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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】液晶ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20220302BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20220302BHJP
   C08G 63/02 20060101ALI20220302BHJP
   C08J 5/08 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
C08L67/00
C08K9/04
C08G63/02
C08J5/08 CFD
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017202083
(22)【出願日】2017-10-18
(65)【公開番号】P2019073657
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-08-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】土谷 仁志
(72)【発明者】
【氏名】内田 博人
(72)【発明者】
【氏名】木原 正博
(72)【発明者】
【氏名】深澤 正寛
(72)【発明者】
【氏名】大杉 健太
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-119639(JP,A)
【文献】特開2011-021178(JP,A)
【文献】特開2009-108190(JP,A)
【文献】再公表特許第01/081469(JP,A1)
【文献】特開2008-144056(JP,A)
【文献】特開2004-256656(JP,A)
【文献】特開平06-240115(JP,A)
【文献】国際公開第2008/081878(WO,A1)
【文献】特開2018-095677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08G63/00- 64/42
C08J 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)~(III)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、qおよびrは、それぞれ、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
35≦p≦90、
5≦q≦30、および
5≦r≦30]
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(A)と、
式(IV)および式(V)
【化2】
[式中、
sおよびtはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦s/t≦60/40、および
90≦s+t≦100
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)と、
エポキシ樹脂を表面に有する表面処理ガラス繊維(C)と
を含有し、充填材として、該表面処理ガラス繊維(C)の他に、任意に、
ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイトから選択される繊維状充填材;
タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム、水和アルミナ、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土、二硫化モリブデン、板状ウォラストナイトからなる群から選択される板状充填材;および
炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンからなる群から選択される粒状充填材
からなる群から選択される充填材のみを含む液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
液晶ポリエステル(A)の結晶融解温度は310~360℃であり、
液晶ポリエステル(B)の結晶融解温度は250~300℃であり、
(A)と(B)の質量比[A/B]が90/10~45/55であり、
(A)と(B)の合計量100質量部に対して、(C)の含有量が10~130質量部であり、
短冊状の成形品(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ0.5mm)を用いた曲げ試験において、曲げ強度が330MPa以上、曲げ弾性率が20GPa以上である、液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項2】
短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)を用いたASTM D648荷重1.82MPa)に準拠する荷重たわみ温度が240℃以上である、請求項1に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
【請求項4】
FPCまたはFFC用コネクタのアクチュエータ部品またはそのハウジング部品である、請求項3に記載の成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高剛性かつ高強度である液晶ポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ポリエステルは、流動性が良好であり、また、バリが出にくいという特徴を有し、耐熱性、剛性等の機械物性、耐薬品性、寸法精度等にも優れるため、複雑な形状を有する電気・電子部品において、その使用量が増大している。なかでも、電気・電子機器の高性能化に伴う実装化(耐リフロー性)、高密度化・小型化(流動性、低バリ)の要請により、コネクタについて特に多く用いられている。
【0003】
コネクタは、近年さらに低背化・細小化しており、これを構成する樹脂材料に求められる性能も一層高くなっており、例えば、プリント基板と、フレキシブルプリントサーキット(FPC)またはフレキシブルフラットケーブル(FFC)とを接続するために使用されるFPCまたはFFC用コネクタなどにおいてその傾向は顕著である。
【0004】
FPCまたはFFC用コネクタは、ともに横幅が広いハウジング部品とアクチュエータ部品とから構成される。アクチュエータ部品は、ロック位置とアンロック位置との間を回転操作自在にハウジングに支持され、ロック位置で挿入開口に挿入したFPCまたはFFCに対して接触圧力を与えて固定される。
【0005】
この際、アクチュエータ部品の一方の端部のみに圧力を加えて固定することが望まれているが、樹脂材料の剛性が不足すると、アクチュエータ部品が破損したり、FPCまたはFFCの固定が不十分となるという問題があった。そのため、アクチュエータ部品を高剛性の樹脂材料で構成することが求められていた。
【0006】
高剛性の液晶ポリエステル樹脂組成物として、液晶ポリエステルにシリカ微粒子を配合してなる樹脂組成物(特許文献1)やマイカおよび特定の炭素繊維を配合してなる樹脂組成物(特許文献2)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの樹脂組成物は剛性の改善効果が十分でなく、また、流動性や機械強度に劣るという問題があった。
【0008】
一般に液晶ポリエステル樹脂組成物において、剛性と強度は相反する傾向があり両者をバランスよく両立させることは困難であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2007-138143号公報
【文献】特開2011-094116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高剛性と高強度とのバランスに優れた液晶ポリエステル樹脂組成物、および液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題に鑑み、液晶ポリエステル樹脂の剛性および強度について鋭意検討した結果、特定の繰り返し単位からなる2種の液晶ポリエステルをブレンドし、特定のガラス繊維を配合することにより、曲げ弾性率および曲げ強度が向上した液晶ポリエステル樹脂組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕式(I)~(III)
【化1】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、qおよびrは、それぞれ、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
35≦p≦90、
5≦q≦30、および
5≦r≦30。]
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(A)と、
式(IV)および式(V)
【化2】
[式中、
sおよびtはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦s/t≦60/40。]
で表される繰返し単位を含む液晶ポリエステル(B)と、
エポキシ樹脂を表面に有する表面処理ガラス繊維(C)と
を含有する液晶ポリエステル樹脂組成物であって、
(A)と(B)の質量比[A/B]が90/10~45/55であり、
(A)と(B)の合計量100質量部に対して、(C)の含有量が10~130質量部であり、
短冊状の成形品(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ0.5mm)を用いた曲げ試験において、曲げ強度が330MPa以上、曲げ弾性率が20GPa以上である液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔2〕荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)が240℃以上である、〔1〕に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の液晶ポリエステル樹脂組成物から構成される成形品。
〔4〕FPCまたはFFC用コネクタのアクチュエータ部品またはそのハウジング部品である、〔3〕に記載の成形品。
【発明の効果】
【0013】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、曲げ弾性率および曲げ強度に優れるため、各種通信機器、電子デバイス等の筐体やパッケージなど、例えば、FPCまたはFFC用コネクタのアクチュエータ部品などといった電気電子部品の用途に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アクチュエータ部品固定確認試験に使用した試験片であって、アクチュエータ部品がアンロック位置にあることを示す概略図である。
図2】アクチュエータ部品固定確認試験に使用した試験片であって、アクチュエータ部品がロック位置にあることを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物に使用する液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、当業者にサーモトロピック液晶ポリエステルと呼ばれる異方性溶融相を形成する液晶ポリエステルである。
【0016】
液晶ポリエステルの異方性溶融相の性質は、直交偏向子を利用した通常の偏向検査法、すなわち、ホットステージに載せた試料を窒素雰囲気下で観察することにより確認できる。
【0017】
以下、液晶ポリエステル(A)について説明する。
【0018】
本発明に使用する液晶ポリエステル(A)としては、式(I)~(III)で表される繰返し単位を含むものが使用される。
【化3】
[式中、
ArおよびArは、それぞれ1種または2種以上の2価の芳香族基を表し、p、qおよびrは、それぞれ、液晶ポリエステル(A)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
35≦p≦90、
5≦q≦30、および
5≦r≦30。]
【0019】
式(I)に係る組成比pは、40~85モル%が好ましく、45~80モル%がより好ましく、50~65モル%がさらに好ましい。
【0020】
式(II)に係る組成比qと、式(III)に係る組成比rは、それぞれ、7.5~30モル%が好ましく、10~27.5モル%がより好ましく、17.5~25モル%がさらに好ましい。qとrは、等モル量であるのが好ましい。
【0021】
上記の繰返し単位において、例えばAr(またはAr)が2種以上の2価の芳香族基を表すとは、式(II)(または(III))で表される繰返し単位が液晶ポリエステル中に2価の芳香族基の種類に応じて2種以上含まれることを意味する。この場合、式(II)に係る組成比q(または式(III)に係る組成比r)は、2種以上の繰返し単位を合計した組成比を表す。
【0022】
式(I)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0023】
式(II)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジオールであるハイドロキノン、レゾルシン、2,6-ジヒドロキシナフタレン、2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,6-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、3,3’-ジヒドロキシビフェニル、3,4’-ジヒドロキシビフェニル、4,4’-ジヒドロキシビフェニルエーテルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0024】
式(III)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、例えば、芳香族ジカルボン酸であるテレフタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジカルボキシビフェニルなど、およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのエステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0025】
なかでも、液晶ポリエステル(A)として、式(II)および式(III)で表される繰返し単位に係るArおよびArが、互いに独立して、式(1)~(4)で表される芳香族基からなる群から選択される1種または2種以上を含むものが好ましく使用される。
【化4】
【0026】
このなかでも、式(II)で表される繰返し単位としては、式(1)および式(3)で表される芳香族基が、重合時の反応性および得られる液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。これら繰返し単位を与える単量体としては、4,4’-ジヒドロキシビフェニルおよびハイドロキノン、ならびにこれのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0027】
また、式(III)で表される繰返し単位としては、式(1)で表される芳香族基が、得られる液晶ポリエステル(A)の機械物性、耐熱性、結晶融解温度および成形加工性を適度なレベルに調整しやすいことからより好ましい。これら繰返し単位を与える単量体としては、テレフタル酸ならびにこのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0028】
さらに、液晶ポリエステル(A)として、式(II)で表される繰返し単位に式(1)および式(3)に係る繰返し単位の少なくとも2種が含まれ、式(1)に係る繰返し単位が、式(III)で表される繰返し単位100モル%中、好ましくは80~99.9モル%、より好ましくは85~99モル%、さらに好ましくは90~98モル%含まれるものが特に好ましく使用される。
【0029】
本発明の液晶ポリエステル(A)において繰返し単位の組成比の合計[p+q+r]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含んでもよい。
【0030】
他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族ヒドロキシジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0031】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0032】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0033】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)の結晶融解温度は、特に限定されないが、310~360℃が好ましい。
【0034】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「結晶融解温度」とは、示差走査熱量計(Differential Scanning Calorimeter、以下DSCと略す)によって、昇温速度20℃/分で測定した際の結晶融解ピーク温度から求めたものである。より具体的には、液晶ポリエステルの試料を、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持し、次いで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却した後に、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステルの結晶融解温度とする。測定用機器としては、例えば、セイコーインスツルメンツ(株)Exstar6000などを使用することができる。
【0035】
本発明に使用される液晶ポリエステル(A)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s-1の条件下、結晶融解温度+30℃で測定した溶融粘度が、1~1000Pa・sであるものが好ましく、5~300Pa・sであるものがより好ましい。
【0036】
次に、液晶ポリエステル(B)について説明する。
本発明に使用する液晶ポリエステル(B)としては、式(IV)および式(V)
【化5】
[式中、
sおよびtはそれぞれ、液晶ポリエステル(B)中での各繰返し単位の組成比(モル%)であり、以下の条件を満たす;
80/20≦s/t≦60/40]
で表される繰返し単位を含むものが使用される。
【0037】
液晶ポリエステル(B)において、式(IV)で表される繰返し単位および式(V)で表される繰返し単位のモル比率[s/t]は、80/20~60/40であり、好ましくは75/25~70/30である。
【0038】
液晶ポリエステル(B)に係る式(IV)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、4-ヒドロキシ安息香酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0039】
液晶ポリエステル(B)に係る式(V)で表される繰返し単位を与える単量体の具体例としては、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、ならびにこのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0040】
液晶ポリエステル(B)において繰返し単位の組成比の合計[s+t]が100モル%であることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲において、他の繰返し単位をさらに含有してもよい。
【0041】
液晶ポリエステル(B)を構成する他の繰返し単位を与える単量体としては、他の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ジカルボン酸あるいは芳香族ヒドロキシジカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオール、芳香族メルカプトフェノールおよびこれらの組合せなどが挙げられる。
【0042】
他の芳香族ヒドロキシカルボン酸の具体例としては、例えば、3-ヒドロキシ安息香酸、2-ヒドロキシ安息香酸、5-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、4’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、3’-ヒドロキシフェニル-4-安息香酸、4’-ヒドロキシフェニル-3-安息香酸およびそれらのアルキル、アルコキシまたはハロゲン置換体、ならびにこれらのアシル化物、エステル誘導体、酸ハロゲン化物などのエステル形成性誘導体が挙げられる。
【0043】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジオールの具体例は、式(II)の繰返し単位を与える単量体として述べたものと同様である。
【0044】
他の繰返し単位を与える単量体である芳香族ジカルボン酸の具体例は、式(III)の繰返し単位を与える単量体として述べたものと同様である。
【0045】
これらの他の単量体成分から与えられる繰返し単位の組成比の合計は、繰返し単位全体において、10モル%以下であるのが好ましい。
【0046】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)の結晶融解温度は、特に限定はされないが、例えば、250~300℃が好ましい。
【0047】
本発明に使用される液晶ポリエステル(B)は、キャピラリーレオメーター(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、0.7mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000s-1の条件下、結晶融解温度+40℃で測定した溶融粘度が、1~1000Pa・sであるものが好ましく、5~300Pa・sであるものがより好ましい。
【0048】
以下、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法について説明する。
【0049】
本発明に用いる液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の製造方法に特に制限はなく、前記の単量体の組み合わせからなるエステル結合などを形成させる公知の重縮合方法、例えば溶融アシドリシス法、スラリー重合法などを使用することができる。
【0050】
溶融アシドリシス法とは、本発明において用いる液晶ポリエステルを製造するのに適した方法であり、この方法は、最初に単量体を加熱して反応物質の溶融液を形成し、反応を継続することにより溶融ポリエステルを得るものである。なお、縮合の最終段階で副生する揮発物(例えば酢酸、水など)の除去を容易にするために真空を適用してもよい。
【0051】
スラリー重合法とは、熱交換流体の存在下で反応させる方法であって、固体生成物は熱交換媒質中に懸濁した状態で得られる。
【0052】
溶融アシドリシス法およびスラリー重合法のいずれの場合においても、液晶ポリエステルを製造する際に使用する重合性単量体成分は、常温において、ヒドロキシル基をアシル化した変性形態、すなわち低級アシル化物として反応に供することもできる。低級アシル基は炭素原子数2~5のものが好ましく、炭素原子数2または3のものがより好ましい。特に好ましくは前記単量体成分のアセチル化物を反応に用いる方法が挙げられる。
【0053】
単量体の低級アシル化物は、別途アシル化して予め合成したものを用いてもよいし、液晶ポリエステルの製造時にモノマーに無水酢酸などのアシル化剤を加えて反応系内で生成せしめることもできる。
【0054】
溶融アシドリシス法またはスラリー重合法のいずれの場合においても反応時、必要に応じて触媒を用いてもよい。
【0055】
触媒の具体例としては、例えば、有機スズ化合物(ジブチルスズオキシドなどのジアルキルスズオキシド、ジアリールスズオキシドなど)、有機チタン化合物(二酸化チタン、三酸化アンチモン、アルコキシチタンシリケート、チタンアルコキシドなど)、カルボン酸のアルカリおよびアルカリ土類金属塩(酢酸カリウム、酢酸ナトリウムなど)、ルイス酸(BFなど)、ハロゲン化水素などの気体状酸触媒(HClなど)などが挙げられる。
【0056】
触媒の使用量は、モノマー質量に対し10~1000ppmが好ましく、20~200ppmがより好ましい。
【0057】
このような重縮合反応によって得られた液晶ポリエステルは、溶融状態で重合反応槽より抜き出された後に、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工され、成形加工や溶融混練に供される。
【0058】
ペレット状、フレーク状、または粉末状の液晶ポリエステルは、分子量を高めて耐熱性を向上させる目的で、減圧下、真空下または不活性ガスである窒素やヘリウムなどの雰囲気下において、実質的に固相状態で熱処理を行ってもよい。
【0059】
このようにして得られた、ペレット状、フレーク状、または粉末状に加工された液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)は、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて、溶融混練され本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0060】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の質量比[A/B]は、90/10~45/55であり、好ましくは85/15~75/25である。
【0061】
[A/B]が90/10を超えると、液晶ポリエステル樹脂組成物の強度が十分に改善されず、[A/B]が45/55未満であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の耐熱性が低くなるだけでなく十分な曲げ弾性率が得られなくなる。
【0062】
液晶ポリエステル(A)と液晶ポリエステル(B)の質量比は、予め溶融混練などによる溶融ブレンド樹脂とする際に調整されてもよく、(A)および(B)が個別または同時にガラス繊維(C)と配合されて液晶ポリエステル樹脂組成物とする際に調整されてもよい。
【0063】
本発明に使用するエポキシ樹脂を表面に有する表面処理ガラス繊維(C)は、エポキシ樹脂で被覆および集束処理がされたものである。被覆および集束用樹脂材料としては、他にウレタン樹脂、エポキシウレタン樹脂などがあるが、液晶ポリエステルに対して濡れ性に優れることにより高剛性および高強度が得られる点からエポキシ樹脂で処理されたものが使用される。また、ガラス繊維の表面と被覆および集束用樹脂材料との接着性を向上させるために、ガラス繊維はシラン系カップリング剤等で表面が処理されていてもよい。
【0064】
本発明に使用するガラス繊維(C)の樹脂組成物中における数平均繊維長は、好ましくは100~600μm、より好ましくは150~450μmである。数平均繊維長が100μm未満であると剛性および強度が劣る傾向があり、600μmを超えると流動性が低下する傾向がある。ガラス繊維(C)は、通常、液晶ポリエステル等との配合の際に折れたり砕けたりすること等により上記液晶ポリエステル樹脂組成物中における数平均繊維長となる。本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物を製造する場合、上記液晶ポリエステル樹脂組成物中における数平均繊維長より長い数平均繊維長を有するガラス繊維、例えば1~10mmの数平均繊維長を有するガラス繊維を用いることができる。
【0065】
本発明に使用するガラス繊維(C)の数平均繊維径は、5~15μmであり、好ましくは6~12μmである。数平均繊維径が5μm未満であると、剛性および強度が劣る傾向がある。
【0066】
なお、ガラス繊維の数平均繊維径および数平均繊維長は、マイクロスコープで観察することにより測定できる。まず、液晶ポリエステル樹脂組成物1.0gをるつぼに採取し、電気炉内にて500℃で5時間処理して灰化させ、その残渣をメタノールに分散させてスライドガラス上に展開して試料とする。次に、マイクロスコープ視野におけるガラス繊維の投影像において、長手方向の長さを繊維長、長手方向に直交する方向の長さを繊維径として読み取り、算術平均値を算出することにより求める。平均値の母数は200以上とする。
【0067】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物におけるガラス繊維(C)の含有量は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)の合計量100質量部に対して、10~130質量部であり、好ましくは20~100質量部であり、より好ましくは30~60質量部である。
【0068】
ガラス繊維(C)の含有量が10質量部未満であると、液晶ポリエステル樹脂組成物の剛性および強度が得られにくく、ガラス繊維(C)の含有量が130質量部を超えると、成形加工性が低下したり成形機のシリンダーや金型の磨耗が大きくなる。
【0069】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上述のガラス繊維(C)以外に、例えば、他の繊維状、板状、粒状の無機充填材または有機充填剤を含有することができる。好ましくは、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、充填材としてガラス繊維(C)のみを含む。
【0070】
他の繊維状充填材としては、例えば、ミルドガラス、シリカアルミナ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズイミダゾール繊維、チタン酸カリウムウイスカ、ホウ酸アルミニウムウイスカ、ウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0071】
他の板状充填材としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、クレー、バーミキュライト、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、長石粉、酸性白土、ロウ石クレー、セリサイト、シリマナイト、ベントナイト、ガラスフレーク、スレート粉、シラン等の珪酸塩、炭酸カルシウム、胡粉、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト等の炭酸塩、バライト粉、沈降性硫酸カルシウム、焼石膏、硫酸バリウム等の硫酸塩、水和アルミナ等の水酸化物、アルミナ、酸化アンチモン、マグネシア、酸化チタン、亜鉛華、シリカ、珪砂、石英、ホワイトカーボン、珪藻土等の酸化物、二硫化モリブデン等の硫化物、板状のウォラストナイトなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0072】
他の粒状の充填材としては、例えば、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、硫酸バリウム、酸化チタンなどが挙げられ、これらを単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0073】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、他の添加剤を含有することができる。
【0074】
他の添加剤としては、例えば、滑剤である高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸金属塩(ここで高級脂肪酸とは、例えば炭素原子数10~25のものをいう)など、離型改良剤であるポリシロキサン、フッ素樹脂など、着色剤である染料、顔料、カーボンブラックなど、難燃剤、帯電防止剤、界面活性剤、酸化防止剤であるリン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤など、耐候剤、熱安定剤、中和剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独で使用してもよく、または2種以上を併用してもよい。
【0075】
これらの他の添加剤の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。これら他の添加剤の含有量が10質量部を超えると、成形加工性が低下したり熱安定性が悪くなる傾向がある。
【0076】
高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものについては、液晶ポリエステル樹脂組成物を成形するに際して、予め、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットの表面に付着させてもよい。
【0077】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、さらに、他の樹脂成分を含有させてもよい。他の樹脂成分としては、例えば、熱可塑性樹脂であるポリアミド、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミドなどや、熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などが挙げられる。
【0078】
他の樹脂成分は、単独でまたは2種以上を併せて含有することができる。他の樹脂成分の含有量は特に限定的ではなく、液晶ポリエステル樹脂組成物の用途や目的に応じて適宜定めればよい。典型的には、液晶ポリエステル100質量部に対する他の樹脂の合計含有量が好ましくは0.1~100質量部、特に0.1~80質量部となる範囲で添加される。
【0079】
液晶ポリエステル(A)、液晶ポリエステル(B)およびガラス繊維(C)と、所望により他の無機充填材および/または有機充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などを所定の組成で配合し、バンバリーミキサー、ニーダー、一軸もしくは二軸押出し機などを用いて溶融混練することによって、液晶ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0080】
これらのガラス繊維(C)、他の充填材、他の添加剤や他の樹脂成分などの配合は、液晶ポリエステル(A)および液晶ポリエステル(B)のいずれか一方または両方に対して行ってよく、あるいは、(A)および(B)からなるブレンド樹脂に対して行ってよい。
【0081】
この様にして得られた、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、射出成形機、押出機などを用いる公知の成形方法によって成形ないし加工される。
【0082】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物の短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mm)を使用した荷重たわみ温度(ASTM D648、荷重1.82MPa)は、好ましくは240℃以上、より好ましくは250℃以上、さらに好ましくは260℃以上で、通常300℃以下ある。
【0083】
また、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、短冊状の試験片(長さ127mm、幅12.7mm、厚さ0.5mm)を用いた曲げ試験において、曲げ強度が330MPa以上、好ましくは335MPa以上、より好ましくは340MPa以上であり、曲げ弾性率が20GPa以上、好ましくは21GPa以上、より好ましくは22GPa以上である。上記曲げ強度の上限値は、特に限定されないが、例えば400MPaである。また、上記曲げ弾性率の上限値は、特に限定されないが、例えば30Gpaである。したがって、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、上記曲げ強度が例えば330~400MPa、335~400MPa、340MPa~400MPaであり、上記曲げ弾性率が例えば20~30GPa、21~30GPa、22~30GPa等である。
【0084】
なお、曲げ試験は、試験片の厚さを0.5mm、試験速度を8.33mm/分とした以外はASTM D790に準拠して行うことができる。
【0085】
本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物は、剛性および強度に優れるため、コネクタ、リレー、スイッチなどの電子部品に好適に用いられ、とりわけ0.1~1.0mm厚みの薄肉成形品において剛性および強度の向上が顕著であるため、FPCまたはFFC用コネクタのハウジング部品や同じくアクチュエータ部品の樹脂材料として特に好適に用いられる。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0087】
実施例中の溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ強度、曲げ弾性率、結晶融解温度およびアクチュエータ部品固定確認の測定および評価は、以下に記載の方法で行った。
【0088】
(1)溶融粘度
溶融粘度測定装置(東洋精機(株)製キャピログラフ1D)により、合成例の液晶ポリエステルについては0.7mmφ×10mm、実施例1~5および比較例1~8の液晶ポリエステル樹脂組成物については1.0mmφ×10mmのキャピラリーを用いて、剪断速度1000sec-1、350℃(LCP-2については320℃)の条件下での溶融粘度をそれぞれ測定した。
【0089】
(2)荷重たわみ温度(DTUL)
実施例および比較例の各液晶ポリエステル樹脂組成物について、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度70℃で、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.2mmの短冊状試験片に成形し、これを用いてASTM D648に準拠し、荷重1.82MPa、昇温速度2℃/分で測定した。
【0090】
(3)曲げ強度
射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度70℃で、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ0.5mmの短冊状試験片を成形し、曲げ強度を測定した。
曲げ強度の測定は、試験片の厚さを0.5mm、試験速度を8.33mm/分とした以外はASTM D790に準拠して行った。
【0091】
(4)曲げ弾性率
曲げ強度の測定に用いた試験片と同じ試験片を用いて、曲げ強度と同様にして測定した。
【0092】
(5)結晶融解温度
示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ(株)Exstar6000)を用い、室温から20℃/分の昇温条件で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)の観測後、Tm1より20~50℃高い温度で10分間保持した。ついで、20℃/分の降温条件で室温まで試料を冷却し、その際に観測される発熱ピークのピークトップの温度を液晶ポリエステルの結晶化温度(Tc)とし、さらに、再度20℃/分の昇温条件で測定した際の吸熱ピークを観測し、そのピークトップを示す温度を液晶ポリエステルの結晶融解温度(Tm)とした。
【0093】
(6)アクチュエータ部品の固定確認
固定確認に用いた試験片を図1に示す。
試験片1は、射出成形機(日精樹脂工業(株)製UH1000-110)を用いて、シリンダー設定温度350℃、金型温度70℃で、ハウジング部品2およびアクチュエータ部品3(30mm×1mm×0.5mmの略短冊片)をそれぞれ成形し、これを組み合わせることにより作製した。
【0094】
次に、図2に示すように、試験片1の開口部分にフラットケーブル4(厚さ0.3mm)を載置し、アクチュエータ部品3の両端に設けられた固定部6aおよび6bのうち、固定部6a付近のみを押圧することにより、固定部6aがハウジング部品2の掛止部7aにロックされるまで移動させ、フラットケーブル4をコンタクト5に圧接させた。
この動作を繰り返して、アクチュエータ部品3の他方の固定部6bが掛止部7bにロックされなくなるまでの回数を測定し、表1に示すように評価した。
【0095】
【表1】
【0096】
以下、実施例および比較例において使用する液晶ポリエステルの合成例を記した。合成例における化合物の略号は以下の通りである。
【0097】
〔液晶ポリエステル合成に用いた単量体〕
POB:4-ヒドロキシ安息香酸
BON6:6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸
BP:4,4’-ジヒドロキシビフェニル
HQ:ハイドロキノン
TPA:テレフタル酸
【0098】
[合成例1(LCP-1)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、BON6:660.5g(54.0モル%)、BP:254.2g(21.0モル%)、HQ:14.3g(2.0モル%)およびTPA:248.3g(23.0モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。

【0099】
窒素ガス雰囲気下に室温から150℃まで1時間かけて昇温し、150℃で60分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、90分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は338℃であり、溶融粘度は23Pa・sであった。
【0100】
[合成例2(LCP-2)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:655.4g(73モル%)およびBON6:330.2g(27モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.02倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0101】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間で昇温し、145℃にて30分間保持した。次いで、副生する酢酸を留去させつつ320℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて10mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は279℃であり、溶融粘度は21Pa・sであった。
【0102】
[合成例3(LCP-3)]
トルクメーター付き攪拌装置および留出管を備えた反応容器に、POB:323.2g(36モル%)、BON6:48.9g(4モル%)、BP:169.4g(14モル%)、HQ:114.5g(16モル%)およびTPA:323.9g(30モル%)を仕込み、さらに全モノマーの水酸基量(モル)に対して1.03倍モルの無水酢酸を仕込み、次の条件で脱酢酸重合を行った。
【0103】
窒素ガス雰囲気下に室温から145℃まで1時間かけて昇温し、145℃で30分保持した。次いで、副生する酢酸を留出させつつ350℃まで7時間かけて昇温した後、80分かけて5mmHgにまで減圧した。所定のトルクを示した時点で重合反応を終了し、反応容器から内容物を取り出し、粉砕機により液晶ポリエステルのペレットを得た。重合時の留出酢酸量は、ほぼ理論値どおりであった。得られたペレットの結晶融解温度(Tm)は335℃であり、溶融粘度は20Pa・sであった。
【0104】
以下の実施例および比較例で使用した充填材を示す。
〈ガラス繊維〉
GF-1:日本電気硝子(株)製、ECS03T-747H(数平均繊維径10.5μm、数平均繊維長3mm、エポキシ樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
GF-2:日本電気硝子(株)製、ECS03T-790DE(数平均繊維径6.5μm、数平均繊維長3mm、エポキシ樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
GF-3:日東紡績(株)製、CS3J256(数平均繊維径10μm、数平均繊維長3mm、ウレタン樹脂集束剤およびシラン系カップリング剤で表面処理)
〈マイカ〉
マイカ:(株)ヤマグチマイカ製、AB-25S(粒子径22μm)
【0105】
実施例1
液晶ポリエステル(A)であるLCP-1を70質量部、液晶ポリエステル(B)であるLCP-2を30質量部、およびGF-1を43質量部の割合で配合し、2軸押出機(日本製鋼(株)製TEX-30)を用いて、350℃にて溶融混練を行い、液晶ポリエステル樹脂組成物のペレットを得た。上記の方法により、溶融粘度、荷重たわみ温度、曲げ強度、曲げ弾性率、およびアクチュエータ部品固定確認について測定・評価した。結果を表2に示す。
【0106】
実施例2~5、比較例1~7
LCP-1~3、GF-1~4およびマイカについて、表2に記載の含有量となるように配合し、実施例1と同様にしてペレットを得て(比較例2は300℃で溶融混練)、上記の方法により測定・評価を行った。結果を表2に示す。
【0107】
表2に示されるように、本発明の液晶ポリエステル樹脂組成物(実施例1~5)はいずれにおいても、DTULが240℃以上、曲げ強度が330MPa、曲げ弾性率が20GPa以上、かつ、良好なアクチュエータ部品固定確認評価を示す結果となった。
【0108】
これに対して、比較例1~7のように、本発明の技術的特徴を充足しない場合は、曲げ強度、曲げ弾性率またはそのバランスが不十分であり、アクチュエータ部品固定確認の評価結果が好ましくなかった。
【0109】
【表2】
【符号の説明】
【0110】
1 試験片
2 ハウジング部品
3 アクチュエータ部品
4 フラットケーブル
5 コンタクト
6a、6b 固定部
7a、7b 掛止部
図1
図2