(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】シール劣化診断装置及び流体圧システム
(51)【国際特許分類】
F15B 15/14 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
F15B15/14 335Z
F15B15/14 355Z
F15B15/14 355A
(21)【出願番号】P 2018093342
(22)【出願日】2018-05-14
【審査請求日】2020-11-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佑介
【審査官】北村 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-246562(JP,A)
【文献】実開昭59-153765(JP,U)
【文献】実開平02-145309(JP,U)
【文献】特開2001-132020(JP,A)
【文献】特開2001-140809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F15B 15/00-15/28
F15B 20/00-21/12
G01M 3/00- 3/40
E02F 9/00- 9/18; 9/24- 9/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッドの外周の隙間を通じた作動流体の漏れを防止するシール部材を有する流体圧シリンダを複数備える流体圧システムに用いられ、前記シール部材の劣化を診断するシール劣化診断装置であって、
前記流体圧システムは、前記流体圧シリンダとして、同一の駆動対象を駆動する第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダを有し、
前記シール劣化診断装置は、
前記第1流体圧シリンダに設けられ前記第1流体圧シリンダの前記ピストンロッドの外周の前記隙間を通過する作動流体を検出する第1検出器と、
前記第2流体圧シリンダに設けられ前記第2流体圧シリンダの前記ピストンロッドの外周の前記隙間を通過する作動流体を検出する第2検出器と、
前記第1検出器及び前記第2検出器の検出値に基づき、前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダの前記シール部材の劣化を診断するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記第1検出器
の前記検出値と判定の基準となる判定閾値とに基づき前記第1流体圧シリンダにおける作動流体の漏れの有無を判定すると共に、前記第2検出器の前記検出値と前記判定閾値とに基づき前記第2流体圧シリンダにおける作動流体の漏れの有無を判定する判定部と、
前記判定部によって前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダの一方に作動流体の漏れが発生していると判定された場合に、前記第1検出器と前記第2検出器の前記検出値を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づき前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダの前記シール部材の劣化状態を判定する状態判定部と、を有することを特徴とするシール劣化診断装置。
【請求項2】
前記比較部は、前記第1検出器と前記第2検出器の前記検出値の差分を算出し、
前記状態判定部は、前記検出値の差分が判定の基準となる状態判定閾値以上である場合には、一方の前記シール部材が偶発劣化した状態であると判定することを特徴とする請求項1に記載のシール劣化診断装置。
【請求項3】
前記比較部は、前記第1検出器と前記第2検出器の前記検出値の差分を算出し、
前記状態判定部は、前記検出値の差分が判定の基準となる状態判定閾値未満である場合には、寿命によって両方の前記シール部材が経時劣化した状態であると判定することを特徴とする請求項1又は2に記載のシール劣化診断装置。
【請求項4】
前記流体圧システムは、前記流体圧シリンダとして、前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダとは異なる駆動対象を駆動する第3流体圧シリンダを有し、
前記シール劣化診断装置は、前記第3流体圧シリンダに設けられ前記第3流体圧シリンダの前記ピストンロッドの外周の前記隙間を通過する作動流体を検出する第3検出器をさらに有し、
前記判定部は、前記第3検出器の検出値と判定の基準となる判定閾値に基づき、前記第3流体圧シリンダの作動流体の漏れの有無を判定すると共に、前記状態判定部によって前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダの前記シール部材が経時劣化したと判定された場合には、前記第3流体圧シリンダに対する判定閾値を小さくすることを特徴とする請求項2又は3に記載のシール劣化診断装置。
【請求項5】
前記流体圧システムは、前記流体圧シリンダとして、前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダとは異なる駆動対象を駆動する第3流体圧シリンダを有し、
前記シール劣化診断装置は、前記第3流体圧シリンダに設けられ前記第3流体圧シリンダの前記ピストンロッドの外周の前記隙間を通過する作動流体を検出する第3検出器をさらに有し、
前記第1検出器、前記第2検出器、及び前記第3検出器は、それぞれ所定の時間間隔ごとに前記第1流体圧シリンダ、前記第2流体圧シリンダ、及び前記第3流体圧シリンダにおける前記隙間内の作動流体を検出し、
前記コントローラは、前記第1検出器、前記第2検出器、及び前記第3検出器の動作を制御する制御部をさらに有し、
前記制御部は、前記状態判定部によって前記第1流体圧シリンダ及び前記第2流体圧シリンダの前記シール部材が経時劣化したと判定された場合には、前記第3検出器が作動流体を検出する前記時間間隔を短くすることを特徴とする請求項2又は3に記載のシール劣化診断装置。
【請求項6】
同一の駆動対象を駆動する第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダと、
請求項1から5のいずれか一つに記載のシール劣化診断装置と、を備えることを特徴とする流体圧システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール劣化診断装置及び流体圧システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シール材のメンテナンス時期を的確に把握して、液漏れの発生を防ぐための液漏れ検知ユニットが開示されている。この液漏れ検知ユニットは、油圧シリンダのピストンロッドの外周に接触し、ピストンロッドの外周上の流体側空間に作動流体を封止するためのロッドシールと、ピストンロッドの外周に接触し、ピストンロッドの軸方向においてロッドシールに対して流体側空間の反対側に配置されるダストシールと、ロッドシールからの作動流体の漏洩時、ロッドシールおよびダストシールの間の圧力上昇によりアラートを発信するアラート発信部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、複数の流体圧シリンダを備える流体圧システムにおいては、それぞれの流体圧シリンダに流体漏れ検知装置を取り付け、流体圧シリンダの流体漏れをそれぞれ検出していた。流体漏れ検知装置によって流体漏れが検知されると、その流体圧シリンダのシール部材のメンテナンスが行われる。
【0005】
ここで、シール部材の劣化には、例えば、衝撃などにより生じる偶発劣化と、寿命からくる経時劣化と、がある。偶発劣化の場合には、流体漏れが検知された流体圧シリンダのシール部材のみをメンテナンスすればよく、他の流体圧シリンダのシール部材をメンテナンスする必要はない。一方、寿命による経時劣化の場合には、流体漏れが検知された流体圧シリンダ以外の流体圧シリンダのシール部材においても同程度の劣化が生じている可能性がある。このため、経時劣化の場合には、流体漏れが検知された流体圧シリンダ以外についてもシール部材のメンテナンスをすることが効率上望ましい。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、複数の流体圧シリンダを備える流体圧システムにおいて、各流体圧シリンダのシール部材のメンテナンスを効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ピストンロッドの外周の隙間を通じた作動流体の漏れを防止するシール部材を有する流体圧シリンダを複数備える流体圧システムに用いられ、シール部材の劣化を診断するシール劣化診断装置であって、流体圧システムは、流体圧シリンダとして、同一の駆動対象を駆動する第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダを有し、シール劣化診断装置は、第1流体圧シリンダに設けられ第1流体圧シリンダのピストンロッドの外周の隙間を通過する作動流体を検出する第1検出器と、第2流体圧シリンダに設けられ第2流体圧シリンダのピストンロッドの外周の隙間を通過する作動流体を検出する第2検出器と、第1検出器及び第2検出器の検出値に基づき、第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダのシール部材の劣化を診断するコントローラと、を備え、コントローラは、第1検出器の検出値と判定の基準となる判定閾値とに基づき第1流体圧シリンダにおける作動流体の漏れの有無を判定すると共に、第2検出器の検出値と判定閾値とに基づき第2流体圧シリンダにおける作動流体の漏れの有無を判定する判定部と、判定部によって第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダの一方に作動流体の漏れが発生していると判定された場合に、第1検出器と第2検出器の検出値を比較する比較部と、比較部の比較結果に基づき第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダのシール部材の劣化状態を判定する状態判定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
本発明は、比較部は、第1検出器と第2検出器の検出値の差分を算出し、状態判定部は、検出値の差分が判定の基準となる状態判定閾値以上である場合には、一方のシール部材が偶発劣化した状態であると判定し、検出値の差分が状態判定閾値未満である場合には、寿命によって両方のシール部材が経時劣化した状態であると判定することを特徴とする。
【0009】
これらの発明では、判定部が第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダの一方に流体漏れが発生したと判定すると、比較部によって第1検出器及び第2検出器の検出値の比較が行われ、比較結果により劣化状態が判定される。このように、第1検出器及び第2検出器の検出値を比較することにより、他方の流体圧シリンダで流体漏れが発生していなくとも、第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダのそれぞれのシール部材の劣化状態を判定することができる。
【0010】
本発明は、流体圧システムが、流体圧シリンダとして、第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダとは異なる駆動対象を駆動する第3流体圧シリンダを有し、シール劣化診断装置は、第3流体圧シリンダに設けられ第3流体圧シリンダのピストンロッドの外周の隙間を通過する作動流体を検出する第3検出器をさらに有し、判定部は、第3検出器の検出値と判定の基準となる判定閾値に基づき、第3流体圧シリンダの作動流体の漏れの有無を判定すると共に、状態判定部によって第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダのシール部材が経時劣化したと判定された場合には、第3流体圧シリンダに対する判定閾値を小さくすることを特徴とする。
【0011】
本発明は、流体圧システムが、流体圧シリンダとして、第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダとは異なる駆動対象を駆動する第3流体圧シリンダを有し、シール劣化診断装置は、第3流体圧シリンダに設けられ第3流体圧シリンダのピストンロッドの外周の隙間を通過する作動流体を検出する第3検出器をさらに有し、第1検出器、第2検出器、及び第3検出器は、それぞれ所定の時間間隔ごとに第1流体圧シリンダ、第2流体圧シリンダ、及び第3流体圧シリンダにおける隙間内の作動流体を検出し、コントローラは、第1検出器、第2検出器、及び第3検出器の動作を制御する制御部をさらに有し、制御部は、状態判定部によって第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダのシール部材が経時劣化したと判定された場合には、第3検出器が作動流体を検出する時間間隔を短くすることを特徴とする。
【0012】
これらの発明によれば、シール部材が経時劣化している第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダと同様にシール部材が経時劣化している可能性が高い第3流体圧シリンダに対して、油漏れの発生を早期に検知することができる。
【0013】
本発明は、流体圧システムであって、同一の駆動対象を駆動する第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダと、上記のいずれか一つに記載のシール劣化診断装置と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、複数の流体圧シリンダにおけるシール部材のメンテナンスが効率化される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る流体圧システム及びシール劣化診断装置の構成を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る油圧シリンダを示す一部断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る油圧シリンダの一部拡大断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係るシール劣化診断装置を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るシール劣化診断装置の検出器が検出する圧力波形の一例を示した模式図であり、(a)がシール部材に偶発劣化が生じている場合の第1検出器の検出結果、(b)が(a)に対応する第2検出器の検出結果を示すものである。
【
図6】本発明の実施形態に係るシール劣化診断装置の検出器が検出する圧力波形の一例を示した模式図であり、(a)がシール部材に経時劣化が生じている場合の第1検出器の検出結果、(b)が(a)に対応する第2検出器の検出結果を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るシール劣化診断装置100及びこれを備える流体圧システム101について説明する。
【0017】
まず、
図1を参照して、流体圧システム101の全体構成について説明する。
【0018】
流体圧システム101は、建設機械、特に油圧ショベルに用いられ、複数の流体圧シリンダに給排される作動流体の流れを制御して、流体圧シリンダを駆動させるものである。
【0019】
流体圧システム101は、
図1に示すように、ブーム,アーム,及びバケットといった駆動対象(図示省略)を駆動する複数の流体圧シリンダとしての油圧シリンダ1と、各油圧シリンダ1に給排される作動油(作動流体)を制御して油圧シリンダ1の作動を制御する流体圧制御装置102と、各油圧シリンダ1に設けられるシール部材としてのロッドシール10(
図3参照)の劣化を診断するシール劣化診断装置100と、を備える。
【0020】
流体圧システム101では、一対の油圧シリンダ1を互いに同期させて作動することにより一つの駆動対象を駆動する。つまり、
図1に示すように、流体圧システム1は、油圧シリンダ1として、アームを駆動する一対のアーム用油圧シリンダ(以下、単に「一対のアームシリンダ」と称し、符号「1a」、「1b」を付して説明する。)、ブームを駆動する一対のブーム用油圧シリンダ(以下、単に「一対のブームシリンダ」と称し、符号「1c」、「1d」を付して説明する。)、バケットを駆動する一対のバケット用油圧シリンダ(以下、単に「一対のバケットシリンダ」と称し、符号「1e」、「1f」を付して説明する。)、の計6本の油圧シリンダ1を備える。
【0021】
図2に示すように、油圧シリンダ1は、筒状のシリンダチューブ2と、シリンダチューブ2に挿入されるピストンロッド3と、ピストンロッド3の基端に設けられるピストン4と、を備える。ピストン4は、シリンダチューブ2の内周面に沿って摺動自在に設けられる。シリンダチューブ2の内部は、ピストン4によってロッド側室(流体圧室)2aと反ロッド側室2bとに区画される。
【0022】
ピストンロッド3は、先端がシリンダチューブ2の開口端から延出している。図示しない油圧源からロッド側室2a又は反ロッド側室2bに選択的に作動油が導かれると、ピストンロッド3は、シリンダチューブ2に対して移動する。これにより、油圧シリンダ1は伸縮作動する。
【0023】
シリンダチューブ2の開口端には、ピストンロッド3が挿通するシリンダヘッド5が設けられる。シリンダヘッド5は、複数のボルト6を用いてシリンダチューブ2の開口端に締結される。
【0024】
また、油圧シリンダ1は、
図3に示すように、シリンダヘッド5に設けられピストンロッド3の外周面とシリンダヘッド5の内周面との間の環状の隙間(以下、「環状隙間8」と称する。)を封止するロッドシール10と、シリンダヘッド5に設けられて環状隙間8を封止し、ロッドシール10と共に検出空間20を区画する検出シール11と、検出空間20に連通する連通路21と、連通路21の圧力がリリーフ圧に達すると開弁して連通路21の圧力を逃がすリリーフ弁30と、リリーフ弁30及び後述するシール劣化診断装置100の圧力センサ(検出器)50を収容するハウジング40と、を備える。
【0025】
シリンダヘッド5の内周には、ロッドシール10、ブッシュ12、検出シール11、ダストシール13が、基端側(
図3中右側)から先端側(
図3中左側)に向かってこの順で介装される。ロッドシール10、ブッシュ12、検出シール11、ダストシール13は、それぞれシリンダヘッド5の内周に形成される環状溝5a,5b,5c,5dに収容される。
【0026】
ブッシュ12がピストンロッド3の外周面に摺接することにより、ピストンロッド3がシリンダチューブ2の軸方向に移動するように支持される。
【0027】
ロッドシール10は、ピストンロッド3の外周とシリンダヘッド5の内周の環状溝5aとの間で圧縮されており、これにより環状隙間8を封止する。ロッドシール10によって、ロッド側室2a(
図2参照)内の作動油が外部に漏れることが防止される。ロッドシール10は、いわゆるUパッキンである。
【0028】
ダストシール13は、シリンダチューブ2の外部に臨むようにシリンダヘッド5に設けられて、環状隙間8を封止する。ダストシール13は、ピストンロッド3の外周面に付着するダストをかき出して、外部からシリンダチューブ2内へのダストの侵入を防止する。
【0029】
検出シール11は、ロッドシール10と同様に、ピストンロッド3の外周とシリンダヘッド5の内周の環状溝5cとの間で圧縮されており、これにより環状隙間8を封止する。検出シール11は、ロッドシール10とダストシール13の間に設けられて、ロッドシール10と共に検出空間20を区画する。つまり、検出空間20は、ピストンロッド3、シリンダヘッド5、ロッドシール10、及び検出シール11(本実施形態では、これに加えてブッシュ12)によって区画される空間である。検出シール11は、ロッドシール10と同様、Uパッキンである。
【0030】
連通路21は、検出空間20に連通するように、シリンダヘッド5及びハウジング40にわたって形成される。連通路21は、シリンダヘッド5に形成され検出空間20に開口する第1連通路22と、ハウジング40に形成され第1連通路22に連通する第2連通路23と、を有する。連通路21には、ロッドシール10から漏れ出すロッド側室2aの作動油が検出空間20を通じて導かれる。
【0031】
リリーフ弁30は、第2連通路23における作動油の圧力が所定の圧力(リリーフ圧)に達すると開弁し、第2連通路23を通じて検出空間20内の作動油を外部に排出する。これにより、検出空間20内の圧力は、リリーフ弁30によってリリーフ圧に制限される。リリーフ弁30の構造は、公知の構成を採用することができるため、詳細な図示及び説明は省略する。
【0032】
ハウジング40は、シリンダヘッド5の端部に圧入により固定される。ハウジング40には、シール劣化診断装置100の圧力センサ50を収容するセンサ収容穴41と、リリーフ弁30を収容するバルブ収容穴42と、がさらに形成される。センサ収容穴41及びバルブ収容穴42は、それぞれ第2連通路23に連通し、バルブ収容穴42がセンサ収容穴41よりも第1連通路22側(上流側)において第2連通路23に連通している。
【0033】
流体圧制御装置102は、公知の構成を採用できるため、詳細な図示及び説明を省略する。流体圧制御装置102は、油圧ポンプ(油圧源)から各油圧シリンダ1に導かれる作動油の流れを制御して、各油圧シリンダ1を作動させる。
【0034】
シール劣化診断装置100は、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1ごとにロッドシール10の劣化状態を診断するものである。
【0035】
シール劣化診断装置100は、
図1,3,4に示すように、油圧シリンダ1における検出空間20内の圧力を検出して環状隙間8を通過する作動油を検出する検出器としての圧力センサ50と、圧力センサ50の検出値に基づき油圧シリンダ1のロッドシール10の劣化を診断するコントローラ60と、油圧シリンダ1のロッドシール10の劣化を報知する報知部70と、を備える。
【0036】
圧力センサ50は、各油圧シリンダ1のそれぞれに設けられる。圧力センサ50は、
図3に示すように、ハウジング40に形成されるセンサ収容穴41に一部が収容され、第1連通路22及び第2連通路23を通じて検出空間20から導かれる作動油の圧力を検出する。また、圧力センサ50は、ハウジング40の第2連通路23に連通するねじ孔24に螺合により固定される。
【0037】
圧力センサ50は、所定の時間間隔ごとに、所定の時間(検出期間)の間だけ、所定のサンプリング周期で、検出空間20内の圧力を測定する。このように、圧力センサ50は、検出空間20内の圧力を常時(連続的に)検出するものではなく、所定の検出間隔をあけて(間欠的に)圧力を検出するため、消費電力を低減することができる。圧力センサ50は、圧力の検出が終了すると、検出結果をコントローラ60に無線送信する。
【0038】
コントローラ60は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。コントローラ60は、複数のマイクロコンピュータで構成されてもよい。コントローラ60は、少なくとも、本実施形態や変形例に係る制御を実行するために必要な処理を実行可能となるようにプログラムされている。なお、コントローラ60は一つの装置として構成されていても良いし、複数の装置に分けられ、本実施形態における各制御を当該複数の装置で分散処理するように構成されていてもよい。
【0039】
コントローラ60は、
図4に示すように、各圧力センサ50が検出した検出値(圧力データ)に基づいて、各油圧シリンダ1における作動油の漏れの有無を判定する判定部61と、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1の一方に作動油の漏れが発生していると判定された場合に、一対の油圧シリンダ1に設けられる圧力センサ50の検出値を比較する比較部62と、比較部62の比較結果に基づき一対の油圧シリンダ1におけるロッドシール10の劣化状態を判定する状態判定部63と、各圧力センサ50の動作を制御する制御部64と、を備える。
【0040】
判定部61は、各圧力センサ50の検出値から油漏れの判定に利用する判定値を取得する。判定部61は、当該判定値が判定の基準となる判定閾値Pc以上であるか否かを判定することで、油漏れの有無を判定する。判定部61の判定結果は、比較部62に入力される。
【0041】
判定値は、検出期間内における圧力センサ50の検出値の最大値(最大圧力)である。なお、判定値は、最大値に限らず、例えば平均値など、圧力データを演算して算出される値であってもよい。
【0042】
一対の油圧シリンダ1は、互いに同期するように作動が制御され同一の駆動対象を駆動するものであるため、互いに同一の判定閾値Pcにより油漏れが判定される。判定閾値Pcは、それぞれの油圧シリンダ1が駆動する駆動対象に応じて異なる値に設定される。なお、これに限らず、駆動対象が異なる場合であっても、同一の判定閾値Pcを用いてもよい。また、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1に対して、異なる判定閾値Pcによって油漏れを検知してもよい。
【0043】
比較部62は、判定部61によって油圧シリンダ1のいずれかに油漏れが発生していると判定されると、油漏れが発生した油圧シリンダ1と、この油圧シリンダ1と対になる油圧シリンダ1とにおける圧力センサ50の検出値を比較する。具体的には、比較部62は、一対の油圧シリンダ1における圧力センサ50の最大値の差分を算出する。比較部62が算出した差分は、状態判定部63に入力される。
【0044】
状態判定部63は、比較部62の比較結果に基づき、油漏れが発生した油圧シリンダ1及びこれと対になる油圧シリンダ1におけるロッドシール10の劣化状態を診断する。具体的には、状態判定部63は、比較部62が算出した差分値が、判定の基準となる状態判定閾値Pcg以上であるか否かを判定することで、ロッドシール10の劣化状態を診断する。状態判定部63が診断する劣化状態としては、衝撃が作用するなどにより偶発的に生じたロッドシール10の劣化(偶発劣化)であるのか、ロッドシール10の寿命による劣化(経時劣化)であるのか、がある。つまり、偶発劣化は、アクシデントなどによる偶発的な負荷に起因するもの(損傷)であり、経時劣化は、ピストンロッド3の往復動等の定常的な負荷に起因するもの(摩耗)である。状態判定部63の診断結果は、判定部61、制御部64、報知部70に入力される。なお、状態判定閾値Pcgは、駆動対象が異なる一対の油圧シリンダ1の組に対して、同じ値を用いてもよいし、異なる値を用いてもよい。
【0045】
制御部64は、状態判定部63によって、一対の油圧シリンダ1のロッドシール10が経時劣化していると判定されると、後述する精度向上処理として、他の油圧シリンダ1に設けられる圧力センサ50の検出間隔を短くする。
【0046】
報知部70は、状態判定部63の判定結果を識別可能な形態で報知する。報知部70は、例えば、警告ランプや警告音を発する警報器である。報知部70の報知により、例えば、ロッドシール10の交換時期に達したことがオペレータに通知される。
【0047】
次に、シール劣化診断装置100の作用について説明する。
【0048】
シール劣化診断装置100は、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1ごとにロッドシール10の劣化状態を診断する。本実施形態では、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1を3組備えるため、一対のアームシリンダ1a,1b、一対のブームシリンダ1c,1d、一対のバケットシリンダ1e,1fに対して、それぞれ劣化診断を行う。また、シール劣化診断装置100は、3つの油圧シリンダ1の組のうち、いずれか1組が経時劣化であるとの診断がなされると、他の2組に対する劣化診断の条件を変更して、劣化診断の精度を向上させる精度向上処理を実行する。
【0049】
一対のアームシリンダ1a,1b、一対のブームシリンダ1c,1d、一対のバケットシリンダ1e,1fに対する劣化診断は、互いに同様であるため、以下では、一対のアームシリンダに対する劣化診断を例に、シール劣化診断装置100によるシール劣化診断方法について説明する。以下の説明では、一対のアームシリンダ1a,1bがそれぞれ第1流体圧シリンダ及び第2流体圧シリンダに相当する。以下では、一方のアームシリンダ1aを「第1アームシリンダ1a」、他方のアームシリンダ1bを「第2アームシリンダ1b」とも称する。また、第1アームシリンダ1aに設けられる圧力センサ50を「第1圧力センサ50a」(第1検出器)、第2アームシリンダ1bに設けられる圧力センサ50を「第2圧力センサ50b」(第2検出器)、第1アームシリンダ1aに設けられるロッドシール10を「第1シール10a」、第2アームシリンダ1bに設けられるロッドシール10を「第2シール10b」とも称する。なお、
図3では、第1シール10a及び第2シール10bを、括弧内の符号により示している。
【0050】
図5及び
図6は、横軸を時間T、縦軸を検出圧力Pとして、検出期間(T1-T0)における第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bが検出した圧力をプロットし、模式的に示したグラフ図である。
図5及び
図6では、それぞれ(a)が第1圧力センサ50aの検出結果、(b)が(a)に対応する第2圧力センサ50bの検出結果を示す。
【0051】
まず、所定の時間間隔で検出される第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bの検出結果が判定部61に入力されると、第1アームシリンダ1a及び第2アームシリンダ1bにおいて、油漏れが発生しているかが判定される。具体的には、判定部61は、第1圧力センサ50aが検出した圧力の最大値P1が判定閾値Pc以上であれば、第1アームシリンダ1aにおいて油漏れが発生していると判定する。同様に、判定部61は、第2圧力センサ50bが検出した圧力の最大値P2が判定閾値Pc以上であれば、第2アームシリンダ1bにおいて油漏れが発生していると判定する。
【0052】
なお、本明細書における「油漏れが発生していない」とは、厳密な意味ではなく、ロッドシール10を超えて作動油が検出空間20内に全く漏れ出していないことのみを意味するものではない。例えば、作動油がロッド側室2aから検出空間20内に漏れ出した場合であっても、ロッドシール10の劣化(偶発劣化・経時劣化)が許容される程度である場合には、判定部61は「油漏れが発生していない」と判定する。つまり、「油漏れが発生している」とは、ロッドシール10の劣化(偶発劣化・経時劣化)が許容範囲を超えた状態を指すものである。よって、判定閾値Pcは、許容されるロッドシール10の劣化(偶発劣化・経時劣化)の程度に応じて設定される。
【0053】
判定部61によって、第1アームシリンダ1aと第2アームシリンダ1bのいずれかに油漏れが発生していると判定されると、比較部62によって、第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bが検出した圧力の最大値の差分(=|P1-P2|)が算出される。比較部62によって算出された圧力の最大値の差分(以下、単に「差分値」と称する。)は、状態判定部63に入力される。
【0054】
状態判定部63は、比較部62が算出した差分値に基づき、第1シール10a及び第2シール10bの劣化状態を判定する。
【0055】
例えば、偶発的に第1シール10aのみが損傷して偶発劣化が生じた場合には、第1アームシリンダ1aにのみ油漏れが発生し、第2アームシリンダ1bには油漏れが発生しない。この場合には、
図5に示すように、第1圧力センサ50aが検知した最大値P1は判定閾値Pc以上であるのに対し、第2圧力センサ50bが検知した最大値P2は、判定閾値Pcよりも小さい。
【0056】
一方、同一の駆動対象を駆動する第1アームシリンダ1a及び第2アームシリンダ1bでは、第1シール10a及び第2シール10bの摩耗による劣化は、互いに同程度となる。よって、偶発劣化が生じず、摩耗による経時劣化が生じている場合には、
図6に示すように、第1圧力センサ50aの検出値と第2圧力センサ50bの検出値とは、ほぼ同じ値となり、圧力の差分値は状態判定閾値Pcgよりも小さくなる。
【0057】
よって、状態判定部63は、圧力の差分値が、状態判定閾値Pcg以上であると判定されると、油漏れが生じた第1シール10a及び第2シール10bの一方が偶発劣化していると判定する。
【0058】
反対に、圧力の差分値が状態判定閾値Pcgよりも小さい場合には、第1シール10a及び第2シール10bの両方が経時劣化していると判定する。このように、圧力の差分値が状態判定閾値Pcgよりも小さい場合には、第1及び第2アームシリンダ1a,1bの一方で油漏れが発生し、他方で油漏れが発生されていなかったとしても、第1及び第2シール10a,10bの両方が寿命による経時劣化していると判定する。
【0059】
状態判定部63の判定結果は、報知部70に入力され、報知部70は判定結果に応じた警報を発報する。
【0060】
以上のように、本実施形態におけるシール劣化診断方法では、第1アームシリンダ1a及び第2アームシリンダ1bの一方で油漏れが検知された際、第1圧力センサ50aと第2圧力センサ50bの検出結果を比較する。これにより、第1シール10a及び第2シール10bの一方のみが偶発的に劣化したのか、寿命によって両方が劣化しているのか、といった劣化状態を判定できる。偶発劣化の場合には、油漏れが発生したシール部材のみを交換すればよく、経時劣化の場合には、油漏れが発生したシール部材と油漏れが発生する可能性が高いシール部材とを同時に交換できるため、メンテナンス効率が向上する。
【0061】
ここで、第1シール10a及び第2シール10bが寿命である(経時劣化している)場合には、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fのロッドシール10も寿命であったり、寿命が近づいている可能性が高い。そこで、シール劣化診断装置100では、第1シール10a及び第2シール10bが経時劣化していると診断されると、他の油圧シリンダ1に対する劣化診断の精度を向上させるために、劣化診断の条件を厳しくする精度向上処理が実行される。なお、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fのそれぞれが「第3流体圧シリンダ」に相当し、これらに設けられる圧力センサ50が「第3検出器」に相当する。一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fに設けられる圧力センサ50を「第3圧力センサ50c」とも称する。
【0062】
精度向上処理では、第1及び第2アームシリンダ1a,1bの第1及び第2シール10a,10bが経時劣化していると判定されると、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fにおいて油漏れを判定するための判定閾値Pcの値を小さくする。これにより、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fでは、油漏れが発生していると判定されやすくなるため、油漏れの発生を早期に検知することができる。
【0063】
さらに、精度向上処理では、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fに設けられる第3圧力センサ50cの検出間隔が短縮される。これにより、より短い頻度で第3圧力センサ50cが圧力値を検出するため、油漏れの発生をより早期に検知することができる。なお、精度向上処理として、第3圧力センサ50cの検出期間を延長してもよい。
【0064】
このように、精度向上処理を行うことにより、油漏れが発生した一対のアームシリンダ1a,1b以外の油圧シリンダ1に対しても、早期に油漏れの発生を検知できる。
【0065】
以上のようにして、シール劣化診断装置100により各油圧シリンダ1のロッドシール10の劣化を知ることができる。したがって、ロッドシール10の交換時期を容易に管理することができる。
【0066】
次に、本実施形態の変形例について説明する。
【0067】
上記実施形態では、流体圧シリンダが油圧シリンダ1である場合について説明した。これに限らず、作動流体としては、例えば、水やその他の液体が用いられてもよい。また、油圧シリンダ1は、両ロッド型のものでもよいし、ロッド側室2aにのみ作動油が給排される単動型のものでもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、精度向上処理として、一対のブームシリンダ1c,1d及び一対のバケットシリンダ1e,1fの劣化診断における判定閾値Pcの変更と、圧力センサ50(第3検出器)の検出間隔の短縮と、圧力センサ50(第3検出器)の検出間隔の延長と、がある。精度向上処理は、これらの一部が実行されるものでもよいし、すべてが実行されるものでもよい。
【0069】
また、精度向上処理は、特定の条件においてのみ実行されるものでもよい。アームシリンダ1a,1b、ブームシリンダ1c,1d、及びバケットシリンダ1e,1fは、ピストンロッド3の摺動距離や摺動速度、使用圧力、シリンダチューブ2内の温度等が異なるため、許容されるロッドシール10の劣化(寿命)が異なることがある。よって、例えば、一般的に寿命が比較的長いブームシリンダ1c,1dにおいて経時劣化が診断された場合にのみ、アームシリンダ1a,1b及びバケットシリンダ1e,1fへの劣化診断に対して精度向上処理を実行する、という構成にしてもよい。また、精度向上処理は、必ずしも実行されなくてもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、流体圧システム101は、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1を3組(アームシリンダ1a,1b、ブームシリンダ1c,1d、及びバケットシリンダ1e,1f)備える。これに対し、流体圧システム101は、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1を1、2、又は4組以上備えるものでもよい。例えば、流体圧システム101は、駆動対象としてブームを駆動する一対の油圧シリンダ1(ブームシリンダ1c,1d)と、それぞれ駆動対象としてアーム及びバケットを駆動する単一の油圧シリンダ1と、を備えるものでもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、検出器は、圧力を測定可能な圧力センサである。これに対し、検出器は、温度を測定可能な温度センサであり、シール劣化診断装置100は、検出器が測定する温度に基づきロッドシール10の劣化を診断するものでもよい。また、検出器は、検出空間20内の油漏れを検出可能であれば、圧力及び温度以外の状態量を測定するものでもよい。例えば、検出器は、検出空間20の誘電率を測定して、検出空間20内に導かれる作動油の量を測定するレベルセンサのようなものでもよい。
【0072】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0073】
シール劣化診断装置100では、同一の駆動対象を駆動する一対の油圧シリンダ1の一方で油漏れが検知された際、他方の油圧シリンダ1と検出結果を比較することで、一方の油圧シリンダ1のロッドシール10のみが偶発的に劣化(偶発劣化)したのか、寿命によって両方のロッドシール10が劣化(経時劣化)しているのか、といった劣化状態を判定できる。偶発劣化の場合には、油漏れが発生した油圧シリンダ1のロッドシール10のみを交換すればよく、経時劣化の場合には、油漏れが発生した油圧シリンダ1のロッドシール10と油漏れが発生する可能性が高い油圧シリンダ1のロッドシール10とを同時に交換できるため、メンテナンス効率が向上する。
【0074】
また、シール劣化診断装置100では、一対の油圧シリンダ1のロッドシール10が経時劣化している場合には、油漏れ発生を判定する判定閾値Pcを下げると共に、他の油圧シリンダ1に設けられる圧力センサ50の検出間隔を短縮する精度向上処理が実行される。これにより、他の油圧シリンダ1における油漏れの発生を早期に検知することができる。
【0075】
以下、本発明の実施形態の構成、作用、及び効果をまとめて説明する。
【0076】
ピストンロッド3の外周の隙間を通じた作動流体の漏れを防止するロッドシール10を有する油圧シリンダ1を複数備える流体圧システム101に用いられ、ロッドシール10の劣化を診断するシール劣化診断装置100は、第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)に設けられ第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)のピストンロッド3の外周の環状隙間8を通過する作動油を検出する第1圧力センサ50aと、第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)に設けられ第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のピストンロッド3の外周の環状隙間8を通過する作動油を検出する第2圧力センサ50bと、第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bの検出値に基づき、第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のロッドシール10の劣化を診断するコントローラ60と、を備え、コントローラ60は、第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bの検出値と判定の基準となる判定閾値Pcとに基づき、第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のそれぞれにおける作動油の漏れの有無を判定する判定部61と、判定部61によって第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)の一方に作動油の漏れが発生していると判定された場合に、第1圧力センサ50aと第2圧力センサ50bの検出値を比較する比較部62と、比較部62の比較結果に基づき第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のロッドシール10の劣化状態を判定する状態判定部63と、を有する。
【0077】
また、シール劣化診断装置100では、比較部62は、第1圧力センサ50aと第2圧力センサ50bの検出値の差分を算出し、状態判定部63は、検出値の差分が判定の基準となる状態判定閾値Pcg以上である場合には、一方のロッドシール10が偶発劣化した状態であると判定し、検出値の差分が状態判定閾値Pcg未満である場合には、寿命によって両方のロッドシール10が経時劣化した状態であると判定する。
【0078】
これらの構成では、判定部61が第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)の一方に油漏れが発生したと判定すると、比較部62によって第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bの検出値の比較が行われ、比較結果により劣化状態が判定される。このように、第1圧力センサ50a及び第2圧力センサ50bの検出値を比較することにより、他方の流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a、第2アームシリンダ1b)で油漏れが発生していなくとも、第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のそれぞれのロッドシール10の劣化状態を判定することができる。したがって、複数の油圧シリンダ1(第1アームシリンダ1a、第2アームシリンダ1b)におけるロッドシール10のメンテナンスが効率化される。
【0079】
また、流体圧システム101は、油圧シリンダ1として、第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)とは異なる駆動対象を駆動する第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)を有し、シール劣化診断装置100は、第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)に設けられ第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)のピストンロッド3の外周の環状隙間を通過する作動油を検出する第3圧力センサ50cをさらに有し、判定部61は、第3圧力センサ50cの検出値と判定の基準となる判定閾値Pcに基づき、第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)の作動油の漏れの有無を判定すると共に、状態判定部63によって第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のロッドシール10が経時劣化したと判定された場合には、第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)に対する判定閾値Pcを小さくする。
【0080】
また、第1圧力センサ50a、第2圧力センサ50b、及び第3圧力センサ50cは、それぞれ所定の時間間隔ごとに第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)、第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)、及び第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)における隙間内の作動油を検出し、コントローラ60は、第1圧力センサ50a、第2圧力センサ50b、及び第3圧力センサ50cの動作を制御する制御部64をさらに有し、制御部64は、状態判定部63によって第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)のロッドシール10(第1シール10a,第2シール10b)が経時劣化したと判定された場合には、第3圧力センサ50cが作動油を検出する時間間隔を短くする。
【0081】
これらの構成によれば、ロッドシール10が経時劣化している第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)と同様にロッドシール10が経時劣化している可能性が高い第3流体圧シリンダ(ブームシリンダ1c,1d、バケットシリンダ1e,1f)に対して、油漏れの発生を早期に検知することができる。
【0082】
また、流体圧システム101は、同一の駆動対象を駆動する第1流体圧シリンダ(第1アームシリンダ1a)及び第2流体圧シリンダ(第2アームシリンダ1b)と、シール劣化診断装置100と、を備える。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0084】
1…油圧シリンダ(流体圧シリンダ)、1a…第1アームシリンダ(第1流体圧シリンダ)、1b…第2アームシリンダ(第2流体圧シリンダ)、1c,1d…ブームシリンダ(第3流体圧シリンダ),1e,1f…バケットシリンダ(第3流体圧シリンダ)、3…ピストンロッド、8…環状隙間(隙間)、10…ロッドシール(シール部材)、50a…第1圧力センサ(第1検出器)、50b…第2圧力センサ(第2検出器)、50c…第3圧力センサ(第3検出器)、60…コントローラ、61…判定部、62…比較部、63…状態判定部、64…制御部、100…シール劣化診断装置、101…流体圧システム