nm未満である量子ドット。
【請求項5】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記歪力は、前記第1側及び前記第2側を通る軸に垂直な各方向において前記コアを圧縮する2軸の力を含む量子ドット。
【請求項6】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記シェルは、前記第1側及び前記第2側を通る軸を中心として実質的に6回対称である量子ドット。
【請求項7】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記シェルの厚さは、前記コアの表面に沿って前記第1側から前記第2側に向かって移動するときに減少しない量子ドット。
【請求項8】
請求項1に記載の量子ドットにおいて、
前記第1の修正ピークに対応する第1の数の励起子遷移は、前記第1の励起子吸収ピークに対応する第2の数の励起子遷移と比較して、低減されている量子ドット。
【請求項9】
請求項
1に記載の量子ドットにおいて、
前記第1の励起子吸収ピークの分裂は、前記量子ドットの光学利得閾値が少なくとも約1.1分の1に減少することを含む量子ドット。
【請求項10】
請求項
1に記載の量子ドットにおいて、
前記量子ドットのフォトルミネッセンス線幅は、40meVより小さい量子ドット。
【請求項11】
請求項
1に記載の量子ドットにおいて、
実質的に均一な厚さを有し、且つ前記量子ドットを不動態化して前記量子ドットのフォトルミネッセンス量子収率を増加させるように構成された追加のシェルをさらに含む量子ドット。
【請求項12】
請求項
11に記載の量子ドットにおいて、
前記追加のシェルは、CdS、ZnSe、及びZnSのいずれか1つを含む量子ドット。
【請求項13】
請求項
1に記載の量子ドットにおいて、
前記量子ドットは、コロイド量子ドットである量子ドット。
【請求項14】
コア-シェル型量子ドットを合成する方法であって、
液体媒体中に分散されたCdSe粒子を含むコアを提供し;
前記コアをオクタデセン及びオレイルアミンと混合して、反応混合物を作製し;
前記反応混合物から前記液体媒体を選択的に除去し;
前記反応混合物を約280℃~約320℃の範囲にまで加熱し;且つ
前記反応混合物にオレイン酸カドミウム及びトリオクチルホスフィンスルフィドを添加して、前記コア上にCdSシェルを形成すること
を含む方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法において、
前記オレイン酸カドミウム及び前記トリオクチルホスフィンスルフィドは、同時に且つ連続的に前記反応混合物に添加される方法。
【請求項16】
請求項
14に記載の方法において、
前記コア-シェル型量子ドット上に追加のCdSシェルを成長させることをさらに含み、
前記追加のCdSシェルを成長させることは、
前記コア-シェル型量子ドットを含む別の反応混合物を約280℃~約320℃の範囲にまで加熱し;且つ
前記加熱後に、前記追加のCdSシェルを形成するための前駆体として、さらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールを、前記別の反応混合物に添加すること
を含む方法。
【請求項17】
請求項
16に記載の方法において、
前記さらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールは、オクタデセンで希釈され;且つ
前記さらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールは、同時に且つ連続的に前記別の反応混合物に添加される方法。
【請求項18】
請求項
16に記載の方法において、
前記方法は、さらなるオレイルアミンを前記別の反応混合物に添加することをさらに含み、前記さらなるオレイルアミンは、前記コア-シェル型量子ドットの分散性を増大させるように構成されている方法。
【請求項19】
光帰還構造;及び
前記光帰還構造と光通信する発光体を備えるレーザであって、
前記発光体は、請求項1に記載の量子ドットを含み、前記コアの励起子微細構造の前記修正が利得閾値を低減してレーザ発振を容易にするように構成されており、
前記レーザは連続波レーザを含むレーザ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2016年9月7日に出願された米国仮特許出願第62/384413号の優先権を主張するものであり、その内容全体を参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、量子ドットに関し、特に、コア-シェル型量子ドットに関する。
【背景技術】
【0003】
量子ドット(QD)は、比較的狭いフォトルミネッセンス(PL)線幅を示すことがある。しかしながら、多くの場合、QDは、縮退状態間のエネルギー的分離が室温における熱エネルギーに匹敵する多重縮退バンドエッジ状態を有する。したがって、励起子は、これらの複数の縮退状態にわたって分布することができ、そのことによって、QDのアンサンブル間の有意な不均一性が存在しない場合でも、任意の所与の状態の状態充填を減少させ、PL線幅を広げる。
【発明の概要】
【0004】
本明細書では、各要素は、1つ又は複数の機能を実行するように「構成される」か、又はその機能のために「構成される」ものとして記載することができる。一般に、ある機能を実行するように構成された要素、又はある機能を実行するために構成された要素は、その機能を実行できるようにされているか、その機能を実行するのに適しているか、その機能を実行するようになっているか、その機能を実行するように動作可能であるか、又は別の方法でその機能を実行することができる。
【0005】
本明細書の目的のために、「X、Y、及びZのうちの少なくとも1つ」及び「X、Y、及びZのうちの1つ又は複数」という言葉は、Xのみ、Yのみ、Zのみ、又はX、Y、及びZのうちの2つ以上の項目の任意の組合せ(例えば、XYZ、XY、YZ、ZZなど)と解釈することができる。「少なくとも1つの...」及び「1つ又は複数の...」という言葉が登場する場合には、2つ以上の項目に対して同様の論理を適用することができる。
【0006】
本明細書の一態様は、量子ドットを提供する。この量子ドットは、半導体を備えるコア;コアを実質的に覆うシェル;コアは、第1側と第1側の反対側の第2側とを有し、このコアは、シェルが第1側で最も薄く且つ第2側で最も厚くなるようにシェルの内側に偏心して配置され、シェルは、第1側でゼロ以上の厚さを有すること;及び、シェル及びコアは、それぞれ異なる格子定数を有し、シェルが歪力をコアに及ぼすようになっており、その歪力は、コアの励起子微細構造を修正するように構成されていることを備えている。
【0007】
コアはCdSeを含むことができ、シェルはCdSを含んでもよい。
【0008】
コアはウルツ鉱型結晶構造を含むことができ、第1側はウルツ鉱型結晶構造の(0001)ファセットを含んでもよい。
【0009】
シェルの厚さは、第1側で約1nm未満とすることができる。
【0010】
歪力は、第1側及び第2側を通る軸に垂直な各方向においてコアを圧縮する2軸の力を含んでもよい。
【0011】
シェルは、第1側及び第2側を通る軸を中心として実質的に6回対称であり得る。
【0012】
シェルの厚さは、コアの表面に沿って第1側から第2側に向かって移動するときに、減少しない形態にすることができる。
【0013】
量子ドットに関連する第1の励起子吸収ピークは、第1のピークエネルギーを有する第1の修正ピークと、第2のピークエネルギーを有する第2の修正ピークとに分裂され、第1のピークエネルギーは、室温での熱エネルギー分より大きく第2のピークエネルギーから分離されていてもよい。
【0014】
第1の修正ピークに対応する第1の数の励起子遷移は、第1の励起子吸収ピークに対応する第2の数の励起子遷移と比較して低減されていてもよい。
【0015】
第1の励起子吸収ピークの分裂は、量子ドットの光学利得閾値が少なくとも約1.1分の1に減少することを含んでもよい。
【0016】
量子ドットのフォトルミネッセンス線幅は、40meVより小さくすることができる。
【0017】
量子ドットは、実質的に均一な厚さを有し、量子ドットを不動態化して量子ドットのフォトルミネッセンス量子収率を増加させるように構成された追加のシェルをさらに含むことができる。
【0018】
追加のシェルは、CdS、ZnSe、及びZnSのいずれか1つを含んでもよい。
【0019】
量子ドットは、コロイド量子ドットとすることができる。
【0020】
本明細書の別の態様によれば、コア-シェル型量子ドットを合成するための方法が提供される。この方法は、液体媒体中に分散されたCdSe粒子を含むコアを提供し;コアをオクタデセン及びオレイルアミンと混合して反応混合物を作製し;反応混合物から液体媒体を選択的に除去し;反応混合物を約280℃~約320℃の範囲にまで加熱し;且つ反応混合物にオレイン酸カドミウム及びトリオクチルホスフィンスルフィドを添加してコア上にCdSシェルを形成することを含む。
【0021】
オレイン酸カドミウム及びトリオクチルホスフィンスルフィドは、同時にかつ連続的に反応混合物に添加することができる。
【0022】
この方法は、コア-シェル型量子ドット上に追加のCdSシェルを成長させることをさらに含み、追加のCdSシェルを成長させることは、コア-シェル型量子ドットを含む別の反応混合物を約280℃~約320℃の範囲にまで加熱し;且つ加熱ステップの後に、追加のCdSシェルを形成するための前駆体としてさらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールとを、別の反応混合物に添加することを含む。
【0023】
このさらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールは、オクタデセン内で希釈することができ、また、このさらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールを、別の反応混合物に同時にかつ連続的に添加することができる。
【0024】
該方法は、さらなるオレイルアミンを別の反応混合物に添加することをさらに含み;且つこのさらなるオレイルアミンは、コア-シェル型量子ドットの分散性を増大させるように構成されていてもよい。
【0025】
本明細書のさらに別の態様によれば、レーザが提供される。このレーザは、光帰還構造;及び光帰還構造と光通信する発光体を備えるレーザであって、発光体は量子ドットを含み、量子ドットは、半導体を備えるコアと、コアを実質的に覆うシェルとを含み、コアは、第1側と第1側の反対側の第2側とを有し、コアは、シェルが第1側で最も薄く、第2側で最も厚くなるようにシェルの内側に偏心して配置され、シェルが第1側でゼロ以上の厚さを有し、コア及びシェルがそれぞれ異なる格子定数を有し、前記シェルが歪力を前記コアに及ぼすようになっており、歪力は、コアの励起子微細構造を変更するように構成されている。コアの励起子微細構造の修正は、利得閾値を低減してレーザ発振を容易にするように構成されていてもよい。
【0026】
レーザは、連続波レーザを備えていてもよい。
【0027】
レーザ発振は、連続波発振を備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
添付図面を参照しながら、本明細書のいくつかの実施形態を単なる例として以下に説明する。
【0029】
【
図1】
図1は、非限定的な実施形態による、コア-シェル型QDの概略断面図を示す。
【0030】
【
図2】
図2a-cは、非限定的な実施形態による、別のコア-シェル型QDの概略断面図及びファセット選択的エピタキシーを用いた非対称ナノ結晶の成長を示す。
【0031】
【
図3】
図3は、静水圧歪み下及び2軸歪み下でのCdSe QDバンドエッジ状態、状態充填、及び擬フェルミ準位分裂を概略的に示す。
【0032】
【
図4】
図4は、CdSe-CdSコア-シェル型QDの光学的キャラクタリゼーションを示す。
【0033】
【
図5】
図5は、非限定的な実施形態による、コア-シェル型QDを合成する方法のステップを要約したフローチャートを示す。
【0034】
【
図6】
図6a-dは、非限定的な実施形態による、連続波フォトニック結晶、分布帰還型CQDレーザの一例を示す。
【0035】
【
図7】
図7a-dは、QDに関連する数値シミュレーションを示す。
【0036】
【
図8】
図8a-cは、単一、二重シェル型QDのサイズ及び励起子減衰ダイナミクスを示す。
【0037】
【
図9】
図9a-dは、QDの全吸光度スペクトル及び吸収断面測定値を示す。
【0038】
【
図10】
図10a-jは、さまざまな分裂の程度を伴うQDの吸光度スペクトル、その二次導関数及びPLスペクトルを示す。
【0039】
【
図11】
図11a-hは、QDのバンド構造シミュレーションを示す。
【0040】
【
図12】
図12a-dは、静水圧歪みQD及び2軸歪みQDにおける模擬励起子微細構造を示す。
【0041】
【0042】
【
図14】
図14a-dは、QDの単一ドットPL線幅データを示す。
【0043】
【0044】
【
図16】
図16a-dは、静水圧歪みQDフィルム試料及び2軸歪みQDフィルム試料のSEM断面及びAFM画像を示す。
【0045】
【
図17】
図17a-fは、1ns及び250fsの3.49eV(355nm)の光励起を伴うQDフィルムのASE閾値及びモード利得測定値を示す。
【0046】
【
図18】
図18a-eは、静水圧歪みQD及び2軸歪みQDそれぞれの単一励起子寿命及び多重励起子寿命を示す。
【0047】
【
図19】
図19a-bは、CWレーザ発振のためのPC-DFB基板を示す。
【0048】
【
図20】
図20a-gは、6.4kW/cm
2の閾値を有する別のCW PC-DFB QDレーザを示す。
【発明を実施するための形態】
【0049】
QDにおけるバンドエッジ状態の縮退によって引き起こされる課題に対処するために、厚さが可変であるシェルが各QDのコア上に形成される形でコア-シェル型QDを合成することができ、このシェルはコアに非静水圧の(すなわち非等方性の)歪力を及ぼす。そして、この歪力は、コアの励起子微細構造を修正して、いくつかの縮退状態間のエネルギー的分離を効果的に増大させる。
図1は、このようなコア-シェル構造の一例を示している。
図1は、シェル110が可変の厚さを有するように、シェル110の内部に偏心して配置されたコア105を有するQD100の概略断面図である。コア105は、半導体材料を備えていてもよい。
【0050】
コア105は、第1側115と、第1側115の反対側の第2側120とを有する。シェル110は、第1側115において最も薄く、第2側120において最も厚い。第1側115及び第2側120を説明するのに使用される単語「側(side)」の意味は、多角形又は多面体の意味における「側」の幾何学的定義に限定されない。「側」は、点、点の集合、部位、部分、領域などを包含してもよい。
図1において、第1側115及び第2側120は、コア105の極を表し、コア105は断面で図示されているが、透視図で描けば扁平回転楕円形状になるだろう。「側」はまた、コア105の極領域を包含してもよい。コアがファセット形状を有する実施形態では、「側」は所与のファセットの全体又は一部を指すことができる。また、いくつかの実施形態では、第1側及び第2側の一方又は両方がそれぞれ、ファセット形状のコアの2つ以上のファセットを備えていてもよいとも考えられる。
【0051】
コア105及びシェル110は、シェル110がコア105に歪力を及ぼすように、それぞれ異なる格子定数を有する。この歪力は、コア105とシェル110との間の格子不整合の性質に応じた圧縮力又は膨張力を備えていてもよい。一般に、シェル110の厚さが厚いほど、この歪力は大きくなる。なお、このシェル厚さと歪力の大きさとの関係は、非常に厚いシェルの漸近限界に近づいてもよい。
【0052】
シェル110の厚さプロファイルのため、シェル110がコア105に加える歪力は、静水圧のものではなく、2軸のものである。換言すれば、第1側115及び第2側120を通る軸130に沿った歪力は、軸130に垂直な各方向に沿った歪力とは異なる。このような2軸歪力により、例えば、縮退状態及び/又は励起子遷移のいくつかの間のエネルギー的分離を、室温での熱エネルギー分より大きくなるように増大させることによって、コア105の励起子微細構造を修正することができる。言い換えれば、このような2軸歪力は、室温でのバンドエッジ状態の有効な縮退を解く、すなわち低減することができる。熱エネルギーは、ボルツマン定数と温度の積として計算することができる。室温は、使用周囲温度及び/又は約22℃~約26℃の範囲の温度を含んでもよい。
【0053】
QD100において、シェル110は、第1側115において最も薄いが、他の実施形態では、シェルをコア上の他の点において第1側における薄さと同じように薄くすることができると考えられる。このような他の実施形態では、シェルが第1側の部分よりも薄い点がコア上に存在しないので、依然としてシェルの第1側の部分が最も薄いとして説明することができる。同様に、QD100において、シェル110は第2側120で最も厚いが、他の実施形態では、シェルをコア上の他の点において第2側における厚さと同じように厚くすることができると考えられる。同様に、このような他の実施形態では、シェルが第2側の部分よりも厚い点がコア上に存在しないので、依然としてシェルの第2側の部分が最も厚いとして説明することができる。
図1に図示されたQD100を含むいくつかの実施形態では、シェルの第1側の部分が、シェルの第2側の部分よりも薄い。さらに、
図1に図示されたシェル110は、第1側115でゼロでない厚さを有するが、他の実施形態では、シェルは、第1側でゼロ以上の厚さを有していてもよいと考えられる。言い換えれば、いくつかの実施形態では、シェルは、コアの第1側の全体又は一部を覆っていなくてもよい。
【0054】
例えば、コアがファセット形状を有し、第1側がコアのあるファセットを含む実施形態では、シェルは、第1側を含むファセットで厚さがゼロでもよい。言い換えれば、シェルは、第1側を含むファセット上には延びていなくてもよい。全体としてシェルは、実質的にコアを覆っている。いくつかの実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの表面積の少なくとも50%を覆うことを含んでもよい。他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの表面積の少なくとも75%を覆うことを含んでもよい。さらに他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの表面積の少なくとも85%を覆うことを含んでもよい。さらに他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの表面積の少なくとも90%を覆うことを含んでもよい。また、さらに他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの表面積の少なくとも95%を覆うことを含んでもよい。さらに他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、コアの全てを覆うことを含み得る。また、さらに他の実施形態では、コアを実質的に覆うことは、最大で1つのファセットを除くコア全てを覆うことを含み得る。
【0055】
図1に示すように、QD100において、シェル110の厚さは可変である。コアの表面に沿って第1側から第2側に向かって移動するときに厚さが徐々に増加するような可変厚さのシェルは、その結果として、コアの表面に沿った2軸歪力のプロファイルを調整する(例えば、歪力を徐々に増加させる)ことができる。このように調整された歪力プロファイルは、その結果として、2軸歪力によって引き起こされるコアの励起子微細構造の修正を、より細かくより調整された制御をすることができる。
図1に図示されたQD100を含むいくつかの実施形態では、コア105の表面に沿って第1側115から第2側120に向かって移動するときにシェル110の厚さが減少しない形態にすることができる。
【0056】
図1では、滑らかな曲面を有する扁平形状のコア105及びシェル110が図示されているが、コア及びシェルは他の適切な形状でもよいと考えられる。例えば、いくつかの実施形態では、コア及び/又はシェルは、ファセット形状及び/又はファセット面を有していてもよい。さらに、いくつかの実施形態では、コア表面及び/又はシェル表面は階段状の特徴を有することができ、その段部の高さは少なくとも1つの原子層とすることができる。
【0057】
さらに、
図1は、コア105及びシェル110の所定の形状及び配置を示しているが、シェルがコアの表面積の少なくとも50%を覆い、コアがシェル内に偏心して配置され、コアの表面に2つの正反対の点が存在し、その第1の点においてシェルが最も薄く、第2の点においてシェルが最も厚いという条件であれば、コア及びシェルは他の適切な形状又は配置であってもよいと考えられる。さらに、コア材料とシェル材料との間に格子不整合が存在するため、上述したシェルの厚さプロファイルはコアに2軸歪力を及ぼすことになり、その歪力はバンドエッジ状態の縮退を解くことによってコアの励起子微細構造を修正することになる。
【0058】
格子不整合の程度及びシェルの厚さプロファイルを微調整することにより、コアの励起子微細構造の修正が調整され、量子ドットに関連する第1の励起子吸収ピークが、第1のピークエネルギーを有する第1の修正ピークと、第2のピークエネルギーを有する第2の修正ピークとに分裂し、第1のピークエネルギーは、室温での熱エネルギー分よりも大きく第2のピークエネルギーから分離される。また、このような修正に伴って、第1の修正ピークに対応する励起子遷移の数を、第1の励起子吸収ピークに対応する励起子遷移の数と比較して、減少させてもよい。さらに、このような修正に伴って、量子ドットの光学利得閾値が、少なくとも約1.1分の1に低減してもよい。いくつかの実施形態では、光学利得閾値の低減は、少なくとも約1.30分の1とすることができる。さらに他の実施例では、光学利得閾値の低減は、少なくとも約1.43分の1とすることができる。これらの利得閾値の低減は、2軸歪力による縮退の解除及び励起子吸収ピークの分裂のない同等の静水圧歪みコア-シェル型QDと比較したものである。
【0059】
光学利得閾値の低減により、レーザの製造において、本明細書に記載されている複数のQDの使用が容易になる。いくつかの実施形態では、これらのレーザは連続波(CW)レーザを備えていてもよい。例えば、このようなレーザは、光帰還構造と、この光帰還構造と光通信する発光体とを含んでもよい。発光体は、本明細書に記載の複数のQD(例えば、QD100及び/又は後述するQD200)を含むことができ、コアの励起子微細構造を修正することにより、光学利得閾値を低減して、レーザ発振を容易にする。いくつかの実施形態では、コアの励起子微細構造を修正することにより、光学利得閾値を低減して、連続波発振を容易にする。光帰還構造は、フォトニック結晶を含む(これに限定されない)任意の適切な構造を含んでもよい。光学利得閾値の低減により、より低エネルギーの光ポンピングが使用できるようになり、その結果、特に連続波モードにおいて、複数のQDの温度がその熱閾値を超えることにより複数のQDが損傷する可能性が低くなる。
【0060】
再び
図1を参照すると、第2のシェル125が破線で示されている。このような第2のシェル125は、厚さが均一又は実質的に均一であってもよく、QD100の表面を不動態化してPL量子収率を増加させるのに用いることができる。シェルがコアの第1側の部分を覆っていない(
図1には示されていないが、
図2を参照)実施形態では、第2のシェルは、コアの第1のシェルによって覆われていない部分を覆って不動態化するという利益をもたらすことができる。
【0061】
ここで
図2a(左)を参照すると、QD200の概略断面図が示されており、QD200を形成する原子が概略的に描かれている。
図2aは概略図に過ぎず、QD200における原子の実際の数及び/又は正確な配置は、
図2aに示されているものとは異なっていてもよい。QD200は、ウルツ鉱型結晶構造を有するCdSeを含むコア205を有する。コア205は、第1側215と、第1側215の反対側の第2側220を有する。第1側215は、ウルツ鉱型コア205のファセット(0001)を含む。コア205は、シェル210の内部に偏心して配置され、このシェルは、コア205の表面の第1側215を除いた部分を覆う。シェル210は、第1側215で最も薄く、第2側220で最も厚い。いくつかの実施形態では、第2側220で最も厚いシェル210は、第2側220以外のシェル210上の点において、第2側220における厚さと同じくらい厚いシェル210を含んでもよい。シェル210の第2側220の部分は、シェル210の第1側215の部分よりも厚い。シェルは、CdSを含む。CdSeコア205とCdSシェル210との間の格子不整合により、シェル210がコア205に圧縮歪力を加えるようになる。シェル210の厚さプロファイルのために、この歪力は静水圧のものではなく2軸のものである。言い換えれば、シェル210が及ぼす歪力は、第1側215及び第2側220を通る仮想軸に沿って、この軸に垂直な各方向の歪力とは異なる。
【0062】
この2軸歪力により、
図3に概略的に示されているように、縮退バンドエッジ状態の少なくともいくつかの間のエネルギー分離を増大させることによって、コア205の励起子微細構造が修正される。このようにバンドエッジ状態の有効縮退を解くことにより、その結果、QD200に関連する第1の励起子吸収ピークが、第1のピークエネルギーを有する第1の修正ピークと、第2のピークエネルギーを有する第2の修正ピークとに分裂される。さらに、第1のピークエネルギーは、第2のピークエネルギーから、室温での熱エネルギー分より大きく分離していてもよい。
図4bは、シェル210によって生成された2軸歪みによって引き起こされる第1の励起子吸収ピークの分裂を示している。さらに、第1の修正ピークに対応する励起子遷移の数は、第1の励起子吸収ピークに対応する励起子遷移の数に比較して減少する。
【0063】
図2a(左)は、コア205の表面に沿って第1側215から第2側220に向かって移動すると、シェル210の厚さが徐々に(約1層の原子層から約2層の原子層に)成長することを示している。このように第1側215から第2側220に向かってシェル210の厚さが徐々に増加することにより、シェル210がコア205に及ぼす歪力プロファイルを調整することができる。これにより、歪力によって引き起こされるコア205の励起子微細構造の修正を制御して調整することができる。
【0064】
図2a(右)は、QD200を覆う均一な追加のシェル225を有するQD200を示している。この追加のシェルは、CdSを含み且つ約1層の原子層の厚さである。追加のシェル225は、QD200、特に、シェル210によって覆われていない第1側215を覆って不動態化し、この不動態化の結果として、QD200のPL量子収率を増加させることができる。いくつかの実施形態では、追加のシェルは、CdSに加えて、及び/又はCdSの代わりに、ZnSeやZnSなどを含む任意の他の適切な材料を含むことができ、且つ/又は厚さを1層の原子層とは異なる厚さとすることができると考えられる。
【0065】
図2a(左)に示すように、第2側220は、第1側215と比較して、より多くのCd原子及びダングリングボンドを有する。第1側と第2側との間のこの差異のために、第2側220は、第1側215よりも厚い不動態化シェルを必要とする。QD200では、シェル210が第2側220を既に覆っていることにより、第2側220上に別の不動態化シェルを成長させる必要がなくなる。このことにより、第1側215を不動態化するのに用いる追加のシェル225をかなり薄くすることができる。
【0066】
このように追加のシェル225が相対的に薄いことにより、追加のシェル225を不動態化することによってQD200に及ぼされる追加の歪力の大きさを低減することができる。追加の歪力を低減することで、シェル210がコア205に及ぼす歪力プロファイルに対する、これらの追加の力からの何らかの干渉を低減することができる。このように、シェル210がコア205の第2側220を覆っており、この第2側220は比較的厚い不動態化シェルを必要とするであろうから、追加のシェル225を比較的薄くすることができ、そのことによってQD200に及ぼされる歪力は比較的小さくなり、シェル210のコア205への歪力プロファイルを妨げるたり著しく歪めたりする可能性が低くなる。
【0067】
コア205のウルツ鉱型結晶構造により、シェル210は、第1側215及び第2側220を通る仮想軸(この軸は
図2には示されていないが、
図1には類似の軸130が示されている)を中心として6回対称であり得る。結晶構造及び/又は使用される材料が異なる実施形態では、シェルの対称性も仮想軸を中心として異なることがある。さらに、
図2aはシェル210を第1側215を覆わない形態として示しているが、他の実施形態では、シェルは第1側を覆い、且つ/又は第1側で約1nm未満の厚さを有することができると考えられる。さらに他の実施形態では、シェルがコアに2軸歪力を及ぼす限り、シェルは異なる厚さ及び/又は厚さプロファイルを有することができ、そのことにより、第1側及び第2側を通る仮想軸に沿った歪力は、軸に垂直な各方向の歪力と十分に異なり、その結果、歪力が励起子微細構造を修正して、QDに関連する第1の励起子吸収ピークを第1のピークエネルギーを有する第1の修正ピークと第2のピークエネルギーを有する第2の修正ピークとに分裂させ、第1のピークエネルギーが室温での熱エネルギー分より大きく第2のピークエネルギーから分離される。いくつかの実施形態では、この分裂は室温で起こりうる。
【0068】
上述のように、QD200は、バンドエッジ状態の有効縮退が、等価であるが静水圧歪力を受けたQDと比較して低減されていてもよい。この低減された縮退は、40meVより狭い単一QDフォトルミネッセンス線幅を有するQD200に寄与することができる。いくつかの実施形態では、単一QDフォトルミネッセンス線幅は、36meV以下であることも考えられる。
【0069】
本明細書で説明するコア-シェル型QDは、コロイドQDとして合成することができる。
図2a(左)を参照して、非限定的な例として、
図5に要約した方法500を用いて、QD200を合成することができる。ステップ505において、CdSe粒子を含み且つ液体媒体中に分散された複数のコア205を提供することができる。CdSe粒子は、ウルツ鉱型結晶構造であってもよい。ステップ510において、コア205をオクタデセン及びオレイルアミンと混合して、反応混合物を形成することができる。
【0070】
オレイルアミンは、各CdSeコア205のファセットに弱く結合する。次に、ステップ515において、液体媒体を反応混合物から選択的に除去することができる。ステップ520において、反応混合物を約280℃~約320℃の範囲にまで加熱することができる。次に、ステップ525において、オレイン酸カドミウム及びトリオクチルホスフィンスルフィド(TOPS)を反応混合物に添加して、各コア205上にCdSシェル210を形成することができる。TOPSは、シェル210用の硫黄前駆体となる。さらに、TOPSは、各コア205の(0001)ファセットには結合せず、オレイルアミンとほぼ同じ強度で残りのファセットに結合する。(0001)ファセットは、各コア205の第1側215に対応する。したがって、オレイルアミンは、第1側215に優先的に結合して、TOPS(すなわち、硫黄前駆体)がコア205に到達して第1側215で反応するのを阻止し続ける。オレイルアミンとTOPSとの相互作用のために、第1側215上にCdSシェルを形成することはできない。
【0071】
コア205の(0001)ファセット以外のファセットでは、オレイルアミンとTOPSとの両方がほぼ同等に弱い結合を有する。したがって、一部のTOPSはコア205に達し、これらの他のファセットで反応し、CdSシェル210は、コア205の(0001)ファセット以外のファセット上でゆっくりと成長し続ける。いくつかの実施形態では、オレイン酸カドミウム及びトリオクチルホスフィンスルフィドは、反応混合物に同時に且つ/又は連続的に添加することができる。
【0072】
不動態化均一シェル225を合成するために、コア-シェル型QD200を液体媒体中に分散させ、約280℃~約320℃の範囲にまで加熱してもよい。次に、追加のCdSシェル225を形成するための前駆体として、さらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールを反応混合物に添加してもよい。オクタンチオールは、硫黄前駆体として作用する。オクタンチオールはコア205の(0001)ファセットに比較的強く結合し、オレイルアミンを置換して(0001)ファセット(すなわち第1側215)ならびにシェル210を覆う均一なCdSシェルを形成することができる。
【0073】
いくつかの実施形態では、このさらなるオレイン酸カドミウム及びオクタンチオールをオクタデセンで希釈することができる。さらに、いくつかの実施形態では、シェル225を形成するために、反応混合物に、オレイン酸カドミウム及びオクタンチオールを同時に且つ/又は連続的に添加することができる。さらに、いくつかの実施形態において、シェル225を形成するステップは、シェル225を形成するために反応混合物にオレイルアミンを添加するステップをさらに含むことができ、このさらなるオレイルアミンは、
図2(a)に示すようにコア-シェル型量子ドットの分散性を増大させるように構成されている。
【0074】
コア-シェル型QD200に関する合成及びキャラクタリゼーションの情報を、以下により詳細に述べる。この合成及びキャラクタリゼーションの情報は、CdSe-CdSコア-シェル型QD200についての詳細であるが、異なる合成方法を用いてCdSe-CdS QD200を合成することもできると考えられる。さらに、同様の及び/又は異なる合成方法を用いて、1つ又は複数のコア及びシェルがそれぞれCdSe及びCdSと異なる材料で作製されるコア-シェル型QDを合成することもできると考えられる。換言すれば、本明細書に記載のQD及びそれらの合成方法は、上述した通りの配位子の組合せによって作製されたCdSe-CdSのQD200に限定されない。異なるコア-シェル材料対を、ならびに/もしくは異なる配位子組合せ及び合成方法を用いて、非対称格子不整合シェルを有する他のコア-シェル型QDを合成することもできると考えられる。このQDは、2軸歪力を受けることにより、第1の励起子吸収ピークの分裂、光学利得閾値の低減、及び狭いPL線幅につながるものである。これらの異なる2軸歪みコア-シェル型QDはすべて、本明細書の範囲内にある。
【0075】
以下のセクションで述べるキャラクタリゼーション及び合成の情報は、コア-シェル型QD200及びシェル210上に成長したシェル225を有するQD200の型(どちらも
図2aに示されている)に関するより詳細な情報である。CdSeコロイドQD(CQD)のバンドエッジでは、電子準位1S
eは単一縮退であり、2つのスピン射影を有し、正孔は2つの近接した1S
3/2と1P
3/2の二重の縮退マニホールド(
図3を参照)を含み、その結果、スピン射影を考慮すると8つの状態となっている。六方格子においては、結晶場は縮退を解く。扁平形状を用いることでさらに分裂を増加させることができるが、扁長形状は結晶場の効果を打ち消し得る。球状のCQDでは、分裂は室温での熱エネルギーに相当するため、8つの状態すべてに正孔が分散する。この熱的ポピュレーションは、不均一広がりがない場合でも、バンドエッジ正孔準位の状態充填(state filling of bandedge hole levels)を減少させ、PL線幅を広げる。
【0076】
図3は、静水圧歪み下及び2軸歪み下でのCdSe・CQDバンドエッジ状態、状態充填、及び擬フェルミ準位分裂を概略的に示している。E
Fe及びE
Fhは、それぞれ電子と正孔の擬フェルミ準位を示し、kTは、熱エネルギーを示す。
図1の左側に示されているように、CdSe・CQDでは、電子準位は2つのスピン射影を有する単一縮退であり、正孔準位はそれぞれ2つのスピン射影を有する4重縮退である。結晶場及び形状異方性は、正孔縮退を解くことができるが、分裂は熱エネルギーと同等のままであり、その結果、フォトルミネッセンスが広くなり、状態充填が減少する。この分裂は、静水圧歪みの影響を受けない。
図1の右側に示されているように、2軸歪みにより追加の分裂が起こり、正孔を最低エネルギー準位に集中させる。結果として、より狭いフォトルミネッセンス及び改善された擬フェルミ準位分裂が実現され、利得閾値が低減する。
【0077】
電子の擬フェルミ準位(E
Fe)と正孔の擬フェルミ準位(E
Fh)との間の分裂がバンドギャップ(E
g)より大きくなると、半導体の光学利得条件が満たされる(
図3)。スピン縮退のみを有する単一準位の電子及び正孔について、ドットを1つの励起子でポピュレートすることにより、擬フェルミ準位をそれぞれのバンドエッジに移動させ、CQDを光学利得の開始状態にする。それに対して、より高い縮退を有するシステム、例えば、CdSe・CQDの価電子帯では、単一の電荷キャリアが8つの(スピンを含む)正孔状態に広がり、状態ごとのポピュレーションを大幅に減少させる(
図3を参照)。このように、正孔擬フェルミ準位はバンドエッジからさらに離れたままであり、擬フェルミ準位分裂はバンドギャップよりも小さいままである。したがって、バンドエッジ状態の必要なポピュレーションを達成するには、余分の励起子が必要である。室温での典型的なCdSe・CQDの場合、閾値は<N>≒2.7で達成される。ここで<N>は1ドット当たりの平均励起子占有率である(「シミュレーション方法」及び
図7a~7cを参照)。これらのより多重度の高い励起子は、オージェ再結合の高速化に関与し、光学利得寿命を著しく短縮する。
【0078】
静水圧圧縮歪みはバンドギャップを変化させるが、バンドエッジ微細構造には影響しない。それに対して、2軸歪みは、重い正孔と軽い正孔とに異なる程度で影響を与えることによって縮退を解く。CQDでは、外部の非対称圧縮歪みが正孔状態を分裂させることができるが、これは、CQDのランダムな配向の結果としてのアンサンブルPLピークの広がりをもたらすだけである。さらに、組み込み(built-in)非対称歪みを有するCQDにおけるバンドエッジ励起子遷移の分裂により、アンサンブルにおいて歪み均一性又はCQDサイズ均一性が欠如しているために、より狭いPLが生成されない可能性がある。
【0079】
一方、この分裂がアンサンブル内のすべてのCQDに均質に適用され、熱エネルギー分よりも実質的に大きくなると、正孔状態のポピュレーションは、バンドエッジのより近くに蓄積されることになり、より狭い放射線幅になる(
図3を参照)。同時に、同じ励起強度では、バンドエッジ状態の有効縮退が減少し、<N>=2により近い、より低い光学利得閾値が得られる(「シミュレーション方法」及び
図7a~7cを参照)。
【0080】
本明細書は、良好な表面不動態化を維持しながら、アンサンブル全体にわたって均質又は実質的に均質な組み込み2軸歪みを導入する合成経路を開示する。CdSe-CdSコア-シェル型CQDでは、CdSとCdSeとの間の格子不整合が約3.9%であり、球状シェル内部のコアの静水圧圧縮歪みをもたらす。したがって、非対称シェルを成長させることによって、十分な2軸歪みを達成することができる。合成は、本質的に非対称のウルツ鉱型結晶構造から始まり、その{0001}ファセットは互いに異なり、(0001)は1つのダングリングボンドを有するCd原子を露出し、(000
)は3つのダングリングボンドを有するCd原子を露出させる。この差異により、中心からずれたコアを有する線形ドットインロッドCdSe-CdSコア-シェル型ナノ構造となる可能性がある。しかし、このような扁長形状は、先に述べたように、組み込み結晶場効果を無効にし、その結果、縮退を解く代わりに、縮退を促進する。
【0081】
ここで提案する合成方法では、極性格子が扁長の結晶形状をとる傾向を克服する異なるアプローチをとる。トリオクチルホスフィンスルフィド(TOPS)を用いたシェル成長は、ファセット選択性を提供することができ、前駆体としてチオールを第一級アミン配位子と組み合わせて用いる経路は、等方性のシェル成長を生じ得る。本発明の合成方法は、これらの2つの効果を組み合わせて利用する。
【0082】
【0083】
【0084】
FSEプロトコルは、非対称シェルを扁平な形状で成長させることができる(
図2a、各合成方法、及び拡張データ
図8aを参照)。さらに、有効な(0001)終端面はこのファセットを不動態状態のままにしておくので、その結果、低いフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)(25%)になり、一側にシェルがないことにより、オージェ寿命が短くなる(約400ps)(
図8cを参照)。したがって、TOPS注入後に硫黄前駆体をオクタンチオールに切り替えることによって、均一な第2のシェルが成長した(
図2a及び各合成方法を参照)。2シェル量子ドットの最終PLQYは、溶液中で90%に達し、固体フィルム中で75%の比較的高いPLQYに達する(
図8cを参照)。オージェ再結合寿命は、約600psにまで、わずかに延びた(
図8cを参照)。
【0085】
得られた非対称CQDの形態は、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF-STEM)(
図2bの挿入図を参照)及び明視野透過電子顕微鏡(TEM)画像(
図8bを参照)で見ることができる。その形態は、直径14.4±0.7nm、厚さ10.1±0.6nmを有する扁平形状を示し、狭いアンサンブルサイズ分布を有する。STEMエネルギー分散型X線分光分析(EDS)元素マッピング(
図2bを参照)が示すように、CdSeコアは、扁平CdSシェル内部に一貫して偏心されている且つ/又は偏心配置されており、これはFSE成長メカニズムを裏付ける知見である。
【0086】
【0087】
図4a~
図4dは、CdSe-CdSコア-シェル型CQDの光学的キャラクタリゼーションを示している。
図4a及び
図4bは、それぞれ静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDについて、アンサンブル吸収及びPLスペクトル、単一ドットPLスペクトルのローレンツ適合、ならびに密結合モデル模擬励起子微細構造を示している。
図4c~
図4dは、2つの異なるタイプのCQDに関する光学利得閾値測定値を示している。光励起エネルギーは、シェルによる吸収を避けて且つ励起子ポピュレーションが確実に等しくなるように、2.18eVとして選択された。パルス励起後の瞬間総吸収は、27psで集められた。
【0088】
静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDは、同様の平均サイズ(
図10の挿入図を参照)及び吸収断面積を有しており、両者の吸収スペクトル(
図4a~図
4b及び
図9a~
図9bを参照)は2つの差異を示している。すなわち、2軸歪みCQDの第1の吸収ピークは2つに分裂しており、それははるかに急な吸収端を示す。異なる程度の薄肉シェル非対称性を有する一連の試料は、第1の励起子ピークの漸進的な分裂を示し(
図10を参照)、最大67meVに達する。いくつかのCdS単層の第2の均一なシェルを加えた後、分裂は55meVにまでわずかに減少する(図
10bを参照)。
【0089】
これらの解釈は、タイトバインディング原子シミュレーションで確認できる(「シミュレーション方法」、
図11~
図12、及びデータ表2~3を参照)。静水圧歪みCQDでは、第1の励起子マニホールド内の明遷移の分裂はわずか20meVであり(
図4aを参照)、2軸歪みの存在下では、明遷移の分離は約55meVである(
図4b及び
図11~
図12を参照)。これは、2軸歪力を受けた場合の吸収端の鋭さを説明することができる。同じ理由から、2軸歪みCQDのストークスシフトは24meVであり、静水圧歪力の存在下でのCQDのストークスシフト(40meV)よりずっと小さい。なお、CQD中の最低エネルギー励起子はスピン選択則のために暗く、またフォトルミネッセンスは熱的にポピュレートされた高エネルギーの明状態によって生じている。2軸歪みは、電子-正孔交換相互作用の強さに影響を与えず、暗-明分裂は小さいままである(
図4a~
図3b及び
図12dを参照)。温度依存性PL減衰は、2種類のCQDにおいて同様であることが示されている(
図13を参照)。
【0090】
単一ドットPL測定及びアンサンブルPL測定を実施して、2つのドットタイプの発光状態及び広がりを監視した。静水圧歪みCQDでは、単一ドットPL線幅及びアンサンブルPL線幅(半値全幅(FWHM))の平均が、それぞれ63±7meVと95meVである(
図4a及び
図14を参照)(巨大なコア-シェル型CQDでは、±25%の広がりがよく見られる)。これに対して、2軸歪みコア-シェル型CQDでは、アンサンブルでの54meVに対して、単一ドットPLのFWHMが36±3meVと狭い(
図4b及び
図14を参照)。この単一ドット発光線幅は、極端な量子閉じ込めによって光と重い正孔が十分に分離された単一のナノプレートレットよりもさらに狭い。2軸歪みドットにおける単一ドット線幅がこのように2分の1に減少するのは、2つの主な理由、すなわち(i)励起子微細構造が実質的に熱エネルギーを著しく超える程度にまで広がっていること、(ii)LOフォノンへの励起子結合がこの非対称コア-シェル構造では抑制され、このことがさらに線幅を狭くするということに起因する。2軸歪みドットのアンサンブルPL線幅は、静水圧歪力を受けた場合に匹敵する不均質な広がりを示す。しかし、それでも、これは、これまで報告されている最も狭い線幅のCQD及びコア-シェル型ナノプレートレットと比較して、約20%改善していることを示している。より薄いCdSシェルを有する2軸歪みCQDでは、さらに狭いアンサンブルPL(50meVのFWHM)を得ることができる(
図10を参照)。
【0091】
超高速過渡吸収(TA)分光法を用いて、2軸歪みCQD及び静水圧歪みCQDの両方の光学利得閾値を測定した。フェムト秒及びピコ秒の領域では、CQDの光学利得閾値は、2つの重要なパラメータによって影響を受ける。すなわち、(1)所与の光励起パワー密度で生成される励起子の数を制御する吸収断面積と、(2)誘導放出が吸収を上回る点に到達するのに必要なドット当たりの平均励起子占有率<N>である。吸収断面積の影響を切り離すために、同一のコアを用いて静水圧歪みCQD対2軸歪みCQDを成長させ、且つ250fsパルスを使用して2.18eVで光励起してTA測定を行うことにより、シェルによる吸収を排除し、同等の平均占有率を確保した。溶液中の2軸歪みドット及び静水圧歪みドットの利得閾値は、それぞれ492μJ/cm
2と702μJ/cm
2であり、前者のタイプの構造が、パルス毎のフルエンスの点で1.43分の1に減少していることを示している(
図4c~
図4d、及び
図15を参照)。対応する励起子占有率は、光励起フルエンスと測定した吸収断面積とを乗算することによって計算し(「キャラクタリゼーション方法」及び
図9を参照)、2軸歪みドット及び静水圧歪みドットそれぞれに対して<N>=2.3±0.4及び3.2±0.6の値が得られた。これは、状態縮退、分裂、熱的ポピュレーション、線幅、及びポアソン統計を考慮した数値利得モデリングから得られた<N>=2.2及び<N>=2.7と一致する(「シミュレーション方法」及び
図7a~
図7cを参照)。シミュレーションは、線幅の差異が閾値の改善(
図7cを参照)に有意に寄与しない(約5%のみ)ことを示している。
【0092】
レーザでは、CQDは、通常、シェルの大きな吸収断面積を利用して、より低い外部光励起パワーで閾値占有率<N>を達成するために、シェルバンドギャップの上方に光励起される。したがって、増幅された自発放出(ASE)閾値は、シェル光励起を用いて得た。同様の厚さ及び均一性を有するスピンキャストCQDフィルム(
図16を参照)を、1ns、3.49eVのレーザパルスを用いて光励起した。2軸歪みドット及び静水圧歪みドットはそれぞれ、1パルス当たり26μJ/cm
2及び36μJ/cm
2のASE閾値を示した(
図17を参照)。250fs(3.49eV)のレーザパルスを代わりに用いると、14μJ/cm
2及び22μJ/cm
2というより低いASE閾値が観察された(
図17を参照)。これは、ポンピングステージでのオージェ再結合損失の減少に起因する可能性がある。2軸歪み試料のASE閾値が1.4分の1~1.6分の1に低減しているのは、利得閾値の低減に起因する。これは、双励起子オージェ寿命(
図18を参照)及び吸収断面積(
図9c~9dを参照)が、2つの試料で同様のままであり、よって観察された改善に寄与しないためである。
【0093】
利得閾値を低減することは、CWレーザ発振を実現するのに有利であり得る。ポピュレーション反転を達成することを目的とした80%を超える入射パワーは、オージェ再結合損失により、熱に変換される。利得閾値のわずかな改善でさえ、CW領域における熱生成の減少(
図7dを参照)という増幅された利益をもたらし、強いレーザ光への連続的な暴露下でのフィルム損傷を回避するのに役立つ。持続的なレーザ発振を実証するために、2軸歪みCQDのフィルムをフォトニック結晶分布帰還(PC-DFB)光学キャビティに組み込んだ(
図6a、
図19、及び「キャラクタリゼーション方法」を参照)。熱放散をさらに助けるために、デバイスをペルチェステージに熱ペーストで接着した。
【0094】
図6a~
図6dは、連続波フォトニック結晶分布帰還型CQDレーザの一例を示している。
図6aは、レーザ発振に使用されるPC-DFBデバイスの概略図である。基板表面に垂直に、放射を集めた。
図6bは、CWレーザを使用して442nmで光学的に光励起したときの正規化発光を、ピーク出力の関数として示したものである。挿入図は、約0.9nmのFWHMで640nmのレーザ発振ピークを示した発振閾値を上回る発光スペクトル及び発振閾値を下回る発光スペクトルを示している。
図6cは、閾値を上回る発光及び閾値を下回る発光の写真をそれぞれ示している。閾値を超えると、明るいレーザ発振スポットが見える。画像は強度に変換し、グレーカラースケールで表示した。
図6dは、PC-DFBレーザの正規化発光強度を、CWレーザによって励起されている間の時間と入射パワーの関数として示したものである。信号の変動は、オシロスコープ上の音響光学変調器(AOM)によって誘起される電子ノイズに起因する(
図20f~
図20gを参照)。
【0095】
PC-DFBキャビティは、CWレーザを用いて442nmで光励起された。基板表面に垂直な方向に、放射を集めた。励起パワーに依存する発光強度は、約6.4~8.4kW/cm
2のレーザ発振閾値を示し(
図6b及び
図20を参照)、これらの値は、以前に報告された最長持続CQDレーザのレーザ発振閾値(50kW/cm
2)の約7分の1である(データ表4を参照)。これらのパワーは熱計算の結果と一致しており、これは、パワーが10kW/cm
2未満のときにCWレーザ発振が可能であることを示している。レーザ発光ピーク波長は640nmであり(
図6bの挿入図を参照)、FWHMは0.9nmである(使用される分光計の分解能によって制限される)。試料から約5cm離してカードを置くことによって、レーザビームの指向性を表示した。閾値を下回ると、PLによる拡散放射が見え、閾値を上回ると、放射ビームの中心に殆ど発散のないいくつかの明るいレーザスポットが見える(
図6cを参照)。発振出力はオシロスコープを用いて監視され、デバイスが実際に連続的に発振することが分かった。これらのトレースは、各励起パワーにおいて閾値挙動及び定常信号を示した(
図6dを参照)。6.4kW/cm
2及び8.4kW/cm
2の閾値を有するデバイスでは、閾値が上昇する前に、CWレーザ発振がそれぞれ約30分間及び10分間持続した。追加試験として、50%(50msパルス)及び75%(75msパルス)のデューティサイクルを用いて、10Hzの繰り返し率でのパルス励起実験を行った。分光計の取得に遅延を適用することにより、パルスの最後の10マイクロ秒のスペクトルが測定され、閾値を上回るとレーザ発振ピークを示した(
図20d~20eを参照)。
【0096】
CWレーザ発振を達成するためにコア-シェル型QD200を用いる本明細書とは対照的に、溶液処理されたナノプレートレットからの双励起子CWレーザ発振の結果に関しては、特筆すべきであろう。ナノプレートレットの場合、実験に基づくCW―ASE閾値と、双励起子寿命及びfsパルス励起を用いて得られた閾値に基づいて推定した期待CW閾値(6W/cm2対48kW/cm2)との間には、約4桁の相違がある(データ表4を参照)。このことは、特に、レーザ発光の空間的コヒーレンスの確認がない場合に、観察されたASE及びCWレーザ発振に関する疑問を提起する。
【0097】
本明細書は、結果が空間的コヒーレンスを用いて確認され、且つパルス光励起対CW光励起に対して一致した閾値を伴う、溶液処理材料からのCWレーザ発振の最初の観察結果であると考えられる。
【0098】
方法
【0099】
実験方法
【0100】
化学物質
【0101】
酸化カドミウム(CdO>99.99%)、硫黄粉末(S>99.5%)、セレン粉末(Se>99.99%)、オレイルアミン(OLA>98%第一級アミン)、オクタデセン(ODE、90%)、オレイン酸(OA、90%)、トリオクチルホスフィン(TOP、90%)、トリブチルホスフィン(TBP、97%)、トリオクチルホスフィンオキシド(TOPO、99%)、オクタデシルホスホン酸(ODPA、97%)、1-オクタンチオール(>98.5%)、塩化チオニル(SOCl2)、トルエン(無水、99.8%)、ヘキサン(無水、95%)、アセトン(99.5%)及びアセトニトリル(無水、99.8%)を、Sigma Aldrich社から購入し、さらに精製はせずに使用した。
【0102】
CQDの合成方法
【0103】
CdSe・CQD合成
【0104】
CdSe・CQDは、以下の例示的かつ非限定的な方法を用いて合成した。24gのTOPO及び2.24gのODPA及び480mgのCdOを100mL容量の3つ口フラスコ中で混合し、試薬及び溶媒を真空下で1時間150℃まで加熱した後、温度を320℃に上昇させ、この温度で窒素雰囲気下で約1時間保持した。4mLのTOPを混合物に注入し、温度をさらに380℃にした。TOP溶液(60mg/mL)中の2mLのSeを注入し、約3分の成長の結果として、590nmで励起子ピークを示すCQDを合成した。成長後、反応フラスコを加熱マントルから取り出して約70℃まで自然冷却し、アセトンの添加及び遠心分離(6000rpm、3分間)によりCQDを回収した。シェルを成長させるために、生成したナノ粒子をヘキサン中に再分散させた。
【0105】
オレイン酸カドミウムとTOPSとの合成
【0106】
CdO2.98gをオレイン酸40mLに170℃で真空下で完全に溶解させた後、窒素下でオレイン酸カドミウムを得た。グローブボックス内部でTOP16mLに硫黄粉末960mgを混合し、磁気的に撹拌することによってTOPSを調製した。
【0107】
ファセット選択的エピタキシー(FSE)
【0108】
第1の非対称シェル成長
【0109】
シェル210は、以下の例示的及び非限定的な方法を使用して成長させることができる。つまり、1mmの光路長のキュベットでピーク励起子(590nm)における吸光度を測定することにより、CdSe・CQDを定量した。励起子ピークで1の光学密度を有するヘキサン分散液中のCdSe5.8mLを、500mLのフラスコ中のODE42mLとOLA6mLの混合物に添加し、100℃で真空中でポンプ輸送してヘキサンを蒸発させ、その後、溶液を300℃に加熱し、0.5時間保持した。調製したままのオレイン酸カドミウム9mLをODE15mLで希釈し、TOPS3mLを硫黄前駆体としてODE21mLで希釈した。オレイン酸カドミウム溶液及びTOPS溶液を6mL/時の速度で同時にかつ連続的に注入した。
【0110】
第2の均一なシェル成長
【0111】
シェル225は、以下の例示的かつ非限定的な方法を使用して成長させることができる。ODE20mLで希釈したオレイン酸カドミウム4mL及びODE23.6mLで希釈したオクタンチオール427μLを、連続的に12mL/時の速度で注入して、第2のシェルを成長させた。注入の前に反応温度を310℃に上昇させた。ODE溶液中にオレイン酸カドミウムを13mL注入した後、CQDの分散性を改善するために、溶液中にオレイルアミン5mLを注入した。
【0112】
図10に非対称CQD1、2、3と示されているCQD試料
【0113】
試料の非対称CQD3は、上記のように非対称シェルのみを成長させて合成したが、第2の均一なシェルは成長しなかった。試料非対称CQD2は、反応溶媒(ODE42mL及びOLA6mL)の代わりにODE24mL及びOLA24mLを用いた以外は、試料非対称CQD3と同様のプロトコルで合成した。試料非対称CQD1は、非対称CQD2シェル成長を2回繰り返すことによって合成した。
【0114】
静水圧歪みCQDの合成
【0115】
対称CQDは、以下の方法を用いて合成した。励起子ピーク590nmで1の光学密度を有するCdSeコア分散液8.8mLを、500mLのフラスコ内のODE24mLとOLA24mLの混合物に添加し、真空下で100℃でポンプ輸送してヘキサンを蒸発させた後、溶液を310℃に加熱し、0.5時間保持した。調製したままのオレイン酸カドミウム6mLをODE18mLで希釈し、オクタンチオール640μLをODE23.36mLで硫黄前駆体として希釈した。オレイン酸カドミウム溶液及びオクタンチオール溶液を、同時に12mL/時の速度で連続的に注入した。注入後、OA4mLを注入し、溶液をさらに310℃で10分間アニールした。
【0116】
コア-シェル型CQDの精製
【0117】
注入が完了したら、最終反応混合物を約50℃に自然冷却して、50mLのプラスチック遠心管に移し、逆溶剤を添加せず、6000rpmの速度で3分間の遠心分離を行った後に沈殿物を集めた。遠心管にヘキサン20mLを加えてCQDを分散させ、CQDが凝集し始めるまでアセトンを滴下した。6000rpmの速度で3分間遠心分離することによって沈殿物を再び回収し、この分散沈殿プロセスを3回繰り返して、より小さなCdS・CQDのすべて又は実質的にすべてを除去した。この精製プロセスにより、非対称シェル成長が可能となるが、これはTOPS表面とCdSe・CQD表面との間の結合エネルギーが弱いために、合成後に有意な量の自己核生成CdS・CQDが存在するためである(データ表1を参照)。最終CQDをオクタン中に再分散させ、光路長1mmにおける第1の励起子ピーク吸光度を0.25に固定した。
【0118】
塩化物配位子交換
【0119】
上記CQD分散液500μLを真空乾燥させた後にトルエン溶液1mL中に分散させ、TBP1.25mL、続いてトルエン溶液中のSOCl21mL(SOCl220μL:トルエン1mLの容量比)をグローブボックス内部でトルエン分散液中のCQDに添加した。直ちにCQDが沈殿し、得られた分散液をグローブボックスから取り出し、続いて1分間超音波処理した。交換後、無水ヘキサンを添加してCQDを完全に沈殿させた後、6000rpmで遠心分離した。無水アセトンを添加してCQDを分散させ、且つヘキサンを添加してCQD分散液を沈殿させるのを3サイクル行って、CQDを精製した。最後に、レーザデバイス製造のために、塩化物配位子終端CQDを無水アセトニトリル750μL中に分散させた。
【0120】
キャラクタリゼーション方法
【0121】
アンサンブル吸光度、PL単一励起子減衰測定
【0122】
ヘキサン分散液中のCQDを1mm光路長の石英キュベットに収集し、400nm~800nmの励起範囲にわたってPerkinElmer Lambda 950 UV/Vis/NIR分光光度計で測定した。希釈溶液試料のPLスペクトル及び減衰データを、iHR320モノクロメーター及びPPO・900検出器を備えたHoriba Flurolog TCSPCシステムで収集した。積分球をフィルム及び溶液のPLQY測定に使用した。
【0123】
単一ドットPL測定
【0124】
ヘキサン中のCQDの希釈溶液を石英基板上にドロップキャストした。単粒子PL測定は、カスタムビルドの共焦点顕微鏡を用いて行った。試料の励起は、低励起パワー(約5W/cm2)で400nm、76MHzのパルスレーザにより行った。個々のQDからのPL発光は、検出のためにHamamatsuの背面照射型冷却CCDアレイを備えたOcean Optics QE分光計(600l/mm)の入射スリット上に投影された対物レンズ(Olympus、1.2NA)を介して収集された。積分スペクトルの時系列は、50msの積分時間で室温で得られた。
【0125】
過渡吸収測定
【0126】
1030nmの基本波(5kHz)は、Yb:KGW再生増幅器(Pharos、Light Conversion)によって生成された。このビームの一部を光パラメトリック増幅器(Orpheus、Light Conversion)に送り、2.18eVの光励起パルス(パルス持続時間、約250fs)を生成した。光励起と基本波の両方を光学ベンチ(Helios、Ultrafast)に送った。遅延ステージを通過した後の基本波をサファイア結晶に集束させて、プローブを白色光の連続体として生成した。光励起パルスの周波数は、チョッパーを用いて2.5kHzに低減された。その後、両方のビームを、1mmのキュベットに収容した試料上に集束させた。次に、CCD(Helios、Ultrafast)によってプローブを検出した。測定中に試料を1mm/秒で平行移動させた。
【0127】
吸収断面積測定
【0128】
CQDをヘキサン中に分散させて、以下の方法を用いて吸収断面積を測定した。
【0129】
既知の吸光度を有するCQD分散液400μLを硝酸で消化し、水溶液10mLに希釈した。誘導結合プラズマ発光分光法(ICP-OES)(Optima 7300 ICP AES)を適用して、Cd原子の総量(N
total)を決定し、CQDの体積から単一ドットCd原子数(N
single)を推定した(これは、TEM画像から判断した(
図8及び
図13を参照))。静水圧歪みドットは、底半径15±1nm、高さ15.2±1nmの円錐形状と想定された。2軸歪みドットは、平均横方向寸法12±1nm、高さ10nmの六角柱と考えられた。907±180nm
3及び935±157nm
3の総体積がそれぞれ得られた。2種類のCQDの吸収断面積については、
図9c~
図9dを参照。
【0130】
HRTEM及びSTEM-EDSマッピング
【0131】
HRTEM及びSTEM-EDS試料は、レース状カーボン支持フィルム(Ted Pella 01824)上の極薄カーボンフィルム上にCQDの溶液滴を添加することによって調製し、165℃で高真空下で一晩焼成し、続いて、200kVで動作するTecnai Osiris TEM/STEMを用いて画像化した。ドリフト補正されたSTEM-EDSマップは、Bruker Espritソフトウェアを使用して、1.5nA程度のプローブ電流及び約0.5nmのプローブサイズで取得した。
【0132】
格子間隔マッピング
【0133】
格子間隔マッピングのために、
図2cのHRTEM画像は、MATLABで開発された画像処理アルゴリズムによって解析された。HRTEM画像は、ノイズを低減するために、特注のFFT空間フィルタによって最初にフィルタリングした。次に、MATLAB画像処理ツールボックスの一部として利用可能な粒子検出アルゴリズムを使用して、ピークを特定し、ここから各ピークについて質量重心を抽出した。CdS格子に対する偏差を決定するため、画像全体にわたるピーク間の距離をCdSシェル内のそれぞれの距離と比較した。
【0134】
レーザ発振デバイス製造
【0135】
初めにポリ(メタクリル酸メチル)PMMA(950K A5)の薄い層を基板上に3500RPMで60秒間スピンコーティングし、180℃で60秒間硬化させることにより、二次分布帰還六角形アレイを作製した。PMMAは、レーザ高さアライメント及び電荷散逸のために、熱蒸着したアルミニウムの薄い層(約8nm)で被覆した。Vistec EBPG 5000+電子ビームリソグラフィシステムを使用してPMMAをパターン化して、直径160nm及び隣接する円柱間の間隔430nmを有する円の2D六角形アレイにした。アルミニウム層を、現像剤312を用いて剥がした。PMMAは、メチルイソブチルケトン(MIBK):IPAの1:3混合物を用いて、60秒間現像した。次いで、60nmのMgF2層をデバイス上に熱蒸着させた。リフトオフのために、基板をアセトンに一晩浸漬し、その後、アセトン中に4時間放置した後、30分間撹拌し、アセトンですすいだ。
【0136】
デバイスを酸素プラズマで5分間洗浄した。塩化物交換された2軸歪みCQDを、1000RPMの回転速度で60秒間PC-DFBアレイ上にスピンコーティングし、空気に1日間暴露した。スピンオンガラス(Filmtronics 500F)の保護層を、3000RPMで12秒間スピンコーティングし、N2雰囲気中で100℃で60分間アニールした。
【0137】
SEMとAFMのキャラクタリゼーション
【0138】
試料の形態は、1kVの加速電圧を用いてHitachi SU-8230装置でSEMを用いて調査した。AFM測定は、AC接触モードで動作するAsylum Research Cypher Sを用いて行った。
【0139】
レーザキャラクタリゼーション
【0140】
レーザデバイスは、熱放散をさらに助けるために、熱ペーストでペルチェステージに接着された。ペルチェの前面をセ氏-26℃に冷却し、圧縮空気の流れを用いて霜の蓄積を防止した。得られたデバイスの温度は、光励起がない場合、熱電対を用いて-20±0.2℃と測定された。1つの442nm 3Wレーザダイオードを使用して、光ポンピングを達成した。パルス動作のために、連続波光励起は、音響光学変調器(IntraAction社、立ち上がり時間約300ns)を用いて変調された。連続波光励起の場合、AOMを用いて元のビームを常に変調し、異なる波動ベクトルで第2の連続波を生成した。光励起ビームを試料上に30μm×50μmのスポットサイズに集束させた。発光は、2つのレンズを通して単一モード又は50μmのファイバに集められた。スペクトルは、Ocean Optics USB2000+分光計を用いて測定した。一過性測定は、レーザ発光を2つのレンズを通過させて直径200μmのファイバに集光し、それをモノクロメーター(Photon Technology International、600L/mm、1.25μmブレーズ、1mmスリット幅)に通してフォトルミネッセンスをフィルタリングし、それをSi光検出器(Thorlabs DET 36A、立ち上がり時間=14ns)に供給する。1GHzオシロスコープを用いて光検出器の応答を測定した。高周波ノイズは、高速フーリエ変換(FFT)によって信号から除去された。
【0141】
ASE閾値測定及び可変ストライプ長測定
【0142】
CQDフィルムをガラス基板上に3000~1000RPMの回転速度で60秒間スピンコーティングした。ASEのキャラクタリゼーションの前に、フィルムを空気に1日間暴露した。
【0143】
ns測定のために、波長355nm、周波数100Hzのパルス持続時間1nsのレーザを用いてASEを測定した。焦点距離20cmの円筒レンズを使用して、ビームを2000μm×10μmの寸法のストライプに集束させた。試料をフィルムの表面に垂直に励起させ、発光を試料のエッジからフィルム表面に平行に集めた。発光は、直径50μmのマルチモードファイバに直接集めた。発光スペクトルは、Ocean Optics USB2000+分光計を用いて測定した。モード利得は、可変ストライプ長(VSL)法を用いて測定した。ストライプ幅は10μmであり、長さは100μm~400μmの間で変化した。発光を50μmのファイバに直接集め、ASE発光強度対ストライプ長の関係により、式I(L)=A[egL-1]/gを用いてモード利得を求めた。ここで、IはASE発光強度、Aは自然放出強度に比例する定数、gはモード利得、Lはストライプ長である。
【0144】
fs測定のために、波長355nm、周波数5kHzのパルス持続時間約250fsを用いてASEを測定した。これらのパルスは、再生増幅YB:KGWレーザ(Light Conversion、Pharos)及び光パラメトリック増幅器(Light Conversion、Orpheus)を用いて生成された。レンズを使用してビームを直径約1mmの円形スポットにデフォーカスして、発光を50μmファイバでOcean Optics USB2000+分光計に直接集めた。
【0145】
シミュレーション方法
【0146】
静水圧歪み及び2軸歪み存在下の励起子微細構造
【0147】
QNANO計算パッケージに実装された方法論を使用して、励起子微細構造計算を実施した。量子ドット(QD)の単粒子電子状態は、スピン軌道相互作用を含むVASPソフトウェア及びPBE交換相関汎関数を使用して密度汎関数理論(DFT)法内で計算されたバルクCdSe及びCdSのバンド構造を再現するようにパラメータ化されたタイトバンディング法内で計算される。次に、伝導帯をシフトさせることによってバンドギャップを実験値に補正する。
【0148】
ウルツ鉱型CdSe及びCdSの適合パラメータをデータ表2に示す。陽イオン-陰イオン及び陰イオン-陽イオンのホッピングパラメータのための記号規約は、一般的な規約に従う。
【0149】
歪み依存性は、結合伸縮及び曲げの依存性をタイトバンディングパラメータに追加して、DFTで得られた価電子帯及び伝導帯の変形ポテンシャルに適合させることによって含められる(
図11を参照)。歪み依存パラメータをデータ表3に要約する。
【0150】
ナノ結晶は、バルクウルツ鉱型CdSe及びCdSから、4nmのコア及び10nmの全直径を用いて切り出される。円盤状ナノ結晶の場合、コアは2nmだけ中心からずれるように移動し、次にCdSシェルの1nmがc軸に沿って各辺で削り取られる。次に、データ表3の弾性定数を用いて、原子価力場法によって構造を緩和する(
図12aを参照)。
【0151】
コアのみがナノ結晶である場合と同様に、単粒子バンドエッジ正孔状態は、4つの正孔からなる近縮退マニホールド(各準位のスピン縮退を伴う)から成り、小さなギャップによって残りの状態から分離される(
図12bを参照)。このマニホールドは、静水圧歪みQDでは20meV、2軸歪みQDでは55meVで分裂される。
【0152】
これらの4つの正孔準位のうち、2つはs字状のエンベロープを有し、2つはp字状であり(
図8cを参照)、計算された双極子遷移要素によって確認されるように、それぞれ、2つの名目上明るい遷移と、最低の1S電子状態への2つの暗い遷移とが生じる。
【0153】
励起子微細構造は、4(スピン縮退の場合は×2)電子と8(×2)正孔の基礎を用いて、構成相互作用法を用いて計算される。得られた状態間の光学遷移の強度は、計算された双極子遷移要素に基づいて計算される。
【0154】
異なるファセット上の異なる配位子の結合エネルギー
【0155】
配位子結合エネルギーは、CP2K計算パッケージを用いてDFT内で計算される。MOLOPT基底関数系(低基底関数重なり誤差を有する)及び300RyグリッドカットオフによるGoedecker-Tetter-Hutter擬ポテンシャルを用いた。配位子は、(30A)3単位セル中のCdリッチ1.5nmのCdSeナノ結晶のCdリッチ及びSeリッチ(0001)ファセット上に配置され、残りのダングリングボンドは、カルボキシレート配位子及びアミン配位子で完全に飽和されて電荷中性状態を保証する。脱離エネルギーは、溶媒効果を含まずに、拘束構造及び非プロトン化陰イオン配位子(スピン分極計算内)を用いずに完全に緩和されたものと比較して報告される。
【0156】
分析利得閾値モデル
【0157】
バンドエッジ正孔状態の有効縮退係数は以下のように導入された。
gh=2Σexp(-ΔE/kT)、
ここで、2はスピン縮退を表し、ΔEはバンドエッジからのレベルの距離であり、合計は4つの正孔レベルにわたって行われる。ゼロ分裂の限界では8になり、大きな分裂の場合には2になる。
【0158】
バンドギャップを克服する擬フェルミ準位分裂に関する利得閾値の定義は、バンドエッジ状態占有率ne及びnhに関して概算することができる。
ne+nh=1、
又は
N/ge+N/gh=1、
ここで、ge及びghはそれぞれ、電子及び正孔の有効縮退であり、Nはドット当たりのe-h対の数である。
【0159】
2重スピン縮退バンドエッジ状態の場合、ge、h=2であり、したがってN=1で利得が達成される。
【0160】
8重縮退の正孔状態では、利得閾値は、N=gegh/(ge+gh)=2×8/(2+8)=1.6である。
【0161】
アンサンブルでは、N=1.6は、すべてのドットに励起子をポピュレートすべきであることを意味し、ドットポピュレーション0.6は1つ以上の励起子を含むべきであり、すなわち、ドットポピュレーション0.6は双励起子を含み、残りの0.4は励起子を含む。しかし、現実には、ポアソン分布(
図7aを参照)で示されているように、アンサンブルを均一にポピュレートすることは不可能であり、いくつかのドットは3つ以上の励起子を含むが、いくつかは励起子を全く有さない。
【0162】
吸収ドット(空ドット及び単一励起子を有するドット)に対する発光ドット(双励起子及び多重励起子)の類似の比率が、どのような平均占有率<N>で均質な分布として達成されるかを見ることにより、利得閾値に対するポアソン統計の効果を大まかに見積もることができる。N=1.6の場合、対応する<N>≒2.3
【0163】
数値利得閾値モデル
【0164】
利得閾値をより正確に推定するために、既存の方法論に従って数値利得閾値シミュレーションを実施し、8重縮退及び準位の不均一な広がりを含むように拡張した(
図7を参照)。準位の分裂は、タイトバインディングの結果に従って選択され、実験的なアンサンブルラインの広がりがとられる。得られた励起子は、ボルツマン統計に基づいてポピュレートされる。暗い光学遷移及び明るい光学遷移は、スピン選択則のみに基づいて区別され、すべての明るい光学遷移は、同じ振動子強度を有すると考えられる。ゼロの双励起子結合エネルギーが想定される。
【0165】
所与の平均占有率<N>に対して、モンテカルロシミュレーションから得られたような真のポアソン分布が考慮される(
図7aを参照)。多重励起子は、1S電子状態が完全にブリーチされているため、双励起子と同じ発光スペクトルを有するが吸収はないと想定される。
【0166】
このモデルは、単一電子及び正孔の準位(それぞれ2重スピン縮退)について<N>=1.15の閾値を予測する(
図7cを参照)。8重縮退の正孔について、モデルは、20meVの分裂及び95meVの線幅で<N>=2.7を示し、準位を55meV分裂させると閾値を<N>=2.2に低減した。
【0167】
図7a~
図7dは、数値シミュレーションを示している。
図7aは、異なる平均励起子占有率<N>を有するCQDアンサンブルにおける単一励起子(X)、双励起子(XX)、及び多重励起子のポアソン分布を示している。
図7bは、アンサンブルの<N>=2.5励起子アンサンブルポピュレーションにおける誘導放出(ゼロ線より上の暗領域)と吸収(ゼロ線より下の暗領域)との競合を示している。静水圧歪み量子ドットは(利得閾値に到達せず)、2軸歪み量子ドットは(利得閾値を上回った)。灰色は、ゼロ状態充填時の吸収を示している。ゼロラインより上の暗領域は、ポピュレートされたドットのアンサンブルの吸収を示している。ゼロラインより下の暗領域は、誘導放出を示している。
図7cは、異なる正孔縮退、分裂値、及び線幅に対する吸収ブリーチング及び利得対励起子占有率の数値シミュレーションを示している。
図7dは、CW領域における所与の占有率を維持するのに必要な励起パワーの依存性を示す数値シミュレーションを示している。励起子占有率に関して利得閾値が1.4分の1に低減すると、CWにおいて所要パワーが約2分の1に低減される。
【0168】
【0169】
図9a~
図9dは、完全吸光度スペクトル及び吸収断面積測定値を示している。
図9a~
図9bは、吸光度スペクトルを示している。
図9c~
図9dは、吸収断面積を示している。吸収断面積測定の詳細は、キャラクタリゼーション方法のセクションに示されている。
【0170】
図10a~
図10jは、様々な程度の分裂を有するCQDの吸光度スペクトル、その二次導関数、及びPLスペクトルを示している。
図10a~
図10cは、非対称CQD1~CQD3の試料を示しており、方法の一部の合成の詳細を参照されたい。非対称CQD3の試料は、上述の単一シェル型CQDである。
図10e~
図10jは、第1のシェル成長中の吸光度及びPLスペクトルの発展を示し、その結果の生成物を非対称CQD3と呼ぶ。
図10e~
図10fは、第1の非対称シェル成長の間に、第1の励起子ピークが徐々に広がり、次に、反応時間が増加するにつれて2つのピークに分裂し、62meVの最大分裂に達することを示す。同時に、電子波動関数の非局在化の増加の結果として、バンドエッジ励起子ピークが連続的にレッドシフトする。漸進的な分裂は、二次微分吸光度スペクトルにおいてより明白である。
図10h~
図10iは、シェル成長後のPL線幅が劇的に減少することを示している。バンドエッジ励起子ピークのシフトに伴って、PLピークがレッドシフトする。
【0171】
図11a~
図11hは、バンド構造シミュレーションを示している。
図11aは、VASPを用いて計算され、QNANOで適合したCdSe及びCdSバンド構造の比較を示している。
図11bは、バンドエネルギー対歪みのDFT計算による依存性を示している。タイトバインディングは、挙動を正確に再現する。
【0172】
図12a~
図12dは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDにおける模擬励起子微細構造を示している。
図12aは、歪み緩和手順後のコア-シェル構造を示している。
図12a(左)は、4nmのCdSeコアが正確に中心にある4面体形状を示し、静水圧歪みをもたらす。
図12a(右)は、4nmのCdSeが中心から2nmずれた円盤形状を示し、2軸歪みをもたらす。
図12bは、タイトバインディング法で計算された静水圧歪みCdSe-CdSeコア-シェル型量子ドット及び2軸歪みCdSe-CdSeコア-シェル型量子ドットの単粒子状態を示している。
図12cは、2軸歪みCQDの最上部の正孔状態の波動関数を示している。
図12dは、タイトバインディング原子シミュレーションからの励起子微細構造を示している。暗状態及び明状態は、同じhh-e1遷移に由来するが、異なるスピン構成を有する、すなわち、両方とも重い正孔に基づく。暗-明分裂は、厚いシェルのドットでおよそ1meVに留まる電子-正孔交換相互作用に依存し、重い正孔状態と軽い正孔状態との間の分裂による影響を受けない、すなわち、2軸歪みの影響を受けにくい。
【0173】
図13a~
図13dは、温度依存のPL減衰を示している。静水圧歪みCQD(
図13a~
図13b)及び2軸歪みCQD(
図13c~
図13d)は、非常に類似した温度依存性を示す。暗状態-明状態の分裂により、シェルのないドットでは低温でPLの減衰がより遅くなる。しかし、厚いシェルのドットは、環境中の酸素分子が存在しない場合のドットの有効な負帯電のために、正反対の傾向にある。トリオンの最も低い励起状態は明るく、低温でのPL減衰がより速くなる。温度依存PL寿命測定値は、上記の傾向を示し、静水圧歪みドットと2軸歪みドットとの間に差異を示さない。挿入図は、2つのタイプのCQDのTEM画像を示している。
【0174】
図14a~
図14dは、単一ドットPL線幅データを示している。
図14a~
図14bは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDの典型的な単一ドットスペクトルを示し、FWHMはそれぞれ60meV及び32meVである。
図14cは、24個の静水圧歪みCQDが平均PL線幅63meV及びピーク位置1.96eVを示し、標準偏差がそれぞれ11.8%及び0.67%であることを示している。
図14dは、20個の2軸歪み単一ドットが平均PL線幅36meV及びピーク位置1.95eVを示し、標準偏差がそれぞれ7.2%及び0.5%であることを示している。
【0175】
図15a~
図15dは、光学利得閾値測定値を示している。
図15a及び
図15cは、静水圧歪みCQDのΔA及びΔA+A
0を示し、
図15b及び
図15dは、2軸歪みCQDのΔA及びΔA+A
0を示している。溶液の光学濃度を1mm光路長で0.2に注意深く調整して、それらが同じ数の光子を吸収するようにした。可能なシェル容積差を切り離すためにのみコア吸収を励起するのに、光励起エネルギーを2.18eV(570nm)として選択した。パルス励起後の瞬間全吸収は27psで集められ、これは基底状態の吸収とブリーチングの合計を提供する。一定のパワーでは、吸収が負に変わり、光学的利得の証拠が得られる。段階的な状態充填のために、最大正味利得ピークは高エネルギーに連続的にシフトする。
【0176】
図16a~
図16dは、静水圧歪みCQDフィルム試料及び2軸歪みCQDフィルム試料のSEM断面及びAFM画像を示している。
図16aは、165nmの厚さを示す静水圧歪みCQDフィルムの断面SEMを示している。
図16bは、静水圧歪みCQDのAFM画像及び高さトレースを示している。
図16cは、145nmのフィルム厚さを示す
2軸歪みCQDフィルムの断面SEMを示している。
図16dは、2軸歪みCQDのAFM画像及び高さトレースを示している。
【0177】
図17a~
図17fは、1nsと250fsの3.49eV(355nm)光励起を有するCQDフィルムのASE閾値及びモード利得測定値を示している。
図17a~
図17bは、光励起パワーが増加し、PLバックグラウンドの上方に上昇するASEピークを示す、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDのスペクトルをそれぞれ示している。
図17cは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDの両方について、光励起ピークパワー密度とパルスエネルギーとの関数としての発光を示している。1nsのパルス持続時間を有する2mm×10μmのストライプを使用した。ASEの閾値は、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDの場合、それぞれ36μJ/cm
2及び26μJ/cm
2である。
図17dは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQD両方の可変ストライプ長測定値を示している。測定は、2mm×10μmのストライプを用いて得られた閾値の4倍の光励起エネルギーを用いて行った。利得値は、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDでは、それぞれ200cm
-1及び150cm
-1である。2軸歪みCQDから得られたより低い利得値は、より少ない放出状態が光学利得に関与しているという事実によって説明することができる。
図17c~
図17dは、250fsの3.49eV(355nm)の光励起を有するCQDフィルムのASE閾値測定を示している。1nsのASE閾値を測定するのに使用された静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDフィルムから、22μJ/cm
2及び14μJ/cm
2の閾値を決定した。
【0178】
図18a~
図18eは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDのそれぞれの単一励起子及び多重励起子の寿命を示している。
図18aは、同様の総シェル体積のために、2つのタイプのコア-シェル型CQDの両方が同様の単一励起子寿命であることを示している。
図18bは、コアのみの光励起(2.18eV、570nm、507μJ/cm
2)を有する多重励起子減衰が双指数関数的減衰として適合することができることを示しており、高速減衰領域において、静水圧歪みコア-シェル型CQDの寿命は2軸歪みCQDの寿命よりわずかに長いが、より遅い減衰領域では逆になることを示している。
図18c~
図18dは、異なる光励起強度下での多重励起子減衰を示している。ブリーチングは、静水圧歪みCQD及び2軸歪みCQDの時間トレースが光励起パワーに明確に依存していることを示し、オージェ再結合が主要な減衰経路であることを裏付けている。
【0179】
図19a~
図19bは、CWレーザ発振のためのPC-DFB基板及びCl
-交換CQDを示している。
図19aは、単結晶MgF
2基板の上のMgF
2ピラーを示したPC-DFBデバイスのAFM画像を示している。y軸は、基板表面に対するピラーの高さを0nmにするようにシフトされている。暗い線は、基板につきもののスクラッチである。挿入図は、回折格子における約60nmのピラーの高さトレースを示している。
図19bは、Cl
-交換前後の2軸歪みCQDの多重励起子寿命を示している。Cl
-交換前後の多重励起子減衰は、同じ光励起条件(2.18eV、570nm、427μJ/cm
2)下では非常に類似している。
【0180】
図20a~
図20gは、6.4kW/cm
2の閾値を有する別のCW・PC-DFB・CQDレーザを示している。
図20aは、CWレーザで442nmで光学的に光励起されたときの出力の関数としての正規化発光を示している。
図20bは、可変ポンプパワーにおけるスペクトルを示している。
図20cは、正規化発光をピークパワーと時間の関数として示している。分光計の取得に遅延を適用することにより、パルスの最後の10マイクロ秒のスペクトルが測定され、閾値を上回ったときのレーザ発振ピークを示した。
図20cは、50%のデューティサイクルを構成するパルス50ms及び繰り返し率10Hzに対して閾値を上回るパワー及び閾値を下回るパワーにおける発光スペクトルを示している。
図20dは、75%のデューティサイクルを構成するパルス75ms及び繰り返し率10Hzに対して閾値を上回るパワー及び閾値を下回るパワーにおける発光スペクトルを示している。
図20fは、ACカップリングによるフォトダイオード信号におけるAOMドライバによって誘導される電気的干渉を伴うHeNeレーザ(633nm)信号を示している(測定されたHeNeレーザ信号は安定した出力を有する連続波である)。
図20gは、電気的干渉を示す入力放射のないフォトダイオードの電気信号を示している。これらのトレース及びレーザ発振の実験の両方における振動(102Hz)は一貫しており、強度の変化ではなく電気的干渉によって引き起こされる。
【表1】
データ表1|異なるCdSeファセット上のDFT配位子結合エネルギー
【表2】
データ表2|陰イオン-陽イオンタイトバインディングパラメータ
【表3】
データ表3|弾性定数及びタイトバインディング歪みパラメータ
【表4】
データ表4|ナノプレートレット及びCQDからの最低定常状態ASE又はレーザ発振閾値
【0181】
上述の実施形態は例示的なものであり、添付の特許請求の範囲によってのみ定義される本発明の範囲から逸脱することなく、当業者が変更及び修正を行ってもよい。