(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】積層体およびそれを用いたフィルター濾材
(51)【国際特許分類】
B32B 5/02 20060101AFI20220302BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20220302BHJP
B32B 5/18 20060101ALI20220302BHJP
B01D 39/18 20060101ALI20220302BHJP
【FI】
B32B5/02 A
B32B9/00 Z
B32B5/18
B01D39/18
(21)【出願番号】P 2017202230
(22)【出願日】2017-10-18
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000107619
【氏名又は名称】スターライト工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 政人
(72)【発明者】
【氏名】堀内 徹
(72)【発明者】
【氏名】河邉 保雅
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-150117(JP,A)
【文献】国際公開第2010/073825(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/047642(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/141516(WO,A1)
【文献】特開2017-145391(JP,A)
【文献】特許第6211160(JP,B1)
【文献】国際公開第2016/135344(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
D06M 10/00-23/19
D04H 1/00-18/04
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
B01D 39/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未変性セルロースナノファイバーが分散した層の上面に表面被覆剤を少なくとも一部に積層した積層体であって、
前記
未変性セルロースナノファイバー
繊維表面に有する水酸基の少なくとも一部が
前記表面被覆剤と化学結合し、
前記未変性セルロースナノファイバーの繊維表面の前記表面被覆剤と化学結合していない水酸基のうち少なくとも一部が高分子分散剤と結合し、水溶性樹脂中に分散している、積層体。
【請求項2】
前記表面被覆剤が、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、
シラノール基、トリアルコキシシリル基、オキセタン基、ニトリル基、か
らなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む化合物を含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記化合物が、トリアルコキシシリル基を含むことを特徴とする、請求項1、2に記載の積層体。
【請求項4】
前記表面被覆材が抗菌剤又は抗ウィルス剤である、請求項1~
3に記載の積層体。
【請求項5】
請求項1~
4に記載の積層体からなるフィルター濾材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然資源であるセルロースナノファイバーを、表面被覆剤と化学結合させたセルロースナノファイバー積層体に関する。該積層体でフィルター部材を構成し、表面被覆剤を抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性を有する抗菌剤とすると、空気清浄機、送風機等の空気吹き出し口などのエアライン、又は洗浄水などの工業用水、飲料水などの水系ライン適用可能な抗菌性フィルターを作製できる。
【背景技術】
【0002】
従来、大気や水などの液体に含まれれる微細な固体の異物を取り除くために、さまざまな素材からなるフィルターが用いられてきた。取り除く対象となる異物には、空気や液体などに含まれる塵埃などの非生物体だけでなく、バクテリア、ウィルス、カビ胞子などの微生物体が含まれる。このような微生物は、フィルター濾材に補足されると、その場で増殖、飛散し、二次汚染を引き起こす可能性があった。また、防カビ剤などの抗菌剤をフィルター製造工程で付着させることも行われているが、フィルター基材がガラス繊維などの無機繊維からなる場合は、使用後の焼却が困難であり、フィルター濾材に付着した微生物を安全に処分する際の障害となっているだけでなく、該抗菌剤の効力が経時により失われやすいことが問題であった。
【0003】
特許文献1には、殺菌・抗ウィルス性を有するセルロースナノファイバーが開示されている。これは、セルロースナノファイバーに、スルホン酸基などの遊離型酸性官能基を導入して、殺菌・抗ウィルス性を持たせたものである。殺菌・抗ウィルス性を持たせたセルロースナノファイバーの水分散液は、これをスプレーすることで衣類やカーテンなどの布帛や織物、編物等の繊維製品に殺菌性・抗ウィルス性を付与することができ、セルロースナノファイバーの繊維径が細く、繊維長が長いため、前記繊維製品の繊維に良くからまり、脱落しにくいため、殺菌性・抗ウィルス性が長く維持される。
【0004】
特許文献2には、平均繊維径が1μm以下のサブミクロンガラス繊維と、バインダー繊維を湿式抄紙した不織布からなるエアフィルターが開示されている。該不織布には、フッ素樹脂および界面活性剤をごく少量付着させており、該エアフィルター濾材の通気抵抗を下げ、圧力損失の低下と補修効率の向上を図っている。
【0005】
特許文献3には、ガラス繊維を主成分とする不織布に、N-オキシル化合物を酸化触媒として得たカルボキシル基変性セルロースナノファイバーと分散媒とを含有する混合液を付着させ、次いで凍結乾燥させるエアフィルター用濾材の製造法が開示されている。比較的製造が容易で、高強度で緻密なフィルターを得ることができる。
【0006】
特許文献4には、無機繊維、天然繊維、有機合繊繊維のうちの1種からなるアニオン極性を有する濾材に、カチオン極性を有するカビ抑制剤と合成樹脂バインダーを付与したエアフィルター濾材が開示されている。
【0007】
特許文献5には、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドからなる抗菌剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-14509
【文献】特開2017‐13068
【文献】WO2017/022052
【文献】特開2016‐97336
【文献】特許第4848484号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1で開示されているのは、殺菌性・抗ウィルス性を有するセルロースナノファイバーであるが、セルロースナノファイバーに、殺菌性・抗ウィルス性を付与するためには、例えばスルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基からなる群から選ばれる遊離型酸性官能基を、セルロースナノファイバーにグラフト重合している。酸性を示す遊離型の酸性官能基をセルロースナノファイバー表面に導入することにより、セルロースナノファイバーの表面又は内部が酸性となるため、付着した細菌やウィルスを不活化できる。しかしながら遊離型酸性基をグラフト重合するために、セルロースナノファイバーにラジカルを発生させ、ビニルモノマーなどの重合性単量体をグラフトし、次いで遊離性酸性官能基を有する物質を反応させる必要がある。上記反応工程は煩雑であり、また反応条件、反応雰囲気などを精密にコントロールしないと、目的とする殺菌性・抗ウィルス性を有するセルロースナノファイバーを得ることができない。
【0010】
特許文献2では、エアフィルター濾材として平均繊維径が1μm以下のガラス繊維とバインダー樹脂からなる不織布にフッ素樹脂と界面活性剤が付着し、フィルターが目詰まりしにくく圧力損失を防いでいるが、該エアフィルターには、抗菌性・抗ウィルス性は付与されておらず、病原性細菌およびウィルスには効力が乏しい。また、無機繊維を中心とした濾材であるので、使用後の焼却処分が困難である。
【0011】
特許文献3では、ガラス繊維などからなる不織布に、N-オキシル化合物を酸化触媒として得たカルボキシル基変性セルロースナノファイバーの分散液を付着させて凍結乾燥して、エアフィルター濾材を作製している。セルロースナノファイバーの分散媒には、水と、水に溶解する有機溶媒とを混合した混合分散媒を用いているが、セルロースナノファイバーを安定分散させるための分散剤を用いておらず、混合分散媒中の有機溶媒の濃度によってセルロースナノファイバーの分散が不均一になることが記載されており、生産の安定性に問題がある。また、該エアフィルターには、抗菌性・抗ウィルス性が付与されておらず、病原性細菌およびウィルスには効力が乏しい。また、無機繊維を中心とした濾材であるので、使用後の焼却処分が困難である。
さらに、有機溶媒を用いる関係上、廃液処理に問題を生じる。
【0012】
特許文献4では、無機繊維、天然繊維あるいはその誘導体、有機合繊繊維のうち少なくとも1種からなる濾材に、カビ抑制剤を分散させた合成樹脂バインダーを付着させている。前記カビ抑制剤及び合成樹脂バインダーは共にカチオン極性を有しているので、アニオン極性の濾材に密着し、かつカビ抑制剤は合成樹脂バインダーにきれいに分散しているとの記述がある。しかしながら、カビ抑制剤が合成樹脂バインダーにきれいに分散していることは、合成樹脂バインダー表面に露出しているカビ抑制剤は限定的で、カビ抑制剤はを添加した量に見合うカビ抑制効果は現れないといえる。
【0013】
特許文献5では、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドからなる抗菌剤・抗ウィルス剤のエタノール溶液(Etak)を、表面に-OH基や-O-基等の含酸素官能基を有する物品に結合され、固定化されており、抗菌性、抗ウィルス性を示すことが記されているが、歯科用材料や食器、流しなどの水回り箇所の、消毒・洗浄・除菌・抗菌化について記述があるのみで、未変性セルロースナノファイバーからなるフィルター濾材への適用は記載されていない。
【0014】
本発明の目的は、セルロースナノファイバーに抗菌性を有する表面被覆剤を化学結合させたセルロースナノファイバー積層体を作製し、該積層体を用いて抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性が長期に渡って発揮可能で、耐水性、耐久性の高いセルロースナノファイバー積層体を作製することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、下記〔1〕~ 〔7〕の積層体およびそれを用いたフィルター濾材を提供する。
【0016】
〔1〕未変性セルロースナノファイバーが分散した層の上面に表面被覆剤を少なくとも一部に積層した積層体であって、
前記未変性セルロースナノファイバー繊維表面に有する水酸基の少なくとも一部が前記表面被覆剤と化学結合し、前記未変性セルロースナノファイバーの繊維表面の前記表面被覆剤と化学結合していない水酸基のうち少なくとも一部が高分子分散剤と結合し、水溶性樹脂中に分散している、積層体。
〔2〕 前記表面被覆剤が、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、トリアルコキシシリル基、オキセタン基、ニトリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む化合物を含む、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕前記化合物が、トリアルコキシシリル基を含むことを特徴とする、〔1〕、〔2〕に記載の積層体。
〔4〕前記表面被覆材が抗菌剤又は抗ウィルス剤である、〔1〕~〔3〕に記載の積層体。
〔5〕〔1〕~〔4〕に記載の積層体からなるフィルター濾材。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性が長期に渡って発揮される積層体を作製することができる。
また、当該積層体は例えば、食品工場や医療機関における換気装置、空気清浄機などのエアフィルター、及び水道水などの浄化に用いる浄水器の抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性浄水用フィルターとして、洗浄、食品加工、飲用に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明による積層体から作製したフィルター濾材は、未変性セルロースナノファイバーと、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂からなり、未変性セルロースナノファイバー表面にケイ素化合物を含む抗菌剤を化学反応により固定化することで、抗菌剤が自然分解や蒸散したり、流水で失われたりすることなく、抗菌性や抗ウィルス性が長期にわたって発揮される。
なお、本明細書においては、「抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性」、あるいは「抗菌・抗カビ・抗ウィルス剤」をまとめて、それぞれ単に「抗菌性」、「抗菌剤」と示すことがある。
【0019】
<未変性セルロースナノファイバー>
本発明で使用する未変性セルロースナノファイバーは、機械的解繊処理を施すことにより、繊維径10~100nmの範囲の未変性セルロースナノファイバーを含むものになるという特徴がある。
未変性セルロースナノファイバーとしては、セルロース原料から対向水流衝突法によって製造されるものが、製造工程において異物の混入する可能性がなく好ましい。セルロース原料を化学的処理、あるいはグラインダー等による摩砕処理により製造したセルロースナノファイバーでは、触媒成分やグラインダーの摩耗粉などのコンタミネーションを含む可能性があり、食品や医薬品工場、医療施設などの清浄環境で用いるフィルター濾材の原料には好ましくはない。
また、未変性セルロースのファイバーは、表面の水酸基が変性されておらず反応性が高いため、後述する抗菌剤や水溶性樹脂(架橋剤を含む)との反応が強固となりやすく好ましい。
【0020】
未変性セルロースナノファイバーの繊維径、繊維長及びアスペクト比は特に限定されないが、繊維径が好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下であり、繊維長が好ましくは10~1000μm、より好ましくは100~500μmであり、アスペクト比(繊維長/繊維径)が1000~15000、好ましくは2000~10000程度である。ここでの繊維径及び繊維長は、電子顕微鏡観察により任意の個数(例えば20本)の未変性セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長を測定し、得られた測定値の算術平均値として求められる。
【0021】
未変性セルロースナノファイバーは、繊維径が前述のようにナノオーダーと非常に小さいことから、これを低濃度で水に分散させた場合、水中に未変性セルロースナノファイバーが分散していることは肉眼では認められず、透明な分散液となる。また、未変性セルロースナノファイバーを高濃度で水に分散させると、不透明な分散液となる。ここで、分散液は、エマルジョン、スラリー、ゲル、ペーストなどの種々の形態を含む。
【0022】
なお、本発明樹脂組成物のように、未変性セルロースナノファイバーと後述する分散剤とを水系で共存させた場合には、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバー表面の官能基と少なくとも一部の分散剤とが反応し、これらのイオン結合体が形成されることがある。このようなイオン結合体は、例えば、未変性セルロースナノファイバーの分散安定性を長期間にわたって高水準に維持するような機能を有していると考えられる。
【0023】
本発明では、未変性セルロースナノファイバーは、得られるナノファイバー複合体における未変性セルロースナノファイバーの分散性などの観点から、水分散液の形態で用いることが好ましい。水分散液における未変性セルロースナノファイバーの含有量は特に限定されないが、好ましくは水分散液全量の0.001~10重量%であり、より好ましくは水分散液全量の0.1~5重量%である。
【0024】
なお、伸びきり鎖結晶からなる未変性セルロースナノファイバーの弾性率、強度はそれぞれ140GPaおよび3GPaに達し、代表的な高強度繊維、アラミド繊維に等しく、ガラス繊維よりも高弾性である。しかも、線熱膨張係数は1.0×10-7/℃と石英ガラスに匹敵する小ささである。
【0025】
未変性セルロースナノファイバーの製造に使用するセルロースは、好ましくは水分散体として用いられる。セルロースの形状は、例えば、繊維状、粒状などの任意の形状である。セルロースとしては、リグニンやヘミセルロースを除去したミクロフィブリル化セルロースが好ましい。また、市販のセルロースを使用してもよい。メディアレス分散機でミクロフィブリル化セルロースを処理すると、ミクロフィブリル化セルロースが繊維の長さを保ったまま繊維表面に存在する水酸基に由来する水素結合がほどけて細くなるが、処理条件を変えることで、繊維の切断もしくは分子量を低下させることも可能である。
【0026】
<表面被覆剤>
本発明で用いる表面被覆剤としては、防腐剤、防臭剤、耐摩耗性付与剤、低摩擦剤、耐候性付与剤、導電性付与剤等から選ばれる一種以上が挙げられる。当該被覆剤は、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、トリアルコキシシリル基、オキセタン基、ニトリル基からなる群から選ばれる少なくとも1種の官能基を含む化合物であり、これにより該表面被覆剤がセルロースナノファイバーの水酸基と反応して、この化学結合によりセルロースナノファイバーの表面が該表面被覆剤に一面に被覆され、かつ固定化される。
【0027】
表面被覆剤としては、トリアルコキシシリル基を含む抗菌剤であることが好ましく、抗菌剤の具体例としては、オクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられ、これらの中でも、より生体毒性や使用時の環境負荷、廃液の環境負荷の最も少ないオクタデシルジメチル(3-トリエトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドが好ましい。これらの抗菌剤は、取り扱いを簡便にするために、抗菌剤が3%濃度とした水、エタノール混合溶媒の溶液としてEtak(商品名、マナック(株)製、エタノール含量80重量%のエタノール/水混合溶液)が市販されており、優れた抗菌性・抗ウィルス性を示すことが、同社カタログに記されている。
【0028】
当該抗菌剤による、本発明によるフィルタ濾材の抗菌化方法は、フィルタ濾材原料に含まれる未変性セルロースナノファイバーの表面を上記抗菌剤によって抗菌化することを特徴とする。本発明の抗菌剤を物品表面に固定化するには、表面に含酸素官能基を有する物品に対し、該物品の表面に上記抗菌剤を塗布又は噴霧すること、或いは該物品を上記抗菌剤に浸漬することを特徴とする。未変性セルロースナノファイバーは、その表面に含酸素官能基である水酸基を有しているため、該抗菌剤を簡単な操作で効率よく固定化することができる。
【0029】
本発明に用いる抗菌・抗ウィルス剤によれば、特定の製法により得られるエトキシ基を有する、いわゆるエトキシ体のケイ素含有化合物を含有するため、製造工程中や輸送中、或いは使用中において毒性の高いメタノールが一切関与せず、従来のメトキシ体のケイ素含有化合物を含む剤よりも極めて高い安全性を保持することができるとともに、優れた抗菌性・抗カビ性・抗ウィルス性を発揮することができる。
【0030】
一般に、菌やカビ、ウィルスは1~2時間経過するだけで、その数がほぼ2倍に増殖する。ここで、本発明の抗菌剤が発揮する抗菌性は、残存菌数を数桁以上に亘って低減して実質的に0にすることができる。
また、上記抗菌剤は、未変性セルロースナノファイバー表面に固定化すると、高い安全性のもとに抗菌性効果を長期にわたって安定化させることができる。
【0031】
上記抗菌・抗ウィルス剤によって不活性化が可能なウィルスとしては、A型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、(A~E型)肝炎ウィルス、はしかウィルス、ヘルペスウィルス、ムンプスウィルス、狂犬病ウィルスインフルエンザウィルス等のエンベロープを持つウィルス、ノロウィルス、HIVウィルス等を挙げることができる。これらの中でも、インフルエンザウィルス、ノロウィルスが好ましく、特にA型インフルエンザウィルス(ブタ(新型))(新型(ブタ)インフルエンザウィルス(H1N1型))に対しても優れた不活性化能を発揮する。また、O-157などの病原性大腸菌をはじめとする病原性微生物に対する抗菌作用を長期に渡って示すことができる。
【0032】
上記抗菌・抗ウィルス剤のケイ素含有化合物の含有量は、抗ウィルス作用及びその持続性が発揮できる量であれば特に限定されないが、通常0.6ppm以上、好ましくは20ppm以上、より好ましくは0.006~24重量%、最も好ましくは0.06~6重量%であり、抗菌・抗ウィルス作用及びその持続性を充分に発揮するにはこの範囲にあることが好ましい。
【0033】
抗菌剤には、さらにエタノールを含んでもよい。かかるエタノール濃度としては特に限定されないが、抗菌・抗ウィルス作用を主眼とする観点から、50~85容量%が好ましい。また、かかる抗菌剤を未変性セルロースナノファイバーに固定化する観点からすれば、エタノール濃度は35~85容量%が好ましい。上記抗菌剤には、さらに水を含んでもよい。すなわち上記抗菌剤には、溶媒として、水、エタノール、又はエタノール水溶液(水及び/又はエタノール)のいずれを含有してもよい。これらはいずれも、メタノールに比べて毒性が極めて低く、得られる抗ウィルス剤組成物の安全性を非常に高めることができるので、高度な安全性と優れた抗菌・抗ウィルス作用を兼ね備えた剤を実現することが可能となる。このように、上記ケイ素含有化合物と、必要に応じて水及び/又はエタノールとを含有するだけで、簡便かつ効率的に、除菌及び病原体ウィルスの不活性化が可能で、病原性細菌又はウィルスの感染拡大を防ぎ、衛生環境を向上させることができる。
【0034】
前記抗菌・抗ウィルス剤によって不活性化が可能なウィルスとしては、A型インフルエンザウィルス(ヒト、トリ、豚(新型))、B型インフルエンザウィルス、パラインフルエンザウィルス、(A~E型)肝炎ウィルス、はしかウィルス、ヘルペスウィルス、ムンプスウィルス、狂犬病ウィルスインフルエンザウィルス等のエンベロープを持つウィルス、ノロウィルス、HIVウィルス等を挙げることができる。これらの中でも、インフルエンザウィルス、ノロウィルスが好ましく、特にA型インフルエンザウィルス(豚(新型))(新型(ブタ)インフルエンザウィルス(H1N1型))に対しても優れた不活性化能を発揮する点は、高い利用価値を示すものである。
【0035】
上記抗菌・抗ウィルス剤によるウィルスの不活性化は、具体的には、ウィルスが付着しているおそれがある物品を上記抗ウィルス剤に浸漬するか、当該物品に上記抗ウィルス剤組成物を塗布もしくは噴霧するか、又は上記抗ウィルス剤を染みこませた布等によって当該物品の表面を清拭することによって行うことができ、当該物品と上記抗ウィルス剤とが所定の時間接触できる方法であれば特に制限されない。また、これらの処理を行う時間も、上記抗ウィルス剤によって物品に付着しているウィルスが充分に不活性化される時間であればよく、適宜選択することができる。
【0036】
さらに、該抗菌・抗ウィルス剤中には、用途に応じて、さらに少なくとも1種の両イオン界面活性剤を含有してもよく、又は少なくとも1種の陽イオン界面活性剤を含有してもよく、これら両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤の双方を含有してもよい。
なかでも上記両イオン界面活性剤を含むのが望ましい。これらの界面活性剤を含有することにより、上記ケイ素含有化合物を剤中で安定化させて、溶液の白濁、ゲル化を防止することがより容易となる。なお、用いることのできる上記両イオン界面活性剤及び陽イオン界面活性剤の種類、並びにその含有量は、上記本発明の抗菌・抗ウィルス剤組成物と同様である。
【0037】
<高分子分散剤>
分散剤は水溶性分散剤であり、好ましくは未変性セルロースナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能な水溶性分散剤であり、より好ましくは未変性セルロースナノファイバーが表面に有する水酸基などの官能基とイオン結合可能でありかつ静電反発力等により本発明の樹脂組成物中での未変性セルロースナノファイバーの分散性及び分散安定性を高め得るような分散剤である。該分散剤としては、前述のように水溶性であれば特に限定されないが、陰イオン性分散剤を好ましく使用できる。陰イオン性分散剤としては、例えば、リン酸基、-COOH基、-SO3H基、これらの金属エステル基、及びイミダゾリン基から選ばれた少なくとも1種の官能基を有する化合物、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体などが挙げられる。このうち、アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、生体適合性を有することから、本発明における分散剤として好ましく使用できる。水溶性分散剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0038】
また、本発明に用いられる陰イオン性分散剤として、生体適合性を示すリン脂質類似構造からなるホスホリルコリン基を有する、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体を用いてもよい。(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体は、本発明により得られるナノファイバー複合体中の各成分の分散安定性、特にナノファイバーの分散安定性を高め得るとともに、例えば、生体適合性を有し、本発明のナノセルロース複合体を医療用途、食品用途などに用いる場合の分散剤として好適に使用できる。ここで、(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとは、メタアクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、及びアクリロイルオキシエチルホスホリルコリンを包含する。これらは、常法に従って製造される。例えば、2-ブロモエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルホスホリルジクロリドと2-ヒドロキシエチルメタクリレートとを反応させて2-メタクリロイルオキシエチル-2′-ブロモエチルリン酸を得、更にこれをトリメチルアミンとメタノール溶液中で反応させて得ることができる。
【0039】
本発明では(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(共)重合体の市販品を用いてもよく、市販品の具体例としては、例えば、リピジュアHM、リピジュアBL(いずれも商品名、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン)、リピジュアPMB(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ブチルコポリマー)、リピジュアNR(商品名、メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン・メタクリル酸ステアリルコポリマー)などが挙げられる。これらはいずれも日油(株)製である。
【0040】
<架橋性樹脂>
本発明の架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を有するものである。水溶性架橋性樹脂とは水系溶媒に溶解可能な架橋性樹脂である。水分散性架橋性樹脂とは、乳化剤などにより水系溶媒に分散させることができる強制乳化タイプの架橋性樹脂、及びその主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に親水性基を導入することにより、水系溶媒に分散させることのできる自己乳化タイプの架橋性樹脂を含み、水溶液、スラリー、エマルジョンを含む。
水溶性又は水分散性樹脂中に分散剤を含む未変性セルロースナノファイバーを分散させ、分散媒を除去、乾燥した後に架橋処理を施し、次いで前記抗菌、抗ウィルス剤を噴霧、浸漬することで、前記抗菌、抗ウィルス剤を固定化したセルロースナノファイバー水溶性樹脂分散体を作製することができる。
【0041】
このような架橋性樹脂の具体例として、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性又は水分散性を有する自己架橋性樹脂等が挙げられる。架橋性樹脂とは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有し、例えば架橋成分と反応して架橋構造を形成する架橋性樹脂であり、好ましくは、架橋性基及び架橋性構造から選ばれる少なくとも1種を有するとともに水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂である。ここで架橋性基としては特に限定されないが、例えば、エポキシ基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基、エーテル基(例えばフルオロエチレンエーテル基など)、ヒドロシリル基などが挙げられる。架橋性樹脂は、架橋性基の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性基は、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖の少なくとも一部として結合してもよく、主鎖骨格の末端に結合してもよい。
【0042】
架橋性構造としては特に限定されないが、架橋性樹脂は、架橋性構造の1種又は2種以上を有することができる。これらの架橋性構造は、架橋性樹脂の主鎖骨格の一部を形成していてもよく、架橋性樹脂の主鎖骨格の側鎖及び/又は末端に結合していてもよい。
【0043】
架橋性樹脂は、水溶性又は水分散性を示すために、親水性基を有していてもよい、親水性基としては特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、エーテル基などが挙げられる。親水性基は、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖の一部として結合してもよく、また、主鎖骨格の末端に結合してもよい。これらの親水性基の中でも、ヒドロキシ基、アミノ基、カルボキシル基、エーテル基などを有する架橋性樹脂は、水分散性又は水溶性を有する架橋性樹脂となる。
【0044】
架橋性樹脂は、架橋性基及び/又は架橋構造を有するものであれば特に限定されないが、生分解性を有するものであってもよい。
生分解性を有する架橋性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂、ポリカルボン酸系樹脂(アクリル酸系樹脂、メタクリル酸系樹脂など)、ポリアミン、ポリウレタン、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、これらの塩や誘導体等の架橋性架橋性樹脂、ポリウロン酸、澱粉、カルボキシメチル澱粉、カチオン化澱粉、キチン、キトサン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、アルギン酸、ペクチン、ゼラチン、グアガム、カラギーナン、これらの誘導体等の架橋性天然高分子化合物等が挙げられる。架橋性架橋性樹脂は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0045】
架橋性樹脂の分子量は特に限定されるものではないが、例えば、最終的に得られるナノセルロース複合体およびその成形体の機械的特性、剛性、その他の特性の向上を図る上では、重量平均分子量として2000以上であることが好ましい。
【0046】
本発明において、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂を用いる場合、架橋性樹脂が有する架橋性基及び/又は架橋性構造と反応可能な架橋成分を、架橋性樹脂と併用することが好ましい。架橋成分については後述する。
【0047】
自己架橋性樹脂とは、架橋成分を用いなくても自身の分子内に架橋構造を形成し得る架橋性樹脂である。自己架橋性樹脂としては、水溶性又は水分散性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、ポリビニルトルエン、t-ブチルアクリレート/グリシジルアクリレート共重合体、カルボキシル基含有ビニル単量体/スルホン酸基含有ビニル単量体共重合体等が挙げられる。また、自己架橋性樹脂と共に後述する架橋成分を用いることもできる。なお、自己架橋性樹脂としても、水溶性又は水分散性であり、かつ生分解性を有するものが好ましい。
【0048】
本発明では、架橋性樹脂は好ましくは溶液又は分散液の形態で用いられる。架橋性樹脂が水溶性である場合、架橋性樹脂の溶液は、架橋性樹脂を水系溶媒に溶解させた溶液であることが好ましい。水系溶媒とは、水、水に溶解可能な有機溶媒、水と水に溶解可能な有機溶媒との混合溶媒等が挙げられる。また、架橋性樹脂が水分散性である場合、架橋性樹脂の分散液は、前記と同様の水系溶媒を分散媒として用いた、強制乳化型エマルジョン、自己乳化型エマルジョンなどのエマルジョン、スラリーなどであることが好ましい。強制乳化型エマルジョンは、界面活性剤やその他の乳化剤を用いて架橋性樹脂を水系溶媒に分散させたものである。自己乳化型エマルジョンは、架橋性樹脂の主鎖骨格に側鎖および/又は末端基として親水性基を導入することにより、架橋性樹脂を水系溶媒に分散させたものである。水系溶媒の中でも、水、水と水溶性溶媒との混合溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0049】
<水溶性溶媒>
水溶性溶媒としては、例えば、1価又は多価のアルコール類(一価アルコールには例えば炭素数1~4の低級アルコールがある)、アミド類、ケトン類、ケトアルコール類、環状エーテル類、グリコール類、多価アルコールの低級アルキルエーテル類、ポリアルキレングリコール類、グリセリン、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-ヘキサントリオール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール類、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールアルキルエーテル類,エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル等の多価アルコールアリールエーテル類および多価アルコールアラルキルエーテル類、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、ε-カプロラクタム等のラクタム類、1,3-ジメチルイミダゾリジノンアセトン、N-メチルー2-ピロリドン、m-ブチロラクトン、グリセリンのポリオキシアルキレン付加物、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジメチルスルホキシド、ジアセトンアルコール、ジメチルホルムアミド、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどである。水溶性溶媒は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0050】
また水としては、水は、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、または超純水を用いることができる。また、紫外線照射、または過酸化水素添加などにより滅菌した水を用いることにより、長期保存におけるカビまたはパクテリアの発生を防止することができるので好適である。
【0051】
<架橋成分>
本発明で使用する架橋成分は、主に架橋性樹脂が有する架橋性基、架橋構造や、未変性セルロースナノファイバーがその表面に有する官能基と架橋反応を生成するものである。該架橋反応の結果、架橋性樹脂間、未変性セルロースナノファイバー間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも1つに、架橋成分に由来する架橋構造が形成され、得られる本発明のフィルタ濾材の耐水性、強度をはじめとする物性が向上する。
【0052】
前記架橋成分としては、架橋性樹脂が有する架橋性や架橋構造、ナノセルロースが表面に有する官能基などとの反応性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、多官能性モノマー、多官能性樹脂、有機過酸化物、重合開始剤などが挙げられる。これらの架橋成分は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0053】
多官能性モノマーとしては、多官能アクリル系モノマー、多官能アリル系モノマー、およびこれらの混合モノマー等が挙げられる。
【0054】
多官能アクリル系モノマーの具体例としては、例えば、エチレンオキシド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、PO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(メタクリロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。これらの中でも、皮膚刺激性が低いという観点からは、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート(トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のトリアクリル酸エステル)を好ましく使用できる。多官能アクリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0055】
多官能アリル系モノマーとしては、例えば、トリアリルシアヌレート(TAC)、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート(DA-MGIC)、ジアリルフタレート、ジアリルベンゼンホスフォネートなどが挙げられる。多官能アリル系モノマーは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる
【0056】
多官能性モノマーは、必要に応じて重合開始剤と併用することができ、また、酸触媒、安定剤等を併用することができる。重合開始剤、触媒、安定剤等の本発明セルロースナノファイバー樹脂複合体への添加時期は特に限定されないが、例えば、未変性セルロースナノファイバー、架橋性樹脂、分散剤、水系溶媒と同時に混合される。
【0057】
多官能性モノマーの配合量は特に限定されないが、架橋性樹脂の固形分重量に対して、好ましくは0.01~10重量%、より好ましくは0.1~5重量%である。多官能性モノマーの配合量が0.01重量%未満の場合は、本発明セルロースナノファイバー樹脂複合体の機械的特性、熱的特性が顕著に向上しない傾向がある。多官能性モノマーの配合量が10重量%を上回る場合には、本発明セルロースナノファイバー樹脂複合体の伸びや衝撃強さなどの機械的特性に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0058】
多官能性樹脂(多官能性ポリマー)の具体例としては、例えば、エポキシ樹脂、イソシアネート樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、アクリレート樹脂、メタクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。これらの中でも、熱硬化性エポキシ樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂などの放射線硬化性樹脂などが好ましい。なお、多官能性樹脂は架橋性樹脂よりも相対的に分子量の低いものである。多官能性樹脂の分子量は、重量平均分子量として1000未満が好ましい。多官能性樹脂は、架橋性樹脂と同様に、水酸基やカルボキシル基などの親水性基で変性された自己乳化性のもの、乳化剤により分散媒中に分散可能な強制乳化型のものが好ましい。これらの樹脂を架橋成分として用いる場合、架橋性樹脂とは樹脂種の異なるものを用いるのが好ましい。多官能性樹脂の配合量は、架橋性樹脂の固形分重量に対して好ましくは3~20重量%、より好ましくは5~15重量%である。
【0059】
有機過酸化物は、例えば、加熱によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性セルロースナノファイバー同士間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも一部を架橋する。なお、有機過酸化物は重合開始剤の範疇にも入るものであるが、本明細書では重合開始剤とは別個に記載する。有機過酸化物の具体例としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、1,3-ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルパーオキシ)バレレート、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド、2,4-ジクロロベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ジアセチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、tert-ブチルヒドロパーオキサイドなどが挙げられる。有機過酸化物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。有機過酸化物の配合量は、架橋性樹脂及び未変性セルロースナノファイバーの合計固形分量に対して好ましくは0.0001~10重量%、より好ましくは0.01~5重量%、さらに好ましくは0.1~3重量%である。
【0060】
重合開始剤は、例えば、加熱又は電離放射線照射によりフリーラジカルを発生し、これにより、架橋性樹脂同士間、未変性セルロースナノファイバー間、架橋性樹脂と未変性セルロースナノファイバーとの間の少なくとも一部を架橋する。重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾ化合物、過硫酸塩などが挙げられる。また、重合開始剤は水溶性のものでも、疎水性のものでもよい。
【0061】
重合開始剤の具体例としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などの疎水性アゾ化合物、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]などの水溶性アゾ化合物;過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等の過硫酸塩名とが挙げられる。重合開始剤の配合量は、架橋性樹脂及びナノファイバーの合計固形分量に対して、好ましくは0.0001~5重量%、より好ましくは0.01~3重量%、さらに好ましくは0.1~1重量%程度である。
【0062】
なお、本発明では上記の架橋成分と共に、酸触媒を用いてもよい。酸触媒は、例えば、架橋性性樹脂の架橋性基および/または架橋構造と架橋成分の求核性反応基との反応を促進させるために用いられる。酸触媒の具体例としては、例えば、p-トルエンスルホン酸、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等の有機酸、塩酸、硫酸、スルホン酸等の無機酸、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛、塩化スズ、塩化アルミニウムなどのルイス酸が挙げられる。酸触媒は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。酸触媒の配合量は、架橋性樹脂の固形分量100重量部に対して好ましくは0.1~8重量部である。酸触媒の配合量が0.1重量部未満では、架橋度が低くなりすぎる恐れがあり、8重量部を超えるとセルロースナノファイバー樹脂複合体中での相溶性が悪化する恐れがある。
【0063】
<他の添加剤>
本発明では、製造するセルロースナノファイバー複合体の好ましい特性を損なわない範囲で、ヒンダードフェノール、リン酸エステルや亜リン酸エステルなどの酸化防止剤、防腐剤、耐熱安定剤、トリアジン系化合物などの耐候性付与剤、耐候性付与剤などの安定剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、金属粉末、その他の無機、有機充填材、顔料、染料などの着色剤、滑剤、揆水剤、アンチブロッキング剤、柔軟性改良材、レベリング剤、消泡剤、金属石鹸、有機シラン、有機金属化合物などを配合することができる。これらの添加剤は、上記した各成分と共に同時に一段で混合してもよく、また、得られたナノファイバー複合体に添加及び混合してもよい。
【0064】
これらの添加剤の中でも、酸化防止剤が好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。酸化防止剤の配合量は、ナノファイバー及び架橋性樹脂の合計固形分量又はナノファイバー、架橋性樹脂及び分散剤の合計固形分量に対し、通常0.1~10重量%。好ましくは0.2~5重量%である。
【0065】
<セルロースナノファイバー樹脂複合体>
本発明のフィルター濾材の製造方法は、例えば、混合工程を含み、混合工程の前に実施される予備混合工程、混合工程の後に実施される乾燥工程、架橋工程、成形工程等を含む。本発明の製造方法において、予備混合工程、架橋工程及び乾燥工程、成形工程の有無、順序などは、適宜選択できる。本発明の製造方法によれば、未変性セルロースナノファイバーが架橋性樹脂中にほぼ均一に分散した複合体組成物、該複合体組成物からなり抗菌・抗ウィルス剤を固定化したフィルター濾材原料、該フィルター濾材原料の固形分の少なくとも一部を架橋させたフィルター濾材などが得られる。
【0066】
未変性セルロースナノファイバーは、水系溶媒の分散体として供給され、生体適合性を有する水溶性高分子分散剤を加えて、機械解繊処理により分散安定化させることができる。このような水溶性未変性セルロースナノファイバーは、前記機械解繊処理において、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂及び、前記架橋性樹脂と反応し3次元架橋構造を構成する架橋成分を添加しておくことで、未変性セルロースナノファイバーが分散した、未変性セルロースナノファイバー樹脂複合体が得られる。
当該樹脂複合体に、前記抗菌剤を噴霧、又は浸漬することで、未変性セルロースナノファイバー表面に存在する水酸基と抗菌剤に含まれるトリアルコキシシリル基が反応し、該抗菌剤がセルロースナノファイバー表面に固定化される。該抗菌剤がセルロースナノファイバー表面に固定化されたセルロースナノファイバー樹脂複合体を用いることで、抗菌、抗ウィルス性が長期に渡って発揮される成形体等を作製することができる。
各成分の詳細は以下のとおりである。
各工程の詳細は次の通りである。
【0067】
〔予備混合工程〕
本発明のフィルター濾材組成物を作製するための予備混合工程では、水系溶媒に、未変性セルロースナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性分散剤、及び他の添加剤より成る群から選ばれる少なくとも1種を添加及び混合する。未変性セルロースナノファイバー、架橋性樹脂、水溶性分散剤、などを水系溶媒に添加する場合は、機械的解繊処理を行うことなく単に混合だけを行なうことにより、予備混合物Aが得られる。また、未変性セルロースナノファイバー及び分散剤を水系溶媒に添加及び混合して予備混合物Bを得る場合は、機械的解繊処理下に混合を行なってもよく、単なる混合のみを行なってもよい。この混合には、例えば、ホモジナイザー、ロッキングミル、ヘンシェルミキサー、インラインミキサー、二軸ニーダー等の混合装置が用いられる。なお、架橋性樹脂に対しては、同時に架橋剤を添加することが好ましい。
【0068】
〔混合工程〕
本発明のフィルター濾材複合体組成物を作製するための混合工程では、好ましくはナノファイバー、水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂、水溶性分散剤、水系溶媒、必要に応じてその他の添加剤などを機械的解繊処理下に一段で混合する。架橋性樹脂である場合は、同時に架橋剤を併用することが好ましい。また、混合工程では、予備混合工程で得られた予備混合物(A)に機械的解繊処理を施してもよく、予備混合物(B)にさらに架橋性樹脂、水系溶媒等を添加及び混合する二段混合を行なったあとに、機械的解繊処理を施してもよい。ここで、一段での混合とは、上記した各成分を同一容器に一度に投入して混合することを意味する。混合工程では、架橋性樹脂は、得られる樹脂組成物の水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液(以下これらを「樹脂組成物の溶液又は分散液」という)中での未変性セルロースナノファイバーの分散性などの観点から、溶液又は分散液の形態で用いることが好ましく、水系溶媒溶液又は水系溶媒分散液の形態で用いることがより好ましい。また、ナノファイバー、分散剤、架橋剤、その他の添加剤は、それぞれ別個に水系溶媒に溶解又は分散させた形態で用いてもよい。
【0069】
機械的解繊処理は、予備混合工程で得られた予備混合物又は混合工程で各成分を同一容器にほぼ同時に投入した混合物に対して、せん断力を付与できる装置を用いて実施される。このような装置としては、高圧ホモジナイザー、水中カウンターコリジョン、高速回転分散機、ビーズレス分散機、高速撹拌型メディアレス分散機などが挙げられる。これらのなかでも、未変性セルロースナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性が一層向上するだけでなく、不純物の混入が少なく、純度の高いナノファイバー複合体が得られるという観点から、高速撹拌型メディアレス分散機が好ましい。
【0070】
高速攪拌型メディアレス分散機とは、分散メディア(例えば、ビーズ、サンド(砂)、ボール等)を用いず、せん断力を利用して分散処理を行う分散機である。メディアレス分散機は市販品を使用できる。該市販品としては、例えば、DR-PILOT2000、ULTRA-TURRAXシリーズ、Dispax―Reactorシリーズ(いずれも商品名、IKA社製)、T.K.ホモミクサー、T.K.パイプラインホモミクサー(いずれも商品名、プライミクス(株)製)、ハイ・シアー・ミキサー(商品名、シルバーソン社製)、マイルダー、キャビトロン(いずれも商品名、大平洋機工(株)製)、クレアミックス(商品名、エムテクニック(株)製)、ホモミキサー、パイプラインミキサー(商品名、みずほ工業(株)製)、ジェットペースタ(商品名、日本スピンドル製造(株)製)、アペックスディスパーザー ZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)等が挙げられる。
【0071】
高速攪拌型メディアレス分散機の中でも、ステータとロータとを備える型式の高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。この型式の具体例としては、例えば、ステータと、ステータの内部で回転するロータとを備える型式、ステータおよびロータが多段階に設置された型式などが挙げられる。上記した市販品の中では、アペックスディスパーザー ZEROがこの型式である。この型式では、ステータとロータの間には隙間がある。この隙間の寸法を「せん断部クリアランス」とする、ロータの回転下に、ステータとロータの隙間に上記各成分の混合液を通過させることにより、該混合液にせん断力を付与でき,未変性セルロースナノファイバーのさらなる細径化、未変性セルロースナノファイバーの架橋性樹脂への均一分散のさらなる向上などを図り得る。また、上記各成分の混合液全体に均一にせん断力を付与する観点から、上記各成分の混合液が装置内を循環するインライン循環式高速攪拌型メディアレス分散機が好ましい。
【0072】
高速撹拌型メディアレス分散機を用いる場合、せん断速度、せん断部クリアランスおよびロータの回転周速、特にせん断部クリアランスおよびロータの回転周速を所定の範囲に設定することにより、未変性セルロースナノファイバーのさらなる細径化や、架橋性樹脂へのさらなる均一分散、得られる樹脂組成物中での未変性セルロースナノファイバーの沈降防止などの優れた効果が得られることが、本発明者らの研究により判明している。
【0073】
せん断速度は、900,000[1/sec]を超えることが好ましい。せん断速度が900,000[1/sec]以下である場合には、未変性セルロースナノファイバーのさらなる解繊、および架橋性樹脂への分散が共に不十分になる傾向がある。また、せん断速度は、2,000,000[1/sec]以下が好ましく、1,500,000[1/sec]以下が好ましく、1,200,000[1/sec]以下がより好ましい。
【0074】
せん断部クリアランスは、せん断速度、上記各成分の混合液の粘度などに応じて適宜設定されるが、未変性セルロースナノファイバーを最大限細径化し、また、未変性セルロースナノファイバーの架橋性樹脂中への分散性の一層の向上を図る観点から、100μm以上が好ましく、150μm以上がより好ましく、200μm以上が更に好ましい。また、上記各成分の混合液の粘度が高くても、分散機の回転数を適正範囲に保持しつつ高分散性を確保する観点から、クリアランスは、5mm以下が好ましく、4mm以下がより好ましく、3mm以下がさらに好ましい。
【0075】
ロータの回転周速は、せん断速度に応じて適宜設定されるが、未変性セルロースナノファイバーの最大限の細径化径や、架橋性樹脂中への分散性の一層の向上等を図る観点から、18m/s以上が好ましく、20m/s以上がより好ましく、23m/s以上がさらに好ましい。また、フィルター濾材の細孔径の観点から最適な10~20nmという繊維径を得るためには、回転周速は、60m/s以下が好ましく、50m/s以下がより好ましく、45m/s以下がさらに好ましい。回転周速は、ロータの最先端部分の周速である。
【0076】
予備混合工程および混合工程において、上記した各成分の配合量は特に限定されないが、例えば、配合する架橋性樹脂の全固形分量を100重量部に対して、未変性セルロースナノファイバーを好ましくは0.5重量部以上、10重量部未満、より好ましくは0.5~5.5重量部、水系溶媒を好ましくは100~10000重量部、より好ましくは150~1000重量部、分散剤を好ましくは0.01~0.5重量部、より好ましくは0.025~0.25重量部配合すればよい。架橋剤の配合量は前述したとおりである。
【0077】
混合工程で得られるエアフィルター濾材原料の溶液又は分散液は、水系溶媒中に未変性セルロースナノファイバーと架橋性樹脂とがほぼ均一に分散し、時間を経過しても未変性ナノファイバーの沈降が非常に少ないものである。また、該複合体組成物の溶液又は分散液中には、少なくとも一部の未変性セルロースナノファイバーの表面に分散剤がイオン結合している場合がある。未変性セルロースナノファイバーと分散剤とのイオン結合体は、後述する成形後および架橋後にも残留する場合がある。また、該複合体組成物の溶液又は分散液に含まれる未変性セルロースナノファイバーの平均繊維径は10~100nm程度、好ましくは10~40nm程度、より好ましくは10~30nm程度であり、繊維径10~20nmの未変性セルロースナノファイバーを含むものとなる。すなわち、混合工程を実施することにより、未変性セルロースナノファイバーの繊維径がさらに細径化していることがある。また、混合工程のように一段の混合で複合体組成物の溶液又は分散液が得られるので、従来の二段工程に比べて、大幅な省力化(特に量産時の大幅な省力化)を達成できる。
【0078】
<凍結乾燥>
分散媒の除去手段としては、分散媒の種類に応じて適切なものが選択される。例えば、分散体を室温下で放置するだけの自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥、真空乾燥(減圧乾燥)、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法でも良い。噴霧乾燥は、前記分散体をノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で該液滴を加熱乾燥することによりなされる。特に、自然乾燥や加熱乾燥を用いる場合には、前記混合物をキャスト(流延)する等して膜状あるいはシート状に成形してからその成形体を乾燥させることが、乾燥効率の点から好ましい。
乾燥手段としては、特に得られる乾燥品の品質の劣化が少なく、また乾燥体が、多孔質固体の形態となり、その後の加工工程等での取扱いが簡便・容易である点から、凍結乾燥が好ましい
【0079】
ここで、凍結乾燥とは、上記分散体を凍結し、凍結状態のまま減圧して分散媒を昇華させることによって乾燥する手法である。凍結乾燥における分散体の凍結方法は特に限定されないが、例えば、分散体を冷媒の中に入れて凍結させる方法、分散体を低温雰囲気下に置いて凍結させる方法、分散体を減圧下に置いて凍結させる方法などがある。好ましくは、分散体を冷媒に入れて凍結させる方法である。分散体の凍結温度は、分散体中の分散媒の凝固点以下としなければならず、-50℃以下であることが好ましく、-80℃以下であることがより好ましい。
凍結乾燥において、凍結した分散体中の分散媒を減圧下で昇華させなければならない。減圧時の圧力は、100Pa以下であることが好ましく、10Pa以下であることがより好ましい。圧力が100Paを超えると凍結した分散体中の分散媒が融解してしまう可能性がある。
【0080】
水系溶媒分散体を溶性樹脂表面に存在する水酸基と反応する抗菌・抗ウィルス剤を表面に固定化した、セルロースナノファイバー水系溶媒分散体を溶性樹脂からなる水系媒体分散液を乾燥して、連続孔固体とすることで、本発明のフィルター濾材を作製することができる。
該抗菌・抗ウィルス剤を表面に固定化した未変性セルロースナノファイバーは、生体適合性を有する高分子分散剤を用いて水系溶媒に安定分散させており、食品工場又は医療施設などにおいて、人体への有害性の心配のないエアフィルター濾材を作製することができる。さらに、該セルロースナノファイバーの水系溶媒分散液には、水溶性樹脂とその架橋成分が添加されており、該分散液から連続孔固体を作製した後に、物理架橋処理を行なうことで、耐水性、耐熱性、強度などが高く、エアフィルター濾材とすることができる。
【0081】
<抗菌・抗ウィルス剤の固定化>
本発明では、抗菌・抗ウィルス剤として、トリアルコキシシリル基を含む抗菌・抗ウィルス剤を好適に使用することができる。
本発明の抗菌・抗ウィルス剤固定化方法は、表面に含酸素官能基を有する物品を用い、該ナノファイバーの表面に上記抗菌・抗ウィルス剤を塗布又は噴霧すること、或いは該ナノファイバーを上記抗菌・抗ウィルス剤中に浸漬することを特徴とする。すなわち、これら抗菌・抗ウィルス剤の固定化方法は、いずれも、表面に-OH基や-O-基等の含酸素官能基を有するセルロースナノファイバーを用い、その表面に上記抗菌・抗ウィルス剤を塗布又は噴霧する方法、或いはセルロースナノファイバーを上記抗菌・抗ウィルス剤中に浸漬する方法である。上述のとおり、上記抗菌・抗ウィルス剤はアルコキシシリル基を有するケイ素含有化合物を含んでいるため、かかるアルコキシシリル基がセルロースナノファイバーに存在する含酸素官能基(水酸基)と反応してエタノールを放出するとともに酸素を介して共有結合する。これにより、セルロースナノファイバー表面にトリアルコキシシリル基を含む抗菌・抗ウィルス剤中の抗菌部位が堅固に固定化され、被理物品表面に強い抗菌性能或と優れた持続性とが付与されることとなる。
【0082】
前記抗菌剤を固定化した前記フィルター濾材は、架橋処理を施すことにより、フィルター濾材の耐水性を高めることができる。架橋処理により水溶性又は水分散性を有する架橋性樹脂に3次元架橋構造が形成され、耐水性を高めることができる。前記架橋処理は、電離放射線照射による物理架橋又は加熱による化学架橋いずれでも良いが、操作ならびに条件コントロールの容易な化学架橋が好ましい。
架橋処理は、前記抗菌剤をフィルター濾材に固定化する前段階、又はあと段階いずれに行なってもよい。
【0083】
セルロースナノファイバーは、原料のセルロース繊維をからリグニンとへミセルロースを除去した後解繊し、ミクロフィブリル化したものである。セルロースナノファイバーの特徴として、比表面積が大きいうえに、リグニンやヘミセルロースが除去されていることから、単位量当たりの水酸基が未解繊状態のセルロース繊維よりも格段に多いといえる。特に水酸基が変性されていない未変性セルロースナノファイバーでは、上記抗菌・抗ウィルス剤に含まれるアルコキシシリル基との反応点が多い。そのため、未変性セルロースナノファイバーでは、上記抗菌・抗ウィルス剤がより強固に固定化され、流水等による流出が少なく、抗菌・抗ウィルス剤の抗菌作用がより強力に、長期に渡って発揮されることになる。
【実施例】
【0084】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお実施例中で用いた各成分、装置の詳細は下記のとおりである。
【0085】
[架橋性樹脂]
架橋性の水溶性又は水分散性を有する樹脂として、エポキシ樹脂エマルジョン(商品名:アデカレジン EM-0427WC、(株)アデカ製、固形分50重量%)を用いた。この樹脂の固形分に対して、架橋剤として酸アミン錯体(三フッ化ホウ素モノエチルアミン錯体、和光純薬(株)製)を5重量%添加した。
【0086】
[セルロースナノファイバー]
未変性セルロースナノファイバー(商品名:BiNFi-s、(株)スギノマシン製)5重量%水分散液として用いた。以下、「未変性CNF」と呼ぶことがある。
【0087】
[分散剤]
生体適合性のある高分子分散剤として、ポリメタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(商品名:リピジュアBL、水溶性、日油(株)製)を使用した。
[抗菌・抗ウィルス剤]
トリアルコキシシリル基を含む抗菌・抗ウィルス剤として、市販の抗菌・抗ウィルス剤A(商品名:Etak、マナック(株)製、エタノール含量80重量%のエタノール/水混合溶液)を用いた。
【0088】
[高速撹拌型メディアレス分散機]
アペックスディスパーザーZERO(商品名、(株)広島メタル&マシナリー製)を用いた。
【0089】
(実施例1)
以下、水溶液又は水分散液の形態で用いた成分の配合量を固形分量で示すが、これらはもちろん水を含んでいる。
エポキシ樹脂エマルジョン(アデカレジン EM-0427)50gに、架橋剤(酸アミン錯体)を2.5g(エポキシ樹脂エマルジョン固形分に対し5重量%)、未変性セルロースナノファイバー(BiNFi-s)を固形分で1.5g(エポキシ樹脂エマルジョン固形分に対し3重量%)、及び分散剤(リピジュアBL)0.075g(未変性CNFに対し5重量%)を、高速型メディアレス分散機(アペックスディスパーザーZERO)に同時に投入し、せん断部クリアランス1mm、ロータの回転周速45m/secに設定し、10分間の解繊処理を5回行い、固形分量38重量%の白濁液状の本発明の樹脂組成物の水分散液(以下単に「水分散液」と呼ぶことがある)を調製した。
【0090】
その後、該水分散液を凍結乾燥用の容器に移して、凍結乾燥機(東京理科器械(株)製、FD-1)用いて、-40℃で24時間凍結したのち10Paに減圧して、20℃で24時間減圧乾燥し、容器の形状に応じた固形の多孔質乾燥体を得た。該乾燥体を用いて、80℃で8時間加熱して化学架橋処理して、固形の架橋体を得た。該架橋体に、市販の抗菌剤である抗菌剤Aを2ml、スプレーにて一様に満遍なく吹きつけたのち常温で静置して溶媒を揮発させ、本発明の抗菌性フィルター濾材を作製した。
【0091】
作製した抗菌性フィルター濾材を精製水で充分に洗浄した後、常温で24時間静置して、精製水を乾燥させた。乾燥後の抗菌フィルター濾材を滅菌シャーレに移し、シャーレ上部を開放状態のまま、常温常圧にて無作動状態の扉を開放したドラフトチャンバー内に168時間静置し、抗菌性フィルター上のカビ又はバクテリアコロニー発生の有無を目視で確認した。カビ又はバクテリアコロニーが発生しなかったものを○、発生したものを×として評価した。
【0092】
(比較例1)
実施例1において、抗菌剤として抗菌剤Aから抗菌剤B(エタノール、試薬1級)に代えたほかは、実施例1と同様に操作してフィルター濾材を作製し、同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0093】
(比較例2)
実施例1において、抗菌剤として抗菌剤Aから抗菌剤C(商品名:スーパーミル88、(株)エプロ製、汎用防カビ剤)に代えたほかは、実施例1と同様に操作してフィルター濾材を作製し、同様の評価を行なった。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例3)
実施例1において、フィルター濾材を、本発明による未変性セルロースナノファイバー/水溶性樹脂/分散剤からなる乾燥固体から、ポリエチレン製不織布(商品名;タイベック、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ(株)製)に代えた以外は、同様に操作し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例4)
実施例1において、フィルター濾材を、本発明による未変性セルロースナノファイバー/水溶性樹脂/分散剤からなる乾燥固体から、実験用定性濾紙(商品名;アドバンテック、東洋濾紙(株)製)に代えた以外は、同様に操作し、同様の評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
【0097】
<実施例の効果>
以下の評価は、抗菌剤の種類の異なる抗菌性フィルター濾材の諸特性、および該フィルター濾材の材質による特性を比較したものであり、抗菌性フィルター全般の特性を評価するものではない。
【0098】
表1の結果より、ケイ素化合物を含む抗菌剤を、未変性セルロースナノファイバーからなるフィルター濾材に積層、固定化したフィルタ濾材は抗菌性(抗カビ性)が長時間にわたり保持されることが判った。該抗菌剤に含まれるシラノール基が、未変性セルロースナノファイバー表面の水酸基と化学結合し、強固に固定化され、流水で洗浄しても抗菌剤が流出せず、フィルター濾材の抗菌性が長時間保持される。
【0099】
ケイ素化合物を含む抗菌剤以外の抗菌剤を積層した前記フィルター濾材は、流水による洗浄で抗菌剤成分が流出し、抗菌(抗カビ)効果を示さなかった。
抗菌性は、フィルタ濾材として定性濾紙を用いた場合、及びフィルター濾材が表面に水酸基を持たないポリエチレン製不織布の場合では得られていない。定性濾紙は、濾材の素材がセルロースではあるものの、ミクロフィブリル化されていない未解繊状態で、セルロース繊維に存在する水酸基の数が少ない、そのため該抗菌剤との反応性が低く、流水洗浄により周出した抗菌剤成分が多いと考えられる。又濾材を構成する繊維がポリエチレンのように不活性である場合は、該抗菌剤が固定化されず、流水洗浄により流出して、抗菌性を保持しなくなることを示している。該抗菌剤に含まれるシラン化合物のシラノール基が未変性セルロースナノファイバーの水酸基と強く結合していることを示唆している。