(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-03-01
(45)【発行日】2022-03-09
(54)【発明の名称】工作機械の数値制御装置
(51)【国際特許分類】
G05B 19/18 20060101AFI20220302BHJP
【FI】
G05B19/18 X
(21)【出願番号】P 2018128138
(22)【出願日】2018-07-05
【審査請求日】2021-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福井 憲之
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065199(JP,A)
【文献】特開2002-333908(JP,A)
【文献】特開2003-281611(JP,A)
【文献】特開2008-087095(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0294688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具を装着、回転させることで被加工物を切削加工する主軸と、前記主軸に装着された前記切削工具を交換する自動工具交換装置と、前記主軸または前記主軸のハウジングに取り付けられた振動検出装置と、を備えた工作機械の制御を行う数値制御装置において、
前記振動検出装置からの振動情報を取得する取得手段と、
前記自動工具交換装置における自動工具交換動作中の振動情報に、規定のレベルを超える振動情報がなかった場合に、前記振動検出装置に異常が発生したと判定する判定手段と、
を備えたことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
診断のON及びOFFを行うスイッチ手段を備え、
前記スイッチ手段がONされている場合に、前記判定手段は、前記振動検出装置に異常が発生したと判定することを特徴とする請求項1に記載の数値制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の数値制御装置に関し、特に、切削工具を装着する主軸に振動検出装置を備え、加工時の切削工具のびびり振動の判定や、主軸軸受の診断などを行うものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の工作機械では、切削工具を装着した主軸を回転させ、被加工物を切削加工する際に、切込や切削量に対する切削工具の剛性不足等の理由によりびびり振動が発生し、被加工物の加工面がびびり振動に応じたムラ模様がついてしまうことがあった。この課題を解決すべく、切削工具の固有振動数と、切削工具の回転数と刃数とから発生する加工時の振動数とが合致するのを避けるよう加工する工作機械も知られている。しかしながら、切削工具の固有振動数と、加工時の振動数とが合致しない回転数を探るには、十分な経験や勘を有する熟練者でも試行錯誤が必要であり、時間を要する作業であった。そのため、熟練者であっても、びびり振動が発生した場合には、切込量を浅くして加工することも少なくなかった。
【0003】
近年の工作機械にあっては、切削工具ごとに限界切込量に応じた安定限界線図を予め制御装置側に記憶させ、主軸に具備した振動検出装置からの加工振動情報をもとに、加工時の振動周波数が切削工具のびびり振動と一致したと判定し、且つ振動レベルがある閾値を超えたと判定すれば、安定領域へと主軸の回転数を変更する等の機能を備えた技術が紹介されている。先行技術文献として、下記特許文献1や下記特許文献2などが挙げられる。
【0004】
また、主軸軸受に異常、或いは、異常な兆候があった場合に発生する特徴的な振動を、振動検出装置にて検出することで、主軸軸受の診断を行う工作機械の数値制御装置も見られる。
【0005】
さて、前述した振動検出装置には、加速度センサが内包されたものを使用することが一般的であり、センサ素子としては、検出感度や堅牢性といった観点から、圧電素子が使用されることが多かった。
図3は、振動検出装置の概略構成図である。圧電素子302の両端には、電極304a,bを形成しており、電極304b片側は振動検出装置301のフレームグラウンドに接続されている。もう片側の電極304aは、増幅器303に接続されている。これら圧電素子302や増幅器303は、振動検出装置301としての筐体に封入されており、図示はしないが、ボルトや接着剤などで主軸に固定されている。びびり振動などで主軸が振動すると、振動検出装置301にも伝達され、圧電素子302が振動する。振動に伴う圧電効果によって、圧電素子302は電圧を発生させ、増幅器303で所定のレベルに増幅後、外部の数値制御装置へ振動情報OUTとして出力される。数値制御装置は、振動情報OUTをアナログ・デジタル変換してデジタル情報とし、びびり振動や主軸軸受診断に使用する。
【0006】
ここで、圧電素子302の振動に伴う電圧出力は、0Vを中心として、プラスマイナスに振れる。振動がない時は、当然ながら0Vの出力のままである。よって、圧電素子302が故障し、振動が加えられても全く電圧出力がなくなってしまった場合や、圧電素子302と増幅器303との間の接続線が断線した場合などは、増幅器303からの振動情報OUTは、0Vのままとなってしまう。数値制御装置側としては、振動情報OUTが0Vである時、主軸に振動が加わっていないのか、圧電素子302が故障しているのか、圧電素子302と増幅器303との間の接続線が断線しているのか、について、分からない状態であった。つまり、びびり振動や主軸軸受の損傷に伴う異常な振動が発生していても、圧電素子302の故障などで電圧出力が無い場合は、数値制御装置側では、それに気付くことができないということである。そこで、主軸に固定した振動検出装置301が、正しく機能していることを確かめる方法として、主軸をソフトハンマーなどで軽打して振動を与え、数値制御装置に表示される振動情報の変化の有無を目視で行うというものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-213830公報
【文献】特開2012-56072公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主軸に振動検出装置を備えた工作機械の数値制御装置にあっては、振動検出装置に内包したセンサ素子の振動-電圧出力特性が、0Vを中心として出力されるときは、例えば、センサ素子の故障によって電圧出力が途絶えた場合や、振動検出装置内でのセンサ素子と増幅器との間の接続線が断線し出力が途絶えた場合には、実際に主軸に振動が発生していても、気付けなかった。このような事が起きると、びびり振動や主軸軸受の異常などが発生していても分からないということであり、是即ち、びびり振動抑制機能や主軸軸受診断機能などの本来の機能を果たせなくなり、加工不具合や工具折損、軸受破損といった重大な事態を招くおそれもあった。これを回避するために、例えば、びびり振動抑制機能や主軸軸受診断機能を使用する始業前点検や定期点検を、使用者によってソフトハンマーなどで確認したのでは手間がかかってしまう。この使用者による確認行為は手間がかかるため、例えば1回/日程度の頻度でしか行われず、1日の中で振動検出装置に内包したセンサ素子の破損などが起きた時には、結局、翌日の始業前点検まで気付けないことも考えられる。
【0009】
本発明の目的は、工作機械の振動検出装置に異常が発生した場合に、比較的短時間でそれに気付くことが可能な数値制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る数値制御装置は、切削工具を装着、回転させることで被加工物を切削加工する主軸と、前記主軸に装着された前記切削工具を交換する自動工具交換装置と、前記主軸または前記主軸のハウジングに取り付けられた振動検出装置と、を備えた工作機械の制御を行う数値制御装置において、前記振動検出装置からの振動情報を取得する取得手段と、前記自動工具交換装置における自動工具交換動作中の振動情報に、規定のレベルを超える振動情報がなかった場合に、前記振動検出装置に異常が発生したと判定する判定手段と、を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る数値制御装置の一態様においては、診断のON及びOFFを行うスイッチ手段を備え、前記スイッチ手段がONされている場合に、前記判定手段は、前記振動検出装置に異常が発生したと判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の工作機械の数値制御装置によれば、振動検出装置の異常の発生を自動工具交換の際に自動的に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の工作機械の数値制御装置の内部処理を示す概略ブロック図の一例である。
【
図2】振動検出装置を装着した主軸のフロント側縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明の実施形態を、図面をもとに説明する。
【実施例】
【0015】
図1は、本発明の工作機械の数値制御装置の内部処理を示す概略ブロック図の一例である。工作機械にて加工や工具交換などを行うためのプログラムは、プログラム入力部101にて数値制御装置100へ入力される。プログラム入力部101は、操作盤のキーボードによる入力や、USBメモリなどのメディアからの転送入力などがあり、かつ、加工プログラム自体を記憶しておく記憶部104を内包しているのが一般的である。プログラムは、プログラム解釈部102へ送出され、プログラム解釈部102にてプログラムから主軸や送り軸などの回転方向などのデータを生成する。その他に、プログラム解釈部102では、自動工具交換指令の解釈や固定サイクルの解釈なども行っている。プログラム解釈部102にて生成されたデータは、関数発生部103へ送出される。関数発生部103では、データを入力すると、主軸や送り軸などに軸移動制御するために、主軸や送り軸の制御周期ごとに関数発生位置(指令位置P)の算出を行う。算出した指令位置Pは、各軸の制御周期ごとに図示しない位置制御装置へ送出される。
【0016】
一方で、プログラム解釈部102では、自動工具交換指令を解釈したら、記憶部104へデータを記憶する信号Holdを送出する。記憶部104は、振動情報を取得する取得手段の例であり、図示はしないが、主軸あるいは主軸のハウジングに固定した振動検出装置からの振動情報V(x)を入力データとしており、プログラム解釈部102からの信号Holdを指令されたら、振動情報V(x)を記憶し続ける。プログラム解釈部102は、自動工具交換の次のプログラム上のブロックを解釈したタイミング、つまり、自動工具交換が完了したと解釈したタイミングで、記憶部104へデータの記憶を停止する信号Stopを送出する。記憶部104は、プログラム解釈部102からの信号Stopを指令されたら、振動情報V(x)の記憶を停止するとともに、振動情報解析部105へ自動工具交換中に記憶したすべての振動情報V(x)を送出する。振動情報解析部105は判定手段の例であり、予め設定された振動レベルVに対し、記憶部104から入力した自動工具交換中のすべての振動情報V(x)のうち、いずれか一つでもそれを超えた振動情報V(x)があったか否かを判定する。振動情報解析部105は、自動工具交換中のすべての振動情報V(x)のうち一つでも、振動レベルVを超えたものがなかった場合、振動検出装置に内包した圧電素子の故障や、振動検出装置内部の断線などの異常を意味するアラーム信号を出力する。
【0017】
図2は、振動検出装置を装着した主軸のフロント側縦断面図である。切削工具202を把持した工具ホルダ203は、自動工具交換による装着動作の場合、ドローバー204のコレット205の引き揚げ動作によって、回転軸206の雌テーパ部とテーパ結合される。この引き揚げ動作とテーパ結合動作は、回転軸206に衝撃力を発生させ、この衝撃力はハウジング207を伝わり、ハウジング207に固定した振動検出装置201へも伝搬する。また、自動工具交換による取外し動作の場合、ドローバー204が工具ホルダ203をハンマリングしてテーパ結合を外す仕組みとなっており、このハンマリングによって、回転軸206に衝撃力を発生させ、装着動作と同様に振動検出装置201に衝撃力による振動が伝搬する。このようにして、自動工具交換動作中に、振動検出装置には必ず振動が伝わっており、この振動レベルを参考にして、本発明を使用する側にて、前述の振動レベルVを自由に設定すればよい。このようにして、本発明の工作機械の数値制御装置では、振動検出装置の異常を判定できる。
【0018】
工作機械の数値制御装置では、振動検出装置の振動情報が機能的に必要な状態、換言すれば、びびり振動抑制機能や主軸軸受診断機能など振動検出装置の振動情報を入力とする機能がONされている状態の場合、振動検出装置の異常判定を実施するものとしている。具体的な実施例は、
図1において説明すると、各種機能設定部106(これはスイッチ手段の例である)にて、びびり振動抑制機能や主軸軸受診断機能がOFFされている場合、振動情報解析部105に対し、振動情報解析部105が出力する振動検出装置の異常を意味するアラームを無視するよう指令すればよい。
【0019】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明の実現方法は以上で示した実施例のみに限定されるものではない。基本的には、自動工具交換の際に主軸に発生する振動を利用して、振動検出装置の異常判定を行うシステムを構築していれば、本発明の工作機械の数値制御装置といえる。例えば、振動情報解析部105では、記憶部104で振動情報V(x)を記憶した後に解析を行うのではなく、リアルタイムで解析を行うようにしてもよい。本願第2請求項についても、例えば、各種機能設定部106は、びびり振動抑制機能や主軸軸受診断機能がOFFされている場合、振動情報解析部105に対し、振動情報解析部105が出力する振動検出装置の異常を意味するアラームを無視するよう指令する例について説明したが、プログラム解釈部102に信号Holdを送出しないよう設定してもよい。すなわち、振動情報解析部105が診断をしないようにするスイッチがあればよい。
【符号の説明】
【0020】
201 振動検出装置、202 切削工具、203 工具ホルダ、204 ドローバー、205 コレット、206 回転軸、207 ハウジング、208a,208b,208c,208d 軸受、209 モータのロータ、210 モータのステータ、211a,211b ボルト。